海洋安全保障情報旬報 2018年12月1日-12月10日

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12月3日「脚光を浴びるロンブラム海軍基地、米豪に求められる地域への配慮―香港ジャーナリスト論説」(South China Morning Post.com, December 3, 2018)

 South China Morning Post紙のBhavan Jaipragasアジア特派員は、12月3日付の同紙に、"The tiny island with a big role in US plans for the South China Sea"と題する論説を寄稿し、パプアニューギニアのロンブラム海軍基地が中国に対抗する上での戦略的要衝となりつつあると指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1)かつて太平洋戦争で日本に対する連合国の主要な出撃拠点だったパプアニューギニアのロンブラム海軍基地(Lombrum Naval Base)は、地域の海域で高まる中国の主張に対抗すべく、米国の戦略策定者が探してきた死活的に重要なジグソーパズルのピースとなり得るものである。しかしながら、ワシントンとキャンベラが基地の強化計画(将来的に同基地に戦力を展開させる可能性あり。)を推し進める中で、戦略専門家は2つの強固な同盟国が両国に友好的なインドネシアをつまずかせないよう慎重に事を進めるべきだと指摘する。
(2)今週、インドネシア議会の防衛と安全保障を監督する委員会議長Abdul Kharis Almasyhariが基地の強化計画について地元メディアに対して、外国勢力は「アジア太平洋を軍事化」すべきでないと発言したと報じられた。同人は、パプアニューギニアで外国の海軍基地が作られることは地域の「政治的緊張を高める。」と述べ、Joko Widodo大統領に反対を促した。
(3)パプアニューギニアのマヌス島にあるロンブラム海軍基地は、11月17日にMike Pence米副大統領が基地の強化に米国が加わると表明する以前に、オーストラリアによって既に強化されていた。ロンブラム海軍基地は米海軍に燃料補給の新たな中継地点を提供するだけでなく、中国が太平洋のいたる所に進出する中で米国の海洋偵察活動にとっても不可欠だと言えるだろう。
(4)専門家は、Abdul Kharisの発言がおそらくパプア州(パプアニューギニアと国境を接する。)で数十年に亘って燻る独立運動に外国勢力からの支援が流入するという、インドネシア権力層の潜在的な懸念とリンクしていると指摘する。
(5)オーストラリアとインドネシアの軍事関係は、キャンベラが米軍をダーウィンに受け入れていることを含む様々な問題を巡って時には厄介なものとなってきた。インドネシア戦略国際問題研究所の軍事研究者Evan Laksmanaは、「インドネシアは米国とオーストラリアにパプアニューギニアの独立を潜在的に支援する能力を与えることを恐れている。」と強調した。一部専門家はイスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転するオーストラリアの計画が、イスラム教徒が多数派を占めるインドネシアの基地計画に対する見方に影響を与え得ると指摘する。その一方でオーストラリアのアナリストAnthony Berginは、ロンブラム海軍基地がキャンベラと米国による純粋な「反中封じ込め」戦略の一環として示された場合、インドネシアの危惧は深まるだろうと述べた。
(6)それでもロンブラム海軍基地(漁業監視に従事する200名のパプアニューギニア海軍将兵が駐留する。)に同盟国が展開する主な戦略目的は、中国と関係している。ラジャラトナム国際関係学院のTo Kohはマヌス島周辺の西太平洋海域(伝統的にオーストラリアの勢力圏と見なされてきた。)で高まる利害が、当該地域で強まる中国の主張によって「少なからず」刺激されたと強調する。ロンブラム海軍基地に対する米豪共同の強化は、中国が同地における港湾建設に関心を有しているのではないかとの何か月にも及ぶ懸念(北京がマヌス島の海軍基地にも注目しているとの懸念も生んだ。)を受けてのものである。Kohは「基地の強化計画は、オーストラリアと特に米国が採用する再調整された戦略(外交、経済及び安全保障という複数面において南太平洋諸国への関与を再活性化させようとすること。)の一部である」と述べた。
(7)今年、特に北京がキャンベラの政治に密かに干渉しているのではないかという点で中国に対する懸念が先鋭化したオーストラリアでは、一部専門家はロンブラム基地を中国による南シナ海の軍事化に対する直接的な回答だと見ている。オーストラリア戦略政策研究所のPeter Jenningsは12月の解説で「ロンブラムのアプローチは、PLAが南シナ海で中国のためにやってきたこと(行動範囲を拡大し、作戦オプションを増やし、敵対国の計画を複雑にする。)にまさに当てはまる。」と記している。彼は北京の「南シナ海戦略」と同様に、ロンブラム基地は防空を必要としており、モモテ空港を軍民共有空港に転用すべきだと促した。
(8)専門家は米国とオーストラリアにとって現時点で最重要なことは基地に関して、パプアニューギニアやインドネシアを落ち着かせることだと指摘する。マヌス島知事(Manus Island governor)のCharlie Benjaminが基地の強化計画を不要だと主張するなど、パプアニューギニア国内では同計画を巡って不満も見られる。
(9)米国とオーストラリアの大型艦艇がロンブラム海軍基地に停泊するには、数年を要する大規模な工事が必要となろう。
記事参照:The tiny island with a big role in US plans for the South China Sea

12月4日「インド初の国産空母は海上試運転を2020年に開始予定―Diplomat誌編集主任論説」(The Diplomat.com, December 4, 2018)

 Web誌The Diplomatの編集主任Franz-Stefan Gadyは、12月4日付の同誌に“India’s First Homegrown Aircraft Carrier to Begin Sea Trials in 2020”と題する論説を掲載し、インド初の国産空母建造計画の現状について、要旨以下のように述べている。
(1)インド初の国産空母は、2020年にインド海軍に就役する予定である。インド初の国産空母Vikrantは、2020年に海上試運転を開始する予定だと、インド海軍参謀長Sunil Lanbaは、12月3日にニューデリーの記者団に語った。この新しい空母は、同年に東部海軍コマンドに配備される予定だと伝えられている。Lanbaによると、Vikrantは現在、インド国防省のMaritime Capability Perspective Planの一環として、コーチ造船所でその建造の最終段階に入っている。
(2)当初Vikrantは、2018年に予定されていた就役に向けて、2017年に海上試験を開始することになっていた。元々この空母は、2014年の引き渡し公試の後、2016年に就役させる予定だった。しかし、国産空母プログラムは、いくつかの理由により遅延に遭遇した。「この空母の建造は、主に空母の航空関連施設の建造をめぐる、ロシアのRosobonexport社との契約上の紛争を含む調達の問題により、ここ数年間で何度も遅延した。このプログラムは現在のところ、当初の予算よりも40億ドルも多く費用がかかる空母のコスト超過にも悩まされてきた。インドのNarendra Modi首相はVikrantの建造を早めるために、2014年の国産空母プログラムに追加の30億ドルを割り当てた。」
(3)40,000トンのVikrantは、航空機を発艦させるためのスキージャンプ型の短距離離陸拘束着艦(STOBAR)システムを運用している。「スキージャンプ型の発艦とアレスティングワイヤーによる着艦において、離陸のための高い推力重量比を必要とし、軽量の航空機にのみ実行が可能であることを考慮すると、STOBARシステムは運用範囲と航空機の装備に対して制限がある。」とされる。この空母は、ロシア製のMiG-29Kフルクラム戦闘機、カモフKa-31、HALドゥルーブ、又はウェストランド・シーキング・ヘリコプターを含む最大40機の航空機に対応できるとされている。
記事参照:India’s First Homegrown Aircraft Carrier to Begin Sea Trials in 2020

12月4日「中国海軍ジブチ基地建設から1年――米専門家論説」(The Diplomat.com, December 4, 2018)

 アメリカのニューヨーク大学でリサーチアシスタントを務めるTyler Headleyは、12月4日付のWEB誌The Diplomatに “China’s Djibouti Base: A One Year Update”と題する記事を掲載し、2017年7月に稼働を始めたジブチ共和国の中国海軍基地が持つ意義について、要旨以下のとおり述べている。
(1)2017年7月11日、中国人民解放軍海軍初の海外軍事基地が、アフリカ大陸東部の「アフリカの角」に位置するジブチ共和国に建設され、稼働を始めた。中国政府の公式の説明によればそれは「支援施設」ないし「兵站施設」であり、非軍事的行動のための基地だという。しかし、そうした主張には疑問の声もある。米シンクタンクStratforのアナリストは、同基地の23,000平方メートルにも及ぶ広大な地下施設の存在を指摘している。
(2)中国のジブチ基地建設およびその稼働は国際関係に緊張をもたらした。その理由は、「アフリカの角」地域の地政学的重要性である。「アフリカの角」とイエメンの間に位置するバブ・エル・マンデブ海峡は国際通商のチョークポイントのひとつであり、それに加えて近辺では海賊行為が多発しているため、各国にとって海賊対処作戦や対テロ戦争を遂行するための基地建設はきわめて重要なのである。ジブチには米国やフランス、日本、イタリアなどが基地を保有している。海賊対処作戦をはじめとする中国の軍事的関与も、10年前からすでに開始されていた。
(3)中国によるジブチ基地建設は、南シナ海から東アフリカへと広がる中国のグローバルな軍事的関与の方針の延長線上にある。その方針において重要な役割を果たすのは海軍であり、ジブチ基地の建設は、2017年の米国防総省の報告書の指摘によれば、「中国の影響力の拡大を反映するもの、かつそれをさらに広げるもの」と位置づけられる。中国当局はこうした説明を否定している。
(4)中国によるジブチ基地建設は、中国とジブチとの経済的紐帯の強化の延長線上にも位置づけられる。中国輸出入銀行はジブチに約10億ドルの借款を供与し、ジブチの大規模インフラ建設を支援した。ドラレ多目的港やエチオピア・ジブチ鉄道、エチオピア・ジブチ水道パイプライン建設などはその象徴的な例である。
(5)中国はアフリカにおける「一帯一路」構想に基づく投資を進めている。それによって建設された設備等の安全を担保することは、中国にとってますます重要性を高めていく問題である。したがって、中国によるジブチ基地は、中国の単なる軍事的前線基地というだけでなく、これからアフリカ大陸で起こりうることの先触れと言えるのかもしれない。アフリカ大陸に関わる国際社会は、この実験から多くを学ぶ必要がある。
記事参照:China’s Djibouti Base: A One Year Update

12月5日「米海軍、日本海で『航行の自由作戦』を実施―米報道」(CNN News.com, December 5, 2018)

 米国ニュースネットワークCNNは、12月5日付で“Us warship challenges Russia claims in Sea of Japan”と題する記事を掲載し、日本海における米海軍の「航行の自由作戦」について要旨以下のように報じている。
(1)米海軍は5日、ミサイル駆逐艦McCampbellを日本海の係争海域付近で航行させた。これに伴ってロシア側の反発が起こることは必定である。米海軍太平洋艦隊報道官Rachel McMarr中佐は、CNNへの声明で「McCampbellは、ロシアの行き過ぎた海洋権益の主張に対抗し、米国及びその他諸国が享受する海洋の権利や自由、合法的な利用を守るべく、ピョートル大帝湾付近を航行した。」と述べた。ピョートル大帝湾は日本海最大の湾であり、ロシアの都市ウラジオストクとロシア海軍太平洋艦隊の拠点が置かれている。
(2)米海軍当局者がCNNに明かしたところによると、米国が当該海域で「航行の自由作戦」を行ったのは旧ソ連政府が同様の主張を行っていた1987年以降、初である。今次作戦はワシントンとモスクワ間で多くの問題を巡る緊張が高まる中で行われた。NATOの全29加盟国は4日に、ロシアが欧州の大部分を射程に収めることができるミサイルを配備し、中距離核戦力全廃条約に違反していると非難した。これを受けてMike Pompeo米国務長官はロシアが同条約を順守しなければ、米国が60日間以内に同条約を離脱するプロセスを開始すると表明した。さらに、モスクワが3隻のウクライナ艦艇に発砲し、ウクライナ兵を拘束したケルチ海峡とアゾフ海における行動を巡っても緊張が高まっている。
(3)米海軍は「航行の自由作戦」を世界中で行っている。「航行の自由作戦」がロシアと中国の競合する主張を対象とする場合には、それらは特に注目を集める。米海軍がミサイル駆逐艦Chancellorsvilleを11月26日に南シナ海の係争諸島付近で航海させたところ、当該作戦はすぐさま北京の外交上の抗議を招来した。
記事参照:Us warship challenges Russia claims in Sea of Japan

12月6日「ベトナムの南シナ海戦略転換の必要性――ベトナム人・アジア安全保障専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, December 6, 2018)

 Australian Strategic Policy Institute上席分析官のHuong Le Thuは、米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のWEBサイトAsia Maritime Transparency Initiativeに、12月6日付で “Vietnam Should Update its South China Sea Strategy”と題する記事を掲載し、現行のベトナムの南シナ海戦略の限界とその転換の必要性について、要旨以下のとおり述べた。
(1)Rodrigo Duterte政権下のフィリピンによる政策転換によって、東南アジアにおける中国との領土・海洋をめぐる論争の最前線に立つのはベトナムになるだろうと予測されてきた。ベトナムの東南アジア政策は21世紀に入ってから一貫したものであり、以下の4つの要素から構成されている。
a.論争の国際化
b.多国間枠組みにおける論争の処理
c.中国に対する軍事的抑止力の増強
d.中国との直接交渉
しかし近年の安全保障環境はそのベトナムの方針の限界をもたらしている。
(2)論争の国際化について。1988年南沙諸島のジョンソン南礁における軍事衝突の時にそうであったように、ベトナム政府は以前、中国との論争について公にすることを避けてきた。しかし21世紀に入りこの方針は変化し始めた。論争を国際的に公にすることによって、中国の国際的評価下落のリスクを高めるためである。南シナ海における中国の強引なやり方、フィリピンが仲裁裁判所に法的措置を求めたことなどもまた国際的な注目を集めていたことも、国際化方針を後押しした。しかし、2016年の仲裁裁判所裁定を中国政府が無視したことは、国際化という方針の限界を示すものであった。訴訟を起こしたフィリピン政府の方針転換は、そうした国際的かつ法的試みにさらなる限界をもたらすものであった。
(3)多国間枠組みについて、近年南シナ海問題の多国間枠組みにおける処理も限界を迎えているように思われる。ASEANの会合においてすら、この問題が議論されることへの疲労のようなものが見られている。国際的な関心も、北朝鮮の核問題やTrump政権下のアメリカが提起する予測不可能な問題など、より切迫した危機に向けられるようになってきた。
(4)軍事的抑止について。ベトナムは中国に対する軍事的抑止力の強化に務めており、その姿勢はますます強まっているという観測がある。しかしそれでもなお、中国の軍事力との差は顕著であり、中国の軍事力に対抗できる国は、ベトナムどころか世界でもほとんど存在しない。ベトナム政府は、中国との軍事的に非対称的な関係性のなかで、ある程度中国に融和的態度をとることで中国の姿勢の軟化を期待するしかない。しかし期待は戦略とは言えない。結局のところベトナムは、中国の強引なやり方に譲歩せざるをえない状況が続いている。
(5)直接交渉について、中国との直接的な交渉も行き詰まりを見せている。さまざまなレベルでの折衝があったにもかかわらず、2014年に中国は、ベトナムがEEZだと主張する海域に掘削リグ海洋石油 981を派遣した。
(6)以上論じたように、ベトナムの南シナ海政策は、あらゆる点において限界を迎えている。2018年5月、中国は南沙諸島に巡航ミサイルを配備し、最近では西沙諸島に核兵器を搭載可能な爆撃機を配備した。ベトナム政府の抗議にもかかわらず、中国が南シナ海の緊張を和らげようという意図を持たないことは明らかである。中国のこうした姿勢は、ベトナム経済にも大きな影響を与えている。ベトナムは2007年に「ベトナム海洋戦略2020」を策定し、貿易、漁業、石油・ガス開発などの海洋経済力の強化を目指した。しかしベトナムによる石油・ガス開発が、中国によって二度も中止に追い込まれることがあった。中国に対する譲歩的な姿勢は、ベトナムの国際的評価を傷つけるものでもあろう。諸外国は今後もこうしたことが起きるかもしれないと感じるに違いない。ベトナムは今や、その南シナ海戦略の急速な転換が求められているのである。
記事参照:Vietnam Should Update its South China Sea Strategy

12月6日「さらなる軍事行動は北極をめぐる協調の雰囲気を損なうと警告―デンマークジャーナリスト論説」(ARCTIC TODAY, December 6, 2018)

 12月6日付のARCTIC TODAY電子版はデンマークジャーナリストのKevin McGwinの“More military activity may spoil the Arctic’s atmosphere of collaboration, warns a Danish report”と題する記事を掲載し、北極における、あるいはその周辺での軍事行動の拡大は周辺国の軍備拡張競争を招くと警告する一方、中国の動きについて一般的には問題視されていないがデンマーク国防情報部は注意すべきと警告しているとして、要旨以下のように述べている。
(1)来年、デンマークの安全保障専門家は近年、他の西側諸国でも見られたのと同様の総選挙妨害をロシアがしようとしていることを最も懸念することになるかもしれない。北極におけるロシアとの紛争の可能性に関する議論が12月4日に公表されたデンマークの2018年脅威評価で明らかに考慮されているにもかかわらず、その著者であるデンマーク国防情報部(以下、デンマーク語の頭文字からFEと言う。)、外部情報機関は地域の国々は世界の各地で起こる紛争とは隔たった関係を維持することを約束していると結論づけている。
 「北極地域の潮流は、原則として北極沿岸国間の協調として特徴づけられる。特に国境画定、環境、捜索救難、先住民、漁業といった地域の問題が生じた時にはそうである。」とFEは言う。
(2)フェイクニュースの悪影響、テロリストの攻撃、黒海におけるロシアの不正行為に比べ、北極の問題はデンマークにとって大きな心配事ではないものとされている。しかし、北極地域において、あるいはその周辺で進行する中国による軍事化や北極に対する野心が、潜在的な安全保障上の問題となるとFEは見ている。例えば、北極沿岸国は地域における意見の相違は平和的手段をもって解決すると誓約した2008年のイルリサット宣言に留まっているが、地域における軍事行動の増加は軍備拡張競争に火を付けるかもしれない。
 一方で、ロシアもその軍事力を増強しつつある。そのことは他の北極沿岸国が地域において自国の軍事力を非北極圏国との協力の一部として建設し始める重要なきっかけである。10月25日から11月7日にかけてノルウェーで、冷戦後では最大規模のNATOのトライデント・ジャンクチュア演習が実施された。北極においてであれ、その周辺であれ、また、NATOが実施しようとロシアが実施しようと、このような行動は地域の安定に対して潜在的脅威となるとFEは見ていた。
 このことは特に北大西洋に当てはまる。北大西洋はロシアとの緊張が高まった際に北米と欧州を結ぶ海上交通路を防護するためより多くの部隊を展開することを米国及びNATOが計画している海域である。中国のこととなると、地域において国の合法的で、合理的な利益と見たものについてFEは用心深く、楽観的な姿勢を保持していた。例えば、北極で中国の科学者の企業の活動が多くなってきているにもかかわらず、北京の軍事的存在は現在のところ限られてものと指摘している。
(3)中国企業はグリーンランドのかなりの見込みのある採鉱作業に積極的に投資しており、2016年には海底通信ケーブルの更新を行った。これらは問題無い行為と見なされてきたが、FEは中国の商業界、科学界は政治システムと密接に関係しており、北極における影響力を獲得しようとする中国の努力を反映しているかもしれないとしている。
 もし、グリーンランドにおける投資の規模がわずか56,000人の人口とその経済規模に不釣り合いなものであれば「特別なリスク」を構成することになる。もし、中国企業が、北京が戦略的と考える資源に投資するのであれば、北京は意思決定過程に影響力を及ぼそうとしているとFEはさらに警告している。この警告は、グリーンランドのインフラ計画への投資をコペンハーゲンが阻止したことを反映しており、それはワシントンの要請に基づくと思われる。
記事参照:More military activity may spoil the Arctic’s atmosphere of collaboration, warns a Danish report

12月6日「中国の『債務の罠』の危険性―インド専門家論評」(South Asia Analysis Group, December 6, 2018)

 印シンクタンクSouth Asia Analysis Group研究員S. Chandrasekharanは、同シンクタンクのWEBサイトに12月6日付で、“Myanmar: Kyaukphyu Port-The Dragon Enters in a Big Way”と題する論説を掲載し、ミャンマーのチャウッピュー港建設プロジェクトを例に、南アジアや東南アジア諸国は中国の「一帯一路構想」(BRI)に潜む「債務の罠」の危険性を改めて銘記すべきとして、要旨以下のように述べている。
(1)中国国家発展改革委員会の何立峰主任はこのほど、ミャンマーのSuu Kyi外相との会談で、「一帯一路」構想(BRI)の一貫としての「中国ミャンマー経済回廊」(CMEC)の「実施計画」の早期作成を要請した。Suu Kyi外相は、「CMECプロジェクトは、ミャンマーの持続可能な『開発計画』に沿って実施される必要があり、しかも長期に亘って両国民の利益になるようなものであるべきである。」と回答した。このメッセージは、CMECは中国だけを利するものであってはならず、ミャンマーにも同じように利益になるものでなければならない、ということである。Suu Kyi外相はまた、中国はプロジェクトについてシステマティックに、そして(後日の中国西安のBRI国際商事裁判所への提訴を避けるために)当該国の国内規則や法に従って交渉する必要ある、と強調した。
(2)Suu Kyi外相のこの発言は、ミャンマーだけではなく、この地域における BRI の各種プロジェクトについて中国と交渉している他の諸国にも当てはまることである。スリランカの専門家、Gajalakshmi Paramasivam は、「返済能力を持たない借款は奴隷状態を招来する。奴隷になった国は、何時でも、何処でも主権国家として行動する能力を持たない。」と指摘している。南アジアや東南アジア地域の国々は、返済能力を持っていない国々において、巨大プロジェクトを大々的に推し進めようとする中国の邪悪な意図を理解し始めたようである。中国に飲み込まれた、スリランカのハンバントータ港はその好例である。
(3)そして、ミャンマー東岸ラカイン州チャウッピュー(Kyaukphyu)における巨大プロジェクトは、もう1つの好例である。2年間の舞台裏での交渉を経て、中国企業の中信集団(CITIC)とミャンマー政府は11月8日、協定書に署名した。中国は同時に、KIA(ミャンマー北部カチン州の「カチン独立軍」)とミャンマー軍との間で続いている激しい戦闘を緩和する方策を検討するために、KIAがミャンマー和平委員会との話し合いに応じるよう仲介の労を執ったが、これは偶然の一致ではない。紛争当事者間による対話を仲介する中国の努力は、この地域に自らの主導によって平和をもたらそうとする好意的な努力というより、地域の平和と安定を必要とする、BRI とCMECの下でのインフラ建設プロジェクトを推進するためと見られる。CITICの常振明董事長は、協定には署名されたが、このプロジェクトは次のステップに向けて緒に就いただけであり、BRIの一環としてのこのプロジェクトは他のASEAN諸国と連結する「経済回廊」と同様に、中国西部とミャンマーを連結することを意図している、と述べた。ミャンマーとCITICはまた、中国企業が51%、ミャンマー側が49%の出資比率で、総額27億ドルの工業団地開発プロジェクトを交渉中である。更に、10月22日には、ミャンマー国鉄と中国中鉄はマンダレーと中国国境に近いムセ(Muisse)との間に鉄道を敷設する覚書に調印した。この鉄道は、ヤンゴンとチャウッピュー大水深港を、マンダレー経由で中国雲南省に連結する野心的な道路/鉄道プロジェクトの一貫である。第1段階のプロジェクトには、チャウッピュー港における2本の埠頭建設(当初計画では6本であった。)と、経済特区パークが建設される。ミャンマーの「国民民主連盟」(NLD)政権は、「債務の罠」に陥ることを回避するために、当初の計画投資額を73億ドルから13億ドルに削減するとともに、出資比率も、当初合意の中国側85%、ミャンマー側15%から、それぞれ70%、30%に変更した。ミャンマーの負担分は、その半分を民間企業に委ねるとみられる。
(4)チャウッピュー港と関連する道路/鉄道プロジェクトは、インド洋への代替ルートを構築し、それによってマラッカ海峡経由を回避するための中国の切迫した努力の一環である、というのが実相である。中国は、海洋通商路を多様化することによって、約5,000キロの航路短縮を期待できよう。チャウッピュー港の最大の受益者は中国である、と結論づけざるを得ない。南アジアや東南アジアの小国が、最終的には隷属状態に置かれることになる、中国による借款の「寛大な申し出」の魅惑の餌食にならないことが望まれる。中国の手口はよく知られている。最初に、当該国を(中国に)戦略的に依存するようにさせ、そして次に経済的に締め付けていくのである。パキスタンはその手口を熟知している。熱狂的にBRI(実際には「ベルトと道路による侵略」(Belt and Road Invasion)である。)に関与しつつある国々は、「返済能力を持たない借款は奴隷状態を招来する。」という至言を改めて銘記すべきである。
記事参照:Myanmar: Kyaukphyu Port-The Dragon Enters in a Big Way

12月7日「インドネシアはロンブラム計画に利害がある―インドネシア専門家論評」(The Interpreter, December 7, 2018)

 インドネシアのシンクタンクCSIS(Centre for Strategic and International Studies)の上級研究員Evan A. Laksmanaは、12月7日付で、オーストラリアのシンクタンクであるローウィ研究所のサイトThe Interpreterに“Indonesia has a stake in Australia’s Lombrum plans too”と題する論説を掲載し、ロンブラム海軍基地の建設に関して、オーストラリアはインドネシアをより深く関与させる必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1)11月のAPEC首脳会談で、Mike Pence副大統領は、マヌス島でロンブラム海軍基地を開発するために、オーストラリアとパプアニューギニアに協力することを発表した。アナリストたちの論争は、米中の軍事的側面に焦点が当てられており、インドネシアをほぼ完全に無視している。インドネシア軍は近年、インドネシア東部およびその周辺でその軍隊を増強している。米国とオーストラリアが今後数年間でロンブラム基地を築き、そして恐らく、より広範に太平洋及びその周辺海域における彼らの能力を構築するにつれて、インドネシアを引き込むことを、そのプロセスの一部とすべきである。インドネシアとオーストラリアの防衛協力は近年著しく増加している。しかし、オーストラリアの戦略的プランニングは、将来の地域紛争について考える際に、インドネシア側の受動的な中立性を仮定すべきではない。米国、オーストラリア及び中国が関与するどのような軍事紛争も、インドネシアの戦略的地理を何らかの形で「経由」する必要がある。
(2)オーストラリアとインドネシアの間の安全保障上の懸念の根本的な非対称性は、キャンベラがロンブラム計画に関してジャカルタを関与させる必要性をさらに強調している。米国とオーストラリアはロンブラム計画を中国に対するいくつかの戦略的な対抗策の1つと見なすかもしれないが、インドネシアはそれを、その戦略的露出、脆弱性及びリスクを潜在的に高めると見なすかもしれない。しかし、今までのところ、インドネシアの公式な反応は穏やかで、場所によって一貫していない。国民議会のメンバーたちは、ロンブラム計画が地域の緊張と「軍事化」を増大させる可能性があると警告した。彼らはまた、外務省に対し、紛争の可能性を最小限にするためにその区域における外交的関与を強化するよう要求している。インドネシアのアナリストたちの一部は一歩踏み込んで、ジャカルタに公然とその計画を拒絶し、軍事開発計画を早めるよう求めた。他の人々は、ロンブラム計画がパプア人の分離主義者に対する米国とオーストラリアの支援と関連しているという考えを向う見ずにでっち上げすらした。一方では、これらの異なる反応はインドネシアとオーストラリアの間の軍同士のコミュニケーションが改善されていることを示唆している。
(3)米国が2011年に、2,500人の海兵隊員のためにダーウィンに基地を建設することを計画していると発表した際、インドネシアの反応は大体否定的だった。ロンブラム計画が早期にインドネシア国防大臣に伝えられ、数週間前にインドネシア-オーストラリア国防戦略対話でさらに議論されたことは、両国の防衛エスタブリッシュメントたちが透明性と協議をますます重視するようになったことを示している。それはまた、両国間の防衛取り組みの段階的な成熟度を示している。しかしその一方で、二国間の防衛関係は、政策立案者が国民、市民社会団体及び国民議会のような他の政治的利害関係者たちとの広範な議論をすることなく互いにやりとりするという保護的な幻想の中で発展してきた。これは、防衛取り組みの機密性を考えると理解できる。しかし、より広範な国防、市民及び政治的エスタブリッシュメントたちからの了承がなければ、二国間の関係が悪くなった場合に、軍同士の関係は政治問題化されやすくなる。
(4)当然のことながら、キャンベラは、米国に対する同盟関係のコミットメント、中国の軍事力に対する懸念及びインドネシアとの戦略的パートナーシップのバランスをとる必要がある。しかし、インドネシアとオーストラリアの防衛関係の短期間の急速な発展とそれに続く鋭く痛みを伴う反転を考えると、国防姿勢の発展における相互の透明性を高めることが重要な意味をもつ。
(5)最終的には、より広い地域環境を考慮せずに、海軍基地の運用上の有用性を議論することは、木を見て森を見ず、である。
記事参照:Indonesia has a stake in Australia’s Lombrum plans too

12月7日「南シナ海の紛争は新しい冷戦を生むのか?―元シンガポール外交官論説」(RSIS Commentaries, December 7, 2018)

 元シンガポールの外交官であるKB Teo は、12月7日付のRSIS Commentariesに“The South China Sea Disputes: Makings of a New Cold War?”という論説を掲載し、南シナ海の緊張は弱まっているが潜在的な火種のままであり、このまま米中対立がエスカレートすれば、新たな冷戦以上のものになるかもしれないとして要旨以下のように述べている。
(1)その領土主張に対する2016年の国際仲裁裁定への中国の抗議にもかかわらず、南シナ海での緊張は幾分緩和されてきた。しかし、南シナ海は火種のままである。2018年10月4日のハドソン研究所での演説でMike Pence米副大統領は、「権威主義的拡大」と「威嚇」による北京の外交政策に対して激しい攻撃の火蓋を切った。南シナ海の平和と緊張の状態に影響を及ぼしている最重要のアクターは中国と米国である。そして、地域大国である日本が、同様にプレーヤーとして登場している。
(2)中国の目標は、南シナ海の優位を得ることである。これには2つの利点がある。1つは、そこにある膨大な石油、ガス及び漁業資源を管理することである。これは、中国の年間の経済成長率を高めることに役立つだろう。第2に、それは南シナ海への他のライバル国のアクセスを制限することである。2005年以来、北京は、この海において一方的に「島の軍事化」を行ってきた。また2018年6月、習国家主席は米国の国防長官Jim Mattisを訪問し、中国は「先祖の土地から1インチも撤退しない。」と語った。
(3)習は、中国の台頭を封じ込めようとしているとワシントンを見ている。一方で中国は米国との良好な関係を望んでいる。2018年11月の広州交易会での演説で、彼は中国が輸入のためにもっと開放するだろうと述べた。同月、中国と米国は先週終了したシンガポールでの東アジア首脳会議に先立って、高官級協議を再開した。習とTrump大統領は、2018年12月上旬にアルゼンチンで開催されたG20サミットで会合を行った。
(4)東京は南シナ海の権利を主張していない。しかし日本は、中国のこの海域での行動を深く懸念している。2014年11月、北京は一方的に東シナ海上の防空識別圏(ADIZ)を宣言した。日本の石油とガスの輸入は、すべて南シナ海とマラッカ海峡を通過する。南シナ海に対する中国のコントロールは日本の経済的生命線を脅かすだろう。日本と中国の間では戦略的な競争が拡大している。彼らには東シナ海の尖閣・魚釣諸島をめぐる海洋領土紛争がある。日本は、海上保安庁の巡視船をベトナムとフィリピンに供与している。2018年10月、日本は国際海域の通過権について北京にメッセージを送るため、南シナ海に護衛艦を派遣し、初めて潜水艦の演習を行った。しかし、彼らの経済的相互依存が拡大している中、日本と中国も同様に対立を制限することに熱心である。2018年10月、安倍晋三首相は二国間関係を強化するために中国を訪問した。
(5)ワシントンは、南シナ海に対する北京の権利主張に強く反対している。2018年6月にシンガポールで行われたシャングリラ・ダイアローグで講演したJim Mattis米国防長官は、北京に南シナ海の軍事化を止めるように要求した。また、Philip S. Davidson米海軍大将(インド太平洋軍司令官)は2018年10月の米議会で、中国との戦争の前に米国は南シナ海のコントロールを失ったと語った。
(6)中国は、南シナ海の紛争に対して厳しいが実践的なアプローチをとってきた。その結果が世界の2大経済国間での新たな冷戦である。シンガポールで開催された第33回ASEAN首脳会議で南シナ海の紛争が議論された。ASEANは2つの超大国のどちらかを選びたくない。中国と米国はASEAN諸国の最大の貿易相手国である。しかし、北京とワシントンが対立を拡大させた場合、ASEANはマイナスの影響を免れることができないだろう。パプアニューギニアで開催されたAPEC首脳会議では、貿易と安全保障に関する米中の違いが再び示された。APEC首脳会議は貿易に関する米中の分裂が原因で公式の声明なしで終わった。しかし、それは貿易だけではない。米国は、既存のパックス・アメリカーナに取って代わるパックス・シニカを北京が確立しようとしていると考えている。その結果、新たな冷戦以上のものになる可能性がある。
記事参照:The South China Sea Disputes: Makings of a New Cold War?

12月10日「インドが静かに中国を海上監視している場所-スエーデン人ジャーナリスト論評」(Asia Times.com, December 10, 2018)

 スウェーデン人ジャーナリストのBertil Lintnerは12月10日付のAsia Times電子版に“Where India quietly watches China at sea”と題する記事を掲載し、アンダマン海における中国監視のため最新の設備を整えたインド軍基地の状況について要旨以下のように報じている。
(1)インド領アンダマン諸島は石器時代と21世紀の武器技術が出会う場所である。11月16日に米国人宣教師が先住民部族に殺害された事件が世界的なメディアの注目を集めたが、アンダマン諸島にはより大きな物語が隠されている。東南アジアとインドアジア大陸の間に位置するこの離島地域に、インドは最も設備の整った軍事基地の一つを密かに維持しているが、それは現代の地政学を反映したものである。インドはここからチョークポイントであるマラッカ海峡入口付近を巡回している中国の潜水艦の動きを監視している。
(2)アンダマン諸島は近傍のニコバル諸島とともにインドの連邦領土を形成しており、そこにはインド初の三軍統合部隊であるアンダマン・ニコバル司令部が置かれている。島の中心地であるポートブレアに司令部を置くこの部隊は、インドアジア大陸の東方海域におけるインドの戦略的利益を守るため2001年に設立され、東インド洋における陸海空軍及び沿岸警備隊の活動を統制している。主要な基地はより規模の大きいアンダマン諸島に所在するが、ニコバル諸島にもインドネシアのスマトラ島北端からそう遠くない場所に海軍の航空基地が所在する。現在、中国のインド洋における海軍プレゼンスの拡大に伴い、アンダマン諸島は二大国間での熾烈な地政学的対立の中、海上における新たな最前線となっている。
(3)12月30日、Narendra Modiインド首相はインド国旗である三色旗と自由インド暫定政府(Azad Hind)75周年記念式典出席のためアンダマン諸島を公式訪問する予定である。自由インドは1943年に当時日本占領下のシンガポールで設立された暫定政府であり、第二次世界大戦中は大日本帝国、ナチスドイツ、そしてイタリア社会共和国 の全枢軸国により支援されていた。アンダマン・ニコバルは戦時中には日本人によって占領され、東京の支配下に置かれた唯一のインド領土であり、当時の指導者であるSubhas Chandra Boseは日本と同盟し東南アジア及び南アジア周辺で戦いを展開していた。1943年12月30日、Boseが式典を行ったのと同じポートブレアの同じ場所でModiは歴史的な旗を掲揚するのである。今日、Modiが日本の安倍晋三首相を戦略的な魂の伴侶として見出したことに象徴されるように、日本とインドは再び同盟国になろうとしている。インド海軍および海上自衛隊はインド洋における中国の動きに対抗する関係を築いており、まもなく海上自衛隊艦艇の姿がポートブレアで見かけられるかもしれない。既にインドと日本の間ではこれらの戦略的位置にある島々の遅れたインフラをアップグレードするための対話も進行中であるが、これらは中国の一帯一路(BRI)に対抗するプロジェクトでもある。
(4)もっとも、アンダマンに新たなインド軍司令部を設置するという考え方はBRIよりも前のものである。 それは1995年、当時のPV Narasimha Raoインド首相と後の米大統領Bill Clintonとの間でのワシントンにおける非公開会合の際に最初に提唱された。この計画は2000年のClintonのインド訪問時に最終決定され、以来、米海軍艦艇は救助訓練を支援するためポートブレアに停泊している。しかし、そのより大きな理由が中国の海上における野心の高まりを懸念する諸国の非公式な同盟の強化にあるということも、軍事専門家の間では決して秘密ではない。当時の米海軍作戦部長Gary Roughead大将は、ニューデリーに本拠を置くシンクタンクNational Maritime Foundationが主催する会議において「21世紀を通じて米国とインドは戦略的パートナーになる。特に米海軍はインドにとって長期にわたって献身的な友である。」と述べた。
(5)そして2016年4月、インドは武器技術供与と引き換えに中国との格差を縮小するべく、海軍基地を米国に開放することに合意した。また同月、当局者は中国潜水艦が3ヶ月に平均4回もこの地域を行動していると述べており、以来、インドは中国潜水艦の追尾に関し米国の支援を受けている。しかしDonald Trump政権下の米国によるアジアへのコミットメント、特にインドへのコミットメントは以前ほど堅固でないかもしれない。そのためニューデリーは、その伝統的な影響力の範囲での立場の再表明を支援するために東京にますます注目するようになった。10月の訪日に際し、Modiは安倍首相と防衛協力強化のための一連の協定を締結した。これには双方の軍隊が互いの軍事基地への相互アクセスを認める「物品役務相互援助協定(ACSA)が含まれる(抄訳者注:協議を開始したものであり、まだ締結には至っていない。)。
(6)中国がインド洋に進出した理由は明白であり、対外貿易や重要な石油の輸入の大部分が当該水域を通過しているからである。そしてこの地域の他の国々が懸念を抱いて注目しているのは新たな地政学的展開である。中国初の海外軍事施設であるジブチの中国軍基地は、ミャンマーのチャウッピュー、パキスタンのグワダル、スリランカのハンバントータなど、中国が友好国の港への戦略的なアクセスを目指しているという推測を引き起こした。今日、インドのアンダマン・ニコバル司令部は、海空軍の共同基地、二つの後方支援基地と二つの海軍基地、空軍基地で構成されており、安全保障専門家によれば、それらは急速にインドの最も重要な軍事拠点の一部になりつつあるという。インド空軍はアンダマンにSU-30戦闘機部隊を駐留させたほか、2004年の津波災害後には多くの輸送機も導入しており、 インドの軍事専門家及び政策立案者はこの島を「不動の空母」と呼んでいる。さらにインド海軍はインド洋地域における中国の活動に対抗するため、MARCOSと呼ばれる特殊部隊もそこに派遣している。
(7)今般のModiのアンダマン訪問は、昔の日本との共闘を称える象徴的な意味だけでなく、日本とインドが再び親密なパートナーとなる新たな戦略の時代の始まりを正式に示すことになるだろう。アンダマンの孤立したセンチネル島の部族は、彼らの故郷の島の近くで何が起こっているのか全く理解していないかもしれない。しかし、世界の他の国々にとっては、インド洋に新たな冷戦構造が出現し、アンダマン諸島がこの競争における重要な前進基地となっていることは明らかである。
記事参照:http://www.atimes.com/article/where-india-quietly-watches-china-at-sea/

【補遺】

旬報で抄訳を紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
 
1 Q and A: How can PH get Mischief Reef back from China?
https://www.rappler.com//nation/218092-question-answer-alexander-vuving-returning-of-mischief-reef-to-philippines
Rappler.com, December 3, 2018
 Carmela Fonbuena took the Advanced Security Cooperation course at the Daniel K. Inouye Asia-Pacific for Security Studies upon the invitation of the US State Department. Vuving is the course manager.
2018年12月3日、米シンクタンク、国防省アジア太平洋安全保障研究センター(APCSS:Daniel K. Inouye Asia-Pacific for Security Studies)のAlexander Vuving教授は、Rappler.com上に掲載されたQ&A形式のインタビュー記事" Q and A: How can PH get Mischief Reef back from China? "において、中国問題専門家の立場から南シナ海問題について、①フィリピンの努力なくして、中国が作り出した南シナ海の現状を覆すことは不可能であること、②しかし、フィリピンと米国が協力すれば状況を変えることも可能であること、③それは、中国の南シナ海戦略に加わっている個人や企業に対する制裁など、非軍事的な手段で行われるべきであること、などを主張している。
 
2 A Cold War Arms Treaty Is Unraveling. But the Problem Is Much Bigger.
https://www.nytimes.com/2018/12/09/us/politics/trump-nuclear-arms-treaty-russia.html
 The New York Times.com, December 9, 2018
2018年12月9日、米紙、The New York Times(電子版)は、" A Cold War Arms Treaty Is Unraveling. But the Problem Is Much Bigger"と題する論説記事を公表した、その中で同紙は、トランプ大統領が破棄を表明している中距離核戦力全廃条約(INF条約)に関して、同条約の締結当時とは確かに世界情勢は大きく変化しているが、同条約が核戦争抑止をもたらし世界に平和と安定を構築した歴史的事実を認識する必要があること、そして、我々は同条約締結時のレーガン政権の国務長官であったGeorge P. Shultzの「現代は核兵器を作る時代ではない」との言葉を忘れてはならないこと、などを主張している。