海洋安全保障情報旬報 2023年05月11日-05月20日

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5月11日「台湾防衛のための装備、弾薬等の調達に関する米議会委員会の議論―米国防誌報道」(Defense News, May 11, 2023)

 5月11日付の米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは、“Pacific fleet commander to brief China committee on Taiwan defense”と題する記事を掲載し、米議会の中国委員会の委員長による、米国が台湾防衛のために必要な資源を緊急に調達しなくてはならないという主張について、要旨以下のように報じている。
(1) U.S. Pacific Fleet司令官Samuel Paparo大将が、装備品・弾薬・補給品等の資源の所要と不足、能力の不足、近代化の取り組み、そして同盟国や提携国との物流と調整などの台湾の防衛に必要な事項を米議会の議員に説明する予定だと、中国委員会の職員が述べている。「ウクライナの事案から大々的な警鐘を受けているにもかかわらず、備蓄品を新たに補充し、(太平洋の)戦域に急速に増やして、事前に配備しておくために必要なことをまだ行っていない・・・地理を考えると、我々はそこにあるものだけで戦うしかない」と委員会の委員長Mike Gallagher下院議員が5月10日の声明で語っていた。
(2) 4月に、中国委員会は台湾をめぐる図上演習を開催し、Mike Gallagher委員長はその後のインタビューで、優先度の高い弾薬の生産を増加させ、台北への190億ドルの武器売却の未処理案件を片付け、台湾とU.S. Department of Defenseのサイバーセキュリティ協力を強化する必要性を、図上演習は浮き彫りにしていると述べている。「太平洋へ、何とかして武器・弾薬を急速に増強することが可能だと想定するのは無知である」とMike Gallagher委員長は5月10日に語っている。この図上演習では、米国が台湾をめぐる中国との対立において、1,000から1,200発の長射程対艦ミサイルが必要であるが、現在、米国の在庫は250発未満であることが明らかにされた。
(3) Mike Gallagher議員は、2023年の国防政策法案で承認されたように、複数年にわたる弾薬調達資金として議会が定める政府歳出予算の支出を繰り返し要求した。しかし、2023会計年度の政府資金調達法案は、「ウクライナとその支持者に提供された防衛物資と差し替えるための重要な弾薬の生産を前倒しするため」に、2年間でU.S. Armyに6億8,700万ドルを割り当てたが、これは彼が十分だと述べたものよりも遥かに少ないものである。「我々は、(中国共産党)の侵略を抑止する行動と、危機が始まる前に台湾を完全に武装させる行動を採る必要がある。・・・米国は、台湾への190億ドルの武器の未処理案件を片付け、強化された共同軍事訓練を実施し、そしてこの地域を通して我々の軍事姿勢を強化するという我々の公約を果たす必要がある」とMike Gallagher議員は声明で述べている。
(4) U.S. Department of Defenseも、緊急時大統領在庫引き出し権(PDA:presidential drawdown authority)を使って、既存の米国の備蓄品から台湾に武器を移転する準備をしている。これは、Joe Biden米大統領がロシアの侵略に対抗してウクライナに武器を供給したのと同じ方法である。
記事参照:Pacific fleet commander to brief China committee on Taiwan defense

5月11日「北極圏におけるロシア問題―フィンランド専門家論説」(Foreign Policy Research Institute, May 11, 2023)

 5月11日付の米シンクタンクForeign Policy Research Instituteのウエブサイトは、Finnish Institute of International Affairs研究員Minna Ålanderの” High North, High Tension: The End of Arctic Illusions”と題する論説を掲載し、ここでMinna Ålanderはロシアの北極圏における軍事態勢に対して、西側諸国はバルト海・北大西洋・北極圏を一貫した地域として捉え、ロシアに悪用されたり、誤解されたりする曖昧さを残さないようにすることが重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 北極圏は長い間、地政学的な緊張のない地帯と考えられていた。ロシアのクリミア併合後にNATO加盟国とロシアの共同軍事演習が中止されたことを除けば、ソフトな形での北極圏協力が続けられてきた。2008年のグルジア(現ジョージア)侵攻、2014年のクリミア併合、そしてシリアのアサド政権を支持する軍事作戦にもかかわらず、協力は継続されてきた。北極圏の半分はロシア領であるので、特に気候変動や環境破壊といった地球規模の問題は、ロシア抜きでは語れない。しかし、2022年にロシアがウクライナに対する侵略戦争を本格化させたことで、ほとんどの協力形態が無期限停止となっている。
(2) 北極圏では2022年以前から、ロシアの軍備増強と武力を示威する演習の増加により、緊張が高まっていた。2023年4月中旬にロシアがコラ半島周辺で行った軍事演習は、NATOを最も心配させる大規模な潜水艦行動を含んでいた。過去10年間で、ロシアはソ連時代の北極圏軍事基地のほとんどを西側国境近くに再建し、その数では、NATOを3分の1ほど上回っている。2021年にNorthern Fleet Military Districtが独立した軍管区となり、所属する弾道ミサイル搭載原子力潜水艦8隻はロシアの主要な第2撃力を構成し、そのほかに、攻撃型潜水艦19隻、巡洋艦2隻、駆逐艦・フリゲート7隻などを擁し、現在修理中の空母1隻も含まれる。また、第45航空・防空軍、第14軍団、沿岸軍も北方艦隊軍管区に配置されている。
(3)ロシアにとって北極圏は、安全保障上だけでなく、経済的にも不可欠な領域である。ロシア産出の天然ガスの80%、石油生産の17%は北極圏が占めている。気候変動により利用し易くなった北極海航路(以下、「NSR」と言う)の権益を守ることは、ロシアにとって最優先事項である。ロシアのエネルギー輸出にとって、この航路は重要であるが、ロシアのウクライナ侵攻により、NSRの輸送は一時的に停止し、石油積出しターミナルの建設など、大型のエネルギー基幹施設計画も、現時点では見通しが立っていない。ロシアは、欧米の制裁により重要性が増した東アジアの市場へのアクセスにはNSRの通年航行を確保する必要があるため、原子力砕氷船への投資を増やしている。
(4) ロシアには、放射性廃棄物のずさんな保管にまつわる長い歴史がある。冷戦時代のソ連は、北極圏の海岸線を放射性廃棄物の捨て場として考えていた。1960年代後半から1980年代にかけて、約18,000個の放射性物質が北極圏の沿岸海域に投棄された。廃棄物の多くは退役した潜水艦の使用済み核燃料だが、原子炉や、1980年代に意図的に沈められた潜水艦と2003年に曳航中に誤って失われた潜水艦2隻も含まれる。最近の研究や潜水調査で、漏洩の証拠は見つかっていないが、前者の潜水艦の原子炉の封止材は50年しか持たないと見積もられており、今後10年で漏洩が始まる可能性がある。後者の潜水艦は、搭載されている800kgの使用済みウラン燃料の密閉システムがない。2021年のArctic Councilの議長国であったロシアは、最も緊急性の高い核廃棄物を2035年までに北極海から撤去する計画を発表した。しかし、ロシアのウクライナ侵攻で国際協力が停止している今、ロシアが単独でこれを実施する資金力と技術力、そして意欲があるかどうかは、怪しくなっている。また、放射性物質が時間の経過とともに分解していくため、引揚げの可能性は低くなっていく。
(5) ノルウェー、スウェーデン、フィンランドは、北極圏におけるロシアとの協力に誠意をもって取り組んできたが、ロシアはこの地域を緊張度の低い地域とすることで軍拡の隠れ蓑としてきた。2021年、EUはロシアが沈めた原子力潜水艦2隻を引揚げる作業の費用の半分を負担することを提案した。以前、スウェーデンとノルウェーは、核廃棄物問題に取り組むロシア船「セレブリャンカ」の装備に財政支援を行っていたが、ロシアは同船を核実験・開発計画に使用した。欧州の安全保障秩序が崩壊した今、北極圏が地政学的緊張の高まりから隔離された平和な地帯であり続けることは期待できない。北欧の小国である近隣諸国は、ロシアとの協力関係の再開にますます慎重にならざるを得ない。なぜなら、ロシアはそのような枠組みを協力国の利益に反する形で利用するからである。
(6) これまで北極圏は、NATOの範囲から大きく外れていた。しかし、フィンランドがNATOの31番目の加盟国となり、スウェーデンも近いうちに加盟が期待されているため、北極圏は必然的にNATOの関連領域となる。同盟の観点からすると、北大西洋と北極海は、北米から欧州の北極圏に援軍を届けるために極めて重要である。紛争が発生した場合、グリーンランド・アイスランド・イギリス間における同盟国の航行の自由を確保することはNATOにとって重要であり、このラインを破壊して北アメリカの同盟国をヨーロッパから遮断することは、ロシアにとって同様に重要なことになる。西側諸国は、バルト海・北大西洋・北極圏を一貫した地域として捉え、ロシアに悪用されたり誤解されたりする曖昧さを残さないようにすることが重要である。
記事参照:High North, High Tension: The End of Arctic Illusions

5月11日「北極圏における大量のマイクロプラスチックが環境に与える影響について―英環境学者・ドイツ海洋ごみ問題専門家・カナダ海洋学者論説」(Arctic Today, May 11, 2023)

 5月11日付の環北極メディア協力組織ARCTIC TODAYのウエブサイトは、英University of Birmingham研究員Deonie Allen、ドイツAlfred Wegener Institute研究員Melanie BergmannおよびカナダDalhousie University研究員Steve Allenの“Microplastics: we’ve found startling quantities in the ice algae that are essential for all Arctic marine life”と題する論説を掲載し、3名は、北極圏の氷雪藻で大量のマイクロプラスチックが発見されたことを明らかにし、それが環境にどのような影響を与えうるか、要旨以下のように述べている。
(1) 2022年夏、われわれはフラム海峡東部に位置する北極圏のハウスガルテンという調査地区で調査を実施した。そこで、流氷から氷床のコアや海水、氷雪藻などを採取した。メロシラ・アークティカ(Melosira arctica)という藻類は、北極海の主要な藻類の1つであり、北極圏の食物連鎖や海洋生物全般にとって必要不可欠な存在である。なぜならそれは北極圏の生物に栄養を供給し、また重要な炭素吸収源でもあるからである。
(2) 調査の結果、その氷雪藻が膨大な量のマイクロプラスチックに汚染されていることが明らかになった。その量は1立法メートルあたり31,000個にのぼり、これは周辺海域の10倍である。マイクロプラスチックによる氷雪藻の汚染は、環境に重大な影響を及ぼす可能性がある。
(3) マイクロプラスチックは周囲の海水や大気などさまざまな場所からやってくる。それが氷雪藻に取り込まれる過程ははっきりとわかっていないが、氷雪藻が効果的にそれらを取り込むというのが事実である。北極海の海底で最も多くのマイクロプラスチックが見つかるのが、流氷の縁の真下あたりの海底であったことについて、その原因があまり理解されていなかったが、氷が溶けて氷雪藻が海底へと下降していくことが原因とわかった。
(4) メロシラ・アークティカは北極圏の海底や海洋生態系にとって必要なものを提供する。それは食物連鎖の底辺に位置するが、そのマイクロプラスチック汚染によって、その危険性が連鎖を通して上昇してくる可能性が生まれる。非常に微小なマイクロプラスチックは細胞壁を浸透する可能性がある。また、マイクロプラスチックやその化学物質が、プランクトンや魚類などの成長や繁殖に影響を与えることがわかっている。実験は困難であるが、マイクロプラスチックに曝露することで、あるプランクトンが通常の8倍の卵を産んだという研究結果もある。
(5) 氷雪藻のマイクロプラスチック汚染の影響についてはまだわかっていないことがあるが、環境を大きく変える可能性がある。たとえば藻の外側にマイクロプラスチックが積み重なることで日光を遮り、光合成が妨害されるかもしれない。マイクロプラスチックが藻の細胞に入り込み、光合成の機能を阻害する可能性もある。いずれにしてもこの地域の炭素吸収に影響を与えるかもしれない。我々の研究は氷山の一角を明らかにしたにすぎないかもしれない。北極圏の氷雪藻におけるマイクロプラスチックが生態系に与える影響について、今後も研究が継続されるべきである。
記事参照:Microplastics: we’ve found startling quantities in the ice algae that are essential for all Arctic marine life

5月14日「イランによる攻撃激化のため湾岸地域は警戒態勢に置かれている―米誌報道」(National Review, May 14, 2023)

 5月14日付の米隔週誌National Review電子版は、 “Iran’s Stepped-Up Aggression in the Gulf Has the Region on Alert”と題する記事を掲載し、ここでイランは最近湾岸海域において1週間で2隻の西側の石油タンカーを拿捕しており、イスラム革命防衛隊が米国内を含む米国市民と軍人を標的にし続けているなかで、米国政府はイランの活動を制限するために利用可能なすべての政府予算を使用することが不可欠であるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 2023年5月3日、イランは湾岸海域において1週間で2隻の石油タンカーを拿捕した。U.S. Naval Forces Central Command (以下、UNFCCと言う)によると、イランのIslamic Revolutionary Guard Corps Navy(以下、IRGCNと言う)がパナマ籍船「ニオビ」を拿捕した。UNFCCは声明によると、過去2年以上の間に「イランは外国籍商船15隻に対し、執拗につきまとい、攻撃し、航行を妨害してきた。」これらの事象は、米国がイラン核合意から離脱し、イランに制裁が再び課せられてからである。しかし、湾岸におけるイランの行動は、「イランの核計画の問題が解決されない限り、より広い地域の海運とエネルギーおよびエネルギー基幹施設に危険をもたらす」と専門家は指摘している。
(2) 傭船事務、乗組員の雇用・訓練、保守整備などの海洋サービス事業の世界最大手の何社かが本拠地置くギリシャは、ホルムズ海峡やオマーン湾を含むこの海域を航行する際には、「イランの管轄下にある海域外を、より慎重に」航行するよう船主に警告し、イラン近くの公海であっても離れるように非公式の警告を発しっている。ギリシャ籍の船舶の多くは、実際に湾岸地域から離れていった。Biden政権は、おそらく敵対国のイランと新たな核合意を結ぶことを期待して、イランの最近の違法行動にもかかわらず、制裁対象のイラン石油を運ぶ米国船舶の差押えを阻止したことで批判にさらされている。
(3) 5月3日に拿捕された「ニオビ」はホルムズ海峡を通過し、UAEのフジャイラ港に向かって航行していた。UNFCCの声明によると「12隻のIRGCNの高速攻撃艇が海峡の中央部付近で当該船に群がり、イラン領海への進路変更を余儀なくさせた。」。同じ声明の中で、UNFCCは、2023年4月27日にクウェートから米国に原油を運ぶマーシャル諸島籍の石油タンカー「アドバンテージ・スウィート」を「オマーン湾の公海を通過した」ときにイランが差押えしたことにも言及した。
(4) 「ニオビ」に関して、U.S. Department of Stateは「ニオビ」の解放を求めているが、イランの検察官は本船の差押えは法的告発に続く司法命令に基づいて行われたと発表している。イランはまた、「アドバンテージ・スウィート」がイラン船と衝突し、その後、複数の警告を無視して現場から逃げたと主張している。しかし、海事警備会社Ambreyは、イランによる「アドバンテージ・スウィート」の差押えは米国への対応であり、「イランは過去にもイランの石油貨物の差押えのあとに仕返し(tit-for-tat)で対抗した」と述べている。
(5) 衛星写真によると、イランが拿捕した2隻の石油タンカーはイランの港湾都市バンダレアッバースの海軍基地の近くに停泊している。「ニオビ」は、「国際的な石油密輸ネットワークに関与した」として2021年にU.S. Department of Stateによって制裁された船舶「オマーン・プライド」から2020年7月に石油を受け取ったと伝えられている。「核武装イラン連合」は声明で「ニオビ」の差押えは イランの石油輸送をめぐる紛争に関連していると強く疑っていると述べている。
(6) 漏洩した米秘密情報資料によれば、最近の船舶の差押えに加えて、イランは2023年2月にトルコとシリアを襲った壊滅的な地震の後、人道援助名目の輸送で武器と軍事装備を密輸した可能性がある。米国防当局者は匿名を条件に、この文書が「イスラム革命防衛隊関連グループに資料を入手する方法としてイラクとシリアに入る人道援助を使用する」という過去のイランの取り組みを反映していることを確認したが、文書自体が本物であるかどうかは確認できていないと述べている。
(7) シリアでのイランの無人機攻撃による米国人殺害事件など米国とその同盟国に対するイランの敵意にもかかわらず、Biden政権はイラン石油に対する制裁に消極的である。U.S. Department of Homeland Securityは、U.S. Department of Treasuryの「政策上の制限」により、米国政府は制裁対象の石油を運ぶタンカーを差押えできないと述べている。国土安全保障調査のイラン石油差押え構想に2022年度は予算が付かなかった。一方、2022年、イラン石油輸出は35%増加している。アイオワ州選出の共和党上院議員Joni Ernstが率いる12人の上院議員の超党派グループは、2023年4月27日の手紙でBiden大統領にイラン石油差押えを支持し、予算執行と予算の欠如についての説明を要求するよう求めた。
(8) 米国のイランへの制裁は、法律の最大限の範囲で執行されるべきである。イラン石油販売が増加し続け、イスラム革命防衛隊が米国内を含む米国市民と軍人を標的にし続けているため、イランの活動を制限するために利用可能なすべての政府予算を使用することが不可欠である。イランの最近の行動は、イラン政府に優しく、最終的には新しい核合意を目指す米国の政策が、イランの継続的な侵略に対する適切な対応であるかどうか、そしてそのような取引をそもそも行う価値があるかどうかという疑問を提起している。
記事参照:Iran’s Stepped-Up Aggression in the Gulf Has the Region on Alert

5月15日「東南アジアにおける海賊および武装強盗には新たな取り組みが必要―インド専門家論説」(The Diplomat, May 15, 2023)

 5月15日付のデジタル誌The Diplomatは、インドのNational Institute of Advanced Studies 助教Prakash Panneerselyamと退役インド海軍准将で同Institute非常勤教員K. G. Ramkumarの“Piracy and Armed Robbery in Southeast Asia: The Need for a Fresh Approach”と題する論説を掲載し、そこで両名は東南アジア地域で最近武装強盗が増加しつつある事実に言及し、その原因と今後の対策として諸国間のさらなる協力が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1)東南アジア海域では再び海賊や武装強盗が増加傾向にある。Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery(ReCAAP)の第1期報告書によると、アジアでは武装強盗が25件発生した。大部分がインドネシア、フィリピン、そしてマラッカ海峡とシンガポール周辺で起きている。海賊行為は起きていない。
(2) 国連海洋法会議の定義によれば、海賊は「国家の司法権が及ぶ範囲の外部」で船舶に対して行われるあらゆる違法行為であるという。したがって、司法権内部で実施される同種の行為は武装強盗ということになる。東南アジアの海は狭く、多くの海路がいずれかの国の領海や群島水域内を通っているため、上記のように武装強盗が多く、海賊はないと考えられる。いずれにしても船舶に対する違法行為の増加は、海上交通路の安全に対する懸念を高めている。
(3) 2007年から2022年にかけて、海賊行為や船舶ジャック事件は劇的に減少したが、それは多国間共同の哨戒などが実施されるようになったからである。他方2015年から武装強盗の数が増えている。これは、地域における法執行機関の弱体化を印象づけている。こうした脅威に効果的に対処するために、東南アジアで船舶に対する違法行為が増加している3つの主要因を理解する必要がある。
(4) 第1に、東南アジア海域の交通量の多さ、航路の狭さなどのために、船舶の速度が遅くなることで海賊行為の標的にされ易くなる。海賊は漁船に擬装したり、レーダーなどの先端技術を用いてもいたりするという。
(5) 第2に、地域の国々の海軍、沿岸警備隊、民間の法執行機関の行動能力が制約されていることである。それどころか法執行機関関係者と海賊の共謀も報告されている。こうしたガバナンスの弱さや腐敗に加え、海軍や法執行機関、港湾当局間の協力の欠如も問題を悪化させている。
(6) 第3に、東南アジア諸国の間で海賊などに対する国内法が異なっていることが問題である。シンガポール政府は海賊に関する特別法を制定したが、一方でインドネシアは、海賊への対処について自国の反海賊法があまり効果的ではないと指摘されている。
(7) 以上の問題点から、東南アジアにおける海賊問題の対処のためには、まだ諸国間の海洋における協力が不十分である。したがって、今日の海賊や武装強盗の性質を考慮すると、諸国間のさらなる共同対策が必要である。また、各国が統一的で厳格な法律を策定すること、海賊対策等の役割のみを担う地域機関の設立などが検討に値するだろう。
記事参照:Piracy and Armed Robbery in Southeast Asia: The Need for a Fresh Approach

5月17日「Philippine Coast Guard、能力強化、対中強硬姿勢へ―フィリピン専門家論説」(Asia Times, May 17, 2023)

 5月17日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、The Polytechnic University of the PhilippinesのRichard J. Heydarianの “Philippine Coast Guard getting muscular with China”と題する論説を掲載し、ここでRichard J. Heydarianは米国からの係争海域に対する対フィリピン防衛誓約の再確認を受けて、Philippine Coast Guardが能力を強化し、対中強硬姿勢を採りつつあるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Philippine Coast Guard(以下、PCGと言う)のMaritime Safety Services Command 司令官Joseph Coyme中将 は5月13日、PCGが最近、南沙諸島の係争海域に設置した5個のブイについて、「これらのブイは、船舶の安全航行のためだけでなく、ブイにはフィリピン国旗を立てており、主権表示の印としても役立つ。我々はこの海域における配備も強化している」と言明した。また、PCGは、2023年末までにさらに6個のブイを係争海域に配置する計画を発表した。同時に、PCGは最近、中国が過去に封鎖したこともある係争海域でフィリピンが占拠する最大の海洋自然形成パグアサ島(英語表記:Thitu Island)に居住するフィリピン人住民に日常物資を補給した。
(2) フィリピン当局によるこうした動きは、ここ数ヵ月の比中間の緊張が高まる中で南シナ海において生起したPCG巡視船2隻に対して中国フリゲートが衝突しそうになった事案からわずか数週間後に実施されたものである。また、フィリピンがU.S. Department of Defenseと新しい防衛指針に署名してから間もなく、U.S. Department of Defenseは、中国による「グレーゾーン」作戦を含むこの海域における脅威により効果的に対処するために条約同盟国を支援することを約束した。こうした米国との防衛協力の拡大に支えられて、フィリピン政府は自信と決意を強めて中国に挑みつつある。
(3) この1年間、PCGは、南シナ海において中国に対するフィリピンの主権を主張するための主要な手段となってきた。この変化の契機となったのは、2012年の海洋自然地形、スカボロー礁(2016年の仲裁裁判所裁定では、この地形は領海のみを有する「岩」で、比のEEZ内に位置するが、2012年以降中国が実効的に支配:訳者注:)を巡る危機*であった。この時、Philippine Navyの艦艇が中国漁民を違法操業で逮捕した直後に複数の中国海警総隊の海警船に挑戦され、以後のフィリピン政府と中国政府の数ヵ月にわたる対峙がPCGの転換点。当時のAquino III政権は、同様の危機回避を目的として、主要な同盟国、特に米国と日本の支援を得てPCGの強化に着手した。その後の数年間で、PCGはU.S. Coast Guardとの共同演習も拡大してきた。中国に友好的であったDuterte前大統領の退任後、フィリピン管轄海域において中国の主張に抵抗するというPCGの使命は再び重要視されるようになってきた。後任のMarcos Jr.現大統領の下で、フィリピンは、米国との伝統的な同盟関係を強化し、南シナ海において北京に対して益々厳しい姿勢をとるようになってきた。
(4) Marcos Jr.大統領は5月初めU.S. Department of Defenseを訪問し、より緊密な安全保障協力を促進することを目的とした6ページの「2国間防衛指針」文書**の署名を見守った。U.S. Department of Defenseは新指針の下で、中国の海上民兵部隊を含む、いわゆる「グレーゾーン」の脅威に共同で戦うためにフィリピンを支援することを誓約した。新指針は、「従来型の領域と非従来型の領域の両方の領域で相互運用性を構築するための道を示している」と述べ、米比両同盟国は、「威嚇に抵抗する統合された抑止力と能力」を強化するとともに、「フィリピンの防衛力近代化について緊密に調整する」としている。
(5) 同盟国米国の支援で、Philippine Navyも強化されつつある。Philippine Navyは、係争海域における中国のじわじわと強化される配備に抵抗するという意欲を高めてきた。Philippine Navy司令官Adaci Jr.中将は最近、「昨今、海洋環境は複雑になっている。各国は、領土主権を守るために、白い艦隊(各国の沿岸警備隊巡視船の塗装が白いことから、沿岸警備隊を意味する:訳者注)に依存してきたが、次第に海軍と沿岸警備隊の区別が曖昧になってきた。我々は、挑戦者が実際に我々の領海内に居座っているため、領域防衛作戦を重視すべきである」と述べ、係争海域での共有する懸念に対処するためにPCGとの協力を強化していくことを示唆した。一方、米国との安全保障協力の強化と中国との紛争激化の状況下で、フィリピン議会もPCGへの支持を強めている。たとえば、Leody Tarriela下院議員は5月10日、「最先端の空中および浮標機材」と通信システムによるPCGの強化を目的とした「PCG近代化法」として知られる法案を提出した。また、Duterte前大統領の補佐官であったChristopher Go上院議員は、上院に別のPCG近代化法案を提出した。この法案が成立した場合、PCGは12年間で4段階の強化プログラムが実施されることになる。
(6) フィリピンの海事当局は、こうした各方面からの支援の高まりを受けて、南シナ海に最近設置されたブイを撤去しようとすれば、「深刻な反撃(“serious repercussions”)」を受けることになると中国に警告している。前出のJoseph Coyme中将は、「我々の合法的に設置されたブイを故意に撤去したという証拠があれば、深刻な反撃を受けることになろう」と、詳しく説明することなく警告した。
記事参照:Philippine Coast Guard getting muscular with China
備考*:この危機の詳細については、『海洋安全保障情報月報』2022年4月号、19~24頁参照。https://www.spf.org/oceans/wp/wp-content/pdf/201204.pdf
**:以下を参照
https://media.defense.gov/2023/May/03/2003214357/-1/-1/0/THE-UNITED-STATES-AND-THE-REPUBLIC-OF-THE-PHILIPPINES-BILATERAL-DEFENSE-GUIDELINES.PDF

5月17日「インドの南シナ海態勢はまだ初期段階―インド専門家論説」(Observer Research Foundation, May 17, 2023)

 5月17日付インドのシンクタンクObserver Research Foundation(ORF)のウエブサイトは、元インド海軍士官でORFの海洋政策部門長の上席研究員Abhijit Singh の〝India’s South China Sea posture is still in its infancy ″と題する論説を掲載し、ここでAbhijit Singhはインドの南シナ海政策が初期段階でしかなく、特に中国に対して明確な意図を示せていないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 西太平洋におけるインドの活動を誇張すれば、誤解を与えてしまい、均衡の取れた政策立案には有害である。戦略評論家はしばしば、インドが軍事力の育成と利用についてどの程度「現実主義的」であるか疑問を抱く。一般的見解では、インドは国家運営の手段としてパワーポリティクスを用いることに不安を感じているとされるが、インド政府は多くの人が思う以上に、戦略的利益のために力を行使するという概念に馴染んでいるとする意見もある。
(2) インドが政治的目的のためにどのようにハードパワーを活用するかを示す実例として、2023年5月2日から8日にかけて、南シナ海で行われたインド・ASEAN海上演習(以下、AIMEと言う)が挙げられる。この演習は、インドがASEANの提携国として海上訓練を行った最初の例である。その目的は、東南アジア諸国が南シナ海での中国の主張を警戒していることを示すためと思われる。Indian Navy司令官のHari Kumar海軍大将が演習開始にシンガポールを訪れたことからも、この演習がインドにとって優先度の高いものであることを示している。
(3) インド政府は、これまでASEANとの多国間軍事演習を控えてきた。その理由の1つは、中国政府を刺激したくないというインド側の思惑である。インドの意思決定者は、中国とは意見の相違があることを認識しつつも、南シナ海を中国が支配する中で、インドもある程度の権益を確保できる係争地域と見なしている。それは、現在も同様である。太平洋に対するインドの安全保障姿勢は時代とともに変化し、西太平洋での海軍の活動にも積極的になっているが、慎重論も根強く残っている。インドとASEANの関係が包括的戦略的パートナーシップに昇格し、防衛協力が進んでいるにもかかわらず、インド政府は南シナ海の係争海域での軍事活動には慎重である。
(4) この評価は、メディアにおけるAIMEの好意的な説明と矛盾するかもしれないが、根拠がないわけでもない。AIMEは、ASEAN-インド対話などにおけるASEANとインドとの広範な協議の結果、実現した。インド政府にとって、ASEANとの防衛協力は、「東方政策」の下での他の分野での機能的協力の延長である。しかし、インドは、ASEANの多くの提携国の1つに過ぎない。
(5) ASEANの軍事外交の記録をたどると、域外の大国との軍事的関与に長い間消極的だった東南アジア諸国は、2017年、初の多国間海軍演習を実施した。それは、ASEANが経済問題を重視するあまり、防衛問題、特に南シナ海の安全保障への関心が薄れているとの考えからであった。ASEANは2011年に国防相会議(以下、ADMMと言う)を拡大したが、域外国との戦闘訓練には消極的であった。2018年、東南アジア諸国が初めて実施した海軍演習は、皮肉にも中国とのもので、東南アジア諸国が中国を敵対国ではなく、潜在的提携国であると安心させるための試みであったようだ。
(6) ASEANの軍事的関与は見せかけの側面があり、ASEANの2国間安全保障構想は、目に見える成果を得ることよりも、むしろ複数の提携国との連帯を示すことを目的としているとの見方もある。インドネシアの専門家Evan Lakshmanaは、ASEANが多様な関わりを持つようになったのは、均衡を求めるためだと指摘し、東南アジア諸国は、この地域の厄介な問題には、多様な政策手段が必要と認識していると説明する。複数の提携国と協力する目的は、紛争を避けながら最も効率的な方法で問題を解決することである。しかし、ASEANは多様性と均衡を求めるあまり、厳しい選択を迫られることもある。
(7) インド政府は、インド太平洋における法に基づく秩序を模索しており、各国が海洋法を遵守する必要性を強調している。しかし、インドは南シナ海における中国の規範違反に対して強硬な態度を採ることを控えている。インド政府関係者によれば、南シナ海での海軍演習は、航行のための利用や公海の自由を強調するもので、中国の海洋侵略に異議を唱えたり、過剰な領有権主張に反発したりするものではないという。このような理解に沿い、AIMEは南沙諸島やスカボロー礁付近の係争海域に近づかないようにした。
(8) 南シナ海におけるインドの海洋活動には、中国対応以上の側面がある。インド洋における安全保障提供者であるインドは、その役割をより広いインド太平洋地域へと広げようとしている。インドの政策決定者は、インドの貿易の55%以上が南シナ海経由であり、海洋安全保障がこれまで以上に重要なことを承知している。また、インドにとって、東南アジアへの関与は、インドの武器輸出の潜在的な市場を開拓することにもなる。東南アジアにおけるIndian Navyの存在は、信頼できる提携国、能力構築者としてのインドへの信用を高めるための手段でもある。
(9) 南シナ海におけるインドの活動は、「現実主義的」とは程遠い。先週の海上演習は、相互運用性を向上させ、作戦手順の微調整や最良の方策の共有も促進されたかもしれない。しかし、現実の政治的観点からすると、その成果は実体のないものに見える。インドとASEANの戦術能力を示したものの、演習を南シナ海の非係争地域に限定したのは、中国の虚栄心に対する譲歩と受け止められている。
記事参照:India’s South China Sea posture is still in its infancy

5月17日「インド太平洋の平和のために日印が指導力を発揮するときが来た―インド元外交官・フィリピン地政学専門家論説」(The Diplomat, May 17, 2023)

 5月17日付のデジタル誌The Diplomatは、インドの元外交官Amit Dasgupta AMとフィリピンDe La Salle University講師Don McLain Gillの“Time to Champion Japan-India Leadership for Peace in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、そこで両名は今回のG7サミットで日本が議長国を務めたことに言及し、それが日印の協力を強化し、G7が提示する幅広いインド太平洋戦略の枠組みにインドを位置づける好機であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 現在、我々は世界的な連帯で結び付けられているのではなく、分断によって縛られている。それによって平和の余地が狭くなっている。まだ感染症の世界的感染拡大の経済的悪影響から回復しておらず、ウクライナ戦争が終わる兆しはない。ヨーロッパ経済は停滞し、米国の影響力が低下し、中国が台頭している。どれも良いニュースではない。
(2) G7で唯一のアジアの国である日本がG7サミットの議長国を務めたことは、インド太平洋に特別な関心を持つG7の協調的枠組みを深めようとする日本政府の強い関与の現れである。それに加え、世界の勢力の均衡が変化するなかで、台頭しつつあるインドとの協力を深める必要を理解しており、この機会を利用してそれを実現しようとしている。
(3) 最近、習近平は中国が戦争に備えていると公式に述べている。これが台湾侵攻についてなのか、太平洋における島嶼部の獲得についてなのかははっきりしない。はっきりしているのは、中国の攻撃的姿勢の強まりによってインド太平洋で軍備拡張競争が起きていることである。AUKUSの締結、日本政府の防衛方針の劇的な変化などがその例である。
(4) 習近平の強烈な野心ゆえに、彼は権力の座につくことにこだわり続けている。そのうえで、彼が中国史上の「偉大な指導者」になろうとするのであれば、中国の失われた威信を回復し、世界的な優越を確立する必要があるだろう。そしてこれは、習近平にとっては、軍事力の行使や経済力の悪用によって達成されるものである。こうした方針によって、中国国内での彼の立場は維持される。その結果、平和的な外交の余地が狭まる。
(5) 4月18日のG7外相会談で、林芳正外務大臣は、近年の中国の姿勢に鑑みるに、ウクライナでの危機の展開のあり方が東アジアでも繰り返されるかもしれないと強調した。中国の台頭および米国の影響力低下を踏まえ、日本は現実的で、安全保障志向の対外政策を採るようになってきた。
(6) しかし、G7がインド太平洋地域の安全に関心を高めてはいるが、東洋の動態や多様性ある性質に対する西洋諸国の理解が欠如していることが、G7の役割や影響力を地域で最大限活用することの障害となっている。日本はこれを理解しつつ、インドとの協力の強化を一貫して模索してきたのだが、このたびG7にインドが招待されたことはその現れである。インドは世界第5位の経済力を持ち、インド太平洋の安全と発展にとって当然貢献が大きいと認識されている。インドは中国の拡張主義による影響を直接受ける国でもあるので、この問題に効果的に対処する実際的な提携国になり得る。
(7) そのため、日印は平和を継続する環境をつくるためには今後開かれた外交のやりとりが必要になると考えている。日印の協力強化は、米中対立の激化によって二元的な状況に陥りたいとは思っていない地域の国々の利益にも資するものである。日本がG7で議長国となり、インドを招待したことは、インドをG7諸国のインド太平洋戦略の枠組みに位置付けることを促進する。それによって地域に対する取り組みが強固になると同時に、南北協力のための公平な枠組みを形成することにつながるだろう。
記事参照:Time to Champion Japan-India Leadership for Peace in the Indo-Pacific

5月18日「ウラジオストク港の重要性と中ロ関係の新たな展開―中国メディア報道」(Min. News, May 18, 2023)

 5月18日付の中国メディア頭條匯の英語版Min. Newsは、“Vladivostok Port: Becoming our domestic trade port, has it been “co-managed by China and Russia" first?”と題する記事を掲載し、ロシアとウクライナの戦争が起こった後、中ロ関係の駆け引きの材料としてウラジオストク港に注目が集まっているとして、要旨以下のように報じている。
(1) ロシアとウクライナの間で起こった紛争の後、何かがついに形を現した。それを考えれば、容易なことでないことは明らかである。
(2) 数ヶ月前にロシアの元大統領で元首相のDmitrii Medvedevが中国を訪れ、「シベリアと極東開発」という非常に魅力的なものを提示した。現在では、ウラジオストク港が我々の国内貿易の中継港となるという案件は、具体的に実施された計画の成果である。
(3) ロシアとウクライナの紛争は世界中で「二極化」をもたらした。米国は全世界の国々に「陣営を選ぶ」よう求め、何度も我々を水の中に引きずり込もうとして、窮地に立たせている。我々は自分自身の価値観に基づいて状況を判断し、我々自身の善悪の視点に基づいて世界を定義する。我々は中立の立場を採る。ウクライナを支持するでも、ロシアを支持するでもない。
(4) ロシアが北極熊であれば、ウクライナはただの小さなハイエナである。このような状況では、ウクライナは間違いなく敗北する。しかし、この小さなウクライナのハイエナの背後には、尾の白い(bald-tailed)狼の集団、つまり西側である米国が立っている。これらの「尾の白い狼」が戦闘に「加勢」していなければ、小さなハイエナはとっくに北極熊に殺されていたであろう。米国と西側諸国による「狼群」の戦いは、偉大な指導者であるロシア、北極熊にとって少々手に余る存在になってしまった。ロシアは解決策をもっているように思えるが、解決策はない。
(5) どうすればいいのか?我々に助けを求めるしかない。我々にとっては、助けを求めるのは構わないが、誠意を示すことが非常に重要である。我々が中途半端に隠れたり、小細工をしたりしていては、手を差し伸べることはできない。しかも、ロシア側の「誠意」は具体的で実行可能なものでなければならない。現在の国内外の困難の下で、ロシアは誠意と行動を示す必要がある。もちろん、これは黒竜江省と吉林省の商品貿易の発展にも有益であり、我々は前向きである。
(6) ロシア・ウクライナ紛争の間、米国はすでに世界に明らかにしている。それは、ロシアが管理している極東の領土を我々に「売却」することで、ロシアは我々の支持を得ることができるということである。
(7) どのような場合でも、ウラジオストクは我々にとって大きな国家的な強迫観念である。そこはかつて我々の土地であった。清朝の時代、この国が弱く、人々が貧しかったとき、そこは外部から強制的に占拠された。不平等条約である「中露北京条約」から数えて、我々は160年以上ウラジオストクに足を踏み入れることができていない。我々の心は軽くなく、ロシアへの警戒心はさらに重い。我々は戻るのだろうか?おそらくそうである。ただ1つ、この道のりは我々にとって非常に重いものである。我々が、165年前の中露愛琿条約のようにウラジオストクで「中ロ共同管理」を実施することを望む。
記事参照:Vladivostok Port: Becoming our domestic trade port, has it been "co-managed by China and Russia" first?

5月18日「中国海軍近代化の中心地:長興島―米専門家分析報告」(China Power, CSIS, May 18, 2023)

 5月18日付のCenter for Strategic and International Studies(CSIS)のChina Power Programのウエブサイトは、CSIS China Power Project上席研究員Matthew P. Funaiole、同Project研究員Brian Hart、北朝鮮問題専門家Joseph S. Bermudez Jr.、China Power Project管理者兼衛星画像分析研究助手Jennifer Jun Jennifer Jun、China Power Project研究助手Samantha Lu Samantha Luの“Changxing Island: The Epicenter of China’s Naval Modernization”と題する分析報告を掲載し、Matthew P. Funaioleら5名は衛星画像の分析から2005年に発表されたCSSC江南造船所の長興島南端への移設、滬東中華造船有限公司の江南造船所隣接区域への移転を核とする「造船基地」建設計画はほぼ計画どおりに進展しているとするとともに、建造中の新空母等の状況について、要旨以下のように報じている。
(1) 人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)の近代化に向けた継続的な取り組みの一環として、上海の長興島を巨大な「造船基地」に変える作業が現在進行中である。最近の商業衛星画像は、島にはすでに巨大な造船施設が急速に拡張されていることを示している。
(2) 10年以上にわたり、長興島には江南造船所があり、中国の3隻目の空母などPLANの最も先進的な艦艇の多くを建造してきた。そこでの施設の拡張は、中国の造船帝国の策源地として長興島を固めることになる。
(3) 江南造船所を上海中心部の既存の施設から長興島の南端にある新しい場所に移転するという野心的な試みが2005年に開始され、江南造船所を所有する国営の中国船舶集団有限公司(以下、CSSCと言う)は、2008年に移転の完了を発表し、CSSC長興島造船基地の「第1段階」の完了として捉えられている。江南造船所の新施設は、敷地面積は5.6平方km、そこに約110万平方メートルの船舶建造施設が建設されている。それは新江南造船所の始まりに過ぎない。2016年から2020年にかけて、造船所は3分の1近くが拡張され、新しい部分には巨大な人工の船溜まり、新しい組み立て建屋、および建造の初期段階にある3隻目の国産空母のための艤装、組み立て区域が含まれている。
(4) 現在、CSSCによる長興島の変革の2段階を示す別の大規模な拡張の作業が進行中である。この計画では、滬東中華造船有限公司が上海中心部から江南造船所に直接隣接する地域に移転して来る。滬東中華造船有限公司は、Type075型強襲揚陸艦などPLANの最大の水上戦闘艦のいくつかを建造してきた。
(5) CSSCは2021年1月4日に計画された工事に着工し、計画は2つの段階で展開される予定である。最初の段階では約2.1平方kmの区画に、大型船の組み立て工程を行う新しい乾ドックと新造船を係留および艤装する新しい船溜まりなどが建設される。第2段階では、追加の艤装および組立施設が流れ作業で行われるようになると考えられている。報告によると、2022年10月には乾ドックの基底部に注水されており、2023年4月23日の衛星画像はそれ以来建設がかなり進展していることを示している。乾ドックの規模も明らかになっており、全長約650m、幅94mで、江南造船所の最大の乾ドックよりもわずかに面積が広い。4月23日の衛星画像は、新しい船溜まりの浚渫が急速に進んでいることを示しており、新しい船溜まりは約760m×280mである。
(6) 拡張のこの最初の部分は2023年末までに完了する予定であり、これまでの進捗状況は予定線表が実行可能であることを示している。完工への予定線表はまだ示されていない。完成後、新しい施設には5Gネットワーク技術、ビッグデータ管理、ロボット溶接が含まれると伝えられており、移転した滬東中華造船有限公司を自動製造とインテリジェント設計が可能な「デジタル造船企業」に変えることを目的としている。滬東中華造船有限公司の長興島への移転は、中国の造船力を拡充するための巨額の投資で、投資額は約26億ドルで、新面積は約4.3平方kmである。
(7) この事業はまた、中国の造船能力の大部分を1ヵ所に集約することになる。艦艇建造に加えて、CSSC江南造船所と滬東中華造船有限公司は印象的な多くの商船を建造しており、入手なデータによると、滬東中華造船有限公司は2023年だけで、コンテナ船、LNG運搬船など少なくとも10隻の商船を引き渡す予定である。江南造船所の受注量は、2023年には液化石油ガス/エタン船14隻、コンテナ船7隻、LNG船1隻を含む22隻の商船を納入する予定である。
(8) 4月23日の衛星画像は、新しい施設の建設に関する詳細を明らかにすることに加えて、そこで行われている艦艇建造のいくつかに関する重要な情報を提供している。
造船所の主要な大きな船溜まりでは、2022年6月に進水した空母「福建」の艤装作業が進行中である。衛星画像は、労働者が着陸時に航空機を拘束する装置を取り付けていることを示しています。武器やセンサーは、船の周りのさまざまな場所のスポンソンにも設置されています。特に、航空機を射出する電磁カタパルトには大きな覆いが掛けられており、作業が進行中であることを示している。大きな船溜まりの近くには、Type048生活保障船「向前進2号」も確認できる。「向前進2号」は、空母「福建」の艤装と公試に携わる労働者を支援するもので、中国の他の空母と一緒に母港で頻繁に確認されている。ここ数週間で「向前進2号」が江南に到着したことは、空母「福建」が今後数ヵ月以内に海上公試を開始する可能性が高いことを示している。最も興味深いのは、4月23日の衛星画像は、Type052Cの垂直発射システム(以下、VLSと言う)を垣間見ることができることである。Type052Cには艦種側に6基、艦尾側に2基の計8基のVLSランチャーが装備されており、各ランチャーにはHHQ-9艦対空ミサイルを格納した6基のセルが装備されている。
(9) 江南造船所での各種の活動は、中国が「造船基地」建設計画の進展と近代化に向けて着実な進歩を続けていることを示しており、長興島の施設の拡張は中国が造船大国としての地位を強化するための長期的な投資をしていることを裏付けている。
記事参照:Changxing Island: The Epicenter of China’s Naval Modernization

5月19日「米国は太平洋島嶼国へ軸足を戻すのか―シンガポール専門家論説」(RSIS Commentary, May 19, 2023)

 5月19日付のシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトRSIS Commentariesは、シンガポールS. Rajaratnam School of International Studies非常勤上席研究員Anne-Marie Schleichの” Is the US Pivoting Back to the Pacific Island Countries?”と題する論説を掲載し、ここでAnne-Marie Schleichは太平洋地域における米国の外交、安全保障、開発への再関与の強化に向けた最近の動きは、中国と米国との間のより広い地政学的競争を反映しており、米国は、この地域の持続可能な繁栄と平和に貢献しようとする意欲を示す必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Joe Biden米大統領が、パプアニューギニア(以下、「PNG」と言う)の首都ポートモレスビーへの訪問を突然キャンセルしたことは、米太平洋島嶼国との関係にとって良いニュースではなかった。この訪問は、米国大統領による史上初の太平洋島嶼国訪問であり、太平洋における政治的牽引力を取り戻すための米国の努力の集大成となるはずで、Biden大統領とPNGのJames Marape首相は、2国間の防衛協力や海上監視協定に署名する予定であった。PNGは人口940万人、太平洋島嶼国の中で最も人口が多く、石油、ガス、金、銅、木材などの天然資源も豊富で、鉱業部門も盛んな国である。
(2) 中国の習近平国家主席は、2018年PNGに国賓として訪問しており、中国とPNGの経済的・政治的な結びつきが強まっていることを裏付けている。2014年には、他の太平洋諸国3ヵ国も訪問している。2022年5月に中国とソロモン諸島の間で結ばれた安全保障協定は、米国とその同盟国であるオーストラリア、ニュージーランドを動揺させ、3ヵ国が太平洋への関与を強化するように仕向けた。さらに、Huaweiの通信計画に対するソロモン諸島への6,600万米ドルの融資と、ソロモン諸島の首都ホニアラの港を改良するための中国企業との数百万米ドルの契約が行われた。太平洋諸島地域における中国の関与強化による地政学的影響への懸念は、中国と米国のより広い地政学的競争を反映して、米国の活動に大きな影響を引き起こした。
(3) 2022年2月、Biden政権はインド太平洋戦略を発表し、中国の影響力を緩和し、この地域における米国の伝統的な戦略的優位性を維持し、より広い地域でより大きな役割を果たそうとする枠組みを定めた。その手段の1つが、AUKUS、QUADなど、この地域で重複する提携や同盟を再び活性化し、強化することであった。そして、政治・軍事の要人が太平洋を訪問し、これまで眠っていた太平洋島嶼国との外交と関与を開始した。昨年7月の太平洋諸島フォーラム(以下、「PIF」と言う)首脳会議にAntony Blinken国務長官とKamala Harris副大統領が訪問した。米国務長官の訪問は40年ぶりであった。その後、Biden大統領は2022年11月にホワイトハウスで開催された米太平洋サミットでPIFの12首脳を迎え、米国は10年間で8億米ドルの太平洋援助プログラムと太平洋パートナーシップ戦略を行うと発表した。その目的は、太平洋島嶼国との提携と地域主義を強化し、気候変動と戦い、気候変動への耐性を構築することである。米国は、太平洋の大きな問題の1つである違法漁業の取締りについて、特にPNGに対して、U.S. Coast Guardが現地の能力を強化するために支援することを約束した。
(4) パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島の太平洋地域独立3ヵ国と米国との間の歴史的に緊密な政治・経済関係は、2023年の新しい自由連合協定の交渉により、米国は20年間で70億米ドル以上という前例のない経済支援に合意し、米議会の承認を待っている。さらに、ソロモン諸島の大使館を30年ぶりに再開し、5月にはトンガに大使館を開設し、キリバス、バヌアツに大使館を設置する予定である。
(5) 米国は長い間、太平洋を軽視しており、マーシャル諸島、パラオ、ミクロネシア連邦以外の太平洋諸国への援助を縮小していた。多くの太平洋諸国にとって最大の貿易相手国となった中国に比べ、米国のこの地域に対する貿易は一部を除いてわずかなものに留まっている。Biden大統領がPNGを訪問しなかったことは、この地域の多くの人々を失望させており、この地域が結果的に中国に取り込まれる可能性がある。
(6)オーストラリア、ニュージーランド、Asian Development Bank、日本、EUなど、太平洋地域では以前から多くの国家、機関が活動しており、米国と中国の競争は太平洋地域をさらに混雑させる。米国の最も近い同盟国であるオーストラリアは、太平洋地域との関係を強化し、太平洋地域、特にPNGに対する援助を大幅に増やし、安全保障と投資の協定を締結し、これまで曖昧だった国内の気候政策をわずかだが改善した。このような最近の米国とオーストラリアの援助の増加や基幹施設への新たな融資は、2018年頃から太平洋への援助を減らし、現在は主にキリバスやソロモン諸島に焦点を当てている中国とは対照的である。
(7) 最も重要なのは、太平洋諸国における気候危機に対する懸念である。オーストラリアと同様、米国も太平洋島嶼国との信頼関係を維持するために、自国の国内および国際的な気候政策を点検する必要がある。太平洋における米国の新たな関与は、最終的には米大統領の訪問によってではなく、気候危機などこの地域の主要な懸念に真摯に取り組み、この地域の持続可能な繁栄と平和に貢献しようとする米国の意欲によって判断されることになる。
記事参照:Is the US Pivoting Back to the Pacific Island Countries?

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) China Wields Sea Power With Navy Buildup
https://www.newsweek.com/china-aircraft-carrier-navy-maritime-strategy-1797605
Newsweek, May 12, 2023
By John Feng is Newsweek’s contributing editor for Asia based in Taichung, Taiwan.
5月12日、米週刊誌Newsweekの寄稿編集者John Fengは、同誌のウエブサイトに、“China Wields Sea Power With Navy Buildup”と題する論説を寄稿した。その中で、①中国3隻目の空母「福建」の初めての海上公試が2023年の後半に行われることが予想されている。②「福建」は、その全長が米海軍の巨大空母に匹敵し、電磁式航空機発艦システムと類似のものを導入する予定であり、新型の艦載機とともに就役する可能性がある。③中国は2030年までに4隻の空母を運用する計画を立てている。④2021年の商業造船市場における中国のシェアは44.20%で、他国を大きく上回っている。⑤中国は、2015年頃からは艦艇保有隻数では米国を上回るようになっており、2030年までには440隻に増加すると見積もられている。⑥中国海軍はソ連の影響を強く受けてきたが、将来はより海洋指向であり、中国は世界最高クラスの海洋国家である。⑦中国の海洋戦略の長期的な焦点は、インド洋に置かれる可能性が高い、⑧中国海軍は、2008年のアデン湾での海賊対処任務から遠洋での経験を積み重ねてきた。⑨中国の世界規模での海軍力の展開は、依然としてしばらくの間は困難であり、このことに関しては米国が当分支配的である。⑩中国は米国の地位を脅かす第一歩として、台湾の支配を目指している。⑪中国の海軍力増強は驚異的であり、これまでのところ、それに対抗する米国の潜水艦および建艦計画はまだ見られていないといった主張を述べている。

(2) Backstopping Ukraine’s long-term security: Toward an Atlantic-Asian security community
https://www.brookings.edu/articles/backstopping-ukraines-long-term-security-toward-an-atlantic-asian-security-community/?utm
Brookings, May 16, 2023
By Lise Howard, Professor, Georgetown University
Michael E. O’Hanlon, Senior Fellow, Brookings
2023年5月16日、米Georgetown UniversityのLise Howard教授と米シンクタンクThe Brookings InstituteのMichael E. O’Hanlon上席研究員は、Brookings Instituteのウエブサイトに" Backstopping Ukraine’s long-term security: Toward an Atlantic-Asian security community "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、2023年の現時点ではまだウクライナに平和が訪れたと言えないかもしれないが、欧米の指導者たちは、ウクライナ問題の終結に向け、ウクライナの独立を支援し、ロシアとの関係を将来的に管理するための安全保障機構を構築し、そしてそれらの実現に向けた戦略を検討しなければならないと指摘している。その上で、両名は停戦または和平合意後に、米国人を含む少なくとも数千人規模の欧米軍による実質的な武装訓練・監視任務をウクライナに展開することを提案しているが、その際の行動主体については、NATOではなく、国連の後援を受けた新しい安全保障機構であるべきだと主張している。

(3) WINNING HIGH-END WAR AT SEA: INSIGHTS INTO THE PLA NAVY’S NEW STRATEGIC CONCEPT
https://cimsec.org/winning-high-end-war-at-sea-insights-into-the-pla-navys-new-strategic-concept/
Center for International Maritime Security (SIMSEC), May 18, 2023
By Ryan D. Martinson, a researcher in the China Maritime Studies Institute at the Naval War College
2023年5月18日、米China Maritime Studies Institute at the Naval War CollegeのRyan D. Martinson研究員は、米シンクタンクCenter for International Maritime Security (CIMSEC)のウエブサイトに" WINNING HIGH-END WAR AT SEA: INSIGHTS INTO THE PLA NAVY’S NEW STRATEGIC CONCEPT "と題する論説を寄稿した。その中でRyan D. Martinsonは、米国の指導者は米国の国益を守るため、台頭する中国に対抗していくという新しい取り組みを「大国間競争」または「戦略的競争」と表現しているが、米海兵隊の最新の海洋戦略であるAdvantage at Seaは、まさにこの新しい取り組みの産物であると指摘している。そしてRyan D. Martinsonは、米海軍が「法に基づく国際秩序」の擁護といった難解な行動原則に基づき、広範な作戦範囲での競争を強いられることで過重な負担を負うのに対し、中国海軍は米海軍との大規模、かつ高烈度の新鋭兵器を使用した通常戦争にほぼ一点集中し、目の前にいる作戦上の相手を倒すための具体的な戦闘能力の構築に焦点を絞っているとの分析結果を示した上で、米国が西太平洋での大規模な海上衝突という最悪のシナリオに備えるためには、この2つの戦略的枠組みのうち、どちらが適しているのかという問題を解決しなければならないと主張している。