海洋安全保障情報旬報 2019年3月21日-3月31日

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3月21日「アジアにおける潜水艦の軍拡競争が潜水艦の行動規範制定を求める-香港紙報道」(South China Morning Post, 21 Mar, 2019)

 3月21日付の香港英字紙South China Morning Post電子版は、“US and China’s underwater rivalry fuels calls for submarine code of conduct to cut risk of accidents”と題する記事を掲載し、アジアにおいて潜水艦部隊の拡張競争が水中での衝突事故を増大させかねないため、「海中で不慮の遭遇をした場合の行動基準(UCEUS)」の策定が必要として要旨以下のように報じている。
(1)様々な国がインド太平洋へ展開する潜水艦の増大は、輻輳する水路での事故の危険を減少する水中行動規範制定の求めを加速している。アジア太平洋諸国は潜水艦軍事拡張競争の最中にあり、228隻の潜水艦(小型潜水艦を除く)が東シナ海、南シナ海で行動中であり、10年以内に300隻に達すると考えられている。他の艦艇と異なり、潜水艦は探知が困難であり、衝突や事故の可能性が増大する。しかし、地域で共通して受け入れられている潜水艦の行動を規制する規範は存在しない。
(2)3月15日、元アジア太平洋安全保障問題担当国防次官補David Shearは香港でのアジア・ソサエティのフォーラムで、地域の有力国、弱小国がその潜水艦部隊を増強しているため、
特に西太平洋地域、中でも第1島嶼線の内側は潜水艦で溢れているとShearは言う。ミリタリー・バランスによればインド太平洋地域には228隻の潜水艦と52隻の小型潜水艇がある。
(3)現在は、洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(以下、CEUSと言う)に相当するような水中での遭遇を規制する規則は存在しない。2018年9月の南沙諸島での米中艦艇の異常接近事案は両海軍間の衝突事故の危険性を強調している。「我々は太平洋における米、中、その他の国々の海軍間の緊張を減少させる必要がある。我々はこれら海軍の潜水艦間の事故を防止する方策が必要である。そのための方策がある」とShearは言う。
(4)2015年以来、シンガポールは現行のCEUSを海中で不慮の遭遇をした場合の行動基準(UCEUSと言う)を含めるよう各国に働きかけている。UCUESの最初の案は2016年に公式に紹介された。このとき、当時のシンガポール海軍参謀長Timothy Lo少将は「過去10年ほどにわたり、我々は潜水艦とそれを運用する海軍の拡散を見てきた。海中の状況は混み合ってきており、意図せざる衝突の危険がより高くなっている」と警告した。「案には衝突を回避するための拘束力のない安全手順が示されている。これには現行マニュアル、受け入れられている実践から導かれた基礎的運動要領が含まれている」と米シンクタンクCSISのアジア安全保障専門家Bonnie Glaserは言う。「潜水艦の作戦は秘匿されるという特質から、UCEUSを現実のものとするという目標は野心的なものとなるだろう」とGlaserと言う。
(5)専門家は、潜水艦を運用する主要国が誤算を回避するためのUCEUS制定を推進するよう先導すべきであると言う。「潜水艦の安全な運用を促進するいかなる地域的構想もすべての関係国が関与する必要がある」とNanyang Technological Universityの海洋安全保障研究員Collin Koh Swee Leanは言う。大規模で増強されつつある潜水艦部隊を有する中国、ロシア、米国を含む「主要国」の参加がなければ「ほとんど意味がない」とCollin Kohは言う。また、元人民解放軍第2砲兵工程学院教官で香港を拠点とする軍事アナリスト宋忠平も、潜水艦の衝突の危険の増大を警告する。「艦船が水上において相互に視認し合うのは比較的容易であるが、潜水艦はその隠密性に故に相互に認識し合うことがない蓋然性がより高い」と宋忠平は言う。彼は、米国が大規模な原子力潜水艦部隊を保有しているのであるから、海中での規則の制定を牽引すべきであるとし、中国はこの構想を支援することにおいて楽観的で、かつ積極的であると言う。
記事参照:US and China’s underwater rivalry fuels calls for submarine code of conduct to cut risk of accidents

3月21日「スールー・セレベス海域における海洋安全保障の忘れられた鍵-米専門家論説」(The Diplomat, March 21, 2019)

 3月21日付のデジタル誌The Diplomatは米安全保障シンクタンクOEF Research主任研究員のJay Bensonによる“The Forgotten Key to Maritime Security in the Sulu-Celebes Seas”と題する論説を掲載し、ここでBensonは潜在的紛争海域であるスールー・セレベス海におけるフィリピン、インドネシア、マレーシアの三ヵ国による海洋安全保障協力が目指すべき方向性について要旨以下のように論じている。
 (1)スールー・セレベス海における不安定要因への対応は継続的な挑戦である。この海域は近年、ラハダトウ事件(抄訳者注:2013年、マレーシア・サバ州で発生したフィリピン人のグループによる襲撃事件)やアブ・サヤフなどの過激派集団による誘拐事件、違法な野生生物取引などに利用されて来た。フィリピン、インドネシア、マレーシア政府は、海上法執行能力向上とプレゼンス強化、国際協調の強化によりこれらの事案に対応して来た。もちろん、これらの努力は維持される必要があるが、報執行能力向上のみに傾注することは、経済上の排他性や沿岸地域社会における不平等といった他の重要な海洋問題を無視することになる。
 (2)スールー・セレベス海沿岸のコミュニティは、一般に他の経済拠点よりも発展レベルが低い。世界的な海洋安全保障研究機関であるStable Seasの最近発表された報告書によれば、沿岸の貧困が経済的排他性の感情を育み、法の支配を弱め、不法行為への欲求を増大させるとされている。例えば、マレーシアのサバ州では、何十万人ものフィリピン人移民、難民が非公然、あるいは低賃金の労働に従事させられており、教育、衛生、医療など社会サービスへのアクセスも不十分である場合が多い。また、インドネシア・カリマンタン州のボルネオでは石炭生産など著しい経済発展が見られた一方、北カリマンタン地域では公共サービスの提供レベルが大幅に低くなっており、 こうした社会的権益の剥奪は先住民コミュニティで特に顕著である。
 (3)セレベス海南端のスラウェシや北マルク州では経済格差が拡大しており、相対的な社会サービス剥奪はコミュニティのアイデンティティと経済的排他性が結びつくことにより、社会経済的な集団を違法な海上活動や政治的暴力へ駆り立てる可能性がある。特に新たな経済的利益が多様な民族、宗教、言語コミュニティ間で平等に共有されていない場合、このリスクは深刻である。フィリピンでもミンダナオ島の住民は一般に社会サービスや公共財へのアクセスが不足しているという問題を抱えており、例えば、モスリムミンダナオ自治区の一人当たりGRDPはマニラの約15分の1という統計もある。こうした社会サービスへのアクセス欠如は著しい経済的排他性をもたらして公共機関の信頼を損ない、そうした不信感が武装勢力の増加につながる可能性もある。更にこのことは法執行機関や海上における統治能力の弱さとも相まって、しばしば海上における不安定要因となり得る。
 (4)こうした地域の不安定要因に対応するためフィリピン、インドネシア、マレーシア政府は海洋安全保障上の脅威に対応する能力を強化しようとしている。例えば、協同巡視活動に係る調整や情報共有枠組みを提供する三国間協力協定のようなメカニズムである。海上法執行は安全保障上の脅威を軽減するため不可欠であるが、ささやかな海上法執行のための調達であっても非常に費用がかかる場合があり、これらのコストは包括的な海洋安全保障戦略を維持するために他の優先事項とのバランスをとる必要がある。
 (5)スールー・セレベス海における海洋安全保障強化のために、海上法執行機関の能力強化を図ることは極めて重要である。海上法執行機関は特定の非伝統的な安全保障上の脅威に対処する使命を有し、また、そのための訓練も受けている。更に言えば、彼らの船舶は海軍艦艇よりもかなり安価である。スールー・セレベス海域における地域社会への取り組み強化は海事に係る意識を向上させ、通常の海上法執行活動のパターンを確立することで、新たな脅威を発見するためにも不可欠である。従来の法執行活動を超えて、取り残された沿岸コミュニティの経済的利益が確実に保護されるようにするにはより多くの努力が必要である。この分野では一定の進歩も見られたが、更にやるべきことは多い。 地理的に孤立した沿岸地域社会への公共財や社会サービスの公平な提供は排除的感情を減じ、過激派のリスクを減らすであろう。さらに漁業や観光業のようなブルーエコノミーに基づく持続可能な開発投資が増加すれば、違法な海上活動に転向する危険性がある人々のための生計手段も確保されることとなるだろう。
記事参照:The Forgotten Key to Maritime Security in the Sulu-Celebes Seas
関連記事:海洋安全保障情報旬報2018年4月10日-4月20日、4月19日「マレーシアはスールー海の三ヶ国合同パトロールの拡大を主張」(The Diplomat, April 19, 2018)

3月23日「何故、中国は汚染との戦いに勝てないのか?-オーストリア研究者論説」(The Diplomat, March 23, 2019)

 3月23日付のウエブ誌The Diplomatは、ウイーンを拠点にする研究者でNGOのプログラム員であるGrace Guoによる“Why China Still Isn't Winning its War on Pollution”と題する論説を掲載、ここで Guoは中国の汚染対策はまだ実効性を確保するに至っていないとして、要旨以下のとおり述べている。
(1) 中国の政治家は今年1月から2月までの間にPM2.5の値が5.2倍増加したことを座視できないはずである。中国は2020年までに汚染のない社会を目指している。この目標は、第13回中国人民政治協商会議と全国人民代表会議でも再確認されており、李干杰生態・環境部部長は「質の高い経済成長は環境破壊と共存することはできない」と強調した。中国当局は大気汚染の改善などで進展を目指してきており、生態・環境部の報告では2018年に338の市でPM2.5の値が9%以上減少したとされている。
(2) 中国政府による青空作戦への取組みの努力は認めるべきではあるが、道のりは遠く、成功と言うには時期尚早である。事実、発表には裏があって、改善しているのは特定の地域だけであり、それも短い期間だけのデータである。北京の生態・環境当局も、深刻な大気汚染が秋と冬に依然として発生していることを認めている。北部の地域では1月と2月に39の市町で汚染レベルが⒗%上昇した。産業活動と低気温によるものであった。
(3) 最悪であったのは炭鉱都市である山西省臨汾市で、PM2.5の値は174マイクログラムに達し2018年より23%も上昇した。中国最大の鉄鋼産業地である河北省の石家庄では144マイクログラムに上った。このことは、中国は未だ汚染対策が十分ではないことを物語っている。理由はシンプルであり、経済的要求に応じる過剰な生産である。当初、ことに北京-天津―河北のラインで過剰生産による汚染を減らすための減産政策が施されたが、米国との貿易紛争に直面した中国政府は生産向上を加速させることになった。経済成長と環境保護のバランスを取りながらも、中国は生産向上の政策を変換できそうにもない。実際のところ、2018年の中国のアルミの海外輸出高は前年比21%増で記録を更新した。
(4) 中国政府の現政策では、自ら定めた汚染減少レベルを達成するのは容易ではない。中国の大気状態の改善策は世界のモデルとなるとの国際的な評価を得るには程遠い。中国が長年にわたって汚染を生じさせたが、その対策が進んでいると認識する限り、現状では改善は難しく、汚染製造業者は生産を続けていくだろう。中国が「汚染なし」の世界を希望するのであれば、システマティックで徹底した方策をとる必要がある。中国の多くの都市は依然として世界最悪の汚染地域であり、中国政府が画期的方策を取らない限り、何も変わらないだろう。
記事参照:Why China Still Isn't Winning its War on Pollution

3月24日「イランを視野に、米、オマーンと戦略的港湾協定締結―英通信社報道」(Reuters.com. March 24, 2019)

 3月24日付の英通信社Reuters電子版は、“With an eye on Iran, U.S. clinches strategic port deal with Oman“と題する記事を掲載し、オマーンとの港湾使用協定は湾岸地域の危機に際し戦略的選択肢を広げるだけでなく、中国との影響力の争いでも優位に立てるとして要旨以下のように報じている。
 (1)3月24日、米国はオマーンと戦略的港湾協定を締結した。同協定は米軍が湾岸地域にアクセすることをより容易にし、イラン沖のチョークポイントであるホルムズ海峡を航過せずに艦艇を派遣できると米当局者は言う。協定は、サラーラ と同様ドゥクムの施設と港湾への米国のアクセスを管理するもので、相互安全保障目標の促進に対する両国のコミットメントを再確認するものであると在オマーン米大使館の声明は述べている。
(2)この協定は、中東における政治外交でスイスのように中立を維持すると同時にドゥクムの開発を望むオマーンの経済的プリズムを通してみられている。米国による制裁と外交的圧力にもかかわらず近年、改善が進むイランの拡大する核計画について米国の懸念がますます増幅してきたため、この協定は締結された。協定は広大な地域への道路網に接続する港湾へのアクセスを改善するもので、危機において米軍に大きな抗湛性を与えきわめて重要であると米当局者は匿名を条件に述べている。「我々は、ペルシャ湾に進入できるものとして行動してきた」とある米当局者は言い、「イランの兵器の量と質が懸念を高めている」と付け加えている。            
(3)テヘランは過去に、制裁によるイラン石油の輸出阻止を含む米国のいかなる敵対的な行動に対してもペルシャ湾口にあるホルムズ海峡を封鎖すると脅してきた。米当局者は、協定合意はどのような危機に際しても地域における米軍の選択肢の幅を広げるとしている。「港湾そのものが魅力的であり、繰り返すがホルムズ海峡の外側にあるという戦略的な位置が魅力的である」と当局者は述べ、また、オマーンとの交渉はObama政権下で始まったと付け加えた。
(4)オマーンにとってこの協定は、単なる漁村であったドゥクムを中東の工業、港湾の中心に転換する努力をさらに推し進めることになるだろう。協定は石油、天然ガス輸出から経済を多様化させるからである。協定はまた、影響力を巡る中国との世界的な争いにおいて米国に湾岸地域でのよりよい位置を与えることになるだろう。中国企業は、かつてドゥクム計画に107億ドルの投資を計画していた。これはオマーンへの大量の資本注入であり、軍事的ではなく、経済的取極と考えられていた。「オマーンにおける中国との関係は数年前に考えられたほどには大きくなっていないように思われる。ドゥクム工業団地には中国のために確保された場所があるが、私が言える範囲ではほとんど何もしていない」と米当局者は言う。、中国はこれまで、この地域で米軍施設へのアプローチが在り得るということを全く気にも留めてとめてこなかったのである。
記事参照:With an eye on Iran, U.S. clinches strategic port deal with Oman

3月25日「バングラデシュにおける気候難民がわれわれに突きつける諸問題―米フリーライター論説」(PRI, March 25, 2019)

 3月25日付の米ラジオ局Public Radio InternationalのウェブサイトPRIは、フリーランスのライターAdam Wernickの“A climate migration crisis is escalating in Bangladesh”と題する記事を掲載、そこでWernickは気候変動による自然災害がもたらした難民(気候難民)の問題について、その問題が最も顕著に現れているバングラデシュを例に、要旨以下のように述べている。
(1)現在、気候変動は世界全体で自然災害をもたらし、それによって人びとは故郷からの移住を強いられている。それはとりわけ、人口密度が高く、人口の約80%が氾濫の起きやすい地域に暮らすバングラデシュで顕著であるという。気候変動が加速したとき文明が直面するものは何か、バングラデシュはそれをわれわれに示してくれる「炭鉱のカナリア」のようなものだと述べるのは、ナショナル・ジオグラフィック誌のライターTim McDonnellである。
(2)自然災害それ自体が新しいものではないが、その頻度とそれがもたらす影響の規模は前例がない。気候変動に起因する自然災害によって故郷を追われたバングラデシュ人が、一日数千人規模で首都ダッカへ到達している。しかしダッカはそうした難民を受け入れることのできるキャパシティを有していない。この大規模な人口移動は都市の安全、健康、住環境などさまざまな問題に悪影響をもたらしている。また、ロヒンギャなど暴力から逃れてきた難民たちは、自然災害によって再び住むところを追われるという状況に追い込まれている。この意味でバングラデシュは二重の危機に直面しているとMcDonnellは指摘する。
(3)故郷からの強制的な移住は、人びとが再び故郷で暮らしていくことへの自信を奪ってきた。McDonnellはそうした状況に適応しようと努力する人々の姿も目にしてきた。しかし、世界銀行は、2050年までにバングラデシュだけで1300万人もの人びとが気候難民になると予測した。今われわれはこの問題に真剣に取り組まねばならない。すなわち、移住を余儀なくされた人びとの安全な移動方法の確保、移住先の都市問題、コミュニティの回復など、気候変動と自然災害が多岐にわたってもたらす諸問題の解決策について考える必要がある。
記事参照:A climate migration crisis is escalating in Bangladesh

3月25日「中国が警戒する米沿岸警備隊巡視船の台湾海峡通過-米軍事専門家解説」(The National Interest, March 25, 2019)

 3月25日付の米誌The National Interestは軍事アナリストDavid Axeの“China Won’t Like This: The U.S. Coast Guard Just Sailed Through the Taiwan Strait”と題する解説記事を掲載し、米沿岸警備隊の巡視船による台湾海峡航行は米国のこの地域へのコミットメントの新たな形であるとして要旨以下のように報じている。
(1)3月25日、米沿岸警備隊は最新の大型巡視船に台湾海峡を通過させ中国の抗議を受けたが、これは今後、西太平洋の紛争海域において沿岸警備隊がより重要な役割を果たすことを示唆している。The Japan Timesの報道によれば、米沿岸警備隊の巡視船Bertholfは米海軍駆逐艦Curtis Wilburとともに幅110マイルの同海峡を通過した。米海軍報道官Joe Keiley大尉は同紙に「両艦船は国際法に従い台湾海峡の定期的な通過を行ったもの」とし、「米艦船の台湾海峡航行は「自由で開かれたインド太平洋」へのコミットメントを示すものであり米国は国際法が許す限り飛行、航行を継続する。」と語ったとされる。また同紙は、この航行が「中国には台湾への暗黙の支持と解される可能性が高い」と指摘している。実際、中国外交部は年3月25日、「米軍艦船の台湾海峡通過を終始注意深く監視していた」として、米国に対し「一つの中国の原則と3つの共同コミュニケを遵守し、慎重かつ適切に台湾関連問題に対処し、中華人民共和国の関係と両国の平和と安定を損なうことのないよう」申し入れたとされている。
 (2)台湾海峡へのBertholfの展開は、中国の係争海域における主張の強化などに関連した同国海警の挑発的な配備に対抗するものでもある。米海軍大学教授のAndrew Ericksonは、中国海警を中国の「第二海軍」と評し、以下のように指摘している(抄訳者注:Ericksonの指摘の詳細については関連記事参照)。
中国の第2海上戦力である海警もまた世界最大規模であり、近隣諸国よりもはるかに多い 1,275隻もの船艇を擁している。この内、225隻が500トン以上の外洋行動が可能な大型船であり、残りの1050隻は沿岸域のみで活動する小型船であるが、2020年にはこれらの総計が1300隻を超えると予想されている。また、中国海警自身ないし日米沿岸警備隊の海外運用経験などを反映した質的な改善も図られており、新造巡視船にはヘリコプターや高速搭載艇、機関砲や放水銃などが装備されている。
 (3)Bertholfの展開は米沿岸警備隊が軍事的に重要な任務にも最新船艇を投入できることを証明している。沿岸警備隊は約80隻の大型巡視船と何百隻もの小型船艇を有しているが、Bertholfは最新型の大型主力巡視船であり全長418フィート、基準排水量4,600トンのサイズは海軍のフリゲート艦にも匹敵する。武装としては57ミリ砲、20ミリ機関砲と機関銃が装備されているほか、MH-65ヘリコプターと少なくとも1機のScan Eagleドローンも搭載されている。沿岸警備隊は今後、Bertholfの同型船を6隻整備予定であるが、残り5隻も既に公試中ないしは建造中である。
(4)米シンクタンクRAND研究所のアナリストLyle MorrisはThe Japan Timesに、Bertholfの台湾海峡通過は「大胆な動き」であると述べている。Morrisによれば、これは第一に「米海軍と米沿岸警備隊の新しい相互運用性」を示すものであり、「敏感な安全保障問題の対応に巡視船を使用することは、相対的には台湾海峡の緊張を高めることにならない」と指摘する。そして第二には、中国に対して米国が「自由で開かれたインド太平洋」推進のために相応の資源を投入していることを示すもう1つの方法であるとも指摘している。
 (5)米沿岸警備隊長官のKarl Schultz大将はUSNIニュースに対し、北朝鮮への禁輸執行任務を遂行したBertholfの乗員を称えつつ、その展開は「重要な国家的、国際的な任務である」と強調した。そしてBertholfが西太平洋海域を離れる際には別の大型巡視船が代替として派遣されるだろうとも述べた。このような展開の継続は、中国周辺海域における任務に対する沿岸警備隊の長期的なコミットメントを示すものとも考えられる。Schultzは「彼らは海軍の指揮官により最も効果的に運用されるだろう」として、「我々は2019年の当分の間、当該指揮官に対する支援を約束している」と述べた(抄訳者注:報道によればBertholfは米海軍第7艦隊司令官の統制下で運用されていたとされる)。
記事参照:China Won’t Like This: The U.S. Coast Guard Just Sailed Through the Taiwan Strait
関連記事:海洋安全保障情報旬報2019年1月21日-1月31日、1月28日「艦船隻数のゲーム:中国の三本柱の海上戦力に関する理解と対応-米専門家論説」(Indo-Pacific Defense Forum.com, January 28, 2019)

3月26日「インド洋沿海部で『第1対応者』の役割を果たすインドーオンライン誌The Diplomat編集委員論説」(The Diplomat, March 26, 2019)

 326日付オンライン誌The Diplomatは、同誌編集員Ankit Pandaの“ India Underscores Indian Ocean First Responder Role After Mozambique Tropical Cyclone”と題する論説を掲載し、Ankit Pandaはインドがサイクロンの被害に遭ったモザンビークへの人道支援/災害救援で「第1対応者」の役割を果たし、地域の責任ある大国としての地位を強調しているとして要旨以下のように述べている。
(1)ニューデリーにとって、危機への早期対応は現政権からそれ以前の政権にいたるまで優先されてきた。ごく最近では、印海軍はモザンビークの南アフリカ海岸で重要な人道支援/災害救援の役割を果たした。
(2)3月17日の週、印海軍はカテゴリー4(最大風速59m/secから69m/sec)のサイクロンに襲われたモザンビーク政府から救援要請を受け、艦艇3隻をベイラ市に派遣した。「この悲劇の時に、印政府は被害を受けた人々へ支援を提供する準備はできていた」と印外務省は声明で述べている。3月23日の第2の声明では、数日の内に印艦艇は192名以上の人々を救出したとしてインドの早期の支援の効果を強調している。声明は、印海軍が果たした役割を表すのに「第1対応者」という表現を用い、これが長年にわたるインド洋沿海域における戦略的役割であると強調している。
(3)ニューデリーは、世界秩序を支援する国家としてその役割を強調するのにインド洋における人道支援/災害救援の実績を長く使用してきた。印外務省はその白書で、自然災害、危機、非伝統的安全保障上の問題後の「第1対応者」に関し「地域的、国際的機を予防しあるいは軽減するために資源を提供することで、インドは国際秩序における責任ある行為者としてのコミットメントを示している」と述べている。10年以上にわたり、インドは大規模な危機事態における人道支援/災害救援任務でよりよい協調ができるよう、地域の、そして域外の海軍との相互運用性構築に焦点を当ててきた。それ以降、印海軍は、米国、日本、オーストラリア、シンガポール、そして他の国々の海軍と人道支援/災害救援の訓練を実施してきた。
(4)何よりもインド洋において人道支援/災害救援で強力な存在感を示すことは単に利他的と言うにはほど遠く、真の戦略的利益を生み出している。インド洋地域全域において長期展開を維持する能力を示すことは、印海軍の能力をアピールすることにもなる。さらに、「第1対応者」として行動することにより、インドは台頭する責任ある大国としての信用を支えるだけでなく、地域の他の海軍を副次的な役割を果たす地位に取り残した。
記事参照:India Underscores Indian Ocean First Responder Role After Mozambique Tropical Cyclone

3月26日「中国が南シナ海で対米抑止を強化―香港紙報道」(South China Morning Post, March 26, 2019)

 3月26日付の香港英字紙South China Morning Post電子版は、“‘Time for tougher deterrence from China’s as US steps up patrols in South China Sea”と題する記事を掲載し、中国の政府関係者たちは南シナ海での米海軍による今後の「航行の自由作戦」を警戒しているとして、要旨以下のように報じている。
(1)争いのある海域において、米国とその同盟国がより大きな挑戦を仕掛けるため、中国は南シナ海の「抑止施設」を強化するべきである、と中国の著名な専門家は述べた。「米国人たちは、彼らだけでは十分ではないと思っている。彼らはまた、英国、オーストラリア、日本のような同盟国を演習に参加させる、あるいは定期的な共同行動体制を構築することさえあるかもしれない」と中国南海研究院院長の呉士存は、South China Morning Postに語った。米海軍は、2015年10月以来、南シナ海で15回の「航行の自由作戦」を実施し、ワシントンが北京による過度の権利主張と呼んでいるものに異議を唱えるために、中国が管理する島付近で軍艦を航行させている。ワシントンは、その同盟諸国に同じことをするように求め、9月には英国軍艦が、中国によって管理された島の付近でパトロールを行った。中国は島や岩礁の中国人要員や施設を米軍から守るために抑止力を拡大する必要がある、と呉は述べた。
(2)3月に入りシンガポールでは、米インド太平洋軍司令官Philip Davidson大将が、この地域における中国の増大する軍事活動は「危険を引き起こすもの」(hazard)であり、米国は北京の影響に対抗するためにより多くのことを行うと述べた。米国務長官Mike Pompeoも、2月にマニラで、米国は南シナ海があらゆる種類の航行に開放された状態であり続けることを確保するために取り組むと述べた。
(3)しかし呉は、中国の取り組みは防御的であり、この地域における米軍の活動に対応したものであると述べた。中国の人工島の1つであるガベン礁付近で、米海軍ミサイル駆逐艦Decaturが中国のミサイル駆逐艦「蘭州」に挑まれ、衝突が辛うじて回避された9月に緊張が高まった。ボアオ・アジア・フォーラムでも、周波上級大佐は、南シナ海でより多くの「航行の自由作戦」が行われている一方で、中国海軍と米海軍の間の既存の緊急メカニズムが、不運な出来事を管理するためには不十分であることに懸念を表明した。国防部のCentre for Security Cooperation at the Office for International Military Cooperationの局長である周は、Code for Unplanned Encounters at Sea(洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準、CUES)は、本質的に「計画された」作戦行動によって引き起こされたアクシデントに取り組んでいなかったと述べた。「我々の能力が向上するにつれて、我々は挑発に対してより寛容ではなくなり、そこにリスクが存在する」と周は述べている。
記事参照:‘Time for tougher deterrence from China’s as US steps up patrols in South China Sea

3月26日「湾岸地域におけるプレゼンスを強める中国―UAE政治学者論説」(EAST ASIA FORUM, March 26, 2019)

 3月26日付の豪Crawford School of Public Policy at the Australian National UniversityのウエブサイトEAST ASIA FORUMは、アラブ首長国連邦(UAE)Zayed Universityの政治学助教Jonathan Fultonの“China’s growing presence in the Gulf”と題する論説を掲載し、ここでFultonは、近年の中国と湾岸諸国との経済関係が強まっていることについて、要旨以下のように述べている。
(1)今年2月、サウジアラビアのMohammad bin Salman皇太子が中国を訪問し、100億米ドルに及ぶ石油取引を含む35の了解覚書が交わされた。この出来事が象徴するように、近年中国と中東湾岸諸国との経済関係が深まっている。それは同時に、2018年に起きたサウジアラビア人記者Jamal Khashoggiの殺害事件に端を発する米・サウジ関係の悪化とも関連があると見られている。
(2)湾岸諸国にとって地域外の大国との関係強化は、その対外政策および安全保障政策の柱のひとつであった。その役割を湾岸戦争以降果たしてきたのが米国であった。米国の目的は湾岸地域における優越的な地位を維持すること、そして同地域の均衡を保つことであった。しかし近年、米国の中東へのコミットメントが疑問視されてきている中で、湾岸諸国にとって中国との関係強化は重要な意味を持つ。
(3)中国は、米国が湾岸地域の安全保障を担保しているなかで、湾岸諸国との経済的な関係強化を続けている。中国と湾岸協力協議会(GCC:サウジアラビア、バーレーン、カタール、オマーン、UAEで構成される)との貿易は2000年から2017年にかけて100億米ドルから1500億米ドル規模にまで拡大した。また中国は一帯一路政策のもとで湾岸諸国に対する投資を拡大しているし、カタールやUAEとは人民元のスワップ協定を締結することで、人民元による取引が拡大している。今後も中国とGCC間の貿易で人民元の利用が拡大すると予測されている。
(4)中国はその経済的な影響力の拡大に比べれば、軍事的プレゼンスの拡大には無関心のように思われており、したがって中国と湾岸諸国の関係強化は脆弱なものだと指摘される。しかし軍事的プレゼンスに関しても、ゆるやかではあるが着実に拡大させており、この動きに対してワシントンが警戒していることは間違いない。とはいえ中国は湾岸地域においてアメリカにとって代わる意志をそもそも持っておらず、同地域に関して言えば野心的な存在と見なされないように行動している。中国は今後もこの文脈において湾岸諸国との関係強化を模索するであろうし、湾岸諸国もまた中国との関係強化を求めていくであろう。
記事参照:China’s growing presence in the Gulf

3月27日「EUによる移民救難パトロールの中止―英日刊紙報道」(The Guardian, March 27, 2019)

 3月27日付の英日刊紙The Guardian電子版は、“EU to stop Mediterranean migrant rescue boat patrols”と題する報道記事を掲載し、EUが中央地中海域の移民のための救難船パトロールを取り止める予定であるとして、要旨以下のように報じている。
(1)イタリアのポピュリスト政府が作戦全体を拒否すると脅したため、EUは、中央地中海から何千人もの難民と移民を救助した海上パトロールを停止する予定である。2隻の船舶と5機の航空機とヘリコプターを有するソフィア作戦は、ボロボロの船でヨーロッパにたどり着こうとして1年間で3771人が亡くなったり行方不明になったりしたため、海上での人命の損失を防ぐべく2015年に始まった。
(2)中央地中海の海域での空からのパトロールは強化されるが、海上パトロールは今週の日曜日(3月31日)に終了する。この任務の将来は、EUの加盟国が海上で救助された人々を受け入れるべきであるという議論が複雑に絡み合っている。外交官たちは、海軍アセットによる海上パトロールを一時的に停止する一方、ソフィア作戦の任務を6ヶ月間延長する妥協案に同意した。「代替策は、作戦を中止することだった」と当局者は語った。
(3)イタリアは昨年6月に現政府が政権の座について以来、救難船が救助した人々の受け入れを拒否している。同国副首相であるMatteo Salviniは、イタリアの海域から救助艇を締め出すと宣言し、NGO船と被災した乗客はどこにも上陸できずに海上で立ち往生した。
(4)それに応じて、EU加盟諸国のグループは、その船が別の港に停泊したら、救助された移民を引き受ける有志連合を結成した。EUは、これらの一時しのぎの取り決めを半永久的な上陸計画に変えたいと考えているが、この計画は、誰が人々を受け入れ、亡命申請を処理する責任を負うべきかについての議論に関して揺らいでいる。
(5)EUの外交政策の代表の広報担当者であるFederica Mogheriniは、「ソフィア作戦は、人身売買業者のビジネスモデルを解体し、中央地中海における全体的な海上の安全と安定性を向上させるためのEUの取り組みの不可欠な部分である」「ソフィア作戦が海上作戦であることは事実であり、海軍アセットがなければ当該任務を効果的に実行することができないことは明らかだが、決定は加盟諸国によってなされた」と述べた。
(6)一方、ローマの検察は、1月にイタリア政府が47人の移民救助船からの上陸を阻止した後、不法監禁についての捜査を開始した。検察は捜査で誰の名前も挙げなかったが、今年これまでの同様の事件では、Salviniは不法監禁の罪で裁判にかけられるべきであると裁判所は判決を下した。先週の投票において、イタリアの上院議員たちは、Salviniの議員免責特権を守るために投票し、彼に対する訴訟を阻止した。
記事参照:EU to stop Mediterranean migrant rescue boat patrols

3月27日「中国は船上のコンテナから発射する長射程巡航ミサイルを製造している―米軍事研究者論説」(The Washington Free Beacon.com, March 27, 2019)

 3月27日付のウエブ紙The Washington Free Beacon は、同紙上級論説員であるBill Gertz の“China Building Long-Range Missile Launched From Ship Container”と題する記事を掲載し、ここでGertzは中国が船上のコンテナから発射する長射程巡航ミサイルを製造しているとして、その脅威について問題提起し、要旨以下のように述べている。
(1)中国は、商船に搭載したコンテナから発射するタイプの長射程巡航ミサイルを製造している。これにより中国の貨物船の大船団は潜在的には戦艦の艦隊となり、各港は未来のミサイル基地になる可能性がある。新しいミサイルは、飛行テスト中であり、米軍高官によるとYJ-18Cと呼ばれる高性能の対艦ミサイルを陸上攻撃用に改造したものである。このYJ-18Cは、ロシア製のコンテナに偽装したClub-K巡航ミサイルの中国版であり、イスラエルもLoraと呼ばれるコンテナ発射型のミサイルを製造していると米国防情報局と米海軍スポークスマンがコメントを発表した。
(2)このミサイルに関する情報公開は、Trump政権の中国との貿易交渉が終わりに近づいているときに、中国政府によって行われている不正な貿易に関する米国の関心を和らげる目的で行われた。
(3)この新しいミサイルは、中国が「一帯一路構想」という大計画に従事しているときに作られている。「一帯一路構想」は、中国の軍艦が世界中の商業港のネットワークにアクセスできるように考えられている。中国は、バハマやパナマやジャマイカなどのいくつかの戦略的な意義を持つ地点で港を建設している。アラビア海に近いパキスタンのグワダル港、アフリカの角のジブチ、紅海の南端にある戦略的な要地であるバブエルマンデルでも港を作っている。International Assessment and Strategy Centerの中国の軍事専門家であるRick Fisherは、「中国がロシアのミサイルをコピーしていると聞いても驚かない。そのミサイルの製造は、敵に対して非対称的な利益を追求する中国の傾向と合致する。」と言った。
(4)この武器システムは、中国が過去に他のシステムで行ったように、イランや北朝鮮に売ることもできる。Rick Fisherは「2016年のミリタリーショーに出たClub-Kミサイルと同様に、中国は船のコンテナに搭載した精密誘導多弾頭発射ロケットを売ることもできる。コンテナ型ミサイルは、中露やその仲間である『ならず者国家』に米国とその同盟国を直接的または間接的に攻撃する新しい選択肢を与える。コンテナ型ミサイルは、港やハイウエイを経由して密輸され、米国の射程内の温度調節されたビルの中で何年も保管され、軍事作戦が必要なときに発射されるかもしれない。コンテナ型ミサイルは、軍事紛争以前に、米国沿岸を航行しているもしくは米国港湾に停泊している貨物船に装備することもできる。もしかすると、コンテナ型ミサイルを積載した中国貨物船は、シアトル港の近くで保管され、中国が米国の弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)のバンゴー海軍基地に、電磁パルス(EMP)弾を装備したミサイルを撃ち込む日を待っているということも在り得る。中国は本土から核ミサイルを発射することなしに、この電磁パルス(EMP)弾の爆発によって米原潜とその基地全体の電源を破壊するかもしれない。米政府は誰から攻撃されたかわからずに大混乱するであろう、その混乱に乗じて中国は真の目的である台湾の軍事征服を開始するだろう」とも述べた。
(5)前太平洋艦隊情報主任幕僚の退役海軍大佐Jim Fanellは「西海岸か東海岸の港に入港する多数の中国貨物船が、基地に停泊中の米海軍艦艇を十分に射程に入れていることになるので、コンテナ型ミサイルは米海軍にとって大きな脅威となるだろう。この能力が確定されたならば、米国の港湾に向かうすべての中国国籍の貨物船に対して全く新しい識別の体制が必要となるだろう」と言った。中国国有の海運会社Coscoは、ライバルのコンテナ船会社Orient Overseas International Ltd. を買収するため、取引の一部としてカリフォルニア州ロングビーチで船舶のターミナルを現在売っている。
(6)中国のミサイルに関して幅広く著述を発表している退役米海軍大佐のChris Carlsonは、YJ-18の射程が1000マイルにはならないことについて警告を発している。「中国は、すべての種類の推進力について問題を持っている。YJ-18は、音速以下の本体にロシアで設計されたターボファンエンジンをリバースエンジニアしたものを載せている」と言った。YJ-18は、音速以下で飛行し、それから船を攻撃する直前に超音速に加速する。YJ-18が、ずっと音速以下で飛行できるかは不明である。
(7)ある高官は、YJ-18を陸上攻撃用の巡航ミサイルと呼んだ。Chris Carlsonは、Clubミサイルに似せて作られたYJ-18は1つのコンテナに4機載せられると予想している。標準的な船のコンテナは、たて8フィート、横8.5フィート、長さ20または40フィートである。
(8)米陸軍大学の研究教授であるR. Evan Ellisは「中国のラテンアメリカとカリブ海沿岸での軍事活動は広範囲にわたっている。紛争の期間、中国の潜在的な商業港やそこに至る道路などに関するカリブ海沿岸諸国との軍同士の契約は、有効であることが証明されるであろう。これらのすべてが米国に近い地域での中国の影響力増大を示している。大西洋沿岸での最も重要な軍事基地でも同様である」とRadio Free Asiaで語った。
(9)米南方軍司令官の海軍大将 Craig Fallerは、中国は南米地域で影響力を拡大しているとの警告を発している。「将来、中国はグローバルな作戦態勢を強化するため、西半球での水深の深い港をコントロールするようになるだろう。特に関心を持たざるを得ないことは、中国がパナマ運河に関連する重要事項をコントロールしようとする努力である」と述べた。ジャマイカにおける中国の港は、パナマ運河を通過してくる中国のコンテナ船にとって輸送のハブとなる。習近平は、パナマで多方面に渡る協力協定を政府と結んだ。パナマ大統領Juan Carlos Varelは、中国の「一帯一路構想」への支援を表明した。パナマは2017年に台湾と断交し、中国との国交を樹立した。中国の会社は、中国コンテナ船のターミナルとなるパナマColonコンテナ港を建設中である。米国に行くまたは米国から帰る船舶の3分の2はパナマ運河を通過している。
(10)パキスタンでは、すでにグワダル港が建設され中国により運営されている。それは中国の石油タンカーにとって戦略的な位置にある。さらに中国は、イラクに近いパキスタンのジワニにも軍港を建設中である。パキスタンは、「一帯一路構想」の経済上の要路において重要な役割を果たしている。中国は、スリランカ、ギリシャ、セイシェル、オーストラリアでも軍民共同で使用できる港を作ろうとしている。
記事参照:China Building Long-Range Cruise Missile Launched From Ship Container

3月27日「北極海の『アイスフリー』、実現時期の予測時間幅を短縮し得る新たな知見―米専門家論説」(High North News.com, March 27, 2019)

 ノルウエー国立NORD大学High North Centerのウエブサイト、High North Newsは3月27日付で、米シンクタンクThe Arctic Institute創立者兼上席研究員Malte Humpertの “Scientists Look to Pacific Ocean to Narrow Down Timeline of Ice-Free Arctic”と題する論説を掲載し、ここでHumpertは北極海の「アイスフリー」の時期に係る予測の時間幅を短縮し得る新たな知見として、最近の研究論文に言及しつつ、要旨以下のように述べている。
(1)気候変動に関するこれまでの研究では、21世紀の半ば頃までには北極海の海氷面が夏期の間、ほぼ完全に融解するであろうと予測することでは、ほぼ見解が一致している。しかしながら、では最初に9月(夏期)の北極海が「アイスフリー」(海氷面積が100万平方キロ以下の状況と定義される)になるのは何時かについては、ほとんどの予測が2030年~2050年までと、現在の気象モデルでは不確定要素が非常に大きい。
(2)ウエブ誌、Geophysical Research Lettersに公表された最新の研究(関連記事1参照)によれば、熱帯太平洋海域における気温の変化と、こうした気温の変化が北極海の海氷融解に如何なるインパクトを及ぼすかを見れば、上記予測幅の大きな不確定要素を狭められるという。英The University of ExeterのJames Screenと、米コロラド州立大Boulder校のClara Deserによる最新の研究は、北極海の海氷状況の予測幅を改善するために、太平洋における海水温の自然変化に着目している。海水温の変化は「太平洋十年規模振動」(Inter Decadal Pacific Oscillation: IPO)と呼ばれ、15年~30年期間で発生する。IPO期間中、太平洋の海氷面の温度は摂氏0.5度幅で変動する。太平洋は、5年程前に新たな温暖化段階に入った。2人の研究は、北極海が何時、最初の「アイスフリー」になるかを推測するに当たって、太平洋における温暖化傾向の始まりを考慮する。IPOによる海水温の変動が大気圏の風のパターンの変化をもたらし、それが、北極海にもたらす、またそこからもたらされる熱量に影響を及ぼす(関連記事2参照)。2人の研究は、より冷たい気温からより暖かい気温へのIPOにおける移行は、IPOを考慮に入れない気象モデルの予測と比較して、最も早い「アイスフリー」予測時期を平均7年程短縮できる、と結論付けている。
(4)気候変動の影響が一層注目されるようになってきたことから、科学者は、急速に変化しつつある複雑な気候システムを正確に理解し、同時に現在から何十年もの期間に何が期待されるかを正確に予測するというジレンマに直面している。このジレンマは海氷が融解し、商業航路が啓開されるという、劇的で前例の大きな変化が予想される北極海において、特に顕著である。科学者は、一方では問題の緊急性を世間に知らせなければならないが、他方では誇張した、あるいは誤った予測をしないよう注意しなければならない。過去10年間、一部の科学研究や科学者は、早ければ2016年にも北極海の「アイスフリー」が実現するという特異な、究極的には虚偽の予測をすることによって紙誌を賑わしてきた。従って、上記で紹介した2人の新たな研究は、北極海の海氷に対する気候変動による影響について一層正確な予報を実現するために、科学者にとって貴重な洞察と新たな出発点を提供するものとなろう。
記事参照:Scientists Look to Pacific Ocean to Narrow Down Timeline of Ice-Free Arctic
関連記事1:Pacific Ocean Variability Influences the Time of Emergence of a Seasonally Ice‐Free Arctic Ocean (Geophysical Research Letters, February 5, 2019)(当該記事は有料)
関連記事2:Heat Transport Pathways into the Arctic and their Connections to Surface Air Temperatures

3月29日「米海軍と米海兵隊は新しい島嶼戦のコンセプトを演習でテストした。―米軍事研究者論説」(The Diplomat, March 29, 2019)

 3月29日付のウエブ誌The Diplomat.comは、東アジアの安全保障と海事に関する米研究者Steven Stashwickの“US Navy and Marine Exercise Tests New Island Warfare Concepts”と題する論説を掲載し、ここでStashwickは米海軍と米海兵隊は新しい島嶼戦のコンセプトを演習でテストしたとして、その概要について要旨以下のように述べている。
(1)米海軍第3艦隊及び米海兵隊第1遠征軍の数万人の兵士が、最近南カルフォルニアで、南シナ海や東シナ海のような小さな島嶼を含む沿岸海域での戦いについて新しいコンセプトを検証する2週間にわたる演習を終えた。
(2) パシフィックブリッツ(Pacific Blitz)は、大規模な両用戦と補給を組み合わせた初めての演習である。そこでは、2017年に米海軍と米海兵隊が発表した、より現実的な「紛争環境における沿海域作戦(the Littoral Operations in Contested Environments)」と「遠征軍の前方基地作戦(the Expeditionary Advance Base Operations)」の演習が行われた。伝統的な両用戦の焦点は上陸地点である。海兵隊が上陸したならば海軍は陸上への支援攻撃にまわる。しかし、敵が能力の高い海軍力や長射程の対艦ミサイルを持つに至った今日では、海上優勢と紛争海域での後方支援を維持するために、海軍は他の軍種からの支援に頼らざるを得なくなっている。今年の演習においては、海兵隊が上陸してからも主な作戦統制権が以前のように海兵隊に移管されることはなかった。海兵隊は、海軍の統制下にあって、対空作戦や対水上艦作戦のような分野で指揮を執っている海軍の指揮官の下で行動した。
(3)沿岸の一つの目標に集中することなく、海兵隊は現実の島と想定の島に多様な前進基地を構築した。これらの一時的な基地は、3日か4日以内に実施される予定のより大規模の作戦のために、事前に航空兵力、医療、後方の支援をするために使用される。これらの基地は、対艦ミサイルを使用する海兵隊を支援する。対艦ミサイルについては、米海兵隊司令官Robert Neller大将が「可能な限り早く」海兵隊に装備したいと言っている。このような両用戦における重要な変化が、両用戦の様相及び目的において現れている。本演習は、米海軍作戦部長John Richardson大将と米海兵隊司令官Robert Neller大将が一緒に視察した。
(4)本演習では、戦闘状態における駆逐艦に対する弾薬補給も実施された。米海軍の巡洋艦及び駆逐艦の垂直発射ミサイル(対空、対艦、陸上用、魚雷用)の補給を行った。通常これらの垂直発射ミサイルは、正規の海軍基地において補給されなければならない。南シナ海や東シナ海で、そのようにしようとすれば、艦艇は日本かグアムに帰投しなければならない。演習期間中、遠征軍再補給チームは、戦闘環境を想定して海軍武器基地沿岸特殊部隊(Naval Weapons Station Seal Beach)の機材を持って上陸用舟艇に乗船した。そして駆逐艦Michael MurphyにSM-2対空ミサイルの再補給を異状なく行った。米海兵隊はこれらのコンセプトを戦闘シナリオに当てはめて遠征軍前方基地を作った。そこで遠征軍再補給チームは、より早く戦闘に復帰させるため垂直発射装置を改良し、巡洋艦と駆逐艦にミサイルの再補給を実施した。
(5)同様のコンセプトは、航空機への支援と補給にも見られる。2019年3月、米海兵隊と米空軍は、別々の演習において日本の南西にある沖縄沿岸の伊江島に遠征軍前方基地を建設した。海兵隊の兵士たちは600マイル飛行して飛行場を制圧し、そこをF-35戦闘機の燃料と武器の再補給のための基地にして、さらにその基地を破壊した上、別の長距離攻撃のため離脱するという演習を行った。
(6)米海軍と米海兵隊は、「紛争環境における沿岸作戦」は、比較的激しくない戦闘環境を意図していたが、これからは中国のような敵に対抗するため極めて高い戦闘作戦にも適応していくと述べた。南シナ海と日本の南西諸島海域において、米海軍と米海兵隊は、米陸軍の長射程の火力支援を得て、これらの沿岸作戦のコンセプトを戦域のより大きな目標のため制海権と制空権を一時的に確立するために適用していくであろう。
記事参照:US Navy and Marine Exercise Tests New Island Warfare Concepts

【補遺】

(1) India May Hold the Keys to a Critical US Defense Base
https://ippreview.com/index.php/Blog/single/id/919.html
IPP Review.com, March 21, 2019
Mark E. Rosen, as a maritime and international lawyer, Senior Vice President and General Counsel of CNA Corporation, USA
 2019年3月21日、米非営利研究機関CNA Corporationの上級副社長であるMark E. Rosenは、シンガポールのPublic Policy Pte. LtdのウェブサイトIPP Reviewに“India May Hold the Keys to a Critical US Defense Base”と題する論説を寄稿した。その中で彼は、2月に国際司法裁判所が、英国がインド洋において保有し、米軍基地のあるディエゴ・ガルシア島を含むチャゴス諸島を適切に非植民地化しなかったとし、英国はチャゴス諸島の統治を「可能な限り迅速に」終了すべきとする勧告的意見を出したことについて論じている。Rosenは、英国と元々ディエゴ・ガルシア島を統治していたモーリシャスとの間で締結されたLandcaster Agreement、国連機関、米国の安全保障政策が複雑に絡み合っているため、この島をめぐる状況はこれまでとは異なると主張する。そこでこの問題において、インドが重要な役割を担う可能性が高い。インドは、米国との安全保障関係を近年著しく深化させている一方で、モーリシャスと重要で永続的な関係を続けているためである。インドが英国とモーリシャスの間で締結されたLandcaster Agreementに新しい息吹を吹き込む、又は英国から具体的な約束を要求する取極を仲介する立場にあるとRosenは述べている。

(2) Reading Between the Lines: The Next Spratly Legal Dispute
https://amti.csis.org/reading-between-lines-next-spratly-dispute/
Asia Maritime Transparency Initiative, March 21, 2019
 2019年3月21日、米Center for Strategic and International StudiesのAsia Maritime Transparency Initiative(AMTI)は、" Reading Between the Lines: The Next Spratly Legal Dispute"と題する論説を公表した。同論説では、2018年8月に英海軍強襲揚陸艦Albionが、中国が主権を主張する南シナ海のパラセル諸島(西沙諸島)付近を航行したことを契機として、あらためて中国の南シナ海における主権主張が国連海洋法条約に定められた諸規定に適合しないことを詳細に解説した上で、最後に、中国が同諸島に領海基線を宣言したことは地域の緊張を高めるし、海運会社や航空会社は中国が同海域を閉鎖する可能性に直面するだろうと指摘している。

(3) Strategic Strong Points and Chinese Naval Strategy
https://jamestown.org/program/strategic-strong-points-and-chinese-naval-strategy/
CHINA BRIEF, The Jamestown Foundation, March 22, 2019
By Conor Kennedy is an Instructor at the China Maritime Studies Institute of the US Naval War College
 2019年3月22日、米海大のthe China Maritime Studies Institute教官Conor Kennedyは、The Jamestown FoundationのCHINA BRIEF(web版)に" Strategic Strong Points and Chinese Naval Strategy"と題する論説を寄稿した。その中で同氏は、2017年8月に中国がジブチに同国初となる海外軍事拠点を開設したことを切り口に、北京がアジア地域以外への海外進出戦略をいかに考えているかを、strategic strong point(戦略的要地)という概念を切り口に分析を行い、同概念はインド洋や南シナ海だけにとどまるのではなく、南太平洋を含めた広範な地域への進出を企図したものであると指摘している。