海洋安全保障情報旬報 2024年1月21日-1月31日
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1月15日「IMBによる2023年の海賊被害報告―米専門誌報道」(The Maritime Executive, January 15, 2024)
1月15日付の米海洋産業専門誌The Maritime Executiveのウエブサイトは、“IMB Reports Concerning Rise in Piracy and Dangers to Crews in 2023”と題する記事を掲載し、International Maritime Bureau(国際海事局)のPiracy Reporting Center(海賊通報センター)が報告した2023年の海賊被害について、要旨以下のように報じている。
(1)International Maritime Bureau(国際海事局:以下、IMBと言う)のPiracy Reporting Center(海賊通報センター)は、2023年の海賊被害が30年ぶりの低水準に落ち込んだことを強調した後、いくつかの危険地帯が依然として主要な懸念事項となっており、乗組員の安全に対する懸念を提起している。
(2)2023年に記録された120件は、2022年にIMBに寄せられた報告総数115件から増加しており、120件のうち、世界の5つの地域がその中の70%を占めている。2023年の報告のうち67件は東南アジア、特にシンガポール海峡、インドネシア、フィリピンからのものであった。IMBとアジアに特化したReCAAPも、シンガポール海峡について繰り返し、警鐘を鳴らしている。シンガポール海峡での事件は、ほとんどが低烈度の、出来心の犯罪であるものの、ナイフで武装した海賊による乗り込みや、予備部品や機器の窃盗が含まれる。IMBは、事件の95%で海賊が船舶の乗船に成功していることに懸念を表明している。
(3)IMBにとって同様に懸念されるのは、2017年以来初めてソマリアを拠点としたハイジャックに成功した、12月のブルガリアの海運企業Navibulgar社のハンディマックス型バラ積み貨物船「ルエン」の事件であり、この船は現在も海賊の支配下にある。一方でまた、彼らはダウ船のハイジャックを暗示し、「さらなる攻撃のための母船として使用する可能性」を指摘している。乗組員の安全への懸念は、2023年に人質となり、誘拐された乗組員の数が増加したことで明確に示されている。人質の数は2022年の41人から73人に増加した。誘拐は2022年の2件に対して、2023年は14件だった。2023年にはさらに10人の乗組員が脅迫され、4人が負傷し、1人が暴行を受けたと報告されている。報告書は、2023年10月にマラッカ海峡でばら積み船に乗船していた乗組員1人が負傷し、治療を受けたことを強調している。この海域で船員が海賊によって負傷する事件が起きたのは、2015年以来のことである。ギニア湾は依然として、懸念地域となっている。事件数は2020年のピークから大幅に減少しているものの、IMBは、世界的に報告された4件のハイジャックのうち3件、14件の乗組員誘拐のすべて、報告された乗組員人質の75%、2件の負傷者のすべてが2023年にこの海域で発生していることを指摘している。ガーナもまた、報告件数が最も多い5つの海域の1つに位置付けられている。南米、特にペルーのカヤオ停泊地も、IMBによると、脅威が迫っている地域と判断されている。カヤオ停泊地では、2023年に14件の事件が報告されており、そのうちの7件は乗組員が人質に取られ、1件は暴行を受けた。このうち9件では銃やナイフが使用されている。
記事参照:IMB Reports Concerning Rise in Piracy and Dangers to Crews in 2023
(1)International Maritime Bureau(国際海事局:以下、IMBと言う)のPiracy Reporting Center(海賊通報センター)は、2023年の海賊被害が30年ぶりの低水準に落ち込んだことを強調した後、いくつかの危険地帯が依然として主要な懸念事項となっており、乗組員の安全に対する懸念を提起している。
(2)2023年に記録された120件は、2022年にIMBに寄せられた報告総数115件から増加しており、120件のうち、世界の5つの地域がその中の70%を占めている。2023年の報告のうち67件は東南アジア、特にシンガポール海峡、インドネシア、フィリピンからのものであった。IMBとアジアに特化したReCAAPも、シンガポール海峡について繰り返し、警鐘を鳴らしている。シンガポール海峡での事件は、ほとんどが低烈度の、出来心の犯罪であるものの、ナイフで武装した海賊による乗り込みや、予備部品や機器の窃盗が含まれる。IMBは、事件の95%で海賊が船舶の乗船に成功していることに懸念を表明している。
(3)IMBにとって同様に懸念されるのは、2017年以来初めてソマリアを拠点としたハイジャックに成功した、12月のブルガリアの海運企業Navibulgar社のハンディマックス型バラ積み貨物船「ルエン」の事件であり、この船は現在も海賊の支配下にある。一方でまた、彼らはダウ船のハイジャックを暗示し、「さらなる攻撃のための母船として使用する可能性」を指摘している。乗組員の安全への懸念は、2023年に人質となり、誘拐された乗組員の数が増加したことで明確に示されている。人質の数は2022年の41人から73人に増加した。誘拐は2022年の2件に対して、2023年は14件だった。2023年にはさらに10人の乗組員が脅迫され、4人が負傷し、1人が暴行を受けたと報告されている。報告書は、2023年10月にマラッカ海峡でばら積み船に乗船していた乗組員1人が負傷し、治療を受けたことを強調している。この海域で船員が海賊によって負傷する事件が起きたのは、2015年以来のことである。ギニア湾は依然として、懸念地域となっている。事件数は2020年のピークから大幅に減少しているものの、IMBは、世界的に報告された4件のハイジャックのうち3件、14件の乗組員誘拐のすべて、報告された乗組員人質の75%、2件の負傷者のすべてが2023年にこの海域で発生していることを指摘している。ガーナもまた、報告件数が最も多い5つの海域の1つに位置付けられている。南米、特にペルーのカヤオ停泊地も、IMBによると、脅威が迫っている地域と判断されている。カヤオ停泊地では、2023年に14件の事件が報告されており、そのうちの7件は乗組員が人質に取られ、1件は暴行を受けた。このうち9件では銃やナイフが使用されている。
記事参照:IMB Reports Concerning Rise in Piracy and Dangers to Crews in 2023
1月22日「台湾の現状維持は正しいのか?―オーストラリア太平洋地域専門家論説」(The Interpreter, January 22, 2024)
1月22日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、デジタル誌The Diplomatの評論家で、オーストラリア対外政策、防衛問題研究組織
Asia-Pacific Development, Diplomacy and Defence Dialogueの編集員Grant Wyethの“Taiwan: To what good is the status quo?”と題する論説を掲載し、Grant Wyethは台湾の状況に関して、現状維持を続けることにはマイナスの影響が大きいとして、要旨以下のように述べている。
(1) 台湾総選挙の直前、国民党の総統候補者である侯友宜に次のような質問が投げかけられた。つまり、国民党が中国による台湾統一にも台湾の独立にも反対するというのであれば、それはこれから先ずっと現状維持をするということなのかと。侯友宜はっきりした回答を避けた。それは、非常に厄介な質問である一方で、決定的な質問である。台湾をめぐる現状維持は地政学的な問題というだけではなく、台湾が世界にどんな貢献できるかということにも影響を与えるものである。国民党の強硬派は、中国共産党の崩壊と台湾の大陸への復帰という野心を抱いているかもしれないが、それは有りそうにない。
(2) あえ恒久的な現状維持によって、台湾は確かに、インド太平洋における経済的・文化的行為者として、また先端技術の提供国として繁栄できるだろう。しかしながら、現状維持によって、台湾は国際的な舞台においてその国力を活用し難くなるし、高度技術を持つ台湾市民が利用可能な機会が削減されている。たとえば中国による拒否権で台湾は国連機関への参加を阻まれているが、COVID-19の世界的感染拡大の間に台湾が世界保健総会に参加できなかったのがその好例である。
(3) 台湾は、気候変動から全体主義の台頭まで世界の諸課題に貢献することができる。中国が台湾に仕掛けている誤情報作戦は、台湾はそのような攻撃への対処の教訓を得ている。これは民主主義の安定にとって決定的に重要である。国連もそれに関心をもっているが、台湾はそこで公的な意見を述べる手段を持っていない。台湾は最近Interpol(国際刑事警察機構)への加盟を果たそうという外交努力を続けている。U.S. Department of Stateは、人身売買と戦う国を格付けしているが、台湾を最上位に位置付けている。台湾はその地位を、片手を後ろに回したまま獲得したのである。
(4) 仮に台湾が国際機関へ加盟したとしても、スポーツイベントの場合のように、台湾は「チャイニーズ・タイペイ」と呼ばれ、その威厳を傷つけられている。ここに中国の力がある。中国は台湾領域内においてなんらの権限も持たないが、国際社会に台湾に関する中国の作り話を押しつけることができている。そして我々は、中国を大人として扱わず、彼らの感情的な爆発を過度に懸念し、自分自身の気持ちを抑制するという重荷を台湾の人びとに背負わせている。したがって、台湾の現状維持をどう考えるかは、台湾市民だけが考えるべき問題ではない。我々が台湾について、自分自身に、そして中国にいつまで嘘を付き続けるのか。現在中国が世界に対して虚偽を提示するのを我々は容認しているが、今後は別の虚偽についてもそうなってしまうかもしれない。
記事参照:Taiwan: To what good is the status quo?
Asia-Pacific Development, Diplomacy and Defence Dialogueの編集員Grant Wyethの“Taiwan: To what good is the status quo?”と題する論説を掲載し、Grant Wyethは台湾の状況に関して、現状維持を続けることにはマイナスの影響が大きいとして、要旨以下のように述べている。
(1) 台湾総選挙の直前、国民党の総統候補者である侯友宜に次のような質問が投げかけられた。つまり、国民党が中国による台湾統一にも台湾の独立にも反対するというのであれば、それはこれから先ずっと現状維持をするということなのかと。侯友宜はっきりした回答を避けた。それは、非常に厄介な質問である一方で、決定的な質問である。台湾をめぐる現状維持は地政学的な問題というだけではなく、台湾が世界にどんな貢献できるかということにも影響を与えるものである。国民党の強硬派は、中国共産党の崩壊と台湾の大陸への復帰という野心を抱いているかもしれないが、それは有りそうにない。
(2) あえ恒久的な現状維持によって、台湾は確かに、インド太平洋における経済的・文化的行為者として、また先端技術の提供国として繁栄できるだろう。しかしながら、現状維持によって、台湾は国際的な舞台においてその国力を活用し難くなるし、高度技術を持つ台湾市民が利用可能な機会が削減されている。たとえば中国による拒否権で台湾は国連機関への参加を阻まれているが、COVID-19の世界的感染拡大の間に台湾が世界保健総会に参加できなかったのがその好例である。
(3) 台湾は、気候変動から全体主義の台頭まで世界の諸課題に貢献することができる。中国が台湾に仕掛けている誤情報作戦は、台湾はそのような攻撃への対処の教訓を得ている。これは民主主義の安定にとって決定的に重要である。国連もそれに関心をもっているが、台湾はそこで公的な意見を述べる手段を持っていない。台湾は最近Interpol(国際刑事警察機構)への加盟を果たそうという外交努力を続けている。U.S. Department of Stateは、人身売買と戦う国を格付けしているが、台湾を最上位に位置付けている。台湾はその地位を、片手を後ろに回したまま獲得したのである。
(4) 仮に台湾が国際機関へ加盟したとしても、スポーツイベントの場合のように、台湾は「チャイニーズ・タイペイ」と呼ばれ、その威厳を傷つけられている。ここに中国の力がある。中国は台湾領域内においてなんらの権限も持たないが、国際社会に台湾に関する中国の作り話を押しつけることができている。そして我々は、中国を大人として扱わず、彼らの感情的な爆発を過度に懸念し、自分自身の気持ちを抑制するという重荷を台湾の人びとに背負わせている。したがって、台湾の現状維持をどう考えるかは、台湾市民だけが考えるべき問題ではない。我々が台湾について、自分自身に、そして中国にいつまで嘘を付き続けるのか。現在中国が世界に対して虚偽を提示するのを我々は容認しているが、今後は別の虚偽についてもそうなってしまうかもしれない。
記事参照:Taiwan: To what good is the status quo?
1月22日「米国はあいまいな戦略を終わらせるべき―米専門家論説」(Foreign Policy, January 22, 2024)
1月22日付の米シンクタンクForeign Policy Research Instituteのウエブサイトは、同所のコラムニストで元International Institute for Strategic Studies-Asia専務理事James Crabtreeの” America’s Strategy of Ambiguity Is Ending Now”と題する論説を掲載し、ここでJames Crabtreeは、米国は50を超える同盟国に対する義務を一度に果たすことはできないが、それができるという信用を確保することが重要で、あいまいな印象を与えることは避けた方がよいとして、要旨以下のように述べている。
(1) 頼清徳が台湾総統に選出されたことで、米国の戦略的曖昧さに関する議論が再燃するだろう。Biden政権は、台湾をめぐる中国との対立に介入する筋書きをあいまいにしている。これは中国政府と台湾政府を油断させず、台湾政府が軽率な行動を採らないようにする一方で、中国政府をけん制するものである。しかし、米国がいつ行動する可能性があるかを明示する方が、中国政府を抑止するのに有効との指摘もある。このあいまいさの問題は、地政学的摩擦が高まる時代にあって米国の安全保障のあり方をめぐる課題を浮き彫りにしている。米政府は、50以上の国々と同盟関係を結んでおり、それは中国との戦いにおいて強力な資産である。台湾のような準同盟国も多数あり、インド、シンガポール、ベトナムのような緊密な提携国もいる。
(2) 米国は、その能力をより頻繁に示す必要があり、事実上、同盟国などへの保証をあいまいにする可能性が高い。Bidenは、米国が世界的な義務を果たすことができるという自信に満ちあふれている。しかし、ウクライナ・ロシア戦争と中東で進行中の危機は、同盟という資源に対して疑問を投げかけている。そして中国との関係を落ち着かせようとする最近の試みは、特に米国の大統領選挙の年において、アジアの平静を確保したいという強い願望を物語っている。
(3) フィリピンは最近、南シナ海で中国と揉めている。中国政府は、1999年にフィリピン政府が自国の領土を示すためセカンド・トーマス礁に座礁させた第2次世界大戦時の船への補給を阻止しようとしている。Ferdinand Marcos Jr.フィリピン大統領は米国に対し、中国がこのセカンド・トーマス礁を奪還しようとすれば、米比の同盟関係が発動されることを保証するよう求めている。米政府はこれを正式に履行し、空母「カール・ビンソン」をPhilippine Navyと航海するために展開させた。
(4) 韓国は北からの脅威に頭を痛めている。韓国のYoon Suk-yeol(尹錫悦)大統領は、韓国政府は核抑止力を開発する必要があるかもしれないとつぶやいたが、これは米国の「核の傘」に対する不満の表れである。2023年4月、米国と韓国はワシントン宣言に署名した。この協定は、米国の拡大抑止の約束を強化し、より明確にすることを約束したもので、核搭載爆撃機と核弾頭を装着したミサイルを搭載する潜水艦を韓国に派遣することが含まれている。
(5) 米国が時々は能力を示し、行動によって同盟国を安心させなければならないという事実は目新しいものではない。2012年に中国がスカボロー諸島を占拠した後、中国とフィリピンは緊迫した状態に陥った。米国の信頼が脅かされていると感じた Obama政権は、航行の自由作戦を開始し、係争中の海域の近くまで艦艇を航行させた。こうした作戦は現在、この地域を安心させるための米国戦略の中核をなしている。
(6) 以下の3つの要因が、米国がその能力を頻繁に発揮する必要性を示唆している。
a.米国はアジアで、中国の膨大な軍事力増強と戦わなければならない。これは特に海洋領域において顕著であり、中国は現在、大規模な海軍を保持している。
b.インド太平洋における米国の安全保障関係のあり方は変わりつつある。アジアにおける米国の結びつきは2国間協定により行われてきた。今日、中国に対処するため、米国はより集団的な安全保障の方式を構築する必要に迫られており、AUKUSやQUADのような連合もその1つである。
c.2024年は、Trump前大統領の復帰が見込まれることから、アジアでは米国の信頼性に対する不安が高まるだろう。アジアの多くの人々は、Trump前大統領の中国に対する厳しい姿勢を支持していたが、同盟国に対する喧嘩腰の姿勢も覚えている。マニラ、ソウル、そして東京から見た場合、Trumpが大統領に返り咲いたときに米国の既存の誓約が通用するのかどうか、これからの1年はさまざまな疑念が生じるだろう。フィリピン、韓国、そして日本の各政府は、あいまいさをなくし、より明確にすることを望むだろう。
(7) あいまいな約束を明確にすることは万能ではない。台湾に関して、Biden政権は「戦略的明確化」が賢明だと説得されている様子はない。あいまいな政策は、その下にある越えてはならない一線が本当は何なのかを試すように中国を仕向ける可能性がある。逆に明確な保証は抑止力を低下させる可能性があり、明確な宣言の中に挿入されるであろう条件付き条項などは、地理的・政治的な制限を囲い込むことによって、中国がまさにその継ぎ目を利用することを招き、米国の信頼性に挑戦することになる。
(8) 同盟国が米国に「伝える」のではなく「示す」ことを求める世界は、すでに幅広く薄く展開している軍事力へのさらなる要求が高まることを意味する。これまでのところ、少なくともBidenは公約を縮小する兆候はない。逆に国防への支出を増やし、その投資の成果をより頻繁に示す方向にある。Bidenは最近、新たに8,860億ドルの軍事予算に署名した。しかし、一見巨額に見えるこの数字でさえ、国民所得に占める割合は、冷戦期よりもはるかに低い。
(9) 明らかな危険性は、米国がこの難しい選択を避け、公約を縮小することも、公約を満たすための十分な支出もしないことである。しばらくはそれでうまくいくかもしれないが、米政府は過度な緊張や集団安全保障の衰退、国内の政治的不安定を懸念する同盟国を安心させるためにもっと努力せよという圧力にさらされるだろう。米国は50を超える同盟国に対する義務を一度に果たすことはできない。そうできるかどうかは、事態を回避できるだけの信用を確保できるかどうかにかかっている。今のところ、その可能性は低いが、将来的にそれを回避しようという米政府の決意について、あいまいな印象を与えることは避けた方がよいだろう。
記事参照:America’s Strategy of Ambiguity Is Ending Now
(1) 頼清徳が台湾総統に選出されたことで、米国の戦略的曖昧さに関する議論が再燃するだろう。Biden政権は、台湾をめぐる中国との対立に介入する筋書きをあいまいにしている。これは中国政府と台湾政府を油断させず、台湾政府が軽率な行動を採らないようにする一方で、中国政府をけん制するものである。しかし、米国がいつ行動する可能性があるかを明示する方が、中国政府を抑止するのに有効との指摘もある。このあいまいさの問題は、地政学的摩擦が高まる時代にあって米国の安全保障のあり方をめぐる課題を浮き彫りにしている。米政府は、50以上の国々と同盟関係を結んでおり、それは中国との戦いにおいて強力な資産である。台湾のような準同盟国も多数あり、インド、シンガポール、ベトナムのような緊密な提携国もいる。
(2) 米国は、その能力をより頻繁に示す必要があり、事実上、同盟国などへの保証をあいまいにする可能性が高い。Bidenは、米国が世界的な義務を果たすことができるという自信に満ちあふれている。しかし、ウクライナ・ロシア戦争と中東で進行中の危機は、同盟という資源に対して疑問を投げかけている。そして中国との関係を落ち着かせようとする最近の試みは、特に米国の大統領選挙の年において、アジアの平静を確保したいという強い願望を物語っている。
(3) フィリピンは最近、南シナ海で中国と揉めている。中国政府は、1999年にフィリピン政府が自国の領土を示すためセカンド・トーマス礁に座礁させた第2次世界大戦時の船への補給を阻止しようとしている。Ferdinand Marcos Jr.フィリピン大統領は米国に対し、中国がこのセカンド・トーマス礁を奪還しようとすれば、米比の同盟関係が発動されることを保証するよう求めている。米政府はこれを正式に履行し、空母「カール・ビンソン」をPhilippine Navyと航海するために展開させた。
(4) 韓国は北からの脅威に頭を痛めている。韓国のYoon Suk-yeol(尹錫悦)大統領は、韓国政府は核抑止力を開発する必要があるかもしれないとつぶやいたが、これは米国の「核の傘」に対する不満の表れである。2023年4月、米国と韓国はワシントン宣言に署名した。この協定は、米国の拡大抑止の約束を強化し、より明確にすることを約束したもので、核搭載爆撃機と核弾頭を装着したミサイルを搭載する潜水艦を韓国に派遣することが含まれている。
(5) 米国が時々は能力を示し、行動によって同盟国を安心させなければならないという事実は目新しいものではない。2012年に中国がスカボロー諸島を占拠した後、中国とフィリピンは緊迫した状態に陥った。米国の信頼が脅かされていると感じた Obama政権は、航行の自由作戦を開始し、係争中の海域の近くまで艦艇を航行させた。こうした作戦は現在、この地域を安心させるための米国戦略の中核をなしている。
(6) 以下の3つの要因が、米国がその能力を頻繁に発揮する必要性を示唆している。
a.米国はアジアで、中国の膨大な軍事力増強と戦わなければならない。これは特に海洋領域において顕著であり、中国は現在、大規模な海軍を保持している。
b.インド太平洋における米国の安全保障関係のあり方は変わりつつある。アジアにおける米国の結びつきは2国間協定により行われてきた。今日、中国に対処するため、米国はより集団的な安全保障の方式を構築する必要に迫られており、AUKUSやQUADのような連合もその1つである。
c.2024年は、Trump前大統領の復帰が見込まれることから、アジアでは米国の信頼性に対する不安が高まるだろう。アジアの多くの人々は、Trump前大統領の中国に対する厳しい姿勢を支持していたが、同盟国に対する喧嘩腰の姿勢も覚えている。マニラ、ソウル、そして東京から見た場合、Trumpが大統領に返り咲いたときに米国の既存の誓約が通用するのかどうか、これからの1年はさまざまな疑念が生じるだろう。フィリピン、韓国、そして日本の各政府は、あいまいさをなくし、より明確にすることを望むだろう。
(7) あいまいな約束を明確にすることは万能ではない。台湾に関して、Biden政権は「戦略的明確化」が賢明だと説得されている様子はない。あいまいな政策は、その下にある越えてはならない一線が本当は何なのかを試すように中国を仕向ける可能性がある。逆に明確な保証は抑止力を低下させる可能性があり、明確な宣言の中に挿入されるであろう条件付き条項などは、地理的・政治的な制限を囲い込むことによって、中国がまさにその継ぎ目を利用することを招き、米国の信頼性に挑戦することになる。
(8) 同盟国が米国に「伝える」のではなく「示す」ことを求める世界は、すでに幅広く薄く展開している軍事力へのさらなる要求が高まることを意味する。これまでのところ、少なくともBidenは公約を縮小する兆候はない。逆に国防への支出を増やし、その投資の成果をより頻繁に示す方向にある。Bidenは最近、新たに8,860億ドルの軍事予算に署名した。しかし、一見巨額に見えるこの数字でさえ、国民所得に占める割合は、冷戦期よりもはるかに低い。
(9) 明らかな危険性は、米国がこの難しい選択を避け、公約を縮小することも、公約を満たすための十分な支出もしないことである。しばらくはそれでうまくいくかもしれないが、米政府は過度な緊張や集団安全保障の衰退、国内の政治的不安定を懸念する同盟国を安心させるためにもっと努力せよという圧力にさらされるだろう。米国は50を超える同盟国に対する義務を一度に果たすことはできない。そうできるかどうかは、事態を回避できるだけの信用を確保できるかどうかにかかっている。今のところ、その可能性は低いが、将来的にそれを回避しようという米政府の決意について、あいまいな印象を与えることは避けた方がよいだろう。
記事参照:America’s Strategy of Ambiguity Is Ending Now
1月23日「米国による抑止力の戦略的現実―米専門家論説」(American Greatness, January 23, 2024)
1月23日付の米保守系情報ウエブサイトAmerican Greatnessは、元U.S. Pacific Fleet情報部長James E. Fanell退役海軍大佐とUniversity of Iceland の政治学教授Bradley A. Thayerの” Deterrence, Taiwan, and the Strategic Realities of the 21st Century”と題する論説を掲載し、ここで両名は抑止力を最大化するには、21世紀の戦略的現実を認識し、指導者がその現実について直接語り、米国の同盟国や提携国を取り込むことが必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 冷戦時代および冷戦後に米国が直面した戦略的状況は、現在米国が直面している状況と類似しているが、同時に変化もしている。この変化の最も顕著な例が台湾である。台北とワシントンの指導者たちが、中国政府が堅持すると誤解していた現状を劇的に変えた2つの大きな変化がある。第1に、台湾および周辺の米国の同盟国、さらに米軍、グアムなどの領土、米国本土を脅かす中国の通常兵器および核兵器の増大と能力向上である。第2に、通常戦力と核戦力の構造および基幹施設の数十年にわたる削減によって米国の抑止力が相対的に弱体化したことである。
(2) 中国による台湾への攻撃を抑止するためには、米国はこうした戦略的現実を反映した態勢を取らなければならない。米国が日本のような同盟国や台湾のような提携国に抑止力を拡大するには、軍事的にも政治的にもその範囲を広げなければならない。1960年代までは、米国はあらゆる段階の侵略に対応できる通常戦力と核戦力を確保するために多大な労力を費やした。同時に米国の政治指導者たちは、同盟国への支持を公言することの必要性と、抑止が失敗して侵略が起こった場合には、大規模な核戦争に至るまで米国が確実に対応すべきことを痛感していた。米国は、NATOの同盟国や日本のような他の主要同盟国との緊密な連携を確保するために尽力し、世界の追随を許さない即応性のある核戦力の基盤を有していた。
(3) 現在の米国の通常戦力は、欧州におけるロシアの侵略、中東におけるイランとイランの支援を受けた組織、そして中国を抑止するために広く展開している。核戦力は冷戦時代よりはるかに弱体化しており、現在保有している核兵器は戦術核兵器が少数で、実戦用核兵器はなく、戦略核戦力は、拡張と近代化が必要である。この状況で中国の指導者たちは、台湾征服などの軍事的目的を達成できると考えるかもしれない。
(4) 米国にとっては均衡の取り直しが唯一の当面の解決策である。しかし、NATOを安心させ、同盟国を援助し、中東の航路と航行の自由を維持し、インド太平洋の同盟国や提携国を援助する必要性がこれを妨げている。Biden政権は、インド太平洋が米国の海上戦力の一貫した優先事項であることを保証しなければならない。台湾は独立国であり、米国自身の国家安全保障と安全に重大な損害を与えることなく、中国の征服を阻止しなければならない。したがって、米国の指導者は、遅滞なく台湾に軍事力を提供することで、事実上の独立を一貫して支持しなければならない。そして、その必要性を世界に発信しなければならない。
(5) 抑止力を最大化するためには、21世紀の戦略的現実を認識し、米大統領、高官、議会指導者がそれらの現実について直接語り、米国の同盟国やインドのような提携国をこの認識に参加させることが必要である。台湾は独立国家であり、台湾は米国の戦術核兵器配備を含め、はるかに大きな能力を有するべきである。そして米国の指導者達は、台湾が自由であり続け、中国の共産主義的専制政治の掌中に決して陥らないことの必要性を、公然と、頻繁に語る必要がある。
記事参照:Deterrence, Taiwan, and the Strategic Realities of the 21st Century
(1) 冷戦時代および冷戦後に米国が直面した戦略的状況は、現在米国が直面している状況と類似しているが、同時に変化もしている。この変化の最も顕著な例が台湾である。台北とワシントンの指導者たちが、中国政府が堅持すると誤解していた現状を劇的に変えた2つの大きな変化がある。第1に、台湾および周辺の米国の同盟国、さらに米軍、グアムなどの領土、米国本土を脅かす中国の通常兵器および核兵器の増大と能力向上である。第2に、通常戦力と核戦力の構造および基幹施設の数十年にわたる削減によって米国の抑止力が相対的に弱体化したことである。
(2) 中国による台湾への攻撃を抑止するためには、米国はこうした戦略的現実を反映した態勢を取らなければならない。米国が日本のような同盟国や台湾のような提携国に抑止力を拡大するには、軍事的にも政治的にもその範囲を広げなければならない。1960年代までは、米国はあらゆる段階の侵略に対応できる通常戦力と核戦力を確保するために多大な労力を費やした。同時に米国の政治指導者たちは、同盟国への支持を公言することの必要性と、抑止が失敗して侵略が起こった場合には、大規模な核戦争に至るまで米国が確実に対応すべきことを痛感していた。米国は、NATOの同盟国や日本のような他の主要同盟国との緊密な連携を確保するために尽力し、世界の追随を許さない即応性のある核戦力の基盤を有していた。
(3) 現在の米国の通常戦力は、欧州におけるロシアの侵略、中東におけるイランとイランの支援を受けた組織、そして中国を抑止するために広く展開している。核戦力は冷戦時代よりはるかに弱体化しており、現在保有している核兵器は戦術核兵器が少数で、実戦用核兵器はなく、戦略核戦力は、拡張と近代化が必要である。この状況で中国の指導者たちは、台湾征服などの軍事的目的を達成できると考えるかもしれない。
(4) 米国にとっては均衡の取り直しが唯一の当面の解決策である。しかし、NATOを安心させ、同盟国を援助し、中東の航路と航行の自由を維持し、インド太平洋の同盟国や提携国を援助する必要性がこれを妨げている。Biden政権は、インド太平洋が米国の海上戦力の一貫した優先事項であることを保証しなければならない。台湾は独立国であり、米国自身の国家安全保障と安全に重大な損害を与えることなく、中国の征服を阻止しなければならない。したがって、米国の指導者は、遅滞なく台湾に軍事力を提供することで、事実上の独立を一貫して支持しなければならない。そして、その必要性を世界に発信しなければならない。
(5) 抑止力を最大化するためには、21世紀の戦略的現実を認識し、米大統領、高官、議会指導者がそれらの現実について直接語り、米国の同盟国やインドのような提携国をこの認識に参加させることが必要である。台湾は独立国家であり、台湾は米国の戦術核兵器配備を含め、はるかに大きな能力を有するべきである。そして米国の指導者達は、台湾が自由であり続け、中国の共産主義的専制政治の掌中に決して陥らないことの必要性を、公然と、頻繁に語る必要がある。
記事参照:Deterrence, Taiwan, and the Strategic Realities of the 21st Century
1月23日「法的観点から見たセカンド・トーマス礁をめぐる論争―ドイツ東南アジア専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, January 23, 2024)
1月23日付のCenter for Strategic and International StudiesのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiative は、ドイツの研究機関Max Planck Foundation for International Peace and the Rule of Law研究員Pham Ngoc Minh Trangの“SECOND THOMAS SHOAL: A LEGAL PERSPECTIVE”と題する論説を掲載し、そこでPham Ngoc Minh TrangはUNCLOSに基づきセカンド・トーマス礁の地形や主権の定義を整理しつつ、同環礁の領土的論争は本来存在せず、その主権はフィリピンに属するとして、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピンはセカンド・トーマス礁に旧揚陸艦「シエラ・マドレ」を座礁させて前哨基地とし、補給活動を続けている。中国はそれに対し、セカンド・トーマス礁の主権を主張してフィリピンの行動を不当であると非難している。
(2) セカンド・トーマス礁をめぐる論争は領土をめぐる論争に見えるが、実際にはそうではない。海洋法の規定によれば、中国がセカンド・トーマス礁の主権を主張する根拠はない。
(3) UNCLOSは、海の地物を島、岩、低潮高地(以下、LTEと言う)の3つに分類する。UNCLOS第121条は島と岩の区別を定義しており、前者はそこで恒久的に生活できることや、そのために本土から経済的資源を提供し続けられることが条件となる。それ以外の地形は岩とみなされる。前者としては中国の海南島、後者としては英国のロッコールがそれに該当する。また島周辺には接続水域やEEZ、大陸棚が伴うが、岩の周囲には領海基線から12海里の領海しか付随しない。
(4) UNCLOS第13条によれば低潮高地は、低潮時にのみ海面上に姿を現す地物であり、周辺にはEEZなどいかなる領域ももたらさない。そして、ある国家が主権を主張できるのは島と岩だけであり、LTEにそれは当てはまらない。LTEの主権は、ある国の大陸棚やEEZ内部にあるときに主張できる。南シナ海論争を考えるとき、この規定はきわめて重要である。
(5) 2016年に下された南シナ海論争に関するArbitral Tribunal Constituted under Annex VII to the 1982 United Nations Conventions on the Law of the Sea(国連海洋法条約附属書Ⅶ仲裁裁判所:以下、仲裁裁判所と言う)の裁定の要点は以下のとおりである。第1に、セカンド・トーマス礁はLTEである。したがってそれが、いずれかの国のEEZや大陸棚の内側に位置していなければ、その主権を主張することはできない。第2に、その裁定によればセカンド・トーマス礁はフィリピンのEEZ内部に位置する。その結果、仲裁裁判所はセカンド・トーマス礁に対するフィリピンの主権を認め、中国の主張を退けた。
(6) 法的観点から見れば、セカンド・トーマス礁をめぐる領土論争は存在しない。中国は英国に対し、チャゴス諸島に対するモーリシャスの主権を尊重したInternational Court of Justice(国際司法裁判所)の判決を受け入れよと主張しているが、それは中国に対しても同じことが言える。
記事参照:SECOND THOMAS SHOAL: A LEGAL PERSPECTIVE
(1) フィリピンはセカンド・トーマス礁に旧揚陸艦「シエラ・マドレ」を座礁させて前哨基地とし、補給活動を続けている。中国はそれに対し、セカンド・トーマス礁の主権を主張してフィリピンの行動を不当であると非難している。
(2) セカンド・トーマス礁をめぐる論争は領土をめぐる論争に見えるが、実際にはそうではない。海洋法の規定によれば、中国がセカンド・トーマス礁の主権を主張する根拠はない。
(3) UNCLOSは、海の地物を島、岩、低潮高地(以下、LTEと言う)の3つに分類する。UNCLOS第121条は島と岩の区別を定義しており、前者はそこで恒久的に生活できることや、そのために本土から経済的資源を提供し続けられることが条件となる。それ以外の地形は岩とみなされる。前者としては中国の海南島、後者としては英国のロッコールがそれに該当する。また島周辺には接続水域やEEZ、大陸棚が伴うが、岩の周囲には領海基線から12海里の領海しか付随しない。
(4) UNCLOS第13条によれば低潮高地は、低潮時にのみ海面上に姿を現す地物であり、周辺にはEEZなどいかなる領域ももたらさない。そして、ある国家が主権を主張できるのは島と岩だけであり、LTEにそれは当てはまらない。LTEの主権は、ある国の大陸棚やEEZ内部にあるときに主張できる。南シナ海論争を考えるとき、この規定はきわめて重要である。
(5) 2016年に下された南シナ海論争に関するArbitral Tribunal Constituted under Annex VII to the 1982 United Nations Conventions on the Law of the Sea(国連海洋法条約附属書Ⅶ仲裁裁判所:以下、仲裁裁判所と言う)の裁定の要点は以下のとおりである。第1に、セカンド・トーマス礁はLTEである。したがってそれが、いずれかの国のEEZや大陸棚の内側に位置していなければ、その主権を主張することはできない。第2に、その裁定によればセカンド・トーマス礁はフィリピンのEEZ内部に位置する。その結果、仲裁裁判所はセカンド・トーマス礁に対するフィリピンの主権を認め、中国の主張を退けた。
(6) 法的観点から見れば、セカンド・トーマス礁をめぐる領土論争は存在しない。中国は英国に対し、チャゴス諸島に対するモーリシャスの主権を尊重したInternational Court of Justice(国際司法裁判所)の判決を受け入れよと主張しているが、それは中国に対しても同じことが言える。
記事参照:SECOND THOMAS SHOAL: A LEGAL PERSPECTIVE
1月24日「オーストラリアに課せられた原潜受け入れのための膨大な準備作業―米安全保障専門サイト報道」(Defense One, January 24, 2024)
1月24日付の米安全保障専門ウエブサイトDefense Oneは、“The race is on to prepare Australia for nuclear subs”と題する記事を掲載し、AUKUS協定に基づいてオーストラリアが米英の技術によって建造する原子力潜水艦を運用するためには膨大な準備作業が必要であり、しかもそのための時間が少ないとして、要旨以下のよう報じている。
(1) 米国初の輪番制展開部隊である潜水艦がオーストラリアに到着するのは約36カ月後、オーストラリアにとって初となる最高の潜水艦を手にするのは約100カ月後の予定である。英国のある造船業の幹部は、「膨大な」準備作業のために多くの時間が残されていないと語っている。
(2) Royal Navyの元第二海軍卿兼海軍参謀次長で、現在はAUKUSの業務執行責任者であり、英国の防衛企業Babcock社の国際部門担当のNick Hineは、「比較的短期間にやるべきことが非常に多い・・・オーストラリアでは、規制システム、安全システム、原子力に関する新たな安全保障問題の非常に多くの分野を確立しておく必要がある」と1月第3週に行われたPacific ForumのイベントでDefense Oneに語っている。
(3) 2021年9月に発表されたAUKUS協定には、オーストラリアが米英の攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)を受け入れ、少なくとも3隻のバージニア級SSNを米国の造船会社から購入し、最終的には米英が共同設計したSSN-AUKUSが引き渡されるという計画が含まれている。Hineは、これらの開発線表は「比較的差し迫っている」と述べている。最初の輪番制展開を行うSSNがオーストラリアに展開してくるのは2027年、オーストラリアが初めてバージニア級SSNを入手するのが2032年、SSN-AUKUは2042年である。
(4) 1月初め、Royal Australian Navyの最初の士官3人が、サウスカロライナ州チャールストンにあるU.S. NavyのNuclear Power Training Unitを卒業した。彼らの次の目的地はコネチカット州グロトンのSubmarine Officer Basic Courseである。しかし、Hineは、バージニア級SSNの乗組員は135名であり、この135名には支援や保守整備要員は含まれておらず、乗組員、支援や保守整備要員全員が訓練だけでなく経験を必要としていると指摘している。米英の潜水艦にオーストラリアの潜水艦乗組員を送り込み、重要な経験を積ませる計画は既に実施されている。また、Babcock社と米国のHuntington Ingalls Industries(以下、HIIと言う)は、オーストラリアの3つの大学で大学院終了相当の技能を育成するため、オーストラリアにAUKUS Workforce Allianceを設立した。Hineによると、バブコックとHIIはまた、オーストラリアの主権にあって、潜水艦で100年以上の経験を持つ両社に連絡を取ることができる会社H&B Limitedを立ち上げる予定である。
記事参照:The race is on to prepare Australia for nuclear subs
(1) 米国初の輪番制展開部隊である潜水艦がオーストラリアに到着するのは約36カ月後、オーストラリアにとって初となる最高の潜水艦を手にするのは約100カ月後の予定である。英国のある造船業の幹部は、「膨大な」準備作業のために多くの時間が残されていないと語っている。
(2) Royal Navyの元第二海軍卿兼海軍参謀次長で、現在はAUKUSの業務執行責任者であり、英国の防衛企業Babcock社の国際部門担当のNick Hineは、「比較的短期間にやるべきことが非常に多い・・・オーストラリアでは、規制システム、安全システム、原子力に関する新たな安全保障問題の非常に多くの分野を確立しておく必要がある」と1月第3週に行われたPacific ForumのイベントでDefense Oneに語っている。
(3) 2021年9月に発表されたAUKUS協定には、オーストラリアが米英の攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)を受け入れ、少なくとも3隻のバージニア級SSNを米国の造船会社から購入し、最終的には米英が共同設計したSSN-AUKUSが引き渡されるという計画が含まれている。Hineは、これらの開発線表は「比較的差し迫っている」と述べている。最初の輪番制展開を行うSSNがオーストラリアに展開してくるのは2027年、オーストラリアが初めてバージニア級SSNを入手するのが2032年、SSN-AUKUは2042年である。
(4) 1月初め、Royal Australian Navyの最初の士官3人が、サウスカロライナ州チャールストンにあるU.S. NavyのNuclear Power Training Unitを卒業した。彼らの次の目的地はコネチカット州グロトンのSubmarine Officer Basic Courseである。しかし、Hineは、バージニア級SSNの乗組員は135名であり、この135名には支援や保守整備要員は含まれておらず、乗組員、支援や保守整備要員全員が訓練だけでなく経験を必要としていると指摘している。米英の潜水艦にオーストラリアの潜水艦乗組員を送り込み、重要な経験を積ませる計画は既に実施されている。また、Babcock社と米国のHuntington Ingalls Industries(以下、HIIと言う)は、オーストラリアの3つの大学で大学院終了相当の技能を育成するため、オーストラリアにAUKUS Workforce Allianceを設立した。Hineによると、バブコックとHIIはまた、オーストラリアの主権にあって、潜水艦で100年以上の経験を持つ両社に連絡を取ることができる会社H&B Limitedを立ち上げる予定である。
記事参照:The race is on to prepare Australia for nuclear subs
1月24日「台湾有事とフィリピンの対応―フィリピン専門家論説」(Asia Times, January 24, 2024)
1月24日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、The University of the PhilippinesのAsian Center上席研究員Richard Javad Heydarianの “Fret not Taiwan, Marcos Jr has your back”と題する論説を掲載し、ここでRichard Javad Heydarianはフィリピンが台湾有事を睨んで米中間で微妙な釣り合いを取る必要に迫られているとして、要旨以下のように述べている。
(1) Marcos Jr.フィリピン大統領は、1月13日の台湾総統選挙で民進党の頼清徳候補が勝利した直後、前例のない祝辞を送り、同氏を「台湾の次期総統」として祝福し、「緊密な協力、相互利益の強化、平和の促進そして両国民の繁栄の確保」を期待していると述べている。Republic of the Philippines Department of Foreign Affairsは直後に、フィリピン政府は依然として「1つの中国」政策を堅持していることを明言したが、この祝辞は中国の猛反発を招いた。中国は、フィリピン政府に「火遊びをしないよう」警告した。
(2) しかしながら、Marcos Jr.大統領の発言はよく計算された動きでもあった。Marcos Jr.大統領の立場からすれば、フィリピンは台湾の近隣国であり、しかも米国との条約上の同盟国として、中国の台湾侵攻を阻止するためのあらゆる集団的努力に関与しなければならないからである。フィリピンの指導者が台湾に対する米国や同志同盟国との協力関係をどのように調整するかによって、今後数ヵ月から数年間において戦争か、あるいは平和かの違いを生む可能性がある。米国との協力関係には、台湾南岸に面するフィリピン最北端の軍事基地のU.S. Armed Forcesの利用とその条件をフィリピン政府がどの程度認めるかということも含まれる。
(3) 今後、台湾の民進党の次期総統に中国がどう対応するかは、未だ不透明である。今のところ、中国政府が両岸の対話の道筋を復活させる意思も、あるいは台湾周辺でのますます定例化し、かつ、しばしば大規模なものとなっている軍事演習を縮小する意思もほとんど示していない。台湾の賴清徳次期総統は、「両岸の現状を維持する」、「釣り合いの取れた」取り組みを採るとしているが、一方で、「中国からの継続的な脅威と威嚇から台湾を守る」ことを誓い、米国、日本、そして次第に注目されつつあるフィリピンを含む、同志民主主義諸国との幅広い同盟網を構築することで、蔡英文現総統の外交政策を継続することを明らかにしている。その結果、中国政府と台湾政府が直接対決に関心がなくても、フィリピンなどの近隣諸国間では、近い将来の紛争に備える危機感が高まっている。
(4) 実際、フィリピンにとって、台湾問題はかつてないほど喫緊の課題となっている。
a. まず、台湾には20万人もの在外フィリピン人労働者が居住している。フィリピン政府にとって、同じく多数のフィリピン人労働者が居住する中東諸国での混乱時に比べて、台湾有事は人道的、そして経済的にはるかに大きな惨事となろう。フィリピン政府の戦略的計算の鍵となるのは地理的条件である。Marcos Jr.大統領は台湾南部の主要都市から飛行機で約45分の距離にある北西部のイロコス・ノルテ州の出身だが、フィリピンの幾つかの島嶼は台湾の領土から100km以内の距離にある。
b. Marcos Jr.政権は既に、防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)の下で、新に北部のカガヤン州とイサベラ州にある幾つかの軍事施設のU.S. Armed Forcesの利用を認めている。米政府がその台湾防衛戦略にフィリピンを直接組み入れようとしているのではないかという疑惑がある。実際、U.S. Department of Defenseは、台湾を巡る中国との戦争の可能性に備えて、フィリピンを巨大な武器貯蔵処にすることを検討していると報じられている。一部では、戦争生起の場合、戦闘機を含む台湾の戦力資産をフィリピン北部に移転させる可能性が示唆されてきた。
(5) これまでのところ、フィリピン政府は両方に賭けている。一方で、Armed Forces of the Philippinesは、北部の新しいEDCAに示された基地を「緊急時には米軍とフィリピン軍の共同利用」を認めるとの意向を示している。Marcos Jr.大統領自身も、これらの基地は「(中国の台湾への全面侵攻という)恐るべき事態が生起した場合、我々にとって役立つことが証明されるであろう」と語っている。結局のところ、Marcos Jr.大統領も認識しているように、マニラが東南アジアのどの主要都市よりも遥かに近い台湾で戦争が生起した場合、フィリピンが中立を保てるとは「想像し難い」。同時に他方で、Marcos Jr.大統領は、北部の州における米軍の配備の拡大は、中国そのものに向けられたものではなく、災害救援や人道支援活動などの非伝統的安全保障問題を含む、フィリピンの様々な脅威対処能力を強化することを目的としているとも主張している。要するに、Marcos Jr.大統領は、米中両超大国に対して熱過ぎず、また冷た過ぎでもない、いわゆる「ゴルディロックス(Goldilocks)」取り組みを採っている。即ち、紛争を招きかねない中国との事態の拡大を回避しながら、一方で米国の支援を得てフィリピンの戦略的地位を強化するという二股を賭けているのである。
(6) フィリピンは、台湾政策、特に防衛面において極めて慎重に対処する必要がある。EDCAの下では、Marcos Jr.政権は、EDCAに基づく基地におけるU.S. Armed Forcesの駐留規模と兵器システムの種類を決定する権限を持っている。フィリピン北部のほとんどのEDCAに基づく基地は、かつてのスービック海軍基地やクラーク空軍基地のように米国の管轄下にあった巨大基地とは性格を異にする、利用を認められた基地である。フィリピンはまた、さらに多くの軍事施設の利用を求めるU.S. Department of Defenseの要請にも慎重に対処する必要がある。台湾有事に際して最も重要な拠点となるのは、最北端のバタネス州、特に海軍施設があるマヴディス島である。Marcos Jr.政権は、北部に限定的な米軍の配備を認めることと引き換えに、南シナ海のフィリピン管轄海域、特にここ数ヵ月間中国との衝突が続いているセカンド・トーマス礁(比名:アユンギン礁、中国名:仁愛礁)周辺における侵略行為を抑制するよう中国に圧力をかけることもできよう。
(7) 台湾は、フィリピンなどの近隣諸国に対して、米中間で微妙な釣り合いを取る必要性を痛感させる重要な地政学的課題を提示しているが、同時に一方で、地域の勢力均衡をより有利に再設定する機会をも提供している。
記事参照:Fret not Taiwan, Marcos Jr has your back
(1) Marcos Jr.フィリピン大統領は、1月13日の台湾総統選挙で民進党の頼清徳候補が勝利した直後、前例のない祝辞を送り、同氏を「台湾の次期総統」として祝福し、「緊密な協力、相互利益の強化、平和の促進そして両国民の繁栄の確保」を期待していると述べている。Republic of the Philippines Department of Foreign Affairsは直後に、フィリピン政府は依然として「1つの中国」政策を堅持していることを明言したが、この祝辞は中国の猛反発を招いた。中国は、フィリピン政府に「火遊びをしないよう」警告した。
(2) しかしながら、Marcos Jr.大統領の発言はよく計算された動きでもあった。Marcos Jr.大統領の立場からすれば、フィリピンは台湾の近隣国であり、しかも米国との条約上の同盟国として、中国の台湾侵攻を阻止するためのあらゆる集団的努力に関与しなければならないからである。フィリピンの指導者が台湾に対する米国や同志同盟国との協力関係をどのように調整するかによって、今後数ヵ月から数年間において戦争か、あるいは平和かの違いを生む可能性がある。米国との協力関係には、台湾南岸に面するフィリピン最北端の軍事基地のU.S. Armed Forcesの利用とその条件をフィリピン政府がどの程度認めるかということも含まれる。
(3) 今後、台湾の民進党の次期総統に中国がどう対応するかは、未だ不透明である。今のところ、中国政府が両岸の対話の道筋を復活させる意思も、あるいは台湾周辺でのますます定例化し、かつ、しばしば大規模なものとなっている軍事演習を縮小する意思もほとんど示していない。台湾の賴清徳次期総統は、「両岸の現状を維持する」、「釣り合いの取れた」取り組みを採るとしているが、一方で、「中国からの継続的な脅威と威嚇から台湾を守る」ことを誓い、米国、日本、そして次第に注目されつつあるフィリピンを含む、同志民主主義諸国との幅広い同盟網を構築することで、蔡英文現総統の外交政策を継続することを明らかにしている。その結果、中国政府と台湾政府が直接対決に関心がなくても、フィリピンなどの近隣諸国間では、近い将来の紛争に備える危機感が高まっている。
(4) 実際、フィリピンにとって、台湾問題はかつてないほど喫緊の課題となっている。
a. まず、台湾には20万人もの在外フィリピン人労働者が居住している。フィリピン政府にとって、同じく多数のフィリピン人労働者が居住する中東諸国での混乱時に比べて、台湾有事は人道的、そして経済的にはるかに大きな惨事となろう。フィリピン政府の戦略的計算の鍵となるのは地理的条件である。Marcos Jr.大統領は台湾南部の主要都市から飛行機で約45分の距離にある北西部のイロコス・ノルテ州の出身だが、フィリピンの幾つかの島嶼は台湾の領土から100km以内の距離にある。
b. Marcos Jr.政権は既に、防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)の下で、新に北部のカガヤン州とイサベラ州にある幾つかの軍事施設のU.S. Armed Forcesの利用を認めている。米政府がその台湾防衛戦略にフィリピンを直接組み入れようとしているのではないかという疑惑がある。実際、U.S. Department of Defenseは、台湾を巡る中国との戦争の可能性に備えて、フィリピンを巨大な武器貯蔵処にすることを検討していると報じられている。一部では、戦争生起の場合、戦闘機を含む台湾の戦力資産をフィリピン北部に移転させる可能性が示唆されてきた。
(5) これまでのところ、フィリピン政府は両方に賭けている。一方で、Armed Forces of the Philippinesは、北部の新しいEDCAに示された基地を「緊急時には米軍とフィリピン軍の共同利用」を認めるとの意向を示している。Marcos Jr.大統領自身も、これらの基地は「(中国の台湾への全面侵攻という)恐るべき事態が生起した場合、我々にとって役立つことが証明されるであろう」と語っている。結局のところ、Marcos Jr.大統領も認識しているように、マニラが東南アジアのどの主要都市よりも遥かに近い台湾で戦争が生起した場合、フィリピンが中立を保てるとは「想像し難い」。同時に他方で、Marcos Jr.大統領は、北部の州における米軍の配備の拡大は、中国そのものに向けられたものではなく、災害救援や人道支援活動などの非伝統的安全保障問題を含む、フィリピンの様々な脅威対処能力を強化することを目的としているとも主張している。要するに、Marcos Jr.大統領は、米中両超大国に対して熱過ぎず、また冷た過ぎでもない、いわゆる「ゴルディロックス(Goldilocks)」取り組みを採っている。即ち、紛争を招きかねない中国との事態の拡大を回避しながら、一方で米国の支援を得てフィリピンの戦略的地位を強化するという二股を賭けているのである。
(6) フィリピンは、台湾政策、特に防衛面において極めて慎重に対処する必要がある。EDCAの下では、Marcos Jr.政権は、EDCAに基づく基地におけるU.S. Armed Forcesの駐留規模と兵器システムの種類を決定する権限を持っている。フィリピン北部のほとんどのEDCAに基づく基地は、かつてのスービック海軍基地やクラーク空軍基地のように米国の管轄下にあった巨大基地とは性格を異にする、利用を認められた基地である。フィリピンはまた、さらに多くの軍事施設の利用を求めるU.S. Department of Defenseの要請にも慎重に対処する必要がある。台湾有事に際して最も重要な拠点となるのは、最北端のバタネス州、特に海軍施設があるマヴディス島である。Marcos Jr.政権は、北部に限定的な米軍の配備を認めることと引き換えに、南シナ海のフィリピン管轄海域、特にここ数ヵ月間中国との衝突が続いているセカンド・トーマス礁(比名:アユンギン礁、中国名:仁愛礁)周辺における侵略行為を抑制するよう中国に圧力をかけることもできよう。
(7) 台湾は、フィリピンなどの近隣諸国に対して、米中間で微妙な釣り合いを取る必要性を痛感させる重要な地政学的課題を提示しているが、同時に一方で、地域の勢力均衡をより有利に再設定する機会をも提供している。
記事参照:Fret not Taiwan, Marcos Jr has your back
1月28日「インド-フランス、防衛、航空宇宙分野での関係強化―インドニュースサイト報道」(EurAsian Times, January 28, 2024)
1月28日付のインドのニュースサイトEurAsian Timesは、インドの防衛問題等を専門としてきたベテラン記者NC Bipindraの“India, France ‘Ramp Up’ Defense, Space Ties Amid China’s Aggression; Plans For Helo Engine, Submarine, Satellite Deals”と題する記事を掲載し、インドとフランスがインド太平洋の安全保障、防衛、宇宙等の領域における関係を深化させることで合意したとして、要旨以下のように報じている。
(1) インドとフランスとの間で決定されたインド太平洋の安全保障、防衛、宇宙領域における関係を深化させる合意は、Emmanuel Macronフランス大統領がインドの共和国記念日に国賓として訪問した際に締結された。 Macron大統領はNarendra Modi首相とも一対一で会談し、その後双方は戦略分野でいくつかの協定に署名した。2度目となるMacron大統領のインド訪問の主な焦点は、両国がここ数年間で達成した重要な分野での成果をさらに強化することであった。Macron大統領とModi首相は、防衛・安全保障パートナーシップが両国関係の主要な柱であり、それぞれの国の主権と戦略的自立を強化し、インド太平洋地域の平和を前進させる源であると認めている。
(2) 共同声明の中で、両首脳はインド太平洋地域に対する共通の未来像に基づき、両国間の長年にわたる提携をさらに深化させるとの誓約を改めて表明した。両首脳はまた、インド太平洋における両国の提携の重要な役割」を認めたが、これは共産主義中国の侵略的で拡張主義的な計画に対抗するための婉曲表現である。
(3) インドとフランスは2023年7月、中国に対するインド太平洋地域への関与を強化するため、包括的予定表に署名したが、中国は領有権を主張するインド太平洋諸国にとって苦痛となっている。インドとフランスの関係は、諜報活動や情報交換から軍事演習や防衛装備品の購入まで、海底から宇宙まであらゆる領域に広がっている。
(4) 2023年10月に開催された両国の海洋協力対話後の最新会談で、Modi首相とMacron大統領は、空、海、陸を通じた印仏共同防衛演習の複雑さと相互運用性の増大を認め、明確な3軍共同演習を検討することに同意しており、また、他の志を同じくする国々と協力して、特に海洋分野における能力を積極的に拡大することについても議論している。
(5) Modi首相とMacron大統領はまた、両国それぞれの防衛産業部門間の統合をさらに深め、「Indian Armed Forcesの所要を満たすためだけでなく、他の友好国に実行可能、かつ信頼できる武器供給源を提供するために共同設計、共同開発、共同生産の機会を見極める協力をする」ことも誓約した。その目的は、インドの防衛産業の能力と能力を強化することである。特に設計段階からの防衛産業協力は、インド国民に質の高い雇用を創出するだけでなく、 若者を育成し、「自立インド」というModi首相の未来像を前進させ、2047年に向けた「発展したインド」の構想を実現するための科学、技術、デジタル、材料科学の分野における広範な進歩も支援する。
(6) この目的に向けて、インドとフランスは今回のModi首相とMacron大統領の会談で野心的な防衛産業における協力に向けた予定表を採択した。 この予定表の詳細はまだ発表されていない。 これには、フランスのSafran S.A.とインドのDefense Research and Development Organization(国防研究開発機構:DRDO)の間の戦闘機用エンジン開発における協力、米仏の合弁企業が開発したLeading Edge Aviation Propulsion (LEAP)航空機エンジンとフランスの航空機製造企業Dassault Aviationが開発したラファール戦闘機の保守・修理・分解検査用施設の設置などが含まれる可能性がある。
(7) Modi首相とMacron大統領はまた、ヨーロッパの航空宇宙企業Airbusがインドで民間ヘリコプターの組み立てを開始するためにTata Advanced Systemと提携する決定を発表した。 両社は、インド政府の自立戦略に沿って、インドでヘリコプターを生産する初の民間企業となる。インド製ヘリコプターは2026年から稼働する予定である。興味深いことに、AirbusとTata Advanced SystemはインドでC295輸送機の製造ですでに提携している。最初の「インド製」C295は2026年9月にロールアウトされ、インドの航空宇宙産業にとって里程標となる。
(8) インドとフランスはまた、インド多目的ヘリコプターエンジンのために設立されたHindustan Aeronautics Limited(HAL)とSafran S.A.サフラン間の合弁会社とのヘリコプター製造に関する包括的な提携を発表した。
(9) Modi首相がフランスを訪問していた2023年7月、インドとフランスはインドの造船企業Mazagon Dock and Shipbuilders Limited(以下、MDLと言う)によるスコルペヌ級潜水艦3隻の追加建造を発表した。2024年の共同声明では、インドにおけるスコルペヌ級潜水艦の現地建造についてのみ言及されている。 それでも、MDLがフランスのNaval Groupの支援を受けてすでに建造中の6隻に加えて、さらに建造される3隻のスコルペヌ級潜水艦には言及していない。
(10) インドとフランスはすでに、DRDOとDirection générale de l'armement(軍備総局:DGA))の間で協力に向けた取り決めや覚書について話し合っている。 両首脳は早期にこの合意を締結する意向を表明したが、時期については明らかにしなかった。
(11) インドとフランスはすでに宇宙分野で協力しており、互いの衛星がそれぞれの宇宙機関によって打ち上げられている。 この宇宙分野の関係は60年間続いており、両国は2023年6月にStrategic Space Dialogue(宇宙に関わる戦略的対話)を設立し、宇宙協力のあらゆる側面にわたって戦略的指針と方向性を提供することで協力をさらに1段階上に引き上げた。インドとフランスは今回、衛星や搭載計測機器等の共同開発、製造、打ち上げ、新しいロケット技術や再利用可能なロケットの研究など、「両国、人類、地球の利益」のため宇宙協力をさらに拡大することを約束した。この会議中に、インドのNewSpaceとフランスのArianespaceは、衛星打ち上げに関する長期的な提携を構築することを決定し、防衛宇宙協力に関する基本合意書に署名した。
記事参照:India, France ‘Ramp Up’ Defense, Space Ties Amid China’s Aggression; Plans For Helo Engine, Submarine, Satellite Deals
(1) インドとフランスとの間で決定されたインド太平洋の安全保障、防衛、宇宙領域における関係を深化させる合意は、Emmanuel Macronフランス大統領がインドの共和国記念日に国賓として訪問した際に締結された。 Macron大統領はNarendra Modi首相とも一対一で会談し、その後双方は戦略分野でいくつかの協定に署名した。2度目となるMacron大統領のインド訪問の主な焦点は、両国がここ数年間で達成した重要な分野での成果をさらに強化することであった。Macron大統領とModi首相は、防衛・安全保障パートナーシップが両国関係の主要な柱であり、それぞれの国の主権と戦略的自立を強化し、インド太平洋地域の平和を前進させる源であると認めている。
(2) 共同声明の中で、両首脳はインド太平洋地域に対する共通の未来像に基づき、両国間の長年にわたる提携をさらに深化させるとの誓約を改めて表明した。両首脳はまた、インド太平洋における両国の提携の重要な役割」を認めたが、これは共産主義中国の侵略的で拡張主義的な計画に対抗するための婉曲表現である。
(3) インドとフランスは2023年7月、中国に対するインド太平洋地域への関与を強化するため、包括的予定表に署名したが、中国は領有権を主張するインド太平洋諸国にとって苦痛となっている。インドとフランスの関係は、諜報活動や情報交換から軍事演習や防衛装備品の購入まで、海底から宇宙まであらゆる領域に広がっている。
(4) 2023年10月に開催された両国の海洋協力対話後の最新会談で、Modi首相とMacron大統領は、空、海、陸を通じた印仏共同防衛演習の複雑さと相互運用性の増大を認め、明確な3軍共同演習を検討することに同意しており、また、他の志を同じくする国々と協力して、特に海洋分野における能力を積極的に拡大することについても議論している。
(5) Modi首相とMacron大統領はまた、両国それぞれの防衛産業部門間の統合をさらに深め、「Indian Armed Forcesの所要を満たすためだけでなく、他の友好国に実行可能、かつ信頼できる武器供給源を提供するために共同設計、共同開発、共同生産の機会を見極める協力をする」ことも誓約した。その目的は、インドの防衛産業の能力と能力を強化することである。特に設計段階からの防衛産業協力は、インド国民に質の高い雇用を創出するだけでなく、 若者を育成し、「自立インド」というModi首相の未来像を前進させ、2047年に向けた「発展したインド」の構想を実現するための科学、技術、デジタル、材料科学の分野における広範な進歩も支援する。
(6) この目的に向けて、インドとフランスは今回のModi首相とMacron大統領の会談で野心的な防衛産業における協力に向けた予定表を採択した。 この予定表の詳細はまだ発表されていない。 これには、フランスのSafran S.A.とインドのDefense Research and Development Organization(国防研究開発機構:DRDO)の間の戦闘機用エンジン開発における協力、米仏の合弁企業が開発したLeading Edge Aviation Propulsion (LEAP)航空機エンジンとフランスの航空機製造企業Dassault Aviationが開発したラファール戦闘機の保守・修理・分解検査用施設の設置などが含まれる可能性がある。
(7) Modi首相とMacron大統領はまた、ヨーロッパの航空宇宙企業Airbusがインドで民間ヘリコプターの組み立てを開始するためにTata Advanced Systemと提携する決定を発表した。 両社は、インド政府の自立戦略に沿って、インドでヘリコプターを生産する初の民間企業となる。インド製ヘリコプターは2026年から稼働する予定である。興味深いことに、AirbusとTata Advanced SystemはインドでC295輸送機の製造ですでに提携している。最初の「インド製」C295は2026年9月にロールアウトされ、インドの航空宇宙産業にとって里程標となる。
(8) インドとフランスはまた、インド多目的ヘリコプターエンジンのために設立されたHindustan Aeronautics Limited(HAL)とSafran S.A.サフラン間の合弁会社とのヘリコプター製造に関する包括的な提携を発表した。
(9) Modi首相がフランスを訪問していた2023年7月、インドとフランスはインドの造船企業Mazagon Dock and Shipbuilders Limited(以下、MDLと言う)によるスコルペヌ級潜水艦3隻の追加建造を発表した。2024年の共同声明では、インドにおけるスコルペヌ級潜水艦の現地建造についてのみ言及されている。 それでも、MDLがフランスのNaval Groupの支援を受けてすでに建造中の6隻に加えて、さらに建造される3隻のスコルペヌ級潜水艦には言及していない。
(10) インドとフランスはすでに、DRDOとDirection générale de l'armement(軍備総局:DGA))の間で協力に向けた取り決めや覚書について話し合っている。 両首脳は早期にこの合意を締結する意向を表明したが、時期については明らかにしなかった。
(11) インドとフランスはすでに宇宙分野で協力しており、互いの衛星がそれぞれの宇宙機関によって打ち上げられている。 この宇宙分野の関係は60年間続いており、両国は2023年6月にStrategic Space Dialogue(宇宙に関わる戦略的対話)を設立し、宇宙協力のあらゆる側面にわたって戦略的指針と方向性を提供することで協力をさらに1段階上に引き上げた。インドとフランスは今回、衛星や搭載計測機器等の共同開発、製造、打ち上げ、新しいロケット技術や再利用可能なロケットの研究など、「両国、人類、地球の利益」のため宇宙協力をさらに拡大することを約束した。この会議中に、インドのNewSpaceとフランスのArianespaceは、衛星打ち上げに関する長期的な提携を構築することを決定し、防衛宇宙協力に関する基本合意書に署名した。
記事参照:India, France ‘Ramp Up’ Defense, Space Ties Amid China’s Aggression; Plans For Helo Engine, Submarine, Satellite Deals
1月29日「地理的条件は中国が海洋を支配できる国家となる可能性を制限する―米専門家論説」(China US Focus, January 29, 2024)
1月29日付の香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、米New York University 客員教授James H. Nolt の‶Geography Limits China’s Possibilities as a Sea Power ″と題する論説を掲載し、ここでJames H. Noltは中国による台湾進攻の脅威を強調されることが多いが、中国はその地理的制約から真の海洋を支配できる国家とはなり得ず、台湾進攻の可能性は低いとして、要旨次のように述べている。
(1) 米中関係の緊張は幾分緩和されたとはいえ、中国の軍事的脅威に対する識者や政治家の警告は依然として絶えることがない。私は30年近く東アジアの軍事上の均衡に関する記事を発表し、そのたびに中国の侵略の脅威が差し迫っているという考えに反論してきた。その理由は、たとえば米国およびその同盟国の核抑止力、軍事費が圧倒的に大きいこと、海空の戦力の釣り合いが米国に有利なこと、また中国が本気で侵略に乗り出す意図を持っていないこと等で、こうした見方の妥当性は中国のGDPに占める軍事費の割合がかなり低く保たれていることに示されている。ほとんど無視されているが、中国の軍事力投射能力を弱体化し、勢力均衡の変化にも左右されない重要な考慮事項が1つある。それは地理的条件である。
(2) ロシア、ドイツ、旧オーストリア=ハンガリー2重帝国と同様に、中国は大部分が内陸国である。ドイツがいかに巨大な海軍を築こうとも、英国はドイツの海上交通路を扼する難攻不落の要塞としてドイツの艦隊を迎え撃ち、貿易を妨害することが容易にできた。ソ連も同様に、冷戦の間、米国とその多くの同盟国によって地理的制約を受けた。ソ連の艦隊は地理的に孤立した4つに分割され、いずれも米国の同盟国やその基地近傍の危険を回避し、外洋に自由に進出することはできなかった。戦時中のソ連の海外貿易は絶望的だったであろう。これらの大国はいずれも戦力の均整が悪いだけでなく、地理的な障壁のため、海洋を支配する大国となるには制約があった。
(3) 軍事に関して扇動する勢力は、こうした地理的な現実をほとんど無視している。中国は大国として世界の海で活動できる外洋海軍(blue water navy)」を構築していると言われて久しいが、それは平時の話である。大規模な戦争が勃発すれば、中国の海外貿易は停止する。中国の港は即座に封鎖され、自国領海外の軍艦は追跡され、撃沈される。この地理的事実は、勢力均衡の影響を受けない。中国は現在よりも5倍の規模の海軍を持つことができるが、それでも真の外洋海軍を保有できないであろう。なぜなら、戦闘において中国の艦隊は自国の沿岸海域においてさえ脆弱で、壊滅的損害を被ることなく外洋に出ることができないからである。これは、両大戦におけるドイツの状況に似ている。それは、航空戦力が海上戦力に勝るからで、第2次世界大戦は、友軍の航空戦力の援護の外では水上部隊が安全に活動できないことを証明した。当時、敵の陸上制空権に近づけるだけの空母を運用できたのは、米国、英国、日本の3ヵ国だけであった。
(4) 第2次世界大戦以降の海戦の教訓は、航空戦力の優位性をさらに増幅させた。無人偵察機や対艦ミサイル(以下、ASMと言う)などの新しい陸上航空戦力は、海上貿易や海軍作戦を地理的に妨害できる陸上大国の武器庫に、これまで以上に費用対効果の高い武器として追加されている。ほとんどの識者は、このことも見逃しているか、あるいは逆の理解をしている。最近では、紅海を通る船舶に対するフーシ派の攻撃が、東アジアで戦争が起きた場合の船舶に対する中国の潜在的脅威を誇張するために使われるが、またしても地理的な問題は無視されている。フーシ派勢力の威力圏は、ヨーロッパからアジアへの最短ルートの非常に狭い部分にまたがっている。船舶はアフリカを迂回することもできるが、航路ははるかに長くなり、その分価格も高くなる。中国はASMや無人偵察機を豊富に保有しているが、そのほとんどは自国の沿岸海域までしか展開できず、自国や台湾の船舶には重要であるが、他の国の船舶には影響が小さい。現在、東シナ海を通過している日本や韓国の船舶は、中国に拠点を置く空軍力の射程外となるフィリピンの東に簡単に迂回することができ、中国の地理的状況は、フーシ派の優位性を欠いている。中国の潜水艦でさえ、陸上基地から約500kmしか離れていない陸上戦闘機の援護圏外では、航空戦力に対して脆弱である。少数の戦闘機を乗せた中国の数隻の空母は、特に弱い地域国家を相手にする場合を除けば、陸上からの航空攻撃から防護するのは難しく、ましてや大型で数の多い米国の空母に対しては、あまり役に立たないであろう。
(5) フーシ派の例やЧерноморский флот(Black Sea Fleet:黒海艦隊)に対するウクライナの攻撃の有効性は、通常の航空戦力に加え、新世代の無人船舶、無人偵察機、ASMに対し中国自身が脆弱なことを裏付けている。中国の軍艦は、台湾侵攻のための兵員を乗せた輸送船はもちろんのこと、自国の沿岸海域においても脆弱である。ドローン等は比較的安価で、精度が高く、隠蔽が容易であるのに対し迎撃は難しい。これは、黒海でロシアの主要な艦艇のほとんどを破壊した一握りのウクライナのミサイルが証明している。制空権を握る国でも、ASMやドローンを発射前に発見し、制圧することはかなり難しい。
(6) 台湾はウクライナよりずっと多くのASMを保有しており、さらに、台湾海峡で危機が発生した場合、米国が台湾に迅速に物資を空輸し、中国による侵略の脅威をほぼ無力化することができる。いずれにせよ、中国の水陸両用戦能力は、台湾の地上軍に勝てる十分な規模の兵力を輸送・補給するには不足しており、中国は地理的制約を受けている。こう考えると、部隊とその能力の均整は軍事技術等の発展以上に地理的条件に左右される部分が大きいと言える。
記事参照:https://www.chinausfocus.com/peace-security/geography-limits-chinas-possibilities-as-a-sea-power
(1) 米中関係の緊張は幾分緩和されたとはいえ、中国の軍事的脅威に対する識者や政治家の警告は依然として絶えることがない。私は30年近く東アジアの軍事上の均衡に関する記事を発表し、そのたびに中国の侵略の脅威が差し迫っているという考えに反論してきた。その理由は、たとえば米国およびその同盟国の核抑止力、軍事費が圧倒的に大きいこと、海空の戦力の釣り合いが米国に有利なこと、また中国が本気で侵略に乗り出す意図を持っていないこと等で、こうした見方の妥当性は中国のGDPに占める軍事費の割合がかなり低く保たれていることに示されている。ほとんど無視されているが、中国の軍事力投射能力を弱体化し、勢力均衡の変化にも左右されない重要な考慮事項が1つある。それは地理的条件である。
(2) ロシア、ドイツ、旧オーストリア=ハンガリー2重帝国と同様に、中国は大部分が内陸国である。ドイツがいかに巨大な海軍を築こうとも、英国はドイツの海上交通路を扼する難攻不落の要塞としてドイツの艦隊を迎え撃ち、貿易を妨害することが容易にできた。ソ連も同様に、冷戦の間、米国とその多くの同盟国によって地理的制約を受けた。ソ連の艦隊は地理的に孤立した4つに分割され、いずれも米国の同盟国やその基地近傍の危険を回避し、外洋に自由に進出することはできなかった。戦時中のソ連の海外貿易は絶望的だったであろう。これらの大国はいずれも戦力の均整が悪いだけでなく、地理的な障壁のため、海洋を支配する大国となるには制約があった。
(3) 軍事に関して扇動する勢力は、こうした地理的な現実をほとんど無視している。中国は大国として世界の海で活動できる外洋海軍(blue water navy)」を構築していると言われて久しいが、それは平時の話である。大規模な戦争が勃発すれば、中国の海外貿易は停止する。中国の港は即座に封鎖され、自国領海外の軍艦は追跡され、撃沈される。この地理的事実は、勢力均衡の影響を受けない。中国は現在よりも5倍の規模の海軍を持つことができるが、それでも真の外洋海軍を保有できないであろう。なぜなら、戦闘において中国の艦隊は自国の沿岸海域においてさえ脆弱で、壊滅的損害を被ることなく外洋に出ることができないからである。これは、両大戦におけるドイツの状況に似ている。それは、航空戦力が海上戦力に勝るからで、第2次世界大戦は、友軍の航空戦力の援護の外では水上部隊が安全に活動できないことを証明した。当時、敵の陸上制空権に近づけるだけの空母を運用できたのは、米国、英国、日本の3ヵ国だけであった。
(4) 第2次世界大戦以降の海戦の教訓は、航空戦力の優位性をさらに増幅させた。無人偵察機や対艦ミサイル(以下、ASMと言う)などの新しい陸上航空戦力は、海上貿易や海軍作戦を地理的に妨害できる陸上大国の武器庫に、これまで以上に費用対効果の高い武器として追加されている。ほとんどの識者は、このことも見逃しているか、あるいは逆の理解をしている。最近では、紅海を通る船舶に対するフーシ派の攻撃が、東アジアで戦争が起きた場合の船舶に対する中国の潜在的脅威を誇張するために使われるが、またしても地理的な問題は無視されている。フーシ派勢力の威力圏は、ヨーロッパからアジアへの最短ルートの非常に狭い部分にまたがっている。船舶はアフリカを迂回することもできるが、航路ははるかに長くなり、その分価格も高くなる。中国はASMや無人偵察機を豊富に保有しているが、そのほとんどは自国の沿岸海域までしか展開できず、自国や台湾の船舶には重要であるが、他の国の船舶には影響が小さい。現在、東シナ海を通過している日本や韓国の船舶は、中国に拠点を置く空軍力の射程外となるフィリピンの東に簡単に迂回することができ、中国の地理的状況は、フーシ派の優位性を欠いている。中国の潜水艦でさえ、陸上基地から約500kmしか離れていない陸上戦闘機の援護圏外では、航空戦力に対して脆弱である。少数の戦闘機を乗せた中国の数隻の空母は、特に弱い地域国家を相手にする場合を除けば、陸上からの航空攻撃から防護するのは難しく、ましてや大型で数の多い米国の空母に対しては、あまり役に立たないであろう。
(5) フーシ派の例やЧерноморский флот(Black Sea Fleet:黒海艦隊)に対するウクライナの攻撃の有効性は、通常の航空戦力に加え、新世代の無人船舶、無人偵察機、ASMに対し中国自身が脆弱なことを裏付けている。中国の軍艦は、台湾侵攻のための兵員を乗せた輸送船はもちろんのこと、自国の沿岸海域においても脆弱である。ドローン等は比較的安価で、精度が高く、隠蔽が容易であるのに対し迎撃は難しい。これは、黒海でロシアの主要な艦艇のほとんどを破壊した一握りのウクライナのミサイルが証明している。制空権を握る国でも、ASMやドローンを発射前に発見し、制圧することはかなり難しい。
(6) 台湾はウクライナよりずっと多くのASMを保有しており、さらに、台湾海峡で危機が発生した場合、米国が台湾に迅速に物資を空輸し、中国による侵略の脅威をほぼ無力化することができる。いずれにせよ、中国の水陸両用戦能力は、台湾の地上軍に勝てる十分な規模の兵力を輸送・補給するには不足しており、中国は地理的制約を受けている。こう考えると、部隊とその能力の均整は軍事技術等の発展以上に地理的条件に左右される部分が大きいと言える。
記事参照:https://www.chinausfocus.com/peace-security/geography-limits-chinas-possibilities-as-a-sea-power
1月30日「中国との争いの最中に、フィリピンとベトナムは海洋紛争をより適切に管理することで合意した―日英字紙報道」(The Japan Times, January 30, 2024)
1月30日付のThe Japan Times電子版は“Amid China concerns, Manila and Hanoi agree to better manage maritime disputes”と題する記事を掲載し、ここでフィリピンのMarcos Jr. 大統領は、地域の安全保障協力を強化し、南シナ海での摩擦が高まる最中に中国に対抗する統一戦線を張る可能性を探っており、その一環としてベトナムと安全保障関係の覚書を結んだが、専門家たちはこれが最終的に中国に対する統一戦線の基礎となるかどうかを疑問視しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は、中国との地域海洋行動規範の締結が遅々として進まないことに不満を抱き、南シナ海の領有権を主張する近隣諸国に目を向け、地域の安全保障協力を強化し、係争海域での摩擦が高まる最中に中国に対抗する統一戦線を張る可能性を探っている。その方向への第一歩として、フィリピンがベトナムとの安全保障に関する2つの覚書(MoU)に署名した。沿岸警備隊の相互協力を深めるだけでなく、両国が重複する領有権主張を持つ南シナ海での不都合な事件の防止にも役立つことになった。フィリピン大統領府は、Marcos Jr.大統領の2日間のハノイ公式訪問の最終日に調印されたこの協定は、「ASEAN内および他の対話相手国との2国間における海洋問題に関する調整を強化する」ことを目的としており、両国が対話と協力活動を通じて「信頼を促進する」ための努力を強化すると述べた。同時に、フィリピンとベトナムは、それぞれの沿岸警備隊の間にホットラインを設置し、共通の問題と利益を議論するための合同沿岸警備委員会を設立することに合意した。しかし、Marco Jr.大統領が提案していた「非公式な」2国間行動規範協定には合意は及ばなかったと専門家は指摘するとともに、他の主張国は中国を怒らせ、中国とのより広範な海洋安全保障協定の交渉を頓挫させる危険性を冒す意欲は現在のところほとんど持っていない。
(2) ベトナムのVo Van Thuong大統領との会談に先立って、Marcos Jr.大統領はベトナムを東南アジアにおけるフィリピンの「唯一の戦略的パートナー(sole strategic partner)」と表現し、海洋での協力が両国関係の「要石(cornerstone)」であると強調した。一方、ベトナムのPham Minh Chinh首相はロイター通信の取材に対し、世界と地域の状況は「急速かつ複雑に進化している」と主張し、さらなる団結とより緊密な協力を呼びかけた。また、両国は、危機的状況下でのフィリピンの供給懸念に対処するためのコメの貿易に関する協定など、文化交流、貿易、投資に関する協定に次々と署名した。Marcos Jr.大統領はまた、ベトナム最大のコングロマリットであるVingroupがフィリピンへの投資、特に電気自動車のバッテリー生産に関心を持っていることを歓迎した。2国間の安全保障覚書は、南シナ海の緊張が高まる中、Marcos Jr.大統領が中国との領土問題で前任者よりもはるかに厳しい姿勢を採っている時期に行われた。中国海警総隊の船艇がフィリピンの巡視船にレーザー照射したり、主要な軍事基地付近の海上で衝突したり、戦略的にも経済的にも重要なこれらの海域で緊張が急速に高まっている。こうした背景から、Marcos Jr.大統領は、他の東南アジア諸国をフィリピンの対中戦に巻き込もうとしている。そのために、まず、主張が競合する近隣諸国との緊張緩和を目指している。Yokosuka Council on Asia Pacific StudiesのHanh Nguyenなどの専門家は、最近ベトナムと締結した覚書は、南シナ海の領有権を主張する国々が、海洋安全保障で協力するために、少なくとも一時的には意見の相違を脇に置いて置くことができることを示すものと見ている。
(3) Marcos Jr.大統領は、これらの動きの主な理由として、すでに20年以上かかっている中国とASEAN間の行動規範交渉の進展の遅さを挙げている。Marcos Jr.大統領の提案は、ASEANの全会一致の規定を回避するものである。Marcos Jr.大統領は自国の防衛力を強化するだけでなく、米国、日本、オーストラリア、そして今回のベトナムとの安全保障上の提携も拡大している。東南アジアの専門家でU.S. National War CollegeのZachary Abuza教授は「フィリピンとベトナムは、領有権主張の重複が少ないため、協力に最も積極的であり、さらに重要なことに、両国とも中国の侵略の矢面に立たされている」と述べている。これは日本も認識していることであり、両国の海上法執行機関との海上保安庁の協力を行っている。さらに、ベトナムとフィリピンは、日本が最近開始した軍事援助構想である政府安全保障能力強化支援の最初の受益者となっている。
(4) 専門家たちは、特にベトナムと同様の沿岸警備協定を結んでいる中国との領土紛争への潜在的な影響に関して、安全保障覚書の重要性を過大評価しないよう警告している。何人かの専門家は、東南アジアの領有権主張国間で別の行動規範を作ろうとするMarcos Jr.大統領の試みが、最終的に中国に対する統一戦線の基礎となるかどうかを疑問視している。Institute of Strategic and International Studies Malaysia(マレーシア戦略国際問題研究所)のThomas Daniel上席研究員は「ASEANの領有権を主張する国のみとの2国間または多国間の行動規範に関するMarcos Jr.大統領の提案は、公式的には沈黙で迎えられた。これは、マレーシア、ブルネイおよびマレーシアとの見通しについて知っておくべきことをすべて教えてくれる」と述べている。その理由は、ASEANの域外と域内の両方において問題が引き起こされる可能性があるためである。域外については、東南アジアの領有権主張国がいかなる形であれ「徒党を組んで戦うこと(ganging up)」は中国によって敵対的な動きと見なされることである。多くのASEAN諸国は、中国との経済関係を悪化させることを望んでいない。域内については、ASEANの領有権主張者間の根本的な違いも重要である。
(5) これらの措置は、領有権を主張する国を含むすべての提携国との海洋協力を拡大することを目的とした「南シナ海におけるベトナムの均衡措置の要素」であるとThomas Danielは述べている。実際、専門家たちはこれを国家主権を維持しつつ国際パートナーシップの柔軟性を維持するというベトナムの「竹外交(bamboo diplomacy)」の一環と見ている。しかし、だからといってMarcos Jr.大統領の外交的働きかけが効果を及ぼさないというわけではなく、他の領有権主張国間の長引く問題を整理し、今後、すべてのASEAN加盟国の間でより効果的な行動規範の土台を作るのに役立つと主張する人もいる。
記事参照:Amid China concerns, Manila and Hanoi agree to better manage maritime disputes
(1) フィリピンのFerdinand Marcos Jr.大統領は、中国との地域海洋行動規範の締結が遅々として進まないことに不満を抱き、南シナ海の領有権を主張する近隣諸国に目を向け、地域の安全保障協力を強化し、係争海域での摩擦が高まる最中に中国に対抗する統一戦線を張る可能性を探っている。その方向への第一歩として、フィリピンがベトナムとの安全保障に関する2つの覚書(MoU)に署名した。沿岸警備隊の相互協力を深めるだけでなく、両国が重複する領有権主張を持つ南シナ海での不都合な事件の防止にも役立つことになった。フィリピン大統領府は、Marcos Jr.大統領の2日間のハノイ公式訪問の最終日に調印されたこの協定は、「ASEAN内および他の対話相手国との2国間における海洋問題に関する調整を強化する」ことを目的としており、両国が対話と協力活動を通じて「信頼を促進する」ための努力を強化すると述べた。同時に、フィリピンとベトナムは、それぞれの沿岸警備隊の間にホットラインを設置し、共通の問題と利益を議論するための合同沿岸警備委員会を設立することに合意した。しかし、Marco Jr.大統領が提案していた「非公式な」2国間行動規範協定には合意は及ばなかったと専門家は指摘するとともに、他の主張国は中国を怒らせ、中国とのより広範な海洋安全保障協定の交渉を頓挫させる危険性を冒す意欲は現在のところほとんど持っていない。
(2) ベトナムのVo Van Thuong大統領との会談に先立って、Marcos Jr.大統領はベトナムを東南アジアにおけるフィリピンの「唯一の戦略的パートナー(sole strategic partner)」と表現し、海洋での協力が両国関係の「要石(cornerstone)」であると強調した。一方、ベトナムのPham Minh Chinh首相はロイター通信の取材に対し、世界と地域の状況は「急速かつ複雑に進化している」と主張し、さらなる団結とより緊密な協力を呼びかけた。また、両国は、危機的状況下でのフィリピンの供給懸念に対処するためのコメの貿易に関する協定など、文化交流、貿易、投資に関する協定に次々と署名した。Marcos Jr.大統領はまた、ベトナム最大のコングロマリットであるVingroupがフィリピンへの投資、特に電気自動車のバッテリー生産に関心を持っていることを歓迎した。2国間の安全保障覚書は、南シナ海の緊張が高まる中、Marcos Jr.大統領が中国との領土問題で前任者よりもはるかに厳しい姿勢を採っている時期に行われた。中国海警総隊の船艇がフィリピンの巡視船にレーザー照射したり、主要な軍事基地付近の海上で衝突したり、戦略的にも経済的にも重要なこれらの海域で緊張が急速に高まっている。こうした背景から、Marcos Jr.大統領は、他の東南アジア諸国をフィリピンの対中戦に巻き込もうとしている。そのために、まず、主張が競合する近隣諸国との緊張緩和を目指している。Yokosuka Council on Asia Pacific StudiesのHanh Nguyenなどの専門家は、最近ベトナムと締結した覚書は、南シナ海の領有権を主張する国々が、海洋安全保障で協力するために、少なくとも一時的には意見の相違を脇に置いて置くことができることを示すものと見ている。
(3) Marcos Jr.大統領は、これらの動きの主な理由として、すでに20年以上かかっている中国とASEAN間の行動規範交渉の進展の遅さを挙げている。Marcos Jr.大統領の提案は、ASEANの全会一致の規定を回避するものである。Marcos Jr.大統領は自国の防衛力を強化するだけでなく、米国、日本、オーストラリア、そして今回のベトナムとの安全保障上の提携も拡大している。東南アジアの専門家でU.S. National War CollegeのZachary Abuza教授は「フィリピンとベトナムは、領有権主張の重複が少ないため、協力に最も積極的であり、さらに重要なことに、両国とも中国の侵略の矢面に立たされている」と述べている。これは日本も認識していることであり、両国の海上法執行機関との海上保安庁の協力を行っている。さらに、ベトナムとフィリピンは、日本が最近開始した軍事援助構想である政府安全保障能力強化支援の最初の受益者となっている。
(4) 専門家たちは、特にベトナムと同様の沿岸警備協定を結んでいる中国との領土紛争への潜在的な影響に関して、安全保障覚書の重要性を過大評価しないよう警告している。何人かの専門家は、東南アジアの領有権主張国間で別の行動規範を作ろうとするMarcos Jr.大統領の試みが、最終的に中国に対する統一戦線の基礎となるかどうかを疑問視している。Institute of Strategic and International Studies Malaysia(マレーシア戦略国際問題研究所)のThomas Daniel上席研究員は「ASEANの領有権を主張する国のみとの2国間または多国間の行動規範に関するMarcos Jr.大統領の提案は、公式的には沈黙で迎えられた。これは、マレーシア、ブルネイおよびマレーシアとの見通しについて知っておくべきことをすべて教えてくれる」と述べている。その理由は、ASEANの域外と域内の両方において問題が引き起こされる可能性があるためである。域外については、東南アジアの領有権主張国がいかなる形であれ「徒党を組んで戦うこと(ganging up)」は中国によって敵対的な動きと見なされることである。多くのASEAN諸国は、中国との経済関係を悪化させることを望んでいない。域内については、ASEANの領有権主張者間の根本的な違いも重要である。
(5) これらの措置は、領有権を主張する国を含むすべての提携国との海洋協力を拡大することを目的とした「南シナ海におけるベトナムの均衡措置の要素」であるとThomas Danielは述べている。実際、専門家たちはこれを国家主権を維持しつつ国際パートナーシップの柔軟性を維持するというベトナムの「竹外交(bamboo diplomacy)」の一環と見ている。しかし、だからといってMarcos Jr.大統領の外交的働きかけが効果を及ぼさないというわけではなく、他の領有権主張国間の長引く問題を整理し、今後、すべてのASEAN加盟国の間でより効果的な行動規範の土台を作るのに役立つと主張する人もいる。
記事参照:Amid China concerns, Manila and Hanoi agree to better manage maritime disputes
1月31日「紅海の状況が西側諸国海軍に突きつけた将来の課題―英海軍専門家論説」(Military Balance Blog, IISS, January 31, 2024)
1月31日付の英シンクタンクThe International Institute for Strategic Studiesの年報Millitary BalanceのウエブサイトMilitary Balance Blog は、同Institute上席研究員Nick Childsの“Red Sea challenges give naval planners more to ponder about future warfare”と題する論説を掲載し、そこでNick Childsは紅海周辺におけるフーシ派の活動が、西側諸国海軍に新たな課題を突きつけているとして、要旨以下のように述べている。
(1) フーシ派によるイエメン沖での船舶への攻撃は新たな段階に入り、多くの課題を突きつけると同時に、その脅威に対抗するための教訓を提供し続けている。それは西側諸国の海軍に対し、その対処のために将来必要なことを教えている。たとえば持続的かつ包括的な情報・監視・偵察(ISR)能力やフーシ派が活用する機動的で隠しやすい兵器を攻撃する能力などである。
(2) U.S. NavyやRoyal Navyにとっての課題は、最近数週間にわたって展開されている、フーシ派による無人航空機(以下、UAVと言う)やミサイルによる攻撃への対処である。フーシ派は、たとえ米国の空母打撃群であっても、海軍力の展開によって抑止されることはないので、直接攻撃を加えることが重要になる。
(3) しかし、多くの海軍はこれまで対地攻撃能力にあまり投資をしてこなかった。たとえば紅海に派遣されているRoyal Navyの駆逐艦「ダイヤモンド」の対空防衛関連装備は充実しているが、「ダイヤモンド」に対地攻撃能力を備える計画は放棄された。そのため、直接攻撃のためにはキプロスに駐屯する空軍機が必要とされている。Royal Navyはその問題を理解し、艦艇の攻撃能力改善に着手し始めた。たとえば2022年にコングスベルグ・ミサイルを一部の艦に装備し、2023年12月に作戦可能になった。U.S. Navyは、潜水艦や駆逐艦が装備する巡航ミサイルにより、対地攻撃能力を備えているが、さらなる改善を模索している。最近ではトマホークミサイルの生産能力を拡大させている。
(4) 海軍がこれまでの想定を再考すべきもう1つの領域は防空である、紅海での状況は防空能力の重要性を際立たせている。今後さらに、多くの多様なミサイルを持つ中国などが、西側諸国海軍の防空能力にさらなる試練を突きつけるかもしれない。とりわけ重要なのはUAVへの対処である。その重要性はウクライナ戦争ですでに実証されているが、紅海においても、比較的安価なUAVに対し、高価なミサイルで対処すべきなのかという問題が浮上している。
(5) 艦船の建造費や商船の積荷の価値を考えれば、ミサイルなどでの対処はまだ理にかなっていると言える。しかしさらなる問題は、作戦が長期化することによって兵器の備蓄が減少し続けることである。つまり最大の問題はミサイルなどを製造し続けることのできる生産能力なのである。指向性エネルギー兵器などのテクノロジーの進歩は、こうした問題に対するさらなる解決策を提供する。U.S. Navyは最近、Northrop Grumman社製の最新の艦隊防衛システムを導入した。しかし、こうした技術的進歩は急激に前進するものではない。
(6) 紅海の状況は、技術的進歩により海軍は艦艇、航空機中心主義から脱却できると言われるようになって久しいこの時代に、艦艇数の問題に関する議論も再活性化させた。それ以外の作戦行動を考慮すれば、紅海での艦艇数は明らかに少ないという現実がある。したがって艦艇の不足に対処するためには、その生産能力の拡大が必要なのであるが、それもまた利用可能な資源や産業能力との兼ね合いの問題となろう。
記事参照:Red Sea challenges give naval planners more to ponder about future warfare
(1) フーシ派によるイエメン沖での船舶への攻撃は新たな段階に入り、多くの課題を突きつけると同時に、その脅威に対抗するための教訓を提供し続けている。それは西側諸国の海軍に対し、その対処のために将来必要なことを教えている。たとえば持続的かつ包括的な情報・監視・偵察(ISR)能力やフーシ派が活用する機動的で隠しやすい兵器を攻撃する能力などである。
(2) U.S. NavyやRoyal Navyにとっての課題は、最近数週間にわたって展開されている、フーシ派による無人航空機(以下、UAVと言う)やミサイルによる攻撃への対処である。フーシ派は、たとえ米国の空母打撃群であっても、海軍力の展開によって抑止されることはないので、直接攻撃を加えることが重要になる。
(3) しかし、多くの海軍はこれまで対地攻撃能力にあまり投資をしてこなかった。たとえば紅海に派遣されているRoyal Navyの駆逐艦「ダイヤモンド」の対空防衛関連装備は充実しているが、「ダイヤモンド」に対地攻撃能力を備える計画は放棄された。そのため、直接攻撃のためにはキプロスに駐屯する空軍機が必要とされている。Royal Navyはその問題を理解し、艦艇の攻撃能力改善に着手し始めた。たとえば2022年にコングスベルグ・ミサイルを一部の艦に装備し、2023年12月に作戦可能になった。U.S. Navyは、潜水艦や駆逐艦が装備する巡航ミサイルにより、対地攻撃能力を備えているが、さらなる改善を模索している。最近ではトマホークミサイルの生産能力を拡大させている。
(4) 海軍がこれまでの想定を再考すべきもう1つの領域は防空である、紅海での状況は防空能力の重要性を際立たせている。今後さらに、多くの多様なミサイルを持つ中国などが、西側諸国海軍の防空能力にさらなる試練を突きつけるかもしれない。とりわけ重要なのはUAVへの対処である。その重要性はウクライナ戦争ですでに実証されているが、紅海においても、比較的安価なUAVに対し、高価なミサイルで対処すべきなのかという問題が浮上している。
(5) 艦船の建造費や商船の積荷の価値を考えれば、ミサイルなどでの対処はまだ理にかなっていると言える。しかしさらなる問題は、作戦が長期化することによって兵器の備蓄が減少し続けることである。つまり最大の問題はミサイルなどを製造し続けることのできる生産能力なのである。指向性エネルギー兵器などのテクノロジーの進歩は、こうした問題に対するさらなる解決策を提供する。U.S. Navyは最近、Northrop Grumman社製の最新の艦隊防衛システムを導入した。しかし、こうした技術的進歩は急激に前進するものではない。
(6) 紅海の状況は、技術的進歩により海軍は艦艇、航空機中心主義から脱却できると言われるようになって久しいこの時代に、艦艇数の問題に関する議論も再活性化させた。それ以外の作戦行動を考慮すれば、紅海での艦艇数は明らかに少ないという現実がある。したがって艦艇の不足に対処するためには、その生産能力の拡大が必要なのであるが、それもまた利用可能な資源や産業能力との兼ね合いの問題となろう。
記事参照:Red Sea challenges give naval planners more to ponder about future warfare
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Oceans under pressure: China’s challenge to the maritime order
https://www.geostrategy.org.uk/britains-world/oceans-under-pressure-chinas-challenge-to-the-maritime-order/
Britain’s World, The Council on Geostrategy, January 23, 2024
By Peter Alan Dutton, a professor in the Stockton Centre for International Law at the US Naval War College
2024 年1月23日、US Naval War College教授Peter Alan Duttonは、英非営利研究組織The Council on Geostrategyが発行するオンライン誌Britain’s Worldに、“Oceans under pressure: China’s challenge to the maritime order”と題する論説を寄稿した。その中で、①世界の海洋に秩序、安定および持続可能な生産性をもたらすという目的を達成するために、UNCLOSは以下の分野を発展させてきた。第1に、海域を定義し、その境界を画定するための基盤の確立であり、第2にいくつかの海域で適用される権利と義務の定義で、第3に海洋環境を保護するための規則、基準および規範の制定であり、第4に紛争を解決し、海洋の安定を促進するための強制的な制度の確立である。②中国はこれら4つの要素それぞれに圧力をかけており、UNCLOSを批准しているにもかかわらず、自国のやり方で海洋権益を主張する古代の権利があると言い張っており、それを行使するための国内管轄権を主張している。③たとえば、中国が南シナ海で主張している「九段線」は陸が海より優位に立つという基本原則から逸脱しており、海域の主張と画定に関する規則と原則を覆すものである。④中国の国内法は、国際的に認められている沿岸国と海洋国間の経済的および安全保障上の権利と義務の均衡を崩している。⑤中国は2013年から2015年にかけて、南シナ海で、7つの新しい人工島と軍事基地を建設するためにサンゴ礁とその周辺の生息環境を破壊し、さらに、中国の乱獲は不均衡の原因となっている世界的な問題である。⑥最後に、中国はInternational Seabed Authority(国際海底機構)において大きな力を持っており、この組織を通じて、環境への影響を十分に調査する前に海底採掘を早期に開始するよう働きかけている。⑦中国は実際にUNCLOSの恩恵を受けているが、条約の負担を拒否している。⑧米国がUNCLOSの外側に留まっているため、この条約の制度内部で押し返す働きかけは、英豪日印仏など、海洋に大きな利害関係を持つ国々が行わなければならないといった主張を述べている。
(2) The Three Fronts of The Neo-Cold War
https://www.geopoliticalmonitor.com/the-three-fronts-of-the-neo-cold-war/
Geopolitical Monitor, January 24, 2024
By Jose Miguel Alonso-Trabanco is currently pursuing a PhD in Defence and Security Studies at Massey University, New Zealand.
2024年2月24日、ニュージーランドMassey Universityで防衛・安全保障研究の博士課程院生Jose Miguelは、カナダ情報誌 Geopolitical Monitorのウエブサイトに" The Three Fronts of The Neo-Cold War "と題する論説を寄稿した。その中でAlonso-Trabancoは、20世紀の冷戦は本質的に地政学的対立であり、西側の海洋国家である米国は、ユーラシア大陸の陸上国家であるソ連と世界覇権を争ったが、このライバル関係では、黙示録的なハルマゲドンのリスクがあったため、2つの超大国が直接核兵器で応酬することは避けられ、勢力均衡がソ連崩壊まで成立していたが、この幻想は歴史の容赦ない歩みによって打ち消され、訪れた第2の「危機の20年」では、いくつかの地域や国家が長引く混乱の地殻変動的な衝撃波に飲み込まれ、現状維持派大国と修正主義的大国との間の戦略的対立という病巣が再活性化していると指摘している。そしてAlonso-Trabancoは、世界は多極化する環境の中で繰り広げられる新冷戦を目の当たりにしているが、その結末は依然として不透明であり、かつ、現在の戦略的対立が不安定なのは、行為者が複数いるからだけでなく、通常戦、核の脅威、非軍事的な権力行使が織り交ざっているからであると述べた上で、長期化する対立関係を管理する保証として冷静な外交取引がなされない限り、遅かれ早かれ臨界点に達するだろうとし、最後に「時間がない」と警鐘を鳴らしている。
(3) The Geopolitics of World War III
https://www.realcleardefense.com/articles/2024/01/27/the_geopolitics_of_world_war_iii_1007840.html
Real Clear Defense, January 27, 2024
By Michael Hochberg. PhD, a visiting scholar at the Centre for Geopolitics at Cambridge University
Leonard Hochberg. PhD, a Senior Fellow at the Foreign Policy Research Institute
2024年2月27日、英The Centre for Geopolitics at Cambridge University の客員研究員Michael Hochbergと米シンクタンクForeign Policy Research Institute の上席研究員Leonard Hochbergは、米国防関係ウエブサイトReal Clear Defenseに" The Geopolitics of World War III "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、2024年1月2日、イスラエルのIsrael Katz外相が「我々は、すでにヨーロッパに触手を伸ばしているイラン率いるイスラム過激派との第3次世界大戦の真っ只中にいる」と宣言し、イスラエルがハマスやその他のイランの代理勢力との戦争に従事することで、「すべての人々」を守っているのだと主張したと指摘した上で、Israel Katz外相の弁舌は、米国やヨーロッパの多くの人々には大げさに見えるかもしれないが、これを頭ごなしに否定すべきではないとし、2023年のロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルのガザでの軍事作戦はより広範な武力衝突を予兆しているのか、あるいは、どちらか一方が大量虐殺や民族浄化に手を染めなければ解決できないような、局地な紛争に過ぎないのだろうかとの問いを提示している。そして両名は、地政学的な分析などを披露し、悲観的な見解を示した上で、中国が台湾に対して武力行使に出るかどうかにかかわらず、米国と同盟国は今、そのような戦争への準備を最優先で急ぐ必要があるが、世界規模の多面的な戦争に備えることが戦争を回避する唯一の方法であると述べ、今こそ、米国人は再び地政学を戦略立案に活用すべきだと主張している。
(1) Oceans under pressure: China’s challenge to the maritime order
https://www.geostrategy.org.uk/britains-world/oceans-under-pressure-chinas-challenge-to-the-maritime-order/
Britain’s World, The Council on Geostrategy, January 23, 2024
By Peter Alan Dutton, a professor in the Stockton Centre for International Law at the US Naval War College
2024 年1月23日、US Naval War College教授Peter Alan Duttonは、英非営利研究組織The Council on Geostrategyが発行するオンライン誌Britain’s Worldに、“Oceans under pressure: China’s challenge to the maritime order”と題する論説を寄稿した。その中で、①世界の海洋に秩序、安定および持続可能な生産性をもたらすという目的を達成するために、UNCLOSは以下の分野を発展させてきた。第1に、海域を定義し、その境界を画定するための基盤の確立であり、第2にいくつかの海域で適用される権利と義務の定義で、第3に海洋環境を保護するための規則、基準および規範の制定であり、第4に紛争を解決し、海洋の安定を促進するための強制的な制度の確立である。②中国はこれら4つの要素それぞれに圧力をかけており、UNCLOSを批准しているにもかかわらず、自国のやり方で海洋権益を主張する古代の権利があると言い張っており、それを行使するための国内管轄権を主張している。③たとえば、中国が南シナ海で主張している「九段線」は陸が海より優位に立つという基本原則から逸脱しており、海域の主張と画定に関する規則と原則を覆すものである。④中国の国内法は、国際的に認められている沿岸国と海洋国間の経済的および安全保障上の権利と義務の均衡を崩している。⑤中国は2013年から2015年にかけて、南シナ海で、7つの新しい人工島と軍事基地を建設するためにサンゴ礁とその周辺の生息環境を破壊し、さらに、中国の乱獲は不均衡の原因となっている世界的な問題である。⑥最後に、中国はInternational Seabed Authority(国際海底機構)において大きな力を持っており、この組織を通じて、環境への影響を十分に調査する前に海底採掘を早期に開始するよう働きかけている。⑦中国は実際にUNCLOSの恩恵を受けているが、条約の負担を拒否している。⑧米国がUNCLOSの外側に留まっているため、この条約の制度内部で押し返す働きかけは、英豪日印仏など、海洋に大きな利害関係を持つ国々が行わなければならないといった主張を述べている。
(2) The Three Fronts of The Neo-Cold War
https://www.geopoliticalmonitor.com/the-three-fronts-of-the-neo-cold-war/
Geopolitical Monitor, January 24, 2024
By Jose Miguel Alonso-Trabanco is currently pursuing a PhD in Defence and Security Studies at Massey University, New Zealand.
2024年2月24日、ニュージーランドMassey Universityで防衛・安全保障研究の博士課程院生Jose Miguelは、カナダ情報誌 Geopolitical Monitorのウエブサイトに" The Three Fronts of The Neo-Cold War "と題する論説を寄稿した。その中でAlonso-Trabancoは、20世紀の冷戦は本質的に地政学的対立であり、西側の海洋国家である米国は、ユーラシア大陸の陸上国家であるソ連と世界覇権を争ったが、このライバル関係では、黙示録的なハルマゲドンのリスクがあったため、2つの超大国が直接核兵器で応酬することは避けられ、勢力均衡がソ連崩壊まで成立していたが、この幻想は歴史の容赦ない歩みによって打ち消され、訪れた第2の「危機の20年」では、いくつかの地域や国家が長引く混乱の地殻変動的な衝撃波に飲み込まれ、現状維持派大国と修正主義的大国との間の戦略的対立という病巣が再活性化していると指摘している。そしてAlonso-Trabancoは、世界は多極化する環境の中で繰り広げられる新冷戦を目の当たりにしているが、その結末は依然として不透明であり、かつ、現在の戦略的対立が不安定なのは、行為者が複数いるからだけでなく、通常戦、核の脅威、非軍事的な権力行使が織り交ざっているからであると述べた上で、長期化する対立関係を管理する保証として冷静な外交取引がなされない限り、遅かれ早かれ臨界点に達するだろうとし、最後に「時間がない」と警鐘を鳴らしている。
(3) The Geopolitics of World War III
https://www.realcleardefense.com/articles/2024/01/27/the_geopolitics_of_world_war_iii_1007840.html
Real Clear Defense, January 27, 2024
By Michael Hochberg. PhD, a visiting scholar at the Centre for Geopolitics at Cambridge University
Leonard Hochberg. PhD, a Senior Fellow at the Foreign Policy Research Institute
2024年2月27日、英The Centre for Geopolitics at Cambridge University の客員研究員Michael Hochbergと米シンクタンクForeign Policy Research Institute の上席研究員Leonard Hochbergは、米国防関係ウエブサイトReal Clear Defenseに" The Geopolitics of World War III "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、2024年1月2日、イスラエルのIsrael Katz外相が「我々は、すでにヨーロッパに触手を伸ばしているイラン率いるイスラム過激派との第3次世界大戦の真っ只中にいる」と宣言し、イスラエルがハマスやその他のイランの代理勢力との戦争に従事することで、「すべての人々」を守っているのだと主張したと指摘した上で、Israel Katz外相の弁舌は、米国やヨーロッパの多くの人々には大げさに見えるかもしれないが、これを頭ごなしに否定すべきではないとし、2023年のロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルのガザでの軍事作戦はより広範な武力衝突を予兆しているのか、あるいは、どちらか一方が大量虐殺や民族浄化に手を染めなければ解決できないような、局地な紛争に過ぎないのだろうかとの問いを提示している。そして両名は、地政学的な分析などを披露し、悲観的な見解を示した上で、中国が台湾に対して武力行使に出るかどうかにかかわらず、米国と同盟国は今、そのような戦争への準備を最優先で急ぐ必要があるが、世界規模の多面的な戦争に備えることが戦争を回避する唯一の方法であると述べ、今こそ、米国人は再び地政学を戦略立案に活用すべきだと主張している。
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