海洋安全保障情報旬報 2019年1月11日-1月20日

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1月11日「自国権益を守るため軍事力を増強するインドネシア―ニュージーランドジャーナリスト論説」(Asia Times.com , January 11, 2019)

 1月11日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、ニュージーランドのジャーナリストJohn McBethの“Indonesia arming up in the South China Sea”と題する論説を掲載し、近年インドネシアが軍事力の増強を進めているが、それには課題も存在すると指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1) インドネシアは中国との国境紛争の存在を認めていないが、Joko大統領は天然ガスが豊富に埋蔵されたナトゥナ諸島に対する強硬な主権の主張を誇示している。南シナ海の緊張が高まる中でJoko大統領は、水路南端にある数百の小島で最大の大ナトゥナ島における軍事プレゼンスの強化という2年越しの公約を実行してきた。同計画を熟知するインドネシア当局者は、1,720平方キロメートルの面積を有する島(ますます主張を強める中国に最も近い面積が広い陸地)にはすぐに地対空ミサイルシステムや海兵隊大隊の一部の配備と空、海軍事施設の強化が行われるだろうと発言した。同基地は2018年12月中旬に開設された。
(2) インドネシア政府は2017年に国家地図を改訂し、ナトゥナ諸島北方の排他的経済水域(EEZ)を「北ナトゥナ海」と改称した。この動きは中国の抗議を招いた。中国外交部は在北京インドネシア大使館への公式書簡で、両国は南シナ海で重複する海洋を巡る主張を行っており、当該海域の改称はその事実を変えるものではないと表明した。
(3) インドネシアは係争地スプラトリー諸島の領有権主張国ではないし、舌の形状をした九段線がマレーシアやベトナム、台湾およびフィリピンなど様々な領有権主張国が争う南シナ海のほとんどを覆う中国とのいかなる国境問題も認めていない。しかしながら、いくつかの小規模な事案を経てインドネシアは、2016年3月に中国海警が北京の言うところの「中国の伝統的な漁場」でインドネシア当局が拿捕した漁船を取り戻した際に高まった緊張を当初軽く扱おうとした。インドネシア当局者を怒らせたのは、同国の漁業保護船が自国EEZ内で拿捕した中国トロール船の返還を強制すべく、重武装した中国海警船舶2隻がインドネシア領海内に侵入したことである。他の中国漁船2隻も2016年の5月と6月に拿捕されているが、それ以上の案件は公表されていない。これは北京が少なくとも今のところはインドネシアを近隣の小国とは別の扱いをすると決めたであろうことを示している。
(4) インドネシアの海上防衛力を増強するというJoko大統領の公約は、マレーシアやシンガポール、パプアニューギニア、東ティモールおよびオーストラリアと数多くの未解決海上国境問題を解決する一方で、国家主権を守るというインドネシア政府の決意を示している。専門家はインドネシア国軍(TNI)が大ナトゥナ島に100平方キロメートル以上の防空の傘を生み出す、ノルウェーのKongsberg Gruppensya社製の高度な中距離ミサイルシステム(AMRAAM)を配備すると考えている。また、インドネシア陸軍のAGM114R3ヘルファイア空対地ミサイルで武装した新アパッチ攻撃ヘリ8機の一部の拠点として、大ナトゥナ島を活用する議論が行われている。さらに、インドネシア政府は軍民共用で使用されている大ナトゥナ島の2,500メートルの滑走路を延長し、一層大規模な駐機場や格納庫と改良された燃料補給設備を建設しようと計画している。
(5) インドネシア空軍は同島に、東ナトゥナガス田とジャワ海に北方から通じる過密な航路への偵察能力を拡大すべく、無人航空機(UAV)を導入するだろう。外交筋はインドネシアが目下、大ナトゥナ島南東460キロメートルに所在する西カリマンタン州、州都パンティアナックのUAV部隊向けに「翼竜1」 UAV4機を中国航空工業集団から調達することを再検討していると証言する。その代わりに、インドネシアは最大24時間滞空できる上に、シリア上空における監視や武力偵察で性能を証明したトルコ航空宇宙産業(TAI)のAnkaドローンに注目している。
(6) インドネシア海軍は2016年に多発した中国との事案以降、北ナトゥナ海におけるパトロールの大部分を引き受けてきたが、軍の増強に詳しい情報源は大ナトゥナ島が本格的な基地となるには数年を要するだろうと述べている。それはつまり、洋上における燃料補給を強化すべく艦隊に2隻の石油タンカーを導入したことに加え、海軍の作戦範囲や効果を改善するため、大ナトゥナ島に燃料を貯蔵することを意味する。
(7) 大ナトゥナ島が脚光を浴びているにも関わらず、専門家はインドネシアの防衛政策策定者が材料を組み立て、包括的でまとまりのある海洋戦略を策定するにはしばしの時間を要するだろうと指摘する。ある外交専門家は「インドネシアは未だ海洋領域認識ドクトリンを有していない。彼らは何をすべきかを知っているが、誰が主導するかを決めなければならない。情報共有をシステム化し、成文化することは困難な仕事であり、省庁間で争う余地などない。」と述べた。
記事参照:Indonesia arming up in the South China Sea

1月14日「イランのチャーバハル港に対する印中両国の思惑―印ジャーナリスト論評」(The Diplomat.com, January 14, 2019)

 1月14日付のデジタル誌The Diplomatは、印フリーランス・ジャーナリスト、Dr. Sudha Ramachandranの“India Doubles Down on Chabahar Gambit”と題する論評を掲載し、イランのチャーバハル港に対する印中両国の思惑につて、要旨以下のように述べている。
(1) インドは、チャーバハルのShaheed Behesti港(抄訳者注:チャーバハル市に完成した第1期港の名称。本抄訳では総体としてチャーバハル港と表記)の運用を開始し、中央アジアにおける経済的、戦略的野心を実現する上で重要な前進を果たした。チャーバハル港の運用によってインドは、世界の石油の海上運輸の3分の1が通航する戦略的要衝、ホルムズ海峡の出入り口に拠点を確保することになろう。「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)のゲートウェイとして、特にパキスタンがグワダル港を中国に40年間リースしたことによって、この地域における中国のプレゼンスは、近年飛躍的に強化された。インドは、チャーバハル港開発プロジェクトへの参加によって、わずか72キロ離れたグワダル港における中国の活動を監視できるであろう。
(2) インドは、チャーバハル港への投資、開発そして運用によって、世界第3位の産油国、イランとの関係を強化することになろう。同港は、イラン経由でアフガニスタンに至る陸上通商路のゲートウェイである。インドはアフガニスタンへの陸路でのアクセスをパキスタンに拒否されており、従って、同港を通じてアフガニスタン再建に大きな役割を果たすことができるであろう。この通商路は、中央アジアの諸共和国とのインドの貿易を拡大することになろう。これら諸国との現在の貿易量は15億ドルで、インドの全貿易量のわずか0.11%に過ぎない。チャーバハル港が多国間の「南北輸送回廊」(INSTC)(抄訳者注:International North-South Transport Corridorはインドのムンバイとモスクワを船、鉄道および道路で結ぶ南北輸送回廊)に連結されれば、インドは同港がユーラシア大陸との連結のゲートウェイになることを期待している。チャーバハル港と INSTC の連結が実現すれば、インドのユーラシア大陸との貿易量は、1,700億ドル(輸出6,60億ドル、輸入1,074億ドル)に達すると見積もられている。インドは、チャーバハル港を5期に分けて開発しており、完成すれば、年間約8,200万トンの荷役能力を有することになろう。インド国営のPorts Global 社(IPGL)が当面18カ月間の港湾運営責任を担い、イラン、インド双方が合意すれば、その後10年間、リース期間が延長される。インドは16億ドルを投資して、チャーバハル港からイラン・アフガニスタン国境の近くのザーヘダンまでの鉄道を建設する。更に、インドの民間と国営の石油化学製品と肥料生産企業がチャーバハル港自由貿易地域に200億ドル相当の投資を計画している。
(3) オマーン湾の出入り口に位置するチャーバハル港は大きな経済的、戦略的重要性を持ち、イランにとってインド洋への直接アクセスが可能である。更に、イランの敵対勢力がホルムズ海峡を封鎖したとしても、同海峡から300キロ東にあるチャーバハル港は機能停止することはないであろうし、従って、このことは、国際的圧力に対するイランの脆弱性を軽減することにもなろう。これまで10万トンを超える大型船はアラブ首長国連邦の港に寄港していたが、チャーバハル港はイラン初の大水深港であり、今後はアラブ首長国連邦に支払っていた数百万ドルの寄港料を節約でき、同国への依存度を減らすことができよう。チャーバハル港はまた、陸封国家アフガニスタンのパキスタンへの依存度も軽減することができよう。同様に、トルコ、ロシア、バルト3国、中国およびイラン(バンダルアッパース港経由)の港湾に依存していた陸封国家の中央アジア諸国諸国にとっても、チャーバハル港経由のルートは、もう1つの海へのアクセス・ルートであり、しかも最短ルートとなろう。
(4) イランがチャーバハル港を地域貿易と積替ハブ港として開発する計画を、最初にインドに提示したのは2013年であった。イランに対する西側の制裁と、プロジェクトの実現性に対するインドの疑念、そしてプロジェクトの条件面に関する両国間の相違によって、計画実現には長い時間を要した。米国は、イランに対してこれまでにない厳しい制裁を科したが、2018年11月初旬、Trump政権は、チャーバハル港とアフガニスタンまでの鉄道建設を制裁除外対象とした。しかし、プロジェクトの完成までには、依然多くの課題が残っている。チャーバハル港の将来にとっての鍵は、船舶寄港の頻度とその取り扱い貨物量である。現在のところインドは、アフガニスタンへの輸送を重視しているが、これだけではチャーバハル港の経済的な持続可能性にとって十分ではない。湾岸協力会議(GCC)加盟諸国などの他の国も、アフガニスタンや中央アジア諸国との交易に同港を利用するようにならなければならないが、イランとGCC諸国との対立状況から、これら諸国が同港を利用することはないであろう。
(5) チャーバハル港プロジェクトがその潜在能力を完全に発揮するには、地域の連結性を強化する必要がある。しかしながら、資本不足でチャーバハル・ザーヘダン間の鉄道プロジェクトが停滞しており、INSTC プロジェクトは未だ着手されていない。加えて、中国はチャーバハル港プロジェクトに大きな影響を与える可能性がある。中国がグワダル港建設事業に関与したことは、チャーバハル港の将来に重要な意味を持つ。何人かのアナリストは、チャーバハル港とグワダル港との競合について、グワダル港に有利であると指摘している。グワダル港はチャーバハル港より10年先行しているだけでなく、同港に対する中国のより大きな投資と、CPECの一環としてのグワダル港からカシュガルまでの道路と鉄道建設の早さから、同港は港湾ビジネスの競争においてチャーバハル港に勝っている。また、中国はチャーバハル港プロジェクトに参加する可能性もある。イランは、チャーバハル港プロジェクトへの参加について、中国とパキスタンを含む、より多くの国を招請したいと、何度も表明してきている。
(6) 一方、インドには、特に北京とテヘランが既に強い経済的、軍事的関係を持っていることから、中国に対するイランの提案について懸念を抱いている。インドのネルー大学のGulshan Sachdeva教授は、純粋に地政学的観点から考えるアナリストや政策担当者のこうした懸念を退け、「チャーバハル港プロジェクトへの中国の参加は、グワダル港との間に相乗効果を引き起こし得ることから、長い目で見れば有用であろう」と指摘している。イランはインドと違って、中国が防波堤や埠頭そして港湾インフラへのアクセスを含む投資など、港湾の完全な管理運営権を求めるであろうことを理解している。主権問題に敏感なイランは、そうしたことを受け入れることはないであろう。中国はチャーバハル港の埠頭に対する運営権を狙っていると言われるが、今後数十年間のグワダル港に対する完全な管理運営権を既に取得していることから、北京は、チャーバハル港に対して事を急ぐことはないかもしれない。少なくとも現在のところ、チャーバハル港に対する中国の関心は、戦略的目標を追求するよりも、むしろインドの焦燥を高めることに狙いがあるように思われる。
記事参照:India Doubles Down on Chabahar Gambit

1月14日「中国のSSBNは信頼性のある第二撃力を提供できないー米専門家論説」(The Diplomat, January 14, 2019)

 1月14日付のWeb誌The Diplomatは、Patterson School of Diplomacy and International Commerce上席講師で米陸軍大学客員教授でもあるRobert Farleyの“Why China’s SSBN Force Will Fall Short for the Foreseeable Future”と題する論説を掲載し、Robert Farleyは米中間の技術的、地理的格差、中国の海軍力建設の傾向から、中国は抑止の柱となる信頼性のあるSSBN部隊を見通しうる将来にも保有し得ないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国に対する確実な第二撃力による抑止として機能する弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)に中国は単純に信頼を置くことができない。すべての弾道ミサイル搭載潜水艦が同じように建造されるわけではなく、同じ海洋環境で行動するわけでもない。最近の原子力科学者会報の記事でMITのOwen Coteは、冷戦期の米ソの長期にわたった対立の視点から米中のSSBNを比較検討した。Coteは見通しうる将来、米国は技術的、地理的優位に信頼を置くことができ、中国を潜在的に危険な状態に置くと同時に米国の抑止を安全に保つことができると指摘している。
(2) ソ連のSSBNが米攻撃型潜水艦の絶え間ない脅威に晒されている一方、技術の結果とある環境上の優位によって米国のSSBNは効果的に隠密性を維持してきた。ソ連はこれらの問題を意識し、解決のためベストを尽くしてきた。よく知られるように、ソ連は最終的に「聖域」戦略を決定した。これはSSBNの哨戒海域を防護するために大規模な艦隊を運用するものである。Coteが指摘するように、ソ連の問題解決は莫大な資源を必要とする。ソ連のSSBNが信頼できる隠密性を維持できないことはソ連海軍がSSBNを防護するために大規模な水上、航空、水中の部隊を必要とすることを意味する。NATOの潜水艦を探知することに関して、NATO、特に米国と同等のソ連独自の水中目標探知能力を開発するための地理的範囲がソ連には欠けていた。
(3) 現在にまで話を進めると、米中の潜水艦の間の技術的格差は米国と旧ソ連の間の格差と同じ、あるいはそれ以上である。さらに重要なことは、中国の太平洋への進出を監視する能力に関して米国が圧倒的な優位を持っていることである。技術的な詳細は複雑であるが、米国に捕捉、追尾されることなく米国の大部分を射程に収める哨戒海域に確実に到達することはできない。さらに、米国は人民解放軍海軍を封じ込めるチョークポイントへのアクセスを維持するための政治的、外交的に非常に重要な地位を保持している。最後に、そしておそらく最も重要なことは、中国が米国の潜水艦が侵入し、離脱するのを監視する同様の方策は現在保有していないし、今後、当分の間も保有しないであろうということである。
(4) このことは、おそらくより大きな地理的制約を伴って旧ソ連と極めて似た立場に中国を置いている。中国は聖域戦略を試みるだろう。しかし、今のところ人民解放軍海軍が自らを防御兵力と考えたいと思っている兆候はない。事実、中国の艦隊の建設は対潜戦が主任務であることを示していない。そして、このことは見通しうる将来において中国は米国に対し確実な第二撃力による抑止として機能するSSBN部隊を信頼することができないことを意味する。確かに、Coteが指摘するようにSSBNはインドやその他の核保有国に対して効果的な抑止力であり続けている。しかし、たとえ中国が搭載する弾道ミサイルの射程を延伸したとしても基地と哨戒海域に関して依然、厳しい不利を被るだろう。旧ソ連は米国の優位を覆すことはできなかったし、中国が同等になることができるとも思えない。
記事参照:Why China’s SSBN Force Will Fall Short for the Foreseeable Future

1月14日「中国のグローバルな膨張がアメリカの国防政策に与えるインプリケーション―米国防総省報告」(US DoD, January 14, 2019)

 1月14日付でアメリカ国防総省は“Assessment on United States Defense Implications of China’s Expanding Global Access”と題する報告書を発表し、中国の世界的な膨張がアメリカの国防に与える影響について要旨以下のとおり述べた。なお本抄訳は、本報告書の冒頭の要旨(Executive Summary)に当たる部分である。
(1) 中国共産党の対外政策に反映される戦略的目標は、インド太平洋地域におけるアメリカの排除、中国的な国家主導の経済モデルの拡大、同地域における秩序を中国の望ましいように再編することである。その目標達成のための軍事的な膨張は、東シナ海や南シナ海におよび、それによって同海域の主権をめぐる論争を惹起した。さらに中国は東南アジアや太平洋島嶼部へも進出し、2018年にはカンボジアやバヌアツにおける基地建設に関心を示した。中国の動きはその国際的な経済的利害の拡大に対応するためのものであり、中国の目はさらにその外部に向いている。
(2) 2017年に習近平国家主席が述べたように、いまや一帯一路政策は、北極やラテンアメリカなどを包含するものである。一帯一路政策は経済的利益の追求のみならず、より大きな戦略的目的の達成、すなわち、一帯一路を利用して他国との経済的紐帯を強化し、他国の利害と中国の利害を一致させ、主権問題に代表されるようなさまざまな問題について中国の味方を増やすことを目指すものでもある。
(3) 中国は一帯一路と並行して、デジタル・シルクロード構想を推進している。これは、情報・通信に関する先端技術分野に、中国の国有企業や政府傘下の企業が海外で投資することによって進められている。こうした投資は、受入国に利益を提供する一方、科学・技術分野での協力や技術移転などによって中国自身の科学・技術水準の向上を目的とするものである。こうしたなか、中国はたとえばAIなど戦略的先端技術において世界のリーダーとなることを目指している。先端技術分野における中国の急速な発展はアメリカの国防問題と無関係ではない。それら技術においてリードすることは、経済発展だけでなく、軍事的アドバンテージの維持にとってもきわめて重要なことなのである。
(4) 国防総省は、近年中国による行動の多くに懸念を抱いている。なぜならそれが国際規範から外れ、国家の主権を無視し、アメリカやその同盟国およびパートナー安全を脅かすものだからである。2017年、ジブチ共和国に中国人民解放軍初の海外軍事基地が開設された。おそらく今後もこうした基地の建設は進むであろう。それらは中国の抑止力を強化し、海外での軍事行動を支援し、戦略的に重要な通商路の獲得や保護を可能とするものであろう。
(5) 一帯一路政策における投資のなかには、中国が軍事的・政治的な利益を獲得しうるものもあった。実際、中国による投資の多くは、受入国への利益を提供する一方で、しばしば「ヒモ」を伴うものである。本報告書では、中国の投資が受入国にマイナスの経済的影響をもたらした例や、受入国の主権を侵害した例などについて、17の事例が列挙されている。
(6) 国防総省は、中国のグローバルな膨張が持つ含意が以上のように整理されるとして、中国やロシアとの長期的な戦略的競合が国防総省の最優先課題だという方針に沿って以下の4つの戦略的手法を遂行している。
a. 軍事的アドバンテージを維持するための軍事力の増強。
b. 同盟国およびパートナー国家の強化。
c. 国防総省の組織再編による、より大きなパフォーマンスの達成。
d. 競合する地域の拡大。それによりアメリカのアドバンテージを生み、競争相手にジレンマを与える。
ただし、ここでいう「競合」は必ずしも対立を意味せず、相互に利益となる分野においては協同もありうるのである。
(8) 中国のグローバルな活動の拡大が、軍事的な問題にのみ限定されるのではないという理解に基づき、国防総省は、政府全体としての対応や省庁間のイニシアチブを推奨する。本報告書には実際にとられてきた省庁間イニシアチブのいくつかが列挙されている。国防総省は今後も中国の行動についての評価を続けるとともに、抑止が失敗したときに戦争を戦い抜き、勝利するための軍事力の提供を保証するものである。
記事参照:Assessment on United States Defense Implications of China’s Expanding Global Access

1月15日「日仏がインド太平洋における海洋協力の強化を目指す-The Diplomat誌編集委員論説」(The Diplomat.com, January 15, 2019)

 1月15日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌編集委員Ankit Panda の“France, Japan Look to Increase Indo-Pacific Maritime Cooperation“と題する記事を掲載し、本記事でAnkit Pandaは、インド太平洋における日仏の海洋における協調強化の動きについて要旨以下のように述べている。
(1) 日仏がインド太平洋での共同軍事訓練を目指している。近年、フランスではEmmanuel Macron大統領がHollande政権に引き続きインド太平洋への関与を強める政策をとってきている。1月11日にはフランスのブレストで第5回目となる日仏外交・防衛当局による2+2会合が開催され、日本側から河野外務大臣と岩屋防衛大臣が、フランス側からはLe Drian欧州・外務大臣とParly軍事大臣が出席した。2+2会合での共同声明では、地域と世界における両国の安全保障上の共通の関心事項が示された。注目すべき点として、日仏両国は今年後半に包括的な海洋対話を開催することで合意している。これにより、両国は太平洋でより強固な軍事協力を進めることになるだろう。
(2) フランスは太平洋に軍事基地を保有しており、2017年にはグアム沖でアメリカ、イギリスそして日本との共同訓練に参加している。日仏両国は、インド太平洋における航行の自由を唱え続けており、間接的に中国の東・南シナ海における高圧的な行動を牽制している。今回の共同声明でも、両国はアジアの紛争海域での1国による緊張を高めるような行動に強い反対の意を表明している。
(3) フランスは南シナ海においてもアメリカと同一の立場をとり、静かではあるが「航行の自由」作戦とプレゼンスの維持作戦を遂行している。2016年のシャングリラ会議では当時のLe Drian軍事大臣が「フランスは南シナ海におけるEUによる常続的なパトロールを支持する」と述べている。一方、日本は2015年以降、「航行の自由」作戦ではないが海上自衛隊が定期的に南シナ海を航行している。今回の2+2会合で日仏両国は定期的な共同訓練を実施することで合意しているが、それが南シナ海で実施されるか否かは明確にされていない。
(4) フランスは150万人がインド太平洋地域の海外領土に居留あるいは在海外省庁で勤務しており、一方その排他的経済水域は900万平方キロにおよび世界第2位の広さを誇っている。海洋の安全保障以外でも日仏両国政府は、北朝鮮を含む地域の安全保障問題も話し合っており、核兵器の完全な廃棄が実現されるまでは国連安全保障理事会決議を遵守することを確認している。
記事参照;France, Japan Look to Increase Indo-Pacific Maritime Cooperation

1月15日「米英海軍、南シナ海で共同訓練―米第70任務群広報公表」(U.S. Pacific Fleet News, January 15, 2019)

 1月15日付の米太平洋艦隊ニュースは、米海軍第70任務部隊広報の“American, British navies sail together in South China Sea”と題する記事を掲載し、米英海軍の艦艇が南シナ海で共同訓練を実施したことを要旨以下のように報じている。
 米ミサイル駆逐艦McCampbellと英フリゲートArgyllは、1月11日から16日にかけて南シナ海で共同訓練を実施した。洋上で両艦は、通信訓練、戦術運動訓練、乗組員の交流を実施した。これら訓練は、海洋安全上の共通の優先事項に対処し、相互運用性を強化し、今後何年にもわたる両海軍の関係を構築するよう計画されたものである。英フリゲートArgyllは現在、地域の安全と安定を支援するためにインド太平洋に派遣されている。この派遣は、12月21日から22日に行われた米英海軍、海上自衛隊の3カ国による対潜訓練に続いて行われたものである。米海軍は地域の安全と安定を促進するため、定期的に同盟国あるいはパートナー諸国と2国間あるいは多国間で飛行し、航海し、作戦を実施している。駆逐艦McCampbellはインド太平洋地域の安全と安定を支援するために第7艦隊作戦海域に前方展開されている。
記事参照:American, British navies sail together in South China Sea

1月16日「ASEANによるMDAのための情報共有―豪専門家論評」(The Strategist, January 16, 2019)

 1月16日付の豪Australian Strategic Policy Institute(ASPI)のウェブサイトThe Strategistは、ASPIの安全保障の専門家であるJohn Coyne とIsaac Kfir の“Improving maritime security in the Asia–Pacific”と題する論説を掲載し、ASEANによる海洋安全保障に関するMDAのための情報共有の取り決めという課題について、要旨以下のように述べている。
(1) ここ数年、アジア太平洋地域の海洋安全保障環境は、ますます複雑になっている。海洋領域での国境を越える深刻かつ組織的な犯罪、テロリズム、そして、ますます主張を強めている中国の海洋戦略が、さらなる複雑性を生み出している。驚くことではないが、この地域による非軍事と軍事の海洋安全保障の重視が、アジア太平洋地域全体での、より包括的で協調的な海洋状況把握(MDA)に対する需要を高めている。しかし、多くのコメンテーターがMDAに関するより大きな地域協力の必要性を強調している一方で、そのアイデアをいかにして本格的な多国間協定に変えるかについて、合意に達することは困難であることが証明されている。
(2) キャンベラ周辺の政策担当者たちの一部は、EUのMaritime Analysis and Operations Centre – Narcotics(MAOC–N)が地域協力を改善するための実行可能なモデルを提供することを示唆している。MAOC–Nは、EUの援助の下で2006年に7つの国によって、喜望峰からノルウェー海の麻薬密売と闘い、対策を講じるための多国間フォーラムとして設立された。この投資は海賊行為と違法薬物の流れを妨害することで実を結んだ。MAOC-Nの成功は、ヨーロッパの協力の深さと幅、そしてEUの十分に発達した組織構造によって支えられてきた。残念なことにこれらの状況は、概してアジア太平洋には、より明確にはASEANには存在しない。
(3) その複雑な地政学的背景のために、法執行機関の情報とインテリジェンスの地域内および地域間、そして世界規模での共有のためのASEANの枠組みは複雑であり、しばしば舵取りを行うことが難しい。ASEANは情報交換を行う公式および非公式の様々なネットワークを運営している。ほとんどの場合、この作業を促進する枠組みは、長期的な対人関係および機関間の信頼関係によって支援されている。これらの枠組みは、集合的に複雑に関係する取り決めを形成する。ASEANにおける信頼と共有の関係を可能にするこの特徴は、複数のコミュニケーション・チャンネルの発展も促進してきた。必ずしも効率的な結果をもたらすわけではないが、これらの複数のチャンネルは、運用機関に情報交換の機会を提供するのに効果的である。ASEANにおける法執行機関の情報共有である多様化し、多くの場合は区画化されたシステムには、いくつかのリスクと課題がある。中心となる貯蔵所がなければ、知識への分散アクセスを危うくし、そして、明確な情報アーキテクチャがなければ、重複した報告とフィードバック・ループのリスクが高まる。
(4) 2010年のASEAN地域フォーラムの海洋安全保障に関するセッション間会合で、米国政府は、ASEAN Regional Forum Transnational Threat Information-sharing Centre(ATTIC)の設立を提案することにより、これらの課題に対処しようとした。しかし、ASEAN加盟国間の当事者意識の欠如は、政策的に不確実な状態において、この考えが放置されるのを見過ごした。多くのオーストラリアの当局者は、新しい地域MDAメカニズムの開発を推進したり、ATTICを支援したくなるかもしれない。ただし、アジア太平洋地域のMAOCタイプの取り決めの作成は危険を伴う提案で、言語、技術、信頼、地政学的なハードルを無視すると、アジア太平洋地域のMAOCは、地域のすでに複雑な情報共有の取り決めに官僚主義をさらに付け加える可能性がある。オーストラリアとそのパートナーたちは、これまでの成功を考えれば、2つの既存のメカニズム、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の情報共有センターおよびInformation Fusion Centre(IFC)へのさらなる投資が、より有用性があると気づくかもしれない。
記事参照:Improving maritime security in the Asia–Pacific

1月16日「米中両国の海軍トップによる会合―米専門家論評」(The Diplomat, January 16, 2019)

 1月16日付のデジタル誌The Diplomatは、ニューヨークを拠点とするライターで研究者のSteven Stashwickによる“Heads of US and Chinese Navy Meet in Beijing”と題する論説を掲載し、米中海軍同士の話し合いは海上での偶発的なリスクを軽減するとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米海軍作戦部長のJohn Richardson大将は、1月14日に北京での専門家対話のために彼の中国のカウンターパート、中国海軍司令官沈金龍中将に会った。米海軍の発表によると、この会合は、望まれていない不必要なエスカレーションを防ぐ目的で、海上における軍事活動の安全とリスク軽減のための対策を通して、この2国の海軍間の専門家の交流を促進することに焦点が当てられていた。この2人は、かつて2018年に米海軍大学で開催された国際海軍シンポジウムで会ったことがあり、2017年に彼が中国海軍のトップになってから、3回のビデオ会議で話し、それは最近では12月に行われた。2018年のシンポジウムへの沈中将の出席は、ロシア製軍事装備を購入した中央軍事委員会当局者たちへの米国の制裁に対する中国の対応の一環として、彼が北京に呼び戻された際に短縮された。この訪問の前に、Richardson大将は、「リスクを減らし、誤算を避けるため、特に摩擦がある時は定期的な意見交換が不可欠である。誠実で率直な対話は建設的な方法で関係を改善し、共通の利益を共有する分野の探求を助け、違いを乗り越えながらリスクを減らすことができる」と述べている。
(2) 両国の船舶と航空機は、東シナ海と南シナ海で頻繁に接触している。中国は、自国の沿岸付近の米国の監視飛行と、外国の軍艦は中国の許可を得た場合のみ活動できると主張しており、権利を主張している領土付近で活動している米国の艦船に異議を唱えている。中国の戦闘機は、しばしば米国の哨戒機を妨害し、時にはそれらの周りで危険な、またはプロとは思えない飛行を行ってきた。米海軍の観点からは、これらの事件は中国海軍との対話を継続することの重要性を強調している。ただし、この2国の海軍が相違を解決したり、自分自身で事件を防止したりする能力には実質的な制限がある。米海軍は、一方的に監視飛行又は「航行の自由」を行うのではなく、文民の政治的指導者によってなされた政策および決定を達成するためにそうする。同様に中国海軍は、中央軍事委員会の政治的指導者によって設定された範囲内で行動する。海軍は、彼らの艦船と航空機が敵対的な行為から身を守るためにどのように行動するかについて、最も裁量をもっている。軍事レベルでの話し合いが、自国の船舶と航空機とのやり取りに関する曖昧さを軽減する理解につながるならば、一方の国の意図ではない場合に、行為が敵対的または脅迫的であると誤解される可能性というリスクを軽減する。
記事参照:Heads of US and Chinese Navy Meet in Beijing

1月17日「ブレクジット後に極東に帰ってくる英国――豪東南アジア専門家論評」(The Diplomat, January 17, 2019)

 1月17日付のデジタル誌The Diplomatは、Australian Command and Staff CollegeやAustralian Defence Collegeで教鞭をとる東南アジア専門家のCarl Thayerの“After Brexit: Global Britain Plots Course to Return to the Far East”と題する記事を掲載し、ブレグジット後の英国がアジア太平洋地域における戦略を強化するだろうとして、要旨以下のとおり述べている。
(1) 2016年、英国のTheresa May首相とBoris Johnson外相(当時)は、ブレグジット後の英国の新たな姿として、グローバル・ブリテンという構想を抱いていた。それは特にインド太平洋における英国のプレゼンス強化を目指すものであった。これまでの英国の対外政策はEUの枠組みにおいて推進されてきたもので、あまりに欧州との結びつきが強く、長期にわたるものであった。しかしEU離脱によって、英国は、これまでとは異なるグローバルな視点で世界を眺める必要が生じるのである。この点についてGavin Williamson国防相は、2018年12月30日に、「われわれは世界を舞台に、世界がわれわれに期待する役割を演じることができるであろう」と主張した。その新しい英国の視線の先にあるのがインド太平洋地域であった。
(2) 英国の新しい方針を表すもののひとつが、東南アジアにおける軍事基地建設計画である。英国は、1971年の5ヵ国防衛取極(Five Power Defence Arrangement:FPDA. 英国、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド)に基づき、同地域の防衛に長い間コミットしてきたが、現在のところ、シンガポールのSembawang海軍基地に小規模の兵站施設があるだけである。新しい基地の建設候補地はブルネイとシンガポールだと報じられている。
(3) インド太平洋地域へのコミットメント強化のもうひとつの方法が、軍艦の派遣である。2018年、国連による対北朝鮮経済制裁を執行する活動などの一環として、強襲揚陸艦Albion、対潜フリゲート艦Sutherland、フリゲート艦 Argyllが極東に派遣された。ArgyllとSutherlandは日本、韓国、米国との海軍共同演習にも参加し、AlbionはFPDAの海軍演習に参加した。2018年半ば、英海軍は仏海軍機動部隊とともに、南シナ海における「航行の自由」パトロールを実施し、8月末にはAlbionが西沙諸島近くの海域で航行の自由パトロールを行い、ホーチミンへの親善寄港を行っている。
(4) 英国がインド太平洋地域への関与を深めることを決定した背景には、三つの要因がある。第一に、ブレクジット後の英国がEU加盟国としての制約から開放された独立したアクターとして、新しい方針を打ち立て、新しい役割を演じなければならないということである。第二に、グローバルな通商の拡大や成長を牽引するインド太平洋地域の経済成長によってもたらされる好機を英国がつかむ必要があるということである。これには、オーストラリアや日本、韓国やシンガポールなどとの自由貿易に関する交渉や、CPTPPへのアクセスも含まれる。第三に、インド太平洋の防衛への関与は、英海軍の能力や、安全保障パートナーとしての信頼性を証明するために重要である。このことと関連するのが英国の兵器売却である。2013年から2017年の間、英国は世界第6位の兵器輸出国であった。英海軍の能力の証明は、兵器輸出にとっても重要なことなのである。
記事参照:After Brexit: Global Britain Plots Course to Return to the Far East

1月17日「南シナ海の領有権交渉ペースに不満を示すベトナム、米中の狭間で模索するパワーバランス―香港紙報道」(South China Morning Post, January 17, 2019)

 1月17日付のSouth Chine Morning Post電子版は、"Vietnam frustrated by slow pace talks on South China Sea code of conduct"と題する記事を掲載し、要旨以下のように報じている。
(1) ベトナム外相Pham Bình Mihnは、海洋の安定維持を保証した14日の中越による領土と海洋国境を巡る直近の交渉後にコメントを出した。同外相は現地メディアにハノイが米中の対立が高まる最中に、両国間でバランスの維持に努めていると述べた。Mihnは長年に亘る交渉にも関わらず、未だにまとまらない「南シナ海行動規範」の遅々とした進展ぶりにも不満を表明した。
(2) 中国とASEANは2018年8月に条文交渉に向けた草案の集約と2021年までの交渉妥結への期待で合意したが、Mihnは一連のプロセスが「期待していたよりも遅い」と断じた。同外相は、ベトナムは独自の立場を追求して係争海域における紛争の回避に資すべきだが、まさにそうしたことがハノイと北京の関係を改善する「最大の障害」だと指摘した。
(3) 先週、米海軍の誘導ミサイル駆逐艦McCampbellは北京の非難を招来した「「航行の自由」作戦」を実施し、係争地であるパラセル諸島近傍を通過した。ベトナムは航行の自由の権利を尊重すると表明する一方で、中国や関係国も領有権を主張するパラセル諸島とスプラトリー諸島に対する領有権を改めて主張した。こうした事態を受けて、ベトナムと中国の副外相は14日に国境に関する直近の協議を行った。シンガポールの南洋工科大学の海洋安全保障プログラム主任研究員Collin Kohは、中国とベトナムがあまりセンシティブではない区域での協力継続を欲していたと指摘した。彼は中越が自らの陸上国境係争の解決を「中越が主権の問題をいかに管理できるのかという事例」だと見なしているが、「それは必ずしも歴史的な要因や南シナ海で中国が近年行ったことに由来する永続的な不和を排除するものではない」と語った。
(4) Kohは、両国関係が他の分野における「通常営業」と相まった「融和的な提案の公然かつ意欲的な表明」という類似パターンを踏むだろうと予想する。彼は中国にとってそれが南シナ海の継続的な軍事化を意味すると同時に、ベトナムはインドや日本そして米国などの諸国と一層緊密な安全保障関係を育むことで勢力均衡を模索し続けるだろうと指摘した。
記事参照:Vietnam frustrated by slow pace talks on South China Sea code of conduct

1月17日「スービック湾の造船所の行方―ニューヨークタイムズ報道」(The New York Times, January 17, 2019)

 1月17日付のThe New York Times電子版は、“Philippines Should Take Over Shipyard to Keep It From Chinese, Officials Say”と題する記事を掲載し、スービック湾の造船所をめぐるフィリピン政府関係者の思惑について、要旨以下のように報じている。
(1) フィリピン政府関係者たちが、フィリピン最大の造船所を買収しようとしている中国企業が中国政府の代理人として行動するという懸念を提起した後、1月17日木曜日に国防大臣が「フィリピン政府はその造船所を管理するべきだ」と語った。政府関係者によると、スービック湾の広大な造船所に関心を示している外資系企業の中には2つの中国企業があり、そのうちの1つは国営企業である。彼らは、中国がその造船所を買収することは戦略的な足がかりを中国に与えることになると懸念を表明している。国防大臣のDelfin Lorenzanaは1月16日、Rodrigo Duterte大統領との会合で造船所の問題を提起したと述べた。この会議にはまた、Teodoro Locsin Jr.外務大臣とこの国の経済の管理者たちが参加した。「フィリピン海軍は、なぜ我々がそこに海軍基地を持つようにフィリピンが買収しないのかと提案した」「それならば造船能力が手に入る」と彼は大統領との会話について1月17日に外国の特派員たちに詳しく述べた。
(2) 政府はその用地を所有してリースしており、国防大臣は、米国、オーストラリア、日本および韓国の企業も関心を表明していると述べた。しかし彼は、フィリピンの上院議員による「国が今それを完全に取得すべきである」という提案に同意すると述べた。この問題に関するDuterteの立場は明確ではない。ルソン島のマニラから北西に約50マイルのスービック湾は、冷戦中の米国の主要な海軍基地があった用地であり、南シナ海に面して開いている。政府関係者たちは関心を示している企業を特定していない。しかし、多くの国で中国企業が、政府の管理下にない企業ですらも産業スパイ活動にしばしば従事し、中国政府の影響力およびスパイ活動の取り組みのツールとして行動するという懸念が高まっている。このことについて、スービック湾の造船所も中国に利用されうる。Duterteの中国に対する友好的な姿勢についての辛辣な批評家であるフィリピン最高裁判所の判事Antonio T. Carpioは、スービック湾での中国のプレゼンスに対して公然と警告した政府関係者の1人である。「彼らが真向かいの西フィリピン海を奪取しようとしているとき、なぜ中国人がスービックの足場を築くことを許可するのだろうか」「道理に合わない」と彼は述べた。
(3) 韓国企業である韓進重工業のフィリピン支社が2006年にその用地を買収し、造船所を建築した。それは、2万人以上雇用するようになり大型貨物船を建造していた。しかし、新しい造船の需要は鈍化し、何千人もの労働者が解雇され、約4億ドルの債務で焦げ付いた後、韓進のフィリピン支社は今月破産を申請した。国防長官のLorenzanaは、この造船所は、同国が海軍を増強することに役立てることができると述べた。「フィリピン海軍は今後10年間で20隻の艦艇を購入することを望んでおり、沿岸警備隊と漁業水産資源局は船舶の発注を保留している」と彼は述べた。「だからこそ、このフィリピンの造船所には十分な雇用があると思う」と語ったLorenzanaは、この地域での中国の軍事力増強に警戒しているDuterte内閣の当局者の1人と見られている。同氏によると、政府はこの造船所を完全に引き継ぐことも、少数株主持ち分を維持しながら過半数の株式を他の誰かにリースすることも可能だという。「そのようにしても我々は管理権をもつことができる」とLorenzanaは述べ、政府の財務部門は現在も彼の考えを検討していると付け加えた。「我々は我々の領土のどこであろうとも譲ってはならず、また譲ることもない」と彼は述べた。
記事参照:Philippines Should Take Over Shipyard to Keep It From Chinese, Officials Say

1月19日「米海軍作戦部長、台湾海峡への空母派遣の選択肢を排除せずと言明―香港紙報道」(South China morning Post, January 19, 2019)

 1月19日付のSouth China Morning Post電子版は“US Navy chief refuses to rule out sending carrier through Taiwan Strait despite China’s growing military capabilities”と題する記事を掲載し、John Richardson米海軍作戦部長が高まる中国海軍の脅威にも係らず、台湾海峡に米空母を派遣することを躊躇しないと言明したとして、要旨以下のように報じている。
 (1) 1月18日金曜日、米海軍作戦部長は中国軍の技術的な発展により高まる脅威に係らず、台湾海峡への空母派遣の選択肢を排除しないと言明した。ワシントンは昨年、戦略的海域である台湾海峡で3回艦艇を航行させたが、空母はここ10年ほど派遣していない。この間、中国は対艦攻撃用に設計されたミサイルの配備など装備の近代化を進めている。John Richardson作戦部長は、中国軍の高性能な兵器(抄訳者注:対艦弾道ミサイルなどを念頭に置いたものと思われる。)が危険をもたらすのではないかとの質問に対し「これらの海域を通航できる艦種に制限はない」として「我々は台湾海峡を他の海域と同じ国際水域と見なしており、だからこそ通過通航を実施するのだ」と強調した。
 (2) このコメントは、統一に関し北京が新たに積極的な動きを見せる中での緊張の高まりを反映したものであり、これを受けて台北とワシントンは互いに接近しつつある。1月初め、習近平国家主席は、中国は武力行使を排除しないと繰り返し述べつつ、台湾は最終的に統一されなければならないと主張した。彼は平和的統一を妨げるため介入する外部勢力に対し「全ての必要な措置を採る選択肢を留保する」と述べている。また、昨年10月には南シナ海および台湾を担当する戦区に対し「戦争遂行準備」を命じている。一方、台湾の蔡英文総統は台湾の民主主義を守るための国際的な支援を求めている。
(3) 日本訪問に先立ち中国に立ち寄ったRichardsonは、米国は北京、台北いずれの一方的な行動にも反対すると述べた。彼はまた、中国にCUES(洋上で不慮の遭遇をした場合の衝突回避規範)を遵守するよう求めた。この要請は昨年10月、「「航行の自由」作戦に従事していた米駆逐艦Decaturに中国駆逐艦が異常接近した事案を受けてのものである。米海軍は、南シナ海における北京が領有権を主張する海域での航行を継続しており、1月7日には米国のミサイル駆逐艦が中国の占拠する島の12マイル以内を航行、「中国の主権を著しく侵害した」という北京の抗議を招いた。南シナ海の戦略的海域ほとんど全ての領有権を主張する中国は、その意図は平和的なものだとしているが、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナムはこれと競合する主張をしている。
(4) 専門家は、米中双方の台湾に対する積極的な姿勢が他の分野にも影響する可能性が高いと指摘する。香港中文大学の比較政治学講師James Floyd Downesは「台湾問題は両国間の大きな障壁であり、将来的にも米中間の協力の阻害要因となる可能性がある」として、台湾問題に係る見解の相違が経済や進行中の貿易摩擦の問題など他の分野に影響を与える可能性が高いと主張する。Downesはまた「米中関係の悪化が続くと世界経済にも影響を及ぼす可能性がある」と指摘している。また、韓国釜山大学校客員教授でパシフィックフォーラム特別研究員であるRyo Hinata-Yamaguchiは、Richardsonのコメントは「米海軍は中国の軍事的な進歩によっても何ら脅かされることはない」という明確なシグナルとしつつ、「双方とも相手が現状を混乱させていると見ており、米国は中国の台湾への姿勢に懸念を強め、一方、ワシントンの対応は北京を硬化させるだろう」と指摘している。
(5) 一方、確かに緊張は高まったが、必ずしも軍事紛争の可能性が高まったわけではないと指摘する専門家も居る。香港嶺南大学の安全保障アナリスト・張泊匯は、米国の活動の活発化は外交的な駆け引きと見なすべきと主張する。「米国はこの問題の敏感性を認識しており、慎重に対処し続けるだろう。自分は、米国が台湾海峡に直ちに空母を派遣する計画を有しているという見方には懐疑的である」と張は述べている。北京とワシントンは、不必要な軍事紛争を回避するため、危機的なコミュニケーションギャップを解消するメカニズム作成に昨年合意した。「Trump政権はこれまで台湾海峡に空母を派遣する可能性について言及してきたが、結果的には何もしていない」として、「双方は戦争の危険性を認識しており、そのことが台湾海峡における米国の行動を抑制的にしている」と張は指摘している。
記事参照:US Navy chief refuses to rule out sending carrier through Taiwan Strait despite China’s growing military capabilities

【補遺】

1 Troubled Waters: The US Navy and the Return of Great Power Politics
https://www.geopoliticalmonitor.com/troubled-waters-the-us-navy-and-the-return-of-great-power-politics/
Geopolitical Monitor, January 18, 2019
Erik Khzmalyan is a Senior Fellow at the Eurasian Research and Analysis Institute and an MA candidate in Statecraft and National Security Affairs at the Institute of World Politics in Washington, DC.
 2019年1月18日のウェブ誌Geopolitical Monitor.comは、米シンクタンクEurasian Research and Analysis Institute のErik Khzmalyan主任研究員の“ Troubled Waters: The US Navy and the Return of Great Power Politics "と題する論説記事を掲載した。その中で同研究員は、歴史的に見ても海軍力のバランスが崩れたときに戦争が勃発していることを指摘した上で、米国が進めてきた海軍力の削減と人民解放軍海軍の増強によって生じたアンバランスに対して、米国は(コスト削減という基本方針を維持するためにも)同盟国との連携を強化しながら、海軍力の強化を通じて中国の海洋進出を抑制していかなければならないと主張している。
 
2 US-China battle for dominance extends across Pacific, above and below the sea
https://www.scmp.com/week-asia/geopolitics/article/2182752/us-china-battle-dominance-extends-across-pacific-above-and
South China Morning Post, January 19, 2019
Meaghan Tobin, a Fellow at Meridian Institute (US)
 2019年1月19日のSouth Chine Morning Post電子版は、米シンクタンク、Meridian InstituteのMeaghan Tobin研究員の“ US-China battle for dominance extends across Pacific, above and below the sea”と題する論説記事を掲載した。その中で同研究員は、ミクロネシア北西部に所在する米国領マリアナ諸島に関し、米政権が長らくこれらのワシントンから距離のある地域に関心を向けてこなかった間隙を縫って中国が影響力を増してきており、中国は経済的影響力だけでなくマリアナ海溝での海洋調査などを実施し将来的な潜水艦の活動などを視野に入れていると警鐘を鳴らした上で、米国はマリアナ諸島などに関する戦略的な政策運営を実施することで南シナ海問題を含めた競争関係を緩和させることが可能だと指摘している。