海洋安全保障情報旬報 2018年11月21日-11月30日

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11月21日「軍事的重要性を増す秘境アンダマン・ニコバル諸島―豪ジャーナリスト論説」(The Interpreter, November 21, 2018)

 オーストラリアのジャーナリストAarti Betigeriは、11月21日付のWeb誌、The Interpreterに"The growing attention on the Andaman and Nicobar Islands"と題する論説を寄稿し、これまで閉ざされてきたアンダマン・ニコバル諸島が様々な面で転機を迎えつつあると指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1)観光や原住民以外でインドのアンダマン・ニコバル諸島について耳にすることはあまりないだろう。同諸島は7つあるインドの連邦直轄領の1つであり、ベンガル湾から離れたタイとインドの概ね中間点にある群島である。同諸島は伝統的に手厚く保護されており、同諸島に関する情報は極めて限られている。とは言え、物事は変わり始めている。近年、アンダマン・ニコバル諸島は急速に軍事的に重要だと認識されてきた。また、インド内務省は10月に、外国人観光客がアンダマン・ニコバル諸島を構成する29の有人島と11の無人島の全てに制限なしで訪問できると決定した。これまで外国人観光客は、観光場所が制限された30日間の立ち入り許可が必要だった。それに加えて、アンダマン・ニコバル諸島にはインドの軍事プレゼンスが長きに亘って置かれてきたところであり、インド洋で増大する中国の力に対抗する試みの中で同諸島の戦略的な価値を認めたニューデリーは、近年軍事プレゼンスを強化すべく努めている。
(2)アンダマン・ニコバル諸島は572の島から成り、コルカタとチェンナイから概ね1,200キロメートルの等距離にある。同諸島の内、37の島にのみ第2次世界大戦後に移住したインド人と先住民からなる定住者がいる。アンダマン諸島のほんの一部のみが観光客に開放されてきたが、ニコバル諸島は常に外部からの立ち入りが禁止されてきた。今日に至るまでアンダマン・ニコバル諸島は意図的に開発されてこなかった。これは同諸島のユニークな動植物の保持と、部族民の比較的平穏な生活の維持に役立った。しかしながら、観光客が落とすドルの魅力には抗えないように見える。報じられるところによれば、インド政府は観光開発の潜在性を有するアンダマン・ニコバル諸島の26島を指定し、220か所のリゾートと多くのキャンプ場を建設する計画を進めている。これは従来の政府の姿勢の大転換であり、環境面と部族の人口に与え得る影響を懸念した批判を呼んだ。
(3)インド軍の基地はアンダマン・ニコバル諸島では目新しいものではない。同諸島の首都であるポートブレアは陸海空軍の要員が駐屯する大規模な基地の所在地である。ニコバル諸島最大の島であるカーニコバル島には空軍基地がある。アンダマン・ニコバル諸島はミャンマーとインドネシアに近く、マラッカ海峡など世界で最も頻繁に利用される複数の航路のすぐ北方という極めて戦略的な位置にある。インドは2012年に供用を開始した大ニコバル島のキャンプベルベイを含む同諸島の北端と南端に、長い滑走路を有する新飛行場を建設してきた。
(4)インフラや観光、デジタル連結性、医療及び教育をカバーする9つの主要プロジェクトとともに目下検討されているのは、インドと東南アジア諸国の一層円滑な貿易に資すると見込まれるキャンプベルベイの大規模な積み替えターミナルである。
(5)Narendra Modi首相が本年の12月30日にアンダマン諸島を初訪問することが確認された。この訪問は遠隔領土が持つ重要性が増していることを示している。すなわち、アンダマン・ニコバル諸島は秘密の隠された聖域であり続けないということである。
(編集注:アンダマン諸島の北センチネル島では、11月16日に米国人宣教師が先住民部族に殺害される事件が生起しているが、本記事は本件に注目が集まる前に配信されたものである。)
記事参照:The growing attention on the Andaman and Nicobar Islands

11月22日「マレーシアとインドネシアが2つの海洋領域紛争を解決―マレーシアメディア報道」(Free Malaysia Today.com, November 22, 2018)

 マレーシアのニュースサイトFree Malaysia Todayは、11月20日付で“Malaysia, Indonesia achieve breakthrough in territorial disputes”と題する記事を掲載し、マレーシアとインドネシアとの間に存在する海洋領域の紛争や両国関係の現状について、要旨以下のように伝えている。
(1)マレーシアとインドネシアは、13年間の交渉の末、セレベス海とマラッカ海峡の南部における2つの海洋領域の紛争に関して、遂に画期的な成果を達成した。Saifuddin Abdullah外務大臣とインドネシアのカウンターパートRetno Marsudi外務大臣は、第16回Joint Commission for Bilateral Cooperation(JCBC)の会合後、共同記者会見で紛争解決を確約した。
(2)Saifuddinは、11月16日から18日まで、マラッカで開催された第34回技術会合で画期的な成果が得られたと語った。「我々はこの成果を歓迎し、称賛する。そして、マレーシアとインドネシアの間の他の海洋境界問題の解決に向けて、この技術会合が引き続き取り組みを強化し、解決策を提供することを期待している。」と述べた。
(3)インドネシアは、ジャカルタにおいて、学生ビザ取得と更新を試みている最中の約4,000人のマレーシア人学生が直面している官僚組織の問題の解決を支援すると彼は述べた。教育問題に関して、「サバ州で登録されているCommunity Learning Centres(CLC)が85、サラワク州では16あり、それが、マレーシアがインドネシア人労働者に教育を提供することに真剣であることを証明している。」とSaifuddinは述べた。
(4)一方、Retnoは「我々は、北カリマンタン州・サバ州の東部区域の5つのOutstanding Boundaries Problems(OBPs)のうちの2つで合意を達成し、3つの他のOBPsの最終的な解決を促進することも同意した。その後、南部の他の区域について交渉を開始する予定である。」「我々は、インドネシアの家事労働者たちの必要条件及び職業斡旋、人身売買問題並びにスマトラサイの保護に関する履行及び合意を含むいくつかの覚書の草案について、より議論を進めていくことを同様に期待している。」と述べた。
記事参照:Malaysia, Indonesia achieve breakthrough in territorial disputes

11月22日「中国は違法漁業対策に参画しなければならない―米専門家論評」(The Diplomat, November 22, 2018)

 米国のシンクタンクであるスティムソンセンターの上級研究員Sally Yozellは、11月22日付のWeb誌The Diplomatに“China Must Join the War on Illegal Fishing”と題する論説を寄稿し、違法漁業問題に対する中国政府の積極的な関与、刷新及びリーダーシップは、海洋の未来にとって非常に重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1)違法漁業の影響は、世界中の経済及び食糧安全保障を脅かし、沿岸諸国の国家安全保障と経済安定に不均衡な負担をかける。これらの問題を解決するためには、国際協力が必要である。そのような事情により、10月下旬に、70ヵ国以上、200のNGO及び民間業者を代表する3,000人以上のリーダーたちが、インドネシアで行われた第5回アワオーシャン会議(Our Ocean Conference)で協力関係を築いた。彼らは一緒になって、これらの漁業の課題、そして海洋汚染及び海洋安全保障に取り組んだ。この年次イベントは、実際の行動を生んでいる。国家元首、外務大臣、多国籍企業のCEO、そして世界の非政府組織リーダーたちは、将来の世代へと海とその資源を守るために重要かつ具体的で実行可能なコミットメントを行った。
(2)アジア最大の海産食品の生産者の1つであるタイ・ユニオンは、東南アジアにおける海産食品サプライチェーンの持続可能性の改善に7,300万ドルを支払うために、モントレーベイ水族館と提携した。漁業の透明性のためのデータ・プラットフォームであるGlobal Fishing Watchは、20ヵ国からの漁船追跡データを共有することを約束した。国別では、ミクロネシアが、2023年までにこの国の海域にあるすべての漁船の電子監視を実施する予定である。日本は、違法捕獲魚の市場閉鎖を行い、漁業の持続可能な管理を行うために、アジア諸国に対して融資することを約束した。そして、インドネシアは、増加する違法漁業への監視と調査を行うために2,800万ドルを出すことを発表した。
(3)過去に中国は、アワオーシャン会議に参加し、前向きな取り組みを発表し、自身が海洋資源の責任ある管理者であることを示した。しかし今年、中国は、ゼロコミットメントだけでなく、上級の代表者を派遣しないことを決めた。この「すっぽかし(no show)」は、違法漁業に対する政策変更への約束を放棄し、各国を失望させる近年の行動パターンである。昨年、中国は遠洋漁業を減らすことを約束し、遠方海域の漁船団の上限を3,000隻までとすると発表した。しかし同時に中央政府は、遠洋漁業船をアップグレードし、彼らの国際漁業に補助金を出すために何億ドルも費やしている。中国は自国の海域で乱獲を行い、自国の漁場を季節的に管理閉鎖状態にすることを強いる一方で、中国の漁師たちに、より遠くの海域を目指すことを強制させているのは明らかである。彼らの世界最大規模の遠洋漁船団は、持続可能な発展、近隣諸国の漁業管理、そして、長期にわたる海洋安全保障のルールを損なっている。
(4)経済的な世界的大国としての中国の地位は上昇し続けており、その役割とともに、環境管理の支援を行うリーダーシップの責任が伴う。しかし、中国が、信頼されるように確約を示し、海洋の持続可能性のレトリックと行動を一致させることに専念することが可能な具体的な措置がある。違法漁業防止寄港国措置協定(Port State Measures Agreement:PSMA)への参加は、第一歩となるだろう。中国は、不法に獲られた魚が売り出されることを防ぐ港湾保安の要件を満たす必要がある。第2に、中国は、遠洋漁業の操業への漁業補助金を止めなければならない。これは、違法漁業問題を悪化させる行動を刺激するからである。最後に、中国政府は、無規制・無報告の漁業に焦点を当てて、国内の漁船団の監督を厳しくすべきである。これらの具体的な措置は、すべての漁場の状態を改善し、持続可能な海洋国家というリーダーシップへの中国の野心に対する信頼性を増すだろう。
記事参照:China Must Join the War on Illegal Fishing

11月24日「カンボジアにおける中国の港湾建設と軍事的侵出―米誌論評」(The Diplomat.com, November 24, 2018)

 Web誌The Diplomat編集委員、Prashanth Parameswaranは、11月24日付の同誌に、 “What’s in the China-Cambodia Military Base Hype?”と題する論説を寄稿し、中国がカンボジアで進める港湾プロジェクトの真の狙いについて、要旨以下のように述べている。
(1)中国がこの10年来進めているカンボジアでの港湾建設プロジェクトについて、中国が最近数年間、同国に対する軍事的侵出を強めていることから、近年特に注目を集めている。カンボジア政府からタイ湾沿いのコーコン州の土地を99年間リースされ、中国の「天津連合開発グループ」(UDG)が中心となって38億ドルの土地開発プロジェクトがこの10年来進められているが、注目されているのはこのプロジェクトの港湾建設である。この港湾建設プロジェクトはまだ完成しておらず、また中国の軍事的役割も確認されているわけではないが、この港湾は、コンテナ船のみならず、中国海軍のフリゲートや駆逐艦を収容するのに十分な水深があると言われる。この港湾は地政学的に重要な位置―タイ湾沿いにあることから、北京にとって東南アジア大陸部へのハブ港としての機能と並び、南シナ海とそれ以遠のシーレーンへのアクセス拠点ともなる。
(2)近年、カンボジアにおける経済面と安全保障面での中国のプレゼンスの増大は顕著である。経済面で見れば、今や同国の対外債務60億ドルのほぼ半分が中国に対する債務と見られ、カンボジアが北京の「一帯一路」構想(BRI)の主要国の1つになっていると見なされている。問題の港湾プロジェクトは、Hun Sen政権によるいくつかのインフラ建設と商業プロジェクトの建設を目指す、野心的で広範囲に及ぶ “Pilot Zone” の一貫として BRI に関連づけられ、しかもカンボジアにおける中国の影響力のハブとなりつつある近隣のシアヌークビル港と連結されることで、その重要性を高めつつある。安全保障面で見れば、中国とカンボジアの軍事関係が深化しており、この分野では、2016年の最初の軍事演習実施、海軍分野での協力強化、カンボジアでの中国軍装備品の展示、そしてカンボジアの軍事インフラと施設建設に対する中国の増大する投資が含まれる。Hun Sen首相と他のカンボジア政府高官は、カンボジア憲法が国内における外国軍事基地を認めていないとして、米国や域内に高まる懸念に反論してきた。
(3)カンボジアが大国間抗争のチェスボードにおける中国のボーン(手先)になりつつあることが懸念されるのには、確かな理由がある。カンボジアは長年、自ら中国の軍事支援を求めてきた。弱体な海洋能力に対する中国の支援は、プノンペンが沿岸沖のエネルギー資源を含む、自国の海洋権益防衛能力を強化する上で役立ってきた。Hun Sen政権にとって、中国の一層の支援を受けることは、軍事力の強化や自らの政権基盤の強化など、幾つかの面で有益である。カンボジアにおける中国の公然たる軍事基地の存在については、中国もカンボジアも明確に否定することは確かだが、港湾というものは、実際的には軍民両用施設になり得るものである。主たる目的が商業活動にあり、そして他の諸国にも開放されると主張されても、北京とプノンペンは、軍要員や艦艇の寄港に関して中国に優先的アクセスを認めたり、能力構築、訓練や教育プログラムを支援する施設としたりすることも可能である。
(4)近年に見られるカンボジアの中国依存の深化は、例えそれが政権与党の長期化を保証するものであったとしても、プノンペン自身の主権と国益を危険に晒すものであり、いずれカンボジアが中国の要請を黙諾することになる可能性を排除し得ない。いずれにしても、カンボジアにおける中国の軍事的侵出は、国際的に注目されるべきであり、今後とも注視していく必要がある。
記事参照:What’s in the China-Cambodia Military Base Hype?

11月24日「南シナ海の行動規範には時間をかけるべき―シンガポール専門家論評」(South China Morning Post, 24 November, 2018)

 シンガポールの南洋工科大学S.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)の研究員であるCollin Kohは、11月24日付の香港紙South China Morning Postのサイトに“South China Sea talks necessarily a slow burner – but consensus on what ‘militarisation’ means will help keep them on the boil”と題する論説を寄稿し、中国とASEANは、南シナ海の行動規範の合意には時間をかけるべきであり、それは軍備管理メカニズムに似ているとして、要旨以下のように述べている。
(1)中国とASEANは、南シナ海の平和と安定を促進するための彼らの取り組みに関して、昨年末からうまくいっている。彼らは、提案された行動規範に関する枠組みの草案を公布し、8月に規範のための唯一の草案交渉文面を採択した。ASEANの一部の政策エリートたちが、この規範が来年中という速さで実現する可能性を指摘したが、中国の李克強首相は、規範は決着がつくのに3年間かかるという彼の発言によって水を差したかもしれない。
(2)この規範を急いで仕上げることが賢明ではないかもしれないと強調することが重要である。唯一の草案文面が11の当事国によって承認された後でさえ、かなり大きな課題と不確実性が行く手に控えている。この規範は、軍備の量と質を制限しようと試みる古典的なタイプではないが、すべての意図と目的に関しては、軍備管理メカニズムである。どちらかといえば、本質的に軍備ではなく、それらが採用されている方法を制限することを求める、軍備管理の理論家が「運用的軍備管理(operational arms control)」と呼ぶものに似ている。
(3)そして、過去に直面した課題は、今日の信頼・安全醸成措置(CSBM)と異なるものはどこにもない、ということである。交渉における進展、有用期間及び最終結果は締約国の国益に高度に依存している。より多くの当事国が関与することは、お互いに対立している多数の国益が理解される必要があるため、交渉過程における、より多くの妨害を招くことになる。そして歴史においては、当事国がお互いに妥協できない可能性があるため交渉の過程で無効となった軍備管理条約がたくさんある。または、条約が署名された後でさえ、いかなる当事国による違反行為も、コンプライアンス、検証及び執行の適切な規定を通して満足のいくように是正できない可能性があるため、履行には問題がある。
(4)南シナ海の紛争だけでなく、より広範なお互いの関係や外部の利害関係国との関係に関しても、それぞれが異なる国益をもつ11の当事国が存在する。このため、まさに行動規範に関して共通のASEANの立場があるとは考えにくい。これはまた、この過程を伴う本来の不確実性も意味する。そのようなものとして、この議論が1年以上を要するとしても、実際には悪いことではないかもしれない。もしかしたら中国の首相が示唆したようにおそらく3年に増える、またはより効果的な規範を公布するならば、さらに長くなるだろう。もちろん、より長いプロセスという考え方を受け入れる場合の注意事項は、すべての当事国が、誠実にそれに従事する必要があるということである。そして、それが全体のプロセスを作り上げる、または破壊する可能性が最も高い。交渉が継続しているにもかかわらず、南シナ海のすべての権利主張国ではなくとも、一部の国々が紛争のある海域内で占拠している地勢の上にある物理的要塞を美化し続けている。軍事化や他の何かと呼んでも事の真相はこのような手段であり、行動規範の議論に従事している当事国間の相互信頼の推進には役立たないということである。
(5)しかし現実的な見地から、おそらく外部の利害関係国を含めたすべての当事国が、「軍事化」が意味することやそれが包含する活動についての合意を引き出すことができる時まで、南シナ海における増強とそれに関連する活動に関するモラトリアをもたらすことは難しい注文のように思える。よって少なくとも、すべての当事国が継続するこの交渉のための和やかな雰囲気を維持するために行うべきことは、この区域で活動している軍隊間の厄介な出来事を控えることである。
(6)ASEANと中国が成功するチャンスは1度しかない。しかし、失敗した、または効果的に履行されない規範から失うものが最も大きい立場にあるのはASEANだろう。交渉が決裂して行動規範が実現しなかった場合、または公布後の反抗的な違反によって多数の穴が突かれた場合、その信頼性は失われるだろう。だが、中国は考えられるすべてのシナリオの下で、この海で物理的に有利な立場にとどまっているだろう。交渉が成功するかどうかに関わらず、それらの軍事化された人工島はまだそこに存在する。
(7)もちろん別の可能性もある。進行している継続的な交渉の反復としてのプロセスを継続することである。つまり、ただの交渉に過ぎない口約束、ASEANと中国によって慣例的に公表される決まり文句の政治的な宣言を通して、この規範を最終的に実現させるという願望の修辞的な表現である。人々はこのメリットを批判するかもしれない。しかし、解決困難な状況に直面して、進行中のプロセスの体裁は、何らかの救いをASEANに与える可能性がある。
記事参照:South China Sea talks necessarily a slow burner – but consensus on what ‘militarisation’ means will help keep them on the boil

11月24日「南シナ海をめぐる米中対立と米海軍の能力――米紙報道」(The Washington Post.com, November 24, 2018)

 11月28日付の米国のWashington Post紙は、“In South China Sea, a display of U.S. Navy strength — and a message to Beijing”と題する記事を掲載し、要旨以下のとおり報じている。
(1)11月21日、米海軍空母Ronald Reaganが中国の許可を得て香港に寄港した。これはブエノスアイレスで開催が予定されているG-20サミットにおける米中首脳会談に向けた中国からの緊張緩和のジェスチャーと見られている。香港に向かう間、中国人民解放軍・香港駐屯地司令官のTan Benhong少将の一団がロナルド・レーガンの艦上に招待された。
(2)東アジア、とりわけ南シナ海は現在、米中の対立の場となっている。アメリカとその同盟国は、中国が東アジアにおける国際秩序の再編成を試みていると認識している。とりわけ南シナ海に対する中国の野心は明白で、多くの人工島の建設やその軍事化などは、周辺国に懸念をもたらしている。アメリカは太平洋に多くの同盟国を有しているが、中国が展開する一帯一路政策は、そうしたアメリカと同盟国の紐帯を徐々に蝕むものと認識されている。
(3)最近の米中関係においては貿易問題が中心的争点である一方、中国の南シナ海への進出および軍備増強もまたワシントンにとっての懸念である。11月半ばのASEANサミットにおいてMike Pence副大統領は南シナ海に対してアメリカが軍事的にコミットメントし続けると述べた。しかし中国の軍備増強によってそれはますます困難になりつつあるという分析がある。RAND Corporationの最近の研究によれば、中国の海軍力はこの20年間で急速に増強され、アメリカ海軍に追いついたという。
(4)南シナ海がその最前線である。米インド太平洋軍司令官Philip Davidson提督の言葉によれば、中国は建設した人工島に「SAM(地対空ミサイル)の長城」を築き上げてきた。中国は、2016年の国際仲裁裁判所による裁定を無視し、当該海域の主権を主張しつつ、たとえばアメリカ海軍が先週フィリピン沿岸で行った軍事演習など、アメリカの軍事的プレゼンスに対抗し続けてきた。中国が最近進めている自前の空母建造もその動きの一部であろう。
(5)中国による海軍力の増強、南シナ海の軍事化は確かに脅威となる動きであろう。しかしそれはアメリカにとって差し迫った脅威というわけでもない。アメリカ海軍は空母の運用には長い経験を蓄積しており、中国がそのレベルに達するには同様に長い時間がかかると分析されている。シンガポールの南洋工科大学のCollin Kohは次のように述べる。「アメリカ海軍の空母は長年の経験の賜である。それは、中国が必ずしも短期間で埋めることのできないギャップ」であると。空母Ronald Reagan空母撃退部司令を務めるKarl O. Thomas少将は、中国軍将校の招待を、「我々がどのように空母を動かしているかを見せる機会」であったと述べた。この招待はアメリカ海軍の能力と経験を誇示するものでもあったのだろう。
記事参照:In South China Sea, a display of U.S. Navy strength — and a message to Beijing

11月26日「ロシアが北極海で試みる船舶の規制緩和、疑問視される安全性―米専門家論説」(Arctic Today, November 26, 2018)

 米北極研究所(The Arctic Institute)の創立者兼シニア・フェローMalte Humpertは、11月26日付の北極問題関連のWEBサイト、Arctic Todayに"Traffic on Northern Sea Route doubles as Russia aims to reduce ice-class requirements"と題する論説を掲載し、ロシアが自国の資源輸出を円滑にすべく北極海における船舶の安全対策を緩和する動きがみられると指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1)2018年の11か月でロシアの北極海航路における船舶交通が、貨物1,500万トン越えという新たな節目を迎えた。ロシア運輸次官Jury Tsvetkovは、ロシア当局が2018年に北極海航路を利用する貨物量が1,700万トンに到達すると見ていると述べた。これは昨年の970万トンに比して2倍近い数値である。通行量増大の主因は液化天然ガスや原油及び石炭の輸出である。ロシアの北極圏における天然資源開発は北極海航路を用いる貨物量を2014年比で5倍にした。船舶活動の急増を受けてロシア当局は、北極海航路へのアクセスを一層容易にし、経済発展を支えるべくアイスクラス(抄訳者注:砕氷性能または耐氷性能を証明する公的な等級)要件を軽減する過程にある。High North Newsが入手した法案では、ロシア当局は夏期と冬期という航行期間の区分を廃止して、これまで冬期に北極海航路の一部を利用できなかった船舶が当該区域を航行できるよう提案を行っている。冬の北極海の状況が依然として厳しいことから、専門家は新航行規則の安全性に疑義を呈している。
(2)北極海における船舶輸送増加の大部分は2017年12月に操業を開始したノバテクのヤマルLNG施設のものである。ロシア最大の独立天然ガス生産会社であるノバテクは、ノルウェーや西ヨーロッパ及びブラジル、中国に至るまで北極海航路を用いて700万トン以上のLNGを輸送した。11月22日の第3生産ラインの操業開始に伴って、100パーセントの能力で操業を始めたヤマルLNG施設から、同社は毎年最大1,650万トンのLNGを輸出するだろう。
(3)ロシア第3の石油生産企業であるガスプロムネフチは2018年にヤマルのNovoportovskoye油田の生産量を19パーセント増の700万トンとした。2020年までに生産量は800万トンに到達すると見込まれている。同社は2018年にノルウェーや英国、フランス及びオランダなど9カ国に石油を輸出した。
(4)ノバテクの野心的なヤマルLNG施設に多くの注目が集まっているが、2025年までにタイミル半島のTaybass basinで年3,000万トンの高品質炭を採掘するVostokCoalのプロジェクトが近い将来、北極海航路における通行量最大の成長要因となるだろう。
(5)北極海の海氷面積が減少しているにも関わらず、特別なアイスクラスの船舶にニーズがあることは、地域でビジネスを展開する企業が大きな課題と費用に直面していることを示している。夏季の北極海航行は容易となったが、海氷の中を航行するには未だ原子力砕氷船の定期的な補助が必要である。ロシア当局は北極海航路の海氷状態がもはや最も厳しい安全予防措置と高いアイスクラスを要しないと主張しているが、専門家は特に冬季は海氷の状態が厳しいと警告する。
(6)提案されている変更点ではArc4-Arc9までのアイスクラスの船舶に単一のルールが適応され、砕氷船のエスコトートがあれば厳冬の海氷状況下でも北極海航路西部の航行が許される。特にアイスクラスが低いArc4、Arc5の船舶はカラ海を通年で航行できるようになる。これは北極海航路の当該部分でプロジェクトを手掛けるノバテクやガスプロム、VostokCoalに利益をもたらすだろう。
(7)ロシア当局はアイスクラスの要件変更とともに、北極海航路を現状の7つの大きな地域から28の明確なゾーンに分割するよう提案している。北極海航路東部はアイスクラスが高い船舶であっても侵入禁止だが、新ルールはノバテクがArc7のLNG輸送船団を用いて通年でアジアにLNGを届けることを可能にするものである。これは同社がますます多くのLNGを中国の契約パートナーに輸送し始める中で、重要性が増大するだろう。
記事参照:Traffic on Northern Sea Route doubles as Russia aims to reduce ice-class requirements

11月26日「北極の氷の減少が安全保障上の懸念を高めている―米海洋大気庁論説」(National Oceanic and Atmospheric Administration, U.S. Department of Commerce, November 26, 2018)

 米海洋大気庁は、同庁WEBサイトにWith Shrinking Arctic Sea Ice Comes Heightened National Security Concerns”と題する記事を掲載し、北極の海氷の減少にともなって増大する人類の活動が及ぼす安全保障上の問題点を指摘し、米国が北極におけるプレゼンスを維持すべきであるとして要旨以下のように主張している。
(1)北極の海氷は減り続けているが、人類の活動だけが拡大しつつある。米雪氷センターでは氷の範囲を監視しているとともに、どのような活動が地域において行われているかを監視している。氷量の減少は様々な国、企業、研究者、その他が北極へアクセスするのを容易にしつつある。しかし、この北極において拡大する人類の活動はまた、伝統的、そして非伝統的視点の両方から、より多くの安全保障上の懸念をもたらしている。米国にとって、北極における安全保障は北方の国境で潜在的脅威から国家を守るというだけではない。米国は北極の安全保障をより広範に見つめ始めている。北極において変化は続いており、米国は環境、経済、資源開発の視点から安全保障を考えつつある。
(2)米環境衛星データ情報局の一部である米雪氷センターは米海洋大気庁、米航空宇宙局や他の北極全体の海氷を監視する国内あるいは国際機関のデータを使用している。米雪氷データセンターによれば、2018年の北極の氷の範囲は11月19日、11月23日両日とも177万平方マイルに減少している。米雪氷センターの副センター長Kevin Berberichと米沿岸警備隊北極政策上級顧問Shannon Jenkinsは氷が後退したからといって、北極に氷がなくなったことを意味しないと指摘している。
 氷にはいくつかのタイプがある。しかし、年間を通して氷の状況を追跡する時、分析者は1年氷と多年氷に注目している。氷の成長段階は様々な遠隔探査源を読み解く同センターの分析者によって行われる。成長の段階は衛星画像に描かれる形状、濃淡、きめの細かさ、割れ具合、表面の地形、それと同時に地域に対する分析者の知識、気象パターン、最新の海氷の生成によって決定される。米雪氷データセンターの2018年11月の海氷面積の報告は、夏の終わりに残っていた多年氷が現在は最近の何十年よりもかなり少なくなっている。厳寒期の北極海氷面積の重要な部分は溶けやすい1年氷である。「それが我々がどんどん氷が少なくなっていくのを見る大きな原因である。」とBerberichは付け加える。
(3)Jenkinsは北極の状況が急速に変化することで、アクセスのしやすさは国家、起業家、旅行者を含むようになっており、北極地域はより対立的な空間となってきていると説明する。その結果、Berberichは米雪氷センターが、船乗りがこれまで航海が行われてこなかった海域を横断しようとしており、彼らが求める情報を米雪氷センターが作成し始めているとBerberichは説明する。
(4)北極地域における機会とリスクの増大に対応して、いくつかの国は北極戦略を更新し、あるいは策定しつつある。例えば、米国土安全保障省は発生する安全保障及び主権に関わる環境に対応するため独自の戦略を策定し始めた。米海洋大気局の北極担当上級顧問David Kennedyは、国土安全保障省の戦略案は「北極において重要なことに対して本当に認識が変化していることを示す最初の主要な端緒である。」と言う。彼は、数ヶ月の内に国家安全保障会議は北極安全保障作業部会を編成し、これに米海洋大気庁からも代表が参画している、と付け加えた。作業部会の多くは国防と情報部門からであるが、海洋大気局もその一部としてそこにある。変化に関する科学と変化がいかに早く起こっているかという理解が、国家安全保障戦略を策定するうえでの一部であるとの強い信念があるからであるとKennedyは言う。
 国境の防衛といった伝統的な国家安全保障上の懸念を越えて、観光業といった事柄は北極において一種の非伝統的な国家安全保障上の脅威となり得るとKennedyは言う。北極の多くの部分は現代の基準で海図に記載されていない。現存する海図の多くは1800年代に遡る古い技術で作成されたもので、その結果、そのような海域を航行することは油断ができないとJenkinsとKennedyは説明する。
 北極に人類の存在が増えるにつれて、中でも汚染、石油の流出、違法・無報告漁業の脅威が高まってきているとKennedyは説明する。北極で油流出の問題にどのように対処するのかについてさえ多くの疑問があるとKennedyは付け加えた。「もし、油の流出があり、それが氷結して氷が油を覆っているとすると何が起こるのだろう。これは非常に動的な状況で、氷は動いており、油も動いている。したがって、それが溶ける時、どこにたどり着いているのだろうか。」とKennedyは疑問を呈する。
 さらに、北極における航空及び海上の捜索・救助における協力に関する協定に基づき、米国は北極の全ての航路にわたる捜索救難の責任を有しているとJenkinsは説明した。北極近傍での事故への対応は米国に重要な問題を提起する。北極へのアクセスがより容易になってきたため、北極を航過する船舶の数は増加し、クルーズ船会社は極点に到達できる砕氷能力のある船舶を建造し続けているので、米国はこの地域で緊急の事態が発生した場合どのように対応するかを再評価しなければならない。例えば、米沿岸警備隊は現下のリスクと北極での増加する活動に関連して出現するリスクを、継続的に評価している。これには、何がうまくいっていないのか、海で活動する人々、環境、自給自足のため環境に依存している人々にどのような潜在的影響があるのかが含まれている。
 氷は減退し続けており、北極において考慮すべきより多くの安全保障上の取り組みがある。最も重要な点は、北極に米国が継続的に存在し続けることだとKennedyは強調する。われわれがそこにいなければ、北極のことに本当に関心を持っているとは言いにくいとKennedyは言う。
記事参照:With Shrinking Arctic Sea Ice Comes Heightened National Security Concerns

11月28日「ジブチ:新たな冷戦のカサブランカ―スウェーデンジャーナリスト論説」(Asia Times.com, November 28, 2018)

 スウェーデン人ジャーナリスト、Bertil Lintnerは、WEB紙Asia Timesに“Djibouti: the Casablanca of a new Cold War”と題する論説を寄稿し、中国が基地を設置したアフリカ・ジブチでは各国のスパイ活動が活発化しているとして要旨以下のように述べている。
(1)ジブチほどライバル国が多くの軍事基地を一箇所に設置している場所は他になく、そこには陰謀が渦巻き、スパイ活動が活発である。資源を持たない小国においては銀行や企業が租税回避のための避難所となる金融センターに転身することが知られているが、アフリカ本土では3番目の小国であるジブチは、主要国の軍事基地をホストするというもう一つの方法を発見したようだ。かつて仏領ソマリランドと呼ばれていたこの小国は、紅海の出入口でありスエズ運河を通る商船が頻繁に往来するこの戦略的な場所を外国軍隊への基地用地リースに活用し始めた。旧宗主国であるフランスは米国、イタリア、日本と同じくこの地に基地を設置しており、また、ドイツとスペインも仏軍基地内に駐留を維持している。
(2)2017年8月1日、中国がこの地に初の海外軍事拠点を発足させて以来、ジブチは現代のカサブランカ(抄訳者注:映画「カサブランカ」を念頭に諜報活動拠点となったことを暗喩)となったようだ。中国人民解放軍海軍の基地は首都ドラーレの西方に位置しており、他国の基地も全てその10km以内に、同市南部の国際空港付近に所在している。
 地政学的位置付けはジブチにとって有益な事業であり、例えば米国は施設賃貸料として年間に6300万、フランスは3600万、中国は2000万、イタリアも260万米ドルを支払っている(日本の支払金額は非公開)。また、米軍基地には約4000人の兵士とフィリピン人労働者が、日本の駐屯地には180人、フランスの2つの基地には1,450人が勤務している。また、空港付近にはドイツとスペインの駐留施設があり、約80人のイタリア人も米軍基地に近い拠点に駐留している。
(3)ドラーレの中国海軍基地は新しい港湾に近く、また、ジブチ沿岸からエチオピアの首都アジスアベバまで伸びる中国が設置した鉄道の終着駅にも近い。この付近にはアフリカ最大の自由貿易特区として知られるジブチ国際自由貿易ゾーン(DIFTZ)が設置されており、ジブチ以外にもエチオピアや他の国々向けの貨物を運搬する何百台ものトラックで活況を呈している。今年初め、中国による35億米ドルの投資によって設置されたDIFTZは4,800 haの面積をカバーしており、公式発表によれば、物流、輸出加工、金融支援サービス、製造、免税商品取引に焦点を当てているとされる。「アフリカの角」と呼ばれたこの小さく平和な共和国は、中国のアフリカに対する経済進出の玄関口となっているのである。
(4)しかし、それは同時に西側諸国に懸念を抱かせるものでもある。昨年8月、同基地開設を報じた人民日報は、「駐留人員の正式な数値は非公表」としつつ「約1万人の支援が可能」と報じ、また、基地開設の目的は「アフリカ及び西アジア地域における中国軍の護衛活動、平和維持活動の支援のため」と報じた。ジブチに拠点を置く西側諸国は通常その理由をソマリア沖における海賊対処のためと説明しているが、中国もこの点は同様である。しかし人民日報はまた、浙江大学の劉洪教授の発言として「ジブチは欧州、アジア、アフリカの橋渡しとなる位置にある」と、より率直な見方も報じている。これは、中国がこの地に展開している理由が、同地域における経済的、戦略的利益を守るためであり、それがゆえに米中間の潜在的な紛争における、より良い地位確保のためという可能性も高い。
(5)ジブチは米国にとって、この地域における唯一の拠点ということではなく、カタールやディエゴガルシアにも拠点が存在する。であればこそ、ジブチにおける中国の新しい拠点はインド洋地域における米軍の覇権に対する最初の深刻な挑戦であり、中国は既にそういう方向での動きを見せている。
 2017年7月、基地開設の直前には中国海軍のJinggangsha(井崗山)(抄訳者注:揚陸艦)と Donghaidao(東海島)(抄訳者注:支援艦(半潜没輸送プラットフォーム))が人員資材の輸送を実施した。その後、昨年9月には基地駐留の兵員による最初の実弾射撃訓練も実施されている。更に本年10月には「不都合な事は何もない」という事を誇示すべく、中国海軍とジブチのEU海賊対処任務部隊による共同訓練も実施されている。
(3)こうした中国のプレゼンス強化に対し西側諸国は懸念を隠すことは出来ない。本年3月、米アフリカ軍司令官Thomas Waldhauser海兵隊大将は下院軍事委員会において、ドラーレ港を中国が引き継ぐ「結果は重大」と証言した。ジブチ政府は本年2月、ドバイのDP World社から公式の協議がないまま港湾の運営権を引き継ぎ、現在は中国国営企業との合意に向け協議しているようだ。DP World社はこの決定に異議を唱え、8月にはロンドンの国際仲裁裁判所においてジブチ政府に勝利している。しかし、このことも中国が将来に亘って同港湾の支配権を獲得しないという保証にはならない。ジブチの自由貿易地域を運営する中国国営企業の一つであるCMPortは7月、「一帯一路沿岸の途上国の1つであるジブチは改革開放の歴史的旅路のパイオニアとなった。」と声明を出したが、その躍動的な言葉は、ジブチが世界勢力としての役割を強化しようとする中国の要望の不可欠な部分であることを示している。
(7)本年5月には米軍輸送機の2名のパイロットがレーザービームにより目を負傷する事案が生起し、米軍当局は中国が軍用のレーザーを使用してパイロットを妨害していると非難した。また昨年、ジブチに中国軍艦が寄港した際、中国検察当局のWEBサイトには日本の海上自衛隊の艦船が潜水員によるスパイ活動を実施したとする記事が掲載されたが、日本は本件についてコメントしなかった。この他にもジブチに拠点を置いている多くの国々もまた、電子盗聴などを幅広く実施しているものと考えられている。「アフリカの角」にあるこの小国では1940年代のカサブランカと同様にスパイとスパイの陰謀が頻繁に展開されているのである。ライバル国が運営する軍事基地が近距離に数多く存在すれば必然的にスパイ活動は活発になるものであり、米国とその同盟国が、新しい冷戦の初期段階と見なされる中国の台頭に直面する中、ここで何かが起きる可能性は高い。
記事参照:Djibouti: the Casablanca of a new Cold War
 
(関連記事)
筆者のBertil Lintnerは同日付のAsia Timesに“Risks bubbling beneath Djibouti’s foreign bases”と題する関連記事も寄稿している。
記事参照:Risks bubbling beneath Djibouti’s foreign bases

11月28日「北極圏における新たな対立――英政治史家論評」(The Conversation.com, November 28, 2018)

 イギリスのレディング大学で米国史講師を務めるMara Olivaは、11月28日付でオーストラリアのニュース・分析サイトThe Conversation.comに“Arctic cold war: climate change has ignited a new polar power struggle”と題する記事を寄稿し、近年の気候変動がもたらしつつある北極極地地域をめぐる政治対立について、要旨以下のとおり述べている。
(1)近年の気候変動は世界規模の環境問題を引き起こすと同時に、アメリカやロシア、カナダ、北欧諸国などにとって、新たな天然資源開発および貿易航路開拓のチャンスを提供している。ある調査によれば、原油は800億バレル、天然ガスに関しては世界全体の5分の1が北極圏の氷床の下で眠っているという。さらに気温の上昇は北極圏の航行を容易にし、2013年には、商業船Nordic Orionがカナダのバンクーバーからフィンランドのポリ港までの道のりを、北極圏を航行することで1850kmも短縮させた。極地地域をめぐる新たなチャンスは、それらの利益をめぐる新しい対立を引き起こしつつある。
(2)なかでもロシアが極地地域における利益を最も積極的に追求し、かつ防衛する行動に出ている。彼らにとってそれは単なる経済的利益というだけでなく、国防問題でもあるからだ。冷戦終結以降、ロシアは6つの軍事基地を再設置し、北極艦隊の近代化を進めるなどの軍備増強を行っている。また2017年にはロシアは、極地地域において約300回の軍事演習を実施し、200発以上のミサイルが発射された。プーチンは今年3月に「ロシア経済にとって最重要の天然資源が、この地域に集中している。」と宣言した。
(3)西側同盟諸国はこうしたロシアの動きに神経を尖らせている。特にカナダやノルウェーはそれぞれ人口が寡少かつ資源が豊富な北部地域を有しており、その恐れが強く、近年国防支出を増大させている。NATOは今年、5万人の人員が参加した冷戦終結以降最大の軍事演習トライデント・ジャンクチャーをノルウェーで実施することでロシアの動きに応じた。
(4)2018年4月、アメリカの内務省土地管理局が、アラスカのArctic National Wildlife Refugeにおける石油開発が環境に与える影響の調査を開始すると宣言し、極地をめぐるこのレースに参加した。これによって2019年には同地域における石油・ガス開発に関する契約が結ばれることになるが、このことはロシアの石油・ガス開発にとってまったく前向きなものではない。近年アメリカがロシアに対して科した制裁により、アメリカ企業がロシア企業との取引が禁じられているためである。この経済制裁の結果、Exxon Mobilがロシアを離れることになった。今後も同じことが続いていくであろう。
(5)中国もまた極地をめぐるレースに参入している。一帯一路政策の一部として「北極シルクロード」政策を推進する中国は、自身を“near Arctic State”と定義している。中国は北極航路の利用を進め、さらにグリーンランドへの投資を急速に拡大し、デンマークからの独立を加速させようとしている。
(6)極地地域をめぐる対立の調整は、同地域をめぐる条約や慣習的な国際法の不在ゆえに困難である。北極海における排他的経済水域の拡大をめぐる競争も展開している。これらの緊張が、国際的対立のリスクを高めている。全面戦争が差し迫っているわけではないが、海賊行為や環境テロリズムの危険性、および海洋資源の消耗というリスクに我々は現在直面しているのである。

【補遺】

旬報で抄訳を紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
 
1 Shining a Spotlight: Revealing China’s Maritime Militia to Deter its Use
https://nationalinterest.org/feature/shining-spotlight-revealing-china’s-maritime-militia-deter-its-use-36842
The National Interest, November 25, 2018
Dr. Andrew S. Erickson  is a professor of strategy in the U.S. Naval War College (NWC)’s China Maritime Studies Institute (CMSI) and an Associate in Research at Harvard University’s John King Fairbank Center for Chinese Studies.
 米海軍大学中国海事研究所のAndrew S. Erickson戦略学教授は、米誌The National Interest電子版に2018年11月25日付で" Shining a Spotlight: Revealing China’s Maritime Militia to Deter its Use"と題する論説を発表した。この中で同教授は、中国は人民解放軍海軍や中国海警局に加え、海上民兵(PAFMM:People’s Armed Forces Maritime Militia)を統一した指揮命令のもとで運用しているが、海上民兵を、米国を含む関係国艦船への妨害行為などに投入するなど、正規の軍隊による戦闘行為(作戦行動)に頼ることなく周辺海域での影響力の増大と実効支配の強化を成し遂げてきていると指摘した上で、今後、米国はこうした中国の海上民兵による海洋安全保障に悪影響を及ぼす行為を容認するべきではないとの見解を示している。
 
2. Goodbye Grotius, Hello Putin
https://foreignpolicy.com/2018/11/29/goodbye-grotius-hello-putin-russia-ukraine-sea-of-azov-kerch-strait-south-china-sea-unclos-law-of-sea-crimea/?utm
Foreign Policy.com, November 29, 2018
James R. Holmes is the J.C. Wylie chair of maritime strategy at the U.S. Naval War College. The views voiced here are his alone.
 米海軍大学のJames R. Holmes教授は、米誌Foreign Policy電子版に2018年11月29日、" Goodbye Grotius, Hello Putin"と題する論説を発表した。この中で同教授は、ロシアの海岸警備隊が、11月25日に黒海のケルチ海峡(Kerch Strait)を航行していた三隻のウクライナ海軍の船舶に発砲しこの船舶と乗員24名を拿捕した事件を取り上げ、この行為は国際法違反であると指摘した。その上で、ロシアは今後、グロティウスがかつて主張した海洋自由論を否定し同海峡の支配権を掌握するという野心的な目標を持つかもしれないと警鐘を鳴らした。また、これを防ぐためにも米政府は強い行動に打って出るべきだと主張している。