海洋安全保障情報旬報 2019年3月1日-3月10日

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3月1日「空母ほどに戦力投射に適したものはない。ペンタゴンは別のことを考えているのか?―米ニュース誌記者論説」(Foreign Policy, March 1, 2019)

 3月1日付の米ニュース誌Foreign Policyのウェブサイトは、同誌国防総省特派員Lara Seligmanの“Nothing Projects Power Like an Aircraft Carrier. Does the Pentagon Think Otherwise?”と題する記事を掲載し、Seligmanは空母ほど戦力投射に適したものはないとして、米海軍の空母兵力削減の動きに疑念を提起し、要旨以下のように述べている。
(1)2018年、James Mattis国防長官(当時)は米海軍指導部と、米海軍力の根幹である空母の将来の予算削減について激しい議論を重ねていた。この議論は、空母の信奉者と中露の長距離ミサイルや高性能人工衛星の開発により空母の時代は終わったと考えているMattis国防長官らとの間で行われた。米海軍指導部は、米海軍にとって最大の造船会社でありかつ唯一の原子力空母建造所であるHuntington Ingalls Industries社から、Gerald R. Ford級空母2隻を240億ドル(約2兆4千億円)で調達する計画を強く主張した。数名の議員はTrump大統領の空母12隻、艦艇355隻を建造しようとする試みの一部を支持した。現在米海軍は空母11隻、艦艇285隻を保有している。「海軍はこの空母2隻を調達したがっているがMattis長官は絶対ダメだとしている」とある高官は述べた。
(2)最終的に米海軍は新たに空母2隻の調達を勝ち取ったものの、代償は大きく、旧型のNimitz級原子力空母の延命を断念することにした。2人の高官はその空母がHarry S. TrumanであるとForeign Policy誌に伝えた。また、専門家はこの措置は退役にも等しいと指摘する。もし空母Trumanが退役したならば、2020年代半ばにおいて世界で運用できる空母が11隻から10隻になってしまう。そうなれば議員たちは間違いなく激怒するだろう。計画によれば新しい空母2隻はそれぞれ、2027年まで、あるいは2030年まで運用可能とはならない。さらに言えば、これまでよくあったことであるが、空母が運用可能となる時期は遅れることが多い。
(3)50年間という艦命を全うさせるには、空母の原子炉の炉心交換を含む長い年月を要する大きな作業が必要となる。現在Hudson研究所に所属する退役海軍中佐Bryan McGrathは、もしTrumanの延命作業が数年以上延期されたならば艦の原子炉の核分裂物質はなくなってしまうと説明した。「これは実質的な退役だ」とMcGrathは指摘する。このニュースを艦名なしで最も早く報道したワシントンポストによれば、空母の延命を思いとどまったことにより40億ドル(約400億円)の節約になるという。また、その空母がHarry S. Trumanであると最初に報道じたのはBreaking Defenseである。しかし、「究極的に問題となるのは金額ではない」とその高官は言う。「本当に問題なのは、今から20年後の2040年代に空母がまだ価値があるかと言うことである。」シーパワーに関する下院軍事小委員会の民主党側議長であるJoe Courtney下院議員は、すでにこの空母購入計画に反対の意見を表明した。
(4)「ペンタゴンの動きは近視眼的で賢明ではない。戦術航空は戦闘部隊の中で間違いなく重要な部分であり、戦術航空機を離陸させるために陸上の大きな飛行場が使用できないという場合がたくさんある。高度な戦闘において戦術航空を重視するなら、空母にたどり着くだろう」とMcGrathは言う。
(5)今ではPatrick Shanahanが国防長官代行となっているが、彼もいわゆる空母懐疑派の人々の意見に依拠しつつその決定を進めている。「Shanahanはまだ新人で、ペンタゴン独特の用語で言えば、まだ『未熟な子供』であり、かなり臆病な立場にいる。ペンタゴンには空母支持派が居り、Patrick Shanahanは彼らの言うことも信じ始めている」とある議会筋は言う。
(6)空母Trumanをめぐるこの取引は、2014年の予算削減のために空母George Washingtonの炉心交換をする代わりに退役させようとした海軍の提案を思い起こさせる。議会予算局は、当時空母とその艦載機部隊を退役させることにより2016年から2021年にかけて70億ドル削減できると見積もった。空母George Washingtonの炉心交換の遅れは、Huntington Ingalls Industries社に巨大な影響を与えた。会社は1,200人を解雇した。議会は最終的にはGeorge Washingtonを退役させないよう予算を全面的に承認した。空母Trumanの時もそのようにするであろう。しかし、空母Truman退役の動きはすで大きな損害をもたらしており、国防総省はまだこのことで議会を追い詰めてはいない。「米海軍制服組には、空母延命中止に関してたくさんの傷ついた感情がある」と高官は述べ、こうも付け加えた「戦略環境が現在の空母に関する決定を左右する。それは逃れようもない」ペンタゴンの予算の詳細は、3月11日に予定されている議会で追加変更される予定である。
記事参照:Nothing Projects Power Like an Aircraft Carrier. Does the Pentagon Think Otherwise?

3月2日「チャゴス群島の主権に関する国際司法裁判所の勧告的意見―インドの視点からの分析」(National Maritime Foundation, India, March 2, 2019)

 印Christ University准教授Joshy M. Paulと同大修士課程学生Priyanjoli Ghoshは、印シンクタンクNational Maritime FoundationのWebサイトに3月2日付で、“Chagos Archipelago Verdict of International Court of Justice: An Indian Perspective”と題する論説を掲載、ここでPaulとGhoshは、インド洋のチャゴス群島の主権の所在に関する国際司法裁判所(ICJ)が2月25日に示した勧告的意見について、インドの視点から要旨以下のように述べている。
(1)国際司法裁判所(ICJ)は2月25日、インド洋のチャゴス群島の主権に関して、モーリシャスに有利な勧告的意見を示し、英国に対して同群島のモーリシャスへの引渡しを求めた。同群島の主権を巡って、英国とモーリシャスは長年にわたって争ってきた。IJCの勧告的意見は、2017年6月22日の国連総会決議、「1965年のモーリシャスからのチャゴス群島の分離に関する法的結論に関するIJCの勧告的意見の要請」(“Request for an advisory opinion of the International Court of Justice on the legal consequences of the separation of the Chagos Archipelago from Mauritius in 1965”)に基づくものであった。(IJCの勧告的意見に関しては備考参照)
(2)チャゴス群島は、インド洋のモルディブ群島の南方約500キロにあり、土地面積56.13平方キロで、7つの環礁と60の島嶼群からなる。チャゴス群島は16世紀初めにポルトガル人探検家によって発見され、18世紀にはフランス人が居住し始め、1810年にはモーリシャスの領域が英国によって占拠され、1814年のパリ講和条約に従って、フランスは英国に群島を引き渡した。チャゴス群島は1965年まで、英領モーリシャスの属領として統治された。英国は、1965年にチャゴス群島をモーリシャスの自治権を持つ州としての地位から分離して、英インド洋領(a British Indian Ocean Territory: BIOT)として、同群島に対する主権を保持した。同群島は1968年3月12日のモーリシャスの独立後も英領として残され、以前は1,500人も居た群島民は1973年までにモーリシャスとセーシェルに移住させられた。チャゴス住民は、土地への帰還を求めて長年法廷闘争を続けてきた。現在、チャゴス群島の居住民は、最大の島、ディエゴガルシアに居住する英国人と米軍人だけである。モーリシャスの歴代指導者は、1968年の独立以後、チャゴス群島は本来モーリシャスに属する領域であるとして、同群島に対する領有権を主張してきた。
(3)チャゴス群島を巡る、モーリシャスと英国との紛争の論点は、主として以下の3つである。
a.第1に、そして最も重要な論点は、モーリシャスと英国がいずれも同群島に対する主権を主張していることである。
b.第2の論点は、英国がチャゴス群島を英領とした時、先祖代々の土地から強制的に退去させられた、英国によるチャゴス島民に対する処遇の正当性である。退去は1973年までに完了した。1971年の BIOT 移住条例によって、軍の許可証を持たない無許可の群島内への立ち入りは犯罪となった。
c.第3の論点は、2014年4月に英議会によって承認された、海洋保護区(MPA)設定を巡る紛争である。MPAによる保護海域は(ディエゴガルシア島を除く)群島の200カイリEEZをカバーし、この保護海域では、漁業と鉱物資源の採掘や建設活動などのその他の海洋活動が禁止される。しかしながら、モーリシャスは、英国がMPAを設定できる沿岸国ではないと主張して、MPAの保護規制に異議を申し立てている。
(4)1960年代初め以降、英国は、軍事目的のためにインド洋における特定の島嶼の使用を求める米国の要請に基づいて、チャゴス群島の使用を認めた。米国、英国及び北アイルランドは1966年12月30日、「英インド洋領の防衛目的のための利用」に関する協定に調印した。1976年2月25日に調印された条約に従って、米海軍によって公式に海軍基地が開設され、米海軍は期間50年間でインド洋海域に恒久的な拠点を持つことになった。英国は2016年に、更に20年間の期間延長を認めた。実際、ディエゴガルシア島は、主権は英国にあるが、インド太平洋地域における米軍の戦力投入にとって不可欠の存在となっている。
(5)インドは、前述の2017年の国連総会決議に対して、他の94カ国とともに、モーリシャスを支持した。インド洋地域における中国海軍のプレゼンスが益々増大する中で、チャゴス群島問題の動向は、インドにとって地政学的に、そして安全保障上、重要な意味を持っている。インドにとってモーリシャスとの友好関係も重要であり、同時に米英との進化する関係も重要である。インドに関する限り、インド洋地域での大国間の如何なる抗争も、インドの戦略的利益に大きな影響を及ぼす。インドは伝統的に、インド洋地域での大国間抗争に反対してきた。しかしながら、インドと米国との間で強まる戦略的関係という文脈から見れば、インドは、米国の要請に反対することはできない。しかし同時に、そのことによって、モーリシャスとの友好関係を損ねる危険を冒すこともできない。この点で、インドは、モーリシャス、英国そして米国との間を結びつける役割を果たすことができる。それ故、インドは、道義的原則を奉じて行動するのではなく、政治的現実主義に即して行動する必要がある。
(6)IJCの勧告的意見は当事国に対する法的拘束力を持たないが、この勧告的意見を実現する方法は2つある。最初に指摘しておくべきは、米国は、その戦略的重要性の故に、ディエゴガルシア島を早期に手放すようなことはないであろうということである。従って、理想的な条件は、ディエゴガルシア島は米国の管轄下に置かれるが、チャゴス群島の他の島嶼はモーリシャスに引き渡すことができる、現実的な政治的環境を検討することである。歴史的事実を考慮すれば、モーリシャスはチャゴス群島の主権に対する正当な権利を有している。チャゴス人の先祖が1780年代初め以来この群島に居住してきた。同時に、チャゴス群島は海抜の低い土地であり、波浪の浸水に脆弱である。地球温暖化やサイクロンによる波浪の浸水などのその他の環境要因、そして貧弱な商業活動などの社会経済的要因によって、長期的に見て住民の再定住ができない可能性が高い。また、国際社会は、英国がチャゴス群島をその本来の所有者であるモーリシャスに返還することを期待している。国際社会は、植民地帝国がその植民地政策の残滓である最後のアフリカの植民地を手放すことを期待している。モーリシャスは、チャゴス群島の非植民地化はディエゴガルシア島の地位に関する何らかの妥協なしには達成されないであろう、との立場を明らかにしてきた。従って、国際社会の意向に沿って、チャゴス群島に対する主権主張を断念することは、英国にとって大きな地政学的利益となり得る。  
記事参照:Chagos Archipelago Verdict of International Court of Justice: An Indian Perspective
備考:LEGAL CONSEQUENCES OF THE SEPARATION OF THE CHAGOS ARCHIPELAGO FROM MAURITIUS IN 1965
http://www.icj-cij.org./files/case-related/169/169-20190225-01-00-EN.pdf

3月2日「ロシアによる北極海経由の輸出の増大と新たな砕氷船の建造―ノルウェーウエブ紙報道」(The Barents Observer, March 2, 2019)

 3月2日付のノルウェーのウエブ紙The Barents Observerは、“Moscow confirms go-ahead for giant nuclear icebreaker”と題する記事を掲載、ロシアが北極海航路に沿って1年中石油輸出を行うことを必要としていることが新しい砕氷船建造の主な推進力であるとして、要旨以下のように報じている。
(1)2018年、クレムリンは法令によって2024年までに北極海航路沿いの船舶輸送を年間8千万トンにするように命じたが、そのような膨大な量に達する最も簡単な方法は、石油、ガス及び他の鉱物の輸出を増やすことである。しかし、ロシアの現在及び次世代の原子力砕氷船の船団は、ヤマルから太平洋までの北極海航路東部のLNGタンカーによる冬の航海を確保するためには十分ではない。そのため、より多様でより強力な先導砕氷船(Leader icebreaker)が必要である。
(2)Yuri Brisov副首相によると、極東のボリショイ・カーメニにあるズベズダ造船所は、巨大な船を建造するために入渠施設とともにアップグレードされることになっている。同造船所が、ロシアの北極海運を支援するために、石油タンカー、ガス輸送船、掘削用プラットフォーム、補給船のような他のアイスクラスの船の建造を促進することが考えられると、タス通信は報じている。
(3)ロシアの北極地方の海運と物流の専門家であるMikhail Grigorievは、1月に北極海航路開発の主な推進力はヨーロッパとアジアの間の貨物輸送ではないと述べ、「鉱物資源の開発は、ロシアのための北極海航路開発の主要な動機である」と説明した。輸送航行は、LNGの船舶輸送の結果としてもたらされる可能性があると彼は述べた。「拡大された、又は1年中の航行の中で、北極海航路の区域でのカラ海からベーリング海へのLNGの輸送システムの創設は、キャラバンの一部としての輸送の支援船と沿岸航行船の定期的なシステム創設を可能にするだろう」とGrigoevhaは詳細に説明した。それまでは、「内航及び外航ともに不定期となり、貨物運送量が制限されるだろう」と彼は主張している。
(4)ロシアの北極海航路局のVyacheslav Ruksha局長は、追加で2隻のLK-60Ya、60メガワット級の原子力砕氷船を建造する予定であると述べた。LK-60Ya級は従来のLeader級より全長が32m短く、ほぼ半分のパワーである。この2隻の砕氷船は、現在サンクトペテルブルクのバルチック造船所で建造中の3隻と似ている。
(5)Rukah局長は、いかにして2024年までに北極海航路貨物が8千万トンに達するかについて詳しく述べた。「ヤマルLNGとアルクティク LNG 2は、それぞれ1950万トンに達するだろう。ノヴィ・ポルト地区とArctic Gateターミナルからの原油は、850万トンと推定されている。それから、ノリリスク・ニッケルは、ドゥディンカから150万トンの金属を輸送するだろう。シベリア北海岸沿いの遠隔地域への建築資材の地域間供給船舶輸送は500万トンに達し、アジアとヨーロッパの間の輸送のカリエス・カーゴ(carious cargo)は500万トンになるだろう。残りは、タイミルからの石炭、パヤハからの原油、バイムスカヤの鉱石地帯からの金属のような未開発の燃料プロジェクトであり、これらはすべてが、それぞれ100万トンと推定されている」とRukshaは述べている。彼の概観は、ヤマルとオビ湾からのLNGの輸出が、今後数年間で北極海運に単独で最大の後押しをもたらすことを明確に示している。
(6)LNG需要の最大の伸びは、日本、韓国及び中国のような国々から来るだろう。もし47mのビーム・ライダー型の砕氷船(編集注:先導役として運用される砕氷船の意と思われる)が前方で氷を破砕することが可能ならば、Yamalmax のLNG運搬船は、冬の間でもカラ海から東方により速く航海することができるだろう。2月、ノヴァテクの最高財務責任者Mark Gyetvayは、「我々の計画は、2023年から2025年にかけて、100 メガワット級の原子力砕氷船によって北極海航路を年12ヶ月開通させることである」と述べた。ノヴァテクは、サベッタ港からの船舶輸送とともにヤマルLNGを運営している。
記事参照:Moscow confirms go-ahead for giant nuclear icebreaker

3月2日「中国の無人ミニイージス艦を評す-米フリーライター論説」(The National Interest, March 2,2019)

 3月2日付の米隔月誌The National Interest電子版は、同誌のフリーライターMichael Peckの“What Makes China's "Mini Aegis-Class Destroyer" Special? No Sailors.”と題する論説を掲載し、ここでPeckは中国が開発したミニイージス艦はその名に値しないとして要旨以下のように述べている。
(1)ここに1つの謎がある。ある艦はミサイル、レーダーを搭載し、1万トンである。他方はミサイル、レーダーを搭載し、20トンである。両者に何か共通点はあるのか?中国によれば、両艦ともイージス艦である。中国のメディアは、同国が米海軍のArleigh Burke級駆逐艦のミニ版である20トンの無人ミニイージス艦を開発したと報じている。
(2)米Arleigh Burke級駆逐艦は、イージスシステム、強力なレーダー、90から96セルの垂直発射装置(以下、VLSと言う)を装備しており、VLSはトマホーク巡航ミサイル、対空、対潜水艦、対水上艦、弾道ミサイル迎撃ミサイルを発射可能である。同級は対地攻撃から弾道ミサイル防衛まで様々な任務を遂行することができる。
(3)中国の小型艇JARIは、中国船舶重工業集団公司が開発し、アブダビでの国際兵器見本市で明らかにされた。「JARIは全長15m、排水量20トンという小型ではあるが、フェーズドアレイ・レーダー、垂直発射方式のミサイル、魚雷を装備している。これら装備は通常、数千トンのフリゲートあるいは駆逐艦に装備されるもので、JARIのような小型艇で運用することはJARIを世界で最も統合化された海軍用ドローンとしている」と政府系メディアの環球時報は報じている。「JARIは、水上目標を目視距離で、航空目標は30Kmで、水中目標は7Kmで探知追尾可能であり、これら目標をミサイル、魚雷、火砲で攻撃できる。JARIは遠隔操作可能であるだけでなく、人工知能により自立航行でき、一度指令を受けると攻撃行動を遂行できる」と環球時報は言う。
(4)JARIがミニイージス艦であれば、スクーターに砲を搭載すればミニM-1エイブラムス戦車(米陸軍の主力戦車)になる。ロボット技術、小型化技術が長足の進歩を遂げているとしても、20トンと1万トンでは小さな差以上のものがある。例えば、20トンの艇では大電力を発電することは不可能だろう。このことは、JARI が米国のイージス艦並の強力なレーダーを幾分でも作動させうるのかという疑問を惹起する。筆者はシーハンター(米国防高等研究計画局が開発を進める自立型無人実験対潜艇)に乗艇したことがある。全長132m、排水量145トンの同艇に武器やセンサーを搭載する十分な余積があるようには見受けられなかった。JARIは、その兵装数、大きさ、支援するセンサーに制限があるようである。「小型艇の大編隊」は重大な脅威になってきている。大編隊の中で有人艇であれ、無人艇であれ大型艦艇を圧倒している。人工知能のアルゴリズムが問題を除くと仮定すると重武装の使い捨て無人攻撃艇としてJARIは効果的な兵器となる可能性がある。
(5)Arleigh Burke級駆逐艦を過重武装の戦闘艇と比較するとき、Arleigh Burke級駆逐艦を実戦で使えるものにしているのは、武器とセンサーと訓練された乗組員の行動に統合されたシステムであることを心に留めておくことは重要である。ミサイルとレーダーを小型艇に装備しただけでイージス艦になるわけではない。
記事参照:What Makes China's "Mini Aegis-Class Destroyer" Special? No Sailors.

3月2日「南沙諸島におけるマレーシアの権利と利益―マレーシア紙報道」(New Straits Times, 2 March, 2019)

 3月2日付 のマレーシア紙New Straits Timesは“Malaysia's right to stake claim to Spratlys”と題する記事を掲載、南シナ海におけるマレーシアの権利の主張の正当性について要旨以下のように報じている。
(1) マレーシアは南シナ海の領域内に海洋法上正当なあらゆる権利を主張できる。権利には南沙諸島における島嶼、洲、暗礁、浅瀬が含まれる。マレーシアの利益には、海洋生物、渡り鳥、石油・天然ガス等の海底資源、更には観光産業がある。マレーシアは南シナ海で最大となる50億バレルの原油と80兆立方フィートの天然ガスを保有している。Thanabalasingam退役マレーシア海軍少将は、マレーシア、ブルネイ、フィリピン、ベトナム、台湾と中国による南沙諸島紛争におけるマレーシアの主張は国連海洋法条約に完全に合致するものであるとし、中国の9段線はアジアの超大国による曖昧な境界であり、歴史的な背景のない違法なものであると述べている。彼はまた、1000年前まで遡っても9段線のような主張が存在したことはなく、仲裁裁定でも違法と結論付けられている、と述べている。
(2)ある防衛産業関係の有識者は、Mahathir首相は南シナ海での権利を主張するに当たっては中国との貿易・投資を考慮する必要はないと考えている、と分析している。Mahathir首相は南シナ海における中国の主張にはASEANのイニシアティブにより対抗している。Mahathir首相は、南沙諸島海域における航行の自由と海賊等の犯罪行為に対する海軍のパトロールを支持する姿勢である。ただ、Mahathir首相は紛争に火をつける可能性のある大型戦闘艦の展開には反対していると見る向きもある。Mahathir首相は2月21日に国防省を訪れ、大国からの脅威にさらされ武力紛争に巻き込まれる危険性のある自国の戦略的立ち位置について、「主権について妥協することなく外交を展開する必要がある。大国におもねることなく、大小各国と相互利益を得る」と述べている。
(3) マレーシア海洋研究所安全保障外交センターの退役大佐Martin A. Sebastian主任研究員はMahathir首相のイニッシアティブを支持している。マレーシアは、1980年代と1990年代に海軍施設を沖合に建設を始めた時にマレーシア北方海域の領海を確認しており、現在5つの施設を保有している。Sebastian主任研究員は「南沙諸島でベトナムの施設がマレーシアの排他的経済水域の中にあるが、マレーシアは平和的共存のため現状のままとしている」と述べている。
(4)マレーシアはスワロー礁(Swallow Reef)に主権を有し、エリカ礁(Erica Reef)、インベスティゲーター洲(Investigator Shoal)、マリベル礁(Mariveles Reef)、アルデシール礁(Ardasier Reef)、北ルコニア洲(North Luconia Shoal)、南ルコニア洲(South Luconia Shoal)の権利を護っている。コモドール礁(The Commodore Reef), アンボイナ岩礁(Amboyna Cay)、バルクエ・カナダ礁(Barque Canada Reef)とジェームス洲(James Shoal)はマレーシアの排他的経済水域の中にある。スワロー礁Harry S. ゾート地として埋めたて、ルコニア礁は海洋公園となっている。他の低潮高地はパトロールによって侵略から守られている。Sebastian 主任研究員は、漁業省の統計では南シナ海における違法操業によってマレーシアは年間に60億リンギットの損失を被っており、生物資源を守らなければならないと述べている。海洋非生物資源の重要性が強調され過ぎてきた。非生物資源は再生ができないうえ経費が掛かりすぎる。海洋生物資源は再生できる。海洋生物資源は、適切に対応できれば、自然を育てることができ、且つ海外から収益をあげることができる。Sebastian主任研究員は、関係機関に対し、自然環境を守るためにも南沙諸島周辺での違法操業に対処しなければならないと訴えている。
記事参照:Malaysia's right to stake claim to Spratlys

3月4日「インド太平洋と日米豪印4カ国枠組み(Quad)に係るアジア太平洋安全保障協力会議(CSCAP)の議論-豪ジャーナリスト論説」(The Strategist, March 4, 2019)

 3月4日付の豪シンクタンクAustralian Strategic Policy Institute(ASPI)のウエブサイトThe Strategistは同所研究員でジャーナリストのGraeme Dobellによる“Second track on Indo-Pacific and the Quad”と題する論説を掲載し、トラックⅡフォーラムであるアジア太平洋安全保障協力会議(CSCAP)の議論を引用しつつ、インド太平洋地域と日米豪印4カ国枠組み(Quad)の今後について要旨以下のように論じている。
(1)インド太平洋という地域概念と日米豪印4カ国枠組み(Quad)は幾つかの重要な特徴を共有している。いずれも地域における新たなパワーの構造を定義し、提示しようとする試みであるが、その重要な構成国が新たな枠組みの意義について、また当該枠組みに参加したいか否かについて確信が持てずにいるという点で、大きな議論を呼んでいる。そもそも議論の入口においてその相違点が衝突を生じ、進展を後退させている。すなわち、インド太平洋は元より地域の全ての関係国を含む包括的な概念であるが、Quadは4つの民主主義が集団化を目指しており中国による「巻き返し」といった状況を生じているのである。
 (2)インドのNarendra Modi首相の言によれば、インド太平洋地域は「自然なもの」であり、「自由で開かれた、包括的なもの」であり、「いかなる国にも敵対するものではない」のである。彼はまた「地理的な定義は出来ない」とも付言している。この「自由で開かれた」という表現に基づくインド太平洋概念を夢であるとすれば、Quadは悪夢のようなシナリオに直面している。この夢vs悪夢という対比は、インドがなぜQuadよりインド 太平洋という概念を好むのかという事情を説明するものでもある。
 (3)アジア太平洋安全保障協力会議(CSCAP)の2019年の地域安全保障概観においてRahul Mishraは、インドはインド太平洋概念により魅力を感じているが、時が経過すればQuadの重要性も増すであろうと指摘している。中国はインドの安全保障認識を形成する上で重要な役割を果たしているが、日米その他の地域の国々との関係もインドの安全保障の全体像に影響を与える重要な要素である。その意味では、インドの今後のQuadに対するコミットメントは、これら民主主義4カ国が安全保障面でどれだけ共同ができるかに左右されるであろう。これが実質的な力になるためには、4カ国がQuadへのコミットメントを深化し、そのメンバーシップを拡大しなければならないとMishraは指摘している。
 (4)CSCAPはトラックⅡの枠組みであるが、インド太平洋地域、Quad及び地域の安全保障アーキテクチャーについても様々な議論がなされている。昨年11月、パースで開催された運営委員会で、 また、12月にデリーで開催された豪印二国間会合と、これに引き続きEU、ASEANを加えて開催された円卓会議で、更に3月4日には2つの作業部会がASEAN地域フォーラム(ARF)の将来とルールに基づく秩序形成も念頭に議論を実施した。しかし、ASEAN諸国がQuadに関与する以前の問題として、良くないシナリオがこの地域のパワーシステムに影響をもたらすかもしれない。そもそもASEAN諸国はインド太平洋という概念を完全に受け入れているわけではない。Quadの今後について、CSCAP豪委員会共同議長であるAnthony MilnerもこうしたASEANの見解を反映し、「インド太平洋という戦略枠組みはオーストラリアにとっては意味があるが、この地域の他の国々にとっては、アジアを圧迫するために2つの海洋を結びつけようとするものに他ならない」と指摘している。しかし、問題はここで言うようにアジアが「選択の対象」となれば、それは米国を排除しようとする中国の「アジアはアジア人のもの」という言説を反映していることになりかねないが、そもそもインド太平洋もアジア太平洋も米国の役割を明示的に受け入れている概念なのである。
(5)ニューデリーにおけるCSCAPの協議に際し、MilnerはQuadの目的と展望に係るインドの認識の複雑な構造について報告している。Milnerは、インドはある面で4カ国枠組みのgung-ho(抄訳者注:熱心な支持者)であるが、他の国は中国との関係の強化により力点を置いているとして「オーストラリアはインドがQuadに真剣に取り組むものと想定するのは賢明ではない」と指摘している。実際、日本もまたQuadに係るよりもはるかに多くの努力を中国との関係強化に注いでいる。MilnerはKevin Rudd前首相と同じく、オーストラリアが日本とインドに席捲され、気まぐれな米国大統領に翻弄されて、Quadにおいて一人迷子になるかもしれないと懸念しているのである。Milnerは「オーストラリアは馬鹿げた立場」にあるのかもしれないとしつつ、「我々はQuadで唯一の物好きと見られている」かもしれないと述べている。
(6)一方、CSCAP豪委員会のもう一人の共同議長である元外交官Ric Smithオーストラリア国防総省書記は、Quadについて以下のように述べている。これまで4カ国の事務レベルの控え目な協議が3回実施されたが、いずれもブロック化といった話題とは全くかけ離れたものであり、そもそもこれは有志国間の協議であって何か実害を生ずるような性質のものではない。しかしながら、東南アジア諸国の一部の政府において、ここでは実際に議論さえされていないことを懸念しているというのも事実である。
(7) CSCAPの安全保障概観の編集者のRon Huiskenは、Quadはその存在自体が中国の態度を硬化させ、地域の安全保障構造を不安定化させる可能性もあることから、当初、控え目で遠回しな中国へのシグナルとして企図されていたものであるが、この種の微妙な地政学的調整は非常に困難を伴うものであり、現状ではこれが予想外に注目を集めているが、静かに概念化を進めるべきものであると指摘している。
記事参照:Second track on Indo-Pacific and the Quad

3月5日「パキスタン海軍が探知した印潜水艦の映像―ウエブ誌The Diplomat編集委員論説」(The Diplomat, March 05, 2019)

 3月5日付のウエブ誌The Diplomatは、同誌編集主任Franz-Stefan Gadyの“Pakistan’s Navy Spotted, Warned Indian Submarine in Arabian Sea”と題する論説を掲載し、ここでGadyは、パキスタン海軍は印海軍び潜水艦がパキスタン領海に侵入するのを「探知し、阻止した」と主張し、その映像を公開したとして要旨以下のように述べている。
(1)パキスタン海軍は、3月4日にアラビア海で未確認の印海軍潜水艦を発見し、警告したと主張している。3月5日の記者発表において、パキスタン海軍が、印潜水艦の「パキスタン海域への進入」を「検知し、阻止した」と述べた。この潜水艦は、パキスタンの海洋域で探知されたとされている。そして、パキスタン海軍が自制しなければ交戦した可能性があり、探知された潜水艦は「印海軍の最新の潜水艦」の1隻であると述べている。そして、パキスタンは、その主張を裏付けるためにビデオ映像を公開した。
(2)インドは、パキスタンの主張を認めなかった。印国防省は、3月5日の声明で、「印海軍は、国の海洋権益を守るために必要に応じて配備されたままである」「過去数日にわたって、我々は、パキスタンがプロパガンダと誤った情報の拡散にふけっていることを目の当たりにした」と述べた。インドのメディアは、3月5日に公開されたビデオは古いものだったと主張している。映像の少なくとも一部は再利用されているように見えるが、その一部は本物である可能性がある。
(3)興味深いことに、インドの国防アナリストたちが指摘したように、インドの潜水艦の存在を明らかにしたといわれている、公表された画像は、このビデオがカラチから約415km、グワダルから約158km という、パキスタン領海からかなり離れたところで撮影されたことを示唆している。パキスタンの偵察機が、このような比較的近い距離でインドの潜水艦に接近することができた方法もまた不明である。それは、依然としてインドの潜水艦がパキスタンの排他的経済水域(EEZ)に位置すると見なされるだろう。しかし、EEZでの軍事活動は禁止されていない。加盟国の大多数の解釈によれば、国連海洋法条約は、沿岸諸国に経済活動を規制する権利を与えているが、それは、12海里の領海を超えたEEZの一部において外国の軍事活動を規制する権利を国家に与えていない。特に、インドとパキスタンは、どちらも過去に彼らのEEZでの外国の軍事活動のために事前承諾を要求している。
記事参照:Pakistan’s Navy Spotted, Warned Indian Submarine in Arabian Sea

3月6日「イスラエル海軍がイランの石油輸出を阻止する可能性―米海洋産業専門誌報道」(The Maritime Executive, March 6, 2019)

 3月6日付の米海洋産業専門誌The Maritime Executiveのウェブサイトは、“Netanyahu: Israeli Navy Could “Block” Iranian Oil Shipping”と題する記事を掲載し、イスラエルのNetanyahu首相が、イランによる石油の海上輸送をイスラエル海軍が阻止する可能性に言及したことについて要旨以下のように報じている。
(1)3月6日に行われた海軍士官学校卒業式での演説の中で、イスラエル首相のBenjamin Netanyahuは、イスラエル海軍が、イランの石油積み出しを「阻止する」(blocking)ことに関与することが可能であると示唆した。「イランは、隠密裡の海上輸送によって制裁を回避しようとしている。私は、国際社会全体に、イランによる海上での、そしてもちろん(他の)手段による制裁を出し抜こうとする試みを阻止するよう求める」とNetanyahuは述べた。彼が2つの政治的課題である、刑事告発と再選を目指した選挙運動に直面しているため、Netanyahuがいつまでそのポストを続けているかはわからない。
(2)Netanyahuは、彼の計画の程度を明確にしなかったが、商船への干渉は国際法上の制約と衝突する。旗国の許可なしに、海軍艦艇の乗組員が、国際水域で外国の商船に乗り込んだ場合、その船舶が海賊行為又は奴隷制度に従事していない限り、国連海洋法条約違反となる。船舶は専門的には旗国の領土であるため、許可されていない公海上での乗り込みは侵略行為として解釈される可能性がある。有効な旗がない、又は複数の旗がある船である無国籍船は、乗り込み及び査察に対する公式な保護を受ける権利がない。政府はしばしばこの例外を利用し、小型船舶を用いて麻薬密輸業者や人身売買業者を阻止しており、それは商船の制御のために展開されている。
記事参照:Netanyahu: Israeli Navy Could “Block” Iranian Oil Shipping

3月6日「中国の水中核戦力に対抗する米国の秘密兵器-米専門家論説」(The National Interest, March 6, 2019)

 米誌The National Interestは3月6日付で米シンクタンクThe Lexington Institute 主任研究員Kris Osbornによる“Meet America’s Secret Weapon To Kill China’s ‘Underwater’Nuclear Weapons”と題する論説を掲載し、ここでOsbornは P-8/A Poseidon哨戒機をはじめとする米海軍の最新兵器は中国の核戦力に対抗する上で有益であるとして要旨以下のように述べている。
(1)米国本土の一部を攻撃可能とされるJL-2弾道ミサイルを搭載した中国の弾道ミサイル潜水艦(SSBN)による攻撃圏の拡大は、攻撃型潜水艦の増勢やP-8 / A Poseidonのような対潜能力を有する哨戒機の調達など、米海軍の努力を継続させている。太平洋における「距離の専制(抄訳者注:オーストラリアの歴史関連論文に由来する慣用句であり宗主国との地理的な距離が同国に与えた影響などについて論じるもの)」を克服し、中国潜水艦の活動を追跡すべく、米国は年間最大3隻のVirginia級原潜の調達などに取り組んでいる。更に空中においても、グアムに洋上哨戒用Triton無人機を配備し、19機のPoseidon哨戒機を追加調達するべくボーイング社と約24億ドルの契約を交わしている。Poseidonは数年前、南シナ海の中国人工島の状況をビデオ撮影したことで知られるが、その哨戒機としての広範な役割にかんみれば、高度なセンサー、ソノブイなどの武器体系の機能が中国の海洋進出に対する「封じ込め」の一環として、特に弾道ミサイル潜水艦(SSBN)部隊への抑止力として機能するであろうことは想像に難くない。
(2)近年、人民解放軍海軍は国際的なパワーとなるべく、太平洋を越えて展開範囲を拡大しつつある。報道によれば、中国のSSBNは既に西太平洋の海岸線から遠く離れて展開していると見られるが、JL-2及び新型JL-3ミサイルの存在が米国への圧力を高めている。国立航空宇宙情報センターによれば、中国は2017年の時点でSSBNに最大48基のJL-2発射筒を装備しており、4,500マイルを超える射程を有するJL-2搭載潜水艦が中国沿岸から遠く離れて展開すれば、米国本土を危険にさらす可能性も大いにある。
 (3)昨年、米太平洋艦隊諜報及び情報運用担当の前部長James Fanell大佐は、中国の核搭載潜水艦を追尾し抑止する必要性について議会に警告した。Fanellは中国のSLBM迎撃の困難性にかんがみれば、脅威に対処する賢明な手段は「中国のSSBNを先に破壊することだ」と主張している。Poseidon はISR対応攻撃型原潜と並び、このSSBNハンター任務の遂行に大いに役立つ存在である。Poseidon の速度は現在更新中の哨戒機P-3 Orionよりかなり高速であるのみならず、6本の増槽の装備でより広い海域を捜索し、より長い対空時間も確保している。海軍の開発担当者は、Poseidonは1200海里までの範囲で10時間の任務を遂行可能と説明しているが、高速化による捜索範囲の拡大は中国のSSBNに対するハンターキラーとしての役割に大いに適している。
 (4)ボーイング社の737-800型旅客機の軍用ヴァージョンであるPoseidon は魚雷やハープーンミサイルなどの武器ステーション、129本のソノブイステーションや空中給油装置を装備しており、より広範囲に潜水艦に対する様々な攻撃オプションを提供可能である。また、Poseidon は水上艦やヘリコプターは元より、他の航空機よりも遥かに高高度からソノブイオペレーションを実施可能であり、それは敵水上艦艇の砲火や小型ボートなどの攻撃の危険を低減した運用が可能ということでもある。更に言えば、無人偵察機その他のISR資産とは異なり、Poseidonは敵潜水艦を発見して追跡するのみならず、それらを攻撃して破壊することも可能である。この他、Poseidon はAN / APY-10監視レーダーと海面スキャンに最適化されたMXシリーズの光学/赤外線カメラ、また、様々な深度の潜水艦を探知可能なソノブイシステムを搭載しており、他の水上艦艇、水上無人機や無人航空機搭載の海上監視センサー及び潜水艦などから構成される広範な潜水艦監視網のノードとして機能することも出来る。また、Physics World2018年6月号記事によれば、Poseidon のソノブイシステムは、俗にFish Hook Undersea Defense Lineと呼ばれる中国沖からインドネシア沖までシームレスに展開されている水中監視網にも情報提供が出来るとされている。
 (5) Poseidonにより提供される最新の航空対潜戦システムは、中国のSSBNが探知されないままに航過することを防止する「海底防衛線」の強化にも大いに役立つと思われる。そしてPoseidonの高度な技術による空中からの敵SSBNの撃破は、ペンタゴンの従来の核抑止の態勢にも影響を与えるかもしれない。それはペンタゴンの核抑止戦略の三本柱における「攻撃が最大の防御」というアプローチとも一致する。すなわち、中国のSSBNを危険に晒しているということは、中国が潜水艦発射による核攻撃を企図することを、少なからず抑止しているということでもある。したがって、Poseidon は核抑止の三本柱における水中と空中間の一種の結合組織としても機能すると考えられるのである。B-2やB-52爆撃機のような現在の核抑止の航空アセットは元より潜水艦を直接追尾したり破壊することは出来ないが、Poseidonは中国のSSBNを追跡しようとする水上艦艇や米国の海底監視網にも重要な情報を提供しつつ、核抑止戦略の三本柱をさらに強化することが出来るのである。
記事参照:Meet America’s Secret Weapon To Kill China’s ‘Underwater’Nuclear Weapons

3月6日「北海航路利用の船舶に対する新たな規則を制定したロシア―英メディア報道」(Mail Online, March 6, 2019)

 3月6日付の英Daily Mail のニュースサイトMail Onlineは、“Moscow threatens to SINK foreign ships using Arctic sea route that links Atlantic to the Pacific unless it is given 45 days notice of voyages and vessels take a Russian pilot on board”と題する記事を掲載し、北海航路の利用についてロシアが新たに定めるとした規則について、要旨以下のとおり報じている。
(1)露Izvestia紙は、3月6日、北海航路を利用する外国船舶に対して課されることになる規制について報じた。それは、北海航路を利用することになる軍艦および貨物船は、その45日前にロシアに通知する必要がある、というものである。通知すべき内容は、船舶の名称、航行の目的や期間、本船のパラメーター(排水量や長さ、幅、喫水など)などで、海軍艦艇であれば艦長の階級や名前なども含まれる。さらにロシアのパイロットの乗船が義務付けられるとのことである。この規則に違反した船舶は拿捕ないし撃沈される可能性もあるという。
(2)世界的な温暖化のため、近年、北海航路の重要性が増大している。北海航路の利用によって大西洋と太平洋の間の移動の時間を大幅に削減することができるため、西側諸国は大きな関心を払ってきた。それに対してロシアは北極海の軍事的プレゼンスの拡大及びガスや石油開発を進めている。ロシアの新たな規則が出されたのは、こうした北極海および北海航路をめぐって東西の関係が緊張しているさなかのことである。
(3)東西間の緊張の高まりを示すひとつの出来事が、今年2月の、アメリカによるINF全廃条約からの離脱通告である。アメリカは、ロシアが条約に違反して巡航ミサイルの開発及び配備を行っているとして、ロシアを非難した。また昨年フランス海軍の船舶が事前通告なしに北海航路を通行したが、それに対しロシアは強い警戒感を示した。軍事専門家のVladislav Shuryginは、「NATOとアメリカは、われわれの国境のすぐそばにさらなる緊張の温床を構築しようと試みることができる。フランス海軍艦船の通行がそれを明らかにしたのである」と述べ、新たな規則制定が遅すぎるくらいだと主張した。この度の新たな規則の制定は、こうした東西間の緊張の高まりの文脈においてなされたものなのである。
記事参照:Moscow threatens to SINK foreign ships using Arctic sea route that links Atlantic to the Pacific unless it is given 45 days notice of voyages and vessels take a Russian pilot on board

3月7日「米国によるインド太平洋地域へのコミットメント維持―香港紙報道」(South China Morning Post, March 7, 2019)

 3月7日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Philip Davidson, the top of US officer in Asia, warns Beijin’s military activity in South China Sea is ‘not reducing in any sense of the word’”と題する記事を掲載し、米インド太平洋軍司令官Philip Davidsonによるインド太平洋地域の現状認識と、米国によるコミットメント維持について、要旨以下のように報じている。
(1)2018年4月にアメリカのインド太平洋軍司令官に就任したPhilip Davidsonは、3月7日木曜日にシンガポールで講演および記者会見を行い、インド太平洋地域における現状認識について論じ、アメリカが同地域に関与し続ける決意を表明した。
(2)Davidsonは、南シナ海における中国の軍事行動の拡大に対する警戒感を示した。彼によれば2018年の南シナ海における中国の軍事行動はそれまでよりも多く、それは明らかに通商や海底ケーブルによる情報のやりとりにとって「危険なもの」であるという認識が示された。中国の軍事費が増大の一途をたどっていることを彼は強調した。Davidsonのような高官による同地域へのコミットメントは、南シナ海において中国との論争を抱える東南アジアの同盟国にとってきわめて重要なものである。
(3)Davidsonは北朝鮮情勢についても言及し、北朝鮮に対する国連の制裁維持、さらに制裁破りの行動などを監視するための関係各国との協調について論じた。北朝鮮をめぐっては先日Donald Trump大統領と金正恩委員長がヴェトナムで会談したが、核をめぐる合意に達することができなかった。6日水曜日には、北朝鮮が長距離ロケット発射設備を修復しているという情報がもたらされている。また、4日月曜日には米韓共同軍事演習が開始され(これまで行われてきた演習Key Resolveよりも小規模なものである)、5日火曜、北朝鮮国営メディアがそれを非難しており、情勢は緊迫している。
(4)Davidsonは「自由で開かれたインド太平洋」の実現にとって重要な3つの要因を提示した。
 a.ASEAN10ヵ国の団結。2019年、アメリカはASEANと合同演習を行うことになるであろう。ASEANは2018年10月に、中国と初めての合同演習を実施していた。
 b.違法な漁業や海賊行為など海洋の諸問題に対処するための関係各国の情報共有。
 c.アメリカによる政府全体のアプローチの継続。たとえばアメリカはBUILD法(Better Utilization of Investments Leading to Development Act)を通して、インフラへの財政支援をグローバルな規模で展開した。
(5)Davidsonは、中国がルールに基づく国際秩序を遵守し、そこから利益を得るべきだと主張した。彼によれば、中国の狙いは「ルールに基づく国際秩序」から「中国の利益を追求するためだけのルールに基づく秩序」への転換であるが、それは「ゾッとするような」考え方である。
記事参照:Philip Davidson, the top of US officer in Asia, warns Beijin’s military activity in South China Sea is ‘not reducing in any sense of the word’

3月7日「北極海における漁業資源の保護、国際協定にEUが参加―ノルウェーメディア報道」(High North News, March 7, 2019)

 3月7日付のノルウェーのニュースサイトHigh North Newsは、"European Union Adopts Ban on Fishing in the Arctic"と題する記事を掲載し、欧州連合(EU)が北極海における無規制漁業の防止協定を批准したとして、要旨以下のように報じている。
(1)欧州連合(EU)は北極海の公海における無規制漁業を防止する協定を批准し、中央北極海を保護する9カ国の取り組みに参加する。2018年10月にグリーランドで北極海沿岸5カ国(カナダ、ノルウェー、デンマーク、ロシア及び米国)に加え、アイスランド、中国、日本、韓国そしてEUが署名した国際協定が成立した。同協定は全10加盟国の立法府が批准しだい発効する。
(2)協定の一環として、地中海と同規模の海域で商業漁業が少なくとも16年間禁止されるだろう。この協定では2,800万平方キロメートルの海域における漁業資源の実態とその持続的な漁獲の可否をモニターする学術調査が行われるまでは、5年ごとに自動延長する条項が含まれている。その後、関係国は交渉を行って漁業資源の責任ある使用を保証すべくメカニズムと割り当てに合意することになる。
(3)過去10年間でこれまでアクセス不可能だった北極海の海域において、厚く永続的な海氷が開いたことで法的保護が必要となった。1980年代と1990年代を比較すると、海氷は夏季に50パーセント程度減少した。北極圏では未だ大規模な商業漁業は行われていないものの、地域における気候の劇的な変化と人的活動の増大は生態系に対して継続的な負担をかけるだろう。最大の衝撃はMaerskやCOSCOのような国際的大企業がこの地域に船舶を送るなど急激に増加する船舶活動がもたらすだろう。ピュー研究所陸地・海洋プログラム(land and oceans programmes)のシニアディレクターSteve Ganeyは「世界のてっぺんに新たな海域が出現する中で国際的な貸し手は、科学者が地域海洋生態系の状態をモニターする基準値を定めるまで、北極圏の商業漁業を容認することは危険性が高く、賢明でないということで意見の一致を見ている。意思決定を導くために科学的手段を用いることで、この独特な環境の保全に向けた合意は成功するだろう」と述べた。
(4)漁業の禁止はこれまで北極圏8カ国が通したほかの法的拘束力を有する3つの協定に連なるものである。2011年の「北極海海難救助条約」に続き、2013年の「北極海における海洋油濁事故への準備及び対応に関する協力協定」が署名された。北極圏諸国は2017年に国際的な北極圏の科学分野における協力強化で合意した。今後予測される大きな節目は国際海事機関主導で交渉が行われた北極海全体で重油(HFO)の使用と輸送を非合法化する「重油の禁止」であろう。
記事参照:European Union Adopts Ban on Fishing in the Arctic

3月9日「韓国潜水艦は原子力潜水艦となっていくのか-米専門家論説」(The National Interest, March 9, 2019)

 3月9日付の米隔月誌The National Interest電子版は、米仏で教育、編集、難民再定住に関わっているSebastien Roblinの“Are South Korean Submarine About to Go Nuclear? ”と題する論説を掲載し、ここでRoblinは韓国のKSS-Ⅲ計画を分析し、原子力潜水艦建造の可能性もあるとして要旨以下のように述べている。
(1)対北朝鮮の外交姿勢を転換してきている文在寅大統領は、巨済島の造船所で行われたミサイル搭載大型潜水艦の進水式に出席し、「我々の平和への道程は、強力な軍事力と国防力によって達成されるまで終わることはない」と演説した。陸上目標に対して巡航ミサイル及び弾道ミサイルを発射し、北朝鮮のミサイル潜水艦を撃破するよう設計された新潜水艦は、9隻の建造が計画されているKSS-Ⅲ潜水艦の1番艦である。KSS-Ⅲ潜水艦の建造費は1隻あたり7億ドルから10億ドルである。
(2)1番艦は「島山安昌浩」と命名されているが、ぴったりである。このクラスの潜水艦に対する韓国の野心的な計画がワシントンとの伝統的同盟からソウルの独立性を高めるかもしれないからである。KSS-IIIは、韓国初の国内設計であり、1990年代に始まった攻撃型潜水艦計画の第3世代であるType 214 やシンガポールの Type 218級Invincibleと同様、KSS-IIIはAIPとして燃料電池を搭載している。AIP潜水艦は水中を5ノット程度の低速で持続的に行動できるのに十分な電力を発電することができる。緊急時には依然、20ノットを出すことは可能である。
(3)燃料電池は日本や中国の潜水艦が使用しているスターリング・エンジンより静粛で効率的である。さらに、KSS-IIIの要目は、報告によれば潜航持続力は20パーセント伸びている。韓国の潜在的な敵の近さを考えれば、KSS-IIIの潜航持続力50日、航続距離千海里は十分すぎる。KSS-IIIの容積は主として国産垂直発射システム(以下、VLSと言う)を装備するためである。他の潜水艦は魚雷発射管からミサイルを発射するが、KSS-IIIはVLSから波状発射し、敵を圧倒することができる
(4)現在、「島山安昌浩」のVLSは地表スキミング対地巡航ミサイル玄武3Cを搭載可能である。玄武3Cは930マイル以上にある目標を攻撃でき、これは北朝鮮のいかなる場所、そしてそれ以遠も攻撃できることを意味する。2016年、韓国軍当局者はKSS-IIIが潜水艦発射弾道ミサイル(以下、SLBMと言う)を発射する能力があると述べている。
(5)これは北朝鮮のSinpo級潜水艦開発に対応する必要性が認識され、急いだものと思われる。Sinpo級潜水艦は核弾頭装備のSLBM北極星1を発射可能である。KSS-IIIは、地上配備の玄武-2Bまたは玄武-Cミサイルの派生型を搭載するようである。未確認の報告によれば、韓国は水中発射システムの試験にすでに成功している。SLBMを追求する韓国の動機は明らかではない。
(6)核弾頭を装備した弾道ミサイルを搭載する潜水艦は、阻止できない核抑止力の標準であり、ソウルは密かに海上に核抑止力を配備する基礎を築こうとしているのかもしれない。韓国は広範に民間で原子力を利用しており、もし決定されれば、急速に核兵器を開発することができる。しかし、歴史的に米国からの圧力と説得がソウルの前進を阻んできた。核保有国の数を限定しておくことは、核のエスカレーションをコントロールすることがより容易であり、米国にとって望ましいことである。核能力を有する北朝鮮と長期にわたって共存しなければならない韓国は、最終的に北朝鮮の核に対抗する独自の能力を模索するかもしれない。韓国はまた、玄武-2ミサイルをマルチモード・シーカー搭載の対艦ミサイルに改良するかもしれない。
(7)KSS-IIIの3番艦が進水後、韓国はより大型で、性能を向上させたKSS-III第2世代の3隻を計画している。これらにはVLSは10基から12基が搭載される。KSS-III第2世代の鉛蓄電池はサムソンの軽量リチウムイオン電池に換装される。このリチウムイオン電池は充電が10倍速く、同じ量のエネルギーを蓄えるのに容積は1/4、重量は1/5であり、水中持続力は2倍である。リチウムイオン電池は過熱すると火災が発生する傾向があるため、価格が高いことに加え、実用化には時間が必要であった。潜水艦用リチウムイオン電池は(戦闘被害や事故によって)海水に晒されることやその他の悪条件に耐えうるよう強靱化され、試験されなければならない。
(8)長期潜航持続時間をもたらす持続可能なAIPと充電時間の短い電池との組み合わせは、単に潜航持続時間を増すだけでなく、より高い水中速力を持続することになるかもしれない。韓国は、2029年までに進水するKSS-III第3世代となる最後の3隻について追加の性能向上策を計画している。
(9)密かに検討が進められている今ひとつの道は、韓国の技術力のゴールである原子力推進である。しかし、必要な濃縮核燃料は朝鮮半島の非核化条約を侵犯する可能性をはらんでいる。報じられるところでは、韓国は合法的選択肢を検討しつつあり、ロシアの技術の派生型である出力65メガワットの軽水炉原子炉を検討してきた。原子炉は、ほとんど無制限の水中持続力を潜水艦に与える。しかし潜在的な敵が近いため、原子炉は韓国にあまり利益をもたらさないかもしれない。原子炉はまた、潜水艦が30ノットという高速を持続することを可能にし、これによって潜水艦が他の原子力潜水艦を出し抜き、回避し、不意を突くことができる。やがて、KSS-IIIとその搭載ミサイルに対する韓国の野心的な計画の範囲がより明らかになるだろう。今は、「島山安昌浩」が海上公試を実施中であり、2022年に運用が開始されるだろう。
記事参照:Are South Korean Submarine About to Go Nuclear?

【補遺】

(1) New Report: China is in the Arctic to stay
https://www.highnorthnews.com/en/new-report-china-arctic-stay
HIGH NORTH NEWS, Mar 05 2019
 2019年3月5日、北極域専門ウェブサイト、HIGH NORTH NEWS(HNN)は、" New Report: China is in the Arctic to stay "と題する論説記事を発表した。同論説は、複数の専門家がHNNの質問に答える形式で中国の北極域での活動を解説しているが、その中では、①中国はこれまで北極域で存在感を増してきたが、現在は、Huawei問題を巡ってカナダや北欧諸国との関係が悪化しており、中国も同域での活動に慎重になっている、②他方、一帯一路が順調とは言えない中で、中国にとって北極域の重要度は依然として高い、③中国は大国としてのパワーを獲得しつつあるが、8つの沿岸国が北極域に有する主権や影響力の大きさを認識しており、中国の北極政策は保守的であり多国間枠組みで物事を考えている、④中国は米国の政治的な撤退の隙間を埋め、規則を作る側に回ることを狙っており、北極域の環境問題などに強い関心を有している、⑤北極域の国々は、経済主体として大きな力を有すると同時に、影響力を及ぼしつつある新しい隣国となった中国をもっと理解する必要がある、などが主張されている。
(2) US, Russia and China in the Arctic: Seeking Cooperation despite Increasing Competition
https://ippreview.com/index.php/Blog/single/id/907.html
IPP Review.com, March 5, 2019
Nong Hong, Executive Director & Senior Fellow at the Institute for China America Studies, Washington D.C.
 2019年3月5日、中国南海研究院の在米機関、The Institute for China-America StudiesのNong Hong(洪農)所長は、IPP Review.comに" US, Russia and China in the Arctic: Seeking Cooperation despite Increasing Competition "と題する論説記事を寄稿した。その中でNong Hongは、歴代の米政権が北極に対する関心をあまり有していなかったのに対し、Trump政権は、北極におけるロシアと中国の影響力の増大に対抗するべく積極的な関与を図っているとの認識を示した上で、中国、米国、ロシアが北極で新冷戦構造を作っているとの指摘もあるが、中国とロシアは何も法外な要求をしているのではなく、また、この三カ国は世界中のあらゆる地域で対立と強調の関係にある、などと述べ、北極における中・米・露の大国間の対立という最近の論調に異を唱えている。