海洋安全保障情報旬報 2022年8月21日-8月31日

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8月22日「米下院議長訪台後の中国の軍事演習、インド太平洋諸国の反応様々―米RAND専門家論説」(Foreign Policy, August 22, 2022)

 8月22日付の米政策・外交誌Foreign Policy電子版は、米シンクタンクThe RAND Corporation 上席防衛専門家Derek Grossmanの “After Pelosi’s Visit, Most of the Indo-Pacific Sides With Beijing”と題する論説を掲載し、Derek Grossmanはインド太平洋諸国が米下院議長訪台後に中国が実施した大規模な軍事演習に対して様々な反応を示したとして、要旨以下のように述べている。
(1) Pelosi米下院議長の8月の台湾訪問を端緒に、中国は台湾の全周を包囲し、台湾の頭越しにミサイルを発射し、さらにその他の極めて威圧的な措置を取るなど、前例のない軍事演習を実施した。また、台湾海峡での緊張の高まりは、台湾は中国本土の一部であるという中国政府の「1つの中国」原則を支持するインド太平洋の他の国々からの反応も引き起こした。しかしながら他方で、Pelosiの訪台は、特に台湾を巡る戦争の可能性に直面している米国の主要同盟国が台湾の大義を強く支持していることも明らかにした。
(2) 台湾支援の最前線にいる国は日本とオーストラリアで、両国首脳は米国とともに、ASEAN外相会議の際に公表した共同声明で、「国際の平和と安定に深刻な影響を与える(中国の)最近の行動に対する懸念」を表明し、中国政府に対して「軍事演習を直ちに中止する」よう求めた。もっとも、3ヵ国の声明は「それぞれの『1つの中国』政策に変更はない」と付言している。もう1つの重要な米国の同盟国、韓国は非常に異なった態度を示した。訪台後にPelosiが立ち寄ったのはソウルだが、韓国のYoon Suk-yeol(尹錫悦)大統領は電話対談で済ませ、また台湾に関する韓国の公式声明もなかった。大統領府の当局者は、コメントを求められて、中国や台湾に直接言及せず、「関係当事国の緊密な意思疎通」を促したが、これは本質的には台湾政府への支援を自制しているが故の暗黙の中国政府支持である。また、Park Jin(朴振)外交部長官は、「台湾海峡での地政学的紛争の激化は地域の政治的・経済的安定を妨げ」るとともに、「朝鮮半島に否定的波及効果をもたらす」と述べて、論点をはぐらかした。Pelosi訪韓の翌週、朴長官が初めて中国を訪問したことから、ソウルはその前に北京と事を荒立てたくなかったようである。
(3)Pelosi訪台はカンボジアでのASEAN外相会議中に行われたため、「ASEAN加盟各国はそれぞれ『1つの中国政策』への支持を改めて表明する」との声明を直ちに発表できたが、台湾ついては全く言及しなかった。また、多くのASEAN加盟国も個別に声明を発表したが、いずれも台湾の苦境を支持するものではなかった。たとえば、インドネシアは全当事国に「挑発的な行動を控える」よう求めた上で、「1つの中国政策を尊重する」と付言した。シンガポールは、「米中両国は、緊張を一層拡大させるような行動を自制し、抑制する暫定的な合意を実現する」ことを期待した。この地域における米国の重要なパートナーとして急速に台頭しつつあるベトナムは、過去の声明に忠実に、「ベトナムは『1つの中国』原則の履行に固執し、関係当事国が自制し、台湾海峡の状況を拡大させず、平和と安定の維持に積極的に貢献することを期待する」と述べた。マレーシアとタイも同様の声明を発表し、台湾への支援表明を控えた。明白な例外は、海洋権益を巡って中国と公然と対立している米国の条約同盟国フィリピンの対応であった。ASEAN会議後の8月上旬、Blinken米国務長官がマニラを訪問し、Marcos Jr. Jr.大統領と会談した際、大統領は台湾危機について「米比関係の重要性を強調するもので、私は我々が直面しているあらゆる変化に応じて、米比関係が進化し続けていくことを期待している」と語っている。
(4) 一方、インドの反応は非常に興味深い。インドのJaishankar外相は、インド政府はインドへの潜在的な影響について状況を「評価し、監視する」としたが、「1つの中国」という用語の使用を拒否し、「インドの関連政策は良く知られており、一貫している。繰り返す必要はない」と述べた。こうした反応は、2020年5月の激しい国境紛争以来の印中関係の悪化を反映したものと見られる。他方で、インドは近年、台湾との非公式な関係が、特に経済面で成長しており、インド政府は中国政府と硬球を投げ合おうとしているようである。しかし注目すべきは、他方でインドは中国に対抗することを暗黙の狙いとするQUADに参加しているが、オーストラリア、日本及び米国の3ヵ国共同声明に署名しなかったことである。南アジアの他の地域では、台湾への支持の兆しはなく、中国支持派のみであった。
(5) 太平洋島嶼諸国では、異様な沈黙が支配している。1つの例外はバヌアツで、「バヌアツは台湾が中国領土の不可分の一部であることを繰り返し表明している」と述べている。この地域で台湾と国交を維持している、マーシャル諸島、ナウル、パラオそしてツバルの4ヵ国の内、これまでのところ台北支持を表明しているのはマーシャル諸島だけである。マーシャル諸島は、台湾の「真の友人であり同盟国」であり続けると述べた上で、中国を特に名指しすることなく「台湾海峡における最近の軍事行動」を非難した。
(6) 太平洋における米国の緊密な提携国であり、時に中国に甘いと見られてきたニュージーランドだが、Mahuta外相はASEAN外相会議の際、中国の王毅外相と会談し、「緊張緩和、外交そして対話の重要性」を強調したが、「1つの中国」を繰り返さなかったし、台湾支持も表明しなかった。Ardern首相は危機の数日前に中国に関する演説を行い、「より威圧的な」中国政府とでも協力関係を続けると述べている。
(7) 最後に、いくつかのインド太平洋諸国は中国政府に対する何の支持声明も出さなかった。中国政府は北の隣国が「1つの中国」を改めて支持したと主張しているが、モンゴルは台湾を巡る米中間の緊張激化にこれまでのところ何ら言及していない。当然のことながら、中国の忠実な同盟国である北朝鮮とミャンマーの軍事政権は、中国への支持を断固表明し、この地域での混乱を煽る米国を非難した。
(8) 中国はインド太平洋の大部分の国が自国の大義を支持してくれていると見ているが、いくつかの国、特にオーストラリアと日本は、そして日豪両国ほどではないがインドも、北京の行動にますます懸念を抱き、台湾を直接的あるいは間接的に支援している。問題は、これら3ヵ国が、米国とともにQUADを構成しているだけでなく、この地域の主要大国であることである。恐らく中国政府は、台湾を支援する公然たる民主連合の成立を回避したいであろう。これらの主要大国の1つでも台湾への支持から引き離すことができれば、中国政府にとって大きな勝利だが、幸いなことに、これら主要大国の台湾支持は揺るぎのないもので、ますます強固になっている。
記事参照:After Pelosi’s Visit, Most of the Indo-Pacific Sides With Beijing

8月23日「南アジア発展の鍵となるブルーエコノミー―インド南アジア対外政策専門家論説」(The Interpreter, August 23, 2022)

 8月23日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、インド軍の研究機関United Service Institute of India 研究助手Samriddhi Royの“Blue economy may be the key to South Asia’s upswing”と題する論説を掲載し、そこでRoyは南アジア諸国が連帯して統一的なブルーエコノミー政策を立案するべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 近年、南アジアにおいて伝統的および非伝統的な脅威が高まり、それによって南アジアにおける連帯が生まれつつある。このとき、ブルーエコノミーにおける提携の導入は、諸国にとって利益になり、諸国家間の持続可能な協力にとって良い結果を生むだろう。
(2) 国連が最初にブルーエコノミーという言葉を使ったのは、2012年にリオデジャネイロで開催された持続可能な開発に関する国連の会議でのことであった。ブルーエコノミー理論は経済的な開放性だけでなく、人道の擁護やジェンダー平等の追求、海洋の保全を追求するものである。世界的に見て陸地や国境に関する問題が多くなっている今、南アジア諸国はブルーエコノミー戦略に基づき、地域の協働と海洋資源の活用を模索するべきだろう。たとえば、バングラデシュは隣接するベンガル湾を経済発展のためにうまく活用している。
(3) 南アジア諸国は多面的な課題に直面している。それは地政学的な困難さだけでなく、海洋環境の悪化や海賊、気候変動の問題も含まれる。それでも、ベンガル湾は南アジア地域にさまざまな利益をもたらしてくれる。それは様々な国に隣接し、様々な国がそこに投資をしている。しかし南アジア諸国は、地域のブルーエコノミーの潜在力を最大限に引き出せていないようである。資金的な裏付けや、制度的枠組みの調整不足などがその原因である。したがって、南アジアは地域全体として、諸国による資金提供や商業ベースの取り組みを含む、野心的ではあるが実際的な海洋戦略の立案を検討するべきだろう。
(4) 3つの提案がある。第1に、南アジア諸国は単独の権限の下で、海洋環境に関する産業的、環境的関心の統合を始めるべきである。たとえば、地域の経済的、環境的目標を認識するための南アジア委員会やフォーラムのようなものの設立が考えられる。海洋に関連する諸国の個々のデータベースを共有することで、協働的な活動の可能性について熟慮することにもつながるだろう。
(5) 第2に、国家・地域レベルで海洋保全などに使途を限定したブルーボンドを導入することである。そうした債券は海に関連する経済活動を要求するが、それには、透明性のある規制も必要となるであろう。世界的に見てこれまで、海洋保全活動を支援するために6つのブルーボンドが発行され、2018年にセーシェルが最初にそれを発行した。こうした市場の拡大が急務である。
(6) 第3に、ブルーエコノミーに女性の参加を促すことは、必須というわけではないが必要なことである。インドネシアなどは5,600万人が漁業関連従事者だが、そのうち3,900万人が女性である。しかし彼女らの働きに対し、男性に比べて公正な見返りはされていない。国連の報告でもこの男女の賃金格差が取り上げられ、その解消が提案されている。
(6) 今後も、力に基づく現実主義的政治が南アジアでは展開されていくことになろう。そのため、貿易障壁を取り除き、包括的な連結を促進するような統合的なブルーエコノミー政策が必要になる。上記した提案を実施することで、ブルーエコノミーシステムは、新しい問題に対応するための柔軟性を得ることができよう。南アジアが海洋をうまく管理できれば、既存の産業は強化され、また新たな産業も育成されるだろう。
記事参照:Blue economy may be the key to South Asia’s upswing

8月24日「フィリピン新政権における米比関係の展望―米アジア専門家論説」(The Diplomat, August 24, 2022)

 8月24日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌上席コラムニストで米シンクタンクWilson Center研究員Prashanth Parameswaran の、“How Will Marcos Jr. Shape the US-Philippines Alliance within Manila’s Evolving Security Outlook?”と題する論説を掲載し、そこでParameswaranはフィリピンで新たに発足したMarcos Jr.政権において米比関係がどう展開していくか、その見通しについて、要旨以下のように述べている。
(1)    今年8月初め、フィリピンでは新たにMarcos Jr.政権が発足した。同政権は、Duterte前
政権期にロシアとの間に結ばれたヘリコプター取り引きの停止を宣言した。その際、ロシアのウクライナ侵攻に関する米国の制裁の可能性に言及した。これは、Marcos Jr.政権による外交方針の転換を示唆するように見えるが、その方向性はまだはっきりしていない。
(2) まず米比同盟について考えてみよう。この同盟は、1951年の米比相互防衛条約に明記されたものである。この同盟関係は数十年にわたって浮き沈みを経験し、最近ではDuterte政権が中ロとの関係強化を志向し、訪問軍協定の破棄すらほのめかした。Duterte政権の末期に米比同盟は再び強化される方向に戻り、軍事演習などの分野では協力関係が強化した。Marcos Jr.政権のヘリコプター取り引きの停止はこの延長上にあるように見えるが、同政権の対外政策の姿勢はなお明確ではない。今のところ、Marcos Jr.政権は米比同盟の拡大に関して前向きなようだが、中国との安全保障協力を推進する余地も残している。Marcos Jr.政権の対外政策の優先順位がどうなるかは、自然災害やテロなど、予測不可能な事態によっても変わりうる。
(3) もうひとつの問題は、フィリピン軍の近代化の方向性に変化があるのかどうかである。また、フィリピン軍に対して安全保障支援をオーストラリアや日本、韓国などが拡大させており、米国以外との関係性も重要になるだろう。
(4) Marcos Jr.政権はまだ発足したばかりであり、その安全保障政策や米比同盟のあり方については、もう少し様子を見る必要があるだろう。米比同盟に関しては、米政府の動向に左右されるだろうが、今後展開される政府高官の訪問などによって、防衛関係だけでなく幅広い米比関係のあり方が明らかになっていくであろう。また双方ともに、昨年の米軍のアフガニスタン撤退のような予期せぬ事態にも対処する必要がある。アフガニスタン撤退は、東南アジアにおけるテロの恐怖を増幅させる出来事であった。いずれにしても、フィリピンが米比同盟と安全保障政策をどう展開させていくかは、今後数ヵ月で明らかになっていくだろう。
記事参照:How Will Marcos Jr. Shape the US-Philippines Alliance within Manila’s Evolving Security Outlook?

8月24日「中国の『非戦争軍事作戦』における行動指針の背景-台湾専門家論説」(The Diplomat, August, 24, 2022)

 8月24日付のデジタル誌The Diplomatは、台湾淡江大学国際事務輿戦略研究所助理教授林穎佑の“What’s Behind China’s ‘Action Guidelines on Military Operations Other Than War’?”と題する論説を掲載し、林穎佑は習近平が「非戦争軍事作戦に関する行動指針」の試行に関する命令に署名したが、軍事改革、中央軍事委員会の改編、武装警察の中央軍事委員会の指揮かへ編入により、災害救援など社会の秩序維持、あるいは在外中国人の救出など人民解放軍を出動させるに当たって、従前の手続き規定等が機能しなくなったことから、人民解放軍の法的根拠を提供するため基本原則、組織と指揮、様々な作戦形態、後方支援そして政治活動における規範を定義し、特に人民解放軍の海外における行動についてより明確に説明しているが、その根底にあるものは中央軍事委員会が武装力量をよりしっかりと把握したいという願望であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 6月13日、中国中央軍事委員会首席習近平は「非戦争軍事作戦(Military Operations Other Than War:以下MOOTWと言う)に関する行動指針」の試行に関する命令に署名した。同命令は6月15日に施行される。行動指針の全文は公にされていないが、国営通信は6章59条からなるとしており、MOOTWを実施する人民解放軍の法的根拠を提供するため基本原則、組織と指揮、様々な作戦形態、後方支援そして政治活動といった主題について規範を設定している。MOOTW試行の指針の発布は外部から様々な憶測を呼んでいる。行動指針は2003年の反分裂国家法と比較される。反分裂国家法は台湾海峡事態に介入し、台湾に対する軍事作戦を遂行する法的正当性を人民解放軍に与えている。新行動指針はロシアがウクライナで遂行中の「特別軍事作戦」と同種のものなのか。
(2) MOOTWの起源は冷戦後に変わる役割と任務に対応するため米軍が努力する中で生まれた概念であり、おおむね軍の機能を再考させるものである。MOOTWの概念の具現化される戦時に備え、築き上げられた軍の輸送、後方支援能力は、平時には捜索救難に直ちに利用することができる。
(3) 指摘しておかなければならないことは、MOOTWに軍を配備する機構は国によって異なり、その国の政治体制にかかっている。米国の場合、州知事が州兵を派出する権限を有している。これは連邦政府によって付与された州の自治権の一部である。他の国が機構面、あるいは訓練面で米国の州兵のような予備部隊を保有しているか否かは依然疑問である。これは武装力量が国家ではなく、中国共産党に属している中国では特にそうである。共産党の指導に軍は服するという原則の下で、省やそれ以下の地方政府が米国の州政府のような力と権限を持つことは決してない。MOOTW任務遂行のために地方部隊を派出するためには中央軍事委員会、特のその主席の承認を得なければならない。このような体制は緊急時の部隊派遣に遅れを生じるのではないか? 武装警察が国務院の支配下から中央軍事委員会の指揮下に置かれた2018年以来、このことはさらなる問題となっている。言葉を換えれば災害時に捜索救難のために部隊を派遣する従前の機構は機能しなくなっている。したがって、中国はMOOTWにおいて軍事力を展開するためにその時宜、及び関連する管理手順を明確にしなければならない。特にこの手順における中央政府と地方政府の役割を明らかにする必要がある。
(4) Covid-19の世界的感染拡大の中国の経験は、人民解放軍の支援の時宜が中央政府、地方政府が感染爆発を封じ込めるのに極めて重要であることを示している。しかし、上述のように感染爆発の地域へ人民解放軍の部隊を派遣することは地方政府、国務院でさえその権限を超えたものである。災害後の捜索救難、あるいは感染症災害との戦いに部隊を派遣するに当たっての地方政府と中央軍事委員会の意思の疎通は面倒な過程である。現在の取り極めは、最良の時機を失する遅れの原因となっているのだろうか?中国の最近の経験は、法的枠組みの中で人民解放軍を派遣する必要性が従来よりも高まっている。
(5) MOOTWのために展開される部隊には、同時に現地に準備される戦闘用装備あるいは資材を必要としない。MOOTWには、人員、専門の医療チーム、医療資材、現場での通信システムの適切な提供が必要である。戦車よりむしろ、軍用輸送車両、あるいは工兵部隊の装備が必要である。軍を管理するに当たって、中国の最高指導部は直属の上司からの命令を受けずに派遣部隊が編成され、もっと悪い事態としては派遣部隊が実弾と兵器を持って武装することをもっとも警戒している。
(6) 各国は独自の複雑で厳密な部隊派遣の手続きを有している。しかし、このような予防的な措置は緊急時には迅速な対応ができないことに繋がるかもしれない。そのような状況に対応するため、人民解放軍はMOOTWに即応する行動の規則、協力あるいは共同行動に対する規範を確立する「緊急対応及び緊急事態の処理」の原則を以前に定めている。2009年初め、中国は「軍隊非戦争軍事行動能力建設規則」と題する行動指針と類似する指示を発表している。同規則には6つの主要な任務が示されている。対テロ災害救援、国際的平和維持、権利の保護、国際援助、安全と警戒の維持である。明確な規則の制定により、軍、特に前述の任務を指定された部隊の手続きが合法化された。2016年の軍事改革で、かなりの数の部隊、軍の機関が廃止され、あるいは他の部隊、機関に統合された。人民解放軍が確立してきた規則や規範の多くが再度制定しなければならない。特に中央軍事委員会の改編により、既存の規則や法規、軍と地方政府との協力の様式が依然適用可能か判断しなければならない。これら全ての原因により、中国は2022年の行動指針を制定したのかもしれない。
(7) 人民解放軍は、主として災害後の捜索救難、地方の緊急事態など社会の秩序維持のため軍の出動が要請される大規模事件と定義される事態に対応するため非戦闘軍事行動に類似した行動を長年にわたって実施してきた。近年、中国の海外での利益が増大する中、アデン湾での海賊対処を含む海外での災害救援活動、成否を分ける迅速性が求められる危機に直面した国からの中国民の救出の事例が増加してきている。これらは全て非戦軍事行動の範疇に含まれる。しかし、ロシアのウクライナ侵攻に際して、中国は多くの中国国民をウクライナから救出するための十分な航空機を派遣できなかった。2011年のリビアの例では、救出すべき中国国民がそれほど多くなく、救出は比較的容易であった。2015年のシリアの事例ではシリアが海に囲まれており、救出は海路実施された。ウクライナでは、人民解放軍は可及的速やかに任務を遂行できなかったとして非難された。
(8) 失敗の主な理由は、海外における軍事行動に対する最高指導部の準備と部隊派遣における地方政府と軍との協力の問題がかかっている。軍の指揮統制の維持の必要性を考えると、大規模な長距離輸送機を一度に派遣することは、作戦と部隊の建設に貢献する業務に責任を有する戦区司令員の方針に基づいて行動する人民解放軍内における力の釣り合いをひっくり返すことになるのだろうか。あるいは将来、MOOTWの任務を達成するために部隊を指揮する過程で構造的な問題が生起するのだろうか。全ての問題はウクライナからの中国国民救出時に人民解放軍が直面したものである。数ヶ月後に行動指針が発表されたのは偶然ではない。6月に公布された行動指針は、この点に関して率先するために人民解放軍の海外における行動についてより明確に説明し、法的定義を提供するものである。

8月25日「冷戦の教訓は、中国のインド洋における計画についての手がかりを提供する-オーストラリア専門家論説」(The Strategist, August 25, 2022)

 8月25日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、Australian National UniversityのNational Security College上席研究員David Brewsterの” Cold War offers clues about China’s plans for the Indian Ocean”と題する論説を掲載し、ここでBrewsterは   冷戦の教訓として、中国がインド洋地域に基地を確保するには対価と不確実性が高く、中国の将来の軍事的展開と安全保障関係が、必ずしも米国のそれと類似していると想定すべきではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) U.S. Army War Collegeが最近発表した研究は、インド洋における旧ソ連軍の展開が地理的にどのように制約されたのか、そして、そこからインド洋の大国になろうと画策する中国に当てはめることができる教訓に注目している。インド洋の戦略的動向に大きな影響を与えるのは、地理的条件である。インド洋は三方をほぼ陸地に囲まれ、海路の入口がほとんどない。また、ヒマラヤ山脈はユーラシア大陸の後背地の多くを海から遮断しているので、軍事的に利用するのは困難である。インド洋の半閉鎖的な地形によって、海上交通の要衝と限られた数の深水港を支配する海軍大国は後方支援のため割り増しの対価を支払わなければならない。航空戦力の展開にも同様の制約がある。たとえば、中国領からインド洋空域に進出する場合、航空機は他国上空を通過しなければならない。インド洋という広大な海域を利用するためには、現地に中継・支援用の飛行場網を持つことが不可欠である。
(2) 冷戦時代、旧ソ連はこのような制約を克服するのに苦労した。旧ソ連はインド洋に海路も空路も直接利用できず、信頼できる地域の提携国も少なかった。海軍のインド洋への派遣は、太平洋側から阻止と追跡の危険を負う東南アジアの海峡を経由しなければならなかった。これは、旧ソ連海軍の展開に大きな影響を与えた。ウラジオストックからアラビア湾までの長い航路は、1 隻の艦船をインド洋に展開するために、行動期間の約 3 分の 1 を移動に費やすことを意味する。また、移動時間が長いため、小型艦の配備も制限された。後方支援の必要性から、配備される旧ソ連艦艇の大半は、支援艦やその他の補助艦艇であった。このため、現地に基地を確保することが強く求められていた。旧ソ連海軍はアフリカの角周辺にいくつかの施設を整備し、陸上での支援が得られない場合は、 国際水域に待機させた浮きドックに依存した。インド洋では、旧ソ連海軍の艦船は米海軍の艦船よりも数が多かったが、危機の際には、すぐに逆転された。旧ソ連海軍の艦船は、情報収集船や調査船などの補助艦艇が多く、米海軍とはかなり異なっていたので、永続的な海軍の優位性を獲得することはできなかった。
(3) 中国がインド洋で直面する地理的制約は、旧ソ連が直面した制約と同じである。中国には、エネルギー供給のための重要な海上輸送路を守ることをはじめ、インド洋におけるいくつかの戦略的必須事項または任務がある。しかし、中国の軍事的展開の構成、規模、位置を左右する他の任務も同様に重要である。例えば、中国国民と投資の保護、ソフトパワーによる影響力の強化、テロ対策、情報収集、小国に対する強制外交の支援、紛争環境における作戦の実現などである。中国人民解放軍は、さまざまな不測の事態に対応できる能力を備えていなければならない。
(4) インド洋における中国の展開は、補給線保護の必要性と比較的短期的な海軍の足跡という政治的利点を反映して、中国海軍が主導的な役割を担っている。インド洋に展開する中国海軍の規模と構成は変化し、現在では、海賊対策部隊、水路調査船、情報収集船、潜水艦が含まれている。もし中国政府がインド洋の補給線全体を守りたいのであれば、中国海軍のプレゼンスは米海軍のようなものになる可能性がある。そのためには、空母や潜水艦などの艦艇と陸上機を大量に持続的に配備する必要があり、大規模な事業となる。この地域には複数の海・空軍基地が必要となるが、中国政府は米国やインドから自国の補給線を守ることは現実的ではないと判断し、重点を太平洋に置いて、インド洋では限定的な目標を追求することを選択するかもしれない。
(5) インド洋における中国海軍は、過去10年間、海賊対策、情報収集、海上外交に圧倒的に重点を置いてきたが、今後もそれは変わらず、他の地域と同様、漁業権に関する紛争のような限定的な強制外交を含むように発展する可能性もある。中国海軍の艦船等は、他の海事機関の船舶によって補完されるかもしれない。また、中国は現地での優位性を確立し、限定的な遠隔封鎖に対応し、現地介入を支援し、あるいは限定的な海上阻止活動を行うための能力を追加開発する可能性もある。これらの任務はすべて、旧ソ連のインド洋戦略に大きく類似したもので、完全な制海権の確保に比べれば、わずかな対価で特定の事態に対応するための選択肢となり得る。
(6) 旧ソ連と同様、中国もインド洋に進出するためには制約があるため、現地での支援施設は不可欠である。中国が必要とする基地の性質と範囲は、中国の全体的な戦略にも依存する。インド洋に中国海軍が大規模かつ持続的に展開するためには、従来の基地に匹敵する専用の支援施設が必要になる。その現地施設の確保に対する中国の取り組みは、旧ソ連の取り組みと比較して、より慎重かつ包括的である。中国は、インド洋全域に補給、物流、情報拠点網の一部として、戦略的要塞と呼ばれる施設を建設しようとしている。しかし、それによって戦時下における支援施設の利用が確保されるかどうかは不明である。ジブチを除いて、中国海軍 に恒久的な施設を提供している国はない。
(7) 中国は、この地域に航空戦力を整備する必要がある。海軍の持続的な作戦を支援するためには、哨戒機や攻撃機を含む相当な航空戦力が必要となる。中国空軍は、カンボジアのダラ・サコールにある標高3400メートルの新飛行場を利用できる可能性はあるものの、インド洋周辺に確実な飛行場へのアクセス手段を持っていない。中国がインド洋で航空能力を持たないことは、戦術的に大きな障害となり、中国共産党の考える戦略的な戦力投射を制限することにもなりかねない。
(8) 冷戦の教訓として、現地の基地を確保するには対価と不確実性が高い。中国とパキスタン、スリランカとの関係は、確実な利用を確保できなくても、中国政府が多くの費用を費やさなければならないことを示している。旧ソ連と同様に、中国も一部の国、特に腐敗した独裁政権との関係は信頼性に欠けると考えるかもしれない。また、旧ソ連の経験から、インド洋における陸軍の規模と構成は、主としてこの地域における中国独自の利益を反映したものになると思われる。中国の将来の軍事的展開と安全保障関係が、米国のそれと類似していると想定すべきではない。
記事参照:Cold War offers clues about China’s plans for the Indian Ocean

8月26日「発展し続けるインド太平洋の地域的機構―オーストラリア国際関係専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, August 26, 2022)

 8月26日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNet は、University of Sydney上席講師Thomas Wilkinsの“Continued evolutions in the regional architecture of the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、そこでWilkinsは複雑に発展し続けるインド太平洋の地域的機構について、3つの層に分類して整理し、要旨以下のとおり述べた。
(1) インド太平洋における地域的機構はきわめて複雑な構造であり、理解することは難しい。その機構は発展を続け、新たな機関が生まれることで徐々にあいまいさを増している。今年7月、Pacific Forumが開催したある会合で、地域の現在の状況について議論され、以下に示すいくつかの結論に到達した。
(2)まず、地域的機構が複雑さを増し、拡張し続けているということだ。その状態を説明するために、米国際政治学者Victor Chaが「複雑なパッチワーク」と表現しているように専門家は様々な表現をしている。専門家はしばしば、ヨーロッパや大西洋の安全保障機構に比べてアジアのそれの制度的未熟さを指摘するが、制度が欠落しているのではなく、制度の効率性が問題なのである。
(3) インド太平洋地域の機構の構造を理解し、体系化するのは困難な仕事である。その方法のひとつは、機構全体を、それぞれ重なり、相互連関する3つの層に分類することである。第1の層は、最も包摂的で、地域全体にまたがる多国間協調主義的な機構である。これらの多くは、ASEAN Regional Forumや東アジアサミットなど、ASEANによって促進されたものである。また、米国志向の強いアジア太平洋経済協力(APEC)などもある。しかし最近は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)や一帯一路構想など、中国が大きな役割を占める多国間協調機関ないし制度も多くなってきた。例外もあるが、基本的にこの層の機構は最も包摂的である。そしてそれのために全体の意見の一致を欠くことが多く、さまざまな問題の解決に至らない可能性が大きい。また、いくつかの機構は大国間の敵対の舞台になってしまっている。
(3) 第2の層は、米国の「ハブ&スポークス」システムに基づく2国間関係を中心に展開する。これは、米国とその同盟国だけでなく、地域の他の国々にとってもそれなりの妥当性を持つものである。これら同盟は条約によって拘束されている場合が多く、それにより地域への米国の軍事的展開が期待できるのであり、地域の国々は米国を中国との釣り合いを取るための錘とみなしている。
(4) 第3の層は、QUADや米英豪安全保障協力AUKUSなど、少数国間の枠組みであり、ここ最近顕著にその数を増やしている。それまでも、日米豪戦略対話なども存在したし、今後米印仏豪の間のQUADの成立も期待されている。いずれにしても、これら少数国間協調システムは、これまでのアジア太平洋志向からインド太平洋志向へと移り変わっていることを示している。
(5) 近年こうした集団の数が増えてきたことにはいくつかの理由がある。①上述した第1の層の機構の実績に対する不満がある。②少数国間機関は、ある意味で第2の層の「ハブ&スポークス」の拡張版であり、共通の目的を促進するのに適している。③日豪印の3ヵ国による協力など、米国が関わらない少数国機関は、将来起こりうるインド太平洋問題への「危険回避」の余地を創出するものである。
(6) これまでの議論をまとめておこう。かつてアジア太平洋と呼ばれた地域からインド太平洋へと広がる地域機構は3つの層から構成されるものである。あるものは包摂的であり、またあるものは加盟国間の深い連携を反映して排他的なものもある。それぞれの層の関係を明確にするのは困難であるが、それぞれが連動して、現在の地域秩序に貢献していると言えるだろう。ただしインド太平洋「共同体」というものにはいまだ至っていない。それには時間がかかるし、紛争が激化するなかで、地域の機構を構築するのは、なお進行中の課題である。
記事参照:Continued evolutions in the regional architecture of the Indo-Pacific

8月27日「中国の太平洋支配を抑止するために、第1列島線を支配すべし-米専門家論説」(19FortyFive, August 27, 2022)

 8月27日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、U.S. Naval War College教授James Holmesの” Controlling The First Island Chain: How To Ensure China Can’t Dominate The Pacific?”と題する論説を掲載し、ここでHolmesは、海上にあって日本は中国に対して地理的優位性を保っており、中国を抑止、押さえ込む準備をすべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 第1列島線は、西太平洋における戦略の中心をなしている。日本の防衛省が発表した「日本の防衛2022」(以下、防衛白書と言う)では、日本の戦略的環境を把握し、それをどのように管理するかを一般論として説明している。その第1の目標は、抑止力である。岸田文雄首相や岸信夫防衛相にとって、琉球列島での戦いに備えることは抑止力の大きな部分を占める。そうすることで、「日本に危害を加えることは困難であり、結果的にそうなることを相手に認識させる」ことができると、白書は述べている。もし中国人民解放軍(以下、PLAと言う)に琉球列島の島々を奪取する軍事力がない、もしくは見合う対価で奪取できないのなら、中国共産党の指導者たちはその試みを止めるであろう。それが抑止力の基本である。そして、日本政府が統合的な「防衛力強化加速パッケージ」の予算を計上する理由もそこにある。言い換えれば、岸田内閣は日本の防衛力の整備を急いでいる。
(2) 防衛白書には、島嶼防衛の仕組みが、4ページ目に描かれている。それは、陸上自衛隊と航空自衛隊の小規模な部隊を琉球列島に配置することである。対空・対艦ミサイルを装備した陸上部隊は、攻撃してくる中国軍の琉球列島近海・上空への接近、ひいては琉球列島への近接を阻止するよう努める。空と陸の部隊は、近海を哨戒する海上自衛隊の部隊と協同して、敵の艦船や航空機を攻撃する。その結果、中国共産党の日本領土への接近を拒否することができる強力な統合防衛力が生まれる。
(3) この防衛計画は、100年以上前のプロイセン参謀総長、ドイツ統一後ドイツ参謀総長であったHelmuth von Moltkeの論理に基づくものである。Moltkeは、「何かを保持することは、それを奪うことよりも簡単である」と述べた。つまり、戦術的な防衛は、戦争の最も強い形態を表している。そうであれば、戦略的防衛を追求する競争相手にとって最良の戦略は、無防備または防備が貧弱な土地やその他の対象を奪い取ることである。先手を打って、安価に戦術的な攻勢をかけるのである。そして、その場所に陣取ると、それを防衛する。戦略的に防御的な目的のために戦術的な防御に戻るのである。日本はMoltkeの論理を平時から実践している。すでに争奪戦の場を押さえているため、低コスト・低リスクでこれを行うことができる。琉球列島を要塞化することで、自衛隊は中国の敵対勢力に数百kmの海域を砲撃の下に横断させるという状況を作ったことになる。
(4) 南西諸島に部隊を配置することで得られる主な利益は国土防衛であるが、接近阻止は日本とその主要な同盟国である米国に別の大きな利益をもたらす。それは、中国の商船隊はもちろん、中国海域にいる中国海軍のかなりの部分を封じ込めることである。海・空の力を使って琉球海峡、対馬海峡、台湾海峡を封鎖すれば、中国に軍事的・経済的打撃を与えることができる。このことは、中国の司令員や政治指導者に理解できないことではない。彼らが台湾を征服することに執着する理由の1つは、間違いなくこの点にある。台湾を支配すれば、海峡の両岸を支配でき、戦時中でも海峡を通航可能にしておくことができる。
(5) 中国海軍の艦隊は南北に展開できる。主にフィリピン諸島とインドネシアによって構成される第1列島の南側の弧は、外交的側面では当てにできないが、島嶼線による封じ込めの論理は台湾以南にも適用される。マラッカ海峡まで南向きからさらに西向きに延びる第1島嶼線上に中国の港湾はない。この島々の列に沿って防衛線を敷けば、中国の海洋進出に対して強固な防御壁になる。しかし、フィリピンやインドネシアの政府を説得して、このような計画に協力させるのは難しい。彼らは中国との良好な関係に価値を見いだし、主に経済的な理由から、巨大な隣国を傷つけることを躊躇している。
(6) 中国共産党系紙『環球時報』は、中国海軍の指導部が2022年末までに大型のType055ミサイル駆逐艦(以下、Type055と言う)2隻が戦闘任務に応じ得るようになると考えていると報じた。欧米では巡洋艦に分類されるType055は、その後、日本周回行動やアラスカ付近の哨戒など、島嶼線を突破し、遠海作戦を行う予定だという。これに対する反論を3つ以下に示す。
a.防衛白書にあるように、琉球列島に配備されているのは平時の抑止力である。平時には誰も戦わないというのが定義である。自衛隊(加えて米海軍・海兵隊・空軍及び米国の同盟国)は、平時の配備をもって、戦時に島への接近を拒否し、海峡を閉鎖できることをPLAに警告できる。つまり、『環球時報』の記者は誇大広告をしている。平時には断ち切るべき鎖はなく、中国海軍の太平洋への進出を妨害するものはいない。戦時作戦の構想を描くために、地図に線を引いただけである。
b.Type055などが第1列島線の外側で活動している間に戦争が勃発した場合、同盟国の阻止線がある限り帰還することができない。Type055は島嶼線の東側で行動することは、その島嶼の守備隊を全周から攻撃するのに役立つが、緊迫した時期に島嶼を越えて軍艦を派遣することは、中国政府にとって非常に危険な行為である。万が一、同盟国が海峡を閉ざした場合、その後方支援はどこから来るのか。燃料、弾薬、貯蔵品を常備していなければ、中国の機動部隊はたちまち衰弱してしまう。Type055が防衛された島々を破壊し、広い太平洋に進出することは疑わしい。そして、日本とアメリカは、それを疑えば疑うほど、抑止力の見通しが良くなる。
c.日本や同盟国そして友好国が、太平洋全域で活動する中国海軍の艦船等を見て怯む理由はほとんどない。冷戦時代、敵の沿岸から艦艇が出現することは日常茶飯事であった。前方展開することで、敵に冷戦が熱戦になった場合にどうするかという疑念を抱かせると同時に敵を打ち倒すことになる。このような示威行動は我々が大国間の対立と現在呼んでいるものの間、標準的な行動として継続される。中国海軍の軍艦が日本の東やアラスカ沖に出現しても、それほど心配する必要はない。
(7) 第1列島線が比較的強固な阻止線であるのに対して、防衛白書に描かれた絵は日本周辺における一過性の状態に過ぎない。このため、日本人は懐疑的な目で画像を解釈すべきである。海上にあって日本は、中国に対して地理的な優位を保っている。その優位性を有効に活用すれば、中国を抑止、押さえ込む機会はまだ十分にある。そのために、準備をすべきである。
記事参照:Controlling The First Island Chain: How To Ensure China Can’t Dominate The Pacific?

8月28日「独仏がインド太平洋へ空軍を派遣―香港紙報道」(South China Morning Post, August, 28, 2022)

 8月28日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“French and German air forces’ Pacific missions ‘highlight Nato concerns over China’”と題する記事を掲載し、仏独の空軍機がオーストラリアでの共同演習に参加することについて、要旨以下のように述べている。
(1)ある軍事専門家によれば、ドイツとフランスが最近行ったインド太平洋地域への軍事力
の展開は、中国に対するNATOの懸念が高まっていることを浮き彫りにしているという。ドイツ空軍は、オーストラリアで行われる多国籍軍演習「ピッチブラック」に参加するため、この地域に初めて空軍機13機を送り込み、2021年には20年ぶりに南シナ海に艦艇を派遣した。独空軍の参謀総長Ingo Gerhartz中将は、部隊がドイツを出発した後、「我々は、1日以内にアジアに行けることを証明したい」と述べた。またこれらの空軍機は、オーストラリアやシンガポールの空軍との演習にも参加し、より小規模の航空隊は日本や韓国を訪問する予定である。
(2)中国現代国際関係研究院の孫恪謹研究員は、2月のロシアによるウクライナ侵攻後、ド
イツは安全保障政策の転換を図り、「いくつかの制約を破った」と述べている。この配備は、NATOが中国をNATO全体に影響を及ぼす「問題」であると宣言したことを背景にしており、このNATOがその指針で中国に言及したのは初めてのことだという。また孫は、フランスと違って太平洋に領土を持たないドイツの展開は「不必要」だとも述べている。
(3)一方でフランスは、ヨーロッパから海外領土であるニューカレドニアに航空機を派遣し
たが、これは、長距離の航空戦力を投射する能力を示すことを目的とした任務だという。この前例のない1万6,600kmの展開を達成するために、この空軍の部隊は、機体の点検や補給のためにインドに立ち寄った。駐印仏大使のEmmanuel Lenain,は、「フランスはインド太平洋の固有の国家であり、この壮大な長距離航空戦力の投射は、この地域と提携国に対する我々の誓約を示すものである」と述べている。これらの航空機は、オーストラリアで行われるピッチブラックの演習にも参加する。
(4)フランスのシンクタンクStrategic Research Foundation研究員Antoine Bondazは
フランス空軍によるインド太平洋への戦力投射は新しいものではなく、この展開は「大まかに言えば、それは我が軍の決意と信頼性のメッセージである」と語っており、彼は「フランス政府関係者は、『我々のインド太平洋戦略は中国に向けたものではなく、軍事的な対立のみを優先する取り組みとは異なる』と頻繁に主張している。・・・我々は、この地域に主権的利益を有しており、インド太平洋にある7つの領土と、そこに住む150万人以上のフランス人を守らなければならない」と述べている。
記事参照:French and German air forces’ Pacific missions ‘highlight Nato concerns over China’

8月29日「氷上シルクロードの発展(もしくは衰退)―ノルウェー専門家論説」(The Diplomat, August 29,2022)

 8月29日付のデジタル誌The Diplomatは、UiT - The Arctic University of Norway政治学准教授Marc Lanteigne の“The Rise (and Fall?) of the Polar Silk Road”と題する論説を掲載し、ここでLanteigneは氷上シルクロードに関する中国の野心と実際の能力と成果との間にはかなり大きな溝があり、その溝はロシアのウクライナ侵略以降拡大しているとして要旨以下のように述べている。
(1) 2022年8月、Biden政権は北極地域への米国の復帰の一環として、北極圏を担任する無任所大使を間もなく任命すると発表した。この動きは北極圏におけるロシアの拡大する軍事的な行動に対抗する米国の利益に貢献するためと、中国と氷上シルクロードの発展との均衡を取るための両方であると公表された。NATOのJens Stoltenberg 事務総長は、カナダのヌナブト準州を訪問し、カナダのJustin Trudeau首相と会談した際、この地域の安全保障に対する課題として中国が「北極圏のエネルギー、基幹施設、研究計画に数千億ドルを投資している」ことを強調し、氷上シルクロードについてほのめかした。氷上シルクロードは北極圏の「法に基づく秩序」に立ちはだかる問題として最後まで残っており、これが中ロの間のより緊密な北極安全保障協定の前兆であるかについての議論も浮上してきている。
(2) 中国は北極圏を政治的、経済的、安全保障上の利益の新興の地域として考え続けており、氷上シルクロードを地域経済連携の拡大、基幹施設開発、化石燃料を含む天然資源採掘、新たに発展してきた海上輸送の回廊を含む中国の利益追求という目的のために不可欠な事業であると認識している。しかし、近年、氷上シルクロードに関する中国内の優先度と実際の能力や成果との溝は劇的に拡大している。北極圏にある各国政府が得た重要な教訓は、その溝とこの地域で中国が現在直面している限界を認めることである。氷上シルクロードは中国の外交政策のなかで依然として最優先事項であるが、中国の北極圏への影響力は当初予測されていたものよりはるかに小さく、ロシアのウクライナ侵攻は、むしろ、中国の北極圏政策をさらに後退させている。
(3) 2021年10月、アイスランドのレイキャビクで開催された北極圏会議における氷上シルクロードの進捗状況に関するプレゼンテーションの中で、中国は欧州各国の北極圏における構想への侵食を、参加者の関心のある用語を使って、西(欧州)から東(ユーラシア)への地理的転換として説明しようとした。しかし、現実には新型コロナウイルス感染拡大によって引き起こされた経済的痛手の前であっても、氷上シルクロードを構築するための「北極圏全体(whole-of-Arctic)」への取り組みのための中国の計画はかなり疑問視されていた。中国は、結局のところ、ロシアの北極圏以外では地域投資の成功をほとんど語ることはできなかった。
(4) 過去5年間、北極海を横断する氷上シルクロードの当初の多くの構成要素は、政治的風向きの変化や、中国投資の財政的および安全保障上のリスクに関する北極圏の各国政府それぞれの懸念のために、遅れたり、完全に廃棄されたりした。実現に失敗した北極圏と北極圏に隣接する地域での中国支援事業の最も顕著な例として、グリーンランドのクアナースーツのウランとレアアースの採掘と長期計画としてのグリーンランドにおける鉄鉱山開発、アラスカでの液化天然ガスへの投資、ヌナブトでの金鉱山購入、アジアと欧州間の北極海航路に沿った海中北極通信ケーブル敷設などを挙げることができる。
(5) 2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻によって、今や氷上シルクロードと中国の北極圏政策全体はさらに不安定な立場に置かれている。ウクライナ侵略の前夜に出された中ロ共同声明には、北極圏航路の開発を含む北極圏でのさらなる中ロ間の活動の約束が含まれていたが、ウクライナ紛争の現実は、いくつかの面で中ロ両国間の関係の大幅な悪化をもたらした。中国はウクライナ侵略を非難し、Putin政権に対する経済制裁に参加することを拒否するだけでなく、ロシアに近すぎると見られないようにも注意深く行動している。ロシアに近すぎるとみられることは、中国と欧州の関係に取り返しのつかないほどの損害を与え、中国企業は現在ロシア経済に課されているのと同じような欧米の経済制裁を受けることになる。
(6) この中国の釣り合いを取ろうとした行動は、北極圏において、この地域における中ロ活動のかなりの減速という形で現れている。この協力はすでに新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響を受けていた。ウクライナ侵攻以来、中国はロシアの石油を安定したレートで購入し続けているが、2国間協力は他の分野でも後退している。シベリアのヤマルLNGプロジェクトに関する中国企業による活動は、プロジェクトに関連するロシアへのモジュールの出荷を含む欧州連合の制裁に関する関連の影響を受けており、EU制裁規則違反の関係から遅れている。中国の海運会社COSCOは、以前は北極海貿易の増加のために北極圏航路の開始を熱心に支持していたが、2022年は船舶をこの航路に使用する気配を見せていない。さらに、北極圏における中ロの科学協力を強化するという以前の約束にもかかわらず、ウクライナ侵攻後、両国間の研究者の接触が急速に減少したという報告が2022年初めに浮上した。
(7) 同時にウクライナ戦争による2022年3月以降の北極評議会の「一時停止(pause)」は、中国にとって北極圏問題への重要な窓口にも影響を与えている。北極評議会は、中国が北極圏諸国の提携国であることを示すための重要な会議の場であり、理事会が長期的に分裂したままであれば中国の北極圏の利益にどのように影響するかという問題がある。氷上シルクロードは、北極圏の各国政府が一定のレベルの協力を維持し、中国が多くの人や物の移動の自由に関与できるようにするという前提に基づいて構築された。1990年代後半に北極評議会が設立されたときは確かにそのような状態であったが、2014年のロシアによるクリミア併合の後、理事会は緊張に直面し、2022年ついに中断した。
(8) これらすべての挫折にもかかわらず、一部の西側諸国の政策集団では、北極圏における中国の戦略はまだ存在し、進化していると考える傾向が残っている。たとえば、中国の北極圏政策を批判する米国の人々は、南シナ海が直面している安全保障上の脅威を北極圏に恣意的に移植しようとする試みが頻繁にある。中国は南シナ海の法的規範に挑戦しているので、北極圏でも必然的にそうなるであろうと主張している。このような言説は、2つの地域間の無数の地理的及び政治的な相違点をないものとしてしまうだけでなく、南シナ海紛争における正面と中心という「歴史的水域(historic waters)」の法的概念は中国の北極圏政策のどこにも見当たらないのである。中国には北極圏には領土がなく、氷上シルクロードの有無にかかわらず、その現実を変更する立場にないからである。さらに2022年初めの検討で説明したように北極圏における中国の外交は、より大きな国際社会にとっての北極圏の重要性を考慮に入れると、この地域の統治はさらに国際化されるべきであるという考えに基づいている。これは、2015年に中国外交部高官が行った演説でよく示されている。彼はこの地域の非北極圏諸国の政府の権利と責任を説明し、「ウィンウィンの結果を得るための多層的な北極協力の枠組み」を要求した。国際化は、まさに中国が南シナ海では望んでいないものである。したがって、中国の海洋安全保障政策に修正主義の思考様式を求めて、2つの海域の間の基本的な関連性を考えることは困難である。
(9) 氷上シルクロードの発展において中国が現在直面している障害は、中国が北極圏の統
治を一方的に変更することは不可能であり、中国が利益を獲得するためには北極圏の各国政府や組織に大きく依存しているという事実である。中国は北極圏の利益を放棄するつもりはなく、依然として北極圏を「新しい戦略的前線(new strategic frontier)」とみなし続けている。したがって、氷上シルクロードを失敗した過程と見るのは時期尚早かもしれない。それにもかかわらず、現時点では、北極圏の各国政府が北極圏における中国の目標と限界をよりよく理解するため、氷上シルクロードの発案以来の不安定な軌道に十分に注意を払うことが重要である。
記事参照:The Rise (and Fall?) of the Polar Silk Road

8月31日「パプアニューギニアがオーストラリアとの安全保障条約を提案―英通信社報道」(Reuters, August 31, 2022)

 8月31日付の英通信社Reutersは、“Papua New Guinea wants security treaty with Australia -defence minister Marles”と題する記事を掲載し、パプアニューギニアがオーストラリアとの安全保障条約を望んでいることについて、要旨以下のように報じている。
(1) オーストラリアのRichard Marles国防相は8月31日、中国がオーストラリアの隣国であるソロモン諸島と安全保障条約を締結して以来、太平洋諸島の緊張が高まる中、パプアニューギニアがオーストラリアとの安全保障条約を提案したと述べた。ソロモン諸島は、4月にその条約を結んで以来、米国やその太平洋地域の同盟国との関係が緊迫している。オーストラリア、ニュージーランド、その他の太平洋島嶼国は、安全保障の必要性は地域内で対応するべきであると述べている。Marlesは、8月31日にABCラジオで、「これはパプアニューギニアによって提案されている考えである。我々は、パプアニューギニアとできる限り緊密な関係でありたいと明確にしてきた。パプアニューギニアと既にある緊密な軍事的相互関係を基に進めていきたい」と付け加えた。パプアニューギニアは、オーストラリアにとって数キロしか離れていない最も近い北の隣国で、かつては植民地だったが、中国との貿易・投資関係を強めている。
(2) 中国は6月、パプアニューギニアを含む太平洋地域10ヵ国との貿易・安全保障に関する包括的な協定を締結することに失敗した。オーストラリアと米国は、パプアニュウーギニアのマヌス島にある海軍基地の向上に資金を提供している。これは、2018年に海軍基地を再開発するという中国の提案が失敗したためである。
(3) パプアニューギニアやオーストラリアと海の国境を接するソロモン諸島は、新たな承認過程を適切に導入するまで、外国海軍の寄港を一時停止すると8月30日に発表した。Marlesは、U.S. Coast Guardの船がホニアラに寄港できなかった1週間後に米政府が通知を受けた後、オーストラリアに寄港の一時停止が通知されたかどうかについて、直接の論評を避けた。彼は、「オーストラリアが太平洋諸国から選ばれる自然な提携国であることを望んでおり、それは決して当たり前のことではない」と述べた。
記事参照:Papua New Guinea wants security treaty with Australia -defence minister Marles

8月31日「中国の新台湾政策白書の論点―米中国専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, August 31, 2022)

 8月31日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNet は、同Forum研究員Jake Steinerのる“China’s new (old) Taiwan white paper: What’s the point?”と題する論説を掲載し、そこでSteinerは中国政府が新しく発表した台湾政策文書の内容について整理し、それが意味するところと、それを受けて米国がどう対応すべきかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 中国政府は8月、台湾再統一に関する新たな政策白書を発表した。1993年と2000年のものと比べると、2022年版はそのレトリックに変化が見られる。オーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのCherry Hitkariはそれを「かなり攻撃的」だと言う。それを除けば、2022年白書はこれまでのものとそこまで変わらず、「平和的再統一」や「一国二制度」などの文言がページを埋めている。しかし、その違いこそが、中国の台湾再統一に関する意図や、さらなる事態拡大を回避する見通しの指標なのである。
(2) 中国共産党は、一国二制度のもとでの平和的再統一を追求するという姿勢を維持し、その制度こそが台湾に関する唯一の解決策であるとしている。しかし台湾世論は再統一に対して否定的であり、一国二制度に対して楽観的ではない。一国二制度のもとでの香港の経験は、台湾世論を硬化させた。
(3) 2022年台湾政策白書は、平和的再統一について論じているにも関わらず、不吉な兆候を示している。たとえば2022年版では、1993年版と2000年版に含まれていた高度な自治の約束や軍事、行政要員を派遣しないなどの台湾に対する宥和的文言が取り除かれている。行政要員を派遣しないという保証の欠如は、台湾与党の民進党を反分離法違反で処罰する可能性を提起するものである。
(4) 2022年白書は一国二制度という方針のもとでの平和的再統一を推進するが、台湾市民はその方針を拒絶しており、その押し付けに抵抗するために戦う意思を持っている。中国政府もそのことを認識しており、同白書では香港問題に関する中国政府のやり方を正当化している。中国は、一国二制度が支持されていないことに気づきながらも、それを修正する努力をまったくしていない。
(5) では、今回新たな白書を発表した目的は何だろうか。その答えの1つは国内的な問題であろう。この白書は、第20回党大会を前に共産党幹部に向けて制作された可能性がある。習近平は自身の統治を正当化するために、中国の経済成長よりも、ナショナリズム感情に依存していることが指摘されている。習近平は、米国との競合と国際的な逆風、一帯一路に対する提携国からの批判的意見などに直面している。そのため、台湾問題を次世代に持ち越さず、台湾に対する圧力を強める必要がある。
(6) もうひとつの答えは、ナショナリズムの高まりを鎮めるためであろう。中国共産党はこれまでその統治の正当性を確保するために、ナショナリズム感情を煽ってきた。しかしそれは政府の制御を超えてしまっている。たとえば米下院議長Nancy Pelosi訪台に関して、彼女が乗る飛行機を撃墜せよという意見も出たほどである。政府当局はPelosi訪台後、政府の反応が弱腰だという書き込みを削除している。こうした声を抑制しようとする試みは、中国が台湾を武力によって再統一する意思をまだ持たないことを示唆する。これには中国の軍事的な行動能力も関係しているが、もっと重要なのは、軍事侵攻による対価がきわめて高くつくと共産党指導者が理解しているということだろう。
(7) 中国は海軍の近代化を進め、台湾周辺での圧力を強めている。そのような状況下で、米国は台湾侵攻の対価を高めるために台湾を支援しつつも、それが中国政府による軍事侵攻の口実とならないように釣り合いをとる必要がある。現在上院に提出されている台湾関連法案のいくつかは、そうした釣り合いを崩すものになりかねない。米政府は、中国による台湾封鎖を戦争行為と認識することを明確にすべきである。フィリピンは躊躇するかもしれないが、同国に米海軍の機動部隊を配備することで、中国は再計算を余儀なくされるだろう。そのためにフィリピンとの軍事的関係を強化すべきだ。また、米海軍の増強も速やかに実現させるべきであろう。
記事参照:China’s new (old) Taiwan white paper: What’s the point?

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1)Blue economy may be the key to South Asia’s upswing
https://www.lowyinstitute.org/the-interpreter/blue-economy-may-be-key-south-asia-s-upswing
The Interpreter, August 23, 2022
By Samriddhi Roy, a Research Assistant at the Centre for Strategic Studies and Simulation (CS3), United Service Institute of India
 2022年8月23日、インドのシンクタンクUnited Service Institute of Indiaの研究助手Samriddhi Royは、オーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterに" Blue economy may be the key to South Asia’s upswing "と題する論説を寄稿した。その中でRoyは何十年もの間、南アジアにおける伝統的脅威と非伝統的脅威は、地政学的構造の変化の中で形成されてきたが、新型コロナウイルスの流行や台湾をめぐる米中の対立は、実験的な開発政策を通じて南アジアの連帯を強めており、このような状況の中で、南アジアにブルーエコノミックパートナーシップを導入することは、国家間の有益で持続可能な協力関係を証明することになるかもしれないと述べている。そしてRoyは、ブルーエコノミーでは経済的解放と並んで、社会的統合、人権擁護、男女平等の追求、海洋の保全などが強調されているが、南アジアはその地理的条件から沿岸部の優位性を享受している一方で、地政学的な問題に加え、汚染、動植物の生息地の喪失、生物多様性の劣化、海賊、国際犯罪、気候変動などといった深刻な状況にあると現状を分析した上で、広大な海洋空間をブルーエコノミーに向けて管理することは地域共同の課題であり、南アジアが海洋を効果的に管理すれば、既存の産業を増強すると同時に、新しい産業を育成する可能性があると指摘している。

(2)The Battle for Reality: Chinese Disinformation in Taiwan
https://www.geopoliticalmonitor.com/the-battle-for-reality-chinese-disinformation-in-taiwan/
SITUATION REPORTS, Geopolitical Monitor, August 24, 2022
By Matthew Becerra, Contributing Writer, Geopolitical Monitor Intelligence Corp
 8月24日、Geopolitical Monitor Intelligence Corpの寄稿者であるMatthew Becerraは、カナダ情報誌 Geopolitical Monitorのウエブサイトに、“The Battle for Reality: Chinese Disinformation in Taiwan”と題する記事を寄稿した、その中で、①中国は、その軍事・政治ドクトリンに従い、サイバー攻撃と虚偽情報の活動を利用している。②台湾政府は、中国政府による2,400件もの虚偽情報で毎日攻撃されていると推定される。③中国共産党は、台湾の有権者が中国に好意的な政治家を選ぶように仕向け、台湾を自主的に併合するよう軟化させるという目標を掲げている。④中国共産党が長期的に統一を交渉できると考え、対価が利益を上回らない限り、武力行使を延期させる意思をもっているようである。⑤台湾に向けた中国のサイバー工作では、台湾社会を分裂させ、士気を低下させ、蔡英文総統と民進党に対する国民の信頼を損ない、無能な政府というイメージを植え付けようとするものである。⑥中国の虚偽情報活動に関する研究では、台湾の主要なメディア3社のうち2社は中国大陸と大きな経済的関係を持ち、1社は両岸危機に関する偏向記事を書くために支払いを受けているとされる。⑦台湾政府に向けられた虚偽情報の全てが中国から発信されたものとは限らず、現地のアカウントから再投稿されたものであるため、最終的な特定が難しい。⑧台湾は虚偽情報に対抗し、国民のメディアを使いこなし、メディアの伝える情報を理解し、見極める能力を向上させるためにいくつかの手段を講じている。⑨持続的な虚偽情報活動にもかかわらず、中国政府の対台湾政治情報戦の大部分は失敗しており、独立支持の感情は年々高まっている。⑩中国政府の活動ンが失敗した場合に、いつまで「平和的」試みを続けるかは分からないといった主張を述べている。

(3)Learned Helplessness-China’s Military Instrument and Southeast Asian Security
https://www.nbr.org/publication/learned-helplessness-chinas-military-instrument-and-southeast-asian-security/
The National Bureau of Asian Research, August 27
By Zachary Abuza is a professor at the National War College and an adjunct in the Security Studies Program at Georgetown University.
Cynthia Watson was a professor and dean at the National War College, before serving as the acting provost of the National Defense University prior to her retirement.
 2022年8月27日、U.S. National War CollegeのZachary Abuza教授と同Collegeの学部長であったCynthia Watsonは、米シンクタンクThe National Bureau of Asian Researchのウエブサイトに" Learned Helplessness-China’s Military Instrument and Southeast Asian Security "と題する論説を寄稿した。その中でAbuzaとWatsonの両名は、これまでにも中国は国益を増進するための高度な政治手法を開発してきたが、この国の拡大する多面的な軍事手段は、中国の意図を送り、強制し、抑止し、そして共同作戦に従事させることを目的としているとした上で、中国の政治手法で最も重要なのは、地域国家が中国の利益、価値観、国際法の解釈に従うように威嚇することであり、それは「学習性無力感」を強化することが目的であると指摘している。そして両名は、中国は尖閣諸島周辺における日本との紛争を拡大させたり、台湾に対して武力を行使したりすることはないだろうと指摘した上で、その理由として、明確で決定的な勝利が得られなければ、中国指導部は政治的に破綻し、その正統性が損なわれるからだと説明している。