海洋安全保障情報旬報 2018年12月11日-12月20日

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12月12日「南シナ海における石油・ガス開発の地政学―アジア専門家対談」(The Diplomat.com, December 12, 2018)

 アジア・太平洋地域の分析・論評を中心とするデジタル誌The Diplomatに12月12日付で、同誌コラムニストMercy A. Kuoとリスクコンサルタント会社Verisk Maplecroftのアジア担当上席アナリストであるEufracia Taylor及びHugo Brennanの対談“The Geopolitics of Oil and Gas in the South China Sea”が掲載された。本対談では南シナ海における石油・ガスの共同開発を中国が進める動機と、その地政学的な影響について、要旨以下のとおり議論が行われている。
(1) 中国政府が東南アジア諸国に対して、南シナ海における「石油・ガス共同開発」を持ちかけているが、その背景には何があるのか。中国の最重要目標は係争海域における主権の主張であり、石油・ガス共同開発はこの目標のためのひとつの手段である。係争海域における主権主張国家(claimant states)が、自国の排他的経済水域における資源の共同開発に関する交渉に署名することは、中国が主張する九段線を認めることにつながっていくであろう。中国は軍事力の行使をほのめかし、ベトナムの単独開発事業を妨害する一方で、技術支援や資本提供を伴う共同開発事業によって、周辺国と敵対するだけでなく、パートナーとしての立場の確立を試みているのである。
(2) ブルネイとフィリピンが、中国との間でエネルギー開発に関する覚書に署名したのはなぜか。東南アジア諸国は、拡大する中国の領土的主権の主張に直面している一方、国内要因ゆえにエネルギー開発に注力することも重要なのである。フィリピンについては、エネルギー安全保障に関する不安、独自のエネルギー開発の不十分さ、国家歳入増加の必要性などが中国との資源共同開発に駆り立てた。ブルネイについては、中国との共同開発に伴う投資の拡大が、経済復興とダイバーシティ化を促進し、政府の政治的正当性を確固たるものにするであろう。ブルネイにとって南シナ海における主権主張の優先順位は低いのである。
(3) 南シナ海の係争海域におけるエネルギー資源開発という、中国によるプランの戦略的コンテクストは何か。それは、中国の領土的主権の追求に加えて、中国のエネルギー安全保障に関する懸念である。中国はますます石油・ガス輸入に依存するようになっており、この状況は中国にとって座視できるものではない。したがって南シナ海における資源開発は中国にとって魅力的なオプションである。他方、東南アジア諸国にとって係争海域において単独での資源開発を模索することは、軍事大国であり主要な貿易・投資パートナーである中国に公然と挑戦するリスクを考慮しなければならない。
(4) 中国が、アメリカを含まないであろう独自の南シナ海における行動規範(COC)を作成することの含意は何か。中国とASEANはこの20年間、南シナ海におけるCOCの可能性について議論をしてきた。2018年8月に交渉用草案が発表されたことは、この問題の前進に向けた重要な一歩であった。この内容に対し、アメリカが懸念を表明している。なぜならその草案が、COCの署名国が第三国と合同訓練を行うことや、第三国の石油・ガス企業が係争海域で開発を行うことを禁止するものだったからである。今後最終的な合意に到達するのはまだまだ先のことであろう。
(5) 南シナ海における中国のエネルギー安全保障政策は、同地域におけるアメリカのリーダーシップにどのような影響を与えるだろうか。南シナ海が重要な海域であるのは資源産出の観点からだけではなく、そこが中東やアフリカからの石油・ガスを運搬する重要な海路となっているからである。こうした戦略的重要性が、中国による南シナ海の軍事化を説明するものである。さらに。中国の「サラミスライス」戦略(交渉などにおいて段階を細かく分け、ひとつひとつを着実に達成する、ないし交渉を長期化させて時間稼ぎをするなどの手法)は成功を収めていると言える。米国インド太平洋軍の司令官Philip S. Davidsonは、中国が今やあらゆるシナリオにおいて、戦争に訴えることなく南シナ海をコントロールすることができると述べるほどである。
記事参照:The Geopolitics of Oil and Gas in the South China Sea
 

12月12日「現在の好ましい南シナ海におけるASEANと中国の関係―豪専門家論説」(East Asia Forum, 12 December 2018)

 元オーストラリア海軍准将でウーロンゴン大学にあるAustralian National Centre for Ocean Resources and Security(ANCORS)のProfessorial Research FellowであるSam Batemanは、12月12日付のEast Asia ForumのWEBサイトに“Favourable currents for ASEAN–China relations in the South China Sea”と題する論説を寄稿し、南シナ海をめぐる争いについて域外の国々はその行動を抑制し域内の国々にまかせるべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国と中国の間の摩擦が増大しているにもかかわらず、今年、南シナ海の前向きの動きは結局のところ後ろ向きの動きを上回った。Single Draft South China Sea Code of Conduct Negotiating Text(SDNT)は、ASEANと中国の外相によって8月に採択された。SDNTには当事国間の南シナ海における協力分野並びに紛争予防、管理及び和解メカニズムに関する提案が含まれている。SDNTは大きな前進だが、最終的な行動規範の地理的範囲、望ましい紛争解決メカニズム、そして資源の調査と開発の詳細など、いくつかの論点が残っている。効果的な行動規範に関する最終的な合意はまだ遠いようだが、第33回ASEAN首脳会議の議長声明は、ASEAN加盟国はASEANと中国の間の協力の改善を歓迎していることを指摘している。
(2) その他の前向きな動きとしては、10月のASEANと中国による合同海上演習、そして、11月の西フィリピン・南シナ海での共同石油調査のための中国とフィリピンによる枠組み協定の立ち上げが挙げられる。これらの出来事は、中国とASEANの関係が改善する兆候である。中国は、明らかにこの地域のイメージを再構築しようとしている。ASEAN近隣諸国への和解の申し出は、行動規範に関する交渉を追求するという合意を含めて、様々なイニシアチブにおいて明らかである。
(3) 南シナ海への米中関係の悪化の溢出効果は、今年のこの争いのある海域での不安定性の主な原因であった。3月と4月に中国と米国の両国は、南シナ海で大規模な海軍演習に取り組んだ。中国の演習にはその空母と40隻以上の軍艦が含まれていたが、米国は3個の空母打撃群が別々の時期にこの地域で演習を行っていた。そして、11月には2個の米海軍空母打撃群が、フィリピン海での演習のために展開した。中国は、南シナ海でのその地勢上の設備を更新し続けた。これには、以前は占拠されていなかった西沙諸島のボンバイ礁の新しいプラットフォームや、3つの地勢での対艦巡航ミサイルと地対空ミサイルの設置が含まれ、緊張がさらに高まった。中国はまた、南シナ海での主張を強化するための断固たる行動を継続した。4月には、中国の沿岸警備艇が西沙諸島のリンカーン礁付近でベトナムの漁船を追いかけ、そのうちの1隻に衝突し沈没させた。5月には、1隻のフィリピン海軍の艦が、セカンド・トーマス礁で座礁したフィリピン海軍の艦1隻に対して補給任務を実行している間、2隻の中国の艦船によって嫌がらせを受けた。一方で米国は、南シナ海における中国が権利を主張している地勢の沖で「航行の自由作戦」のプログラムを継続し、2018年にはこれまでに4回の作戦を行った。9月には、中国の駆逐艦が、当時南沙諸島で「航行の自由作戦」を行っていた米海軍のミサイル駆逐艦Decatorに、伝えられるところでは進路変更を強制するのに十分なほど接近した。また、8月には英国が強襲揚陸艦Albionを西沙諸島周辺の中国の領海で航行させ、「航行の自由作戦」のゲームに参加した。
(4) 南シナ海での中国への反発として、地域外の国々による「航行の自由作戦」が何らかの有用な目的を果たしているかどうかは不明確である。彼らは実際、徐々に安定しているように見える状況を不安定にしている可能性がある。「航行の自由作戦」は、南シナ海の効果的な管理とその中での活動を妨げ続ける戦略的不信と緊張を増大させる。2019年の重要な課題は、行動規範交渉の勢いを維持することだろう。域外の国々に関しては、彼らはより抑制され、「地域の国々」に自分たちの裏庭の世話をどんどん行うようにさせるべきである。
記事参照:Favourable currents for ASEAN–China relations in the South China Sea

12月15日「空母保有に向かう日本、懸念する周辺国―香港紙報道」(South China Morning Post.com, December 15, 2018)

 香港紙South China Morning Post電子版は、12月15日付で“China may use Japan’s aircraft carrier plan to push through more military spending, observers say”と題する記事を掲載し、日本が「いずも」型護衛艦を航空母艦に改修しようとしており、それに対して近隣諸国が懸念を示しているとして要旨以下のように報じている。
(1) 日本の自由民主党と連立政党の公明党は今週(13日)、自衛隊が現在はヘリコプターのみを搭載できる艦艇をF-35等の戦闘機が離発着できる完全な作戦空母へと改修することを実質的に容認する新防衛大綱を了承した。平和主義的な憲法の下で同計画は議論の的になっている。
(2) 香港を拠点とする軍事専門家宋中平(Song Zhongping)は、東京の計画が既に脆弱な中日関係を一層不安定にするだろうと強調した。彼は「航空母艦保有に向けたいかなる動きも平和主義的な憲法に反するのみならず、中国や日本の侵略の犠牲となった諸国を非常に不安にさせるだろう」と述べた。宋は中国が新鋭の駆逐艦や航空母艦の建造を伴う海軍増強を加速する中で同計画が「明らかに中国を対象にしている」と強調した。
(3) 北京は近年、海軍力を大きく飛躍させた。既に中国は航空母艦「遼寧」を運用しており、2019年には国産の空母2番艦「Type 001A」が加わることになっている。2030年までには少なくとも4つの空母戦闘群が運用されると見られている。戦闘機の運用が可能な航空母艦を保有するという東京の計画にも関わらず、北京を拠点とする軍事アナリスト周陳明(Zhou Chenming)は、日本の「いずも」型護衛艦が中国のより大型の艦艇に匹敵すると見なすのは早計だと指摘した。彼は「『いずも』型護衛艦を正規の航空母艦に改修することは費用のかかる作業となろう。また、膨大な時間を要するし、多くの洗練された技術も必要だろう。このようなプロジェクトをやり遂げられたとしても、27,000トンの艦艇が数倍の大きさを持つ中国の航空母艦『Type001』や『遼寧』にどうして対抗できるというのだろうか」と評価した。
(4) シンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院の軍事専門家Collin Koh Swee Leanは、東京の計画が中国だけでなく南北朝鮮の反発も呼ぶ恐れがあり、北東アジアにおける海軍競争に拍車をかけると指摘した。
(5) 一方、マカオを拠点とする軍事専門家Antony Wong Dongは、日本の安倍晋三首相が海上自衛隊の防衛計画を支持率のてこ入れに利用したと述べた。彼は「中国のコスト高な『遼寧』改修の経験に照らしても、大型艦艇を改修したり、改装することは良い考えではない」と指摘した。
(6) 日本の自由民主党は少なくとも近隣諸国の懸念に気づいているようではある。初めに「多目的防衛型空母」の導入を提案した後、同党は大綱の文言を「いずも」が「多用途運用護衛艦」に改修される旨に書き換えた。
記事参照:China may use Japan’s aircraft carrier plan to push through more military spending, observers say

12月17日「中国がRIMPACに代わる海上合同演習の枠組みを提示する可能性―米専門家論説」(East Asia Forum, December 17, 2018)

 在日米海軍の大佐Tuan N Phamは、12月17日付のEast Asia ForumのWEBサイトに“Watch out Rim of the Pacific, a Rim of China may be on the horizon”と題する論説を掲載し、中国がASEANとの海上軍事協力を強化しており、その動きがRIMPACに代わる枠組みにつながる可能性があると指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1) 中国人民解放軍海軍(PLAN)とASEAN10カ国の海軍は、2018年10月22日から28日に南シナ海で海上合同演習を実施した。これは8月2日にシンガポールで行われたASEAN・中国合同図上演習に続くものである。これらの演習は初めてのASEAN・中国海上合同演習(この種の演習ではASEANが初めて他国と行った)である。中国外交部は初のASEAN・中国海上合同演習を「中国、ASEAN間における戦略的調整の新段階であり、中国とASEAN諸国が安全保障上の脅威に共同で対処し、地域の平和と安定を守る新たな出発点」だと大いに宣伝した。Global Timesの表現によると、海上合同演習は「北京と東南アジア圏が軍事・防衛関係を強化し、南シナ海の安全保障を守る実質的な手段を講じる」ことを示している。
(2) 目下のところ重大な問題は中国が次に何をするのかということである。北京は、やがては初期段階にある演習を世界最大の多国間海軍演習―隔年の環太平洋合同演習(RIMPAC)―の中国版である「環中国合同演習」(RIMCHN)といった形で定着させるべく利用するだろう。中国主導の多国間海上合同演習のタイミングや範囲、定例化するか否かは、ASEANや他のインド太平洋諸国そして世界が初のASEAN・中国海上合同演習にどう対応するかにかかっている。好意的であるなら、北京は演習を確立する計画を加速するだろう。好意的でないならば北京は機が熟するのを待ち、そのための状況を設定するだろう。
(3) RIMCHNは中国が「南シナ海行動規範」を形成し、これに影響を与える取り組みを補完するものである。北京は南シナ海から非ASEAN諸国を排除し、南シナ海における軍事活動を制限して、北京にASEAN諸国と域外勢力の軍事演習を拒否する権限を付与する文言によって「南シナ海行動規範」の草案をコントロールし続けている。北京は最近、中国とASEAN10カ国が海上合同演習を定期的に行うべきだと示唆した。
(4) RIMCHNは戦略的海域を支配しようという北京の多岐に渡る試みを補うものである。中国はスプラトリー諸島における7か所の軍事拠点の更なる拡張と軍事化によって行政管理を強化している。商船の監視(その実効支配)を目的とする衛星コンステレーションの打ち上げは、南シナ海における中国の支配を一層強化するだろう。
(5) RIMCHNはシャングリラ・ダイアローグ(SLD)、をこのところ見直されて来た香山フォーラムに置き換えるという、中国の将来的な野望にも資するものである。同フォーラムは北京でSLDに対抗するための実行可能かつ価値あるフォーラムとして広く認識されている。北京の視点から見るとワシントンとその同盟国はSLDを中国を不当に非難し、封じ込める舞台として利用している。
(6) このシナリオにおけるワイルドカードの1つは米国である。北京にとって最悪の悪夢の1つは米国が次回のRIMPACを南シナ海で行うことだろう。それは戦略的海域における中国の一方的な拡張主義への抵抗となり、北京の九段線の主張を無効とした2016年の国際仲裁裁判所裁定の法的地位を補強し、法の支配の普遍的重要性と国際規範の順守を強調するものである。この際立った3連単の効果は米国と有志国が国益と共通の価値観のために立ち向かう意志があることを示すが、ワシントンの機先を制するという北京の野心を加速させることにもなろう。
記事参照:Watch out Rim of the Pacific, a Rim of China may be on the horizon

12月18日「中国、新型潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験を実施―米オンライン紙報道」(The Washington Free Beacon.com, December 18, 2018)

 12月18日付の米オンライン紙the Washington Free Beaconは、“China Flight Tests New Submarine-Launched Missile”と題する記事を掲載し、中国の新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)巨浪3(JL-3)発射実験について要旨以下のように報じている。
(1) 米国防当局者によれば11月下旬、中国は次世代弾道ミサイル潜水艦(SSBN)に配備予定の新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)巨浪3(JL-3)の発射試験を実施した。この試験は米諜報機関により監視されていたが、その詳細を知ることは出来なかった。国防総省のスポークスマンはコメントを控えたが、広報担当者が11月20日から23日にかけ5回のミサイル発射試験が実施されたことを明らかにした。この飛行試験は中国の戦略核軍事力の増強、大規模な軍近代化計画における最も重要なマイルストーンの一つである。本年6月、周近平国家主席は潜水艦基地を訪問、原子力潜水艦が国家の主要武器システムであり、今後これらを急速にアップグレードしていくと発表している。
(2) この発射試験は、中国が巨浪3のテストベッドと思われるType-032潜水艦を配備したという昨年のインターネット報道で予想されていた。渤海に停泊するType-032の写真を分析したアナリストは、同艦上に巨浪3のテスト用に拡大されたと見られるミサイル発射筒が見受けられると指摘していたところである。Type-032はこれまで、陸上発射弾道ミサイル東風31の派生型である巨浪2の試験に使用されていたが、国際戦略研究所(IISS)ミリタリー・バランス・ブログのJoseph Dempsey と Henry Boydはこの改修を「より大規模で新型のミサイル発射システムとSLBMの統合開発計画を示唆するもの」と指摘している。DempseyとBoydは2017年8月、Type-032が同年2月に大連、小平島の基地から遼寧造船所に移動されたと発表したが、ここはSLBM開発が実施されていた場所であり、「Type-032の改修は巨浪3と呼称される新型SLBM開発を示唆している」と述べている。
(3) 中国国家科学技術委員会の「科技日報」によれば、当時まだ巨浪3の開発は確認されていなかったが、この報告によれば、個体燃料式の巨浪3は陸上発射型大陸間弾道ミサイル(ICBM)東風41の技術を応用しており、米国のトライデントII D-5やロシアのブラーバに匹敵する物とされている。中国の軍事評論家、王強は巨浪3について「新しい材料や技術の幅広い応用により開発は加速している」とし、対妨害機能を備えた精密誘導技術(王は光ファイバジャイロのほか終末ブースト方式、天測誘導、画像誘導などと説明)のみならず、可変軌道、レーダー回避、ステルス弾頭、衛星衛星監視対策として熱シグネチャを低減した高速燃焼ロケットモーターなどミサイル防衛突破機能が構築されていると指摘する。
(4) また、国際アセスメント戦略センターのアナリストRick Fisherによれば、巨浪3の最大射程は7,456マイルから8,700マイルであり、これは中国沿岸の水中から発射して米国本土に到達するのに十分な距離であるとして、「これを搭載するType-096という次世代型核弾道ミサイル潜水艦(SSBN)の計画を確認している」と述べている。そしてこれの多弾頭(MIRV)化も期待されているが、問題なのは「Type-096のミサイル搭載数と、これが何隻建造されるのか」という点であるとFisherは指摘している。
 現在の中国の海上核戦力には、16基のミサイルを搭載した4隻のType-094弾道ミサイル潜水艦(SSBN)が含まれている。 中国のインターネット報道によればType-096は最大24基のミサイルを搭載可能であり、これは米海軍のOhio級SSBNに匹敵する。したがって「Type-096は何百発もの核弾頭(抄訳者注:MIRV化した場合)を装備する可能性がある」とFisherは指摘している。これに対し米国の次世代SSBN、Columbia級はミサイル16基を搭載するに過ぎない。アナリストによれば、巨浪3は陸上発射ICBM、東風41の海上発射型であり、ミサイル1基辺り最大10個の核弾頭が搭載可能と見込まれている。したがって、「Columbia級SSBNのミサイル搭載数を増加し柔軟性を保持する必要がある」とFisherは指摘している。
(5) 退役米海軍大佐のJim Fanellも、「巨浪3は間もなく次世代 SSBNのType-94、あるいは現用SSBNの改良型であるType-94A(改晋級)に搭載されるであろう」として、この発射試験は中国の水中核運搬能力拡大を表す兆候と指摘している。そのType 096は2020年代半ばから後半にかけての運用開始が見込まれているが、Fanellは「Type-94AであれType-096であれ、巨浪3は第1列島線内の哨戒エリアから米国本土全体を射程に収めるだろう」と警告している。そして、Type-096で予想される静粛性向上と、搭載された24基(最大10発のMIRV化)の巨浪3の潜在的脅威に鑑みれば、米海軍の攻撃型原潜は常に中国SSBNを追尾しておく必要があり、そのためにも「攻撃型原潜の増勢を図らなければならない」とFanellは主張している。
(6) 米国防総省の中国軍事力に関する年次報告書によれば、現有4隻のSSBN、Type-094は「中国初の信頼できる海上核抑止力」とされており、ここでも「巨浪3を搭載する次世代SSBN、Type 096は2020年代初頭に建造が開始される。」と指摘されている。また、同報告書は「中国の第1世代SSBNは40年以上の耐用年数を有しており、中国は晋級とType-096を同時に運用することになるだろう」と述べている。
米国立航空宇宙情報センターの報告書も4隻のSSBNに48基のJL-2が配備されたことについて「このミサイルは中国のSSBNが中国沿岸の作戦地域から米本土の一部を標的にすることを可能にした」として、中国は大きな核攻撃能力を手に入れたと指摘している。
 (7) 一方、ロシア科学アカデミー極東研究所の軍事専門家であるVasily Kashinは、国営Sputnikニュースレターで、中国は現有の巨浪2搭載潜水艦の海上自衛隊・米海軍に対する脆弱性を懸念しており、より高度なミサイルや潜水艦を開発していると指摘している。「巨浪2はアジア各国の米同盟国及び米軍基地に対し使用できるものの、核抑止力としての役割は小さい。海上戦略核戦力増強には11,000〜13,000kmの射程を有し、MIRV化されたミサイルが必要である」とKashinは述べている。またKashinは、巨浪2はテストベッドの潜水艦を損傷させた打ち上げ失敗を含む多くの技術的問題と長いリードタイムを経ての開発を経験して来たが、巨浪3プログラムはこれまでの経験を活かし、以前の失敗を繰り返さず新型ミサイルの開発をスピードアップするだろうと指摘している。
(8) 過去2年の間に、中国はSSBNパトロール(抄訳者注:SSBNを展開させて核反撃能力を維持するオペレーション)を開始している。もちろん核兵器に係るいかなる情報開示も抑止力の価値を損なうという考え方の下、このオペレーションは秘密にされている。そしてまた、中国軍は現場指揮官(抄訳者注:ここではSSBN艦長など核兵器使用の権限を委任する者を念頭)の忠誠心に係る懸念について極めて厳格な指揮構造を課している。北京の指導者達はSSBN指揮官の核ミサイル発射の権限を注意深く管理しているのである。一方で、情報収集艦により、SSBN攻撃に使用される外国の攻撃型原潜(SSN)の音紋ライブラリの開発なども進められているという。もちろん中国大使館のスポークスマンは、これらについてコメントを求めるEメールの要求には一切応じていない。
記事参照:China Flight Tests New Submarine-Launched Missile

12月19日「北極における新たな『冷戦』はなぜ、危険な神話なのかーデンマーク専門家論説」(ARCTIC TODAY, December 19, 2018)

 12月19日付のARCTIC TODAYは南デンマーク大学戦争研究センターのDanita Catherine Burkによる“Why the new Arctic ‘Cold War’ is a dangerous myth”と題する論説を掲載し、北極で行われている多くの軍事行動は必ずしも冷戦期の緊張への回帰を意味するものではないとして要旨以下のように述べている。
(1) 北極地域はあまりにもしばしば軍事的危機の最前線として描かれている。冷戦への回帰は人を納得させるには安易な説明である。北極の氷の下を静かに航行する潜水艦と極点を越えて目標を捉えている核弾道ミサイルというよくあるイメージが続いている。NATOとソ連の対立が高まっている時、世界は北極からの核ミサイルの釣瓶打ちを恐れてきた。この経験は蓄積されたイメージに刷り込まれ、北極地域に対する全く別の考えを生み出した。
(2) 冷戦は歴史上、大きな影響を及ぼした期間であった。しかし、地域名と新冷戦を並列に利用した人の目を引きやすい見出しは人々を誤った方向に導くものである。勿論、ウクライナ、クリミアをめぐる紛争によって、西側とロシアの間の緊張が高まってきた。2018年のトライデント・ジャンクチュア演習はそのことを物語っている。しかし、緊張は北極特有のものではないし、軍事力は多様な主体である。しかし、この微妙な差異はしばしば見過ごされている。最近の軍事演習と装備品取得は古い冷戦の認識を刺激している。そして、ある軍事化は実際に北極で起こりつつある。しかし、軍事行動は程度の差はあるものの北極においては何十年にわたって起こってきた。それは最近までそこに住んでいなかった人々からはほとんど無視されてきた。
(3) 北極圏国は空中哨戒、潜水艦及び水上艦艇による哨戒によって自国の国土と海域を何年にもわたって守っている。たとえインフラが更新され、場合によっては増加したとしても、このことが軍事的緊張を拡大するとは考えにくい。にもかかわらず、新冷戦の話は過熱しつつある。国家の軍事力は武力紛争における伝統的な責任を超えた範囲の役割を果たすことがある。例えば、災害時の迅速な対応に軍事力は有用であり、必ずしも戦争への拡大を意味しない安全保障上の役割を提供している。軍事力は捜索救難や警察支援を提供する。
 ノルウェーでは沿岸警備隊は海軍の一部局であり、同様にデンマークでは沿岸警備隊の北極での行動は海軍が統制している。カナダでは沿岸警備隊は文民組織である。しかし、沿岸警備隊は国防省と緊密に連携しており、航空支援を含めカナダの捜索救難業務を提供している。米沿岸警備隊は国土安全保障省の下部組織である。法により、沿岸警備隊は「平時には」国防総省の外にあるが、「戦時には海軍省に移管される」態勢になっている。このような状況から、軍事活動と文民の活動の境があいまいになることがある。しかし、このことは全ての軍事行動が敵対的であったり、戦争に向けて拡大することを意味しない。
 (4) 気候変動と技術の進歩は北極を開き始めた。そして、このことは、遠隔地での伝統的な警察の範囲をしばしば超えた地域での一層の警察行動を必要としている。気候変動によって、森林火災のような他の問題も起こっている。森林火災の消火活動の一環としてレーザー誘導爆弾が使用された。この構想はスウェーデン空軍によって主導された。レーザー誘導爆弾を使用することにより「我々がろうそくを吹き消すように衝撃波が炎を簡単に吹き消すことになる」という。地域の経済活動が拡大する中で、軍事力は民間の問題をより一層支援するよう求められつつある。
(5) 北極の経済的可能性が大きくなっていくのにあわせ、軍事的インフラが一層注目を浴びつつある。特にロシアは、北極で危うくなった経済的可能性に対して軍事力の建設は重要であると明らかにしている。ロシアにとって、北極の資源は国の経済安全保障の中核であり、政府は「北極における国家安全保障は先進的な陸海空軍の展開を必要としている」としている。しかし、国家安全保障の問題は広範なものであり、単に戦争から国家を守る、あるいは戦争において国家を守るための能力だけではない。全体として、軍事力は戦争の道具ではあるが、戦争の道具だけではないことを心に留めておくことが極めて重要である。軍事力は安全保障に貢献し、安全保障の広範な領域の事業を提供している。このことは増大する軍事支出と活動を批判的な目で見てはならないということを意味しない。しかし、「新冷戦」の議論は関心を煽り立てるものである。「新冷戦」の議論は北極全般について軍事力が果たす広範な役割から目をそらさせるものであり、その議論が警告する非常な緊張を掻き立てる。
記事参照:Why the new Arctic ‘Cold War’ is a dangerous myth

12月19日「南シナ海南端に建設されたインドネシア軍事基地の背景と意義――香港紙報道」(South China Morning Post, December 19, 2018)

 12月19日付の香港紙South China Morning Post電子版は、“Indonesia opens military base on edge of South China Sea to ‘deter security threats’”と題する記事を掲載し、Natuna諸島に建設された軍事基地が2018年12月18日に稼働を始めたことの背景とその意義について、要旨以下のとおり報じている。
(1) インドネシアは2018年12月18日、南シナ海の南端、ボルネオ島から約200キロ北に位置するナトゥナ諸島のひとつ、大ナトゥナ島のSelat Lampaに建設された軍事基地を稼働させた。インドネシア国軍総司令官のHadi Tjahjantoによれば、同基地建設の目的は国境付近の安全保障上の脅威に対抗する抑止力の増強である。また、その翌日の19日、インドネシア大統領Joko “Jokowi” Widodoは、16万9000人が居住するナトゥナ諸島がインドネシアの主権が及ぶ領土であることを明確にする意図を発表した。
(2) インドネシアは、南シナ海の主権をめぐる論争の当事国ではないが、同海域において中国との小競り合いを起こしてきた。たとえば2016年にはインドネシアの哨戒艦が中国漁船を拿捕しながらも、それを中国海警局の船舶に奪われるという出来事があったが、このことは、すでに進行中であったナトゥナ諸島における軍事拠点建設をさらに促進させるものであった。
(3) 中国はナトゥナ諸島に関するインドネシアの主権を認めている。他方でその周辺海域の権利や利益に関して、中国は、インドネシアとの間に解決の必要がある主張の重複があると主張している。インドネシアは中国のこうした主張を認めていない。
(4) 上述したJokowi大統領の声明に見られるように、インドネシアはナトゥナ諸島およびその周辺海域については強い立場を示してきた。2002年、インドネシアは同国の排他的経済水域内に位置する南シナ海の一部海域の名称をナトゥナ海と改めた。それにはナトゥナ諸島北部の海域は含まれていなかったが、2017年に発表した最新版の地図において、その海域を北ナトゥナ海と修正したのである。中国はこうしたインドネシアの動きに反発したが、インドネシアは自国の領海に名前をつけるのは権利であると反論した。
(5) ただし、こうしたインドネシアの動きは、必ずしも中国との敵対関係を深めようというものではない。19日のJokowi大統領の声明を、翌年の再選を目指すための「明らかに選挙用のレトリック」と評する者もいる。Jokowi政権はインフラ計画などへの中国の投資を引き出すことに強い関心を示し続けてきたのである。オーストラリアのシンクタンクLowy Instituteの報告書によれば、「地域外交においてJokowi政権は、中国政府を怒らせないようにすることに熱心であった」のである。ナトゥナ諸島での軍事基地建設は、こうした文脈においても理解する必要がある。
記事参照:Indonesia opens military base on edge of South China Sea to ‘deter security threats’

12月20日「新しい米アフリカ戦略は中国に関するもの―セネガル在住専門家論評」(The Interpreter, December 20, 2018)

 セネガル・ダカールを拠点に活動する独立系アナリスト兼コンサルタントで、China Africa Advisory のセネガル代表であるCornelia Tremann博士は、12月20付けでオーストラリアのシンクタンクであるLowy InstituteのWEBサイトThe Interpreterに“The new US Africa strategy is not about Africa. It’s about China”と題する論説を寄稿し、新しい米国のアフリカ戦略がアフリカに関するものではなく中国に関するものになっていることは不適切であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Donald Trump大統領の国家安全保障顧問John Boltonは、12月13日、ヘリテージ財団で行った講演で米政権の新しいアフリカ戦略の要点を述べた。貿易と投資の優先順位付け、テロとの闘い、そしてアフリカにおける米国の対外援助のより的を絞った目標設定を含む戦略の主な原則は、全体として賢明である。しかし、残念なことに新しい米国のアフリカ戦略は実際にはアフリカに関するものではなく中国についてである。
(2) Boltonによれば、アフリカにおける米国にとっての最大の脅威は移民や過激主義からではなく、中国(そして、二次的にロシア)からのものである。この大陸での「腐敗した」「搾取的」なビジネス慣行を通じて、中国は、米国に対する競争上の優位性を獲得するその投資を「意図的かつ積極的に」狙っている。これは、アフリカ諸国政府に負債を背負わせる。そしてこれは、彼らの長期的な開発の見通しを害し、その主権を蝕む。その結果、米国は「過度のコストを課す中国が提供するものとは異なり、国家が自立するのに役立つ持続可能な外国投資を選択することをアフリカの指導者たちに働きかける」としている。
(3) 過去1年間、米国政府は、内情に明るい人間がそのような白か黒かの観点について警告しているにもかかわらず、「世界中の国々に明確な選択を提供する」として米国と中国の開発援助モデルの違いを案出している。その最も極端な形では、そのような政策はアフリカの指導者たちが米国か共産主義国に戦略的に同調しなければならなかった冷戦時代を振り返らせ、発展途上国に米国か中国による開発援助のどちらかを受理することを選択することを要求する。明らかに、発展途上国に中国と米国のどちらかを選択するよう求めることは、賢明でない考えである。
(4) 中国を孤立させることは、アフリカ諸国との関係における透明性、説明責任及び人権の尊重の高度な水準を促進しようと努める西欧の規範及び制度の外側で、中国が独自の道を築くことをさらに促すだろう。中国の外交政策はより積極的になり、アフリカでの対外援助政策はより戦略的になっている。外交官によるロビー活動にもかかわらず、米国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を拒否することで、中国の開発活動に影響を与える重要な機会をすでに逃している。
(5) もしアフリカの国々が米国の無理強いの下で中国のモデルを選択するならば、それはアフリカにおける米国のパワーのさらに大きな真空さえ生み出し、そして発展途上国諸政府に彼らの市民のニーズへより責任を負わせるように圧力をかける能力を弱めるだろう。アフリカ諸国をさらに中国に向かわせる可能性さえある。対立するのではなく、たとえばアフリカの巨大なインフラのギャップに取り組むなど、関与が肯定的な影響を及ぼし得るアフリカの正当なアクターとして中国を認めることは、批評に値する中国のアプローチのそれらの側面を批判するためのより大きな影響力を米国に与え、どうやってそれに関与したり競争したりするかについてより創造的な考え方を育む。たとえば、米国は中国人とより良い取引を交渉するため、彼らの流入資金の流れをより効果的に管理するためのアフリカ政府の能力を構築することに集中することができる。現在、援助国からの援助の流入やプロジェクトを発展途上国政府が管理することを支援するために米国が作成した援助協力地図は、何が開発援助に相当するかという米国の定義に一致していないため、中国の投資活動やプロジェクトを盛り込んでいない。発展途上国政府は「どちらか」のシナリオではなく、国家開発戦略をより適切に決定するために、彼らの国で外国のアクター及び活動のより包括的な全体像を必要としている。
(6)おそらく最もひどいのは、中国にそこまで焦点を合わせることにより、その新しい米国のアフリカ戦略は暗黙のうちに新しい大国間の対立において、質草のようにアフリカ諸国を扱う。これは、アフリカの行為主体性と、この大陸において永久に米国の関与を強力な力とする大変な価値を損なう。米国のアフリカ戦略は、中国とアフリカの関係ではなく、米国とアフリカの関係に焦点を当てるべきである。
記事参照:The new US Africa strategy is not about Africa. It’s about China

12月20日「中国、太平洋島嶼諸国への浸透ぶり―米シンクタンク分析」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, December 20, 2018)

 米シンクタンク、Center for Strategic and International Studies(CSIS)のAsia Maritime Transparency Initiative は、12月20日付のWEBサイトに“Challenging the Pacific Powers: China’s Strategic Inroads in Context”と題する分析を掲載し、中国の太平洋島嶼諸国への浸透ぶりについて、要旨以下のように述べている。
(1) 太平洋諸島は現在、中国、米国及びその他の国との抗争の舞台となっている。この地域における北京の影響力は、その急速に増大する援助とインフラ投資に並行して、この10年間急速に拡大してきた。しかし、この地域における中国の大規模なインフラ投資計画の多くは、東南アジア、インド洋地域及びその他の地域で見られるのと同様の懸念を高めてきた。こうした懸念には、返済不可能な債務額、中国の援助に伴う政治的な束縛、そして一部の国に見られる、この地域に対する軍事的なアクセス手段として中国の港湾、空港インフラ建設計画が利用される可能性が含まれる。その上、中国のこの地域への急激な浸透ぶりにもかかわらず、北京は、4つの域内国(the four resident powers:オーストラリア、ニュージーランド、フランス及び米国)によって長年、特に軍事的に支配されたこの地域では、依然として域外国に過ぎない。以下、4つの域内国の軍事プレゼンスの現状と、中国の主要港湾、空港に対する投資の現状を見てみよう。
(2) 米国:米国は、米西戦争によるグアムとフィリピンの取得、及びハワイを併合した1898年から太平洋における域内国となった。今日、米国は、グアムとハワイのオアフ島における大規模な軍事基地に加えて、その他の島嶼における小規模の飛行場によって、太平洋全域に軍事施設を維持している。ハワイ州の他に、米国は、太平洋地域に10カ所の領土を有しているが、その内、住民が居住しているのはグアム、米領サモア及び北マリアナ諸島自治連邦区のみである。パラオ、マーシャル諸島共和国及びミクロネシア連邦は独立国家だが、1986年(パラオは1994年)から米国との間で自由連合盟約(Compacts of Free Association with the United States)を結んでいる。この盟約に基づいて米国は、これら諸国に経済援助を提供し、その住民に対して無制限に近い米国への入国を許容し、更にこれら諸国の防衛を引き受けている。引き換えに、これら諸国は、米国に対して、「戦略的目的」のための自国領とその水域への排他的なアクセスを認めている。マーシャル諸島とミクロネシア連邦は2003年に更に20年間の盟約更新を受け入れ、パラオについては、米議会は7年遅れの2017年に盟約の更新を承認した。
(3) フランス:フランスは一連の保護領を獲得し、そしてその後、幾つかの島嶼王国を併合した19世紀半ばから、太平洋における実質的なプレゼンスを維持してきた。現在、南太平洋には、3つの自治領―仏領ポリネシア、ウォリス・フツナ及びニューカレドニアがある。仏領ポリネシアとニューカレドニアには、空、海軍施設がある。ニューカレドニアは、2018年11月に独立を問う住民投票を実施したが、フランス残留派がかろうじて勝利した。
(4) オーストラリア(豪):豪は過去何十年もの間、太平洋において外交的、経済的そして軍事的リーダーの役割を果たしてきた。豪は第2次大戦後、パプアニューギニアとナウルを、それらが独立するまで信託統治していた。豪はまた、1999年~2000年まで東ティモール国際平和維持活動を、2003年~2017年までソロモン地域支援ミッションを、それぞれ主導してきた。豪軍部隊は現在、域内全域における災害救助、訓練及びその他の諸活動に関与している。豪The Lowy InstituteのPacific Aid Mapによれば、豪は、2011年~2018年の間の太平洋諸国に対する援助額において、次位以下5カ国の援助額合計よりも多かった。
(5) ニュージーランド(NZ):NZは、近隣の太平洋島嶼諸国と強い絆を維持している。NZは、自国領のトケラウに加えて、独立国であるクック諸島とニウエとの間で自由連合盟約を結んでいる。NZはソロモン地域支援ミッションに貢献するとともに、NZ軍は太平洋地域全域における訓練、災害救助そして海洋安全保障任務に定期的に関与してきた。NZ政府は、この地域へのソフト・パワーと経済外交を促進する、「太平洋リセット」(a “Pacific reset”)政策を公表している。これに基づいてNZは、今後4年間で5億ドル近い対外援助予算を計上しているが、援助額の大部分は太平洋諸島に投入される。
(6) ルガンヴィル埠頭、バヌアツ:バヌアツ最大の島、エスピリトゥサント島ルガンヴィルにあるルガンヴィル埠頭は長さが1,200フィート近く、南太平洋で最長の埠頭であり、一度に複数隻のクルーズ定期船や貨物船が停泊可能である。埠頭の建設費9,340万ドルは中国からの借款によって賄われ、中国の上海建工集団によって建設された。バヌアツ当局は埠頭の収益見通しに楽観的だが、豪紙は、その収益は期待値に達していないと報じている。豪メディアは2018年4月、中国が恒久的な軍事的プレゼンスの一環として海軍艦艇の寄港地にすることを期待して、埠頭建設費を負担した、と報じた。さらに、中国当局とバヌアツ当局が寄港に関して予備的な討議を行った、とも報じた。しかし、中国当局もバヌアツ当局もこうした報道を否定した。
(7) ファレオロ国際空港、サモア:サモアは2018年5月、首都、アピア郊外の新たに改修されたファレオロ国際空港を開設した。新たな空港は、旧ターミナルの倍以上の能力を持つターミナルを有し、年間最大60万人の乗降客の受け入れが可能である。6,000万ドルに近い2段階の改修プロジェクトは、中国輸出入銀行と世界銀行の資金で賄われ、上海建工集団が工事を請け負った。サモアは、中国に1億6,000万ドル以上の債務を負っており、その額は同国の対外債務全体の半分近くを占める。Tuilaepa首相は、自国の負債レベルは返済可能であるとし、また太平洋島嶼諸国は中国から借款猶予を求めるべきである、との懸念を打ち消した。
(8) ヴァナ埠頭、トンガ:ヴァナ埠頭は、中国輸出入銀行からの1,830万ドルの借款を得て2011年に再建された。中国土木工程集団が工事を請け負い、築100年の埠頭を改修し、首都ヌクアロファへの観光に寄与するクルーズ客船の受け入れが可能になった。トンガは埠頭改修と他の大規模プロジェクトのために、中国から1億1,500万ドル以上に借款を受け入れており、その額は同国GDPの3分の1に相当する。トンガのPōhiva首相は2018年8月、太平洋島嶼諸国は集団で中国から借款猶予を求めるべきであると主張した。しかし、直後に態度を変え、11月のAPEC首脳会議では中国の「一帯一路構想(BRI)」への参加に同意し、一方北京は見返りに、借款返済を5年間猶予することに同意した。
(9) 太平洋海洋産業地区、パプアニューギニア(PNG):PNGのマダンにおける太平洋海洋産業地区(PMIZ)は、PNG の漁業を強化するための施設として構想された。このプロジェクトは当初、中国輸出入銀行から9,500万ドルの借款を受けて10年以上前に着手され、埠頭と10カ所のマグロ缶詰工場の建設が計画されたが、その他の関連インフラを受け入れる十分な敷地がなかった。しかしながら、当初借款の900万ドルを投入したが、プロジェクトは上手く進展しなかった。O’Neill首相は2015年に建設再開を発表し、完成すればPMIZは年間最大40億ドルの収益をもたらすと予測している。建設再開に対応するために、中国は当初借款をキャンセルし、改めて1億5,600万ドルの借款を供与した。しかし、現在までのところ、ほとんど見るべき進展はない。
(10) ブラックロック・キャンプ、フィジー:ブラックロック・キャンプ、正式には平和維持・人道支援・災害救助キャンプはナンディ(ヴィティレヴ島)にあり、フィジー共和国軍の待機訓練キャンプである。豪紙によれば、中国は空港建設を含め、このキャンプの再開発に応札したが、フィジー当局はライバルの豪からの入札を受け入れた。豪の計画は、このキャンプを南太平洋における軍事訓練のための地域ハブとするより包括的な計画であったといわれる。
(11)ロンブラム海軍基地、PNG:ロンブラム海軍基地は、マヌス島にあるパプアニューギニア防衛軍(PNGDF)の哨戒艇基地である。この基地は1974年に豪からPNGDF に引き渡され、PNG は定期的哨戒と漁業監視のために利用してきたが、埠頭は小さく、老朽化している。中国は2018年初めに、ロンブラムを戦略拠点として開発することに関心を示した、と報じられた。これに対して豪は9月に、自国の太平洋海洋安全保障計画の一環として、埠頭とその他の関連インフラを改修する、360万ドルの契約書に調印した。11月のPNGでのAPEC首脳会議でPence米副大統領は、米国が豪とともにこのプロジェクトに参画する、と発表した。
(12)豪、NZ、仏そして米国は太平洋の域内国であり、域内に軍事施設と長年の安全保障パートナー諸国を持ち、域内全域に戦力投入が可能である。しかしながら、中国は現在のところ、その能力に欠ける。とはいえ、中国は東アジアを越えて活動する外洋海軍と遠征能力を目指しており、太平洋島嶼諸国のロンブラム、ブラックロックそしてルガンヴィルといった、戦略的に重要な港湾や空港へのアクセス確保に関心を持つことは驚くに当たらない。中国はジブチやグワダルなど、インド洋でも同じことをしている。しかし、こうした施設への中国の最終的な軍事アクセスに対する懸念は理解できるが、対中負債の増大と、その返済猶予に伴う中国への政治的束縛は、太平洋島嶼諸国と地域の伝統的利害にとって、一層喫緊の問題となっているのである。
記事参照:Challenging the Pacific Powers: China’s Strategic Inroads in Context

12月20日「北極圏が日本とロシアの協力の場として浮上―日英語紙報道」(Nikkei Asian Review, December 20, 2018)

 日本のNikkei Asian Review電子版は、12月20日付の同サイトに“Arctic emerges as collaboration hot spot for Japan and Russia”と題する記事を掲載し、日本とロシアが経済協力を通じて二国間関係を発展させようとしているが、それを加速させるのが北極地域の開発であるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 日本政府は、海運と天然ガス調査の共同プロジェクトが二国間平和条約の協議を推進することを期待して、北極地域の開発に関してロシアと協力するための取り組みを加速している。最近の動向では、民間部門のメンバーが同行して、日露当局者が経済協力について話し合うために12月18日火曜日に会合を開いた。双方は、ロシア極東のハバロフスク国際空港で、乗客ターミナルの建設と運営に日本の商社の双日と空港オペレーターの日本空港ビルデングを参加させることを承認した。
(2) これは、10月に河野太郎外相がアイスランドのレイキャビクを訪問した後に続いて実現した。ここで彼は、政府関係者、ビジネスリーダー及び学者の国際的な専門家が一堂に集まる会合であるArctic Circle Assemblyに参加した最初の閣僚となった。「地理的には、我々の最北の島である北海道は、アジアから北極海航路への玄関口である」と河野は演説の中で、最近の温暖化で氷が溶けたために広がった北極海の航路について語った。北極圏を通過することは、より伝統的なスエズやパナマの運河を使用するルートと比較して、輸送時間が短縮され、海運業者の燃料費が削減される。
(3) ロシア、米国及びカナダを含む北極海沿岸の5ヵ国は、国益のためにこの地域を積極的に開発してきた。北極圏の状況が国の気候、農業、漁業及び林業に影響を与えるという事実を挙げて、中国は自国を「北極近傍国家」と呼んでいる。1月には、北極圏の計画に関する初の白書を発表し、より大きな一帯一路インフラ計画の一環として「氷上シルクロード」を建設する計画を発表した。韓国は海運業者や他の会社に北へ向かうよう促している。
(4) ロシアのVladimir Putin大統領がウラジオストクの9月の首脳会談で日本の安倍晋三首相と会談したとき、Putin大統領はロシア北部のヤマル半島での開発協力に言及した。同大統領は、両国間の経済協力に基づいて二国間関係を進展させることを目指していると述べた。両首脳は北極圏における液化天然ガス開発を含む約10の協力協定に調印した。ヤマル周辺区域は、世界の天然ガス埋蔵量の20%以上を含むといわれている。ロシア最大の独立系ガス生産会社であるノヴァテクは、LNGプラットフォーム・プロジェクトへの国境を越えた投資を求めている。これは、ロシア政府の対外投資の呼びかけと一致している。日本にとってガス田を開発する機会は、エネルギー調達の安定化と多様化に役立つだろう。11月には、ロシアのサハ共和国などの他の関係者と協力して、日本政府が支援する新エネルギー・産業技術開発機構が、日本の耐寒技術を利用した風力発電機の試験運用を開始した。多くのオブザーバーは、北極圏における経済協力が日露間の最終的な平和条約に向けた交渉を加速することに役立つと考えている。安倍首相は、来年6月に大阪で開催されるG20会議に合わせてPutin大統領と会談する際に、平和条約に加えて争いのある群島に関する幅広い合意に達することを目指している。
(5) ロシアは、北極圏で軍事ハードウェアの配備を加速している。中国は、世界中で港を開発しているが、将来的には軍用に変えられる可能性があると一部の人間は考えている。日露の協力は、中国の拡大を押し戻したいという願望をほのめかしている。
記事参照:Arctic emerges as collaboration hot spot for Japan and Russia

【補遺】

旬報で抄訳を紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

International law cannot save the rules-based order
https://www.lowyinstitute.org/the-interpreter/international-law-cannot-save-rules-based-order
The Interpreter, December 18, 2018
 ドイツのフンボルト大学Berlin Potsdam Research Group研究員で国際法学者のMalcolm Jorgensen博士は12月18日付でWEB誌The Interpreterに標記の論説を寄稿し、最近の国際関係において多用されている「法の支配」、「ルールベースの国際秩序」といった用語は、2016年のハーグ判決に中国が従わないことなどに象徴されるとおり、現実の国際政治におけるパワーシフトとの関係において実効性を欠いており、破綻した論理であると述べている。