海洋安全保障情報旬報 2023年10月21日-10月31日

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10月23日「エネルギー安全保障確立のために日韓印協力が必要―インド専門家論説」(NIKKEI Asia, October 23, 2023)

 10月23日付の日英字経済紙NIKKEI Asia電子版は、インドのシンクタンクObserver Research Foundation研究員Kabir Tanejaの“India, Japan and South Korea should work together to protect shipping”と題する論説を掲載し、そこでKabir Tanejaは中東情勢が不安定な中、インドを含むアジア諸国はエネルギー安全保障の確立のために協力体制を構築すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) ハマスとイスラエルの戦争は、アジア経済がなお中東からの石油に依存していることを気付かせている。2018年、ホルムズ海峡を通過した原油の76%がアジア向けであった。ウクライナ戦争勃発後の対ロシア制裁のために、中東の原油への依存がさらに高まっている。インドはロシアから原油を買い続けているが、それも中東経由のものである。こうした状況は、地域のエネルギー利害の保全のために諸国が海洋安全保障のための機構をどう活用し得るかという問題を突きつけている。
(2) 2019年以降、Indian Navyはサンカルプ作戦を展開し、ペルシャ湾やオマーン湾に艦艇を派遣して石油タンカーを防護している。またインドはオマーンのドゥクム港の利用が認められており、最近海洋支援基地を開設した。他方で日本の自衛隊は、2010年に開設されたジブチの基地を拠点に海賊対策活動を実施していたが、2020年に軍事的情報収集活動も開始した。
(3) 韓国にとってもその地域での地理経済的危険性が高まっている。たとえば、2019年に韓国船2隻が紅海でイエメンの民兵勢力に乗っ取られ、また2021年にはイランが韓国の石油タンカーを拿捕している。イランは環境上の懸念のためだと説明したが、米国の制裁によって韓国で凍結されている石油支払いの凍結解除のための圧力だと見られている。韓国が駆逐艦を派遣しつつ、10億ドルの支払いを行ったことで拿捕された韓国船は解放されている。
(4) 地政学的観点から見て、インド、日本、韓国などの国々にとって、中東での海洋安全保障協力を進めるのに今が最適の時機である。中国の軍事力拡大に対し日韓印は不信感を強めており、2023年3月、グアム沖で実施された米加共同の対潜戦演習に日韓印も参加しており、2022年には、米国が主導する数十ヵ国の海軍から成る海軍パートナーシップにインドが参加した。この枠組みには日韓は既に参加している。
(5) インドは、日韓印の協力に関する青写真を提供すると良い。第1段階として、エネルギー安全保障を保護するためのペルシャ湾での共同哨戒がありうるだろう。インドはまた、オマーンなどの既存の地域の提携国との対話に日韓を招待できるであろう。それによって日韓もドゥクム港などを活用できるかもしれない。
(6) 今日、エネルギー安全保障に関する議論は持続可能エネルギーへの転換に集中しがちだが、それへの移行には時間がかかる。しばらくのあいだ、アジア地域にとっては石油やガスの安定供給が、したがって中東を通る経済の大動脈の確保が決定的に重要であり続ける。
記事参照:India, Japan and South Korea should work together to protect shipping

10月24日「AUKUS-SSNは待つ価値があり、価格に見合っている―オーストラリア専門家論説」(The Strategist, October 24, 2023)

 10月24日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、同Institute上席研究員Kim Beazleyの“Australia’s nuclear-powered submarines will be worth the wait—and the cost”と題する論説を掲載し、Kim Beazleyは攻撃型原子力潜水艦(SSN)は高速持続力と相まって高い隠密性を保持し、攻撃、回避に優位であり、保有する価値があるとする一方、AUKUSに基づきSSNを導入するには米国のInternational Traffic in Arms Regulations(国際武器取引規則)が大きな障壁となっているが、米議会では問題を乗り越える努力が為されており、SSN導入が2030年代までにという時間を考えれば、忍耐する価値があるとして、要旨以下のように述べている
(1) 米国はいかなる国にも原子力船を販売したことはない。AUKUS協定に基づいて攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)に関わる技術をオーストラリアに提供するという米国政府の決定は、厳しく、複雑で、ある意味で恐ろしいものである。これは、米国が特にインド太平洋の海洋環境において効果的な同盟国を必要としているという最近になっての認識を反映している。オーストラリアは米国にとって最も信頼できる友人の一人である。米国の同盟国のうち、煩雑なInternational Traffic in Arms Regulations(国際武器取引規則:以下、ITARと言う)から免除されているのは唯一カナダである。
(2) AUKUSの潜水艦に関わる第 1 柱 と技術に係わる第2柱 が機能するためには、英国とオーストラリアも同様の免除が必要である。オーストラリアのSSNにはさらに多くのことが必要である。米国議会は、我が国の安全保障システムが機密保持に関して信頼できること、そしてオーストラリアに売却されたSSNが米国の戦闘能力を危険なまでに消耗させないことを確信させなければならない。これはおそらく米国の最も重要な兵器システムであり、潜在的な敵がこれに匹敵する可能性は低いであろう。
(3) オーストラリアにとって、これは長期的な計画である。オーストラリアの防衛状況は緊急を要するが、当面の主な任務はHMASスターリング海軍基地に輪番で展開する米英のSSNを支援し、オーストラリアの乗組員予定者、整備要員、建設作業員を訓練することである。水中目標の探知、攻撃能力の発展により、通常型潜水艦にとって作戦環境が致命的なものとなっているため、新たなSSNはコリンズ級潜水艦6隻を代替するのにちょうど間に合うであろう。潜水艦は、監視、偵察、特殊部隊の投入、機雷敷設と機雷掃海に有用であり、海上では魚雷やミサイルを使用して致命的な効果をもたらし、さらに陸上にまでその効果をもたらしている。隠密性を保ち、海洋にどこにでも占位できる能力により、抑止効果を最適なものとすることができる。SSNはより広範囲の海域を高速で移動できるため、潜在的な敵の任務は非常に複雑なものになる。SSNが攻撃によって位置を暴露したとしても、速やかに離脱することができる。水上目標あるいは陸上における我が国の軍事能力は潜在的に標的にされる可能性があるが、SSNは探知され難いことから標的とはなり難い。だからこそオーストラリア政府は、その本質的な抑止力に価値を見出しているのである。同等のものはない。これが私たちの抑止力の本質である。 陸と海の目標を攻撃できる兵器システムである。以前は、F-111爆撃機の役割であった。そのF-111が持つ機能はSSNによって効果的に代替されており、攻撃武器システムの発射母体は視認されることがない。
(4) オーストラリアに最初の SSN が配備されるのは10年後になる。計画の立ち上がりが最も困難を伴うが、全体を通して力が試されるだろう。この計画は、議会で提出されたAUKUS法案を米国国防権限法に組み込むことである。(AUKUS-SSNの関係法案を含む米国の国防権限法を保留する米議員らにとっての)問題は、オーストラリアがSSNを保有すべきかどうかではなく、米国のSSN保有数66~69隻という目標を達成できるかどうかである。新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大下では、1年間に就役するSSNは2.3~2.5隻が必要であったのに対し、就役数が1.2隻に減少している。保守整備の問題から、稼働率は60%に減少した。 現在では67%に回復し、SSNの建造数は年間2隻に増加した。U.S. Navyは80%の利用を望んでおり、2028年までに達成できると考えている。
(5) 10月、潜水艦建造会社Electric Boatと同社の3,400人の熟練従業員との間で大幅な賃金引き上げなどを含む5年間の産業協定が完了した。これらの条件は、同社が2023年採用しようとしている5,000人の労働者にも適用される。米国は資金と労働力があればすぐに物事を成し遂げることができる。 Biden政権は懐疑的な人々を説得する必要があり、オースト
(6) 米国は中国の諜報能力を深く懸念している。 オーストラリア安全保障情報機関の責任者Mike Burgessは、AUKUSの発表後、オーストラリア政府、産業界、教育機関を狙った大規模な中国のスパイ活動が検知されたと指摘している。
(7) 米上院外交委員会はITAR改革に対して別の取り組みを推奨し、これが我々の関心を引き付け、2024年国防政策法案の修正案として上院を86対11で可決した。 国家安全保障会議のインド太平洋調整官Kurt Campbellは、これは「するかどうか」ではなく、「どのようにするか」だと述べている。U.S. Department of Stateはまた、技術移転を加速するための暫定的な対応として、AUKUS貿易承認メカニズムを確立した。
(8) 米国は、量子コンピューティング、人工知能、極超音速などオーストラリアの研究が米国の研究よりも進んでいる分野を特定した。 国防生産法の補助金を監督するAnthony Di Stasioは、オーストラリアがコバルトなどの重要な鉱物やTNTなどの爆発性物質の米国のサプライチェーン強化に協力することを示唆している。
(9) 忍耐が必要である。米国が意思決定にいたる環境は複雑である。オーストラリアはそれをうまく機能させる方法を知っているが、多くの失望が予想される。オーストラリアができるのは、我が国と同盟国の外交手腕によって、再建中にこの地域で大きな紛争が起こらないよう願うことだけである。米国の立法過程におけるAUKUS問題への集中力が必要な時、中東とウクライナでの出来事が注意をそらすかもしれないが、時間はある。AUKUS-SSN は2030年代まで予定されており、それまでの間、輪番制で展開してくる同盟国のSSNを支援する機構を確立するのは比較的容易である。将来の乗組員は同盟国のSSNで訓練を受けることができる。SSNが持つ能力には努力する価値がある。
記事参照:Australia’s nuclear-powered submarines will be worth the wait—and the cost

10月25日「中国とフィリピンの関係、西フィリピン海でのさらなる事態拡大に向けて―フィリピン地政学専門家論説」(Asia Times, October 18, 2023)

 10月25日付のインドシンクタンクObserver Research Foundationのウエブサイトは、フィリピンのDe La Salle UniversityのDepartment of International Studies講師Don McLain Gillの“China-Philippines ties: Towards more escalations in the West Philippine Sea?”と題する論説を掲載し、Don McLain Gillは、ここでフィリピンは西フィリピン海における中国からの圧力が高まる中、戦略的選択肢を拡大するために、伝統的および非伝統的な提携者との安全保障と経済関係の拡大に焦点を当てた多面的な外交政策を追求しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年10月22日、中国海警総隊の船艇が東南アジアの排他的経済水域(EEZ)内でフィリピンの補給船と衝突した。興味深いことに、マニラの中国大使館もその日のうちに公式声明を発表し、西フィリピン海のアユンギン礁(セカンド・トーマス礁)でフィリピン補給船が老朽化したフィリピンの旧揚陸艦「シエラ・マドレ」に建設資材を「違法に」運んだとして、中国海警総隊が「法律に従って必要な措置」を採ったことを強調した。この事件は、2023年10月6日に中国海警総隊の船艇とPhilippine Coast Guardの船艇が衝突しそうになったり、2023年10月13日にはPhilippine Navyの艦艇と衝突しそうになったりと、同じ月の間に同様の事件が相次いだ後に発生した。
(2) フィリピンのEEZにおける中国海警総隊による挑発行為は、過去20年間にわたって続いてきた行動様式の一部である。しかし、10月だけでもその活動は、拡大の傾向を示している。フィリピンの対米関係強化は、中国にとって懸念材料であり、係争中の海洋領土における勢力圏を強固にしようとしていることは明らかであるが、国際的な地政学的状況の中で起こっている周囲の動向をより包括的に見ることも重要である。中国によるこの直接的な挑発は、国際政治のより広い文脈で見ることができる。冷戦終結以来の実績を見ると、中国は、西太平洋における勢力圏を強固にするために、米国の指導力やフィリピンなどの近隣諸国の主権に関する権利を犠牲にして、あらゆる機会を利用することで知られている。
(3) 21世紀に入ると、米国が中東での対テロ戦争と2008年の金融危機にかかり切りとなっている時に、中国は西太平洋で大国の野望をより激しく追求するようになった。中国は軍事予算の増加率を2桁に増やすとともに、フィリピンを含む東南アジアの近隣諸国に対し、より攻撃的な関わりを持つようになり始めた。2011年には、中国軍によるフィリピンのEEZへの大規模な侵入が少なくとも6回発生している。これらの出来事は、2012年に起きたスカボロー礁での中比両国の対峙につながった。これにより、中国は事実上、スカボロー礁を占領した。また、2009年、中国政府が広大な領土権益を正当化するために、九段線を国連に公式に提出したことも重要である。米中の権力競争が激化する中、フィリピンは、米国との同盟関係を強化することで、領土保全、主権を確保したいという願望を表明している。このような展開は、さらに権力を誇示し、地域の現状秩序を変更したいという中国の願望を妨げている。
(4) ウクライナで進行中の戦争によって、インド太平洋地域における米国の関与を大きく試されているが、2023年10月7日のハマスによるイスラエルへの攻撃に端を発し、1,400人以上の死者を出したイスラエルとハマスの間の紛争が展開する中で、新たな戦線が出現している。さらに、その紛争はさらに拡大し、中東・北アフリカ(以下、MENAと言う)地域に波及する可能性がある。MENAは、イスラエルを含むいくつかの地域諸国の伝統的な安全保障提供者および提携者としての役割を考えると、米国の核心的利益と見なされている。米国は直ちに行動を起こし、艦艇と航空機をこの地域に派遣した。実際、攻撃から数時間のうちに、「ジェラルド・R・フォード」空母打撃群が東地中海に派遣された。米軍が2つの戦線で対応を迫られている今、中国はこれらの紛争を西太平洋における自国の権益を追求する機会に変える可能性が高い。
(5) 米国が世界の安全保障への取り組みのために議会に1,050億ドルの予算を要求しており、ウクライナでの事案とイスラエル・ハマス問題への対応にそれぞれ610億ドルと14億ドルを割り当てられたのに対し、インド太平洋地域は一括してわずか20億ドルしか配分されていない。中国が国際法や地域諸国の主権や主権的権利を犠牲にして強引な策略を講じ、地域の現状秩序を絶えず変化させていることを考えると、このような不均衡はインド太平洋地域の同盟国や提携国の間で懸念を抱かせる可能性がある。中国の物質的能力は、ロシアとイランを合わせた能力をはるかに上回っている。
(6) 21世紀に入ってからの西太平洋に対する米国の一貫性のない取り組みは、中国にいくつかの利益をもたらしてきた。中国は、南シナ海における修正主義的な目標をどこまで追求できるかを見極めるための動きとして、域外の安全保障上の動きを利用してきた。したがって、2023年10月22日に起きた衝突は、中国政府によるこの実際的な評価の表れである。米国がヨーロッパとMENAに気を取られ続ける情勢では、中国はこうした矛盾を利用して、狭義の利益を達成する可能性が高い。したがって、フィリピンは西フィリピン海における中国からの圧力が高まる中、戦略的選択肢を拡大し、政治的柔軟性を確保するために志を同じくする伝統的および非伝統的な提携国との安全保障と経済関係の深化と拡大に焦点を当てた多面的な外交政策を追求しなければならない。東南アジアの国の安全保障上の提携国として米国に匹敵する国は他にないが、フィリピンは地域の地政学の将来の不確実性を考えると、戦略的緩衝材として機能するために、域外国との連係網を積極的に拡大し、多様化する必要がある。
記事参照:China-Philippines ties: Towards more escalations in the West Philippine Sea?

10月26日「東南アジアの複雑な安全保障の状況を理解せよ―オーストラリア東南アジア問題専門家論説」(The Interpreter, October 26, 2023)

 10月26日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、同Institute研究員Abdul Rahman Yaacobの“Not only the dragon: Understanding Southeast Asia’s complex security landscape”と題する論説を掲載し、そこでAbdul Rahman Yaacobは自身も携わったAustralian National UniversityのNational Security Collegeの研究者チームが最近公開した報告書に言及し、その内容を要約しつつ、東南アジア諸国にとっての安全保障上の懸念が中国の問題だけにあるのではないことを強調して、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は東南アジア諸国にとって安全保障上の懸念であるというのはそのとおりだろう。しかし、著者を含めたAustralian National UniversityのNational Security Collegeの研究者チームによる研究「東南アジアの安全保障の状況」(以下、「状況」と言う)が明らかにしたのは、東南アジアにとって安全保障上の懸念が複雑であるということである。すなわち、中国の台頭は彼らに経済的機会を提供するものでもあるので、中国に対する東南アジア諸国の認識はさまざまなのである。たとえばインドネシア初の長距離高速鉄道には、中国は73億ドル投資している。他方で東南アジア諸国は中国の軍拡傾向に不安を持っている。
(2) 観察する地理的範囲を広げてみれば、米中対立が東南アジアにとっての主要な懸念である。中国に対する米国の対応に対する不安も強い。たとえば、米国が南シナ海で実施する航行の自由作戦(以下、FONOPsと言う)は、彼らに何の利益ももたらしていないという理解もあった。東南アジア諸国にとって南シナ海での利益は資源の利用であり、FONOPsは偶発的な軍事衝突に繋がる可能性があるためである。
(3) 「状況」は、東南アジア諸国にとって海洋貿易が重要であると考え、海洋安全保障について検証した。重要なことは、いくつかの国は南シナ海における中国の主張を重大なものとは見ておらず、むしろ本土に近い所での安全保障上の懸念のほうが切迫していると見ている。たとえば、フィリピンやマレーシアにとってより重要なのはスールー海の安全である。フィリピンにとっては南部で活動するアブサヤフが頭痛の種であり、マレーシアにとってはボルネオのサバ州に対するフィリピンの領土的主張が大きな問題である。シンガポールやタイも、中国以外に安全保障上の懸念材料を有している。前者にとってはシンガポール海峡での海賊活動であり、後者にとっても石油タンカーを海賊から守ることや、ロヒンギャ難民の海からの流入に頭を悩ませている。
(4) 東南アジア諸国間での海洋領域をめぐる対立は、しばしば見過ごされがちであるが、地域の国々にとって大きな関心事である。たとえば、ボルネオ島近くのアンバラット海におけるマレーシアとの論争はインドネシアにとってきわめて重大なものである。2005年に双方の艦艇が衝突した時は、あわや戦争になりかけた。
(5) 東南アジア諸国にとっての安全保障上の懸念は数多く、中国だけが主要なのではない。主要国は東南アジア諸国と有意義な関係を持つために、中国問題を中心とした取り組みをするだけでは不十分である。
記事参照:Not only the dragon: Understanding Southeast Asia’s complex security landscape

Note: Southeast Asia’s Security Landscape Lessons for the ADF
https://researchcentre.army.gov.au/sites/default/files/op_17_southeast_asia_s_security_landscape_lessons_for_the_adf.pdf
要約
 オーストラリアの国家安全保障にとって、東南アジア諸国の抗堪性は重要であり、過去10年間で両者の関係は大いに発展してきた。しかしそれにもかかわらず、米中対立が激化していることを背景に、オーストラリアと東南アジアのいくつかの国との関係は、戦略的な相違が目立つようになっている。
 「東南アジアの安全保障の状況」は、過去10年間で得たものを失わないために、オーストラリアの防衛担当部門が今後東南アジアで拡大する同盟網、提携網とどう関われるべきかを調査した。オーストラリア東南アジアの防衛関係は双方の利害が交わったときに最も良好になるので、東南アジア諸国にとって最も切迫した安全保障上の懸念が何であるかを分析することが重要である。本稿は、オーストラリアと東南アジア諸国の安全保障関係が、能力構築の拡大、地域の海洋状況把握の改善、サイバースペースや海洋領域での情報共有の深化によって深めることを提案するものである。

10月27日「ASEX-01N演習が強化するASEANの連帯―シンガポール・インド太平洋専門家論説」(East Asia Forum, October 27, 2023)

 10月27日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物East Asia Forumは、シンガポールのS Rajaratnam School of International Studies研究員Collin Kohの“ASEX-01N strengthens the intra-ASEAN military landscape”と題する論説を掲載し、そこでCollin Kohは2023年に入って多く実施されているASEAN加盟国が関わる共同軍事演習が示唆することについて、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年9月、南シナ海周辺で大規模な共同軍事演習が立て続けに実施された。インドネシアと米国が主導したSuper Garuda Shield、またフィリピン、オーストリア、米国が実施したAmphibious and Land Operationがそれである。それに加えて、インドネシアが主催したのが、ASEAN Solidarity Exercise in Natuna 2023(以下、ASEX-01Nと言う)であり、これは共同演習としては、ASEAN加盟国のみで実施された初めてのものである。特に、親中国と見られているカンボジアなどが参加したことで大きな意味を持つ。
(2) ASEX-01Nは南シナ海での緊張を背景にしたASEANの共同軍事演習としては初めてのものではなく、2017年にはASEAN多国間海軍演習(以下、AMNEXと言う)が実施されており、2度目のAMNEXが2023年5月に実施されている。2023年実施のAMNEXにはASEAN加盟国10ヵ国のうち7ヵ国が艦艇を参加させており、カンボジア、ラオス、ミャンマーもオブザーバーを派遣した。
(3) AMNEXが海軍のみの演習だったのに対し、ASEX-01Nには陸海空軍が参加した。2023年6月にこの計画が発表されたとき、北ナツナ海で行われる予定であった。Indonesian National Military-Naval ForceのYudo Margono大将は、これがASEANの中心性を強化することを期待すると述べていた。それに対しRoyal Cambodian Armed ForcesのVong Pisen将軍は、この計画に難色を示した。問題となったのは開催場所である北ナツナ海である。その一部はインドネシアの排他的経済水域内に位置すると同時に、中国が主張する九段線の内側にも位置する。そのためカンボジアとミャンマーは当初この計画に関する会議に参加しなかった。それを受けてインドネシアは、自然災害が起きやすいバタム島と南ナツナ諸島周辺に実施場所を移した。
(4) ASEX-01Nに参加した5隻の艦艇は、インドネシアから2隻、マレーシア、ブルネイ、シンガポールから1隻ずつが派遣されたものである。Indonesian National Military-Air Forceも部隊を参加させている。それに対してフィリピンとベトナムは艦艇等を送らなかった。直近で米国などと共同訓練を行っていたこと、中国との緊張が高まっていたことなどが原因であろう。ベトナムは理由を明言しなかったが、中国とのつながりを維持することと南シナ海での利害を秤にかけた可能性がある。
(5) インドネシアは、人道支援と災害救援、海洋安全保障など、その演習の非軍事的性質を強調し、また、Yudo Margono大将は開会式で南シナ海の論争に言及するのを避けながらも、他方、ASEANは中国の南シナ海の主張に対して強い意思を送っているのかという質問に対し、「われわれは断固たる姿勢を採っている」と応じている。さらに、こうした演習は今後1年に1度のペースで実施されること、今後はより幅広い軍事演習へと発展していくだろうと付け加えた。
(6) Yudo Margono大将の声明は、今後この演習が制度化され、参加国が拡大する可能性を示唆した。ただし開催までのいざこざは、この演習を通じて南シナ海の利益を確保することが難しいことも示唆している。今後も、非伝統的な脅威への対応という性質に限定される可能性が高い。完全な軍事演習になれば、参加国は減るだろう。
(7) ASEX-01Nは、ASEANの中心性を強化することへの関与の象徴である。それが制度化され、拡大されるには、ASEAN加盟国それぞれの期待に取り組まねばならない。言い換えれば、将来の演習はまだまだ不安定なものになるだろう。
記事参照:ASEX-01N strengthens the intra-ASEAN military landscape

10月27日「NATOのインド太平洋への関与についての6つの神話―日専門家論説」(The Diplomat, October 27, 2023)

 10月27日付のデジタル誌The Diplomatは、慶應義塾大学准教授でAustralian National University客員研究員の鶴岡路人の” 6 Myths about NATO’s Engagement in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここで鶴岡路人はNATOがインド太平洋に関与するとされる6つの事項を神話と称し、その全てを否定し、誤った根拠のない神話に基づく議論を避けるべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 神話1は、「NATOの軍隊はインド太平洋地域にやってくる」である。しかし、NATOはアジアのいかなる有事にも軍隊を派遣する用意も意欲もない。台湾はNATOの管轄外であるため、台湾をめぐる有事に対してNATOが第5条の集団防衛規定を発動することは不可能である。NATOと「AP4」(またはIP4)と呼ばれるオーストラリア、日本、ニュージーランド、韓国との提携の焦点は、サイバーセキュリティ、標準化、海洋安全保障、人道支援などの分野における実務的な協力である。
(2) 神話2は、「インド太平洋地域の国々はNATOに加盟する」である。しかし、アジア諸国がNATOに加盟することは法的にも政治的にも不可能である。なぜなら第10条には、加盟国はヨーロッパの国々であることが明記されており。さらに、インド太平洋地域のどの国も同盟への加盟に関心を示していない。したがって、NATOの東方への動きは、集団防衛の取り決めをインド太平洋地域に拡大することではない。
(3) 神話3は、「NATOの日本連絡事務所はこの地域の勢力の均衡に影響を与え、NATOの性格を変えてしまう」である。しかし、NATOの連絡事務所がインド太平洋地域の勢力の均衡を変化させることはないし、欧州・大西洋組織としての同盟の性格を再構築することもない。構想されているのは、単に日本やこの地域の他の提携国との情報収集や連携活動の調整を行うための1人事務局である。これはNATOの管理上の革新を意味するものであるが、この事務所が現実的に果たしうる役割は限られている。
(4) 神話4は、「NATOのインド太平洋への関与は、同地域における軍拡競争の引き金になる」である。しかし、NATOの関与は軍隊の派遣や集団的自衛権の保障をこの地域に拡大することではないので、軍拡競争の引き金になることはない。過去数十年にわたって一貫して一方的に軍備を増強してきたのは中国であり、地域の勢力の均衡は中国に傾いている。日本や他の国々は、この現実に目を覚まし、近年防衛予算を増やしているが、多くの専門家は、対応の進展速度は十分でないと考えている。
(5) 神話5は、「米国はインド太平洋において、欧州が米国に追随するよう強要している」である。しかし、欧州は米国に従うしかないというのは、北京が他国に信じ込ませようとしている印象である。それは、中国が国際関係を階層的に理解していることの反映でもある。
(6) 神話6は、「欧州はインド太平洋に独自の安全保障上の関心を持っていない」である。しかし、欧州はアジアで独自の利益を持っている。これは経済的なものだけでなく、安全保障や価値観をも包含するようになっており、インド太平洋で何が起こるかによって影響を受ける。欧州は不必要に中国を刺激したくはないし、また刺激すべきではないが、この地域に無関心でいることもできない。少なくとも欧州は早期警戒能力を強化し、不測の事態に備える必要がある。
(7) インド太平洋地域におけるNATOの関与に懐疑的な見方をする人がいることは間違いない。しかし重要なのは、誤った根拠のない神話に基づく議論を避けることである。NATOもインド太平洋地域の諸国も、協力を通じて何を達成したいのかについては、現実的で慎重である。にもかかわらず、欧州とインド太平洋地域の結びつきが強まっていることを考慮すれば、対話と協力は国益に資すると考えていると言える。
記事参照:6 Myths about NATO’s Engagement in the Indo-Pacific

10月27日「米中間の軍事交流が再開―Diplomat誌報道」(The Diplomat, October 27, 2023)

 10月27日付けのデジタル誌The Diplomatは、“China and the US Appear to Restart Military Talks”と題する記事を掲載し、米中間で途絶えていた軍事間の交流が再開されるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国と米国は、台湾と南シナ海に対する北京の主張をめぐる論争が続いているにもかかわらず、両軍の対話を再開させるようである。米国は10月26日、10月に北京で開催される北京香山論壇(Xiangshan Forum)に、U.S. Department of Defenseを代表してCynthia Carras中国・台湾・モンゴル担当首席局長を派遣する予定であることを正式に発表した。U.S. Department of Defenseは安全保障協力について、そして世界的な大国であり、米国、さらに日本や韓国を含むそのアジアの同盟国と対立する相手国である中国の地位の高まりについて議論することを目的としている。中国は2022年8月、当時の米下院議長Nancy Pelosiが、中国が自国領土と主張する台湾を訪問した後、軍事交流を凍結した。最も顕著な出来事の1つは、2月、北米大陸を飛行していた中国のスパイ気球の疑いがある気球が撃墜された後、中国国防部当局者がLloyd Austin米国防長官の呼び出しに応じなかったことである。毎年恒例の北京香山論壇は10月29日から31日に開催される予定である。
(2) ここ数カ月、米国から中国への政府高官の訪問が続いている。関係緩和の最新の兆候として、Blinken米国務長官は6月に北京で中国の習近平国家主席と会談した。中国は、軍事交流の再開を拒否したのは、ワシントンが李尚福前国防部長に課した制裁措置が原因だとしていた。しかし10月24日、中国は何の説明も後任の指名もないまま、李尚福国防部長の解任を発表した。秦剛前外交部長も2023年に罷免されたが、中国政府はまだ解任の理由等について説明していないという状況である。中国の非常に不透明な政治システムは、官僚が更迭される理由をめぐる憶測を呼び起こし易くしている。
(3) 中国は10月26日、中国海軍の新型Type052駆逐艦「桂林」と米駆逐艦「ラルフ・ジョンソン」との異常接近を示すビデオを公開し、この米駆逐艦が8月19日に南シナ海で定期訓練を行っていた「桂林」を妨害したと主張している。中国側は、「ラルフ・ジョンソン」が係争中の西沙諸島付近で急回頭して加速し、「桂林」の艦首を横切ったと主張している。10月26日の記者会見で中国国防部報道官である呉謙上校は、「米国側が望んでいるのは、中国に対する無制限の挑発と迷惑行為で中国の国家安全保障を脅かすことである・・・中国軍は常に厳戒態勢を敷いており、国家の主権、安全、海洋権益を断固として守るために必要なあらゆる手段を講じる」と述べている。
記事参照:China and the US Appear to Restart Military Talks

10月29日「南シナ海での紛争にASEANの効力はない―フィリピン日刊紙報道」(The Manila Times, October 29, 2023)

 10月29日付のフィリピン国営日刊紙The Manila Times電子版は、”Asean 'ineffective' in SCS dispute“と題する記事を掲載し、ここで米国Center for Strategic and International Studiesの分析では、南シナ海における緊張の高まりに対処する上でASEANの存在は効果がないとして、要旨以下のように報じている。
(1) 米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies(以下、「CSIS」と言う)のHarrison PretatはThe Manila Timesのインタビューに対し、「ASEANは、南シナ海における緊張の高まりに対処する上で効果がない」と答え、具体的に次のように述べている。
a. ASEANは近年、南シナ海紛争における緊張の高まりに対処する上で、加盟10ヵ国すべての加盟国の合意を得ることができず、効果がないことが証明されている。
b.係争海域における中国の侵略に対抗するために、ASEAN加盟国はより小さな提携を形成し、紛争を管理するための共有する取り組みを開発すべきである。
c.東南アジアの領有権を主張する国々にとっては、2、3ヵ国による共同科学調査や共同漁業管理のための小規模な提携が、協力の機運を高め、紛争管理のための共有の取り組みを始める機会となるかもしれない。
(2) 南シナ海の紛争についてCSISは次のような見解を持っている。
a. Ferdinand Marcos Jr.大統領の南シナ海における自国の立場を支持させる戦略はうまくいっている。
b. 2023年に入ってから、フィリピンは紛争海域での中国船との遭遇に関して、事件発生直後に写真やビデオを公開するという新しい手法を採っている。また、南シナ海における哨戒に参加し、セカンド・トーマス礁での補給活動を監視・記録するために、国際メディアを招待した。これらの努力は、フィリピンの立場と、9段線に代表される中国の主張には法的根拠がないとした2016年の南シナ海に関する仲裁裁定に対する国際的支持を得るための戦略の一環である。この戦略はうまくいっているように見える。
c.2016年の裁定を公式に支持したのは、当初8ヵ国だったが、その後、フランス、イタリア、インド、韓国、その他のヨーロッパの13ヵ国が加わり25ヵ国に増えた。
d. 中国は係争海域で活動可能な大型船を多く持っているので有利であるが、この1年間の包括的な争いに勝利しているのはフィリピンである。
(3) 本紙は別のインタビューで、U.S. Department of StateのNathaniel Tek副報道官に、フィリピンと中国海警総隊の衝突が増加していることに関して、米国はフィリピンへの支援を強化する計画があるかどうかを尋ねた。そして次の回答が得られた。
a. U.S. Department of StateのMatthew Miller報道官が最近発表した声明や、Jake Sullivan米国家安全保障問題補佐官とフィリピンの国家安全保障問題補佐官との電話会談などは、中国の非合法かつ強圧的な行動に直面し、米国が同盟国であるフィリピンと断固として対峙していることを示している。
b.インド太平洋は海洋地域であり、米国は各国が海洋法を尊重し、誰もが遵守する法を持つという立場にある。
c.米国は一貫して、国際法に根拠を持たない中国の拡張的な海洋権益の主張を非難してきた。各国が自国のEEZにある資源を自由に利用できるインド太平洋は、この地域の誰もが望む、より明るく豊かな未来にとって不可欠だからである。
d.中国の行動は挑発的で、この地域の安定を損なうもの、という明確な考えを米国は送るつもりである。
(4) CSISによれば、フィリピンはセカンド・トーマス礁での補給活動において、他国からの支援を求めることができるとされており、その細部は次のとおりである。
a.米国は、U.S. Navyの偵察機を派遣し、フィリピンを支援しており、中国がフィリピンの補給船を阻止しようとした際には、支援の声明を出している。
b.米国とフィリピンは、2023年末までに南シナ海で共同哨戒を実施することを約束している。
c.セカンド・トーマス礁での最近の衝突事故を受けて、米艦船が当該地域への補給任務に同行することを米比双方が検討する可能性がある。
(5) 米上院外交委員会のTammy Duckworth上院議員は、次のように述べている。
a. ASEAN加盟国の多くが領海侵犯に遭っているのだから、ASEANは団結して国際規範を守るべきである。
b.領海に侵入して漁をしたり、乱獲したりする中国の政策によって、加盟国の経済が影響を受けている。中国と対立するのではなく、『領海に入ってくるな』を主張すべきである。
c.それはどこの国に対しても言えることで、我々は航行の自由を持つべきである。
(6) Tammy Duckworthは、ASEANは経済成長に焦点を当てるべきだとして次のようにも語っている。
a.我々はインフレ抑制法を成立させた。これは、ASEAN諸国が韓国や台湾、日本などの大企業と協力し、米国市場向けに製品を製造する機会を提供する法律である。
b.電気自動車、バッテリー、ソーラーパネルなどは米国では製造できないので、サムスンやパナソニック、SK、台湾の半導体メーカーと協力するのがよい。
c.米国市場向け製品をインドネシアやマレーシア、タイで製造すれば、それが良い機会となり、ASEANがグループとして団結できるであろう。
d.このような関係を築き、お互いを支え合い、経済的な関係を再構築すれば、外交的な関係や友情も深まるはずである。我々は中国と対立するためにここにいるのではない。
(7) Nathaniel Tek副報道官は、インド太平洋地域、特に東南アジアの米国の同盟国に対し、米国との安全保障上の結びつきと協力の習慣を引き続き築くよう奨励し、次のように語っている。
a.米国とASEANの間に強い絆の波が押し寄せている。それは世界中に、両者の友好関係が非常に強いという合図を送ることになる。
b.米国はインド太平洋の国である。我々はこの地域と長年にわたる歴史的・地理的なつながりを持ち、米国の未来はインド太平洋や東南アジアの未来と密接に結びついている。
c.米国はこの地域に存在しなければならないし、この地域の人々は米国の存在を望んでいる。
d.米国はASEANや東南アジアにとって信頼できるパートナーであることを示したい。それを基盤にして不安定化する中国の行動を抑止することができる。
記事参照:Asean 'ineffective' in SCS dispute

10月30日「南シナ海:米国は中国の「グレーゾーン」の脅威に一線を引け―米専門家論説」(Geopolitical Monitor, October 30, 2023)

 10月30日付のカナダ情報誌Geopolitical Monitorのウエブサイトは、Johns Hopkins UniversityのSchool of Advanced International StudiesのForeign Policy Institute非常勤上席研究員James Bortonの‶South China Sea: U.S. Must Draw a Line on China’s “Grey Zone” Threats″と題する論説を掲載し、ここでJames Bortonは中国による国際海洋法条約を逸脱した海洋進出を見過ごせば、領有をめぐる係争地が中国に奪われ、海洋資源も自然環境も中国によって破壊される恐れがあり、自由で開かれた海洋と資源・自然を守るために米国を中心に結束して対応しなければならないとして、要旨以下のよう述べている。
(1) 過去10年間、米国は中国による海洋における法と秩序を乱す違法行動(以下、海上暴動と言う)を、より深刻な対ドローン技術を含む本格的な破壊を伴う攻撃を行う中国の海軍能力の問題から目をそらすための小さな策略と無視して事態を悪化させていたように思われる。U.S. Naval Instituteの海上暴動対策計画は、著名な海洋戦略の専門家を集め、南シナ海で他国に対する嫌がらせ、威嚇等を拡大させている中国の海上暴動に対し、米国とその同盟国が実態を明らかにして適切に対処するめの効果的な方法を分析することを目的としている。対海上暴動計画の協力者には、James Holmes, Geoffrey Till, Bryan Clark, Peter Swartzなど南シナ海の著名な専門家が名を連ねている。
(2) 中国は現在、国家間の潜在的な紛争に備えるとともに、非軍事的手段で積極的に目的を達成しようと、軍事的、非軍事的2つの領域からの取り組みを行っている。10月22日、フィリピンの排他的経済水域内にあるアユンギ礁(セカンド・トーマス礁)で2件の船舶の衝突事故が発生した。中国海警総隊の船艇がフィリピン政府と契約した小型補給船に衝突、その後、中国の武装民兵船がPhilippine Coast Guardの小型船に衝突した。グレーゾーンと海上における違法行動は同義ではないが、どちらも紛争地域における安全保障問題の一部である。国際海洋法侵犯の危険は、やがて航行の自由作戦(FONOP)の強化では対応できなくなるかもしれない。過去10年間、中国人民解放軍海軍(PLAN)は、新型艦艇、潜水艦、海軍技術に資源を投入することで、その能力を急速に近代化・拡大してきた。
(3) 8月28日、中国自然資源省は新標準地図と称するものを公表したが、この地図には、既に常設仲裁裁判所で却下された9段線を拡張した10段線が含まれている。中国の行動は、米国政府が2023年5月に発表し、米軍兵士がフィリピン兵士を救出する状況を明確にした新しい2国間防衛指針に照らしても憂慮すべきものである。この指針は、南シナ海におけるアメリカの政策が、「徹底した不関与」からグレーゾーン状況における中国の挑発的行為の防止へと転換することを示唆している。
(4) U.S. Naval Instituteの海上暴動対策計画の責任者であるHunter Stiresは、中国の軍事能力向上が、中国による海上暴動に対する米国の注意をそらし、対応を思いとどまらせることを目的としていると言う。米国が主導する法に基づく国際秩序を弱体化させようとする中国は、継続的な努力により、軍事行動に訴えることなく実質的に進展を遂げている。 これは、違法・無規制・無報告漁業や武装強盗、ベトナム漁船に対する損害賠償請求など中国の悪質な海洋犯罪を見れば明らかである。
(5) このような不法行為を阻止するために、ベトナム、フィリピン、インドネシアは、中国の海洋侵犯を抑制する海洋監視情報を共有し、世界的な海洋フォーラム参加等で協力する必要がある。10月25~26日にDiplomatic Academy of Vietnamが主催した第15回南シナ海会議で、Do Hung Viet外務副大臣は中国のグレーゾーンの活動は、対立の危険性を著しく高め、地域の法と秩序による統治を不安定にし、法、信頼、協力への政治的意志を損なうと述べている。さらに、米国が加盟する海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(IPMDA)は、即時に無線周波数データ収集結果を提供することで、地域の提携国と協力して違法漁業と闘うことを約束している。
(6) 中国の手法は、多大な対価が必要であり、危険な大規模侵略戦争を行うのではなく、東南アジアの膨大な民間海洋人口を支配下に置くために、戦闘を伴わない段階での戦術を求めている。この地域には370万人以上の人々が住み、彼らの日々の生存は南シナ海の利用にかかっている。中国海警総隊と人民軍海上民兵組織は、他国の漁民の漁獲物を押収し、安全な海上操業に不可欠な船舶の無線設備や航行設備を破壊し、漁船の飲料水を汚染し、漁民に陸地への帰還を強いている。さらに、ベトナム人漁民が金銭と引き換えに中国の準軍事組織に捕らえられた事件も報道されていない。中国は、地域規模ではなく世界規模で世界一の漁業搾取国として台頭してきた。中国漁船は中国の海岸線から遠く離れた海域で活動し、その漁獲量の増加は、すでに深刻な世界の漁業資源の枯渇をさらに悪化させる恐れがある。
(7) 中国の度重なる海洋での行為が国家による海賊行為と見なされるかどうかは別として、その戦略的目的が、海洋の自由という理念を支える国際法制度を弱体化させることにあることは明らかである。この原則は米国の国益にとって根幹をなすものであるが、中国政府は階層構造によって定義される独自の硬直的で利己的な海洋主権思想を押し付け続けている。「藍色国土」と称する広大な沖合海域の権限を主張することで、沿岸の小国がEEZやその他の基本的な海洋権益を行使することを妨げている。University of Miami のJohn McManus博士等の海洋科学者は定期的にこの地域を訪れ、海洋環境と魚類資源の崩壊を防ぐために重要な南シナ海のサンゴ礁の破壊に警鐘を鳴らしている。「領有権争いによって、多くの島々に環境破壊的で、社会的にも経済的にも対価のかかる軍事拠点が設置されている」と生態学者は主張する。
(8) 11月に米国は、サンフランシスコでAsia Pacific Economic Conference(APEC)を主催する。これは、インド太平洋における米国の経済的指導力と多国間主義を示すだけでなく、効率的で円滑な物資輸送を支える、自由で開かれた南シナ海への関与を強調する重要な機会でもある。より広い意味で、米国はインド太平洋地域における中国の海洋的野心によってもたらされる将来の事件や危険に不意打ちを受けるわけにはいかない。
記事参照:https://www.geopoliticalmonitor.com/south-china-sea-u-s-must-draw-a-line-on-chinas-gray-zone-threats/
関連記事:2022年7月「海上暴動対策計画始動-米専門家論説」(Proceedings, July, 2022)
https://www.spf.org/oceans/analysis_ja01/_20220701.html

10月31日「ASEAN海軍演習と地域海洋協力の展望―シンガポール専門家論説」(Commentary, RSIS, October 31, 2023)

 10月31日付のシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトCommentaryは、同SchoolのMaritime Security 課程非常勤上席研究員John Bradfordの “ASEAN Solidarity Exercise and Regional Maritime Cooperation”と題する論説を掲載し、ここでJohn Bradfordは最近終了した海軍共同演習ASEAN Solidarity Exerciseについて、ASEAN内の安全保障協力の強化に向けての小さな前進と評価する論調が多かったとして、要旨以下のように述べている。
(1) 9月のASEAN Solidarity Exercise(以下、ASEX23と言う)は、一般的な観点からすれば、2023年のASEAN議長国としてのインドネシアの海洋領域における指導力の成果として、(この地域にとっての海洋領域の重要性の高まりを詳述した)2023年8月のThe ASEAN Maritime Outlook(AMO)*に匹敵し得るとも言える。東南アジア諸国間では、機密情報の共有に前向きになり、また海洋領域における相互の脅威がもたらす共通の課題にますます警戒感を抱くようになってきたことなどから、2005年頃から海洋安全保障協力が拡大してきた。これらの海洋安全保障協力の多くは、ASEAN加盟の2ヵ国あるいはASEAN加盟国と域外の提携国との2ヵ国といった2国間協力であった。マラッカ海峡での協調的哨戒活動や、スールー海とセレベス海での監視活動を効率化する3国間協力協定など、その他の活動は本質的に少国間主義に基づくものであった。また、ASEANが主催し、加盟全10ヵ国が参加する活動もあった。さらには、ASEAN全加盟国はそれぞれ、オーストラリア、中国、EU、インド、日本、ロシアおよび米国などの域外提携国と関係している。今や、こうした協力体制は数えきれない程多くなっている。
(2) 東南アジア諸国の軍隊は大戦後、単独であるいは国際的な提携国とともに南シナ海で定期的に演習を実施してきた。21世紀初頭から、ASEAN地域フォーラムは、人道支援と災害救援に焦点を当てた多国間軍事活動を主催し始めた。そして2010年創設の拡大ASEAN国防相会議(以下、ADMM-Plusと言う)が野外訓練演習(FTX)を主催し始めたことから、多国間軍事活動は一層活発化してきた。たとえば、2016年には、ASEAN加盟国とその対話提携諸国による先駆的なADMM-Plus FTXが実施された。以来、ASEAN諸国海軍は、2018年には中国と、2019年は米国、2020年はロシアおよびインド2021年はインドとそれぞれ南シナ海で演習を実施してきた。2017年には、提携諸国が参加しない初のASEAN多国間海軍演習(以下、AMNEXと言う)をタイが主催し、タイ湾で演習を実施した。2023年5月には、フィリピン主催の第2回AMNEXが実施され、ASEAN諸国の海軍部隊がスービック湾から南シナ海に出航し、非伝統的な安全保障上の脅威に対する相互運用性を演練した。こうした歴史的経緯を見れば、ASEAN加盟国だけの共同軍事演習は、非常に手軽に得られる成果のはずだった。
(3) Indonesian National Armed Forces参謀総長が2023年6月に北ナツナ海(南シナ海南部海域のインドネシア呼称:訳者注)でインドネシア主催の初の共同軍事演習ASEAN Solidarity Exercise(以下、ASEX23と言う)を9月に実施すると発表したが、この計画にカンボジアが難色を示し、すぐに流れた。インドネシアは指導力を発揮して事態を収拾し、6月末までに演習の実施が合意されたが、場所はナツナ諸島北部海域から、さらに南のインドネシア群島基線内の海域に移された。ASEX23の訓練内容には、共同海上哨戒活動、捜索救難活動および人道支援・災害救援などが含まれていた。ASEANは軍事同盟ではなく、したがってASEAN加盟国が統合部隊として戦うことは決してないが、交通災害、台風および地震被害などの複雑な海洋事案に対する多国間の軍事的対応は頻繁に実施されており、ほとんどの場合、域外の提携諸国が派遣した部隊からの支援が含まれる。したがってASEX23は、南シナ海における初のASEAN軍事演習になるわけでも、また全ASEAN加盟国による域外提携国からの参加のない初の合同軍事演習になるわけでもない。実際、歴史的経緯を見れば、演習名に“solidarity”(連帯)という言葉を含んではいるが、名前を除いて何が新しく、独創的であったかを正確に確認するには、注意深い分析が必要である。いずれにしても、今回、こうした非常に控え目な目標――新しい旗印の下で過去の活動を再現するという目標でも、あまりにも遠すぎる橋であることが証明された。
(4) 南シナ海における一部のASEAN加盟国と中国の領有権紛争は、海洋安全保障におけるASEAN内の協力に影響を与えてきた。その1例は、中国が2012年にASEANの声明がスカボロー礁(中国名:黄岩島)周辺での中国の行動**に言及しているのではないかとの懸念を表明したことである。このことはASEANにとって重要な先例となったはずで、その後、カンボジアが議長国を務める年には共同声明が発表されない、行き詰まりを招いた。今では、中国はさらに強硬になっているようである。(ASEX23)は「通常どおり」に行われるはずであったが、あまりに挑発的で分断を招くと判断された。より具体的に言えば、中国の神経敏感さがASEANの活動を南シナ海からの撤退に追い込んでいる。皮肉なことに、多くの東南アジア諸国が中国の新たな南シナ海地図に対して外交的に異議を唱えるという異例の決意を示した直後にも関わらず、今度はASEAN諸国の方が及び腰であった。
(5) ASEAN加盟国間の協力は広範な海洋安全保障上の課題に対処するために不可欠であるため、海洋安全保障協力の将来見通しが暗くなることは極めて危険である。大国間対立は、東南アジアの厳しい現実となってきている。その結果、関係各国は自国の国益に最も適した決定を下すために自らの計算を調整していかなければならない。それでも、課題が全ての前進を阻むことはない。ほとんど象徴的な軍事演習を新しい海域に移すことは、それ自体比較的小さな事柄に過ぎない。しかし、小さな事柄が大きな変化を画する可能性があり、したがって、東南アジア諸国は長年にわたる海洋安全保障協力の行動計画を逆転させるわけにはいかないのである。
記事参照:ASEAN Solidarity Exercise and Regional Maritime Cooperation
注*:AMOの全文は以下を参照
https://asean.org/wp-content/uploads/2023/08/20231011_AMO-Report-COMPLETE.pdf
**:2012年4月、フィリピンのEEZ内にあるスカボロー礁で操業する中国漁船を巡って中比両国の政府公船が対峙したが、フィリピン巡視船が台風を理由に撤退した後も中国公船が居座り、以後、中国が同礁を実効支配している。

10月31日「中国に対抗するため、南シナ海で共同哨戒を―フィリピン専門家論説」(Geopolitical Monitor, October 31, 2023)

 10月31日付のカナダ情報誌 Geopolitical Monitorのウエブサイトは、フィリピンのシンクタンクInternational Development and Security Cooperation の常勤研究員Joshua Bernard EspeñaとRalph Romulus Frondozaの“The Case for Joint Patrols in the South China Sea”と題する論説を掲載し、両名は中国に対抗するために、南シナ海でフィリピンと東南アジア諸国が共同哨戒を行うことが有効であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピンと中国の関係は月を追うごとに悪化しているが、10月22日の衝突事件もそれを証明する事件である。セカンド・トーマス礁付近で2隻の中国船がPhilippine Coast Guardの巡視船に衝突したこの事件は、フィリピンが中国との外交交渉を緊急に必要としている証拠と見ることもできるが、「別の手段による外交 」を始めるべきかもしれない。フィリピンのGilberto Teodoro Jr.国防大臣は、中国の行動を変えることを期待して、西フィリピン海での多国間共同哨戒を実施するために、同盟国や提携国と協議することを好んでいる。
(2) Ferdinand Marcos Jr.フィリピン大統領は、対外防衛を最優先事項とする明確な国家安全保障政策をついに採用した。フィリピン政府は、セカンド・トーマス礁で座礁させてある「シエラ・マドレ」への補給任務中に起きた最新の衝突事故を受け、中国海軍の攻撃的な行動と誠実さのない談話を弱めるために、潜在的な事態拡大を検討している。フィリピンが外交上の「棍棒」として共同哨戒を検討する背景には、このような政策の岐路がある。
(3) 我々は、南シナ海での共同哨戒が緊迫した海域における軍事的小競り合いの非対称性を再調整し、最終的には時間とともに中国を集団的に抑止することができることを主張する。結局のところ、共同哨戒を実施する方が、米比相互防衛条約を急いで発動するよりも、中国のグレーゾーン戦術に打ち勝つためのより良い選択肢なのである。東南アジア諸国が実質的な行動を採らないことを批判されているが、集団的抑止力は海洋協力の式典の形式や象徴を超え、実際の軍事作戦にまで及ぶ。意欲的な国家が、航行の自由を監視する哨戒を実行可能な戦略的実践を展開し、国際的な海洋の自由な利用を侵害する行動に対する効果的な対応を生み出すための規範構築活動として認識するとき、機会は訪れる。実際、フィリピン政府には外交的抗議を続けるためのありとあらゆる理由がある。しかし、その考えうる疲労を和らげ、貴重な見返りの減少を避けるためには、共同哨戒と組み合わせ、賢明に適用すれば、中国の敵対的な悪意ある攻撃を無力化し、中国の攻撃に対応することさえできる。
(4) どんなに派手な戦略であっても、後方支援が戦略的機会の「重要な裁定者」である。つまり、移動と補給ができないのなら、戦うことはできない。さらに、本格的な後方支援によって、部隊は所定の作戦地域における共同哨戒の進捗速度を維持することができる。したがって、フィリピンの国防計画立案者や政策立案者は、相手国との共同哨戒が一回限りの大がかりな取り組みではないことを前提としなければならない。
(5) これまでのところ、南シナ海周辺に巧みに事前に配置された中国の海軍、海警、海上民兵の艦船が、西フィリピン海上に群がることを克服することが課題となっている。共同哨戒による集団的抑止力が整っている場合、中国は実際の衝突ではなく、外交的な中傷に頼る可能性が高い。しかし、望ましい効果を得るための、このような相互運用可能な取り組みを持続させるためには、政治的な意志にかかっている。
記事参照:The Case for Joint Patrols in the South China Sea

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) The Sources of American Power: A Foreign Policy for a Changed World
https://www.foreignaffairs.com/united-states/sources-american-power-biden-jake-sullivan?utm
Foreign Affairs, October 24, 2023
By Jake Sullivan, U.S. National Security Adviser
2023年10月24日、Jake Sullivan米国家安全保障問題担当大統領補佐官は、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" The Sources of American Power: A Foreign Policy for a Changed World "と題する論説を寄稿した。その中でSullivanは、米国人は将来を楽観視すべきであるが、しかし、米国の外交政策は急速に過去のものとなりつつあり、今問われているのは、米国が直面している主要な課題、すなわち相互依存の時代における競争に適応できるかどうかであるとした上で、今や軍事分野だけでなく、国際政治のほとんどすべての側面に戦略的競争が及んでおり、その構図が世界経済を複雑にしているし、気候変動や世界的感染拡大など、各国が共有する問題への対処法も変わりつつあると述べている。そしてJake Sullivanは、これからの10年間、米政府高官は過去30年間よりも多くの時間を、しばしば基本的な問題で意見の異なる国々との対話に費やすことになるだろうと指摘し、世界はますます対立を深めており、米国は自国の理想や価値観を共有する相手とだけ対話することはできない状況にあると主張している。

(2) The Return of Nuclear Escalation
https://www.foreignaffairs.com/united-states/return-nuclear-escalation
Foreign Affairs, October 24, 2024
By KEIR A. LIEBER is a Professor in the School of Foreign Service and the Department of Government at Georgetown University.
DARYL G. PRESS is Director of the Initiative for Global Security at the Dickey Center for International Understanding and Professor of Government at Dartmouth College.
2023年10月24日、米Georgetown University のKeira Lieber教授と米Dartmouth College のDaryl G. Press教授は、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" The Return of Nuclear Escalation "と題する論説を寄稿した。その中で両名は、朝鮮半島、台湾海峡、東ヨーロッパ、ペルシャ湾など、米国が紛争に巻き込まれる可能性が最も高い地域において、米国の敵対国は核兵器を獲得、強化、あるいは使用する蓋然性が高い状況にあると指摘した上で、楽観論者は米国がこのような敵対国の核の脅威を真に受けることは馬鹿げていると言うが、それは誤りであり、戦争中に核が事態を拡大する危険性は、一般に考えられているよりもはるかに大きく、米国の敵対国が今日直面している難問は、いかにして説得力を持って事態拡大で脅し、核武装した相手を膠着状態に陥れるかということであると述べている。そして両名は、米国は冷戦後、西側の政治的価値観と自由市場を広め、世界中に軍事的関係を築いたが、核武装した敵対国である中国、北朝鮮、ロシア、そしておそらく近い将来にはイランが対抗してくるだろうと指摘した上で、米国の政策立案者は、敵の潜在的な力を軽視しない方が賢明であり、強権的な核による事態拡大の脅威の高まりを真剣に受け止めなければならないと主張している。

(3) NATO’s Military Leader: “We Must Be Prepared for Military Conflicts Arising in the Arctic”
https://www.highnorthnews.com/en/natos-military-leader-we-must-be-prepared-military-conflicts-arising-arctic
High North News, October 30, 2023
2023年10月30日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版は、“NATO’s Military Leader: “We Must Be Prepared for Military Conflicts Arising in the Arctic”と題する記事を掲載し、アイスランドで開催されたArctic Circle Assembly2023(北極サークル2023年総会)で、NATOの軍事委員会議長Rob Bauer Koninklijke Marine(Royal Netherlands Navy:オランダ海軍)大将が語ったことを取り上げた。その中で、①脅威であるロシア、意図が不明確な中国、そして両国間のより強い相互作用、特に航行し易くなる北極海が、NATOの北を向いた双眼鏡を通して見ることができる。②6月にロシアのSergey Lavrov外務大臣が、中国を北極圏におけるロシアの最も重要な提携国だと述べている。③ロシアとの対話および協力は失敗に終わった。④我々は、北極圏を含むあらゆる領域で、あらゆる瞬間に紛争が起こりうるという事実に備えなければならない。⑤Joint Force Command Norfolkは、NATOの戦力態勢が北極圏での活動を支援し、北極圏防衛の結束力を強化することを保証する。⑥NATO諸国はまた、脆弱性の地図を作成し、同盟国、提携国、民間セクター間の取り組みを調整するための海底インフラを整備する下部組織、及びNATOの海上司令部の下に重要な海底インフラを確保するための専門センターを設置することに合意した、⑦ノルウェー、フィンランド、デンマークの防衛予算の増加、そして北極圏でも空と海のパトロールを強化するための戦闘機や艦艇などの新しい能力への投資、特に非同盟国の潜水艦への警戒を強調した、⑧NATOとロシアの軍のトップが緊張を迅速に緩和するために設けたホットラインは、依然として機能していない。⑨北欧の同盟国の北極圏での協力、投資、警戒態勢の強化に感謝しているといったことが書かれている。