海洋安全保障情報旬報 2023年07月11日-07月20日

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7月11日「九段線がベトナムでの中国ビジネス利害に与える悪影響―シンガポール・ベトナム専門家論説」(FULCRUM, July 11, 2023)

 7月11日付のシンガポールのシンクタンクThe ISEAS -Yusof Ishak Instituteが発行するウエブサイトFulcrum は、同Institute上席研究者Le Hong Hiepの“How the Nine-Dash Line Undermines China’s Economic Interests in Vietnam”と題する論説を掲載し、そこでLe Hong Hiepは、中国による九段線に関する主張がベトナムをはじめとして、中国との論争や対立を抱える国での中国企業の活動に今後大きな影響を与える可能性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 7月上旬、映画「バービー」をベトナム当局が上映禁止にした。その映画内に、中国が主張する南シナ海の「九段線」が描かれていたためである。同様の問題が、北京に本社を置くiME Entertainmentのウエブサイトについても起きた。同社のウエブサイトに九段線を描いた地図が掲載されたのである。ベトナム市民は、同社が主催するハノイでのK-POPバンド・Blackpinkのライブをボイコットするよう呼びかけている。
(2) 九段線がベトナムでビジネスにかかる問題を引き起こしたのは、これが最初ではないし、最後にもならないだろう。2019年以降、ベトナムは九段線の図像を含む映画や地図、本、スマホゲームなどを上映禁止にしたり、違法化したりしている。2012年以来、中国のパスポートには九段線が描かれており、これが中国企業によるベトナムへの投資の障害になっている。ベトナム当局が、九段線が描かれたパスポート所有者を、ベトナムにおける企業の代表として認めていないためである。また政府は2019年末以降、そのパスポート所有者による就労許可証や無犯罪証明書の申請を拒絶していると報じられている。ベトナムMinistry of Industry and Tradeは九段線が描かれた製品の輸入をしないよう国内企業に求めている。
(3) 中国が九段線の主張を既成事実化するための攻撃的な活動もまた、ベトナムにおける反中国感情を高めている。2014年に中国はベトナムの排他的経済水域内に石油リグを設置し、そのことがベトナム国内での多数の反中国暴動のきっかけとなった。
(4) 以上の事例は、南シナ海における九段線の主張と、それにかかる攻撃的姿勢が、海外市場における中国企業の活動に悪影響を与えていることを示している。結果として中国の投資家はベトナムへの投資に慎重になっており、実際、中国の対ベトナム直接投資は238億米ドルで第6位である。これに対し、第1位の韓国は815億米ドルである。
(5) 2016年の国際仲裁裁判所の裁定は、九段線の主張の正当性を退けた。上述のベトナムの対応は、自国の海洋権益を保護し、裁定を実効化するための行動とみなすことができ、ベトナムで経営するビジネスはベトナム政府の方針に従わなければならなくなる。逆に中国は中国の方針に従うべきだと、自国で行動する企業には圧力をかけることになり、両国で活動する企業は板挟みになる。ベトナムでの利益を犠牲にして中国政府の方針に従おうという企業もあるが、今後ベトナム以外が同様に九段線を禁止する方針を打ち出す可能性がある。
(6) 実際、フィリピンが映画「バービー」の上映禁止を検討している。米国のTed Cruz上院議員(共和党)も、映画を制作したWarner Bros. Entertainment Inc. を、中国の主張を拡散したとして非難している。中国国外で活動するビジネスは、こうした地政学的緊張が高まるなかで、危険性が大きくなっていっている。現時点で、この問題による経済的影響は小さいかもしれないが、今後国際企業はさらに慎重な舵取りが必要となってくるだろう。
記事参照:How the Nine-Dash Line Undermines China’s Economic Interests in Vietnam

7月11日「本当のミサイル・ギャップ―米専門家論説」(Real Clear Defense, July 11, 2023)

 7月11日付米国防関係ウエブサイトReal Clear Defenseは、米シンクタンクYorktown Institute の創設者で会長のSeth Cropseyの‶The Real Missile Gap″と題する論説を掲載し、ここでSeth Cropseyは米国がインド・太平洋での紛争に備え、新規装備の開発にもまして中国の巡航ミサイル、超音速ミサイルを迎撃可能な、実績のある米国のミサイルの生産ラインを増やして、海軍に供給する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国の水上艦部隊は、西太平洋における戦いで中国を打ち負かすために不可欠ではあるが、能力の高い敵には脆弱なところがある。艦隊の運用能力確保には、さまざまな対策を組み合わせる必要がある。特に、防衛産業基盤の限界や艦隊に多様な能力が求められることを考慮すると、U.S. Navyは、コンパクト・アジャイル・インターセプター計画のような新しい対極超音速能力を獲得すると同時に、海軍仕様のパトリオットPAC-3 MSEを調達することによって、複数任務に対応する能力の優位性を獲得する必要がある。
(2) U.S. Navyは、10年ほど前から予算削減や政治手腕の欠如等により、即応性が危機的状況に陥っている。U.S. Navyに要求されることに対して小さ過ぎる規模の艦隊は、人民解放軍(以下、PLAと言う)を阻止し、あるいは対抗して主導権を握るよう求められているが、PLAは米国の戦争方式を崩壊させる能力を備えている。米国は大規模な軍事作戦の際、教科書どおりに同盟国の領土内で戦力を増強して、兵站を確保し、大規模航空作戦を展開して敵軍の戦力を低下させ、戦場が整ったところで地上攻撃を実施する。これは、1991年、2001年、2003年には、米国にとって有効であった。ウクライナでも同様で、米国がその気になれば、最新兵器をウクライナに移転することができる。長距離偵察と攻撃の複合機能を持たないロシアは、事態の激化を恐れ、これを阻止することはできないであろう。
(3)  PLAは米国の戦争方法の基本を理解している。 最も激しい戦闘地域となる第1列島線への米国の接近を拒否し、中国による地域的武力行使に際して、米軍を遠ざけようとしている。 米国の空母打撃群を中心とする海軍力、戦略爆撃機部隊を含む大規模な航空戦力がなければ、台湾だけでなく、日本、韓国など、米国の同盟国は孤立し、中国に圧倒されてしまうであろう。この目的のために、PLAは第一列島線から600~1,000kmの範囲内にある米国の軍事施設等を攻撃する多様なミサイルを保有している。 PLAは、米海軍力、航空戦力を排除するまでに6~8週間の期間を必要と見ている。皮肉なことに、PLAが脅威とみなす米国の空母打撃群、戦略爆撃機部隊は、軍の「変革」批判者が排除しようとしている部隊でもある。大規模な戦争では、勝敗は空母打撃部隊と長距離爆撃機の運用能力によって決まり、これらはPLAの標的である。
(4) 潜水艦、B-2のようなステルス爆撃機、長距離ミサイルは、PLAの偵察・攻撃複合機能に損害を与えることができる。しかし、目標に対し濃密な爆撃を実施できる空母と戦略爆撃機は、PLAの攻撃能力に亀裂を入れ、PLAを第1列島線に引き戻すハンマーとなるであろう。海戦では、わずかな差の優勢が大きな利益をもたらすため、攻勢が重視され、先制攻撃がインド太平洋戦争の勝敗を決する可能性がある。もし、米国がPLAの偵察・攻撃複合体を破壊しても、その後に消耗のために重火器を投入することができなければ意味がない。さらに、艦隊が小さくなればなるほど、その劣勢は倍増し、その後の交戦で艦隊が機能不全に陥る可能性が高まる。
(5) インド太平洋における戦争の初期段階では、中国の高性能ミサイルのほとんどが、米国の空母、港湾、航空基地を攻撃することになるだろう。海軍施設は特に重要である。グアムは飽和状態になり、日本の米軍基地も標的になるであろう。しかし、米空軍の戦略爆撃機、ステルス爆撃機も、ステルス性のないB-1やB-52も、必要であれば東太平洋からでも米国内の飛行場からでも運用できる十分な航続距離を持っている。U.S. Navyの空母航空団は、PLAの攻撃部隊を撃破し、第1列島線の戦いに必要な戦闘力を提供するであろう。この攻撃から生き残るには、新しい戦術と技術を組み合わせる必要があり、将来的には、通信の改善、電波封止と分散に再び重点が置かれ、中国は米軍を発見するために多くの資産を費やすこととなる。しかし、ある段階からは、ミサイルに対する物理的な防衛装置が極めて重要になる。
(6) 敵ミサイルへの迎撃能力に関して、海軍は3つの重複する問題に直面している。 技術的な観点からは、海軍のAEGIS戦闘システムは極超音速ミサイルにも、巡航ミサイルにも十分対応できるが、問題はその規模である。PLAは膨大な数のミサイルを同時に発射し、多方向から目標に到達させようとし、また、短時間に繰り返し攻撃を行う。 U.S. Navyのミサイル駆逐艦が搭載するミサイルの数は限られており、ミサイルを消耗したら、艦艇は港に戻るか、洋上で再補給する必要があるが、迎撃ミサイルの供給量も限られている。 防空システムの基幹であるSM2は、2017年まで生産ラインを止めていた。製造元のRaytheon Technologies Corporationが生産を再開したのは、国際的な一括購入があったためで、生産ラインは、海軍の戦時所要に比べれば、小規模なままである。U.S. Navyの迎撃ミサイルの中で最も先進的で多用途のSM6は、生産ラインを維持しているが、2013年にフル生産に到達してから2022年まで、Raytheon Technologies Corporationが納入したミサイルはわずか500発で、年平均50発程度である。 艦船の装備は任務によって異なるが、空母を守る防空重視のアーレイ・バーク級駆逐艦は、ミサイルの約半分、約100発を迎撃ミサイルとして搭載する。SM2の生産ラインを止めると、SM6に換装する必要があるが、現在の生産率では、U.S. Navyはせいぜい10隻のアーレイ・バーク級に1基の防空ミサイルを装備できるに過ぎない。
(7) 平時、または脅威が現実になる前に数年から数十年の事前警告がU.S. Navyに与えられる場合には、僅かな能力差や大きな戦闘による危険性を受け入れることができるが、現在の状況では、容認できない。SM6はU.S. Navyにとって、迎撃ミサイルとしても対艦ミサイルとしても機能するという複数の所要を満たしているものの、防衛産業が供給できる以上の需要がある。そのため、U.S. Navyの防空艦が中国のミサイル攻撃の第1波を鈍らせることができたとしても、U.S. Navyはミサイルを撃ち尽くした艦の再装填に苦労することになる。SM6の生産を拡大し、国内のSM2ラインを再開することは、どちらも合理的な措置である。長期的には、海軍のコンパクト・アジャイル・インターセプター(以下、CAIと言う)のような新構想が役に立つであろう。CAIは、飽和攻撃に対する防御に必要な数量の兵器を低コストで小型のミサイルとして提供することを意図している。解決策は、実績ある供給ラインを持つ実証済の兵器に目を向けることである。
(8) PAC-3ミサイル・セグメンテーション・エンハンスメント(MSE)は、PAC-3ミサイルの改良型であり、使用可能なミサイルのプールを増やすことができる。従来のPAC-3がウクライナで実証したと伝えられているように、PAC-3 MSEは、極超音速ミサイルに対応することができる。この兵器は、艦船用には軽い改良を加えるだけで済むであろう。それとは別に、すでに稼働している生産ラインは、高性能迎撃ミサイルの艦隊への配備を加速させる可能性がある。PAC-3の製造元であるLockheed Martinは、従来は年間500発程度のミサイルを製造してきた。しかし、それはウクライナ戦争が雪崩のように需要を喚起する前の話で、米国の同盟国、米軍、そしてウクライナ人が、より大量のミサイルを望んでいる今、生産ラインを倍増させるのが合理的である。
(9) Department of Defense内部では、兵器システムやその資金をめぐる官僚間の揉め事が絶えないが、米国の軍事的優位性を維持するためには、新兵器や改良兵器の設計と生産を大幅に加速させなければならないという点で一致している。 米国の兵器開発の難しさは、歴史が証明しており、U.S. Navyは実績のある兵器を必要としている。10億ドルをはるかに超える費用がかかり、10年にわたる開発過程に賭けることはできない。 現在利用可能な技術を使って、巡航ミサイルや極超音速ミサイルを迎撃するU.S. Navyの能力維持のため、いかに迅速に適応できるかが試される。インド太平洋の紛争において、U.S. Navyが大きな役割を果たす可能性がある。
記事参照:The Real Missile Gap

7月12日「インド・フィリピン関係の進展、双方の思惑―インド・フィリピン専門家論説」(Observer Research Foundation, July 12, 2023)

 7月12日付のインドのシンクタンクObserver Research Foundationは、同Foundation研究員Premesha SahaとフィリピンDe La Salle University講師Don McLain Gillの“India-Philippines relations: Robust ties for a secure and rules-based Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここで両名は最近のインドとフィリピンの関係進展における両国の思惑について、インド太平洋で積極的な役割を果たそうとするインドの意志と、非伝統的な提携国との安全保障関係の構築を求めるフィリピンの必要性とが相まって、この相互利益がフィリピンとインドの絆の強化を促しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋における法に基づく秩序の安定と安全に対するインド、フィリピン両国の不動の関与に基づいて、両国間の提携は成長し、深化し続けている。2016年の南シナ海仲裁裁定から7年目を迎える今日7月12日に、この地域における大いなる地政学的騒乱の時にあって、フィリピンの主権と主権的権利に対するインドの明快な支持に光を当てることは重要なことである。
(2) Manaloフィリピン外相は6月末の3日間のインド公式訪問で、「両国関係のさらなる強化のために、関係拡大を図る必要性」を強調した。インド側は、海洋安全保障の強化を図るフィリピンの努力に対する積極的な支援を強調した。6月29日にニューデリーで開催された、Joint Commission on Bilateral Cooperation (2国間協力のための合同委員会:JCBC)第5回会合の共同声明において、インド政府は初めて、海洋紛争の平和的解決と国際法、特UNCLOSと2016年南シナ海仲裁裁定の遵守を求めた。インドはこれまで、南シナ海の海洋紛争に対しては、航行と上空飛行の自由への支持など、一般的な原則論に留まっていた。したがって、インドがフィリピンに有利な2016年南シナ海仲裁裁定に対する全面的な支持を公式に表明したのは、これが初めてである。
(3) 以前と異なり、現在のインド政府は東南アジアにおける責任ある安全保障と開発の提携国として、より大きな、そしてより積極的な役割を果たそうとする不変の意志を示してきた。今日のインドの目的は、この地域における信頼できる安全保障上の提携国になることである。このことは、最近のフィリピンへのBrahMos対艦超音速巡航ミサイルの売却、ベトナムへの現役ミサイル・コルベットの譲渡、さらにシンガポールと共催の最初のインド・ASEAN海洋演習に明らかである。このことは、インドのアクト・イースト政策に弾みを付けるだけでなく、インド太平洋地域において台頭する行為者になるというインドの野心を押し進めるものである。2020年のガルワン渓谷での中印衝突事案以降、南シナ海紛争に対するインドの姿勢は、均衡の取れた取り組みから、中国の行動を批判的に見るより積極的、かつ声高なものになってきている。
(4) 前述のManaloフィリピン外相訪印時にインド政府が表明した対比支持は、2つの理由から極めて重要である。まず、インドからの支援は、インドが物理的な能力を強化し、グローバルサウスにおけるより顕著な役割を果たそうとしている時期に表明されたことである。中国が弱小の隣国の主権と主権的権利を犠牲にしてその自己中心的な世界的な野心を遂げようとする不動の意志を示していることから、今日のインドは、西インド洋を越えたこの地域の平和と安定に積極的に貢献するという誓約を誇示し続けている。
(5) 一方、Marcos Jr.大統領はフィリピンの領土保全および主権と主権的権利の保護と安全を政権の最優先課題としている。Marcos Jr.大統領がこうした姿勢を示した時には、中国は既に南シナ海を明確に武装化し、係争海域における地勢と勢力の均衡を変えてしまっている。Marcos Jr.大統領は、この現実の安全保障のジレンマを認識し、西フィリピン海(南シナ海のフィリピン管轄海域の呼称:訳者注)における中国の領有権主張の拡大を無効とした2016年仲裁裁定を断固擁護していくことを強調している。今日、中国はその埋め立て活動を促進するとともに、フィリピンなどの南シナ海領有権主張国の主権と主権的権利を犠牲にした威圧的なグレーゾーン活動を強化することによって、南シナ海全域に対する領有権主張を強固なものにしている。 それ故、フィリピン政府は中国政府との対話の道筋を維持しながらも、志を同じくする民主主義国家との安全保障関係を強化することで2016年仲裁裁定を補完することによって、西フィリピン海における権利主張を最優先しているのである。このような方針から、フィリピンは米国との同盟関係と、特に日本とオーストラリアとの西太平洋におけるハブ・アンド・スポーク網を強化してきた。
(6) 同時に、Marcos Jr.大統領は、非伝統的な提携国との安全保障関係の強化を望んできた。この文脈において、フィリピンとインド間の戦略的関係の急成長は重要な要素となっている。今日、インドはフィリピン政府ラの安全保障政策における大きな存在となっている。フィリピンのEEZに対する権利主張をインドが支持することは、自国の領土保全と主権的権利を守るために、自らの力を増強するとともに、インド太平洋地域において強化されつつある外交・防衛網を梃子にしようとするMarcos Jr.大統領の努力と合致するものである。フィリピン政府に対するインド政府の政策の時宜と支持がより重要性を高めているのは、この文脈においてである。
記事参照:India-Philippines relations: Robust ties for a secure and rules-based Indo-Pacific

7月13日「南シナ海における漁業関連犯罪対策としての海洋情報共有センターの活用について―シンガポール大学院生論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, July 13, 2023)

 7月13日付のCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency InitiativeはシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)の大学院生Eric Angの “COMBATING FISHERIES RELATED CRIME IN THE SOUTH CHINA SEA: LEVERAGING MARITIME INFORMATION SHARING CENTERS”と題する論説を掲載し、ここでEric Angは南シナ海では漁業関連犯罪が増加の一途をたどっており、沿岸各国は共通の脅威に対して協力する必要があり、情報共有センターを介して関係する船舶の情報を各国で共有することが対処には重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海は、沿岸国にとって主要な動物性タンパク質の源であるだけでなく、世界で最も生産性の高い漁場の1つでもある。2015年には世界の漁獲量の約12%を生産している。小型漁船から大型漁船団まで、世界の漁船の半分以上がこれらの海域を航行している。しかし、漁船による犯罪行為は増加の一途をたどっており、漁業関連犯罪(以下、FRCと言う)増加の影響を踏まえ、ブルネイ、中国、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムが協力して、国境を越えた違法行為に対処する必要がある。しかし、過去10年間の地政学的対立により、この海域は米中間の競争、中国と他の南シナ海沿岸国との間の海上領土紛争を中心とした複雑な問題に翻弄されてきた。今後10年間でこの海域の国際秩序は変化を告げるかもしれない。
(2) 現在、FRCに共通の定義はない。漁業関連部門で行われた犯罪を指しているが、それはあいまいなままである。しかし、「違法・無報告・無規制(IUU)漁業」と比較すると、FRCは範囲が広く、南シナ海沿岸国内でより認識されており、法執行機関によって起訴の可能性も高い。本項の目的上、FRCとは、IUU漁業を含む漁業における犯罪並びに漁船内での強制労働による違法な人間の搾取、麻薬やその他の違法品を密輸するための漁船の使用などの他の犯罪行為を含む。FRCは次のように細分される。
a.国の特定されたFRC活動。「単一国家問題」
単一の国の管轄権と立法プロセスが必要。たとえば、ある国の船舶が違法な機器を使用して同じ国の海域で漁業をしている。
b.国境を越えたFRC活動。「2国間/多国間問題」
解決のためには2国間/多国間の行動が必要。たとえば、ある国の海域で魚を捕まえて、別の国で漁獲物を違法に陸揚げ、売却したり、別の国の海域で密猟し、漁獲物を違法に自分の国に持ち帰って販売したりする。
c.外洋におけるFRC活動。公海で起こる「地域問題」
解決のためには、外洋におけるいかなる国の水域でも地域の行動が必要。たとえば、サメを船上で運び上げ、ヒレを切り落とし、死骸を捨てるフカヒレ漁は、複数の国や地域で違法であるが、単一の国では取り締まることはできない。
(3) 犯罪者を逮捕するための法執行機関の船艇、航空機、陸上施設が不足している。国境を越えたFRCを起訴するための司法手続きの制約、近隣諸国間の優先順位の衝突などのため、犯罪者の間では、海上で犯罪行為を行うことによって得られる報酬が大きく、逆に犯罪行為によって逮捕され、処罰される危険性は小さいと認識されている。
(4) FRCの国境を越えた性質を考えると、単一の国家ではFRCの課題に対処するための手段が不足しており、他国の協力なしには対処は不可能である。国際協力が必要であり、覚書と共通の枠組みを通じて共通の責任を確立し、国境を越えた犯罪を起訴するための共通の手続きと手順を開発することによってのみ対処することができる。しかし、現在の不信感を考えると、信頼を築き、善意を生み出すためにはじめの一歩を踏み出す必要がある。それを達成する1つの手段は、ブルネイのNational Maritime Coordination Centre、Indonesian Maritime Information Centre、フィリピンのNational Coast Watch Centreなどの国毎のセンターおよびシンガポールにあるInformation Fusion Centreなどの地域センターを含む情報共有センターを介して、秘密ではない運用情報を共有することである。
(5) Information Fusion Centreは、データを収集、照合、共有するための重要な結節である。海洋情報の共有により、特に情報が時機を失せず、実用的である場合、センターは理解を生み出し、信頼を育むことができ、関係機関は海上での執行措置を合図することができる。これにより、各国の省庁間の提携が促進され、ウィンウィンの状況が生まれる。海洋情報の共有により、南シナ海沿岸国は国境を越えたFRCの共通の課題に共同で対処することができる。これらの情報共有センターを活用するには、次の 3つの推奨事項がある。
a.関心のある船舶に関する共通の状況図を維持する。
b.すべてのFRC事案の一元化されたリポジトリを維持する。
c.土地ベースで組織体との関係を構築し信頼を育む。
ほとんどの海事問題は陸上から発生するため、陸上の組織体とのよい関係を構築する必要がある。
(6) 結論は、次のとおりである。過去数年間のFRCの増加傾向により、南シナ海沿岸各国は共通の脅威に対して協力する必要がある。我々は、公海条約の可決により、共通の海洋遺産を保護するための第一歩を達成した。障壁のない意思疎通、地域の海上安全保障の強化、南シナ海における地政学的な不確実性の中での協力の必要性を強調することにより、我々は人間社会としてより強く成長するための措置を継続していくべきである。
記事参照:COMBATING FISHERIES RELATED CRIME IN THE SOUTH CHINA SEA: LEVERAGING MARITIME INFORMATION SHARING CENTERS

7月17日「『集団的戦略的曖昧性』戦略の登場―英インド太平洋問題専門家論説」(The Interpreter, July 17, 2023)

 7月17日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、防衛問題専門家Rupert Schulenburgの“The emergence of “collective strategic ambiguity” on Taiwan”と題する論説を掲載し、そこでRupert Schulenburgはここ最近米国が台湾防衛のために同盟国の支援を求めるようになっており、それが「集団的戦略的曖昧性」とも呼べるものであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1979年に台湾と断交してから、米国の台湾政策は「戦略的曖昧性」と表現された。同年に成立した台湾関係法には、米国は「平和的なもの以外の方法によって台湾の将来を決定するようないかなる試みも・・・深刻な懸念とみなす」とあるが、台湾防衛に関して明確にしていない。米国はそれ以後、米国の台湾政策は台湾関係法に基づき、台湾海峡周辺の平和と安定は米国の利益だと表明してきた。
(2) Biden政権において、「集団的戦略的曖昧性」と表現しうる米国の戦略が浮上しつつある。中国の軍事力の急速な近代化と台湾への圧力の増加は、台湾海峡周辺の抑止力が失われていることを示しているように思われた。そこで米国は2021年以降、さまざまな国と共同声明を発し、同盟国全体で台湾を防衛する可能性があると中国に意図を送ってきた。
(3) こうした共同声明は、2国間首脳会談や2+2閣僚級会談、G7などさまざまな会談の成果として発せられてきた。重要なことに、そのいくつかはこの数十年で初めて台湾に言及している。たとえば、2021年4月の日米首脳会談の共同声明は、1969年以来初めて台湾について触れるものであったし、同年6月のG7に関しては歴史上初めて台湾に言及した。最近では、2023年5月の米比共同声明が台湾の平和と安定について述べている。
(4) こうした宣言に伴い、米国の同盟国は軍備増強を模索してきた。そうした動きに対する米国の協力は重要である。たとえばAUKUSは、米国の原子力推進技術を共有し、オーストラリアが原子力潜水艦を調達できるようにするものである。それによってオーストラリアは台湾周辺海域での活動が可能になる。同じように日本も2023年、反撃能力の獲得を表明したが、それには米国からの400発のトマホーク巡航ミサイルの購入が含まれる。それによって日本は中国のミサイル発射装置や指揮統制施設を攻撃できるようになるだろう。
(5) しかし、こうした共同声明や軍備増強にもかかわらず、同盟国が台湾防衛のためにどのような支援を提供するか、本当に支援するかどうかは不明瞭である。ヨーロッパの同盟国が有意な軍事的貢献をできるか、してくれるかどうかについて、専門家は懐疑的である。RAND Corporationの分析によれば、日本とオーストラリアだけが、台湾有事において米国を支援するだろうと指摘されている。結局のところ、同盟国による支援はウクライナ戦争に関する対ロシア制裁に似たようなものになるかもしれない。
(6) Biden大統領は、米国による台湾防衛について明言し、かつ同盟国による集団的な防衛努力がありうることについて中国に合図を送り続けてきた。しかしそれによって中国が抑止されるか、本当に同盟国が米国を支援するのか、まだはっきりしていない。
記事参照:The emergence of “collective strategic ambiguity” on Taiwan

7月17日「過去最多の艦艇を台湾に接近させた中国―香港紙報道」(South China Morning Post, July 17, 2023)

 7月17日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Record 16 PLA warships sailed close to Taiwan in single day, island’s defence ministry says”と題する記事を掲載し、2023年7月に中国は2022年8月のNancy Pelosiの台湾訪問に中国政府が反発し、台湾に向けて派遣した艦艇数を越える艦艇を派遣し、過去最高となっており、このような軍事的圧力の強化は、台湾が1月に総統選挙を控えていることにも起因しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 7月15日午前6時までの24時間に、16隻の艦艇が台湾に接近したと台湾の国防部は発表したが、近隣での大規模な訓練の発表はなかった。台湾を分離した省と見なしている中国政府が、2022年8月にPelosiが訪問した際に台湾周辺で数日間行われた前例のない実弾射撃訓練とともに台湾へ向けて送られた14隻という艦艇数をこれは上回るものであった。2023年4月には、台湾の蔡英文総統がカリフォルニア州でPelosiの後任であるKevin McCarthyと会談した後、中国政府は1日のうちに12隻もの艦艇を派遣している。
(2) 中国政府はここ数年、民進党政権下で関係が悪化するにつれ、ほぼ毎日戦闘機が防空識別圏に侵入し、艦艇が台湾近傍に派遣している。これらの出撃は、Pelosiの訪問後にさらに激化し、2019年まで数十年にわたり双方が通常遵守してきた暗黙の境界線である台湾海峡の中間線を中国軍機がより積極的に越えて飛行するようになった。中国政府はもはやこの中間線を認めていない。軍事的圧力が高まっているのは、蔡英文総統が2期目の任期満了を迎える1月に台湾が総統選挙を控えていることもある。最新の世論調査では、民進党の頼清徳候補が最有力候補であり、北京に友好的な国民党の侯友宜候補は、比較的新しい台湾民衆党の柯文哲候補に次いで3位となっている。
(3) 台湾国防部によれば、7月の第3週にも台湾周辺での中国軍の活動が増加しており、毎日数十機の航空機が派遣されている。これらの航空機および艦艇の通過は、台湾周辺の訓練を常態化する中国軍の計画を反映していると元中国軍の教官である宋忠平は述べている。宋忠平は、この演習強化の原因の1つは、7月12日のNATOの共同声明の中で中国が威圧的であるとし、防衛同盟の利益、安全保障および価値観に対する挑戦との表現を含む、米国主導の西側諸国による最近の行動かもしれないと述べている。Janet Yelle米財務長官が最近訪中したことで、米中経済対話の復活への期待が高まっているにもかかわらず、米国の最新の台湾への武器売却と日米韓同盟の緊密化が米中の緊張の原因であると宋忠平は挙げている。
(4) シンガポールのS. Rajaratnam School of International StudiesのCollin Koh上席研究員は、中国軍の活動が急増しているのは、恐らく、7月14日に米国下院で通過した、ワシントンの2024年国防権限法に関連していると述べている。それには、台湾との軍事協力を求める条項がある。飛行機ではなく、より多くの艦艇を台湾周辺に投入することで、中国軍は台湾海軍の資源を疲弊させることに集中することができるとCollin Kohは語っている。「中国軍は・・・中華民国空軍の能力を徐々に摩滅させる方法として、頻繁に間近に迫る飛行を利用してきた」。近年、台湾空軍機の墜落事故が相次ぎ、台湾空軍がどれ程疲弊しているかが明らかになった。さらに、中国軍の活動のため、国防予算のうち諸経費と維持費に多くの予算を割かなければならないとCollin Kohは付け加えている。「もしあなたが中国軍の計画立案者なら、台湾軍に圧力を与える次の正面は海軍側であることは、かなり論理的なことではないだろうか」。
記事参照:Record 16 PLA warships sailed close to Taiwan in single day, island’s defence ministry says

7月17日「中国の造船能力は米海軍への脅威となるのか-米専門家論説」(19FortyFive, July 17, 2023)

 7月17日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、U.S. Naval War College教授でUniversity of GeorgiaのSchool of Public and International Affairs非常勤研究員James Holmesの” China’s Shipbuilding Capability: A Threat to the U.S. Navy?”と題する論説を掲載し、ここでJames Holmesは米国のシーパワーの中心は腐食にさらされており、政府、社会、軍隊が造船に新たに投資するという政治的決断を下して、その回復に取りかかるべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 海軍の総トン数が海戦における決定的な要因であるというのは誤りである。最も重量のある海軍が勝つというこの死語は、造船により多くの資金と資源を割くことを嫌う人々の間で特別に好まれているが、これはごまかしである。中国人民解放軍(以下、PLAと言う)海軍が艦船数で米海軍を上回り、その差は今後数年でさらに広がるだろう。隻数とトン数は、最終的には中国の味方となる可能性がある。最近の『The War Zone』誌上で米中の造船能力の格差に焦点を当てた記事では、中国がトン数換算で米国の200倍以上の船舶を建造できると記している。つまり、中国は軍艦だけでなく商船でも米国を凌駕する能力を蓄えており、その差は歴然としている。現在の流れから推測すると、PLA海軍は2030年代半ばまでに400隻をはるかに超える艦船を配備する一方、米海軍は300隻台前半で足踏みする。さらに、中国は多大な造船能力を有しているため、戦闘で損傷した艦船を修理して戦闘力を回復させることだけでなく、現艦隊を維持することに苦労している米国よりもはるかにそれが容易となる。
(2) 中国の商船の大規模な建造能力も見逃せない。Alfred Thayer Mahanが描くように、シーパワーは自国の生産と海外の港を結ぶ鎖(チェーン)である。海軍と商船はともに、シーパワー・チェーンの中心的かつ不可欠な環を構成している。それを断ち切れば、全体がばらばらになってしまう。商船は平時には貨物を運び、外国貿易を行い、国家を豊かにし、海軍を維持する費用を援助する。戦時に商船は、貿易を維持すると同時に、艦隊の補助船として活動し、必要な場所に兵員や補給物資を輸送する。中国のシーパワー・チェーンの中心的なリンクは頑丈に見える。対照的に、米国のシーパワーの中心は腐食にさらされており、政府、社会、軍隊が造船に新たに投資するという意識的な政治的選択をするまで、この腐食は止まらないだろう。
(3) 総トン数は海軍力の重要な尺度である。しかし、それは競争相手の指導者に、多くの船体を建造、維持、修理して、その所要に合った種類と大きさの選択肢を与えるからであり、大きければ良いというわけではない。トン数は、艦隊の戦闘力を示すというよりも、海洋産業の潜在力を示すものである。船舶の戦闘力を測るには、その技術的特性を詳細に検討する必要がある。総トン数は重要な変数の1つであり、より大きな船体はより多くの弾薬、燃料、貯蔵品を運ぶことができる。容積が大きければ、より多くの火力を発揮させながら、長い間海上で待機することができる。軍艦の戦闘能力を判断する基準は他にもある。戦術の成否を決定する重要な要素として、捜索監視、指揮統制、兵器の射程距離が挙げられる。大型艦に比べれば、小型艦艇の方がより優れたセンサー、より長い射程の兵器、あるいはセンサーと兵器を管制する優れた能力を備えているかもしれない。あるいは、大型艦の装備は任務に適さないかもしれない。
(4) トン数が重要であることは事実であるが、全てではない。その意味で米国は以下のような施策をとるべきである。
a.米国は国内の造船業を活性化させ、シーパワー・チェーンの中心的な環を再構築する必要がある。そのためには、より多くの税金が必要になる。米国は絶対額で見れば多額の防衛費を費やしているが、相対的な支出はそれほど多くない。国内総生産(GDP)に占める割合は、1982年の半分以下である。それ以上の支出を断念することは、海上で中国に対抗しないという戦略的決断に等しい。
b. 米国は外国と協力すべきである。中国は世界最大の造船大国かもしれないが、それに次ぐ造船大国は米国の同盟国である韓国と日本である。これは我々が利用すべき資源である。米政府は、同盟国や提携国がF-35ステルス戦闘機のような米国製の兵器システムを購入することを期待している。そして日本の造船所で米海軍艦船を改造する最近の動きは、理にかなっている。
c.ワシントンで最も困難な問題の1つは、大規模な紛争の際に中国領土への攻撃を行うかどうかである。ホワイトハウスの答えが「イエス」なら、中国の造船施設は標的の上位に位置付けられる。その基幹施設を能力が低下すれば、PLA海軍の戦闘被害を修復する能力を低下させ、米中間の海軍力と回復力の均衡を正すことにつながる。
(5)もし、両陣営が今ある艦隊で戦争に臨み、どちらも致命的でない程度の損失に留めることができないのであれば、それは互いに痛みを伴う戦いとなり、互角の戦いとも言える。米国は、そのシーパワーを回復させる政治的決断を下し、その回復に取りかかるべきである。
記事参照:China’s Shipbuilding Capability: A Threat to the U.S. Navy?

7月18日「英SSNのオーストラリアへの前方展開を考える―オーストラリア専門家論説」(The Strategist, July 18, 2023)

 7月18日付のオーストラリアのシンクタンクAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、同Instituteの上席研究員Euan Grahamの“Thinking through Britain’s forward-based submarine commitment to AUKUS”と題する論説を掲載し、Euan GrahamはAUKUSに基づき、英国は輪番制前方展開潜水艦部隊(SRF-West)の一環としてSSNを西オーストラリアに展開することになるが、そのためには多くの解決すべき問題が存在する。中でも、オーストラリアのSSN-AUKUSが中国SSBNと遭遇する可能性があり、その場合、独立した核抑止力を持つ英国は中国との抑止関係の発展にどのように対応するかについて独自の計算を行う必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) AUKUSの第1の柱は、英国にSSN AUKUSの設計、共同建造という重要な役割を付与している。しかし、2027年頃から輪番制前方展開潜水艦部隊の一環としてSSNを西オーストラリアに展開するという英国の誓約はあまり注目されていない。全体的な抑止態勢を含め、英国にとって潜在的に重要な意味を持っている。
(2) Royal Navyが保有する7隻のSSNの内の1隻を西オーストラリアに派出することは英政府にとって小さな関与ではない。西オーストラリアでの輪番制前方展開潜水艦部隊(以下、SRF-Westと言う)への英アスチュート級SSNの参加は、AUKUS提携国との統合作戦構想の検証等得るもののあるが、必然的に英国を米国の冒険的事業であるSRF-Westの劣位の提携者の地位に置くことになる。たった1隻のアスチュート級SSNをオーストラリアで維持するためには、現地における独自の保守整備機能と英国からのサプライチェーンが必要になることを考えると、相当程度の費用がかかる可能性がある。
(3) SRF-Westへの関与は、遠征配備を含むインド太平洋における英国の他の防衛構想とは概念的に異なる。SSN AUKUSの長期的な準備において、オーストラリアに外国の潜水艦を配備する目的は、地域における十分な勢力均衡を維持し、軍事力の重要な領域に集中することにより、オーストラリアの「能力の溝」の出現することを未然に防ぎ、それによって中国が南シナ海、台湾、またはその他の海洋における不測の事態で武力に訴えることを思い止まらせることである。SRF-Westは関与ではなく、抑止に係わるものであり、英国はその取り組みに不可欠な参加者となるだろう。
(4) 英SSNは、U.S. Navyの任務部隊に統合されるのか、英政府は英SSNがどこで、誰と何をできるかについて注意する立場にあるのかなど多くのことがSRF-West、さらにはオーストラリアの将来のSSNのために策定される運用の概念に大きく依存している。英国がインド太平洋へ注力するための機能として、英国主導の水陸両用戦部隊および空母任務群は、より定期的にこの地域において行動する予定である。SRF-Westに派出される英SSNが、英国のインド太平洋への注力の一部と考えるのは妥当である。米豪政府が反対する可能性は低い。
(5) しかし、抑止が失敗し、台湾や南シナ海で紛争が発生し、SRF-Westの米SSNが対応を命じられた場合、英国のSSNも支援に関与するのだろうか。この問題は、英国の将来の政治的指導者にとって主権に関わる決定事項ではあるが、米国とオーストラリアのSSNとともに同じ戦域に前方展開しているという事実は、英国からのオーストラリアへ展開することを「ノー」と言うことをより困難になる可能性がある。前方展開、高価値の艦艇を前方展開する場合には、異なる力学が作用する。
(6) 英国と中国がどちらも核保有国であるという事実から、さらなる潜在的な影響が考えられる。2021年の英国防文書“Defence in a competitive age”は、中国の軍事近代化と海軍の増強に関する多くの防衛上の懸念を強調しているが、その核態勢や能力については何も述べていない。現在、英国の核に関する考え方に、中国を抑止するということは概念的なものであっても見出すことはできない。この問題は、一般に公開するには微妙過ぎるのか、それほど深刻ではないと考えられている。それでも現在、英国における脅威評価において中国は定常的に最上位の情報として扱われている。中国の脅威評価がMinistry of Defenceに引き継がれていないのは、スパイ活動や経済的強制よりも距離の問題が軍事的脅威の計算に影響しているのであろう。しかし、中国は着実に核兵器を拡大しており、重要なことは英国自身もそうする準備ができていることである。同時に、英国はAUKUSを通じて米国とオーストラリアに軍事的に接近しつつある。
(7) AUKUSは通常弾頭装備の兵器を搭載することになるが、SSN-AUKUSが偶発的または意図的に中国のSSBNと遭遇する可能性がある場合、通常兵器で核戦略を抑止することは単純なことではない。米国の核の傘に依存するオーストラリアとは異なり、英国は独立した核抑止力を持っているため、中国との抑止関係の発展にどのように対応するかについて独自の計算を行う必要がある。英国がロシアと中国を同時に抑止する能力を持っているかどうかは明らかではない。核抑止力が中国も対象とすべきであると決定された場合、英国はさまざまな理由からSSBNによる戦略哨戒をインド洋または太平洋に拡大することを検討する必要があるかもしれない。英国は、保有核弾頭数を225発から新たな上限の260発に徐々に拡大している。これは、通常弾頭装着の兵器を搭載したSSN隻をオーストラリアへ配備したことから生じたやや憂慮すべき推測と受け取られるかもしれない。しかし、オーストラリアへのSSNの配備に先立ち、英政府は英国の核のドクトリント核の態勢の調整の可能性と英中間の核抑止関係の全領域について比較検討することが賢明であろう。
記事参照:Thinking through Britain’s forward-based submarine commitment to AUKUS

7月19日「パプアニューギニア、米国に15年間の基地使用を認める―日経済紙報道」(NIKKEI Asia, July 19, 2023)

 7月19日付のNIKKEI Asia電子版は、“U.S. military to use Papua New Guinea naval base for 15 years”と題する記事を掲載し、米国防長官のパプアニューギニア訪問計画について言及し、米国とパプアニューギニアの安全保障協力関係が進展していることとその背景について、要旨以下のように報じている。
(1) 2023年5月、米国とパプアニューギニア(以下、PNGと言う)は防衛協定を締結し、米国はPNGの海軍基地や飛行場を含む6ヵ所の利用権を得ることになった。この問題についての議論をさらに先に進めるために、Lloyd Austin国防長官が7月末にPNGを訪問する予定であることを米Department of Defenseが発表した。
(2) NIKKEI Asiaが入手した防衛協定の全文によると、協定の目的は両国共通の安全保障上の課題に対処することであり、15年間有効で、お互いの反対がなければ延長される。米軍はPNG本島の北に位置するマヌス島のロンブラム海軍基地やモモート飛行場を利用することができるようになる。マヌス島は戦略的に重要な場所に位置しており、太平洋では激戦が展開された。長年米国はこの基地利用を模索してきた。
(3) 文書によると、そうした基地は自然災害対応、人道支援、そして「有事の作戦」に利用される。台湾をめぐって中国と戦争になれば、米軍はそこを作戦基地として利用する可能性がある。また、その6ヵ所では、航空機や船舶への給油のみならず、利用可能となる基地において物資や装備が事前集積される可能性も検討されている、
(4) この防衛協定がPNGの主権侵害になるという反対意見が同国内でもあった。James Marape首相は批准に自信を見せている。米Department of Defenseも、今般の防衛協定は米軍のPNGへの恒久的な展開を意味しないと発表しているおり、続けて、今回の合意は両国の安全保障関係を強固にし、地域の安全と安定を強化すると述べた。
(5) 他方、中国はPNGの近くに位置するソロモン諸島との関係強化を進めている。2022年4月に安全保障協定を結んだが、同国のManasseh Sogavare首相は今年7月に北京で習近平と会談し、北京での大使館設置や警察強力に関する合意を結んだ。米国はこうした動きに対し、中国が同国を紛争時の作戦基地として利用することに懸念を示している。
記事参照:U.S. military to use Papua New Guinea naval base for 15 years

7月19日「情報空間を調整するFIWCPACの役割―米ニュースサイト報道」(Defense Scoop, July 19, 2023)

 7月19日付の米サイバー安全保障関連ウエブサイトDefense Scoopは、“Navy’s Pacific information warfare command coordinating vast capability across region”と題する記事を掲載し、U.S. NavyのFleet Information Warfare Command Pacific(FIWCPAC)は各軍種や国際的な提携国にまたがる、この地域の情報空間の効果を調整するのに役立っているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 当局者によると、U.S. Navyが最近創設したFleet Information Warfare Command Pacific (以下、FIWCPACと言う)は、特に様々な戦術的な組織の能力を調整し、統合することに関して、この地域で非常に貴重な存在であることを証明している。2022年にFIWCPACが立ち上げられた理由の1つは、軍種間や同盟国に至るまで、広大な情報空間にわたる効果の調整を支援することであった。戦術段階を重視した情報戦の組織はあるが、それらは作戦段階、そしてU.S. Department of Defense傘下の他の軍種を横断して能力を統合する権限と責任を欠いている。
(2) 数年前、U.S. Navyは空母打撃群内に大佐級の情報戦担当を常設した。海軍は現在、潜水艦部隊でも同様の取り組みを計画している*。「エシュロンIII**の司令部の1つとして、FIWCPACは、U.S. Space Command、U.S. Cyber Command、U.S. Indo-Pacific Commandを含む統合軍全体の能力に関わる情報に同時性を持たせ、調整、統合する能力を海軍に提供し、競争の連続体全体にわたって統合軍の迅速性、行動力、機動力に関する能力を与え、・・・FIWCPACは戦術指揮官に代わって調整し、戦術行動および作戦行動を支援するこれらの幅広い能力を提供することができる」とU.S. Pacific Fleet報道官は述べている。統合軍全体において、この種の情報戦能力が重要性を増すにつれて、より高いレベルの調整組織が必要であることが明らかになりつつある。
(3) その結果、戦域における統合を支援するため、より多くの組織が創設されている。それには、Marine Corps Information CommandやU.S. Armyの Theater Information Advantage Detachment(以下、TIADと言う)が含まれる。統合に関して、U.S. Pacific Fleet報道官は、他の軍種に跨がるいくつかの「草の根」的の取り組みがあったと述べており、これには、TIADやMarine Expeditionary Force Information Groupsなどが含まれる。
(4) 最近の“Pacific Sentry”演習の間に、FIWCPACはU.S. Armyの 8th Psychological Operations Groupとの関係を強化し、影響力のある取り組みを強化するために彼らから計画的な補強を受けた。U.S. Navy最上級の情報戦訓練組織Naval Information Warfighting Development Centerが追加の計画的な能力のための人員をFIWCPACに直接的な支援として提供している。Naval Information Warfighting Development CenterとFIWCPACは、U.S. Indo-Pacific Commandを支援するための情報作戦の戦術、技術、手順及び運用の概念を生み出している。FIWCPACはまた、2022年12月に情報戦環境における作戦に焦点を当てた今までに類のない会議を共同主催した。この会議は、戦闘部隊指揮官の情報戦能力に同時性を持たせ、調整、統合することを向上させるために、U.S. Indo-Pacific Command全体の統合部隊の提携相手を迎え入れている。
(5) FIWPACはまた、この地域の外国の提携相手と様々な側面で連携しており、それには悪意のある活動を明らかにすることを含んでいる。その他の取り組みとして、収集・分析・配布の情報サイクルと情報の時間の経過に伴う変化を検討する情報効果サイクル(information effects cycle)に関する共通の取り組みを議論するため、日本とオーストラリアの提携相手との指導者会議が含まれている。これらの取り組みは、U.S. Indo-Pacific Commandによる情報能力を同盟国と統合する能力を向上させているU.S. Pacific Fleet報道官は述べている。
(6) FIWPACの成功にもかかわらず、海軍全体にわたる類似の組織を創設するための計画は現在存在しない。U.S. Naval Information Forces司令官Kelly Aeschbach中将は、Defense Scoopに対する声明で、「新しいFIWCを設立する決定は艦隊司令官の段階でなされるだろう」と述べており、「情報戦は海軍および統合作戦にとって不可欠であり、艦隊司令官段階での情報戦能力に対する需要は増加している。FIWCPACの2022年の取り組みは、情報空間における運用および作戦行動に強い影響を与えており、U.S. Navyは情報戦を艦隊の作戦にどのように統合し、艦隊司令官にどのように提供するのが最善であるかを知らせるために、FIWCPACから学んだ教訓を蓄積している」と付け加えている。
記事参照:Navy’s Pacific information warfare command coordinating vast capability across region
*2月23日「米海軍、情報戦職域の将校を潜水艦、水陸両用即応部隊に配置―米国防関連誌報道」(Breaking Defense, February 23, 2022)
https://www.spf.org/oceans/analysis_ja01/_20220221.html
を参照されたい。
**エシュロン(あるいはエシェロン:Echelon)は、U.S. Navyにおける指揮階層を示す用語であり、エシュロンⅠは直接海軍作戦部長に報告することのできる階層であり、エシュロンⅢはエシュロンⅡ、エシュロンⅠと階層を経て報告を上げていくことになる。

7月20日「南シナ海行動規範の進展に代わる動き―シンガポール専門家論説」(FULCRUM, July 20, 2023)

 シンガポールのシンクタンクThe ISEAS -Yusof Ishak Instituteが発行するウエブサイトFULCRUMは、同Institute上席研究員Ian Storeyの” The Code of Conduct for the South China Sea: Movement in lieu of Progress”と題する論説を掲載し、ここでIan Storeyは南シナ海行動規範が最終合意に達するまで、少なくともあと数年は協議が長引きそうだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国の調査船、海警船、海上民兵は、ベトナム、マレーシア、フィリピン、インドネシアの排他的経済水域に繰り返し侵入している。7月初め、中国はフィリピンが第2トーマス礁の部隊に補給するのを再び阻止しようとした。同じ週、ベトナムは中国の九段線が描かれていると考え、映画とテレビドラマの放送を禁止した。今年、U.S. Navyは西沙諸島と南沙諸島で航行の自由作戦を引続き実施した。
(2) 2023年1月にASEANの議長国に就任したインドネシアは、南シナ海の行動規範(以下、COCと言う)に関するASEAN加盟10ヵ国と中国との協議を加速させることを約束し、緊張を和らげようとした。インドネシア政府は一定の成功を収めたようである。7月13日、ASEANと中国は交渉文書の第2読会と今後の草案に関する協議を加速させるための指針を完成させたと発表した。
(3) 指針および第2読会の内容はともに公表はされていない。しかし、情報筋によれば、この2つには見かけ以上の意味があるようだ。指針は基本的に、COCの作成を任務とするASEAN・中国合同作業部会の会合頻度を年4回以上に増やすという合意である。この指針には、協議を完了させる期限を3年とすることも盛り込まれているが、正確な予定表は明記されていない。第2読会そのものは、2022年に最終決定された前文と11の締約国がすでに合意していた基本原則すなわちUNCLOSを含む国際法に則ったものとすることなどで構成されている。2019年7月の第1読会と第2読会の主な違いは、いくつかの段落について暫定合意に達したことである。
(4) この合意に至るまでに、交渉に当たった担当者たちは次のような難航が予想される争点を回避してきた。
a.協定の地理的範囲の問題:中国が南シナ海における領有権および管轄権の主張を明確にするために使用している九段線はUNCLOSに明記された他国の領海権を侵害するもので、東南アジアの領有権主張国はいずれも九段線の法的根拠を認めていない。2016年、国連が支援する仲裁裁判所は、九段線はUNCLOSと両立しないと裁定した。この裁定から7年目の現在にあっても、中国はその裁定には従わないと繰り返している。中国が協定の地理的範囲に関する議論に九段線を含めると主張するならば、東南アジアの領有権主張国は反発を続けるだろう。中国が九段線を協議に含めるという主張を取り下げることはなさそうである。
b.禁止行為のCOCへのリスト化:土地の埋め立て、占領した環礁の軍事化、他の領有権主張国に属する船舶への嫌がらせなど、禁止行為の一覧をCOCに含めるべきかどうかについて、一部の東南アジア諸国、特にベトナムは、非常に熱心であるが、中国はそうではない。もしCOCが、拘束力のない2002年の「ASEANと中国の間の南シナ海に関する行動宣言」(以下、DOCと言う)に付加価値を与えるものであるならば、禁止行為の一覧を含める必要がある。
c.行動規範の法的地位:法的拘束力を持つのであれば、請求権者間の紛争を審判し、違反者に罰則を科す機構が含まれていなければならない。ASEANには、このような取り組みを対立的すぎると考える国もあるかもしれない。COCに法的効力がなければ、違反者は平気で行動でき、それはCOCの要点であるDOCからの強化にはならない。
d. 中国の要求:第1読会に盛り込まれた内容には、沿岸国は係争海域での外国エネルギー企業との協力を停止するという中国の要求がある。中国は、他国に対して中国企業との共同開発協定締結を強要するために、この条項を挿入したようだ。東南アジアの領有権主張国は、これをUNCLOSに基づく主権的権利の甚だしい侵害と見なしている。しかし、中国がこの条項を取り下げることは考えにくい。なぜなら、そうすることは自らの管轄権の主張を根本的に損なうことになる。
(5) 第2読会はCOCの進捗を大きく動かしたようには見えない。いくつかの段落については合意に達したが、最も大きな争点はまだ解決されていない。そのため、最終合意に達するまで、少なくともあと数年は協議が長引きそうである。
記事参照:The Code of Conduct for the South China Sea: Movement in lieu of Progress

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書

(1)    NATO’s Vilnius Summit: Hints of a New Cold War
https://www.geopoliticalmonitor.com/natos-vilnius-summit-hints-of-a-new-cold-war/
BACKGROUNDERS, Geopolitical Monitor, July 14, 2023
By Dr. Hasim Turker (retired with the rank of commander, the Turkish Navy), the academic coordinator and senior researcher at Bosphorus Center for Asian Studies, which is an independent think-tank located in Ankara
2023年7月14日、元トルコ海軍中佐でトルコのシンクタンクBosphorus Center for Asian Studiesの上席研究員Hasim Turkerは、カナダ情報誌 Geopolitical Monitorのウエブサイトに” NATO’s Vilnius Summit: Hints of a New Cold War “と題する論説を寄稿した。その中でHasim Turkerは、2023年7月11日から12日にかけてリトアニア共和国のビリニュスで開催されたNATO首脳会合終了後に発表された共同声明は、典型的な首脳宣言とは一線を画し、世界秩序におけるNATOの将来の方向性を示す戦略的道程表としての役割を果たしているとした上で、これは新冷戦の到来を告げるものであり、NATOが戦略的対立相手としてロシアと中国を位置づけるというグローバル・パワー・ダイナミックスの変化を反映したものだと指摘している。そしてHasim Turkerは、この共同声明は従来の安全保障の概念を拡大し、海洋、宇宙、技術、サイバースペースなどの国際公共財を取り込んだもので、新冷戦時代におけるNATOの戦略的取り組みの道程表を提供し、世界の安全保障における重要な行為者としてのNATOの役割と、従来の境界を越えて影響力を拡大していくというNATOの意思を再確認するものだと評している。

(2) Taiwan Situation Going From Bad To Worse As China Preps For War
https://creativedestructionmedia.com/analysis/2023/07/17/taiwan-situation-going-from-bad-to-worse-as-china-preps-for-war/
Creative Destruction Media.com, July 17, 2023
Decoding Politics, an expert with 25 years experience explaining politics around the world
2023年7月17日、25年にわたり世界の政治を解説してきた専門家ペンネームDecoding Politicsは、Cambridge University Pressが発行する情報サイトCreative Destruction Mediaに"Taiwan Situation Going From Bad To Worse As China Preps For War"と題する論説を寄稿した。その中でDecoding Politicsは、台湾問題に関しては、2022年8月と2023年初め、米政府高官が台湾の指導者と会談したことで大きな話題となったものの、それ以後、台湾関連の大きなニュースは報道されなくなったが、実際には状況は驚くべき速さで悪化しているとした上で、米国は1979年以来の公式政策である「一つの中国」をゴミ箱に投げ捨て、最悪の方法で中国を挑発していると指摘している。そしてDecoding Politicsは、一方の中国は自国の利益を確保し、面目を保つために行動せざるを得ないだろうし、この状態を放置することはあり得ないとした上で、経済面への影響として、台湾の封鎖と侵攻が成功すれば、市場は混乱し、特に世界の半導体・エレクトロニクス産業は大混乱に陥り、多くの台湾資産は中国によって国有化されるだろうが、特に2023年10月と2024年4月から5月にかけては、ニュースを注意深く見守り、最悪の事態に備えて身を固めるべきだろうと警鐘を鳴らしている。

(3) Nuclear Forces and Missile Defense in the 2024 HASC NDAA: On the Right Path—But More Needed
https://www.heritage.org/sites/default/files/2023-07/IB5324.pdf
The Heritage Foundation, July 18, 2023
By Robert Peters, a Research Fellow for Nuclear Deterrence and Missile Defense in Heritage’s Center for National Defense
7月18日、米シンクタンクThe Heritage Foundationの研究員Robert Petersは、同シンクタンクのサイトに、“Nuclear Forces and Missile Defense in the 2024 HASC NDAA: On the Right Path—But More Needed”と題する論説を寄稿した。その中で、①ロシアのウクライナ侵攻が500日を超える中、ロシア政府による核の脅威に対する懸念は高まっており、Putin大統領は7月初めまでにベラルーシに核兵器を配備すると発表した。②2022年のU.S. Department of Defenseの報告によれば、中国の核兵器の備蓄量は次の10年の半ばまでに米国と数的に同等になる。③U.S. House Committee on Armed Servicesで可決され、今後下院本会議で審議されなければならない2024会計年度国防権限法(以下、NDAAと言う)は、B83核爆弾の退役の一時停止、核の指揮・統制・通信(NC3)の強化、センチネル・ミサイル・プログラムの推進、核検知と近代化の取り組み、潜水艦発射核弾頭装備巡航ミサイル(SLCM-N)の開発、ミサイル防衛の強化といった多くの構想と要件を支持している。④しかし、NDAAに追加すべきこととして、核ミサイルのMIRVから単弾頭への移行、核対艦ミサイルの有用性の検討、センチネルICBMの道路移動の可能性の検討、グアムのミサイル防衛の強化、次世代迎撃ミサイルの開発と実戦配備の再活性化といったものが挙げられる。⑤2024年度NDAAは、核およびミサイル防衛計画に関して正しい道を歩んでいる。