海洋安全保障情報旬報 2023年06月21日-06月30日

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6月22日「衝角(ラム)戦術の復活―米専門家論説」(Real Clear Defense, June 22, 2023)

 6月22日付のU.S. Department of Defenseおよび議会の要請により設立された軍事、国防関連ニュースサイトReal Clear Defenseは、RAND Corporation上席技術者Scott Savitzの” Revive the Ram”と題する論説を掲載し、ここで Scott  Savitzは中国艦船による攻撃的な行動に対する抑止として、衝角を装備した突進型USVは様々な致命的な被害をもたらさない兵器と併用して、中国による海洋支配を阻止する手段に選択肢を与えることができるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 6月初め、中国の軍艦が米駆逐艦の150ヤード以内まで接近し、衝突の危険が発生した。このような中国による米軍艦への継続的な攻撃性を阻止するために、米海軍は突進能力を備えた無人水上艦艇(USV)のような致命的な被害をもたらさない兵器に目を向ける可能性がある。中国海軍によるこのような嫌がらせは、他国の艦船に対しても繰り返されている。1カ月前には、中国の軍艦がPhilippine Coast Guardの巡視船2隻と衝突しそうになった。その他にも、軍艦、沿岸警備隊の船舶、民間船舶が標的になっている。中国によるこのようなグレーゾーンでの活動は、近隣諸国を支配し、国際水域の権威を主張するための活動の一環である。
(2) 米海軍の艦艇は、中国が攻撃的な行動を採っている時でも、相手に対して殺傷力を行使することは避けようとしている。米軍は、海上での遭遇が危険なものになるのを防ぐために使用する致命的な被害をもたらさない兵器やその他の中間的な武器を保有しており、また開発中のものも多数ある。たとえばアコースティック・ヘイラーという装置は、他の通信手段を補完し、警告や刺激音を発信できる。レーザー・ダズラーは、一時的なまぶしさを発生させ、目を損傷しないレーザーを船橋に照射して、接近を思いとどまらせることができる。アクティブ・ディナイアル・システムは、隊員の皮膚に一時的な熱感を生じさせ、永続的な被害とならない不快感を与えるものである。これらのシステムが、最近の事件で使用されたかどうかは公表されていない。
(3) 加えて、衝角(ラム)で武装した特殊なUSVの開発も考えられる。自船に接近する敵に直面したとき、比例した反応は必要である。敵艦の近くをうろつく機敏でスピードのあるUSVは、敵艦に突進しようとする振る舞いで効果的な抑止力となる。USVによる突進は、相手船を沈没させることを目的としたものではなく、単に喫水線下での実質的な漏水によって、無能力化させることを目的としている。突進型USVは、長い水中突起を持ち、船体下のソナーやその他の敏感な機器に損傷を与えることもできる。
(4) USVは消耗品として十分安価であるが、ほとんどの場合、衝突後に回収して再利用できる。さらに、その抑止力によって、実際の衝突は不要になる。侵略者は突進型USVを攻撃できるが、米艦艇の近くで武器を発射することは、エスカレートの度合いを高めることになる。米国が海上での対立で引き下がることも、また衝突に拡大させることなく管理したいと考えているのと同様に、中国艦艇もU.S. Navyを刺激しないことに強い関心を持っており、rules of engagementではさまざまな兵器の使用を禁じている。
(5) 突進の目的を持って設計された艦船の歴史は、数千年前にさかのぼる。投射兵器や水中兵器がより効果的になったため、19世紀以降、戦闘で衝角戦法が使われることはほとんどなくなった。しかし、衝角戦法は、漁業をめぐる対立や、中国が近隣諸国の海域や国際航路を支配しようとする最近の取り組みにおいて使用されてきた。まさにグレーゾーンの状況こそ、突進型USVが得意とするところである。突進型USVは、東アジア周辺の前線基地を拠点とし、航行の自由作戦や台湾海峡の通過など、緊迫した状況下で米軍艦と並走するために配備される可能性がある。人員や大きな積載物の代わりに、十分な燃料タンクを搭載し、艦艇と長時間並走することができる。USVと防護対象の艦艇との距離が短いため、通信と制御は容易である。周波数帯域が妨害される可能性がある場合には、適度な自律性が求められるだろう。また暗号化された信号を使用する選択肢もある。
(6) 中国艦船による攻撃的な作戦に直面した場合、U.S. Navyは、事態が拡大する危険性を抑えつつ脅威を抑制する能力として、突進型USVを使用できる。このような比較的単純で安価な艦船は、様々な致命的な被害をもたらさない兵器と併用して対立を管理することが可能であり、中国による海洋支配を阻止しようとする指揮官に、より多くの選択肢を与える。
記事参照:Revive the Ram

6月23日「ASEAN共同演習の実施場所の変更が持つ意味―インドジャーナリスト論説」(EurAsian Times, June 23, 2023)

 6月23日付のインドのニュースサイトEurAsian Times は、防衛問題や国際問題を専門とするジャーナリストSakshi Tiwariによる“China’s ‘Choke Point’: ASEAN Moves Its Military Drills From Contested Waters Of South China Sea To Malacca Strait”と題する論説を掲載し、そこでSakshi Tiwariは、9月に予定されているASEAN共同演習の実施場所が南シナ海からマラッカ海峡に近い海域に変更になったことに言及し、それがどのような意味を持つかについて、要旨以下のように述べている。
(1) インドネシア軍は、ASEAN史上初めて実施予定の共同軍事演習の実施場所を、南シナ海の外側に位置する南ナツナ海へ変更すると発表した。
(2) 南シナ海は、ASEAN諸国と中国の間に主権論争がある。中国は「九段線」の内側に位地する海域の主権を主張するが、それに対し2016年のInternational Court of Arbitrationの裁定は、中国の主張に法的根拠がないとした。しかし中国による他の領有権主張諸国に対する威圧的取り組みは依然そのままである。それに加えて最近、中国人民解放軍と、フィリピンやベトナムの海軍、沿岸警備隊との間で複数の衝突もあり、ASEANの共同演習の場所が変更されたと見られる。
(3) インドネシアはその決定が、ASEAN諸国が参加した共同演習に関する会議によって下されたと述べている。しかし、中国に近いカンボジアやミャンマーなどは、その会議への参加自体を拒んだと見られている。
(4) 南ナツナ海は南シナ海より論争の的ではないとはいえ、インドネシアと中国の間で微妙な摩擦が存在する場所ではある。インドネシアは中国との間に主権論争は存在しないという立場を公的には採っているが、中国海警船や漁船団がインドネシアの排他的経済水域に侵入していることはよく知られている。また、新たな演習場所は、それまでよりマラッカ海峡に近い場所にある。このことが、中国政府を動揺させる可能性があると見られている。
(5) マラッカ海峡は、インドネシアとマレーシアの間に位置する戦略的水路である。中国に出入りする船舶の大部分がそこを通過するので、中国政府はマラッカ海峡を海上交通路のチョークポイントとみなしている。「マラッカのジレンマ」という言葉があるように、中国はマラッカ海峡が海上封鎖されればただでは済まない。そして、海上封鎖の可能性は、インド太平洋地域の緊張によって高まっている。海峡は狭く、その封鎖に多大な労力は不要である。またその周辺は、インドネシアとマレーシアだけでなく、シンガポールや長年の敵対相手でもあるインドにも囲まれている。
(6) 中国に輸入されるエネルギー資源の8割がマラッカ海峡を通過すると言われている。そのため中国は封鎖の影響を減らすために、海軍力強化だけでなく、選択肢を多様化してきた。それでもなおマラッカ海峡は戦略的な水路であり続けており、中国も米国も、南シナ海だけでなくマラッカ海峡に注目してきた。インドネシアに対する米国の注目も高まっている。
(7) 中国のほうもインドネシアと良好な関係を築こうと苦心しており、軍事協力の強化を推し進めている。たとえば2022年11月18日には、インドネシア国防相のPrabowo Subiantoと当時の中国国防部長であった魏鳳和が会合し、安全保障協力の強化に合意している。中国の狙いはインドネシアとの2国間関係を強化し、米国のアジアへの軸足の移転に対抗し、南シナ海での存在感を維持することだと見られている。それに加えて、中国はミャンマーなどASEAN北部諸国での存在感の維持と、北極海航路への投資拡大も目指している。
(8)いずれにしても、インドネシアの地政学的位置は、米国のインド太平洋戦略においてますます重みを増してきている。なお、実施予定のASEAN共同演習は、海上哨戒や医療的避難など、戦闘に関わらないものが中心となる。
記事参照:China’s ‘Choke Point’: ASEAN Moves Its Military Drills From Contested Waters Of South China Sea To Malacca Strait

6月23日「インドにU.S. Navyの後方支援拠点を設置―米海軍防衛産業関連サイト報道」(Naval Technology, June 23, 2023)

 6月23日付けの米海軍防衛産業関連ニュースサイトNaval Technologyは、“US to make India into naval logistics hub for Indo-Pac region”と題する記事を掲載し、インドで、米国とその同盟国の艦艇の保守整備を行う拠点ができることについて、要旨以下のように報じている。
(1) 6月第4週の初めにIndia-US Defense Acceleration Ecosystem(以下、INDUS-Xと言う)が設立された。これを受けて、米国は、インド太平洋地域における艦艇の保守整備の拠点を確保するため、Indian Navyの基幹施設、海洋事業用基幹施設の発展を支援しようとしている。Modiインド首相が国賓として米国を公式訪問したが、その背景として、6月21日に発足したINDUS-Xは、両国間の防衛産業協力を「活性化」するものであるとU.S. Department of Defenseは述べており、6月22日のU.S. Department of Defenseの記者会見では、報道官が記者団に対して、米印間の防衛関係の強化は「広範な戦略的パートナーシップ」の一環であり、軍事・安全保障協力が「戦略的関係の中心」になると語っている。その一つの側面が、インドに海軍の艦艇修理・整備拠点を設けることであり、米国や他の同盟国が使用できるようになる。国防総省の報道官は、「ここでの目的は、インドをインド太平洋地域における米国や他の提携国のための後方支援拠点にすることである」と述べている。
(2) この地域における保守整備施設に不足するどころか、U.S. Navyはインド洋や太平洋地域の多くの同盟国や提携国に艦艇の修理や整備を依頼することが可能である。
a. インド洋地域では、バーレーンのミナ・サルマーンにあるUS Navy Support Activityを拠点とするU.S. 5th Fleetが、艦艇の整備や修理のために同国や湾岸近隣諸国の拠点を利用することができる。米海軍の軍艦はこれまで、展開中の修理にアラブ首長国連邦のジュベル・アリを使用していた。
b. 近隣のオマーンも、インド洋沿岸のドゥクムにある乾ドック施設に多額の投資を行っており、米海軍最大の軍艦であるジェラルド・フォード級空母よりも遥かに大きな民間タンカーを入渠させることができる。英国は現在、ドゥクムの乾ドックにおいて陸・海軍用の後方支援拠点を運営しており、同施設を利用して艦艇の修理や整備を行っている。
c. 太平洋地域では、日本の横須賀を拠点とするU.S. 7th Fleetが、日本国内の艦艇修理・整備施設を利用することができる。
d. その他では、米海軍は、シンガポールのチャンギ海軍基地に4隻の沿海域戦闘艦を前方配備しており、これらを支援するための海軍施設も運営している。
e. 2023年には、米海軍はフィリピンのスービック湾に多年にわたる中断を経て戻ることになった。
(3) このようにインド太平洋地域に海軍保守整備支援施設網が広がっており、インドがこれに加わることは、米国と同盟国の海洋の取り組みにさらなる能力をもたらすとともに、戦略的に重要なこの国で中国が自身の足場を築くことを阻止するだろう。
記事参照:US to make India into naval logistics hub for Indo-Pac region

6月23日「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップの構築作業が進行中である―インド専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, June 23, 2023)

 6月23日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNetは、インドの研究機関Organisation for Research on China and Asia研究員Ahana Royの “A work in progress: The Indo-Pacific partnership for maritime domain awareness”と題する論説を掲載し、ここでAhana Royは2022年QUADの4首脳が立ち上げた「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(IPMDA)」を成功させるには、地域の国々にこれが中国の活動を制限することだけに焦点を当てたものではなく、自然災害、人身売買、武器密売、違法・無報告・無規制漁業などの課題と闘う包括的なものであることを理解させ安心させる必要があるとして要旨以下のように述べている。
(1) 2022年、QUADの4首脳が東京に集まり、Indo-Pacific Partnership for Maritime Domain Awareness(海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ:以下、IPMDAと言う)を立ち上げる共同声明を発表した。この構想の主な目的は、インド太平洋諸国が即事に海洋状況を把握する能力を強化するための新しい技術支援と訓練支援を行うことにより、海洋の安全保障と状況把握を強化することである。この構想の目的は、明確には述べられていないが、中国を対象としている。しかし、IPMDAが純粋に反中国的な構想であるという考えは、構想に参加したい地域諸国に懸念をもたせ、効果的な実施を阻害する問題となっている。その結果、1年後の2023年においても、IPMDAは初期段階に留まっている。中国によるインド太平洋地域の軍事化、沖合資源の開発、中国海上民兵の存在に対する強い懸念にもかかわらず、IPMDAの発展は不十分である。QUAD諸国は、このパートナーシップの運用を成功させるために、いくつかの要因を考慮に入れなければならない。IPMDAを成功させるためには、QUAD諸国は、中国の活動を制限することだけに焦点を当てたものではなく、活動は包括的であることを地域の他の国々に理解させ安心させる必要がある。
(2) IPMDAは、QUAD諸国とそのインド太平洋の提携国間の海洋戦略的提携を運用可能にする共通の枠組みを提供する。この構想は、地域の海上空間の監視、SLOCの確保、地域の提携国への能力開発措置の提供に焦点を当てている。この構想は、特に南シナ海における中国の好戦性を抑制するというQUADの暗黙の戦略的利益を補完するものである。公式には、IPMDAはインド太平洋の提携国に「ほぼ即時に統合された費用対効果の高い海洋状況把握」を提供している。これは、自然災害から人身売買や武器の密売、違法・無報告・無規制漁業(以下、IUU漁業と言う)、ダークシッピング(自動船舶識別装置の発信器を意図的に‘切’にして運航する船舶:訳者注)に至るまでの課題と闘うことを目的としている。船舶識別の課題に取り組むために、この構想は、各国がダークシッピングに対抗し、「より速く、より広く、より鮮明な」情報配布を成功させることを可能にする商用衛星からの情報に基づく追跡サービスを使用する。さらに、この構想は、インド、シンガポール、バヌアツ、ソロモン諸島などの提携国の既存の情報融合センターを情報共有のため利用する。この即事の海洋情報収集と情報配布は、志を同じくするインド太平洋諸国の国家海洋戦略を反映した効果的な多国間集団安全保障機構への道を開くであろう。
(3) IPMDAは、米国が東南アジア、太平洋島嶼国、インド洋地域諸国を1つの構造に組み込んだ初めてのものである。しかし、東アジアは含まれていない。おそらく、それは米国と日本はすでに東シナ海で十分に整った海洋状況把握の機構を持っているためであろう。さらに、IPMDAは西インド洋地域やセイシェルやモーリシャスなどの島嶼国を包摂していない。これらの地域をIPMDAの地理的範囲から除外すると、インド太平洋における海洋状況把握の全体像が分断されたままになっている。このことは、IPMDAが以前のものよりも多くの分野を包摂している一方で、効果的な海洋状況把握には有害な限界が残っていることを示している。
(4) IPMDAを成功させるためには、すべての参加国が、現在の情報共有、能力構築、協調行動の慣行における大きなギャップを埋めるとともに、技術の相互運用性、資源の利用、船舶の識別などの課題を解決する必要がある。IPMDAは、海洋空間における違法行為を抑止する機構として極めて重要である。QUAD諸国は、IPMDAが直面するいくつかの障害を調査しなければならない。船舶識別には多くのデータが必要であり、多くのインド太平洋諸国は領海を効果的に監視するための設備が整っていないため、船舶識別は永続的な問題となっている。この問題に取り組むためには、公に利用可能な情報共有システムと識別技術への投資、遠く離れた国際海域におけるパトロール・監視のための海上法執行要員の訓練という2つの取り組みが必要である。
(5) IPMDAを包摂的かつ持続可能な方法で実現するには、まだ長い道のりがある。海洋状況把握の全体像を効果的に実施するために、日米豪印諸国は、インド太平洋地域の提携国に負担をかけかねないように取り組まなければならない。中国の怒りを不必要に呼び起こしたい国はないだろうが、多くの国は、インド太平洋地域における中国の積極的な展開に代わるものに興味を持っており、それが各国の国益に役立ち、共通の海洋原則を促進する。QUAD諸国は、インド太平洋諸国が直面する、特に中国からの脅威に対して互いに大きく異なる懸念に駆り立てられていることを考慮する必要がある。すべての提携国が、IPMDAを効果的に実施するために、複数の段階で共通点を見つける必要がある。
(6) QUAD諸国は、IPMDAを展開するための新たな機構を切り開く代わりに、既存の地域協力機関と協力して、海洋状況把握戦略を成功裏に実施すべきである。中国と米国、ひいてはQUADの両方との取引の均衡を取らなければならないASEANのような組織にとって、IPMDAを通じて能力開発と人的資本の育成に焦点を当てることは、自国の利益に役立つ。一方、この構想は東南アジア諸国に地域の海洋安全保障を促進するというQUADの誓約を再確認するともに、QUADの提携国が反中国感情に基づいて行動するための単なる飾りではなく、地域の海洋状況把握能力の構築という本来の目的を実現する道を切り開くであろう。
(7) 日米豪印のIPMDAは正しい方向への一歩であるが、その有効性を判断することは時期尚早である。日米豪印は、現在のIPMDAの欠陥に対処し、インド太平洋地域における包括的で強固な海洋状況把握を支援するために、地域の利害関係者との関係構築を直ちに開始しなければならない。加盟国がこの構想にどれだけ迅速に集まることができるかはまだ不明確であるが、それがIPMDAの有効性を決定する。IPMDAが地域の安全保障の力学にどのように影響するか、そして中国がこのような多国間構想にどのように対応するかについては、さらなる検討を要する多くの問題がある。
記事参照:A work in progress: The Indo-Pacific partnership for maritime domain awareness

6月23日「専門家が語る兵站:誰が太平洋戦域内兵站を整備するのか?―米専門家論説」(Breaking Defense, June 23, 2023)

 6月23日付の米国防関連デジタル紙Breaking Defenseは、RAND National Security Supply Chain Institute所長でRAND Corporation上席政策研究員Bradley MartinおよびRAND Corporation上席物理科学者Chris Perninの‶Professionals talk logistics: Who will fix Pacific lift? ″と題する論説を掲載し、ここで両名は中国と米国が戦争になった場合、米本土から前線部隊への物資補給に課題が多く、米議会とU.S. Department of Defenseが積極的に改善に取り組まなければ、米軍は太平洋で戦えないとして、要旨以下のとおり述べている。
(1) ロサンゼルスから台北まで1万kmを隔てるが、中国と戦争になった場合、補給物資はその広大な距離をどのように運ばれるか。U.S. Department of Defenseは遠く離れた太平洋での紛争に備えようと躍起になっている。RAND Corporationの2人の専門家Bradley MartinとChris Perninは、米国は兵站について従来の考えを改めるべきで、そのためには、米議会が各軍種に連携を促すべきと主張する。
(2) 米国は10年以上にわたって「太平洋へ軸足を移す」ことに苦心してきたが、今も兵站に大きな欠落がある。米国は、多数の貨物機、支援船等を擁し、地球上で最大の戦力投射能力を持っているが、太平洋は広大である。ウクライナにおける弾薬と人命のおびただしい消費・損失が示すように、中国との戦争になると増援、軍需品、物資を制限のないほど必要とし、そのほとんどは米国西海岸から西太平洋まで6,500海里(10,000km)以上離れた場所に輸送されなければならない。さらにインド太平洋軍の作戦地域に到着した物資は、U.S. Indo-Pacific Command(以下、INDOPACOMと言う)の広い戦域内をどのように輸送されるであろう。
(3) 米国は同盟国等と協力し、韓国、日本、オーストラリアなど、太平洋に主要な拠点を設定し、そこから燃料、弾薬、予備部品等が前線部隊に供給される。現在、U.S.  Transportation Command(米国輸送軍:以下、TRANSCOMと言う)が、米本土からこれらの海外主要拠点までの兵站輸送を担当しているが、INDOPACOM戦域内の輸送(いわゆる戦域内輸送)をどの組織が「担任」するかは、明確になっていない。各軍種はインド太平洋を念頭に置き、それぞれ独自の戦域内兵站への取り組みを進めている。各軍種には「全領域作戦」のような野心的な概念を太平洋全域で実行できるようにする責任がある。加えて、「統合戦闘概念」や「紛争下の兵站統合概念」の一環として、戦域内兵站の責任を負わされる可能性もある。しかし、各軍種バラバラでは戦域内兵站の対応として十分ではない。大きな責任はU.S. Department of Defenseと議会にある。U.S. Department of Defenseは太平洋における戦域内輸送に必要な資金を管理している。信頼できる軍事的抑止力を支える兵站計画をすぐに策定することが重要である。
(4) 軍は、過去の紛争時と同じように行動することはできない。外国の土地を無制限に利用するという選択肢はなく、自国の基地から前線に至るまで、危険で不確実な環境の中で長期間活動しなければならない。「統合戦闘概念(Joint Warfighting Concept)」とそれを支える「紛争下の後方支援統合概念(Joint Concept for Contested Logistics)」は、物流の世界に起こりつつある大きな変化を上級指揮官が理解できるように詳述していない。レトリックのほとんどは、図表に重点を置き「機敏」と言うものの実行可能な内容が軽視された昔の概念を彷彿とさせる。戦争に必要なものと、ほとんど平時志向の「運転資金」や輸送の枠組みの不整合を含め、多くの問題が未解決のままである。
(5) これまで戦域内輸送は容易に実施可能とし、たとえばU.S. Central Commandの地域では、輸送の大部分は、民間のトラックと契約することで賄えた。しかし、太平洋を横断する物資輸送にセミトレーラーを雇うことはできないし、貨物船と契約する選択肢もないであろう。なぜなら最近の調査では、中国と密接な関係をもたず、他の欠格事由もない請負業者を見つけることが非常に困難になっている。統合軍は、戦域内輸送の必要性をどう満たすか、また、どの軍種がそれを提供するのかを明確にする必要がある。統合軍が統合戦闘概念を実行できるかどうかは、これにかかっている。以前にも議論したが、この問題を扱う指導者として、軍人、つまり機能的な戦闘指揮官を割り当てるという動きを見たことがない。
(6) 統合戦闘概念は、太平洋に焦点を当て、新たな種類の競争相手に対抗するための追加的な領域を統合するもので、一歩進んだ変化である。近年、米議会は戦域内輸送への投資について質問を行い、各軍は追加投資を行ってきたが、十分ではない。太平洋は非常に広く、米軍基地は遠く離れているため、議会は必要に見合った規模の投資を行わなければならない。米議会は、海上輸送という米軍の欠落部分について、まだ公的な監視を行おうとはしていない。議員たちは今、何をすべきなのか。
・上下両院の軍事委員会は、戦域内輸送に関する公聴会を開き、U.S. Department of Defenseの文官と軍高官に、この問題をどのように解決するかを説明させるべきである。
・議会は、年次国防権限法に、U.S. Department of Defenseが戦域内輸送計画を議会に提出することを義務付けるべきである。
・国家安全保障に関心のある議員は、国防長官はじめU.S. Department of Defenseの指導者たちに書簡を送り、戦域内輸送に対する関心の低さについて懸念を表明すべきである。
・上下両院の軍事委員会および歳出国防小委員会のメンバーは、これらの委員会の年次予算公聴会で、この問題についてU.S. Department of Defenseと戦闘部隊指揮官に圧力をかけるべきである。
戦域内の海上輸送には新しい能力が必要であるが、今のところどの軍種も十分な資金を提供していない。同様にどの軍種にもその責任が割り当てられておらず、U.S. Department of Defenseも指定しようとしていない。
(7) 米統合軍は、米本土の戦闘維持能力なしに太平洋での戦争を効果的に戦うことはできない。現在のところ、TRANSCOMが戦略的輸送を提供する地点から前線部隊が物資を受け取る地点までの戦域内輸送能力の不足に対処する構想も計画もない。これらの機能と概念は、極めて重要で、U.S. Department of Defenseと議会は、こうした所要を満たすために、責任を分担し、必要な資源を提供し、適切な監視を行わなければならない。そうでなければ、太平洋で戦おうとする米軍は、水が充填されないホースを持つ消防士のような立場に置かれることになる。
記事参照:Professionals talk logistics: Who will fix Pacific lift?

6月26日「オーストラリアの原子力潜水艦乗組要員第1陣、米Nuclear Power Schoolを修了へ―米軍事関連誌報道」(The WAR ZONE, June 26, 2023)

 6月26日付の米軍事関連誌The War Zoneのウエブサイトは、 “First Australian Submariners Set To Graduate From U.S. Navy’s Nuke School”と題する記事を掲載し、米Nuclear Power Schoolで教育・訓練を受けているAUKUSに基づきオーストラリアが導入する原子力潜水艦乗組要員の第1陣が間もなく修業するとの米海軍作戦部長の発言を受けて、オーストラリアが最終的に国内建造するSSN-AUKUSにいたる道程を概観し、オーストラリアがSSNを保有する意義を整理した上で、今回の要員のNuclear Power School修業がAUKUSの狙いにとって重要な一歩であるとして、要旨以下のように報じている。
(1) U.S. NavyのNuclear Power Schoolで訓練を受けているオーストラリアが導入する原子力潜水艦乗組要員の第1陣が7月3日の週に修了の予定である。原子力潜水艦を導入するRoyal Australian Navyにとって重要な一歩である。
(2) 米海軍作戦部長Michael Gilday大将は、6月26日、Center for Strategic and International Studies主催の公開討論会で26日にオーストラリアの原子力潜水艦乗組要員の第1陣がNuclear Power Schoolを修了すると発表した。Michael Gilday大将も同席したインド太平洋調整官Kurt Campbellも、何名のオーストラリアの潜水艦乗りが修了するのか、彼らの専門分野が何であるのかには触れていない。訓練は、除籍された旧ロサンゼルス級原子力潜水艦を改造した訓練講堂で実施され、オーストラリアからの訓練生は実機を用いた訓練を経験することができた。オーストラリアが導入する原子力潜水艦乗り組み資格を認定された要員を教育訓練する道筋を確立することは原子力潜水艦導入計画の重要な要素である。
(3) Michael Gilday作戦部長は今後の進め方について、次のように述べている。「非常に分かり易い段階を踏んだ取り組みで、最初の段階ではRoyal Australian Navyからの要員が同乗した米攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)の寄港回数を増やしていき、次の段階ではオーストラリアのスターリング海軍基地(HMAS Stirling)へおそらく最大4隻の米SSNを前方展開する。計画では最終的に乗組員をオーストラリアの潜水艦要員と混成にしたSSNを展開し、これによってオーストラリアは米国が売却するSSNの管理権を獲得し、最終的にはオーストラリアは独自の原子力潜水艦を建造することができる。・・・その間、我々は原子力潜水艦力を維持するために非常に重要な相互依存体制を構築するという点で、オーストラリアと英国と密接に協力している」とMichael Gilday作戦部長は付け加えている。
(4) 現在、オーストラリア向けのSSNの最初の3隻は、U.S. Navyから直接入手する2隻を含め、米国のバージニア級SSNである。目標は、これらのSSNは2032年にRoyal Australian Navyに就役する予定である。これらに続いて、オーストラリアで建造される5隻の新しいSSNは2050年頃に完成する予定である。この将来の攻撃型原子力潜水艦は現在、単にSSN-AUKUSと呼ばれている。オーストラリアは、SSN-AUKUSの建造状況に応じ、最終的にバージニア級SSNを最大5隻取得する可能性があり、その場合、地元で建造されたSSN-AUKUS潜水艦は3隻だけが建造される。
(5) SSN-AUKUSの設計に関する詳細は限られたものである。しかし、オーストラリアと英国の当局者は過去に、Royal Navyの現有アスチュート級SSNの後継艦の設計を活用すると述べている。また、搭載システムのかなりの部分が米国製であり、バージニア級SSNとの「高度な共通性」がある。「AUKUSは、特にSSN-AUKUSとの互換性の点で(米英豪の関係を)新しい段階に引き上げることになる。SSN-AUKUSは、3ヵ国の内の2ヵ国と共通の船体であり、艦内装備品の多くが米国の潜水艦に共通である」とMichael Gilday作戦部長は6月26日のCSISの公開討論会で述べている。
(6) 「実際にはSSN-AUKUSの設計はかなり進んでおり、進捗度は約70%である」とオーストラリア側のAUKUS作業部会長Jonathan Mead中将は3月にオーストラリアのABCニュースに語っている。それでも、Royal Australian Navyはまずバージニア級SSNの運用者になる予定であり、そのことはMichael Gilday作戦部長が強調した高度な相互運用性と後方支援の互換性など、多くの段階でも理にかなっている。バージニア級SSNを運用する米豪両国は、共通の基幹施設を利用できることを意味します。HMASスターリング海軍基地は、特に、米バージニア級SSNによる半永久的な輪番による展開を維持するためだけに、非常に複雑で費用のかかる機能強化が必要になる。これは、港で米国とオーストラリアの潜水艦を支援したり、共同作戦で前方展開中に米エモリー・S・ランド級潜水艦母艦などを運用したりする場合にも役立つ。
(7) 通常弾頭の兵器を搭載するSSNを取得したいというオーストラリアの希望を支援するAUKUSの取り組みは野心的であり、今後数年間でどのように進展するかはまだ分からない。追加の2隻のバージニア級SSN取得の可能性は、SSN-AUKUS計画が遅延した場合の備えである。
(8) 「AUKUSの狙いが広範囲にわたるものであれば、AUKUSが直面する問題もまた広範囲にわたる。それらの問題には、長期にわたる政治的支援、財政的資源、潜水艦建造を拡大する能力潜水艦建造に係わる熟練工を見出す必要性、我々のもっとも機密度の高い技術を管理するための規制システムと手法の改善の問題、そして言うまでもなく10年後ではなく今抑止力を提供するという最も重要な責務が含まれている」とCSISの上席顧問で現オーストラリア部長Charles Edelは言う。同時に、Royal Australian Navy の原子力潜水艦部隊は、U.S. Navyの潜水艦部隊と極めて緊密に連携することができ、英国や他の同盟国や提携国とともに、両国に大きな戦略的および戦術的な利益をもたらすだろう。原子力潜水艦構想は、AUKUS諸国がインド太平洋地域などの他の国々とともに、規模と能力の両面で拡大を続ける中国人民解放軍に挑戦し、抑止しようとしている時に生まれてきた。挑戦し、抑止しようとする対象には、着実に増強されている人民解放軍海軍の潜水艦部隊が含まれており、中国潜水艦部隊は真に世界中に力を投射できる軍隊になるという人民解放軍の宏遠な野望の一部である。したがって、オーストラリア向けのSSNが実現するまでにはまだ何年もかかるかは不明であるが、AUKUSの3ヵ国すべてがその取り組みに明確に関与している。オーストラリアの原子力潜水艦乗組要員の第1陣が米Nuclear Power Schoolを卒業し始めていることは、その目標に向けた重要な一歩である。
記事参照:First Australian Submariners Set To Graduate From U.S. Navy’s Nuke School

6月27日「ベンガル湾の非伝統的安全保障分野での印豪による協力―インド専門家論説」(The interpreter, June 27, 2023)

 6月27日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、インドのシンクタンクCentre for Air Power Studies研究員Radhey Tambiの“To balance the Quad equation, India and Australia must drive an “Indo” focus”と題する論説を掲載し、Radhey Tambiはインドとオーストラリアは、インド太平洋の「インド」に焦点を当て、非伝統的安全保障分野で協力すべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) ベンガル湾は、地域全体に非伝統的な安全保障の課題が存在する新たな不安定地域となっている。QUADへの注目が高まる中、このグループ自体がインド洋、つまりインド太平洋地域の「インド」部分に、限られた時間しか割いていない。インド洋に沿岸を持つインドとオーストラリアは、この不安定さに対処するために極めて重要である。
(2) 海賊行為、気候変動、不規則な移民の流れ、違法・無報告・無規制(IUU)漁業といった問題は、それぞれが地域全体に課題をもたらしている。インドとオーストラリアの脆弱性を増しているのは、ベンガル湾が非伝統的な安全保障課題の源泉となっていることである。特に、ミャンマーからのロヒンギャ難民が住むバングラデシュのコックスバザール周辺で顕著である。ここでは、難民が隣接するインドの州や他の国へと移動している。また、ベンガル湾は、麻薬供給の主要なルートとしても注目されている。密輸は、各国の内陸部を通過するのではなく、海路が使われている。
(3) ベンガル湾に経済的に依存しているモルディブのような国々には、漁業産業にも危険性がある。モルディブは海抜2.4メートルという世界で最も低い位置にある国で、わずかな海面上昇で島の大部分が浸水する。
(4) これらの課題に対処するために、インドとオーストラリアは、地域の情報収集、監視能力、データの収集・拡散における重要な役割を果たすことができる。インドが領有しているアンダマン・ニコバル諸島とラクシャディープ諸島は、監視の足場を提供する。オーストラリアのココス諸島も同様の役割を果たす。協力的な戦略には、地域での共同監視活動を含むことが可能である。これは、インド洋の基地をディエゴ・ガルシアに持つ米国の関与により、さらに強化される可能性がある。
(5) 海底ケーブル連接の支援も、協力的に作業する機会を提供する。インド洋地域の様々な安全保障上の危険性に対処するためには、密な海底ケーブル網が必要である。インド以外のQUADのパートナーは既に、パラオへの海底光ファイバーケーブルの提供に協力している。インドを広範な計画に引き込むことは、大きな利益をもたらすだろう。現在、インドは毎年約1億kmのファイバーケーブルを生産しているが、これは国内消費量の2倍である。しかし、海底インターネット・ケーブルを通じてインドが大いに発展しているにもかかわらず、海底にケーブルを敷設し、適時にメンテナンスを行うための必要な技術的知識は限られている。オーストラリアが成功裏にケーブル保護区域を設置したことは、参考にすべきひな型となる。
(6) QUADのインド洋に対する焦点を強化することは、提携国の全ての地域が均等に描写されることを保証するだろう。2024年にインドがQUAD首脳会議を主催することになっており、その際は、「インド」と「太平洋」をより緊密に結びつけることを目指すべきである。
記事参照:To balance the Quad equation, India and Australia must drive an “Indo” focus

6月28日「中国とキューバの軍事協力の深化が意味すること―米ラテンアメリカ専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, June 28, 2023)

 6月28日付の米シンクタンクCenter for Strategic and Intenational Sudeisの Pacific Forumが発行するPacNet Commentaryのウエブサイトは、U.S. Army War CollegeのStrategic Studies Instituteラテンアメリカ研究教授Evan Ellisの“China’s military engagements with Cuba: Implications of a strategic advance in Latin America”と題する論説を掲載し、そこでEvan Ellisは、近年中国がキューバなどラテンアメリカ諸国への関与を活発化していることに関して、それが何を意味するのかと、米国はそれに対して適切な対応で応じするべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年6月の米紙The Wall Street Journalの報道によると、中国がキューバに対して多額の投資を行い、それと引き換えにキューバの電子情報(ELINT)収集施設の利用および島北部での中国軍兵士の訓練を実施する権利を得ようとしている。こうした動きに対して米国政府は懸念を高めている。
(2) 中国がキューバを通じて米国に関する情報収集を行おうとしたのは、1999年、キューバがベフカルにある情報収集施設の利用権を中国に提供したときが最初であった。より最近では、Biden政権が、キューバの情報収集施設を中国が創業し、2019年にそれを改修したことを認めている。つまり中国がキューバの情報収集施設を利用するのは今に始まったことではないのだが、人民解放軍の兵士がキューバで訓練を実施するようになるとしたら、それはこれまでとはかなり大きな変化だと言える。それを受けて米国は、適切かつ慎重に対応する必要がある。
(3) キューバに関して言えば、1962年のキューバ危機以降、米国に対して軍事的な脅威を与えようとする意図を一貫して持ち続けている。同時にキューバは食料や燃料、薬などの物資不足と市民の不満の高まりに直面している。そうしたことが合わさって、今回の中国との取り引きにつながっている。中国に関して言えば、今回の取引は米国に近い地域への関与を抑制的にしていたこれまでの方針からの転換を示している。中国はますます、米国を動揺させる試みを控えなくなっている。それを後押ししているのが近年の軍備増強や、それによる自信の高まりである。またそれによって、中国は同地域における安全保障関連の活動や人的交流、商業活動に対する考え方を見直すことになるだろう。
(4) カリブ海やラテンアメリカ地域における中国の存在感は拡大し続けている。ベフカルの情報収集施設は状況を一変させるというほどの重要性をもたないだろうが、これまで中国が強めてきた対米圧力をさらに強めるものである。中国はこれまで同地域で膨大な数の商業施設を運営してきたが、それは中国の国家安全保障部の部局員を迎え入れるのに利用されている。逆に、「人的交流外交」として、膨大な数のラテンアメリカ諸国の軍事、警察、政府関係者が中国本土を訪れ、有益な情報を提供している。また諸外国での「警察署」設置を通じて、現地の中国人の協力を得るという手段もある。さらに中国は、地域における米国の安全保障に関するデータ収集能力を向上させている。2017年の国家情報法に基づき、中国は米国で活動するあらゆる中国企業に対し、安全保障に関わるデータを本国に送るよう求めているのである。
(5) 台湾をめぐって米中戦争が起きた場合、キューバやベネズエラなどラテンアメリカの反米諸国は米国の攻撃に対し脆弱なため、中国はそこに航空機や艦船などの戦力を配備することはできないかもしれない。しかしそうした国々から、中国は米軍部隊の配備や移動などについて情報を集め、それを妨害することはできるだろう。それは米国と同盟国にとって危険である。キューバに中国が運営する電子情報収集施設が存在すること、キューバで人民解放軍が訓練を行うことは、米国に対抗するために望ましい状況を形成する。米国はそうした状況を我慢してはならず、何らかの対応をすべきである。
(6) 米国は、極端な手法をとることなしに、米国に焦点を当てた軍事協力をやめるよう中国とキューバを説得することはできない。しかしだからといって、米国は中国やキューバに対する圧力を維持し、彼らを孤立させるための他のあらゆる手段を採ることが妨げられるものではない。さまざまな手段によって、米国に対抗する情報収集などの能力を制限することができる。そして、域外の対立者との協力によって米国の安全保障を脅かすようなやり方には、高い代償が伴うことを米国は示さねばならない。
記事参照:China’s military engagements with Cuba: Implications of a strategic advance in Latin America

6月29日「ASEAN外交、アジアの海洋における米中抗争に対応―フィリピン専門家論説」(China US Focus.com, June 29, 2023)

 6月29日付の香港のシンクタンクChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、The Polytechnic University of the PhilippinesのRichard J. Heydarianの、“ASEAN Diplomacy: Managing Rising Sino-American Tensions in Asian Waters”と題する論説を掲載し、ここでRichard J. Heydarianは米中抗争の激化に対応するASEAN外交について、要旨以下のように述べている。
(1) アジアの海洋における米中抗争が激化する中、インドネシアは6月6日~8日の間、マカッサル沖で2023年コモド多国間海軍演習(The Multilateral Naval Exercise Komodo:以下、 MNEKと言う)を主催した。この演習にはインド、パキスタンを含む、36カ国から最大40隻の艦艇が参加ししたことに加えて、米中両国が参加したことで2023年演習は特に注目を集めた。何故なら、この演習は、6月2日~4日にかけてシンガポールで開催された第20回アジア安全保障会議から、わずか数日後に開始され、米中国防長官・国防部長会談が中国側の拒否で実現できなかったからである。
(2) ASEANを悩ませているのは、この地域における米中間の軍事的緊張の高まりである。実際、米国がアジア安全保障会議の直前に、中国の戦闘機による南シナ海上空での「不必要に攻撃的な」妨害行動を、そしてそのわずか数日後、台湾海峡を通航する米駆逐艦に対する中国艦の「危険な近接航行」を非難するという事案があった。特に軍対軍外交の中断による米中関係の厄介な先行きを懸念して、2023年のASEAN議長国であるインドネシアは、MNEK に両大国を参加させ、防衛対話のための基盤を構築するための努力を強めている。一方、フィリピンなどの他のASEAN諸国も、中国海軍艦艇による6月から7月にかけて複数の東南アジア諸国への「親善」訪問を歓迎している。
(3) 米中両国間には、制度化された対話は依然完全には回復していない。アジア安全保障会議で、中国の李尚福国防部長は、この地域における米国主導の安全保障同盟、特に豪英米のAUKUSを取り上げ、「アジア太平洋地域でNATOのような『同盟』を推進する試み」として、域内諸国を取り込み、紛争と対決の危機を高めると警告した。李尚福部長はまた、将来の台湾の「再統一」という中国の計画について妥協のない立場を堅持しながら、米国の政策による「対立と紛争の渦」についても警告した。一方、Lloyd Austin米国防長官は、地域問題の源泉は中国政府にあることを暗示して、アジアの大国が「両国間の危機管理のためのより良い機構に真剣に取り組もうしていない」とし、その結果、「危機や紛争につながる可能性のある誤解や誤算」の危険性を高めていると批難した。
(4) フィリピン、日本および米国は、ここ数ヵ月、安全保障協力を進めており、6月初めにはマニラ湾で初めて共同沿岸警備隊訓練を実施している。フィリピンは、同盟国の支援に支えられて、南シナ海でより積極的な姿勢を採っており、ここ数ヵ月、中国海警局はフィリピンが領有権を主張する海域で「危険な行動」と「攻撃的な戦術」を採っていると批難してきた。ASEAN議長国のインドネシアも、地域の危機が深刻化する中、ASEAN加盟国間のより強い「団結」を育むために努力している。2021年に創設された、インドネシアの海上保安機構Bakamlaは、南シナ海の領有権主張国を含む、ASEAN加盟国の沿岸警備隊間の制度化された協力を提案した。そして2023年9月には、インドネシアはASEANの議長国として、中国が「伝統的な漁業権」を主張するナツナ諸島沖の海底エネルギー資源の豊富な海域、いわゆる「北ナツナ海(“North Natuna Sea”)」で最初のASEAN共同海軍演習を主催することになっている。Indonesian National Armed Forces司令官によれば、この演習は、地域の緊張を制御し、管理する上での「ASEANの中心性」の強化を目的としている。
(5) ASEAN諸国は、自らの国益をより効果的に守るとともに、米中間の緊張激化に対処するために、統一戦線の構築に務めている。インドネシアとフィリピンは、緊張緩和のために、中国との軍対軍外交をも歓迎している。前述のMNEK では、ASEANは災害救援や人道支援などの非伝統的安全保障問題で協力するために、米中両国海軍の参加を実現した。中国海軍は、演習は地域諸国との「相互理解と実際的な協力を深化させる」ために重要であると述べている。一方、Philippine Navyも、軍対軍外交を強化するために、2019年以来初めて6月中旬に中国海軍練習艦の「親善訪問」を受け入れると発表した。Philippine Navyは声明で、「Philippine Navyは、外交的役割を果たし、海軍協力を促進するために、あらゆる訪問海軍を受け入れる」と述べている。結局、ASEAN諸国は、相互間の、そして米国などの外部勢力との協力拡大を通じて、自らの防衛的立場を強化するとともに、一方では、緊張を緩和し、軍対軍外交を促進するために中国に手を差し伸べることによって、両賭けしているのである。
記事参照:ASEAN Diplomacy: Managing Rising Sino-American Tensions in Asian Waters

6月29日「北極圏で行動可能な潜水艦を調達せよと勧告を受けたカナダ―カナダ日刊紙報道」(The Globe and Mail, June 29, 2023)

 6月29日付のカナダ日刊紙The Globe and Mail電子版は、“Canada urged to buy new submarines capable of operating in the Arctic”と題する記事を掲載し、カナダ上院の委員会による同国は北極圏で行動可能な潜水艦を調達すべきという勧告について言及し、その背景と意義について要旨以下のように報じている。
(1) カナダ上院の国家安全保障・国防・退役軍人問題関連の委員会は、既存の老朽化した潜水艦を、北極圏でも行動可能なものへと更新すべきだと勧告した。ロシアと中国による攻勢によって、世界全体が地政学的対立の状況に回帰するなか、「カナダは水中の脅威を探知する能力の強化を切実に必要としている」と同委員会の報告書は述べている。
(2) カナダが保有する4隻の潜水艦は1980年代英国によって建造されたもので、氷の下で運用できるような設計ではない。また、すぐに行動可能な潜水艦は1隻だけだという。そうしたことを背景に、上院委員会の報告は、AUKUSに参加することを求めている。特に、核関連技術以外のさまざまな先端技術に関する情報共有と協力について規定した「第2の柱」に参入すべきだという。
(3) 上院委員会の勧告は、北極圏におけるカナダの防衛力の欠如に関するさまざまな分析に基づいている。たとえば2022年のある報告は、カナダが北極圏を通過する国内外の船舶を探知する能力を保有していないことを警告した。Canadian Armed Forcesの国防参謀長Wayne Eyre陸軍大将は、北極圏における外国の活動を追跡し、必要あればその海域で部隊を展開することを可能にする行動能力を向上させるべきだと主張している。Wayne Eyre国防参謀によれば、現時点では北極圏においてカナダに対する脅威は存在しないが、将来に備えた投資が必要である。
(4) カナダの防衛政策について詳しいCarleton UniversityのPhilippe Lagasséは、北極圏でも行動可能な潜水艦の取得がカナダによる最近の軍事力向上に向けた努力の「最後の1片」だと位置づけている。中国やロシアは砕氷船の数を増やし、米国も原子力潜水艦を北極圏で運用している。それに対してカナダは敵対的な勢力の動きを追跡する能力を持たないことをPhilippe Lagasséは警告している。
(5) 1980年代後半、カナダは原子力潜水艦の購入を検討したが、冷戦終結に伴いそうした考えはなくなっていった。今回の上院委員会の報告書も、原潜調達を求めるものではなかった。そうではなく、新技術によって通常型潜水艦であっても北極圏の氷の下で活動可能なためである。
記事参照:Canada urged to buy new submarines capable of operating in the Arctic

2023年6月「米国には真の海洋戦略が必要-米専門家論説」(Proceedings, U.S. Naval Institute, June, 2023)

 2023年6月発行のThe U.S. Naval Instituteが発行する月刊誌Proceedingsのウエブサイトは、U.S. Naval College教授 James R. Holmesの” Yes, the United States Needs a Real Maritime Strategy”と題する論説を掲載し、ここでJames R. Holmesは米国の真の海洋戦略は、政府高官や議員にその重要性を理解させ、その結果、政府全体の戦略として大統領から発信されるべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 海洋戦略と銘打った米国の文書はあるが、これは海軍戦略と呼ぶ方が正確であろう。それらの文書は全体としては堅固だが、権限と影響力は限られている。U.S. Navy 、U.S. Marine Corps、U.S. Coast Guardによる三軍戦略は、海洋における米国の戦略的・政治的目標を達成するために何をするかを説明している。しかし、海洋戦略とはそれ以上のものを包含している。三軍戦略はこのことを認め、Sea Services(以下、「海洋事業」という)について、より広範な軍事的、政府的、産業的、社会的努力の一部を構成するものとしている。海軍は単独で対立、抑止、戦闘をするのではなく、統合軍の不可欠な一部として同盟国や提携国、その他の政府機関と緊密に協力している。また、商船、船員、港湾基幹施設、造船業者を含む、米国の広範な海洋事業の一部でもある。
(2) 2020年に発刊された三軍戦略は、プレジャーボートから漁業、洋上戦闘に至るまで海洋問題に対するより大きな視点を公言している。しかし、三軍戦略もその前身も、省庁間調整による合同文書ではない。たとえば、米軍の作戦を監督する最高責任者である地域別統合軍の指揮官は、海兵隊が作成した指令に拘束されることはない。U.S. Army、U.S. Air Force、U.S. Space Forceも同様である。また、U.S. Department of Stateのような非軍事機関も、米国の外交政策の主要な執行者ではない。真に海洋戦略とは、外航船を運航する機関だけでなく、海洋での出来事を形作ることができるすべての政府機関の努力に関わるものであって、政治的な最上位にある者により監督されることを意味する。
(3) 中国共産党の指導者たちはこのことを理解しており、中国の海洋事業に関して政府全体の取り組みを採り、それを見事に実行している。習近平国家主席は、海軍と軍事問題に強い関心を寄せている。中国は、人民解放軍海軍を世界最大の海上戦闘部隊に成長させ、海洋法執行機関を世界最大の沿岸警備隊に統合し、中国の漁船団に組み込まれた海上民兵が中国の近隣諸国を威圧する努力を監督してきた。その一方で、中国政府は24時間365日体制で「3つの戦争」とされる法的手段、メディア手段、心理的手段を駆使して、世論を中国に有利な方向に導こうとしている。
(4) 中国には、一貫した包括的な海洋戦略があり、その源は最上位にある政治指導者である。これは驚くべきことではない。中国の戦略家たちは、米国の偉大な海洋戦略の提唱者Alfred Thayer Mahanの理論を熱心に学んでいる。Alfred Thayer Mahanは、海洋戦略をグランド・ストラテジー(以下、「大戦略」と言う)の一種として描いている。それは、国家目標を達成するために、道具としてのあらゆる手段を選択する芸術であり科学である。海洋での事業に関連する道具には、海軍力や軍事力だけでなく、外交、情報、経済的強制や誘導なども含まれる。海上の出来事を形成するのに役立つものは全て海洋戦略の政策である。
(5) 言い換えれば、大戦略は軍事戦略の上に立ち、軍事戦略は海軍戦略の上に立つ。それゆえ、海洋戦略と銘打たれながら実際には海軍戦略である文書の視野を広げることが不可欠となる。Mahan的海洋戦略は、国内では工業生産と造船を育成して、海外では、重要な交易地域への商業的、外交的、軍事的出入りを優先順位の高い順に開くことを目指す。Alfred Thayer Mahanによれば、武力は「経済的、商業的な他の大きな利益に従属している」とされる。海外貿易と通商が繁栄をもたらし、繁栄が税収を国庫に注ぎ込み、政府はその一部を海軍に再投資して、原材料や完成品を売り手から買い手へと運ぶ商船を保護する。海上貿易と通商は、自国を守るための資金源となる。商業と海軍力の間のこの循環は、帝国全盛期の英国を潤し、1世紀以上にわたって米国に役立ってきた。そして、習近平とその仲間は、Alfred Thayer Mahanの信者となっている。
(6) もし米国に海洋戦略が必要だとしたら、Alfred Thayer Mahanの時代の自国を見習うことである。海洋戦略が大戦略であるならば、米国の大戦略の責任者が米国の海洋事業を指揮することになる。それは米国の外交政策を担当する者、すなわちホワイトハウスと議会にあり、戦略を立案し、それを実行するための政策手段を考案し、それを実行するか、もしくは実行する者を監督する。
(7) 米国の真の海洋戦略は、最上位の者から発信されなければならない。
a.海事部門の役員や幹部は、U.S. Department of Defense、政権、議会の中で、海を愛する指導者を育成するために最大限の努力を払い、政府高官や議員に海洋戦略の重要性を理解してもらわなければならない。もし彼らがその重要性を骨身に沁みて感じれば、米国を中国に対する競争上の不利から脱出させる海洋戦略を策定するだろう。
b.第2に、政府全体の戦略を実行するには、政府全体の指導が必要である。U.S. Department of Navyのような補助的な機関によって公布された文書では間に合わない。Mahan的な米国の海洋戦略のヒントの1つは、冷戦時代にソビエト共産主義を封じ込め、それを持続させるための国家安全保障の青写真であるNSC-68かもしれない。NSC-68は、朝鮮戦争中に発効し、その後40年にわたる大国間対立において、米国の戦略の道しるべとなった。この文書は、最上位者から出たもので、驚くべき先見性と持続性、そして超党派的な特徴がある。海洋に関するNSC-68が必要とされている。
記事参照:Yes, the United States Needs a Real Maritime Strategy

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) TACKLING MARITIME SECURITY REQUIRES A REVISED INDO-PACIFIC STRATEGY
https://warontherocks.com/2023/06/tackling-maritime-security-requires-a-revised-indo-pacific-strategy/
War on the Rocks, June 22, 2023
By Brandon Prins is professor of political Science and Department Head at the University of Tennessee-Knoxville
Anup Phayal is an assistant professor in the Department of Public and International Affairs, University of North Carolina at Wilmington
Aaron Gold is a visiting assistant professor in the Department of Politics at Sewanee: The University of the South
Curie Maharani is a Lecturer at BINUS University, Indonesia
Deng Palomares is a Senior Scientist and Project Manager of the Sea Around Us at the University of British Columbia, Canada
Daniel Pauly is University Killam Professor of Fisheries at the University of British Columbia, Canada
Sayed Fauzan Riyadi is Executive Director of the Center for Southeast Asia and Border Management Studies at Raja Ali Haji Maritime University, Indonesia
 6月22日、米国University of Tennessee-Knoxville教授Brandon Prins、米国University of North Carolina助教Anup Phayal、米国University of the South客員助教Aaron Gold、インドネシアBINUS University講師Curie Maharani、カナダUniversity of British ColumbiaのSea Around Usプロジェクト・マネージャーDeng Palomares、カナダUniversity of British ColumbiaのUniversity Killam of Fisheries 教授Daniel Pauly、そしてインドネシアRaja Ali Haji Maritime University のCenter for Southeast Asia and Border Management Studies専務理事Sayed Fauzan Riyadiは、米国University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに、“TACKLING MARITIME SECURITY REQUIRES A REVISED INDO-PACIFIC STRATEGY”と題する論説を寄稿した。その中で、①違法漁業を抑え込むと、海賊行為が増加する可能性がある。②これは、違法漁業が収入源となっている現地の漁師が、その選択肢がなくなると船舶強盗に転じる可能性があるためである。③したがって、違法漁業と海賊行為の両方を対象とした多面的な取り組みが必要である。④インド太平洋地域において、中国に対する対抗策だけでなく、非伝統的な海洋安全保障の脅威にも注目すべきである。⑤その一環として、米国はオーストラリア、インド、日本とともに「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(IPMDA)」のような地域協力の取り組みを推進し、海洋犯罪の防止と抑止に取り組んでいる。⑥地域の情報を融合するセンターが犯罪の類型のデータを即事に現地の当局に提供し、効果的な哨戒を可能にすることが重要である。⑦環境保護、開発、堅固なブルーエコノミーが重要である。⑧海洋犯罪者を監視し、逮捕し、起訴する能力を有する沿岸諸国に指針を与える、明確で強制力のある規則を備えた国際体制も必要であるといった主張を述べている。

(2) Feature-challenge Freedom of Navigation Operations and the Major Agendas of U.S. Policy toward China
http://www.scspi.org/en/dtfx/feature-challenge-freedom-navigation-operations-and-major-agendas-us-policy-toward-china
South China Sea Probing Initiative (SCSPI), June 23, 2023
By Hu Bo, Research Professor and Director of the Center for Maritime Strategy Studies, Peking University, and Director of SCSPI
 2023年6月23日、北京大学海洋戦略研究中心執行主任の胡波は、北京大学の南海戦略態勢感知計画のウエブサイトに" Feature-challenge Freedom of Navigation Operations and the Major Agendas of U.S. Policy toward China "と題する論説を寄稿した。その中で胡波はオバマ政権以降、南シナ海やその他の地域における米軍の展開の強化は、米国のアジア太平洋戦略やインド太平洋戦略の主要かつ効果的なものとして重要視されており、米軍は南シナ海での対中軍事作戦の頻度、強度、妥当性を高め続けてきたと評した上で、南シナ海での航行の自由作戦に関して、米国は、それが中国だけに向けられたものではなく、「法に基づく国際秩序」を守るためのものだと強調しているが、実際はそうではなく、米政府関係者の発言や関連する報道からすれば、意図的であろうとなかろうと、南シナ海における米軍の作戦行動の政治的・戦略的意義がますます強調されるようになっていると主張している。

(3) Japan’s Defense Priorities and Implications for the U.S.-Japan Alliance
https://www.csis.org/analysis/japans-defense-priorities-and-implications-us-japan-alliance
Center for Strategic and International Studies, June 23, 2023
By Heino Klinck is a senior associate (non-resident) with the Japan Chair at the Center for Strategic and International Studies (CSIS) and former deputy assistant secretary of defense for East Asia.
 2023年6月23日、米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies の非常勤上席共同研究者Heino Klinckは、同シンクタンクのウエブサイトに" Japan’s Defense Priorities and Implications for the U.S.-Japan Alliance "と題する論説を寄稿した。その中でHeino Klinckは、冒頭でインド太平洋およびその他の地域における安全保障の進展における日本政府の行動、指導力、先見の明は称賛に値すると評した上で、近年の日本政府の防衛予算増額や反撃能力獲得に向けた諸動向などを取り上げ、敵対勢力と効果的かつ効率的に交戦するためには、自衛隊と米軍はより完全に統合される必要があると指摘している。そしてHeino Klinckは、根本的には日米同盟の強さが最大の防波堤であり、日米両国は、特に敵対勢力がその能力を増大させ、多様化させ続ける中で、同盟が将来により適合したものとなるよう継続的に備える必要があるが、そのためにも米国は、作戦段階で同盟に必要な能力について率直な意見を述べる必要があるし、同盟が現在や今後の課題にどのように対応するのが最善かを判断する必要があると主張している。