海洋安全保障情報旬報 2023年06月11日-06月20日

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6月12日「米国、ミクロネシアにおける太平洋提携戦略を推進―米専門家論説」(The Center for Naval Analyses, June 12, 2023)

 6月12日付の米連邦調査分析組織Center for Naval Analysesのウエブサイトは、同CenterのIndo-Pacific Security Affairs Program上席研究員April Heleviの“THE US ADVANCES ITS PACIFIC PARTNERSHIP STRATEGY IN MICRONESIA”と題する論説を掲載し、April Heleviは米国がパラオ共和国およびミクロネシア連邦と自由連合盟約の交渉に合意したことは進展であるが、マーシャル諸島共和国とは協議中であるだけでなく、今後議会における協定の承認、予算の配分が重要であり、さらにミクロネシアへの関与に当たっては3ヵ国が抱える事情に即した方策による信頼構築が不可欠であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 5月、米国とミクロネシアの関係においていくつかの重要な進展があった。5月22日、米国とパラオ共和国は、自由連合盟約(以下、COFAと言う)協定に関連する交渉を終了し、5月23日には米国とミクロネシア連邦は、盟約の修正、新しい財政手続きの導入、信託基金協定に基づく拡大経済支援に関する3つの協定に署名し、COFA交渉を終了した。これら2つのCOFA協定の進展にもかかわらず、マーシャル諸島共和国との盟約協定はまだ最終協議中であり、米国政府が太平洋で行った約束を守るためにやるべきことはまだ多くある。
(2) ミクロネシアは、太平洋諸島地域の一部である。また、対外安全保障を米国に依存しているCOFA諸国と米領土の存在により、太平洋島嶼地域における米国の利益の中心でもある。米国は、ミクロネシア全土で経済、安全保障、旅行、教育、海外移住において強いつながりを持っている。
(3) 両方のCOFA協定は、2022年11月に発表された太平洋提携戦略(Pacific Partnership Strategy)に概説されているように、太平洋における米国政府の焦点を反映している。COFA交渉の妥結は、地域における米国の信頼性を高め、より広範なインド太平洋における信頼できる提携国としての米国のひな型となる。太平洋提携戦略は、独立した戦略ではあるが、米国のより大きなインド太平洋戦略に組み込まれており、4つの主要な目標を指定している。第1は、米国の誓約の実行、提携国の能力構築を通じ、太平洋島嶼国との強い提携の構築である。第2に、米国の太平洋地域主義助長による同盟国や提携国との協調である。第3には、米国は「気候危機と戦う」ためにこの地域の抗堪性構築を支援することであり、第4は世界的規模の基幹施設投資、人と人とのつながり、および関連する構想を通じて、「太平洋全域を力づける」ことである。
(4) 太平洋島嶼国戦略の第1の目的は、盟約の「交渉を成功裡に完了する」ことが米国の戦略の中心的な柱であると明言している。したがって、COFA協定の締結と資金提供は、米国が「太平洋への献身的な提携国」であることを示すために重要である。ミクロネシア全域で、気候変動などのいくつかの問題について明確な合意はあるが、米国の関与のあり方について一枚岩の見解を持っていない。この合意の欠如は、パラオおよびミクロネシア連邦との盟約の交渉が成立したのに対し、マーシャル諸島とはいまだ交渉中であることに示されている。マーシャル諸島の問題は複雑であり、ビキニ環礁での核実験の遺産に関連する課題と海面上昇が及ぼすルニットドームに保管されている核廃棄物への影響に関する継続的な懸念を反映している。
(5) 盟約加盟3ヵ国はすべて北太平洋における強力な米国の提携国ではあるが、各国には米国との関係において個別の側面を有しているUniversity of Guam教授でPacific Center for Island Security所長Kenneth Gofigan Kuperは、「ミクロネシアに影響を与える政策問題を審議する際に、米国は島とその住民に関与し続ける必要がある」と指摘する。
(6) COFA交渉の妥結は重要な前進ではあるが、信頼できる長期的な提携を構築するために必要なのはそれだけではない。次に、議会は協定を承認する必要があり、それらが承認されたら、協定と米国の計画のための資金が重要であり、その割り当てが必要である。政府機関間の積極的な調整も、実施の成功の決定的要因となる。5月16日、Government Accountability Office(米会計検査院)元副部長兼上席エコノミストで現Georgetown University教授Emil Fribergは、「COFA政策を効果的に調整する連邦機関はない」と指摘した上で、「議会はCOFA問題に対する政府全体の対応を調整できる省庁間COFA専任組織を再設立すべきである」と議会で証言している。6月9日、US House of Representatives Committee on Natural ResourcesのBruce Westerman委員長とRaúl Grijalva議員は、超党派のインド太平洋特別部会を立ち上げると発表し、特別部会タスクフォースは、自由連合国(FAS)と太平洋の領土の両方と調整し、(中略)この地域における中国政府からの高まる影響に対抗するために委員会全体に政策提言を提供することである」と述べている。
(7) 調整の問題は、巨大な米国の官僚機構に効果的に対処する能力を持たない島嶼国の問題として定期的に提起されている。ミクロネシアの国々の人口は連邦政府機関全体の職員数よりも少ないこの人員数の違いだけが、効果的な調整の課題ではない。信頼も構築し、維持し、再活性化する必要があります。信頼は、マーシャル諸島共和国との最終協定の締結に向けた重要な課題の1つである。ミクロネシアでの対話の中で、マーシャル諸島の代表は、核実験に関連する一部の情報は機密解除されたが、それらの文書の原本は編集されていて、それらをほぼ読むことができず、市民は何が起こったのかを完全に評価できないと述べている。太平洋の文化では、「目の前の過去」を認めずに未来に進むことはできないことを先住民の学者達は示している。過去と現在の関係を認識することは、信頼を築くために必要であり、したがって、将来の長期的な提携を構築するために不可欠である。
(8) 5月22日、COFA交渉を担当する米国大統領特使Joseph Yunは、「マーシャル諸島への3日間の訪問で進展があり、今後数週間でマーシャル諸島との合意に署名したい」と述べている。要するに、ミクロネシアへの米国の関与は重要な進歩を遂げている。国際問題や米国の外交政策において、太平洋島嶼国は常に十分な注意を払われているわけではないが、COFA諸国への信頼できる関与は、地域全体で信頼できる提携を構築するために必要な基盤である。
記事参照:THE US ADVANCES ITS PACIFIC PARTNERSHIP STRATEGY IN MICRONESIA

6月13日「5ヵ国防衛取極:50年を超えてどう進むか―オーストラリア専門家論説」(FULCRUM, June 13, 2023)

 6月13日付シンガポールのシンクタンクThe ISEAS-Yusof Ishaku Institute のウエブサイトFulcrumは、the Australian National Universityの National Security College上席政策顧問David M. Andrews の”The Five Power Defence Arrangements: How to Sail Past Fifty”と題する論説を掲載し、ここでDavid M. Andrewsは1971年に締結され、既に50年を経過した英・豪・ニュージーランド・マレーシア・シンガポールの5ヵ国防衛取極(FPDA)の今後について、東南アジア地域における安全保障上の均衡を保つ機構として、特に海洋安全保障分野でさらに重要な役割を果たすべきとして、要旨以下のとおり述べている。
(1) ベルサマ・シールド演習は、より大規模なベルサマ・リマ演習とならんでFive Power Defence Arrangements (5ヵ国防衛取極:以下、FPDAと言う)が毎年実施している2つの主要な海上演習の1つで、マレーシア沖での2週間の演習を経て、5月12日に終了した。これらの演習は、参加各国軍間の相互運用性と親密度の向上を目的として、FPDA加盟国の軍人と艦艇・航空機が結集し、戦術レベルの共同作戦を実施し、FPDAの価値と有用性を実証するものである。FPDAは過去半世紀にわたり、特に海洋安全保障に関して、進化と近代化を成功させてきた。
(2) 見過ごされがちだが、FPDAは、この種の安全保障枠組みとしてはアジア最古のものである。FPDAは「取極」という名称が示すように、一般的には同盟や協定とはみなされないが、長期間維持されており、また過小評価されているが、高い価値を持つ制度である。FPDAは、ここ20年間、マレーシアとシンガポールが直面する安全保障上の脅威の変化を反映し、海洋重視を強めてきた。
(3) 2000年代初頭に、(東南アジアにおける安全保障の)焦点は海賊、密入国者、テロリズムなど海洋領域への懸念に移っていった。マレーシアとシンガポールがインドネシア、タイと結んだマラッカ海峡哨戒の枠組みや、インドネシア・マレーシア・フィリピンの3ヵ国協力協定のような他の安全保障上の取り組みでも明らかなように、東南アジアの海洋環境はこうした脅威の影響を特に受け易い。FPDAは明確に防衛的性格を持つが、南シナ海における中国の違法かつ攻撃的な行動の増加は、特にマレーシアが同海域での領有権・管轄権を主張していることもあり、FPDA加盟国の注目を集めている。オーストラリアは、ベルサマ・シールド演習、ベルサマ・リマ演習等への年次派遣に加え、ゲートウェイ作戦の一環としてマレーシアへの哨戒機派遣やシンガポールからの偵察任務により、この海域における海洋安全保障上の兵力の展開を維持してきた。これらの配備は正式にはFPDAの庇護の下で実施されているわけではないが、FPDAとそれに関連する地位協定に支えられている。同様に、英国が2022年からシンガポールに2隻の哨戒艦を配備しているのも、2国間海洋協力の一例で、FPDAを通じて維持されている体制と関係によって促進されている面もある。
(4) FPDAが50年以上にわたって存続してきた理由の1つは、参加国がFPDAの3つの指導原則、「脅威を与えない姿勢を維持する」、「すべての加盟国にとって快適なペースで前進する」、「安全保障上の取極として適切であり続けるために継続的に発展・進化する」を強調してきたことにある。これは、FPDAの50周年共同宣言でも「FPDAの発展と将来展望の指針となる『3R』」、すなわち「任務(Remit)、妥当性(Relevance)、安心感(Reassurance)」として明示された。海上安全保障を重視するという軸は、これらの原則を体現しているが、FPDAのオブザーバー国が、グループの範囲、メンバーシップ、使命の劇的な拡大を期待すべきではない理由も説明している。
(5) 2023年5月1日の第13回シンガポール・オーストラリア合同閣僚委員会での共同声明や、6月3日のアジア安全保障会議でのFPDA国防相会合に見られるように、FPDAに対する支持は依然として強い。しかし、FPDAが次に進むべき道はどこにあるのかという疑問が残る。私は3つの選択肢を提案したい。第1に、オーストラリアもシンガポールとマレーシアに数隻の 哨戒艦 を輪番で配備することを検討すべきである。国防戦略見直しでは、オーストラリア海軍の兵力構成の将来は、やや不透明である。しかし、少数の哨戒艦をこの地域に配備することで、FPDA参加国との協力と統合をより実質的なものとし、インドネシアやフィリピンなど、東南アジアの海洋国家を支援することも可能となる。これは、信頼醸成機構としてのFPDAの地域的価値を広く示し、その非脅威的な姿勢を再確認する一助となるであろう。
(6) 第2に、FPDAの中核的な目的をマレーシアとシンガポールの防衛に重点を置くこと に留意しつつも、この取極を限定的に拡張し、非軍事部隊をより直接的に含める余地があるかもしれない。これは、海洋安全保障上の課題に対処する上で、法執行機関や沿岸警備隊が中心的な役割を担っていることを考慮したものである。資源的な制約があるにせよ、オーストラリアの場合、年1回の海上法執行演習を新たに設けるか、FPDA活動の既存の枠組みの中でプログラムを設けるか、いずれにせよ、Australian Border Forceと地域の提携国との協力を強化する機会となる。しかし、過去10年間に南シナ海や東シナ海で沿岸警備隊の船舶が何度も衝突したことを考慮すると、非軍事機関への移行は、海洋安全保障上のすべての問題を解決する万能薬ではない。
(7) 最後に、参加国間の情報共有を拡大し、海洋状況把握を強化する役割がある。現在、FPDAにおける情報共有の範囲は、マレーシアとシンガポールに対するテロの脅威に対抗することに限られている。オーストラリアとシンガポールの情報共有は2国間でも行われているが、海洋安全保障上の新たな課題を考慮すれば、多国間の段階へ拡大することが自然な流れであろう。全体として、FPDAは東南アジア全域に広がる各種機関の多様な枠組みの一部分を構成するに過ぎないが、地域の安全保障上の均衡と参加国の防衛態勢に重要な位置を占めている。FPDAの枠内では野心的な取り組みも可能であり、海洋安全保障への取り組みは、その先導役として理想的な位置にある。
記事参照:https://fulcrum.sg/the-five-power-defence-arrangements-how-to-sail-past-fifty/

6月13日「インド太平洋諸国との連携強化を模索するNATO―日英字経済紙報道」(NIKKEI Asia, June 13, 2023)

 6月13日付の日英字経済紙NIKKEI Asia電子版は、“NATO to upgrade ties with Australia, New Zealand, South Korea”と題する記事を掲載し、NATOが今後インド太平洋地域との連携を深めるために、日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国との関係を強化していくだろうとして、要旨以下のように報じている。
(1) NATOは今後、インド太平洋地域において日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国4ヵ国の提携国との協力関係を深めていくだろう。その4ヵ国はアジア太平洋パートナー(以下、AP4と言う)として知られ、NATOは各国と「個別調整パートナーシッププログラム」(以下、ITPPと言う)を締結していく予定だという。それは、NATOと各国との関係とより高次の提携へと格上げするもので、サイバーセキュリティや宇宙、誤情報拡散への対応などについて協力を進めていく。
(2) NATO事務局長Jens Stoltenbergは、東京にNATOの連絡事務所を開設することを提案してきた。それに対してフランスが、中国に誤った合図を送ることになると反対している。一方、NATO加盟国の間では、ITPP締結を円滑にするためのものとして各国に連絡事務所を設置してはどうかという提案がある。
(3) AP4の首脳らが、7月11日から12日に開催されるNATO首脳会談に出席する見通しである。そうなればAP4首脳が勢ぞろいするのは2年連続になる。その首脳会談で日本とのITPPが締結されるかは不透明だと外務省幹部は述べている。NATO関係者によればオーストラリアとの交渉が最も前進しているという。
(4) 2022年公開されたNATOの「戦略構想」は、中国が突き付ける脅威を詳述している。中国の姿勢は「われわれの利益……に挑戦」しており、中国の軍備増強やサイバー空間での作戦活動は、「同盟の安全を脅かしている」と述べている。それに加えて中国とロシアの戦略的提携にも懸念を示した。
(5) NATOは伝統的に北大西洋地域に焦点を当てているが、現代の脅威は地理的空間を超越する、世界規模なものとも認識している。そのことがAP4とのITPP締結の誘因となっている。ITPPが締結されれば、日本に連絡事務所が開設されることになるという見通しがある。日本側もそれに熱心であり、岸田首相は先月のG7広島首脳会談で、フランスのMacron大統領にその問題を提起したという。それに先立つ2+2閣僚会談でも取り上げられた。
(6) NATOのCooperative Security Division部長のFrancesco Diellaは、ITPPの議論のために各国を歴訪した。2月には韓国、3月にオーストラリアとニュージーランドを訪問し、軍上層部らと会談した。5月には日本を訪問し、同様の協議が実施されている。
(7) Nikkei Asiaとのインタビューで、駐日フランス大使のPhilippe Settonは、東京への連絡事務所設置に疑問を呈し、中国に間違った意図を送りかねないし、米中対立の中でどちらの側にもつきたがらないASEANにも、誤った合図を送ることになりかねないと述べている。フランスの合意を得るため、連絡事務所の設置はITPP交渉のためのものとなる可能性が高い。
記事参照:NATO to upgrade ties with Australia, New Zealand, South Korea

6月13日「ヨーロッパとアジアの間にはなお大海が横たわる―オーストラリア国際関係専門家論説」(The Diplomat, June 13, 2023)

 6月13日付のデジタル誌The Diplomatは、オーストラリアのシンクタンクAsia Society Policy Institute 研究員Dominique Fraserの“Europe and Asia Remain Oceans Apart – At Least on Security”と題する論説を掲載し、そこでDominique Fraserは2023年のアジア安全保障会議にヨーロッパ諸国の高官が数多く参加したことについて、ヨーロッパのインド太平洋地域への関心の表れである一方、両者の間には温度差があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年のアジア安全保障会議には、この20年間で最も高官級のヨーロッパ諸国の代表が参加した。たとえば、それはエストニア首相のKaja Kallasや、EU外交・安全保障政策上級代表Joseph Borrellなどである。ヨーロッパ諸国首脳らの参加の目的は、ウクライナに対するアジアの支援を獲得することとヨーロッパがインド太平洋の信頼に足る提携国であることを印象づけることにある。
(2) ウクライナ支援に関して、ヨーロッパ諸国は、2014年以前の国境線を回復し、ロシアに対して報復的な処罰が与えられるという和平計画を提案した。また日本と韓国に対して兵器提供を呼びかけ、地域における対ロシア制裁の網を広げることも模索している。ヨーロッパのメッセージは、そこで起きていることはアジアにとっても大きく関連があるということである。Kaja Kallas首相は、国連安保理常任理事国による隣国の侵略は、世界的な問題であると警告している。
(3) そうした主張を、地域の国々、特に東南アジア諸国が簡単には受け入れられないというのが現実である。彼らはあくまでウクライナ戦争をヨーロッパの戦争とみなしている。ウクライナの現在は東アジアの未来と言ってきた日本などは例外的存在である。インドネシアの国防相で次期大統領候補のひとりPrabowo Subiantoが提案した和平案は、ヨーロッパには到底受け入れられないし、多くの人々が眉を顰めるものであった。しかしそれは、ウクライナ戦争に対するヨーロッパとアジアの認識の溝を反映している。
(4) ヨーロッパ諸国の第2の目的は、ヨーロッパがインド太平洋において信頼できる安全保障上の提携国であることを売り込むことである。これは概して好意的に受け止められている。この点についてヨーロッパのメッセージは、世界は大国間競合によって支配される二極的なものではなく多極的なものであり、ヨーロッパがその極の1つであるということだ。Joseph Borrellは、「われわれは古典的な軍事同盟ではない」と述べた。ただし、ヨーロッパ諸国がインド太平洋に安全保障の足がかりを得たいと思っているのも事実であり、ドイツやフランス、オランダなどは艦隊の派遣を約束し、またドイツはインド海軍に潜水艦6隻を提供するという契約について交渉中である。
(5) 以上の行動は、世界の中心がヨーロッパ・大西洋からインド太平洋に転移している現実を反映している。アジアの多くの国々は、ウクライナ戦争がアジアの問題でもあるという主張を受け入れない。他方ヨーロッパにとって、自由で開かれたインド太平洋は、自分たちの利益になる。2022年の「戦略範囲(Strategic Compass)」で、EUはインド太平洋地域の重要性を強調した。そうしたなかで、ヨーロッパの国々がアジア安全保障会議などのフォーラムに参加することには大きな価値がある。
(6) 軍事的紐帯も強まり続けてはいるが、インド太平洋へのヨーロッパの関与は経済的なものの比重が大きい。中国も直接の軍事的脅威とはみなされていない。しかし、世界で3番目に大きい規模の経済力を持つEUが、中国からの「デリスキング」を模索し、インド太平洋への関与を深めようとしていることは、地域の国々にとっては望ましいことであろう。こうしたEUの関与の深まりが、インド太平洋諸国との自由貿易協定に関する交渉を前進させている。それはまた、中国とイギリスの閣僚級会合が実施されたように、中国との対話の余地を生み出している。
記事参照:Europe and Asia Remain Oceans Apart – At Least on Security

6月15日「太平洋は『緑の地政学』の試験場になりつつある―インド太平洋地域専門家論説」(Foreign Policy, June 15, 2023)

 6月15日付の米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトは、インド太平洋地域のジャーナリスト兼アナリストのChristopher Cottrellの “The Pacific Is Becoming a Testing Ground for Green Geopolitics”と題する論説を掲載し、ここでChristopher Cottrellは太平洋の島嶼国には豊かな漁場と世界有数の熱帯雨林が存在するが、パプアニューギニアをはじめとして、中国の違法漁業と違法伐採に悩まされており、米国やオーストラリアと安全保障に関する協定を結ぶなどして中国に対抗しようとしており、この地域での米中の対立は激しくなりつつあるとして要旨以下のように述べている。
(1) パプアニューギニアと米国の間の最近の安全保障協定は地球にとってかなり重要な協定である。しかし、それは中国が受け入れるのは難しいものであり、中国からの潜在的な反撃を受ける可能性がある。新しい協定は、脆弱な漁業を保護することによって、気候変動への適応にも役立つ沿岸の安全保障戦略を加速するものである。パプアニューギニアのJames Marape首相は、2022年7月に島嶼国によって承認された「ブルーパシフィック大陸2050戦略」にとって優先度の高い気候問題の資金調達への熱意についてしばしば語っている。2023年秋にBiden政権は主要な米国・太平洋島嶼サミットを主催する予定であり、太平洋の気候適応に対する米国の関心は高まっている。米国当局者が密室でのみ議論するこれらの構想の1つの側面は、太平洋における中国の影響力に対抗する上での島嶼国の役割である。一部の構想は、疑わしい漁業慣行と広範な伐採と採掘を通じて主に中国企業が犯した環境被害を抑制することを目的としている。疑わしい中国企業をパプアニューギニアや他の場所から追い出すことは、太平洋における中国の資金と影響力を減らすのにも役立ち、米国にとって二重の勝利となる。
(2) Marape首相は、パプアニューギニアは世界の熱帯雨林の13%を保有していると述べ、緑の気候基金の道程表でより大きな目標を示している。最近の協定では、米国などと協力して、より大きな気候問題解決策への道筋を設定している。オーストラリア政府もまた、パプアニューギニアとの安全保障協定を交渉している。オーストラリアは2012年にパプアニューギニアの林業に関する特定の伐採指針を制定し、2021年に漁業保護協力協定を更新した。合法木材と違法木材の両方の最大の輸入国である中国は2019年に森林法を改正し、違法な丸太の「購入、加工または輸送」を禁止した。中国外交部は、違法漁業、伐採、鉱業に反対すると繰り返し述べているが、海外で事業を行っている中国企業を抑制する意思はほとんどない。米国の外交官はMarape首相の「米国は今でも自由世界の指導者である。民主主義を信じる我々にとって、キリスト教の世界観を信じる我々にとって、我々は米国と多くの共通点を共有している」という発言に勇気づけられている。
(3) 米国とパプアニューギニア間の多くの協定の中で特に際立っているのは、防衛協力協定と違法な国境を越えた海上活動対策に関する協定の2つである。Blinken米国務長官によると、これらは「Papua New Guinea Defense ForcesとU.S. Coast Guardの間の協力を強化し、パプアニューギニアの能力を構築し、違法・無報告・無規制漁業(以下、IUU漁業と言う)と戦うのに役立つ」ものである。特に2番目の協定は、島の絶滅の危機に瀕している漁業、特にマグロ資源に大きな影響を与える。U.S. Department of Stateによるとこの協定により、「パプアニューギニアはU.S. Coast Guardのシップライダー計画(U.S. Coast Guardの巡視船にパプアニューギニアの法執行担当官が乗船し、両国が協力してパプアニューギニアの海域における法執行活動を実施する計画:訳者注)に参加し、パプアニューギニアの法執行能力を強化し、海洋状況把握を改善し、パプアニューギニアが国の主権を保護するのに役立つ」。これは、米国とパプアニューギニアの両国の沿岸警備隊が協力して、中国の攻撃的な海上民兵に直接関係している可能性のある違法行為の疑いのある船舶に乗船できることを意味する。パプアニューギニアの市民は、中国のIUU漁業によって得られるはずの収入が失われていることに激怒しており、より大きな安全保障上の解決を望んでいる。漁船団と地元住民との衝突も海上犯罪の可能性を高めている。中国企業は地元の人々に関する調査や関与をほとんど行わず、しばしば地元の怒りを招いている。Marape首相はすでに、パプアニューギニアとオーストラリアの間のトレス海峡で計画されていた中国が支援する商業漁業をめぐる騒動に関与しなければならなかった。
(4) 2019年の就任以来、Marape首相はビジネス上の所要と環境保護の均衡を取ろうとしてきた。しかし、Covid-19の世界的感染拡大と戦略的に重要な国を支配したいという中国、米国、オーストラリアの相互の思惑を考えると、パプアニューギニアがその均衡を取ることは困難な離れ業である。署名後の記者会見で、Marape首相はどちらかを選ぶことを避けたいと強調した。しかし、米中の緊張が高まる中、太平洋諸国にとって紛争から逃れることはますます困難になっている。署名を受けて、中国外交部は「中国はパプアニューギニアや他の太平洋島嶼国との関係を深める国々の努力に反対していない」という冷静な意図を示したが、中国国営の環球時報はBiden政権を鋭く非難している。
(5) 2017年当時、Trump大統領はパリ協定から撤退し、海面上昇とスーパーサイクロンの増加の矢面に立たされている太平洋諸島民を怒らせた。これによって 2019年にソロモン諸島とキリバスの両方で起こったように、中国は太平洋諸国の台湾の承認を弱体化させる道筋を設定した。ソロモン諸島では2021年11月、Manasseh Sogavare首相とその政権に対する中国政府からの氏は依頼をめぐって首都ホニアラで反政府暴動が発生し、2022年4月には秘密裏に起草された安全保障協定が漏洩し、多くの太平洋島嶼国を警戒させた。1ヵ月後、中国は太平洋諸国との地域安全保障協定を模索したが、実現はしなかった。これにより、多くの西側諸国は、太平洋島嶼国への奉仕活動と援助、特に気候変動の資金調達と安全保障協定を増やすようになった。これらの取引が深まるにつれて、中国の対応は、2023年ミクロネシアのDavid Panuelo大統領に対して行ったように、約束と脅威を混ぜ合わせる可能性がある。小国はチームを選びたくないかもしれないが、米中双方が彼らが傍観者に留まることを望んではいない。
記事参照:The Pacific Is Becoming a Testing Ground for Green Geopolitics

6月15日「日豪戦略的協力、新たな次元へ―オーストラリア国家安全保障戦略専門家論説」(The Strategist, June 15, 2023)

 6月15日付のオーストラリアのシンクタンクAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、同シンクタンク事務局長Justin Bassiの“New dimensions for Japan–Australia strategic cooperation”と題する論説を掲載し、そこでJustin Bassiは米中対立が激化するなか、日豪の密接な協力、とりわけ技術面での優越を維持するための協力が今後不可欠であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 日豪は戦略的に共通するところが多く、条約は存在しないが同盟と言えるほどに緊密である。両国は現在進行中の戦略的対立を、米中だけの問題として捨て置くことはできず、それに関わっていく必要がある。そこで、日豪関係強化の次なる段階として必要なのが、技術面での協力である。
(2) 日豪が常に密接な協力関係にあったわけではない。オーストラリアは2017年頃まで中国を経済上の特効薬のように扱い、それが経済的依存と脆弱な安全保障に繋がっていった。種々の問題で中国と対決するより、日本を捕鯨問題で追及するほうが容易だと思われていたのである。
(3) この数年でその流れは変わった。インド太平洋を自由で開かれた、抗堪性あるものとして維持しようという共通認識を日豪は抱いている。日本のような経済的に強力な民主主義国ですら、中国の経済的威圧やサイバー攻撃に単独で対抗するのは難しいため、提携の拡大が必要なのである。日豪双方ともインドの重要性を理解して、QUADの再開を後押しした。また、米国がTPPから脱退したときも、それを維持しようとしたのは日豪であった。
(4) さらなる日豪関係強化のために必要なのが技術面での協力である。技術は戦略的対立において核心的重要性を持っている。技術における優越を獲得し、国際標準を設定するような国、あるいはその連合が、今後莫大な戦略的利益を得ていくだろう。日本は技術先進国であり、大学向けの「10兆円ファンド」の創設を発表したばかりである。量子力学や超音速などの分野において顕著な成果を挙げている一方で、中国は防衛に関連する51の技術分野のうち43で世界を牽引するほどの成果を挙げている。しかし、協力すれば競争を維持できるという考えのもと、AUKUSが生まれたのである。AUKUSは包摂的であることで、日本を提携国として参画させるべきである。そこに、抑止やより安全な世界のための機会がある。
(5) 日本政府は防衛費の劇的な増額を誓約してきたが、それはオーストラリアの場合と同様に、地域の不安定を生み出し、紛争の危険性を増すのではなく、戦争を回避し、地域の安定を促進するために抑止力を増大させるためのものである。安定は、相違や対立が存在しないことを意味するものではない。抑止は安定のために必要であり、それは意見の衝突や対立を回避するのではなく、それらが戦争へ拡大していくことを避けるためのものである。技術的な優越と提携は、その抑止力を向上させるものである。
(6) 中国を含む専制主義的体制は、経済的威圧やサイバー攻撃などを通じて、戦争と平和の間の溝を巧みに埋めている。民主主義諸国はそれになんとか対応しようとしてきたが、インターネットの安全と安定のために協働し損ねてきた。AIという技術的飛躍に直面している中で、このままではいけない。
(7) G7の議長国として日本が経済安全保障を主導したことを、他国も見習わなければならない。次回のG7議長国であるイタリアも、オーストラリアや韓国、インドなどを招待して経済安全保障について議論すべきである。今後も我々は関係性を構築し、勢力の安定的な均衡を取り続けるべきである。地域の大国として、日本とオーストラリアの役割は重大である。
記事参照:New dimensions for Japan–Australia strategic cooperation

6月16日「新たなインド太平洋には中流国家の存在が重要となる-オーストラリア専門家論説」(Asia Times, June 16, 2023)

 6月16日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、Pacific ForumのJames A Kelly Korea fellowship非常勤研究員兼The University of New South WalesのKorea Research Initiatives研究員Alexander M. HyndおよびUniversity of Sydney准教授でPacific Forum上席非常勤研究員Thomas S. Wilkinsの”Middle powers matter in new Indo-Pacific calculus”と題する論説を掲載し、ここで両名はインド太平洋における中流国家が大国間対立は今後も続く可能性が高いことを理解し、それに応じて戦略を調整しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋地域は、米国と中国の戦略的対立によって定義されつつあるが、中流国家の存在によってさらに複雑になっている。中流国家の経済力や軍事力は中途半端であるが、潜在的な紛争の火種となりうる地域の地理的位置や、選りすぐられたG20やOECDのような国際的組織においてもその地位の高まりと相まって、無視できない重要な存在となっている。最近、日本の国家安全保障戦略、オーストラリアの国防戦略見直し、韓国のインド太平洋戦略で示されたように、こうした中流国家の多くは、長年の安全保障政策や優先事項から急速に離れつつある。
(2) かつては、広範な経済統合、制度構築、多国間協力を伴う「アジア太平洋の世紀」という考えがあり、2008年の世界金融危機後のアジア諸国の経済の回復と相まって、2010年代初頭にはこの地域の中流国家に対する関心の高まりを助長していた。学者達は中流国家の台頭を称え、オーストラリアのKevin Rudd首相が構想するアジア太平洋共同体から、MIKTA(メキシコ、インドネシア、韓国、トルコ、オーストラリア)として知られる中流国家の組織結成に至るなど、積極的な中流国家の構想が展開された。
(3) このような構想は、2000年代初頭にBRICSやIBSAのような新興国による多国間フォーラムが打ち出した取り組みに倣い、中流国家が国際システムを再構築する機会と意欲を持つという期待を高めた。それから10年が経ち、議論は沈静化した。Ruddが提唱したアジア太平洋共同体は実現することなく、MIKTAはその実績を残すのに苦労している。さらに、どの国家が中流国家に属するのかも曖昧であり、中流国家という言葉自体に不満を持つ学者もいる。インド太平洋地域では、オーストラリアと韓国が中流国家であるという点では大方の合意があるが、日本やインドは曖昧で、大国としての能力はあるが、米国や中国のように安全保障秩序を規定する能力はない。しかし中流国家としておく方が都合はよい。
(4) 2010年代前半の中流国家構想や外交戦略は、具体的な目的を欠いた漠然とした議題を掲げてしまい、その役割に十分な焦点を絞っていなかった。しかし、地域環境が大国間対立へと向かいつつある現在、この状況は変わりつつある。新しい時代において、中流国家の戦略は3つの異なる視点からその役割に焦点が当てられる。
a.中流国家は、現在の、そして今後予想される力の均衡の変化に敏感に反応し、大国と同様その均衡を図るための努力を払っている。そして、中流国家は自国の軍事力の増強を図ることで、地域の軍拡競争に参加している。
b.中流国家は規範的な存在としての役割を維持している。最も注目すべきは、インドからインドネシアに至るインド太平洋の中流国家が、法に基づく秩序の構築と肯定を支持していることである。
c.中流国家もまた連合構築に関心を持ち続けてはいるが、それは中心の位置を占める大国の周辺で行われ、明確に定義された戦略的課題に焦点を当てるようになってきた。中流国家は、多国間主義がその機能を果たしていると考えてはいるが、より意図的で具体的な戦略的意図を示す大国主導の多国間協力に投資するために、大規模な地域フォーラムから離脱する傾向が強まっている。その一例がオーストラリアである。オーストラリアは、中流国家のみのMIKTAよりも、米国主導のAUKUS、QUAD、3国間戦略対話(Trilateral Strategic Dialogue)に多くの資金を投入している。
(5) 大国間対立の時代にあって、インド太平洋の中流国家は、力の重要性に対する認識をよりよく反映させるために、自らの役割や好みを適応させ始めている。したがって、現在は中流国家であることの意味を根本的に考え直す時期に来ている。米中によるパワー・ポリティクス(権力政治)の復活は、中流国家が無関係になったことを意味するのではなく、中流国家の役割や好みが変化したことを意味する。その出発点として、中流国家の行動に関する我々の既存の前提は、冷戦後間もない時代に形成されたものが大半であり、それが妥当ではないと認識すべきである。つまり、インド太平洋の中流国家は、大国間対立が今後も続く可能性が高いことを理解し、それに応じて戦略を調整しているのである。
記事参照:Middle powers matter in new Indo-Pacific calculus

6月16日「米中の相対立するインド太平洋の将来像、ASEANは如何に対応すべきか―シンガポール専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, June 16, 2023)

 6月16日付のシンガポール S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のInstitute of Defence and Strategic Studiesが発行するIDSS Paperのウエブサイトは、同Institute準研究員Tsjeng Zhizhao Henrickの “The 20th Shangri-La Dialogue: Duelling Visions of Regional Order”と題する論説を掲載し、ここでTsjeng Zhizhao Henrickは6月2日~4日の間シンガポールで開催されたIISS主催の年次会合、「第20回アジア安全保障会議(シャングリラ会合)」における米中両国の国防長官、国防部長の講演から、アジア太平洋地域に対する両国の対立する未来像を概説し、ASEANが統一性と中心性を維持するために如何に対応していくべきかについて、要旨以下のように述べている。
(1) アジア安全保障会議(以下、シャングリラ会合と言う)では、米中両国の国防長官、国防部長は、アジア太平洋地域の未来像についてそれぞれの見解を示した*。Austin米国防長官の講演は、米国の同盟関係と提携、そしてAUKUSとQUADの強化に重点を置くもので、拡大ASEAN国防相会議(以下、ADMMプラスと言う)やASEAN中心性への支持表明は後半でわずかに言及したのみであった。対照的に、中国の李尚福国防部長は、ASEANとの中国政府の関与により多くの時間を割き、「中国はASEANの中心性とその戦略的自律性を強く支持する」と表明し、ASEAN諸国との巨額の貿易額と「一帯一路構想(BRI)」に言及し、ADMMプラスやASEAN地域フォーラム(ARF)などのASEAN主導のフォーラムへの中国の積極的な参加を強調した。そして予想されたとおり、米中双方はこの地域の発火点―南シナ海と台湾海峡―を巡って非難と警告の火花を散らした。
(2) 双方の発言は、地域秩序に対する相対立するビジョンを反映している。米国は、冷戦中に形成された「ハブ・アンド・スポーク」同盟システムを再び頼りにし、それを補強するものとしてQUADやAUKUSなどの少国間枠組みによる連携を形成している。一方、ASEANへの関与については、Austin長官の講演からは、ASEAN中心性への支持は口先だけのものにしか見えない。シャングリラ会合で示された米国の取り組み、同盟関係と少国間枠組み、特にQUADとAUKUSを重視し、ASEANは脇に追いやられているとの印象を与える。一方、李国防部長は、既存の国際秩序を「いわゆる法に基づく国際秩序」と批判し、そこでは少数の国の利益に役立つように「例外主義と二重基準」が適用されており、各国は「国連憲章と国際秩序をより公正かつ対等にするために補完され、改良された既存の規範を遵守すべきである」と強調し、「未来を共有するアジア太平洋共同体を構築するために手を取り合って働こう」と呼びかけた。しかしながら、係争中の南シナ海問題では、李部長は中国の侵略に対する非難を無視し、中国は行動宣言(DOC)を遵守し、行動規範(COC)の交渉と最終的な締結に引き続き関与していると主張した。
(3) では、ASEANはどう対応すべきか。影響力と支配を巡る米中対立は、予見し得る将来にわたってASEANを悩まし続けるであろう。
a.1つには、ASEANの絶え間ない戦略的自律性の追求は増大する困難に直面しよう。ASEANの原則の1つは包摂性だが、加盟各国は地域秩序に関する米中両国の未来像に対して異なる国家的取り組みを採っている。米政府と中国政府がASEAN加盟国にいずれかの選択を迫れば、ASEAN内の既存の分裂は一層深まるであろう。ASEAN加盟国の多くはこの地域における米国の展開を引き続き歓迎しているが、既存の同盟国や提携国を重視して、ASEANにあまり関心を向けない米国の風潮は、ASEANを等閑視し、その中心性を損なうだけである。中国に対する米政府の敵対的姿勢は、この地域における中国の不可欠な経済的役割を考えれば、確実に役立たない。故に、ASEANは米国との間の建設的な関与を維持するとともに、中国との緊張緩和の措置を講じるよう米政府を説得する必要がある。
b.一方、中国の地域の未来像はASEANにとって好ましく見える。しかし、ASEAN加盟国と域内諸国の多くが米国と緊密な関係を維持しており、中国政府の歓心を買うためにそれらの関係を断ち切る意志がないことを考えれば、米国とその同盟国に対する中国政府の敵対的姿勢はその地域秩序の排他的な性格を示している。同時に、それは、特に南シナ海のような係争地域では、中国による国際法の選択的適用が当たり前であることを意味しよう。
c.中国との経済関係を考えれば、ASEANは中国との経済的切り離し(decoupling)を単純に受け入れるわけにはいかないが、紛争地域、特に南シナ海においてより好ましい立場から中国と交渉できるように、包摂的な地域安全保障機構を追求し続ける必要がある。また、ASEANは南シナ海や台湾海峡といった、域内の係争問題に如何に対応していくかについて、内部の論議を深めていく必要がある。更には、ADMMプラスなど、米中双方が対話する場を提供する必要がある。
d.最後に、ASEANは特に防衛協力において、大国との関与を維持しながら、より効果的な統一路線を打ち出せるように内部の結束を強化すべきである。この点で、5月に実施された第2回ASEAN多国間海軍演習は力強い前進であった。また、ASEANの現議長国であるインドネシアは、9月に中国船舶が定期的に侵入しているナツナ諸島沖のインドネシア管轄海域で合同軍事演習を実施すると発表した。とは言え、親中路線のカンボジアは不参加を表明している。
(4) 米中の相対立する地域秩序の未来像は、ASEANにとって大きな課題である。故に、ASEANは、この米中対立に巧みに対応し、その統一性、中心性、そして最終的には地域の機構における適切性に対する、絶えざる、そして増大する挑戦に対処していかなければならない。
記事参照:The 20th Shangri-La Dialogue: Duelling Visions of Regional Order
備考*:講演内容については、以下を参照
IISS Shangri-La Dialogue 2023 - Asia's premier defence summit

6月17日「台湾の防衛上のジレンマ-米専門家論説」(The Diplomat, June 17, 2023)

 6月17日付のデジタル誌The Diplomatは、米国ワシントンにある台湾人公共事務会(Formosan Association for Public Affairs)の政策職員Jenny Liの” Taiwan’s Defense Dilemma”と題する論説を掲載し、ここでJenny Liは、中国政府が近隣諸国に対して好戦的な姿勢を強めている現在、台湾の防衛上のジレンマは、台米協力にとって最も重要な課題の1つであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国は台湾に対し、外国の介入を必要とする安全保障戦略の採用を促しているが、同時に戦略的にあいまい政策を採っており、それは台湾政府が純粋な防衛的取り組みを採用することを困難にしている。台湾は今、選挙の時期を迎えている。2024年の総統選挙は、今世紀半ばまでに中国が侵攻してくるかもしれないという不安が高まっているときに行われるため近年で最も重要な選挙となる。2024年5月に総統に就任する人物は、国防を計画する上で最も重要なジレンマに直面することになるだろう。それは、台湾には海峡両岸紛争に備えるための時間と資源が限られているが、現在の軍事ドクトリンを成功させるにはかなりの資源と時間が必要なため、中国の侵攻に完全に備えることは困難であることに加えて、米台間の脅威認識の相違で、戦略の具現化が遅れていることである。
(2) ヤマアラシ戦略(強大な侵攻軍に対して分散型の小型兵器によって打撃を与える戦略:訳者注)は、台湾の防衛問題に対する最も支持される解決策である。この戦略は、台湾特有の地理を利用して局地的な優位性を作り出す。2017年に当時の台湾総参謀長の李熙敏海軍大将は、ヤマアラシ戦略を台湾の防衛ドクトリンとして成文化するため、総合防衛構想(以下、「ODC」という)を策定した。台湾の過去の軍事ドクトリンは、縦深性のある攻撃能力と敵の破壊を求めていたが、これとは異なり、ODCは、台湾が制海権と制空権を放棄しつつ、中国の侵略を阻止するために、より費用対効果の高い防衛的な取り組みを提案している。
(3) ODCは、非対称性の概念を訓練、兵力構成、指揮統制、兵站を含む軍事行動のあらゆる段階に統合する「拒否による抑止」戦略である。ODCは、台湾が中国と正面から対称的に対抗できないことを認識し、侵攻の初期段階で大型兵器システムと基幹施設が破壊されることを想定している。そして、両岸紛争の初期段階を乗り切るため、ODCは非対称兵器と呼ばれる生存可能な機動力のある兵器の使用を規定している。しかし、兵器だけでは軍事行動の指針にはならない。非対称兵器を獲得しても、全体的な戦略がなければ意味がない。
(4) 米国の国防政策に携わる多くの人々にとってODCは非対称防衛の共通概念について台湾と協力する好機であった。2022年の台湾政策法の初期版では、ODCに対する台湾の努力を評価することが求められていた。また、米シンクタンクBrookings Instituteが 最近実施した机上演習による分析では、台湾軍に非対称性を採用するよう奨励している。しかし、台湾はODCの導入に熱心ではない。この戦略を完全に放棄したという意見もある。
(5) 蔡英文総統は台湾を非対称防衛に向かわせようとしている。蔡総統は2020年5月の就任演説で、台湾は非対称能力の開発を加速させ、予備・動員システムを改革し、軍事管理制度を改善すると述べたが、ODCはそれ以降、台湾の国防に関する文献から姿を消した。2021年の4年毎の国防見直し(QDR)は、非対称能力と戦争について言及しているが、非対称戦略については言及していない。その代わりに、「毅然とした防衛と多領域抑止」を主要目標として掲げ、制空権、制海権、長距離攻撃能力を求めている。これは台湾軍と中国人民解放軍(以下、「PLA」と言う)を航空機対航空機、艦艇対艦艇、兵士対兵士で戦わせるというものである。しかし、2023年4月、米国防総省から漏れ出た文書により、台湾の防空態勢は、中国軍の航空優勢を打破できないことが明らかになった。
(6) 台湾政府がODCの採用に消極的なのは、米国とは異なる脅威認識と許容範囲に起因している可能性がある。ODCは最悪のシナリオを分析の前提としているが、台湾の政策立案者は税関の検疫から完全な封鎖、ミサイル攻撃に至るまで、潜在的なPLAの攻撃範囲を見積もらなければならない。そのため、非侵略シナリオに対して機能する大規模な通常兵器を維持する強い動機がある。通常兵器は、中国がますます強圧的になっているグレーゾーンでの活動に対抗することができる。また、その可視性は台湾の防衛に対する国民の士気と信頼を向上させる。対照的に、米政府が中国の侵攻を懸念しているのは、それが最大の安全保障上の課題だからである。
(7) 台湾の防衛上のジレンマの核心は、米国が台湾の防衛に乗り出すかどうかという不確実性にある。ODCは、PLAの侵攻を阻止するために防衛的な取り組みを主体としており、台湾に可能な限り長く持ちこたえ、外国の軍事援助の到着を待つよう求めている。しかし、両岸衝突の際に米国とその同盟国が台湾を支援するかどうか、またどのように支援するかについては不透明である。米国は台湾に対し、外国の介入を必要とする侵攻シナリオに適した戦略を採用するよう求める一方で、戦略的曖昧性の政策を支持しており、台湾政府がODCを決定することを困難にしている。
(8) 台湾は、その防衛戦略において現実主義と明確さを達成するために、米国からの透明性を必要としている。この戦略は、台湾が利用できる限られた時間と資源を反映したものでなければならず、同時に米国やその同盟国との協力の余地も認めなければならない。幸いなことに、米台双方の政策立案者は台湾の防衛上のジレンマを認識しており、その解決に向けた取り組みが進められている。北京が近隣諸国に対して好戦的な姿勢を強めている現在、台湾の防衛上のジレンマは、台米協力にとって最も重要な課題の一つである。
記事参照:Taiwan’s Defense Dilemma

6月18日「インドとASEANの間で強化される海軍協力―英大学院生論説」(The Interpreter, June 18, 2023)

 6月18日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、Kings College London修士課程院生予定のMoksh Suriの“Acting East on the seas: India’s naval cooperation with ASEAN”と題する論説を掲載し、Moksh SuriはインドとASEANとの間で活発になっている海軍協力について、要旨以下のように述べている。
(1) 海洋領域での新たな共同演習と訓練計画を開始し、軍港への寄港と連携して行う哨戒を強化し、共同開発の防衛システムを主要なASEANの提携国へ提供することによって、インド政府は東南アジアでの海軍力の存在感を徐々に拡大している。
(2) 5月、インドとシンガポールの海軍は、初のASEAN-インド洋上演習(AIME)を共同開催した。これにはASEAN加盟国10ヵ国全てが参加し、内陸国のラオスおよびカンボジアを除く8ヵ国の艦艇が参加した。
(3) 中国との海洋領土紛争を抱えるベトナム、フィリピン、ブルネイ、インドネシアおよびマレーシアの5ヵ国の参加を考えるとインドは明らかに、係争中の海域での中国の強硬姿勢に対抗するための、信頼できる安全保障上の提携国として見なされている。
(4) Indian Navyはシンガポール、タイ、インドネシアのような提携国との間で2国間および3国間の演習を行っているが、ASEANとの共同演習はインドの“アクト・イースト”政策が海軍協力という明確な側面をもっていることを明示している。
(5) インド政府から見れば、これはIndian Navyがインド洋地域という伝統的な責任範囲を超え、その海洋における影響範囲を拡大する一助となる。さらに、強化されるインドとASEANの海軍協力は、この地域の多くの国家がインド製の武器システムの獲得に関心を示していることから、Narendra Modiインド首相の野心的な防衛輸出目標の実現を強く後押しする。フィリピンはインドとロシアが共同開発したブラモス・ミサイルシステムを既に購入しており、ベトナムとインドネシアも対艦ミサイルシステムの購入についてインド政府と交渉中である。
(6) インドとASEANは、彼らの広大な海洋空間をより理解し、哨戒するのに有効な情報共有メカニズムの開発が有益であると認識している。共同演習と連携した哨戒は軍同士の海洋協力を拡大するための第一歩であるが、これらの演習を常態化することにより、それらの演習の頻度と範囲を強化し、相互運用性を高めることが可能となる。このような動きを一層推進するために、物流の利用権や「ホワイトシッピング(white shipping、商船の運航情報を共有することで海上交通の監視と安全を図る:訳者注)」に関する協定の締結もインドとASEANの海洋協力を強化する可能性がある。
記事参照:Acting East on the seas: India’s naval cooperation with ASEAN

6月20日「米国に対抗するための支援を集められない中国―香港紙報道」(South China Morning Post, June 20, 2023)

 6月20日付けの香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“On Cuba, South China Sea or Taiwan Strait, Beijing has failed to rally support against US positions”と題する記事を掲載し、キューバ、南シナ海、台湾海峡に関する問題において、中国は米国に対抗するための支援を集めることに失敗したとして、要旨以下のように報じている。
(1) ここ数週間の米中外交の慌ただしさの中で、南シナ海とキューバをめぐる両国間の緊張が背後にあったのは理解できる。中国がキューバに何十億ドルも投じて、キューバに監視基地を設置するという報告を確認しようと最初に騒ぎ立てたにもかかわらず、この話は数ヶ月前に中国の気球が米国の中心部で引き起こした危機のようには発展することはなかった。フロリダ州南部約160kmの位置にある理論上の盗聴基地は、カンザス州上空の中国の気球ほどの視覚的緊急性をもたらさなかった。
(2) 我々の多くが、近年の米中関係の下降スパイラルを追跡調査してきた中で、問題は中国とキューバが共謀しているかどうかではなく、60年間、米政府が経済的に屈服させようとしてきた国に、なぜ中国がこれまでにこのような性質のものを持っていなかったのかということである。
(3) もう1つ、重要な疑問がある。キューバを孤立させようとする米国の取り組みは、キューバを中国のスパイ拠点にしようとする動きを阻止できる可能性のある外交的影響力を完全に失うほどに価値のあることだろうか?
(4) 政権の基盤が完全に固まっているわけではない米国、中国、キューバのもつれた関係にはもう1つの側面があり、「そっちこそどうなんだ」式の手法であったとしても、中国は当然のこととして圧力をかけてくる。U.S. Department of Defenseは、中国が米国と同じような情報収集活動を行うための技術力を持つ前から中国をスパイしてきた。米中間の緊張の源である、南シナ海を通航する米国の航行の自由作戦には、間違いなく情報収集活動が含まれている。米政府が未だに国連海洋法条約を批准していないという事実とこれを組み合わせれば、この地域におけるそのほとんどが国連海洋法条約に基づく中国との未解決の紛争において、フィリピンやベトナムを米国が支援することは、全くの偽善的な行為であると中国は容易に主張することができる。
(5) さらに、米国と中国が定期的に哨戒を行っている第3国の排他的経済水域での情報収集に国連海洋法が設ける制限というのは未解決の問題であり、これらの軍事活動を批判にさらす可能性がある。U.S. Naval War CollegeのJames Kraskaは、2022年の論文で「国際法は一般的に、国際連合憲章第2条4項で禁止されている『武力攻撃』又は『武力侵略』に等しいものでなければ情報収集を禁止しない」というのが従来の見解であると指摘している。米政府の立場からすれば、南シナ海での航行の自由作戦は武力侵略に近いものではないが、中国政府は米空母打撃群の展開をそのように描写している。
(6) 以上を踏まえると、この地域の国々が中国政府とともにU.S. Navyの南シナ海における軍事行動を制限し、または停止を要求したりするのであれば、彼らは確固とした根拠を持つことになる。しかし、南シナ海で注目を集めている多くの事例では、怒りは中国に向けられている。キューバ、南シナ海、台湾海峡に関する米政府の立場には、いくつかの未解決の問題がある。経済力を築き上げた中国政府は、それらに挑戦する大規模な連合を集結させることができるはずである。しかし、それは起こらなかった、それは誰のせいなのだろうか?
記事参照:On Cuba, South China Sea or Taiwan Strait, Beijing has failed to rally support against US positions

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) Updating America’s Asia strategy: A Brookings interview
https://www.brookings.edu/essay/updating-americas-asia-strategy/?utm
Brookings, June 14, 2023
2023年6月14日、米シンクタンクThe Brookings Instituteは、ウエブサイト上に" Updating America’s Asia strategy: A Brookings interview "と題する論説を発表した。その中ではまず、経済力、軍事力、外交的影響力における中国の急速な成長は、中国がアジアにおける支配的な大国となり、それが第2次世界大戦後に主導的役割を果たしてきた米国をアジアから引き離す力として働くのではないかとの懸念が生じたと指摘されている。その上で、このような危険性に直面したことで、米国とその提携国は、アジア地域でより緊密な関係を構築するための協調戦略を進めてきたが、米国はアジア太平洋地域の2つの主要貿易協定である「地域的な包括的経済連携協定(RCEP)」と「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」の枠外にいるため、アジアの一部の国では、米国は中国のアジアへの軍事的・経済的・外交的進出に対応できないのではないかという認識が存在していると主張し、関連する複数の専門家の分析を掲載している。

(2) STRATEGIC UPGRADES IN THE PACIFIC
https://amti.csis.org/strategic-upgrades-in-the-pacific/
Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, June 15, 2023
2023年6月15日、CSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeに" STRATEGIC UPGRADES IN THE PACIFIC "と題する論説が発表された。そこでは、これまでのところ、太平洋の島々の戦略的利用を確保に関する中国の成功は、まだ彼らの野望を満たすほどではないと評した上で、太平洋島嶼国は中国から経済的な機会を掴むことに熱心だが、ソロモン諸島だけが安全保障協定に合意しており、フィジーのように安全保障協力で中国が挫折を味わった事例もあると指摘している。そして、一方、米国とオーストラリアは遅ればせながら、この地域における長年の関係と前向きな姿勢を活用して外交・安全保障構想を強化し始めており、中国からの投資と引き換えに戦略的な譲歩を余儀なくされていると考えられる国々に代替案を提供しているとし、米豪両国は、太平洋島嶼国との新たな協定の締結、2国間の防衛協力の深化、軍事施設や部隊への再投資を組み合わせて、太平洋における戦略的優位を強化していると指摘している。

(3) Cambodia seeks to sink joint ASEAN naval drills
https://asiatimes.com/2023/06/cambodia-seeks-to-sink-joint-asean-naval-drills/
Asia Times, June 17, 2023
By Richard Javad Heydarian is Asia-based academic, currently a Professorial Chairholder in Geopolitics at the Polytechnic University of the Philippines
6月17日、Polytechnic University of the PhilippinesのRichard Javad Heydarianは、香港のデジタル紙Asia Times に、“Cambodia seeks to sink joint ASEAN naval drills”と題する論説を寄稿した。その中で、①6月、ASEAN議長国であるインドネシアは、「ASEANの中心性」の強化を目指して、加盟国間で初めての海軍演習を近く主催すると発表したが、地域で中国の主要な提携国であるカンボジアは、ASEANの海軍演習への参加について慎重な立場を示した。②カンボジアは、タイ湾に位置するリアム海軍基地の独占的な権利を中国に秘密裏に付与していると疑われている。③ASEANが依然として内部の深い分裂を克服できていないことは明らかである。④2012年にカンボジアがASEANの議長国であった時、南シナ海の紛争についての議論を阻止しようとしたことは、ASEAN最大の危機を引き起こした。⑤リアム海軍基地が中国の海軍施設を受け入れるならば、南シナ海およびインド洋の戦域での中国の海軍作戦を支援する可能性がある。⑥2022年のASEAN議長国として、カンボジアは米国と中国の双方との関係を公平に扱っていたが、AUKUSによる原子力潜水艦の取り決めが発表された後、Hun Sen首相は、AUKUSを「非常に危険な軍拡競争の起点」と糾弾した。⑦カンボジアがASEAN海軍演習全体に反対しているのか、それとも提案された海軍演習の場所がインドネシア北部に位置し、九段線と重なる北ナツナ海であることに反対しているのかは明らかでない。⑧しかし、「南シナ海」という言葉を用いることで、カンボジアは「北ナツナ海」を南シナ海の海盆の延長として実質的に説明し、間接的に中国の海洋領域に対する主張を強化しているといった主張を述べている。