海洋安全保障情報旬報 2023年10月11日-10月20日

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10月11日「西側諸国は中国に対するフィリピン防衛強化以上のことを実施すべきである―フィリピン研究者論説」(NIKKEI Asia, October 11, 2023)

 10月11日付の日英字経済紙NIKKEI Asia電子版は、University of the Philippines 上席研究員Richard Javad Heydarianの“West has to go beyond boosting Philippine defenses against China”と題する論説を掲載し、そこでRichard Javad Heydarianはフィリピン国内の政治・経済状況が民主主義諸国にとってのジレンマとなっていることを指摘し、西側同盟国は経済協力や軍事協力をテコとしてフィリピンに国内政治改革を促すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 9月、フィリピン北部の町でMaria Saniata Liwliwa Gonzales-Alzateという人物が銃撃され、死亡した。彼女は社会活動を行う弁護士で、特にDuterte前大統領の麻薬戦争の犠牲者の相談を数多く請け負った人物である。この著名な弁護士の死亡事件と同じような事例は数多くある。Marcos, Jr.大統領が就任してから1年、彼女は殺害された弁護士として3人目となる。
(2) フィリピンのこうした状況は、民主主義的な同盟国にとってジレンマである。同盟国は、Marcos Jr.大統領による堅実な外交政策、特に南シナ海で非妥協的姿勢を歓迎している。他方、フィリピン国内の人権問題が持続していること、政治的腐敗、対外投資の落ち込み、経済成長の鈍化などへの懸念が高まっている。そのため、民主的な同盟諸国はフィリピンが政治改革を行うような方向へとフィリピン政府を促すような行動を採るべきである。
(3) これまでのMarcos Jr.大統領は自由主義的な政策を推進することで、批判者たちを驚かせてきた。特に重要なのは、彼がDuterte政権時代の麻薬戦争を人道的な方向へと微修正したことである。メディアとの関係も良好なものになっているし、超法規的な殺人の事例も、大きな懸念ではあるものの頻度は減っている。Marcos Jr.政権が国内改革を行うのは、が最良の時機である。
(4) 最初に、そして最も大事なこととして、フィリピンは法の支配を最重要視すべきである。これまで、Duterte政権下でおこなわれた超法規殺人に関する国際刑事裁判所の調査を、現政権は拒否している、元上院議員Leila de Limaなどの政敵はなお服役中であるが、多くの人々は罪を捏造されたと考えている。政治的腐敗に関しても問題があり、Transparency Internationalは、アジア太平洋地域のなかでフィリピンがかなりのレベルで腐敗度が高まったと報告した。
(5) 次に対外投資の落ち込みの問題である。Marcos Jr.大統領は諸外国への歴訪で620億ドルの投資の約束を取り付けきたが、実際の外国直接投資の金額は下がり続け、2023年前半の投資額は2022年の同時期より2割も少なかったという。外国の投資家の懸念は、経済成長の鈍化だけでなく、政治改革が進展しないことにもありそうである。Marcos Jr.大統領は政治的な対立を嫌がる傾向があるので、自分たちの支持者や伝統的に有力な政治家を失脚させかねない政治改革を進めたがらないのかもしれない。
(6) 同盟国との軍事的紐帯の強化に関して、Marcos Jr.政権は成功している。米国は防衛協力強化協定に基づくフィリピン基地の利用を拡大し、日本もフィリピンとの訪問軍協定の締結を模索し、EUも海洋安全保障協力の拡大に向け動いている。南シナ海においてフィリピンが自国の権利を主張するために、こうした動きは不可欠である。必要なのは、同盟国が軍事協力をテコに、フィリピンの国内改革を促すことであろう。
(7) 貿易や投資をテコにした改革の推奨も効果的であろう。日本はフィリピンにおける最大の基幹施設投資国であり、米国も2国間の自由貿易協定を模索している。政治的腐敗などの問題について外国政府はフィリピンを公然と非難するべきではないが、自由貿易交渉や戦略的投資などをニンジンとして、改革を促すことはできるはずである。また、デジタルガバナンスをとおした官僚機構の簡素化を支援するための能力構築支援を拡大することもできるし、構造改革を要求する市民団体やシンクタンクへの支援も効果的であろう。
(8) 地域で台頭する中国に対する砦としてフィリピンを扱うのではなく、フィリピンに対する支援によって同国を自由で安全な、信頼できる同盟国にするよう、民主主義同盟国は動くべきである。
記事参照:West has to go beyond boosting Philippine defenses against China

10月11日「台湾の新型潜水艦に最新システムを提供する米国―水中戦専門家論説」(Naval News, October 11, 2023)

 10月11日付のフランスの海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、水中戦の専門家H I Suttonの“America Providing Advanced Systems For Taiwan’s New Submarine”と題する論説を掲載し、H I Suttonは台湾初の国産潜水艦「海鯤」は、1980年代のオランダの潜水艦が設計の基盤となっているが、米国が提供した最新のシステムを多く搭載しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 台湾は2023年9月28日、初の国産潜水艦「海鯤(ハイクン)」の進水式を行った。画像を分析したところ、この潜水艦はすでに就役している海龍級潜水艦を基盤にしていることが確認された。
(2) 海鯤級潜水艦は、オランダのズヴァールトフィス級潜水艦の派生型である海龍級潜水艦を基本的にリバースエンジニアリングしたものだが、少し目に見える違いがある。しかし、この潜水艦は、米国から供給された現代的なシステムを取り入れることで、最新のものとなっている。
(3) 台湾は1980年代にオランダから「海龍」、「海虎」の2隻を受け取った。その設計はオランダのズヴァールトフィス級潜水艦を基盤にしており、ズヴァールトフィス級潜水艦自体は米海軍のバーベル級潜水艦から派生したものである。それにもかかわらず、「海龍」級潜水艦は何らかの形で日本型を基礎にしているという憶測がメディアで広まっている。日本の技術者が援助したという報道は事実かもしれないが、この設計に及ぼす影響の程度は誇張されている。偶然にも、現代の日本の潜水艦もバーベル級潜水艦の系譜を受け継いでいるため、似たような設計上の選択をしている。海鯤級潜水艦の土台はオランダだが、設計、建造、装備は現地でのプロジェクトである。内部には、海龍級潜水艦の1980年代の技術に取って代わる多くの新しいシステムが搭載されている。
(4) 外面的に、海鯤級潜水艦はX字型の舵に変更されたことで、海龍型潜水艦と区別できる。また、より現代的な統合型のセイルと呼ばれる上部構想物が採用されており、現代的なマストシステムを中心に建造されている。マストは米防衛企業L3 Harrisが供給し、電気光学式の「潜望鏡」が搭載される予定である。これらのマストは、内殻非貫通型であるため、誤って船に衝突した場合でも安全である。もう1つの利点は、モジュール式であることである。つまり、マスト類の換装が容易である。また、現代的な光学電子式を採用しているため、潜望鏡を長く上げておく必要がなく、発見されにくい。
(5) 海鯤級潜水艦の兵装は、米国が供給するMK-48 Mod6 Advanced Technology重魚雷である。この魚雷を搭載することで、対水上艦攻撃能力と対潜水艦攻撃能力の両方が得られる。MK-48 Mod6 Advanced Technology重魚雷は、米国の潜水艦発射型対艦ミサイル「ハープーン」によって補完される見込みである。
(6) 台湾は初の国産潜水艦を設計・建造できたことを当然誇りに思うだろう。必然的に、このような試みでは、多くの重要なシステムを輸入する必要がある。
記事参照:America Providing Advanced Systems For Taiwan’s New Submarine

10月12日「米議会委員会は原子力艦艇を建造する第3の造船所を要求―U.S. Naval Institute報道」(USNI News, October 12, 2023)

 10月12日付のU.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、” Congressional Commission Calls for Third Nuclear Shipyard to Bolster U.S. Strategic Forces”という記事を掲載し、ここで米国議会委員会が9月28日に発表した新しい報告書の中において、原子力艦艇建造用の第3の造船所を要求し、将来の核武装した2つの敵対国からの脅威に対処するために決断を下す必要を述べているとして、要旨以下のように報じている。
(1) U.S. Department of Defenseは、米国が中国やロシアの核戦力近代化に歩調を合わせられるよう、原子力艦艇を建造できる第3の造船所を必要としていると、米国のCongressional Commission on the Strategic Posture of the United States(将来の戦略的態勢に関する議会委員会:以下、委員会と言う)が9月28日に発表した新しい報告書の中で述べている。そして、第3の民間造船所により、原子力潜水艦を建造する能力は拡大され、米国の戦略的戦力を強化するとされている。さらに委員会は、U.S. Department of Defenseに対し、「特に原子力潜水艦に重点を置き、原子力艦艇の建造に特化した第3の造船所を設立するために産業界と協力して造船能力を増強する」ことを提案した。現在は、General Dynamics Electric Boat社とHuntington Ingalls Industries社のNewport News Shipbuildingが海軍の原子力艦艇を建造しており、第3の造船所はこの仕事に加わることになる。同委員会は民間造船所を推奨しているが、それには政府からの多額の投資が必要となる。
(2) 上院軍事委員会のRoger Wicker上院議員は声明で、「この超党派の報告書の調査結果は、我々が直面している状況の深刻さを詳述し、米戦略軍の現在の軌道では迫り来る中国とロシアの脅威を抑止するには不十分」と強調し、「この報告書はまた、原子力潜水艦の建造数を増やし、修理時間を短縮する産業基盤を拡大するために必要な重要な作業を思い起こさせ、さらに、米軍と国家安全保障に関わる共同体全体に対する警鐘となる。」と述べている。
(3) 前述の2つの民間造船所が海軍の原子力艦艇を建造する一方で、海軍の造船所は歴史的に原子力潜水艦の保守整備を担当してきたが、近年は海軍造船所の整備が滞り、民間造船所が原子力潜水艦の整備を請け負っている。委員会の報告書には、AUKUSにより、米国がオーストラリアにバージニア級攻撃型原子力潜水艦を数隻売却する一方で、オーストラリア政府が攻撃型原子力潜水艦を自前で建造・維持する能力を開発するということも含まれている。しかし議員たちは、U.S. Navy向けの潜水艦建造を続けながらAUKUSを支援する米国の産業基盤について懸念を表明している。現在2つの民間造船所による年間建造率はバージニア級原子力潜水艦1.2隻程度であるが、プログラム全体は予定より数百ヶ月遅れていることをUSNI Newsは以前報じた。前海軍作戦部長Mike Gildayは以前、米国がRoyal Australian Navyに攻撃型潜水艦を売却するのであれば、産業界は年間2隻以上の原子力潜水艦を建造しなければならないと述べている。
(4) 並行して海軍は、海軍の最優先課題であるコロンビア級潜水艦計画によって、コロンビア級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を年間1隻建造し、オハイオ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を維持する予定である。さらに、この同じ労働力と産業基盤がバージニア級潜水艦の生産も支えている。その結果、海軍は2つの艦級の潜水艦の建造線表の調整を検討しなければならない。Office of Management and Budget(行政管理予算局)も委員会も、現在の基幹設備が通常型艦艇と原子力艦艇の維持、近代化、建造を計画通りに支援できるのかどうか懐疑的である。「AUKUS協定は、この能力にさらなる負担を与えるかもしれない」と報告書は述べている。
(5) Roger Wicker議員は、どのような補正予算要求にも、米国の防衛産業基盤を強化するためのAUKUSへの追加支援を含めるべきだと主張し、さらに8月の声明で「AUKUSの潜在的な可能性を最大限に引き出すには、米豪双方の所要を満たす米国製潜水艦の増産に向けた達成可能な行動計画を大統領が明示することが不可欠で、米国とその同盟国、友好国の安全保障の強化は、われわれの相互協力と協調にかかっている」と述べており、さらに委員会の新報告書発表に伴う声明の中においても、国防費追加要求を改めて強調した。
(6) 報告書は、現在の米国の姿勢では、ロシアや中国を抑止する準備も、対抗する準備もできていないと論じ、さらに「2027年から2035年の間に発生する、核武装した2つの敵対国からの脅威に対処するために、国家は今決断を下す必要がある。さらに、これらの脅威に対して、米国とその同盟国、友好国は、両方の敵対勢力を抑止し、同時に打ち負かす準備ができていなければならない。」と述べている。
記事参照:Congressional Commission Calls for Third Nuclear Shipyard to Bolster U.S. Strategic Forces

10月12日「外交だけが中比間の衝突を回避できる―フィリピン研究者論説」(South China Morning Post, October 12, 2023)

 10月12日付の香港日刊英字紙South China Morning Postは、University of the Philippines 上席研究員Richard Javad Heydarianの“South China Sea: only diplomacy can avert open China-Philippines conflict”と題する論説を掲載し、そこでRichard Javad Heydarianは南シナ海をめぐるフィリピンと中国の緊張が高まっており、それが軍事衝突へと拡大しないための外交的方策が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Philippine Coast Guardは、9月末に中国がスカボロー諸島周辺に設置した浮遊障壁の切断を決定した。その際Marcos Jr.大統領は、「なぜこのようなことが起きたのか理解できない」と困惑と苛立ちを表明した。この対応に見られるように、Marcos Jr.大統領は南シナ海をめぐる論争において、ますます非妥協的姿勢を見せるようになっている。係争海域で中国が妨害行為や環境破壊行為を行っているという非難に対し、中国側は虚構から政治的な物語を作り上げないよう要求している。
(2) このように両国とも妥協の姿勢を見せておらず、このままいけば両国は、夢遊病者のごとく直接の武力衝突へと進んでいく可能性もある。そうならないために、両国は南シナ海における新たな暫定協定の締結を真剣に模索するべきである。
(3) そうした暫定協定が結ばれると考える者はほとんどいない。Marcos Jr,大統領の就任直後、彼は前任者であるDuterteの方針を継続することを示唆し、習近平との最初の電話会談の後、両国間の関係をより高次に格上げすることを約束した。しかし2023年1月のMarcos Jr.大統領の訪中は、両国間の関係が悪化し始める画期となった。特にMarcos Jr.は、リード堆周辺でのエネルギー資源に関する共同開発について具体的な合意が得られないことに失望した。フィリピン側は当該海域のエネルギー開発に関する「請負契約」を求め、それに対し中国は自国の主権を主張して譲らなかったからである。
(4) 少し前、Marcos Jr.大統領は、米国との防衛協力強化協定(EDCA)の下での米比の軍事的連帯の強化を発表した。中国はそれが地域の安定を乱すとして批判している。またフィリピンはこの数ヵ月間の南シナ海における種々の事件に不満を表明している。たとえば8月には中国海警船がフィリピン船に放水銃を発射しており、9月末には上述したように係争海域に浮遊障壁を設置した。こうした事件によって、両国の直接紛争の危険性が高まっているのである。そうならないために暫定協定が必要なのである。
(5) まずフィリピンは、米国によるフィリピン基地の利用が中国と対決するためのものではないと保証することができる。特に、台湾に最も近いフィリピン北部の基地に関してそうした保証を行うことが重要であり、まだこの基地使用に関しては米国と交渉中であるため、戦略的な調整の余地はある。また、国際仲裁裁判所への提訴を再考することもできる。それに対して中国は、フィリピンが排他的経済水域内部での活動を強化することに対して妨害するのを停止すべきである。また、フィリピン漁船による漁業活動の妨害も止めるべきである。
(6) 相互の信頼と親善を強化するような建設的な協定を結ぶ必要がある。1つには、上述したリード堆周辺のエネルギー開発に関する請負契約についての交渉を再開すべきである。その海域でのフィリピンの主権を暗黙裡に認める一方で、フィリピンはエネルギー開発に関して中国企業の参加を受け入れることを視野に入れてもよいだろう。また、Duterte政権下で交渉されつつも、ほとんど実現を見ていない基幹施設投資に関する協議を再開することもできよう。フィリピンと中国の関係を改善させることは至難ではあるが、世界で最も重要な水路の1つで壊滅的な紛争が起きることは回避されなければならない。
記事参照:South China Sea: only diplomacy can avert open China-Philippines conflict

10月14日「海底を巡る戦い、インド太平洋支配を目指す中国の新たな領域―米ジャーナリスト論説」(The Epoch Times, October 14, 2023)

 10月14日付の米多言語メディアThe Epoch Times(中文:大紀元時報)は、インドと南アジアの地政学を専門とする米ジャーナリストVenus Upadhayayaの “Seabed Warfare is New Domain in CCP's Quest to Dominate the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでVenus Upadhayayaは中国共産党がインド太平洋支配を目指すための新たな領域として海底を巡る戦いを重視しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 海底を巡る戦い(seabed warfare)とは、天然資源の採掘や輸送システムに加え、電力や通信の海底ケーブルなどの海底基幹施設を標的とする新種のハイブリッド武力紛争である。海底を巡る戦いは、将来戦に勝利するための中国の作戦の重要な要素として浮上しつつある。中国の習近平国家主席は、2016年5月30日の北京での科学技術会議で、「深海探査の主要技術を習得し、深海に到達し、探査しなければならない」と述べている。それ以来、中国の海底活動遂行能力、特に軍事面での能力は、特に台湾正面において強化されてきた。9月21日付のロイター通信社の報道によれば、この状況に対処するため、米国は、1950年代以来最大の機密海底監視網の刷新を伴う、冷戦時代の潜水艦による諜報活動を復活させることになった。
(2) 専門家は、中国による海底を巡る戦いの脅威に直面している海域は台湾正面だけでなく、中国政府はインド太平洋における戦略的な展開を強化、拡大しており、米国とその同盟国はその脅威から防衛する統合システム構築のために協力する必要があると警鐘を鳴らしている。たとえば、Japan Forum for Strategic Studies上席研究員Grant Newshamは、「海底は中国が軍事的支配を目指すもう1つの領域」と指摘している。世界の海底の公共基幹施設と軍事資産がその規模と複雑さを増し、海底横断のパイプライン、光ファイバー回線および電力ケーブルの数が増えるにつれ、他の国々も海底を巡る戦いのための能力強化に取り組んできている。しかし、専門家は中国の拡張主義的行動を考えると、この分野での活動の活発化に注意を喚起している。筑波大学助教毛利亜樹によれば、中国の深海政策は、深海技術を「国家安全保障に役立つ戦略的ハイテク」と見なす共産党政権の科学イノベーション5ヵ年計画(2016~2020)に明記されている。毛利亜樹は9月のインドでのワークショップで、「リアルタイムの海洋監視システムの構築は、(中国政府の)国家計画文書で最も重要な国家プロジェクトとして位置付けられている」と述べている。専門家は、中国と台湾、中国と他の南シナ海領有権主張国、そしてインドと中国との間で緊張が激化している状況下では、海底を巡る戦いが重要な戦域として浮上する可能性があると指摘している。専門家によれば、海底は、3つの理由から重要である。その第1は、潜水艦は海底付近や海底の地形的特徴を利用して隠れることができることであり、第2は大陸間デジタルケーブルとパイプラインは海底に沿って敷設されており、第3は海底が陸上での発見が急速に困難になりつつある未開発の鉱物資源の潜在的な供給源であることである。Indian Armyの元情報システム局長P.C. Katoch退役中将は、海底を巡る戦いを「攻撃者にとっては簡単だが、防御が極めて困難な悪質なハイブリッド戦争」と呼んでいる。
(3) 専門家によれば、南シナ海における中国の拡張主義的行動が係争海域での海底活動の活発化をもたらし、域内全ての国を脅かしている。米The Hudson Institute客員研究員長尾賢は、中国が南シナ海に弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を配備し始めたことにより、制御不能になりかねない非常に危険な状況が現出しており、「南シナ海で米中紛争が生起し、米国が南シナ海の中国の施設を攻撃した場合、本格的な核戦争に発展する真の危険性があるため、米国の大統領は最悪のシナリオを回避するために細心の注意を払う必要がある」と指摘している。専門家は、南シナ海における中国の深海活動に対する適切な相殺行動を求めているが、既に可燃性の高い状況が本格的な戦争の引き金になりかねないことを懸念している。たとえば、主権と漁業権を巡って中国とフィリピンの間で何年にもわたって断続的に紛争が再燃してきた南シナ海のスカボロー礁(中国名:黄岩島)での最近の出来事は、こうした懸念を実証している。中国はスカボロー礁にブイを設置していたが、フィリピンは最近このブイを「特殊作戦」で切断した。前出の長尾賢は、「何故これが重大事案かといえば、フィリピンが中国の敷設活動を阻止しようとしたからであるが、この場合は敷設海底が重要である。海底は潜水艦の隠れ場所で、中国の人工島と敵潜水艦を検知するセンサーを連結するインターネットケーブルの敷設場所であるからである」と指摘し、中国が海底を占領すれば、台湾と南シナ海の両方に影響を与えると述べ、「インド洋でも状況は同じである」と付言している。さらに長尾賢は、中国の南シナ海における人工島の造成は実際には核搭載潜水艦を配備するための海底を巡る戦いの一環であるとし、これら人工島を新たな「万里の長城」と表現し、中国は東シナ海と台湾周辺にも同様の要塞を建設しようとする可能性が高いと述べている。
(4) 専門家は、中国の深海活動によって直接的な影響を受ける国々は海底支配を目指す共産中国に対抗するために団結する必要があると強調している。この点について、長尾賢によれば、インド洋における中国の潜水艦配備に対抗するために、インド本土とミャンマー沿岸に近いインド洋のアンダマン・ニコバル諸島のインド領との間に海底インターネットケーブルを敷設するため、日本はインドと協力していると言う。長尾賢は、中国に対抗するめには、同様の海底基幹施設が東シナ海と南太平洋の米国の同盟国と島嶼諸国間でも必要であるとし、「最も深刻なのは台湾と日本の海で、米国と日本の潜水艦は、中国が台湾を孤立させることを許さないであろう」と語っている。
記事参照:Seabed Warfare is New Domain in CCP's Quest to Dominate the Indo-Pacific

10月16日「アメリカが戦争で中国に勝つ方法―米専門家論説」(19FortyFive, October 16, 2023)

 10月16日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、U.S. Naval War College教授兼U.S. Marine Corps War College特別研究員James Holmesの‶How America Can Beat China In A War″と題する論説を掲載し、ここでJames Holmesは中国と米国が戦争をした場合、内線を活用できる中国が有利と評価するが、勝敗の帰結を握るのは陸上戦力であり、米国および同盟国が勝利するためには海兵隊を含め陸上戦力の充実と海空・宇宙およびサイバー領域からの強力な支援が重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) もし、同盟国が中国の近接阻止区域内の要地に陣取ることができれば、戦術的に外線で作戦を展開しながら、内線作戦により中国人民解放軍(以下、PLAと言う)による地上戦力に対抗することができる。他の地域と同様、西太平洋においても、陸上戦力が海洋戦略の中心となる。U.S. Army Pacific(米太平洋陸軍)司令官Charles Flynn大将は、Association of the United States Army(米陸軍協会)の年次総会で、中国は米国とアジアの同盟国に対して3つの核心的優位性を誇っていると語っている。海、空、宇宙から支援を受けた地上戦力があれば、同盟国側の分派行動にも対応することができる。
(2) 戦争における中国の優位性についてCharles Flynn大将は、第1に中国は同盟国側に対して「内線」の利点を有すると言う。これは潜在的な敵対国間の戦略的・作戦的関係を幾何学的、地理空間的な方法で解析するもので、ある敵の根拠地を中心として、想定される主戦場あるいは作戦予定地を円弧上に捉え、その内側には内線の力があるとする。交戦はこの円弧上で行われる可能性が高い。つまり、内線側の軍隊は、それぞれの部隊を策源地から主戦場へ集中する場合、あるいは作戦状況において部隊を移動、展開する場合には、短く、直線的な作戦路を移動する余裕を持つことになる。内線作戦を採ることのできる勢力は、より速く、より機敏に、適切な時宜に適切な地点に戦力を集結させることができる。一方、円弧の外側に根拠地を持つ軍隊は、多くの場合、根拠地は想定される主戦場から遠く離れており、敵に接近した後も、敵の動きに応じて、部隊を再展開する場合には円の外周を回り、より長く、より遠回りな作戦路で戦場に到達しなければならない。このため、外線作戦を採る軍隊は戦闘の時と場所で優れた戦闘力を発揮するのはより難しく、より遅く、より費用がかかる。同盟国軍は、台湾海峡や南シナ海等の戦場に戦略的に外線作戦を採る必要があるのに対し、PLAは内側の線を利用でき、有利である。
(3) 第2に、Charles Flynn大将はPLAが占める地理的な中心的位置に加えて、戦力の質量ともに優位に立っていると指摘する。PLAは、中国の周辺地域を手なずけるために大規模な戦力を構築してきた。たとえば、人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)は現在、艦艇の保有数は世界最大であり、技術やその他の質的な指標に関しても遜色はない。さらにPLANには世界最大の海警総隊と世界最大の漁船団に埋め込まれた海上民兵が加わっている。中国の海上部隊を援護するのは、中国を中心とする円弧上に精密な火力を提供できる対艦弾道ミサイルや巡航ミサイルを保有する人民解放軍ロケット軍のような陸上部隊である。ミサイルを搭載した人民解放軍空軍の戦闘機も同様に、この海域でその威力を発揮できる。質量だけで十分ではないが、戦闘には質量が必要である。
(4) 第3に、Charles Flynn大将は中国には「弾倉の深さ」があると指摘する。つまり、PLAは戦闘に投入する弾薬を大量に備蓄していることを意味する。手持ちの弾薬の数が多ければ多いほど、また補充弾を継続的に供給する工業生産力が高ければ高いほど、部隊の継戦能力は高まる。ウクライナやおそらくイスラエルに補給する弾薬の生産に苦労している西側諸国と中国の弾倉の深さを比べてみてほしい。これらの要素が相まって、中国は手強い相手となる。
(5) 同盟国が中国に勝つには、Charles Flynn大将が指摘したように、同盟国は主に第1列島線に沿って、PLAの重要な地勢の利用を拒否する必要がある。つまり、作戦の進展の速度を落とす必要がある。戦争が短期間で激しいものであれば、Charles Flynn大将が挙げた理由により中国が勝利するであろう。しかし、もし同盟国が中国の近接阻止区域内の要地に陣取ることができれば、戦術的に外線作戦を展開しながら、PLAに対抗して地上を奪取し、中国を翻弄することができる。軍事・海軍戦略の偉人たちは、Charles Flynn大将と同意見であろう。英国の海軍史家Julian S. Corbettは、ドイツのHelmuth von Moltke元帥を事例としながら、戦略的攻撃と戦術的防御の組み合わせが最強の戦争形態であるとしている。彼が言いたいのは、戦略的攻撃は戦略的防御よりも決定的であり、自軍が奪取したいと考えており、敵が防御していないか、あるいは軽微な防御しかしていない目標を奪取できれば、勝利に向けて攻撃行動を促進している間に、攻撃目標を達成したことになる。そして、戦術的な防御は戦術的な攻撃よりも強いという事実を利用して、その対象を最大限に防御するのである。ウクライナ軍がロシア軍の縦深防御を前に、手探りで前進しているのを見ればわかるように、根を張った守備を根絶やしにするのは難しい。戦略的攻撃と戦術的防御、そして軍事行動の9割方は、占領することであり、掴んで離さないことが重要である。
(6) 同盟国にとっての朗報は、中国が欲しがっている重要な地を同盟国によってすでに押さえられており、誰からも奪い取る必要はないことである。有利な位置から頑強な戦術的防衛を展開し、それを保持するだけでよい。海、空、宇宙そしてサイバーの戦力は、PLAの海空軍を太平洋の島々から遠ざけるのに役立つ。しかし、それらは、同盟国の戦闘力を「支援」する要素である。それに対し島々の陸上部隊が「支援される」決定的な要素である。最終的に紛争地を保持するのは、船乗りや飛行機乗りではなく、陸軍兵士や海兵隊員である。
(7) Julian S. Corbettが宣言しているように、すべての戦争は人々が住む陸地で決着する。海軍は、陸軍が陸上での出来事を支配するのを助けるために存在する。J. C. Wylie 少将はさらに踏み込んで、戦争における勝敗を最終的に決定するのは「銃を持った現場の人間」としている。言い換えれば、敵対者よりも強力な火力を持つ兵士の集団こそが、軍の指揮官が支配する必要があると判断した縄張りや物理的対象物を支配する。そして、支配こそが軍事戦略の要諦であるとJ. C. Wylie 少将は言う。
記事参照:https://www.19fortyfive.com/2023/10/how-america-can-beat-china-in-a-war/

10月17日「オーストラリアとその提携国は南シナ海における存在を拡大せよ―スペイン専門家論説」(The Strategist, October 17, 2023)

 10月17日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、Spanish Naval War College分析官Gonzalo Vázquez Orbaiceta の“Australia and its partners need to make their presence known in the South China Sea”と題する論説を掲載し、そこでGonzalo Vázquez Orbaicetaは南シナ海において攻勢を続ける中国に対して、オーストラリアを含めた周辺の民主主義諸国が共同での対抗策を提示しつつあることを評価し、さらなる強力な連合を構築すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2023年8月、米比両政府は2023年末に西フィリピン海で共同哨戒を実施する予定だと発表した。その数週間後、オーストラリアとも同様の訓練を実施することが表明された。これは南シナ海においてますます強まる中国によるフィリピンやベトナム船舶への妨害行為に対する対応の1つである。2023年8月には中国海警船がPhilippine Coast Guardの巡視船に放水銃を発射する事件が起きている。
(2) 共同哨戒の実施は、南シナ海における中国の攻撃的活動に対し、積極的な対応に諸国が乗り出していることを示している。こうした方法でその海域での存在感を高めるのはオーストラリアにとっても重要なことである。同様に日本も最近、防衛費の増額による海軍力の近代化を推し進め、日本列島の南西部の防衛力を強化していることに加え、フィリピンに艦船搭載用の衛星通信システムのための資金提供を行っている。ベトナムもまた南シナ海において今後重要な役割を担うようになるであろう。その兆候の1つが、最近米国と防衛協力協定が締結されたことだ。
(3) オーストラリアを含むこれらすべての国々は、UNCLOSに基づく国際規範を擁護するために、南シナ海における展開を強化しなければならない。オーストラリアの元海軍将校が述べたように、中国の主張を受け入れることは、軍事力の行使による中国の強制に屈することを意味する。
(4) 海洋における対決で成功を収めるために究極的に必要なのは、そこに艦船と乗組員がいることである。米海軍戦略家は、「戦争において究極的に重要なのは、銃を持った男がその場に登場すること」だと述べている。実際にその場に存在していることが重要だということである。その意味で、日本やベトナムが最近明らかにした決意は良い兆候である。しかし、より強固な連帯を構築することが次の段階である。先に言及したオーストラリア元海軍将校も、オーストラリアは長期間にわたって南シナ海に部隊の展開を確保し、そこが「閉じられた海」ではないことを示さねばならないと述べている。
記事参照:Australia and its partners need to make their presence known in the South China Sea

10月18日「Royal Canadian Navyは太平洋での実戦的なシナリオを想定した装備を整えなければならない-カナダ専門家論説」(Center for International Maritime Security, October 18, 2023)

 10月18日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトは、カナダConcordia University国際関係学准教授Julian Spencer-Churchillおよび同大学学部生Alexandru Filipの” THE ROYAL CANADIAN NAVY MUST BE EQUIPPED FOR REAL-WORLD PACIFIC SCENARIOS”と題する論説を掲載し、ここで両名は太平洋の緊張が高まる中、カナダは平和を脅かす修正主義国家による将来の海軍の脅威に備え、同盟国支援を選択するであろうが、特定任務への参加回避は、十分な艦隊能力を持たないカナダにとって、北極圏における利益、通商、戦略的自律性にまで影響を及ぼし、ひどく疎外された状態に置かれることになるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 太平洋の緊張が高まる中、カナダは平和を脅かす修正主義国家による将来の海軍の脅威に備えなければならない。太平洋で戦争が起こり、台湾をめぐって中国と対峙する可能性が高い場合、カナダ政府は同盟国支援を選択するだろう。その場合にCanadian Armed Forcesの任務は、対潜水艦戦、長距離ミサイルや潜水艦発射ミサイル等に対する防空、小型攻撃艇に対する防衛を含む沿岸警備などに重点を置き、台湾、フィリピン、沖縄の東海岸の港までを含む太平洋全域の輸送船団防護を含む広範な任務まで与えられる可能性がある。
(2) 戦闘任務以外にも、Canadian Armed Forcesは、外洋、琉球列島沿い、インドネシアのマラッカ、スンダ、ロンボク、マカッサル海峡、ホルムズ海峡、インド洋でのイラン、パキスタン、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマーといった中国の同盟国に対する封鎖の任務を遂行できる。ロシア政府が中国政府に物質的な支援を提供した場合、Royal Canadian Navyは、ベーリング海峡や北西航路で、米国の北極圏での禁制品検査を支援または強化することができる。Canadian Armed Forcesはまた、フィリピン海やインド洋で活動する米、日、英の空母・ヘリコプター群の護衛を支援することもできる。さらに、中国本土内の基地やセンサーに対する長距離攻撃任務を遂行する同盟国の艦艇・航空機の支援も提供できる。しかし、戦時中にこのような活動を支援することは、カナダ本土の経済目標が極超音速兵器による報復を受ける可能性がある。
(3) Canadian Armed Forcesはまた、南アフリカ共和国や喜望峰、キューバやパナマ運河など、中国と同盟を結んでいる国々に対する船舶の積荷の積み替え地点の監視を行うこともできる。中国海軍が第1列島線を出て活動するような事態が発生した場合には、Royal Canadian Navyのハープーン対艦ミサイル搭載のハリファクス級フリゲートが水上行動グループの一員として活用される可能性がある。また、ハリファックス級フリゲートから運用される対潜ヘリコプターと、オーロラ型海上哨戒機(以下、「CP-140」と言う)は、南シナ海、中央太平洋、あるいはオホーツク海で中国海軍が保有する6隻のType094弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)を狩ろうとする同盟国の潜水艦を支援することもできる。Canadian Armed Forcesはまた、太平洋作戦に伴う海上補給を提供することもできる。
(4) 現在のRoyal Canadian Navyの能力は、太平洋戦域での作戦には不十分である。カナダは現在、12隻のハリファックス級フリゲート、4隻のビクトリア級潜水艦、14機のCP-140を保有している。これらの艦艇・航空機とカナダ政府が将来計画しているCanadian Surface Combatant(カナダ水上戦闘艦;以下、CSCと言う)は、戦闘任務に対して深刻な欠陥がある。現代の艦艇は、垂直発射システム(以下、VLSと言う)のセル数で評価されるが、米国は9044基、中国は少なくとも2000基を保有するのに対して、カナダ海軍は今後半世紀は艦体内に装備するVLSを保有しない。カナダのハリファックス級フリゲートに搭載されている288基のVLSは上甲板上にあり、被攻撃に脆弱である。
(5) カナダの水上艦隊の主力である現在のハリファックス級フリゲートは、抑止力として限界がある。保有する2つのレーダーは、それぞれ最大100海里と135海里までしかカバーできない。中国海軍が30隻保有するType054Aフリゲートが搭載するレーダーは、それぞれ135海里と161海里の覆域を持ち、32基のVLSを装備している。さらにYJ-83対艦ミサイル(射程100海里)を装備し、これは数の上でもまた射程においてもハリファックス級のRGM-84LハープーンII(射程75海里)対艦ミサイルを上回っている。また、中国空軍のH-6爆撃機やその他の対艦巡航ミサイルや弾道ミサイルも経空脅威として展開することになる。
(6) 2030年代初頭までに15隻の軍艦を建造する予定のCSCプロジェクトは、Royal Canadian Navyの将来の作戦要件に強化された能力を提供する。CSCは、多弾種の装填が可能な32基のVLS、AN/SPY-7レーダー、最大射程90海里のRIM-66M-6対空ミサイルを搭載し、はるかに優れた対空能力を実現する。ブリッジマスターEレーダーは約96海里の水上索敵能力を提供し、これはハリファックス級からわずかに減少しているが、100海里の射程を持つRGM-184A対艦ミサイルで補う。このため、CSCはハリファックス級より一段上にレーダーと武器が配置され、中国で最も一般的なType 052D駆逐艦に近くなる。Type 052D駆逐艦が射程約300海里のYJ-18対艦ミサイルを搭載しているのに対し、CSCは対艦ミサイルへの転換が検討されているブロックIVトマホーク巡航ミサイルを搭載する。このミサイルの改修は、より長い射程の対艦ミサイルとなり、中国やロシアの水上艦船に対する抑止力として機能する。これによってカナダ海軍は、インドネシア群島を経由してオーストラリア、日本、台湾に向かう輸送船団に対する護衛任務を遂行できるのと同時に、中国の長距離爆撃機や攻撃機に対して、接近阻止・領域拒否(A2/AD)を提供できるようになる。
(7) 中国空軍のH-6から発射される対艦ミサイルは、CSCの対空能力を凌駕している。しかし、H-6の保有するレーダーの覆域は150kmしかなく、一方、CSCの電子戦対策は、爆撃機のセンサー、さらには近くを哨戒する中国軍の航空機の早期警戒(AEW)レーダーを妨害して、ターゲットを正確に特定できないようにできる。CSCのAN/SPY-7多機能レーダーは、船団内の他の船に向かう対艦ミサイルを追尾することができる。CSCはまた、強化された水中探知能力も提供する。そのソナー・システムは、機雷が敷設された海域の航行を可能にする。また、サイクロン・ヘリコプター(以下、CH-148と言う)を搭載することができ、このヘリコプターは水平線以遠で監視・偵察を行うことができる。CSCのソナー能力は、対潜能力を持つCH-148と連携して、潜水艦に対して威力を発揮する。Royal Canadian Air Forceが調達すると予想されるポセイドン型哨戒機(以下、P-8Aと言う)は、磁気探知機、ソノブイ、捜索レーダー、魚雷などの探知・攻撃装備を搭載し、CSCとともに運用されるため、対潜能力が決定的に強化される。また、これらの艦艇は、敵の艦船を標的とする対水上戦任務も果たす。CSCは、そのレーダーと電子戦システムにより、電波妨害によって味方の艦船や航空機を覆い隠すことができる。さらにP-8Aは、中間誘導を受けることで、水平線以遠の目標に対して、長距離対艦ミサイルまたはラピッドドラゴン対艦巡航ミサイルを発射することができる。
(8) カナダの潜水艦艦隊は更新時期を過ぎている。更新後の艦隊は、太平洋またはカナダの北極圏群島海域で必要とされる長距離および長期の哨戒、監視等が可能な原子力潜水艦で構成されるべきである。これらの潜水艦は、旧ソ連の潜水艦が探知されることなく北西航路で活動していた冷戦時代の失敗を繰り返さないよう、哨戒を実施すべきである。
(9) どのような軍事行動もカナダの国内政治に大きな影響を与えるため、カナダ政府は特定の任務から外れることを選択するかもしれないが、参加回避はワシントンからの批判的な反応を引き起こす可能性がある。さらに悪いことに、太平洋の同盟国が直面する不測の事態に立ち向かうための十分な艦隊能力を持たないカナダは、北極圏における利益、通商、さらにはカナダの戦略的自律性にまで影響を及ぼし、ひどく疎外された状態に置かれることになる。
記事参照:THE ROYAL CANADIAN NAVY MUST BE EQUIPPED FOR REAL-WORLD PACIFIC SCENARIOS

10月18日「南シナ海では時限爆弾が爆発を待っている―フィリピン専門家論説」(Asia Times, October 18, 2023)

 10月18日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、University of the PhilippinesのAsian Center上席講師Richard Javad Heydarianの“South China Sea a ticking time bomb waiting to explode”と題する論説を掲載し、Richard Javad Heydarianはここでフィリピンの現政権が西側との防衛協力を利用し、南シナ海で前政権よりも格段に強力な姿勢を強めていることに対して、中国が今までよりも強く対応することは時間の問題であるとして、要旨以下のように述べている。
(1)フィリピンが係争中の南シナ海でますます強引な姿勢を強めていることについて、中国政府が今までよりも強く対応するのは時間の問題である。南シナ海で再び緊張が高まる中、Armed Forces of the Philippines(フィリピン国防軍)のWestern Command(西部軍)司令官Alberto Carlos海軍中将は、「これらの危険な演習は、海上の安全、衝突防止、海上での人命の危険に対して重大な危険性をもたらす。中国はこれらの危険な行動を直ちに停止し、国際法を遵守した海で働く専門家らしい態度で行動しなければならない」と述べている。フィリピン当局によると、事件は2023年10月13日、Philippine NavyのLST-1級戦車揚陸艦と中国海軍のType056コルベットとの緊張状態の最中に発生した。報道によると、中国のコルベットはPhilippine Navyのパグアサ島(ティツ島)への補給任務を阻止するため、フィリピン艦艇の船首320mを横切ろうとした。1970年代以降、フィリピンは戦略的な価値のあるパグアサ島に軍事施設を建設し、市長を含む民間人を係争地に恒久的に居住させることで、支配権を行使してきた。Armed Forces of the Philippines参謀総長Romeo Brawner陸軍大将もこの海上での緊張について、中国の「フィリピン艦船に対する攻撃的な行動」であるとして警告を発している。
(2) フィリピンと中国は、南シナ海で数ヵ月にわたる外交的な海軍の対決に巻き込まれている。フィリピンは現在、米国を含む同盟国や志を同じくする大国からの高い支持を得て、紛争に関してより強硬な取り組みを採っており、中国に南シナ海における新たな地政学的現実を知らしめている。同時に、セカンド・トーマス礁の領有権をめぐる2国間緊張やリード堆、台湾に近いフィリピン基地の米国による新たな利用の強化など、多くの問題をめぐって2国間の緊張が沸点に達する中、フィリピンは複数の「時限爆弾」に直面している。
(3) 最近まで、中国は南シナ海で非常に有利な状況にあった。フィリピンの前大統領Rodrigo Duterteは、南シナ海における中国の広範な領有権主張を否定するハーグの国際仲裁裁判所でのフィリピンの歴史的な仲裁判断の勝利を「破棄」する決定を下した。前大統領は「習主席の私に対する返答は、『我々は友人であり、あなた方と喧嘩したくはないし、温かい関係を維持したいが、もしあなたがこの問題を強要するなら、我々は戦争に突入する』というものだった」と、中国の指導者との会談後に主張している。中国政府は、前大統領のこの発言の正当性を肯定も否定もしなかった。前大統領はこれに続いて、極めて運命論的な立場を取り、パグアサ島上空を含め、中国に立ち向かうことは「自爆作戦の準備」に等しいと警告した。中国の民兵船とみられる船がフィリピンの漁船に衝突し沈没させられた際も、前大統領はそれを「小さな海難事故」と片付けている。
(4) Ferdinand Marcos Jr.がDuterteの後継者として最有力候補として浮上し、2022年の選挙前の調査でトップに立ったとき、中国はフィリピンの卑屈な外交政策が継続されると楽観的に考えていた。Marcos Jr.は大統領候補として、フィリピンの米国との同盟の有用性を疑問視し、中国との対話の重要性を強調していた。しかし、就任から1年も経たないうちに、Marcos Jr.新政権は南シナ海についての方針を転換した。これは、前大統領の中国寄りの外交政策が6年以上にわたる高官級の対話にもかかわらず、中国が譲歩を拒むなどフィリピンの立場を弱体化させただけだという認識から生まれたものである。したがって、新大統領は、海上紛争に対してより妥協のない姿勢を採っただけでなく、米国とその同盟国との防衛協力の拡大を歓迎した。最も注目すべきは、フィリピンが南シナ海と台湾の両方に面した戦略的に配置された一連の基地の新たな利用をU.S. Department of Defenseに許可することによって、強化された防衛協力協定(EDCA)の指標を拡大したことである。
(5) 同時に、東南アジアの国も積極的な外交を展開し、南シナ海における中国の威圧的な振る舞いを絶えず暴露した。Philippine Coast Guardの報道官は、「前政権下では、中国が関与するいかなる問題も、特に深刻な場合にのみ世間の注目を浴びていた」が、現政権下は「透明性と国の主権を守る決意である」と述べた。フィリピンの海上安全保障機関の間では、積極的な外交と海軍と法執行活動の拡大を通じて中国と戦う必要性について合意が形成されている。このように、フィリピンは、中国からの警告をほとんど無視し、米国とその同盟国との安全保障協力を倍増させることで、戦略的地位を強化することに成功している。
(6) 近い将来、フィリピンと中国は厳しい選択を迫られるであろう。第1に、フィリピンは、セカンド・トーマス礁で、Philippine Marine Corpsの分遣隊が老朽化した座礁船により危険な形で駐留しているという状態に直面している。一方、フィリピンは、また、炭化水素が大量に埋蔵されていると考えられているリード堆に対する支配を確立する必要がある。中国は、リード堆でのフィリピンのエネルギー探査活動を妨害し、セカンド・トーマス礁へのフィリピンの補給活動を阻止している。中国は、フィリピンがリード堆に新たな構造物を建設したならば直接介入すると警告している。フィリピンは、西側諸国との防衛関係の深化を利用して、かつてないほどの数の近代的な艦艇を装備し、南シナ海における中国の包囲戦略を打ち破ることを望んでいる。しかし、台湾と国境を接するフィリピン最北端の省にある軍事施設に米軍の立ち入りを認めるというフィリピンの決定は将来の中国の行動計画に直接影響する。その結果、複雑な「台湾・南シナ海連携」が起こり、フィリピンの戦略的地位が強化されると同時に中国の報復の危険性も高まる。
(7) 今後、フィリピンにとっての1つの選択肢は、セカンド・トーマス礁における地位を強化し、潜在的には中国企業とのサービス契約の下で、リード堆で炭化水素資源を開発するという東南アジアの国々の特権を中国が暗黙のうちに認めることと引き換えに、台湾との国境における米国の軍事的展開を制限することである。しかし、今のところ明らかなのは、両陣営が、武力衝突に発展する可能性を秘めたこの問題の最善の妥協点を見出すことを期待して、自らの立場を維持し、構築しているということである。
記事参照:South China Sea a ticking time bomb waiting to explode

10月19日「中国の核戦力増強―米国防誌報道」(Defense News, October 19, 2023)

 10月19日付けの米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは、“China more than doubled its nuclear arsenal since 2020, Pentagon says”と題する記事を掲載し、U.S. Department of Defenseが発表した『中国の軍事力に関する年次報告書(China Military Power Report)』が中国の核戦力増強を強調していることについて、要旨以下のように報じている。
(1) U.S. Department of Defense高官が「中国による核戦力の大幅な拡大」を考える最中、中国の核兵器は過去3年間で2倍以上に増加した。中国の戦力に関する『中国の軍事力に関する年次報告書』が発表されたばかりだが、それによると、2023年5月の時点で、中国は約500発の運用可能な核弾頭を保有している。2020年の報告書では「200発台前半」とされていた。U.S. Department of Defenseは、過去の評価を踏襲し、中国は10年後までに1,000発以上、2035年までには1,500発の運用可能な核弾頭を保有すると予想している。しかし、U.S. Department of Defenseのある高官は、記者団の取材に対し、これまでのところ、予想よりも早いペースで増加していることを認めた。
(2) 中国の核開発は、核弾頭だけにとどまらない。この報告書によれば、中国は陸海空における核兵器運搬システムの保有量を増やしている。さらに中国政府は、この成長を維持するために必要な基幹施設に投資している。報告書によれば、中国は2022年に300基の大陸間弾道ミサイル(以下、ICBMと言う)のサイロを収容する3つの新しい固体燃料推進ミサイル用サイロ・フィールドの建設を終えたようだ。一部のICBMはすでにサイロに装填されていると思われると報告書は述べている。中国はまた、液体燃料ICBM用のサイロも増設している。これらの投資により、中国は核戦力をより迅速に発射できる“launch on warning(警報即発射)”態勢または能力へと押し上げていると報告書は述べている。
(3) U.S. Department of Defenseは9月末、大量破壊兵器に対抗するための最新戦略を発表した。U.S. Department of Defenseが最後にこのような計画を発表したのは2014年のことで、その時は、この分野におけるU.S. Department of Defenseの焦点はテロリスト集団とイランや北朝鮮のような、ならず者国家に置かれていた。U.S. Department of Defense当局者が2つの中心的敵対国として挙げるロシアと中国からの核投資により、その焦点はそれ以来変化している。
(4) 同時に、軍備管理協定も損なわれている。2018年と2020年、米国は中距離核戦力全廃条約とオープンスカイ条約の2つの条約から脱退した。ウクライナ侵攻の際、ロシアは日常的に核兵器の使用をほのめかしている。それにもかかわらず、U.S. Department of Defense当局者は、中国が核戦力を増強するにつれて、核戦力に関する情報をより公開することへの期待を表明している。「中国は、その核戦力の透明性を高めることを嫌っているが、それは米国やロシアとの間の数の非対称性に基づいている、としばしば述べている」とその当局者は語っている。Federation of American Scientists(米国科学者連盟)によれば、米国とロシアはそれぞれ5千発以上の核弾頭を保有しており、これは世界の核保有量のほぼ90%にあたる。「彼らがより多くの核弾頭を保有するようになっていることを見るにつけ、少なくとも私の考えでは、彼らがもっと透明性を高めるのかどうかという疑念を引き起こしている」と同高官は語っている。
記事参照:China more than doubled its nuclear arsenal since 2020, Pentagon says

10月20日「中国とロシアの通常兵器と核兵器の拡大は、米国の将来の戦略的態勢を定める際に考慮すべしーU.S. Naval Institute報道」(USNI News, October 20, 2023)

 10月20日付のU.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、増強される中国の核兵器とほぼ完了したロシアの核兵器近代化計画に対抗するため、米国の将来の抑止力はまず核の3本柱の近代化と通常戦力の態勢の見直しにかかっているが、新たなシステムは遅れ、予算を超過することを想定せざるを得ない状況にあり、古いシステムから新しいシステムへの引き継ぎが完了するまでは、現在のシステムを維持することが不可欠であるとして、要旨以下のように報じている
(1) 中国とロシアの通常兵器と核兵器の拡大は、米国の将来の戦略的態勢を定める際に考慮される必要がある、と上院軍事委員会は10月19日に述べている。Congressional Commission on Strategic Posture(議会戦略態勢委員会)のMadelyn Creedon委員長は、危機時に中国が如何にして「米国を遠ざけるか」の事例としてインド太平洋の特定の基幹施設を標的とした巡航ミサイルや極超音速ミサイルによる「強制」または「いじめ攻撃」を挙げ、広域ではなく特定の地点に対するこうした新たな脅威は、米国だけでなく同盟国や提携国も含めた防空・ミサイル防衛を統合する必要性を浮き彫りにしていると述べている。
(2) 委員会副委員長のJon Kyl元上院議員は、ウクライナで限定的な核兵器を使用するというロシアの脅しは、そのような脅しが米国をロシア政府の要求に「屈服」させるためにどのように利用されるかを浮き彫りにしていると付け加えている。さらに、Jon Kylは宇宙戦争、サイバー戦争、電磁波戦争の脅威も中国とロシアが紛争中に利用できる領域および手段であると指摘している。
(3) Madelyn Creedon委員長とJon Kylは委員会に対し、将来の抑止力はまず核の3本柱の近代化と通常戦力の態勢の見直しにかかっていると述べている。 公聴会で、Madelyn Creedon委員長は、2035年に向けて通常戦力の部隊が近代化する必要がある分野として、コンピュータに大量のデータを学習させ、その規則性や様式を導き出す機械学習、人工知能に関わる技術の推進、3Dデータを元に材料を積み重ねて行う造形技術を挙げている。
(4) Madelyn Creedon委員長は、北朝鮮がミサイルや兵器の開発を続けていること、そして対立するインドとパキスタンが核保有国であるという現実によって、核戦争の危険はさらに複雑になっていると述べており、「終末時計は現在、午前0時まで100秒に設定されている。 対照的に、冷戦終結の1991年には時計の設定は午前0時まで17分だった」とMadelyn Creedon委員長は述べている。
(5) Jack Reed上院議員兼委員会委員長は、米国が直面している最も重要な戦略的変化は、米国が中国とロシアとの紛争に同時に巻き込まれる可能性があることだと述べ、さらに、ロシア政府がヨーロッパで脅してきたように「限定的核戦争」の可能性が高まっていると述べている。Jack Reedはまた、危機の際に発揮される「長距離攻撃やその他の非核システム」の影響に対しては新たな抑止手段が必要だと述べた。
(6) 中国がインド太平洋地域で継続的に海軍力を増強している脅威に対抗する上で「我々は必要な位置にすら達していない」と上院の有力議員Roger Wickerは付け加え、公聴会で委員会の報告書が原子力艦艇を建造できる第3の造船所を追加するという勧告を賞賛し、追加の能力がなければ、キャンベラで原子力潜水艦艦隊を建造するAUKUSは「軌道に乗らない」危険にさらされていると付け加えている。
(7) Madelyn Creedon委員長は、議会と将来の政権は「新たなシステムは遅れ、予算を超過することを想定」すべきだと述べており、サプライチェーンの配送と基本的な国家安全保障および防衛産業基盤の改善に向けて現在および今後行われている投資は「永続的に必要となるだろう」と指摘する。Jon Kylは、核の3本柱と研究所の萎縮を何十年も放置してきたため、議会、政府、国民は「抑止力の空隙に対処する必要がある」と指摘している
(8) Madelyn Creedon委員長は、「古いシステムから新しいシステムへの引き継ぎが完了するまでは、現在のシステムを維持することが不可欠であり、十分な資金を提供する必要がある。・・・この引き継ぎがどれほど困難であるかを過小評価すべきではなく、人員、取り扱いおよび支援機材に多大な要求が課せられている」と付け加えている。
(9) 拡大する中国の核兵器と、ほぼ完了したロシアの核兵器近代化計画に歩調を合わせるために、「今、変化を起こさなければならない」とJon Kylは語っている。中国は米国との核の均衡という「最終目標についてためらわない」ともJon Kylは語っている。
(10) 核弾頭装備の潜水艦発射巡航ミサイルについて、その計画は政権の予算計画では保留されているが、近年の議会証言では核戦争を制限する選択肢として多くの制服組幹部らによって支持されている。核弾頭装備の潜水艦発射巡航ミサイル計画が委員会の必要な抑止力の定義を満たしているかとの質問に対し、Jon Kylは指定された要件に対して「答えはイエス」と答え、その主な理由は危機の激化を制御するために「大統領に最大限の選択肢を与えるために必要である」と述べている。
記事参照:New Russian, Chinese Weapons Prompt U.S. to Rethink Strategic Laydown, Says New Report to Congress

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) Philippines’ New National Security Plan Falls Short on Taiwan Policy
https://thediplomat.com/2023/10/philippines-new-national-security-plan-falls-short-in-taiwan-policy/
The Diplomat, October 11, 2023
By Robin Michael Garcia, president and chief executive officer of WR Advisory Group, an assistant professor in the political economy program at the University of Asia & the Pacific in Manila, Philippines
Thomas J. Shattuck, the Global Order Program Manager at the University of Pennsylvania’s Perry World House and a non-Resident Research Fellow at the Global Taiwan Institute
2023年10月11日、フィリピンのUniversity of Asia & the Pacificの助教Robin Michael Garciaと、米シンクタンクGlobal Taiwan Instituteの非常勤研究員Thomas J. Shattuckは、デジタル誌The Diplomatに、“Philippines’ New National Security Plan Falls Short on Taiwan Policy”と題する論説を寄稿した。その中で、両名は①残念ながら、マニラの最新の『国家安全保障政策2023-2028』(以下、NSP2023-2028と言う)は、台湾問題の重要性と複雑さ、そしてフィリピンの国家安全保障への影響を捉えていない。②NSP2023-2028は、台湾をめぐる紛争がフィリピンにとって国防・安全保障上の懸念であり、最終的には西フィリピン海(南シナ海)問題を上回る重要性を持つことを十分に理解していない。③中国が台湾を併合した場合、中国は南シナ海にある東沙島と太平島を支配することになる。④台湾への侵攻は、この地域における中国の戦力投射を強化し、米国の影響力と同盟国を支援する能力を弱めるだろう。⑤台湾を中国に奪われれば、中国はルソン海峡、特に台湾とフィリピンを隔てるバシー海峡を利用できるようになる。⑥防衛協力強化協定の下、フィリピン政府は北部の3基地を含め現在9つの軍事基地の利用を米国に認めているが、台湾海峡の緊張が戦闘に拡大した場合に、これらの基地が使用されないという保証はない。⑦NSP2023-2028はすでに、台湾海峡での軍事衝突がフィリピンに「不可避的に」影響を及ぼすことを認識しているが、この問題を安全保障化するには至っていないといった主張を述べている。

(2) Australia Should Support Japan and South Korea’s Accession Into AUKUS
https://thediplomat.com/2023/10/australia-should-support-japan-and-south-koreas-accession-into-aukus/
The Diplomat.com, October 19, 2023
By Corey Lee Bell, a researcher at the Australia-China Relations Institute, University of Technology Sydney
2023年10月19日、オーストラリアのUniversity of Technology Sydney研究員Corey Lee Bellは、デジタル誌The Diplomatに" Australia Should Support Japan and South Korea’s Accession Into AUKUS "と題する論説を寄稿した。その中でCorey Lee Bellは、日本と韓国をAUKUSに参加させるべきかどうかという問題が、ここ数週間再び注目を集めているとし、英国と米国は北東アジアの大国をAUKUSの仲間入りをさせることに関心を示しているが、なぜオーストラリアは躊躇しているのだろうかと問題提起を行っている。そしてCorey Lee Bellは、英国と米国では日本と韓国のAUKUS加盟に関心が高まっているが、オーストラリア政府内の態度はこれまで冷淡であり、実際、Richard Marles副首相兼国防大臣は2022年12月に行われた笹川平和財団主催の講演で、「日本を参加させる機会はある」と述べつつも、AUKUSが現在の加盟国に対して成果を上げ始めてからでなければ、このようなことは起こらないはずだと付け加えていると指摘した上で、しかし、日韓はAUKUSが協定締結の目的を達成するために最も適した国であり、今後ますます必要とされる可能性が高いなどと述べ、両国のAUKUS加盟を検討すべきだと主張している。

(3) THE U.S.-JAPANESE-PHILIPPINE TRILATERAL IS OFF-BALANCE
https://warontherocks.com/2023/10/the-u-s-japanese-philippine-trilateral-is-off-balance/
War on the Rocks, October 19, 2023
By Ryan Ashley, an intelligence officer in the U.S. Air Force with extensive operational experience in East Asia and Japan and a Ph.D. candidate at the University of Texas Lyndon B. Johnson School of Public Affairs 
2023年10月19日、U.S. Air Forceの情報将校Ryan Ashleyは米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" THE U.S.-JAPANESE-PHILIPPINE TRILATERAL IS OFF-BALANCE "と題する論説を寄稿した。その中でRyan Ashleyは、インド太平洋の地政学的緊張が高まる中、日米比の3ヵ国安全保障体制は、極めて重要な防衛体制となる可能性が急速に高まっていると指摘した上で、まだ報道や研究者の分析には現れていないが、Ryan Ashleyが2022年夏に行った現地調査では、この3ヵ国間協定が進展するにつれ、フィリピンの国防指導者や評論家から、3ヵ国協議に対する不満の声がいくつか聞かれたと述べている。具体的には、マニラでは中国との関係や対中戦略を独自に維持する能力、安全保障上の決定において米政府に肩入れする日本政府の姿勢、そして日米比の3ヵ国体制が固まった結果、日本とフィリピンの2国間の安全保障関係が意図せず弱体化することへの懸念が高まっていると指摘している。