海洋安全保障情報旬報 2023年10月1日-10月10日

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9月28日「台湾の国産潜水艦は中国の侵攻作戦を混乱させ得るか―日英字紙報道」(The Japan Times, September 28, 2023)

 9月28日付の日本の英字紙The Japan Timesは、“How Taiwan's new subs could complicate a Chinese invasion”と題する記事を掲載し、9月28日に台湾の国産潜水艦1番艦が進水したが、現時点でその評価は分かれており、水中航走体のようなより非対称戦に適応したシステムに投資すべきという意見がある一方、全体的に見て国産潜水艦建造はかなり賢明な選択肢であるとしているとして、要旨以下のように報じている。
 なお、本記事は前旬で取り上げられるべきものであるが、諸般の事情から今旬で取り上げるものである。
(1) 台湾は9月28日に初の国産潜水艦試作艦を進水させ、防衛産業の成長を誇示しただけでなく、台湾を封鎖または侵略しようとする試みには多大な対価がかかるという警告を中国に送った。台湾が今後数年間に8隻の新型攻撃型潜水艦からなる潜水艦部隊をどのように配備するか中国の軍事力を抑止、あるいは対抗する取り組みにおいて極めて重要になる。
(2) 蔡英文総統が主宰する進水式において「海鯤(ハイクン)」と命名された全長70mの国産潜水艦は高雄の造船所で進水し、海上公試等を経て2024年末までに海軍に引き渡される予定である。台湾政府は2027年までに2番艦の就役を目指している。これは、台湾海軍がオランダで建造された海龍級潜水艦2隻を加えて、2025年までに合計3隻の即戦力となる通常型潜水艦を配備し、2027年までに4隻を配備できることを意味する。
(3) 蔡英文総統は進水式で「歴史はこの日を記憶するだろう」と述べ、潜水艦は海軍の非対称戦能力を強化する上で重要な役割を果たすだろうと付け加えている。
(4) 長く外交的に孤立してきた台湾政府は、潜水艦国内建造計画に外国の専門知識や技術を活用していることを認めており、ロイター通信は少なくとも7ヵ国が関与していると報じている。「海鯤」建造造船所は、同艦のためにディーゼルエンジン、デジタルソナーシステム、潜望鏡、魚雷など107の中核技術を海外から導入する必要があったと伝えられている。 それでも、台湾は 85 項目の構成要素を現地で製造することができている。予算と技術的な制約により、「海鯤」にはAIPシステムが装備されていないと伝えられている。AIPシステムはおそらく2番艦から採用される可能性があるが、台湾政府は潜水艦がスノーケルを実施することなくより長時間潜航を維持できるようにリチウムイオン電池の採用を検討していると言う者もいる。
(5) 「海鯤」の兵装に関する情報はほとんど明らかにされていないが、潜水艦には米国製の戦闘システムとソナーシステムが装備されていると予想されている。一部には潜水艦発射対艦ミサイルも搭載される可能性がある。
(6) 台湾の潜水艦部隊の主な目的の1つは、台湾の港を守り、台湾周辺海域へ中国海軍艦艇が侵入するのを拒否することによって、中国の封鎖や侵略の試みに対抗することである。 これには、台湾南部宜蘭県の蘇澳から日本の最西端の与那国島までの地域が含まれると黃曙光上将は述べている。専門家達は、台湾の潜水艦の主な活動海域は台湾海峡の北部と南部、そして太平洋の3つになると予想している。「中国はほぼ確実に台湾を孤立させるためにこれらの海域に艦艇を展開するため、潜水艦はこれらの艦艇を危険にさらす重要な役割を果たすことになるだろう」と米シンクタンクHudson Instituteの村野将は語っている。
(7) 台湾の潜水艦は多くの重要な任務を遂行することができる。状況に応じて、潜水艦は中国海軍の動きを追跡し、あるいは空母群、水陸両用戦艦艇、高度な防空システムを装備した護衛艦などの価値のある艦艇を捕捉し、標的にする可能性がある。空母群や護衛艦部隊への攻撃は台湾、あるいは米軍による航空攻撃を容易にするだろう。台湾の潜水艦は、エネルギー、食料、軍需品などの重要な輸入物資のために海上交通路を封鎖されないようにし、中国と西太平洋の間の重要なチョークポイントを守るために米国および日本と連携する可能性もある。
(8) 米シンクタンクHudson InstituteのBryan Clarkは、「台湾海軍は日本や米国と潜水艦の行動範囲を調整し、各国の潜水艦が台湾や日本列島、台湾、フィリピンを結ぶ『第一列島線』周辺のさまざまな海域を哨戒することができるだろう」と述べている。しかし、他の専門家は、台湾の潜水艦が台湾の水上艦艇、航空部隊と連携し、主に台湾本島周辺で活動すると予想している。U.S. Naval War CollegeのJames Holmesは、「最も重要なことは、艦隊が戦略目標に目を光らせ続けることである。それは、上陸侵攻部隊が台湾の海岸に上陸するのを阻止する接近阻止部隊を創設することである」と述べている。これにより、海峡やその他の近隣海域がこれらの潜水艦の主な哨戒海域となるだけでなく、探知される危険がある海上でスノーケルをするのではなく、短期間の展開後に港に戻ることも可能になるとJames Holmesは述べている。
(9) 台湾の国産潜水艦から成る潜水艦部隊が完成するには数年かかることを考えると、この潜水艦が運用開始された場合に中国の侵略に対する信頼できる抑止力となるかどうかはまだ不透明である。台湾の潜水艦は武力で台湾を本土に統一するという中国政府の潜在的な計画を阻止するのに十分ではないのではないかと主張する者もおり、台湾は代わりにその資源を無人探査機の開発に転用すべきだと主張している。
(10) 誰もがこれに同意しているわけではなく、米シンクタンクCenter for a New American Security上席非常勤研究員で元米潜水艦艦長 Tom Shugartは、これらの新技術はまだ一部の人が主張するほどの能力を備えていないと述べている。「海峡を渡って台湾に侵入する水上艦艇を無人水中航走体が追い詰めて撃沈できるようになるまでには、まだ数十年かかると思う。…それは人々が考えているよりもはるかに困難である」とTom Shugartは言う。全体的に見れば、台湾の国産潜水艦計画を「台湾にとって資金の一部を使うかなり賢明な方法」だとTom Shugartは考えている。「もし台湾がこれらの潜水艦を海上で十分な数で維持する能力を持っているなら、それは中国の攻撃、特に奇襲攻撃があった場合でも生き残ることができ、多くの通信や陸上支援を受けることなく、中国艦隊に損害を与えることができる」とTom Shugartは述べている。
記事参照:How Taiwan's new subs could complicate a Chinese invasion

10月3日「米中戦争は不可避ではない―米国際政治学者論説」(The Strategist, October 3, 2023)

 10月3日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、Harvard University教授Joseph S. Nyeの“China and America are not destined for war”と題する論説を掲載し、そこでJoseph S. Nyeは現在の米中対立を「協調的敵対関係」と位置づけ、戦争は不可避でなく、戦争への事態拡大を回避するための方策、戦略を米国は立案すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米中間の対立は21世紀を特徴づけるものの1つだが、その定義についてはっきりした合意はない。ある者は、2度の世界大戦前の英独対立に似た「持続的敵対」と考え、またある者はスパルタ(優越国)とアテネ(台頭国)との関係に似ており、戦争が不可避だと考える。
(2) 前者の持続的敵対は、米中関係を長い目で見れば誤解であるとわかる。1950年代の朝鮮戦争で米中はお互いに血を流したが、1970年代、ニクソン訪中の後はソ連との均衡のために距離を縮めた。1990年代には経済的関与が深まり、中国のWTO加盟を米国が後押しした。米中が対立の段階になったのは2016年ごろになってのことである。
(3) 米中関係については「冷戦」が引き合いに出されることもあるが、現在の米中関係は米ソ冷戦期の米ソ関係とは程遠い。米国は中国の共産党イデオロギーの拡大には怯えておらず、またお互いに経済的、政治的な相互依存状態にある。特に経済的関係について、中国との関係を断つことは、米国とその同盟国にとって不可能に近い。また、気候変動など地球規模の諸問題も増え、それは単独に取り組めるものではなく。良くも悪くも米中関係は「協調的敵対」と呼べるようなものであり、米ソ冷戦期の「封じ込め」とはまったく異なる。
(4) 中国の脅威に対処するために、米国は同盟や法に基づく秩序など、米国が構築したシステムを活用すべきである。特に注目すべきはインドであり、グローバル・サウスやBRICSといった集団毎に分けられているが、インドと中国は長らく対立関係にある。また、西側の民主主義国の資産をすべて合わせれば、それはロシアと中国を合わせたものを圧倒するのである。適切な目標設定も大事である。中国を民主主義国化させるのは不可能であり、到達目標にすべきではない。中国を侵略し、根本的な体制転換を強制するために払わねばならない対価はとてつもないものになる。逆もまた然りであるため、米中は大規模な戦争に突入しなければ、相手国にとって存亡に関わる脅威とはならない。
(5) 現在の米中関係について、最も適切な類推は1914年以前のヨーロッパである。この時は、バルカンにおける小規模な紛争が世界大戦へとつながってしまった。台湾をめぐって米中が同じ歴史を歩むという声がある。しかし、ニクソン訪中時に台湾問題について合意はできなかったが、その後50年、台湾の正式の独立はないが、中国による台湾への軍事侵攻もないというシステムが継続してきた。中国との低強度の経済的対立は避けられないかもしれないが、その戦略的目標は事態拡大の回避である。同盟国や国際機関を強化し、中国の意思決定に影響を与えようとするべきである。
(6) 南シナ海問題や東シナ海問題で鍵となるのは日本の存在である。また米国は自国の経済的・技術的発展を加速させる必要がある。そのため、より積極的な対アジア貿易を展開すべきである。また中国が引き込もうとしている発展途上国への支援も賢明な方策である。米軍の抑止力強化のための投資は、中国による支配を望まないが中国との貿易をやめる気もない国が歓迎するだろう。歴史的類推を誤ることなく、「協調的敵対」を維持するのが米国にとって適切な戦略目標である。
記事参照:China and America are not destined for war

10月4日「フィリピン、群島国としての正しい海洋安全保障への取り組みを一層前進させるべし―フィリピン専門家論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, October 4, 2023)

 10月4日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは、フィリピンの外交専門家集団FACTS Asia, Inc.のProject AssistantであるLisa Marie PalmaとフィリピンのAmador Research Services連携研究員Maria Gabriela Alanoの “A STEP IN THE RIGHT DIRECTION: ADVANCING THE PHILIPPINES’ MARITIME PRIORITIE”と題する論説を掲載し、ここで両名はフィリピンは群島国*として自国の海洋領域の管理方法について貴重な経験を有しているが、域内における内外の海洋脅威が現出し、激化しつつあることから、海洋安全保障に対するフィリピンの考え方と取り組みは今日と明日の課題に対処するためにさらに進歩していかなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 海洋安全保障に対するフィリピンの理解については、1994年の「国家海洋政策(以下、NMPと言う)」、「国家安全保障政策(以下、NSPと言う)」、および「国家安全保障戦略(以下、NSSと言う)」などの重要文書に見られる。NMPは、自国を群島国と規定し、海洋資源と海洋環境の保護、保全そして管理の重要性を詳述しているが、その後ほぼ30年間、改訂されておらず、現在の状況からは時代遅れであるが、政府に改訂の動きはない。むしろ、海上安全保障に対する現在の取り組みはNSPに軸足を置いている。NSPは、自国の広範な海洋利益と、領土保全と主権を保護することの重要性を認識している。NSSは、より重視する必要がある分野の1つとして「海洋安全保障」、特に海洋関連諸機関の海洋機能と能力の開発を強調することで、現在の取り組みを改めて強調している。
(2) これらの戦略文書は、海洋の諸問題に対する自国の取り組みをより包括的な政策に導き、発展させることを目的としている。しかし、その狙いにもかかわらず、フィリピンの海事政策は依然として非常に閉鎖的である。NSSとNSPはいずれも海洋法執行と領土防衛を主眼としており、非伝統的な安全保障の問題にはあまり目を向けていない。しかも、政策立案者は、自国の海洋領域の計画と管理に当たって「陸上からの視点」から逃れられず、したがって、そこに海洋国家としての認識がほとんど見られない。フィリピンは、7,600以上の島々からなり、不法操業、テロ、海賊行為、密輸、不法移民あるいは海洋汚染と環境悪化など様々な海洋脅威に直面している。加えて、フィリピンは幾つかの地域的課題にも直面している。第1に、東南アジア諸国との間で南シナ海での重複する海洋権益と境界画定問題に直面している。そして第2に、より緊急の課題は、QUADやEUなどの対応も促している南シナ海における緊張の激化である。
(3) 刻々に変化する地域情勢に直面する環境下では、国家元首の外交政策の取り組みは、国家の海洋問題における優先事項を決める上で不可欠となる。Duterte前大統領は2016年の南シナ海仲裁判所の画期的な裁定を「脇に置き」、中国との経済的利益のために「独立した外交政策」を追求することを選択した。Marcos Jr.現大統領は、前任者とは対照的に、南シナ海におけるフィリピンの領有権主張を外交政策の中心に据えている。Marcos Jr.政権は、南シナ海での領有権主張を譲らないと明言し、その立場を補強するために2016年の裁定を前面に出してきている。さらに、Marcos Jr.政権は、沿岸警備隊による中国の威嚇的行為の公表、防衛協力強化協定(EDCA)の対象となる基地の追加**や南シナ海共同哨戒活動を通じた有志国との安全保障関係の強化などにも取り組んでいる。
(4) Marcos Jr.政権は南シナ海における領有権主張に固執しているため、2016年の裁定を推進し、履行していくには、さらなる手段と支援が必要である。「海域法案(An Act Declaring The Maritime Zone Under Jurisdiction Of The Republic Of The Philippines)」が成立すれば、フィリピン管轄下の海域が確立し、当該管轄海域における主権的権利を行使し、そして安全保障部門に国益を守るための権限を付与できることになろう。国家安全保障にとって対外防衛と伝統的な脅威は最も重要な課題だが、非伝統的安全保障問題も同様に重要である。したがって、フィリピンにとって、ブルーエコノミー・アプローチの採用は不可欠である。自国の豊富な海洋資源にも関わらず、フィリピンのブルーエコノミーは、2021年のGDPの3.6%に過ぎない。ブルーエコノミー・アプローチを採用すれば、資源を持続可能な形で管理、利用し、危険を管理し、海洋経済を迅速かつ包括的に成長させるための機会を活用し、そして究極的には国家安全保障の強化にも役立たせることが可能となろう。フィリピンはまた、関係海事諸機関の役割と任務を調整し、切れ目のない省庁間の協力を促進するために、政府全体に跨がる戦略を採用する必要がある。海洋分野においては、政府の一層の調整努力の強化を必要としている。フィリピン政府は、海事部門における成長と発展を促進するために政府全体に跨がるアプローチの追求を全ての関係諸機関に促す、「2028年海事産業開発計画(The Maritime Industry Development Plan 20289)」に着手したばかりである。
(5) 最後に、フィリピンは、海洋問題における優先事項を実現するために、提携諸国からの支援を求める必要がある。2022年5月のHarris米副大統領の東南アジア訪問を通じて、米国は、幾つかの構想による東南アジアにおける海洋協力を強化するための努力を拡大した。さらに、QUADやEUなどのその他の外部の行為主体も、この地域における海洋努力を支援することに関心を示し、既にそれぞれの海洋協力構想や戦略を立ち上げている。フィリピンは、海洋機能と能力を一層発展させるために、これらの利点を活用しなければならない。
(6) 全体として、フィリピンは、自国の海洋領域の開発と保全を促進するためには、多面的な取り組みが求められていることを認識する必要がある。自国の海洋権益を保護し、関係諸機関の努力と調整の基準となる健全な戦略的政策を提示し、そして安全保障と防衛能力の分野における有志諸国からの支援を集めるMarcos政権の姿勢は、将来とも自国の海洋利益を損なうことはないであろう。
記事参照:A STEP IN THE RIGHT DIRECTION: ADVANCING THE PHILIPPINES’ MARITIME PRIORITIE
抄訳者注*:「群島国(an archipelagic nation)」とは、「全体が1又は2以上の群島から成る国」である(国連海洋法条約第46条a項、b項は「群島」について定義)。
**:防衛協力強化協定(EDCA)によって、米軍がフィリピン国内でアクセスできる基地施設が当初の5ヵ所からMarcos政権によって4ヵ所追加された。

10月4日「中国の青龍戦略に対して米国の封じ込めは成功するか―ポーランド専門家論説」(Australian Outlook, October 4, 2023)

 10月4日付けのオーストラリアのシンクタンクAustralian Institute of International AffairsのウエブサイトAustralian Outlookは、元米外交官、NATOおよびU.S. Indo-pacific Command教授で現University of Warsawの環大西洋問題担当特別客員教授Patrick Mendisおよび元Indiana Universityフルブライト上席研究員で現ポーランドJagiellonian University准教授Antonina Luszczykiewiczの” China’s Secret “Blue Dragon” Strategy: Can US Containment Policy Succeed?”と題する論説を掲載し、ここで両名は中国の青龍戦略は、4つの開拓によりワシントンが企図する封じ込め政策を覆そうとするもので、米国は友好国や同盟国との積極的な連携を通じて、機動性の高い封じ込め政策を維持するのが賢明であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国のインド太平洋政策を弱体化させるために、中国は4つの異なる関係を持つ戦線を切り離して、獲得する外交政策を進めている。この包括的な計画の中核は、「青龍戦略(“Blue Dragon” Strategy)」であり、スリランカと台湾という2つの「不沈空母」の間にあって、インド太平洋地域の3つの水域と、ヒマラヤ山脈に源を発する東南アジアと南アジアの主要な河川水系を対象としている。
(2) 青龍戦略における第1の戦線は、東シナ海と西太平洋における台湾と尖閣諸島をめぐる領土紛争である。台湾と海峡両岸地域を包囲する空と海の作戦活動を続ける一方で、中国は東シナ海とその先の西太平洋に侵入している。軍国主義を強める中国は、明らかに台湾に武力を誇示すると同時に、米国と日本に対して目的を持った合図を送っている。2隻の空母「遼寧」、「山東」と、近代的な艦船と航空機による台湾に対する圧力は、習近平国家主席の主張する台湾統一に結びついている。中国政府は、「民族統一こそが、台湾が再び外国に侵略され、占領される危険を回避する唯一の方法であり、外部勢力が中国を封じ込めようとする試みを阻止する方法である 」と明言している。中国海軍と空軍の演習は、台湾海峡や尖閣諸島、さらには沖縄やグアムの米軍基地周辺における北京の「グレーゾーン戦争」の拡大を意味する。
(3) 第2の戦線は、南シナ海における軍事化された人工島と関連している。2023年8月に発表された中国の地図において、中国政府は領有権を争う海域と岩礁の広大な範囲に対する主権的権利を主張し、南シナ海における九段線を強化した。これに対し、インド、フィリピン、ベトナムを含む近隣諸国は激怒した。2016年、ハーグの常設仲裁裁判所はフィリピンに有利な判決を下し、中国の領有権主張を非難した。当時、米国、フィリピン、そして国際社会はこの画期的な判決によって中国政府が自らの主張を再考し、国際法を尊重することを期待していた。しかし、この判決以降も、中国は新たな地図の発表、人工島の建設、南シナ海の軍事化など、積極的な領有権主張を続けている。中国の主張が拡大しているため、米国は中国政府の拡張努力を阻止せざるを得なくなっている。
(4) 第3の戦線は、スリランカ、インド、インド洋、すなわち中国の「西の海」に関連している。中国政府は、カシミール地方のアクサイチンやヒマラヤ山脈東部のアルナーチャル・プラデーシュ州も中国領だと主張し続けている。これらの主張は、国境紛争の恒久的な解決策を見出すのではなく、インドをいつまでも不安にさせ、軍事的・財政的資源を流出させるために考案されたものである。インドの北方包囲網は、スリランカやインド洋を取り巻く中国の「仏教外交」とも戦略的に結びついている。中国政府の目標は、インド洋を古代中国の文学や詩に遡ることができる「西方海」に変えることである。中国の「平和的台頭」と歴史的関係の構図は、中国のもう1つの「不沈空母」であるスリランカで現実化している。スリランカは「一帯一路」構想の「王冠の宝石」であり、それは中国政府がハンバントタ港やコロンボ・ロータスタワーなどの巨大な基幹施設を建設し、スリランカに融資していることからも明らかである。
(5) 第4の開拓は、インドとバングラデシュのブラマプトラ川流域と、東南アジアの大河メコン川の「水の地政学」に関連している。中国はチベット高原の支流から派生する東アジア、南アジア、東南アジアの河川を利用し、広大なダム網を通じて水力発電を行ってきた。ブラマプトラ川やメコン川のような国境を越える河川の水源を支配することは、中国政府に下流域国に対する地政学的・地理経済的な影響力を与えることにもなった。ダムシステムの拡張により、中国は河川の水位を操作し、アジア全域の農業、農法、交通網を混乱させてきた。これからも、水位操作により、さまざまな妥協や譲歩を迫るかもしれない。
(6) 冷戦時代に端を発する米国の伝統的な封じ込め手法は、ますます多用途で強力になる中国の状況では使えない。今日の世界は、冷戦時代と比べ、技術や貿易だけでなく、政治や企業のロビー活動によって、より密接に相互に結びついている。したがって、世界を親米派と親中派に分けることはほぼ不可能である。米政府は中国の科学技術の進歩を先取りし、インド太平洋地域の同盟国や志を同じくする民主主義諸国に対する米国の安全保障を維持する必要がある。しかし、QUADやAUKUS、あるいはフィリピンやベトナムとの2国間防衛条約といった形での米国の軍事協力は万能ではない。米国は小さな同盟国や友好国を、軍事と経済の両面で提携国として扱うべきである。Biden政府は現在、南太平洋における中国の進出を抑制する目的で、18ヵ国から成るPacific Islands Forumに働きかけ、攻勢を始めている。
(7) 中央集権的な力を強め、独裁的な考え方をする中国政府は、戦狼外交によって、軍事力と経済力を過大評価して誤算を招くかもしれない。定期選挙、複数政党制、表現の自由など、自らを修正する機構が組み込まれている民主的な統治システムとは異なり、独裁的で中央集権的なシステムは、火山のように上から、横から、下から噴火する傾向がある。米国は、中国政府が自らの過ちや誤算を犯すことを許しつつ、友好国や同盟国との積極的な連携を通じて、機動性の高い封じ込め政策を維持するのが賢明であろう。
記事参照:China’s Secret “Blue Dragon” Strategy: Can US Containment Policy Succeed?

10月5日「2つの方式を備える海軍部隊の有用性―米専門家論説」(Center for International Maritime Security, October 5, 2023)

 10月5日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Security(CIMSEC)のウエブサイトは、U.S. Navy のNaval Postgraduate School准教授で元水上艦艇乗り組み将校であるDr. Shelley Gallupの“PROTOTYPE THE BI-MODAL NAVAL FORCE”と題する論説を掲載し、中国海軍に対応するために、小型の2つの方式を備える海軍部隊が有用であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 過去の戦争では、護衛駆逐艦、魚雷艇、河川工作船などの小型で武装の整った艦艇が、大型戦闘艦部隊には必要であった。この必要性は、U.S. Navyの現在の小規模ながらも頭でっかち(top-heavy)な艦隊構造によって増幅している。これは、フィリピン領海への中国海軍、海警総隊、海上民兵の侵入によって浮き彫りになってきた。中国の海洋戦力の構造と作戦概念とは対照的である。Philippine Navyはこうした脅威に対応できる艦艇を3隻しか保有していないため、比較的少数の大型戦闘艦で、すでに手薄になっているU.S. Navyの展開が求められている。中国の多数の小型戦闘艦艇部隊や海洋補助部隊も、同様に戦時において重要な役割を果たすことは確実であり、米国の大型戦闘艦の部隊ではこれらの脅威に対処できない可能性がある。
(2) ここで提案されているのは、シー・ディナイアル(sea denial)を目的とする艦艇とシー・コントロール(sea control)を目的とする艦艇の混成を特徴とする2つの方式を備えたバイモーダル艦隊の考え方を支援する省人化自動戦闘力(Lightly Manned Automated Combat Capability:以下LMACCと言う)システムである。LMACCシステムと呼ばれる小型戦闘艦の考え方は、船団や他の部隊が共有するクラウド内で、自律性、機械学習、抗堪性のある通信、そしてパッシブ・センサーの融合を拡大するものである。バイモーダルな艦隊構造は、ネットワーク化された船団として機能する、小型で、有人でありながら自律したシステムの組み合わせを含む有人のLMACCと無人の自律型水上艦艇は、駆逐艦やフリゲート艦を1隻または2隻建造するよりも遥かに安い経費で建造し、武装することができる。このシステムの観点では、個々の艦艇、航空機よりもむしろ、全体的な艦隊あるいは船団内の情報交換網こそが能力である。無人の艦艇はセンサーとして機能し、LMACC は意思決定と武器運搬の役割を果たす。
(3) LMACC はまた、将来の戦闘指導者を育成する上で重要な役割を果たす。今日の駆逐艦中心の水上艦隊では、艦艇を指揮する機会は任官後 10 年以上勤務した後にしかない。LMACCは、海軍大尉が指揮するとして、海軍将校に経歴の早い段階で指揮を執る機会を提供することを目的とする。
(4) LMACC は、小規模な造船所で建造され、1隻あたり約1億ドルと推定される建造費は、他の海軍水上戦闘艦よりもはるかに手頃であり、造船産業基盤の多様化を活性化させるだろう。
(5) 小型艦艇は、米海軍において長い歴史があり、能力の飛躍的な進化をもたらす態勢が整っている。小型で高度に自律化された、乗組員の少ない外洋艦は、競合する海軍の能力を相殺し、米海軍の海洋における持続的な優位性を確保するのに役立つだろう。
記事参照:PROTOTYPE THE BI-MODAL NAVAL FORCE

10月6日「ASEANの海洋戦略とEUの海洋戦略は同じようであるが少し違う―マレーシア専門家論説」(The Strategist, October 6, 2023)

 10月6日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、Centre for ASEAN Regionalism Universiti Malaya所長Rahul Mishraと同CenterのプロジェクトアシスタントであるLi Yanの“‘Same, same but different’: assessing ASEAN’s and the EU’s maritime strategies”と題する論説を掲載し、両名はそこでASEAN maritime outlook(AMO)とupdated EU maritime security strategy(EUMSS) という2つの政策には、両方ともUNCLOSや法に基づく国際秩序全般を支持し、南シナ海に焦点を当てているという共通点がある一方で、EUMSSの取り組みは具体的で伝統的でありAMOは中立性を重視し非伝統的な海洋安全保障問題を追求しているという違いはあるものの、ハイブリッドやサイバーセキュリティ機能を改善するための能力構築作業に関しASEAN とEUは協力の可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋という概念の出現は、国際政治において海洋が主要な役割を果たすようになったことを示している。この海域には、悲惨な結果をもたらす可能性のある紛争の敏感な引火点のいくつかがある。南シナ海はその1つである。南シナ海は、広大な未開発の天然資源を持つ重要な海洋公共財である。しかし、それはまた、伝統的および非伝統的な戦略的対立の主要な舞台であり、中小規模の沿岸国だけでなく、大国にとっても不安の源である。EUとASEANは、インド太平洋に大きな利害関係を持つ2つの主要な国家群として、出現する可能性のある脅威を軽減するための空間を見つけるように努力している。両機関は最近、海洋戦略を発表した。2023年3月にupdated EU maritime security strategy (以下、EUMSSと言う)が発表され、2023年8月には最初のASEAN maritime outlook(以下、AMOと言う)が公表された。
(2) 初登場のAMOは、ASEANが海洋の問題や困難を克服することに以前よりも真摯に価値を置いていることを強調している。ASEANは、加盟国の利益の多様性のために、一貫した必要な海洋意識を今まで持つことができなかった。AMOは、ASEANの成果を振り返り、提携国と協力内容をまとめ、機会と課題を特定し、海洋安全保障への取り組みの道筋を示している。AMO は、安全な方向性を提供するように設計された計画表である。
(3) 具体的には、AMOはASEANがUNCLOSを含む共通の原則と国際法と一致する基準を支持するための協力を改善しようとしている分野をリストアップしている。AMOは、地域の中心的な海洋問題である南シナ海の紛争に対処し、外部からの干渉に対するASEANの姿勢を率直に述べている。AMOはまた、長年の構造上の問題について修正を提案している。これは、部門別集団の分業と各議論の提携相手の明確な目的に対処するため、部門間の壁をなくすことによりASEANの枠組み内での重複を減らすことを目的としている。AMOは、インド太平洋に関する優先事項とその後に続く事項の区分について明確さが欠けていた2019年のASEAN outlook on the Indo-Pacificを補完するものである。
(4) ゼロから始めるAMOとは対照的に、EUMSSは2014年に最初に公表され、2021年に改訂された戦略の更新である。ウクライナ紛争に関連した最新の更新では、海軍の協力、海洋基幹施設の開発、頻繁な海軍の共同演習などインド太平洋へのEUのより強固な参加に重点が置かれている。EUは、ウクライナ紛争によって戦略的重要性が強調されたパイプラインや海底ケーブルなど、インド太平洋の資産に対するハイブリッド攻撃やサイバー攻撃に対する防御を強化したいと考えている。しかし、最も顕著な変化は、この文書がインド太平洋に重点を置いたことである。それは、インド太平洋で新しい多国間投資協定を構築したいというEUの願望を反映している。それは、EUを世界的な安全保障の提供者として位置付けるという野心を示唆している。
(5) AMOとEUMSS という2つの政策には、表現は異なるが、同じような意味がある。両方ともUNCLOSや法に基づく国際秩序全般を支持しており、いずれも南シナ海に焦点を当てている。EUMSSは、南シナ海での違法行為は、特定の非EU諸国による一方的な行動と海洋の自己主張に起因すると主張し、これが国際秩序に与える害悪を強調している。EUは普遍的な基準を支持している。しかし、それはASEANが正式に対外協力にすぐに参加することを意味するものではない。AMOは、南シナ海における締約国の行動に関する宣言が南シナ海の安定に大きく貢献したことを認め、米国などの域外大国の干渉を防ぐことに留意し、南シナ海の問題を域内問題と定義している。
(6) ASEANはAMOを通じて、技術的支援および財政的支援による加盟国の海洋能力の向上を目指している。偶然にも、EUは外部機関との協力を強化し、ハイブリッドやサイバーセキュリティ機能を改善するための支援を提供し、情報と経験の共有を促進することに熱心である。この能力構築作業に関してEUとASEANの協力の可能性がある。EUMSSの取り組みは具体的で野心的で伝統的であるが、AMOは中立性を重視し、非伝統的な海洋安全保障問題を追求することを選択している。EUMSSは、必要に応じて近隣や他の地域の海上でEU市民を保護するという誓約からも明らかなように外向きであるが、AMOは海洋の問題の解決、地域社会の構築、外部提携国との関与、内部機構間の調整のための戦略的展望であり、主にASEANの領域に焦点を当て続けており、内向きである。
(7) 戦略はそれを作った組織の手法を明らかにする。EUはより積極的な取り組みを選択している。EUの目的は、インドネシア、シンガポール、フィリピンなどの沿岸国との関係を強化し、かつて大国の地位を取り戻すことである。それに比べて、ASEANのやり方は、穏便で柔軟性があり注意深い。AMOは、主要な行為主体間の主導権をめぐる駆け引きに引き込まれることを警戒しているが、最終的には、海洋領域におけるより良い方向を追求している。これらの違いが克服されたとしても、協力する意図が意味のある行動につながるかどうかはまだ不明である。
記事参照:‘Same, same but different’: assessing ASEAN’s and the EU’s maritime strategies

10月6日「英国のインド太平洋への傾倒とCPTPPの展望―米専門家論説」(Brookings, October 6, 2023)

 10月6日付、米シンクタンクBrookings Instituteのウエブサイトは、同Instituteの非常勤上席研究員Peter A. PetriとJohns Hopkins University のThe School of Advanced International Studies国際経済学教授Michael Plummerの‶The UK’s Indo-Pacific tilt and the CPTPP’s prospects″と題する論説を掲載し、ここで両名はEU離脱後の英国が発展著しいアジアに活路を見出そうと環太平洋諸国を中心とする経済圏構想であるCPTPPに参加することについて、英国、アジア等の双方に利益をもたらすと評価しつつも、EU離脱の経済的損失を埋めるには時間がかかるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2年にわたる交渉の末、英国は2023年7月、環太平洋パートナーシップ包括的および先進的な協定(以下、CPTPPと言う)への参加に合意した。最終批准は、2024年の予定である。英国は、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、ベトナム等11ヵ国の原加盟国に続き、最初の新規加盟国、最初の非太平洋の加盟国となる。これで、EU離脱後の英国の戦略である「インド太平洋への傾倒」の大きな目標が実現する。加盟は英国にさまざまな利益をもたらし、困難な時期に経済協力におけるCPTPPの役割を高めるであろう。
(2) 英国のEU離脱を求める保守派は、世界中で英国の経済的・政治的知名度を高める外交政策を長い間展開してきた。EU離脱後初の統合戦略レビュー2021は、政府の主要な外交政策文書で、インド太平洋地域との政治的・経済的結びつきを優先する「インド太平洋への傾倒」を通じて、歴史的関係を再活性化する「グローバル・ブリテン」の構想を打ち出した。その後、この政策はASEANとの対話関係や、AUKUSなど、目に見える政治的前進をもたらしたが、EU離脱後の余波で、その経済的機会が極めて重要なことが判明した。最近の公式推計によるとEUからの離脱は、英国のGDPを2~3%低下させ、英国の貿易を低迷させた。国際通貨基金(IMF)の新しい報告書は、企業の信頼と投資を回復するために大規模な改革が必要としている。こうした状況では、アジアとの貿易・金融関係の深化は特に魅力的である。
(3) 英国政府はEU離脱後わずか11ヶ月で、英国が失っていたはずのEU自由貿易協定(以下、FTAと言う)に代わる33の包括的な「継続」協定を批准し、日本(2021年)、オーストラリア、ニュージーランド(2023年)との新たな2国間FTAを開始した。CPTPPへの加盟を含むこの傾倒は、2度の政権交代を乗り越え、2023年の「統合的リフレッシュ(Integrated Review Refresh 2023)」で最重要視されるようになった。CPTPPへの加盟は、それ以前の貿易構想に付加価値を与え、将来の利益のための枠組みを作るであろうが、英国にとって圧倒的に重要な貿易相手国であるEUからの離脱の対価を相殺することはできない。CPTPPによる利益に関する政府の試算では、2040年のGDPが予想水準より20億ポンド(約24億ドル)、0.06%増加し、CPTPP参加国との2国間貿易が49億ポンド(約60億ドル)、3.9%拡大するとの、ささやかな利益を予想している。最近、新しい貿易モデルを用いて再推計したところ、2035年のGDP予想値の0.23%にあたる70億ポンド(96億ドル)と、GDP改善を認めたが、それでもEU離脱の損失予想を大きく下回ることが判明した。政策全体の効果をより良く見るために、CPTPPと重複する2国間協定が生み出す英国の利益の合計を試算すると、CPTPPのみによる増分利益の2倍以上となる。2国間協定による利益は、マレーシアやブルネイとの新たな特恵貿易協定、先行協定の利用拡大、12ヵ国全加盟国が共有する原産地規則による貿易拡大から得られる。特に日本は英国の加盟を歓迎しており、経済的利益に加え、これらの大国は協定の将来に大きな影響力を共有することになる。
(4) CPTPP加盟国もまた、英国の加盟による恩恵を受け、その額は48億ドル、GDPの0.03%と推定される。新規加盟国を認めることは、全体としてより大きな利益を生む可能性があり、英国の円滑な加盟によって門戸は開かれた。加盟希望国リストにはすでに中国、台湾、エクアドル、ウクライナ等6ヵ国が含まれ、さらに多くの国が関心を示している。我々は、CPTPPの規模と地政学に重大な影響を与えると思われる今後の新規加盟国について5つの場合の模擬実験を行った。それは、中国、台湾、韓国、EU、米国がそれぞれ個別に参加すると仮定した場合である。中国の加盟は、5つのシナリオの中で最大の利益を生むであろう。これは中国だけでなく、世界、英国、現在の CPTPP 加盟国にとっても最大規模となる。非加盟国は、特にEUと米国を含め損失を被るであろう。EUと米国の加盟は、中国に大きな対価を課す一方で、中国の加盟時よりも多くの利益を生むであろう。台湾はそのGDPに比例して加盟により最も多くの利益を得(年間実質GDPの1.7%)、欧州は最も少ない(0.3%)。
(5) いくつかのシナリオは不確実性が高い。中国と台湾は2021年9月に加盟を申請したが、加盟手続きはまだ始まっておらず、条件交渉のための作業部会が設立される兆しもない。加盟には全会一致の支持が必要であるが、政治状況から全会一致は今のところ不可能である。英国高官はここ数週間、中国との関係を再構築するための措置を講じているが、英国が現時点で、中国の加盟を支持する可能性は低い。Integrated Review Refresh 2023版では、「(中国が)国際秩序に挑戦を突き付けている」と強調している。早期加盟の可能性が最も高いのは韓国である。その貿易政策は他の加盟国と一致しており、日本との関係改善により、表立った反対は最小限に抑えられている。韓国政府は2022年4月に加盟申請の意向を表明したが、まだ正式な申請はしていない。これまでのところ、候補国は申請順に検討されてきたが、CPTPPは柔軟な取り組みを採用し、他の場合より加盟の恩恵があり、問題も少ない韓国の加盟を迅速に検討すべきである。EUと米国の加盟は期待薄で、どちらも解析支援が得られていない。前通商担当委員のCecilia MalmströmをはじめEUのシンクタンクや専門家は加盟を強く支持しており、米国の主要な専門家やビジネス誌の多くは米国の加盟を歓迎している。しかし、公式の支持はまた別の問題で、Council of the European Union (欧州連合理事会)のEUインド太平洋戦略2021年版では、CPTPPについては触れられていない。委員会は手一杯で、新たな多国間貿易構想への支持を集めるには多大な努力が必要であろう。米国では、CPTPPの前身である環太平洋経済連携協定(TPP)を含め、貿易協定に強く反対する政策が民衆の人気を得ている。
(6) CPTPPは間違いなく世界を牽引する包括的なFTAであり、他の地域協定や世界標準の先導者となっている。英国の加盟や加盟候補国の増加により、さらなる拡大が見込まれる。加盟への誘因は高まっており、早期加盟候補国はより良い経済的成果を得るとともに、加盟資格や協定の内容についてより多くの発言権を得ることになる。加盟国はまた、デジタル経済に関する古い規定を更新できる可能性があり、これは上記で検討した5つの経済圏すべてにとって関心の高いテーマである。貿易協定の代わりに米国が立ち上げたインド太平洋経済枠組みは、同じ地域に感心が集中していることを示している。ただし、CPTPPに迅速かつ広範囲な成果は期待できず、インド太平洋に傾注したとしても、英国政府のさらなる変化を乗り越えられないかもしれない。それでも、CPTPPとこのインド太平洋への傾倒が築いた活力は今後も続くはずであり、より広範な協力のための基盤を構築する必要がある。
記事参照:The UK’s Indo-Pacific tilt and the CPTPP’s prospects

10月9日「ASEAN諸国は南シナ海における争い解決に向けて団結せよ―シンガポール海洋政策専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, October 9, 2023)

 10月9日付のシンガポールThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のInstitute of Defence and Strategic Studiesが発行するIDSS Paper は、同Institute研究員Gilang Kembaraの“ASEAN States and the South China Sea Disputes: Going it Alone or Together?”と題する論説を掲載し、そこでGilang Kembaraは南シナ海における争いの解決に向けてASEAN諸国は団結していくべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海における争いが世界の見出しを賑わせ続けているが、南シナ海に関する行動規範(以下、COCと言う)の交渉にもかかわらず、論争が収まる気配はない。2023年には中国船がフィリピン船に向けて軍用レーザーを照射した事件が起き、また8月に中国政府が新たな南シナ海の地図を公表したことで、南シナ海論争におけるASEANの領有権主張国はそれを否定することで一致した。
(2) こうした動きがありつつも、ASEANは南シナ海論争に関して団結しているとは言い難い。それは南シナ海に関して領有権を主張する各国がさまざまな利害関係を有していることを反映しているが、他方団結の欠如ゆえに、南シナ海論争でASEANが周縁化する危険性も高まっている。COCがまとまらなければ、諸国がそれぞれ単独でその問題に取り組もうとするかもしれない。
(3) 東南アジア最大の国であるインドネシアが2023年のASEAN議長国であることに周囲は期待を高めた。南シナ海論争だけでなく、ミャンマー問題や米中対立などへの有効な対処が期待されているのである。そのインドネシアは、ASEAN諸国が包括的な安全保障協力を進めるべきだと考えている。たとえば2022年末に開かれた第25回ASEAN政治・安全保障会議で、インドネシア外相はASEAN Maritime Outlook の採択を提案し、それは2023年8月に採択された。
(4) 安全保障面では、Indonesian Armed Forces(インドネシア国軍)は、南シナ海をめぐる争いが収まらず、また米中対立が激化する中、ASEAN諸国との実践的な協力関係を構築するべきだという認識を強めている。そのため、2023年5月には第2回ASEAN Multilateral Naval Exercise (ASEAN多国間海軍演習)に参加したほか、 ASEAN Solidarity Exercise 2023と名付けられた共同演習が2023年9月に初めて実施されたのだが、インドネシアがその主催国となった。それは人道支援・災害救援や海洋安全保障、海賊対策など陸海をまたぐ包括的な演習で、ASEANのすべてが参加したという点で成功であったと言えよう。
(5) こうした方向性にもかかわらず、南シナ海をめぐる争いにおける団結には至らない。COC交渉の遅れゆえに、各国は独力で自国の主権や経済的利益を確保しようとしている。たとえば、フィリピンは国際司法裁判所か仲裁裁判所に中国を提訴しようとしていると報じられ、ベトナムはさまざまな外部勢力と2国間の提携の締結を進め、自国の行動能力の改善を模索している。特に米国との関係を包括的戦略的パートナーシップへと格上げしようというのは歴史的に画期的な出来事だ。ベトナムはまたカナダとの防衛協力を進めている。その目的は南シナ海における行動能力を向上させ、またこれまでの防衛に関して主力の提携国であったロシアと距離をとることにある。
(6) 南シナ海をめぐる争いを単独でなんとかしようという試みによって、論争は解決に向けて一歩進むかもしれないが、そうした試みは、ASEANの中心性を損なう可能性もある。
記事参照:ASEAN States and the South China Sea Disputes: Going it Alone or Together?

10月10日「インド太平洋におけるフランスの立場と今後―韓国専門家論説」(9Dashline, October 10, 2023)

 10月10日付けのインド太平洋関連インターネットメディア9Dashlineのウエブサイトは韓国Kangwon National University政治学博士課程院生Dylan Motinの“BALANCING ON FUMES: WHAT DRIVES FRANCE IN THE INDO-PACIFIC”と題する論説を掲載し、ここでDylan Motinはフランスのインド太平洋戦略は、主に中国への恐怖から生じ、立場的には米国側にあるが、フランス政府の自律的な能力はわずかであり、自国の利益を守るためには、資源という得意分野を巧みに利用し、大国政治を超越するという妄想を捨てる必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Emmanuel Macron政権下のフランスは、1954年のインドシナ半島からの撤退以来、インド太平洋地域にかつてないほどの関心を寄せている。2018年には、海軍を配備すると同時に、初のインド太平洋戦略文書を作成した。ここでフランスは、安定、多国間主義、軍事的陣営の拒否を表明しているが、この新たな関心は自国の利益に突き動かされたものであって、大国政治を超越したものではない。フランスのインド太平洋戦略は、中国の封じ込めに深く関わっており、米国と足並みを揃えている。
(2) フランス外交の最大の関心は、インド太平洋ではない。フランスは太平洋にクリッパートン島、ニューカレドニア、ポリネシア、ワリス・フテュナ諸島の4つの領土を所有しているが、地理的、安全保障上の理由から、主にヨーロッパを重視している。しかし、François HollandeとEmmanuel Macronの大統領時代を通じて、インド太平洋の優先順位は急速に上昇し、アフリカを超えて2番目となっている。フランス政府関係者は、中国を封じ込めることが目的ではなく、勢力争いから逃れるための第3の道を提案したいのだと強調する傾向がある。また、言葉の上では米国の過度に軍事中心の取り組みから距離を置こうとしている。実際のところフランスのインド太平洋戦略は、主にこの地域に対する中国の覇権主義への恐怖によって推進されている。
(3) 中国がこの地域の覇権を握ることは、フランス政府にとって次のような不愉快な結果が予想される。
a.フランスは太平洋にある多数の島嶼領土を防衛する信頼できる手段を持てなくなる。
b.中国政府は、この地域をフランスの軍事的・経済的利益に近づける影響力を持つことになる。
c.中国政府は対外的に大きな力を誇示できるようになり、やがてはヨーロッパでも強大な影響力を持つようになる。
(4) 中国の台頭とその危険性は、「戦略的安定と軍事的勢力均衡の維持」を望むフランスのインド太平洋戦略に登場する。フランスの太平洋領土の防衛とそれをめぐる中国の潜在的な野心は、間違いなく当局者の頭の中にある。中国とニューカレドニアの独立運動との関係も注目されていないわけではない。フランスの研究者たちは、中国政府が独立したニューカレドニアを潜在的な基地と見なし、貴重なニッケルの供給源とする可能性を懸念している。フランスの資源には限りがあり、軍備はすでに過剰に増強されている。パリが長期的にインド太平洋戦略を維持するには、経済的な利益を上げなければならない。実際、インド太平洋戦略文書では、安全保障に次ぐ第2の柱として経済的利益が大きく取り上げられている。フランス政府は、この地域におけるフランス企業の振興に外交的影響力を行使する意欲を強調している。
(5) フランスは、核抑止力とそれなりの通常戦力を保有しているが、大国としての資格はない。そして中国に単独で挑むことはできない。フランス本土とインド太平洋地域との間の地理的距離が、その弱点をさらに悪化させている。フランスがこの地域に駐留させられる兵力は7,000名に満たず、利用できる小型艦船はほんの一握りである。フランスには、インド太平洋の主要な有事に対応できる武力はほとんどなく、この地域の大国政治を単独で左右することはできない。その代わり、フランスの強みは米国よりもイデオロギーに左右されない外交政策にある。Biden政権が世界政治を民主主義対独裁主義の戦いという枠組みで描いていることは、南アジアや東南アジアの多くの国々を遠ざけている。米国とは異なり、フランス政府はリベラルな価値観を海外に広めることにあまり重点を置いておらず、1954年以来、この地域での存在感が限られているため、反帝国主義や中立主義を志向する国々にとっては、親しみやすい提携国となっている。
(6) フランスは2010年代半ば、歴史的にロシアが支配していた市場であるインドへ戦闘機を売ることに成功した。米国との関係が長く険悪であったインドネシアに対しても、最近同じことを繰り返している。米国とは異なり、旧植民地のカンボジアとは良好な関係を維持している。その意味で、フランスの相対的な弱さは、米国のように支配的な提携国になることができないため、地域的な努力を促進することができる。しかし、それはハードパワーに取って代わるものではない。攻撃型潜水艦をオーストラリアに売却する契約が2021年9月に破綻したことは、フランスの限界を示すものであり、米国から独立して大きな影響力を維持する力がないことも明らかになった。
(7) フランスのインド太平洋戦略は、依然として中国と米国との関係に焦点を当てている。現在、フランスの外交政策を担っている若い世代は、フランスの限りある資源を安全保障と経済の核心的利益、すなわち第1にヨーロッパ、第2にインド太平洋に集中させることを望んでいる。したがって、ヨーロッパの安定が著しく低下した場合、たとえばロシアが中央ヨーロッパに進出した場合、インド太平洋戦略が維持できなくなる危険性が常にある。
(8) フランスのインド太平洋戦略は、主に中国への恐怖から生じている。フランスは明らかに米国側の封じ込め戦略の中におり、当分の間はそこに留まるだろう。この地域の出来事に影響を与えるフランスの自律的な能力はわずかであり、その野心は資源を上回っている可能性が高い。自国の利益を守るためには、得意分野を巧みに利用し、大国政治を超越するという妄想を捨てる必要がある。
記事参照:BALANCING ON FUMES: WHAT DRIVES FRANCE IN THE INDO-PACIFIC

10月10日「フィンランド湾のガスパイプラインに対する破壊工作―フィンランド専門家論説」(Naval News, October 10, 2023)

 10月10日付けのフランスの海軍関連ウエブサイトNaval Newsは、フィンランドの防衛問題専門家Robin Häggblomの“Seabed Warfare: Another Sabotage In The Baltic?”と題する論説を掲載し、Robin Häggblomはフィンランド湾のフィンランドとエストニアをつなぐガスパイプラインが、何者かの破壊工作によって損傷を被ったことについて、要旨以下のように述べている。
(1) 10月8日、フィンランドとエストニア間のガスパイプラインBaltic Connectorの圧力が異常に低下した。Baltic Connectorは、フィンランドのインクーとエストニアのパルディスキを結ぶフィンランド湾を横断する海底パイプラインで、両国のガス配管網に接続している。このためパイプラインは停止し、フィンランド湾の両国の当局はパイプラインからの漏出を見つけるために調査を開始した。10月10日の朝までに、フィンランド湾の中央部に近いフィンランドの排他的経済水域(EEZ)内で損傷が確認された。さらに、同じ海域を走っていた通信ケーブルが、まだ今のところ特定されていない場所で切断されていた。
(2) 10月10日、フィンランドのPetteri Oropo首相が行った記者会見によると、被害の程度は外部の行為者による意図的なもので、パイプラインは 「数ヵ月間」使用できなくなる。しかし、フィンランドは2022年から賃貸されているFSRU Exemplarを用いて、インクーにある浮体式LNGターミナルを運営しているため、フィンランドのガス配管網は安定している。しかし、エストニアはまだEstonia–Latvia Interconnection(エストニアとラトビア間の天然ガスパイプライン相互接続)に連結されているものの、インクーのターミナルからエストニアにガスを供給することはできない。通信ケーブルの損傷はエストニアのEEZ内と見られているため、犯罪調査はエストニア当局が行うことになる。
(3) フィンランド当局は、最も可能性の高い容疑者としてロシアを挙げることは控えているが、この種の妨害工作は困難なものであり、特にこの数日間、この区域はかなりの悪天候に見舞われたため、ある程度の資産と資源が必要であるとも明言している。しかし、ロシアのプロジェクト865級水路測量船「シビリャコフ」が、2023年に入ってから頻繁にパイプラインの地図を作っていると思われることが報告されている。この船は、ノルド・ストリームの破壊工作が行われた区域でも行動していたことが知られている。
記事参照:Seabed Warfare: Another Sabotage In The Baltic?

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1) Beijing’s Aggression Behind Emerging India-Philippines Defense Relationship
https://jamestown.org/program/beijings-aggression-behind-emerging-india-philippines-defense-relationship/
China Brief Volume: 23 Issue: 18, The Jamestown Foundation, October 6, 2023
By Dr. Peter Chalk, a former senior analyst with the RAND Corporation in Santa Monica, CA and now a full-time consultant based out of Phoenix, AZ. Peter Chalk
2023年10月6日、米シンクタンクRAND Corporation の元上席分析員で現在は独立系コンサルタントであるPeter Chalkは、米シンクタンクThe Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefに" Beijing’s Aggression Behind Emerging India-Philippines Defense Relationship "と題する論説を寄稿した。その中でPeter Chalkは、中国がインド太平洋において自国の領有権を主張する姿勢を強めていることは、インドやフィリピンのより緊密な防衛関係の進展に影響を与えているとした上で、インドとフィリピンの防衛関係がどこまで緊密化するかには限界があるが、相互防衛条約を結ばずとも、さまざまな形での協力を模索する余地はまだ十分にあるし、今後数年間は、そのような模索がより具体化し始めるだろうと指摘している。そしてPeter Chalkは、中国には、この新たな動きへの対応として、経済的強制措置、影響力行使、ロシアとの関係を利用してインドに圧力をかけるなど、選択肢は多岐にわたるが、中国が最終的にどの組み合わせを追求するかは不明ではあるものの、南シナ海で譲歩するという選択肢は存在しないことは明白であると主張している。

(2) Who Would Win A U.S.-China War?
https://www.19fortyfive.com/2023/10/who-would-win-a-u-s-china-war/
19FortyFive, October 8, 2023
By Dr. James Holmes, J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the U.S. Naval War College and a Distinguished Fellow at the Brute Krulak Center for Innovation & Future Warfare, Marine Corps University
2023年10月8日、米U.S. Naval War College のJames Holmesは、米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトに" Who Would Win A U.S.-China War? "と題する論説を寄稿した。その中でJames Holmesは、「米中戦争で勝つのは誰か?」との問いに対して、未来の戦争について確度の高い予測を立てようとすることは愚かでしかないが、どれだけ高性能な兵器でも練度と士気の高い兵士が動かさなければその性能は発揮されないし、兵士は組織の中で活動するのであり組織文化も重要となってくることは確かだと述べている。そしてJames Holmesは、どちらの側がより優れた戦闘文化、熟練文化、勇敢な行動倫理を育成するかによって、米中戦争での成功の見込みが高まるだろうし、もし米国が西太平洋で勝ちたいのであれば、同盟関係に気を配り、戦争に関する確かな考えを作り、その考えの実行者が戦闘態勢にあることを確認するために身を粉にする必要があると主張している。

(3) Taiwan military prepares for urban warfare and asymmetric fight as PLA prepares for war with Taiwan
https://www.thinkchina.sg/taiwan-military-prepares-urban-warfare-and-asymmetric-fight-pla-prepares-war-taiwan
Think China, October 9, 2023
By Woon Wei Jong(温偉中)、Correspondent, Lianhe Zaobao(聯合早報台北特派員)
2023年10月9日、シンガポール紙聯合早報の台北特派員であるWoon Wei Jongは、シンガポールの中国問題英字オンライン誌Think Chinaに、“Taiwan military prepares for urban warfare and asymmetric fight as PLA prepares for war with Taiwan”と題する記事を寄稿した。その中で、①大陸からの圧力に直面している台湾の軍隊は、精密誘導弾による非対称戦能力を強化し、市街戦に備えている。②台湾軍は、台湾に対する中国軍の戦闘目的は、台湾の基地から軍用機を飛行させず、軍艦を出港させないことだと評価した。③台湾の国防報告書によると、台湾が直面している2つの大きな脅威は、 第1に中国軍が台北に最も近い沿岸部の3つの軍用飛行場を拡張し、台湾の沿岸部を制圧する航空戦力を強化しようとしていることであり、第2に空母「福建」が2025年に就役する予定で、米国とその同盟国の封じ込めを突破し、西太平洋から抜け出す準備が整っていることである。④報告書はまた、中国軍の3隻の空母は、中国軍が求める完全な接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力を満たすことになると明らかにした。⑤米軍は台湾軍の訓練を予定しているが、台湾と米国は1979年に国交を解消して以来、相互防衛条約を結んでおらず、共同作戦の枠組みや計画、指揮系統もない。⑥一方で、米国の方策により、「福建」が十分な航空支援を受けて西太平洋の縦深海域に単独で展開できるかどうかは未知数である。⑦核危機を引き起こすような大国間の対決を避けるために、米国が台湾領土での戦闘に介入する可能性は低い。⑧中国本土による侵略を抑止するために非対称戦能力を開発する一方で、台湾の全体的な防衛戦略は、中国本土と米国の両方との信頼を築く方法を模索しなければならないといったことが述べられている。