海洋安全保障情報旬報 2024年9月11日-9月20日
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9月11日「U.S. NavyはRoyal Canadian Navyの新兵補充計画を参考にせよ―U.S. Naval War College教官論説」(Defense One, September 11, 2024)
9月11日付の米国防関連ウエブサイトDefense One は、U.S. Naval War College教官Marissa Lemarの“Could a Canadian experiment help US Navy recruiting?”と題する論説を掲載し、そこでMarissa Lemarはカナダで実施されている海軍新兵補充のための新たな計画に言及し、新兵補充で苦しんでいる米国も同様の計画を導入するべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) カナダでは、海軍の訓練と生活を1年間体験できる、海軍経験課程(Naval Experience Program:以下、NEPと言う)というものが実施されている。それはまず8週間の基本的な訓練を行い、その後4週間の海軍訓練、そして1年の残りは艦隊におけるさまざまな任務に従事する。給与も支払われる。この目的は海軍での生活に適応できるかどうかを確かめることである。参加者は1年の体験後にそのまま入隊することも可能であり、離隊することともできる。2023年4月に開始された課程にはこれまで148名が参加し、体験後に海軍を離れることを表明したのは1名だけだという。U.S. Navyは、新兵補充の試みの新たなひな型として、これに目を向けるべきである。
(2) U.S. Navyは2023会計年度に新兵補充目標を達成できなかったし、2024年会計年度でもそうなりそうである。資格試験の最低点を下げるなどの措置は批判を招いている。海軍に関心をもつ若者のための体験課程の創設により、彼らが海軍に合うかどうかを試し、また海軍の側が、彼らが海軍にふさわしいかどうかを試すことができる。
(3) 2023年9月、米海軍作戦部長Lisa Franchetti大将はSenate Armed Service Committee(上院軍事委員会)で、海軍は「米国と対話しなければならない」と述べている。海軍に関心の低い人に対し、海軍の役割を理解してもらうのは難しい。そうした人々に、海軍が米国に何を提供できるかを説明しないといけない。米国版NEPはそうした努力の一助となるであろう。
(4) NEPを導入するとしても、カナダ版のものをそのままというわけにはいかない。米国版NEPは、サイバーセキュリティやエンジニアなど需要の高い職だけでなく、軍務とあまり関係がないと思われがちな医療や流通、法律に関心のある若者たちにも呼びかけるものである。海軍将兵の任務は船を動かすことだけではないのであり、NEPは海軍の多様な職務を参加者に提示できる。そのなかで、医療や流通などに関心ある若者も、海軍で自らの経歴を積むことができると判断するかもしれない。
(5) こうした課程には批判もあるだろうが、新兵補充に苦労している軍部門にとって、それは最低1年間の追加人員を保証する。さらにその中から海軍での任務を継続するかもしれない者もいる。すでに訓練を積んでいるので、軍務に就くまでの経路は短くて済む。現在の経費のかかる新兵補充の方法より、NEPの費用対効果は大きいかもしれない。
(6) NEPにはもう1つの利点がある。参加者が海軍での経験を口コミで拡散できることである。この広告効果は金で買えるものではない。実際にカナダではこれが機能しており、Royal Canadian Navyの報道官によれば、NEPの促進のために追加の資金は投じられていないという。
(7) 米国も同様のプログラムを提供するべきである。海軍に身を置けば、海軍の素晴らしさがわかる。NEPの参加者全員が、その実体験を推薦状として、人員発掘係になることができる。
記事参照:Could a Canadian experiment help US Navy recruiting?
(1) カナダでは、海軍の訓練と生活を1年間体験できる、海軍経験課程(Naval Experience Program:以下、NEPと言う)というものが実施されている。それはまず8週間の基本的な訓練を行い、その後4週間の海軍訓練、そして1年の残りは艦隊におけるさまざまな任務に従事する。給与も支払われる。この目的は海軍での生活に適応できるかどうかを確かめることである。参加者は1年の体験後にそのまま入隊することも可能であり、離隊することともできる。2023年4月に開始された課程にはこれまで148名が参加し、体験後に海軍を離れることを表明したのは1名だけだという。U.S. Navyは、新兵補充の試みの新たなひな型として、これに目を向けるべきである。
(2) U.S. Navyは2023会計年度に新兵補充目標を達成できなかったし、2024年会計年度でもそうなりそうである。資格試験の最低点を下げるなどの措置は批判を招いている。海軍に関心をもつ若者のための体験課程の創設により、彼らが海軍に合うかどうかを試し、また海軍の側が、彼らが海軍にふさわしいかどうかを試すことができる。
(3) 2023年9月、米海軍作戦部長Lisa Franchetti大将はSenate Armed Service Committee(上院軍事委員会)で、海軍は「米国と対話しなければならない」と述べている。海軍に関心の低い人に対し、海軍の役割を理解してもらうのは難しい。そうした人々に、海軍が米国に何を提供できるかを説明しないといけない。米国版NEPはそうした努力の一助となるであろう。
(4) NEPを導入するとしても、カナダ版のものをそのままというわけにはいかない。米国版NEPは、サイバーセキュリティやエンジニアなど需要の高い職だけでなく、軍務とあまり関係がないと思われがちな医療や流通、法律に関心のある若者たちにも呼びかけるものである。海軍将兵の任務は船を動かすことだけではないのであり、NEPは海軍の多様な職務を参加者に提示できる。そのなかで、医療や流通などに関心ある若者も、海軍で自らの経歴を積むことができると判断するかもしれない。
(5) こうした課程には批判もあるだろうが、新兵補充に苦労している軍部門にとって、それは最低1年間の追加人員を保証する。さらにその中から海軍での任務を継続するかもしれない者もいる。すでに訓練を積んでいるので、軍務に就くまでの経路は短くて済む。現在の経費のかかる新兵補充の方法より、NEPの費用対効果は大きいかもしれない。
(6) NEPにはもう1つの利点がある。参加者が海軍での経験を口コミで拡散できることである。この広告効果は金で買えるものではない。実際にカナダではこれが機能しており、Royal Canadian Navyの報道官によれば、NEPの促進のために追加の資金は投じられていないという。
(7) 米国も同様のプログラムを提供するべきである。海軍に身を置けば、海軍の素晴らしさがわかる。NEPの参加者全員が、その実体験を推薦状として、人員発掘係になることができる。
記事参照:Could a Canadian experiment help US Navy recruiting?
9月12日「フィリピンの強硬姿勢がASEANの中心性を弱める可能性―マレーシア・中国専門家論説」(Think China, September 12, 2024)
9月12日付のシンガポールの英字eマガジンThink Chinaは、マレーシアのシンクタンクMalaysia-China Friendship Association研究員Peter T. C. Changの“Are the Philippines’ tough South China Sea tactics a risk to ASEAN centrality?”と題する論説を掲載し、そこでPeter T. C. Changは最近の中国に対するフィリピンの強硬姿勢こそが、ASEANの正当性、その中心性に対して重大な危険性を突き付けているとして、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピン国防長官Gilberto Teodoroは、ASEANが中国に対して弱腰の姿勢を維持するのであれば、ASEANはその正当性を失うかもしれないと警告した。しかし、地域の国々はむしろ、南シナ海論争に対するフィリピンの強硬な取り組みが、ASEANの中心性にとって大きな危険性になることを懸念している。
(2) 9月初旬にウラジオストクで開催されたEastern Economic Forum(東方経済フォーラム)で、Anwar Ibrahim マレーシア首相は、2024年にクアラルンプールで開催されるASEAN首脳会談にロシアのVladimir Putin 大統領を招待した。お返しとしてPutin大統領は、10月にカザンで開催されるBRCIS首脳会談にAnwar首相を招待している。この2国の関係強化は、マレーシアが大国間対立に巻き込まれ、それによりマレーシアの国益が損なわれ、2025年ASEAN議長国としての役割を果たせなくなるかもしれないという懸念を強めた。それに対しAnwar首相は、自国の非同盟方針を強調し、どちらの側とも均衡の取れた関係を維持すると述べている。
(3) ASEANが直面する最も喫緊の課題は南シナ海の緊張の高まりである。特にフィリピンと中国の間での対立が激化している。そのような情勢の中、9月の初め、ある文書が漏洩した。それはマレーシア国営エネルギー企業に対し、中国がマレーシアのEEZ内での石油調査活動を止めるよう求めたことに関する文書である。これについて問われたとき、Anwar首相はその活動を止めることはないと断言した。
(4) Anwar首相の反応はいくつかの重要な論点を浮き彫りにする。第1に、マレーシアは、中国に黙従しているという印象とは裏腹に、EEZ内での主権を断固として守り続けてきた。第2に、その一方で、マレーシアは論争の平和的解決を模索し、南シナ海問題が大規模紛争に拡大することを回避する努力を続けてきた。そして第3に、マレーシアはこの問題が中国との関係に影を差してはならないと考えている。ベトナムやブルネイなど、南シナ海論争における別の領有権主張国も、同様に協調的取り組みを採用している。米中対立の文脈において東南アジアの海洋論争が複雑化する中で、中立の維持こそが、賭け金を分散し、地域の平和維持にとって、ASEANの決定的戦略と考えられているのである。
(5) マレーシアは非同盟政策を誓約している。イスラエル支援について米国を批判しつつ、基本的には米国を重要な提携国とみなしている。一帯一路構想において重要な役割を持ちつつ、マレーシアはBiden大統領の「よりよい世界再建」構想も支持する。シンガポールも、伝統的に米国の友好国と見られているが、最大の軍事演習を中国と行うことを最近、発表している。このように、中立こそがASEANの中心性を維持し、自らの命運を自らが描くために決定的だと考えられている。
(6) しかし、中国との緊張が高まるなかで、フィリピンは米国の支援を模索している。それによりフィリピンは大国間対立に巻き込まれる危険性だけでなく、代理となる危険性も負うことになる。これまでもフィリピンは、個別のCOC(南シナ海に関する行動規範)交渉をベトナムやマレーシアに提案するなど、近隣諸国の支援を求めてきた。これがうまくいかなかったのは、それによりASEANと中国の間に楔が打たれてしまうと考えられたからである。前述したマレーシアの文書漏洩も、フィリピンのメディアによるものであった。フィリピンがマレーシアと中国の関係を悪化させようとしているのではないかと懸念されている。
(7) 非介入はASEANの根本的原則である。7月、マレーシアのMohamad Hasan外相は、自国の問題解決のために外部勢力を呼び込もうとすることについて、やんわりとフィリピンを批判した。冒頭のTeodoroフィリピン国防大臣の警告は、それに対する反応であろう。地域の国々が懸念しているのは、南シナ海論争に対するMarcos Jr.政権の取り組みこそが、ASEANの中心性に対する危険性になっていることである。
記事参照:Are the Philippines’ tough South China Sea tactics a risk to ASEAN centrality?
(1) フィリピン国防長官Gilberto Teodoroは、ASEANが中国に対して弱腰の姿勢を維持するのであれば、ASEANはその正当性を失うかもしれないと警告した。しかし、地域の国々はむしろ、南シナ海論争に対するフィリピンの強硬な取り組みが、ASEANの中心性にとって大きな危険性になることを懸念している。
(2) 9月初旬にウラジオストクで開催されたEastern Economic Forum(東方経済フォーラム)で、Anwar Ibrahim マレーシア首相は、2024年にクアラルンプールで開催されるASEAN首脳会談にロシアのVladimir Putin 大統領を招待した。お返しとしてPutin大統領は、10月にカザンで開催されるBRCIS首脳会談にAnwar首相を招待している。この2国の関係強化は、マレーシアが大国間対立に巻き込まれ、それによりマレーシアの国益が損なわれ、2025年ASEAN議長国としての役割を果たせなくなるかもしれないという懸念を強めた。それに対しAnwar首相は、自国の非同盟方針を強調し、どちらの側とも均衡の取れた関係を維持すると述べている。
(3) ASEANが直面する最も喫緊の課題は南シナ海の緊張の高まりである。特にフィリピンと中国の間での対立が激化している。そのような情勢の中、9月の初め、ある文書が漏洩した。それはマレーシア国営エネルギー企業に対し、中国がマレーシアのEEZ内での石油調査活動を止めるよう求めたことに関する文書である。これについて問われたとき、Anwar首相はその活動を止めることはないと断言した。
(4) Anwar首相の反応はいくつかの重要な論点を浮き彫りにする。第1に、マレーシアは、中国に黙従しているという印象とは裏腹に、EEZ内での主権を断固として守り続けてきた。第2に、その一方で、マレーシアは論争の平和的解決を模索し、南シナ海問題が大規模紛争に拡大することを回避する努力を続けてきた。そして第3に、マレーシアはこの問題が中国との関係に影を差してはならないと考えている。ベトナムやブルネイなど、南シナ海論争における別の領有権主張国も、同様に協調的取り組みを採用している。米中対立の文脈において東南アジアの海洋論争が複雑化する中で、中立の維持こそが、賭け金を分散し、地域の平和維持にとって、ASEANの決定的戦略と考えられているのである。
(5) マレーシアは非同盟政策を誓約している。イスラエル支援について米国を批判しつつ、基本的には米国を重要な提携国とみなしている。一帯一路構想において重要な役割を持ちつつ、マレーシアはBiden大統領の「よりよい世界再建」構想も支持する。シンガポールも、伝統的に米国の友好国と見られているが、最大の軍事演習を中国と行うことを最近、発表している。このように、中立こそがASEANの中心性を維持し、自らの命運を自らが描くために決定的だと考えられている。
(6) しかし、中国との緊張が高まるなかで、フィリピンは米国の支援を模索している。それによりフィリピンは大国間対立に巻き込まれる危険性だけでなく、代理となる危険性も負うことになる。これまでもフィリピンは、個別のCOC(南シナ海に関する行動規範)交渉をベトナムやマレーシアに提案するなど、近隣諸国の支援を求めてきた。これがうまくいかなかったのは、それによりASEANと中国の間に楔が打たれてしまうと考えられたからである。前述したマレーシアの文書漏洩も、フィリピンのメディアによるものであった。フィリピンがマレーシアと中国の関係を悪化させようとしているのではないかと懸念されている。
(7) 非介入はASEANの根本的原則である。7月、マレーシアのMohamad Hasan外相は、自国の問題解決のために外部勢力を呼び込もうとすることについて、やんわりとフィリピンを批判した。冒頭のTeodoroフィリピン国防大臣の警告は、それに対する反応であろう。地域の国々が懸念しているのは、南シナ海論争に対するMarcos Jr.政権の取り組みこそが、ASEANの中心性に対する危険性になっていることである。
記事参照:Are the Philippines’ tough South China Sea tactics a risk to ASEAN centrality?
9月12日「フィリピンは挑発行為を止めるとき―中国海洋法専門家論説」(National Institute for South China Sea Studies, September 12, 2024)
9月12日付の中国南海研究院の英語版ウエブサイトは、同研究院海洋法律与政策研究所長の閻岩による“Continuing Storm: Philippines Time to Stop”と題する論説を掲載し、そこで閻岩は中国がサビナ礁を埋め立てているというフィリピン側の主張に対して反論し、フィリピン側が南シナ海における平和と安定を脅かす挑発的行為を強めているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2024年4月から、Philippine Coast Guardは、サビナ礁の上にサンゴ礁のかけらが投げこまれており、これが中国による島の埋め立ての兆候であると主張してきた。そして、Philippine Coast Guardはサビナ礁に船団を派遣し、中国の「違法行為」の監視、妨害を行ってきた。他方、中国は8月末に「仙賓礁サンゴ礁生態系調査報告」を公開し、フィリピンはサビナ礁が「低潮高地」と主張しているが、事実ではないなどフィリピンの主張は科学的根拠に基づいておらず、むしろフィリピンによる活動が環境に被害を及ぼしていることを明らかにした。こうしたフィリピン側の虚偽の主張は、現在無人の地形を占拠しようという試みの口実である。Philippine Coast Guardは、セカンド・トーマス礁の「シエラ・マドレ」をひな型とし、同じことをサビナ礁でも進めようとしている。
(2) 7月、南シナ海に関する中比2国間協議機構の第9回会合が、マニラで開催された。その会合のあと、Republic of the Philippines Department of Foreign Affairsは南シナ海に関する論争に対処し、緊張を緩和する必要があると述べた。それと並行して、Philippine Coast Guardはサビナ礁での挑発行為の度合いを強めているのである。セカンド・トーマス礁について合意された暫定措置に違反したことと合わせ、フィリピンは信頼に値しない国としての印象を確固たるものにしている。
(3) フィリピンの領土的境界は国際条約によって定義されており、スカボロー礁を含め南沙諸島のいかなる地形もその内側に含まれたことはない。1970年代からフィリピンはそうした地形への侵入を開始し、海洋の主権をめぐる論争を生んだ。近年のフィリピンはその論争をより複雑にする行動を進め、中国の主権や海洋の利益を侵害している。フィリピンの行動は、それだけではなく、2002年の南シナ海における関係各国の行動宣言にも反するものである。その核心である第5条は、関係各国に自制を促し、平和と安定に影響を与えるような行為、特に無人の地形に定住させるような行為を控えるよう呼びかけている。22年前と現在では南シナ海をとりまく地政学的状況は激変したが、主権をめぐる論争の中心的問題は変わっていないし、南シナ海の平和と安定を維持しようという地域の国々の希望にも変化はない。フィリピンの行動は地域の国々を深く失望させるものである。
(4) 2024年、フィリピンはセカンド・トーマス礁の「シエラ・マドレ」の増強やサビナ礁での行動以外にも、様々な地形で活動を展開している。それにより南シナ海は海洋をめぐる論争の中心点となり、それにより、フィリピンは米国や域外の国々の関与を引き出そうとしている。しかし、米国に依存するフィリピンの戦略はうまくいくだろうか。たしかにこの10年、南シナ海論争において米国は、フィリピンによる権利侵害を支持する姿勢を維持してきた。しかし具体的な行動として、米国は直接的な軍事的関与を行っていないのである。
(5) 歴史と事実を直視し、他国の権利を尊重することによってのみ、われわれは南シナ海の永続的な平和と安定、そして世界の国々の発展と繁栄を擁護することができるのである。
記事参照:Continuing Storm: Philippines Time to Stop
(1) 2024年4月から、Philippine Coast Guardは、サビナ礁の上にサンゴ礁のかけらが投げこまれており、これが中国による島の埋め立ての兆候であると主張してきた。そして、Philippine Coast Guardはサビナ礁に船団を派遣し、中国の「違法行為」の監視、妨害を行ってきた。他方、中国は8月末に「仙賓礁サンゴ礁生態系調査報告」を公開し、フィリピンはサビナ礁が「低潮高地」と主張しているが、事実ではないなどフィリピンの主張は科学的根拠に基づいておらず、むしろフィリピンによる活動が環境に被害を及ぼしていることを明らかにした。こうしたフィリピン側の虚偽の主張は、現在無人の地形を占拠しようという試みの口実である。Philippine Coast Guardは、セカンド・トーマス礁の「シエラ・マドレ」をひな型とし、同じことをサビナ礁でも進めようとしている。
(2) 7月、南シナ海に関する中比2国間協議機構の第9回会合が、マニラで開催された。その会合のあと、Republic of the Philippines Department of Foreign Affairsは南シナ海に関する論争に対処し、緊張を緩和する必要があると述べた。それと並行して、Philippine Coast Guardはサビナ礁での挑発行為の度合いを強めているのである。セカンド・トーマス礁について合意された暫定措置に違反したことと合わせ、フィリピンは信頼に値しない国としての印象を確固たるものにしている。
(3) フィリピンの領土的境界は国際条約によって定義されており、スカボロー礁を含め南沙諸島のいかなる地形もその内側に含まれたことはない。1970年代からフィリピンはそうした地形への侵入を開始し、海洋の主権をめぐる論争を生んだ。近年のフィリピンはその論争をより複雑にする行動を進め、中国の主権や海洋の利益を侵害している。フィリピンの行動は、それだけではなく、2002年の南シナ海における関係各国の行動宣言にも反するものである。その核心である第5条は、関係各国に自制を促し、平和と安定に影響を与えるような行為、特に無人の地形に定住させるような行為を控えるよう呼びかけている。22年前と現在では南シナ海をとりまく地政学的状況は激変したが、主権をめぐる論争の中心的問題は変わっていないし、南シナ海の平和と安定を維持しようという地域の国々の希望にも変化はない。フィリピンの行動は地域の国々を深く失望させるものである。
(4) 2024年、フィリピンはセカンド・トーマス礁の「シエラ・マドレ」の増強やサビナ礁での行動以外にも、様々な地形で活動を展開している。それにより南シナ海は海洋をめぐる論争の中心点となり、それにより、フィリピンは米国や域外の国々の関与を引き出そうとしている。しかし、米国に依存するフィリピンの戦略はうまくいくだろうか。たしかにこの10年、南シナ海論争において米国は、フィリピンによる権利侵害を支持する姿勢を維持してきた。しかし具体的な行動として、米国は直接的な軍事的関与を行っていないのである。
(5) 歴史と事実を直視し、他国の権利を尊重することによってのみ、われわれは南シナ海の永続的な平和と安定、そして世界の国々の発展と繁栄を擁護することができるのである。
記事参照:Continuing Storm: Philippines Time to Stop
9月13日「ウクライナ戦争で北極圏を利用しようとするロシアの試みを西側諸国がどのように阻止しているか―英国専門家論説」(The conversation. September 13, 2024)
9月13日付のオーストラリアニュースサイトThe Conversationは、英University of Birmingham国際安全保障学教授Stefan Wolff の“How the west is foiling Russia’s attempts to use the Arctic in the Ukraine war”と題する論説を掲載し、ここでStefan Wolffはロシアが北極圏で優位に立っていた時代は終わりに近づいており、ウクライナとの戦争に関して北極圏での優位を利用するというロシアの期待は大きな誤算であったことが判明するであろうとして、要旨以下のように述べている。
(1) 北極圏はロシアにとって戦略的な軍事地域であり、戦争経済を支えるのに役立つ大きな経済的可能性を秘めている。しかし、ロシアにとって北極圏を利用する計画は予定どおりには進まないであろう。ウクライナの軍事力、西側諸国の反発、国際的な制裁の圧力が組み合わさって、ウクライナ戦争に関して北極圏を有利に利用しようとするロシアの希望に打撃を与えている。2014年のロシアによるクリミア併合をきっかけに西側諸国との緊張が急速に高まる中、ロシアは北極圏の軍事施設の数を大幅に拡大した。ロシアは軍事的優位を築くために投資を続けたため、ソビエト連邦の崩壊以来どの時期よりも多くの空軍基地、地上部隊、艦船をこの地域で保有するに至った。この軍事能力と基幹施設への投資は、ウクライナとの戦争において最初のうちは効果があった。戦争の初期には、爆撃機はウクライナから離れた比較的安全な北極圏に移動したが、2024年7月末、ウクライナのドローンがムルマンスクの南にあるオレーニャ空軍基地を攻撃しており、ウクライナの長距離無人機が増えたことで北極圏にある基地の明らかな優位性は大幅に減少した。
(2) 西側諸国はロシアの北極圏への野望に対して軍事的に反撃してきた。2022年2月にロシアがウクライナに対する戦争を開始してから数日のうちに、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、米国の Arctic Council( 北極評議会)の西側7ヵ国は、ロシアとの協力をすべて一時停止する共同声明を発表している。これは、気候変動問題に関連する科学調査を含め、ロシアとの協力事業から急速に離脱することを意味し、この決定がすぐに変わる可能性は低い。ロシアはまだArctic Councilを脱退していないが、国益に合致するような、より広範な外交政策を含む北極戦略を再び模索している。しかし、ロシアがそのような戦略をどの程度成功裏に作ることができるかは不明である。
(3) フィンランドがNATOに加盟してから数週間のうちに、NATOは演習を北極圏で行い、第5条(集団的自衛権)を実施するという合図を送った。その1年後、スウェーデンもNATOに加盟し、冷戦終結以来最大の軍事演習であるステッドファスト・ディフェンダー演習が2024年2月からノルウェー北部で始まった。これは、西側が北極圏を地政学的に再び重視するというロシアへのもう1つの合図であった。しかし、他の国々が軍事的にロシアの現在の優位に追いつくには、しばらく時間がかかるであろう。米国が2024年7月に北極圏戦略を一新したことは、この方向への重要な一歩である。しかし、NATOは北極圏への戦力投射を増やさなくてはならないという必要性を認識しているにもかかわらず、北極圏に対する適切な計画や、北極圏で活動できる十分な兵力と軍事装備を未だに欠いている。さらに、中ロ間では海軍演習や共同航空哨戒などでより緊密な軍事協力ができつつあり、過去10年間に発展してきた地政学的なチェスゲームにおける北極圏の重要性を増している。そして、ロシアが軍事的優位性を手放す可能性は低い。
(4) 北極圏におけるロシアの計算のもう1つの重要な側面は、投資が決して単なる軍事的努力ではなかったということである。ロシアは、経済基幹施設の開発、特に北極圏を経由する航路を使用してアジアからヨーロッパへの1年を通じた輸送を可能にするために資源を注ぎ込み、影響力と潜在的な収入を得た。北極における大陸棚の広大な地域に対するロシアの主張は、Commission on the Limits of the Continental Shelf (大陸棚限界委員会)によって最近認められている。ロシアは、北極圏の先に横たわるロシアの国土の約5分の1に当たる地域に存在する豊富な資源を手にすることになる。しかし、この経済的利点は目に見えるほど大きくはない。たとえば、2023年7月にVladimir Putin大統領が開始した中核構想である「LNG 2」のように、ロシアが北極圏の資源から金銭的利益を得ている可能性がある場合でも、西側諸国はロシアの努力を阻止する方法を見つけ出した。
(5) 欧米の制裁は確実に影響を及ぼし、フランス、ドイツ、日本の投資家はロシアの構想への関与を縮小せざるを得なくなった。これにより、ロシアは中国企業を参加させて、米国とEUの制裁を回避しようとし、再びロシアの中国への依存、特に北極圏への中国の投資が全面的に露呈された。結局のところ、中国の氷上シルクロード計画は、北極圏においてロシアにではなく、中国に経済的利益をもたらすために作られた戦略なのである。ロシアは、北極圏にある2つの主要なLNG施設で生産されたガスを輸送するために、より多くの船舶を購入した可能性があるが、保険の欠如とロシアのLNGの購入者を対象とした西側の制裁が引き続き問題となっている。そのため、2024年9月上旬、フィナンシャル・タイムズ紙は、ロシアが主力構想であるLNG 2で生産されたLNGの買い手を見つけるのに苦労していると報じている。「パワー・オブ・シベリア2」というパイプライン構想の取引の進展がほとんどないことと相まって、ロシアがかつて利潤を上げていたヨーロッパへの輸出取引を置き換えられたかもしれないという希望は、実現にはほど遠いように思われる。
(6) ロシアが北極圏で優位に立っていた時代は、終わりに近づいている。欧米は今や、ロシアを押し返さなければならないし、それができることを知っている。実現は遅かったかもしれないが、ロシアのウクライナ侵略に対する北極圏における西側の反応は、これまでのところ、効果的な封じ込めに関する数少ない成功例の1つにまで発展するかもしれない。そうなれば、ウクライナとの戦争で北極圏の優位性を利用するというロシアの期待は、代償の大きい誤算であったことが判明する可能性がある。
記事参照:How the west is foiling Russia’s attempts to use the Arctic in the Ukraine war
(1) 北極圏はロシアにとって戦略的な軍事地域であり、戦争経済を支えるのに役立つ大きな経済的可能性を秘めている。しかし、ロシアにとって北極圏を利用する計画は予定どおりには進まないであろう。ウクライナの軍事力、西側諸国の反発、国際的な制裁の圧力が組み合わさって、ウクライナ戦争に関して北極圏を有利に利用しようとするロシアの希望に打撃を与えている。2014年のロシアによるクリミア併合をきっかけに西側諸国との緊張が急速に高まる中、ロシアは北極圏の軍事施設の数を大幅に拡大した。ロシアは軍事的優位を築くために投資を続けたため、ソビエト連邦の崩壊以来どの時期よりも多くの空軍基地、地上部隊、艦船をこの地域で保有するに至った。この軍事能力と基幹施設への投資は、ウクライナとの戦争において最初のうちは効果があった。戦争の初期には、爆撃機はウクライナから離れた比較的安全な北極圏に移動したが、2024年7月末、ウクライナのドローンがムルマンスクの南にあるオレーニャ空軍基地を攻撃しており、ウクライナの長距離無人機が増えたことで北極圏にある基地の明らかな優位性は大幅に減少した。
(2) 西側諸国はロシアの北極圏への野望に対して軍事的に反撃してきた。2022年2月にロシアがウクライナに対する戦争を開始してから数日のうちに、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、米国の Arctic Council( 北極評議会)の西側7ヵ国は、ロシアとの協力をすべて一時停止する共同声明を発表している。これは、気候変動問題に関連する科学調査を含め、ロシアとの協力事業から急速に離脱することを意味し、この決定がすぐに変わる可能性は低い。ロシアはまだArctic Councilを脱退していないが、国益に合致するような、より広範な外交政策を含む北極戦略を再び模索している。しかし、ロシアがそのような戦略をどの程度成功裏に作ることができるかは不明である。
(3) フィンランドがNATOに加盟してから数週間のうちに、NATOは演習を北極圏で行い、第5条(集団的自衛権)を実施するという合図を送った。その1年後、スウェーデンもNATOに加盟し、冷戦終結以来最大の軍事演習であるステッドファスト・ディフェンダー演習が2024年2月からノルウェー北部で始まった。これは、西側が北極圏を地政学的に再び重視するというロシアへのもう1つの合図であった。しかし、他の国々が軍事的にロシアの現在の優位に追いつくには、しばらく時間がかかるであろう。米国が2024年7月に北極圏戦略を一新したことは、この方向への重要な一歩である。しかし、NATOは北極圏への戦力投射を増やさなくてはならないという必要性を認識しているにもかかわらず、北極圏に対する適切な計画や、北極圏で活動できる十分な兵力と軍事装備を未だに欠いている。さらに、中ロ間では海軍演習や共同航空哨戒などでより緊密な軍事協力ができつつあり、過去10年間に発展してきた地政学的なチェスゲームにおける北極圏の重要性を増している。そして、ロシアが軍事的優位性を手放す可能性は低い。
(4) 北極圏におけるロシアの計算のもう1つの重要な側面は、投資が決して単なる軍事的努力ではなかったということである。ロシアは、経済基幹施設の開発、特に北極圏を経由する航路を使用してアジアからヨーロッパへの1年を通じた輸送を可能にするために資源を注ぎ込み、影響力と潜在的な収入を得た。北極における大陸棚の広大な地域に対するロシアの主張は、Commission on the Limits of the Continental Shelf (大陸棚限界委員会)によって最近認められている。ロシアは、北極圏の先に横たわるロシアの国土の約5分の1に当たる地域に存在する豊富な資源を手にすることになる。しかし、この経済的利点は目に見えるほど大きくはない。たとえば、2023年7月にVladimir Putin大統領が開始した中核構想である「LNG 2」のように、ロシアが北極圏の資源から金銭的利益を得ている可能性がある場合でも、西側諸国はロシアの努力を阻止する方法を見つけ出した。
(5) 欧米の制裁は確実に影響を及ぼし、フランス、ドイツ、日本の投資家はロシアの構想への関与を縮小せざるを得なくなった。これにより、ロシアは中国企業を参加させて、米国とEUの制裁を回避しようとし、再びロシアの中国への依存、特に北極圏への中国の投資が全面的に露呈された。結局のところ、中国の氷上シルクロード計画は、北極圏においてロシアにではなく、中国に経済的利益をもたらすために作られた戦略なのである。ロシアは、北極圏にある2つの主要なLNG施設で生産されたガスを輸送するために、より多くの船舶を購入した可能性があるが、保険の欠如とロシアのLNGの購入者を対象とした西側の制裁が引き続き問題となっている。そのため、2024年9月上旬、フィナンシャル・タイムズ紙は、ロシアが主力構想であるLNG 2で生産されたLNGの買い手を見つけるのに苦労していると報じている。「パワー・オブ・シベリア2」というパイプライン構想の取引の進展がほとんどないことと相まって、ロシアがかつて利潤を上げていたヨーロッパへの輸出取引を置き換えられたかもしれないという希望は、実現にはほど遠いように思われる。
(6) ロシアが北極圏で優位に立っていた時代は、終わりに近づいている。欧米は今や、ロシアを押し返さなければならないし、それができることを知っている。実現は遅かったかもしれないが、ロシアのウクライナ侵略に対する北極圏における西側の反応は、これまでのところ、効果的な封じ込めに関する数少ない成功例の1つにまで発展するかもしれない。そうなれば、ウクライナとの戦争で北極圏の優位性を利用するというロシアの期待は、代償の大きい誤算であったことが判明する可能性がある。
記事参照:How the west is foiling Russia’s attempts to use the Arctic in the Ukraine war
9月16日「インド太平洋における米国の同盟国および提携国の育成―米専門家論説」(Brookings, September 16, 2024)
9月16日付の米シンクタンクThe Brookings Instituteのウエブサイトは、同Institute 上席研究員Andrew Yeoの“Cultivating America’s alliances and partners in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでAndrew YeoはThe Brookings Instituteの研究班9名による研究を総括して、米国次期政権は同盟、提携および地域連合に関して、何が功を奏したか、あるいは功を奏さなかったか、また、何をより良く、あるいは異なる方法で行うことができたかを評価すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) アジアにおける米国の同盟関係と、2024年の大統領選挙で何が争点となるかを深く理解するために、The Brookings Instituteに所属する研究者9名の研究班が、米国のいくつかの同盟関係と提携関係の現状、そして、それらが米国の地域における利益と関連する度合いを評価した。対象となったのは、米国とオーストラリア、日本、韓国、フィリピン、台湾、インド、ASEANとの関係である。この研究に参加した研究者は、以下の課題を考慮して分析を行った。
a. 米国の同盟国/提携国は、インド太平洋地域における米国の利益にどのような価値を付加しているか、また、地域安全保障と安定にどのように貢献しているか。
b. 米国の同盟国/提携国は、自国の安全保障環境をどのように認識しており、米国との同盟/提携が自国の安全保障上の懸念に対処する上でどのような役割を果たしていると認識しているか。
c. 米国は同盟国/提携国に対して、またその逆の場合、最近どのような安全保障上の公約や合意を行ったか。
d. 米国はどのような基地協定や利用協定を享受しており、同盟国/提携国はそれらの関係に十分貢献しているか。
e. 選挙までの期間に注目すべき政治力学にはどのようなものがあるか、また次期政権に対してどのような措置を推奨するか。
(2) これらの課題は、評価に一定の構造を与えることを目的として提示されたものである。しかし、寄稿者は、特定の2国間関係やアジアにおける米国の政策に関連すると考える問題や追加の主題について自由に論じることができ、特定の政策方針に合致することが期待されているわけではない。そして、9本の論説から、以下の3つの大きな結論が導き出された。
a. 米国の同盟および提携は、内外の課題に対して依然として弾力性を維持しているが、より深い協力と制度化から恩恵を受ける。
b. 2024年の選挙でTrumpが勝利した場合、米国の同盟国は、米国との同盟関係について大きな不安を表明する。
c. 大統領候補者たちの間では、認識されている以上にインド太平洋に関する見解の一致が進んでいる。
(3) 米国は近年、同盟関係や提携関係の強化において大きく前進し、ハブ・アンド・スポーク型の体制から、より同盟網あるいは提携網型の地域安全保障体制への移行に向けた道筋を作ってきた。同盟の刷新は、地域および国内のいくつかの要因によっても促進されてきた。海洋および領土問題をめぐる中国の積極性、北朝鮮とロシアのつながりおよびその拡大する兵器能力、サプライチェーンの脆弱性の増大を含む経済安全保障へのより大きな脅威など、地域の安全保障環境の変化は、米国の新旧の提携国に米国との協力関係を深めるように作用した。また地域的な脅威は、AUKUS、日米韓3ヵ国間、豪印日米4ヵ国間といった新たな小規模な同盟網あるいは提携網の強化の道筋も整えた。
(4) 韓国やフィリピンなどにおける米国との2国間関係を好む新たな指導者層も、同盟網内に積極的な相乗効果を生み出している。この変化が最も劇的に現れているのはフィリピンである。2022年のRodrigo Duterte大統領からFerdinand Marcos Jr.への政権交代により、米国の基地利用の増加と南シナ海における中国の侵略に対抗するためのより緊密な連携が可能となった。Obama政権下で始まり、Trump政権が自由で開かれたインド太平洋戦略を通じて推進したアジア重視政策は、Joe Biden大統領の下でさらに前進した。次期米政権は近年出現した重複する諸機関の網目構造を制度化する必要がある。
(5) Trump前大統領の同盟に関する過去の声明を考慮すれば、同盟問題に関しては、Harris副大統領よりも不確実性が高いと考えるのは当然である。たとえば、次のような可能性が考えられる。
a. 米韓関係については、Trump前大統領が勝利した場合、同盟関係への再疑問や韓国政府の防衛貢献への圧力が引き起こされる。
b. 米国と台湾の関係については、Trump政権の1期目に矛盾する傾向と言葉遣いの不整合が見られ、再選された場合、それが繰り返される。
c. Trump前大統領は同盟国に対して、防衛負担分担金の増額を含む新たな要求を迫る可能性があり、そうすることで欧州とアジアの同盟国を対立させる。
d. 地域経済の結びつきについては、Trump前大統領は同盟国と敵対国に対して同様に関税を引き上げる。
(6) Trump前大統領の勝利を恐れる一部の観察者は最悪の事態に備えているかもしれないが、少なくとも2025年までは、どんな予測も憶測の域を出ないという指摘がある。それは次期政権で主要な地位に就く人物や、権力と意思決定がどのように組織化されるかによって、政策の方向性も形作られることになるからである。政権交代により、Trump政権下ではHarris政権よりもインド太平洋地域における米国の政策にさらなる変化と不確実性がもたらされる可能性が高い。しかし、Trump前大統領が外交政策に関してどの閣僚あるいは補佐官の意見を重視するかによって、米国の同盟関係や地域的提携は想定よりも継続性を保つ可能性もある。
(7) 米国政治の混迷と政治的極端化は深刻で、次期政権の対中政策、ひいてはインド太平洋地域における米国の展開の必要性に関して、両党の歩み寄りの度合いを裏切るものである。特に中国による地域での強硬姿勢に対する超党派の懸念を踏まえると、Harris副大統領やTrump前大統領が同盟国や提携国の支持を得ずにアジアで意味のある米国の戦略を打ち立てるのは難しいかもしれない。Trump前大統領の同盟関係に対する軽蔑的な発言は懸念材料ではあるが、共和党のほとんどは中国の挑戦を真剣に受け止め、インド太平洋地域を米国の重要な利害関係のある地域として捉えている。
(8) 重要なのは、次期米大統領がインド太平洋地域における米国の重要な利害を米国民に明確に示し、継続的な関与の強力な根拠を構築することである。同盟関係と提携関係の維持は、この関与の重要な要素である。
a. 日本に駐留する5万人のU.S. Armed Forcesの部隊や、U.S. Armed Forcesと自衛隊の相互運用性の向上などを含む日米同盟は、この地域における米国の外交政策目標を達成するための強力な戦力であり、非常に有益な取引である。
b. 中国に対する防衛能力を迅速に強化する必要性については、米国国内で幅広い合意が形成されている。AUKUSのような同盟国との経費分担は明らかにこの目的を推進する。
(9) 次期政権のインド太平洋戦略において米国の同盟国、提携国および同盟関係が引き続き重要な役割を果たすことを前提とすると、米国はこれらの関係を管理し、発展させていく必要がある。効果的な指導力を発揮するには、次期政権は地域の同盟国や提携国の所要に耳を傾け、米国の優先事項や政策を一方的に押し付けるのではなく、同盟国等の所要に応える必要がある。この点において、アジアにおける米国の経済政策は停滞しているように見える。地政経済学の視点で優位に立つためには、次期政権は、以下に示すアジアからの重要な合図を読み取る必要がある。
a. 貿易および環境基準の順守と引き換えに米国の市場利用を改善すること、あるいは中国の技術進歩を抑制することを目的とした経済的国力政策の手段と最終目標を慎重に調整すること。
b. 東南アジアにおける米国の影響力が低下する中で、米国と中国の競争の場としてこの地域を扱うことを避け、ASEAN加盟国を米国から遠ざけるような事態を招かないようすべきこと。
(10) 次期政権がアジアの同盟国や提携国との相違をどのように管理し、解決していくかは極めて重要である。その観点から、次期政権は同盟、提携および地域連合に関して、何が功を奏したか、あるいは功を奏さなかったか、また、何をより良く、あるいは異なる方法で行うことができたかを評価すべきである。Biden政権は米国のアジアとの関係を深化させ、拡大したが、これらの関係をさらに発展させるのは次期政権の役割である。
記事参照:Cultivating America’s alliances and partners in the Indo-Pacific
(1) アジアにおける米国の同盟関係と、2024年の大統領選挙で何が争点となるかを深く理解するために、The Brookings Instituteに所属する研究者9名の研究班が、米国のいくつかの同盟関係と提携関係の現状、そして、それらが米国の地域における利益と関連する度合いを評価した。対象となったのは、米国とオーストラリア、日本、韓国、フィリピン、台湾、インド、ASEANとの関係である。この研究に参加した研究者は、以下の課題を考慮して分析を行った。
a. 米国の同盟国/提携国は、インド太平洋地域における米国の利益にどのような価値を付加しているか、また、地域安全保障と安定にどのように貢献しているか。
b. 米国の同盟国/提携国は、自国の安全保障環境をどのように認識しており、米国との同盟/提携が自国の安全保障上の懸念に対処する上でどのような役割を果たしていると認識しているか。
c. 米国は同盟国/提携国に対して、またその逆の場合、最近どのような安全保障上の公約や合意を行ったか。
d. 米国はどのような基地協定や利用協定を享受しており、同盟国/提携国はそれらの関係に十分貢献しているか。
e. 選挙までの期間に注目すべき政治力学にはどのようなものがあるか、また次期政権に対してどのような措置を推奨するか。
(2) これらの課題は、評価に一定の構造を与えることを目的として提示されたものである。しかし、寄稿者は、特定の2国間関係やアジアにおける米国の政策に関連すると考える問題や追加の主題について自由に論じることができ、特定の政策方針に合致することが期待されているわけではない。そして、9本の論説から、以下の3つの大きな結論が導き出された。
a. 米国の同盟および提携は、内外の課題に対して依然として弾力性を維持しているが、より深い協力と制度化から恩恵を受ける。
b. 2024年の選挙でTrumpが勝利した場合、米国の同盟国は、米国との同盟関係について大きな不安を表明する。
c. 大統領候補者たちの間では、認識されている以上にインド太平洋に関する見解の一致が進んでいる。
(3) 米国は近年、同盟関係や提携関係の強化において大きく前進し、ハブ・アンド・スポーク型の体制から、より同盟網あるいは提携網型の地域安全保障体制への移行に向けた道筋を作ってきた。同盟の刷新は、地域および国内のいくつかの要因によっても促進されてきた。海洋および領土問題をめぐる中国の積極性、北朝鮮とロシアのつながりおよびその拡大する兵器能力、サプライチェーンの脆弱性の増大を含む経済安全保障へのより大きな脅威など、地域の安全保障環境の変化は、米国の新旧の提携国に米国との協力関係を深めるように作用した。また地域的な脅威は、AUKUS、日米韓3ヵ国間、豪印日米4ヵ国間といった新たな小規模な同盟網あるいは提携網の強化の道筋も整えた。
(4) 韓国やフィリピンなどにおける米国との2国間関係を好む新たな指導者層も、同盟網内に積極的な相乗効果を生み出している。この変化が最も劇的に現れているのはフィリピンである。2022年のRodrigo Duterte大統領からFerdinand Marcos Jr.への政権交代により、米国の基地利用の増加と南シナ海における中国の侵略に対抗するためのより緊密な連携が可能となった。Obama政権下で始まり、Trump政権が自由で開かれたインド太平洋戦略を通じて推進したアジア重視政策は、Joe Biden大統領の下でさらに前進した。次期米政権は近年出現した重複する諸機関の網目構造を制度化する必要がある。
(5) Trump前大統領の同盟に関する過去の声明を考慮すれば、同盟問題に関しては、Harris副大統領よりも不確実性が高いと考えるのは当然である。たとえば、次のような可能性が考えられる。
a. 米韓関係については、Trump前大統領が勝利した場合、同盟関係への再疑問や韓国政府の防衛貢献への圧力が引き起こされる。
b. 米国と台湾の関係については、Trump政権の1期目に矛盾する傾向と言葉遣いの不整合が見られ、再選された場合、それが繰り返される。
c. Trump前大統領は同盟国に対して、防衛負担分担金の増額を含む新たな要求を迫る可能性があり、そうすることで欧州とアジアの同盟国を対立させる。
d. 地域経済の結びつきについては、Trump前大統領は同盟国と敵対国に対して同様に関税を引き上げる。
(6) Trump前大統領の勝利を恐れる一部の観察者は最悪の事態に備えているかもしれないが、少なくとも2025年までは、どんな予測も憶測の域を出ないという指摘がある。それは次期政権で主要な地位に就く人物や、権力と意思決定がどのように組織化されるかによって、政策の方向性も形作られることになるからである。政権交代により、Trump政権下ではHarris政権よりもインド太平洋地域における米国の政策にさらなる変化と不確実性がもたらされる可能性が高い。しかし、Trump前大統領が外交政策に関してどの閣僚あるいは補佐官の意見を重視するかによって、米国の同盟関係や地域的提携は想定よりも継続性を保つ可能性もある。
(7) 米国政治の混迷と政治的極端化は深刻で、次期政権の対中政策、ひいてはインド太平洋地域における米国の展開の必要性に関して、両党の歩み寄りの度合いを裏切るものである。特に中国による地域での強硬姿勢に対する超党派の懸念を踏まえると、Harris副大統領やTrump前大統領が同盟国や提携国の支持を得ずにアジアで意味のある米国の戦略を打ち立てるのは難しいかもしれない。Trump前大統領の同盟関係に対する軽蔑的な発言は懸念材料ではあるが、共和党のほとんどは中国の挑戦を真剣に受け止め、インド太平洋地域を米国の重要な利害関係のある地域として捉えている。
(8) 重要なのは、次期米大統領がインド太平洋地域における米国の重要な利害を米国民に明確に示し、継続的な関与の強力な根拠を構築することである。同盟関係と提携関係の維持は、この関与の重要な要素である。
a. 日本に駐留する5万人のU.S. Armed Forcesの部隊や、U.S. Armed Forcesと自衛隊の相互運用性の向上などを含む日米同盟は、この地域における米国の外交政策目標を達成するための強力な戦力であり、非常に有益な取引である。
b. 中国に対する防衛能力を迅速に強化する必要性については、米国国内で幅広い合意が形成されている。AUKUSのような同盟国との経費分担は明らかにこの目的を推進する。
(9) 次期政権のインド太平洋戦略において米国の同盟国、提携国および同盟関係が引き続き重要な役割を果たすことを前提とすると、米国はこれらの関係を管理し、発展させていく必要がある。効果的な指導力を発揮するには、次期政権は地域の同盟国や提携国の所要に耳を傾け、米国の優先事項や政策を一方的に押し付けるのではなく、同盟国等の所要に応える必要がある。この点において、アジアにおける米国の経済政策は停滞しているように見える。地政経済学の視点で優位に立つためには、次期政権は、以下に示すアジアからの重要な合図を読み取る必要がある。
a. 貿易および環境基準の順守と引き換えに米国の市場利用を改善すること、あるいは中国の技術進歩を抑制することを目的とした経済的国力政策の手段と最終目標を慎重に調整すること。
b. 東南アジアにおける米国の影響力が低下する中で、米国と中国の競争の場としてこの地域を扱うことを避け、ASEAN加盟国を米国から遠ざけるような事態を招かないようすべきこと。
(10) 次期政権がアジアの同盟国や提携国との相違をどのように管理し、解決していくかは極めて重要である。その観点から、次期政権は同盟、提携および地域連合に関して、何が功を奏したか、あるいは功を奏さなかったか、また、何をより良く、あるいは異なる方法で行うことができたかを評価すべきである。Biden政権は米国のアジアとの関係を深化させ、拡大したが、これらの関係をさらに発展させるのは次期政権の役割である。
記事参照:Cultivating America’s alliances and partners in the Indo-Pacific
9月16日「南極で通年滑走路を必要とするオーストラリア―オーストラリア専門家論説」(The Strategist, September 16, 2024)
9月16日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、Australian ArmyのChris Johnson中佐による“Australia needs a year-round runway on Antarctica”と題する論説を掲載し、Chris Johnson中佐は、オーストラリアが一度頓挫した南極大陸での通年使用可能な滑走路を建設する計画を再考する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリアは南極への持続的な交通手段を必要としており、デービス基地付近での通年使用可能な滑走路計画を放棄した2021年の決定を再考する必要がある。南極大陸への妨げのない交通は、主要な利害関係国としてのオーストラリアの地位を確固たるものにするために必要である。そうすることで、中国とロシアによる南極大陸での悪意のある行動を抑止できる。すでに軍民両用施設に投資しているこれらの国々は、今後何世紀にもわたってオーストラリアにとって南側での脅威となる危険性がある。
(2) 中国とロシアは、名目上は科学研究のために南極大陸での存在感を高めている。両国は2024年、最先端の研究基地を新たに開設した。これらの活動は、表向きは平和的なものだが、軍民両用の可能性を持ち、これらの基地が将来的に軍事用途に利用される可能性がある。
(3) 1959年の南極条約体制の枠組みの中でこのような機略を巡らせることは、オーストラリアが通年使用可能な滑走路の計画を断念した以前の決定を見直す必要性を浮き彫りにしている。オーストラリアの現在の南極戦略は、主に科学と環境保全に重点を置いており、南極条約体制の原則に沿ったものとなっている。条約は現在、1991年のマドリッド議定書によって資源開発を禁止している。しかし、この地域には天然資源、特に石炭、銅、金、鉄が豊富にあることが知られている。けれども、2048年以降、この条約の利害関係国は制限を見直し、同意が得られれば採掘を開始することができる。資源開発における将来の技術進歩や気候変動の影響は、南極大陸の価値と利用の容易さを高める可能性が高い。
(4) 現在、オーストラリアの南極への接近は南極海の横断に依存している。居住地の大部分が東南極にあり、この地域には通年使用可能な滑走路施設がないため、オーストラリアから南極大陸まで1週間かかることもある。そのため、既存の南極での活動や緊急時の避難能力に支障をきたしている。2021年以前、オーストラリアは研究拠点であるデービス基地の近くに通年使用可能な滑走路を建設する計画を立てていたが、この案は頓挫した。Morrison政権はその理由として、環境と経費の圧力を挙げている。
(5) この滑走路の現在の利点は、年間を通じて航空機が利用できるようになることで、オーストラリア南極局が大陸全域でより柔軟に活動できるようになることである。科学者などの関係者が南極に行くのに船を必要としなくなる。飛行機を使った調査旅行はわずか8時間で、時間と資源の節約になる。特に重要なのは、探検隊員の緊急避難を迅速に行えることである。南極とオーストラリア本土を結ぶ恒久的な物流の連接環を提供することで、この計画は運営経費を根本的に削減する。また、オーストラリア砕氷船「ヌイーナ」が科学、補給または調査のための任務を担う唯一の資産ではなくなることで、オーストラリアの砕氷船能力をより重要な仕事に振り向けることができるようになる。
(6) 滑走路とともに、オーストラリアは通信基幹施設を改善し、南極大陸を横断する陸路移動をさらに強化しなければならない。そうすることで、オーストラリアがより多くの設備検査を主導し、透明性を高め、他国の悪質な行為に目を向けることができるようになる。
記事参照:Australia needs a year-round runway on Antarctica
(1) オーストラリアは南極への持続的な交通手段を必要としており、デービス基地付近での通年使用可能な滑走路計画を放棄した2021年の決定を再考する必要がある。南極大陸への妨げのない交通は、主要な利害関係国としてのオーストラリアの地位を確固たるものにするために必要である。そうすることで、中国とロシアによる南極大陸での悪意のある行動を抑止できる。すでに軍民両用施設に投資しているこれらの国々は、今後何世紀にもわたってオーストラリアにとって南側での脅威となる危険性がある。
(2) 中国とロシアは、名目上は科学研究のために南極大陸での存在感を高めている。両国は2024年、最先端の研究基地を新たに開設した。これらの活動は、表向きは平和的なものだが、軍民両用の可能性を持ち、これらの基地が将来的に軍事用途に利用される可能性がある。
(3) 1959年の南極条約体制の枠組みの中でこのような機略を巡らせることは、オーストラリアが通年使用可能な滑走路の計画を断念した以前の決定を見直す必要性を浮き彫りにしている。オーストラリアの現在の南極戦略は、主に科学と環境保全に重点を置いており、南極条約体制の原則に沿ったものとなっている。条約は現在、1991年のマドリッド議定書によって資源開発を禁止している。しかし、この地域には天然資源、特に石炭、銅、金、鉄が豊富にあることが知られている。けれども、2048年以降、この条約の利害関係国は制限を見直し、同意が得られれば採掘を開始することができる。資源開発における将来の技術進歩や気候変動の影響は、南極大陸の価値と利用の容易さを高める可能性が高い。
(4) 現在、オーストラリアの南極への接近は南極海の横断に依存している。居住地の大部分が東南極にあり、この地域には通年使用可能な滑走路施設がないため、オーストラリアから南極大陸まで1週間かかることもある。そのため、既存の南極での活動や緊急時の避難能力に支障をきたしている。2021年以前、オーストラリアは研究拠点であるデービス基地の近くに通年使用可能な滑走路を建設する計画を立てていたが、この案は頓挫した。Morrison政権はその理由として、環境と経費の圧力を挙げている。
(5) この滑走路の現在の利点は、年間を通じて航空機が利用できるようになることで、オーストラリア南極局が大陸全域でより柔軟に活動できるようになることである。科学者などの関係者が南極に行くのに船を必要としなくなる。飛行機を使った調査旅行はわずか8時間で、時間と資源の節約になる。特に重要なのは、探検隊員の緊急避難を迅速に行えることである。南極とオーストラリア本土を結ぶ恒久的な物流の連接環を提供することで、この計画は運営経費を根本的に削減する。また、オーストラリア砕氷船「ヌイーナ」が科学、補給または調査のための任務を担う唯一の資産ではなくなることで、オーストラリアの砕氷船能力をより重要な仕事に振り向けることができるようになる。
(6) 滑走路とともに、オーストラリアは通信基幹施設を改善し、南極大陸を横断する陸路移動をさらに強化しなければならない。そうすることで、オーストラリアがより多くの設備検査を主導し、透明性を高め、他国の悪質な行為に目を向けることができるようになる。
記事参照:Australia needs a year-round runway on Antarctica
9月16日「日本は米国にとって不可欠な同盟国―米専門家論説」(Brookings, September 16, 2024)
9月16日付の米シンクタンクThe Brookings Instituteのウエブサイトは、同Institute非常勤上席研究員Adam P. Liffの“Japan: America’s indispensable ally”と題する論説を掲載し、ここでAdam P. Liffはインド太平洋地域における米国の戦略目標にとって、日本ほど不可欠な提携国はなく、11月の大統領選挙でどちらの候補者が勝利しようとも、この根本的な現実が変わることはないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国の11月の選挙結果がどうなろうとも、次期政権と議会がアジア戦略を成功裏に策定、実施するためには、日本政府との強固で政治的に安定した提携が不可欠である。この戦略は、米国の海外利益を平和で安定した地域で確保するためのこれまでの取り組みを基盤とし、それを超えるもので、米国内における継続的な経済的繁栄を確保して、「自由で開かれたインド太平洋」を実現するものである。
(2) 米国の同盟国として、日本は独自の強みを備えている。その一部を挙げると、日本は世界4経済大国の1つであり、近年は米国の39の州において最大の海外投資国になっている。成熟して、きわめて安定した民主主義を誇り、超党派の支持が日本の国家安全保障政策における重要な柱としての日米同盟を長年にわたって重視してきた背景となっている。それゆえ、日本が米国と緊密な外交政策調整を行ってきた歴史は長い。地政学的な重要性という観点では、中国、ロシア、朝鮮半島、台湾海峡はすべて日本の領土から320km以内にあり、南シナ海もそれほど遠くはない。したがって、5万人を超えるU.S. Armed Forcesの兵士とU.S. Navy唯一の前方展開の空母を日本に配備していることは、米国が主導する侵略抑止と地域的平和および安定維持の取り組みにとって不可欠である。
(3) 加えて、日本の有能な自衛隊とU.S. Armed Forcesの相互運用性の深化など、さまざまな理由により、日米安全保障条約は米国にとって他に類を見ない多大な利益をもたらしている。それは、主要な両党の大統領が率いる歴代米政権が、米国の安全保障と繁栄にとって不可欠な地域と位置づけてきた地域における米国の外交政策目標を強力に後押しするものである。
(4)日米両国は、インド太平洋地域全体でますます困難かつ複雑な外交課題に直面することになるが、日米安全保障提携の深化に向けた取り組みに関しては、次期米政権と議会は、それぞれ強力な追い風を受けて任期を開始することになる。これは、Joe Biden大統領と岸田文雄首相の下で達成された成果のおかげである。2024年4月に発表された日米両国による広範な共同声明は、「自由で開かれ、つながりがあり、強靭で安全な世界」の実現を目指す日米両国の戦略的連携が深まっていることを示す好例である。両国がグローバル・パートナーシップを呼びかけていることは、地域の安全保障と安定、その他の地域の動向が避けられない形で結びついていることを認識させる。
(5)近年、日本は同盟国の相互補完的な戦略目標、特に防衛分野において歴史的な公約を果たした。特にこの2年間、防衛能力の強化、日米同盟の強化、そして米国のインド太平洋および欧州の同盟国との協力強化などを通じた地域および世界の平和と安定へのより広範な貢献に向けた取り組みは著しく加速した。注目すべきは、2022年の国国家安全保障戦略の下、岸田政権は日本の防衛能力を抜本的に強化することを誓約した。これは、特に中国や北朝鮮などによる一方的な現状変更を抑止することを目的としている。この計画実現の鍵となるのは、2022年から2027年の間に日本の防衛予算を約60%増額するという前例のない取り組みであり、これは米政府でも広く歓迎されている。
(6) 日本の防衛費の増加により、新たな高度な能力や艦艇・航空機開発のための新規受注や投資、自衛隊の共同作戦能力の向上を目的とした改革の加速、サイバーや宇宙能力、受動的防衛、軍需品、防衛産業など長年放置されてきた分野への大幅な支出が可能になる。この夏には、同盟調整、指揮、統制の強化も発表された。自国の能力を強化し、日米安全保障同盟を強化する一方で、日本の国家安全保障戦略は、第三者、すなわち、米国の同盟国および提携国との防衛および産業協力の拡大も重視している。
(7) Biden大統領と岸田首相により、これほどまでに目覚ましい成果がもたらされたにもかかわらず、2025年1月には両首脳とも政権の座にはいない。両国の次期指導者が、さらなる前進を実現することを期待したい。
a. 日本では、岸田の後任が誰になるのかは依然として不明であるが、2022年の国家安全保障戦略で示された基本路線を覆す可能性は低い。(訳者註:10月1日に石破茂が選出されている。)
b. 米国では、大統領選挙後の軌道を予測するのはもう少し難しい。Kamala Harris政権となった場合、アジアに対するBiden-Harris政権の取り組み、特に外交および軍事における戦力増強としての同盟の重要性を強調する取り組みから大幅に逸脱することはなさそうである。
c. Donald Trumpが再選を果たした場合、はるかに多くの不確実性があり、米国のアジア専門家の中には重大な懸念を抱く者もいる。しかし、Trump大統領の1期目には、数十年にわたる日米安全保障協力の緊密化が継続したことは注目に値する。
(8) 11月の選挙でどちらが勝利するにせよ、次期政権と議会は、インド太平洋地域の将来に対する前向きで包括的な構想を通じて、米国の国家安全保障と経済的利益に最も貢献できる。その構想とは、短期的な政治的打算よりも長期的な戦略を優先し、スローガンや強硬発言よりも結果重視の政策に重きを置くものである。国防・外交への投資拡大は不可欠である。そして、米国の政策立案者は、自由貿易と地域経済統合における米国の超党派による指導力の放棄が、米国の影響力をどれほど損なってきたかを認識すべきである。すでに、インド太平洋地域およびその他の地域において中国と効果的に競争するための手段をほとんど持たない状況に追い込まれている。
(9) インド太平洋地域における米国の戦略目標にとって、日本ほど不可欠な提携国はいない。11月の選挙でどちらが勝利しようとも、この根本的な現実が変わることはない。
記事参照:Japan: America’s indispensable ally
(1) 米国の11月の選挙結果がどうなろうとも、次期政権と議会がアジア戦略を成功裏に策定、実施するためには、日本政府との強固で政治的に安定した提携が不可欠である。この戦略は、米国の海外利益を平和で安定した地域で確保するためのこれまでの取り組みを基盤とし、それを超えるもので、米国内における継続的な経済的繁栄を確保して、「自由で開かれたインド太平洋」を実現するものである。
(2) 米国の同盟国として、日本は独自の強みを備えている。その一部を挙げると、日本は世界4経済大国の1つであり、近年は米国の39の州において最大の海外投資国になっている。成熟して、きわめて安定した民主主義を誇り、超党派の支持が日本の国家安全保障政策における重要な柱としての日米同盟を長年にわたって重視してきた背景となっている。それゆえ、日本が米国と緊密な外交政策調整を行ってきた歴史は長い。地政学的な重要性という観点では、中国、ロシア、朝鮮半島、台湾海峡はすべて日本の領土から320km以内にあり、南シナ海もそれほど遠くはない。したがって、5万人を超えるU.S. Armed Forcesの兵士とU.S. Navy唯一の前方展開の空母を日本に配備していることは、米国が主導する侵略抑止と地域的平和および安定維持の取り組みにとって不可欠である。
(3) 加えて、日本の有能な自衛隊とU.S. Armed Forcesの相互運用性の深化など、さまざまな理由により、日米安全保障条約は米国にとって他に類を見ない多大な利益をもたらしている。それは、主要な両党の大統領が率いる歴代米政権が、米国の安全保障と繁栄にとって不可欠な地域と位置づけてきた地域における米国の外交政策目標を強力に後押しするものである。
(4)日米両国は、インド太平洋地域全体でますます困難かつ複雑な外交課題に直面することになるが、日米安全保障提携の深化に向けた取り組みに関しては、次期米政権と議会は、それぞれ強力な追い風を受けて任期を開始することになる。これは、Joe Biden大統領と岸田文雄首相の下で達成された成果のおかげである。2024年4月に発表された日米両国による広範な共同声明は、「自由で開かれ、つながりがあり、強靭で安全な世界」の実現を目指す日米両国の戦略的連携が深まっていることを示す好例である。両国がグローバル・パートナーシップを呼びかけていることは、地域の安全保障と安定、その他の地域の動向が避けられない形で結びついていることを認識させる。
(5)近年、日本は同盟国の相互補完的な戦略目標、特に防衛分野において歴史的な公約を果たした。特にこの2年間、防衛能力の強化、日米同盟の強化、そして米国のインド太平洋および欧州の同盟国との協力強化などを通じた地域および世界の平和と安定へのより広範な貢献に向けた取り組みは著しく加速した。注目すべきは、2022年の国国家安全保障戦略の下、岸田政権は日本の防衛能力を抜本的に強化することを誓約した。これは、特に中国や北朝鮮などによる一方的な現状変更を抑止することを目的としている。この計画実現の鍵となるのは、2022年から2027年の間に日本の防衛予算を約60%増額するという前例のない取り組みであり、これは米政府でも広く歓迎されている。
(6) 日本の防衛費の増加により、新たな高度な能力や艦艇・航空機開発のための新規受注や投資、自衛隊の共同作戦能力の向上を目的とした改革の加速、サイバーや宇宙能力、受動的防衛、軍需品、防衛産業など長年放置されてきた分野への大幅な支出が可能になる。この夏には、同盟調整、指揮、統制の強化も発表された。自国の能力を強化し、日米安全保障同盟を強化する一方で、日本の国家安全保障戦略は、第三者、すなわち、米国の同盟国および提携国との防衛および産業協力の拡大も重視している。
(7) Biden大統領と岸田首相により、これほどまでに目覚ましい成果がもたらされたにもかかわらず、2025年1月には両首脳とも政権の座にはいない。両国の次期指導者が、さらなる前進を実現することを期待したい。
a. 日本では、岸田の後任が誰になるのかは依然として不明であるが、2022年の国家安全保障戦略で示された基本路線を覆す可能性は低い。(訳者註:10月1日に石破茂が選出されている。)
b. 米国では、大統領選挙後の軌道を予測するのはもう少し難しい。Kamala Harris政権となった場合、アジアに対するBiden-Harris政権の取り組み、特に外交および軍事における戦力増強としての同盟の重要性を強調する取り組みから大幅に逸脱することはなさそうである。
c. Donald Trumpが再選を果たした場合、はるかに多くの不確実性があり、米国のアジア専門家の中には重大な懸念を抱く者もいる。しかし、Trump大統領の1期目には、数十年にわたる日米安全保障協力の緊密化が継続したことは注目に値する。
(8) 11月の選挙でどちらが勝利するにせよ、次期政権と議会は、インド太平洋地域の将来に対する前向きで包括的な構想を通じて、米国の国家安全保障と経済的利益に最も貢献できる。その構想とは、短期的な政治的打算よりも長期的な戦略を優先し、スローガンや強硬発言よりも結果重視の政策に重きを置くものである。国防・外交への投資拡大は不可欠である。そして、米国の政策立案者は、自由貿易と地域経済統合における米国の超党派による指導力の放棄が、米国の影響力をどれほど損なってきたかを認識すべきである。すでに、インド太平洋地域およびその他の地域において中国と効果的に競争するための手段をほとんど持たない状況に追い込まれている。
(9) インド太平洋地域における米国の戦略目標にとって、日本ほど不可欠な提携国はいない。11月の選挙でどちらが勝利しようとも、この根本的な現実が変わることはない。
記事参照:Japan: America’s indispensable ally
9月17日「ウクライナ戦争での『力による和平』―デンマーク元首相・ウクライナ大統領府長官論説」(Project-Syndicate, September 17, 2024)
9月17日付の国際NPOであるProject Syndicateのウエブサイトは、元デンマーク首相で元NATO事務総長Anders Fogh Rasmussenとウクライナ大統領府長官Andriy Yermakの“Achieving Peace Through Strength in Ukraine”と題する論説を掲載し、両名はウクライナ戦争において、軍事支援や長期的な安全保障に関する保証をウクライナに提供し、ウクライナがNATOに加盟するための道筋を示すことが永続的な和平を勝ち取るために必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアのVladimir Putin大統領は、ウクライナの主権を否定しており、2014年以来2度にわたってウクライナに侵攻している。有り難いことに、ウクライナを支配しようとする彼の取り組みは、ウクライナ国民の勇気によって阻止されてきた。しかし、彼らの不屈の精神にもかかわらず、Putin大統領の残忍な侵略戦争は続いている。
(2) 和平を促進するために、ウクライナの同盟国は、Putin大統領に戦争を終結させるための条件を決定することはできないと理解させなければならない。そのためには、国際法の基本原則に根ざした和平協定への世界的な支持を築き、戦場におけるウクライナの立場を強化し、長期的な安全保障に関する保証を提供し、NATO加盟への明確な道筋を示すことが必要である。
(3) Putin大統領が戦争の長期化を狙う一方で、ウクライナのVolodymyr Zelensky大統領は持続可能な和平を積極的に追求している。この夏、Zelensky大統領はスイスで90ヵ国以上の代表者を集め、核の安全性の強化や紛争による環境から生じる影響への対応、さらにはВооруженные силы Российской Федерации(ロシア連邦軍)の完全撤退を求めるといった10項目の和平案への支持を呼びかけた。合意に至るには世界的な圧力が不可欠だが、長期的な和平には強力な安全保障に関する保証も必要である。ロシアが条約違反や広範な戦争犯罪によって、国際法や基本的人権を無視する姿勢を繰り返し見せていることを考えれば、Putin大統領の約束だけでは和平は実現しない。戦争の帰趨は、ウクライナの自衛能力にかかっている。
(4) 当面の優先課題は、戦場におけるウクライナの立場を改善することである。ロシアのミサイルや無人機がウクライナ全土で民間人を殺害し続けており、その攻撃のほとんどはロシア領内から行われている。したがって、ウクライナには、長距離兵器を配備してこれらの標的を攻撃し、さらなる攻撃を防ぐためにロシア領内に進入する全ての権利がある。
(5) 今こそ同盟国は、供与する兵器の種類や使用方法について残っている制限を撤廃すべき時である。しかし、ウクライナの同盟国は、早急な支援とともに、必要な限り軍装備品と金融資産を提供することを公約しなければならない。ウクライナはすでに、我々が共同執筆した「キーウ安全保障盟約(Kyiv Security Compact)」の一環として、30ヵ国以上から長期的な安全保障に関する保証を受けている。今後数ヵ月間、我々の取り組みはこれらの保証がその約束を果たすことを確実にすることに注力する。
(6) Putin大統領が和平を勝ち取るのを防ぐには、安全保障に関する保証以上の取り組みが必要となる。ウクライナの同盟国は、ウクライナ軍を国内で訓練したり、民間請負業者や専門の軍事チームを派遣して現地で損傷した装備を修理したりするなどの手段を講じることで、支援を拡大すべきである。近隣の同盟国が、飛来するロシアのミサイルや無人機を迎撃するために、西ウクライナ上空に拡張された防空シールドを設置することは可能である。それにより、民間人の命を守り、ウクライナが防空システムを前線に再配置できる。
(7) これらのいずれの措置も、今後の交渉においてウクライナの立場を強化することは間違いない。しかし最終的に、ヨーロッパの永続的な和平と安全を確保する唯一の方法は、ウクライナをNATOに加盟させることである。ウクライナをロシアとNATO同盟の間のグレーゾーンに放置することは、さらなる不安定、侵略、暴力を招くだけである。NATOの指導者たちは断固として行動し、ウクライナに加盟への道を提示しなければならない。
記事参照:Achieving Peace Through Strength in Ukraine
(1) ロシアのVladimir Putin大統領は、ウクライナの主権を否定しており、2014年以来2度にわたってウクライナに侵攻している。有り難いことに、ウクライナを支配しようとする彼の取り組みは、ウクライナ国民の勇気によって阻止されてきた。しかし、彼らの不屈の精神にもかかわらず、Putin大統領の残忍な侵略戦争は続いている。
(2) 和平を促進するために、ウクライナの同盟国は、Putin大統領に戦争を終結させるための条件を決定することはできないと理解させなければならない。そのためには、国際法の基本原則に根ざした和平協定への世界的な支持を築き、戦場におけるウクライナの立場を強化し、長期的な安全保障に関する保証を提供し、NATO加盟への明確な道筋を示すことが必要である。
(3) Putin大統領が戦争の長期化を狙う一方で、ウクライナのVolodymyr Zelensky大統領は持続可能な和平を積極的に追求している。この夏、Zelensky大統領はスイスで90ヵ国以上の代表者を集め、核の安全性の強化や紛争による環境から生じる影響への対応、さらにはВооруженные силы Российской Федерации(ロシア連邦軍)の完全撤退を求めるといった10項目の和平案への支持を呼びかけた。合意に至るには世界的な圧力が不可欠だが、長期的な和平には強力な安全保障に関する保証も必要である。ロシアが条約違反や広範な戦争犯罪によって、国際法や基本的人権を無視する姿勢を繰り返し見せていることを考えれば、Putin大統領の約束だけでは和平は実現しない。戦争の帰趨は、ウクライナの自衛能力にかかっている。
(4) 当面の優先課題は、戦場におけるウクライナの立場を改善することである。ロシアのミサイルや無人機がウクライナ全土で民間人を殺害し続けており、その攻撃のほとんどはロシア領内から行われている。したがって、ウクライナには、長距離兵器を配備してこれらの標的を攻撃し、さらなる攻撃を防ぐためにロシア領内に進入する全ての権利がある。
(5) 今こそ同盟国は、供与する兵器の種類や使用方法について残っている制限を撤廃すべき時である。しかし、ウクライナの同盟国は、早急な支援とともに、必要な限り軍装備品と金融資産を提供することを公約しなければならない。ウクライナはすでに、我々が共同執筆した「キーウ安全保障盟約(Kyiv Security Compact)」の一環として、30ヵ国以上から長期的な安全保障に関する保証を受けている。今後数ヵ月間、我々の取り組みはこれらの保証がその約束を果たすことを確実にすることに注力する。
(6) Putin大統領が和平を勝ち取るのを防ぐには、安全保障に関する保証以上の取り組みが必要となる。ウクライナの同盟国は、ウクライナ軍を国内で訓練したり、民間請負業者や専門の軍事チームを派遣して現地で損傷した装備を修理したりするなどの手段を講じることで、支援を拡大すべきである。近隣の同盟国が、飛来するロシアのミサイルや無人機を迎撃するために、西ウクライナ上空に拡張された防空シールドを設置することは可能である。それにより、民間人の命を守り、ウクライナが防空システムを前線に再配置できる。
(7) これらのいずれの措置も、今後の交渉においてウクライナの立場を強化することは間違いない。しかし最終的に、ヨーロッパの永続的な和平と安全を確保する唯一の方法は、ウクライナをNATOに加盟させることである。ウクライナをロシアとNATO同盟の間のグレーゾーンに放置することは、さらなる不安定、侵略、暴力を招くだけである。NATOの指導者たちは断固として行動し、ウクライナに加盟への道を提示しなければならない。
記事参照:Achieving Peace Through Strength in Ukraine
9月17日「大国間競争の再燃:中国、ロシア、そしてインド洋の地政学―インド専門家論説」(Situation Report, Geopolitical Monitor, September 17, 2024)
9月17日付のカナダ情報誌Geopolitical MonitorのウエブサイトSituation Reportは、Indian Council of World Affairs研究員Sankalp Gurjarの“Great Power Competition Redux: China, Russia, and Indian Ocean Geopolitics”と題する論説を掲載し、ここでSankalp Gurjarはインド洋地域の島嶼国等が自国の利益を追求して、西側諸国と中国・ロシアの対立を利用する場合もあり、この地域の地政学はますます複雑で流動的になるとして、要旨次のように述べている。
(1) インド洋地域(IOR)の地政学は流動的である。この地域では、特に中国とインド、中国と米国、そしてロシアと西側諸国との間で、大国間競争が激化している。さらに、ケニア、サウジアラビア、イラン、インドネシア、オーストラリアなどの地域大国が、地政学的・地経済的に強力な行為者として台頭してきたことも大きな影響を与えている。これら2つの同時進行過程は、南部アフリカ、東アフリカ、西アジア、南アジア、東南アジア、オーストラリアというインド洋の6つの小区域で展開されており、地政学の流動性を今後さらに高めるであろう。
(2) こうした戦略環境の中で、モルディブなどのインド洋の小島嶼国やイエメンの反政府勢力フーシ派のような非国家主体も、それぞれ重要な主体として台頭してきている。先鋭化する大国間対立は、非国家主体や小国を行為者として登場させ、インド洋における地政学に対する影響力を拡大させている。イランが支援する反政府勢力フーシ派は、この傾向の例である。イスラエルによるガザでの戦争に対し、フーシ派は紅海とアデン湾を通過するイスラエル関係国の船舶を攻撃し、世界の海運と経済を混乱させている。米国、英国、インドが自国の補給線を守るために海軍作戦を開始したほど、混乱は甚大であった。興味深いことに、中国海軍は紅海から遠ざかっている。
(3) Военно-морской флот Российской Федерации(以下、ロシア海軍と言う)と中国海軍は近年、インド洋での存在感を拡大しており、定期的に共同演習を行っている。2023年、中国はパキスタンと、ロシア海軍はミャンマー、バングラデシュと演習を行っており、2024年3月には、ロシア、中国、イランがオマーン湾で共同演習を行い、これにアゼルバイジャン、インド、パキスタン、南アフリカ等の国々が海軍の代表を派遣した。タス通信によれば、「ロシア、イラン、中国の海軍から20隻以上の戦闘艦艇、支援艦が演習に参加」し、訓練の目的は「海洋経済活動の安全を確保するための方策を実践する」こととされている。しかし、この演習が参加国間の戦略的連携を強め、西側を牽制する目的があったのは明らかである。ロシアと中国は、同じBRICS加盟国の南アフリカとも共同演習を通じた海軍外交を行なっている。ロシア、中国、南アフリカの海軍が2023年2月に実施した第2回共同演習の実施時期は、ロシアによるウクライナ侵攻1周年と重なり、西側諸国に対する明確な警告となった。南アフリカ政府は弁明として、「南アフリカはウクライナ戦争に対する中立の立場を放棄しているわけではない。我々は、多国間主義と対話が持続可能な国際平和を実現する鍵であるという見解を堅持している」と述べ、「現在の紛争の解決策として、両当事者に対話に参加するよう求め続ける」と付け加えている。興味深いのは、南アフリカはU.S. Navyとの共同演習を拒否し、代わりにロシア、中国との演習を決めたことである。これらの海軍演習は、西インド洋におけるロシアと中国の存在感と関心の高まりを示している。
(4) ロシアと中国は、この地域に前線基地を設けることで、インド洋における存在感を強化しようとしている。中国は2017年にジブチに基地を設立し、パキスタンのグワダル港を海軍基地として狙っており、おそらく密かに利用していると思われる。2022年、中国はカンボジアのリアム海軍基地を利用できるようになった。U.S. Department of Defenseの2023年版報告書によれば、中国は極めて多くの国々を基地の候補地として検討している。たとえば ミャンマー、タイ、インドネシア、パキスタン、スリランカ、ナミビア、モザンビーク、バングラデシュ等で、その多くはIORの国々である。注目すべきは、ジブチに軍事基地があるにもかかわらず、ケニア、タンザニア、モザンビーク、セイシェルといった他の東・南部アフリカ諸国が、中国の将来の軍事基地設置の計算に含まれていることである。これらの国々には、中国の経済的足跡が深く残っており、中国政府の戦略的働きかけを補完するであろう。常時3~6隻の中国海軍の艦艇がインド洋で行動していることはよく知られており、調査船や情報収集船の定期的な存在も事実である。
(5) ロシアにとって、スーダン港の施設に関するスーダンとの合意は、インド洋に進出できる軍事基地獲得の見通しを示している。スーダンの基地は、シリアのタルトゥースにある既存の海軍基地を補完するもので、中東と西インド洋におけるロシアの存在感を強化するものであった。しかし、スーダンの準軍事組織即応支援部隊(Rapid Support Force、RSF)とスーダン軍との間の悲惨なスーダン内戦は、こうした取り組みを複雑にしている。一方、ウクライナ紛争に起因する経済的負担と軍事的要求は、欧州におけるNATOとの対立の激化とともに、ロシアによるインド洋での軍事基地獲得・維持を制約している。しかし、海軍演習、港湾訪問、ワグネル・グループ等の民間軍事請負業者の派遣、防衛輸出、政治・軍事協定のような形での戦略的存在感の拡大は、ロシア政府にとって好ましい関与の方法であり、中国やイランとの海軍共同演習は、ロシアの重要な戦略的指標である。
(6) 中国とロシアは、ロシアのウクライナ侵攻以来、「制限のない」友好関係を築き、互いに接近してきた。西側諸国による厳しい制裁が課される中、中国の支援はロシアの軍事作戦と経済的繁栄にとって極めて重要であった。ロシアと中国が築いた緊密な戦略的友好関係は、インド洋の地政学にも現れるであろう。中国とロシアは、西側の影響力を弱体化させるという共通の関心を持ち、イランという意欲的な協力者もいる。2022年以降、イランはロシアや中国に接近しており、定期的な海軍共同演習や兵器の輸出は、両者の戦略的融合の一例である。中国とロシアの存在感の拡大は、将来、インド洋地域における西側の影響力に対抗するものとなるであろう。IORには、これらの大国が介入可能な断層や問題点が十分にある。たとえば、特定の国の国内政治が大国間対立の場になる可能性がある。最近の事例として、モルディブの政権を巡る中国とインドの綱引きがあるが、新政権は親中に舵を切ろうとしている。今後、インド洋諸国における民主主義と人権の問題をめぐって、西側と中国・ロシアの対立が激化するであろう。
(7) 歴史の常として、自国の利益のために中国やロシアとの関係を重視する地域国家は多いであろう。より多くの利益を得られる可能性があれば、各国はロシアや中国に近づき、この地域における西側の影響力を低下させる。それでも中国やロシアに対抗する場合は、多くの国が、西側諸国を利用するであろう。こうした動きは、中国とロシアにとって新たな機会であり、課題への挑戦ともなる。インド洋の地政学が今後、より流動的で複雑になることは間違いない。
記事参照:Great Power Competition Redux: China, Russia, and Indian Ocean Geopolitics
(1) インド洋地域(IOR)の地政学は流動的である。この地域では、特に中国とインド、中国と米国、そしてロシアと西側諸国との間で、大国間競争が激化している。さらに、ケニア、サウジアラビア、イラン、インドネシア、オーストラリアなどの地域大国が、地政学的・地経済的に強力な行為者として台頭してきたことも大きな影響を与えている。これら2つの同時進行過程は、南部アフリカ、東アフリカ、西アジア、南アジア、東南アジア、オーストラリアというインド洋の6つの小区域で展開されており、地政学の流動性を今後さらに高めるであろう。
(2) こうした戦略環境の中で、モルディブなどのインド洋の小島嶼国やイエメンの反政府勢力フーシ派のような非国家主体も、それぞれ重要な主体として台頭してきている。先鋭化する大国間対立は、非国家主体や小国を行為者として登場させ、インド洋における地政学に対する影響力を拡大させている。イランが支援する反政府勢力フーシ派は、この傾向の例である。イスラエルによるガザでの戦争に対し、フーシ派は紅海とアデン湾を通過するイスラエル関係国の船舶を攻撃し、世界の海運と経済を混乱させている。米国、英国、インドが自国の補給線を守るために海軍作戦を開始したほど、混乱は甚大であった。興味深いことに、中国海軍は紅海から遠ざかっている。
(3) Военно-морской флот Российской Федерации(以下、ロシア海軍と言う)と中国海軍は近年、インド洋での存在感を拡大しており、定期的に共同演習を行っている。2023年、中国はパキスタンと、ロシア海軍はミャンマー、バングラデシュと演習を行っており、2024年3月には、ロシア、中国、イランがオマーン湾で共同演習を行い、これにアゼルバイジャン、インド、パキスタン、南アフリカ等の国々が海軍の代表を派遣した。タス通信によれば、「ロシア、イラン、中国の海軍から20隻以上の戦闘艦艇、支援艦が演習に参加」し、訓練の目的は「海洋経済活動の安全を確保するための方策を実践する」こととされている。しかし、この演習が参加国間の戦略的連携を強め、西側を牽制する目的があったのは明らかである。ロシアと中国は、同じBRICS加盟国の南アフリカとも共同演習を通じた海軍外交を行なっている。ロシア、中国、南アフリカの海軍が2023年2月に実施した第2回共同演習の実施時期は、ロシアによるウクライナ侵攻1周年と重なり、西側諸国に対する明確な警告となった。南アフリカ政府は弁明として、「南アフリカはウクライナ戦争に対する中立の立場を放棄しているわけではない。我々は、多国間主義と対話が持続可能な国際平和を実現する鍵であるという見解を堅持している」と述べ、「現在の紛争の解決策として、両当事者に対話に参加するよう求め続ける」と付け加えている。興味深いのは、南アフリカはU.S. Navyとの共同演習を拒否し、代わりにロシア、中国との演習を決めたことである。これらの海軍演習は、西インド洋におけるロシアと中国の存在感と関心の高まりを示している。
(4) ロシアと中国は、この地域に前線基地を設けることで、インド洋における存在感を強化しようとしている。中国は2017年にジブチに基地を設立し、パキスタンのグワダル港を海軍基地として狙っており、おそらく密かに利用していると思われる。2022年、中国はカンボジアのリアム海軍基地を利用できるようになった。U.S. Department of Defenseの2023年版報告書によれば、中国は極めて多くの国々を基地の候補地として検討している。たとえば ミャンマー、タイ、インドネシア、パキスタン、スリランカ、ナミビア、モザンビーク、バングラデシュ等で、その多くはIORの国々である。注目すべきは、ジブチに軍事基地があるにもかかわらず、ケニア、タンザニア、モザンビーク、セイシェルといった他の東・南部アフリカ諸国が、中国の将来の軍事基地設置の計算に含まれていることである。これらの国々には、中国の経済的足跡が深く残っており、中国政府の戦略的働きかけを補完するであろう。常時3~6隻の中国海軍の艦艇がインド洋で行動していることはよく知られており、調査船や情報収集船の定期的な存在も事実である。
(5) ロシアにとって、スーダン港の施設に関するスーダンとの合意は、インド洋に進出できる軍事基地獲得の見通しを示している。スーダンの基地は、シリアのタルトゥースにある既存の海軍基地を補完するもので、中東と西インド洋におけるロシアの存在感を強化するものであった。しかし、スーダンの準軍事組織即応支援部隊(Rapid Support Force、RSF)とスーダン軍との間の悲惨なスーダン内戦は、こうした取り組みを複雑にしている。一方、ウクライナ紛争に起因する経済的負担と軍事的要求は、欧州におけるNATOとの対立の激化とともに、ロシアによるインド洋での軍事基地獲得・維持を制約している。しかし、海軍演習、港湾訪問、ワグネル・グループ等の民間軍事請負業者の派遣、防衛輸出、政治・軍事協定のような形での戦略的存在感の拡大は、ロシア政府にとって好ましい関与の方法であり、中国やイランとの海軍共同演習は、ロシアの重要な戦略的指標である。
(6) 中国とロシアは、ロシアのウクライナ侵攻以来、「制限のない」友好関係を築き、互いに接近してきた。西側諸国による厳しい制裁が課される中、中国の支援はロシアの軍事作戦と経済的繁栄にとって極めて重要であった。ロシアと中国が築いた緊密な戦略的友好関係は、インド洋の地政学にも現れるであろう。中国とロシアは、西側の影響力を弱体化させるという共通の関心を持ち、イランという意欲的な協力者もいる。2022年以降、イランはロシアや中国に接近しており、定期的な海軍共同演習や兵器の輸出は、両者の戦略的融合の一例である。中国とロシアの存在感の拡大は、将来、インド洋地域における西側の影響力に対抗するものとなるであろう。IORには、これらの大国が介入可能な断層や問題点が十分にある。たとえば、特定の国の国内政治が大国間対立の場になる可能性がある。最近の事例として、モルディブの政権を巡る中国とインドの綱引きがあるが、新政権は親中に舵を切ろうとしている。今後、インド洋諸国における民主主義と人権の問題をめぐって、西側と中国・ロシアの対立が激化するであろう。
(7) 歴史の常として、自国の利益のために中国やロシアとの関係を重視する地域国家は多いであろう。より多くの利益を得られる可能性があれば、各国はロシアや中国に近づき、この地域における西側の影響力を低下させる。それでも中国やロシアに対抗する場合は、多くの国が、西側諸国を利用するであろう。こうした動きは、中国とロシアにとって新たな機会であり、課題への挑戦ともなる。インド洋の地政学が今後、より流動的で複雑になることは間違いない。
記事参照:Great Power Competition Redux: China, Russia, and Indian Ocean Geopolitics
9月18日「米海軍作戦部長、Navigation Plan 2024を発表」(U.S. Navy Press Office, September 18)
9月18日、米海軍作戦部長LISA M. FRANCHETTI大将は、 Navigation Plan 2024を公表した。 Navigation Plan 2024は、前任者M.M. Gildey元大将が公表した Navigation Plan 2022を継承しつつも、LISA M. FRANCHETTI大将が海軍作戦部長就任直後の2024年1月に開かれたSurface Navy Association National Symposium年次総会で“America’s Warfighting Navy”を提示し、U.S. NavyがLISA M. FRANCHETTI大将の任期中の4年間に優先するとして示した事項を折り込み、作成されたものである。 Navigation Plan 2024の注目すべき点として次の4点を上げることができる。第1は、U.S. Navyの立ち位置を大きく転換したことである。第2次大戦以降のU.S. Navyはシー・コントロールの維持を追求してきた。しかし、U.S. Navyを取り巻く環境の変化を受け、シー・ディナイアルに軸足を移している。第2に中ロ、特に中国の脅威より明確にされており、中国をU.S. Navyの整備方向を規定する脅威と明確に位置付けたことである。第3にNavigation Plan 2022では、Force Designの目標は2045年に設定されていたのに対し、2027年までに中華人民共和国との戦争の可能性に備えると時間的目標を設定したことである。Navigation Plan 2024では、2027年が繰り返し強調されている。第4にNavigation Plan 2024では実施事項の責任者がより明確にされている。
要旨は以下のとおりである
(1) 前言
2024年1月、私は“America’s Warfighting Navy”を発表し、我々の海軍に対する私の統一構想を伝えた。このNavigation Planは、“America’s Warfighting Navy”で示した構想を基に、海軍に対する私の戦略的指針である。Navigation Plan 2022は、戦闘における優位に向け、 18の重要な取り組み方針を概説している。しかし、どんな長い旅でもそうであるように、我々は進路と速度を調整する準備もしなければならない。予測に遅れている場合もある。また、世界が我々に選択した道の再評価を強いる場合もある。以前の指針で概説された構想は、目的を持って緊急に継続する必要がある。しかし、我々の現在の位置から見える、加速する必要がある7つの領域、それは「プロジェクト33」の目標と呼ぶもので、時間と資源を投入して成果を上げようとする領域である。これらの目標は、危機や紛争に備えるために 2027年までに部隊全体の準備態勢を高めるという目的に焦点を当てている。Navigation Plan 2024は、2027年までに中華人民共和国との戦争の可能性に備えること、および海軍の長期的な優位を高めることという2つの戦略的目標に向かっている。我々は、「プロジェクト33」の実施と統合戦闘エコシステムへの海軍の貢献の拡大という、相互に補強し合う2つの方法を通じて、これらの目標に向けて取り組んでいく。「プロジェクト33」の7つの目標は次のとおりである
・艦船、潜水艦、航空機の整備の遅れを排除し、部隊を準備し、より多くの艦艇、航空機を迅速に統合するため、ロボットおよび自律システムを拡張する。
・分散した戦場で勝利するために艦隊が必要とする指揮中枢を構築する。
・戦場においてより必要とする多くの将兵を確保する部隊を募集し、維持する
・海軍将兵の自己犠牲に見合った質の高い軍務を提供する
・現実世界と仮想世界で戦うことを計画し、戦闘訓練を行う
・陸上からの戦いを維持し、展開する重要な基幹施設を復旧する
「プロジェクト33」は新たな目標を設定するが、その目標を達成するために新たな手段は必要ない。我々は、速度を落とさずに前進するために、我々が持っている手段と資源を使用して成果を上げていく。我々は、統合戦闘エコシステムへの海軍の貢献を拡大する。このエコシステムへの海軍の貢献を拡大するためにすでに進行中の作業を継続し、海軍の幕僚組織の作業を戦闘員と戦闘艦隊の所用によりよく合わせることを含める。今、我々は先人たちが示したのと同じ戦略的規律、勇気、団結を結集しなければならない。そして、我々は必ず勝利できると確信している。機敏性は事前によく考えておくことで生まれ、無駄にする時間はない。
(2) 更新の理由
海軍は、学習能力と適応力を備えた敵に先んじ続けると同時に、艦船、潜水艦、航空機の建造、採用、軍需品の生産、ソフトウェアの取得、基幹施設、艦艇・航空機の保守といった、部隊にとっての根本的な課題に取り組まなければならない。Navigation Plan 2024は、そのための戦略的指針である。今日、安全保障環境の変化、戦争の技術的特徴の変化、以前のNavigation Planの目標達成の進捗、産業的および予算的制約の認識が、これまでのNavigation Planを更新し、米国の戦う海軍に向けた指針とする根拠である。
a. 安全保障環境
中華人民共和国(以下、中国と言う)の主席は、2027年までに中国軍に戦争準備を整えるよう指示しており、多領域精密戦争、グレーゾーンおよび経済作戦、軍民両用基幹施設および海上民兵のような軍民両用部隊の拡大、核兵器の増強などの作戦構想を通じて、中国は複雑な多領域および多方面の枢軸の脅威を提示している。傷つき、孤立したロシアは依然として危険である。ロシアによるウクライナ侵攻は世界的な非難を呼び、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を促した。しかし、戦場ではロシアは学習し、技術的にも戦術的にもウクライナの革新に適応してきた。ロシア、中国、イラン、北朝鮮は連携を強化し、米国、その同盟国、情報分野の提携国を積極的に狙っている。ロシアの艦隊は北極海、大西洋、地中海、バルト海、北太平洋で戦闘力を維持している。ロシア政府はまた、世界最大の核備蓄を保有している。我々は、欧州大西洋地域で同盟国や提携国とともに、信頼できる抑止力を支援し続けなければならない。高度に、かつ相互に関連した脅威は平和を脆いものにする。2023年のハマスのイスラエル攻撃では、中東全域に海軍を配置する必要があった。フーシ派は、紅海の重要な難所であるバブ・エル・マンデブ海峡沿いの商船を標的にし、海軍将兵を最も執拗な敵の攻撃にさらしている。これらの出来事は、安全保障環境が目に見えるつながりと目に見えないつながりを通じていかに急速に変化するか、そして我が国の意思決定者に柔軟な選択肢を提供するために海軍がいかに不可欠であるかを証明している。Navigation Plan 2024は、2027年までに中華人民共和国との戦争の可能性に備えることと、海軍の長期的な優位を強化するという2つの戦略的目的に向かっている。我々は、「プロジェクト33」の実施と統合戦闘エコシステムへの海軍の貢献の拡大という、相互に補強し合う2つの方法を通じて、これらの目的に向けて取り組む。
b. 技術
過去2年間で戦場の技術革新が飛躍的に進み、戦争の様相が変化しつつあることに重大な影響が及んでいる。より安価で利用しやすい技術により、国家・非国家主体を問わず、非対称能力がより低コストで実現している。我々は革新の循環を活性化し、海軍は現在、ロボットおよび自律システムの運用化において統合部隊を牽引している。海軍は2024年に下士官のロボット戦の特技の等級を確立し、士官団でロボットの専門知識をどのように育成するかを検討している。この革新の短期的な循環により、我々は短期的な課題に対応し、阻止し、打ち負かすことがでる。統合参謀本部議長C.Q. Brown空軍大将が言うように、「変化を加速しなければ負ける」が、我々は負けるつもりはない。同時に、将来のハイブリッド艦隊を定義する長期的な実験を追求している。ロボットと自律システムが多目的の通常戦力を補強することで、有人・無人の海軍部隊の到達範囲、抗堪性、および殺傷力を拡大する機会が得られることはわかっている。将来に向けてその部隊を構築するにあたり、我々は現在、より大規模なロボットシステムの概念と要件の分析、および複雑で情報中心の戦場を感知して理解するのに役立つ人工知能アプリケーションに取り組んでいる。
c. 我々の進歩
我々は、国家が必要とする海軍を追求し続ける一方で、現在の海軍でより多くの価値を提供するための手段と考え方を取り入れてきた。少なくとも20年間、海軍の需要は供給を常に上回っている。これは紛争の時期にも当てはまるが、対立や危機の時期にも同様である。需要と供給の不一致に対して、我々の軍隊は代償を払っている。それは、艦艇の艦齢が高くなり、運用経費が嵩み、乗組員に多くの要求が課せられ、保守整備に時間がかかり、予定が把握し難く、経費がかかることある。我々は、これらの課題を考慮して、我々が保有する資源に対して責任ある管理を行うために全力を尽くしている。我々は海軍の未来に焦点を当てている。我々の戦力設計の取り組みの成果を通じて、我々の選択が2045年以降の海軍をどのように形作るかを理解しながら、今日の戦闘の課題に取り組んでいる。現在取り組んでいる構想と制度は、数十年後の艦隊を同様に形作るだろう。戦争の変化する性質に合わせながら、将来の軍隊の詳細を正しく把握する必要がある。
d. 我々の制約
海軍は、より大規模で、より強力な戦力が必要であることを強く認識している。2023年6月に最後に評価された381隻の戦闘艦艇と潜水艦に加えて、航空機、弾薬、人員、データ、活動領域、および選択した時間と場所で戦闘力を集中できる世界的な艦隊を生み出すすべての有効な能力も含める必要がある。また、統合部隊、同盟国、提携国との切れ目のない統合も意味する。我々は引き続き議会と協力して、より大規模で強力な戦力を提供するために必要な予算の伸びを確保するが、資源がなければ、即応性、能力、容量の順序で優先し続ける。艦隊の適正規模化は、海軍、議会、および業界にとって、世代にわたる計画となる。艦隊におけるロボットおよび自律システムの役割を増やしても、任務を果たすためには、引き続き海軍将兵と民間人の豊富な人材が必要である。現在および将来の戦争への備えを強化するために艦隊を近代化する能力に対する深刻な戦略的制約に直面することになる。Navigation Plan 2024は、短期的な予算と産業の現実を考慮した即応性と能力に対する現在の重点を反映しており、平和を維持し、危機に対応し、戦争で決定的に勝利するために必要な海軍の戦力構造のあらゆる側面を拡大するために必要な資源を継続的に主張している。
(3) いかに戦うか
我々のNavigation Planは、高水準で情報を中枢に据えた世界的な戦場で制海権を獲得し、活用するためにどのように戦うかという明確な展望に基づいている。統合軍、同盟国、提携国とともに、我々はあらゆる領域を切れ目なく感知し、標的とし、我々が選択した時間と場所で効果を収束させる必要がある。我々が戦う理由は変わっていないが、戦い方は変わった。そして、それは我々が何を使って戦うかを知らせなければならない。我々は統合および同盟国および提携国との共同を通じて軍を統合し、艦隊を戦闘エコシステムとして運用し、戦闘の激しさに備えた戦闘員を育成するという我々の関与を強化している。
a. 我々は統合する
統合軍および連合軍の一員として活動することで、抑止力を確立し、戦争に勝利することができる。本土防衛における国防の指針は明確である。中国はU.S. Navyが目指すべき能力や戦力組成・態勢を規定する脅威であり、ロシアは深刻な脅威である。統合戦闘構想(Joint Warfighting Concept:以下、JWCと言う)は、統一された力としてこれらの対立する競争相手を抑止し、打破するよう求め、各軍の能力を最大限に引き出す戦闘エコシステムをどのように構築するかを明らかにしている。JWCは、統合軍の対立、抑止、紛争への取り組みを定義する包括的な教義である。我々は、海軍戦闘構想の作成を通じて、JWCへの海軍の貢献を明確にする。海軍戦闘構想は、統合能力を強化する方法、統合における溝を埋める場所、統合能力に依存する場所、および同盟国と提携国が統合された殺傷力の提供にどのように役立つかである。この構想は、海軍の構成要素と艦隊が統合指針を海上領域に翻訳する方法、および海軍が生み出す海上効果が統合戦闘にどのように翻訳されるかを強化する。海軍戦闘構想は、海軍が統合して、いつでもどこでもシー・コントロール、シー・ディナイアル、および戦力投射を実現する方法を明確にする。
b. 我々は艦隊として戦う
海軍は、統合軍、同盟国、提携国によって可能となり、相互に支援される、海底から宇宙までの戦闘エコシステムで戦っている。分散型海上作戦は、海軍が提供する多様な能力と海兵隊との独自の提携を活用する艦隊戦術を表している。海軍戦闘構想が海軍の作戦統合を統合軍という上と統合軍、同盟国および提携国という外で表しているのに対し、分散型海上作戦は海軍の艦隊戦術を下と内で表している。分散型海上作戦とは、艦隊を分散させながら効果を集中させることを意味する。この取り組みでは、時間、範囲、空間にわたって、人、艦艇・航空機、弾薬、データを分散、統合、操作する必要がある。この戦いを支援するには、新しい運用方法が必要である。情報優位性は、この新しい形態の機動戦の重要な実現要因であり、敵が我々の部隊を発見し、位置を特定し、攻撃する能力を混乱させる。その際、我々は同盟国や提携国を積極的に構想に取り入れ、効果的に戦うために必要な戦術的相互運用性を推進する。この分散型戦闘の中心にあるのは、海軍の艦隊レベルの指揮統制への取り組みであるMaritime Operations Center(海上作戦センター:以下、MOCという)である。MOCとそれが実行する過程は、艦隊がデータを情報に変換して指揮官に意思決定上の優位性をもたらす手法である。MOCは、統合部隊、同盟国、提携国と統合して、艦隊指揮官を戦場全体に分散されたさまざまなセンサー、シューター、エフェクターに接続できる必要がある。機動性、分散性、情報中心の戦闘を統合するには、MOCを武器システムとして扱う必要がある。我々の部隊(人員と艦艇・航空機・車両等、戦術と連絡網)は、分散、統合、機動が可能な艦隊を提供します。従来の戦略統合からサイバーおよび宇宙能力まで、我々は地球上のどこにでも決定的な効果をもたらすことができる海軍を運営している。我々の海軍力の要は我々の人材である。彼らは空母打撃群、遠征打撃群、航空機、船舶、潜水艦を運用し、海からの信頼できる戦闘力を定義します。これらの高度な機能は真空中で存在するものではない。我々は、ロボットと自律的な戦争で革新を続け、情報戦能力を拡大して決定の優位性を確保する。これらすべては、情報戦士、遠征水兵、海軍コマンドー、兵站担当者、商船乗組員、医療提供者、牧師などを含む我々の戦闘員によって可能になっている。
c. 我々は戦闘者集団を構築する
戦闘員は海軍の非対称的な優位性である。我々は、訓練と学習に絶え間なく焦点を当てることで、現役および予備役の水兵、海軍の民間人から成る比類のない戦闘チームを構築している。海軍のCulture of Excellence 2.0構想を通じて、競争、危機、戦争に勝つために必要な優れた指導者、優れた人材、優れたチームを構築している。これらの計画が植え付ける姿勢と粘り強さにより、チームメイトがいつでも呼び出しに応じられるようにすることで、より多くの戦士を戦場に送り出すことができる。
(4) 我々はいかにして加速するか
我々はより迅速に行動する。海軍は、以前のNavigation Planで戦闘上の優位性をもたらすための正しい進路を定めてきた。ただし、いくつかの重要な領域では、現在必要な即応部隊を提供するための取り組みを加速する必要がある。短期的な即応性を達成するためだけに海軍の将来を犠牲にすることはない。今日の我々の仕事は、第34代海軍作戦部長が引き継ぐ海軍になるため、戦略的規律を働かせなければならない。変化する世界に適応するために、プロジェクト33の実施と統合戦闘エコシステムへの海軍の貢献を拡大する。
a. プロジェクト33の実施
2027年までに7つの目標に向けて加速するのが「プロジェクト33」である。我々の取り組みを導くために、我々は次の目標を設定した。2027年までに、海軍は統合軍の一員として持続的な戦闘にさらに備え、中華人民共和国をU.S. Navyが目指すべき能力や戦力組成・態勢を規定する脅威として優先し、統合戦闘エコシステムの実現に重点を置く。目標を達成するということは、決定的な戦闘作戦を遂行するために必要な準備の整った人員、艦船・航空機、武器、MOCを備え、関連する作戦計画を実行するという義務を果たすことを意味する。それは、統合戦闘コンセプトにおける中心的役割に適した部隊をいかに準備し、革新し、指揮し、募集し、維持し、訓練し、支援するかに重点を置き、その成果を達成するために部隊を組織し、訓練し、装備することを意味する。これらの目標を達成するには、全員の努力が必要である。そのためには、次の分野でプロジェクト33の目標達成を加速する必要がある。
b. 戦闘
艦艇・航空機の準備の唯一の責任者は、海軍作戦副部長である。
理想的な状況であれば、いかなる時点においても、我が国の艦艇および攻撃型潜水艦の3分の1は整備中、3分の1は訓練中、3分の1は配備中または配備準備が整っている必要がある。したがって、整備時間の超過は、戦力の配備線表を混乱させ、いつでも抑止力と戦闘態勢を整えている艦隊の規模を縮小させる。我が国の艦艇・航空機の戦闘増派準備態勢を劇的に向上させるためには、艦艇・航空機を修理予定線表どおりに修理を実施する必要がある。さらに、戦力を整えるために、訓練、人員配置、近代化、維持管理に対する新たな取り組みを採用する必要がある。2027年までに、我が国は艦艇、潜水艦、航空機の80%の戦闘増派準備態勢を達成し、維持する。
ロボットと自律システムの運用上の統合の単一の責任者は、海軍作戦本部N9(戦闘所要/戦闘能力)部長である。
黒海と紅海における艦隊での実験と現実の世界で展開する事象から得た広範な知識に基づき、我々は、破壊的かつ新興の新たな技術を通じて、従来型の有人艦隊の到達範囲、回復力、殺傷力を拡大、拡張、強化する機会を得ている。海軍がその機会を生かすために真のハイブリッド艦隊の実現に取り組む中、短期的な運用上の課題は、実績のあるロボットと自律機能をできるだけ早く統合することを求めている。2027年までに、実績のあるロボットと自律システムを統合し、それらを採用する指揮官が日常的に使用できるようにする。この革新の次の段階では、監視、射撃、ネットワーク、ロジスティクス、欺瞞などの重要な任務領域にわたる主要な運用上の問題を優先する。
MOCからの戦闘の責任者は、海軍作戦本部N2/N6(情報戦)部長である。
我々は、情報中心の戦場に対する我々の理解が、いかなる敵よりもはるかに進んでいることを常に確実にしなければならない。分散戦闘とは、指揮官が理解し、指揮するより複雑で統合された複合領域戦を意味する。準備の整ったMOCを通じて、我々は情報と意思決定の優位性を拡大し、危機や紛争において主導権を維持する。2027年までに、U.S. Pacific Fleetを皮切りに、すべての艦隊司令部にはMOC訓練指導班による評価に基づき、指揮統制、情報、諜報、射撃、移動と機動、防護、維持の各機能において認定され、熟練したMOCが常駐することになる。
c. 戦闘員
有能な人材を採用し、維持する。唯一の責任者は、海軍作戦本部N1(人事、人員、訓練)部長である。
航空機、船舶、潜水艦、機動作戦本部、整備センター、診療所、ブートキャンプ、教育機関は、適切な人材を配置できなければ機能しない。2027年までに、海軍の現役および予備役の定員充足率100%を達成し、展開部隊に認可された定員の95%を配置し、戦略的縦深動員定員の100%を埋め、補充募集の充足率100%と遅延入隊計画(Delayed Entry Program)態勢50%を達成する。
海軍の下士官兵にふさわしい質の高い軍務を付与する唯一の責任者は、海軍作戦副部長である。
我々は、犠牲に見合った質の高い軍務を与えることで、海軍の下士官兵、特に下級下士官兵により良いサービスを提供する。我々が直面している厳しい採用環境を考えると、我々が下士官兵に提供できなかったために海軍を去る者を一人でも出す余裕はない。
戦闘員の能力に投資する単一の責任者は、海軍作戦本部N9(戦闘所要/戦闘能力)部長である。
戦争に勝つためには、海軍は高度な戦術を習得し、操作員の資格認定基準を引き上げ、即応性を生み出すための統合された分散型訓練機能が必要である。我々はどのように訓練するかで戦う。そして、実戦部隊、仮想環境、建設的シナリオ(live forces, virtual environments, and constructive scenarios:以下、LVCと言う)の使用を総合的に訓練する、より優れた方法が必要である。2027 年までに、信頼性が高く、現実的で、関連性があり、記録可能な LVC 対応機構が実現し、海軍の戦闘員が統合および十分な情報に基づく訓練環境で高度な戦闘を成功裏に遂行できるようになる。LVCは地理的な場所に関係なく利用できるため、配備されているか埠頭のそばかを問わず、どこでも戦術的熟練度を高めることができる。
d. 戦闘力を生み出し、維持し、態勢を整える重要な基幹施設を復旧する唯一の責任者は、海軍作戦本部N4(施設および後方)部長
紛争が発生した場合、即応部隊を編成し維持するために、我々は施設、乾ドック、その他の施設の世界規模のネットワークに依存している。基幹施設の劣化は、中核任務を遂行する能力に悪影響を及ぼす。2027年までに、太平洋での作戦即応性を向上させるために、海軍の任務上重要な資産を直接支援する基幹施設を修復するための資源を評価、優先順位付け、計画を行う。
e. 統合戦闘コンセプトへの海軍の貢献を拡大する
このNavigation Plan 2024のすべての目標を達成し、今日、2027年、そしてそれ以降も戦い、勝利するために必要な人材と能力を配備する必要がある。可能な限り加速するとともに、これまでの指針で示された重要な能力と促進要因を強化するために、すでに進められている重要な作業も継続する。Navigation Plan 2022では、海軍の戦闘エコシステムに不可欠な4つの能力と4つの促進要因が特に取り上げられている。我々は、シー・ディナイアルにおける商用ロボットおよび自律システムの価値に関する最新の理解を反映するために、9番目の重点分野を追加する。これらの5つの主要な能力と4つの主要な促進要因(「5+4」)は、永続的な戦闘上の優位性をもたらす海軍の中核的な取り組みを今も反映している。これらは次のとおりである。
5つの主要な機能:
・長距離射撃―射撃方法
・非伝統的な海上拒否―拒否方法
・対C5ISRT―機動方法
・最終防衛―防御方法
・競合する後方支援―持続方法
4つの主要な実現要因:
・ライブ、仮想、建設的―訓練方法
・海軍の運用機構―意思疎通方法
・人工知能―先手を打つ方法
・ロボット自律システム―拡張方法
これらの主要な機能と促進要因に個別に重点を置くと同時に、統合された同期開発サイクルの文脈でこれらの取り組みを同期および評価する能力も強化する。適切な目標への投資を行うことで、適切な時宜、規模、経費で、戦闘員対応能力の適切な均衡を確実に提供する。確立された指針と同様に、以前のNavigation Planに基づいて開始されたすべての追加の取り組みにも引き続き取り組んでいく。
(5) 2027年以降
「敵は、我が国の伝統的な強さの源泉を克服するために軍隊を設計した。我々は、迅速に行動して、常に先頭に立ち、戦闘上の優位性を継続的に生み出さなければならない…我々は、より多くの戦士を戦場に送り込む。適切な機能、武器、維持管理を備えた艦艇・航空機、そして適切な技能、ツール、訓練、心構えを備えた人材である。」Navigation Plan 2024は、その課題に対処するための進路と進捗速度を示している。大変な作業ではあるが、やり遂げれば、今日準備ができていて、明日には圧倒的な優位性を達成できる態勢が整った海軍を実現できる。2027年までに海軍の即応性を高めること自体が目的ではない。我々は、ある特定の時点のために部隊を「最適化」するつもりはない。本質的に、それは今日我々が取り組んでいる課題を再現する危険性がある。代わりに、プロジェクト33とその後のNavigation Planの一連の流れを通じて、海軍の即応性の基準を恒久的に引き上げ、海軍に関わる人材の即応性も含め、迅速に適応し、技術的に熟練し、相互に連携する敵との戦争の変化する性質に対処する。状況を把握した後、私は第33代海軍作戦部長としての焦点の多くは、海軍の短期的な即応性を優先することに向けられる必要があることを理解した。この優先順位付けは、歴史の瞬間と制約に応じたものである。即応性は私の指針であり、海軍将兵、民間人、海軍の家族、統合軍の構成員、そして私が仕える国家に対する私の中心的な誓約であり続ける。しかし、私は未来の良き管理者であることにも責任がある。プロジェクト33の背後にある動機は、過去と未来の海軍指導者の連続体における私の立場に由来しており、各海軍大将には任期を超えて存続する構想を明確にする義務があることを思い起こさせる。私は、我々が実現しなければならないとわかっている将来の海軍の思慮深い青写真を持って第33代海軍作戦部長の職を去る。この青写真は、進行中の戦力設計2045構想と新しい海軍戦闘構想のおかげで、すでに開発中である。将来の海軍を創設する上で重要な提携者である議会、業界、統合軍、同盟国と提携国はすべて、我々の要求に応える前に海軍の構想を明確にすることを要求している。一貫性と確固たる協力により、我々は国家が必要とする海軍を実現するために協力できると確信している。我々の海軍は戦略ビジネスに真剣である。この将来の軍隊を形作るために現在進行中の分析、戦争ゲーム、シミュレーション、シナリオに対する答えを前提としているわけではないが、将来が築かなければならない根本的な要請はわかっている。我々は、強靭な海上作戦センターを通じて、情報戦の厳しい環境で、広大な距離にわたって分散した有人およびロボットプラットフォームを指揮および統合する必要がある。紛争海域で分散したハイブリッド艦隊に兵站を供給することは困難である。海上での隠密生の保持はより困難で複雑になってきている。海軍の防御は海軍の攻撃よりも困難である。戦争の進展の速度は加速している。それが我々の戦闘エコシステムに何を意味するのか、我々は積極的に学んでいる。アメリカは、侵略を抑止し、国家安全保障上の利益を守り、我々の生活様式を守るために我々を頼りにしている。適切な手段、勝利への心構え、最高の誠実さをもって、我々はチームとして安全に活動し、優れた戦闘を提供する。我々は解決策を見つけ、進路を決めた。今こそ目的と緊急性を持って行動する時である。
記事参照:Navigation Plan FOR AMERICA’S WARFIGHTING NAVY 2024
関連文書1:“AMERICAS WARFIGHTING NAVY”
https://media.defense.gov/2024/Jan/09/2003372761/-1/-1/1/AMERICAS%20WARFIGHTING%20NAVY.PDF
ADM. LISA M. FRANCHETTI, CNO U.S. Navy
関連文書2:7月26日「空母航空戦力は分散海洋作戦に不可欠である―米専門家論説」(19FortyFive, July 26, 2022)
https://www.spf.org/oceans/analysis_ja01/_20220721.html
要旨は以下のとおりである
(1) 前言
2024年1月、私は“America’s Warfighting Navy”を発表し、我々の海軍に対する私の統一構想を伝えた。このNavigation Planは、“America’s Warfighting Navy”で示した構想を基に、海軍に対する私の戦略的指針である。Navigation Plan 2022は、戦闘における優位に向け、 18の重要な取り組み方針を概説している。しかし、どんな長い旅でもそうであるように、我々は進路と速度を調整する準備もしなければならない。予測に遅れている場合もある。また、世界が我々に選択した道の再評価を強いる場合もある。以前の指針で概説された構想は、目的を持って緊急に継続する必要がある。しかし、我々の現在の位置から見える、加速する必要がある7つの領域、それは「プロジェクト33」の目標と呼ぶもので、時間と資源を投入して成果を上げようとする領域である。これらの目標は、危機や紛争に備えるために 2027年までに部隊全体の準備態勢を高めるという目的に焦点を当てている。Navigation Plan 2024は、2027年までに中華人民共和国との戦争の可能性に備えること、および海軍の長期的な優位を高めることという2つの戦略的目標に向かっている。我々は、「プロジェクト33」の実施と統合戦闘エコシステムへの海軍の貢献の拡大という、相互に補強し合う2つの方法を通じて、これらの目標に向けて取り組んでいく。「プロジェクト33」の7つの目標は次のとおりである
・艦船、潜水艦、航空機の整備の遅れを排除し、部隊を準備し、より多くの艦艇、航空機を迅速に統合するため、ロボットおよび自律システムを拡張する。
・分散した戦場で勝利するために艦隊が必要とする指揮中枢を構築する。
・戦場においてより必要とする多くの将兵を確保する部隊を募集し、維持する
・海軍将兵の自己犠牲に見合った質の高い軍務を提供する
・現実世界と仮想世界で戦うことを計画し、戦闘訓練を行う
・陸上からの戦いを維持し、展開する重要な基幹施設を復旧する
「プロジェクト33」は新たな目標を設定するが、その目標を達成するために新たな手段は必要ない。我々は、速度を落とさずに前進するために、我々が持っている手段と資源を使用して成果を上げていく。我々は、統合戦闘エコシステムへの海軍の貢献を拡大する。このエコシステムへの海軍の貢献を拡大するためにすでに進行中の作業を継続し、海軍の幕僚組織の作業を戦闘員と戦闘艦隊の所用によりよく合わせることを含める。今、我々は先人たちが示したのと同じ戦略的規律、勇気、団結を結集しなければならない。そして、我々は必ず勝利できると確信している。機敏性は事前によく考えておくことで生まれ、無駄にする時間はない。
(2) 更新の理由
海軍は、学習能力と適応力を備えた敵に先んじ続けると同時に、艦船、潜水艦、航空機の建造、採用、軍需品の生産、ソフトウェアの取得、基幹施設、艦艇・航空機の保守といった、部隊にとっての根本的な課題に取り組まなければならない。Navigation Plan 2024は、そのための戦略的指針である。今日、安全保障環境の変化、戦争の技術的特徴の変化、以前のNavigation Planの目標達成の進捗、産業的および予算的制約の認識が、これまでのNavigation Planを更新し、米国の戦う海軍に向けた指針とする根拠である。
a. 安全保障環境
中華人民共和国(以下、中国と言う)の主席は、2027年までに中国軍に戦争準備を整えるよう指示しており、多領域精密戦争、グレーゾーンおよび経済作戦、軍民両用基幹施設および海上民兵のような軍民両用部隊の拡大、核兵器の増強などの作戦構想を通じて、中国は複雑な多領域および多方面の枢軸の脅威を提示している。傷つき、孤立したロシアは依然として危険である。ロシアによるウクライナ侵攻は世界的な非難を呼び、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を促した。しかし、戦場ではロシアは学習し、技術的にも戦術的にもウクライナの革新に適応してきた。ロシア、中国、イラン、北朝鮮は連携を強化し、米国、その同盟国、情報分野の提携国を積極的に狙っている。ロシアの艦隊は北極海、大西洋、地中海、バルト海、北太平洋で戦闘力を維持している。ロシア政府はまた、世界最大の核備蓄を保有している。我々は、欧州大西洋地域で同盟国や提携国とともに、信頼できる抑止力を支援し続けなければならない。高度に、かつ相互に関連した脅威は平和を脆いものにする。2023年のハマスのイスラエル攻撃では、中東全域に海軍を配置する必要があった。フーシ派は、紅海の重要な難所であるバブ・エル・マンデブ海峡沿いの商船を標的にし、海軍将兵を最も執拗な敵の攻撃にさらしている。これらの出来事は、安全保障環境が目に見えるつながりと目に見えないつながりを通じていかに急速に変化するか、そして我が国の意思決定者に柔軟な選択肢を提供するために海軍がいかに不可欠であるかを証明している。Navigation Plan 2024は、2027年までに中華人民共和国との戦争の可能性に備えることと、海軍の長期的な優位を強化するという2つの戦略的目的に向かっている。我々は、「プロジェクト33」の実施と統合戦闘エコシステムへの海軍の貢献の拡大という、相互に補強し合う2つの方法を通じて、これらの目的に向けて取り組む。
b. 技術
過去2年間で戦場の技術革新が飛躍的に進み、戦争の様相が変化しつつあることに重大な影響が及んでいる。より安価で利用しやすい技術により、国家・非国家主体を問わず、非対称能力がより低コストで実現している。我々は革新の循環を活性化し、海軍は現在、ロボットおよび自律システムの運用化において統合部隊を牽引している。海軍は2024年に下士官のロボット戦の特技の等級を確立し、士官団でロボットの専門知識をどのように育成するかを検討している。この革新の短期的な循環により、我々は短期的な課題に対応し、阻止し、打ち負かすことがでる。統合参謀本部議長C.Q. Brown空軍大将が言うように、「変化を加速しなければ負ける」が、我々は負けるつもりはない。同時に、将来のハイブリッド艦隊を定義する長期的な実験を追求している。ロボットと自律システムが多目的の通常戦力を補強することで、有人・無人の海軍部隊の到達範囲、抗堪性、および殺傷力を拡大する機会が得られることはわかっている。将来に向けてその部隊を構築するにあたり、我々は現在、より大規模なロボットシステムの概念と要件の分析、および複雑で情報中心の戦場を感知して理解するのに役立つ人工知能アプリケーションに取り組んでいる。
c. 我々の進歩
我々は、国家が必要とする海軍を追求し続ける一方で、現在の海軍でより多くの価値を提供するための手段と考え方を取り入れてきた。少なくとも20年間、海軍の需要は供給を常に上回っている。これは紛争の時期にも当てはまるが、対立や危機の時期にも同様である。需要と供給の不一致に対して、我々の軍隊は代償を払っている。それは、艦艇の艦齢が高くなり、運用経費が嵩み、乗組員に多くの要求が課せられ、保守整備に時間がかかり、予定が把握し難く、経費がかかることある。我々は、これらの課題を考慮して、我々が保有する資源に対して責任ある管理を行うために全力を尽くしている。我々は海軍の未来に焦点を当てている。我々の戦力設計の取り組みの成果を通じて、我々の選択が2045年以降の海軍をどのように形作るかを理解しながら、今日の戦闘の課題に取り組んでいる。現在取り組んでいる構想と制度は、数十年後の艦隊を同様に形作るだろう。戦争の変化する性質に合わせながら、将来の軍隊の詳細を正しく把握する必要がある。
d. 我々の制約
海軍は、より大規模で、より強力な戦力が必要であることを強く認識している。2023年6月に最後に評価された381隻の戦闘艦艇と潜水艦に加えて、航空機、弾薬、人員、データ、活動領域、および選択した時間と場所で戦闘力を集中できる世界的な艦隊を生み出すすべての有効な能力も含める必要がある。また、統合部隊、同盟国、提携国との切れ目のない統合も意味する。我々は引き続き議会と協力して、より大規模で強力な戦力を提供するために必要な予算の伸びを確保するが、資源がなければ、即応性、能力、容量の順序で優先し続ける。艦隊の適正規模化は、海軍、議会、および業界にとって、世代にわたる計画となる。艦隊におけるロボットおよび自律システムの役割を増やしても、任務を果たすためには、引き続き海軍将兵と民間人の豊富な人材が必要である。現在および将来の戦争への備えを強化するために艦隊を近代化する能力に対する深刻な戦略的制約に直面することになる。Navigation Plan 2024は、短期的な予算と産業の現実を考慮した即応性と能力に対する現在の重点を反映しており、平和を維持し、危機に対応し、戦争で決定的に勝利するために必要な海軍の戦力構造のあらゆる側面を拡大するために必要な資源を継続的に主張している。
(3) いかに戦うか
我々のNavigation Planは、高水準で情報を中枢に据えた世界的な戦場で制海権を獲得し、活用するためにどのように戦うかという明確な展望に基づいている。統合軍、同盟国、提携国とともに、我々はあらゆる領域を切れ目なく感知し、標的とし、我々が選択した時間と場所で効果を収束させる必要がある。我々が戦う理由は変わっていないが、戦い方は変わった。そして、それは我々が何を使って戦うかを知らせなければならない。我々は統合および同盟国および提携国との共同を通じて軍を統合し、艦隊を戦闘エコシステムとして運用し、戦闘の激しさに備えた戦闘員を育成するという我々の関与を強化している。
a. 我々は統合する
統合軍および連合軍の一員として活動することで、抑止力を確立し、戦争に勝利することができる。本土防衛における国防の指針は明確である。中国はU.S. Navyが目指すべき能力や戦力組成・態勢を規定する脅威であり、ロシアは深刻な脅威である。統合戦闘構想(Joint Warfighting Concept:以下、JWCと言う)は、統一された力としてこれらの対立する競争相手を抑止し、打破するよう求め、各軍の能力を最大限に引き出す戦闘エコシステムをどのように構築するかを明らかにしている。JWCは、統合軍の対立、抑止、紛争への取り組みを定義する包括的な教義である。我々は、海軍戦闘構想の作成を通じて、JWCへの海軍の貢献を明確にする。海軍戦闘構想は、統合能力を強化する方法、統合における溝を埋める場所、統合能力に依存する場所、および同盟国と提携国が統合された殺傷力の提供にどのように役立つかである。この構想は、海軍の構成要素と艦隊が統合指針を海上領域に翻訳する方法、および海軍が生み出す海上効果が統合戦闘にどのように翻訳されるかを強化する。海軍戦闘構想は、海軍が統合して、いつでもどこでもシー・コントロール、シー・ディナイアル、および戦力投射を実現する方法を明確にする。
b. 我々は艦隊として戦う
海軍は、統合軍、同盟国、提携国によって可能となり、相互に支援される、海底から宇宙までの戦闘エコシステムで戦っている。分散型海上作戦は、海軍が提供する多様な能力と海兵隊との独自の提携を活用する艦隊戦術を表している。海軍戦闘構想が海軍の作戦統合を統合軍という上と統合軍、同盟国および提携国という外で表しているのに対し、分散型海上作戦は海軍の艦隊戦術を下と内で表している。分散型海上作戦とは、艦隊を分散させながら効果を集中させることを意味する。この取り組みでは、時間、範囲、空間にわたって、人、艦艇・航空機、弾薬、データを分散、統合、操作する必要がある。この戦いを支援するには、新しい運用方法が必要である。情報優位性は、この新しい形態の機動戦の重要な実現要因であり、敵が我々の部隊を発見し、位置を特定し、攻撃する能力を混乱させる。その際、我々は同盟国や提携国を積極的に構想に取り入れ、効果的に戦うために必要な戦術的相互運用性を推進する。この分散型戦闘の中心にあるのは、海軍の艦隊レベルの指揮統制への取り組みであるMaritime Operations Center(海上作戦センター:以下、MOCという)である。MOCとそれが実行する過程は、艦隊がデータを情報に変換して指揮官に意思決定上の優位性をもたらす手法である。MOCは、統合部隊、同盟国、提携国と統合して、艦隊指揮官を戦場全体に分散されたさまざまなセンサー、シューター、エフェクターに接続できる必要がある。機動性、分散性、情報中心の戦闘を統合するには、MOCを武器システムとして扱う必要がある。我々の部隊(人員と艦艇・航空機・車両等、戦術と連絡網)は、分散、統合、機動が可能な艦隊を提供します。従来の戦略統合からサイバーおよび宇宙能力まで、我々は地球上のどこにでも決定的な効果をもたらすことができる海軍を運営している。我々の海軍力の要は我々の人材である。彼らは空母打撃群、遠征打撃群、航空機、船舶、潜水艦を運用し、海からの信頼できる戦闘力を定義します。これらの高度な機能は真空中で存在するものではない。我々は、ロボットと自律的な戦争で革新を続け、情報戦能力を拡大して決定の優位性を確保する。これらすべては、情報戦士、遠征水兵、海軍コマンドー、兵站担当者、商船乗組員、医療提供者、牧師などを含む我々の戦闘員によって可能になっている。
c. 我々は戦闘者集団を構築する
戦闘員は海軍の非対称的な優位性である。我々は、訓練と学習に絶え間なく焦点を当てることで、現役および予備役の水兵、海軍の民間人から成る比類のない戦闘チームを構築している。海軍のCulture of Excellence 2.0構想を通じて、競争、危機、戦争に勝つために必要な優れた指導者、優れた人材、優れたチームを構築している。これらの計画が植え付ける姿勢と粘り強さにより、チームメイトがいつでも呼び出しに応じられるようにすることで、より多くの戦士を戦場に送り出すことができる。
(4) 我々はいかにして加速するか
我々はより迅速に行動する。海軍は、以前のNavigation Planで戦闘上の優位性をもたらすための正しい進路を定めてきた。ただし、いくつかの重要な領域では、現在必要な即応部隊を提供するための取り組みを加速する必要がある。短期的な即応性を達成するためだけに海軍の将来を犠牲にすることはない。今日の我々の仕事は、第34代海軍作戦部長が引き継ぐ海軍になるため、戦略的規律を働かせなければならない。変化する世界に適応するために、プロジェクト33の実施と統合戦闘エコシステムへの海軍の貢献を拡大する。
a. プロジェクト33の実施
2027年までに7つの目標に向けて加速するのが「プロジェクト33」である。我々の取り組みを導くために、我々は次の目標を設定した。2027年までに、海軍は統合軍の一員として持続的な戦闘にさらに備え、中華人民共和国をU.S. Navyが目指すべき能力や戦力組成・態勢を規定する脅威として優先し、統合戦闘エコシステムの実現に重点を置く。目標を達成するということは、決定的な戦闘作戦を遂行するために必要な準備の整った人員、艦船・航空機、武器、MOCを備え、関連する作戦計画を実行するという義務を果たすことを意味する。それは、統合戦闘コンセプトにおける中心的役割に適した部隊をいかに準備し、革新し、指揮し、募集し、維持し、訓練し、支援するかに重点を置き、その成果を達成するために部隊を組織し、訓練し、装備することを意味する。これらの目標を達成するには、全員の努力が必要である。そのためには、次の分野でプロジェクト33の目標達成を加速する必要がある。
b. 戦闘
艦艇・航空機の準備の唯一の責任者は、海軍作戦副部長である。
理想的な状況であれば、いかなる時点においても、我が国の艦艇および攻撃型潜水艦の3分の1は整備中、3分の1は訓練中、3分の1は配備中または配備準備が整っている必要がある。したがって、整備時間の超過は、戦力の配備線表を混乱させ、いつでも抑止力と戦闘態勢を整えている艦隊の規模を縮小させる。我が国の艦艇・航空機の戦闘増派準備態勢を劇的に向上させるためには、艦艇・航空機を修理予定線表どおりに修理を実施する必要がある。さらに、戦力を整えるために、訓練、人員配置、近代化、維持管理に対する新たな取り組みを採用する必要がある。2027年までに、我が国は艦艇、潜水艦、航空機の80%の戦闘増派準備態勢を達成し、維持する。
ロボットと自律システムの運用上の統合の単一の責任者は、海軍作戦本部N9(戦闘所要/戦闘能力)部長である。
黒海と紅海における艦隊での実験と現実の世界で展開する事象から得た広範な知識に基づき、我々は、破壊的かつ新興の新たな技術を通じて、従来型の有人艦隊の到達範囲、回復力、殺傷力を拡大、拡張、強化する機会を得ている。海軍がその機会を生かすために真のハイブリッド艦隊の実現に取り組む中、短期的な運用上の課題は、実績のあるロボットと自律機能をできるだけ早く統合することを求めている。2027年までに、実績のあるロボットと自律システムを統合し、それらを採用する指揮官が日常的に使用できるようにする。この革新の次の段階では、監視、射撃、ネットワーク、ロジスティクス、欺瞞などの重要な任務領域にわたる主要な運用上の問題を優先する。
MOCからの戦闘の責任者は、海軍作戦本部N2/N6(情報戦)部長である。
我々は、情報中心の戦場に対する我々の理解が、いかなる敵よりもはるかに進んでいることを常に確実にしなければならない。分散戦闘とは、指揮官が理解し、指揮するより複雑で統合された複合領域戦を意味する。準備の整ったMOCを通じて、我々は情報と意思決定の優位性を拡大し、危機や紛争において主導権を維持する。2027年までに、U.S. Pacific Fleetを皮切りに、すべての艦隊司令部にはMOC訓練指導班による評価に基づき、指揮統制、情報、諜報、射撃、移動と機動、防護、維持の各機能において認定され、熟練したMOCが常駐することになる。
c. 戦闘員
有能な人材を採用し、維持する。唯一の責任者は、海軍作戦本部N1(人事、人員、訓練)部長である。
航空機、船舶、潜水艦、機動作戦本部、整備センター、診療所、ブートキャンプ、教育機関は、適切な人材を配置できなければ機能しない。2027年までに、海軍の現役および予備役の定員充足率100%を達成し、展開部隊に認可された定員の95%を配置し、戦略的縦深動員定員の100%を埋め、補充募集の充足率100%と遅延入隊計画(Delayed Entry Program)態勢50%を達成する。
海軍の下士官兵にふさわしい質の高い軍務を付与する唯一の責任者は、海軍作戦副部長である。
我々は、犠牲に見合った質の高い軍務を与えることで、海軍の下士官兵、特に下級下士官兵により良いサービスを提供する。我々が直面している厳しい採用環境を考えると、我々が下士官兵に提供できなかったために海軍を去る者を一人でも出す余裕はない。
戦闘員の能力に投資する単一の責任者は、海軍作戦本部N9(戦闘所要/戦闘能力)部長である。
戦争に勝つためには、海軍は高度な戦術を習得し、操作員の資格認定基準を引き上げ、即応性を生み出すための統合された分散型訓練機能が必要である。我々はどのように訓練するかで戦う。そして、実戦部隊、仮想環境、建設的シナリオ(live forces, virtual environments, and constructive scenarios:以下、LVCと言う)の使用を総合的に訓練する、より優れた方法が必要である。2027 年までに、信頼性が高く、現実的で、関連性があり、記録可能な LVC 対応機構が実現し、海軍の戦闘員が統合および十分な情報に基づく訓練環境で高度な戦闘を成功裏に遂行できるようになる。LVCは地理的な場所に関係なく利用できるため、配備されているか埠頭のそばかを問わず、どこでも戦術的熟練度を高めることができる。
d. 戦闘力を生み出し、維持し、態勢を整える重要な基幹施設を復旧する唯一の責任者は、海軍作戦本部N4(施設および後方)部長
紛争が発生した場合、即応部隊を編成し維持するために、我々は施設、乾ドック、その他の施設の世界規模のネットワークに依存している。基幹施設の劣化は、中核任務を遂行する能力に悪影響を及ぼす。2027年までに、太平洋での作戦即応性を向上させるために、海軍の任務上重要な資産を直接支援する基幹施設を修復するための資源を評価、優先順位付け、計画を行う。
e. 統合戦闘コンセプトへの海軍の貢献を拡大する
このNavigation Plan 2024のすべての目標を達成し、今日、2027年、そしてそれ以降も戦い、勝利するために必要な人材と能力を配備する必要がある。可能な限り加速するとともに、これまでの指針で示された重要な能力と促進要因を強化するために、すでに進められている重要な作業も継続する。Navigation Plan 2022では、海軍の戦闘エコシステムに不可欠な4つの能力と4つの促進要因が特に取り上げられている。我々は、シー・ディナイアルにおける商用ロボットおよび自律システムの価値に関する最新の理解を反映するために、9番目の重点分野を追加する。これらの5つの主要な能力と4つの主要な促進要因(「5+4」)は、永続的な戦闘上の優位性をもたらす海軍の中核的な取り組みを今も反映している。これらは次のとおりである。
5つの主要な機能:
・長距離射撃―射撃方法
・非伝統的な海上拒否―拒否方法
・対C5ISRT―機動方法
・最終防衛―防御方法
・競合する後方支援―持続方法
4つの主要な実現要因:
・ライブ、仮想、建設的―訓練方法
・海軍の運用機構―意思疎通方法
・人工知能―先手を打つ方法
・ロボット自律システム―拡張方法
これらの主要な機能と促進要因に個別に重点を置くと同時に、統合された同期開発サイクルの文脈でこれらの取り組みを同期および評価する能力も強化する。適切な目標への投資を行うことで、適切な時宜、規模、経費で、戦闘員対応能力の適切な均衡を確実に提供する。確立された指針と同様に、以前のNavigation Planに基づいて開始されたすべての追加の取り組みにも引き続き取り組んでいく。
(5) 2027年以降
「敵は、我が国の伝統的な強さの源泉を克服するために軍隊を設計した。我々は、迅速に行動して、常に先頭に立ち、戦闘上の優位性を継続的に生み出さなければならない…我々は、より多くの戦士を戦場に送り込む。適切な機能、武器、維持管理を備えた艦艇・航空機、そして適切な技能、ツール、訓練、心構えを備えた人材である。」Navigation Plan 2024は、その課題に対処するための進路と進捗速度を示している。大変な作業ではあるが、やり遂げれば、今日準備ができていて、明日には圧倒的な優位性を達成できる態勢が整った海軍を実現できる。2027年までに海軍の即応性を高めること自体が目的ではない。我々は、ある特定の時点のために部隊を「最適化」するつもりはない。本質的に、それは今日我々が取り組んでいる課題を再現する危険性がある。代わりに、プロジェクト33とその後のNavigation Planの一連の流れを通じて、海軍の即応性の基準を恒久的に引き上げ、海軍に関わる人材の即応性も含め、迅速に適応し、技術的に熟練し、相互に連携する敵との戦争の変化する性質に対処する。状況を把握した後、私は第33代海軍作戦部長としての焦点の多くは、海軍の短期的な即応性を優先することに向けられる必要があることを理解した。この優先順位付けは、歴史の瞬間と制約に応じたものである。即応性は私の指針であり、海軍将兵、民間人、海軍の家族、統合軍の構成員、そして私が仕える国家に対する私の中心的な誓約であり続ける。しかし、私は未来の良き管理者であることにも責任がある。プロジェクト33の背後にある動機は、過去と未来の海軍指導者の連続体における私の立場に由来しており、各海軍大将には任期を超えて存続する構想を明確にする義務があることを思い起こさせる。私は、我々が実現しなければならないとわかっている将来の海軍の思慮深い青写真を持って第33代海軍作戦部長の職を去る。この青写真は、進行中の戦力設計2045構想と新しい海軍戦闘構想のおかげで、すでに開発中である。将来の海軍を創設する上で重要な提携者である議会、業界、統合軍、同盟国と提携国はすべて、我々の要求に応える前に海軍の構想を明確にすることを要求している。一貫性と確固たる協力により、我々は国家が必要とする海軍を実現するために協力できると確信している。我々の海軍は戦略ビジネスに真剣である。この将来の軍隊を形作るために現在進行中の分析、戦争ゲーム、シミュレーション、シナリオに対する答えを前提としているわけではないが、将来が築かなければならない根本的な要請はわかっている。我々は、強靭な海上作戦センターを通じて、情報戦の厳しい環境で、広大な距離にわたって分散した有人およびロボットプラットフォームを指揮および統合する必要がある。紛争海域で分散したハイブリッド艦隊に兵站を供給することは困難である。海上での隠密生の保持はより困難で複雑になってきている。海軍の防御は海軍の攻撃よりも困難である。戦争の進展の速度は加速している。それが我々の戦闘エコシステムに何を意味するのか、我々は積極的に学んでいる。アメリカは、侵略を抑止し、国家安全保障上の利益を守り、我々の生活様式を守るために我々を頼りにしている。適切な手段、勝利への心構え、最高の誠実さをもって、我々はチームとして安全に活動し、優れた戦闘を提供する。我々は解決策を見つけ、進路を決めた。今こそ目的と緊急性を持って行動する時である。
記事参照:Navigation Plan FOR AMERICA’S WARFIGHTING NAVY 2024
関連文書1:“AMERICAS WARFIGHTING NAVY”
https://media.defense.gov/2024/Jan/09/2003372761/-1/-1/1/AMERICAS%20WARFIGHTING%20NAVY.PDF
ADM. LISA M. FRANCHETTI, CNO U.S. Navy
関連文書2:7月26日「空母航空戦力は分散海洋作戦に不可欠である―米専門家論説」(19FortyFive, July 26, 2022)
https://www.spf.org/oceans/analysis_ja01/_20220721.html
9月19日「フィリピンの『積極的透明化』政策、効果的戦略とは言えず―フィリピン専門家論説」(The Diplomat, September 19, 2024)
9月19日付のデジタル誌The Diplomatは、シンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)大学院生でPhilippine Navy防衛分析官Vincent Kyle Paradaの“The Philippines Should Take Note:‘Assertive Transparency’ Is Not a Strategy””と題する論説を掲載し、ここでVincent Kyle Paradaは南シナ海における中国の威圧的行動を広く喧伝するフィリピンの「積極的透明化」政策は戦略としては限界があり、効果的でなくなってきているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海の緊張状況は変化している。中国がセカンド・トーマス礁(フィリピン名:アユンギ礁、中国名:仁愛礁)に座礁させた「シエラ・マドレ」に対するフィリピンの補給任務を妨害しないとする7月の「暫定合意」実現からわずか数週間後、中国政府は数十年にわたるフィリピン政府との海洋紛争で新たな戦線を確立しつつある。即ち、スカボロー礁(フィリピン名:パナタグ礁、中国名:黄岩島)で中国戦闘機がフィリピン航空機に対して危険な行動を採ったり、サビナ礁(フィリピン名:エスコダ礁、中国名:仙濱礁)周辺海域で中国海警船がPhilippine Coast Guard巡視船に衝突する事案が何件か発生したりした。フィリピン政府は「積極的透明化(“assertive transparency”)」政策を掲げて、これらの事案を大々的に喧伝し続けてきたが、中国はフィリピンが望んだような対応をしてこなかった。
(2) 外交政策の手法として、「名指し、恥をかかせる(“naming and shaming”)」政策は新奇なことではない。フィリピンはMarcos Jr.政権下の2023年から南シナ海での海難事案を公表し始めたが、その狙いは明快である。第1に世論を喚起して国土の強靭性を強化し、第2に同志国や「法に基づく秩序」の擁護国からの国際的支持を確保し、そして第3に中国の侵略的行為に対する非難を高めさせることである。実際、2023年のMarcos Jr.政権の考えでは、フィリピン政府の最大の利点がUNCLOSと南シナ海の係争海域に対する中国の広範な主張を無効とした2016年の仲裁裁判所の仲裁裁定にあったことは明らかである。したがって、「積極的透明化」政策は、論理的な政策上の選択肢であり、ある程度は機能してきた。しかし、問題は政策の成功が実際には南シナ海の現状に効果的な変化をもたらさなかったことである。「積極的透明化」政策を開始してから数ヵ月後、中国はその巨大な情報組織を運用し、膨大な偽情報を含む情報発信を通じてフィリピンの「積極的透明化」政策に対抗する言説能力を十二分に発揮した。
(3) 領有権紛争で既に地歩を固めた中国政府と異なり、フィリピン政府の立場は限りなく不安定である。フィリピンの当面の目標は、南沙諸島の残された海洋自然地形が中国によってさらに浸食されることを防ぎ、実効支配を維持することであった。そのために、フィリピン政府は、同盟国や提携諸国との多様な提携網を構築し、それらの集団的影響力が軍事的劣勢を相殺できることを期待した。しかしながら、フィリピンの戦略目標とそのための手段との摩擦が再び表面化する。Marcos jr.政権は、少国間主義を追求しながらも、米国の利益のために行動しているという疑惑を払拭するとともに、国家主権と領土保全を単独で維持できることを立証するためにも、中国に単独で対抗する必要性を痛感していた。実際、米国は過去数ヵ月間、「シエラ・マドレ」への補給支援を何度か申し出たが、フィリピン政府は一貫して断ってきた。米国や有志連合による補給支援は政策の選択肢だが、フィリピンが自立防衛態勢の構築に固執するのであれば、EEZに至るまでの自国管轄海域を独自に監視し、哨戒し、保護する能力を開発する必要がある。このためには、より多くの艦艇を取得することに加えて、南シナ海での恒久的な部隊の配備を確立する必要がある。
(4) 1999年に「シエラ・マドレ」をセカンド・トーマス礁に座礁させて以来、部隊の配備確立に向けた努力がなされてきた。さらにPhilippine Coast Guardは2024年4月、パラワン島沖を遊弋する中国船の増加に対応するため日本から供与された巡視船「テレサ・マグバヌア」をサビナ礁周辺海域に一時的な前哨拠点として滞留させた。しかしながら、セカンド・トーマス礁の事例と同様に、中国は、同船に体当たりか曳航するかによって、あるいは補給線を遮断することで、同船を現在位置から追い出し、その後、サビナ礁を急襲して、占拠するだけという事実に変わりがなかった。実際、「テレサ・マグバヌア」は 9月13日にサビナ礁から撤退している。艦船を前哨拠点として輪番制で配置することは論理的だし、フィリピン政府はそうしようとしている。しかしながら、利用可能な艦船不足から、これは単に艦船の損害を増やすだけで、長期的かつ持続可能な政策ではない。
(5) フィリピン政府は、中国政府に正面から立ち向かうのではなく、賢く戦う必要がある。南沙諸島に恒久的な前哨拠点がなければ、最優先課題は崩壊しつつある「シエラ・マドレ」を改修するとともに、Philippine Coast Guard船舶の長期的な海上展開を維持することである。理想的には、こうした一時的な前哨拠点は限定的な自給自足能力を持つべきで、そうすることで再補給の必要性を最小限に抑えられる。また、従来の海上補給が危険なことは実証済みであり、したがって、防衛計画立案者は新しい補給方法を考え出す必要がある。
(6) 要するに、フィリピンは中国に行動を修正させるために、国際的圧力というありそうにもない筋書きを期待するのではなく、自ら具体的な方策を考案し、実施しなければならない。現時点で、フィリピン当局が理解しなければならないのは、「積極的透明化」政策が飽和点に達しているということである。(他国との)防衛協力と能力開発は長期的には有益だが、現在のフィリピン政府に必要なことは、現場で苦労している軍や沿岸警備隊要員の勇気を支える意志である。「名指し、恥をかかせる」ことは極めて重要だが、常に国家安全保障というより広範な枠組みの下に組み込まれていなければならない。対話と外交は1つの要素であり、Armed Forces of the Philippinesの近代化はもう1つの要素である。しかしながら、実際に現場で中国の挑発行為に対応することこそ、フィリピン人、中国人あるいはそれ以外の人々の目から見ても、南シナ海での紛争の将来を左右するであろう。
記事参照:The Philippines Should Take Note: ‘Assertive Transparency’ Is Not a Strategy
(1) 南シナ海の緊張状況は変化している。中国がセカンド・トーマス礁(フィリピン名:アユンギ礁、中国名:仁愛礁)に座礁させた「シエラ・マドレ」に対するフィリピンの補給任務を妨害しないとする7月の「暫定合意」実現からわずか数週間後、中国政府は数十年にわたるフィリピン政府との海洋紛争で新たな戦線を確立しつつある。即ち、スカボロー礁(フィリピン名:パナタグ礁、中国名:黄岩島)で中国戦闘機がフィリピン航空機に対して危険な行動を採ったり、サビナ礁(フィリピン名:エスコダ礁、中国名:仙濱礁)周辺海域で中国海警船がPhilippine Coast Guard巡視船に衝突する事案が何件か発生したりした。フィリピン政府は「積極的透明化(“assertive transparency”)」政策を掲げて、これらの事案を大々的に喧伝し続けてきたが、中国はフィリピンが望んだような対応をしてこなかった。
(2) 外交政策の手法として、「名指し、恥をかかせる(“naming and shaming”)」政策は新奇なことではない。フィリピンはMarcos Jr.政権下の2023年から南シナ海での海難事案を公表し始めたが、その狙いは明快である。第1に世論を喚起して国土の強靭性を強化し、第2に同志国や「法に基づく秩序」の擁護国からの国際的支持を確保し、そして第3に中国の侵略的行為に対する非難を高めさせることである。実際、2023年のMarcos Jr.政権の考えでは、フィリピン政府の最大の利点がUNCLOSと南シナ海の係争海域に対する中国の広範な主張を無効とした2016年の仲裁裁判所の仲裁裁定にあったことは明らかである。したがって、「積極的透明化」政策は、論理的な政策上の選択肢であり、ある程度は機能してきた。しかし、問題は政策の成功が実際には南シナ海の現状に効果的な変化をもたらさなかったことである。「積極的透明化」政策を開始してから数ヵ月後、中国はその巨大な情報組織を運用し、膨大な偽情報を含む情報発信を通じてフィリピンの「積極的透明化」政策に対抗する言説能力を十二分に発揮した。
(3) 領有権紛争で既に地歩を固めた中国政府と異なり、フィリピン政府の立場は限りなく不安定である。フィリピンの当面の目標は、南沙諸島の残された海洋自然地形が中国によってさらに浸食されることを防ぎ、実効支配を維持することであった。そのために、フィリピン政府は、同盟国や提携諸国との多様な提携網を構築し、それらの集団的影響力が軍事的劣勢を相殺できることを期待した。しかしながら、フィリピンの戦略目標とそのための手段との摩擦が再び表面化する。Marcos jr.政権は、少国間主義を追求しながらも、米国の利益のために行動しているという疑惑を払拭するとともに、国家主権と領土保全を単独で維持できることを立証するためにも、中国に単独で対抗する必要性を痛感していた。実際、米国は過去数ヵ月間、「シエラ・マドレ」への補給支援を何度か申し出たが、フィリピン政府は一貫して断ってきた。米国や有志連合による補給支援は政策の選択肢だが、フィリピンが自立防衛態勢の構築に固執するのであれば、EEZに至るまでの自国管轄海域を独自に監視し、哨戒し、保護する能力を開発する必要がある。このためには、より多くの艦艇を取得することに加えて、南シナ海での恒久的な部隊の配備を確立する必要がある。
(4) 1999年に「シエラ・マドレ」をセカンド・トーマス礁に座礁させて以来、部隊の配備確立に向けた努力がなされてきた。さらにPhilippine Coast Guardは2024年4月、パラワン島沖を遊弋する中国船の増加に対応するため日本から供与された巡視船「テレサ・マグバヌア」をサビナ礁周辺海域に一時的な前哨拠点として滞留させた。しかしながら、セカンド・トーマス礁の事例と同様に、中国は、同船に体当たりか曳航するかによって、あるいは補給線を遮断することで、同船を現在位置から追い出し、その後、サビナ礁を急襲して、占拠するだけという事実に変わりがなかった。実際、「テレサ・マグバヌア」は 9月13日にサビナ礁から撤退している。艦船を前哨拠点として輪番制で配置することは論理的だし、フィリピン政府はそうしようとしている。しかしながら、利用可能な艦船不足から、これは単に艦船の損害を増やすだけで、長期的かつ持続可能な政策ではない。
(5) フィリピン政府は、中国政府に正面から立ち向かうのではなく、賢く戦う必要がある。南沙諸島に恒久的な前哨拠点がなければ、最優先課題は崩壊しつつある「シエラ・マドレ」を改修するとともに、Philippine Coast Guard船舶の長期的な海上展開を維持することである。理想的には、こうした一時的な前哨拠点は限定的な自給自足能力を持つべきで、そうすることで再補給の必要性を最小限に抑えられる。また、従来の海上補給が危険なことは実証済みであり、したがって、防衛計画立案者は新しい補給方法を考え出す必要がある。
(6) 要するに、フィリピンは中国に行動を修正させるために、国際的圧力というありそうにもない筋書きを期待するのではなく、自ら具体的な方策を考案し、実施しなければならない。現時点で、フィリピン当局が理解しなければならないのは、「積極的透明化」政策が飽和点に達しているということである。(他国との)防衛協力と能力開発は長期的には有益だが、現在のフィリピン政府に必要なことは、現場で苦労している軍や沿岸警備隊要員の勇気を支える意志である。「名指し、恥をかかせる」ことは極めて重要だが、常に国家安全保障というより広範な枠組みの下に組み込まれていなければならない。対話と外交は1つの要素であり、Armed Forces of the Philippinesの近代化はもう1つの要素である。しかしながら、実際に現場で中国の挑発行為に対応することこそ、フィリピン人、中国人あるいはそれ以外の人々の目から見ても、南シナ海での紛争の将来を左右するであろう。
記事参照:The Philippines Should Take Note: ‘Assertive Transparency’ Is Not a Strategy
9月19日「北極圏でのロシアと中国の協力は見かけ倒し―英国、チェコスロヴァキア専門家論説」(The Diplomat, September 19, 2024)
9月19日付のデジタル誌The Diplomatは、ケンブリッジのRAND Europeの上席研究員Nicolas Jouan、University of West Bohemiaの研究員Zdenek RodおよびUniversity of West Bohemiaの北極地域専門家Martin Ruzickaの“Russia and China in the Arctic: Less Than Meets the Eye”と題する論説を掲載し、ここで3名は北極圏における中ロの協力は過去10年間で大きく拡大したが、両国は一般に思われているほど親密ではなく、ウクライナ戦争によって強調されたロシアに対する中国の経済的影響力を考慮すると、両国間の交渉では将来多くの意見の相違が見られることが予想されるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアと北極圏の国々との協力関係の崩壊により、中国はこの地域におけるロシアの最も重要な提携国としての地位を都合よく固めた。中国とロシアの関係は、かつて双方が「際限のない」友好関係として誇示していたため、特にロシアは天然ガス供給を余分に売却し、より大きな隣国との貿易関係を強化することを望んでいる。中国にとって、北極圏の膨大な天然資源埋蔵量と、ヨーロッパへの最短航路の見通しは依然として魅力的である。しかし、両国は一般に思われているほど親密ではない。より皮肉な現実は、中国の北極圏への関与は、主にご都合主義、取引上の利益、経済的利益の見通しによって行われていることである。中国の2018年に発表した北極戦略では、ロシアについて言及したのは2回だけで、明確な連携はなく、複数の潜在的な提携国の1つとして言及されている。中国の北極圏への関与は、主に貿易と資源の面で期待される利益によって推進されてきたが、ロシアの関与と収束する可能性はあるが、必ずしもロシアと同程度ではない。ロシアがクリミアを併合した2014年以降、加速したロシアの北極圏への中国の投資実績を時系列に整理してみると、ロシアと西側諸国の関係の悪化が、中国にとって地政学的な均衡を取る行為よりも経済的な機会と見なされていたことを示唆している。
(2) 北極圏における中国のご都合主義は、何も新しいものではない。中国の北極圏への投資は、かつてはデンマークを通じて米国、カナダ、グリーンランドなどの西側諸国に向けられていた。これらの投資は、カナダ北西部のユーコン準州での中国の亜鉛鉱山が破産し、環境災害になった一連の事件により、中国が徐々に信頼を失ったため、2010年代に減速し、ヌナブト準州での2億3,000万ドルの金採掘計画やグリーンランドの使われなくなった海軍基地の購入など、他の計画は中国が安全保障上の脅威として認識され始めたため、阻止されている。そのため、中国はロシアに注意を向けざるを得なかったが、2014年以降、欧米のロシアへの制裁が強まり始めたため、ロシアは中国の投資を歓迎した。
(3) 北極圏における中国とロシアの協力は、過去10年間で大きく拡大した。ロシアの北極圏への中国の大規模な投資は、国営の中国石油天然気集団公司がロシアのヤマルLNG天然ガス処理計画の20%を購入した2013年に始まり、2017年、ロシアと中国は、一帯一路構想の一環として、北極海航路沿いの氷上シルクロードを開発することに合意した。その2年後、中国企業は天然ガス処理計画であるLNG-2の20%を購入した。2020年、ロシアは北極圏を経済特区に指定し、大規模な税制上の優遇措置により中国の投資を大幅に緩和した。2022年にロシアがウクライナに侵攻した後、西側諸国のロシア北極圏への投資は完全に停止した。ロシアは北極圏を開発するための資金は枯渇した。その後、中国の投資は倍増した。2023年、中国はコミ共和国のチタン採掘に投資し、重要鉱物への関心を示しており、モスクワ・カザン高速鉄道などの他の基幹施設整備計画は、貿易、投資、エネルギー、製造における協力を強化することを目的としていた。
(4) 2023年には、安全保障と軍事協力も強化された。2023年4月、中国とロシアは、海上法執行協力を強化するための覚書に署名した。ロシアが北極海沿岸警備隊フォーラム(Arctic Coast Guard Forum)の議長を務め、中国海警局の代表者が視察する中、北極パトロール2023演習が開催された。しかし、中国とロシアの合同演習は、これまで主に表面的なものであったことに注意する必要である。これらの活動は、実用的な相互運用性を開発するための持続的な試みというよりも、意図を示す努力として機能しており、両国間の信頼が欠如していることを反映している。さらに、中国の投資は、ロシアの北極圏を悩ませている深刻な基幹施設の欠陥を解決していない。現在、中国とロシアは名目上、北極圏のコンテナ輸送の接続の拡大に注力している。しかし、氷上シルクロードの計画は、ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴うヨーロッパとの敵対関係によって妨げられ、ロシア領土を経由する貿易路の開発は中国にとって魅力的ではなくなった。中国遠洋海運集団(COSCO)は2021年に記録的な航海の実績を記録したが、制裁と経費高騰のために2022年にこの航路を使用した中国船はなかった。その結果、中国がロシアに対して修辞的な支援を続けてきたにもかかわらず、氷上シルクロードは公式の議論から徐々に薄れていった。
(5) エネルギー分野でも中ロの意見の相違が生じてきている。ロシアのVladimir Putin大統領は長年にわたり、ヤマル半島の天然ガス資源を「パワー・オブ・シベリア2」パイプラインを通じて中国とつながることを夢見てきた。このパイプラインは、ヨーロッパのガス市場への輸出の大半を失った後、ガスの販売価格と量をめぐる意見の相違やロシアが要求する中国の銀行との優先協力により、現在停滞している。ロシアのウクライナ戦争によって強調されたロシアに対する中国の経済的影響力を考慮すると、中ロ両国間の交渉において、将来、多くの意見の相違や中国の高圧的な態度が見られることが予想される。北極圏における中国の野心は、ロシアとの連携に関する説明よりも微妙なようである。カナダやノルウェーなどの他の北極圏諸国との経済・貿易関係は、厳しい監視の目が向けられているにもかかわらず続いている。中国は引き続きロシアの提携国であり、両国の間にくさびを打ち込むことは米国とその同盟国にとって遠い見通しであるが、中国が北極圏での選択肢を残しておきたいと考えていることはますます明らかになっている。
記事参照:Russia and China in the Arctic: Less Than Meets the Eye
(1) ロシアと北極圏の国々との協力関係の崩壊により、中国はこの地域におけるロシアの最も重要な提携国としての地位を都合よく固めた。中国とロシアの関係は、かつて双方が「際限のない」友好関係として誇示していたため、特にロシアは天然ガス供給を余分に売却し、より大きな隣国との貿易関係を強化することを望んでいる。中国にとって、北極圏の膨大な天然資源埋蔵量と、ヨーロッパへの最短航路の見通しは依然として魅力的である。しかし、両国は一般に思われているほど親密ではない。より皮肉な現実は、中国の北極圏への関与は、主にご都合主義、取引上の利益、経済的利益の見通しによって行われていることである。中国の2018年に発表した北極戦略では、ロシアについて言及したのは2回だけで、明確な連携はなく、複数の潜在的な提携国の1つとして言及されている。中国の北極圏への関与は、主に貿易と資源の面で期待される利益によって推進されてきたが、ロシアの関与と収束する可能性はあるが、必ずしもロシアと同程度ではない。ロシアがクリミアを併合した2014年以降、加速したロシアの北極圏への中国の投資実績を時系列に整理してみると、ロシアと西側諸国の関係の悪化が、中国にとって地政学的な均衡を取る行為よりも経済的な機会と見なされていたことを示唆している。
(2) 北極圏における中国のご都合主義は、何も新しいものではない。中国の北極圏への投資は、かつてはデンマークを通じて米国、カナダ、グリーンランドなどの西側諸国に向けられていた。これらの投資は、カナダ北西部のユーコン準州での中国の亜鉛鉱山が破産し、環境災害になった一連の事件により、中国が徐々に信頼を失ったため、2010年代に減速し、ヌナブト準州での2億3,000万ドルの金採掘計画やグリーンランドの使われなくなった海軍基地の購入など、他の計画は中国が安全保障上の脅威として認識され始めたため、阻止されている。そのため、中国はロシアに注意を向けざるを得なかったが、2014年以降、欧米のロシアへの制裁が強まり始めたため、ロシアは中国の投資を歓迎した。
(3) 北極圏における中国とロシアの協力は、過去10年間で大きく拡大した。ロシアの北極圏への中国の大規模な投資は、国営の中国石油天然気集団公司がロシアのヤマルLNG天然ガス処理計画の20%を購入した2013年に始まり、2017年、ロシアと中国は、一帯一路構想の一環として、北極海航路沿いの氷上シルクロードを開発することに合意した。その2年後、中国企業は天然ガス処理計画であるLNG-2の20%を購入した。2020年、ロシアは北極圏を経済特区に指定し、大規模な税制上の優遇措置により中国の投資を大幅に緩和した。2022年にロシアがウクライナに侵攻した後、西側諸国のロシア北極圏への投資は完全に停止した。ロシアは北極圏を開発するための資金は枯渇した。その後、中国の投資は倍増した。2023年、中国はコミ共和国のチタン採掘に投資し、重要鉱物への関心を示しており、モスクワ・カザン高速鉄道などの他の基幹施設整備計画は、貿易、投資、エネルギー、製造における協力を強化することを目的としていた。
(4) 2023年には、安全保障と軍事協力も強化された。2023年4月、中国とロシアは、海上法執行協力を強化するための覚書に署名した。ロシアが北極海沿岸警備隊フォーラム(Arctic Coast Guard Forum)の議長を務め、中国海警局の代表者が視察する中、北極パトロール2023演習が開催された。しかし、中国とロシアの合同演習は、これまで主に表面的なものであったことに注意する必要である。これらの活動は、実用的な相互運用性を開発するための持続的な試みというよりも、意図を示す努力として機能しており、両国間の信頼が欠如していることを反映している。さらに、中国の投資は、ロシアの北極圏を悩ませている深刻な基幹施設の欠陥を解決していない。現在、中国とロシアは名目上、北極圏のコンテナ輸送の接続の拡大に注力している。しかし、氷上シルクロードの計画は、ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴うヨーロッパとの敵対関係によって妨げられ、ロシア領土を経由する貿易路の開発は中国にとって魅力的ではなくなった。中国遠洋海運集団(COSCO)は2021年に記録的な航海の実績を記録したが、制裁と経費高騰のために2022年にこの航路を使用した中国船はなかった。その結果、中国がロシアに対して修辞的な支援を続けてきたにもかかわらず、氷上シルクロードは公式の議論から徐々に薄れていった。
(5) エネルギー分野でも中ロの意見の相違が生じてきている。ロシアのVladimir Putin大統領は長年にわたり、ヤマル半島の天然ガス資源を「パワー・オブ・シベリア2」パイプラインを通じて中国とつながることを夢見てきた。このパイプラインは、ヨーロッパのガス市場への輸出の大半を失った後、ガスの販売価格と量をめぐる意見の相違やロシアが要求する中国の銀行との優先協力により、現在停滞している。ロシアのウクライナ戦争によって強調されたロシアに対する中国の経済的影響力を考慮すると、中ロ両国間の交渉において、将来、多くの意見の相違や中国の高圧的な態度が見られることが予想される。北極圏における中国の野心は、ロシアとの連携に関する説明よりも微妙なようである。カナダやノルウェーなどの他の北極圏諸国との経済・貿易関係は、厳しい監視の目が向けられているにもかかわらず続いている。中国は引き続きロシアの提携国であり、両国の間にくさびを打ち込むことは米国とその同盟国にとって遠い見通しであるが、中国が北極圏での選択肢を残しておきたいと考えていることはますます明らかになっている。
記事参照:Russia and China in the Arctic: Less Than Meets the Eye
9月20日「南シナ海における中国の海上民兵活動への対策―シンガポール専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, September 20, 2024)
9月20日付のシンガポールThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のInstitute of Defence and Strategic Studiesが発行するIDSS Paperは、同School海上安全保障研究課程の研究員Gilang Kembaraの“Countermeasures against China’s Maritime Militia Operations in the South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでGilang Kembaraは中国の海上民兵に対抗するには、政治的、運用上、そして法的手段を組み合わせた対策が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は、係争中の海域、特に南シナ海における自国の主張を裏付けるため、海警総隊および海軍を支援する海上民兵を積極的に活用している。中国の海上民兵に対抗するには、政治的、運用上、そして法的手段を組み合わせた対策が必要である。
(2) 2012年、中国漁船の一団が南シナ海のスカボロー礁に停泊した。フィリピンがこの一団を拿捕しようとしたことで、一触即発の事態となり、最終的には中国がスカボロー礁を完全に占拠し、フィリピンの漁民に対して封鎖を行った。この付近の魚群の管理および南シナ海の他の多くの係争海域の管理は、主に中国の海上民兵によって行われている。中国政府は、海上民兵の行動に対する責任を常に否定しているが、海上民兵は人民解放軍の一部として国家に認められている。
(3) 中国の海上民兵政策は、全面的な軍事衝突に発展することなく、現状を中国に有利な方向に変える戦略へと発展しているように見える。中国の利益を促進するための海上民兵による係争海域での行動は以下の状況である。
a. 中国政府は、係争中の海域を可能な限り保護し、主張し、占有するよう奨励している。中国の漁民とその活動は、漁業権を保護するという中国政府の政策の手段となっている。
b. 海上民兵は、情報収集のために南シナ海の中国の海上前哨基地とその周辺にしばしば配置されている。
c. 海上民兵は、中国の主権および主権的権利を損なうような外部勢力による行動を抑止する準軍事組織と考えられている。
(4) 中国の海上民兵の脅威を直接的・間接的に軽減しうる対策を分析すると次のとおりである。
a. 南シナ海情勢の悪化が続いているのは、主に東南アジアの領有権主張国と中国との間に政治的な信頼関係が欠如していることを反映しており、経済的権利や領土の主張が政治化・軍事化される傾向が強まっている。中国政府は自国の海上民兵をますます活用して、主権と主権的権利の主張を強めている。紛争当事国は、事態を沈静化させるために、互いの信頼関係をより強固なものにする必要がある。
b. 中国による海上民兵の全面戦争には至らないグレーゾーンでの行動の継続は、協調的な漁業管理を進める上で不可欠な当事者間の理解を深める努力を阻害している。そのため、領有権を主張する国々は、増大する中国の海上民兵の使用に対して、短期的な運用上の対抗措置を検討することが多い。その例として、政府開発援助によるPhilippine Coast Guardの巡視船開発に対する日本の支援や、U.S. Coast Guardのハミルトン級巡視艇のCảnh sát biển Việt Nam/警察㴜越南(ベトナム海上警察)への譲渡などがある。
c. 中国政府が民兵の行動に対する責任を否定しても、いくつかの国際法の枠組みを通じて、これらの行動を中国に帰属させることは可能である。「国家の国際的な不法行為責任に関する条文(Articles on Responsibility of States for Internationally Wrongful Acts、ARSIWA))に基づき、中国の海上民兵の海上での行動は、中国の国内法で民兵を国家機関として分類できるため、中国政府に帰属させることができる。さらに、中国が当事国であるUNCLOSによると、他の船舶を威嚇して係争海域から立ち去らせた民兵の行為は、航行の自由を確保するために海域を利用する国家が適切な配慮を怠ったものと見なされる可能性がある。海上民兵が故意に他船に危害を加える行為は、「1972年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(Convention on the International Regulations for Preventing Collisions at Sea, 1972、COLREGs)」に規定されている海上安全に関する中国の義務に適合していない。
(5) 中国による海上民兵の使用の増加は、漁船や民間船と準軍事組織や取締船との境界線をあいまいにするものである。これらの組織は、中国の主張する海洋国境の防衛や係争水域における公共秩序の維持など、中国の国内法によって規定された中国政府にとって不可欠な機能を遂行する権限を与えられている。しかし、他の東南アジアの領有権主張国も、自国の主張を強化するために民間部隊や海上民兵の活用を検討していることは注目に値する。こうした活用は、中国の活動に対する相応の対応と見なされている。この力学は、国益と領有権主張を推進するために軍事戦略と準軍事戦略の両方が用いられる南シナ海紛争の複雑かつ進化する性質を強調している。
記事参照:Countermeasures against China’s Maritime Militia Operations in the South China Sea
(1) 中国は、係争中の海域、特に南シナ海における自国の主張を裏付けるため、海警総隊および海軍を支援する海上民兵を積極的に活用している。中国の海上民兵に対抗するには、政治的、運用上、そして法的手段を組み合わせた対策が必要である。
(2) 2012年、中国漁船の一団が南シナ海のスカボロー礁に停泊した。フィリピンがこの一団を拿捕しようとしたことで、一触即発の事態となり、最終的には中国がスカボロー礁を完全に占拠し、フィリピンの漁民に対して封鎖を行った。この付近の魚群の管理および南シナ海の他の多くの係争海域の管理は、主に中国の海上民兵によって行われている。中国政府は、海上民兵の行動に対する責任を常に否定しているが、海上民兵は人民解放軍の一部として国家に認められている。
(3) 中国の海上民兵政策は、全面的な軍事衝突に発展することなく、現状を中国に有利な方向に変える戦略へと発展しているように見える。中国の利益を促進するための海上民兵による係争海域での行動は以下の状況である。
a. 中国政府は、係争中の海域を可能な限り保護し、主張し、占有するよう奨励している。中国の漁民とその活動は、漁業権を保護するという中国政府の政策の手段となっている。
b. 海上民兵は、情報収集のために南シナ海の中国の海上前哨基地とその周辺にしばしば配置されている。
c. 海上民兵は、中国の主権および主権的権利を損なうような外部勢力による行動を抑止する準軍事組織と考えられている。
(4) 中国の海上民兵の脅威を直接的・間接的に軽減しうる対策を分析すると次のとおりである。
a. 南シナ海情勢の悪化が続いているのは、主に東南アジアの領有権主張国と中国との間に政治的な信頼関係が欠如していることを反映しており、経済的権利や領土の主張が政治化・軍事化される傾向が強まっている。中国政府は自国の海上民兵をますます活用して、主権と主権的権利の主張を強めている。紛争当事国は、事態を沈静化させるために、互いの信頼関係をより強固なものにする必要がある。
b. 中国による海上民兵の全面戦争には至らないグレーゾーンでの行動の継続は、協調的な漁業管理を進める上で不可欠な当事者間の理解を深める努力を阻害している。そのため、領有権を主張する国々は、増大する中国の海上民兵の使用に対して、短期的な運用上の対抗措置を検討することが多い。その例として、政府開発援助によるPhilippine Coast Guardの巡視船開発に対する日本の支援や、U.S. Coast Guardのハミルトン級巡視艇のCảnh sát biển Việt Nam/警察㴜越南(ベトナム海上警察)への譲渡などがある。
c. 中国政府が民兵の行動に対する責任を否定しても、いくつかの国際法の枠組みを通じて、これらの行動を中国に帰属させることは可能である。「国家の国際的な不法行為責任に関する条文(Articles on Responsibility of States for Internationally Wrongful Acts、ARSIWA))に基づき、中国の海上民兵の海上での行動は、中国の国内法で民兵を国家機関として分類できるため、中国政府に帰属させることができる。さらに、中国が当事国であるUNCLOSによると、他の船舶を威嚇して係争海域から立ち去らせた民兵の行為は、航行の自由を確保するために海域を利用する国家が適切な配慮を怠ったものと見なされる可能性がある。海上民兵が故意に他船に危害を加える行為は、「1972年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(Convention on the International Regulations for Preventing Collisions at Sea, 1972、COLREGs)」に規定されている海上安全に関する中国の義務に適合していない。
(5) 中国による海上民兵の使用の増加は、漁船や民間船と準軍事組織や取締船との境界線をあいまいにするものである。これらの組織は、中国の主張する海洋国境の防衛や係争水域における公共秩序の維持など、中国の国内法によって規定された中国政府にとって不可欠な機能を遂行する権限を与えられている。しかし、他の東南アジアの領有権主張国も、自国の主張を強化するために民間部隊や海上民兵の活用を検討していることは注目に値する。こうした活用は、中国の活動に対する相応の対応と見なされている。この力学は、国益と領有権主張を推進するために軍事戦略と準軍事戦略の両方が用いられる南シナ海紛争の複雑かつ進化する性質を強調している。
記事参照:Countermeasures against China’s Maritime Militia Operations in the South China Sea
【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Countering Malign PRC Influence in Europe
https://www.hudson.org/foreign-policy/countering-malign-prc-influence-europe-peter-rough
Hudson Institute, September 11, 2024
By Peter Rough, Senior Fellow and Director, Center on Europe and Eurasia at Hudson Institute
2024年9月11日、米保守系シンクタンクHudson Institute主任研究員のPeter Roughは、同シンクタンクのウエブサイトに“Countering Malign PRC Influence in Europe”と題する論説を寄稿した。その中でPeter Roughは、中国の影響力がヨーロッパで拡大していることは、西側諸国にとって大きな脅威となっているが、特に中国はロシアとの「無制限の提携」を通じて、ウクライナ戦争を支援しており、ロシアの防衛産業に必要な部品や技術を提供しているほか、中国は経済面でもヨーロッパへの依存度を高め、特にドイツの自動車産業に対する影響力を強めていると指摘している。そしてPeter Roughは、このような経済的な依存が進む中で、中国はヨーロッパ諸国の政策に干渉し、ヨーロッパの戦略的自立を損なう恐れがあるが、さらに、中国は情報技術や基幹施設を通じて、ヨーロッパ内でのスパイ活動や影響力を強化していると述べた上で、中国はハンガリーやセルビアなど中国との協力関係を深めている国々を通じてヨーロッパ全体に対する影響力を拡大しようとしているが、ヨーロッパが中国の影響力を抑制し、経済的依存を減らすためには、サプライチェーンの分散や独自の防衛力の強化が求められると主張している。
(2) Without Punishment, China Cannot Be Deterred
https://globaltaiwan.org/2024/09/without-punishment-china-cannot-be-deterred/
Global Taiwan Institute, September 18, 2024
By Kevin Sun, a Summer 2024 intern at the Global Taiwan Institute, and currently a second year at The Fletcher School at Tufts University
2024年9月18日、米非営利政策振興組織Global Taiwan Instituteの研修生Kevin Sunは、同Instituteのウエブサイトに、“Without Punishment, China Cannot Be Deterred”と題する論説を寄稿した。その中で、①5月23日、中国は台湾の新総統就任に呼応して、台湾周辺で一連の軍事訓練を開始した。②このような軍事力誇示の傾向は、現在の台湾海峡情勢が、拒否(denial)による抑止という米国の長年の戦略が中国に対して機能していないことを証明しており、中国政府は今や米国の信頼性を疑問視している。③かつての危機での安全保障環境において、当時の中国軍はU.S. Armed Forcesよりもはるかに弱かった。④しかし、現在の状況は大きく異なっており、米政府は抑止戦略を拒否ではなく、懲罰に調整する必要がある。⑤中国共産党は近代化された軍隊を有しており、南シナ海における領土支配を目的とした「サラミ戦術」の実行を通じて、多くの小さな優位性を獲得してきた。⑥拒否による抑止の大きな弱点は、その効果を判断することが困難であり、そのため、長期的には失敗する効果のない対策に、多大な時間と資源が費やされる可能性がある。⑦米国が中国を抑止するためには、台湾防衛への関与を明確に示す必要がある。⑧さらに、米国が中国に対してどこで越えてはならない一線を引くかも問題である。⑨また、米国は現在進行中の他の紛争に密接に関与し、米国の取り組みが手薄になり過ぎているとの認識から、中国政府は米国が台湾に侵攻した場合の支援能力に疑問を抱いているという見解を述べている。
(3) America’s Crisis of Deterrence
https://www.foreignaffairs.com/united-states/americas-crisis-deterrence
Foreign Affairs, September 20, 2024
By CARTER MALKASIAN is Chair of the Defense Analysis Department at the Naval Postgraduate School.
2024年9月20日、U.S. NavyのNaval Postgraduate School のDefense Analysis Department のトップであるCarter Malkasianは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに“America’s Crisis of Deterrence”と題する論説を寄稿した。その中でCarter Malkasianは、米国とその同盟国は現在、抑止力の危機に直面しているとの認識を示した上で、その背景として、中国は南シナ海でフィリピンの船舶を脅かし、台湾侵攻に備えている可能性があり、ロシアはウクライナでの戦争を続けているほか、中東ではイランがイスラエルへの報復を示唆し、ヒズボラやフーシ派が攻撃を強化していると現在の国際情勢を解説している。そしてCarter Malkasianは、この状況下で、米国は抑止力を維持するために、特にイランに対して強硬な対応を示す必要があるが、イランのミサイル攻撃や船舶への攻撃に関しては、米国がイランの重要な資産や領土に対する報復を行うことで明確な意図を送るべきであるとした上で、非核保有国家との対立においては、より大きな抑止力を示すために、艦艇や潜水艦の配備を長期間にわたり強化することが有効であり、特にイスラエルへのミサイル防衛を継続することが、米国とその同盟国の信頼を維持する上で重要な役割を果たしていると主張している。
(4) U.S. Maritime Policy Needs an Overhaul
https://warontherocks.com/2024/09/u-s-maritime-policy-needs-an-overhaul/
War on the Rocks, September 6, 2024
By Colin Grabow is the associate director of the Cato Institute’s Herbert A. Stiefel Center for Trade Policy Studies.
2024年9月6日、米シンクタンクCato InstituteのHerbert A. Stiefel Center for Trade Policy Studiesの副センター長Colin Grabowは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“U.S. Maritime Policy Needs an Overhaul”と題する論説を寄稿した。その中でColin Grabowは、米国の海洋政策は、国家安全保障や経済の面で深刻な失敗を示しているとした上で、米国の商業造船業は競争力を著しく欠き、世界の造船出荷量のごく一部を占めるのみであるが、これは1920年に制定された国内法によるものであり、結果として、米国の海上輸送はほとんど利用されなくなり、国防に必要な船舶や船員の数も不足していると解説している。そしてColin Grabowは、老朽化した船舶は中国の国営造船所での保守整備が必要になっているなど、米国の安全保障にとって不利な状況が続いているだけでなく、そもそも米国が保有する大型貨物船の数は過去40年で半減するなど状況は危機的だとした上で、この状況を打破するためには、国内法の改正や補助金による直接支援策への移行、外国の造船所の活用など、現代の実情に即した大胆な改革が必要であると主張している。
なお、本補遺は9月上旬の旬報で取り上げられるものであるが、諸般の事情から今旬で取り上げたものである。
(1) Countering Malign PRC Influence in Europe
https://www.hudson.org/foreign-policy/countering-malign-prc-influence-europe-peter-rough
Hudson Institute, September 11, 2024
By Peter Rough, Senior Fellow and Director, Center on Europe and Eurasia at Hudson Institute
2024年9月11日、米保守系シンクタンクHudson Institute主任研究員のPeter Roughは、同シンクタンクのウエブサイトに“Countering Malign PRC Influence in Europe”と題する論説を寄稿した。その中でPeter Roughは、中国の影響力がヨーロッパで拡大していることは、西側諸国にとって大きな脅威となっているが、特に中国はロシアとの「無制限の提携」を通じて、ウクライナ戦争を支援しており、ロシアの防衛産業に必要な部品や技術を提供しているほか、中国は経済面でもヨーロッパへの依存度を高め、特にドイツの自動車産業に対する影響力を強めていると指摘している。そしてPeter Roughは、このような経済的な依存が進む中で、中国はヨーロッパ諸国の政策に干渉し、ヨーロッパの戦略的自立を損なう恐れがあるが、さらに、中国は情報技術や基幹施設を通じて、ヨーロッパ内でのスパイ活動や影響力を強化していると述べた上で、中国はハンガリーやセルビアなど中国との協力関係を深めている国々を通じてヨーロッパ全体に対する影響力を拡大しようとしているが、ヨーロッパが中国の影響力を抑制し、経済的依存を減らすためには、サプライチェーンの分散や独自の防衛力の強化が求められると主張している。
(2) Without Punishment, China Cannot Be Deterred
https://globaltaiwan.org/2024/09/without-punishment-china-cannot-be-deterred/
Global Taiwan Institute, September 18, 2024
By Kevin Sun, a Summer 2024 intern at the Global Taiwan Institute, and currently a second year at The Fletcher School at Tufts University
2024年9月18日、米非営利政策振興組織Global Taiwan Instituteの研修生Kevin Sunは、同Instituteのウエブサイトに、“Without Punishment, China Cannot Be Deterred”と題する論説を寄稿した。その中で、①5月23日、中国は台湾の新総統就任に呼応して、台湾周辺で一連の軍事訓練を開始した。②このような軍事力誇示の傾向は、現在の台湾海峡情勢が、拒否(denial)による抑止という米国の長年の戦略が中国に対して機能していないことを証明しており、中国政府は今や米国の信頼性を疑問視している。③かつての危機での安全保障環境において、当時の中国軍はU.S. Armed Forcesよりもはるかに弱かった。④しかし、現在の状況は大きく異なっており、米政府は抑止戦略を拒否ではなく、懲罰に調整する必要がある。⑤中国共産党は近代化された軍隊を有しており、南シナ海における領土支配を目的とした「サラミ戦術」の実行を通じて、多くの小さな優位性を獲得してきた。⑥拒否による抑止の大きな弱点は、その効果を判断することが困難であり、そのため、長期的には失敗する効果のない対策に、多大な時間と資源が費やされる可能性がある。⑦米国が中国を抑止するためには、台湾防衛への関与を明確に示す必要がある。⑧さらに、米国が中国に対してどこで越えてはならない一線を引くかも問題である。⑨また、米国は現在進行中の他の紛争に密接に関与し、米国の取り組みが手薄になり過ぎているとの認識から、中国政府は米国が台湾に侵攻した場合の支援能力に疑問を抱いているという見解を述べている。
(3) America’s Crisis of Deterrence
https://www.foreignaffairs.com/united-states/americas-crisis-deterrence
Foreign Affairs, September 20, 2024
By CARTER MALKASIAN is Chair of the Defense Analysis Department at the Naval Postgraduate School.
2024年9月20日、U.S. NavyのNaval Postgraduate School のDefense Analysis Department のトップであるCarter Malkasianは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに“America’s Crisis of Deterrence”と題する論説を寄稿した。その中でCarter Malkasianは、米国とその同盟国は現在、抑止力の危機に直面しているとの認識を示した上で、その背景として、中国は南シナ海でフィリピンの船舶を脅かし、台湾侵攻に備えている可能性があり、ロシアはウクライナでの戦争を続けているほか、中東ではイランがイスラエルへの報復を示唆し、ヒズボラやフーシ派が攻撃を強化していると現在の国際情勢を解説している。そしてCarter Malkasianは、この状況下で、米国は抑止力を維持するために、特にイランに対して強硬な対応を示す必要があるが、イランのミサイル攻撃や船舶への攻撃に関しては、米国がイランの重要な資産や領土に対する報復を行うことで明確な意図を送るべきであるとした上で、非核保有国家との対立においては、より大きな抑止力を示すために、艦艇や潜水艦の配備を長期間にわたり強化することが有効であり、特にイスラエルへのミサイル防衛を継続することが、米国とその同盟国の信頼を維持する上で重要な役割を果たしていると主張している。
(4) U.S. Maritime Policy Needs an Overhaul
https://warontherocks.com/2024/09/u-s-maritime-policy-needs-an-overhaul/
War on the Rocks, September 6, 2024
By Colin Grabow is the associate director of the Cato Institute’s Herbert A. Stiefel Center for Trade Policy Studies.
2024年9月6日、米シンクタンクCato InstituteのHerbert A. Stiefel Center for Trade Policy Studiesの副センター長Colin Grabowは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“U.S. Maritime Policy Needs an Overhaul”と題する論説を寄稿した。その中でColin Grabowは、米国の海洋政策は、国家安全保障や経済の面で深刻な失敗を示しているとした上で、米国の商業造船業は競争力を著しく欠き、世界の造船出荷量のごく一部を占めるのみであるが、これは1920年に制定された国内法によるものであり、結果として、米国の海上輸送はほとんど利用されなくなり、国防に必要な船舶や船員の数も不足していると解説している。そしてColin Grabowは、老朽化した船舶は中国の国営造船所での保守整備が必要になっているなど、米国の安全保障にとって不利な状況が続いているだけでなく、そもそも米国が保有する大型貨物船の数は過去40年で半減するなど状況は危機的だとした上で、この状況を打破するためには、国内法の改正や補助金による直接支援策への移行、外国の造船所の活用など、現代の実情に即した大胆な改革が必要であると主張している。
なお、本補遺は9月上旬の旬報で取り上げられるものであるが、諸般の事情から今旬で取り上げたものである。
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