海洋安全保障情報旬報 2024年1月1日-1月10日
Contents
12月21日「オーストラリアは、太平洋におけるロシアの海軍力の増大を最早無視できない―オーストラリア専門家論説」(The Conversation, December 21, 2023)
12月21日付のオーストラリア独立系非営利情報ウエブサイトThe Conversationは、オーストラリアのCurtin UniversityのNational Security and Strategic Studies准教授Dr Alexey D. Muravievの“Australia can no longer afford to ignore Russia’s expanding naval power in the Pacific”と題する論説を掲載し、Alexey D. Muravievはオーストラリアの注意が中国に向いているが、ロシアはТихоокеанский Флот(Pacific Fleet:太平洋艦隊)の戦力拡充に努め、その行動範囲も南シナ海、インド洋へ拡大してきており、この状況をオーストラリアは無視すべきではないとして、要旨以下のように述べている。
なお、本記事は12月下旬の旬報に掲載すべきものではあるが、諸般の事情から今旬で取り上げたものである。
(1) 太平洋、南シナ海、東シナ海における中国の海軍力の展開の拡大は、オーストラリア、米国、およびその同盟国にとって大きな焦点となっている。しかし、インド太平洋地域で力を尽くしている潜在的に敵対的な海洋大国は中国だけではない。 2023年の戦略レビューでは言及されていないが、ロシアも懸念の原因となりつつある。
(2) 最近出版された私の“Battle Reading the Russian Pacific Fleet 2023–2030(ロシア太平洋艦隊の戦い2023-2030)”は、ロシアが老朽化したソ連時代のТихоокеанский Флот(Pacific Fleet:以下、太平洋艦隊と言う)の補充にいかに深く投資しているかを示している。たとえば、2022年から2023年10月の間に、原子力潜水艦と通常型潜水艦4隻を含む、8隻の新しい戦闘艦艇と補助艦を就役させている。これらの数字は、上記の新しい中国艦艇ほど印象的には見えないかもしれないが、Военно-морской флот Российской Федерации(Military Maritime Fleet of the Russian Federation:ロシア海軍)は、北極海と太平洋、黒海とバルト海で4つの艦隊とカスピ海の小艦隊の所要に同時に対処するという独特の課題を抱えていることを認識することが重要である。
(3) ロシアのウクライナ戦争は、進行中のロシア太平洋艦隊の近代化やさまざまな演習やその他の活動に大きな影響を与えていない。かつて強力だった海軍を再建することに加えて、ロシアはインド太平洋における海軍関係の構築と主要な海洋連合の強化に莫大な資源を投入している。たとえばここ数ヵ月、太平洋艦隊の任務群が東南アジアと南アジア方面への巡航に乗り出している。 この巡航のニュースは国際的には見出しを飾ったが、オーストラリアのメディアによって事実上無視されたロシア任務群は4日間のインドネシア寄港の後、ミャンマーおよびインドと共同訓練を実施している。ミャンマーとの共同訓練は初めてのことである。さらに、任務群は50年ぶりにバングラデシュを訪問し、その後タイ、カンボジア、ベトナム、フィリピンにも寄港している。 この歴訪は、中国がロシアの最も重要な海軍の提携国であることに変わりはないが、この地域におけるロシアの行動範囲の拡大を示唆している。
(4) オーストラリア政府が中国に夢中になっていることで、中長期的に我が国の国家安全保障を脅かす可能性のある他の潜在的な敵対者に目が見えなくなることがあってはならない。
私の見積りによれば、Royal Australian Navyがハンター級フリゲートおよびバージニア級攻撃型原子力潜水艦の1番艦を就役させる2032年までに、拡充されたロシア太平洋艦隊は少なくとも艦艇45隻以上の戦闘力を持つことになるだろう。 これには、原子力潜水艦および通常型潜水艦とその支援艦艇 19 隻が含まれると予想され、これらの艦艇はほとんどが新しく設計、建造されることになる。これは、いつか太平洋で戦争が勃発すれば、ロシア太平洋艦隊が西部と北西部のオーストラリア西部および北西部並びに同盟国の海軍部隊に恐るべき難題を与える可能性があることを明確に示している。
(5) 米国と英国から原子力潜水艦を取得するというオーストラリアの決定は、おそらく北太平洋や北極海に至るまでの、同盟国との長距離海上作戦を支援し、従事するというオーストラリアの意図を示唆している。そして、開戦に至らない危機の際には、ロシアは東南アジア周辺やインド洋での作戦を支援するためのより多くの資産を保有し、Royal Australian Navyが当面、懸念している海域までその範囲を拡大することになるだろう。
(6) 最後に、中国とロシアの海軍協力の深化は、両国がAUKUSに対抗しようとする中、それ自体が危険要因となる可能性がある。これは、太平洋における海軍の共同作戦の拡大の可能性について、特に当てはまる。オーストラリアとロシアの間の「距離の暴虐」があるにもかかわらず、我々はもはやロシアの戦略計画に無関係ではない。 ロシアのSergei Shoigu 国防大臣は、アジア太平洋地域の安定に対する脅威としてAUKUSを非難した最近の発言の中でこのことを明らかにしている。これは、Royal Australian Navyとその海洋への野心がロシア政府にとっての危険要因としてますます見なされていることを意味する。
(7) アジア太平洋における冷戦の対立中、この地域におけるソ連の海軍力はオーストラリア、米国、およびその同盟国にとって主要な戦略的懸念事項であった。 これは再び真実であることが証明されている。 オーストラリア政府は、こうした動きをこれ以上無視することはできない。
記事参照:Australia can no longer afford to ignore Russia’s expanding naval power in the Pacific
なお、本記事は12月下旬の旬報に掲載すべきものではあるが、諸般の事情から今旬で取り上げたものである。
(1) 太平洋、南シナ海、東シナ海における中国の海軍力の展開の拡大は、オーストラリア、米国、およびその同盟国にとって大きな焦点となっている。しかし、インド太平洋地域で力を尽くしている潜在的に敵対的な海洋大国は中国だけではない。 2023年の戦略レビューでは言及されていないが、ロシアも懸念の原因となりつつある。
(2) 最近出版された私の“Battle Reading the Russian Pacific Fleet 2023–2030(ロシア太平洋艦隊の戦い2023-2030)”は、ロシアが老朽化したソ連時代のТихоокеанский Флот(Pacific Fleet:以下、太平洋艦隊と言う)の補充にいかに深く投資しているかを示している。たとえば、2022年から2023年10月の間に、原子力潜水艦と通常型潜水艦4隻を含む、8隻の新しい戦闘艦艇と補助艦を就役させている。これらの数字は、上記の新しい中国艦艇ほど印象的には見えないかもしれないが、Военно-морской флот Российской Федерации(Military Maritime Fleet of the Russian Federation:ロシア海軍)は、北極海と太平洋、黒海とバルト海で4つの艦隊とカスピ海の小艦隊の所要に同時に対処するという独特の課題を抱えていることを認識することが重要である。
(3) ロシアのウクライナ戦争は、進行中のロシア太平洋艦隊の近代化やさまざまな演習やその他の活動に大きな影響を与えていない。かつて強力だった海軍を再建することに加えて、ロシアはインド太平洋における海軍関係の構築と主要な海洋連合の強化に莫大な資源を投入している。たとえばここ数ヵ月、太平洋艦隊の任務群が東南アジアと南アジア方面への巡航に乗り出している。 この巡航のニュースは国際的には見出しを飾ったが、オーストラリアのメディアによって事実上無視されたロシア任務群は4日間のインドネシア寄港の後、ミャンマーおよびインドと共同訓練を実施している。ミャンマーとの共同訓練は初めてのことである。さらに、任務群は50年ぶりにバングラデシュを訪問し、その後タイ、カンボジア、ベトナム、フィリピンにも寄港している。 この歴訪は、中国がロシアの最も重要な海軍の提携国であることに変わりはないが、この地域におけるロシアの行動範囲の拡大を示唆している。
(4) オーストラリア政府が中国に夢中になっていることで、中長期的に我が国の国家安全保障を脅かす可能性のある他の潜在的な敵対者に目が見えなくなることがあってはならない。
私の見積りによれば、Royal Australian Navyがハンター級フリゲートおよびバージニア級攻撃型原子力潜水艦の1番艦を就役させる2032年までに、拡充されたロシア太平洋艦隊は少なくとも艦艇45隻以上の戦闘力を持つことになるだろう。 これには、原子力潜水艦および通常型潜水艦とその支援艦艇 19 隻が含まれると予想され、これらの艦艇はほとんどが新しく設計、建造されることになる。これは、いつか太平洋で戦争が勃発すれば、ロシア太平洋艦隊が西部と北西部のオーストラリア西部および北西部並びに同盟国の海軍部隊に恐るべき難題を与える可能性があることを明確に示している。
(5) 米国と英国から原子力潜水艦を取得するというオーストラリアの決定は、おそらく北太平洋や北極海に至るまでの、同盟国との長距離海上作戦を支援し、従事するというオーストラリアの意図を示唆している。そして、開戦に至らない危機の際には、ロシアは東南アジア周辺やインド洋での作戦を支援するためのより多くの資産を保有し、Royal Australian Navyが当面、懸念している海域までその範囲を拡大することになるだろう。
(6) 最後に、中国とロシアの海軍協力の深化は、両国がAUKUSに対抗しようとする中、それ自体が危険要因となる可能性がある。これは、太平洋における海軍の共同作戦の拡大の可能性について、特に当てはまる。オーストラリアとロシアの間の「距離の暴虐」があるにもかかわらず、我々はもはやロシアの戦略計画に無関係ではない。 ロシアのSergei Shoigu 国防大臣は、アジア太平洋地域の安定に対する脅威としてAUKUSを非難した最近の発言の中でこのことを明らかにしている。これは、Royal Australian Navyとその海洋への野心がロシア政府にとっての危険要因としてますます見なされていることを意味する。
(7) アジア太平洋における冷戦の対立中、この地域におけるソ連の海軍力はオーストラリア、米国、およびその同盟国にとって主要な戦略的懸念事項であった。 これは再び真実であることが証明されている。 オーストラリア政府は、こうした動きをこれ以上無視することはできない。
記事参照:Australia can no longer afford to ignore Russia’s expanding naval power in the Pacific
1月3日「JEF任務部隊による重要な海底基幹施設防護活動―英専門家論説」(Naval News. January 3, 2024)
1月3日付のフランス海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、ロンドンを拠点とする防衛・安全保障問題の専門家Lee Willettの“UK-Led JEF Task Force Conducts First Seabed Warfare Deployment”と題する論説を掲載し、英国が主導するJoint Expeditionary Force(統合海外派遣軍:JEF)が開始した「重要な海底基幹施設(Critical Undersea Infrastructure:CUI)」を防護する作戦について、要旨以下のように述べている。
(1) Northern Europe-focused Joint Expeditionary Force– Maritime(以下、JEF-Mと言う)は、11月28日、北欧海域における重要な海底基幹施設(Critical Undersea Infrastructure:以下、CUIと言う)防護を強化するため、Joint Expeditionary Force (統合海外派遣軍:以下、JEFと言う) Response Option(対応の選択)を発動するというJEF参加国の国防相達の決定を受けて展開された。JEFがJ Joint Expeditionary Force Response Option(以下、JROと言う)を発動したのはこれが初めてであり、JEF-M任務部隊がCUI作戦を実施したのもこれが初めてである。JEFの通信部長Royal Air ForceのKevin Latchman大佐は12月11日、Naval Newsに「JEF諸国は沿岸国であり、CUIの重要性は近隣諸国間でよく理解されている。ある区域での混乱が、気付かずに別の区域に影響を及ぼす可能性がある」と語っている。
(2) JEF-M任務部隊は、Royal NavyのType23フリゲート「リッチモンド」がスウェーデンのヨーテボリに到着後、12月初旬に作戦を開始した。このJEFが部隊を展開するという選択(以下、JRO 3.2と言う)には、JEF加盟10ヵ国のうち9ヵ国から艦艇約30隻と航空機11機が参加している。英国はJEFの枠組みの先頭に立ち、Royal Navyの艦艇7隻とRoyal Air ForceのP-8A哨戒機を参加させている。
(3) 最近の出来事は、この海域において海底戦の危険性があるという現実と備えおよび軍事力の展開を通じてCUI防護を強化する必要があることを明らかにしている。たとえば、バルト海では、CUIに関連する2つの際だった事件が発生した。2022年9月に2つのノルドストリーム・ガスパイプラインが爆発し、2023年10月にはバルチックコネクターのガスパイプラインとその近くの通信ケーブルが破壊されていた。
(4) JRO 3.2が哨戒する地理的範囲は広大であり、CUIの脅威の範囲の大きさもこの活動において示されている。JRO3.2はいくつかの特定の地域を対象にしている。すなわち、ウェスタン・アプローチ(グレート・ブリテン島西海岸から太平洋に拡がる海域:訳者注)や北海を含む英国周辺海域、ノルウェー海、そして、スカゲラク海峡およびカテガット海峡を通る入り口、ストックホルムからバルト三国に至る中央バルト海、フィンランド湾を含むバルト海地域である。総面積は約100万m2に及び、これらの指定作戦区域はJEF加盟国に関連するCUIを考慮して地図が作製されているとLatchman大佐は述べいる。
(5) JEFは信頼できる対応の選択を提供し、危機や紛争に拡大する「事態が発生する前の段階」で地域の抑止力と防衛力を構築することを目的としている。「事態が発生する前の段階」の活動には、たとえば、CUIに対するハイブリッドな脅威の抑止が含まれる。JEFはNATOから独立して活動するが、NATOの活動は支援する。JEF-Mは2019年に活動を開始しており、2022年2月に勃発したロシア・ウクライナ戦争を受け、NATOの活動へのJEFの支援を強化するため、JEFはJROの枠組みを発展させ始めている。
(6) 11月にバルト海地域とその周辺で行われた、NATOによって強化された警戒活動はJRO3.2を基盤としている。JRO3.2はまた、困難な作戦状況下で、複雑かつ協調的な活動を行うJEFの能力を実証するものでもある。任務には、海上および上空からの重要海域の哨戒、水中監視・調査、潜水作業、沿岸警備の実施、それらの活動によって認識された海洋情報を作図したrecognised maritime picture(RMP)の構築などが含まれる。JRO3.2の開始以降に発表されたRoyal Navyの声明によると、この展開は重要地域での抑止力となる哨戒を実施し、沖合資産周辺の監視を強化し、情報を共有し、日常的な活動様式の中でのロシアの船舶や航空機の活動を監視するという。
(7) JEFの参加国は、デンマーク、エストニア、フィンランド、アイスランド、ラトビア、リトアニア、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、英国である。
記事参照:UK-Led JEF Task Force Conducts First Seabed Warfare Deployment
関連記事1:8月2日「インド太平洋を繋ぐ海底ケーブルのためにオーストラリアは一層尽力すべし:オーストラリア専門家論説」(The Strategist, August 2, 2022)
https://www.spf.org/oceans/analysis_ja01/_20220801.html
関連記事2:6月1日「インドは海底ケーブル保護の法整備を進めよ―インド海洋安全保障専門家論説」(Observer Research Foundation, June 1, 2023)
https://www.spf.org/oceans/analysis_ja01/_20230601.html
(1) Northern Europe-focused Joint Expeditionary Force– Maritime(以下、JEF-Mと言う)は、11月28日、北欧海域における重要な海底基幹施設(Critical Undersea Infrastructure:以下、CUIと言う)防護を強化するため、Joint Expeditionary Force (統合海外派遣軍:以下、JEFと言う) Response Option(対応の選択)を発動するというJEF参加国の国防相達の決定を受けて展開された。JEFがJ Joint Expeditionary Force Response Option(以下、JROと言う)を発動したのはこれが初めてであり、JEF-M任務部隊がCUI作戦を実施したのもこれが初めてである。JEFの通信部長Royal Air ForceのKevin Latchman大佐は12月11日、Naval Newsに「JEF諸国は沿岸国であり、CUIの重要性は近隣諸国間でよく理解されている。ある区域での混乱が、気付かずに別の区域に影響を及ぼす可能性がある」と語っている。
(2) JEF-M任務部隊は、Royal NavyのType23フリゲート「リッチモンド」がスウェーデンのヨーテボリに到着後、12月初旬に作戦を開始した。このJEFが部隊を展開するという選択(以下、JRO 3.2と言う)には、JEF加盟10ヵ国のうち9ヵ国から艦艇約30隻と航空機11機が参加している。英国はJEFの枠組みの先頭に立ち、Royal Navyの艦艇7隻とRoyal Air ForceのP-8A哨戒機を参加させている。
(3) 最近の出来事は、この海域において海底戦の危険性があるという現実と備えおよび軍事力の展開を通じてCUI防護を強化する必要があることを明らかにしている。たとえば、バルト海では、CUIに関連する2つの際だった事件が発生した。2022年9月に2つのノルドストリーム・ガスパイプラインが爆発し、2023年10月にはバルチックコネクターのガスパイプラインとその近くの通信ケーブルが破壊されていた。
(4) JRO 3.2が哨戒する地理的範囲は広大であり、CUIの脅威の範囲の大きさもこの活動において示されている。JRO3.2はいくつかの特定の地域を対象にしている。すなわち、ウェスタン・アプローチ(グレート・ブリテン島西海岸から太平洋に拡がる海域:訳者注)や北海を含む英国周辺海域、ノルウェー海、そして、スカゲラク海峡およびカテガット海峡を通る入り口、ストックホルムからバルト三国に至る中央バルト海、フィンランド湾を含むバルト海地域である。総面積は約100万m2に及び、これらの指定作戦区域はJEF加盟国に関連するCUIを考慮して地図が作製されているとLatchman大佐は述べいる。
(5) JEFは信頼できる対応の選択を提供し、危機や紛争に拡大する「事態が発生する前の段階」で地域の抑止力と防衛力を構築することを目的としている。「事態が発生する前の段階」の活動には、たとえば、CUIに対するハイブリッドな脅威の抑止が含まれる。JEFはNATOから独立して活動するが、NATOの活動は支援する。JEF-Mは2019年に活動を開始しており、2022年2月に勃発したロシア・ウクライナ戦争を受け、NATOの活動へのJEFの支援を強化するため、JEFはJROの枠組みを発展させ始めている。
(6) 11月にバルト海地域とその周辺で行われた、NATOによって強化された警戒活動はJRO3.2を基盤としている。JRO3.2はまた、困難な作戦状況下で、複雑かつ協調的な活動を行うJEFの能力を実証するものでもある。任務には、海上および上空からの重要海域の哨戒、水中監視・調査、潜水作業、沿岸警備の実施、それらの活動によって認識された海洋情報を作図したrecognised maritime picture(RMP)の構築などが含まれる。JRO3.2の開始以降に発表されたRoyal Navyの声明によると、この展開は重要地域での抑止力となる哨戒を実施し、沖合資産周辺の監視を強化し、情報を共有し、日常的な活動様式の中でのロシアの船舶や航空機の活動を監視するという。
(7) JEFの参加国は、デンマーク、エストニア、フィンランド、アイスランド、ラトビア、リトアニア、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、英国である。
記事参照:UK-Led JEF Task Force Conducts First Seabed Warfare Deployment
関連記事1:8月2日「インド太平洋を繋ぐ海底ケーブルのためにオーストラリアは一層尽力すべし:オーストラリア専門家論説」(The Strategist, August 2, 2022)
https://www.spf.org/oceans/analysis_ja01/_20220801.html
関連記事2:6月1日「インドは海底ケーブル保護の法整備を進めよ―インド海洋安全保障専門家論説」(Observer Research Foundation, June 1, 2023)
https://www.spf.org/oceans/analysis_ja01/_20230601.html
1月3日「フィリピンは南シナ海での挑発行為が何をもたらすかを真剣に考慮せよ―中国専門家論説」(South China Morning Post, January 3, 2024)
1月3日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、中国のシンクタンク経士智庫の創設者である田士臣と同シンクタンク研修生黄沢裔の“Philippines stockpiling bilateral deals to counter Beijing in South China Sea won’t work”と題する論説を掲載し、そこで両名はセカンド・トーマス礁をめぐる緊張が高まる中、フィリピンが米国のみならず日本とも防衛協力を促進していることを指摘した上で、日米両国が有事の際にフィリピンを守るかどうかは微妙であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピンは2023年11月初め、日本との軍事同盟を強化する交渉を行うと発表した。それには相互に軍事基地を利用する権利を提供することも含まれている。フィリピンは、南シナ海における中国に対する挑発のために、米国に依存するだけでは飽き足らないようである。
(2) しかし、フィリピンが南シナ海のセカンド・トーマス礁をめぐって中国と交戦するに至った時に、米国と日本が支援を提供するという考えは幻想である。今回の日本との合意も、米比相互防衛条約(以下、MDTと言う)や訪問軍協定も、南シナ海で中国を挑発する法的根拠を持たない。
(3) 第1に、セカンド・トーマス礁はフィリピン領ではない。したがって、MDTが適用されることがない。フィリピン憲法によれば、フィリピンの領土は1898年のパリ条約、1900年のワシントン条約、1930年の英米間の取り決めなど種々の国際条約によって規定されている。それによれば、セカンド・トーマス礁を含む南沙諸島はフィリピンの領土には含まれない。セカンド・トーマス礁をめぐるフィリピンの最近の行動は、中国の領土で起きた中国主権の侵害行為である。
(4) 第2に、MDTが定める米国が関与する条件から見ても、セカンド・トーマス礁をめぐってMDTが発動することはないだろう。MDTはフィリピンに対する「武力攻撃」に対して摘要される。現在のところフィリピン側の挑発的行動に対し、中国は抑制的・防衛的な対応しかしておらず、武力攻撃にはあたらない。したがってMDTが発動されることはない。
(5) 米比訪問軍協定も、最新の日比間の合意も、フィリピンを守る法的な盾にはなりえない。これらの協定は、外国軍が受け入れ国に派兵される場合の条件などを定めるもの、具体的には受け入れ国の民法に違反するなどした場合の管轄権を取り極めるものである。フィリピンを軍事的に支援するかどうかとは関係がない。
(6) フィリピンが武力攻撃を受けていない状況で、米国が積極的にMDTを発動するかどうかも問題である。米国が国際法を濫用するのは2003年のイラク戦争でも見られたとおりである。そうした事例が意味するのは、米国が国際法の基本的な原則、つまり武力行使ないしそれによる威嚇を禁止するという原則に違反するということである。そうした国際法の基本的な原則を遵守する義務は、MDTなどの条約の義務に優越するものである。また、中国海警による防衛的行為は、国際関係における武力行使ではなく、国内法に基づく法執行機能の行使である。武力行使と法執行機能の行使は国際法によって明確に区別されている。
(7) 米国がMDTを濫用し、セカンド・トーマス礁に介入するのであれば、中国は当然自衛権を行使するだろう。フィリピンは、2大核保有国の間でそうした状況が生まれることの意味を考えるべきである。その結果は、フィリピンにとって耐え難いものになるだろう。
記事参照:Philippines stockpiling bilateral deals to counter Beijing in South China Sea won’t work
(1) フィリピンは2023年11月初め、日本との軍事同盟を強化する交渉を行うと発表した。それには相互に軍事基地を利用する権利を提供することも含まれている。フィリピンは、南シナ海における中国に対する挑発のために、米国に依存するだけでは飽き足らないようである。
(2) しかし、フィリピンが南シナ海のセカンド・トーマス礁をめぐって中国と交戦するに至った時に、米国と日本が支援を提供するという考えは幻想である。今回の日本との合意も、米比相互防衛条約(以下、MDTと言う)や訪問軍協定も、南シナ海で中国を挑発する法的根拠を持たない。
(3) 第1に、セカンド・トーマス礁はフィリピン領ではない。したがって、MDTが適用されることがない。フィリピン憲法によれば、フィリピンの領土は1898年のパリ条約、1900年のワシントン条約、1930年の英米間の取り決めなど種々の国際条約によって規定されている。それによれば、セカンド・トーマス礁を含む南沙諸島はフィリピンの領土には含まれない。セカンド・トーマス礁をめぐるフィリピンの最近の行動は、中国の領土で起きた中国主権の侵害行為である。
(4) 第2に、MDTが定める米国が関与する条件から見ても、セカンド・トーマス礁をめぐってMDTが発動することはないだろう。MDTはフィリピンに対する「武力攻撃」に対して摘要される。現在のところフィリピン側の挑発的行動に対し、中国は抑制的・防衛的な対応しかしておらず、武力攻撃にはあたらない。したがってMDTが発動されることはない。
(5) 米比訪問軍協定も、最新の日比間の合意も、フィリピンを守る法的な盾にはなりえない。これらの協定は、外国軍が受け入れ国に派兵される場合の条件などを定めるもの、具体的には受け入れ国の民法に違反するなどした場合の管轄権を取り極めるものである。フィリピンを軍事的に支援するかどうかとは関係がない。
(6) フィリピンが武力攻撃を受けていない状況で、米国が積極的にMDTを発動するかどうかも問題である。米国が国際法を濫用するのは2003年のイラク戦争でも見られたとおりである。そうした事例が意味するのは、米国が国際法の基本的な原則、つまり武力行使ないしそれによる威嚇を禁止するという原則に違反するということである。そうした国際法の基本的な原則を遵守する義務は、MDTなどの条約の義務に優越するものである。また、中国海警による防衛的行為は、国際関係における武力行使ではなく、国内法に基づく法執行機能の行使である。武力行使と法執行機能の行使は国際法によって明確に区別されている。
(7) 米国がMDTを濫用し、セカンド・トーマス礁に介入するのであれば、中国は当然自衛権を行使するだろう。フィリピンは、2大核保有国の間でそうした状況が生まれることの意味を考えるべきである。その結果は、フィリピンにとって耐え難いものになるだろう。
記事参照:Philippines stockpiling bilateral deals to counter Beijing in South China Sea won’t work
1月4日「2024年南シナ海の安全保障の展望―英専門家論説」(The Diplomat, January 4, 2024)
1月4日付のデジタル誌The Diplomatは、英King’s College中国研究専攻博士課程院生Sophie Wushuang Yiの” Navigating South China Sea Security in 2024”と題する論説を掲載し、ここでSophie Wushuang Yiは、南シナ海は外交的な複雑さ、軍事的な主張、法的な複雑さを特徴とする地政学的な力学の焦点であり、2024年に向けて、南シナ海の難局を乗り切るには、微妙な違いのある外交、地域の協力的な努力、国際規範を守ることへの誓約が必要となるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年1月、フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は北京訪問を訪問し、その後、中国とフィリピン両国は共同声明で、平和的な紛争解決への誓約を示した。しかし、2023年2月、フィリピンは中国海警船がセカンド・トーマス礁付近でPhilippine Coast Guardの船に対して軍事用レーザーを使用したと非難した。Armed Forces of the Philippinesが常駐する海軍艦船があるセカンド・トーマス礁付近での争いは拡大し、12月には放水銃が使用され、さらに艦船同士の衝突も発生した。
(2) 米国は南シナ海で軍事的存在感を示し続け、空母の派遣、共同演習、フィリピンを含む地域の提携国との協定などの活動を行っている。米国はこの地域への関与を再確認し、南シナ海に関する懸念に対処し、戦略的利益を強調した。ASEAN加盟国は、「南シナ海における締約国の行動に関する宣言(DOC)」の実施と「南シナ海における行動規範(COC)」の交渉について中国と協議している。
(3) フィリピンは、米国との防衛協力強化協定(EDCA)の実施を継続的に拡大することによって米国との軍事関係を強化し、さらにオーストラリアと協議して、地域問題に関して支援を求める意欲を示した。フィリピン国内では、カラヤーン諸島とスカボロー諸島周辺に海洋保護区を設置する法案が提案され、海洋生態系と資源の保護に対する関与が示された。Marcos Jr.大統領は、友好的な交渉を通じて南シナ海問題を解決することを強調し、フィリピンと中国との漁業パートナーシップの見通しは、海洋の課題に対処するための協力的な取り組みを示唆した。
(4) フィリピンにとってバリカタン演習のような米国との共同軍事演習は、米比の協力関係の高まりを示すものである。2国間防衛指針の発表では、南シナ海の防衛に対する共同の関与が強調されている。加えてフィリピンは、米国、日本、オーストラリア、カナダ、フランス、インド、シンガポールを含む国々と南シナ海で共同哨戒を実施する意向を表明した。この計画は、協力的な取り組みを通じて海洋安全保障を強化することを目的としている。さらにティトゥ島にPhilippine Coast Guardの基地を設置することで、南シナ海における存在感を高め、監視能力を強化した。
(5) 2024年の南シナ海は、頻繁な共同軍事演習、航行上の課題、領土紛争など、緊張が継続する可能性が高い。中国と米国の常に変動する相互作用は、戦略的対立を助長する可能性がある。ASEAN諸国や域外提携国を含む諸国間の協力的努力は、南シナ海の状況に重要な役割を果たすだろう。行動規範や共同構想に関する議論が発展し、地域の安定に影響を与え、領有権を主張する国々は、海洋紛争に対処するための法的手段を追求し続けるかもしれない。主張の正当性を定義し、確立された規範の遵守を促進する上で、国際的な法的仕組みは不可欠である。
(6) 中国の新国防相に董軍海軍上将が抜擢されたことは重要な動きである。これまで董軍は、中国海軍司令員として、自国の領海を越えて中国の利益を守ることができる近代的な外洋海軍という習近平国家主席の未来像を推進する上で極めて重要な役割を果たした。今後、国防相としての董軍の役割は、中国の国防機構の上層部に海洋の視点を導入することである。南シナ海と台湾海峡で海軍部隊を指揮した経験を持つ董軍は、海洋の課題に対処する上で特異な立場にあり、広大な海洋での戦略的な均衡に影響を与える可能性がある。董軍の抜擢は、2大国間の関係を安定させるために不可欠で、軍首脳による軍事対話は促進されるかもしれない。中国と米軍の間の公式な意思疎通の道筋はまだ再開されていないが、高官級の会談は緊張を和らげる前向きな合図を示している。
(7) 南シナ海は外交的な複雑さ、軍事的な主張、法的な複雑さを特徴とする地政学的な力学の焦点であり続けている。董軍の就任は中国の国防指導部に新たな局面を与えるものであり、地域の安定と海洋領域で進行中の中米戦略対立への影響を注意深く観察する必要がある。2024年に向けて、南シナ海の難局を乗り切るには、微妙に異なる外交、地域の協力的な努力、そして国際規範を守ることへの誓約が必要となるだろう。
記事参照:Navigating South China Sea Security in 2024
(1) 2023年1月、フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は北京訪問を訪問し、その後、中国とフィリピン両国は共同声明で、平和的な紛争解決への誓約を示した。しかし、2023年2月、フィリピンは中国海警船がセカンド・トーマス礁付近でPhilippine Coast Guardの船に対して軍事用レーザーを使用したと非難した。Armed Forces of the Philippinesが常駐する海軍艦船があるセカンド・トーマス礁付近での争いは拡大し、12月には放水銃が使用され、さらに艦船同士の衝突も発生した。
(2) 米国は南シナ海で軍事的存在感を示し続け、空母の派遣、共同演習、フィリピンを含む地域の提携国との協定などの活動を行っている。米国はこの地域への関与を再確認し、南シナ海に関する懸念に対処し、戦略的利益を強調した。ASEAN加盟国は、「南シナ海における締約国の行動に関する宣言(DOC)」の実施と「南シナ海における行動規範(COC)」の交渉について中国と協議している。
(3) フィリピンは、米国との防衛協力強化協定(EDCA)の実施を継続的に拡大することによって米国との軍事関係を強化し、さらにオーストラリアと協議して、地域問題に関して支援を求める意欲を示した。フィリピン国内では、カラヤーン諸島とスカボロー諸島周辺に海洋保護区を設置する法案が提案され、海洋生態系と資源の保護に対する関与が示された。Marcos Jr.大統領は、友好的な交渉を通じて南シナ海問題を解決することを強調し、フィリピンと中国との漁業パートナーシップの見通しは、海洋の課題に対処するための協力的な取り組みを示唆した。
(4) フィリピンにとってバリカタン演習のような米国との共同軍事演習は、米比の協力関係の高まりを示すものである。2国間防衛指針の発表では、南シナ海の防衛に対する共同の関与が強調されている。加えてフィリピンは、米国、日本、オーストラリア、カナダ、フランス、インド、シンガポールを含む国々と南シナ海で共同哨戒を実施する意向を表明した。この計画は、協力的な取り組みを通じて海洋安全保障を強化することを目的としている。さらにティトゥ島にPhilippine Coast Guardの基地を設置することで、南シナ海における存在感を高め、監視能力を強化した。
(5) 2024年の南シナ海は、頻繁な共同軍事演習、航行上の課題、領土紛争など、緊張が継続する可能性が高い。中国と米国の常に変動する相互作用は、戦略的対立を助長する可能性がある。ASEAN諸国や域外提携国を含む諸国間の協力的努力は、南シナ海の状況に重要な役割を果たすだろう。行動規範や共同構想に関する議論が発展し、地域の安定に影響を与え、領有権を主張する国々は、海洋紛争に対処するための法的手段を追求し続けるかもしれない。主張の正当性を定義し、確立された規範の遵守を促進する上で、国際的な法的仕組みは不可欠である。
(6) 中国の新国防相に董軍海軍上将が抜擢されたことは重要な動きである。これまで董軍は、中国海軍司令員として、自国の領海を越えて中国の利益を守ることができる近代的な外洋海軍という習近平国家主席の未来像を推進する上で極めて重要な役割を果たした。今後、国防相としての董軍の役割は、中国の国防機構の上層部に海洋の視点を導入することである。南シナ海と台湾海峡で海軍部隊を指揮した経験を持つ董軍は、海洋の課題に対処する上で特異な立場にあり、広大な海洋での戦略的な均衡に影響を与える可能性がある。董軍の抜擢は、2大国間の関係を安定させるために不可欠で、軍首脳による軍事対話は促進されるかもしれない。中国と米軍の間の公式な意思疎通の道筋はまだ再開されていないが、高官級の会談は緊張を和らげる前向きな合図を示している。
(7) 南シナ海は外交的な複雑さ、軍事的な主張、法的な複雑さを特徴とする地政学的な力学の焦点であり続けている。董軍の就任は中国の国防指導部に新たな局面を与えるものであり、地域の安定と海洋領域で進行中の中米戦略対立への影響を注意深く観察する必要がある。2024年に向けて、南シナ海の難局を乗り切るには、微妙に異なる外交、地域の協力的な努力、そして国際規範を守ることへの誓約が必要となるだろう。
記事参照:Navigating South China Sea Security in 2024
1月4日「米比が南シナ海で2回目の共同哨戒を実施―The Diplomat誌報道」(The Diplomat, January 4, 2024)
1月4日付のデジタル誌The Diplomatは、“US, Philippines, China Begin Simultaneous South China Sea Patrols”と題する記事を掲載し、比軍と米軍による南シナ海での2回目の共同哨戒が行われたことについて、要旨以下のように報じている。
(1) 過去1年にわたり紛争海域で危険な事件が相次いだが、フィリピンと米国は1月3日、南シナ海で2日間の海上・航空共同哨戒を開始した。フィリピンと米国によって行われたこの海洋演習は、11月に行われた3日間の共同哨戒に続き、2ヵ月足らずの間に行われた2回目のものである。この演習は、台湾に近く、最近中国とフィリピンの艦船による対立が頻発している南シナ海の紛争地域の一部である、フィリピン最北端のマヴリス島付近で行われた。BloombergがArmed Forces of the Philippinesの発表を引用し、報じたところによると、1月第1週に行われた哨戒にはPhilippine Navyの4隻の艦艇とヘリコプターが参加したという。U.S. Indo-Pacific Commandは、空母1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、複数の戦闘機を派遣した。Armed Forces of the PhilippinesのRomeo Brawner司令官は「我々の同盟関係はかつてないほど強固なものとなり、世界にメッセージを発信している」と語っているた。
(2) 米比の哨戒は、人民解放軍中国軍南部戦区が同じ日にこれらの海域で独自の哨戒を実施すると発表したことを受けて行われた。ある報告では、また中国海軍の艦艇は、Philippine Navyの哨戒艦「グレゴリオ・デル・ピラール」が共同哨戒に参加している間、この同艦を尾行したと伝えられている。この1年間、中国とフィリピンの艦船が危険な揉め事を繰り返してきた南シナ海における緊張の高まりが、このまるで決闘のような海洋における哨戒に端的に表れている。その揉め事の多くは、南沙諸島にあるフィリピンの排他的経済水域内のセカンド・トーマス礁周辺の海域で起こっている。フィリピン政府はそこに座礁させた「シエラ・マドレ」に少人数の部隊を駐留させている。2023年の初め以来、中国はPhilippine Navyによるこの前哨基地への補給を阻止しようとますます強硬な姿勢を採っている。その結果、10月と12月に中国船がフィリピンの補給船や巡視船と衝突するなど、何度も対立が起きている。後者の事件では、補給船が航行不能になり、パラワン島まで曳航しなければならなかった。また、中国船はフィリピンの補給船団を追い払うために、強力な放水砲や軍用レーザーを使用したこともある。このような事件が海上で展開されるにつれて、中国政府とフィリピン政府の間では非難の応酬が行われ、ここ10年近くで関係が最悪の状態にまで悪化している。
記事参照:US, Philippines, China Begin Simultaneous South China Sea Patrols
(1) 過去1年にわたり紛争海域で危険な事件が相次いだが、フィリピンと米国は1月3日、南シナ海で2日間の海上・航空共同哨戒を開始した。フィリピンと米国によって行われたこの海洋演習は、11月に行われた3日間の共同哨戒に続き、2ヵ月足らずの間に行われた2回目のものである。この演習は、台湾に近く、最近中国とフィリピンの艦船による対立が頻発している南シナ海の紛争地域の一部である、フィリピン最北端のマヴリス島付近で行われた。BloombergがArmed Forces of the Philippinesの発表を引用し、報じたところによると、1月第1週に行われた哨戒にはPhilippine Navyの4隻の艦艇とヘリコプターが参加したという。U.S. Indo-Pacific Commandは、空母1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、複数の戦闘機を派遣した。Armed Forces of the PhilippinesのRomeo Brawner司令官は「我々の同盟関係はかつてないほど強固なものとなり、世界にメッセージを発信している」と語っているた。
(2) 米比の哨戒は、人民解放軍中国軍南部戦区が同じ日にこれらの海域で独自の哨戒を実施すると発表したことを受けて行われた。ある報告では、また中国海軍の艦艇は、Philippine Navyの哨戒艦「グレゴリオ・デル・ピラール」が共同哨戒に参加している間、この同艦を尾行したと伝えられている。この1年間、中国とフィリピンの艦船が危険な揉め事を繰り返してきた南シナ海における緊張の高まりが、このまるで決闘のような海洋における哨戒に端的に表れている。その揉め事の多くは、南沙諸島にあるフィリピンの排他的経済水域内のセカンド・トーマス礁周辺の海域で起こっている。フィリピン政府はそこに座礁させた「シエラ・マドレ」に少人数の部隊を駐留させている。2023年の初め以来、中国はPhilippine Navyによるこの前哨基地への補給を阻止しようとますます強硬な姿勢を採っている。その結果、10月と12月に中国船がフィリピンの補給船や巡視船と衝突するなど、何度も対立が起きている。後者の事件では、補給船が航行不能になり、パラワン島まで曳航しなければならなかった。また、中国船はフィリピンの補給船団を追い払うために、強力な放水砲や軍用レーザーを使用したこともある。このような事件が海上で展開されるにつれて、中国政府とフィリピン政府の間では非難の応酬が行われ、ここ10年近くで関係が最悪の状態にまで悪化している。
記事参照:US, Philippines, China Begin Simultaneous South China Sea Patrols
1月5日「モルディブ・インド間の水路調査協定に関する最近の動向―インド海洋政策専門家論説」(Observer Research Foundation, January 5, 2024)
1月5日付のインドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、同Foundation上席研究員で元海軍将校のAbhijit Singhの“Maldives, India, and a hydrography pact”と題する論説を掲載し、そこでAbhijit Singh はモルディブがインドとの間で結ばれていた水路調査に関する協定を破棄し、親中国路線へと舵を切ったことに言及し、モルディブはその路線の追求を再検討すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) モルディブは2023年末、インドとの間で結ばれていた水路調査に関する協定を破棄した。その数週間前には、モルディブはインドに対し、沿岸からIndian Armed Forcesを撤退させるよう公式に要請している。またモルディブは12月のColombo Security Conclave(コロンボ安全保障会議)も欠席している。
(2) インドとモルディブの関係が最悪の状況だということは明らかである。それはMohamed Muizzuが大統領に当選してからの傾向である。Mohamed Muizzuは「インドを追い出せ」運動の支持を得て当選し、それを対外政策の柱にしている。モルディブ大統領は伝統的にインドを就任後の最初の訪問国としていたが、彼はトルコを選択した。
(3) モルディブは、中国やインドなどが地域で競合している状況において、自律性を維持しようとしているのだと世界に示そうとしているようである。しかしそれは事実ではない。モルディブはただ、親中国路線に舵を切ったのである。沿岸からインドの調査船を追い出すことによって、中国による周辺海域の海洋調査がやり易くなるであろう。
(4) 以上の議論に関して、重要な論点がある。第1に、水路調査は無害で安全なものではない。海洋データは軍民両用のものである。航行の安全を高めるためのデータや海洋科学調査に関するデータは、ある国の沿岸施設の偵察にも活用できるものである。第2に、中国による海底調査と海洋データの活用には、明らかに戦略的計画を推進する意図がある。中国はインド洋で海洋調査を実施し、また情報収集・哨戒・偵察のために艦船を活動させている。第3に、海洋調査は、中国人民解放軍海軍が遠洋での活動を成功させるための決定的な要因である。中国の海洋調査データは、対潜戦能力向上に大きな役割を果たしている。それはソナーの精度や潜水艦探知能力を向上させ、また敵からの探知を回避する能力を向上させるのである。
(5) しかし、南アジア周辺における中国の海洋調査は、インドの水路調査船の展開によって妨げられている。その一方で、中国がモルディブに海軍基地を建設するのではないかという声がしばしば聞かれる。たとえば2018年に中国は、モルディブの首都マレの北部に位置するマクヌドゥー環礁に海洋観測所の設置を計画した。モルディブは当時その施設の軍事利用の可能性に懸念を示し、中国が再提案したという事実はないが、最近の展開を考慮すればその可能性を捨て去ることはできない。
(6) モルディブはインドの水路調査が情報収集の側面があることを理解しており、その懸念は的外れではない。UNCLOSは沿岸国に対し、領海外で実施される水路調査や軍事的調査の規制をはっきりとは認めていない。暗黙の了解として、外国の海洋機関は他国の領海外の海域で地図作製ができる。モルディブはそこを問題視しているのである。
(7) 水路調査の目的が、科学的知識のためでないことを考慮すれば、この問題をよりよく理解できる。その目的は海洋産業や軍事戦略家からの要求に応えるものである。とはいえ多くの海軍、特にIndian Navyが近隣の水路調査に関する模範的な実績を持っているという事実は変わらない。たとえばIndian Navyは1990年代以降、モーリシャスの水路調査を支援し、広大な排他的経済水域の地図作製に寄与している。
(8) モルディブはインドによる海洋調査支援の記録を見るとよい。Indian Navyは南アジアの多くの国にとって、望ましい安全保障上の提携国である。モルディブは中国ではなく、海洋調査や安全保障の提携国として、インドが最善の選択肢であることを理解すべきである。
記事参照:Maldives, India, and a hydrography pact
(1) モルディブは2023年末、インドとの間で結ばれていた水路調査に関する協定を破棄した。その数週間前には、モルディブはインドに対し、沿岸からIndian Armed Forcesを撤退させるよう公式に要請している。またモルディブは12月のColombo Security Conclave(コロンボ安全保障会議)も欠席している。
(2) インドとモルディブの関係が最悪の状況だということは明らかである。それはMohamed Muizzuが大統領に当選してからの傾向である。Mohamed Muizzuは「インドを追い出せ」運動の支持を得て当選し、それを対外政策の柱にしている。モルディブ大統領は伝統的にインドを就任後の最初の訪問国としていたが、彼はトルコを選択した。
(3) モルディブは、中国やインドなどが地域で競合している状況において、自律性を維持しようとしているのだと世界に示そうとしているようである。しかしそれは事実ではない。モルディブはただ、親中国路線に舵を切ったのである。沿岸からインドの調査船を追い出すことによって、中国による周辺海域の海洋調査がやり易くなるであろう。
(4) 以上の議論に関して、重要な論点がある。第1に、水路調査は無害で安全なものではない。海洋データは軍民両用のものである。航行の安全を高めるためのデータや海洋科学調査に関するデータは、ある国の沿岸施設の偵察にも活用できるものである。第2に、中国による海底調査と海洋データの活用には、明らかに戦略的計画を推進する意図がある。中国はインド洋で海洋調査を実施し、また情報収集・哨戒・偵察のために艦船を活動させている。第3に、海洋調査は、中国人民解放軍海軍が遠洋での活動を成功させるための決定的な要因である。中国の海洋調査データは、対潜戦能力向上に大きな役割を果たしている。それはソナーの精度や潜水艦探知能力を向上させ、また敵からの探知を回避する能力を向上させるのである。
(5) しかし、南アジア周辺における中国の海洋調査は、インドの水路調査船の展開によって妨げられている。その一方で、中国がモルディブに海軍基地を建設するのではないかという声がしばしば聞かれる。たとえば2018年に中国は、モルディブの首都マレの北部に位置するマクヌドゥー環礁に海洋観測所の設置を計画した。モルディブは当時その施設の軍事利用の可能性に懸念を示し、中国が再提案したという事実はないが、最近の展開を考慮すればその可能性を捨て去ることはできない。
(6) モルディブはインドの水路調査が情報収集の側面があることを理解しており、その懸念は的外れではない。UNCLOSは沿岸国に対し、領海外で実施される水路調査や軍事的調査の規制をはっきりとは認めていない。暗黙の了解として、外国の海洋機関は他国の領海外の海域で地図作製ができる。モルディブはそこを問題視しているのである。
(7) 水路調査の目的が、科学的知識のためでないことを考慮すれば、この問題をよりよく理解できる。その目的は海洋産業や軍事戦略家からの要求に応えるものである。とはいえ多くの海軍、特にIndian Navyが近隣の水路調査に関する模範的な実績を持っているという事実は変わらない。たとえばIndian Navyは1990年代以降、モーリシャスの水路調査を支援し、広大な排他的経済水域の地図作製に寄与している。
(8) モルディブはインドによる海洋調査支援の記録を見るとよい。Indian Navyは南アジアの多くの国にとって、望ましい安全保障上の提携国である。モルディブは中国ではなく、海洋調査や安全保障の提携国として、インドが最善の選択肢であることを理解すべきである。
記事参照:Maldives, India, and a hydrography pact
1月9日「米国が100万km2の拡張大陸棚を獲得する可能性―米科学誌報道」(Science, January 9, 2024)
1月9日付の科学学術誌Scienceは、“Continental shelf maps could add Egypt-size area to US territory”と題する記事を掲載し、米国が2003年から開始した地図作製計画によって新たな地図が作製され、それにより米国が広大な大陸棚を追加できる可能性があり、また、地図作製によってもたらされた豊富なデータが科学的議論を進歩させるであろうとして、要旨以下のように報じている。
(1) 米国は非常に重要な海底地図作製計画の成果を発表した。それにより、米国は合計100万km2の領土を新たに得ることになり、北極圏において多くの資源に対する権利の主張が可能になるだろう。そしてまた、地図作製計画は、海底に関する豊富なデータを提供するものである。それによって海盆の地質的な展開が明らかになり、津波を引き起こしうる地滑りの危険性がある海域を特定することなどができるかもしれないと専門家は言う。
(2) 地図は2023年12月にU.S. Department of Stateによって公開された。1982年のUNCLOSは、沿岸国に自国の大陸棚が「自然に拡張」したことが認められれば、その「拡張大陸棚(以下、ECSと言う)」の権利を主張することができる権利を認めている。
(3) 20年前に多くの国が海底地図作製に乗り出し、米国も、UNCLOSを批准していなかったにもかかわらず、2003年にこの波に乗った。詳細な3D画像を制作できるマルチビームソナーなどの新技術によって、海底の詳細を知ることができるようになったことも背景にある。University of New Hampshireの地理科学者Larry Mayerによれば、それまで海底については火星よりも知識が少なかったという。U.S. Geological Survey(米地質調査所:USGS)などの連邦機関が50隻前後の地図作製船舶に約1,000万ドルの資金を提供したのである。
(4) テラバイト規模のデータを分析した後、7つの海域におけるECSが特定された。最大規模のものは北極圏にあり、52万400 km2におよぶ。大西洋では23万9,100 km2、ベーリング海では17万6,300 km2のECSが確認された。それぞれ、カナダや日本、バハマの主張と重複するところがあるという。Natural Resources Canada(カナダ天然資源省)の名誉職にある地理科学者David Mosherによれば、米国の主張は広大ではあるが、技術的かつ法的観点からすれば公平で穏当であり、拒否反応は激しくならないだろう。ただし米国はまだ、ECSに関する審査を行う国連の委員会に新たな地図を提出していない。米国はUNCLOSを批准していないし、他国が米国にはその資格がないと批判する可能性があるからである。
(5) 研究者の多くは、地図作製によってもたらされたデータに惹きつけられている。米海洋探査機関 Ocean Exploration Trustの海洋地図専門家Derek Sowersは、2020年に提出した博士論文で、米国大西洋岸の海底の地形の分類を行ったが、それによって保護を必要とする海底の生態系を特定することができるかもしれない。また、海底の地すべりが驚くべき頻度で起きていることも明らかになった。また、USGSの海洋地理学者Debora Hutchinsonは、北極圏に船が入ったことがきわめて重大なことであったとし、アラスカ沖の海底地図が構造プレートの変動がどのように北極海の一部を形成しているかという論争を解決する一助となるとのことである。ベーリング海の海底地図も、科学的議論を進歩させるであろう。Debora Hutchinsonは、「ECS地図作製への米国の投資は地図以上のものを生み出した」と述べている。
記事参照:Continental shelf maps could add Egypt-size area to US territory
(1) 米国は非常に重要な海底地図作製計画の成果を発表した。それにより、米国は合計100万km2の領土を新たに得ることになり、北極圏において多くの資源に対する権利の主張が可能になるだろう。そしてまた、地図作製計画は、海底に関する豊富なデータを提供するものである。それによって海盆の地質的な展開が明らかになり、津波を引き起こしうる地滑りの危険性がある海域を特定することなどができるかもしれないと専門家は言う。
(2) 地図は2023年12月にU.S. Department of Stateによって公開された。1982年のUNCLOSは、沿岸国に自国の大陸棚が「自然に拡張」したことが認められれば、その「拡張大陸棚(以下、ECSと言う)」の権利を主張することができる権利を認めている。
(3) 20年前に多くの国が海底地図作製に乗り出し、米国も、UNCLOSを批准していなかったにもかかわらず、2003年にこの波に乗った。詳細な3D画像を制作できるマルチビームソナーなどの新技術によって、海底の詳細を知ることができるようになったことも背景にある。University of New Hampshireの地理科学者Larry Mayerによれば、それまで海底については火星よりも知識が少なかったという。U.S. Geological Survey(米地質調査所:USGS)などの連邦機関が50隻前後の地図作製船舶に約1,000万ドルの資金を提供したのである。
(4) テラバイト規模のデータを分析した後、7つの海域におけるECSが特定された。最大規模のものは北極圏にあり、52万400 km2におよぶ。大西洋では23万9,100 km2、ベーリング海では17万6,300 km2のECSが確認された。それぞれ、カナダや日本、バハマの主張と重複するところがあるという。Natural Resources Canada(カナダ天然資源省)の名誉職にある地理科学者David Mosherによれば、米国の主張は広大ではあるが、技術的かつ法的観点からすれば公平で穏当であり、拒否反応は激しくならないだろう。ただし米国はまだ、ECSに関する審査を行う国連の委員会に新たな地図を提出していない。米国はUNCLOSを批准していないし、他国が米国にはその資格がないと批判する可能性があるからである。
(5) 研究者の多くは、地図作製によってもたらされたデータに惹きつけられている。米海洋探査機関 Ocean Exploration Trustの海洋地図専門家Derek Sowersは、2020年に提出した博士論文で、米国大西洋岸の海底の地形の分類を行ったが、それによって保護を必要とする海底の生態系を特定することができるかもしれない。また、海底の地すべりが驚くべき頻度で起きていることも明らかになった。また、USGSの海洋地理学者Debora Hutchinsonは、北極圏に船が入ったことがきわめて重大なことであったとし、アラスカ沖の海底地図が構造プレートの変動がどのように北極海の一部を形成しているかという論争を解決する一助となるとのことである。ベーリング海の海底地図も、科学的議論を進歩させるであろう。Debora Hutchinsonは、「ECS地図作製への米国の投資は地図以上のものを生み出した」と述べている。
記事参照:Continental shelf maps could add Egypt-size area to US territory
1月10日、「ベトナムの海洋統治能力の評価:優先事項と課題―シンガポール博士課程院生論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, January 10, 2024)
1月10日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies(CSIS)のウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、National University of Singapore博士課程院生Thu Nguyen Hoang Anhの‶ASSESSING VIETNAM’S MARITIME GOVERNANCE CAPACITY: PRIORITIES AND CHALLENGES″と題する論説を掲載し、ここでThu Nguyen Hoang Anhは海洋国家でもあるベトナムにとって、海洋統治は安全保障面でも経済面でも極めて重要であり、特に南シナ海で強硬姿勢を続ける中国に対抗するため、ASEANを活用して国際海洋法等の遵守を主張するとともに、海洋の自由を確保し、海洋環境保護等の態勢を強化する等、海洋統治能力の向上を図るべきとして、要旨次のように述べている。
(1) ベトナムは2,000海里の海岸線と50万平方海里以上のEEZを有する海洋国家として、海洋領域を重視してきた。 2019年に発表された国防白書では、ベトナムの領海における主権、主権的権利、管轄権を守り、航行と上空飛行の自由を維持することが、海洋統治の最優先事項と位置づけられている。 もう1つの優先事項は、経済成長を促進するための海洋資源の利用である。特に、ベトナム政府は次の6つの海洋経済部門を開発の対象に指定している。それらは、①観光と海洋サービス、②港湾と海上輸送サービス、➂石油・ガスとその他の海洋鉱物資源の開発、④水産養殖と漁業、⑤沿岸産業、⑥再生可能エネルギーと新しい海洋経済部門である。現在、沿岸の28の省と都市の経済がGDPの約60%を占めており、海洋部門はベトナムの経済成長の原動力となっている。
(2) ベトナム政府は、ブルーエコノミーを発展させながら、海洋生態系と海洋資源保護にも関心を持ち、2018年にベトナム共産党中央委員会が採択した「2030年までのベトナムの海洋経済の持続可能な発展のための戦略、2045年までの構想」に関する決議に反映されている。さらに、人口の半分以上が居住する沿岸地域社会の繁栄、安全性等を優先している。これらの主な目的は、海洋安全保障上の課題に対処し、平和で安定した海洋環境を確保することである。
(3) ベトナムは、さまざまな海洋安全保障上の課題に直面している。伝統的な海洋安全保障の観点からは、南シナ海の紛争が最重要課題となっており、ベトナムは、西沙諸島を自国領土と主張しているが、1974年以来、中国に占領されている。さらに、中国、台湾、フィリピン、マレーシア、ブルネイとともに、南沙諸島をめぐる紛争に関与している。
(4) ベトナムはまた、数多くの海洋安全保障上の課題に直面している。違法・無報告・無規制漁業(以下、IUU漁業と言う)、密輸、海面上昇、海賊行為、海洋環境汚染等であるが、これらに限定されるものではない。IUU漁業の例では、2017年10月ベトナムは欧州委員会から、この問題に対する取り組みが不十分との警告を受け取った。警告はまだ有効で、ベトナム船は適切な許可を得ずに外国海域で漁獲を続けている。 また、海面上昇が沿岸低地や河川デルタ地域に悪影響を及ぼす恐れがあり、気候変動はベトナムにとってもう1つの深刻な脅威である。世界銀行の推計によると、2070年から2100年までに、600万人から1,200万人のベトナム人が沿岸洪水の被害を受ける可能性がある。
(5) ベトナムには、海洋分野の統治に資するいくつかの強みがある。これらは、ベトナムの国家統治システムの一元性に関連している。ベトナムは、共産党が国家と社会に指導権を行使する一党独裁国家で、共産党が国家政策の立案と実施を円滑に管理することを可能にしている。Vietnam Coast Guard、Republic of Vietnam Navy、Vietnam Border Guard、Vietnam Directorate of Fisheries(ベトナム漁業総局)などさまざまな機関が、海事分野の管理と発展に党と中央政府を支援している。ベトナム政府には、世界の海洋システムに統合し、UNCLOSなど国際法規を遵守するという強い政治的意志がある。市民社会の参加に関して、ベトナム国会は2022年に「草の根民主主義の実施に関する法律」を公布し、市民自治の役割を向上させているほか国民全体が国の独立と主権を守るために参加することを奨励する「全人民の国防」を構築している。海洋統治については、国民、海事産業の企業、非政府組織等が意思決定過程に貢献し、国家海洋戦略において政府に協力する機会を創出している。
(6) ベトナムは海洋安全保障の能力強化に努めてきたが、克服すべきいくつかの欠点がある。第1に、資金面での制約がある。依然として発展途上国で、2022年のGDPが4,090億ドルのため、海上警備任務に割り当てられる予算は限られ、Vietnam Coast GuardとRepublic of Vietnam Navyの近代化が妨げられている。第2に、中央政府の強い関与にもかかわらず、地方における法執行力は弱く、沿岸の省や都市間の連携が不足している。また、海上治安機関の責任も重複し、海洋問題への取り組みに混乱と非効率を生じている。第3に、国連開発計画が指摘するように、ベトナムの海洋科学技術能力は限られている。共産党も、技術革新を受け入れ、海洋研究に投資し、海洋人材を育成する必要性を認めている。第4に海洋状況把握が欠如しており、たとえばリモートセンシング能力は未発達で、沿岸レーダーや地上自動識別システム以上の技術の利用は進んでいない。さらに、漁船の多くは船舶監視システムを装備しておらず、ベトナム当局が漁船の活動を追跡するのは困難である。
(7) ベトナムは、海洋分野におけるあらゆる形態の国際協力を歓迎する一方、協力は相互主義、相互理解、国際法の尊重に基づく必要があると強調している。さらに、軍事同盟を結ばない、ある国に味方して他国に対抗しない、外国の軍事基地を持たない、国際関係において武力を行使しない、あるいは武力行使の威嚇をしないという「4つのノー」政策を採用している。国際協力が必要な最初の分野は、技術・科学の移転である。ベトナムは、造船、港湾建設、海洋資源の探査・保全、情報・監視・偵察などの技術分野に関し、引き続き外部からの支援を求める必要がある。第2は、共同哨戒と立ち入り検査で、この目的はベトナムと他国の海軍・沿岸警備隊間の協力を強化し、相互理解を促進することである。また、法に基づく国際秩序および共有海域の平和と安定を維持し、国境を越えた海上犯罪を防止することを企図している。第3は、政策移転と情報交換である。海洋戦略の構築、海洋法の執行、海洋関連の課題への対処において、他国の経験や最良の実践事例から学ぶことは、ベトナムにとって有益で、たとえば、ベトナムの海洋状況把握の向上にも役立ち、さらに、既存の政策や法律の発展に他の国の経験を活用することができる。また、外国との交流は、ベトナムが直面する問題に、より革新的で効果的な解決策を考え出すきっかけになるかもしれない。
(8) 地域的および少国間安全保障枠組みは、ベトナムの海洋統治において重要な役割を果たしてきた。地域レベルでは、ASEANは各国高官や専門家が海洋安全保障問題等について議論するための場をいくつか設立している。例としては、ASEAN Regional Forum やASEAN Maritime Forum がある。さらにASEANは、オーストラリア、中国、EU、インド、日本、米国など、多くの域外提携国と対話を行い、また拡大ASEAN海洋フォーラムや海上安全保障協力に関するASEAN・EU高官級対話などの場を通じて、共通の関心事である海洋問題について議論し、海洋統治能力を強化してきた。ASEANの一員としてベトナムは、こうした機会を活用して、海洋領域における懸念を表明し、国際法の尊重を呼び掛けている。また、中国とASEANは、紛争のリスクを減らし、海洋紛争の平和的解決を促進する目的で、南シナ海における行動規範(以下、COCと言う)に関する交渉を加速させている。提案側の一員としてCOCの早期採択を目指してきたベトナムにとって、交渉の結果は、大きな影響があると思われる。
(9) 既存の対話に基づく機構に加えて、ASEANはより実際的で実務的な協力に重点を置くことが不可欠である。たとえば、ASEANはベトナムを含む加盟国に対し、国内海事法の改善や関連する国際条約・協定の批准を促すことができる。また、ASEANは技術移転、財政支援、物資援助を積極的に域外提携国に求める必要がある。QUADやAUKUSのような域外の大国が関与する少数国間の安全保障枠組みは、南シナ海における中国の強硬な政策に対抗し、地域の安定を維持するのに役立つと言われる。 しかし、ベトナムは、これらの枠組みに対して慎重な取扱と中立的な立場を維持している。
記事参照:https://amti.csis.org/assessing-vietnams-maritime-governance-capacity-priorities-and-challenges/
(1) ベトナムは2,000海里の海岸線と50万平方海里以上のEEZを有する海洋国家として、海洋領域を重視してきた。 2019年に発表された国防白書では、ベトナムの領海における主権、主権的権利、管轄権を守り、航行と上空飛行の自由を維持することが、海洋統治の最優先事項と位置づけられている。 もう1つの優先事項は、経済成長を促進するための海洋資源の利用である。特に、ベトナム政府は次の6つの海洋経済部門を開発の対象に指定している。それらは、①観光と海洋サービス、②港湾と海上輸送サービス、➂石油・ガスとその他の海洋鉱物資源の開発、④水産養殖と漁業、⑤沿岸産業、⑥再生可能エネルギーと新しい海洋経済部門である。現在、沿岸の28の省と都市の経済がGDPの約60%を占めており、海洋部門はベトナムの経済成長の原動力となっている。
(2) ベトナム政府は、ブルーエコノミーを発展させながら、海洋生態系と海洋資源保護にも関心を持ち、2018年にベトナム共産党中央委員会が採択した「2030年までのベトナムの海洋経済の持続可能な発展のための戦略、2045年までの構想」に関する決議に反映されている。さらに、人口の半分以上が居住する沿岸地域社会の繁栄、安全性等を優先している。これらの主な目的は、海洋安全保障上の課題に対処し、平和で安定した海洋環境を確保することである。
(3) ベトナムは、さまざまな海洋安全保障上の課題に直面している。伝統的な海洋安全保障の観点からは、南シナ海の紛争が最重要課題となっており、ベトナムは、西沙諸島を自国領土と主張しているが、1974年以来、中国に占領されている。さらに、中国、台湾、フィリピン、マレーシア、ブルネイとともに、南沙諸島をめぐる紛争に関与している。
(4) ベトナムはまた、数多くの海洋安全保障上の課題に直面している。違法・無報告・無規制漁業(以下、IUU漁業と言う)、密輸、海面上昇、海賊行為、海洋環境汚染等であるが、これらに限定されるものではない。IUU漁業の例では、2017年10月ベトナムは欧州委員会から、この問題に対する取り組みが不十分との警告を受け取った。警告はまだ有効で、ベトナム船は適切な許可を得ずに外国海域で漁獲を続けている。 また、海面上昇が沿岸低地や河川デルタ地域に悪影響を及ぼす恐れがあり、気候変動はベトナムにとってもう1つの深刻な脅威である。世界銀行の推計によると、2070年から2100年までに、600万人から1,200万人のベトナム人が沿岸洪水の被害を受ける可能性がある。
(5) ベトナムには、海洋分野の統治に資するいくつかの強みがある。これらは、ベトナムの国家統治システムの一元性に関連している。ベトナムは、共産党が国家と社会に指導権を行使する一党独裁国家で、共産党が国家政策の立案と実施を円滑に管理することを可能にしている。Vietnam Coast Guard、Republic of Vietnam Navy、Vietnam Border Guard、Vietnam Directorate of Fisheries(ベトナム漁業総局)などさまざまな機関が、海事分野の管理と発展に党と中央政府を支援している。ベトナム政府には、世界の海洋システムに統合し、UNCLOSなど国際法規を遵守するという強い政治的意志がある。市民社会の参加に関して、ベトナム国会は2022年に「草の根民主主義の実施に関する法律」を公布し、市民自治の役割を向上させているほか国民全体が国の独立と主権を守るために参加することを奨励する「全人民の国防」を構築している。海洋統治については、国民、海事産業の企業、非政府組織等が意思決定過程に貢献し、国家海洋戦略において政府に協力する機会を創出している。
(6) ベトナムは海洋安全保障の能力強化に努めてきたが、克服すべきいくつかの欠点がある。第1に、資金面での制約がある。依然として発展途上国で、2022年のGDPが4,090億ドルのため、海上警備任務に割り当てられる予算は限られ、Vietnam Coast GuardとRepublic of Vietnam Navyの近代化が妨げられている。第2に、中央政府の強い関与にもかかわらず、地方における法執行力は弱く、沿岸の省や都市間の連携が不足している。また、海上治安機関の責任も重複し、海洋問題への取り組みに混乱と非効率を生じている。第3に、国連開発計画が指摘するように、ベトナムの海洋科学技術能力は限られている。共産党も、技術革新を受け入れ、海洋研究に投資し、海洋人材を育成する必要性を認めている。第4に海洋状況把握が欠如しており、たとえばリモートセンシング能力は未発達で、沿岸レーダーや地上自動識別システム以上の技術の利用は進んでいない。さらに、漁船の多くは船舶監視システムを装備しておらず、ベトナム当局が漁船の活動を追跡するのは困難である。
(7) ベトナムは、海洋分野におけるあらゆる形態の国際協力を歓迎する一方、協力は相互主義、相互理解、国際法の尊重に基づく必要があると強調している。さらに、軍事同盟を結ばない、ある国に味方して他国に対抗しない、外国の軍事基地を持たない、国際関係において武力を行使しない、あるいは武力行使の威嚇をしないという「4つのノー」政策を採用している。国際協力が必要な最初の分野は、技術・科学の移転である。ベトナムは、造船、港湾建設、海洋資源の探査・保全、情報・監視・偵察などの技術分野に関し、引き続き外部からの支援を求める必要がある。第2は、共同哨戒と立ち入り検査で、この目的はベトナムと他国の海軍・沿岸警備隊間の協力を強化し、相互理解を促進することである。また、法に基づく国際秩序および共有海域の平和と安定を維持し、国境を越えた海上犯罪を防止することを企図している。第3は、政策移転と情報交換である。海洋戦略の構築、海洋法の執行、海洋関連の課題への対処において、他国の経験や最良の実践事例から学ぶことは、ベトナムにとって有益で、たとえば、ベトナムの海洋状況把握の向上にも役立ち、さらに、既存の政策や法律の発展に他の国の経験を活用することができる。また、外国との交流は、ベトナムが直面する問題に、より革新的で効果的な解決策を考え出すきっかけになるかもしれない。
(8) 地域的および少国間安全保障枠組みは、ベトナムの海洋統治において重要な役割を果たしてきた。地域レベルでは、ASEANは各国高官や専門家が海洋安全保障問題等について議論するための場をいくつか設立している。例としては、ASEAN Regional Forum やASEAN Maritime Forum がある。さらにASEANは、オーストラリア、中国、EU、インド、日本、米国など、多くの域外提携国と対話を行い、また拡大ASEAN海洋フォーラムや海上安全保障協力に関するASEAN・EU高官級対話などの場を通じて、共通の関心事である海洋問題について議論し、海洋統治能力を強化してきた。ASEANの一員としてベトナムは、こうした機会を活用して、海洋領域における懸念を表明し、国際法の尊重を呼び掛けている。また、中国とASEANは、紛争のリスクを減らし、海洋紛争の平和的解決を促進する目的で、南シナ海における行動規範(以下、COCと言う)に関する交渉を加速させている。提案側の一員としてCOCの早期採択を目指してきたベトナムにとって、交渉の結果は、大きな影響があると思われる。
(9) 既存の対話に基づく機構に加えて、ASEANはより実際的で実務的な協力に重点を置くことが不可欠である。たとえば、ASEANはベトナムを含む加盟国に対し、国内海事法の改善や関連する国際条約・協定の批准を促すことができる。また、ASEANは技術移転、財政支援、物資援助を積極的に域外提携国に求める必要がある。QUADやAUKUSのような域外の大国が関与する少数国間の安全保障枠組みは、南シナ海における中国の強硬な政策に対抗し、地域の安定を維持するのに役立つと言われる。 しかし、ベトナムは、これらの枠組みに対して慎重な取扱と中立的な立場を維持している。
記事参照:https://amti.csis.org/assessing-vietnams-maritime-governance-capacity-priorities-and-challenges/
1月10日「MILEX 23と欧州の海軍の野心的な未来について―スペイン専門家論説」(Center for International Maritime Security, January 10, 2024)
1月10日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Security (CIMSEC)のウエブサイトは、Spanish Naval War College のCenter for Naval Thought研究員Gonzalo Vázquezの“MILEX 23 AND THE FUTURE OF EUROPEAN NAVAL AMBITIONS”と題する論説を掲載し、Gonzalo Vázquezはここで2023年9月に実施されたEUの危機管理軍事演習23(MILEX 23)は、指揮所演習(CPX)と実動演習 との2つの異なる演習段階を合わせて実施された歴史的な演習であり、このようなEUレベルでの本格的な演習を毎年恒例として行うことによって加盟国海軍の能力と相互運用性の向上を図り、2025年までにEU独自の海軍即応展開部隊の創設することを含む軍事的即応性の強化というEUの海上における野心を確実に達成するべきであるとして要旨以下のように述べている。
(1) 2023年9月18日、ブリュッセルのMilitary Planning and Conduct Capability (以下、MPCCと言う)Operations Headquarters軍事計画・行動能力(MPCC)作戦本部が統裁するEUのCrisis Management Military Exercise 23(危機管理軍事演習23:以下MILEX 23と言う)が開始された。本演習は、これまでの過去のすべての演習と異なり、戦略段階と作戦段階での軍事計画過程を検証する指揮所演習(以下、CPXと言う)と、海、陸兵力、航空宇宙、サイバー部隊を含む「現実的な危機事態」を想定してスペインのカディス海岸で実施された実動演習(以下、LIVEXと言う) との2つの異なる演習内容を合わせて実施されたものである。2023年10月16日から22日まで行われた実動演習では、CPXで作成されたシナリオが初めて実行に移され、戦略を担当するEU作戦本部、作戦を担当するEU軍司令部、 作戦を実施するスペインの戦闘群規模の部隊と他の加盟国からの部隊の3つの段階で作戦が実施された。実動演習では合計31の部隊、25機の航空機、6隻の艦艇、2,800人の兵士が参加した。
(2) スペインのGonzalo Villar少将の指揮の下、LIVEXでは作戦準備、スペイン海軍の遠征部隊が率いる両用戦攻撃、着上陸する港湾の管制と確保、目標地域確保のための陸上部隊の投入が行われた。スペインからの参加部隊は、MILEX 23開始の数日前に米ドック型揚陸艦「メサヴェルデ」との間で訓練も行っていた。
(3) 本演習の主目的は、「外部の紛争や危機に対応するためにEUの軍事的即応性を強化すること」である。これは、EU加盟国が潜在的な危機に時宜にかなった、効果的な対応を採ることを可能にする重要な手段である緊急展開能力(EU RDC)の確立する上で、EUにとって重要な手段である。まさに本演習の実施期間に、黒海と東地中海地域の安定に挑戦するような紛争が東欧と中東で起きている。MILEX 23は、EUが主導するLIVEXを初めて含む歴史的な演習であり、19の加盟国が安全保障関係と海軍の相互運用性を強化する意欲を示している。本演習の主目的は、2022年の「戦略的指針(The Strategic Compass)」とEUの海洋安全保障戦略に基づいたものである。
(4)「戦略的指針」は、ウクライナ戦争勃発直後の2022年に発表されものである。「戦略指針」は、「紛争に満ちた多極化世界(a contested multipolar world)」と困難を極める戦略的環境における権力政治の復活に直接反応したものである。これは、EUとその加盟国が軍事力と安全保障政策を現在の状況に適応させようと努力する際に従うべき方向性を提供している。海洋分野に焦点を当て、海上での対立の激化を強調している。また、欧州各国の海軍および沿岸警備隊との定期的な演習の必要性を強調し、相互運用性を強化する必要があると強調している。MILEX23は、2025年までに海即応展開部隊の創設に向けた重要な一歩となったと考えられる。EUは2023年3月、「戦略的指針」にしたがって、海洋安全保障戦略(以下、EUMSSと言う)の改訂版を発表したが、EUMSS自体が述べているように、これは完成された戦略ではなく「EUがさらなる行動を採るための枠組み」であった。2023年10月25日にEU理事会が正式に批准したこの改訂版では、「世界の海洋領域における多くの危険性と脅威からEUとその加盟国の海洋安全保障上の利益を確保する」必要性など「戦略的指針」ですでに定義されているいくつかの懸念を取り扱っている。加盟国間の海軍の相互運用性を強化するために、EUMSSは進行中の海軍作戦の重要性を強調し、「毎年のEU海軍演習の組織化」や「海軍および空軍戦力による既存のEU海軍作戦の強化」など、追求すべきいくつかの「重要な行動」を定義している。毎年恒例の演習に加えて、「EUレベルでの定期的かつ本格的な実動演習」も推進している。MILEX 23の一部であるLIVEX 23は、その最初のものであり、今後数ヵ月から数年の間にさらに多くの演習が続く予定である。「戦略的指針」とEUMSSはどちらも、欧州の海上における野心に関して貴重な考察を提供しており、加盟国は、これらの野心を確実に達成するために、海軍能力を真剣に向上させる必要がある。
(5) Milex 23は、EU加盟国が共通の安全保障政策に向けて前進する上での重要な一里塚であり、決定的な飛躍でもある。重要事項が3点ある。まず、第1は、演習で得られた多くの教訓である。本演習は、EUの部隊が長期間準備し参加したLIVEXを含む初めての演習であった。その教訓は、間違いなく(MILEX23のような共同演習が)将来に繰り返し実施されることを強化し、EUが安全保障機構を構築し続けることを可能にする。MPCC部長Michiel van der Laan中将は、事後研究会において「MILEX23から学んだことは、構想を洗練し、問題点を特定し、運用過程を改善する上で極めて重要になる」と指摘している。第2は、本演習が現時点で非常に必要とされているEU加盟国による軍事力への追加投資を奨励する強力な手段として機能し得ることである。明確な目的を持った共同演習は、EUとNATOの国家的利益と共通の安全保障上の利益の双方に良い結果をもたらすことができる。「戦略的指針」に設定された軍事的即応性に関する目標は別として、EUMSSは、EU加盟国が少なくとも年1回の海軍演習を実施することを推奨している。これらは参加海軍にとって良い結果をもたらす可能性があり、EUは海軍/海洋問題の優先事項を明確に定義し、それらに従って演習実施予定を計画する必要がある。そのためEUは、2023年のEUMSSの改訂版では完全には達成されなかった方法、手段、目的を明確に定義する海洋戦略の策定に取り組み続ける必要がある。第3は、MILEX23は国境を越えた提携国との相互運用性を強化するためのEUの探求における新たな段階と見なすことができることである。インド太平洋地域には大きな戦略的関心があり、加盟国間の相互運用性を強化することで、EUはすでに多国間海軍演習を実施しているU.S. Navy やIndian Navyなどの提携国海軍との協力関係を引き続き強化することができる。
(6) EUは今後数年間、共同演習を実施していく中で、NATOとEUの間の努力の重複を避けるという別の重要な考慮事項が徐々に表面化するであろう。ほとんどのEU加盟国はNATOにも加盟しており、EU加盟国の海軍はEUおよびNATO両方に貢献している。したがって、軍事予算が潤沢ではない現在、2つの組織間で海軍の任務を明確に分担する方法を模索することは、各国海軍の貢献を最大化し、努力を無駄にしないようにするために重要である。
記事参照:MILEX 23 AND THE FUTURE OF EUROPEAN NAVAL AMBITIONS
(1) 2023年9月18日、ブリュッセルのMilitary Planning and Conduct Capability (以下、MPCCと言う)Operations Headquarters軍事計画・行動能力(MPCC)作戦本部が統裁するEUのCrisis Management Military Exercise 23(危機管理軍事演習23:以下MILEX 23と言う)が開始された。本演習は、これまでの過去のすべての演習と異なり、戦略段階と作戦段階での軍事計画過程を検証する指揮所演習(以下、CPXと言う)と、海、陸兵力、航空宇宙、サイバー部隊を含む「現実的な危機事態」を想定してスペインのカディス海岸で実施された実動演習(以下、LIVEXと言う) との2つの異なる演習内容を合わせて実施されたものである。2023年10月16日から22日まで行われた実動演習では、CPXで作成されたシナリオが初めて実行に移され、戦略を担当するEU作戦本部、作戦を担当するEU軍司令部、 作戦を実施するスペインの戦闘群規模の部隊と他の加盟国からの部隊の3つの段階で作戦が実施された。実動演習では合計31の部隊、25機の航空機、6隻の艦艇、2,800人の兵士が参加した。
(2) スペインのGonzalo Villar少将の指揮の下、LIVEXでは作戦準備、スペイン海軍の遠征部隊が率いる両用戦攻撃、着上陸する港湾の管制と確保、目標地域確保のための陸上部隊の投入が行われた。スペインからの参加部隊は、MILEX 23開始の数日前に米ドック型揚陸艦「メサヴェルデ」との間で訓練も行っていた。
(3) 本演習の主目的は、「外部の紛争や危機に対応するためにEUの軍事的即応性を強化すること」である。これは、EU加盟国が潜在的な危機に時宜にかなった、効果的な対応を採ることを可能にする重要な手段である緊急展開能力(EU RDC)の確立する上で、EUにとって重要な手段である。まさに本演習の実施期間に、黒海と東地中海地域の安定に挑戦するような紛争が東欧と中東で起きている。MILEX 23は、EUが主導するLIVEXを初めて含む歴史的な演習であり、19の加盟国が安全保障関係と海軍の相互運用性を強化する意欲を示している。本演習の主目的は、2022年の「戦略的指針(The Strategic Compass)」とEUの海洋安全保障戦略に基づいたものである。
(4)「戦略的指針」は、ウクライナ戦争勃発直後の2022年に発表されものである。「戦略指針」は、「紛争に満ちた多極化世界(a contested multipolar world)」と困難を極める戦略的環境における権力政治の復活に直接反応したものである。これは、EUとその加盟国が軍事力と安全保障政策を現在の状況に適応させようと努力する際に従うべき方向性を提供している。海洋分野に焦点を当て、海上での対立の激化を強調している。また、欧州各国の海軍および沿岸警備隊との定期的な演習の必要性を強調し、相互運用性を強化する必要があると強調している。MILEX23は、2025年までに海即応展開部隊の創設に向けた重要な一歩となったと考えられる。EUは2023年3月、「戦略的指針」にしたがって、海洋安全保障戦略(以下、EUMSSと言う)の改訂版を発表したが、EUMSS自体が述べているように、これは完成された戦略ではなく「EUがさらなる行動を採るための枠組み」であった。2023年10月25日にEU理事会が正式に批准したこの改訂版では、「世界の海洋領域における多くの危険性と脅威からEUとその加盟国の海洋安全保障上の利益を確保する」必要性など「戦略的指針」ですでに定義されているいくつかの懸念を取り扱っている。加盟国間の海軍の相互運用性を強化するために、EUMSSは進行中の海軍作戦の重要性を強調し、「毎年のEU海軍演習の組織化」や「海軍および空軍戦力による既存のEU海軍作戦の強化」など、追求すべきいくつかの「重要な行動」を定義している。毎年恒例の演習に加えて、「EUレベルでの定期的かつ本格的な実動演習」も推進している。MILEX 23の一部であるLIVEX 23は、その最初のものであり、今後数ヵ月から数年の間にさらに多くの演習が続く予定である。「戦略的指針」とEUMSSはどちらも、欧州の海上における野心に関して貴重な考察を提供しており、加盟国は、これらの野心を確実に達成するために、海軍能力を真剣に向上させる必要がある。
(5) Milex 23は、EU加盟国が共通の安全保障政策に向けて前進する上での重要な一里塚であり、決定的な飛躍でもある。重要事項が3点ある。まず、第1は、演習で得られた多くの教訓である。本演習は、EUの部隊が長期間準備し参加したLIVEXを含む初めての演習であった。その教訓は、間違いなく(MILEX23のような共同演習が)将来に繰り返し実施されることを強化し、EUが安全保障機構を構築し続けることを可能にする。MPCC部長Michiel van der Laan中将は、事後研究会において「MILEX23から学んだことは、構想を洗練し、問題点を特定し、運用過程を改善する上で極めて重要になる」と指摘している。第2は、本演習が現時点で非常に必要とされているEU加盟国による軍事力への追加投資を奨励する強力な手段として機能し得ることである。明確な目的を持った共同演習は、EUとNATOの国家的利益と共通の安全保障上の利益の双方に良い結果をもたらすことができる。「戦略的指針」に設定された軍事的即応性に関する目標は別として、EUMSSは、EU加盟国が少なくとも年1回の海軍演習を実施することを推奨している。これらは参加海軍にとって良い結果をもたらす可能性があり、EUは海軍/海洋問題の優先事項を明確に定義し、それらに従って演習実施予定を計画する必要がある。そのためEUは、2023年のEUMSSの改訂版では完全には達成されなかった方法、手段、目的を明確に定義する海洋戦略の策定に取り組み続ける必要がある。第3は、MILEX23は国境を越えた提携国との相互運用性を強化するためのEUの探求における新たな段階と見なすことができることである。インド太平洋地域には大きな戦略的関心があり、加盟国間の相互運用性を強化することで、EUはすでに多国間海軍演習を実施しているU.S. Navy やIndian Navyなどの提携国海軍との協力関係を引き続き強化することができる。
(6) EUは今後数年間、共同演習を実施していく中で、NATOとEUの間の努力の重複を避けるという別の重要な考慮事項が徐々に表面化するであろう。ほとんどのEU加盟国はNATOにも加盟しており、EU加盟国の海軍はEUおよびNATO両方に貢献している。したがって、軍事予算が潤沢ではない現在、2つの組織間で海軍の任務を明確に分担する方法を模索することは、各国海軍の貢献を最大化し、努力を無駄にしないようにするために重要である。
記事参照:MILEX 23 AND THE FUTURE OF EUROPEAN NAVAL AMBITIONS
1月10日「セカンド・トーマス礁に恒久的建造物を建設する権利はフィリピンにはない―中国専門家論説」(South China Sea Strategic Situation Probing Initiative, January 10, 2024)
1月10日付の北京大学の南海戦略態勢感知計画のウエブサイトは、中国の上海交通大学日本研究中心准教授の鄭志華の” Does the Philippines Have the Right to Build Permanent Structures on Second Thomas Shoal?”と題する論説を掲載し、ここで鄭志華はフィリピンによるシエラ・マドレ号の補強と改修はDOCに違反しており、南シナ海の緊張と混乱を悪化させ、同地域における行動規範の交渉を著しく阻害する可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピンは、セカンド・トーマス礁に恒久的な前哨基地を建設するため、老朽化した第2次大戦時の揚陸艦「シエラ・マドレ」を補強して、ここに建築資材を輸送しようとしている。これは国際的な注目を集めているが、フィリピン政府は「シエラ・マドレ」の岩礁への座礁が2002年の「南シナ海における締約国の行動に関する宣言」(以下、「DOC」とする)署名前の1999年であることから、DOCに違反しないと主張している。
(2) 1999年の座礁事故自体はDOC違反に当たらないが、その後の行動、すなわち、建設資材の輸送、補強と改修などの恒久施設を建設する試みがDOCに違反しないということではない。この問題点を整理すると以下のとおりとなる。
a.フィリピンは座礁の原因を機械の故障と説明し、同船を速やかに撤去すると確約したが、それは履行されていない。機械の故障によって座礁したのであれば、それは浅瀬の軍事占領ではなく、単なる海難事故である。
b.フィリピンが事故として座礁を偽装し、セカンド・トーマス礁を占拠する意図があったとしても、そのような行為は一時的なものであり、正式な占拠とはみなされないだろう。「シエラ・マドレ」は、第二次世界大戦以来就役している軍艦であるが、その老朽化と限られた機能性から、マニラが珊瑚礁の恒久的かつ持続可能な占領を達成することはできない。また、海難事故というマニラの公式な外交姿勢とも矛盾する。
c.フィリピンは一貫して、「シエラ・マドレ」はフィリピン海軍の現役艦艇であり、第2トーマス浅瀬に常置されているのではないと主張しているが、これは米比相互防衛条約による保護を求めるためであろう。法的には、「シエラ・マドレ」を現役の軍艦であると同時に恒久的な前哨基地であると主張するのは、あり得ない。フィリピンが「シエラ・マドレ」をセカンド・トーマス礁に配置したのは、偶発的で一時的なものであることは明らかで、正式な占領を意味するものではない。
d.2002年11月にDOCに調印した後、フィリピンはセカンド・トーマス礁に恒久的な建造物を建設せず、建設資材を輸送しないと約束した。2003年9月、フィリピン外務次官代理はセカンド・トーマス礁に施設を建設する意図はないと述べ、さらに2013年6月フィリピン国防相は、ここに建造物を建設する計画はないと断言した。
e.フィリピンが自らの声明を順守せずに浅瀬で補強を続け、恒久的な構造物を設置しようとしていることは、DOCの第5条に違反していることは明白である。この条項は、すべての締約国が「紛争を複雑化またはエスカレートさせ、平和と安定に影響を及ぼすような活動を自制すること(特に、現在無人である島、岩礁、浅瀬、湾、その他の島礁に居住する行為を自制することを含む)」を誓約している。これは、2002年のDOC締結以来、広く守られてきた協定である。
(3) 「シエラ・マドレ」の座礁は、偶発的かつ一時的なものであったが、2010年以降、フィリピンは「シエラ・マドレ」の補強と改修を試みており、DOCの義務に違反し、セカンド・トーマス礁の現状を一方的に変更しようとしている。フィリピンの「国際法上、長期的、継続的、平和的、中断のない、効果的な領有権を有している」という主張は完全な虚偽である。現在、南沙諸島には100以上の無人島や地形が残っている。フィリピンがこの公約に違反すれば、占領活動の新たな波を引き起こし、南シナ海の緊張と混乱を悪化させ、同地域における行動規範の交渉を著しく阻害する可能性がある。
記事参照:Does the Philippines Have the Right to Build Permanent Structures on Second Thomas Shoal?
(1) フィリピンは、セカンド・トーマス礁に恒久的な前哨基地を建設するため、老朽化した第2次大戦時の揚陸艦「シエラ・マドレ」を補強して、ここに建築資材を輸送しようとしている。これは国際的な注目を集めているが、フィリピン政府は「シエラ・マドレ」の岩礁への座礁が2002年の「南シナ海における締約国の行動に関する宣言」(以下、「DOC」とする)署名前の1999年であることから、DOCに違反しないと主張している。
(2) 1999年の座礁事故自体はDOC違反に当たらないが、その後の行動、すなわち、建設資材の輸送、補強と改修などの恒久施設を建設する試みがDOCに違反しないということではない。この問題点を整理すると以下のとおりとなる。
a.フィリピンは座礁の原因を機械の故障と説明し、同船を速やかに撤去すると確約したが、それは履行されていない。機械の故障によって座礁したのであれば、それは浅瀬の軍事占領ではなく、単なる海難事故である。
b.フィリピンが事故として座礁を偽装し、セカンド・トーマス礁を占拠する意図があったとしても、そのような行為は一時的なものであり、正式な占拠とはみなされないだろう。「シエラ・マドレ」は、第二次世界大戦以来就役している軍艦であるが、その老朽化と限られた機能性から、マニラが珊瑚礁の恒久的かつ持続可能な占領を達成することはできない。また、海難事故というマニラの公式な外交姿勢とも矛盾する。
c.フィリピンは一貫して、「シエラ・マドレ」はフィリピン海軍の現役艦艇であり、第2トーマス浅瀬に常置されているのではないと主張しているが、これは米比相互防衛条約による保護を求めるためであろう。法的には、「シエラ・マドレ」を現役の軍艦であると同時に恒久的な前哨基地であると主張するのは、あり得ない。フィリピンが「シエラ・マドレ」をセカンド・トーマス礁に配置したのは、偶発的で一時的なものであることは明らかで、正式な占領を意味するものではない。
d.2002年11月にDOCに調印した後、フィリピンはセカンド・トーマス礁に恒久的な建造物を建設せず、建設資材を輸送しないと約束した。2003年9月、フィリピン外務次官代理はセカンド・トーマス礁に施設を建設する意図はないと述べ、さらに2013年6月フィリピン国防相は、ここに建造物を建設する計画はないと断言した。
e.フィリピンが自らの声明を順守せずに浅瀬で補強を続け、恒久的な構造物を設置しようとしていることは、DOCの第5条に違反していることは明白である。この条項は、すべての締約国が「紛争を複雑化またはエスカレートさせ、平和と安定に影響を及ぼすような活動を自制すること(特に、現在無人である島、岩礁、浅瀬、湾、その他の島礁に居住する行為を自制することを含む)」を誓約している。これは、2002年のDOC締結以来、広く守られてきた協定である。
(3) 「シエラ・マドレ」の座礁は、偶発的かつ一時的なものであったが、2010年以降、フィリピンは「シエラ・マドレ」の補強と改修を試みており、DOCの義務に違反し、セカンド・トーマス礁の現状を一方的に変更しようとしている。フィリピンの「国際法上、長期的、継続的、平和的、中断のない、効果的な領有権を有している」という主張は完全な虚偽である。現在、南沙諸島には100以上の無人島や地形が残っている。フィリピンがこの公約に違反すれば、占領活動の新たな波を引き起こし、南シナ海の緊張と混乱を悪化させ、同地域における行動規範の交渉を著しく阻害する可能性がある。
記事参照:Does the Philippines Have the Right to Build Permanent Structures on Second Thomas Shoal?
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) No Shortcuts on Nuclear Deterrence
https://www.wsj.com/articles/no-shortcuts-on-nuclear-deterrence-china-russia-cities-76806d1c
Wall Street Journal, January 2, 2024
By Rebeccah L. Heinrichs is a senior fellow at the Hudson Institute and a member of the Congressional Commission on the Strategic Posture of the U.S.
2024年1月2日、米シンクタンクHudson Institute 上席研究員でCongressional Commission on the Strategic Posture of the U.S.委員Rebeccah L. Heinrichsは米紙Wall Street Journalに“No Shortcuts on Nuclear Deterrence”と題する論説を寄稿し、2024 年初頭における世界の安全保障の最も危険な展開は、米国主導の秩序を破るために中国とロシアが核兵器に依存していることであるとした上で、米国の核抑止力更新計画では今後10年間に中国とロシアを同時に抑止することはできず、米政府は「対価値目標」あるいは「対都市目標」として知られる近道で問題に対処したい誘惑に駆られるかもしれないが、米国が新たな課題に対処するために核戦力の態勢を更新しながら現在の政策を継続すべき理由は3つあるRebeccah L. Heinrichsは主張する。第1に社会的標的を核攻撃すると脅すことは抑止力が失敗するリスクが高く、第2に何十年もの間、米国が大規模な戦争を抑止しようとしてきた方法があり、それによって抑止力は維持されてきたのであり、今、それを変更するのは賢明ではない。第3に民間人の犠牲を最小限に抑えながら抑止を目指すことは道徳的に正当であり、米国の武力紛争法の適用を遵守するものであり、米国の抑止力の信頼性を高めることになる。敵対的な核大国2ヵ国を抑止することは米国の最優先事項であり、危険性が高まる中、米指導者は最も近い同盟国と協力し、適切な軍事態勢を構築する必要があり、今は近道に頼る時ではないと主張している。
(2) Houthi Attacks and Military Escalation in the Red Sea: What’s at Stake?
https://www.geopoliticalmonitor.com/houthi-attacks-and-military-escalation-in-the-red-sea-whats-at-stake/
Backgrounders, Geopolitical Monitor, January 8, 2024
By Dr. Scott N. Romaniuk is a Newton International Fellow at the University of South Wales' Faculty of Life Sciences and Education, the United Kingdom.
Professor Christian Kaunert is Professor of International Security at Dublin City University, Ireland.
2024年1月8日、英University of South WalesのNewton International FellowであるScott N. RomaniukとアイルランドDublin City UniversityのChristian Kauner教授は、カナダ情報誌Geopolitical Monitorのウエブサイトに" Houthi Attacks and Military Escalation in the Red Sea: What’s at Stake? "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、2023年10月以来、イランの支援を受けた武装組織フーシ派は、イランのミサイル、無人偵察機、海上船舶を使用して、重要な紅海の国際海運に対する暴力的な活動を展開してきたが、ハマスによるイスラエル侵攻と、それに続く軍事・民間標的への攻撃の後、フーシ派はイエメン領内から無人機とミサイルによる攻撃を開始したと指摘している。その上で両名は、フーシ派はイスラエルと関係があると主張する船舶に攻撃の矛先を向けているが、この攻撃は無差別攻撃へと発展し、紅海とその周辺での武力衝突を拡大させており、十分な安全保障上の管理がなされていないことも相まって、地理的により広範な紛争へと拡大する可能性があると懸念を示している。
(3) ASSESSING THAILAND’S MARITIME GOVERNANCE CAPACITY: PRIORITIES AND CHALLENGES
https://amti.csis.org/assessing-thailands-maritime-governance-capacity-priorities-and-challenges/#:~:text=What%20are%20the%20maritime%20governance,culture%20toward%20the%20maritime%20domain.
Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, January 10, 2024
By Tita Sanglee is an independent analyst and a columnist at The Diplomat.
2024年1月10日、タイの専門家Tita Sangleeは、米シンクタンクCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeに、“ASSESSING THAILAND’S MARITIME GOVERNANCE CAPACITY: PRIORITIES AND CHALLENGES”と題する論説を寄稿した。その中で、①タイの海洋統治の優先課題は、海軍力の近代化、法的曖昧さの明確化、海洋領域への戦略文化の再構築の3点に要約できる。②タイの海洋統治は、すでに東南アジアで最も強力な海軍の一つに支えられているが、その能力はまだ十分ではない。③公海に出るためには近隣諸国の排他的経済水域を通過しなければならないタイのような封じ込められた(zone-locked)国家にも特権を与えるべきだとタイは主張してきたが、依然として返答がなく、近隣諸国との交渉に頼っている。④タイの戦略思考は歴史的に陸地志向が強いため、タイは戦略文化を再構築する必要がある。⑤タイは非伝統的な脅威に気を取られており、その中でも、人身売買や強制労働と密接に絡むIUU漁業は複雑な課題である。⑥タイ海上法令執行調整センター(以下、Thai-MECCと言う)は、海洋権益を脅かすとみなされるあらゆる事柄について、監視と調査を正当に実施することができる。⑦一方で、Thai-MECCの軍事化が民間主導の機関を疎外し、各機関間の協力を損なう可能性がある。⑧国際的な取り組みは、タイ国民の間に現代の海洋安全保障と法の支配に対する理解を促進する。⑨海面上昇や生物多様性の損失など、UNCLOSでカバーされていない新たな懸念事項を、タイが関係する機関で取り上げるべきである。⑩タイは、哨戒と情報共有を中心に、国際的な海洋統治の取り決めを行ってきたが、利点として、即時のデータおよび訓練の利用、そして、関与の実証が可能になる。⑪AUKUSやQUADのような地政学的封じ込めに関係するグループに関しては、潜在的な絡みを避ける姿勢をタイは維持し続けるだろうといった主張を述べている。
(4) Surveying the Seas: China’s Dual-Use Research Operations in the Indian Ocean
https://features.csis.org/hiddenreach/china-indian-ocean-research-vessels/
Center for Strategic and International Studies, January 10, 2024
By Matthew P. Funaiole, vice president of iDeas Lab, Andreas C. Dracopoulos Chair in Innovation and senior fellow of China Power Project at the Center for Strategic and International Studies (CSIS)
Brian Hart, a fellow with the China Power Project at CSIS
Aidan Powers-Riggs, a research associate for China analysis with the iDeas Lab at CSIS
2024年1月10日、米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのMatthew P. Funaiole、Brian Hart、Aidan Powers-Riggsは、同シンクタンクのウエブサイトに" Surveying the Seas: China’s Dual-Use Research Operations in the Indian Ocean "と題する論説を寄稿した。その中で3名は、中国は、人民解放軍海軍を自国の沿海域をはるかに超えて力を発揮できる強大な外洋海軍へと変貌させるべく、大々的な取り組みを行っているが、その1つとして中国はインド洋のような行動経験のあまりない海域に進出するのに伴い必要となる海況、海流、海底の状況を、軍民両用の手法(dual-use approach)を用いて把握と理解を進めようとしていると指摘している。その上で、3名は長期的には、インド洋における人民解放軍海軍の展開の高まりが地域を不安定化させないよう、各国が協力することが必要だが、それにはインドの協力は極めて重要であり、中国との緊張が高まる中、インドはQUAD参加国との海洋安全保障の取り組みを支援してきたが、中国がインド洋での活動を思い描く中、今後、米政府とその提携国は中国の動きを注視し、均衡を維持するために効果的な重しとして協力の機会を探るべきだと主張している。
(1) No Shortcuts on Nuclear Deterrence
https://www.wsj.com/articles/no-shortcuts-on-nuclear-deterrence-china-russia-cities-76806d1c
Wall Street Journal, January 2, 2024
By Rebeccah L. Heinrichs is a senior fellow at the Hudson Institute and a member of the Congressional Commission on the Strategic Posture of the U.S.
2024年1月2日、米シンクタンクHudson Institute 上席研究員でCongressional Commission on the Strategic Posture of the U.S.委員Rebeccah L. Heinrichsは米紙Wall Street Journalに“No Shortcuts on Nuclear Deterrence”と題する論説を寄稿し、2024 年初頭における世界の安全保障の最も危険な展開は、米国主導の秩序を破るために中国とロシアが核兵器に依存していることであるとした上で、米国の核抑止力更新計画では今後10年間に中国とロシアを同時に抑止することはできず、米政府は「対価値目標」あるいは「対都市目標」として知られる近道で問題に対処したい誘惑に駆られるかもしれないが、米国が新たな課題に対処するために核戦力の態勢を更新しながら現在の政策を継続すべき理由は3つあるRebeccah L. Heinrichsは主張する。第1に社会的標的を核攻撃すると脅すことは抑止力が失敗するリスクが高く、第2に何十年もの間、米国が大規模な戦争を抑止しようとしてきた方法があり、それによって抑止力は維持されてきたのであり、今、それを変更するのは賢明ではない。第3に民間人の犠牲を最小限に抑えながら抑止を目指すことは道徳的に正当であり、米国の武力紛争法の適用を遵守するものであり、米国の抑止力の信頼性を高めることになる。敵対的な核大国2ヵ国を抑止することは米国の最優先事項であり、危険性が高まる中、米指導者は最も近い同盟国と協力し、適切な軍事態勢を構築する必要があり、今は近道に頼る時ではないと主張している。
(2) Houthi Attacks and Military Escalation in the Red Sea: What’s at Stake?
https://www.geopoliticalmonitor.com/houthi-attacks-and-military-escalation-in-the-red-sea-whats-at-stake/
Backgrounders, Geopolitical Monitor, January 8, 2024
By Dr. Scott N. Romaniuk is a Newton International Fellow at the University of South Wales' Faculty of Life Sciences and Education, the United Kingdom.
Professor Christian Kaunert is Professor of International Security at Dublin City University, Ireland.
2024年1月8日、英University of South WalesのNewton International FellowであるScott N. RomaniukとアイルランドDublin City UniversityのChristian Kauner教授は、カナダ情報誌Geopolitical Monitorのウエブサイトに" Houthi Attacks and Military Escalation in the Red Sea: What’s at Stake? "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、2023年10月以来、イランの支援を受けた武装組織フーシ派は、イランのミサイル、無人偵察機、海上船舶を使用して、重要な紅海の国際海運に対する暴力的な活動を展開してきたが、ハマスによるイスラエル侵攻と、それに続く軍事・民間標的への攻撃の後、フーシ派はイエメン領内から無人機とミサイルによる攻撃を開始したと指摘している。その上で両名は、フーシ派はイスラエルと関係があると主張する船舶に攻撃の矛先を向けているが、この攻撃は無差別攻撃へと発展し、紅海とその周辺での武力衝突を拡大させており、十分な安全保障上の管理がなされていないことも相まって、地理的により広範な紛争へと拡大する可能性があると懸念を示している。
(3) ASSESSING THAILAND’S MARITIME GOVERNANCE CAPACITY: PRIORITIES AND CHALLENGES
https://amti.csis.org/assessing-thailands-maritime-governance-capacity-priorities-and-challenges/#:~:text=What%20are%20the%20maritime%20governance,culture%20toward%20the%20maritime%20domain.
Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, January 10, 2024
By Tita Sanglee is an independent analyst and a columnist at The Diplomat.
2024年1月10日、タイの専門家Tita Sangleeは、米シンクタンクCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeに、“ASSESSING THAILAND’S MARITIME GOVERNANCE CAPACITY: PRIORITIES AND CHALLENGES”と題する論説を寄稿した。その中で、①タイの海洋統治の優先課題は、海軍力の近代化、法的曖昧さの明確化、海洋領域への戦略文化の再構築の3点に要約できる。②タイの海洋統治は、すでに東南アジアで最も強力な海軍の一つに支えられているが、その能力はまだ十分ではない。③公海に出るためには近隣諸国の排他的経済水域を通過しなければならないタイのような封じ込められた(zone-locked)国家にも特権を与えるべきだとタイは主張してきたが、依然として返答がなく、近隣諸国との交渉に頼っている。④タイの戦略思考は歴史的に陸地志向が強いため、タイは戦略文化を再構築する必要がある。⑤タイは非伝統的な脅威に気を取られており、その中でも、人身売買や強制労働と密接に絡むIUU漁業は複雑な課題である。⑥タイ海上法令執行調整センター(以下、Thai-MECCと言う)は、海洋権益を脅かすとみなされるあらゆる事柄について、監視と調査を正当に実施することができる。⑦一方で、Thai-MECCの軍事化が民間主導の機関を疎外し、各機関間の協力を損なう可能性がある。⑧国際的な取り組みは、タイ国民の間に現代の海洋安全保障と法の支配に対する理解を促進する。⑨海面上昇や生物多様性の損失など、UNCLOSでカバーされていない新たな懸念事項を、タイが関係する機関で取り上げるべきである。⑩タイは、哨戒と情報共有を中心に、国際的な海洋統治の取り決めを行ってきたが、利点として、即時のデータおよび訓練の利用、そして、関与の実証が可能になる。⑪AUKUSやQUADのような地政学的封じ込めに関係するグループに関しては、潜在的な絡みを避ける姿勢をタイは維持し続けるだろうといった主張を述べている。
(4) Surveying the Seas: China’s Dual-Use Research Operations in the Indian Ocean
https://features.csis.org/hiddenreach/china-indian-ocean-research-vessels/
Center for Strategic and International Studies, January 10, 2024
By Matthew P. Funaiole, vice president of iDeas Lab, Andreas C. Dracopoulos Chair in Innovation and senior fellow of China Power Project at the Center for Strategic and International Studies (CSIS)
Brian Hart, a fellow with the China Power Project at CSIS
Aidan Powers-Riggs, a research associate for China analysis with the iDeas Lab at CSIS
2024年1月10日、米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのMatthew P. Funaiole、Brian Hart、Aidan Powers-Riggsは、同シンクタンクのウエブサイトに" Surveying the Seas: China’s Dual-Use Research Operations in the Indian Ocean "と題する論説を寄稿した。その中で3名は、中国は、人民解放軍海軍を自国の沿海域をはるかに超えて力を発揮できる強大な外洋海軍へと変貌させるべく、大々的な取り組みを行っているが、その1つとして中国はインド洋のような行動経験のあまりない海域に進出するのに伴い必要となる海況、海流、海底の状況を、軍民両用の手法(dual-use approach)を用いて把握と理解を進めようとしていると指摘している。その上で、3名は長期的には、インド洋における人民解放軍海軍の展開の高まりが地域を不安定化させないよう、各国が協力することが必要だが、それにはインドの協力は極めて重要であり、中国との緊張が高まる中、インドはQUAD参加国との海洋安全保障の取り組みを支援してきたが、中国がインド洋での活動を思い描く中、今後、米政府とその提携国は中国の動きを注視し、均衡を維持するために効果的な重しとして協力の機会を探るべきだと主張している。
関連記事