海洋安全保障情報旬報 2023年06月01日-06月10日

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6月1日「インドは海底ケーブル保護の法整備を進めよ―インド海洋安全保障専門家論説」(Observer Research Foundation, June 1, 2023)

 6月1日付のインドのシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、インドの海洋安全保障・海洋ガバナンスの研究者Pooja Bhattの“Protecting Indian Ocean submarine cables: Exploring Australia-India cooperation”と題する論説を掲載し、そこでPooja Bhattは、インドはオーストラリアを見習い、海底ケーブル保護のための立法や地域の諸国との協力を進めるべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 地政学的な緊張が高まるなか、海底の基幹設備保護は各国の大きな関心事になっている。海底ケーブルは電気通信にとって必要不可欠な経路である。それはインドにとってもそうであり、インド洋における海底ケーブルは、法的かつ物理的保護を必要としている。
(2) 海底ケーブルは、インドの旗艦的未来像であるデジタル・インド2015の根幹をなす基幹設備である。インドは現在、世界各地からの海底ケーブルが17本陸揚げされており、国際的に重要なハブとしての役割を果たしている。しかし、海底ケーブルを保護するための法的、物理的手段を持ってないのが現状である。他方、オーストラリアは、海中ケーブル保護区域を設定するだけでなく、海底ケーブル保護のための体制を整えている数少ない地域である。オーストラリアの法律は、インドにとって参考になる。
(3) オーストラリアは排他的経済水域(EEZ)内に「ケーブル保護区域」を設定している。それは2005年、Howard政権のもとで、いわゆる電気通信法に基づいて設定された。2014年にも同種の法律が制定された。こうした海中ケーブル保護体制により、Australian Communications and Media Authority(オーストラリア通信メディア局:以下、ACMAと言う)は、同国に陸揚げされる海中ケーブルの保護を認められている。ACMAは2007年にシドニー北部と南部、パースの3ヵ所に保護区域を設定した。そこでは海底トロールや浚渫などの活動が禁止されている。また、電気通信事業者がオーストラリア海域に海底ケーブルを敷設するには、ACMAの承認が必要となる。
(4) インドはオーストラリアと協働して、同様の法律をつくることができよう。たとえば領海内や、EEZ内の海底ケーブル保護区域を設定することができるだろう。これは、国連海洋法条約に違反するものではない。保護区域の設定基準はケーブルの密度などの要因である。こうしたことを、インドは国内の立法手続きで行うことができる。物理的保護に関しては、ダメージを受けたケーブルの修復が技術的かつ経費的にやっかいになるだろう。インド洋独特の自然的要因ゆえに、それは、単独での実施は難しい。いずれにしても、海底ケーブルの物理的保護のためには、立法による後押しが必要である。
(5) 海底ケーブル保護区域の設定というオーストラリアのひな型は、インド洋地域でも適用されうる。そしてそれは環インド洋地域連合の枠組みを通じて追求されるべきである。QUADの議題としてもよいだろう。こうした議題設定により、インド洋沿岸諸国ないしQUAD諸国が、ケーブルが密集する区域を監視することの調整が可能にし、各国海軍や沿岸警備隊が必要な支援を提供できる。法的な、そして運用上の微妙な問題は、海底基幹設備保護のための法的枠組みが効力を持てば、解決されるであろう。
記事参照:Protecting Indian Ocean submarine cables: Exploring Australia-India cooperation
関連記事:8月2日「インド太平洋を繋ぐ海底ケーブルのためにオーストラリアは一層尽力すべし:オーストラリア専門家論説」(The Strategist, August 2, 2022)
https://www.spf.org/oceans/analysis_ja01/_20220801.html

6月2日「公海条約:運用の難しさ―シンガポール研究者論説」(The Diplomat, June 2, 2023)

 6月2日付のデジタル誌The Diplomat は、シンガポールS. Rajaratnam School of International Studiesの大学院生Troy Hanの〝The High Seas Treaty: A Tall Order for Implementation ? ″と題する論説を掲載し、ここでTroy Hanは各国がブルーエコノミー存続のために、海洋の自由や海洋資源保護を目的に締結された公海条約を遵守するとともに海洋の監視と保護に尽力することが重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) UNCLOSでは、公海は沿岸国から200マイルの排他的経済水域を超える海域とされている。UNCLOSは、主に航行の自由に関する原則を定めているが、公海の環境保全や管理に関する詳細な規定を欠いている。こうした中、UNCLOSに基づく国際的拘束力を持つTreaty on Biodiversity Beyond National Jurisdiction (国家管轄権外区域における生物多様性に関する条約:以下、BBNJ協定と言う)は、2015年のパリ気候協定以来、最も重要な多国間環境条約である。
(2) 国連貿易開発会議(UNCTAD)の報告書によると、海洋に関わる産業は2018年のデータでは年間合計2.5兆ドルと評価され、世界で推定30億人以上の人々が生計を海洋に依存している。また、外洋は豊かな生物多様性を有し、多くの沿岸国が食用や輸出用とする水産物などの生物資源等、人類が生活をしていくために必要な重要な恩恵を提供している。
(3) 公海の漁業は、広範にわたる違法、無報告、無規制漁業(以下、IUU漁業と言う)に対して脆弱なままである。海洋の健康状態の悪化は、従来は漁業、観光、海上輸送に起因するとされてきたが、海洋再生可能エネルギーやバイオテクノロジーの開発などの活動も、海洋資源の急速な枯渇を引き起こしている。環境NGOは、海洋生物や生息環境を破壊し、生物多様性に損失をもたらす可能性のある深海採掘などの過剰な人為的活動に対して、働きかけを強めている。海洋の温暖化、酸性化などの気候ストレス要因と相まって、「海洋公共財」に対する共通の未来像が加速する中、海洋の抗堪性に関する集団行動の必要性はかつてないほど急務となっている。残念ながら、現在、世界の海洋のおよそ7%しか保護されていない。
(4) BBNJ条約は、2022年12月に国連で採択された生物多様性枠組の下で各国が約束した「2030年までに世界の海洋の30%を保護する」という、いわゆる30×30目標を掲げ、公海に海洋保護区(以下、MPAと言う)を指定することで対処しようとしている。署名国は、このMPAを遵守する必要があり、MPAは漁業活動のみならず、航路や商業探査活動の範囲を定めている。
(5) インド太平洋地域の中でも、ASEANやアジア太平洋経済協力会議(APEC)の加盟国は、いずれもブルーエコノミーの発展を目指した資源協力運動を開始している。2017年の「ブルーエコノミーに関するジャカルタ宣言」では、インドネシアが地域の経済発展を後押しするために、海洋・水産業を発展させるという原則を提案した。2019年のG20大阪サミットでは、日本は2050年までに海のプラスチックごみによる海洋汚染をゼロにすることを求めた「大阪ブルーオーシャン・ビジョン」を共有し、マレーシアなどのASEAN諸国は、生物多様性の国家保全戦略の一環として海洋保護区を創設した。
(6) この条約が批准されれば、海洋ガバナンスの国際基準に大きく貢献することになる。これまでの海洋ガバナンスは、政治制度や法的基準の切り貼りでしかなく、人間活動の影響を管理するのに効果的ではなかった。BBNJ条約に至るまでの約20年間の交渉を通じて、各国は、海洋資源から得られる利益を「公平かつ衡平」な方法で分配する方法や、海洋保護区の設置場所や方法などの技術的な議論を重ねてきた。この条約が締約国に批准されれば、締約国間政府会議の管理の下、科学技術委員会の支援を受けながら、独自の事務局を持つ公海の新たな国際枠組みが確立されることになる。
(7) 国連の全加盟国が署名した公海に関する画期的な協定が成立したが、少なくとも60ヵ国が自国内で法案を可決して初めて発効することになる。署名国は、自国の国内法手続きに基づいて条約の批准を開始する必要があり、国の状況によっては面倒な作業となる可能性がある。批准過程を加速させるためには、国、地域、世界など複数の段階で意識と政治的意思を構築することが不可欠である。さらに、市民社会と提言をできる専門家の共同体は、対話と構想を通じて、法的、科学的、技術的支援を提供することができる。
(8) EUがすでに4,200万ドルの拠出を表明している条約実施のための関連資金機構メカニズムも、30×30のビジョンを維持する上で重要な役割を果たすであろう。初期資金は、助成金や混合融資を提供する官民提携のひな型を通じて調達することも可能である。このような例としては、Global Biodiversity Framework(世界生物多様性枠組)から独立したGlobal Environment Facility(地球環境ファシリティ)が挙げられる。一方、Port State Measures Agreement(寄港国措置協定、PSMA)を積極的に支持したU.N. Food and Agriculture Organization(国連食糧農業機関)のような国際機関は、特定の分野や地域におけるブルーエコノミーへの移行を促進する可能性がある。
(9) 結論として、多くの課題が横たわっている。署名国は、小島嶼開発途上国が利用できる保護措置と救済手段を備えた資源の公平な共有を確保する行動計画を策定するため、様々な利害関係者と協議し、包括的な取り組みを採用する必要がある。各国が、自分たちが依存している海洋の適切な監視と保護に尽力しなければ、ブルーエコノミーの存続は考えられない。
記事参照:https://thediplomat.com/2023/06/the-high-seas-treaty-a-tall-order-for-implementation/

6月4日「パナマ運河の喫水制限による貿易への影響―米海洋専門誌報道」(The Maritime Executive, June 4, 2023)

 6月4日付の米海洋産業専門誌The Maritime Executiveのウエブサイトは、“Panama Canal’s Continuing Draft Reductions Pose Threat to Trade”と題する記事を掲載し、干ばつの影響を受けて、Panama Canal Authority(パナマ運河庁)が喫水の制限を行うことにより、貿易に脅威をもたらしているとして、要旨以下のように報じている。
(1) パナマ運河で深刻な気候事象が進行中であり、世界で最も重要な海運路の1つに影響を及ぼす可能性があるとの懸念が高まっている。6月の第1週に、Panama Canal Authority(パナマ運河庁)はこの地域が長期間の干ばつに見舞われ、閘門の通航に必要な水の供給に影響を及ぼし、さらなる制限が必要になる可能性を高めていると述べている。Panama Canal Authorityは、2023年5月が1950年以来最も気候が乾燥した月だったと報告している。気候学者たちは、エルニーニョ現象の到来により、中米地域全体の気候が暖かくなるとこの状況がさらに悪化すると予測している。このため、Panama Canal Authorityにとっては、節水対策が引き続き優先課題となっている。
(2) パナマ運河がこれらの問題を経験するのは初めてではない。2015-2016年の同時期には、極端な天候と水消費量の削減のための取り組みによって、Panama Canal Authorityは約4,000万ドルの収入を失ったと報告されている。3年後の2019年4月、Panama Canal Authorityは喫水を44ftに制限すると顧客に通知し、わずか1ヶ月には1ft引き下げた。干ばつが和らぎ、制限が解除された一方で、パナマ運河での節水対策は再導入され、1月以降続けられている。Panama Canal Authorityはこれまでに6回の喫水調整を発表し、船舶は輸送する貨物の量を減らさざるを得ない状況になっている。4月に始まり、Panama Canal Authorityは最初に最大喫水を50ftから47.5ft下げ、そして5月中旬にはスライド制で46ftに下げた。
(3) これらの調整は、「ネオパナマックス(パナマ運河拡張工事以降の新設閘門を通過できる最大船型の呼称)」に大きな影響を及ぼす。2016年に開始した新しい閘門システムにより、パナマ運河は以前の2倍の大きさの船舶を受け入れることが可能となった。最新の制限により、ネオパナマックス船の喫水は、通常の最大喫水50ftから下げられ、44.5ftまでが許可された。6月25日から喫水の上限が新たに43.5ftになるというさらなる制限が施行される予定である。これらの大幅な喫水の低下は、特にアジアから米国東海岸、ヨーロッパから南米西海岸、そして、米国南部のメキシコ湾岸から極東への貨物といった、地域間の貿易に大きな脅威をもたらす。
(4) 「パナマ運河での喫水制限が引き続き厳しくなる中で、大型船舶が全容積を活用できなくなるため、海運会社が再び小型船舶を求める可能性がある」とオスロに拠点を置く貨物輸送市場分析システムを運営する企業XenetaのPeter Sandは予測している。「これは短期的な市場価格に上昇圧力を加え、船舶の大きさに合わせて寄港地が変わる場合、船荷主にサプライチェーンを変更するよう促す可能性がある」と彼は述べている。
(5) 一部の業界アナリストは、新たな喫水制限が一部のコンテナ船に対し、その貨物を40%減少させる可能性があると予測している。
記事参照:Panama Canal’s Continuing Draft Reductions Pose Threat to Trade

6月4日「バルト海の安全保障環境の変化にフィンランドはどう対処すべきか―フィンランド国防問題専門家論説」(Arctic Today, June 4, 2023)

 6月4日付の環北極メディア協力組織ARCTIC TODAYのウエブサイトは、2023年2月付のフィンランドのシンクタンクCentrum Balticum Foundation が発行するBaltic Rime Economiesに掲載されたフィンランド海軍退役少佐でNational Military University博士後期課程院生Tero Vauraste の“Maritime security challenges in the Baltic Sea Region”と題する論説を再掲した。そこでVaurasteは、バルト海の安全保障環境が厳しくなるなか、フィンランドはオーランド諸島の非武装化解除を含めたいくつかの方針を採用すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) この数年でバルト海周辺の安全保障環境は激変した。航空機接近の頻度が高まり、ロシアやNATOの大規模海軍演習の数も増えてきた。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟についての議論が進められている。
(2) オーランド諸島とサーレマー島、ゴットランド島は、バルト海を支配するための戦略的三角形を形成している。2023年5月にスウェーデンが実施した大規模な海洋演習では、ゴットランドが演習実施地域の1つとなった。Aurora 23と呼ばれたその演習には、フィンランドおよびその他の国々から1,000人以上が参加した。そこはカリーニングラードから300km程度しか離れておらず、1808年にはロシアに占領された過去を持つ。Putinはこうした歴史に、領土拡大の正当化を求めるかもしれない。
(3) 上記オーランド諸島は非武装化され、ロシア領事館が設置されている。この場所の非武装化が最近問題となっている。非武装化の目的は平和と安定の維持だが、実際にはこうした真空を埋めようという力が働くため、紛争の可能性を生み出す。そのためオーランド諸島の非武装化は解除されるべきであると考える。
(4) ヘルシンキの造船所はこれまで約200隻を建造してきたが、その大半はロシアに売却された。この10年間は、実質的にロシアの管理下にある状態である。ところが2023年3月にカナダの船渠会社Davieが、その所有権を引き継ぐ意思があると発表した。カナダ政府は、少なくとも20年間の長期提携契約を同社と締結したところである。この契約には85億ドルに上る造船計画が含まれている。Davieがヘルシンキの造船所を引き継げば、そのビジネスはNATO寄りになるだろう。
(5) Davie社に所有権を譲渡するかどうかの前に、同社の利益や政治的つながり、費用対効果が慎重に検討されるべきである。いずれにせよ、フィンランドはバルト海での主権と安全保障を維持するために、結氷状態でも行動できる砕氷船を含む造船能力を維持する必要がある。
(6) Finnish Defence Forcesは現在潜水艦を保有していない。それに対してロシアは、水中基幹設備などに対する妨害行為を計画しているという。フィンランドはそれに対応するための、水中での行動能力を開発すべきである。スウェーデンは2027年までにそうした能力を保有すると見込まれている。フィンランドにもそうしたノウハウがある。水深6,000mまで到達できる深海潜水艇MIR 1やMIR 2を建造したのはフィンランドで、それには米国が警戒したほどであった。
(7) 約言すれば、バルト海の安全保障をめぐる課題を解決するためには、フィンランドはオーランド諸島の非武装化を解除し、砕氷船と潜水艦を建造する能力を確保する必要がある。
記事参照:Opinion: Maritime security challenges in the Baltic Sea Region

6月5日「United Arab Emirates Navy が合同海上部隊への参加を停止―米専門家論説」(19FortyFive, June 5, 2023)

 6月5日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、ミシガンを拠点とする執筆家Peter Suciuの“Fractures In The Middle Eastern Alliance – UAE Has Stopped Working With U.S.-Led Naval Force”と題する論説を掲載し、Peter Suciuは United Arab Emirates Navyが、米国主導で多国籍の海軍によって編成されるCombined Maritime Forcesへの参加を停止したとして、要旨以下のように述べている。
(1) 6月7日付のウォール・ストリート・ジャーナルは、UAEがイランを抑止するための米国の取り組みに失望を表明したと報じた。その結果、UAEは米国が主導する多国間安全保障部隊との協力を停止した。問題となっている部隊はペルシャ湾の海運を守ることを目的としているが、UAEはイランが行った最近のタンカー拿捕に対する米国の対応が不十分だと失望していると報じられている。UAEはこの報道に対し、ウォール・ストリート・ジャーナルが両国間の話し合いを事実誤認していると反応した。ロイター通信によると、UAEはバーレーンの米海軍基地に司令部を置くCombined Maritime Forces (以下、CMFと言う)への参加を2ヶ月前に停止している。
(2) UAEは、国際テロに対抗するために2001年に結成されたCMFから正式に脱退したわけではないと主張している。UAEは、紅海および湾岸地域の安全保障、テロ対策、海賊対策に取り組む38ヵ国の1国であり続けている。6月7日に発表された声明では、UAEが参加を停止した理由や、より積極的な役割に戻るかどうかは明らかにされていない。米政府関係者は、UAEが引き続きCMFの提携国であることを確認しただけである。
(3) 2月、U. S. Naval Forces Central Command(以下、NAVCENTと言う)は、United Arab Emirates Navy との1週間にわたる無人システムおよび人工知能統合訓練を終了したと発表している。これは米国にとってUAEとの初の2国間演習であった。
(4) 2019年以来、船舶への一連の攻撃は、大敵であるイランと米国の間の高い緊張状態を特徴づけている。イランは4月下旬から5月上旬にかけての1週間に2隻のタンカーを拿捕し、そのうちの1隻はUAEのドバイ港とフジャイラ港の間を航行していた空船であった。イランはさらに、2022年11月にイスラエル所有のタンカーに対してドローン攻撃を仕掛けたとして非難されている。NAVCENTは、イランの行為は国際法に反し、地域の安全保障と安定を混乱させるものであるとしている。近年、イランは15隻の他国籍商船に対し、嫌がらせ、攻撃または通航権の妨害を行っている。
(5) CMFは5月、中東の海洋安全保障を強化するため、提携国の海軍を訓練し、作戦能力を向上させるための新たな特別部隊を設立した。現在、UAEがこれに参加するかどうか、また参加してもどのような立場になるかは不明である。
記事参照:Fractures In The Middle Eastern Alliance – UAE Has Stopped Working With U.S.-Led Naval Force

6月5日「アジア安全保障会議での初の米日豪比防衛相会談、新たな『4ヵ国枠組み』の萌芽か―フィリピン専門家論説」(Asia Times, May 8, 2023)

 6月5日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、The Polytechnic University of the Philippinesの Richard J. Heydarianの“Did Shangri-La give birth to a new QUAD?”と題する論説を掲載し、ここでRichard J. Heydarianは6月2日~4日の間シンガポールで開催されたIISS主催の年次会合、「アジア安全保障会議」に出席した米日比豪各国の防衛(国防)大臣(フィリピンは代理)が3日に初めて会談したことに、新たな「4ヵ国枠組み(QUAD)」の萌芽を見、要旨以下のように述べている。
(1) アジア安全保障会議に出席した、Austin米国防長官、浜田防衛大臣、Marlesオーストラリア副首相兼国防大臣、そしてGalvezフィリピン国防大臣代理は6月3日、何ヵ月も前から待望されていた初めての4ヵ国会合を行った。象徴的な意味でも、また実際の運用面でも大きな意義を持つこの会合では、最重要議題として、中国の海洋における威圧的行動を念頭に、2023年後半における南シナ海における4ヵ国共同哨戒活動が提案された。共同哨戒活動が実施されれば、この地域において中国の台頭を封じ込めるために、米国が推進しつつある「統合抑止」戦略における画期的な出来事となろう。米政府は、インド、オーストラリアそして日本との既存のQUADがウクライナ侵攻後の対ロシア政策を巡って内部分裂に悩まされていることから、2023年初め頃にはあまり熱意を示さなかったアイディア、即ち、既存のQUADとは別の新たな4ヵ国機構を次第に歓迎するようになってきているようである。
(2) 6月4日に発生した台湾海峡における米加両国艦艇による航行の自由作戦に対する中国艦の妨害事案やU.S. Department of Defenseが公開した5月26日の米偵察機に対する中国戦闘機の妨害飛行など、この地域の海空における米中間の緊張の激化は、米政府にこの地域での新たなQUADに対する以前の懸念を再考させる契機となった可能性がある。Kritenbrink東アジア・太平洋担当米国務次官補は5月のフィリピン訪問中に、Tolentinoフィリピン上院議員による隣接する海域での中国の野心を牽制するための「独自の4ヵ国枠組み」を含む、新たなQUADの提案に対して、「私はノーと言う。現時点では、インド太平洋に新しい正式な機構を構築することは考えていない」と述べていた。とは言え、同次官補は、日・比・米(JAPHUS)安全保障枠組みを巡る論議が高まりつつある中で、「将来的に米国、フィリピン、日本などの緊密な同盟国が協力を拡大できる方法を検討する機会」については否定しなかった。
(3) 5月初めのMarcos Jr.フィリピン大統領の訪米中、米比両国は新しい2国間防衛指針に署名してから、事実上の代替QUADを構築する動きが加速してきている。フィリピンは歴史的に、本来のQUAD誕生における2つの重要な出来事の舞台となった。最初の米・豪・印・日4ヵ国会合は、2002年にマニラで開催されたASEAN地域フォーラム(ARF)の中で行われた。その10年後、再びマニラで4ヵ国は最初の正式な公式の会議を開催した。今や、米国は、特にフィリピンがより西側に友好的な体制の下でアジアの新たなスター同盟国として出現してきたことで、新しい4ヵ国枠組みの出現を視野に入れつつある。
(4) Galvezフィリピン国防大臣代理はアジア安全保障会議で、南シナ海紛争について妥協のない立場を示し、「Marcos Jr.大統領は、我が領土の1平方インチたりとも外国勢力から守るという決意を表明してきた。UNCLOSと2016年の仲裁裁定は、西フィリピン海(南シナ海の管轄海域に対するフィリピンの呼称:訳者注)とより広い南シナ海における我が国の政策と行動の双子の拠り所であり続ける」と言明し、有志諸国との海上安全保障協力を強化するというフィリピンの決意を強調した。6月初め、比日米3ヵ国の沿岸警備隊・海上保安庁はマニラ湾で初めての沿岸警備隊共同訓練を実施した。2023年後半には、米比両国を含むこの地域の同盟国は、南シナ海で前例のない4ヵ国共同哨戒活動を実施することが期待されている。4ヵ国間のより緊密な情報共有、共同訓練の拡充そして武器移転が今後継続されていく可能性があり、日本政府は過去10年間に大規模な米軍とオーストラリア軍の展開を受け入れてきており、フィリピン政府との間でも独自の訪問外国軍の地位に関する協定を検討している。
(5) 防衛省は、4ヵ国会合についての続く公式声明で、4つの同盟国は「地域における共通の課題や4ヵ国の協力の拡大について議論した」と述べ、新規の、そして既存の協力協定を強化していくことを誓約した。Austin国防長官は会談後、「我々は、自由で開かれたインド太平洋を前進させるという共通の展望の下に結束している」とポスト(ツイート)している。
記事参照:Did Shangri-La give birth to a new QUAD?

6月5日「多国間演習開催にみる地域の緊張緩和におけるインドネシアの役割―フリージャーナリスト論説」(South China Morning Post, June 5, 2023)

 6月5日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、東南アジアを専門とするフリージャーナリストJoseph Rachmanの“Indonesia hosts great-power rivals China, US in rare joint naval exercises”と題する論説を掲載し、そこでJoseph Rachmanは6月5日に開催されるコモド海上演習に米中ロも参加することを指摘し、主催国のインドネシアの役割の重要性などについて、要旨以下のように述べている。
(1) インドネシアが主催するコモド海上演習が6月5日に始まる。これには、米国、中国、ロシアも参加予定である。これら大国の間の外交が険悪化する状況において、これは異例のことであろう。合計で49ヵ国が参加するが、これには北朝鮮と韓国、インドとパキスタンなど、地域の敵対関係にある国々も参加する。
(2) 2022年G20会合の開催国であり、2023年ASEANの議長国であるインドネシアが重要な役割を果たしている。この2年間、インドネシアは自身の立場を利用し、また自律的な対外政策を目指しつつ、地政学的緊張を和らげるための仲介者の役割を果たしているのである。
(3) インドネシアのNational Defence University講師Frega Wenasによれば、インドネシアの外交方針の目的は、自国の国際的イメージと評判を高めることにあるという。今回の演習に参加する面々は、「インドネシアの国際的な地位と立場に一致している」とWenasは述べる。「米国や中国、その他の大国の参加によって、その演習は対話の機会を提供するだろう」。
(4) ロシアや中国との緊張の高まりが、コモド演習の間に摩擦を生じさせるかと問われたU.S. Navy報道官は、米国は参加国を選択するインドネシア政府の主催国としての手腕を信頼しているとし、米国はインドネシアなどの提携国とともに、地域の海と空を開かれたものにするために努力をすると述べている。他方、ジャカルタのロシア大使館はコメントを拒否した。中国の環球時報は、中国が参加するのは諸外国の軍隊との相互理解、意見交換などを促進するためだと報じている。
(5) しかしこの演習が始まる数日前、シンガポールで開催されたアジア安全保障会議では、米中間の緊張が高まった。防衛関係者トップの定常的な会合を開催しようという米国の提案を中国が断ったためである。その理由は米国による、中国国防部部長の李尚福に対する制裁であった。また、台湾海峡において、中国艦艇が米駆逐艦「チャンーフー」に150ヤード以内に接近するという事件も起きていた。
(6) 米中はどちらもアジア太平洋諸国と安全保障関係を固めている。6月1日からは、日本、米国、フィリピンによる初の海上演習が実施されている。中立にこだわるインドネシアも、緊張の高まりと無関係ではいられない。中国とインドネシアの2国間の演習は、2014年から実施されていない。2024年、インドネシアでは新大統領が誕生する。それは、インドネシアの今後の外交、防衛政策の方向性を決定づけるだろう。
記事参照:Indonesia hosts great-power rivals China, US in rare joint naval exercises

6月7日「地域の枠組みの中に埋没するSSN-AUKUS航行の権利―オーストラリア専門家論説」(East Asia Forum, June 7, 2023)

 6月7日付の Australian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物East Asia Forumは、The Australian National University College of Lawの国際法教授Donald R Rothwellの“The navigational rights of AUKUS submarines”および“AUKUS navigational rights are submerged in regional challenges”と題する一連の論説を掲載し、Donald R RothwellはUNCLOSが規定する艦船の航行の権利について、整理した上でAUKUSに基づきオーストラリアが取得しようとする原子力潜水艦の運用に当たって直面するであろう問題点を指摘し、今から問題解決への基盤造りを行う必要があるとして、要旨以下のように述べている。なお、本論説は前述のように2部構成となっているが、本抄訳では1つにまとめた。
(1) AUKUSの法的基盤は、航行の自由である。これは、AUKUSの議論でほとんど回避されてきた海洋の国際法の下でAUKUSに基づくオーストラリアの原子力潜水艦(以下、SSN-AUKUSと言う)の航行に制限はあるのか、現行の国際法は潜水艦の航行についてどのように規定しているのかなどいくつかの基本的な問題を提起している。インドネシアとマレーシアは、それぞれが管轄する海域にSSN-AUKUSが存在する可能性について懸念を表明している。
(2) SSN-AUKUSが主に活動する海域を検討して、法的問題を組み立てることは有益である。SSN-AUKUSは、おそらく西オーストラリアのスターリング海軍基地またはオーストラリアの東海岸沿いのどこかに拠点を置くことになるだろう。作戦中、SSN-AUKUSは基地を出港し、オーストラリアの領海、EEZを移動することになる。オーストラリアのEEZの先は、潜水艦が哨戒を行う可能性のあるインド洋と太平洋の公海があり、潜水艦が公海を航行することに法的な障害はない。他の海域では航行については、より慎重に扱わなければならない。潜水艦の航行は規制されるようになり、ここで海の法則が重要になってくる。
(3) UNCLOSの航行の自由の権利は、インドネシアとフィリピンがUNCLOSの交渉中に進めた群島国家構想が最終的に承認されるためにも不可欠であった。主要な海洋国は、潜水艦を含む商船や軍艦の特定の海域内での航行の自由の明確な法的権利無しには、拡大された海域と群島国家の地位の承認を受け入れなかっただろう。
(4) UNCLOSは、領海内におけるすべての国の艦船の無害通航権を認めており、潜水艦は水上を航行し、その旗を示すことを条件に無害通航権が明示的に認められている。しかし、重要なことはSSN-AUKUSが国際海峡、特に群島海域を通過することができるかである。
(5) オーストラリアはトレス海峡とマラッカ海峡、シンガポール海峡に囲まれている。潜水艦は、国際海峡において「通常の継続的かつ迅速な通過方法」による通過通航権を享受することができるが、上述の海峡は浅く、混雑しており、航行が難しく、潜水艦にとって望ましい航路ではない。
(6) インドネシア、パプアニューギニア、フィリピンなどの群島海域における群島航路帯通航権もSSN-AUKUSにとって重要である。指定された群島航路帯または通常使用される航路帯内では、船舶は入口から出口まで群島海域を通航することができる。その場合、潜水艦は浮上することを求められていない。群島国家はUNCLOSのもとで一貫して行われる潜水艦の通航を規制する権限は非常に限られている。
(7) SSN-AUKUSがオーストラリア海域から東南アジアの海峡と群島を通って南シナ海と東アジアに展開する能力は、UNCLOSで認められている航行の自由に基づいている。通過通航または群島航路帯通航に従事する潜水艦の航行を妨げることはできず、この通航権は、国連海洋法条約と整合的に実施される場合、停止することはできない。例外的な航行規制のためにSSN-AUKUSを選び出そうとする試みは、UNCLOSと一致しない。
(8) SSN-AUKUSは、オーストラリア海域を越えて航行の自由を享受し、太平洋、東南アジア、インド洋などでインド太平洋における哨戒を自由に行うことができる。これは、UNCLOSの分析から明らかである。UNCLOSでは、商船と潜水艦を含む軍艦の航行権はほとんど区別していない。しかし、UNCLOSにもかかわらず、原子力船と軍艦の航行の権利に関して緊張が残っており、SSN-AUKUSは最終的にインド太平洋の論争の海を航行する可能性がある。すでにその兆候は現れてきている。ニュージーランドは、SSN-AUKUSがニュージーランドへの寄港を禁じているが、タスマン海の哨戒を行う際にニュージーランドの海域を航行することには影響を与えていない。
(9) 南太平洋全体がラロトンガ条約の下で指定された非核地帯である間、原子力艦船および核武装艦艇の航行の自由は条約の下で規制されている。しかし、ラロトンガ条約の規制はオーストラリアの太平洋の隣国の一部がAUKUSとSSN-AUKUSの取得がラロトンガ条約と平然と並立するかについて懸念することを止めるものではない。東南アジア内では、危険物を運ぶ船舶と関連する核問題についても懸念が寄せられている。この懸念は、東南アジア非核兵器地帯条約の下での非核地帯としてのASEANとも整合している。それでも、ASEANの条約はラロトンガ条約のように航行の自由に影響を及ぼすことはない。
(10) 寄港と非核地帯の制約が、SSN-AUKUSが航行できる海域を制約する可能性は低い。しかし、一部の国の一方的な行動がオーストラリアに影響を与える可能性がある。そのような行動の可能性は、「SSN-AUKUSは戦闘のために建造された」ため、SSN-AUKUSの通航を禁止するというインドネシアの提案に見られるような地域の政府の声明によってその可能性が強調されている。
(11) 軍艦は、伝統的に旗国政府が相手国に対し軍艦の入港許可を求めることなく外国の港に入ることはできない。この制約は領海内では適用されないが、一部の沿岸国は外国軍艦の領海への進入について通知または許可の後にのみ領海に入ることができると主張している。この立場を前進させるインド太平洋諸国には、中国、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、パキスタン、フィリピン、バヌアツ、ベトナム等が含まれる。南シナ海における中国の主張は米国の航行の自由作戦によって定期的に挑戦されている。これは、一部の東南アジア諸国が南シナ海、台湾海峡、または東アジアでの海上における緊張が高まった場合にどのように対応するかという問題を提起する。SSN-AUKUSが、オーストラリアから南シナ海、さらに北の海域へ進出する航路として東南アジアの海域を使用することがすでに懸念されている。
(12) UNCLOSは、平時における国際的な法的枠組みを定めている。しかし、地域の武力紛争が勃発した場合、中立海域を通過する交戦国のものと見なされる可能性のある艦船の航行の自由について、さまざまな立場が採られると考えられる。1936年のモントルー条約に基づき、トルコがロシア軍艦の黒海への出入りを拒否したことは、武力紛争中の軍艦の航行については慎重に取り扱う必要があることを示している。
(13) 将来地域紛争が発生した場合に、東南アジアではASEAN加盟国が特に法的中立性を護ろうとするかもしれない。ASEAN加盟国は、交戦国の軍艦、または紛争で一方の行為主体を支援する軍艦に一方的に海域を閉鎖する可能性がある。オーストラリアは、SSN-AUKUSが常に航行権を享受することを確実にするために、現在および将来の外交的基盤を構築するよう着手する必要がある。
記事参照:The navigational rights of AUKUS submarines
AUKUS navigational rights are submerged in regional challenges
関連記事:3月21日「インドネシアはAUKUSの原子力潜水艦の通航を合法的に停止できるか?―シンガポール専門家論説」(The Interpreter, March 21, 2023)
http://www.spf.org/oceans/analysis_ja01/_20230321.html#scrollnavi0

6月8日「QUADは安全保障を指向した新しいものになるのか―インド専門家論説」(Observer Research Foundation, June 8, 2023)

 6月8日付のインドのシンクタンクThe Observer Research Foundationは、同Foundation戦略研究課程研究員Premesha SahaとVivek Mishraの “QUAD 3.0: A security-oriented reincarnation?”と題する論説を掲載し、ここで両名はインド、米国、オーストラリア、日本で構成されるQUAD 2.0は、インド太平洋地域で中国との競争が激しくなっているため、広島サミット直前に米国で行われた日米豪印の国軍司令官、参謀長、上級部隊指揮官に英国からも加わった会議で協議されたように、安全保障協力の段階を引き上げ、新しいQUAD 3.0となる可能性が出てきたとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2017年にQUAD 2.0は発足して以来、4ヵ国の首脳はQUADが安全保障に関わる少国間枠組、あるいは公の軍事組織に進むことはないと繰り返し表明してきたが、少国間枠組あるいは軍事組織に進むかについて審議が何度か行われてきた。広島で開催される日米豪印首脳会議の直前の2023年5月15日から17日にかけて、米国で行われた日米豪印の制服組トップによる会議では、日米豪印が今や明確な安全保障志向を持つべきかどうかについての議論が提起されている。
(2) 信頼できる地域抑止力を生み出すための安全保障の必要性と中国に対する攻勢国の慎重な姿勢の間で綱渡りをしているQUADにとって、大きな変革が起こる可能性はある。会議は、U.S. Indo-Pacific Command司令官John C. Aquilino海軍大将が主催し、自衛隊、Australian Defence Forces、Indian Armed Forcesの制服組トップが出席した。QUAD4ヵ国に加えて、英国から中将級の代表が参加している。
(3) 米豪英がAUKUSを締結していることを考えると、日米豪印の制服トップの会議に英国の代表が出席したことは、会議参加者がQUADに安全保障の側面を追加するための最初の措置を講じている可能性があるとの見方を強めさせるものである。とはいえ、QUADによる安全保障の焦点は、現在、インド太平洋全域ではなく、太平洋戦域に限定される可能性がある。
(4) この会議を、インド太平洋地域が現在取り組んでいる共通の安全保障問題やその他の課題について話し合うために当局者が集まった一般的な会議として見る意見も出されている。たとえそうだとしても、会議の性格は微妙である。インド国防参謀長(Chief of Defence Staff)は、インド太平洋安全保障対話の第1回会合で、「効果的な提携による抑止」に関するインドの見解を提示した。現時点で、QUADが本当に「安全保障協力を次の段階に引き上げている」のかどうかを確認することは困難である。
(5) QUADの安全保障協力段階を引き上げる方向を指摘する憶測、議論、分析は新しいものではない。しかし、首脳会議の共同声明は、QUADの焦点がワクチン外交、重要な新技術、気候変動、海洋状況把握などの非伝統的な安全保障問題にあることを明確に示している。QUADのそもそもの起源は2004年のインド洋の津波災害によるものであり、救援および救助活動を実施するために海軍間の「運用調整」であったことも考慮に入れる必要がある。
(6) 広島での最近の日米豪印首脳会議後に発表された共同声明は、日米豪印がASEAN、環インド洋地域協力連合(Indian Ocean Rim Association)、太平洋諸島フォーラム(Pacific Islands Forum)などの組織とその加盟国との協力を強化しようとしていることを示している。インド洋や太平洋島嶼国、インドネシアやフィリピンなどの群島諸国が直面している最大の課題は、海面上昇や津波などの自然災害につながる気候変動である。QUAD諸国の海軍は、そのような危機の時にこれらの沿岸諸国に最初に手を差し伸べたいのであれば、積極的でなければならない。QUAD諸国と英国の海軍が、これらのインド洋と太平洋島嶼国の海軍の能力構築と訓練にどのように役立つかにも焦点を当てるべきである。
(7) この制服組トップによる会議は、太平洋戦域における米国の国防戦略の円滑な実施を確保するために同盟を構築し、提携を強化している米国によって主催された。2023年2月にワシントンで開催されたインドの国家安全保障補佐官と米国国防副長官との会談では、「この地域で争われている戦略的環境に対処するために、米国とインドの軍隊間の調整を深める方法」について話し合われている。米国のJohn C. Aquilino海軍大将はまた、米印間の軍事協力が史上最高の水準にあると何度か指摘している。インド洋地域での協力を拡大するために、米国はインドと協力し、東南アジアでの影響力を深める必要がある。日本は、インド太平洋における米国による新たな安全保障上の焦点の中心であり続けている。太平洋における日米比の3国間協議が進行中である。オーストラリアと米国は、安全なインド太平洋地域の確立のために2019年にツバルで太平洋島嶼国によって採択された「ブルーパシフィック大陸2050戦略」の実施に協力している。オーストラリア、ニュージーランド、日本、英国を含む米国主導のブルーパシフィックの提携国は、この地域における安全保障関連の議題を促進するための重要な参加国である。これらの参加国のほとんどは、その構成国と目的においてQUADと重複している。インド太平洋地域で中国との競争が激しくなるにつれて、日米豪印諸国だけでなくより小さな地域諸国にとって、日米豪印諸国は当面の関心の舞台の舵取りをすることになるため、4ヵ国の外交、影響力、そしておそらく最も重要な安全保障の範囲を拡大するために協力する必要がある。
記事参照:QUAD 3.0: A security-oriented reincarnation?

6月8日「インド太平洋諸国の沿岸警備隊の協力体制―シンガポール・日専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, June 8, 2023)

 6月8日付、米シンクタンクPacific Forum, Center for Strategic and International Studiesの週刊デジタル誌PacNetは、シンガポールのシンクタンクS Rajaratnam School of International Studies上席研究員John BradfordとYokosuka Council on Asia-Pacific Studies(YCAPS)のFree & Open Indo-Pacific研究員Scott Edwardsの” Coast Guard Cooperation: Heading Off a Troubling Storm?”と題する論説を掲載し、ここで両名は多くの国の沿岸警備隊が海をより安全にするための解決策を見出す必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 5月4日、シンガポールで開催されたInternational Maritime Security Conference(国際海洋安全保障会議:以下、「IMSC」と言う)では、インド太平洋地域9ヵ国の沿岸警備隊の幹部が集まり、将来の協力に向けた優先事項を話し合うという、初めての会合が行われた。また6月第2週、日本、フィリピン、米国の海上保安庁・沿岸警備隊は、初の共同訓練を実施する。これらは、複雑化する海洋における課題に直面し、海洋ガバナンスを推進し、海洋秩序を維持することを目的とした海洋安全保障協力の高まりを示している。2004年以来、各国の沿岸警備隊の指導者達はHead of Asian Coast Guard meetings(アジア海上保安機関長官級会合:HACGMと言う)に集まり、2017年にはCoast Guard Global Summit(世界海上保安機関長官級会合)が設立された。2022年には、インドネシアがASEAN Coast Guard Forum(ASEAN沿岸警備隊フォーラム)を組織し、2023年から制度化することを目指している。これらの取り組みにより、この地域が直面する複雑で相互に関連する海洋の脅威について相互に理解を深め、具体的な協力や統合運用の機会を見出すことができる。
(2) インド太平洋地域では、U.S. Coast Guard(以下、「USCG」という)と海上保安庁(以下、「JCG」と言う)の間で、最も進んだ海上法執行協力の関係が構築されている。2022年、両国は提携を「法の支配の取組における誠実と仁愛に基づいた平和と繁栄のための強固な連携(SAPPHIRE)」に拡大した。これは、統合作戦、訓練、能力開発、情報共有のための標準的な手順に焦点を当てている。USCGとJCGは、日本周辺海域で高度な共同演習を行い、違法に活動する模擬外国船を阻止する訓練を実施し、またグアムでの麻薬撲滅活動、ハワイ沖で遭難したフリーダイバーの救助活動も行っている。
(3) 日本は、2016年にフィリピンと覚書を締結し、タウィタウィ島周辺での共同海賊対処活動を可能にし、インドとは長年にわたって覚書を締結しており、毎年行われるSahyog Kaijin演習を支援している。一方でインドは、バングラデシュ、韓国、ベトナムの沿岸警備隊と覚書を締結し、スリランカ、モルディブとともに国際沿岸警備隊演習Dostiを開催している。また、米国は、海上の安全、安全保障の協力、調整、情報共有を促進することで地域の安定を図ることを目的とした年次指導者フォーラム「東南アジア海上法執行構想」を主催している。
(4) 東南アジア諸国においても、効率的・効果的な協力体制が整いつつある。Vietnam Coast Guard(ベトナム海上警察:以下、「VCG」と言う)とインドネシアのBakamlaの覚書は、「作戦協力を強化するための趣意書」に発展し、VCGはカンボジアの海上保安国家委員会とも覚書を締結している。また、三ヵ国海上保安協定が提案され、Philippine Coast Guard (以下、PCGと言う)、Bakamla、そしてマレーシアの海上保安機関(Maritime Enforcement Agency)の間で、スールー海やセレベス海での哨戒を調整することになっている。
(5) 沿岸警備隊と海軍の協力も進んでいる。2002年から米国が主催しているこの多国間海軍演習(SEACAT)には、2016年から沿岸警備隊も参加している。2022年には7カ国の沿岸警備隊が参加したほか、警護の役割を持つ複数の海軍も参加した。海軍を中心とするシンガポールのInformation Fusion Center(情報融合センター)には、韓国を含め複数の海上保安機関が連絡官を派遣している。
(6) このような協力の拡大は、3つの傾向によってもたらされている。
a.この地域で認識されている脅威は、より複雑なものに進化している。犯罪者は、国境を越えた麻薬などの不正商品の世界的な流通を促進するために地域の航路を利用し、海賊や海上での武装強盗を通じて、世界的な流通を直接攻撃することで利益を得ようとしている。
b.海洋は地域の発展にとって重要であり、その回復力と保護が特に重要となっている。
c.海洋ガバナンスの強化、特に海上安全、海洋環境保護、海上法執行の強化に関連して、地域諸国は海上における警護効果を向上させるため、沿岸警備隊の創設と拡充に一層の注意を払っている。
(7) 国家間の国境紛争が安定化する一方で、南シナ海や東シナ海では緊張が高まっている。国防の手段として、沿岸警備隊は海軍よりも挑発的ではないと認識されていたが、国際的対立の最前線に立つことが多くなった。地政学的な緊張が深まり、国家間の紛争が海上で先鋭化する中、沿岸警備隊の指導者達を幅広く集めることは、今後ますます重要になる。
(8) 2013年、中国の複数の海事機関が統合され、中国海警総隊(以下、「CCG」と言う)が誕生した。CCGは、世界最大規模で、最も重装備の沿岸警備隊であり、2021年に中央軍事委員会の指揮下に置かれた。それ以来、中国はこのCCGを、国家が支援する海上民兵とともに、東シナ海と南シナ海の紛争海域に派遣し、海上での秩序を守ることよりも、支配権を主張し主権を示すことを目的とする任務を遂行してきた。中国の近隣諸国は、それに対応する必要性を感じている。特に日本やフィリピンでは、CCGの規模や作戦の進展速度が急速に拡大している。偶発的な事故件数は増加の一途をたどっており、人命や危機に発展する危険性は高まっている。そのため、対話と外交によって緊張を緩和し、必要な危機管理機構を構築することが必要になっている。
(9) CCGはこのような協力に焦点を当てた対話のほとんどから姿を消している。2022年のCoast Guard Global Summit(世界海上保安機関長官級会合)とHACGMの会議にCCGは出席しなかった。5月3日から5日開催のIMSCでも同様に欠席した。*CCGと東南アジアの沿岸警備隊との間の協力の欠如は、厄介な兆候を示すもので、近年、CCGがロシアと締結した新しい協力体制は、インド太平洋地域の多くの人々を安心させることはない。沿岸警備隊の役割の拡大に伴い、沿岸警備隊同士の対話とそれが育む協力の重要性は増しているが、溝は存在する。そして、より多くの国の沿岸警備隊が、海をより安全にするために必要な解決策を見出す準備をすることが必要である。
記事参照:Coast Guard Cooperation: Heading Off a Troubling Storm?
* IMSC 2023は5月3日から5日の間に開催されており、原文ではlast week’sとされているが、該当するIMSCの行事が見当たらないことから、対象となるのはIMSC 2023と考え、5月3日から5日開催のIMSCとした。)

6月10日「アジア太平洋における米国のシーパワー―米専門家論説」(Real Clear Defense, June 10, 2023)

 6月10日付の米国防関連ウエブサイトReal Clear Defenseは、弁護士で米Wilkes University政治学特任教授Francis P. Sempaの”American Sea Power in the Asia-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでFrancis P. Sempaは、西太平洋における米中間の戦争は今後数年のうちに現実のものとなる可能性があり、その場合、シーパワーが戦闘に大きな役割を果たすことになるが、米国は海に焦点を当てることを放棄したとして、要旨以下のように述べている。
(1) 西太平洋における米中間の戦争は、数年のうちに現実のものとなる可能性がある。その場合、シーパワーが戦闘に大きな役割を果たすことになるだろう。アジア太平洋地域で中国は、紛争の場に地理的に近いという明らかな利点があり、地域海軍の優位性を獲得するために海軍力を拡張してきた。U.S. Naval War CollegeのSam Tangrediが指摘するように、数は重要であり、現在の傾向が続けば、10年後には中国の人民解放軍海軍(以下、「PLAN」という)の艦船は460隻に達し、米国は260隻に減少する。米国の技術的優位性が中国との戦争で均衡を崩すと主張する人々もいるが、Sam Tangrediは彼等が歴史を無視していると主張している。Sam Tangrediは、ペロポネソス戦争から第2世界大戦を経て冷戦まで、海軍の衝突が目立った28の戦争の結果を研究し、3つを除くすべての海戦で、数の多い国が勝利していることをつきとめた。
(2) 英国の地政学者Colin S. Grayは、欧米の政策立案者たちに、「大国が大国に対して繰り返し成功を収めてきたことには、単なる偶然と片付けられない歴史的な様式がある」ことを認識するよう促している。彼の主張は、「優れたシーパワーは、戦争に勝利することを可能にする戦略的な見返りを生み出す」というものであった。シーパワーには、経済的・物流的、地政学的、軍事的要素がある。英米は、優れたシーパワーを効果的に発揮させるには、陸上戦力、さらには航空戦力に変換する必要があることを理解していた。たとえば、Winston Churchill英首相は、ユーラシア大陸や世界の覇権を狙う大陸勢力に勝利するためには、優れたシーパワーが重要であることを英国の歴史に目を向けて説いた。それは、フランスのルイ14世やナポレオン率いる軍隊に勝利し、第1次世界大戦でドイツ艦隊を無力化できたのは、英国のシーパワーだったこと、さらに第2次世界大戦では、英米のシーパワーとエアパワーにより、連合国は世界大戦のあらゆる戦場に兵員と物資を輸送し、大西洋の戦いと中央・南西太平洋の島嶼での戦役に勝利したことである。
(3) 中国との戦争は避けられないものではない。米中間の新たな冷戦は冷えたままであってほしいが、その冷戦を制するのは、広義のシーパワーであろう。地政学的には、米国は孤立した海洋国家であり、北米大陸の南北には友好的で比較的弱い国々が存在する。中国は、敵対的な海洋国家(日本、オーストラリア)、潜在的に敵対的な陸上国家(インド、ベトナム、韓国)、そして現在中国と同盟関係にあるもう一つの大国(ロシア)を含むユーラシア大陸の一部における海洋国家であり陸上国家でもある。
(4) 1980年代、米海軍長官John Lehmanは、アメリカの冷戦勝利に不可欠な役割を果たした海洋戦略を策定・実施することで、シーパワーの理論を政策に反映させた。John Lehmanは、Jimmy Carter大統領時代に、米国の海軍力が低下していくのを目撃し、Ronald Reaganを含む志を同じくする国家安全保障戦略家や政治家とともに「現在の危険に関する委員会」を結成し、ソ連の地政学的挑戦に対応するために軍事力、特に海軍力を飛躍的に高めることを提案した。そしてJohn Lehmanは海軍長官として、600隻の海軍艦艇の建造と、ソ連の重要な軍事資産を危険にさらすことを目的とした海洋戦略の策定を監督した。さらにJohn Lehmanは、米国と同盟国の海軍が大規模な攻撃志向の海軍演習を行い、米国の海軍能力と戦略がソ連の主要軍事施設を直接脅かすことができるという警告をソ連の指導者に送った。John Lehmanによれば、Soviet General Staff(ソ連参謀本部)はクレムリンの指導者に、米軍と同盟軍の海軍力から適切に防衛するには、ソ連の空軍と海軍の予算を3倍にする必要があると警告したという。Mikhail Gorbachevが認識していたように、ソ連経済はこの課題に対応できていなかった。
(5) John Lehmanは、冷戦後の海軍の衰退が、今日の中国、ロシア、北朝鮮、イランの挑戦を招いたと警告している。Biden政権はこの事実に気づいていないようで、2024年の海軍予算案では、米海軍の大幅な削減を実施し、12隻近い艦船の早期退役と中国の侵略に対する主要な抑止力となっている重要ミサイルシステムのオフライン化を余儀なくさせようとしている。また、31隻の新造船を要求していた海兵隊のための新しい水陸両用戦艦艇も予算案に含まれていない。John Lehmanは2018年に、「世界的な影響力を行使したいと願う国家は世界的な海軍を維持するのに対し、海に焦点を当てることを放棄した国家はその力の衰退と希望が薄れ行くのを見ることになる」と述べている。
記事参照:American Sea Power in the Asia-Pacific

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) New Zealand in AUKUS? The political Kiwi conundrum over Pillar 2 membership
https://breakingdefense.com/2023/06/new-zealand-in-aukus-the-political-kiwi-conundrum-over-pillar-2-membership/
Breaking Defense, June 2, 2023
By Tim Fish, Freelance defence journalist 
7月2日、防衛問題フリージャーナリストTim Fishは、米国防関連デジタル誌Breaking Defenseに、“New Zealand in AUKUS? The political Kiwi conundrum over Pillar 2 membership”と題する論説を寄稿した。その中で、①ニュージーランドの国防大臣は、AUKUSの軍事分野に関する先端技術協力である「第2の柱(Pillar 2)」への参加を、政府が検討する意向を示したと述べている。②第2の柱の支持者は、未来の軍事技術の発展によって得られる安全保障と経済的な利益を強調する。③一方、反対者は、AUKUSへの参加がニュージーランド政府の独立した外交政策や非核の南太平洋地域への関与を終わらせる可能性を懸念している。④AUKUSに参加するということは、ある程度の戦略的なあいまいさを捨て、明確な選択をすることになるとの主張がある。⑤ニュージーランドの次の総選挙は10月14日に予定されているが、現在の与党である労働党も主要な野党である国民党も、第2の柱への加盟についての立場を示していない。⑥多くのニュージーランド人は中国に立ち向かうことを支持しているが、必ずしもAUKUSをそのための最善の手段とは見ていないという意見もあるといったことが述べられている。

(2) The “Freedom of Navigation” Claimed by the United States is Not “Freedom of Navigation” under International Law
http://www.scspi.org/en/dtfx/%E2%80%9Cfreedom-navigation%E2%80%9D-claimed-united-states-not-%E2%80%9Cfreedom-navigation%E2%80%9D-under-international-law
South China Sea Strategic Situation Probing Initiative (SCSPI), June 3, 2023
By Lei Xiaolu, an associate professor in China Institute of Boundary and Ocean Studies (CIBOS), Wuhan University(雷筱璐、武漢大学中国辺界与海洋研究院副教授)
2023年6月3日、中国・武漢大学中国辺界与海洋研究院副教授である雷筱璐は、北京大学の南海戦略態勢感知計画のウエブサイトに" The “Freedom of Navigation” Claimed by the United States is Not “Freedom of Navigation” under International Law "と題する論説を寄稿した。その中で雷筱璐教授は、「航行の自由(以下、FONと言う)」は米国の海洋秩序に関する核心的な主張であり、これまで中国の海洋活動を非難・弾圧するために用いられてきたが、米国が追求する「FON」と国際法で認められている「FON」はまったく同じものではないと前置きした上で、米国は主権的平等と相互理解を基盤として、関係国との2国間または多国間のルートを通じて、永続的かつ平和的な解決を求める気はなく、自国の国益を十分に守ることができないと判断した場合には、国際的機構から離脱し、1国主義的に国益を実力で守ろうとするとして対米批判を展開している。そして雷筱璐教授は、米国の「FON」と「ルールに基づく海洋秩序」が同じような意味合いを持つのであれば、あるいは、本当に自らの立場を理解し受け入れてもらいたいのであれば、命令口調で自国の基準や解釈に従って行動するよう他国に要求するのではなく、対等な立場で航行権に関する他国の立場や懸念を真剣に考慮し、2国間や多国間の取り決めを通じて問題を解決すべきであると主張している。

(3) Taiwan’s Navy Caught Between Two Strategies to Counter Chinese Threat
https://news.usni.org/2023/06/07/taiwans-navy-caught-between-two-strategies-to-counter-chinese-threat
USNI News, June 7, 2023
2023年6月7日、ニュージーランドの安全保障問題専門家Tim Fishは、The U.S.Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsに" Taiwan’s Navy Caught Between Two Strategies to Counter Chinese Threat "と題する論説を寄稿した。その中でFishは、①中華民国海軍は中華人民共和国による全面的な侵略の危険性への対応、②台湾の国境に日常的に嫌がらせを行う中国軍による絶え間ないグレーゾーン活動への対抗という2つの脅威に直面しており、その両方に対応できる戦力構造の構築に苦慮しているとした上で、蔡英文政権は新たな非対称能力の開発を進める防衛力構想(ODC)を意識した小型艦艇の調達計画のいくつかを承認したが、主な海軍装備計画は依然として伝統的な均衡防衛に重点を置いているなどと、蔡政権の安全保障政策の問題点を指摘している。