海洋安全保障情報旬報 2022年8月1日-8月10日

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8月1日「ソロモン諸島の深水港を狙う中国企業―The Diplomat誌報道」(The Diplomat, August 1, 2022)

 8月1日付のデジタル誌The Diplomatは、AP通信の記者Rod McGuirkによる、“Chinese Company Eyes Solomon Islands Deep-water Port”と題する記事を掲載し、中国企業が、中国海軍の拠点として、ソロモン諸島にある深水港に目を付けているとして、要旨以下のように報じている。
(1)中国が南太平洋の国に海軍の足場を築くことを欲しているとの懸念が根強く存在する
中、中国の国有企業がソロモン諸島の深水港と第2次世界大戦時の滑走路が残る植林地を購入する交渉をしている。オーストラリア放送協会(以下、ABCと言う)が8月1日に報じたところによると、中国林業集団公司の代表団が2019年にコロンバンガラ島の大部分を占めるこの植林地を訪れ、埠頭の長さや水深について質問する一方で、木々にはほとんど興味を示さなかったという。
(2) 台湾とオーストラリアの出資者が所有する買収対象であるKolombangara Forest Products Ltd.(以下、KFPLと言う)の取締役会は、5月に選出されたばかりのオーストラリア政府に対し、このような売却によってオーストラリアにもたらされる「リスク及び戦略的脅威」を警告する書簡を送った。ABCによると、オーストラリアDepartment of Foreign Affairs and Trade(外務貿易省)は7月の最終週に、取締役会に対して「介入はしていない」と返事を出したという。オーストラリア外相Penny Wongの事務所はAP通信に、オーストラリアは売却の可能性についてKFPLへの関与を続けていると述べている。Lachlan Strahan駐ホニアラオーストラリア高等弁務官は、「我々は、ソロモン諸島の安全保障と開発の第1の提携国として選ばれた立場を大事にし、共通の課題に取り組むために協力することを公約する」と述べている。KFPLのある関係者は、取締役会はオーストラリア政府に提案を出すか、またはオーストラリア企業からの申し出を促進することを望んでいるという。
(3) 南太平洋における中国の影響力拡大に対する米国とその同盟国の懸念は、中国とソロモン諸島が2022年に2国間安全保障条約に調印したことで強まり、オーストラリア北東の海岸から2,000km以内のところに中国軍が存在するという恐怖を煽った。オーストラリアはすでにソロモン諸島と安全保障条約を結んでおり、2021年の年末に暴動が起こって以来、オーストラリア警察は首都ホニアラの平和を維持している。
(4) ソロモン諸島のManasseh Sogavare首相は、中国が自国に軍事基地を設置することは決して許可しないと主張している。ソロモン諸島のSilas Tausinga議員は、中国にはソロモン諸島に部隊、艦艇を配備するという強い野望があると述べた。Tausingaは、ABCの取材に対し、「オーストラリアは、間違いなく懸念する必要がある」と語っている。
(5) 中国の影響力は、ホニアラが台湾から中国に忠義の対象を乗り換えた2019年以来、ソロモン諸島で急速に拡大している。
記事参照:Chinese Company Eyes Solomon Islands Deep-water Port

8月1日「中国人専門家のウクライナ戦争観―英専門家論説」(The Strategist, August 1, 2022)

 8月1日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、ヨーロッパのシンクタンクEuropean Council on Foreign Relations理事長Mark Leonardの        “Russia’s war viewed from China”と題する論説を掲載し、西洋人と、中国人専門家とのウクライナ戦争に対する見解の違いについて、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアのウクライナ侵攻は、今後数年間でヨーロッパが中東のように思える、一連の紛争の初めに過ぎないのだろうか?7月に、匿名希望の中国人学者が私にそう質問してきた。彼の推論は、ヨーロッパの地政学的秩序を再構築しつつある戦争に対して、非西洋人の見方が如何に異なるかを示している。中国の学者たちは、西洋の多くの人々とは根本的に異なる立場から出発している。ウクライナ戦争をクレムリンよりもNATOの拡大のせいにする傾向があるというだけでなく、彼らの中核的な戦略的想定の多くが、我々のそれとは正反対であるということである。
(2) 欧米人がこの紛争を世界史の転換点として捉えているのに対し、中国人は過去75年間に行われた戦争よりもさらに重要性の低い、単なる介入戦争としか考えていないのである。彼らにとって、今回の戦争で唯一重大な違いは、介入しているのが欧米ではないことである。
(3) また、ヨーロッパの多くの人々が、この戦争は米国が世界の舞台に戻ってきたことを示すものだと考えているのに対し、中国の有識者たちはこの戦争はアメリカ後の世界の到来をさらに裏付けるものだと考えている。
(4) 欧米人が法に基づく秩序への攻撃と見るのに対し、私の中国の友人たちはより多元的な世界の出現と見ている。彼らは、法に基づく秩序は常に正統性に欠けると主張する。西側の国々は法を作り、自分たちの目的に合うように法を変更することにあまり抵抗感を示さないからである。
(5) これが、中東の例えにつながる議論である。私の中国人の対話相手は、ウクライナの状況を主権国家間の侵略戦争というよりも、欧米の覇権の終焉に伴う植民地時代後の国境線の修正と見ている。しかし、最も顕著な類似点は、ウクライナ紛争が代理戦争と広く見なされていることである。私の中国の友人は、米国と中国が最終的に最も利益を得る立場にあり、両国はこの紛争を、より大きな競争関係の代理戦争として取り組んでいると主張する。米国人は、ヨーロッパ人、日本人、韓国人を米国によって決められた新たな優先順位に縛りつけ、そして、ロシアを孤立させ、中国に領土保全のような問題での立場を明確にさせることによって利益を得ているというのである。同時に、中国は中ロ提携の中でロシアの従属的な立場を固め、南半球の多くの発展途上国に非同盟を受け入れるよう促すことで、利益を得ていると彼らは述べている。
(6) ヨーロッパの指導者たちは、自分たちを21世紀のチャーチル家と位置付けているが、中国はヨーロッパの指導者たちをより大きな地政学的戦いの駒に過ぎないと考えている。私が話をした学者たちの間では、ウクライナ戦争はCovid-19による短期的な混乱や米中間の長期的な覇権争いと比較すると、むしろ重要でない転換点であるということで意見が一致している。
(7) もちろん、この中国人の指摘に反論することもできる。ヨーロッパ人は、彼が示唆するよりも確実に多くの手段を持っており、ロシアの侵略に対する西側の積極的な対応によって、この戦争が長期にわたる国境紛争の最初のものとなることを十分に防ぐ可能性がある。
(8) とはいえ、中国の評論家たちが、我々とこれほどまでに異なる構図で物事を捉えているという事実は、我々に再考を促すだろう。確かに、中国人の主張を敵対的で非民主的な政府に気に入れられるために意図された、単なる話題に過ぎないと片づけたくなる。中国ではウクライナに関する公の議論は厳しく統制されている。しかし、ある程度謙虚になるべきかもしれない。我々が法に基づく秩序の英雄的な自己防衛と見なす一方で、他の人々は、急速に多極化する世界における西側の覇権の最後のあがきと見ているのである。
記事参照:Russia’s war viewed from China

8月2日「Pelosi訪台は本当に戦争につながるのだろうか―U.S. Naval War College教授論説」(19FortyFive.com, August 2, 2022)

 8月2日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、U.S. Naval War College海洋戦略教授James Holmesの“Would China Really Start A War Over A Nancy Pelosi Visit To Taiwan?”と題する論説を掲載し、そこでHolmesはNancy Pelosi米下院議長の訪台に中国がどのように対応するかについて、要旨以下のように述べている。
(1) Nancy Pelosi米下院議長は、台湾に行く必要はなかった。しかし、彼女の訪台の可能性に対して中国政府が強硬に反発した後で行かなかったとあれば、それに萎縮したように見られ、体面を失ったであろう。そうならないためにも彼女は行かねばならなかったのである。
(2) 中国は、外交という手段を戦争のようなものとして認識し、一時たりとも休むことなくそれを遂行している。彼らは、心理的・法的手段およびメディアを通じて、中国にとって好ましい政治的、戦略的環境を得ようとしている。今回、中国は大げさな言辞によってPelosiに訪台を控えさせようとした。Pelosiが乗る航空機を戦闘機が護衛するようなことがあれば、それに対して中国は武力で反撃するという声すらあった。
(3) ここ数ヶ月の間、人民解放軍は武力行動の回数を増やしている。今年5月末、中国のJ-16戦闘機が、南シナ海上空でオーストラリアのP-8哨戒機を妨害した。J-16戦闘機はオーストラリア機の近くを横切り、エンジンに対してチャフを放出した。こうしたことを近距離で行うことはきわめて危険な行為である。異物がタービンによって吸い込まれると「異物による損傷」を引き起こし、場合によっては墜落につながるからである。結果として航空機も乗組員も無事だったが、そうしたやり方は高次の侵略行為ともみなされうる。
(4) 中国はこれまで「グレーゾーン」戦術に頼ってきた。つまり武力行使に至らない行動によって、地政学的な利益を少しずつ獲得するというやり方だ。しかし5月の事件に見られるように、中国共産党の指導者は武力行使に抵抗がなくなっているようである。拡大した行為が重大な結果をもたらすことになるかもしれない。
(5) 訪台の際、下院議長一行はどう行動すべきだろうか。私自身の考えは、軍用機の護衛なしでPelosiは訪台すべきだと考える。1948年から49年にかけて実施されたベルリン大空輸で、輸送機は護衛なしで作戦を遂行したときのように。当時、Truman大統領はStalinが武力行動に出ることはないと正しく理解していた。
(6) もちろん、過去の事例が今回にも当てはまるとは限らないが、おそらく習近平は抑制的な行動をとるだろう。なぜなら米国議会と台湾との結びつきの強さは今に始まったことではないからである。ロードアイランド州選出上院議員の故Claiborne Pell氏は、台湾と強く結びついたことで有名である。そしてそうした人物は彼だけではなかったのである。いずれにせよ、Pelosiの訪台に対して習近平が武力行使などで対応しないことを祈る。
記事参照:Would China Really Start A War Over A Nancy Pelosi Visit To Taiwan?

8月2日「インド太平洋を繋ぐ海底ケーブルのためにオーストラリアは一層尽力すべし:オーストラリア専門家論説」(The Strategist, August 2, 2022)

 8月2日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、同Instituteの上席研究員Anthony Bergin とAustralian National UniversityのNational Security College研究員Samuel Bashfieldの“Australia must do more to secure the cables that connect the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、両名は世界の95%が利用する海底ケーブルに対し、近年特にロシア、中国の脅威が高まっていると指摘した上で、海底ケーブルを守る国際的協定は存在しないが、オーストラリアの電気通信法1997に規定された海底ケーブル防護圏の設定の地域への拡大、脅威を回避する迂回ケーブルの設置などにより海底通信ケーブルを防護する一方、海底電力ケーブルの各地によって、地球温暖化対策に貢献することもできるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 英軍参謀長Tony Rada kin海軍大将は1月、ロシア潜水艦及び水中での行動が海底ケーブルシステムに直接的脅威を及ぼしていると警告している。ウクライナ戦争がさらに拡大した場合に、ロシアが海底ケーブルを切断するとの憶測がある。オーストラリアの近傍では、ミクロメシア連邦David Panuelo大統領がミクロメシア連邦における中国の調査活動の大部分は同国の光ファイバーケーブルの基幹施設に注目していると指摘して、中国-ソロモン諸島安全保障協定に地域に対する危険性について太平洋島嶼国の指導者に書き送っている。
(2) 最近の報告書*で、筆者らは海底通信ケーブルの抗堪性に対応するため広範な取り組みが必要であると主張した。世界の連接性を破壊しようとする者が狙う海底ケーブルは430以上存在する。世界中の国際通信、データの送受信の95%がこれらのケーブルを利用している。これらは極めて重要な基幹施設であり、インターネット、金融市場、デジタル経済を支えている。
(3) 海底ケーブルを損傷するのは海岸からそれほど離れていない所にあるケーブルの上に商船や漁船が投錨することである。漁業と投錨が世界中のケーブル障害の約70%を占めている。潜水員、潜水機、軍用滑走ドローンはケーブル上に爆発物を設置したり、近くに機雷を敷設することができる。ケーブル修理船が攻撃されるかもしれない。インド太平洋のいくつかの国々は海底ケーブルを密かに盗聴することができる潜水艦を運用しているが、技術的には難しく、海底ケーブルを流れるデータを得るより容易な方法がある。海底ケーブル企業は、正規の経路や手段を介さずにシステムに侵入するために設けられた接続経路、あるいは監視機器を組み込むことができる。ネットワーク管理システムに侵入すると、攻撃者は複数のケーブル管理システムを支配できる。テロリストあるいは犯罪集団は異なる目的のため海底ケーブルの脆弱性を利用するかもしれない。
(4) より大きな脅威は測定点あるいは陸揚局における干渉である。シドニーやパースは海底ケーブルがオーストラリアに陸揚げされる主要な地点である。これらの局で電源が遮断されたり、爆発物の爆発が起こったりするかもしれない。ミサイル攻撃も可能である。陸揚げ局ではデータを傍受し、送信者、受信者ともに知らないうちにコピーされてしまう、いわゆるミラーリングが可能であり、陸揚局の場所は脆弱である。米国、フランス、日本が長年にわたり海底ケーブル市場を支配してきたが、中国企業のHMN Tech(旧Huawei Marine Networks)世界の市場の10%を占めている。中国のデータへの渇望を認識し、World Bankが後援するEast Micronesia Cableへの入札はHMN Techが落札することを懸念してキャンセルされた。
(5) 目を太平洋に転じれば、オーストラリアとその提携国は中国が後押しする代替案をかわすために海底ケーブル計画に投資、あるいは共同投資を継続しなければならない。これにはHMN Techの提案と入札を監視し、可能な所では代わりの供給者を奨励、促進することも含まれる。5月に中国とソロモン諸島の間の海上における協力合意の案が漏らされた。中国の目的は、埠頭、造船所、海底ケーブルをソロモン諸島のために建設し、「将来を共有する海洋共同体」構築を目指すと合意案は述べている。オーストラリアは、パプア・ニューギニア及びソロモン諸島とオーストラリアを繋ぐCoral Sea Cable Companyの共同所有者である。オーストラリア政府はまた、パラオを繋ぐ海底ケーブルへの投資について2020年に日米と提携している。太平洋における新しいケーブルへの投資と支援のため、インド、英国、EUとともにこれら提携国とさらなることが実施可能である。
(6) 物理的攻撃やサイバー攻撃から海底ケーブルを守る国際的協定は存在しない。しかし、国のレベルでは、オーストラリアの海底ケーブル防護体制は地域的に最良の基準と考えられている。オーストラリアの電気通信法1997年(Telecommunications Act 1997)は海底ケーブルの敷設経路沿いに「防護圏(protection zone)」**を宣言しており、ケーブルに対する干渉を違法とし、新たなケーブルの敷設は許可を必要とすると規定している。各国の地理的条件は異なるとはいえ、太平洋島嶼国が類似した規則の適用を促進することは、脆弱なケーブルを事故による損傷や遮断から守るより良い方策となるであろう。オーストラリアは、海中通信網に対する脅威に関する情報共有を促進し、地域の限られたケーブル修理能力を強化するため太平洋の提携国と働くことができる。
(7) オーストラリア政府は、太平洋横断ケーブルにオーストラリアを連接するというノーザンテリトリー準州政府の関与を後押ししなければならない。2021年の米豪外務防衛閣僚協議の共同声明は、「米豪両国は太平洋横断ケーブルにオーストラリアを連接するというノーザンテリトリー準州政府の関与は米豪間のデジタル上の連接を強化し、インド太平洋の重要な基幹施設を支援するものとして歓迎する」と述べている。ダーウィンへの支線は南シナ海を経由しておらず、米国とシンガポールを結ぶ国家安全保障の要求に適合した唯一の海底ケーブル線で、米国とアジアにとって安全で、遅延の発生が少ない高速データリンクであり、国家安全保障にとって、また人口6億8,000万の急速に発展する東南アジア市場へのデジタルアクセスにとっても死活的に重要な目的達成を可能にする手段である。
(8) 海底通信ケーブルは急速に増加してきているが、南極は唯一、光ファイバーケーブルが接続されていない大陸である。しかし、Australian Bureau of Meteorology(オーストラリア気象局)では南極のモーソン基地、デービス基地、ケイシー基地、さらにタスマニアのマッコーリー島を接続する海底データケーブル設置の大胆な構想が話し合われている。この接続は氷山の形状によって問題が生じるが、もし、計画が前進できれば、この接続は前例のない早さの通信を提供でき、地理的に係争中のオーストラリアの南側面における同国の立ち位置を強化するだろう。
(9) 近未来では、防護が必要なのは海底通信ケーブルや基幹施設だけではない。我々は、クリーン・エネルギーを推進しており、太陽光発電施設や洋上風力発電施設への海底横断電力ケーブルの接続が増加し、重要な環境及びエネルギー安全保障に利益をもたらすだろう。より良い基幹施設を提供するためにオーストラリア政府、業界、社会に対し投資と改革について助言するInfrastructure Australiaは最近、オーストラリア・アジアパワーリンク構想の経済的利益を支持している。この構想は、オーストラリアのノーザンテリトリーでの太陽光発電による電力をダーウィンから4,200kmの海底ケーブルを経由してシンガポールの電力供給の約15%を輸出しようとするものである。インドネシア政府は既にケーブルの敷設経路を承認しており、シンガポールまでの海底経路を計画するためにインドネシアの海域における海底調査を許可している。
記事参照:Australia must do more to secure the cables that connect the Indo-Pacific
*:Bashfield, S, Bergin, A , Options for safeguarding undersea critical infrastructure: Australia and Indo-Pacific submarine cables, ANU National Security College, June 2022
https://nsc.crawford.anu.edu.au/publication/20363/options-safeguarding-undersea-critical-infrastructure-australia-and-indo-pacific
**:たとえば‘Zone to protect Perth submarine cables’ではパース市の海岸から沖へ60海里、水深2,000m線まで、ケーブルの両側1海里が防護圏と規定されている。

8月2日「中国は台湾との戦争に訴えるかもしれない―米安全保障専門家論説」(19FortyFive, August 2, 2022)

 8月2日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、米シンクタンクCato Institute上席研究員Ted Galen Carpenterの“Yes, China Would Go To War Over Taiwan”と題する論説を掲載し、そこでCarpenterは米下院議長Nancy Pelosiの訪台に関連して、米国は中国による警告を真剣に受け止めるべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国政府からの批判や警告を押しのけ、米下院議長Nancy Pelosiは東アジア諸国歴訪の途上に台湾を訪問する計画を立てた。実現すれば、ここ25年で台湾を訪れた政府関係者の中で最も高位の人物とういことになる。その計画が発表されて以降、中国側の警告はますます厳しいものになっている。中国政府は、それが米中関係に深刻な影響を与えるだろうと述べている。実際のところどうなるかはわからないが、米中関係を悪化させるのは間違いない。しかし、Pelosiの訪台は米中関係悪化の要因の1つにすぎないのも事実である。
(2) 米国は、ウクライナ問題に関するロシアへの対処と同じ過ちを、台湾に関して繰り返している。ロシアにとってのウクライナと同様、中国にとっての台湾は決定的な利害である。Putin政権は10年以上、ウクライナがNATOに加盟することや、NATOの軍事力が配備される可能性に対して警告を発してきた。そしてロシアは米国やNATOからの明確な保証を求めたのである。しかし、米国はロシアの警告を無視し続けてきた。それは悲劇的な結果につながった。
(3) そして米国は台湾に関して同じ過ちを繰り返している。米国は、台湾に関する中国の警告をもっと真剣に受け止めるべきである。2016年の総選挙で、民進党の蔡英文総統が当選したことは、中国を動揺させた。中国はこれまで国民党政権とともに、経済関係を強めることで将来的な再統一を模索していた。しかし蔡英文の当選はそうしたやり方が失敗したことを意味し、2020年の選挙で蔡英文が再選され、議会でも民進党が圧倒的勝利を収めたことでそれがはっきりした。
(4) 蔡政権は、より高い国際的地位を得るため事実上の独立に向けて進んでいる。そして米国の親台湾派はそうした動きに対する支援を強めている。2018年には台湾旅行法が米国で制定され、米台政府高官同士の会合が可能になった。米台間の軍事的協力もどんどん強化されている。Trump政権のもとで対台湾支援はますます強まり、台湾への兵器売却は中国を激怒させた。台湾海峡を通過する米軍艦の数が増えるほど、中国の苛立ちは募っていった。
(5) 米国の行動の拡大に対する中国の抗議も激しくなっていった。2021年11月、中国国防部は、台湾指導者による独立の試みやそれに対する外部勢力の支援は戦争を意味すると、率直に警告している。それに対する米国政府の反応はそっけないものであった。
(6) 米国は台湾に関して火遊びをしてはならないと、習近平は警告した。中国の対決的な姿勢の強まりは、ロシアの態度が硬化したことを思い起こさせる。中国は米国との戦争は望んではいないだろう。しかし、ロシアがウクライナにおける決定的利害に対する脅威を跳ね返すために戦ったように、中国も台湾について最後の手段として同じ方針を選択するかもしれない。Biden政権は対ロ政策で完全な過ちを犯した。いま米国にその過ちを繰り返す余裕はない。
記事参照:Yes, China Would Go To War Over Taiwan

8月3日「米海軍の2022 Navigation Planは大国間競争に対抗できる能力を導く-米専門家論説」(Brookings, August 3, 2022)

 8月3日付の米シンクタンクThe Brookings Instituteのウエブサイトは、同シンクタンク上席研究員Bruce Jonesの” Navigating great power competition – A serious planning start”と題する論説を掲載し、ここでJonesは海軍の「2022 Navigation Plan」は、ここ数年のどの部局の計画文書よりも優れており、予算が承認されれば、米国は他の競合国に対抗できる能力を持津ことができるようになるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国経済は、消費財、商業製品、エネルギーなど、海を利用する世界的な物流に大きく依存している。この事実は、スエズ運河やロングビーチ港におけるサプライチェーンの中断と、そのインフレ効果によって明らかになった。金融やソフトウェアなど、モノではなくデータの流れに依存する産業もあるが、世界のデータの90%以上は海底に張り巡らされた海底ケーブルを通じて流れている。海洋貿易が阻害されたり、減速したりすれば、我々の繁栄に悪影響を及ぼす。このような貿易の流れを確保することは、長い間、米海軍の主要な任務だった。冷戦終結後、米国はこの任務をほぼ単独で遂行し、真に世界的な海軍を持つ唯一の国家となった。この重要な機能は、グローバリゼーションの動きに対する米国の影響力を高め、文字どおり外交的にも米国の利益につながっている。 
(2) 中国人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)は、インド洋やマラッカ海峡の海賊から貿易を守るための米国の準提携国であり、地域の領有権の主張者であったが、今では地域の強国としての主張を強め、能力を高めている。PLANは中国軍事化の最先端にあり、米海軍の評価によれば、中国の軍事的近代化の中核的機能は、「西太平洋及びそれ以遠の米軍の利用を拒否することによって、安全保障環境を自国に有利なように作り直すこと」である。もし成功すれば、米国の商業・外交力は著しく低下し、戦略的な意味での行動の自由も同様に失われることになる。  
(3) 米海軍作戦部長(以下、CNOと言う)が示した「Navigation Plan 2022」は、米国の海洋支配を維持するための野心的な青写真にほかならない。米国の他の軍種、特に海兵隊は強力な競争相手に対する抑止力と戦争遂行に必要な変革のいくつかをすでに打ち出している。空軍と陸軍は、現在の脅威環境における自らの役割について、信頼に足る将来像を示すことができない。今後、重要とされる任務の多くが海軍独自の機能であるため、Navigation Plan 2022は極めて重要である。それは、中国及びロシアを抑止するために、どこの海域でも戦える能力と即応性を備えること、そして世界的な海上支配を実現すること、つまり貿易のための海上輸送路を確保し、米軍に柔軟性を持たせることを示している。そのためには、信頼性のある戦闘力の高い米海軍が前方展開して、国力のすべての要素と統合することが必要で、これにより、紛争が発生した場合、海軍は戦場に一貫して配置されることになる。
(4) 戦闘に耐えうる前方展開には、大規模な艦隊が必要となる。米国は、西太平洋におけるPLANの主張、バルト海や北極海に隣接する海域における潜在的なロシアによる侵略、そしてグローバル化の確保という継続的な課題に直面している。これらすべてに取り組むには、現在よりも大規模な海軍が必要である。Navigation Plan 2022では、そのような艦隊設計の必要性が述べられており、長距離精密射撃の射程延伸、欺瞞の強化、防御の強化、分散の拡大、確実な補給、意思決定の優位性の向上という6つの要素が挙げられている。そして、経費面を考慮し、有人、無人の艦船を組み合わせた混合艦隊の中で、これを実現するのが最善であると論じている。この文書では、目標を達成するための具体的な戦力設計が示されており、説得力がある。 
(5) CNOの推定では、この艦隊構造は今後数年間、インフレ率3〜5%上回る支出を必要とする。他の推計によれば、それ以上が必要で、米国では20 年にわたる地上戦の結果、海軍は規模と装備が不足しており、米国は支出の優先順位を海軍に移行しなければ、それを是正することができない。もちろん、海軍の任務を西太平洋での抑止力だけに絞れば、経費削減はできる。しかし、それでは欧州における米国と同盟国の利益が危険にさらされ、世界貿易の保護に大きな欠落を残すことになる。米国は最近、海上の物資やエネルギーの流れがわずかでも中断されると大きな代償を払うという経験をしている。米国が中国を抑止し、世界経済の流れを維持したいのであれば、より大きな海軍が必要である。そして、戦略から計画への移行を示す箇所で、能力の再構築に10年と言及しつつ、戦力の設計と構築に関しては、2045年の艦隊像を想定している。 
(6) 議会指導者は、建艦計画拡大のための予算増加を承認する立場にある。Navigation Plan 2022では、海軍の規模を拡大するための造船、保守整備、兵站の重要性が指摘されているが、おそらくその重要性に値する程十分なものではない。現在、米国議会が莫大な予算を投入しても、米国が必要とする海軍を造ることはできない。もちろん、規模と計画線表の問題の一部は、米国の同盟国や提携国がどのような能力を発揮できるかに左右される。Navigation Plan 2022は、定められた任務を成功させるためには、彼らの能力が不可欠であることを述べている。しかし、これらの国々が適切な投資を行うためのきっかけをどのように与えるかについては、触れていない。ヨーロッパの最も近い同盟国は、陸上戦争とその危機に伴う大きな経済・エネルギー経費に取り組んでおり、アジアの同盟国は海軍の規模という点で大きく遅れをとっている。しかし、少なくともNavigation Plan 2022の公開版では、同盟国の能力を中心に計画を立てることに言及するだけで、変化を促すようなことはしていない。これでは、あるべき姿に到達することはできない。
(7) いくつかの批判はさておき、Navigation Plan 2022は間違いなく、ここ数年のどの部局の計画文書よりも優れている。他の部局も見習うべきだし、U.S. Department of State やU.S. Departmen of Treasuryなど「統合抑止力」に不可欠な機関も見習うべきだろう。もしそうすれば、そしてU.S. Department of Defenseが予算を組み、議会がこれを承認すれば、米国は他の競合国に対抗できる能力を持てるようになる。
記事参照:Navigating great power competition – A serious planning start

8月3日「米比同盟、より強化できる―米比専門家論説」(War on the Rocks, August 3, 2022)

 8月3日付の米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockは、米The University of Cincinnati准教授、Gregory Wingerと、フィリピンシンクタンクThe Foundation for the National Interest会長Julio S. Amador IIIの “AIM HIGHER: THE U.S.-PHILIPPINE ALLIANCE CAN DO MORE”と題する論説を寄稿し、フィリピンMarcos 新政権の下で米比同盟をより高みに引き上げることができるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1951年に締結された米比同盟の70年余の長きにわたる歴史の中で、フィリピンのDuterte前大統領の在任期間は、1992年の在比米軍基地閉鎖以来、最も困難な時期であった。Marcos Jr. 新政権下で、米比同盟を21世紀の目的に適合させるためには、やるべき課題がたくさんある。現在の同盟の形では、非伝統的な安全保障任務には対応できても、中国のような戦略的脅威に対応したり、統合された防衛態勢を実現したりするために必要な政治的合意と制度的能力を構築することはできない。
(2) 米比両国は、次第に中国を主要な軍事的脅威として認識するようになってきた。中国に対する米政府自身の姿勢が硬化するにつれて、フィリピンは、米国の防衛計画の中核的な結節点として重要性を高めてきた。フィリピン列島は東アジアと東南アジアの地理的要の位置にあり、米中武力紛争が生起した場合には、フィリピンは米軍にとって不可欠な中継地域となる。もし中国が台湾に侵攻すれば、フィリピンはロシア・ウクライナ戦争におけるポーランドに似た役割を果たす可能性が高く、ルソン島や(バシー海峡に隣接する)バタン諸島などの北部の島々は、米国の同盟国と主戦域との間で不可欠の拠点として機能するであろう。しかしながら、同盟の能力はこの新たな地政学的環境に追いついていない。中国は、「武力攻撃」に至らない段階で発生する海上民兵やサイバー作戦などのグレーゾーン戦術を駆使して、米比相互防衛条約を積極的に迂回し、同盟の対応能力を損なう方法によって、この地域の安全保障環境を再構築することができた。
(3) 米比同盟は、こうしたグレーゾーン戦術に対抗するための新しい同盟の枠組みを目指すことより、政策と制度上の欠陥を巡る論議に集中し過ぎた。相互安全保障協定が実効性を持つためには、フィリピン政府における外交政策論議は、地政学的環境と自国の国家目標をともに良く反映するものでなければならない。即ち、フィリピンが米国との同盟を受け入れることは服従への道ではなく、それはむしろ、自由で開かれたインド太平洋と法に基づく国際秩序を共に促進するというフィリピン自身の国益追求の宣言であるということである。さらに、相互防衛条約によってマニラが得られる恩恵には、自己都合によって無視することができない責任が伴っていることも正確に認識する必要がある。フィリピン政府また、米政府が米国の防衛よりもフィリピンの防衛を真剣に受け止めることは期待できない。したがって、フィリピン政府は域内の平均な段階に達するように軍事費を増額するとともに、新たな装備を追加するだけでは制度上の欠陥を解決できないことを認識する必要がある。このような構造的欠陥を是正するには、軍隊の人員、部隊構成及び管理制度について、単なる勧告だけではなく、改革を実行する権限を付与された専任の改革委員会による協調的な努力が必要である。現在のところ、フィリピンはインド太平洋の安全保障に対しては限られた貢献しかできない。しかし、フィリピン政府は防衛機構を近代化することによって、相互防衛協定を真に相互的なものにするとともに、分野を超越した統合抑止力を通じて地域の安全保障を促進することができよう。
(4) 同盟強化努力の重荷はフィリピン政府だけにかかっているわけではない。Biden政権の最近の戦略文書は、ワシントンにとってのインド太平洋同盟態勢の重要性を強調しているが、フィリピンを疎外したり、無視したりしている。こうした姿勢は、米政府が米比同盟を重要でないと見ているからか、それとも米比同盟自体が役に立たなくなったからか。我々(本稿の筆者Gregory Winger & Julio S. Amador IIIを指す:訳者注)は、それが後者であり、軍事能力と能力構築に関する論議ではなく、提携を再活性化するために米政府が採るべき重要な措置が残っていると考えている。2012年に南シナ海のスカボロー礁を巡ってフィリピンが中国と対峙した際の米国の不干渉方針は、フィリピンの対米信頼を著しく損なった。こうした信頼の危機を是正することは、米国の政策立案者にとって不可欠な課題であり、同時に米政府がベトナムのような非同盟国を自国の歴史的提携国よりも優先しているという、フィリピン政府の不満を解消するための重要な措置でもある。このためには、政策宣言だけでなく、行動が必要である。たとえば、米国は、南シナ海における領有権問題についてはいずれの側にも与しない方針だが、南シナ海でフィリピンの船舶に対する中国による妨害行為が続いていることから、米比同盟の相互支援の誓約に従って、セカンド・トーマス礁に座礁させた「シエラ・マルデ」に対するフィリピンの補給作戦の支援を検討すべきである。
(5) 今日まで、Marcos Jr. 大統領は中国との生産的な提携の重要性を喧伝すると同時に、「(フィリピンの)領土を1平方インチも放棄しない」と誓ってきた。しかし、こうした釣り合いを取ろうとする行動には、代償がないわけではない。Marcos Jr. 大統領の軸足のブレは、Duterte前大統領を挫折させ、不可欠の改革を遅らせることに成功してきた中国政府と(前政権と)同じように和解不能に陥り、同時にフィリピン政府は維持するに値しない信頼できない同盟国だと考えている米政府の人々を勢いづけるだけになる可能性が高いであろう。米比両国政府は、Duterte 前政権時代と同じ地点に後退させるのではなく、提携は常に快い関係とは限らないが、相互に有益であり、そして実効的なものにするには大幅な改革が必要であることを受け入れるべきである。最終的には、米比両国の指導者が直面している課題は、米比同盟が生き残れるかどうかを判断することではなく、今後数十年間にわたってそれが重要かどうかを判断することである。
記事参照:AIM HIGHER: THE U.S.-PHILIPPINE ALLIANCE CAN DO MORE

8月5日「挑発しているのはどちらか:南シナ海における米中関係―中国南海研究院研究員論説」(South China Morning Post, August 5, 2022)

 8月5日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、中国南海研究院の非常勤上席研究員Mark J. Valenciaの“US warns of South China Sea ‘provocations’ – but who is provoking whom?”と題する論説を掲載し、そこでValenciaは現在の南シナ海などにおける米中間の緊張の高まりの責任の大部分は米国の側にあるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国政府高官は、南シナ海における中国の挑発的行動が増加していると主張し、そうした無責任な行動が大規模な事件に帰結するのは時間の問題にすぎないと警告している。南シナ海での事件の頻度と強度が高まっているのは事実であり、事態拡大の可能性は米下院議長Nancy Pelosiの訪台計画の発表後にさらに高まった。しかし、冷静になって考えてみたい。果たして、誰が誰を挑発しているのか。
(2) U.S. Department of Stateのbureau of East Asia and Pacific affairs(東アジア・太平洋局)に所属するJung Pakやインド太平洋安全保障担当国防次官補Ely Ratnerら米政府高官は立て続けに南シナ海における中国の挑発が強まっていると主張する。統合参謀本部議長Mark Milleyも同様の主張をする。しかし、その状況の責任は米国にもある。事実を確認していく。
(3) 南シナ海は、米国にとって地球の裏側に位置し、中国にとっては裏庭のようなものである。歴史的に見て、南シナ海は西側の植民地宗主国が、地域を植民地化するために通航してきた。中国の防衛戦略の根本は、潜在的な敵国をできるだけ海岸から遠ざけることにある。そのために、米国が「接近阻止・領域拒否」と呼ぶ戦略を展開してきた。それに対する米国の対応は、中国の指揮統制通信コンピューター情報監視偵察(command, control, communications, computer and intelligence, surveillance and reconnaissance systems:C4ISR)を麻痺させることである。米中双方ともに、中国近海を支配したいと考えている。そのとき、中国は困難に直面している。米国は中国と異なり、東南アジアの情報監視偵察(intelligence, surveillance and reconnaissance systems:以下、ISRと言う)のための軍事的「足場」を確保している。
(4) 中国の戦略にとって最も重要なのは、南シナ海が、海南島の楡林に配備された報復攻撃を任務とする原子力潜水艦の「聖域」であるということである。この潜水艦は第1撃に対する保険である。米国は第1撃の可能性を否定していない。逆に米国は中国がここを聖域とするのを認めたくない。米国は、中国の潜水艦を探知、追尾し、その戦闘能力を把握し、必要であれば照準するためにISRシステムを使用している。
(5) 中国からすれば、南シナ海で攻撃的になっているのは米国のほうである。2011年の「アジアへの回帰」に続き、自由の航行作戦を展開し、ISR活動を続け、空母打撃群などの軍事力を展開している。そして、そうした作戦を実施するときの米国の態度は、「誰がボスなのかを知らしめる」ためだと、ある米海軍将校は述べている。Trump政権はそうした行動の頻度をあげた。Biden政権も基本的にはその路線を踏襲している。
(6) 事件が起きるのは、中国が米国によるISR活動に抵抗する時である。中国にとって米国の情報収集活動は脅威に映っている。その回数は1年に1,500回を超え、中国沿岸から25海里まで近づくこともある。また、「ロナルド・レーガン」率いる空母打撃群が南シナ海を通航したばかりである。もし米国近海で中国が同じようなことをしたら米国はそれをどう捉えるだろうか。
(7) 米国は南シナ海において、古典的な「安全保障のジレンマ」に陥っている。米国はプロパガンダを繰り返すのをやめ、現在の状況が誰のせいなのかを認識する必要がある。南シナ海に関して、中国と妥協することこそが、そのジレンマから抜け出す唯一平和的な方法である。
記事参照:US warns of South China Sea ‘provocations’ – but who is provoking whom?

8月6日「台湾独立は戦争の価値があるのか―米メディア編集者論説」(The American Conservative, August 6, 2022)

 8月6日付の米月刊誌The American Conservativeのウエブサイトは、同誌編集者Patrick J. Buchananの“Is Taiwan's Independence Worth War?”と題する論説を掲載し、そこでBuchananは台湾の自由と独立は米国の安全を危険に晒すに足る価値があるのかと疑問を投げかけ、要旨以下のように述べている。
(1) 米下院議長Nancy Pelosiの台湾訪問をめぐり、米中対立が悪化している。米国は、台湾海峡と南シナ海で中国と戦って一体何を守るのか、よく考えるべきである。中国は核保有国であり、経済力は米国と同等、人口はアメリカの4倍、海軍艦艇の数は米海軍よりも多いのである。したがって、太平洋西部や東アジアでの戦争は米国の楽勝などではない。中国はもしかしたら空母「ロナルド・レーガン」を撃沈できるかもしれないが、そうなればその犠牲者はパールハーバーや9.11同時多発テロと同じくらいになる。そうしたリスクを正当化する理由はあるだろうか。
(2) Nixonが訪中し、Carter政権期に米華相互防衛条約が失効してから、米国に台湾を防衛する義務はない。わが国の方針は「戦略的曖昧性」というもので、台湾防衛のために戦争することを約束はしないが、その選択肢を排除することもない。もし米国が台湾防衛のために戦争をするとしたら、それが意味するところは何か。台湾が香港のようにならないようにするために、わが国が自らの安全と生存を危険にさらすということである。香港が中国の統制下に置かれたとき、米国は何の介入もしなかったが、それならばなぜ台湾にそうする必要があるのだろうか。
(3) 次のような反論がなされる。米国が抵抗することなく台湾が中国の手に落ちることを許せば、日本や韓国などアジア・太平洋の国々の主権、独立、領土保全のために戦うというわが国の条約の信頼性が疑わしくなる。1975年に南ベトナムを失ったときと同じくらい、米国の信頼性に傷がつくはずだ。その後、世界各地で共産主義は勢力を伸ばしたではないか。
(4) Pelosiの訪台と中国の攻撃的な反応は、また別の疑問を提起する。もしこれによって戦争が起きるなら、わが国は何のために戦うのか、そして勝利によって何が得られるのか。また、台湾の独立が達成されるとして、米国は今後台湾の独立を恒久的に守るための条約を結ぶことになるのか、それを米国民は受け入れるだろうか。繰り返しになるが、香港のときは何もしなかったというのに、なぜ台湾の独立と自由のために米国の平和と安全を危険に晒さねばならないのか。そして、台湾の独立を永久に守ることなどできるのだろうか。
(5) 中国は21世紀において軍事的にも経済的にも急成長した。米国の4倍の人口を抱える中国の成長傾向は米国にとって望ましいものではない。今後、力の均衡が中国にとって不利に変化していく保証はない。冷戦時代と異なり、時間は必ずしも米国とその同盟国に味方をしてくれるわけではない。
記事参照:Is Taiwan's Independence Worth War?

8月9日「ロシア海軍の造船計画が新しい海軍ドクトリンの下で修正された―フランスメディア報道」(Naval News, August 9,2022)

 8月9日付のフランス海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、ロシア国営通信社TASS配信の “Russian Shipbuilding Program To Be Modified Under New Naval Doctrine”と題する記事を掲載し、ウクライナでの特別軍事作戦で見られるようにロシアの水上艦艇はますますハイテク兵器を持つ敵の標的になりつつあり、潜水艦によって艦隊を防護する必要が増しているため、性能が陳腐化しているキロ型潜水艦の建造継続ではなく、雑音レベルが低く新しいソナーシステムを持つラーダ型潜水艦の建造を進めるべきであるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 現在のロシア海軍の建艦計画は、2014年春に承認されたと軍事専門Vladimir Karnozovは記憶している。Karnozovによると、過去8年間にロシアと西側諸国の関係の急激な冷え込み、ロシアに課された多くの制裁、NATOのさらなる拡大、東南アジアでのAUKUS陣営の設立、そして最後に2022年2月のウクライナでの特別軍事作戦の開始など、世界には劇的な変化があった。ロシア海軍の建艦計画は機密扱いであるため、Karnozovが『独立軍事レビュー』で書いているように、計画が受ける一般的な修正についてのみ話すことが可能である。彼が言うように、ロシアと欧米の関係の冷え込みがロシア海軍に目に見える形で現れた結果は、欧州企業が以前に締結された契約のディーゼルエンジンと船舶搭載機器を供給することを拒否したことである。
(2) Karnozovは「代替品の輸入が国内造船業界の長期計画を調整する唯一の理由ではない」と書いている。彼は外国の報道機関に言及して、ウクライナでの特別軍事作戦ではBlack Sea Fleetの潜水艦部隊がロシア海軍の最も効果的な要素であり、潜水艦部隊はウクライナ軍の軍事施設に対するカリブル巡航ミサイルの発射に関係していると述べている。彼はロシアの水上艦艇は,ますますハイテク兵器を持つ敵の標的になりつつあり、水上艦艇の動静は敵の偵察機やNATO諸国の衛星によって容易に追跡できるようになっていると書いている。ロシアの艦船はネプチューン、ハープーン、ブリムストーンなどのウクライナ軍で使用する対艦ミサイルに対して非常に脆弱である。彼は潜水艦の高い隠密性を海岸線から近い距離にある敵の沿岸目標の偵察と監視に使用することを提案している。
(3) Vladimir Putin大統領がサンクトペテルブルクの海軍記念日のパレードで述べたように、ロシアの国益は、経済的にも戦略的にも北極海、黒海、オホーツク海、ベーリング海、バルト海、千島海峡に及んでいる。Putin大統領によると、これらの海域の安全は海軍によって確保される。同時に、スウェーデンとフィンランドの将来のNATOへの加盟によって、何人かの西側政治家が述べているように、バルト海がNATOの湖に変わるかもしれない。Karnozovは「NATO海軍の著しい数的優位性を考えると、Baltic Fleetに高度なミサイル搭載潜水艦を装備することは最も論理的に思われる」と述べている。彼によると、艦隊を防護する潜水艦を選択するための作業が現在進行中である。Admiralty Wharves Shipyardには別の艦級を発注することで、Projecr636.6潜水艦(改良型キロ級潜水艦を指す。:訳者注)の建造を継続する提案がなされた。Karnozovは「しかし、これらの潜水艦には明らかな欠点がある」と指摘する。彼の意見では、その欠点は1970年代に開発された基本的なProject877(キロ級潜水艦原型のロシアにおける呼称:訳者注)の陳腐化に関連している。彼は「改良されたProject636に導入された多くの改善、性能向上では、自動化と雑音低減の点で外国の最新潜水艦の技術に追いつかない」と信じている。彼はProject636.3潜水艦の生産を中止し、第4世代のProject677ラーダ級潜水艦を生産することを提案している。彼は「ミサイルと魚雷計18発という同じ兵装でもラーダ級潜水艦ははるかに静かで、そのリラ・ソナーシステムは時代遅れのルビコンソナーよりもはるかに洗練されている」と述べている。彼は「雑音レベルの低さや新しいソナーシステムによってラーダ級潜水艦の乗組員は、対潜戦を行っている敵の艦艇や航空機が展開する海域において隠密裡に行動することができる。ラーダ級潜水艦は比較的小型であるため、浅海域や交通量の多いバルト海での運用にも適している」と言う。
(4) Karnozovは、ロシアは効率的な潜水艦部隊を構築するための「適切な設計能力と生産能力」は持っていると言う。彼は「ロシア造船業界の旗艦であるセヴェロドヴィンスクのSevmash Shipyardはフル稼働で作業している」と指摘する。Sevmash Shipyardは、大陸間弾道ミサイルを搭載するProject955AボーレイA級原子力潜水艦、多目的Project885MヤーセンM級型攻撃型原子力潜水艦、深海ステーション、潜水艇やロボットシステムを運搬する兵器を含む特殊用途の潜水艦を建造している。ロシアは、Project636.3潜水艦とProject677潜水艦に転換し続けている。これらの潜水艦はサンクトペテルブルクのAdmiralty Wharves Shipyardにおいて建造されている。
(5) Project677ラーダ級通常型潜水艦は、ソビエト時代のProject877潜水艦の派生型である。この潜水艦は、1990年代にRubin Central Design Bureau for Marine Engineeringによって開発された。ラーダ級潜水艦は敵の水上艦船を撃破し、哨戒と偵察を行い、シーレーンを防衛し、機雷を敷設するように設計されている。先に建造された潜水艦と比較して、ラーダ級潜水艦は雑音低減が進んでおり、高度に自動化され、水上排水量がキロ級潜水艦の2,350トンから1,765トンに減少し、水中速力を向上している。これらがラーダ型の特長となっている。Project636.3潜水艦は、敵水上艦船、潜水艦の撃破、哨戒と偵察、ロシア周辺海域のシーレーン保護を目的に設計されている。Project636.3潜水艦は、カリブルPL巡航ミサイルの発射母体である。2015年、2017年にシリアでの対テロ作戦において、Project636.3潜水艦がテロリストの標的に対しカリブルミサイルを発射した。これらのミサイル発射はロシア潜水艦部隊の歴史の中で実目標に対する最初の攻撃であった。
記事参照:Russian Shipbuilding Program To Be Modified Under New Naval Doctrine

8月9日「米国の自由連合協定は台湾有事を抑止する鍵である-米専門家論説」(The Diplomat, August 9, 2022)

 8月9日付のデジタル誌The Diplomatは、太平洋の第1列島線と第2列島線のさまざまな場所での作戦経験を持つ米陸軍士官Angela Smithの” US Compacts of Free Association Are Key to Deterring a Taiwan Contingency“と題する論説を掲載し、ここでSmithは太平洋地域における米国の戦略的優位性を継続させる基礎であるCOFAを越えて、太平洋島嶼諸国に対する継続的な関与、投資、理解は一時的ではなく、永続的な優先事項であるべきで、太平洋の平和はそれにかかっているとして、論旨以下のように述べている。
(1) Nancy Pelosi米下院議長の台湾訪問は、太平洋地域における係争が激化する危険性が現実であることを思い起こさせた。Biden米大統領の台湾防衛の約束を裏付けるために米国は、台湾で起こりうる有事に対して抑止力と対応力の両方を保持する必要がある。この能力は、太平洋地域における米国の最も重要な安全保障上の取り決めである3つの自由連合協定(以下COFAという)と結びついている。
(2) COFAは、米国とミクロネシア地域のマーシャル諸島共和国、ミクロネシア連邦、パラオ共和国3ヵ国との間の2国間協定である。その中の軍事条項は、これらの国々の領地と領海に防衛資産を維持する独占的な権利を米国に与えるものである。その代わり、これらの国は米国政府から、安全保障を含むさまざまな資金やサービスを受けている。COFAは定期的に更新され、マーシャル諸島共和国とミクロネシア連邦は2023年、パラオは2024年が更新の時期となる。中国がソロモン諸島と安全保障協定を結び、地域全体の安全保障協定を提案した後、米国はマーシャル諸島共和国とミクロネシア連邦に特使を派遣し、更新のための交渉を開始した。Pelosi米下院議長の台湾訪問をきっかけに、交渉過程の一環である「パラオ諮問経済フォーラムのメンバーの確認と選出」についての発表があった。こうした努力の成否が、世界で最もホットな潜在的紛争地域の1つであるパラオにおける米国の抑止力を形成することになる。
(3) 最近の報告書では、台湾有事への対応や抑止において、グアムの役割が改めて強調されている。
a.事態が発生した場合、グアムは第2列島線において、中国の軍事兵器の大部分の射程外でありながら、重要軍事資産を受け入れる物流ハブとしての役割を果たす。さらに、米国領土であることから、米軍受け入れ国の基地に関する複雑な問題の影響を受けにくい。これらの要因から、グアムは第1列島線内の他の脆弱な米軍基地と比較して信頼性が高い。
b.グアムの最も効果的な潜在的抑止力は、(ミサイル攻撃などの)破壊的事象が、紛争時のグアムの長期的な作戦能力にほとんど影響を及ぼさないと中国共産党が認識しているかどうかにかかっている。この理論を実現するためには、米国とグアム近隣のミクロネシア諸国との関係が重要となる。
(4) COFA締結の3ヵ国における米国の防衛権の独占は、グアムの米国資産を脅かす可能性のあるこれらの国々への中国による影響を否定する役割を果たす。ミクロネシア連邦とグアム島の間の約500海里は、中国人民解放軍の戦略爆撃機やミサイルシステムの射程内である。防衛よりも、COFA提携の3ヵ国へ米国資産を分散させることが、グアムの回復力と抑止力を強化する。マーシャル諸島共和国のクェゼリン環礁にミサイルと宇宙に関わる重要な米国資産があり、パラオにはレーダーシステム、加えて軍事基幹施設を構築する計画がある。しかし、情報、サイバー、情報操作といった中国からの物理的破壊を伴わない脅威や中国共産党の指示を受ける国営企業を装った経済取引によって行使される影響力をCOFAの軍事条項が防いでくれるとは限りらない。ここで、COFAの他の条項が重要な価値を持つことになる。
(5) 1980年代の協定制定以来、米国の対COFA提携3ヵ国への援助は総額77億ドルに上る。援助に加えて、ミクロネシア人はビザなしで米国に移住・旅行でき、米軍に入隊でき、米国市民が提供するさまざまな社会プログラムを受けることができ、さらに米国の郵便制度も利用できる。過去にはこのような条件で十分だったが、再交渉は新たな経済的、政治的背景の中で行われている。COFAの期限直前には各国で選挙があり、交渉と選挙が互いに影響し合うことになる。Covid-19の世界経済への影響、ロシアのウクライナ侵攻による石油価格の上昇、気候変動の影響は、いずれもミクロネシアの経済と社会に負の影響を及ぼしている。たとえば、パラオでは観光経済が2020年3月期には38%減少すると予測され、ガス価格は最低賃金3.50ドルのほぼ2倍となっている。
(6) 第1列島線と南太平洋における中国の戦術を検証することは、米国がCOFA再交渉において経済的脆弱性に対処できなかった場合に何が起こり得るかを予見させるものである。その例としては、南シナ海における中国の海上民兵の役割拡大、ソロモン諸島との2国間安全保障協定などがある。2017年、中国政府はパラオが台湾と外交関係を結んだことに対する罰として、パラオを承認された渡航先から外すことでパラオ全体の観光客数を16%減少させた。もしパラオとマーシャル諸島共和国が、中国の一帯一路構想への加盟や中国人観光客の再入国によって得られる経済的利益を引き出すために、台湾との国交を翻すよう説得されたらどうなるだろうか。
(7) ミクロネシア連邦は2018年にすでにその転換を行い、中国の一帯一路構想への加盟、およびそれに伴う有利な基幹施設投資を獲得している。ミクロネシア連邦の4つの州の1つチュークでの独立運動と重なった2019年の選挙前夜、中国政府はチュークに1,000万ドルの州政府複合施設の建設を認めた。独立運動が成功すれば、中国はチュークをCOFAから外して2国間軍事取引を行うことができる。さらに、中国漁船による違法、無規制、無報告の漁業は、健全な海洋に依存しているミクロネシアの国々の領海の魚類資源を苦しめている。これらはほんの一例に過ぎない。COFA諸国は、3ヵ国の人口の合計が20万人以下と少なく、軍事力を外部に依存しており、インターネットやソーシャルメディアが急速に普及していることから、力の均衡が予想外に変化する可能性がある。パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国の現在の指導者は、中国からの悪質な影響力で不安定になることを理解しているが、COFAの豊富な条件により、将来の指導者は経済と安全保障の両面から柔軟に意思決定を検討することができるようになるだろう。
(8) 再交渉の日程調整は厳しいが、この過程を急ぐことはできない。政策立案者はパラオ、マーシャル、ミクロネシアの人々独特の要望を考慮する必要がある。それは、核実験に対する補償、米国に住むミクロネシア人移民・難民への支援、米軍に勤務するミクロネシア人に対する退役軍人援護などは、従来からの課題である。米国議会は、これらすべての所要に応えるために、喜んで懐を開く必要がある。この投資は、米国の国家安全保障にとって有益な見返りをもたらすものである。しかし、COFAはすべての問題を解決するものではなく、また、唯一の支援源でもない。COFAの再交渉をしっかりと行うことは、この地域におけるアメリカの戦略的優位性を継続させる基礎となる。COFAを越えて、太平洋島嶼諸国に対する継続的な関与、投資、理解は、一時的ではなく、永続的な優先事項であるべきで、太平洋の平和は、それにかかっている。
記事参照:US Compacts of Free Association Are Key to Deterring a Taiwan Contingency

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1)How Far Could the Quad Support Taiwan?
https://thediplomat.com/2022/08/how-far-could-the-quad-support-taiwan/
The Diplomat, August 2, 2022
By Huynh Tam Sang, an international relations lecturer at Ho Chi Minh City University of Social Sciences and Humanities
Trang Huynh Le, Research Assistant at Vietnam-based Social Life Research Institute and Research Intern at Act for Displaced non-profit organization
8月2日、ベトナムのHo Chi Minh City University of Social Sciences and Humanitiesの国際関係論講師であるHuynh Tam Sangと、ベトナムの非営利組織Social Life Research Instituteの研究助手Trang Huynh Leは、デジタル誌The Diplomatに“How Far Could the Quad Support Taiwan?”と題する論説を寄稿した。その中で、①台湾海峡で紛争が発生した場合、QUADが介入するかどうかはまだ不明だが、QUAD構成国の絆が強まれば、中国の台湾侵略の意図を再考させる可能性がある。②QUADは、外交関係を強化し、貿易拡大を促進し、構成国間の情報共有網で協力することで、QUAD内の関係を強化してきた。③QUADは非公式な枠組みであり、価値ある「強硬政策」を欠いたものである。④インドが、北京との関係を損なう代償を払ってまで、言葉の上で台湾を支持する可能性は低い。⑤今のところ、QUADにとって、台湾は最重要課題からは程遠く、中国による台北占領よりも、中国の世界的な勢力への台頭の方が問題である。⑥世界の半導体サプライチェーン内での台湾の重要な役割は、QUADにとっても戦略的重要性をもっている。⑦この4ヵ国は、QUADを合法化・制度化することや台湾防衛について、積極的な行動を採るべきである。⑧その見返りとして、台湾は自衛能力を強化し、QUADに台湾との対話と意思疎通を開始するよう説得し、さらに、地域諸国へのソフトパワーによる関与をレベルアップさせる必要がある。⑨QUADと台湾は、インド太平洋の「力の空白」を防止しながら、共に地域の勢力均衡を維持することができるといった主張を述べている。

(2)America Must Prepare for a War Over Taiwan
https://www.foreignaffairs.com/united-states/america-must-prepare-war-over-taiwan?utm_medium=newsletters&utm
Foreign Affairs, August 10, 2022
By Elbridge Colby, a principal at The Marathon Initiative
2022年8月10日、米シンクタンクThe Marathon Initiative代表Elbridge Colbyは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" America Must Prepare for a War Over Taiwan "と題する論説を寄稿した。その中でColbyは冒頭で米国はなぜ、台湾をめぐる中国との戦争に備え、まさに戦争を抑止し、回避するための努力をしないのだろうかと問題提起を行い、台湾をめぐる中国との戦争は多くの人が「ありえない」と考えていたシナリオから、「ありえる」と思えるようになったとし、しかし不穏な現実として、米国、特にBiden政権によって台湾とその自治に対する関与が強化されているにもかかわらず、そのような紛争に対する十分な備えをしていないように思われると指摘している。その上でColbyは、米国の公式声明や戦略を考えると、核武装した超大国の対立者と大規模な戦争に突入する可能性が十分にあるかのように振舞うことは理にかなっているはずであるが、これまでの対応は、中国がもたらす脅威の緊急性と規模に見合わないように見え、米国が中国の台湾への攻撃を打ち負かすために必要な努力と集中力をもっているのかが気がかりであると懸念を示している。

(3)A Campaign Plan for the South China Sea
https://www.usni.org/magazines/proceedings/2022/august/campaign-plan-south-china-sea
Proceedings, August 2022
By U.S. Navy Captain Joshua Taylor, the South Asia division chief at U.S. Indo-Pacific Command and an associate of the Corbett Centre for Maritime Policy Studies at King’s College London
2022年8月、米U.S. Indo-Pacific Command South Asia divisionのトップJoshua Taylor海軍大佐は、The U.S. Naval Instituteが発行する月刊誌Proceedingsのウエブサイトに" A Campaign Plan for the South China Sea "と題する論説を寄稿した。その中でTaylorは冒頭で、もし中国が南シナ海の九段線に対する非合法な主張の中で、自らの支配を押し付けるために海洋で不測の事態を引き起こしたとするならば、米国はそれに対して何をすべきなのかと問題提起を行い、米国は現在、航行の自由作戦(Freedom of navigation operations)を典型例とした、臨時の精鋭部隊の展開を採用していると指摘している。そしてTaylorは、しかし、こうした活動は同盟国や提携国を安心させるどころか、偶発的な事態が発生した際には同盟国や提携国は、米国は問題を起こして去っていく頼りにならない相手だという中国のシナリオに同意してしまうかもしれないなどの問題があるため、航行の自由作戦や単発の対応策を増やしても、中国の準軍事的な海上部隊の行動を大きく変えることはできないだろうとし、米国は「不可欠な国家」として、海上での対抗策を主導するために、24時間365日、毎日、現場の海域にいなければならないと主張している。