海洋安全保障情報旬報 2018年12月21日-12月31日

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12月22日「インド洋に展開する中国海軍が巻き起こす波紋―伊専門家論説」(Asia Times.com, December 22, 2018)

 イタリアのジャーナリストEmanuele Scimiaは、香港のデジタル紙Asia Timesに12月22日付で“Chinese Navy makes waves, spreads wings over Gulf, Indian Ocean”と題する論説を寄稿し、ソマリア沖の海賊対策に任務部隊を派遣している中国海軍のインド洋展開の企図などについて要旨以下のように述べている。
(1) 中国人民解放軍海軍は混乱したソマリアにおいてうまく立ち回り、中国の地理的範囲をはるかに超えた地域での活動を通じて貴重な経験を重ねているが、そのことは一部で懸念も生んでいる。中国人民解放軍海軍第31任務部隊はインド洋西部のアデン湾周辺で海賊対処行動を実施し商船を護衛している。この任務部隊は誘導ミサイルフリゲート艦、ドック型揚陸艦と補給艦から構成され、3機のヘリコプターを擁するほか、700人の将兵と幾つもの特殊作戦部隊に支えられている。それらは重要な力を発揮し、ブルーウォーターネイビーとしての本質的な経験を積むものである。一方、こうしたインド洋における中国海軍のプレゼンスの高まりは、北京が東アジアにおける伝統的行動範囲からの兵力投射のために海賊対処や商船護衛を利用しているのではないかという議論も引き起こしている。
(2)  2018年12月26日、人民解放軍海軍はソマリア沖に展開して10周年を迎える。この10年間、中国の海軍は同地域への関与を拡大し、中国の国民および海外権益の保護のため海賊対処及び商船護衛活動を実施した。人民解放軍の公式英語ウェブサイト、China Militaryによれば、海賊対処活動の開始以来、延べ100隻以上の艦船と26,000人の将兵が派遣されている。この期間中に6,595隻の船舶が護衛を受け、60隻以上の中国及び外国艦船が人民解放軍海軍艦艇による支援ないし救助を受けた。ソマリア沖海賊対処で活動中の国際海軍部隊にとっても中国は信頼できるパートナーである。ソマリア欧州連合海軍部隊(EU NAVFOR)のアトランタ作戦において中国の貢献は何度も称賛されて来た。昨年10月には中国初の海外軍事施設であるジブチの中国軍基地において、EU NAVFORと人民解放軍海軍の合同演習も実施されている。
(3) China Dailyの最近の記事で、中国の海軍専門家はインド洋における中国海軍の平和維持活動や海賊対処活動は、海外における強権的な兵力投射や戦略的な水域確保を目的としたものであるという見方を否定した。米海軍大学のJames R. Holmes教授も概ねこれと同意見であり、「ここ10年間の中国人民解放軍海軍の海賊対処行動は、中国が良き国際市民として行動する一助となったと同時に、国際的な海上安全保障にも計り知れない貢献をしてきた。長期展開時に海外に拠点を維持することは運用上の慣行からしても当然の見返りである。」と指摘している。ホームズはまた、「海軍は海上で行動することによってしか実力の向上を図れない。」として、「港内に留まり、行動しない艦隊は緊急事態に際し上手く機能しない。」として、アデン湾での経験は中国海軍にとって二重の意味で有益であったと述べている。
(4) しかし誰もがそのような楽観的見方をしているわけではない。例えば、オーストラリア国立大学National Security College上級研究員のDavid Brewsterは、中国のアデン湾への展開を否定的に見ている。Brewsterは、中国は他の主要国と同じく、戦略的な利益を守るためにインド太平洋地域全体で軍事力を急速に増強してきたとして、「中国が自国の利益を主張するために軍隊を海外に展開しているわけではないと主張しても、誰もそれを信じない。」とし、中国が自身の利益を守るために必要と考える場合には、他国の領域において軍隊を使用しない理由はないと指摘している。
 また、シンガポール南洋工科大学S.ラジャラトナム国際関係学院研究員のCollin Kohはこれを認識の問題であるとし、北京による海賊対処任務部隊のアデン湾派遣は、緊張緩和を意味するものではなく、こうした活動は国際社会に貢献するものとして正当化するためであると指摘している。そしてこれらが「中国の外交面、経済面、軍事面における急速な台頭に対する不安と懸念の高まりに関連して見られる場合には一層の不安をかきたてることになる」とKohは述べている。
(5) こうした中国のインド洋進出に係る懸念は、中国がそのような力を実際に行使し得るのかという問題もあり、Kohはこの点について、中国が戦略的海域の支配権掌握を目的としていると断ずるのは時期尚早として「我々はシー・コントロールということを検討している。北京によるインド洋支配は必要な能力とインフラを有している場合のみ可能であるが、中国はインド洋沿岸国ではなく領土となる海岸線も有してはいないし、インド洋に常駐しているわけではないということにも留意しておく必要がある」と指摘している。
(6) ただし、Kohは、この地理的な不利益はいくつかの分野における技術的進歩によって軽減もできると指摘している。例えば中国は、長距離展開のための様々な機能を構築し、また、海洋観測ネットワークとこれに係るC4ISR改善の大規模なプログラム、通信、コンピューター、インテリジェンス、監視偵察のための様々なリモートセンシング及び無人プラットフォームで構成されるシステムの整備などもある。もっとも彼自身、まだ現時点ではこれらの改善も「インド洋沿岸に海岸線を有していないという中国の地政学的不利益を軽減するまでには至っていない」と認めている。
(7) いずれにせよ海外軍事施設の増加は、中国の海外展開部隊創設に不可欠であり、Brewserも「インド洋は中国本土から遠く離れており、陸海空軍には海外展開基地が必要である」と指摘し、ジブチはその端緒に過ぎず、今後着実に増加していくだろうと述べている。一方、Holmesはこの点について同意はしつつも、「帝国主義者として他国の領土を征服したいのでなければ 、(海外展開基地の増設には)沿岸国との友好的な関係構築が必要となるだろう」と指摘している。
 また、中国が 貧しい開発途上国の政府に返済出来ない規模の融資を実施して港湾の使用権などを獲得しようとする問題もある。ジブチにおいても各国の展開部隊の拠点となっている地区近傍において、中国は基地をホストするパートナーを探していると表明している。Kohはこの問題について、「補給整備休養などのため友好国港湾へのアクセスがより容易になることは戦略的な意味があるが、しかしそれはあくまで平時のものであって、もし中国がシー・コントロール ということを考慮しているのであれば戦時に役立つものではない」と指摘している。
記事参照:Chinese Navy makes waves, spreads wings over Gulf, Indian Ocean

12月23日「中国によるイスラエルでの港湾建設―香港紙報道」(Asia Times.com, December 23, 2018)

 香港のデジタル紙Asia Timesは12月23日付で“Is China getting too close to Israel?”と題する記事を掲載し、近年のイスラエルでの中国による港湾建設とこの2国の接近について、要旨以下のように報じている。
(1) イスラエルの重要地点付近に位置する2つの数十億ドル規模の中国の港が、潜在的な安全保障問題とワシントンとの関係をめぐって懸念をもたらしている。中国は、イスラエルの主要海軍基地の隣にあるハイファとテルアビブ付近のアシュドッドという、米海軍第6艦隊が展開する2つの場所に港湾を建設しており、地中海と中東における中国の軍事力についての懸念を助長させている。「ハイファの(中国の)民間港は(イスラエルの)海軍基地からの出口ルートに隣接しており、外国メディアの報道によれば、そこに、核ミサイルを発射するための第2撃能力を保持しているイスラエルの潜水艦艦隊が駐留している」とイスラエルのメディアであるハアレツが報じた。「イスラエルでは誰も戦略的な影響について予期していなかった」とハアレツは9月に述べた。
(2) 上海国際港務グループ(SIPG)は、2015年にハイファの契約を締結し、6月に建設を開始し、2021年から25年間、ベイポートターミナルを運営する予定である。一方で、中国最大の国有企業の1つである中国港湾工程は、テルアビブの南40 kmに位置するアシュドッドに港湾を建設中である。11月に、ハドソン研究所の上級研究員Arthur Hermanは、アシュドッドについて「これは、30億ドルで、これまでのイスラエルにおける最大の海外投資プロジェクトの1つである。また中国企業にとっても最大のプロジェクトの1つである」「地中海沿岸のアシュドッドは、イスラエルのゆうに90%に達する国際的な海上交通の行き先である。」と述べた。アシュドッドにある現在の港は、10月に米海軍ミサイル駆逐艦Rossを受け入れている。
(3) イスラエルの運輸省と港湾局は、「(イスラエルの)国家安全保障会議の関与なしで、そして(イスラエル)海軍なしで」ハイファとアシュドッドに中国の港の建設を許可した、とハアレツは述べた。10月にロンドンのエコノミスト誌は、「第1(の懸念)は、中国の戦略的インフラの統制とスパイ活動の可能性をめぐるものである」と報じた。「イスラエルの潜水艦は核ミサイルを発射できると広く報道されているが、そこ(ハイファ)に停泊している。しかし、中国企業との取引は、内閣や国家安全保障会議で議論されたことは一度もなかった。驚くべき状況だと、ある(イスラエルの)閣僚は表現した」とエコノミスト誌は述べた。
(4) 「いくつかのイスラエルの政党及び元国家安全保障当局者の間で、イスラエルのインフラ・プロジェクトへの中国の関与から生じる潜在的な安全保障問題と米国との摩擦の可能性について警告する懐疑論者たちがいる」と米シンクタンク外交問題評議会中東研究の上級研究員Elliott Abramsは書いた。これらの港湾は、中国の国際的な数十億ドル規模の一帯一路構想の一部を形成する。一帯一路プロジェクトにおいて、アシュドッドはヨーロッパとの海上貿易における重要な港湾としての役割を果たすとAbramsは述べた。
(5) イスラエル外務省のアジア太平洋地域担当副局長のGilad Cohenは、中国のイスラエルにおける投資について楽観的である。Cohenは10月に「私たちの地域への中国の経済的関与は、私たちの利益への脅威であり、私たちの経済的自立への危険とみなしていると考える人々もいる。このような言葉は、これらの国々の関係に害を及ぼしている」と述べた。「我々の安全性と戦略的利益を守る一方で、我々はその能力に自信をもっており、新しい市場にさらされることを恐れずにいる」とCohenは意見記事に書いた。その一方で、Netanyahu首相は10月にエルサレムで、中国の王岐山国家副主席と、電子商取引の大手アリババのCEO兼創設者である馬雲(Jack Ma)をもてなした。彼らのサミットは、「我々の国、我々の経済、我々の人々の間の拡大する関係を反映している」とNetanyahuは述べた。
記事参照:Is China getting too close to Israel?

12月26日「中国の北極圏進出が与えるカナダ安全保障への脅威―伊ジャーナリスト論説」(Asia Times.com, December 26, 2018)

 イタリアのジャーナリストEmanuele Scimiaは、香港のデジタル紙Asia Timesに12月26日付で“China’s advances in Arctic may pose security threat to Canada”と題する論説を寄稿し、近年中国が北極圏への進出を強めていることが、カナダの安全保障に脅威を与えているとして、要旨以下のとおり述べている。
(1) 中国は2018年、自国を“near-arctic state”と位置づけ、新たなビジネスチャンスをもたらしている北極圏への進出を強めている。中国の狙いは、一帯一路政策のために極地地域での足場を築き、新たなコネクティビティを確立することである。そのことは、北極圏に領土を持ち、重要な貿易ルートである北西航路の主権を主張するカナダにも無関係ではない。カナダの学者は中国が近い将来北極圏で軍事行動を展開する能力を獲得すると予想している。しかしカナダ政府は、南シナ海などにおける中国の振る舞いに懸念を表明しつつも、中国の北極圏進出がカナダの安全保障に与えるであろう脅威を過小評価しがちである。
(2) 近年、極地地域の軍事化が進んでいる。ロシアは北極圏の領土の軍事拠点強化を進めているし、アメリカは空母Harry S. Trumanを北極圏に派遣し、ノルウェーで行われたNATOの軍事演習に参加させた。イギリス主導の合同遠征部隊(Joint Expeditionary Force)にはノルウェーやデンマーク、スウェーデンやフィンランドが参加するもので、ロシアの軍事力強化を懸念を示している。他方、カナダ当局者によれば、カナダ軍は極地地域における中国の軍事的プレゼンスの強化を認識していないという。
(3) 中国の北極圏進出について、カナダ政府や軍の楽観的見解が必ずしも共有されているわけではない。カルガリー大学のCenter for Military and Strategic Studiesの上席研究員Robert Huebertは、中国が現在海軍力において世界第二位に至っていること、中国が極地地域での軍事行動の展開に関心を示していること、その能力を早晩保有することを指摘している。
(4) カナダは6隻の哨戒艦の新造、エスカイ モルトやハリファックスでのインフラ設備の充実など、その軍事能力の強化に努めている。しかしHuebertによれば、この動きは中国が提起する軍事的脅威に対抗するためのものではない。この問題に対処するためにカナダがやるべきことは、アメリカとより密接に行動することである。2005年、NORAD(North American Aerospace Defense Command)は海洋探知ミッションを実施することで合意したが、必ずしもこれに向けた十分な努力が払われているわけではない。さらにTrump政権下のアメリカとカナダの間で緊張が高まっている。アメリカ政府は、北西航路が国際的な海峡であり、カナダの領海ではないと主張しているのだ。
(5) 2018年9月、中国は初めて国内で製造した極地用砕氷船を進水させた。さかのぼって2017年には中国の砕氷船が北極圏のカナダ領を航行した。今日、中国海軍は、アメリカやカナダ海軍よりも多くの砕氷船を稼働させているという。さらに報じられているところでは、中国は北極海で活動可能な潜水艦技術の研究を進めている。Huebertは極地地域における中国の潜水艦活動の増大はありえそうなシナリオであり、カナダ政府はそのことを過小評価すべきでないと主張している。
記事参照:China’s advances in Arctic may pose security threat to Canada

12月26日「COP24で北極圏はほとんど話題にならなかったーデンマークジャーナリスト論説」(Arctic Today, December 26, 2018)

 北極圏に関するニュースサイトArctic Todayは、デンマークのジャーナリストMartin Breumの“Did anyone talk about the Arctic at COP24?”と題する記事を12月26日付で掲載し、ポーランドで開催されたCOP24で、北極圏の気候変動について関係者はほとんど話題にしなかったとして、要旨以下のように述べている。
(1) ポーランドで開催された国際的な気候に関する大規模な会議である、COP24で、誰かが北極圏を実際に話題したか疑問に思い続けている。これは、2015年12月からパリ協定を軌道に乗せるように計画された、気候変動との闘いのための世界で最も重要なつかの間の舞台だったが、北極はどこにあったのか?北極圏の人々に対する課題、海岸浸食による村々の荒廃、生物多様性への脅威、トナカイの群れの大幅な減少、グリーンランドの氷床と北極海における海氷の融解、インフラの歪み、暖まる海、永久凍土の融解、そして北極圏における変化が地球全体にどのように影響するのかについて激しく議論する8ヵ国の北極圏各国政府の主要な大臣たちはどこにいたのか?そして実際、北極評議会はどこにいたのか?北極評議会は気候変動に対する行動の必要性について何回声明を発表したのか?
(2) 私は北極評議会事務局長の権限の限界、そしてもっと重要なことにモスクワやワシントンのような首都における気候変動への取り組みに対するより広いコミットメントの欠如を知っている。しかし、ポーランドのCOP24で米国、ロシア、その他の北極諸国の政治的指導者たちから報道価値のある北極圏への介入がないことは、いかに北極圏の気候変動が北極圏の中心都市の多くの主要な政治的指導者たちがその議題を推進するものではないらしいと思い出させる。モスクワは最近、ロシア北極圏に対するさらに新しい55億ルーブルの大規模投資計画を発表した。ノルウェーのIndependent Barents Observer社員は鉄道建設、新しい港湾、炭化水素や炭田の開発などを含む、地域インフラ及び天然資源開発における投資をいかに対象としているかを報道するために、ロシアの極北ヤマル地区にあるサベッタの好景気にある石油とガスの中心地へMedvedev首相と一緒に旅をした。北極圏で広がっている、悪化し、潜在的に壊滅的な気候変動についての話はなかった。アラスカでは米国側のベーリング海峡での最新ニュースとして、極北の産銅地帯への新しい200マイルの高速道路計画の再活性化、そして、長く争われている野生生物保護区を含む、ノーススロープのより多くの場所での石油掘削のラッシュが挙げられている。経済発展は、何年もの間北極圏の多くの地域社会の議題の最優先事項にあり、北極圏諸国の政府は将来の成長のための包括的な国家戦略に北極の人々のこの自然な願望を取り入れようとせっかちになっている。
(3) 北極諸国の政府には、地球上で最も明白な気候変動に係る利用可能な証拠が存在する。彼らは経済的資源、技術及び知識に富んでいる。彼らは、北極評議会の生産的な科学的ワーキンググループによって実施された科学を含めて、北極圏における気候科学のほぼあらゆる側面で、実践的な科学のために約30年間資金を供給してきた。何百もの科学的な記事、報告書、そして慎重に調整された行動のための提案が北極圏のいたる所で多くの良心的な専門家によって作成された。それでも北極圏の政府から誰も実際に、これらのすべてを示すためにポーランドで立ち上がってはいない。ワーキンググループによる科学は、もちろんIPCCの報告書に慎重に組み込まれているが、政治指導者たちによって目に見える形で促進されるわけではない。
(4) 公正に言うと、北極評議会はポーランドの会合には確かに欠席してはいなかった。北極評議会と現在北極評議会の議長国を務めているフィンランド政府は、北極圏のブラックカーボンの性急な影響に関するすべての利害関係者が参加する90分のサイドイベントを共催した。ブラックカーボンは、基本的にヨーロッパ、米国及びアジアの産業、発電所、ガス生産、自動車、そして家庭からの煤煙で、北極の氷と雪を暗くしているので、北極は以前よりも太陽の暖かさを吸収する。フィンランドとポーランド両国の環境大臣が目立った仕事をしたこのイベントでは、専門家たちが観衆に既存の技術を使用してこの重要な気候変動の原因を容易に消す可能性がある方法について話し、Climate and Clean Air Coalitionからの代表者がブラックカーボンの排出を抑制するための世界的規模の取り組みについて話した。
(5) 一方で、スウェーデンの15歳のGreta Thunbergは、COP24で3分間のスピーチによってメディアの注目を集めた。「不人気になるのが怖くて、あなたたちは永遠に環境に優しい経済成長について話すだけである。私たちに混乱をもたらす同じ良からぬ考えによって推進することについて口にするだけだ」と彼女は述べた。
(6) 外交とは、現実世界で妥協点を見つけることであると私は理解している。私はそれが起こることはほぼないだろうということを知っているが、秘かに、私は、北極圏諸国政府の主要な政治的代表者の誰かが、類似の精神によって北極圏についていつか話す可能性があるかもしれないと自分が思えるようにしている。
記事参照:Did anyone talk about the Arctic at COP24?

12月26日「チャーバハル港(イラン)、インドの戦略にとって不可欠―インド紙論評」(The Economic Times, December 26, 2018)

 インドのThe Economic Times電子版は12月26日付で“Chabahar port critical to Delhi's Eurasia strategy & connectivity initiatives in Indo-Pacific region”と題する論評を掲載し、イランのチャーバハル港がインドのユーラシア戦略とインド太平洋地域における連結性イニシアチブにとって不可欠の重要性を持つとして、要旨以下のように論じている。
(1) India Ports Global Limited Companyは12月24日、イランの都市、チャーバハルに事務所を開設し、Shaheed Behesti港(抄訳者注:チャーバハル市に完成した第1期港の名称、本抄訳では総体としてチャーバハル港と表記)の運用を開始した。これは、アフガニスタン、中央アジアそしてロシアの一部地域との効果的な連結リンクに、ニューデリーをより一層近づける重要な措置である。イランはユーラシア大陸へのインドの連結性にとって不可欠の位置にあり、この事実は、ニューデリーがテヘランに対する米国の制裁措置に追随することに余り熱意を示さなかった主たる理由の一つである。ニューデリーはイランからの石油輸入とチャーバハル港の使用権に対する制裁免除を確保するために米国とは対立しなかったが、自らのイラン戦略に関しては妥協する気配は一切なかった。
(2) イランは最も短い時間でロシアとインドとの連結が可能な、International North-South Transport Corridor(INSTC、抄訳者注:インドのムンバイとモスクワを船、鉄道及び道路で結ぶ南北輸送回廊)における重要な結節点である。カザフスタンはイラン経由で(インド西端の)グジャラート州との連結を計画しており、他方、ロシアはイラン経由でインドとオマーンへの連結回廊の実現を目指している。チャーバハル港は、インド洋地域とユーラシア大陸との連結をも視野に入れた、「インドのインド太平洋戦略」における鍵となる存在となろう。同様に、チャーバハル港は、上海協力機構(SCO)加盟国としてのインドにとって鍵となる存在であり、中国の「一帯一路構想」(BRI)におけるインドとの連結性イニシアチブにとっても重要な柱である。
(3) 米国はイランからの石油輸入の継続をインドに認めるとともに、チャーバハル港におけるインドの役割と同港からアフガンニスタン国境までの鉄道建設に対して、イランの制裁対象から免除した。インドのModi政権は、制裁免除を巡って6カ月間に及ぶTrump政権との厳しい交渉を続けている間にも、チャーバハル港が制裁対象になった場合に備えて、同港におけるインドの利益を守るためのメカニズムを探究していた。インド政府は、米国との話し合いを継続しながら、「中国パキスタン経済回廊」(CPEC)の起点であり、中国から融資を受けて建設されたグワダル港に近い、チャーバハル港におけるインドのプレゼンスを維持し、拡大する努力を継続してきた。このことは、チャーバハル港がインドにとって地政学的に如何に死活的であるかを物語っている。インドの外交担当相Vijay Gokhaleは11月初めの会議で、「我々は、アフガニスタンと中央アジアへ、そしてまたそこから繋がる連結性のゲートウェイとして、チャーバハル港を開発しようとしている。2017年12月の第1期港開港以来、我々は、同港を経由して、インドからアフガニスタンが必要とする約11万トンの小麦と2,000トンの豆類を輸送した。アフガニスタンの利便性を最大限に確保するため、我々は、将来的にはチャーバハル港から(アフガン国境に近いイランの)ザーヘダーンまで鉄道建設を検討することになろう」と語った。
(4) インドは、2月のイランのRouhani大統領の訪印時、チャーバハル港の暫定的運用を開始するために、同港の短期賃貸契約書に署名した。ニューデリーは、港湾拡張工事のための2億3,500ドルに加えて、チャーバハル港関連施設建設のために5億ドルを供出する。さらに、ニューデリーはチャーバハル港からザーヘダーンまで、そしてそこからアフガニスタンのザランジまで延長される、全長500キロの鉄道を建設することになろう。Modi政権は、チャーバハル港が全面的に機能するようになれば、同港はインド、イラン、アフガニスタンそして一部の中央アジア諸国にとって「成長エンジン」の役割を果たすようになるであろう、と主張している。パキスタンがインドのアフガニスタンへの陸路による如何なるアクセスをも拒否している状況下では、チャーバハル港はインドにとって、アフガニスタンと中央アジアへの最も利用可能なゲートウェイである。中央アジアの大国―ウズベキスタンとカザフスタンも、チャーバハル港をインド洋地域への自らのゲートウェイと見なしている。
(5) インド、アフガニスタン及びイランとのチャーバハル3カ国協定の履行をフォローアップするための第1回高級レベル会合が、12月24日にチャーバハル市で開催された。チャーバハル港を経由する国際運輸のための3カ国協定の全面的な履行について、積極的かつ建設的な討議が行われた。会議後の声明によれば、3国は3国間の貿易輸送回廊のルートについて、そして通関や領事事務等の問題の早期解決を図るために、議定書を作成することについても合意した。さらに、チャーバハル港における貨物輸送に関して、The Convention on International Transport of Goods Under Cover of TIR Carnets(TIR Convention、TIR条約)*を適用することにも合意した。次回の第2回フォローアップ会議は、2019年にインドで開催される。
 
備考*:国際道路運送手帳による担保の下で行う貨物の国際運送に関する通関条約。TIR条約とも呼称される。1975年発効。TIRは「Trans-ports Internationaux Routiers」の略称。TIRカルネ(証書)、もしくはプレートを付帯する貨物もしくはコンテナについて、経由国等で詰め替え無しに国境を通過する場合について、輸出入税の課徴・税関検査を免除するとした条約で、道路運送を含む国際輸送において用いられる。(日本船主協会、海運用語集)
 
記事参照:Chabahar port critical to Delhi's Eurasia strategy & connectivity initiatives in Indo-Pacific region

12月27日「多様化するインド太平洋構想に対する認識、求められるアクター間の継続的な関与―RSIS専門家論説」(RSIS Commentaries, December 27, 2018)

 シンガポールの南洋工科大学S.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)調査アナリストNazia Hussainは、RSIS Commentariesに12月27日付で“Indo-Pacific Concept: Juggling for Clarity”と題する論説を寄稿し、インド太平洋構想がカバーする領域に関するコンセンサスはないため、誤解を生まないことが重要であると指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1) インド、日本及び米国は、ブエノスアイレスでのG20首脳会議に合わせて初の3ヵ国会談を行った。必然的にインド太平洋について協議した3か国の首脳は、インド太平洋の平和と繁栄には「自由で、開かれた、包摂的なルールに基づく」秩序が不可欠だという点で意見の一致を見た。彼らは多国間会議における3か国の枠組みでの会談の重要性も明言した。インドのModi首相は、3か国の会談をヒンディー語で「成功」を意味するJAI(日本、米国、インドの頭文字)会談と表現し、その重要性を表明した。
(2) JAIの枠組みは、インドの外交政策で大きな役割を果たすべくまとまりつつある。インドは、3か国が地域におけるインフラプロジェクトやその他の取り組みで相乗効果を発揮することを提案した。東京とニューデリーは既に海軍間協力と海洋安全保障協力の深化に加えて、インド太平洋の戦略的連結性強化のためにミャンマーやバングラデシュ、スリランカなど第3国におけるインフラプロジェクトで協力することに合意している。Modiは互恵や主権と領土の一体性の尊重の原則に基づく、インド太平洋地域におけるアーキテクチャーへのコンセンサスを築く重要性も強調した。利害関係国がインド太平洋構想の内包する諸原則に大筋で合意する一方、次に論じられるべきことは航行の自由や紛争の平和的解決、ルールに基づく秩序といった諸原則の実現である。
(3) 実現の問題に取り組まず、細部を明確にしなければASEANを含む地域諸国はインド太平洋構想の受け入れに及び腰のままだろう。Kavi Chongkittavornによると、ASEAN諸国はインド太平洋構想に対して異なったレベルの懐疑的な態度を示した。フィリピンとカンボジアは、ASEANの中心性を損ないかねないことを恐れてASEANの枠内で同構想を論じることに最も消極的だった。他方で、ラオスやブルネイそしてミャンマーは沈黙を保っていた。しかしながら、これら諸国は情報が明らかになるにつれて議論をより受け入れるようになった。インドネシア、ベトナム、タイ、シンガポール及びマレーシアは、各々が自国の戦略的利益を求めてインド太平洋構想の異なる側面を具体化したいにも関わらず、構想を支持しているように思われる。
(4) インド洋における戦略パラダイムは変化し、現状にどう対処するかの議論が求められている。ワシントンとニューデリーは再三再四にわたって、地域の包摂性と多国間貿易を体現するASEANの中心性がインド太平洋構想の鍵だと繰り返し表明してきた。既にASEANは大国と近隣諸国を参加させるために設計された東アジアサミット(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)及び拡大ASEAN国防相会議(ADMM)など、一連の地域相互接続メカニズムを構築済みである。インド洋地域が競合するメカニズムというよりも補完的なメカニズムを有していると保証するためにも、インド太平洋の枠組みはこれら既存のメカニズムを活用すべきである。
(5) インド洋は競合し、複雑で密集した地域である。関係各国は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)が意味するところについて各々の考え方を持っている。ワシントンにとってインド太平洋は、米国の西海岸からインドの西海岸に及ぶものである。東京とニューデリーにとってインド太平洋は、米国の西海岸からアフリカの東海岸に広がるものである。
(6) 日本がFOIPの経済的な可能性に焦点を当ててきた一方で、米国はFOIPの根底にあるパワーの力学を強調してきた。日本にとってFOIPは法の支配や航行の自由、透明性の関連基準及び持続可能な開発を順守するあらゆる国家に開かれたものである。いかなる国家も排除するものではないと力説しつつも、米国は自国民を守り、人間の尊厳を尊重し、市場で公正に競争し、大国の支配から自由であるインド太平洋における独立諸国の地域秩序を志向している。したがって、北京が参加を希望したとしても中国がFOIPの一部となることは容易ではないだろう。
(7) インド太平洋構想に対して各国が異なる理解をしているため、同構想が誤解を生まないようにすることが重要である。そのために、ASEAN諸国とインド洋の利害関係国の係りを継続することが必要である。そうすれば、あらゆるインド洋のアクターが認識を同じくできる。オーストラリア、インド及びインドネシアが2019年の選挙活動に入る中でその必要性は増している。
記事参照:Indo-Pacific Concept: Juggling for Clarity

12月27日「東シナ海における危険な船舶自動識別装置(AIS)利用方法の問題―米専門家論説」(gCaptain, December 27, 2018)

 Maritime and Offshore IndustryのブログgCaptainは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校エクステンションの教官 Laura Kovaryの“AIS Problems Revealed in East China Sea”と題する記事を12月27日付で掲載し、Laura Kovarはここで船舶自動識別装置の発信器が船舶以外の漁網等に設置され、船舶の運航に危険を及ぼしつつあるとして、要旨以下のように述べている。
 (1) 自動船舶識別装置(以下、AISと言う)が、漁船が極度に集中する海域、特に東シナ海を航行する商船乗組員にとって問題となりつつある。問題はAISの不具合ではなく、その技術の不適切な使用である。地元の漁民はAISの発信器を漁網に設置することで、大型船は漁網を船舶と考え変針することを発見した。漁民は図太くVHF通信で船舶に接触し、漁網を避けて変針するよう相手船のブリッジ当直員に連絡してきた。
 (2) プレジデントラインの船長Mike Jessnerはこの問題に焦点を当て、現状を変え、漁網に船舶用機器を使用することを禁止するための国際的な支援を得る活動をしている。Jessner船長は、これらAISが船舶の装置にいかに過大な負荷をかけているかを直接確認した。電子海図表示装置(以下、ECDISと言う)は同時に200目標を識別できるだけである。漁網に数百個が使用された時、装置はどれが船舶でどれが漁網か区別することはできない。船舶が変針すると、ECDISは変針前には視認していなかった新針路上の他の目標を取得するため、最早危険と認識しない目標を削除する。CRYSTAL BLUES号のブログは、AISは船舶が相互に認識し合うための安全システムとして開発されたと述べている。同様にAISは、より良好な意思疎通、行き会いと追い越しの情報の解明を提供している。AISは無人機やブイ、漁網を追尾することを意図した機器では決してない。
 (3) この問題を引き起こす装備の限界はある。しかし、主たる問題はAIS発信器の使用を禁止する国際法が欠落していることである。国際海事機関(以下、IMOと言う)はこの問題について立場を明確にし、船舶以外のいかなるものもAISを使用することを禁じる必要がある。AISに船舶のシンボルを指定し、漁網には別のシンボルを、延縄や水路調査機器、浚渫機材には別のシンボルを指定するのも1つの解決策かもしれない。こうすれば慎重な乗組員は船舶とその他の水上の物標を識別することができ、至近距離に接近した状況において妥当は評価を行うことができるだろう。
 (4) 米沿岸警備隊の「よくある質問」のウェブサイトには明確に「製造者としては明確に禁止してはいないが、船舶で使用することを意図したクラスA及びクラスBのAIS機器、AIS SART(捜索救助用位置指示送信装置)のような人命救助用機器、AIS SARTの中でも人が装着することに特化したMOB AIS、EPIRB AIS(衛星非常用位置指示無線標識)など、連邦通信委員会が承認した機器をそれ以外の目的に使用することは許可されない」と述べている。したがって、少なくとも米領海及び排他的経済水域ではこれらの機器を船舶以外のいかなるものにも使用することは禁止される。
 (5) IMOは航路標識にシンボルを付与することでレーダー・エンハンスト航路標識(radar enhanced Aids to Navigation)の使用を承認した(抄訳注:IMOが承認したものは仮想AIS航路標識であり、我が国では海上保安庁が明石海峡と友ヶ島水道において運用を開始し、周防灘、伊予灘で試行が行われている。)。現在、商業的に、あるいは個人的に水に浮かべられ、あるいは錨で繋止されたブイ、あるいは機器に付与されたシンボルはない。浮いている機材へのAISの使用に対する監視の必要性が高まっている。IMOはAIS機器を推進し、使用を規制し、誤った使用を止めさせるための論理上の存在である。国連貿易開発会議、国連食糧農業機関(以下、FAOと言う)、WTOを関与させることも賢明な方法である。なぜなら、世界全体において漁業、水産業がこれら組織の業務の一部だからである。
 (6) 2018年世界漁業・養殖業白書では、AISは新たに出現した情報通信技術として言及されている。情報通信技術は、海上での安全、場所の計画、共同管理、ソーシャルネットワーキングを促進できると述べたうえ、FAOはもたらされる影響について完全な知識無しの技術進展が商業漁業、養殖業を全てのレベルにおいてどのように変革していくかを認識している。白書はまた、「オプションとしてAISや船舶監視システム(以下、VMSと言う)に連接された電子ビーコンを安全装置」として言及している。FAOは漁網にAIS発信器を使用することを認可してないが、1つの運用に1以上の発信器を使用することの危険性についての議論が欠落している。VMSを通じて漁業を監視、管理する携帯アプリABALOBIはサプライチェーンを通して持続性と追跡を導入しているが、海上安全に関するタブもある。このことは、船舶以外のものにAIS発信器を付けることの危険について漁業関係者を教育する1つの方法かもしれない。
 (7) もし将来、無人船を見ることになれば、上述のことは修正する必要がある。状況を適切に評価する責任を有する経験豊富な船乗り無しに文字どおりAISの「海」に接近していく無人船は何をするのだろうか?無人船は漁網を避けようとして変針するだろう。それは新針路上の多数のAIS目標に直面するだけである。船主は、自動化機器が危険と判断したものを回避しようとして無人船がぐるぐると回っているのを見ることになるかもしれない。そのものはただ単にかに篭であったり、漁網ブイであるかもしれない。海運業界は、リスクを認識し、浮いているものには何にでもAIS発信器を付けるという風潮を食い止める規則を主張する必要がある。規則が制定され、漁網やブイを追跡するのに利用できる他の選択肢が得られるまで、この危険な状況は続くだろう。
記事参照:AIS Problems Revealed in East China Sea

12月27日「米国は政府予算を投じて砕氷船を更新すべき―米専門家論説」(ARCTIC TODAY, December 27, 2018)

 米アラスカ大学名誉フェローLawson Brighamと、米シンクタンクThe Woodrow Wilson International CenterディレクターMike Sfragaは、ARCTIC TODAYに12月27日付で“Why the US needs polar security cutters for the 21st century”と題する論説を寄稿し、米国は北極圏と南極圏で多くの役割を果たし得る砕氷船の更新を進めるべきだと指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1) 米連邦予算から新極地砕氷船向けの予算を削るという12月の決定を受けて、砕氷船が再び話題となっている。これは北極圏と南極圏における米国の将来的なプレゼンスにとって深刻な懸念となるはずである。
(2) 米沿岸警備隊の極地砕氷船調達プログラムを「極地セキュリティカッター」(Polar security cutters)プログラムと言い換える最近の動きは前向きな兆候である。沿岸警備隊の新指導部はそれらのアセットに対するより正確な表現と、変化する21世紀の極地世界でこうした船舶が担うだろう重要かつ多目的な役割を伝える効果的な戦略を編み出したことを称賛されるべきである。
(3) 「極地セキュリティカッター」は、米国の北極圏と南極圏海域における前面の目に見える卓越したプレゼンスである。米国の重要な海軍艦艇でもあるこれらの船舶は、高緯度を航行する際には米海上法執行プレゼンスの主力となる。「極地セキュリティカッター」は極地海域へのアクセスが保障される限り、海上法執行や防衛・警備活動、捜索救難、海上の安全及び環境保護など広範な沿岸警備隊の任務を遂行する。「極地セキュリティカッター」は多数の大学や連邦の科学者が用いるユニークな極地研究プラットフォームを提供する。それと同じ船が高緯度におけるセキュリティ上の出来事や海洋の緊急事態、海難の可能性に対処することができ、現場での指揮統制と緊急時の砕氷支援を提供できる。
(4) 「極地セキュリティカッター」とは本質的に砕氷能力を備え、厳しい極地環境で効果的に活動できるセキュリティカッターのことである。この称号を検討するもう1つの方法は現在及び将来の「極地セキュリティカッター」が長距離を航行でき、極地活動に特化して設計された沿岸警備隊の多目的移動プラットフォームだということである。「極地セキュリティカッター」は海軍艦艇を含むあらゆる船舶に対して確実に砕氷支援をできるが、通常は海岸水路の船団が行う交易を手助けするために砕氷を行わない。こうした役割が長年にわたって誤解を受けてきたため、調達プロセスをしばらくのあいだ複雑にした。米国が将来的にアラスカ周辺で海上交通システムを拡大したいのであれば、「極地セキュリティカッター」と商用砕氷船がそれを実現させてくれるだろう。それゆえに連邦と民間双方の海上アセットは、北極圏の天然資源開発とアラスカの経済的な将来のために必要不可欠なインフラ要素である。
(5) 21世紀の米国の海軍、海運力が欠いている要素は、世界の2極地における米国の遠方での極めて重要な国益と大規模な投資を直接的に支援する「極地セキュリティカッター」つまりは極地砕氷船である。これらの国家アセットに関する補足的な調査や延々とした議論の時は終わった。米国の老朽化した砕氷船2隻(1隻は45年以上も現役である)の更新は緊急の課題である。米国土安全保障省の予算から初の新規「極地セキュリティカッター」の資金を削ることは、米造船企業への契約という報償が伴うタイムリーかつ重要な調達を遅らせる。今次予算決定は、米国のグローバルな海洋能力を低下させ、沿岸警備隊の極地海域へのアクセスを保障する長期的能力を制限するものである。また、今次決定は継続的に目に見えて、信頼できる米国の自国の北極海域における海上プレゼンスを危うくする。指導的な極地国家として、米国はより多くをなさなければならない。
記事参照:Why the US needs polar security cutters for the 21st century

12月30日「米軍のアフガニスタン撤退がインド太平洋戦略に及ぼす悪影響――印安全保障専門家論説」(South Asia Analysis Group, December 30, 2018)

 インドの安全保障問題を専門とするSubhash Kapilaは、インドに本拠地を置くシンクタンクSouth Asia Analysis Groupのウェブサイトに12月30日付で“Indo-Pacific Security Endangered by United States’ Likely Exit From Afghanistan”と題する論説を寄稿し、米軍軍のアフガニスタン撤退がインド太平洋地域の安全保障に悪影響を及ぼすとし、米国のアフガニスタン政策の採るべき道について、要旨以下のとおり述べている。
(1) 近年、インド太平洋戦略は米国の安全保障政策における重要なひとつである。そのなかで、アフガニスタンの地政学的位置は非常に重要であり、アフガニスタンに米軍が駐留を続け、その安全と安定を維持することは、インド太平洋の西側周縁部の安全保障にとって極めて重大な意味を持つ。しかしながら、アフガニスタンからの米軍の撤退がささやかれている。これは米国にとって望ましい選択ではない。むしろ米国がインド太平洋戦略を重要視し続けるのであれば、アフガニスタンを「インド太平洋西側周縁部の安全保障にとっての最前線国家」へと変容させる必要があろう。
(2) アフガニスタンは、タリバンによるアフガニスタン支配の復活を目論む隣国パキスタンに脅かされ続けてきた。またロシアや中国とも近接し、この三角形に囲まれている。しかしながら、もし米国がパキスタンの行動を強く牽制し、アフガニスタンの安全保障と安定に強くコミットすることをはっきりさせるならば、その三角形が米国に不利益をもたらすことはない。米国の強固な軍事的プレゼンスは、隣国(特にパキスタン)の冒険主義を抑制することになるであろう。逆に、アフガニスタンからの米軍の撤退は、その地域における政治的・軍事的空白を生み出し、中国やロシアの浸透を許すことになるであろう。
(3) インド太平洋戦略の維持のためには、日本や韓国等における米軍、とりわけ地上軍の恒久的な展開が必要である。インド洋西部地域における米海軍のプレゼンスは圧倒的であるが、地上軍についてはそうでもない。かつては地上軍の展開の場としてパキスタンもありえたが、今やパキスタンははっきりと中国寄りである。パキスタンという選択肢がない現在、アフガニスタンにおける恒久的軍事プレゼンスが重要となる。
(4) 同盟国との関係も考慮する必要がある。米国の指導者たちは、中国が南シナ海に圧倒的な支配権を確立したあと、同様のことをインド洋西部で展開していることに気づいていないわけではない。しかしそれに対する十分な対策がとられているわけではない。インド太平洋地域における中国の拡大を防ぐための第一歩として、アフガニスタンへの米軍駐留維持、それによる同地の安全と安定の維持は決定的に重要である。そうでなければ、インド太平洋地域における中国の拡大に同様に気をもむ日本やインドなどのパートナーを動揺させ、同盟体制までもが不安定化することになろう。
(5) アフガニスタンにおいて米国の軍事行動がうまくいかなかったのは、米軍の規模が必要なレベルに達していない、米政府の意図がはっきりしなかったなどの原因がある。加えて重要なのは、アフガニスタン国軍の増強に取り組まなかったことであった。さらにその原因は、アフガニスタン軍の増強にパキスタン軍が反対していたことであり、米国はそれを受け入れていたことにある。もし米国がアフガニスタン軍の増強に取り組んでいたら、状況はここまで悪化していなかったであろう。
(6) 状況が悪化し、アフガニスタンに関する憂鬱な予測がなされているが、しかし認識しておくべき根本的な現実は、タリバンがアフガニスタン全土をコントロールしているわけでもなければ、タリバンが米国を即座に追い出すことができるほどの力を持っているわけではないということである。
(7) それにもかかわらず、米軍がアフガニスタンから撤退することが定期的にささやかれる原因は何か。それは、アフガニスタンにおいて米国が必要以上の経済的・軍事的負担を強いられているという米国内での理解である。しかしこうした理解は、そもそも米国とそのパートナーが経済的・軍事的に非対称的関係にあること、また、アフガニスタンがインド太平洋、ひいてはグローバルな米国の安全保障にとってきわめて重要であることを見過ごしている。そのことを考慮すれば、上述したように米国が非対称的な代価を支払うことは当然のことなのである。国内要因が米国の国家安全保障政策を拘束するようなことがあってはならない。
記事参照:Indo-Pacific Security Endangered by United States’ Likely Exit From Afghanistan

12月30日「アジアの国々は米国との同盟を保持する―印専門家論評」(Eurasia Review.com, December 30, 2018)

 印ニューデリーのジャワハルラール・ネルー大学の教授Rajesh Rajagopalanは、米シンクタンクEurasia Reviewのウェブサイトに12月30日付で“The US In Asia: A Necessary Balancer – Analysis”と題する論説を寄稿し、米トランプ政権が不安定であっても、アジアの国々は中国による脅威に関して米国に頼らざるを得ないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国の国防長官James Mattisの衝撃的な辞任とDonald Trump大統領のシリアからの全ての米軍、そして、アフガニスタンからの一部の撤退決定は、米国の世界的な関与についてのさらなる疑問をもたらした。これらは、過去10年間ですでに話題となっていたが、Trumpの下でさらにはっきりとした懸念となった。しかし、彼らは懸念するかもしれないが、アジア(そしてヨーロッパでさえ)におけるワシントンの同盟国は、彼らの戦略的な選択を根本的に変えることはまずない。自分たちでは管理できない脅威に直面しても、ワシントンに頼る以外に選択肢はほとんどない。
(2) 国際政治における同盟関係やパートナーシップは、常に利便性と相互必要性の問題である。最も緊密な同盟関係においても相互義務についての緊張が常に存在することにより、それらは常に一時的であり脆弱である。特定のコミットメントの価値、そして、そのようなコミットメントからの撤退は常に議論される可能性があるが、そのようなコミットメントの脆弱性についても留意する必要がある。観念的には、ほとんどの国家は、他の国々とむしろ協調したくないだろう。なぜなら、当然のことだが、同盟国は完全に頼りになることはできず、全ての国が自国の安全保障の面倒を見る必要がある国際的秩序において、潜在的に危険な状態だからである。もう1つの危険は、たとえそこに自国の利益がなくとも、同盟国によって彼らの対立に引き込まれる可能性があるということである。そのような危険にもかかわらず、それでもなお、パワーは国際システム、特に地域内で不均等に分布しているので国家は連携するのである。このように比較的弱い国々は、ただ一国でより強力な大国と対峙することにつきものである、より一層大きな安全保障上のリスクに対する提携のリスクのバランスを取らなければならない。同盟国からの圧力は、国際秩序の種類によっても異なる。したがって、多くの大国による多極システムにおいては、同盟パートナーのより多くの選択肢があるが、より大きな不安定性と同盟国によって棄てられる恐れはより緊密な同盟につながる傾向にある。一方、二極の世界では、同盟の選択は2つの大国であるため提携を著しく安定させるので、同盟によって放棄されることへの恐怖は少なくなる。しかし、同盟パートナーたちが義理堅くなるというこの自信は、「そのパートナーが結果として離脱するという恐れがほとんどない敵対者に対する、自立した、実際には相反する政策を」採択する国家によって、より自主的な政策につながることになる。しかし、そのような2つの見方は多少問題があるかもしれない。第一次世界大戦前の多極的な秩序は緊密な同盟関係につながった。しかし、同じく多極的なものではあるが、第二次世界大戦の秩序は、同盟国がお互いに助け合うよりもむしろ、ただ乗りの緩い「責任押し付け」(buck-passing)同盟をもたらした。
(3) このような同盟論理の構造的見方に関してよくある問題は、それが弱小国の選択よりもむしろ大国の選択に焦点を合わせているということである。前者にとっては、この選択は幾分より単純である。もしそれらが大国によって圧力をかけられているならば、特にたまたま隣国であったならば、彼らは服従することを選ぶか、またはその代わりに、支援することに意欲的な能力のある同盟国を探すことができる。服従はさまざまな形態をとるかもしれないが、大きな不均衡、恐怖及び近接性によって生まれた中立の姿勢として本質的には「フィンランド化」として知られている。同盟国が利用可能な場合は、たとえその問題の全てが出現したとしても、服従よりはるかに良い選択肢なので、弱い国家は彼らが直面する脅威に抵抗することを選ぶだろう。最も重要なのは、弱小国家は選択肢を奪われているため、特に二極システムにおいては、彼らの大国であるパートナーの愚行や弱点にはるかに寛大になるだろう。これが、なぜトランプ政権の批判の多くがアジアにおける政策の反響をほとんど見出せないのかという理由である。
(4) したがって、中国との関係を安定させるためのアジア諸国による取り組みは、ワシントンに代わる真の代替策を反映していない。中国からの脅威によって突き付けられる要求と、インド、日本及びベトナムのような国家がそれを緩和することができる、安全保障及び政治的譲歩との間には実際の妥協点はほとんどない。少なくとも米国によるカウンターバランスが存在する限り、それらのどれも中国の覇権に屈服しないだろう。このように、アジアの大国がトランプの不安定さに何らかの懸念を抱くかもしれないとしても、これらの国は、より小さなものではなくより大きな米国の役割を求めているので、それを人前では出さないだろう。
記事参照:The US In Asia: A Necessary Balancer – Analysis

【補遺】

1 Chinese navy sees broadened horizon, enhanced ability through 10-year escort missions
http://www.globaltimes.cn/content/1134066.shtml
Global Times, December 30, 2018
中国政府系紙環球時報英語版Global Timesの電子版は2018年12月30日で“ Chinese navy sees broadened horizon, enhanced ability through 10-year escort missions”と題する論説記事を公表した。その中で同紙は、初めて中国海軍の艦艇三隻(海口、武漢、徽山湖)がアデン湾の海賊対処活動に参加すべく三亜を出港した記念日である2008年12月26日から10年が経過したことを受け、この間における中国海軍の量的質的能力の向上や、多国籍で取り組んでいる海賊対処活動への貢献性を回顧的に取り上げている。そして、こうした活動を継続してきたことで国際社会における中国海軍のイメージ向上や国際活動への参画などが実現していると指摘している。
 
2 U.S.-Sino Relations at 40: How to Deal with China While Avoiding War
https://nationalinterest.org/blog/skeptics/us-sino-relations-40-how-deal-china-while-avoiding-war-40142
The National Interest, December 31, 2018
Doug Bandow, a Senior Fellow at the Cato Institute.
米シンクタンク、he Cato Institute上級研究員Doug Bandowは、The National Interest電子版2018年12月31日で" U.S.-Sino Relations at 40: How to Deal with China While Avoiding War "と題する論説記事を寄稿した。その中で同研究員は、2019年1月1日が米中両国の国交樹立から40周年になることに触れ、この間に中国は米国に次ぐ世界第2位の経済大国・軍事大国にまで成長したが、習近平政権は復古的、強権的な手法を採用しており、これがトランプ政権との摩擦を生じていると指摘している。また、こうした状況の中で米国は、同盟国や友好国と協力して中国に様々な形で圧力を加えると同時に軍事的な衝突を避ける必要があると述べ、米国の対中政策は世界の安全保障にとって極めて重要であると主張している。