海洋安全保障情報旬報 2019年1月21日-1月31日

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1月19日「嵐か?凪か?2019年の南シナ海-シンガポール専門家論説」(Maritime Security Programme, RSIS, January 2019)

 1月19日付でシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International StudiesのWebサイトMaritime Security Programmeは、“South China Sea in 2019: Calm or Turbulence?”と題する論説を寄稿し、行動規範(COC)の合意に向けて中国ASEANが相互に協力することにより、南シナ海の平和と安定が期待出来るとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2018年の南シナ海は比較的平穏な1年であった。東南アジア諸国連合(ASEAN)は同年の議長国シンガポールの下、中国と南シナ海行動規範(COC)の交渉草案に合意した。また、この年はASEANと中国が初めて合同海上演習を実施した年としても記憶されるであろう。こうした過去1年間の前向きな動きは今後1年間の緊張緩和の基盤として役立つであろうが、潜在的引火点が存在することも忘れてはならない。米中対立は依然として大きな不安定要因であり、ワシントンと北京間で貿易問題の緊張が高まる中、南シナ海の覇権を巡る争いも継続している。北京とワシントンは「南シナ海を軍事化しているのは誰か」という議論を続けており、米国は、中国の管理下の岩礁上の施設建設は軍事化であると非難する一方、中国は米国の「航行の自由作戦(FONOP)」が不必要な挑発行為であり、南シナ海における合法的な中国の利益と主権を脅かしていると主張し続けている。こうして米中艦船の接触機会が増えるに連れて、事件が生起する可能性は常にある。2018年9月30日、西沙諸島におけるFONOPに際し、中国の蘭州級駆逐艦がガベン礁付近で米海軍駆逐艦Decaturと衝突する事案が生起した(抄訳者注:実際には衝突はしていない)。
(2) 一方、南シナ海では多くの米国の同盟国も存在感を高めている。昨年6月、英仏両国は南沙諸島のファイアリークロス礁、ミスチーフ礁、スビ礁付近で合同の海上航行を実施した。8月には西沙諸島でも英国が航行を実施したが、予想通り、こうしたパトロール行動は中国から強い批判を受けた。しかし英仏両国とも、こうした動きが中国との緊張を高め、地域に不確実性と不安定性をもたらす可能性があるのを理解しており、これらの行動を明示的にFONOPとは呼称していない。だがそれでも、南シナ海へのこうした域外諸国の関与は、この地域が主要な権力闘争の場となることに関する東南アジア諸国の懸念を惹起する可能性が高い。ASEAN諸国は、これによって中国とアメリカのいずれかの選択を余儀なくされる状況を避けたいと考えているのである。
(3) 2016年の南シナ海仲裁裁判の判決の後、ASEAN諸国とCOC交渉を開始するという中国の姿勢は、裁判での敗北後、その国際的なイメージダウンからの回復を図る試みであるとの見方もある。したがって、ASEAN諸国への「オリーブの枝」の提供も、南シナ海で軍事力増強を継続しつつの「時間稼ぎ」と見なすことが出来るだろう。そのような中国のCOCに対する姿勢のリトマス試験紙は李克強首相が提案した 3年以内に交渉を完了するというタイムラインが遵守されるか否かである。その過程で目に見える暫定的な成果を達成するべく、ASEAN諸国はこのタイムラインに従って中国と緊密に協力するべきである。李首相も「2019年中に最初のCOC草案の合意完了を目指すべきである」と主張している。全体的に見て、今後の一年も一定の混乱は予見されるが、こうした協力のモーメントを維持すべく中ASEAN双方が協力して取り組めば、南シナ海の平和への軌跡を維持することが出来るであろう。
記事参照:South China Sea in 2019: Calm or Turbulence?

1月24日「同床異夢の『四カ国連携』、その現状と可能性―豪専門家論説」(The Strategist, January 24, 2019)

 1月24日付のAustralian Strategic Policy InstituteのWebサイトThe Strategistは、豪グリフィス大学教授Andrew O’Neilおよび同大学アジア研究所シニア・リサーチ・アシスタントLucy Westの"Why the Quad won’t ever be an Asian NATO"と題する論説を寄稿し、「四カ国連携」を巡っては関係各国が異なる思惑を有している上に、各国の真剣度にも疑問が持たれると指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1) 2018年11月のシンガポールの東アジアサミットに合わせて行われた直近の「四カ国安全保障対話」(Quadrilateral Security Dialogue)は、米国やインド、日本およびオーストラリアが同構想をインド太平洋地域における戦略地政学上の乗数だと見なしていると示すものである。長期間の中断を経て「四カ国連携(the Quad)」が2017年に再開して以降、その目的が真に刷新されたという兆しはほとんどない。こうしたことは2017年と2018年の「四カ国連携」会合後に共同声明が出されなかったことにも表れている。「四カ国連携」推進者はその基盤が10年前よりも強化されたと主張するが、単一の共同声明がないことは同構想に内在する限界を示している。最近、「四カ国連携」が息を吹き返したきっかけは、日本の安倍晋三首相が2012年に政権復帰を果たしたことである。
(2) インドの対中脅威認識は「四カ国連携」開始後10年で高まり、同国を米国とオーストラリアや日本などアジアにおける米国の同盟国側に向かわせた。インド洋における中国海軍展開の増加と、海上発射型弾道ミサイル能力など中国の核兵器プログラムの急速な近代化はインドの戦略策定者を警戒させ、国家戦略と海上戦力投射のリンクの更なる重視を招いた。これらの懸念は中国の「一帯一路構想」の増大する影響力に対するインドの不安に覆われてきた。
(3) インド太平洋における中国の戦略姿勢と同国の南シナ海での表立った軍事拠点化に対するオーストラリアの懸念は、北京のオーストラリア内政介入が明らかになったことで強まってきた。「四カ国連携」は野党労働党のみならず、連立政権の支持も得ている。
(4) 米国にとって戦略分野のみならず、経済領域で北京との競争をより明確に肯定することを好むTrump政権と、10年に及ぶ空白を経て「四カ国連携」することはうまくかみ合っている。南シナ海におけるワシントンの「航行の自由作戦」継続と、Trump政権の貿易を巡る北京とのゼロサム的な対立への志向は、大国としての中国の野望を封じ込めんとする米国の新たな決意を示している。Trump大統領はこれまでの大統領とは異なりインド太平洋における民主国家の協調構想の促進をさして重視していないが、「四カ国連携」は彼の大規模な多国間協調主義に対する軽視および同盟国と安全保障パートナー諸国との負担共有への執着と軌を一にしている。恐らくさらに重要なことに「四カ国連携」は、米国のインド太平洋の同盟とパートナーシップを「侵略を抑止し、安定を維持し、共通領域に対する自由なアクセスを確保できるネットワーク化された安全保障アーキテクチャ」に発展させるという米国防省の構想と密接に結びついている。
(5) とはいえ「四カ国連携」の来歴に鑑みると、それを維持できるか深刻な懸念が持たれる。ラ・トローブ大学のNick Bisleyが論じているように、「四カ国が共有する死活的な国益は一つとしてない」のである。北京は恐らく米同盟国間に内在する相違がアジア版NATOの台頭を防ぎ、中国との貿易や投資に大きく依存する地域における米国のほぼ全ての同盟国(加えて、インドやインドネシアのような米国の非同盟国)が正式な多国間安全保障への関与を避けることにそれなりの自信を持っているだろう。
(6) 四カ国は中国の増大する主張を抑え、一部のケースでは対抗することに明確な動機を有している。しかしながら、それは必ずしも最近の「四カ国連携」復活以上のことを持続させるものではない。四カ国が「四カ国連携」の未来を細部に至るまで描くことに真剣であることを示すものはほとんどない。また、「四カ国連携」に対するASEAN内の見方も様々な上に、シンガポールが「四カ国連携」に最も懐疑的である。
(7) 地域における不測の事態で北京が軍事力を用いた場合にのみ四カ国が「四カ国連携」の新たな意義を見出すということは一つの考え方である。それは本当らしいが、米国、日本およびオーストラリアは中国の軍事活動の大幅な増加に対して、既存の二国間軍事同盟を活用することにあらゆる努力を払うだろう。日本やオーストラリアでさえも米国との軍事同盟によって特定のシナリオでどの程度正式に関与するのかを注視する中で、南シナ海の紛争をインドが真剣に支持すると考えることは困難である。
記事参照:Why the Quad won’t ever be an Asian NATO

1月24日「北極の海氷に含まれるマイクロプラスチックはすべての人が心配すべき-独専門家論説」(ARCTIC TODAY, January 24, 2019)

 1月24日付の露国営通信社Rossiya Segodyna(ロシアの今日)特別プロジェクトウェブサイトARCTIC TODAYは、独Alfred Wegener Institute Helmholtz Centre for Polar and Marine Researchに所属するlka Peekenの“Microplastics in Arctic sea ice should concern everybody”と題する記事を掲載し、そこではIlka Peekenは不注意に投棄されたプラスチック製品がマイクロプラスチックとなって食物連鎖により我々の食卓に戻ってくるとして、要旨以下のように述べている。
(1) プラスチック製品は我々の生活にとって欠かせない一部となっている。しかし、しばしば行われる無批判な使用について再考する時が来ている。木材と異なり、プラスチック製品は急速に腐敗することはなく、材質によっては完全に分解するまでに数百年かかることもある。アルミ缶など6本を一纏めにするための普通のリングは分解するまでに約400年かかる。したがって、独Alfred Wegener Instituteの「海氷1リットル中に12,000個以上のマイクロプラスチック」があることを発見したことは驚くことではない。
(2) より大きなプラスチック片が徐々に劣化することで大量のマイクロプラスチックが直接海に流れ出している。しかし、マイクロプラスチックは陸上においても生成される。たとえば、合成繊維を洗濯することでマイクロプラスチックは下水網を通って海に流出している。我々が発見したマイクロプラスチックは主に、ポリエチレンのような包装材に由来しており、これは消費産品が海流によって長距離移動してきたことを明らかにしている。我々はまた、かなり高い割合で酢酸セルロースを発見したが、これはたばこのフィルターに由来することを示している。このことはポイ捨てされたたばこの吸い殻がいかに早く北極にその痕跡を残すかを明らかにしている。
(3) 海氷のかなりの部分が溶解しつつあり、海氷は単にマイクロプラスチック細片の一時的な溜まり場所と考えられている。現在進んでいる海氷の減少が続くとすれば、マイクロプラスチックの海洋への放出は将来、加速するかもしれない。これらの潜在的なマイクロプラスチック粒子が固着するか、北極の海に蓄積されるか、低緯度帯に移動していくのかは引き続き研究しなければならない。海氷に閉じ込められたマイクロプラスチック粒子の半分以上は1ミリの二十分の一よりも小さい。したがって、北極の微生物に容易に取り込まれる。我々は、これらの微少なプラスチックの粒子が海洋の生態系を傷つけるのか、あるいは食料連鎖を通じて人類に危険なのかを知らないために非常に懸念されるところである。最悪の場合、不注意に投棄したプラスチックをシーフードの形で食卓の上に戻すことになる。
(4) このように我々消費者の行動を再考する時である。我々は、買い物バッグ、テイクアウトのコーヒー、包装された果物や野菜、たばこのフィルターなど多くの使い捨ての製品の使用や取り扱いを吟味しなければならない。加えて、消費者への情報を強化するため「市民清掃活動」のようなキャンペーンや特に若い世代の啓蒙は問題を可視化するのに非常に良い構想である。我々消費者に加えて、政治家は包装廃棄物から海洋を保護する指針を積極的に実施すべきである。環境に配慮する消費者の利益のために、包装業者がその製品を容易に分解される素材に転換することが望まれる。そして、すべてのことが一つになって、将来、汚染の少ない海洋について我々に希望を与えてくれる。
記事参照:Microplastics in Arctic sea ice should concern everybody

1月24日「北磁極がかつてない速度で移動―環北極メディア協力組織報道」(Artic Today, January 24, 2019)

 1月24日付の露国営通信社Rossiya Segodyna(ロシアの今日)特別プロジェクトウェブサイトARCTIC TODAYは、“The magnetic North Pole is moving fast enough to worry scientists”と題する論説を掲載し、磁北極のかつてないほどの速度の動きが、ナビゲーション・モデルのアップデートを余儀なくしているが、米政治情勢によりそれが延期されているとして、要旨以下のように報道している。
(1) 磁北極は驚くべき速度で動いており、研究者たちにナビゲーション・モデルのアップデートを強いている。ワシントンポスト紙によると、民主党がTrump米大統領による国境の壁への資金提供を拒否しているため、世界磁気モデルのアップデートを担当しているアメリカ海洋大気庁(NOAA)の従業員のほぼ半数は、政府の閉鎖により自宅待機している。
(2) 地球の極は、自転によって引き起こされる地核での溶融液体鉄の予測できない流れのために移動し、これが地球磁場を作り出す。しかし、ネイチャー誌に掲載された記事によると、このかつてない速度での移動は、1990年代半ばに始まり、現在は年間約55kmでシベリアに向かっている。
(3) NOAAと英国地質調査所の科学者たちは、5年ごとに世界磁気モデルを研究しアップデートしているが、この劇的な動きのため、このモデルは予定より早くアップデートする必要がある。現在の政府の閉鎖により、NOAAは1月15日から1月30日へのアップデートの延期を余儀なくされている。このモデルは、正確な民間および軍事ナビゲーションに必要である。
(4) 報告によると、この急激な変化は、2016年に南アメリカの真下で発生した地磁気パルスによるものである可能性がある。
記事参照:The magnetic North Pole is moving fast enough to worry scientists

1月25日「ナトゥナ島の新軍事基地の目的は中国抑止のためだけにあらず―インドネシア・戦略研究家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, January 25, 2019)

 1月25日付の米国のCenter for Strategic and International StudiesのウェブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、同研究所研究員であるEvan Laksmanaの“Why Indonesia’s New Natuna Base Is Not about Deterring China”と題する論説を寄稿し、2018年12月に稼働を始めた大ナトゥナ島の軍事基地について、その目的が必ずしも中国を抑止するためだけではないとして、要旨以下のとおり述べている。
(1) 2018年12月18日、インドネシア国軍(TNI)総司令官のHadi Tjahjantoは、大ナトゥナ島に新しく建設された基地の稼働を宣言した。Tjahjantoによれば同基地建設の目的は国境における脅威に対する抑止力の増強であり、アナリストやメディア報道は、その対象が中国であると論じている。しかしそれは主要目的ではない。この基地(Natuna Integrated TNI Unitと呼ばれている)の建設と稼働については、軍における三軍の統合および合同作戦能力の発展と、国内の組織的圧力の緩和という目的があったことを考慮しなければならない。
(2) インドネシア国防省は、2009年の戦略防衛見直し以降、ナトゥナの軍事施設の改良を計画してきた。その計画が完全に実現すれば、この基地は、軍が地域防衛司令部を廃止した1980年代以降、初めて三軍で構成される司令部となるであろう。陸海空軍の部隊の配備や施設、設備の建設はまだ完了していないが、TNIはナトゥナ基地が将来、インドネシアの「真珠湾」になることを思い描いている。
(3) TNIはさらに、ナトゥナとは別にサウムラキ、モロタイ、ビアク、メラウケなどに三軍統合部隊を設立する計画を立てている。これら5つの統合部隊は、TNIの新しい統合地域防衛司令部の屋台骨を形成するものとなるであろう。計画の完了にはさらに10年以上かかるであろうが、ナトゥナ基地は重要なテストケースとなるであろう。
(4) ナトゥナ基地はまた、現在推進されているインドネシア東部への部隊のリバランスにとっても重要な意味を持つ。1960年代以降、TNIの部隊の大部分はジャワ島およびインドネシア西部地域に集中的に配備されてきた。これはマラッカ海峡を含む戦略的に重要な地域をカバーするためである。しかし2000年代に入ると東部へのリバランスの計画が建てられ、2018年に入って、陸軍の戦略予備軍司令部の第三歩兵師団(南スラウェシ)や海軍の第三艦隊司令部と第三海兵隊司令部(ともに西パプア州)、そして空軍の第三作戦司令部(パプア州)が新設された。
(5) この東部へのリバランス方針に基づく部隊の新設は、軍内部の圧力によって推進されたものであった。この方針自体は2000年代半ばから構想されていたが、予算などの国内的要因によって実施が妨げられてきた。しかし最近になり、軍内部で、将校の数に対するポストの不足によって、昇進や異動をめぐる問題が起きていたのである。この問題が軍内部の士気やプロフェッショナリズムを低下させることが恐れられたので、新司令部の創設や統合部隊の運用などが、問題解決の方法として編み出されたのである。以上のように、統合作戦展開能力の発展と、それとも関連する人員管理の圧力の緩和が合わさった結果が、ナトゥナ基地稼働の主要な動機になったと考えるべきであろう。
(6) 中国の脅威や、インドネシア・中国関係の悪化が誇張されている点について指摘しておきたい。漁船の違法操業をめぐる海上でのインシデントについて、確かに中国との間で目立っているが、実際には東南アジア諸国とのほうが衝突は多い。2007年から2015年の間、インドネシアが拿捕した密漁船の数は、ベトナムが454隻、タイが116隻、マレーシアが91隻だったのに対し、中国は31隻にすぎなかった。
(7)ナトゥナ基地建設に関して最後に、シンガポールが管轄する飛行情報区(Flight Information Region:FIR)について述べておきたい。シンガポールは、国際民間航空機関(ICAO)が1946年に定めたところにより、それ以降ナトゥナ島やリアウ島周辺の空域のFIRを管理してきた。Joko Widodo政権は同空域のFIRを自国のものとすることを政策目標としており、それは議会にも承認されている。空軍も含むナトゥナ島の統合部隊の存在は、FIRをめぐるシンガポールとの議論において、今後何らかの役割を果たすことになるであろう。
記事参照:Why Indonesia’s New Natuna Base Is Not about Deterring China

1月27日「欧米は共同して海洋の自由を守るべき―米専門家論説」(The Hill.com, January 27, 2019)

 米海軍大学教授James R.Holmesは、1月27日付の米議会紙The Hillに、"Use it or lose it: Seagoing nations must defend embattled waterways"と題する論説を寄稿し、英国がアジアに回帰する中で米国と欧州諸国が手を携えて海洋の自由を守るべきだと指摘した上で、要旨以下のように述べている。
(1) 植民地の解放後、事実上、地中海と大西洋まで後退してから数十年の時を経て、英国は「スエズ以東」の海路に舞い戻っている。2018年9月に英海軍艦艇が南シナ海における「航行の自由」のための活動を行い、中国から強い非難を受けた。2019年1月に英海軍艦フリゲート艦Argyllは南シナ海で米海軍駆逐艦McCampbellと合流し、6日間の合同演習を行った。この同盟国結束の証が歓迎すべき流れだとすることは事態を過少評価するものである。あらゆる海洋国家は商業、軍事上の試みに際しての自由な海洋の使用に利害を有している。それら全ての国家は、係争中のアゾフ海や南シナ海を含む危機に瀕している海洋の自由の防衛に協力すべきである。
(2) 英国の回帰に関して注目に値することが3点ある。
a:それは旧交が新たにされることを示している。東南アジアにおける演習は、その最初の兆候では決してない。ロンドンは最近、ペルシャ湾における米海軍力の中心バーレーンに軍事基地を創設し、東南アジアにもう1つの基地を創設しようとしている。英国は長年の同盟国と新たな熱意をもって連携している。英海軍の新空母Queen Elizabethは2018年に、F-35戦闘機の飛行甲板発着を行った。米海兵隊のパイロットも同空母上で離発着訓練に参加した。これは航空母艦上での固定翼機運用を何年間も実施してこなかった英海軍にとって躍進である。ノーフォークで示されたいわば「相互運用性」は貴重である。それは平時における同盟国の互換性と能力を示し、中国やロシア及びならず者国家に打ち負かせない戦力と相対していることを知らしめるものである。相互運用性は、船員と航空要員が戦時中に作戦を遂行することにも備えている。こうした演習を欧州や米国、アジア諸国海軍が合同で行うほどに、その練度は増していく。
b:ロンドンの海洋アジアへの軸足移動(Pivot to maritime Asia)は、事情通に今日の政治的に芝居がかった状況に流されすぎないよう忠告するものである。政府同士(特に軍や情報機関)は、政治指導者が互いに争っていても円満に協力できる術を知っている。英米軍はプロフェッショナルかつ明確に非政治的な機関である。両軍は政策決定者の手段であり、また自らをそのように見なしている。そういうわけで彼らの任務は、政策決定者が軍事機構に委ねるだろう業務の執行を設計することである。両軍はワシントンとロンドンに選択肢を提供する。1つの常識ある選択肢は同盟国に加え、大西洋、地中海のみならず太平洋やインド洋を含むユーラシア周辺一帯のパートナーと協力することである。
C:英国やフランスのような中級国家は遠距離地域に展開可能な陸海軍を派遣し、彼らの政治指導者が共通の利害のために発言すれば、自らの能力以上のことができる。欧州のプレゼンスは大西洋外で非常に必要とされている。国際法は沿岸から12海里を超える海域を「共有」だと認めている。中国とロシアは彼らの大切な水域での自由な海のコンセプトに反対している。しかしながら、南シナ海と黒海における海洋の自由を守ることで、米国に中露と一対一のむき出しのパワーポリティックスの応酬をさせてはならない。互恵主義、すなわち啓発された利己心は、ロンドンとパリが極東でプレゼンスを再確立するよう促してもいる。モスクワが欧州周辺で悪さをするときにワシントンの支援を期待するのであれば、英仏は中国が自国周辺海域で勝手に振舞ったときにワシントンを支援する必要がある。欧州は自らの狭義な外交・防衛上の利益にも気を配ると同時に、リベラルな海洋システムが支持する原則を守ることができる。
(3) スエズ以東に乗り出すことは、すなわち西ヨーロッパを守ることにも資する。原則と利害が収斂すればするほど、欧州諸国のアジア回帰が永続的なものであると示すだろう。
記事参照:Use it or lose it: Seagoing nations must defend embattled waterways

1月28日「『タイ運河』構想(タイ)、中国の思惑とタイの慎重な姿勢―米軍関係研究誌論説」(Indo-Pacific Defense Forum.com, January 28, 2019)

 1月28日付のIndo Pacific Defense Forum誌電子版は、同誌編集スタッフによる “Canal Conundrum”と題する記事を掲載し、タイの「タイ運河」構想に対する中国の思惑とタイの慎重な姿勢について、要旨以下のように述べている。
(1) 「タイ運河」(タイ政府は公式に「クラ運河」を「タイ運河」と改称)構想は、(マレー半島で最も狭い)長さ100キロ超のクラ地峡に運河を開削してアンダマン海と南シナ海を繋ぎ、マラッカ海峡とシンガポール経由の航路に代わる新たな航路とするものである。この運河構想は17世紀にまで遡るが、現在では中国の「一帯一路構想」(BRI)の一環として注目を集めている。運河構想推進者によれは、建設期間は5年から10年とされ、建設費は300億ドル以上と推定されているが、中国はその費用を負担し、最終的には運河の支配を目指すであろうと憶測されている。中国とタイ当局者はこのような運河プロジェクトが真剣に検討されているわけではないと否定しているが、インド太平洋地域では、運河が中国に戦略的、軍事的利点を与えるとして懸念されている。軍事アナリストは、運河は中国海軍のアンダマン海とインド洋東部への戦力展開能力を強化すると指摘している。
(2) ウェブサイト内のSeatrade Maritime Newsによれば、世界の海運の約33%、年間約8万4,000隻の船舶がマラッカ海峡を通航し、中東とアフリカからの中国の石油輸入の約80%もマラッカ海峡を経由する。幅450メートル、水深25メートルの「タイ運河」が開削されれば、新たなインド洋と太平洋間の航路は1,200キロ短縮され、世界最大の石油タンカーも航行可能となる。世界銀行は、マラッカ海峡の通航船舶は2020年までに年間12万2,000隻となり、マラッカ海峡の年間最大通航可能船舶数を超える、と予測している。「タイ運河」は、マラッカ海峡経由航路に代わる選択肢を中国にもたらし、かつて胡錦濤元中国国家主席が「マラッカ・ジレンマ」と呼んだものを解消することになろう。
(3) タイ政府は、運河プロジェクトを支援する如何なる計画も持っていないと繰り返し主張してきた。しかしながら、ウェブ誌The Diplomatによれば2015年5月、中国広州に本拠地を置くThe China-Thailand Kra Infrastructure Investment and Development社と、タイのYongchaiyudh元首相が率いるAsia Union Groupが、運河プロジェクトを推進する「覚書」に調印した。既に、提案ルートのフィージビリティー・スタディが2016年に完了しているという。The Nikkei Asian Review電子版2017年8月の報道によれば、タイ軍の退役将官によって組織され、Thesprateep元タイ陸軍参謀総長が議長を務める、The Thai Canal Association for Study and Developmentが、タイ国内におけるプロジェクト推進の主導役となっている。この団体は2018年3月末に、運河プロジェクトを調査する国家委員会の設置を求めた。北京との関係が深い、The Thai-Chinese Cultural and Economic Associationはバンコクで一連の会議を開催し、そして2017年9月と2018年2月には、The European Association for Business and Commerceも運河プロジェクトへの関心を高めた。しかしながら、タイ国内には、例え運河の開削が技術的に可能であっても、中国がプロジェクトをコントロールすることによるタイ主権侵害への懸念は根強い。
(4) 中国は世界中で数多くの建設プロジェクトを手がけているが、その多くが当該現地国家にとって望ましくない結果となっている。その良い例が、パナマ運河に対抗して、費用400億ドルで計画された「ニカラグア運河」である。ニカラグアは2013年に中国人企業家に運河建設の専権を与えたが、何も具体化していない。多くのインフラ建設プロジェクトへの中国の略奪的な投資に対して、多くの国は益々用心深くなっている。こうしたプロジェクトに対する中国から借款を受け入れた多くの国では、中国によって当該国の自然資源や主権の一部が支配される結果となっている。例えばジブチでは、中国は何十億ドルも貸与し、借款を梃子に同国から軍事基地のための土地をリースした。同様に、スリランカのハンバントタ港に対する中国の建設支援は、「パートナー」国にとって分の悪いものとなった。スリランカは2017年12月、同港の管理権を中国に付与せざるを得なかった。2018年3月6日に当時のTillerson米国務長官は、北京は「不透明な契約、略奪的な借款供与、そして供与国を負債で苦しめ、その国の主権を侵害し、長期的かつ持続可能な成長を阻む、不正な取引を利用することで、中国への依存を慫慂している」と指摘している。香港のジャーナリスト、Spencer Sheehan は、中国は海外プロジェクトの展開に当たっては、その経済的価値よりもむしろ地政学的価値を重視している、と指摘している。彼はまた、不用意に選択され、実施されるプロジェクトは債務国が中国による借款返済を滞納して、その結果、中国に当該資産の管理を譲与する可能性を高める、とも述べている。
(5) 中国の海外インフラ建設プロジェクトから得られるあらゆる経済的利益は、ほとんど参加する中国企業によって享受される。タイの運河プロジェクトに関しては、何社かの中国企業が、タイ政府に運河を建設するよう工作している。主導的な建設提唱企業は南シナ海で人工島を造成したLonghao社で、同社は、運河建築工事に3万人の中国人労働者をタイに連れて来ることを見込んでいる。世界で展開する中国のプロジェクトでは、北京の地政学野心が環境問題に優先する。タイの運河プロジェクトは、タイの観光産業や漁業にダメージを与える可能性がある。バンコクのKasetsart 大学海洋問題専門家Thon Thamrongnawasawatは、「提案された運河ルートは、タイ観光産業の総収入の約40%を占めるアンダマン海の観光地帯を通る」と述べている。また、軍事専門家は、その位置から運河の建設によって国が二分され、タイ南部で緊張が激化することを懸念している。運河は、仏教徒地域とタイ南部で主にイスラム教徒の多い州との間を地理的に分断する可能性があるからである。
(6) インド太平洋地域の安定を確保するために、タイは、この運河プロジェクトの長所と短所を熟慮しなければならない。更に、一部のアナリストが批判するように、運河の経済的利点は運河建設提唱者によって過大に喧伝されてきた。より広範囲の安全保障の観点から、運河の波及効果を徹底的に調査すべき、と域内の軍事専門家は警告している。更に、一部の著名な経済アナリストが指摘するように、純粋に経済的観点からすれば、運河プロジェクトは域内の海運とその収益を再分配するだけで、全体的な経済的価値を高めることにはならないかもしれない。これら経済アナリストは、タイのクラ地峡を横断する鉄道など、より費用対効果が高い別の選択肢も徹底的に評価されるべきである、と提言している。
(7) 運河の建設はまた、インドネシア、シンガポール及びマレーシアを含むASEANの他の加盟国とタイとの関係を悪化させるかもしれない。これら諸国は、海運でタイに後れをとることになるからである。ある見積もりによれば、運河建設に10年を要するかもしれないが、例えば、シンガポールの海運は最終的に30%~50%の損失を被る可能性がある。米シンクタンク、Stratforの2017年11月の分析は、「クラ(タイ)運河によってビジネスを奪われる可能性は、マラッカ海峡沿岸国―マレーシア、インドネシア及びシンガポールにとって厄介な事態である。これら諸国とバンコクとの関係は、運河建設プロジェクトを完遂するかどうかの決定を大きく左右するであろう」と指摘している。中国が運河を建設して、それを管理することになるが故に、運河建設によって最も利益を得るのは中国である、というのは大方のアナリストの一致した見方である。中国が運河建設プロジェクトを具体化させ得る唯一の投資家ではあるが、前出のStratforの分析によれば、「中国は、域内の他の諸国との関係悪化を避けるために、新水路に対する関心をあからさまにしないようにしてきた。」 
記事参照:Canal Conundrum

1月28日「艦船隻数のゲーム:中国の三本柱の海上戦力に関する理解と対応―米専門家論説」(Indo-Pacific Defense Forum.com, January 28, 2019)

 1月28日付の安全保障ウェブサイトIndo-Pacific Defense Forumは、米海軍大学戦略学教授の Andrew S. Erickson博士の“Maritime Numbers Game: Understanding and Responding to China’s Three Sea Forces”と題する論説を寄稿し、中国の海上戦力は人民解放軍海軍のみならず海警、海上民兵と併せた三本柱で構成されており、それぞれの動静に十分留意する必要があるとして要旨以下のように述べている。
 (1)  世界最大の造船業界を擁し、世界第2位の経済力および軍事支出を誇る中国は、習近平の野心的なリーダーシップの下、大きなシーパワーとなりつつある。中国軍は3つの主要な組織から構成されており、それぞれが海上サブコンポーネントを擁している。人民解放軍(PLA)の海軍(PLAN)、人民武装警察部隊の海警(CCG)、人民解放軍民兵の海上民兵(People’s Armed Forces Maritime Militia: PAFMM)である。北京は戦争に発展させないような形での現状変更を期する、いわゆる海上グレーゾーン作戦にこれら第2、第3の海上戦力を投入し、近海(黄海、東シナ海、南シナ海)における権益の主張を強めている。 
(2) PLANは既に世界の海軍中で最も多くの艦船を保有している。米国防総省の年次報告書「中国の軍事力2017」によれば、「PLANはアジア最大の海軍であり、300隻以上の水上艦、潜水艦、両用戦艦艇及び哨戒艦艇を保有」しているとされている。中国の第2海上戦力である海警もまた世界最大規模であり、近隣諸国よりもはるかに多い 1,275隻もの船艇を擁している。この内、225隻が500トン以上の外洋行動が可能な大型船であり、残りの1050隻は沿岸域のみで活動する小型船であるが、2020年にはこれらの総計が1300隻を超えると予想されている。また、中国海警自身ないし日米沿岸警備隊の海外運用経験などを反映した質的な改善も図られており、新造巡視船にはヘリコプターや高速搭載艇、機関砲や放水銃などが装備されている。特に、全長165メートル、全幅20メートル以上、排水量10,000トン以上を誇る2隻のZhaotou級(NATOコードネーム)巡視船は世界最大級であり、他国の近代的駆逐艦を凌駕している。そして、第3の海上戦力であるPAFMMは国家の軍事的な指揮系統に属する公式の組織であり、習近平国家主席の指揮下にある。このパートタイムのエリート部隊は、漁民などの海洋産業従事者を直接的に軍事組織に組み込んでいる。彼らはPAFMMに所属しつつ日々の業務に従事しており、中国海軍による訓練を受けながら、必要な場合に活動する。なお、中国は2015年以来、西沙諸島の三沙市でフルタイムの民兵部隊を養成して来たが、彼らは実際に漁業に従事することはなく、日頃から小火器取り扱いなどを含む訓練に従事しているとされている。
(3) 中国の第二、第三の海上戦力は、「沿岸防御」から「近海防御」へ、そして「遠海防御」へと運用を進化させつつあり、アジア地域においてはPAFMMとCCGの任務と役割が中国の海洋プレゼンスの拡大を補完している。2018年2月、当時の米太平洋軍司令官であったHarry B. Harris海軍大将は米下院軍事委員会で「中国の海空軍、沿岸警備隊そして海上民兵が南シナ海全域で強固な存在感を発揮しており、彼らは日常のパトロールや演習を通じて外国軍隊の領域からの退去あるいは許可を得ることを求めるなど、その権限を過重に主張している。」と証言している。中国は近海防御において近隣諸国船舶に対するグレーゾーン作戦にCCGとPAFMMを投入、これらの兵力を用いて南シナ海および東シナ海における海洋権益の主張を進めてきた。これは、平和と繁栄に影響する国際規則、規範を含む地域の現状維持という米国の重要な国益を損ねているのである。
(4)  CCGは日本の尖閣諸島の管轄権にも常続的に挑戦している。また、PLANはフィリピンが領有権を主張するSandy Cay(鉄線礁)を包囲しており、その周辺海域では2017年8月以来、少なくとも2隻のPAFMM船の存在が確認されている。この他にも2009年の米海軍音響測定艦Impeccable へのハラスメント事案、2012年のフィリピン・スカボロー礁の占拠、2014年の石油掘削装置「海洋石油981」に関連してのベトナム海上法執行機関との問題などに際しても、PAFMMが活動したと言われている。更に過去20年間に遡れば、1995年のフィリピン・ミスチーフ礁の事件以来、PAFMMの関与が伺われる事案は枚挙に暇がない。
(5) 米国の「国家安全保障戦略2017」が強調するように、中国はアメリカとの継続的な競争に取り組んでいるが、それは完全な平和でも完全な戦争でもない状態と見なすべきである。
米国の国益を守り「自由で開かれたインド太平洋」を維持するためにも、米海軍は規模的に拡大し、堅固な存在感を維持し、国内外の同盟国、パートナー諸国とともに十分な決意をもってこのような攻撃を阻止しなければならない。 重要な海域におけるプレゼンスの維持には艦船隻数は非常に重要である。どんなに最先端の船舶であっても同時に複数の場所に展開することは出来ないからである。ワシントンが遠隔地でのゲームを展開している米中の戦略的な競争の激化はその好例であろう。米沿岸警備隊の巡視船は本土周辺海域に集中しているが、米海軍は世界規模で展開している。一方、中国の三大海上兵力はいずれも中国本土の陸上ないしは空中発射ミサイルの射程圏内、あるいは補給線にも近い係争海域およびその近接経路上に最優先で配備されているのである。したがって米国と同盟国、パートナー諸国は、中国の侵略的なグレーゾーン作戦に対抗する努力を強化しなければならない。
(6) Harris前司令官が強調するような中国海上法執行機関などの複雑な活動に効果的に対抗するには、中国の三大海上兵力についてより多くの情報を共有の上、同盟国およびパートナー諸国と海域に対する警戒監視を実施し、取得した情報の共有などのアプローチを追求する必要がある。特にこうした能力が十分でないパートナー諸国をハードウェアの提供や訓練で支援する能力構築支援は有益であろう。米国はこうしたアプローチによって中国の弱点や制約をより効果的に突き、中国によるネガティブな活動を制約することも出来るだろう。戦略レベルで言えば、米国は中国のこれらの活動の性質を明らかにし、違法行為には結果を課すという以下のような断固たる決意を示すことによって、グレーゾーン作戦に従事する中国海上兵力の行動を抑制することができる。  
・第一に、米国は中国の行動を変更させる明確な注意喚起をすべきである。
・第二に、米国は中国の容認できない行動が招く結果を伝えるべきである。
・第三に、米国は戦略的コミュニケーションを活用すべきである。
・第四に、米国は中国の海上兵力を総体として取り扱い、PAFMMを含む3つ全ての機関の国際海上衝突予防規則その他の国際規範の遵守を期待することを明確に述べるべきである。
(7) また米国は、必要に応じ中国の非対称的優位を打破するため、中国のPAFMMの使用を抑止ないしは処罰する必要がある。  
・第一に、米国は一定の摩擦を受け入れた上、北京に対し米国にとっても好ましい結果である緊張緩和と、中国が避けたいと願っている米国のレッドラインを犯すことのいずれを選択するのかを迫る必要がある。  
・第二に、ワシントンは東アジアの海上の平和を維持し、これをいずれの国に対しても開放的なものにしておくために、同盟国、パートナー諸国を支援しなければならない。  
・第三に、ワシントンは上記に必要な関与のための施策と北京へのシグナルを考慮すべきである(米国は自国船舶の安全や、作戦、任務達成を阻害し、それを危うくするいかなる試みも容認すべきではない)。
・第四に、ワシントンは上記を推進するため、中国の利益に対して十分に高いコストを課する罰則を、広範で信頼できる結果として開発しなければならない。
記事参照:Maritime Numbers Game: Understanding and Responding to China’s Three Sea Forces

1月30日「サハ共和国の新ロシア海軍基地、ほぼ完成―ノルウェージャーナリスト報道」(ARCTIC TODAY, January 30, 2019)

 1月30日付の米月刊誌The Arctic電子版ARCTIC TODAYは、ノルウェーの独立系オンライン紙The Independent Barents ObserverのAtle Staalesenの“A new Russian Arctic naval base in the Sakha Republic is almost finished”と題する記事を掲載し、ロシア連邦を構成するサハ共和国ティクシに建設中のロシア海軍基地がまもなく完成するとして、要旨以下のように報じている。
(1) 北方艦隊司令官Nikolay Yevmenovによれば、遠く離れたサハ共和国ティクシの新たな海軍基地はまもなく完成する。Yevmenov司令官は、昨年9月はじめに地域の当局者と基地建設について面談した。それから半年足らずで、海軍基地は運用の準備がほとんど整った。北方艦隊によれば、基地の建物はモジュール化されており、95パーセントが準備できている。建物の複合体には11の施設があり、居住区、管理棟、ディーゼル発電施設、真水と燃料の貯蔵施設等々が含まれる。すべての建物は相互に連接されており、施設間の移動を容易にしている。
(2) 基地は、ティクスの町近くレプテフ海沿岸にある。新しいティクシ守備隊は北方艦隊第45航空・防空軍の一部となり、対空部隊を含むことになるだろう。100名の兵員が配備されることになろうとサハ共和国政府は報じている。「これらは無線技術の部隊と対空部隊であり、盾として北極の航空宇宙を完全にカバーすることができる」とYevmenov司令官は言う。彼はまた、ティクスの新守備隊は地域全体に対する大計画の一部をなすと明らかにした。
記事参照:A new Russian Arctic naval base in the Sakha Republic is almost finished

1月30日「中国が狙うフィリピンの港湾とそれに対する反発―比専門家論評」(Asia Times.com, January 30, 2019)

 1月30日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、フィリピンのデ・ラサール大学助教Richard Heydarianの“China eyes a strategic port in the Philippines”と題する論説を掲載し、中国がスービック湾の造船施設の支配権を狙っているが、フィリピン政府関係者の反発があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国企業は米軍基地の跡地、そして南シナ海の潜在的に重要な前哨基地である、スービック湾にある戦略的な造船所の支配権を獲得しようとしている。韓国の造船大手韓進重工業の現地子会社は最近、地方銀行から借りた4億米ドル以上を不履行にした。これはフィリピン史上最大の企業デフォルトを意味している。フィリピン政府関係者によると、明かされていない中国企業2社が、世界で5番目に大きいと伝えられている300ヘクタールの造船所を買収することに関心を示している。アナリストたちは、中国遠洋海運集団有限公司(China Ocean Shipping Company:COSCO)と招商局集団有限公司(China Merchants Group)が最近積極的に外国港湾の運営を入札していることを指摘している。マニラから北に約50マイル離れた場所に位置するこの港は、戦略的で争いのある南シナ海に開いている。
(2) 中国企業はまた、以前は米国最大の海外空軍基地の1つだったが、最近では商業物流拠点に転換した、すぐ近くのクラーク経済特別区への投資も進めている。2013年に開始された中国の一帯一路構想の下で、中国企業は34カ国42の港の建設と運営において重要な役割を果たしてきた。昨年11月、中国の習近平国家主席がマニラを訪問した際、フィリピンのRodrigo Duterte大統領は、彼の政府が一帯一路への参加を強化するための一連の合意に署名した。スービックの取引が、結局スリランカスタイルの買収(地方自治体が施設を開発するための中国のローンを不履行にした後に、中国企業がハンバントタ港の99年間のリースを確保)につながる可能性があるという主権的な懸念がすでにある。
(3) スービック湾は、冷戦時代の米国最大の海外海軍基地の敷地であり、フィリピンと米国の防衛協定の下でその軍艦の修理と燃料補給基地として機能し続けている。「防衛協力強化協定」(Enhanced Defense Cooperation Agreement:EDCA)の下での2つの同盟国は、2010年初めにスービックの軍事施設への米国のローテーションでのアクセスを拡大すると考えていた。しかし、2016年半ばに政権を握ったDuterteは、中国との関係強化を支持し、米国との海軍協力を格下げする方向に向かった。彼の政権は、南シナ海で米国との共同パトロールの計画を中止し、そして、一時的にこの区域での共同の軍事演習を中止した。Duterte政権はまた、中国が侵略行為であると考えている南シナ海での「航行の自由」作戦を実行する米軍艦が、補給し修理するための港へのアクセスを拒否した。
(4) Duterteの下で、北京はフィリピンの軍隊に先進的な武器を提供したが、これは2017年に5億米ドルの国防調達ローンによって強調されている。一方中国の軍艦は、注目を浴びたDuterteの故郷のダバオでの短期滞在を含む、前例のないフィリピンでの寄港を行った。双方は、昨年10月に中国の広東省南部の湛江付近で最初の合同海上演習を実施し、より定期的な合同演習とフィリピンの基地への中国による巡回アクセスのために道を開く防衛協定について現在交渉中である。中国企業はまた、南シナ海で争われているスプラトリー諸島に近い、パラワンのバウティスタ空軍基地を含む、戦略的に位置している基地や港に近い観光施設の購入または建設を目指している。
(5) 米国は、EDCAに基づくバウティスタ空軍基地で、装備の配置、武器の移動およびインフラ全体の発展を検討していた。それはワシントンが、南シナ海の偶発事象をより効果的に監視し対応することを可能にする一方で、フィリピンにさらなる中国の侵略に対する潜在的な抑止力を提供するであろう。しかし、Duterteは、戦略的に位置する基地への米国によるいかなる武器の配置も許可しておらず、そのような配置はフィリピンの主権を侵害し、不必要に中国を挑発すると主張している。過去1カ月にわたり、マニラはまた、1951年の米国との相互防衛条約の見直しに移り、その有用性と相互利益に疑問を投げかけた。フィリピン国防長官のDelfin Lorenzanaは、条約を破棄することが検討中の1つの選択肢であるとさえ示唆した。その戦略的状況を背景に、一部の人々は、中国が米国の軍艦をよりよく監視するため、そして、おそらく長期的に見れば、彼らが過去1世紀にわたって定期的に訪れてきた港へのアクセスを拒否すらするために、スービックを引き継ぐための口実として韓進の破産を利用するつもりであると信じている。
(6) 著名な国会議員たちが、潜在的な取引の主権と安全保障への影響をめぐって憤慨している。現在再選のための世論調査をリードしている元大統領候補Grace Poe上院議員は、国防と公共サービスに関する上院議会の委員会に、施設が「重要な戦略的国家資産」であるという理由で買収の可能性について調査を行うよう求めた。上院は、11月に中国の習近平国家主席がマニラを訪問した際に署名された、内務自治省(DILG)のSafe Philippinesプロジェクトへの資金提供をすでに阻止している。この4億ドルのプロジェクトには、DILGがマニラ首都圏やダバオを含む主要都市に、国有の中国通信建設集団有限公司(CITCC)が提供する技術および技術的アドバイスによって、自治内務省の1万2千機の監視カメラを設置することが含まれる。上院議長代行Ralph Rectoは「伝えられるところによると、中国の企業や個人も近年のスパイ活動やハッキング活動に関与しているとされている」ことを考慮し、「国家の安全保障または公益に対する潜在的なリスク」をもたらすことを理由にこのプロジェクトに公然と反対した。立法の激しい騒ぎの中で、国防大臣のLorenzanaは、政府が債務のある港湾施設を買収することを提案した。確固たる主体性で知られており、しばしば中国を疑わしく思っている国防長官は、Duterteがその考えを「受け入れている」と述べている。「フィリピン海軍は、なぜ我々がそこに海軍基地を持つことができるようにフィリピンが買収しないのか? と示唆した」と、1月中旬に行われたフィリピン外国特派員協会のイベントでLorenzanaは語った。
(7) 比政府が買収に必要な資金を集めることができるかどうかは疑問である。だが明らかなのは、中国のスービック港湾施設の支配権獲得の動きは、契約の経済的かつ財政的なメリットにかかわらず、国家主義的反対で迎えられるということだ。
記事参照:China eyes a strategic port in the Philippines

1月30日「紛争海域におけるシンガポールとマレーシアの関係-豪研究員論説」(EASTASIAFORUM, 30 January 2019)

 1月30日付のオーストラリア国立大学Crawford School of Public Policyのデジタル出版物であるEASTASIAFORUMは、同大学国家安全保障学部博士課程学生兼同校研究員であるAbdul Rahman Yaacobの“Singapore–Malaysia relations in troubled waters”と題する論考を掲載し、要旨以下のとおり述べている。
(1)  マレーシアの首相に返り咲いたMahathir Mohamad は前任者の失政の回復に取り組んでいる。ただ、シンガポールとの関係は深刻であり、エスカレートする領海紛争はマラッカ海峡の安全を脅かすものである。古くからの遺恨が再び表面化し、マレーシアのAbdullah Badawi とNajib Razak 政権が推し進めた経済・防衛に関わるシンガポールとの関係は今や破綻しつつある。
両国間の現在の領海紛争は、2018年10月にマレーシアが一方的にジョホールバル港の国境境界を延ばし、それが、シンガポールが主張する領海線に入り込んだことに起因する。宣言後マレーシアは延長海域に3隻の海洋法執行機関の船舶をパトロールさせた。Mahathir が返り咲いて以降、紛争はマレーシアからシンガポールへの真水供給の価格契約やシンガポールまでの高速鉄道計画の延期に関わるものも含め、拡大しつつある。対立は、シンガポールが統制しているマレーシア南部ジョホール州上空の航空管制を巡るものにまで広がっており、シンガポールが空港に備える着陸システムの器材設置が国境に近すぎるとして、マレーシア軍の反対にあっている。
(2)  海洋紛争におけるシンガポールの対応は2面性がある。外交の面では交渉により収束を図ろうとしてきた。シンガポールは現在の問題はMahathir個人によるところが大きいと見ており、若年層や多民族議会では妥協を重んじていると信じてきた。
 軍事の面は異なる。シンガポールの国防大臣は領土紛争地域に入港しているマレーシア海軍艦艇の退去を命じる一方、1週間に及ぶ軍事演習を実施する旨を通告している。これに対してマレーシアは交渉に応じようとはしているが、問題の艦艇が立ち退く気配はない。
(3)  対立は相互の自制の中で繰り返されているが、誤解による軍事衝突の危惧はある。軍事衝突はインド洋と太平洋を結ぶマラッカ・シンガポール海峡の通航を危険に晒す。そのような事態になれば中国や日本が軍事的に干渉してくる事態も否定できない。
 現在の2国間の関係は、過去に築かれた多国間関係の理念にも影響を及ぼすものになっている。両国にとって重要なことは、伝統的な同盟国家間における共同防衛関係の維持である。経済面でも、マレーシアとシンガポールは互いを最大の投資相手国としており、貿易高では共に互いを3位以内の貿易相手国としている。破滅的な関係は相互の地政学的利益のみならず、ASEANが標榜する自由貿易主義によるアメリカの経済保護主義への対応を損ねる結果となる。しかし、Mahathirのシンガポールへの強硬な姿勢やシンガポールの妥協を拒む対応は未だ止みそうになく、紛争の終結は簡単ではない。マレーシアの現リーダーが舵取りを続ける限り、両国の関係は波荒い海原へと向うだろう。
記事参照:Singapore–Malaysia relations in troubled waters

1月30日「中国海警局における変化が意味するもの―台湾専門家論説」(The Diplomat.com, January 30, 2019)

 1月30日付のデジタル誌The Diplomatには、台湾の国立中正大学戦略与国際事務研究所で助教授を務める林穎佑の“Changes in China’s Coast Guard”と題する記事を掲載し、中国海警局をめぐる機構改革と人事が含意するところについて、要旨以下のとおり述べている。
(1) 今年に入り、中国海警局(China’s Coastal Guard:CCG)は尖閣諸島周辺での活動を活発化させている。2019年に入って、1月5日、12日、18日と、3度も哨戒艇による哨戒活動を実施した。こうした傾向は、2018年に実施されたCCGをめぐる組織再編、そして新司令員に王仲才が就任したことと関係がある。
(2) 2013年まで、中国の沿岸警備業務を行っていたのは、公安部指揮下の中国公安辺防海警部隊(China’s Coastal Guard)であった。2013年に行われた機構改革の結果、沿岸警備を含めた諸々の海洋関連業務が国家海洋局(State Oceanic Administration)に統合され、中国海警局(Maritime Police Bureau)が発足した。2018年に再び行われた組織改革によって、中国海警局は人民武装警察部隊(People’s Armed Police:PAP)に編入され、人民武装警察部隊海警総隊として再編された。なおこの部隊は対外的には中国海警局(China’s Coastal Guard)と呼称している。PAPは中央軍事委員会(Central Military Commission:CMC)指導下の軍事組織のひとつ(CMCはさらに、中国人民解放軍(People’s Liberation Army:PLAと中国民兵を指導する)であり、CCGがその指揮下に入ったことは大きな意味がある。実際にCCGは、中国人民解放軍海軍や海上民兵部隊との間で連携をとっている。
(3) 海上民兵は中国が海洋の権利を守るために利用しうる重要な軍事力である。武装した漁船団である海上民兵は、1974年の西沙諸島の戦い(中国とベトナムの軍事衝突)においても利用されたし、最近では係争海域に派遣されている。もし何か事件が起きたとき、中国は、その民兵が非戦闘員であると主張することで議論において優位に立てると踏んでいる。
(4) 伝統的に民兵部隊は地方(省)軍区の指導下にあったが、軍区が腐敗の温床となったことなどもあり、2016年から機構改革が実施され(いわゆる七大軍区が5つの「戦区」へと再編された)、民兵部隊はCMCの国防動員部の指導下に置かれることになった。また、王濱海軍少将は福建省軍区司令員に、王守信海軍少将は広東省軍区の政治委員に任命された。両省は東シナ海および南シナ海に面しており、この人事は、同海域において積極的なプレゼンスを維持するために、海上民兵を効率よく利用しようという中央の意図が反映されたものだと考えられる。
(5) ここ最近、軍・警察部隊・民間(海上民兵を含む)による合同の訓練ないし活動が行われている。たとえば2018年5月には、その3つの艦船からなる協同部隊が、はじめて西沙諸島周辺海域の哨戒活動を行ったという。8月には海軍がCCGとの合同訓練を行ったという。海軍との横のつながりは、CCGの戦力強化にもつながる。CCGが運用する艦船のかなりの数が、海軍のいわばお下がりで(それ自体は、CCGが人民武装警察指揮下に入る以前から例があった)、近年の海軍の建艦ペースの加速によって、CCGの艦船も充実していくであろう。
(6) CCGをめぐる人事も重要である。2018年の終わりにかけて、PLAやPAPにおいて多くの人事異動があった。どのような役職に、どのような背景や専門性を持つ人が就任したのか、そうしたことから読み取れることがあろう。その意味で、2018年12月に人民武装警察指揮下のCCGの初代司令官に、王仲才(海軍少将)が就任したことは重要な意味を持った。彼は海軍出身者といっても、海軍航空部での任務や、外交関係者との交流など、多様な経験を持つ将来の指導者として嘱望された人物である。
(7) 王仲才がCCG司令員に選ばれたのは、彼の東海艦隊における経験が重要視されたものと思われる。彼は2000年以降東海艦隊に所属し、2013年には厦門水上警備区(Water Guard District)の司令員に就任し、さらに2016年には東海艦隊の参謀副長に任命されたのである。東海艦隊の責任範囲には台湾海峡や東シナ海、尖閣諸島が含まれている。王仲才がCCGのトップに立ったことは、海洋の権利などをめぐる問題に軍が積極的に関わろうとしていること、さらに上記の係争海域におけるプレゼンス強化を、中国が目指していることを示唆しているのである。
記事参照:Changes in China’s Coast Guard

1月31日「国防省、先進的潜水艦6隻の取得計画を公表-印ジャーナリスト報道」(Business Standard, January 31 2019)

 1月31日付の印ビジネス紙Business Standard電子版は、印ジャーナリストであり、元印陸軍大佐Ajai Shuklaの“Defence Ministry clears Rs 40,000-cr project for 6 advanced submarines”と題する記事を掲載し、国防省が先進的な通常型潜水艦6隻の導入計画を明らかにしたとして、要旨以下のように報じている。
(1) 国防省は、4千億ルピー(約6千億円)超の先進的な通常型潜水艦6隻の取得を明らかにした。6隻の潜水艦は、非大気依存型推進装置(以下、AIPと言う)を装備するだろう。それによって潜水艦は14日以上潜航を持続でき、探知されにくくなる。
(2) 「これは国防省の野心的な戦略的パートナーシップモデルにおける2番目の計画である。戦略的パートナーシップモデルは、国内の生産設備を設立するために外国の相手先商標製造会社(以下、OMEと言う)と提携するインドの戦略的パートナーによる主要防衛装備の国内生産を想定したものである」と国防省は言う。2017年、海軍は情報提供依頼書をプロジェクト75-Iに関心を示す世界の多くのOEMに送付した。海軍トップのSunil Lanba大将は2017年12月に4社が名乗りを上げたと述べていた。ドイツのThyssenKrupp Marine Systems、スウェーデンのKockums、フランスのNaval GroupそしてロシアのRosoboronexportである。これは二重の過程の扉を開くものである。インドの戦略的パートナー企業候補を絞り込むと同時に、世界的なOMEの入札を実施する。一旦それが行われれば、パートナー企業は選択したOMEと契約する。
(3) 選択と契約過程、そして6隻の潜水艦の実際の建造にはさらに10年かかるだろう。それまでは、海軍は激減する通常型潜水艦部隊で間に合わせるだろう。通常型潜水艦部隊は9隻のKilo級潜水艦、Type209潜水艦4隻と6隻のScrpene級潜水艦から成っている。加えて、印海軍はロシアからリースしたAkula級原子力潜水艦1隻を運用しており、国産攻撃型原子力潜水艦6隻の建造計画を有している。また、Arihant級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を4隻から6隻増やすことになるだろう。これらはインドの核抑止の一翼となるだろうが、海軍の通常戦闘においては何の役割も果たさない。
記事参照:Defence Ministry clears Rs 40,000-cr project for 6 advanced submarines

1月31日「米比同盟『格下げ』の可能性―比専門家論評」(South China Morning Post, January 31, 2018)

 1月31日付のSouth Chine Morning Post電子版はフィリピンのデ・ラサール大学助教Richard Heydarianの“How Washington’s ambiguity in South China Sea puts the Philippine-US alliance at a crossroads”と題する論説を寄稿し、米国の南シナ海へのコミットメントが不明確なままであれば、フィリピンは長年にわたる米国との関係を「格下げ」する可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 乱暴な物言いのフィリピンのRodrigo Duterte大統領は、「私は米国からの別離を発表した」と初めて訪問した国家である中国で宣言した。2年後、フィリピンは米国との数十年続く同盟関係の正式な見直しを正式に求めるという。以前、長年にわたるワシントンの駐在武官だったフィリピンの国防大臣Delfin Lorenzanaは、マニラが1951年の米比相互防衛条約の破棄を除外していないことを明らかにした。この見直しは、近年の意見の不一致やコミットメントの問題に悩まされてきた同盟関係を安定させるための出発点として役立つが、最終的には両刃の剣である。
(2) そして、二国間同盟の基盤となってきたフィリピンの国防エスタブリッシュメントでさえ、米国の戦略的な両面性に対する不満の高まりを示しているようだ。フィリピンの国防大臣は、特に南シナ海の紛争を踏まえて、フィリピンへのコミットメントの正確な座標に関して、ワシントンの「曖昧な」立場を公然と嘆いた。
a. 同盟に関する最初の問題は、まさに条約の本文である。相互防衛条約の第5条によると、「いずれか一方の締約国に対する武力攻撃は、いずれか一方の締約国の本国領域又は太平洋地域にある同国の管轄下にある島又は太平洋地域における同国の軍隊、公船若しくは航空機に対する武力攻撃を含むもの」とみなされる。ワシントンは、何がフィリピンの「本国」で、何がその「管轄下にある島」の一部であると正確に考えているかを曖昧な表現にしている。米国は、フィリピンが他のいくつかの主権主張国と対立している南シナ海に、その条約のコミットメントが適用されるかどうかを明確にすることを繰り返し拒否してきた。
b. さらに、フィリピンとあらゆる敵対的な第三者との間に紛争が発生した場合に、条約が適切な軍事援助を提供するかどうかについても疑問がある。条約の第4条によると、各締約国は、「自国の憲法上の手続に従つてその(管轄の区域における)共通の危険に対処するように行動」する。運用上、これは米国の議会、ひいては米国の世論が、軍事不測事態の間にフィリピンの同盟国の代表として緊急に介入するための米国政府の取り組みを遅らせ、否定する可能性があることを意味する。
c. もう1つの大きな問題は、米国による相互防衛条約の狭い解釈にある。1970年代のNixon政権を発端に、ワシントンはそのコミットメントを「第三国に配備された(フィリピン)軍への攻撃」に限定してきたが、「配備がフィリピンの領土を拡大することを目的としている場合」の状況にはない。米国は、フィリピンが9つの地勢を占拠している南シナ海で争われている島々の主権の地位について、公式の「中立性」を維持している。中国またはライバルの主権主張国が、この区域でその補給線と駐留する兵士を直接脅かすことになった場合、マニラは米国の軍事支援に頼ることができるかどうかを懸念している。
(3) 正式な見直しを要求することにより、フィリピンの国防エスタブリッシュメントは、より相互に満足のいく方法で相互防衛条約の本文とその解釈の両方を再検討することを米国に強いることを望む可能性が高い。引き換えに、マニラは米軍にその軍事基地、特に南シナ海に隣接するバウティスタとバサの空軍基地へのアクセスを拡大することを許可するかもしれない。しかしながら、見直しのプロセスはまた、批判者および中国との友好関係の支持者が、戦略的中立の公式の政策を採用し、結果的にフィリピンと米国の二国間同盟を格下げすることをフィリピンに要求する余地を開く。ワシントンが南シナ海でのフィリピンへのコミットメントに対する戦略的曖昧さの方針を頑なに維持するならば、これは当てはまる可能性が高い。
記事参照:How Washington’s ambiguity in South China Sea puts the Philippine-US alliance at a crossroads

【補遺】

Competitive Coexistence: An American Concept for Managing U.S.-China Relations
https://nationalinterest.org/feature/competitive-coexistence-american-concept-managing-us-china-relations-42852
The National Interest, January 30, 2019
Dr. Andrew S. Erickson, a professor of strategy in the China Maritime Studies Institute and the recipient of the inaugural Civilian Faculty Research Excellence Award at the Naval War College.
2019年1月30日のThe National Interest電子版は米海軍大学教授Andrew S. Ericksonの“ Competitive Coexistence: An American Concept for Managing U.S.-China Relations”と題する論説記事を掲載した。その中で彼は、国交正常化以降、最高とも言える緊張的な米中関係にある現在、米国は中国との間に「競争的共存関係(Competitive Coexistence)」を構築すべきだと提案しているが、その本意は、米国と中国とで利益関係が一致するときには協力をし、相反する場合でも、過剰な反応は慎み、根拠ある(説得力ある)主張でもって中国を牽制して米国の利益を護っていく点にあると、9つの要点を示しながら主張している。