海洋安全保障情報旬報 2019年1月1日-1月10日

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1月1日「英海軍基地建設計画は中国に対する力の誇示か――香港メディア報道」(South China Morning Post, January 1, 2019)

 1月1日付のSouth China Morning Post電子版は、“Britain’s planned naval base in Southeast Asia seen as ‘muscle-flexing’ against China”と題する記事を掲載し、英国が計画する東南アジアでの海軍基地建設が東南アジアの国際関係に与える影響について、要旨以下のとおり述べている。
(1)英国防大臣Gavin Williamsonが明らかにしたところによれば、英国は新たに東南アジアに海軍基地を建設することを計画しており、それは2年以内に稼働を始めるという。その候補地としてシンガポールやブルネイが考慮されている。この動きはブレクジット後の英国が「真のグローバルなプレイヤー」として復帰するためのものであり、1960年代に英国が東南アジアおよびペルシャ湾から軍事基地を撤退させたことからの政策的な変化を示している。
(2)英国のこうした動きは、南シナ海をめぐる論争によって不安定化している東南アジア地域情勢をさらに複雑化させると見られている。中国にしてみれば、この計画は、米政府のインド太平洋戦略を補完するための政策であり、したがって、米国の同盟国がDonald Trump政権の対中国強硬路線と軌を一にしていることの証拠である。中国社会科学院傘下の亜州太平洋研究所の許利平教授によれば、「それは明らかに中国を標的にした力の誇示」なのである。
(3)ここ最近英国は、南シナ海において主権を主張する中国に立ちはだかるようになっており、そのため中国と英国の関係は冷え込んでいる。許の考えでは英国の背後には米国がおり、また英国の動向は、日本やオーストラリア、ベトナムなど米国の同盟国やパートナー国家に歓迎されるであろう。こうした国々は、南シナ海をめぐる論争において、中国に敢然と立ち向かおうとしない米国に懸念を抱いていた。
(4)上述したように英海軍基地の候補地はブルネイかシンガポールであるが、この計画は、中国とそれぞれの国々との関係のテストともなる。中国は、11月に習近平がブルネイを訪問するなど、同国との関係の強化を模索しており、シンガポールに関しては、同国が南シナ海問題に関して米国よりの立場になることを警戒してきた。シンガポールとしても、米中の敵対関係にまきこまれ、どちらの味方になるかを選択しなければならない状況を警戒している。英海軍基地建設計画は、こうした微妙な国家間関係に影響を及ぼしうる。
(5)英海軍基地建設計画については、その実現可能性が疑問視されてもいる。英軍の規模は冷戦終結後に半分近くまで縮小されたという事実があり、そのような英国に海外基地建設を進める余裕があるのだろうか。また、同様に予算の観点から、この計画には国内での反対意見もある。労働党の下院議員Luke Pollardはツイッターで、「これらの拡張への支出のために、どんな予算がカットされることになるのだろうか」と疑問を呈していた。
記事参照:Britain’s planned naval base in Southeast Asia seen as ‘muscle-flexing’ against China

1月2日「中国による南沙諸島の珊瑚礁環境回復の試み-香港紙報道」(South China Morning Post.com, January 2, 2019)

 1月2日付のSouth China Morning Post電子版は、“Beijing to restore coral reefs ‘damaged by island building’ in South China Sea”と題する記事を掲載し、中国が年明けに南沙諸島の珊瑚礁環境を回復させるための作業を開始したとして、要旨以下のように報じている。
(1) 自然資源部によると、中国は、その埋め立て作業が環境に悪影響を及ぼしていることが懸念される中、争いのある南シナ海の珊瑚礁の生態系を回復しようと取り組んでいる。珊瑚の保護と回復のための施設は、南沙諸島の中で中国の7つの人工島のうち最大の3つであるファイアリークロス、スビ及びミスチーフの岩礁に設置され、作業は年の初めに開始すると自然資源部長は述べた。
(2) 2016年7月、国際法廷は、中国の埋め立てと人工島の建設が「珊瑚礁環境に深刻な被害をもたらした」と裁定した。北京は、その裁定をはねつけ、その建設は「グリーン・プロジェクト」であると述べた。
(3) 2015年に、中国の国家海洋局は、建設は南沙諸島の生態系の健全性を変えることはないと述べたが、建設後の珊瑚の植え付け、修復及び移植を提案した。2013年から2016年にかけて、中国は南沙諸島で埋め立てプログラムを実行し、そのうちのいくつかは、最初は満潮時に水没していた岩を、558ヘクタール(1,379エーカー)の大きさの島に拡大した。南沙諸島の領有権は、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ及び台湾によって争われており、中国の建設プロジェクトは、裁判所が裁定する前でさえも環境被害に対する国際的な批判を引き起こした。
(4) 建設業者の船が、珊瑚を細かく刻み、破片を吸い上げ、それを陸上に吹き飛ばした。中国の外交部はこれを「海のオアシスを徐々に形成する生物学的スクラップを吹き飛ばし、移動させる海の嵐の自然な過程」のシミュレーションとして賞賛した。しかし、それは米国政府による5年間にわたる珊瑚礁保護プログラムの研究の委員長であるマイアミ大学のJohn McManusを含む海洋生物学者たちによって批判された。
(5) 北京はまた、2015年と2016年に、建設が始まるずっと前に珊瑚の生態学は「自然の原因と乱獲」によって被害を受けていたと主張した。1月2日火曜日、自然資源部は、生態系の保護と回復が使命であると述べた。
記事参照:Beijing to restore coral reefs ‘damaged by island building’ in South China Sea

1月2日「南シナ海行動規範交渉及び中国・ASEAN関係の現状-中国政府系紙報道」(Global Times, January 2, 2019)

 1月2日付の中国政府系紙環球時報英語版Global Timesの電子版は、“Next 3 years crucial to assure S.China Sea no longer a sea of troubles”と題する記事を掲載し、2019年は、南シナ海での行動規範に関する交渉の具体的な成果を生み出すための基盤を築く重要な時期となり、中国は今後3年間で交渉を終了するつもりであるとして、要旨以下のように報道している。
(1) 12月31日月曜日の時点で、南シナ海行動規範交渉のために計16回の高官会議と26回の共同作業部会会議が開催されており、海洋リスクの予防と「重要かつ複雑な問題」のリストを取り扱っている。南シナ海での緊張が緩和されるにつれて、焦点は対立と言葉の戦争ではなく、行動規範交渉によって推進されている、と中国の軍事関係及び国際関係の専門家は述べた。また、確かに関係国間の利害は異なり、相反する要求をもつため交渉は問題を解決する唯一の方法である、とも述べた。ロイター通信によると、最近の要求はベトナムからのもので、特に中国が人工島の建設や武器の配備を禁止することを望んでいるといわれている。しかし、そのような問題、並びにミサイル配備及び防空識別区域の問題は、2019年第1四半期の交渉に含まれる可能性は低いと南海研究院の陳相秒は述べている。また、専門家はフィリピンやマレーシアなど、中国と紛争を起こしている他の国々も交渉で彼らの要求を表明し、2019年はそれらの国々が彼らのコンセンサスを最大化し協力を促進するチャンスになると予測している。
(2) 中国の李克強首相は、11月にシンガポールで開催されたASEAN首脳会議で、中国は3年間で行動規範の交渉を終了することを期待していると語った。この交渉は、行動規範の地理的範囲の適用のような根本的な問題と、この文書が事実上政治的であるか法的であるかに焦点を当てていると陳は指摘した。合意を最大化するための取り組みに加えて、この海域の国々にとってのもう一つの重要な目標は、域外の国々からの干渉を排除することである、と中国の海南師範大学フィリピン研究センターのディレクターである劉鋒は述べた。アナリストたちはまた、一部の国々は自国の要求を強化するために米国から力を借りる可能性があると指摘し、南シナ海では米国との二国間軍事行動を避けるべきであると警告した。米国防総省のアジア担当当局者のトップは、オーストラリアと他の米国の同盟国に、南シナ海での軍事的プレゼンスを強化して中国に警告を送るよう促したとオーストラリアの新聞が12月27日水曜日に報じている。行動規範は、域外の国々からの域内の軍事行動を制限するための条項を含めるべきであると陳は述べた。
(3) 中国とASEANのメンバーは頻繁に交流しており、過去と比較して遥かに緊張が低下した状況にあると専門家たちは述べた。10月には中国南方の広東省湛江市で1,200人を超える将校と兵士を含む、中国とASEAN加盟諸国による海軍が1週間にわたる共同海上訓練を終えた。ASEAN加盟諸国が単一国との共同軍事訓練を実施したのは初めてのことであり、また中国軍がこの連合との海上訓練を実施したのも初めてであった。中国の習近平国家主席が7日間のアジア太平洋地域周遊を行い、その間に中国は、ブルネイとの関係を戦略的協力関係に、フィリピンとの関係を包括的な戦略的協力関係に高めた、と11月に新華社通信が報道している。
(4) これらは、行動規範交渉のための良い雰囲気を作り出しており、外部からの干渉に対する優れた対抗策であると陳は述べた。中国外交部長の王毅は2018年8月に開催された中国とASEANの外相会議で、中国とASEAN加盟諸国は、南シナ海の平和と安定を維持し、地域の規則に従うことができることを、すべての交渉を通じての事実が証明するだろうと述べた。中国とASEAN加盟諸国は8月、行動規範の交渉のための交渉文書草案に合意している。
記事参照:Next 3 years crucial to assure S.China Sea no longer a sea of troubles

1月3日「南シナ海における中国の水中潜水艦基地建設計画―比研究者論説」(Asia Times.com, January 3, 2019)

 1月3日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、比デ・ラ・サール大学助教Richard Javad Heydarianの“China’s Atlantean ambition for the South China Sea”と題する論説を掲載し、南シナ海における中国の水中潜水艦基地建設計画の概要および意義について、要旨以下のとおり述べた。
(1) 中国は南シナ海に、人工知能によって24時間稼働が可能な深海潜水艦基地の建設を計画している。もしそれが実現すれば、中国は論争が続く南シナ海において優位な立場に立つことになる。その候補地のひとつは、台湾南西部からルソン島西部へと南北に伸び、深さ5,400メートルに達するマニラ海溝である。専門家が指摘するには、南シナ海においてマニラ海溝が最も潜水艦基地のための条件に適しているという。
(2) 中国によるこの潜水艦基地建設は、ある中国の科学者によれば宇宙ステーション建設よりも困難な事業である。基地建設のための初期コストは1億6000万ドル程度と見積もられているが、最終的にはその何倍もの費用がかかることになるであろう。この計画を打ち出したChinese Academy of Sciencesを訪問した習近平は、この巨大プロジェクトの先進性を次のように評した。「深海には一切の道がない、われわれは追いかける必要がない、われわれこそが道になるのだ」と。
(3) 中国は公には、この計画は純粋に科学的な事業であるとしている。中国はこれまで、南シナ海の南沙諸島に建造した人工島に、気象台や環境・大気観測ステーションなどを建設してきたが、深海基地をその延長線上に位置づけているのである。
(4) しかし同時に、中国が進める人工島の軍事化が論争を引き起こしているように、潜水艦基地建設についてもその軍事利用に対する懸念がある。報道によれば中国の狙いは2020年までにAIによって稼働する無人潜水艦を配備することである。中国は2014年に弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を進水させており、おそらくこれも計画された潜水艦基地に配備されることになるであろう。もし中国の計画が実現すれば、南シナ海における誤算の可能性は増大する。さらに、南シナ海の領有権主張国家のなかで、水中での中国の行動を追跡し、かつ抑止できるような国はほとんどない(最近ロシアから潜水艦を入手したヴェトナムを除く)。
(5) アトランティスのごとき大規模潜水艦基地建設計画は、中国海軍の創設者の見通しに沿ったものであった。1980年代、Liu Huaqingは、中国が2020年までに第一列島線および第二列島線の戦略的支配を達成することを思い描いていた。その狙いは、中国南部の経済的中心地域の緩衝地帯を形成し、かつ台湾を包囲し、最終的に中国へと統合することであった。中国は、南シナ海周辺において、アメリカおよびその同盟国を締め出し、脅威を与える能力を着々と強めているのである。
記事参照:China’s Atlantean ambition for the South China Sea

1月5日「米国防総省による中国、そして世界への新たなアプローチ-中国企業論説」(The Diplomat, January 05, 2019)

 1月5日付のデジタル誌The Diplomatは、中国初の独立コンサルタント企業China Channel(中文:中国頻道)の“A New Approach to China – and the World – From the US Department of Defense”と題する記事を掲載し、米国防長官代行Patrick Shanahanの知識・経験、思想信条、そして現実主義的判断を分析し、要旨以下のように述べている。
(1)  アメリカの国防長官代行に指名されたPatrick Shanahanにとって、まず直面する重要事案が中国との関係であることは間違いない。米国では、近代中国との関係が深い企業が少ない。そのような中で、Shanahanの30年超に及ぶボーイング社でのキャリアはこれからの任務の教訓として活かせるだろう。
この度、ボーイング社は2000機目に当たる航空機を中国に引き渡した。中国の商用機のおよそ半数はボーイング社のものである。Shanahanのボーイング社での経歴は対中情報収集能力を裏付けるものであり、加えて、彼はマサチューセッツ工科大学で機械工学と商業の2つの修士号を得ている。彼はビジネスの面から軍事に係わる経験も積んできている。つまり、彼は中国と取引の現場を既に踏んできていると言える。ボーイング社の売り込みを通じ、技術や商業の面のみならず文化の面からも中国と取引ができるようになっているのである。そのような能力は米中の軍事面における戦略にも適用できる。
(2) Shanahanの思想背景は彼の読書歴から読み取ることができる。2018年のCNBCでのインタビューで、彼はArthur Herman『自由の製造』(Freedom’s Forge)が愛読書であると語っていた。著書でArthur Hermanは、偉大な2人のビジネスマンとしてジェネラルモータースのWilliam “Big Bill” Knudsenと造船企業家のHenry J. Kaiserの貢献を取り上げ、「自由の旗手としての兵器製造が第2次世界大戦の勝利をもたらした」と記している。更に著書は、「(大戦の)4年の間、彼らは米国の兵器をまさに世界の力とし、それを基礎として軍事に限らず経済においても米国を超大国にした」と述べている。彼の行動原理には愛国心がある。
 しかし、Shanahanには冷静で現実主義的な側面もある。彼は、「国防総省は米国の産業を重んじるべきであり、それによって軍の近代化を図るべきである」と述べている。彼の知識・経験、思想信条そして現実主義的判断こそ、彼が過去2年間国防副長官に止まり続けた要因であろう。
(3)  Trump大統領やPence副大統領がPatrick Shanahanを国防長官代行に選んだ背景には、彼の現実的な脅威認識がある。CNBCのインタビューにおいてShanahanは「ロシアと中国では脅威の性質が異なる。勝つため、優位に立つためには対中と対露の異なる力を備える必要がある」と述べていた。シリアからの撤退、月の裏側への着陸で示された中国の宇宙開発能力、米国の国防に不可欠な超音速ミサイルシステムへのロシアの非難等、就任早々に彼が取り組むべき課題は山積している。課題への取組み過程で迷路に迷い込むことがあったなら、彼は前任者よりももっと現下の情況を直視し判断したほうがよいだろう。
 100年以上前、マサチューセッツ工科大学を卒業し、中国生まれとして初めてボーイング社に雇用された王助(Wong Tsu)は、複葉機の訓練装置を設計した。Wongは1917年に中国に帰り、中国の航空機生産に尽力した。そして今日、マサチューセッツ工科大学を卒業した外国人が自国の航空・軍事に技術移転できる可能性のあるアメリカ企業に就職している。100年以上以前のことが繰り返されているのである。
記事参照:A New Approach to China – and the World – From the US Department of Defense

1月7日「米海大教授らの著書新版における米国の対中海洋戦略―米専門家論評」(South China Morning Post.com, January 7, 2019)

 1月7日付のSouth Chine Morning Post電子版は、米国のウィルクス大学非常勤教授Francis P. Sempaの“How the US should respond to China’s rising sea threat examined in new book”と題する論評を掲載し、Sempa はToshi YoshiharaとJames R. Holmesの著作Red Star Over the Pacific, Second Edition:China’s Rise and the Challenge to US Maritime Strategyの新版の内容をもとに、米国の対中海洋戦略について、要旨以下のように論じている。
(1) 米国のシンクタンク戦略予算評価センターのToshi Yoshiharaと米海軍大学のJames R. Holmesによって書かれたRed Star Over the Pacificの新版は、素晴らしい地政学的な識見、中国の海軍に関する文献に対する慎重な批評、そして、過去のものと現代の両方での、中国と米国の海軍兵器システム、戦術と戦略に関する十分な知識を兼ね備えている。
(2) YoshiharaとHolmsは、中国の海洋国家への転換は、米国に、地域的、そして潜在的に地球規模で地政学的な課題を投げかけている「アジアの問題における恒久的な要因」であるという彼らの主張を裏付けるために、関連する中国の海軍と政治に関するソースを利用した。著者らは、彼らの以前の著作Chinese Naval Strategy in the 21st Century: The Turn to Mahan (2008)を基に論を進めている。これは、中国の海軍戦略家が、米国の海軍史家で戦略家であるAlfred Thayer Mahanの著作を研究し、そこから利益を得たことを示したものである。鄧小平以降の中国の指導者たちは、「商業は富とパワーを生み出し、より大きな国家的目的を達成するための手段を提供する」というマハン主義者の考えを理解している。海軍力は、「経済的、外交的、文化的及び法的手段を含む、国力のすべての要素を徴用する」という、遥かに広い中国の「海洋戦略」の一要素に過ぎない。そして、これらすべては地理によって形作られている。
(3) YoshiharaとHolmesは、「中国の経済的運命は今や海と分離不可能な程に結びついている」と述べている。中国の経済地理学に関する章では、3つの主要経済地帯(珠江デルタ、揚子江デルタ、渤海リム)とその14,500 kmの海岸線に沿って位置する主要な港を分析している。著者らは、これらの「シーパワーの平時の要素」は、「中国の繁栄の本質的な源泉を構成し、中国の台頭への地域的及び世界的な隆盛を強化した経済成長を促進している」と書いている。
(4) 中国の海岸線、そして東シナ海と南シナ海に接する陸地と島々は、著者らが中国のシーパワーの「戦略的地理」と呼ぶものを構成している。南シナ海での中国海軍に関する文献とその積極的な行動姿勢は、中国がすぐ沖合の島々(いわゆる「第1列島線」)を太平洋への地政学的障壁と見なしていることを明らかにしている。この列島線には日本、琉球諸島、台湾及びフィリピンが含まれる。中国の指導者たちは、この障壁を、地域的にも世界的にも中国を封じ込めるように設計された米国の防衛線と見なしている。YoshiharaとHolmesは、台湾が第1列島線の中心的なつなぎ目であると述べている。中国の再統合の目標は、国家の尊厳と主権の主張に限定されないと著者らは指摘している。「台湾の中国本土支配への復帰は、中国の戦略的立場を強化し、資源と貿易へのアクセスを拡大し、アジアにおける中国の正当な地位を取り戻すための見通しを明るくするだろう」と彼らは書いている。しかし、台湾との再統合は、中国の地域的又は世界的な野心を十分に満足させるものではないと確信している。「台湾を占領することは・・・列島線を破壊し、中国海軍の西太平洋へのアクセスを保証する」と彼らは書いている。
(5) 「中国の夢」とは、「恥辱の100年」を経て、中国をアジアの卓越した大国として、そして世界的な大国として、正しい地位に立たせることである。YoshiharaとHolmesは、中国の「一帯一路構想」についてはかなり楽観的であり、まかり間違っても無害、良くてもユーラシアに有益なものとそれを呼んでいる。彼らは、それが西太平洋における中国の海洋覇権の推進からの経済的かつ外交的な過度の拡大と転換をもたらすかもしれないとさえ示唆している。
(6) 彼らの見解では、懸念すべき側面は、中国がこの地域で支配的な海洋国家として、そしておそらくそれを超えて、米国に取って代わるということである。ここでは、彼らは米国の政策立案者と海軍の戦略家に、「中国の穏やかな側面を抑えずに、偉大さを求める悪意のある側面を緩和する」ことを助言している。中国の偉大さに対する取り組みは、米国との戦争につながる必要はないと彼らは書いている。
(7) 米国の政策立案者にとって考えられる1つの選択肢は、米国の海からの封じ込めに大陸からの妨害を加えるニクソン主義的な試みにおいて、競合するアジアの大陸国家(インドやロシアなど)とのより良い関係を模索することである。おそらく彼らは、一帯一路構想のユーラシアの構成要素が、そのような発展を未然に防ぐ中国の取り組みであると考えている。
記事参照:How the US should respond to China’s rising sea threat examined in new book

1月8日「ブレグジットを受けて『スエズ以東』に回帰する英国―ジャーナリスト論説」(Asia Times.com , January 8, 2019)

 1月8日付のWEB誌Asia Timesは、東南アジアに拠点を置くジャーナリストDavid Huttの“New ‘global Britain’ sets naval sights on Asia”と題する論説を寄稿し、ブレグジットを受けて英国が第2次世界大戦以降初となるアジアでの軍事基地設置を検討していると指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1) 英国はほどなく新海軍基地をブルネイかシンガポールに設けるだろうと表明している。英国が予定通り今年中にEUを離脱すれば、かつての植民地帝国は再びアジアに目を向けるだろう。このことは先週、英国防相Gavin Williamsonが今後数年でアジアのどこかに新海軍基地を設けるつもりだと発言したことで裏付けられた。彼は「英国は第2次世界大戦以降で最も重要な局面にある。今こそ英国が真のグローバルプレイヤーに返り咲くときであり、英軍はそのための真に重要な役割を果たすと考えている」と述べた。
(3) Williamsonに近い情報筋は、英紙サンデー・テレグラフにシンガポールかブルネイといった東南アジアの旧英植民地が新基地の候補地となり得ると語った。ブルネイには既に英陸軍グルカ・ライフルズ大隊が駐留し、ブルネイ国王が費用を負担する小規模な基地がある。他方、英国のもう1つの旧植民地であるマレーシアは、反英で知られるMahathir Mohamad首相が国政を預かっており、英軍の基地候補地には相応しくないように思える。また、英国が英連邦王国以外のアジア国家を基地候補地として選択することは考えにくい。
(4) 新しい「グローバルな英国」を築くことは政権を担う英保守党の原理である。しかしながら、こうした動きは欧州とアジアが混乱している時に現れてきた。近年、主張を強める中国と米国の間でアジアにおける地政学的緊張が高まってきた。半世紀以上前の植民地独立以降にアジア太平洋から事実上姿を消していた英国は、亀裂が生じている地域の中でWilliamsonが言うところの「真のグローバルプレイヤー」として復権する余地があると考えているようだ。
(5) 英国は地域で確実な支援勢力を有している。台湾の蔡英文総統は1月5日に、地域の新たな英軍基地を歓迎する旨述べた。その他のアジア諸国はほとんど英国が計画する新海軍基地について公にコメントしていないが、ベトナムやマレーシア、フィリピン及び台湾など南シナ海で一部の領域を争い、中国の拡張主義的な動きに反対する地域諸国には受け入れられるだろう。
(6) 僅差でEU離脱を決めた2016年6月の「英国のEU離脱の是非を問う国民投票」を受けて、投票結果に対して準備不足であった保守党政権は離脱交渉の進展のみならず、ブレグジット以降の世界における英国の位置づけで混乱してきた。Theresa May英首相は2017年1月に「グローバルな英国」を築きたいと発言した。その数か月後に当時の英外相Boris Johnsonは英国が「アジア太平洋地域に一層コミット」し、その軍事的関心をアジアから西方へと数十年に亘り転じた果てに英国軍が「スエズ以東への回帰」を目指すだろうと公言した。
(7) 英国は1971年以降、スエズ以東初の基地である海軍基地を2018年4月にバーレーンに開設した。また、オマーンの新訓練基地も本年に稼働予定である。世界中に16か所の基地を有する英国は、米国に次ぐ規模を誇っている。英国政府は過去数十年に亘って、米国の「アジアへの軸足移動」(the “pivot to Asia”)やロシアの「東方政策」(Look east policies)と同種の政策を有してこなかったが、それでもアジア太平洋地域で大きな軍事的影響力を維持してきた。例えば、英国は現在も1970年代に締結された「5か国防衛取極」の締結国であるマレーシアやシンガポール、オーストラリア及びニュージーランドなどの英連邦王国諸国と定期的に軍事演習を行っている。中国にとっては腹立たしいことに昨年9月、英海軍艦艇の1隻が南シナ海で中国が敵対的行為だと見なす「航行の自由作戦」を実施した。
(8) 現在及び過去の米大統領と同じく、英国の閣僚は幾分かの道徳と政治的な博愛を伴ってアジアでの新たな国益を語っている。英外相Jeremy Huntは12月31日からの週、シンガポールで「我々の価値観を共有し、自由貿易や法の支配そして開かれた社会に対する我々の考えを支持する世界の民主主義国家を糾合する透明な鎖として行動することができる」と表明した。
(9) その実「自由貿易」を守るというHuntの発言は、「開かれた社会」に関する彼のレトリックに比してよく受け取られた公算が大きい。中国や日本、韓国、ベトナムは英国を最重要というわけではないが、重要な貿易パートナーとして重視している。しかしながら、英国がEUから最終的に離脱する(するのであれば)に当たって貿易は確実に影響を受けるだろう。英国の閣僚は過去2年間の相当部分を、EU協定離脱後の新2国間経済協定に対する支持を得るためのアジア訪問に費やしてきた。一部のFTAが議論されてきたが、正式な交渉は英国のEU離脱を待たなければならない。
(10) アジアの新軍事基地は少なくとも物理的には、英国が南シナ海における「航行の自由」を含む国際的な法の支配の新たな庇護者を目指していることを示すものである。これこそ急速に成長する地域で英国に更なる経済的アクセスを与え得る戦略的な役割である。
記事参照:New ‘global Britain’ sets naval sights on Asia

1月8日「米インド太平洋軍、中国を視野に入れた活動増加―中国専門家論評」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, January 8, 2019)

 ハワイのシンクタンク、1月8日付けのPacific ForumのWeb誌PacNetは、ローマのThe NATO Defense Collegeでインド太平洋問題のa regular presenterを務めるDavid Scottの“The US Indo-Pacific Command makes its Indo-Pacific mark, with China in mind”と題する論説を寄稿し、米インド太平洋軍による中国を視野に入れた活動の増加について、要旨以下のように述べている。
(1) Pence米副大統領の一連の発言(2018年10月14日の「中国政策」に関する講演、11月15日の東アジア首脳会議での演説、そして11月16日のAPEC首脳会議での演説)を貫く主題は、「自由で開かれたインド太平洋」が中国によって脅やかされているということであった。この政治的メッセージは、米インド太平洋軍(INDOPACOM)のDavidson司令官の11月の講演内容と軌を一にしている。Davidson司令官は11月16日の「インド太平洋の安全保障に対するチャレンジ」と題した講演で、インド太平洋の長期的安定に対する最も大きなチャレンジは中国からのものであるとし、中国の海洋シルクロード構想(「債務の罠外交」と「略奪的な経済政策」)、東シナ海と南シナ海における海洋活動(「高圧的」「威嚇的」「軍事化」)、そして国際法に対する拒否(南シナ海仲裁裁判所の裁定を「受け入れない」「過剰な領有権主張」)を批判した。同司令官は11月28日には、米太平洋陸軍指揮官会同で「太平洋における抗争」と題する「基調講演」を行い、中国に対する批判を繰り返し、中国を抑制するためには、「我々は単独では不可能であり、それに成功するためには同盟国とパートナー諸国が不可欠である」と強調した。さらに、11月29日の米シンクタンクでの「チャイナパワー」と題する講演では、インド太平洋地域の重要性を強調し、米国の「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)政策を説明し、中国に対する批判を繰り返した。
(2) Davidson司令官は11月29日の講演で、インド太平洋における中国のチャレンジに対抗するために、2つの措置に言及した。
a. 1つは米海洋パワーの重視で、自由で開かれたインド太平洋を維持することは、INDOPACOMの戦闘能力の信頼性に裏付けられた、米国の核心利益である。同司令官は4月17日の上院軍事委員会での証言でも、「この地域における中国の有害な影響力に対処し、そしてインド太平洋地域における中国の侵略を効果的に阻止し得る、戦力態勢を整備し、配備する重要性」を強調している。2018年において南シナ海で、更には台湾海峡での「航行の自由」作戦が増えた背景には、こうした認識があった。
b. もう1つは海洋パートナーシップで、「我々は、域内全域において自由で開かれたインド太平洋理念の広まりを目撃している」と述べ、さらに日米合同演習や、オーストラリア、ニュージーランド、英国及びフランスによる「国際水域を航行する権利を主張する」活動にも言及した。同司令官は、中国の圧力に晒されている域内の弱小国家に対して、より強い国家と協同することを呼びかけ、「強い国が自由で開かれたインド太平洋のために団結して立ち上がる時、我々は、域内の弱小国家に対して中国の圧力に抵抗しても大丈夫だとのシグナルを送ることになる」と強調した。
(3) 実際、Davidson司令官の発言を実証するように、INDOPACOMによる中国関連活動の頻度が増大している。米海軍駆逐艦Curtis Wilbur が10月22日に台湾海峡を通航する前には、 Antietamがタイ海軍との合同演習を実施した。11月半ばには、USS Ronald Reagan空母打撃群とJohn C. Stennis空母打撃群は、フィリピン海で対潜演習を実施した。誘導ミサイル巡洋艦 USS Chancellorsvilleは11月26日に南シナ海の西沙諸島海域で航行の自由作戦を実施し、28日には台湾海峡を通航した駆逐艦Stockdaleと給油艦Pecos も同海域を航行した。更に、B-52爆撃機がダーウィンでの豪軍との合同演習に参加し、12月9日にグアムに帰投した。自由で開かれたインド太平洋を維持する上で、インドが中国に対する対抗勢力としての重要性を増していることから、INDOPACOMは特にインドを重視している。12月7日には、インドの国防相がINDOPACOMを訪問した。米第7艦隊のSawyer司令官は12月12日にインドを訪問し、両国の海軍協力についての会議に出席し、米印合同海軍演習、Cope Indiaが12月3日~14日の間、実施された。米太平洋空軍のBrown 司令官は12月14日~17日の間、インドを訪問し、インド防衛当局と会談した。更に、12月22日には、揚陸艦Anchorageはインド海軍東部司令部があるヴィシャカパトナムに寄港した。
(4) INDOPACOMは2019年においても、①中国沿岸沖と南シナ海の「第1列島線」内における前方戦力展開を強化し、②2018年に南シナ海を定期的に哨戒飛行した爆撃機のグアム駐留を継続し、③台湾との軍事協力の強化について話し合い、④中国を懸念するその他の諸国との防衛協力を強化して行くであろう。この地域にとって戦略的に重要なのは、目に見える米軍の前方展開である。2019年におけるINDOPACOM の力点は、Trump大統領が12月31日に署名した、The Asia Reassurance Initiative Act(ARIA)*に明示されている。ARIAは、インド太平洋地域における米国の安全保障に対する中国の脅威を強調し、政府、特にINDOPACOM に対して、「法に基づく国際秩序を維持するために、東シナ海と南シナ海を含むインド太平洋地域において、合同の海洋訓練と航行の自由作戦の実施するために、同盟諸国とパートナー諸国と協同する」ことを命じている。
記事参照:The US Indo-Pacific Command makes its Indo-Pacific mark, with China in mind
備考*:S.2736 - Asia Reassurance Initiative Act of 2018

1月9日「南シナ海の隠密偽装漁船団-米専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, JANUARY 9,2019)

 米Center for Strategic and International StudiesのAsia Maritime Transparency Initiative(AMTI)は1月9日付で、同サイトのディレクターである Gregory B. Polingの“Illuminating the South China Sea's Dark Fishing Fleets”と題する論説を寄稿し、最新機器による調査分析の結果、南シナ海の紛争を生じている海域において、中国は実際には漁業に従事しておらず、海上民兵が運用していると思われる多数の漁船を展開させているとして要旨以下のように論じている。
(1) 南シナの係争海域において、紛争当事国間の海空軍及び沿岸警備隊などの兵力バランスは比較的詳細に分析されているが、もう一つの注目すべき存在である漁船については、これまで余り注目されて来なかった。南シナ海における漁業は乱獲のため崩壊の危機に瀕しており、この海域の漁民たちは生計維持と食料安全保障に関する深刻な脅威に直面している。
南シナ海における漁獲を巡って漁民たちが軍隊同士のように激しい衝突を引き起こす可能性もある。そのような中、漁民たちはフルタイムでの漁の代わりに中国の海上民兵としての業務に従事するようになった。こうした活動の実態を明らかにするため、AMTIはVulcan社のSkylight Maritime Initiativeと協力し、新たな技術とデータを活用して南シナ海の係争海域であるスプラトリー諸島周辺海域における漁業実態と中国の海上民兵の活動などについて調査分析を実施した。
(2) 南シナ海における国際的な漁業資源の管理は領土問題などのため沿岸国の漁業関係法令などが輻輳しており実質的な国際協力は不可能である。実際、いくつかの国家は自国が主権を主張している係争海域における漁業の実施を奨励してもいる。そのような中で漁業活動を実際に遠隔監視することは非常に困難である。もっとも船舶自動識別装置(AIS)、マルチチャンネル・イメージャー(VIIRS)、合成開口レーダー(SAR)ないしは光学衛星の画像といったいくつかの異なる技術を組み合わせることにで、この活動を監視することも可能となる。
a. AIS
 多くの漁船が操業している南シナ海で船舶の特定は困難である。特にスプラトリー諸島周辺海域ではAIS信号がほとんどないが、これはフィリピンやベトナムの漁船が旧式でAISを装備していないからである。
 b.VIIRS
南シナ海その他世界の漁場における有用な情報源の一つは、VIIRSによる可視光の検出であり、これは海上における顕著な光源を検出出来る。そしてVIIRSはスプラトリー諸島周辺海域でAIS信号がないにも係らず大量の漁船が活動していることを示している。VIIRSのデータによれば、南シナ海では年間を通じて漁業活動が見られるが、最も活動的なのは3月から6月であり、特にスプラトリー諸島周辺海域では3月から4月が漁期のピークとなっている。これは北京が毎年南シナ海北部で課す3ヶ月間の漁業禁止期間の終わりとも連動しており、8月には中国とベトナム沿岸に沿って活動の増加なども見られる。しかし最も重要なことは、このような季節的条件にも係らず、漁業活動の全体的なレベルが年々着実に増加していることをVIIRSのデータが示しているということである。
 c. SAR
より詳細な分析にはSARによる特定の時間帯及び海域における船舶数のデータが有益である。SARは全長6m以上の船舶の船体や金属製の上部構造物などを容易に識別出来る。これと前述したAIS信号データとの乖離は驚異的であった。例えば、9月30日から10月5日までの8回に渡って収集されたSARデータでは264の船舶が探知されているが、AIS信号を発信していたのは、そのうちの8隻だけしかなかった。
d.光学衛星画像
SARは船団規模の情報を探知可能であるが、個々の船舶の詳細情報を明らかにすることは出来ない。したがってAISが使用されていない場合、次善の識別手段は高解像度の衛星画像である。これによればスプラトリー諸島周辺海域で操業している漁船の大部分を中国漁船が占めている。そしてSAR情報は、ほとんどの漁船がスビ礁及びミスチーフ礁その他のフィリピンが主権を有する島周辺の海域に集中していることを示しているが。衛星画像はこれらの漁船の数がSARの探知情報よりもはるかに多いことを示している。これはSARでは単一の漁船として認識された目標が、実際は密集した大規模な船団である場合が多いためである。
(3) 時系列的に画像を分析すれば、2018年にこの海域に展開している漁船数は2017年当時よりもはるかに多いことも判明した。繁漁期の8月、この二つの環礁に停泊する漁船は約300隻であったが、これらの90%以上が全長51m以上、排水量550トン以上の大型漁船であった。そしてほとんどの場合、これらの画像に撮られた中国の漁船は停泊中か、あるいは漁労に従事せずに単なる航行中であった。時折、漁具を投入している船舶も見受けられたが、むしろそれらは稀であった。このほか、フィリピンのパグアサ島やロアイタ礁、台湾が実効支配する太平島周辺海域にもこれらの中国大型漁船群の展開が確認されており、それらの漁船群は画像が収集された期間中にわずか数隻が漁業活動の兆候を示したのみであった。
(4) このように、画像解析の結果からは、スプラトリー諸島周辺海域に展開している中国漁船のほとんどが余り活発に漁業活動に従事していないことが判明したが、のみならず彼らは持続可能な漁業も実施出来ないということが示されている。すなわち、探知された中国漁船のサイズ及び排水量は明らかに生産過剰なのである。公表されている中国の漁獲レベルによれば、550トン規模の漁船は1日当たり約12トンの漁獲が可能であるが、これは8月にスビ礁及びミスチーフ礁周辺に展開していた270隻以上の漁船が1日当たり3,240トン、年間換算で約120万トンの漁獲をしたことを意味するが、これはスプラトリー諸島周辺における年間推定総漁獲量の50〜100%にも相当する。このように明らかに過剰な推計漁獲量からしても、これらの漁船の大部分、少なくとも一部は中国の海上民兵組織に所属していると推論出来る。
(5) 海上民兵の活動は文書でも明らかにされており、彼らは南シナ海及び東シナ海の係争海域において中国のプレゼンスを強化するため、巡回、監視、補給その他の任務に従事しているのである。北京は彼らの存在を秘匿しておらず、実際、その熟練したメンバーが2014年にベトナム沖で生起した中国の石油掘削装置を巡る衝突の際に活動している。しかし、上記の分析はスプラトリー諸島周辺に展開している海上民兵が予想を超えて大規模であることを示している。特にこれらの海上民兵グループの一つであるYue Tai Yu船団に係る情報は有益であり、近年北京が海上民兵にどの程度の投資をしたかを示唆している。Yue Tai Yuと名付けられた9隻の大型トロール船は2017年に広新海事重工股彬有限公司で建造された。この船団は母港を離れて1年、中国沿岸を航行しつつスプラトリー諸島との間を航行したが、スビ礁、ミスチーフ礁周辺に長く滞在したほか、ガベン礁、ジョンソン礁、ヒュース礁などの中国施設にも寄港した。しかし、彼らの立場はフィリピンが実効支配するパグアサ島やロアイタ礁周辺に滞在した時間の長さから明らかである。衛星画像の情報によれば、Yue Tai Yuの船団はほとんど漁労には従事していない。これは、おそらく1隻1億ドル以上の費用を掛けて建造された大型の最新型トロール漁船が所有者に全く商業的利益をもたらしていないということであり、北京がスプラトリー諸島周辺海域に展開する漁船団に莫大な助成金を支払っているということでもある。
(6)  VIIRSやSARのような新技術は、紛争海域であるスプラトリー諸島周辺で操業している漁船の数がAIS情報が示すよりはるかに多いことを示している。南シナ海の権益主張国が漁業を保護し、船舶同士の事故の頻度などを減らすことを望むのであれば、これらの船団の監視を強化することが重要である。スプラトリー諸島周辺海域における漁船団で最大の勢力は漁業に係る営利企業ではなく、中国の准軍隊である海上民兵であり、その規模は一般に考えられているよりもはるかに大規模である。南シナ海に関心を有する専門家、政策立案者は、これらの船団の性質や役割に相応の注意を払う必要がある。
記事参照:Illuminating the South China Sea’s Dark Fishing FleetsIlluminating the South China Sea's Dark Fishing Fleets

1月10日「ASEANと共に『インド太平洋構想』に向き合うインドネシア―シンガポール紙報道」(The Straits Times.com, January 10, 2019)

 1月10日付のシンガポール紙The Strait Times電子版は、"Indonesia wants ASEAN to be axis of Indo-Pacific strategy"と題する記事を掲載し、要旨以下のように報じている。
(1) インドネシア外相Retno Marsudiは9日の年次スピーチにおいて同国がインド太平洋協力で他のASEAN諸国とともに地域アーキテクチャを強化すべく取り組みたいと発言した。世界最大の島礁国は「単一の戦略地政学的地域」(single geostrategic theater)と見なす太平洋及びインド洋の周辺地域における安定、安全保障及び繁栄の維持に注力しようとしている。Rentoは各国の大使や外交官が出席したイベントで「我々は、インド洋と太平洋が天然資源や地域紛争そして海洋の覇権を巡る争いの場とならないよう万全の手を打たねばならない」と述べた。
(2) 米国、日本、オーストラリア及びインドは、海洋有志国家間の戦略協力を拡大すべく「自由で開かれたインド太平洋」を提唱してきた。同構想は世界の主要な海洋内の国家と関係している。しかしながら、「自由で開かれたインド太平洋」に対しては異なる解釈が存在してきた。例えば米国は数兆ドル規模の「一帯一路構想」を通じて、東南アジア諸国に大きな影響力を行使しようとしてきた中国を封じ込める手段として、日本やオーストラリアそしてインドと広範な協力をすることを思い描いている。
(3) インドネシアのJoko大統領は昨年11月にシンガポールで開催された東アジアサミットにおいて、同構想に対する同国初のビジョンを発表した。当該ビジョンは開放性や包摂性、協力、対話及び国際法とASEANの中心性の尊重といった主要原則に基づくものである。これまでのところASEANはそうした問題に対して意見の一致を見ていない。インドネシア大学の国際政治、国際政治アナリストBeginda Pakpahan博士は、インドネシアが大国との協調の中心で自由で積極的なアプローチを用いるべきだと述べた。それに加えて彼は、インドネシアがアジアの近隣諸国とともにインド太平洋構想に基づいた地域ガバナンスの創設に独立したスタンスを取るべきだとも語った。
 (4) BegindaはThe Straits Timesに「その目的はASEANを域外パートナーとの『対称的な利害の枢軸』(axis of symmetrical interests)にすることである。これは2つの海洋の間にある諸国の平和や地域の安定及び経済的繁栄をもたらすことができる。インドネシアとその他のASEAN諸国は、東アジアサミットやASEAN地域フォーラムといった既存の手段を用いてインド太平洋枠組みの運転席に乗り込むべきだ」と強調した。
記事参照:Indonesia wants ASEAN to be axis of Indo-Pacific strategy

1月10日「南シナ海にある艦艇は中国の長射程弾道ミサイルの標的となるー米フリージャーナリスト論説」(The DRIVE, January 10, 2019)

 1月10日付の米The DRIVE誌のコンテンツThe War Zoneは、米フリージャーナリストJoseph Trevithickの“China Wants U.S. To Know Its Ships In S. China Sea Can Be Targeted By Long Range Ballistic Missiles”と題する記事を掲載した。本記事でTrevithickは、1月7日に米駆逐艦McCampbellが南シナ海の係争中の人工島近傍を航過したことに対応して、翌18日に中国がDF-26IRBMをゴビ砂漠等に移動させたと報じたことに関し、DF-26の強点を指摘しつつ、中国の意図を分析し、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は、南シナ海の係争中の島嶼近傍を米駆逐艦が航過した後、米艦に対し対艦弾道ミサイルを用いて脅したように見える。これは、ますます攻撃的になる中国政府の一連の行動とレトリックの最新のものであり、太平洋の係争中の地域に対する要求を中国がより積極的に主張する今ひとつのシグナルである。1月8日、国営中央電視台はDF-26を装備した人民解放軍ロケット軍のある部隊がゴビ砂漠とチベット高原に移動したと報じた。これは米駆逐艦の西沙諸島近傍における「航行の自由」作戦に対する直接的な対応であった。
(2) DF-26は移動型IRBMで、通常弾頭なのか核弾頭なのかあるいは目標によって切り替えられるのか諸説がある。報告によれば、2017年までに中国は対艦攻撃能力を付与する機動再突入体(以下、MARVと言う)を装着したDF-26を配備した。DF-26の射程は1,8642マイル(約3,000Km)から2,485マイル(約4,000Km)とするものが一般的で、最大で3,000マイル(約4,800Km)とされているが、この射程が対艦用弾頭を装着したものかは不明である。より短い射程であったとしても中国西部地域から西沙諸島の目標を攻撃することは可能であり、移動式発射装置によって比較的容易に、より東方へ再展開すると考えられる。
(3) 中国国内の縦深からミサイルを発射することは、発射前であれ、脆弱なブースト段階であれミサイルを破壊しようとする試みに対しミサイルの脆弱性を低減できる。また、敵の弾道ミサイル防衛システムに連接する地上配備型センサーが目標を補足し、追尾し、中間段階にあるミサイルを迎撃するのに必要な正確な射撃管制データを提供することを困難にする。低速の目標に命中できることに加え、MARVの終末段階で進路を変更できる能力は予測されにくくなり、迎撃がより困難になる。
(4) DF-26の大遠距離からの発射は単純に目標への到達時間が増すことになり、敵が変針するなど、脅威を低減する機会を増やすことになるだろう。このことは、DF-26が南シナ海における、あるいはその周辺での米国の利益に脅威を及ぼさないということを意味するものではない。米空軍の2017年弾道ミサイルと巡航ミサイルの脅威見直しは、「DF-26のようなミサイル、特に地域紛争に敵が軍事的に介入することを阻止するように計画されたミサイルは中国の軍事近代化の鍵となる要素である」と述べている。
(5) 人民解放軍軍事科学院副院長でこれまでにもしばしば物議を醸す発言をしてきた何雷中将は、「米国が最も恐れることは犠牲者を出すこと」であり、約1万名の命が失われる可能性があると示唆すれば米国は南シナ海での争いから軍隊を引き上げるとして、「敵がミサイルが命中すると恐れるところはどこであれ攻撃せよ」と発言している。DF-26の正確な性能が何であれ、DF-26がどれほど正確に中国の接近阻止の作戦概念に適合しているにしても、米国の「航行の自由」作戦に対応してこれらのミサイルを動員したと公表すること自体が重要な進展である。国際社会で広く受け入れられている北京の南シナ海における領土の主張が過大であり、国際法と規範に従ったものではないと国際社会で広く受け入れられているにもかかわらず、中国政府は「航行の自由」作戦は中国の主権下にある領土のへの侵害であると繰り返し抗議している。
(6) しかし、米艦艇を追い払うというより撃沈することを目的とするという方法で軍事的に対応するという脅威は前例がない。この米駆逐艦McCampbellの対応は米駆逐艦Decaturと中国駆逐艦「蘭州」が衝突寸前となった事例から4ヶ月もたたないうちに生起した。Decaturの事例は、南シナ海において中国が物理的に米艦を排除しようとした最初の事例のようである。この事件に関し、「両国艦艇は明らかに接近する必要があり、そこでは誤解、判断の誤り、衝突さえもあり得た。もし、衝突していれば、その元々の原因は米国にある」と中国海軍軍事学術研究所研究員張軍社大佐は、1月9日に取材陣に述べている。
(7) 中国当局と公式報道のますます攻撃的な姿勢は南シナ海を越えて台湾、あるいは東シナ海のような他の争点に広がっている。過去18ヶ月、米国は南シナ海またジブチ沖における同国軍用機に対する中国による妨害を非難してきた。
(8) 習近平は、中央軍事委員会軍事工作会議(開催1月4日、新聞報道1月5日)において講話し、「全部隊は我が国の安全と発展の大勢を正確に認識し、把握しなければならない。また、憂患意識、危機意識、戦闘意識を強化する必要がある。戦争計画と作戦計画を進化させ、一旦有事には迅速、有効な対応を確保する」と述べている。中央軍事委員会軍事工作会議での講話は、1月2日に行われた「告台湾同胞書」40周年記念会で行った講話に続くものである。この講話には台湾の本土への統一は必然であるとの主張が含まれている。習近平はまた、中国政府は必要であれば、統一の過程を促進するため軍事力を行使するとの過去の立場を繰り返している。特に米中関係について言えば、Trump政権と習近平体制は現在の貿易戦争をどのように終結させるかについて厳しい交渉が暗礁に乗り上げたままのためにDF-26の脅威が生じている。過去約18ヶ月、両国は米国が支援する台湾、中国の知的財産の窃盗および産業スパイ、その他の多くの問題について論戦を行ってきた。米駆逐艦Decaturの事件は、中国が米国、あるいは他の潜在的な敵対者に対して領域の権利を主張し、そうでなければ国益を増進するためにより危険が高く、より力にものを言わせた行動をますます採ろうとしていることをすでに示している。どのように包み隠そうとしても、弾道ミサイルを持って米艦艇を攻撃するという新たな脅威は、中国が状況を緩和させることを急いでいないことを如実に示している。
記事参照:China Wants U.S. To Know Its Ships In S. China Sea Can Be Targeted By Long Range Ballistic Missiles

【補遺】

1 How is China modernizing its navy?
https://chinapower.csis.org/china-naval-modernization/?utm_source=CSIS+All&utm_campaign=34ae19ca45-EMAIL_CAMPAIGN_2018_09_04_03_13_COPY_01&utm_medium=email&utm_term=0_f326fc46b6-34ae19ca45-160737269
China Power, CSIS, January, 2019
 2019年1月の米Center for Strategic and International StudiesのウェブサイトChina Powerは、“ How is China modernizing its navy? ”と題する論説記事を掲載した。その中で中国海軍の装備面における近代化について検証が行われているが、ここ数十年間で中国海軍が保有する艦船の隻数が他国に比べても飛躍的に増加しており、特に東シナ海や南シナ海といった沿岸域での戦闘能力が向上していること、そして、この背景には、中国各地に新たに整備された造船所の存在が大きいことなどが指摘されている。
 
2 US Navy Plans To Send More Ships Into The Arctic As It Looks To Establish New Polar Port
http://www.thedrive.com/the-war-zone/25875/us-navy-plans-to-send-more-ships-into-the-arctic-as-it-looks-to-establish-new-polar-port
THE DRIVE, January 9, 2019
 1月9日付の米THE DRIVEは、“US Navy Plans To Send More Ships Into The Arctic As It Looks To Establish New Polar Port”と題する論説記事を掲載した。その中では、2018年10月に米海軍の空母USS Harry S. Trumanを中心とする空母打撃群が、1991年にNATOとの演習以来27年ぶりに北極圏に入ったことを取り上げ、米海軍は北極圏で活動を活発化させるロシアに対抗すべく、今回の環境条件の厳しい北極圏での演習を通じて学んだ大型砕氷船や艦艇装備の極寒環境への適応の必要性などに対処していくべきだと指摘している。
 
3 Philippines mulls parting strategic ways with America
http://www.atimes.com/article/philippines-mulls-parting-strategic-ways-with-america/
Asia Times.com, January 10, 2019
Richard Javad Heydarian, an assistant professor at De La Salle University (Philippines)
 2019年1月10日の香港のデジタル紙Asia Timesは、比デ・ラ・サール大学准教授であるRichard Javad Heydarianの“Philippines mulls parting strategic ways with America”と題する論説記事を寄稿した。その中で同准教授は、ドゥテルテ大統領率いるフィリピン政府が、1951年に調印した米比相互防衛条約の見直しを表明していることを取り上げ、この背景には同条約の持つ、地理的な適用条件などに関する曖昧性に対するフィリピン側の長年の不満などがあるが、基本的にフィリピン国民は、米国の安全保障上の関与を維持ないし向上させることを念頭に置いていると解説している。