海洋安全保障情報旬報 2019年2月11日-2月20日

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2月11日「インド洋における中国のプレゼンスの行方――豪専門家論評」(The Interpreter, February 11, 2019)

 2月11日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウェブサイトThe Interpreterは、The National Security College at the Australian UniversityのDavid Brewster博士の“China may only seek a limited naval role in the Indian Ocean”と題する記事を掲載し、ここBrewsterは、インド洋における中国のプレゼンス拡大について、今後しばらくは限定的なものに留まるだろうとして要旨以下のとおり述べている。
(1) 近年中国はインド洋におけるプレゼンスを拡大している。中国は東アフリカのジブチに海軍基地を建設・稼働させている。さらに中国はインド洋周辺での政治的・経済的影響力も拡大させている。アメリカ第五艦隊もいずれはペルシャ湾を離れ、帰国するかもしれない。とりわけインドでは、中国がアメリカに変わってインド洋における支配的な海軍戦力としての立場につくことが懸念されている。
(2) 確かにこれはありうる将来像であるが、それよりも現実的に起こりうることがある。中国がインド洋で支配的になろうとする時、インドの地理的な位置がきわめて大きな障害となる。インド洋の中心にインドが位置しているため、もし中国がインド洋周辺の経済的利益を守ろうとするならば、中国の貿易路の一部を守るだけでは十分ではなく、その海上交通路(SLOC)全体を防衛する必要があろう。しかしこれはまったく現実的ではない。
(3) では今後中国がとるであろう方針はどのようなものであろうか。それを考える際、中国と同様にインド洋へのアクセスという点において難題を抱えていた冷戦期のソ連の経験が参考になろう。ソ連はインド洋における相当な海軍プレゼンスを確立していた(最大で22隻規模)。ソ連艦隊の任務は多岐に亘っていたが、それはソ連独自の必要性に基づくものであり、概して、SLOCの防衛というよりは、アメリカの核ミサイル搭載潜水艦への対抗や、アメリカ海軍の移動の遮断など海洋拒否能力に特化したものであった。
(4) 中国海軍のプレゼンス強化とそれに伴う任務も、中国独自の必要性に基づくものになるであろう。中国にとって、SLOCの防衛も重要ではあるが、インド洋周辺地域における中国の国民とその資産を保護することもまた重要である。近年のインド洋周辺における中国の活動は、海賊対処作戦や親善訪問に焦点を当てており、こうした必要性を反映したものとなっている。ジブチでも平和維持活動や有事の際の避難訓練の支援などが活動の中心である。このように今後しばらくの間、インド洋における中国のプレゼンスは、不測の事態に備えるための能力や海洋拒否能力の向上に集中するのではないだろうか。中国がアメリカに代わってインド洋を支配するためには、なお多くの時間と労力が必要であろう。
記事参照:China may only seek a limited naval role in the Indian Ocean

2月11日「米国のインド太平洋戦略の欠陥を直視せよ。-アラブ首長国連邦専門家論説」(War on The Rocks.com, February 11, 2019)

 2月11日付の米テキサス大学のウェブサイトWar on The Rocksは、アラブ首長国連邦国防大学戦略研究客員教授Jean-Loup Samaanの“Confronting the Flaws in America’s Indo-Pacific Strategy”と題する論説を掲載し、ここでSamaanは、米国のインド太平洋戦略は地域の現実を踏まえ、対中戦略から域内関係国の協力枠組み構築のイニシアティブへと再構築する要があるとして要旨以下のように述べている。
 (1) この2年間、Trump政権は、この地域における過去の米国の政策から脱却する外交政策プロジェクトとして新たな「インド太平洋戦略」構築に多大な努力を払って来た。その詳細は現時点でも極秘に分類されたままであるが、同政権による公式文書やスピーチなどの精査からすれば、この戦略は特に目新しいものではなく、インド太平洋地域の現実からも大きく外れているようにも思われる。
(2)  Trump政権によればインド太平洋とはインド洋沿岸から太平洋岸まで広がる地域を指す。2017年10月の戦略国際問題​​研究所における当時のRex Tillerson国務長官のスピーチ以降、この言葉はアジア地域に対する米国のレトリックの大きな特徴となった。Tillersonの言葉は1か月後のベトナムにおけるAPEC CEOサミット時のTrump大統領スピーチに引き継がれ、Trump大統領自身が考案したという「インド太平洋の夢」による地域への積極的アプローチへと繋がった。また、Mike Pence副大統領は2018年11月のスピーチ で「それはいずれの国を排除するものでもない」とし、その目標は地域の繁栄の促進であると強調した 。
 (3) しかし、これらの演説や文書からは「自由で開かれたインド太平洋」というレトリックに係らず、本構想が地域の発展より、むしろ地域的な中国の影響力拡大に影響されているということが見て取れる。2017年発表の「国家安全保障戦略」も、「世界秩序の自由と抑圧的ビジョン間の地政学的競争」として、中国の「インド太平洋地域で米国を排除し、国家主導経済の範囲を拡大しようとするアプローチ」を非難しているが、その数か月後に米太平洋軍がインド太平洋軍に改編されたのは象徴的である。しかし、このような中国の拡大に対する明示的な言及は同地域における米国のパートナーシップ推進という政策とも矛盾している。
(4) この論理は、Trump政権が中国の拡大と相殺すべくインドとのパートナーシップ強化に努力を集中していることにも繋がるが、このような考え方は2005年当時、インドとの軍事関係拡大と核協力協定調印を通じてデリーに接近しようとしたBush政権でも見られたものである。しかし、この相殺戦術は中国とインドの関係の非対称性を無視している。すなわち、これはインドと中国との潜在的均衡を前提としているが、経済及び軍事面における後者の優位性という現実とは矛盾しており、このことはデリーの当局者にはよく理解されている。したがってインド政府は北京への曖昧なアプローチを選択しているのであり、更に米国の地域政策に密接に同調することはインドの戦略的伝統(抄訳者注:非同盟政策)にも反するであろう。それがゆえにNarendra Modiインド首相の公式声明は中国への対抗という米国のインド太平洋戦略のアプローチから遠ざかっているようにも見えるのである。
 (5) 米国の構想は、インドと中国との戦略的三角関係以外のインド太平洋地域沿岸国の役割をほとんど認めていない。しかしここ数年、ワシントンの嗜好にかかわらず、自国の政策を追求しようとしている域内関係国が出現しつつある。例えば、インド洋のアフリカ沿岸ではジブチが米仏両国の対テロ戦争の前線基地となっていたが、現在ではここはアフリカ大陸へのアクセスを切望するアジア及び中東湾岸諸国にとってのハブ港湾となっている。一方、セイシェルやモルディブなどのインド洋の小さな島々は米国のインド太平洋戦略の影響をほとんど受けておらず、代わりに、中国、インド、そして湾岸諸国の財政的、軍事的投資の影響下にある。そしてまた、アラビア半島の君主制諸国は、以前は単なる安全保障の受益者であったが、現在では権力ブローカーとしての地位を築きつつある。特に湾岸協力会議加盟国は、サウジアラビアがビジョン2030 を中国の投資との相乗効果の恰好の機会と紹介するなど、中国の一帯一路構想に積極的に参加すべく、公然と中国との関係強化を求めている。実際、サウジアラビアは中国パキスタン経済回廊における中国資金の主要な受領者であるパキスタンのグワダル大水深港に100億ドルの投資を実施した 。その他の湾岸各国も自国の港湾施設を中国の海運のための拠点として宣伝している 。例えば、オマーンのドゥクムは小さな港湾であったが、中国とインドの投資により急速に近代化されている。
(6) これらは米国の地域政策を無視して東アフリカからアラビア半島、インド亜大陸、東南アジア、そして中国へと広がる多くの経済交流の一例に過ぎない。このことはワシントンに根ざした米中対立の構図と少なくとも同じ程度に、インド太平洋地域概念にテクスチャを与えるものである。米国は何よりもまず、この新たな複雑なレイヤーを考慮に入れるべきである。インド太平洋地域の焦点は中国の成長のみではないし、外交政策において域内諸国がより自立的になるということにとどまるものでもない。同盟国の米国への信頼の揺らぎや、中国が提示するような経済的機会の代替案を提供できないといった認識の広がりは、論理的に域内諸国の選択肢の多様化を促すことになる。
(7) Trump政権はこうした懸念に対処すべく、既にインド太平洋政策の修正を始めている。2018年7月以降、 Mike Pompeo国務長官が発表した一連の政策(BUILD法、アジアEDGE、デジタルコネクティビティ、サイバーセキュリティパートナーシップなど)が示すように、インド太平洋政策は新たに経済的側面に重点が置かれました。しかし、これらのプログラムはインド太平洋地域諸国と中国との間で開始されたものと比較しても、その発想や投資の規模は控えめである。さらに重要なことは、Trump大統領の政策がこれらのパートナー諸国に対する米国のコミットメントに常に疑問を投げかけることから、これらの関係国はインド太平洋構想への参加というワシントンの呼びかけに応ずることが難しくなっているということである。例えば、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの米国の撤退は、日本や韓国などの同盟国が別のプロジェクト、中国を含む地域包括的経済パートナーシップなどへの参加を促進させることとなった。「米国第一主義」のレトリックとTrumpの多国間主義への根本的な反発が、インド太平洋構想のアプローチを現実と矛盾させているのである。
 (8) インド太平洋地域の各国にとって、これは過去の強固な信頼関係やパートナーシップが形骸化し、米国と中国の間でのヘッジが新たな規範となるという不安定な環境を生み出すことにもなりかねない 。このヘッジは短期的に戦略的及び経済的な選択肢を拡大する中途半端な立場に過ぎず、地域的なパワーバランスを明確にするものではない。湾岸諸国やASEAN加盟国のような小国、中堅国にとって米国と中国の間でのヘッジ行動が最善の行動と考えられるかもしれないが、そもそもゼロサムゲームがワシントンの地域政策における基本原則である。このゼロサムゲームとパートナー諸国に対する米国のコミットメントを取り巻く不確実性との組み合わせは地域の不安定さを緩和することはないであろう。現在のような形での、どっちつかずのレトリックは関係国をいずれにしても不利益なジレンマに追い込むだけである。この論理を地域に定着させるには、要すれば米軍が支援を提供することをパートナー諸国に保証することが求められるだろうが、それはTrump大統領の政治的基盤とは矛盾するし、Trump政権が「米国第一」という言及を控えることもないだろう。
 (9) そうではなく、インド太平洋の地域政策は例えば、海洋コモンズの確保や地域の機関の強化といった潜在的な協力分野を強化すべきであり、地域のパートナー諸国を引き付けることにおいては、これらがより効果的といずれ証明されるであろう。インド太平洋地域には「力の真空」があるのではなく、域内国家間の政治的紛争を解決し経済の安定を確保するといった「ガバナンスの真空」があると考えるべきである。米国外交はこの地域に対しメコン流域イニシアチブやAPEC、ASEANあるいは環インド洋連合などに参加し 、この分野で積極的にコミットして来た。東アフリカ地域へのインフラ投資を提供すべくインドと日本が主導している「アジア・アフリカ成長回廊」のようなプロジェクトに参加することもこの地域の安定に貢献するかもしれない。いずれにせよ、これら全ての取り組みを政策の中心に置きつつ、インド太平洋戦略の反中国的な側面を縮小することがより効果的であるだろう。
さらに言えば、米国が地域の利益のために包括的なインド太平洋安全保障アーキテクチャを形成すれば、それは最終的には中国がそれらの規定に従って行動することを選択せざるを得ないような状況を生み出すかもしれない。
記事参照:Confronting the Flaws in America’s Indo-Pacific Strategy

2月12日「グリーンランドの鉱山権益に触手を伸ばす中国―北欧専門家論説」(The Diplomat.com, February 12, 2019)

 2月12日付のデジタル誌The Diplomatは、ノルウェーのトロムソ大学-ノルウェー北極大学准教授Marc Lanteigne及びアイスランド大学大学院生Mingming Shiの“China Steps up Its Mining Interests in Greenland”と題する論説を掲載し、ここで両名は中国がグリーンランドの鉱山権益取得に積極的に動いていると指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1) 2018年1月の「北極白書」で述べられているように中国の北極圏で拡大する権益の重要な構成要素は、化石燃料や原料など資源採掘の共同事業開発である。グリーンランドは北京の新たな「氷上のシルクロード」における新たな重要要素として台頭している。グリーンランドはベースメタルと宝石用原石やウラン及び希土類元素(REEs)のような貴金属の供給源として台頭していると見られている。これらの資源に対する中国の需要を受けて、同国企業がグリーンランドで存在感を増してきた。
(2) 中国の投資は、海産物とデンマーク政府からの年次助成金に依存してきた経済の多様化を模索するグリーンランドに経済的な機会をもたらすものである。しかしながら、グリーンランドで増大した中国の経済外交を巡るコペンハーゲン(およびチューレに空軍基地を置く米国)の不安の高まりに関連する相当な政治的影響もあるだろう。
(3) グリーランドにおける中国のもっとも注目される共同鉱業事業は、これまでのところグリーンランド南部のクベーンフェルド・プロジェクトである。これはすなわちREE採掘に特化した中国の盛和資源と提携する、オーストラリアに拠点を置くグリーンランドミネラルズ社が監督するウランおよびREE(ネオジウム、ジスプロシウム、イットリウム等)鉱山計画である。両社は2016年に盛和資源に対して12.5パーセントの権益を付与することに合意した。グリーンランドミネラルズ社は2018年8月に、Kvanefjeldから採掘される鉱物の処理とマーケティングで盛和資源が主導権を握ることになると見込まれるMOUを締結した。
(4) 盛和資源がクベーンフェルドのウランおよびトリウム鉱床からREEsを分離する工程を強化するために中国核工業集団と提携に向かうという、掘削作業開始に向けた更なるステップが2019年1月に取られた。一連の動きは新たな取引の詳細やウラン、トリウムの採掘が環境にもたらす影響そして中国企業がこのプロセスにどの程度まで参加するのかに関して、グリーランド政府の主要野党であるイヌイット・アタカチギット(IA)党による質問を招来した。
(5) グリーランドにおけるウラン採掘の可能性は2013年にグリーランド議会がウラン採掘に対する長年の「ゼロ容認」政策を転換し、REEsとウラン採掘への道を開いたことで初めて持ち上がった。しかしながら、当該決定は、最終的には2016年にクベーンフェルド・プロジェクトの着手許可をもって終結した。コペンハーゲンとヌークの長きにわたる法廷闘争に火をつけた当該闘争の核心は、デンマークとグリーランドの政治関係にある。というのも、グリーランドはデンマーク王国の一部であるが、実質的な政治自治権を有しているからである。経済関係を含むグリーランド政府の権限を規定した2009年の自治政府法は、デンマークがグリーンランドの防衛および外交を監督し続けるものとした。グリーンランドの鉱業問題、特に同セクターにおける中国の投資は何が安全保障問題を形成し、何がしないのかという議論と、グリーンランドにおける中国の経済権益が目下の将来的なグリーンランド独立に関するに議論に何らかの役割を果たすのかという討議をもたらした。
(6) 気候変動はグリーランドを外国の鉱業関係者にとっての新たなアクターにした。中国企業はグリーンランドにおける資源採掘産業の大改革の最前列に自らを置くことに時間を無駄にはしなかった。クベーンフェルド・プロジェクトはグリーンランドにおける中国の経済的プレゼンスを示す最も分かりやすい事例だが、プロジェクトはそれ一つというわけでは決してない。問題は中国のグリーランド鉱業に対する投資が、グリーンランド政治の将来を巡る政治的、安全保障上の議論にどのように波及していくかにある。
記事参照:China Steps up Its Mining Interests in Greenland

2月12日「南シナ海における将来のFONOPSには同盟国等も参加-米海軍協会報道」(USNI News, February 12, 2019)

 2月12日付のUSNI(米海軍協会) Newsは、“Future South China Sea FONOPS Will Include Allies, Partners”と題する記事を掲載し、米インド太平洋軍司令官Davidson大将の上院軍事委員会における将来の航行の自由作戦、潜水艦優位の維持の有用性、対外軍事基金の配分についての証言を、要旨以下のように報じている。
(1) 米国は南シナ海における航行の自由作戦(以下、FONOPS)をかなりの頻度で継続しており、インド太平洋軍司令官は2月12日の上院軍事委員会で、将来の任務に「同盟国や協調国が含まれるだろう」と述べた。Davidson大将は、北朝鮮は地域の喫緊の問題であるが、中国が領域あるいは経済的影響力を拡大しようとする行動は地域において交易と人々の自由な流れを維持する上でより大きな長期の脅威であると述べている。「既存の法の支配に基づく国際秩序をねじ曲げ、破壊し、取り替えるために、北京は恐怖と強制によってそのイデオロギーを拡大するよう動きつつある。その代わりに新秩序、中国的特色のある秩序、中国が主導する秩序を創出し、70年以上にわたってインド太平洋において提示されてきた安定と平和に変わる結果を作り出そうとしている」とDavidsonは言う。
(2) 中国の影響力で最も目に見える形は、ますます強くなる領域に対する主張を正当化するため南シナ海の島嶼を使用する手法である。国際法はこれらの行動の多くを承認しておらず、航行の自由作戦は、国際社会は中国の主張を受け入れないことを知らしめる方策であるとDavidsonは言う。航行の自由作戦は、他の国々に米国が地域に関与することを知らしめていると同司令官は言う。他の国々は米国の主導に追随し、独自の航行の自由作戦を行いつつある。「我々はこの地域で同盟国、協力国を持っている。英国、日本、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、フランスと一体化されており、南シナ海における行動は次の段階に高まっている。このことは国際社会が中国を押し返そうとする意思を示していると考えている」とDavidsonは言う。
(3) 中国の軍事技術の優位は、米軍が享受してきた明確な優位に割り込みつつあるが、潜水艦の分野では依然、米国が優位を保持しているとDavidsonは言う。「潜水艦建造の継続はきわめて重要である。現時点ですべての領域で我々の最も重要な優位である」とDavidsonは言う。
(4) 軍事力が出来るのはここまでである。全体的な国家の取り組みが中国の影響力に対応するために必要であり、これには弱小国への経済援助の提供のような国務省の外交努力が含まれる。急速に進展する米印防衛関係は他の協調への努力を牽引しており、特に情報技術の共有がそうである。これらの協定は地域の他の国々に米国との連携の力を示しているとDavidsonは述べていた。しかし、米国は増大する地域への投資について考える必要がある。中国は地域での影響力を得るためにその富を使用しており、米国はそれ以上のことをする必要があるとDavidsonは言う。その例として米国の対外軍事基金の大半は太平洋よりむしろ米中央軍に向けられているとDavidsonは指摘する。「今現在、インド太平洋軍は対外軍事基金の小さなものしか得ていない。実際に全体の5パーセント以下である。我々は対立を回避するために、地域のどこに資金を投入するのがよりよいのかを見てみる必要がある」とDavidsonは述べた。
記事参照:Future South China Sea FONOPS Will Include Allies, Partners

2月14日「インド太平洋:一つの地域、多様な構想?-シンガポール専門家論説」(RSIS Commentaries, February 14, 2019)

 2月14日付のシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International StudiesのウエブサイトRSISコメンタリーは、同学院客員研究員Rajeev Ranjan Chaturvedyの“Indo-Pacific: One Region, Many Visions?”と題する論説を掲載し、「インド太平洋」概念を新たな多極構造アジアのプラットフォームとして考えるべきとして、要旨以下のように述べている。
 (1) 「インド太平洋」概念は外交・防衛コミュニティの専門家間での議論において避けられないトピックとなった。誰もがこの概念に取り組んでおり、この変化しつつある物語がどのように世界の海洋空間に影響を与えるのか熟考している。その性質および焦点については様々な見方があるが、「インド太平洋」概念そのものの不明確さが、この発展途上の地政学的パラダイムに対し、域内諸国のいくつかに若干の失望ももたらしている。
 (2) シンガポールのISEAS-Yusof Ishak InstituteのASEAN研究センターは東南アジア諸国の意見を求め、2018年11月18日から12月5日の間に「東南アジアの現状:2019年」に関するオンライン調査を実施した。質問の1つは「インド太平洋」概念をどのように考えているかということであったが、大多数(61.3%)はこの概念を「不明確であり、さらに詳細な説明が必要」と考えていることが明らかとなった。また、約1/4の回答者が「インド太平洋」概念に疑念を抱いており、その「隠された主題」として「中国封じ込め」があるという見方について、17.3 %の者がこれを「ASEANの地位を弱体化させ地域秩序を不安定化」させるものと考えていることも明らかになった。
(3) 「インド太平洋」という概念は、地政学と地経学との境界線が曖昧になりつつあることを認識しつつ、時間とともに進化して来た。このことは、インド洋および太平洋における「機会」と「挑戦」が徐々に収束しつつあるということも意味している。すなわち、持続可能な経済成長、相対的に安定した政治状況、そして社会的な結束などの条件から、アジアの主要国は国際的な課題設定やルール形成に大きな影響を与え、世界の経済や戦略環境が変化する中でも、その中心となって発展して来た。そして今日、インドの専門家が「アジアの下腹部」と呼ぶ「インド太平洋」地域は、アジアの海上における活動の場として、「インド太平洋」概念の進化に伴う様々なアイデアや視点を生んでいる。中でも日本、インド、インドネシアその他いくつかのASEAN諸国、地域経済に係る外交的取り組みにもっとも積極的であり、「ルールベースの国際秩序」や「共通の利益」に基づく協力といった事項を強調している。
(4)  また、以前は中国に対抗する立場であった米国や豪州の見方も進化している。2019年にニューデリーで開催されたライシナ・ダイアローグのパネルディスカッションに際して、米インド太平洋軍司令官Philip S. Davidson大将は「インド太平洋」地域は対立の場ではなく、コミュニティ構築について考える場であるべきと強調した。また、米印豪日の四か国枠組みは中国封じ込めの一環ではないかという質問に対し、Davidsonは「インド太平洋」構想は「封じ込め」政策ではないと回答した。Davidsonは2018年11月17日に開催されたハリファックス国際安全保障フォーラムにおいても、これと同様にインド太平洋地域を「世界経済発展を推進する原動力」と呼び、「自由で開かれたインド太平洋」構想の詳細について述べている。
(5) 「自由で開かれた」という概念には次の5つの重要な要素がある。第1に「他国による強制からの解放」と「価値体系に関する自由」、 第2に「宗教の自由」やグッドガバナンスなどを含む「個人の権利と自由」、 第3に国連憲章や世界人権宣言などの「共通の価値」、第4に「国家その他の経済主体が依拠している海空路への自由なアクセス」、そして第5に「オープンな投資環境、各国間の透明性の高い協定、知的財産権の保護、公正かつ相互的な貿易」ということである。しかし、一方で四か国枠組みは「インド太平洋」概念の不可欠な部分という想像上の印象もあり、この2つの考えを結びつけることが研究者や政策立案間での曖昧さを生み出している感もある。もちろん、この進化しつつあるそれぞれの概念の間には一致する部分もあるかもしれないが、基本的に「インド太平洋」概念はより広い枠組みとして考えるべきである。
(6) インドは「インド太平洋」の一つの中心であり、したがってインドの見方を理解することは重要である。インドのNarendra Modi首相は「インド太平洋」構想を世界規模での大きな「機会」と「挑戦」の場と強調しており、インド洋へのアプローチが進歩と繁栄を追求する共通の自由で開かれた包括的なクラブとなるよう提案しているのである。「地域全ての人々のための安全保障と成長(SAGAR)」は、Modi首相の「インド太平洋」構想の一環であるが、これはなぜインドが四か国枠組みの中で最も熱心でないメンバーであり続けるのかという問題も明らかにする。すなわち、インドは、経済的関与の機会を最大化しつつ、強固な安全保障バランスとの間の綱渡りに取り組んでいるということなのである。
(7) こうした異なる視点にもかかわらず、「インド太平洋」概念の組織化は収束しつつあるように思われ、この広大な海洋空間の周辺諸国と域外大国との経済的関係、安全保障関係を結びつけている。それは例えば、航行や飛行の自由、領土および主権の尊重、国力に係りなく全ての国が平等であるべきこと、 紛争の平和的解決や国際法の尊重、安定し開かれた自由貿易体制や海洋資源の持続可能な開発などの諸原理である。「インド太平洋」構想は、このように共通して合意された国際的な規範、規則あるいは慣行により統制されたアジア圏の創造を目指すべきである。相互依存が深化した世界において直面する課題の大部分は分野横断的かつグローバルな次元の物であり、これにはテロリズム、海上犯罪、パンデミック、サイバー、環境、人道支援/災害救助などの問題が含まれる。そしてこれら全てが国際的な協調による対応を必要としており、したがって多国間協調が今後の採るべき道である。多国間主義に基づく「インド太平洋」構想は新たな世界秩序において、広範な共通領域における主要国間の競合する利益を管理するプラットフォームとなる可能性もあるだろう。
記事参照:Indo-Pacific: One Region, Many Visions?

2月14日「マレーシアとシンガポールの海洋主権をめぐる論争――豪専門家論評」(The Interpreter, February 14, 2019)

 2月14日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウェブサイトThe Interpreterは、メルボルンのLa Trobe University政治学講師Bec Starting博士の“Spats in the straits between Malaysia and Singapore”と題する記事を掲載し、ここでStartingは最近のシンガポールとマレーシアの間で起きた海洋主権をめぐる論争の動向と、それが持つ意味について、要旨以下のとおり述べている。
(1) オーストラリアは自国を「ルールに基づく国際秩序」の擁護者と位置づけ、南シナ海における中国の行動や、中国が2016年の仲裁裁判所裁定を無視したことなどに強い関心を向けてきた。中国が係わる一連の論争は、海洋法に関する国際連合条約に実効性に対して難題を突きつけるものであるが、そうした例はそれだけではない。ここ最近のマレーシアとシンガポールの間での海洋主権をめぐる論争もまた、「ルールに基づく国際秩序」を脅かしかねないものである。
(2) 論争は両国の間を通るジョホール海峡の海域をめぐって起きた。シンガポールは海峡の沿岸の埋め立てを行ってきた(埋め立て地域はトゥアスと呼ばれる)。マレーシアは2018年10月25日、ジョホールバルの港湾区域境界線をシンガポールの領海内へと広げることを発表したのである。シンガポールはそれに対しシンガポール領海の侵犯だと抗議したが、マレーシアはむしろトゥアスの埋め立てこそがマレーシアの主権を侵害するものだと主張した。この両国は空をめぐっても争っていた。シンガポールのセレター空港に新しい計器着陸装置の導入が提案されたが、それを利用した場合の航路がマレーシアのパシル・グダン上空を通るものとして、シンガポールに抗議したのである。ただし、この航空路問題は2019年1月にひとまず妥協に至った。
(3) シンガポールとマレーシアの主権をめぐる論争は新しいものではなく、1979年にマレーシアが自国の領海を設定し、シンガポールがそれに抗議したことに端を発する。1995年に両国は概ね合意に達したが、その後のシンガポールによる埋め立て地域の拡大はASEAN諸国にとって不安の種であった。マレーシアは国際海洋法裁判所(ITLOS)に提訴するなどしてそれを止めさせようとしたが、うまくいかなかった。また、シンガポール海峡の東側の入り口に位置する小島ペドラ・ブランカを巡っても論争に至っている。2008年に国際司法裁判所(ICJ)は、ペドラ・ブランカはシンガポールの主権下にあるとした。この度の論争も、こうした両国の歴史的文脈に位置づけて理解されるべきである。
(4) 上述したように航空路問題は妥協に至ったが、海上主権をめぐっては、なお、お互いに譲らない。たとえばシンガポール外相のVivian Balakrishnanは、この問題が早晩解決するとは思われないと発言している。この論争が、2018年5月にMahathirがマレーシア首相として復帰して以降激化していることを指摘する評論家もいる。彼の第一期(1981~2003年)の時代、両国の関係は緊張していたのである。
(5) これは二国間の問題であると同時に、ASEANという地域機構に属する国家同士での論争だという事実がある。とりわけそれは、南シナ海をめぐる論争において、ASEANは一致団結して中国と向き合う必要があるとき、きわめて重要な意味を持つことになろう。
(6) さらにこの論争は、UNCLOSによる論争解決の限界を示唆してもいる。過去両国の論争においてはITLOSやICJが関わってきたが、決定的な解決には至らなかった。今後、「ルールに基づく秩序」のうえでこの論争が解決されるのかどうか、それは、シンガポールおよびマレーシアが、その原則にどれほどの価値があると判断しているかによるものである。
記事参照:Spats in the straits between Malaysia and Singapore

2月14日「復活した『4カ国安全保障対話』に必要なもの―豪専門家論評」(The Strategist, February 14, 2019)

 2月14日付のAustralian Strategic Policy Institute (ASPI) のウェブサイトThe StrategistはAustralian Strategic Policy Institute上席アナリストHuong Le Thuの“New perspectives for the revived Quad”と題する論説を掲載し、ここでThuは復活した「4カ国安全保障対話」について、要旨以下のように述べている。
(1) 米・日・豪・印の主要民主主義国4か国からなる「4カ国安全保障対話」は2017年後半に、新たに復活した(以下、2004年12月に誕生した「4カ国安全保障対話」をQuad 1.0、復活したそれをQuad 2.0と表記)。当初から、「4カ国安全保障対話」は、中国を封じ込める手段と見られがちな故に、論議の的となりやすかった。また、域内諸国、特にASEANは、地域問題における自らの中心的役割を損ねるとの懸念を高めていた。しかし誕生から10年の間に、域内の戦略的環境は一層緊張したものになり、域内そして世界における中国の行動とその重みに対する懸念は、「4カ国安全保障対話」の復活を正当化し、深化させてきた。Quad 2.0は、これまで3回の非公式な高官会議を行ったが、共同声明さえ出していない。それでも、Quad 2.0は、その実績以上に注目を浴び、現在の地政学的環境下で、最も論議の大きい構想である。何故か。
(2) Quad 2.0は、Quad 1.0とは異なり、オーストラリアにおいて超党派的な支持があるように思われる。豪政府の2017年の外交政策白書は、「オーストラリアは、インド太平洋地域のパートナー諸国との多国間枠組での協同を進めていく」とし、米国と日本との3か国対話、そしてインドと日本との個別の対話に対する、キャンベラの強い意志を示した。インドは、4カ国中、Quadに最も複雑な思惑を持っていると言われてきた。しかしながら、インド洋におけるインドの最も重要な利益と、この地域における中国の活動は、デリーの安全保障を強化するための枠組として、Quad を次第に否定し難いものとしている。
(3) 米国の公的な政策文書は、ワシントンの中核的な安全保障手段の1つとして、Quad 2.0に対する米国の全面的なコミットメントを確認している。例えば、Trump大統領が最近署名した、「アジア再保証法」(ARIA)は、以下のように述べている。
a.米・豪・印・日間の安全保障対話は、①法に基づく秩序、②国際法の遵守、そして③自由で開かれたインド太平洋を推進するために、インド太平洋地域における困難な安全保障課題に対処するうえで不可欠である。
b.このような安全保障対話は、現在の対話メカニズムに替わるものと言うより、むしろそれらを補強するものである。
(4) しかし、こうした記述は、中国を戦略的抗争相手と呼んだ、一連の国防、国家安全保障関連文書、Trump大統領の貿易戦争、そしてPence副大統領のハドソン研究所での講演で勢いを得た、中国との対峙政策の一環として、米政府がQuad 2.0を見ているのかということについて疑問を提起する。
(5) Quad 2.0成功の鍵は、インド太平洋概念との関係にある。Quad 2.0は、4カ国が(相違がなくはないが)ともに提唱する、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想の推進と軌を一にしているが、これが混乱を生んでいる。Quad 2.0がFOIP で提唱される原則の一部を共有していることから、両者はしばしば一括りにされる。しかしながら、FOIP が開放性と包括性を強調するが、Quad 2.0は、排他的な構成で、極めて限定されたアジェンダを持つ、少数国間の枠組である。FOIPもQuad 2.0も、いずれもより一層の具体的な概念化が必要である。FOIP とQuad 2.0は依然、ともに明快さを欠いており、その結果、外部の支援は限定的なものでしかない。
記事参照:New perspectives for the revived Quad

2月15日「台頭する中国とブルー・パシフィックの将来―太平洋諸島フォーラム事務局長講演」(The Interpreter, February 15, 2019)

 2月15日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウェブサイトThe Interpreterは、太平洋諸島フォーラム事務局長Dame Meg Taylorの“A rising China and the future of the “Blue Pacific””と題する記事を掲載し、ここでTaylorは中国による太平洋島嶼国への関与と同地域の発展について要旨以下のように述べている。
(1) 太平洋諸島フォーラムとその事務局の焦点は将来の繁栄と「ブルー・パシフィック」の幸福の確保である。このビジョンのために、フォーラムは、すべてのアクターとの真のパートナーシップを求めている。したがって、我々は、太平洋地域における「中国による代替案」と我々の伝統的なパートナーの間で選択肢を与えられているというジレンマの表現を受け入れない。
(2) フォーラムのリーダーたちは、彼らがオープンな本物の関係、そして、我々の地域内外での包括的で持続的なパートナーシップに大きな価値を置いていることを何度も明らかにしている。「すべてのアプローチと友人であること」が一般的に受け入れられているが、一部の人々は、その整合性のない状態を通して、この原則により正式に取り組んでいる。世界的に高まっている経済的及び政治的な強さと相まって、この地域における中国の増大する外交的、経済的プレゼンスは、ブルー・パシフィックに課題と機会の両方をもたらしている。それが中国に関して、全てのフォーラムの加盟国間で共鳴するかもしれない1つの言葉があるならば、その言葉はアクセスである。市場、技術、資金調達、インフラへのアクセス、発展し得る未来へのアクセスである。
(3) ほとんどの場合、フォーラムの島嶼諸国はグローバル化した世界に十分に関与することを可能にする資金調達、技術及びインフラといった類のものから除外されている。多くの国々が中国の同地域に対する関心の高まりがこれを是正する機会を提供していると考えている。確かに我々は、これらの機会を明確に考えるだけでなく、台頭する中国という文脈で出現するより広い範囲の機会も考える必要があるだろう。中国のプレゼンスは、新旧の他のアクターが彼らの優先順位を再設定し、太平洋への関与を強化していることを意味している。フォーラムのリーダーたちは現在の歴史的瞬間と、より良い発展成果の実現をもたらす機会についての強い思いを持っている。おそらくブルー・パシフィックが直面している主な課題は、集団としてこれらの機会を考え抜く我々の能力である。
(4) ブルー・パシフィックへのビジョンに向けて地域を進ませるには、フォーラムのメンバー間でもパートナーとの間でも、長期にわたる集中的な政治対話が必要になる。おそらく日本との太平洋・島サミット、あるいは中国・アフリカ対話と似たような方法で、中国・フォーラム対話を確立することを検討することが適切である。中国はすでに、中国・太平洋島嶼国経済開発協力フォーラムという、この地域との関わり合いのための独自の基盤をもっている。認識されなければならない外交問題があるが、我々はブルー・パシフィックの集団的優先事項を推進するために存在する機会を見逃してはならない。これにはすべてのフォーラム加盟国の参加とそれに応じた議題の設定におけるより大きな発言権が必要になる。
(5) インフラは太平洋地域におけるレジリエンスを確保するための重要な要件である。特にフォーラム加盟9ヵ国が既に一帯一路構想に関して中国と協力するための二国間の覚書に署名していることを考慮すると、一帯一路への集団的関与の機会を検討することは慎重に分析し議論するのに値する。実際、2019年は、チリがホストを務めるアジア太平洋経済協力会議(APEC)という重要な機会を我々に与えるだろう。ブルー・パシフィックを通じて中国の海上シルクロードを拡大する機会を探求することは、アジア太平洋及びラテンアメリカ諸国間の新たな貿易市場を刺激する可能性のある地域インフラとアクセスを創出する機会を提供する可能性がある。また、ブルー・パシフィックの連結性とレジリエンスを構築するために切望されているインフラとテクノロジーを提供することもできる。2019年のAPECは、そのような機会に関する対話のきっかけを提供する可能性がある。
(6) 結論として、ブルー・パシフィックは「中国による代替案」をめぐるあらゆる話し合いで登場する戦略的レンズを提供する。我々の政治的な話し合いや合意は、他の人々の目標や野心によってではなく、我々のブルー・パシフィック構想と、その人々の幸福によって決定されなければならない。
記事参照:A rising China and the future of the “Blue Pacific”

2月15日「第2次核時代におけるインド潜水艦の中国との競争―豪専門家論説」(The Strategist, February 15, 2019)

 2月15日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe Strategistは、the Australian National University名誉教授Ramesh Thakurの“India’s submarine rivalry with China in the second nuclear age”と題する記事を掲載し、ここで Thakurは第2次核時代にSSBNの重要性が増す中、インドがSSBNをはじめとする海軍力整備において中国に後塵を拝する要因を指摘し、要旨以下のように述べている。
(1) 現在は冷戦の最盛期に比べて核兵器の数は遙かに少ない。しかし、設計ミスや事故による不時発射、あるいはシステムエラーによる核戦争のリスク全体は第2次核時代より増大してきている。これは脆弱な指揮統制システムを持つより多くの国々がこの恐ろしい兵器を保有しているからである。テロリストは核兵器を望んでいるが、核兵器は人的錯誤、システムの誤作動、サイバー攻撃に脆弱である。大国の対立の場は欧州から3ないしそれ以上の核保有国の脅威認識が同時に交錯するアジアに移ってきた。
(2) 冷戦時代の核の2国間対立は、核兵器保有国間のより複雑になった抑止関係の結果、相互に関係する核の連鎖に変わった。印パの核関係は歴史的にも、概念的にも、政治的にも、戦略的にも、作戦的にも深く中国が係っている。パキスタンの核政策はインドに特化されているが、インドの核政策の主たる外的要因は常に中国である。最近まで中国の脅威はインド周辺の海域にまで及んでいなかった。最近インドは、インド洋で拡大する中国海軍の展開、中国が建設したミャンマー、スリランカ、パキスタンの戦略的に重要な大水深港の強化など懸念を強めて来ている。このことは今や核の色合いを帯びてきている。
(3) 核弾頭保有の実質的な数的優位は軍事的に、あるいは作戦上の重要性を持たない。固定位置に配備された地上配備ICBMは容易に探知され、照準され、破壊される。潜水艦配備の核兵器はその残存性を高め、第1擊が成功する可能性を低減させることで米ソ間の戦略的安定性を深めた。加えて、原子力推進装置は潜水艦が長期間潜航し、母港と潜在的目標から遠く離れた海域で作戦することを可能にする。対照的に核兵器搭載潜水艦によって常続的な海上における抑止力を得ようとする競争はアジアを不安定化する可能性がある。地域の大国には十分に検討され、確立された作戦概念、大規模で多重性のある指揮統制システム、洋上にある潜水艦との秘匿通信が欠けているからである。
(4) 中国潜水艦の抑止任務は2015年12月に開始された。人民解放軍海軍は現在、4隻の「晋」級SSBNを保有しており、他の2隻が建造中ですでに就役したかもしれない。中国の潜水艦部隊は2020年までにその総数は56隻から69隻、あるいは78隻の間に増加しそうである。これに対しインドは核弾頭を装備した2隻のSSBN、1隻のSSN、15隻の通常型潜水艦を保有している。パキスタンは5隻の通常型潜水艦を配備している。
(5) 12月3日、印政府は新たな艦艇56隻、潜水艦6隻を今後10年で建造することを承認したと発表した。半島のような特徴を持つ海岸線を考慮し、インドは東西両海岸線沖の海域に海洋抑止力を常続的に維持するため2022年までに4隻のSSBNを保有することを計画している。インド初の国産原子力潜水艦INS Arihantは、最初の抑止任務を終了し、11月5日に帰港した。the Defence Research and Development Organisation(印国防研究開発機構)は射程3,500Kmから5,000Kmの中距離弾道ミサイルを開発中であるが、Arihantは射程700Kmから1,000Kmの戦域弾道ミサイル12発を搭載している。中国あるいはパキスタンの縦深部にある都市または部隊を海から標的とするためにはSLBMは射程6,000Kmから8,000Kmが必要である。インドのこの種の能力を近々には取得できない。
(6) 先制不使用宣言の確実性を担保するためにSLBMの能力はきわめて重要である。最初の抑止任務には、Arihantと最高指揮官との間の重層的な秘匿通信の多重性と生存性に関する徹底した試験が含まれる。
(7) 中印間の鍵となる相違点の1つは、それぞれの政治システムである。この相違は2つの方法で海軍の対立に現れる。第1は、市民による定期的な選挙を心配する必要がないため、中国指導層は短期的な選挙を強いられることを考慮する必要はない。中国指導層の国防調達の意思決定は長期の戦略的計算、要求、所要、展望によって行われる。まさにその本質から国防調達は長期的で資本集約的であり、その多くは秘匿されている。第2に、公共の堕落という認識と相まってインドにおける主要な政治問題に加え官僚的、ビジネス的、政治的に異なる多くの選挙民の要求に応える必要からインドの国防調達に関する意思決定は中国よりも遙かに遅れている。その結果、原子力潜水艦の設計、開発、配備を国内で行うという計画Make in Indiaは進捗の遅れ、経費の超過に悩まされてきており、インドは海軍力において中国に大きく後塵を拝している。インドにおける政治的論議の退廃は、中国ではゴミとして捨てされられている間に、インドの国防能力に長い陰を落とすことになるだろう。
記事参照:India’s submarine rivalry with China in the second nuclear age

2月15日「米沿岸警備隊が新型砕氷船のための予算を確保―米専門紙報道」(USNI News, February 15, 2019)

 2月15日付のU.S.Naval InstituteのウェブサイトUSNI Newsは“Coast Guard Secures $655 Million for Polar Security Cutters in New Budget Deal”と題する記事を掲載し、米国土安全保障省の2019年度予算法案により、米沿岸警備隊が新しい極地砕氷船を建造する予算を確保したことについて、要旨以下のように述べている。
(1) 米沿岸警備隊は、国土安全保障省の2019年度予算案の一環で、念願の大型砕氷船である、新型の極地用巡視船第1番船建造のための6億5500万ドルと、2番目の大型砕氷船用に長期の準備期間を要する資材購入のための追加の2千万ドルを受け取ると、議会関係者は語った。
(2) 沿岸警備隊の声明によると「政権と議会の支援を受けて、我々は、6隻の極地用砕氷船(少なくとも3隻は大型砕氷船でなければならない)の新しい船隊を建造する計画であり、北極圏における米国のニーズを満たすためには最初の新しい極地用巡視船が直ちに必要である」、「米国は、広範な国内的および世界的責任を持つ北極圏の国である。北極圏での我々の役割は大きくなっている。北極海の氷が減少すると、この地域へのアクセスが拡大し、世界中のパートナー国と競合国の両方から注目を集める。資源開発、漁業、観光および商業輸送は、アラスカの伝統的な先住民族の活動と相まって、この地域での海洋活動の増加と沿岸警備隊の存在の必要性を駆り立てている。米国で唯一の大型砕氷船Polar Starは、船齢が40年を過ぎており、新しい極地用巡視船に交換しなければならない」。沿岸警備隊は数年間、砕氷船プログラムへの資金拠出を強く求めてきた。現在沿岸警備隊には、1976年に就役したPolar Starがあるだけだ。2番目の砕氷船である沿岸警備隊のPolar Seaは、2010年のエンジン故障以来運用されておらず、それどころか、10年近くの間Polar Starを稼働させるための部品提供者としての役割を担っていた。2017年9月の政府説明責任局の報告によると、沿岸警備隊は、2010年から2016年の間に重要な砕氷任務の78%しか達成できなかった。
(3) 国土安全保障省の下院歳出小委員会メンバーである議員David Priceは、新しい法案により、彼が米国の重要な能力と見なしているものの強化が始まると述べた。「中国とロシアが北極地域への関心を高めていることから、沿岸警備隊の北極戦略は、我が国の安全保障にとってこれまで以上に重要である」。
記事参照:Coast Guard Secures $655 Million for Polar Security Cutters in New Budget Deal

2月19日「シンガポール海軍の新型潜水艦1番艦進水―シンガポール紙報道」(THE STRAIT TIMES, Feb 19, 2019)

 2月19日付けのThe Strait Times電子版は、シンガポール海軍が新たに導入するType 218SG 潜水艦の1番艦の進水に関して要旨以下のように報じている。
(1) 海洋安全保障上の問題が広がり、他国が潜水艦部隊を強化しているため、シンガポールが新しい潜水艦を取得することは時宜にかなった動きであるとNg Eng Hen国防相は言う。
(2) Invincibleと命名されたType 218SG 潜水艦1番艦の進水式でNg Eng Henは、シンガポールは海賊と同様にテロリスト、武器、大量破壊兵器、人員の違法な海上輸送を含む海上での脅威に直面していると述べた。中国など潜水艦部隊の拡充を計画する国々を見てみるとType 218SG潜水艦の取得は時宜にかなっているとNg Eng Henは付け加えた。「シンガポール海軍が新しい潜水艦を取得することは、シンガポールだけでなく世界にとって海上交通路の啓開を維持する役割を果たすことができる保証として多くの人に受け入れられると考えている」とNg Eng Henは言う。
 (3) シンガポールの新型潜水艦は、現有潜水艦と比較して50パーセント延伸された潜航持続力、より強力な攻撃力、より高性能なセンサーを搭載している。2021年に引き渡される前にドイツにおいて海上公試が行われるだろう。これは4隻のType 218SG 潜水艦の1番艦であり、20年以上運用してきたChallenger級およびArcher級潜水艦の代替となる。新潜水艦は船舶が輻輳し、浅海面であるシンガポールが運用する環境に適合するよう計画されており、他国に売却されることはない。
(4) 独Thyssenkrupp Marine Systems(以下、TKMSと言う)の造船所で行われた進水式でNg Eng Henは、この進水はシンガポール海軍とシンガポールにとって「重要な一里塚」と呼び、シンガポール海軍の継続的な発展と進歩の証であるとして新潜水艦を讃えた。「我々は一足飛びでここにいるのではない。我々は意志を貫いてきたからである」と述べた。また、Ng Eng Henは他の3隻の艦名も発表した。Impeccable、Illustrious、Inimitableであり、現在建造中で2022年から引き渡される。
(5) シンガポール海軍潜水艦部隊第171戦隊司令Teo Chin Leong大佐は、「Type 218SG はTKMSがこれまでに建造した最も先進的な潜水艦であるが、乗組員は28名である。これは、現有潜水艦を運用している人員数であり、我々にとって重要なことである」と言う。
Invincible艦長Jonathan Lim中佐は、現有潜水艦から抽出される乗組員はすでに選抜されており、ドイツにおける長期の訓練は数ヶ月後には開始されると述べた。「1番艦として我々が設定したことが基準となる。我々にとって、我々が限界を押しのけて進まなければならないので、我々が行こうとする道を選択するときに、どの方向にするのか非常に注意している」とJonathan Lim中佐は付け加えた。
記事参照:Singapore navy launches first of its four new submarines

2月20日「海洋技術:極海域のシナリオに基づく危機管理―フィンランド専門家論説」(SCITECH EUROPA, 20th February 2019)

 2月20日付の SCITECH EUROPAは、アールト大学海洋技術研究グループのPentti Kujala教授の“Marine technology: Scenario-based risk management for polar waters”と題する論説を掲載し、ここでPentti Kujalaは極海域における技術面からの危機管理の在り方について、要旨以下のように述べている。
(1) 我々は、海洋技術に固体及び液体工学の原理を応用する研究をしており、今は、海洋環境の保全と航行の安全に焦点を当てた船舶と海洋システムの創造研究に取り組んでいる。そこではリスクに係る多岐に亘る革新的な研究設計が求められる。目指しているのは、海洋問題の安全な解決とリスクの効果的なマネージメントへの貢献である。将来の更なる自動化が、船体構造のデザインと船舶の運用に変化を生じさせることを想定し、北極海洋技術グループでは、極寒の氷海における船舶の航行安全について、機械工学的技術や海軍技術あるいは安全に関する技術を取り混ぜた研究を進めている。多分野横断の研究により、海氷と船舶運用の間に生じる相互作用について新たな知見を得ることができる。北極海洋技術グループは、40×40メートルの氷を作ることのできる水槽を有しておりユニークな研究を推進している。
(2) 氷海域の減少がもたらす北極海と南極海の航行船舶の増加により、海難事故の危険も増えてくるだろう。これまで、氷海域における船舶の設計は経験値に基づくものが多く、氷と船舶の間の相互作用は研究されてこなかった。客船設計に応用されてきたリスクに基づく船舶設計(risk-based ship design (RBSD))は北極海仕様船舶にも求められる。解決すべきは、氷と船舶との相互作用であり、接触の特性、圧力、双方への負荷等に関わる研究が必要となる。また、事故が環境に与える影響についても研究が必要である。この研究によって様々な危険要因を探るための指針を得ることができる。指針作りには、危険情況を想定してのシナリオ分析が重要であり、そこでは以下のことを調べる必要がある。
・氷の様々な状態
・氷と船舶の接触の特性
・安全限界
・主要な航行船舶
(3) 今後、プロジェクトは極海域での海事の安全運用のための最新の指針作りを目指す。現状、国際海事機関の示す極海域における船舶の行動基準や国際船級協会連合の要求は適切とは言えない。本研究は、極海域における航海のリスク管理を改善し、国際海事機関や関連政府機関による将来の海事安全標準の策定等に貢献することになる。このような活動は将来の極海域航行に大きな利益をもたらすであろう。プロジェクトはまた、リスク管理に基づく意思決定の面で政策を支援することになる。リスクに基づく方法による氷海に閉ざされた海域における事故要因分析は、最先端の技術を開発すると共に危険を最小化することに役立つことになる。これは、極海域の生物を保護し、炭化水素拡散による環境破壊のリスクをコントロールするための規則作りにも結び付けることができる。
記事参照:Marine technology: Scenario-based risk management for polar waters

2月20日「米沿岸警備隊が南太平洋でカナダと連携―デジタル誌The Diplomat編集委員論説」(The Diplomat, February 20, 2019)

 2月20日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌編集委員Ankit Pandaの“US Coast Guard Conducts South Pacific Fisheries Patrols in Coordination With Canada”と題する論説を掲載し、南太平洋における米国とカナダのプレゼンスは、「自由で開かれたインド太平洋」を支えることを目的としているとして要旨以下のように述べている。
(1) 米沿岸警備隊は、カナダの水産海洋省(DFO)と連携して、南太平洋で排他的経済水域(EEZ)のパトロールを実施した。その取り組みは、フィジーとツバルの漁業法の執行に焦点を当てたものだった。「この地域で活動を行っている耐久性の高い沿岸警備隊の巡視船の存在は、地域のパートナーシップへの米国のコミットメントと地域の海洋ガバナンスを強化し、漁業のためのルールに基づく体制を促進するために志を同じくするコアリションを強化することを示す」と1月の米沿岸警備隊の声明では述べられている。
(2) このEEZ法執行活動に関与する最初の米国の船艇は、沿岸警備隊の巡視船Mellonである。「米国は、いかなる国も排除しない自由で開かれたインド太平洋の構想を進めている。我々は、主権、公正かつ互恵的貿易、そして法の支配の尊重を共有する新しいパートナーたちとの関係を拡大し、深化させると同時に、同盟とパートナーシップを確立するための我々のコミットメントを倍加させている」と米沿岸警備隊第14管区対応隊長(chief of response)Robert Hendricksonは声明で述べている。
(3) Hendricksonによると、カナダとのパートナーシップの取り組みは、昨年から始まったという。「沿岸警備隊第14地区の職員は、2人のカナダ水産海洋省の職員が、グアム西方の公海での23日間のパトロールのために米沿岸警備隊巡視船Sequoiaに参加した7月に、カナダ水産海洋省と提携し始めた」。2人のカナダ人職員が乗船したMellonは、米太平洋州のハワイからフィジーへ移動した。両国間の協調による漁業執行活動の目的は、違法、無報告、無規制の(IUU)漁業を防止することである。カナダ水産海洋省の声明によると、カナダ空軍は、海洋状況認識を提供するために航空機CP-140 Auroraを2週間Mellonと共に派遣した。
記事参照:US Coast Guard Conducts South Pacific Fisheries Patrols in Coordination With Canada

2月20日「北京に見透かされる英国の空母派遣、ブレグジットで揺らぐ英国の立ち位置―英専門家論説」(The Diplomat, February 20, 2019)

 2月20日付のWeb誌The Diplomatは、英国のKing’s College教授Kerry Brownの"Britain’s Empty South China Sea Gesture"と題する論説を掲載し、ここでKerry Brownは、ブレグジットを巡る混乱の中で地域に空母を派遣することは、中国では見せかけの行動としてみなされるだろうと指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1) 英財務相Philip Hammondの訪中計画が2月16日の英海軍空母の南シナ海展開に対する中国の不満を受けて延期されたという噂は、彼らに不吉な感情をもたらした。英国は北京と気まずい状況になることに慣れている。しかしながら、目前に迫ったブレグジットに直面する英国にとって、中国に対して対応を誤ることの危険度は劇的に増加した。
(2) 欧州連合(EU)の束縛から解放され、世界に向かって新たなパートナー諸国と貿易協定を結べるようになるグローバルな英国にとって、世界第2位の経済国である中国は自ずからあらゆる交渉の対象となるだろう。現在のところ中国は米国やオーストラリアとは異なり、英国最大の貿易パートナーではなく、アイルランドよりも下位で迫力に欠ける5位に位置している。投資の点から見ても、中国は英国株の2パーセント未満を占めるに過ぎない。これらのことは中英関係の拡大余地が十分にあることを示している。中国が英国と似たような法的、政治的、社会的システムを有していたのなら、楽観主義もいくらかの根拠を持ちえただろう。だが、中華人民共和国はこれらのものを何一つとして有していない。また、1月の空母展開が示したように、英中両国が全くあからさまな衝突コースへと向かうには多くのことが起こる必要はない。英国は安全保障上の最大の関心を東の北京ではなく、常に西のワシントンに向けてきた。それはブレグジットの有無に関わらず、不変である。
(3) 事態に対する懸念はさらに深まっている。英国にはEU加盟国として少なくとも数が多いことによる安全性があった。人権やその他の対立する問題で英国は、中国にとって明らかに重要な世界最大の単一市場の一員として声を上げることができた。EUは毎年の2国間貿易で4,500億ユーロ(5,100億米ドル)以上を占め、高品質な知的財産の主要供給元であってきた。これこそが2014年にEUの首都ブリュッセルを中国元首として初訪問した習近平が、中国と欧州がともに「文明的なパートナー」(Civilizational partners)だと宣言した理由である。また、これこそが2018年6月以降の米国との貿易戦争の中で李克強やその他要人が、最終的には米国への経済的な対抗勢力となれることを期待しながらEUとの関係発展に熱心である理由である。
(4) 英国は障害の前で彷徨いながら、あらゆる機会と多くのリスクを伴う中国と相対している。かつて英国は世界の海を支配した。しかし、今や世界最大の海軍艦艇数(もっとも技術的には米国に未だ大幅に劣るが)を擁する中国が世界の海を支配している(少なくともアジア地域の海域では)。1隻の空母を地域に派遣するというような英国の行為は、単に挑発的な行動だと捉えられる危険を冒している。確かにオーストラリアや日本それに米国との連帯を示すことは良いことである。しかしながら、真の問題はそれが本国の考え方に背くことにある。ロンドンの安全保障専門家は、本音ではEUを離脱した英国が過少評価されると認めるだろう。空母展開が英国の「殺傷力」を示す演習であったという英国防省Gavin Williamsonの中国に関する主張は、北京でその発言をわざわざ聞いている人々にさえ滑稽なほど未熟だと印象付けたに違いない。中国は将来的に紛争がもっとも生じ得る仮想空間で万事上首尾な場合でも、海洋における戦闘に関心を有しているのだろうか。中国海軍の大規模かつ全体的な拡大が欺瞞以外の何者でもないという説得力ある議論も存在する。中国が外洋で何を行うのか皆が懸念して注視する一方で、中国が本当に覇権を握らんとしているのはサイバー空間である。
(5) 中国は他国と同様に、ブレグジットの展開を巧妙な隠された計画があるという確信とともに見ていた。しかしながら、中国は今や多くの英国市民と同様に、無能力の日々の表明以外の何者でもないと見始めている。遠隔地に航空機もない空母を派遣するような行動を中国は、殺傷力のあるものではなく見せかけの姿勢だとみる可能性がある。
記事参照:Britain’s Empty South China Sea Gesture

【補遺】

1 Predicting the Chinese Navy of 2030
https://thediplomat.com/2019/02/predicting-the-chinese-navy-of-2030/
The Diplomat.com, February 15, 2019
Rick Joe, a longtime follower of Chinese military developments, with a focus on air and naval platforms. His content and write ups are derived from cross examination of open source rumors and information
 2月15日付のデジタル誌The Diplomatは、中国軍事問題専門家のRick Joeの" Predicting the Chinese Navy of 2030"と題する論説記事を掲載した。その中でRick Joeは、2030年における人民解放軍の戦力の見通しを立てることは非常に困難なことであると前置きした上で、現在計画中、ないし、建造中の艦船、空母、原子力潜水艦などの状況を詳細に検証した結果、不透明さはあるものの、世界第2位の海軍力を有していることになるだろうと判断していると述べている。
 
2 China’s Far Seas Naval Operations, from the Year of the Snake to the Year of the Pig
http://cimsec.org/chinas-far-seas-naval-operations-from-the-year-of-the-snake-to-the-year-of-the-pig/39745
The Center for International Maritime Security (CIMSEC), February 18, 2019
Ryan D. Martinson, a researcher in the China Maritime Studies Institute at the U.S. Naval War College
 2月18日の米シンクタンクThe Center for International Maritime Security (CIMSEC)のウェブサイトは、米海軍大学中国海事研究所のRyan D. Martinson研究員の" China’s Far Seas Naval Operations, from the Year of the Snake to the Year of the Pig"と題する論説記事を掲載した。その中で同研究員は、人民解放軍の最高幹部が海外展開中の海軍軍人らに向けて旧正月に発するメッセージに着目すべきだと指摘したうえで、2013年から2019年の同メッセージの要旨を取りまとめ、年々、人民解放軍海軍の地理的活動範囲が拡大していることや、当初、タスクフォースレベルの展開だったものがジブチやスプラトリー諸島への陸上インフラの展開へとレベルアップしていることなどを指摘し、今後も同メッセージが一つのベンチマークになると述べている。