海洋安全保障情報旬報 2022年2月21日-2月28日

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2月22日「南極の外交課題へのオーストラリアと米国の対応の優先順位―米専門家論説」(The Strategist, February 22, 2022)

 2月22日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、米Woodrow Wilson International Center for ScholarsのPolar Institute上席研究員Evan T. Bloomの“Priorities for Australian and US responses to Antarctic diplomatic challenges”と題する論説を掲載し、Evan T. Bloomは米豪両国が個別にでも共同でも、南極における主導的な立場を利用して「法に基づく秩序」に基づき南極に関する他国との協力を促進させ、ロシアや中国という戦略的競争相手の条約違反、関係委員会からの離脱、組織改編の試みに警戒しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 南極大陸は、積極的な関与を必要とする一連の緊急の安全保障上及び環境政策上の課題に直面している。オーストラリアと米国が、特に最近発表されたAUKUSという3ヵ国間の安全保障パートナーシップを通じて戦略的・地政学的協力を深めている現在、米豪という南極大陸における2つの影響力のある有力な国家は、外交ルートを通じて、また南極条約システム(ATS)を通じて、南極に関する共通の懸念に対処するために協力しあえる良好な立場にある。米国は南極大陸に関し、どの国よりも大きな存在感を示しており、米海岸から遠く離れているにもかかわらず、地域の政治的安定に対する長期的な利益を持っている。オーストラリアは南極大陸の42%の領有権を主張しており、大規模な南極科学計画を持っている。両国は南極外交にかなりの注意を払っており、ATSに深く関与している。領土の主張の問題に関して、オーストラリアは原告であり、米国はいかなる既存の主張も支持していないという意見の相違があるにもかかわらず、両国は強力な外交と科学もの面で接触を保ちつつ、基本的な政策で合意している。この地域の長期的な平和と安全を促進するために、両国が協力して実施できることはもっと多くある。
(2) オーストラリアと米国は、戦略的競争相手の行動に対処し、南極大陸において、平和的技術が軍事目的で使用されることを防止することを含む、軍事化されていない状態を維持する保証措置南極大陸において軍事目的のために平和的技術が使用されることを防止することを含む軍事化されていない状態を維持する保証措置を採り、南極の科学と海洋保全を促進し、新しい海洋保護区(以下、MPAと言う)の確立に向けて取り組む必要がある。両国及び他の国々は、現在と将来の問題点を明確に評価し、南極大陸をはるかに超えた意味を持つ政治上及び環境上の課題に対処するために、より迅速に行動する必要がある。それには、特に南極の一連の状況の中で、中国やロシアなどの戦略的競争相手の野心に対抗する必要がある時期と、協力がより適切な目的である可能性がある時期を判断することも含まれる。
(3) Australian Strategic Policy Instituteの新たな特別報告「南極の外交的課題の解決:豪州と米国のための共同の取り組み」に、南極の外交フォーラムに影響を及ぼす重要な成果が述べられている。それは毎年行われているAntarctic Treaty Consultative Meeting(南極条約協議国会議:以下、ATCMと言う)とConservation of Antarctic Marine Living Resources(南極海洋生物資源保全委員会:以下、CCAMLRと言う)である。2つの会議の努力はともに重要であり、南極のガバナンスに関連する問題に対処する際には両方を考慮に入れる必要がある。特に、MPAの設置と南極の海における漁業管理に関しては、ロシアや中国と意見の相違がある。中国は、経済力と政治力の台頭にあわせて、たとえその規模と運用能力が米国のそれと一致していなくても、南極大陸において徐々に台頭してきている。ロシアもまた南極の運用について大きく関与しており、多くの研究所を南極大陸全体に戦略的に配置している。中国もロシアも、ATCMとCCAMLRにおいて妥協を求める声に無頓着であり、自国の立場を強引に他国に押し付けてきた。決定を下すには合意を必要とするガバナンス体制の下では、このことは中国とロシアが引き続き外交的関心の焦点であることを意味する。
(4) オーストラリアと米国は、多くの重要な南極の問題でより積極的に協力することができる。現在の南極のガバナンス体制は、合意が必要であるために完璧には程遠く、困難な外交環境ではあるが、オーストラリアと米国の長期的な国益にかなう多くのことを達成できている。両国は、ATSの規則をすべての国が守ることを主張するために影響力を行使することができ、環境保護と科学者を支援する政策のために戦うためにそれらの規則を行使することができる。今日、より効果的な一連の条約の交渉が行われる可能性は低い。両国は、上級レベルと実務レベルの両方で、立場を調整し、南極の問題に関する他の政府への働きかけにより多くの時間を費やすべきである。
(5) オーストラリアと米国は、南極に関する協力の基盤として他国との科学上の協力を促進するために、個別に、同時に共同して南極に関する科学の分野での主導的な立場を利用することができる。これには、適切な場合には、中国やロシアなどの国々との協力も含まれるべきである。これは南極条約の理念と一致しているからでもあるが、オーストラリアと米国がもともと科学協力を核に構想して条約の成立に加わったからでもある。南極大陸の科学は、Biden政権が賛成する「法に基づく秩序」の促進を助け、ATSのメリットに対する中国を含むすべての国の信頼を高めるという利点がある。
(6) オーストラリアと米国は、環境保全と生態系に基づく漁業管理の原則がCCAMLRの政策の中心であることを確実にするための努力を強化すべきである。両国は、委員会を弱体化させようとする試みに反対する連合を構築することによってこれを行うことができる。この目的に不可欠なのは、CCAMLRの科学者とその審議を支援し、科学に基づいた意思決定が最優先事項であり続けることである。両国はまたすべての加盟国に対し、CCAMLRの規則の遵守を支持させ、違法漁業防止の努力を追求するように引き続き働きかけなければならない。
(7) オーストラリアと米国は、委員会に現在提出されている3つの主要な提案に基づくものを含めMPAの効果的なネットワークを構築する必要性について完全に一致している。両国はEUやアルゼンチン、チリ、英国、ニュージーランドなどの国々と協力して、MPAに対する新しい障害を取り除き、既存のMPAを実施するために、さらに積極的に協力することができる。両国は、南極条約、環境議定書、CAMLR条約の違反を警戒し、主要国がある時点で離脱や抜本的な再編を模索している可能性があるという兆候を監視する必要がある。一般的な問題として、両国は、研究用装備の二重使用の可能性を含め、南極大陸の内外の両国の利益に影響を与える可能性のある南極における軍事的措置を監視するために両国の資源を使う必要がある。両国は、一層精力的な公式の査察プログラムを実施し、外交とその他の方法において定期的に情報を共有する能力を有している。
記事参照:Priorities for Australian and US responses to Antarctic diplomatic challenges

2月23日「ウクライナ侵攻は中国による台湾支配の野望を妨げる―米対外問題専門家論説」(Council on Foreign Relations, February 23, 2022)

 2月23日付のシンクタンクを含む米超党派組織Council on Foreign Relations(外交問題評議会)のウエブサイトは、同Council研究員David Sacksの“Putin’s Aggression Against Ukraine Deals a Blow to China’s Hopes for Taiwan”と題する論説を掲載し、そこでSacksはロシアによるウクライナ侵攻を中国が支援することは、むしろ中国による台湾支配の野心を妨げることになりかねないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 今回のウクライナ危機において、中国がロシアを支援するならば、それは中国による台湾支配の野望を妨げることになるかもしれない。1950年に始まった朝鮮戦争において、毛沢東は金日成による朝鮮半島全土の支配の野心を後押しした。しかし、それは米国によるアジアへの関与の深まりを招くことになった。Truman大統領は、中国共産党による台湾の占領は太平洋の安全保障にとって脅威になるだろうとして、台湾海峡にUS 7th Fleetを派遣した。朝鮮戦争において北朝鮮を後押ししたことにより、台湾支配という毛沢東の野心が潰えたのである。同じようなことがウクライナでも繰り返されるかもしれない。
(2) ここ数ヵ月のウクライナ危機は、中国による台湾侵攻が起きるのではないかという懸念を高めている。したがって、こうした懸念を持つ専門家は、米国がウクライナ危機に注目するあまり台湾防衛をおろそかにしてはならないと主張する。米国が台湾防衛の準備を進めることは中国にとっては良い知らせではない。さらに、もしウクライナがロシアに屈服し、その後に台湾侵攻が起きたならば、米国その他同盟国の反応はウクライナ侵攻よりも強いものになる可能性が大きい。もし米国が2つの地政学上のライバルによる侵攻に対して立場をはっきりさせなければ、米国の信用は失墜する。それゆえ米国は台湾に関してはより強硬な態度をとるであろう。
(3) Putin大統領は先ごろドネツクとルガンスクを独立した共和国として外交承認した。しかし、この決定は中国にとっては厄介な前例となるものである。Putinは、ある国の一部が独立していると宣言する権利を外国が持つと言っているようなものである。中国は、台湾が中国の一部であり、反逆した地域だとしている。しかしロシアのやり方は、米国が台湾を独立国として承認し、その独立を守るためにUS 7th Fleetを「平和維持部隊」として派遣することと同じである。中国は、台湾でこうしたことが起きることを懸念している。
(4) また、台湾はこの危機を利用して、米国の提携国としての自国の価値を高めようとしている。台湾が半導体製造の拠点のひとつであり、テクノロジーのサプライチェーンにおいて決定的な役割を果たしていることを考慮すれば、ロシアへの経済制裁における台湾の役割も重要である。ロシアへの制裁回避を助けようとする中国とは好対照をなしている。
(5) 最後に、ロシアによるウクライナ侵攻によって、台湾は防衛力・抑止力強化へ舵を切るだろう。今回の事例が示しているのは、国の安全を守るために、国際法などの抽象的概念に依存しすぎることには危険性がある。国境線を引き直すのに軍事力が利用されるような時代にあって、台湾が防衛に投資を強化する可能性は大きい。台湾の蔡英文総統は、自国が「台湾海峡における軍事的展開に対応する準備を強化し続ける」とすでに宣言している。
(6) 米国がすべきは、中国がウクライナ紛争から誤った教訓を引き出さないようにすることだ。米国政府はウクライナと台湾が米国にとって異なるものだということをはっきりさせ、たとえばインド太平洋の同盟国や提携国との軍事演習を実施すべきであろう。台湾への政府高官の派遣も検討すべきである。ロシアのウクライナ支援、そしてそれを中国が支援することによって、国際社会における台湾の重要性は高まり、したがった台湾危機における米国の介入の可能性も高まる。今般の危機は、中国による台湾支配という野心を妨げる事例になるであろうし、そうでなければならない。
記事参照:Putin’s Aggression Against Ukraine Deals a Blow to China’s Hopes for Taiwan

2月23日「米海軍、情報戦職域の将校を潜水艦、水陸両用即応部隊に配置―米国防関連誌報道」(Breaking Defense, February 23, 2022)

 2月23日付の米国防関連デジタル誌Breaking Defenseは、“Navy’s info warfare boss wants IW officers on subs, ARGs”と題する記事を掲載し、US Naval Information Forces司令官が潜水艦、水陸両用即応群に情報戦専門将校の配置に向けて動いているとして、要旨以下のように報じている。
(1) US Naval Information Forces司令官は水陸両用即応群(以下、ARGと言う)と潜水艦に
情報戦専門の将校の配置を拡大する方向に動いている。これは現代の軍事作戦、特に海中における作戦でのデータの優位性に対する最新の現れである。「既に複雑な環境下にある潜水艦の乗組員に必ずしも負担をかける必要はないと考えている。潜水艦を取り巻く環境は15年、あるいは20年前と異なっている。その時は海中における争う相手はそれほど多くなかった。今ははるかに多くの争う相手に直面している」とUS Naval Information Forces司令官Kelly Aeschbach中将は述べ、水上艦部隊及び潜水艦部隊の3つ星の指揮官それぞれから支持を得ていると述べている。
(2) 情報戦が戦闘にもたらすものから言えば、情報戦は海軍やUS Department of Defenseに
とって目新しいものではない。通信、情報、サイバー戦及び電子戦能力の組み合わせは、次の2つのことのために使用される。米軍指揮官が最良の情報を利用可能にすること、及び敵の戦場における評価を曇らせる、あるいは混乱させることである。2009年、米海軍は情報戦能力に焦点を当てた軍民それぞれの専門知識を結集するためInformation Dominance Corpsを新編した。何度かの改編の後、2016年に3つ星の提督(中将)を指揮官とするUS Naval Information Forcesを編成した。
(3) 「ARGに関しては、US Naval Surface Force司令官Roy Kitchener中将と情報戦指揮官
を常務編成の配置とすることについて話し合っており、その配置を予算要求している。要求は優先事項であり、実現できると楽観している」とAeschbach中将は言う。
(4) 潜水艦部隊については、Aeschbach中将はUS Naval Submarine Force司令官が彼の権限内
でやりくりできるか検討しており、潜水艦に情報戦担当将校を配置することを約束しているとAeschbach中将は述べている。Aeschbach中将によれば、今日まで潜水艦における情報戦係の部署に配置される士官は他の配置との兼業である。「Houston中将は、字義どおり潜水艦特技の専門家を重視し、潜水艦を運用しなければならず、正しい所に、正しいときに潜水艦がそこにあるようにしたいと望んでいると私は考えている」とした上で、「情報戦担任将校が潜水艦に配置を得ることは、潜水艦を取り巻く環境がどのようなものであるのか、その海域は潜水艦が行くべきと考える海域であると提言することであり、潜水艦がどこにいるかを知られることから全ての潜水艦を守るために我々が支援できることである」とAeschbach中将は述べている。
記事参照:Navy’s info warfare boss wants IW officers on subs, ARGs

2月24日「ウクライナ紛争の事態拡大が北極圏の状況悪化につながる可能性―ノルウェー紙報道」(High North News, February 24, 2022)

 2月24日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版は、北極圏問題を専門とするジャーナリストHilde-Gunn Byeの“Ukraine Conflict: Maritime Areas in the High North Vulnerable if Situation Escalates”と題する記事を掲載し、ロシアによるウクライナ侵攻が今後拡大することによって、北極圏の情勢が不安定になる可能性があるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 2月24日の朝、ロシア軍がウクライナへの攻撃を開始した。CNNが報じるように、Putin大統領は、ドネツクおよびルガンスクの「共和国」がロシアに支援を求め、それに応じてロシアが「特別軍事作戦」を敢行したということである。両共和国については、21日にロシアがその独立を承認していた。NATO事務総長は、ロシアのウクライナ侵攻にいたる一連の動きをヨーロッパにおける「新たな常態」であるとした。
(2) 現時点ではロシアによる侵攻はNATOを直接巻き込むものではないが、それは北極圏地域にとっていくつかの含意を有する。ノルウェーのInstitute for Defence StudiesのKatarzyna Zysk教授が言うように、ロシアにとって北極圏はNATOとの境界である。今後の軍事的・政治的状況の展開、西側の対応如何によって、北極圏の状況にも変化があろう。その中で、ロシアNorthern Fleetに配備されている弾道ミサイル搭載原子力潜水艦などの戦略的装備、その他の基幹設備などを防護することは、ロシアにとって最優先事項であり続けると思われる。
(3) Zysk博士は、NATOもロシアもお互いに戦争を望んでいないが、双方ともに防衛と抑止力を強化すると確信している。しかしこの状況下では、誤算や誤解などが全面戦争へと事態を拡大する危険性があると彼女は言う。もしNATOを巻き込むほどに状況が悪化した場合、原子力潜水艦の行動の自由を確保するため、ノルウェー海北部やバレンツ海の「聖域」化を進めるかもしれない。
(4) 現時点では、ロシアは戦略的方向を別に向けようとはしていない。しかし、ロシアの戦略的思考において、北極圏とバルト海や黒海周辺などの他の地域と密接に関連している。このことは、この10年間で大規模な演習が各方面で実施された状況から実証されている。つまり、この紛争がより大規模な事態に拡大した場合、Northern Fleetの部隊が、相手に圧力をかけるためにより積極的に活用されることを意味する。実際に、Northern Fleetの一部艦艇や部隊がウクライナ攻撃のために派遣されたという報告もある。
記事参照:Ukraine Conflict: Maritime Areas in the High North Vulnerable if Situation Escalates

2月25日「MOOTWは人民解放軍の平和病に対する特効薬か-米専門家論説」(China Brief, The Jamestown Foundation, February 25, 2022)

 2月25日付、米The Jamestown FondationのウエブサイトChina Briefは、当財団の中国プログラムマネージャーで編集長John S. Van Oudenarenの”Military Operations Other Than War: Antidote to the PLA’s ‘Peace Disease’?”と題する論説を掲載し、ここでOudenarenはトンガへの救援物資の輸送任務において長距離空輸・海上輸送能力の向上を実証し、MOOTW による能力で大きな進歩を遂げた中国軍は MOOTW を引き続き活用し、部隊の作戦経験の不足を補い、戦闘シナリオに移行可能な能力を開発することが考えられるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1月31日、中国人民解放軍(以下、PLAと言う)海軍の艦艇2隻が大津波に襲われたトンガに対する人道支援・災害救援(以下、HADRと言う)のため広州省を出航した。この救援活動には、ドック型揚陸艦「五指山」と補給艦「査干湖」が派遣され、移動式住居、建設機械、食料、医療品などを提供した。その数日前には、PLA空軍のY-20大型輸送機がトンガに派遣され、飲料水、食料、テントなどの緊急物資を空輸した。
(2) 人口10万人あまりの小さな島国トンガを、オーストラリア、米国とともに支援したのは中国であった。2月11日に行われた建設機械119台の寄贈式で、トンガのSiaosi Sovaleni首相は「中国のような良き友好国が我々を支援してくれるのは幸運だ」と感謝の意を表した。トンガへの時宜にかなった支援は、最近の騒乱を受けて中国政府がソロモン諸島に対する安全保障支援提供の合意に続くものである。これらを総合して考えると、積極的な軍事外交、安全保障、災害支援は太平洋諸島における中国の地位はさらに強化するものである。この地域は戦略的重要性を増しており、中国政府はオーストラリア、ニュージーランド、米国、台湾と影響力を競い合っている。しかし、中国共産党にとって、トンガでの任務にはもう1つ重要な役割があった。それは、向上しつつある長距離輸送と後方支援能力を試すことである。2004 年に当時の胡錦濤国家主席が軍に「新たな歴史的任務」の遂行を呼びかけて以来、軍は HADR、海賊対処、平和維持などの非戦闘軍事活動を通じ、国境を越えて戦力を投射する能力を開発してきたのである。
(3)トンガへのHADRは、中国共産党が戦争以外の軍事行動(以下、MOOTWと言う)として分類するものの一部である。PLAの『戦略学』2013年版によれば、HADRに加えて、MOOTWにはテロ対策、海賊対処、大規模騒乱対処や暴力犯罪との戦いなどの安定維持、脅威を受けた国民の救出を含む権益の保護、治安監視と国境警備、国際平和維持などの活動が含まれている。
(4) 中国共産党は、1979年のベトナム戦争以来、40年以上にわたって大規模な戦闘は行っていない。中国共産党の幹部が懸念する戦闘経験の不足は、しばしば平和病と呼ばれ、中国軍の準備態勢全般をむしばむ影響を及ぼすと認識されている。たとえば、2019年の解放軍報の社説は、平和病は「敵に対する意識の低下、軍事装備やノウハウの軽視、快楽追求、個人資産の追求」などを通じて、兵士を劣化させるとしている。現代戦の経験の欠如は、習近平主席兼中央軍事委員会委員長が表明した「戦い勝利できる強力な軍隊」を育成するというPLAの能力に対する大きな疑念となる。習近平は、PLAの「二つの能力不足」すなわち近代戦を遂行する能力の不足と、近代戦の状況下での士官の指揮能力不足に対処する必要性を強調している。特に中国共産党の課題は、増加する最新装備の使用と維持に対応できる人材の確保、維持、育成である。習近平は、訓練と戦闘をよりよく組み合わせ、体系的な訓練と技術の活用を強化し、エリート戦闘部隊を育成することでこの問題に対処しようとしている。また、習近平は中国共産党委員長として、軍装備の試験と評価は「実戦の要求」に合致することを重視しなければならないとする命令を最近発出した。
(5) 中国共産党は、近代的な軍事作戦への備えを強化するために訓練過程の強化を図ってきたが、部隊の戦場での経験不足を補うための追加措置の必要性も認識している。MOOTW は実戦経験の代用にはならないが、PLA にとっては、これらの作戦は実状況下における統合作戦環境において能力を試し、経験を積む機会を提供するものとなる。MOOTW実施の前には、特殊な訓練と演習が行われることが多いが、これはこのような機会が、重要な部隊にしか与えられないことを示唆している。たとえば、東部または南部戦区司令部所属の最新鋭のミサイル駆逐艦及びフリゲートの多くは、アデン湾での海賊対処のために派遣されている。
(6) 2012年に戦闘部隊を含むようになった国連平和維持活動への参加を除けば、中国共産党が最も長く続けているMOOTWは、アデン湾での海賊対処任務部隊である。PLA海軍 は 2008 年以来、この地域に任務部隊を継続的に派遣しており、1 月には 40 次の任務部隊 が中国から出航した。今回の任務部隊は、ミサイル駆逐艦、フリゲート、補給艦、そして特殊戦部隊を含む 700 人の兵員である。 出港に先立ち、護衛部隊は対テロ、対海賊及び洋上補給の演習を行った。US Department of Defenseの最新の中国軍事力報告書によると、定期的な遠洋での海賊対策は、PLA海軍の第1列島線を超える遠海作戦能力に寄与してきたという。これらの任務はまた、長距離洋上補給の能力を開発することによって、PLA海軍の発展、すなわち外洋で活動できる海軍となることにも寄与した。
(7) MOOTW が中国軍の重要な作戦上の欠落を埋めるのに役立ったもう1つの分野は、HADR と非戦闘員退避活動(以下、NEOと言う)を通じた戦略的な海上・航空輸送能力の開発である。2011年、中国は紛争で荒廃したリビアから約3万5,000人の自国民を退避させるという難題に直面した。中国国民の大半は、商船、民間航空機、バスをチャーターして退避した。 PLA海軍は、一部の国民を退避させるためにフリゲートを派遣し、ソ連製のIl-76 輸送機 4 機で 1,700 人をスーダンに運んでいる。NEO は中国初の試みであったが、中国軍は外交部や国有企業に比べ、最終的に二次的な役割にとどまり、空と海の軍事輸送能力の不足が浮き彫りになった。しかし、その4年後、アデン湾のPLA海軍任務部隊は、イエメン紛争の激化に脅かされた590人の中国人を救出するためのNEOを成功させた。PLA海軍にとっては、このような作戦の単独責任を負うのは初めてであった。
(8)トンガのHADR任務において、PLAは長距離空輸・海上輸送能力の向上を実証した。Y-20輸送機2機による空輸では、航続距離を伸ばすために搭載貨物を軽くして6,000海里以上を飛行し、最終的に33トンの物資をトンガに提供した。さらにドック型揚陸艦「五指山」と補給艦「査干湖」は、5,000マイルを航海して1,400トンの救援物資を輸送する能力を示した。長距離兵站、補給、補充、海上・航空輸送は、中国共産党が MOOTW による能力開発で大きな進歩を遂げた例である。今後 10 年間、中国軍は MOOTW を引き続き活用し、部隊の作戦経験の不足を補い、戦闘シナリオに移行可能な能力を開発すると考えられる。
記事参照:Military Operations Other Than War: Antidote to the PLA’s “Peace Disease”?

2月25日「ウクライナ情勢が台湾に及ぼす影響―The Diplomat編集長論説」(The Diplomat, February, 25, 2022)

 2月25日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌編集長Shannon Tiezziの“Taiwan Watches Ukraine With an Eye Toward Security at Home”と題する論説を掲載し、そこでTiezziはウクライナ危機が台湾にどのような影響を及ぼすかについて、台湾政府がどう捉えているかを2月23日に開催された国家安全保障会議の要約から検証し、要旨以下のように述べている。
(1) この数週間、専門家達はウクライナ情勢が台湾問題にどのような意味を持つかを考察してきた。一方では、ロシアのウクライナ侵攻に対して米国が断固たる対応をしていないことが、軍事力による台湾支配を目指す中国を勢いづけることになるという主張があり、他方、米国がウクライナ問題において消極的なのはインド太平洋への注目を保つためであるという主張もある。
(2) それでは台湾自身はこの問題をどう捉えているのか。驚くことではないが、平和的で法を遵守する民主主義国だという立場から、台湾政府はロシアのウクライナ侵攻を強く非難した。そうした姿勢は、侵攻の前日23日に開催された国家安全保障会議の帰結である。同会議の要約によれば、台湾政府は緊張の高まりを導いているロシアによるウクライナ主権侵害を認めず、紛争の理性的かつ平和的解決を求めるという立場を定めた。また、台湾は半導体の禁輸を含めた対ロ経済制裁を検討しているという報道もあった。
(3) こうした問題に加えて、国家安全保障会議はウクライナ危機が台湾に、どのような直接的影響を与えるかという問題を検討している。その影響は3方面にわたるという。すなわち、物理的な影響(台湾海峡における軍事行動)、心理的な影響(認知戦)、経済的な影響(市場への影響、特に生活必需品価格の高騰など)である。
(4) 最悪のシナリオとして挙げられるのが、中国がこの混乱に乗じて台湾支配を目指して軍事行動に出るということである。現時点では大規模な軍事行動の前兆は見られていないが、台湾政府は、ウクライナ危機の最中であっても、台湾海峡の状況を注視していることを国民と世界に知らしめようとしている。国家安全保障会議の要約は、台湾の安全保障に関する最優先の焦点は台湾海峡であり、今後、海峡周辺における中国軍の展開を監視し、警告を行う態勢をより強化する必要があると述べている。とはいえ、台湾政府はこの最悪のシナリオにいたる可能性はあまり大きくないと考えているようである。
(5) より起こりそうな事態は、中国がこの戦争を利用して、誤情報を拡散して台湾国民の士気を低下させようとすることである。中国は、これまでも台湾を標的とした誤情報拡散作戦を実施してきた。全体としてそれは、国民の間での政治的分断や不満を植え付けようという目的のために行われるものである。国家安全保障会議はこうした作戦が強化されると予想しており、同会議要約は、台湾とウクライナの状況が根本的に異なることを強調した。これは裏を返せば、ウクライナ危機が台湾国民の士気に悪影響を及ぼす可能性があると考えられていることを示している。
(6) 最後に考えられるのが経済的な影響である。台湾は、資源に関して大きな制約があるアジア諸国との間で、特にエネルギー価格上昇に関する懸念を共有している。台湾は石炭輸入の17%、液化天然ガス輸入の14%をロシアに依存している。国家安全保障会議で、蔡英文総統は、「経済的な展開への対応を継続し、その一方で物資供給と生活必需品価格、株式・為替市場の安定を確保する」よう指示した。以上のように、国家安全保障会議は、中国による軍事侵攻の可能性だけでなく、ウクライナ危機が及ぼしうる心理的、経済的影響に対しても警戒すべきことを強調している。
記事参照:Taiwan Watches Ukraine With an Eye Toward Security at Home

2月25日「浅薄な米国の新インド太平洋戦略―米専門家論説」(Defense News, February 25, 2022)

 2月25日付の米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは、米シンクタンクDefense PrioritiesのAsia Engagementの長Lyle Goldsteinの“The new Indo-Pacific Strategy is too shallow”と題する論説を掲載し、Lyle Goldsteinは米国が発表した新しいインド太平洋戦略の内容が浅薄であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ヨーロッパの安全保障と不安定な米ロ関係の命運が危うい状況にある最中、Antony 
Blinken米国務長官は2月中旬にフィジーに到着した。時を同じくして、Biden政権による米国の新しい「インド太平洋戦略」が発表された。この新戦略は、この広大な地域で米国がどこで、どのように、どのような理由で武力の行使に踏み切るかについて、理路整然とした論理を展開しているとはとてもいえない。
(2) この戦略は、至る所で言及されている気候変動のような安全保障空間における特定の新
しい問題が好まれ、「地政学的競争」を軽視しようとしている。
(3) この戦略では、この文書が「条約上の同盟国」と「提携国」を明確に区別している点に
おいて、Trump政権のものよりもかなりの改善が見られる。ウクライナ危機で見られるように、このような違いは根本的に重要である。しかし、この文書には、民主的な制度や価値観に関するお決まりの論理の展開があるが、その点に関して、タイ、ベトナム及びフィリピンのような同盟国や提携国の数多くの悪行について、どこにも非難が見当たらない。
(4) インドについてはこの文書において何度か言及されているが、「アジア太平洋」の行動
計画と対比して「インド太平洋」戦略を正当化する根拠がどこにも示されていない。インドには軍事的な課題があり、人権問題への取り組みが懸念されているにもかかわらず、この戦略では、インドが中国からの防衛に役立つかもしれないと示唆されている。この戦略的な策略は、10年以上経過した現在でも、国家安全保障上の具体的な分け前を示すには至っていない。
(5) 新しい「インド太平洋戦略」は、科学、技術、工学、数学分野(science、technology、
engineering、mathematics:STEM)の次世代を担う科学者や技術者たちの育成を目的とした奨学金制度、雇用、「気候変動に対応した基幹施設への投資」、そして、世界的感染拡大により重点を置いた戦略であるが、国家安全保障はあまり重要ではない関心事であるように見える。
(6) 核兵器や極超音速兵器については、この文書のどこにも触れられていないが、US Coast 
Guardについては何度も言及されている。数隻の巡視船が南シナ海に秩序をもたらすことは、それらが苦境に立たされたウクライナを助けることよりも可能性は低い。このような「グレーゾーン」において競う米国の取り組みは、いかに善意であっても、実際には無力である。
(7) この文書では、ヨーロッパとNATOが随所に登場するが、女性を前に男性の行動が積極
的になったりするという意味合いで有害な効果しかもたらさない「チアリーディング効果」を除けば、アジア太平洋地域において想定される安全保障上の事態にヨーロッパが印ばかりの戦闘力を以上のものを時宜に適して提供できるかは、全くわからない。
(8) したがって、最も困難で、実際に危険な戦略的ジレンマが対処されないまま続いている。
現実には、資源と能力が野心と一致しておらず、当分の間はそうなる可能性は低い。そのため、米国の防衛目標を再調整し、地上、空中、海洋の現実と調和させることが必要である。また、同盟国や提携国と米政府とで、が何が可能で、何が可能でないかについて、激しく議論することが必要である。
(9) 実際、現在のロシア・ウクライナ危機は、高邁な言葉づかい、政治的に正しい表現、そ
して、漠然とした希望リストが、良い戦略を生み出すことにはならないことを痛感させるものである。最も基本的な段階では戦略とは選択であり、アジア太平洋地域では今、厳しい選択が必要である。
記事参照:The new Indo-Pacific Strategy is too shallow

2月25日「日本・韓国はまだ原潜原子力潜水艦を持とうとするべきではない―米軍拡問題専門家論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, February 25, 2022)

 2月25日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNetは、米教育組織Nonproliferation Policy Education Center長Henry Sokolskiによる“Nuclear submarines for our Pacific allies: When to say yes”と題する論説を掲載し、そこでSokolskiはオーストラリアの原子力潜水艦調達計画を受けて韓国でもそれを保有すべきという声があることについて触れ、韓国、そして日本にとって、原子力潜水艦の保有は、軍事的にも政治・外交的にも現時点では有益ではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 3月9日に韓国大統領選挙の結果が出る。新大統領が決めるべきことの1つは、韓国が原子力潜水艦開発に関して米国の支援を受けるかどうかである。革新系与党候補のLee Jae-myung(李在明)は、オーストラリアと同じく韓国も原潜原子力潜水艦保有を目指すべきだと主張している。それに対し、対立候補のYoon Suk-yeol(尹錫悦)は必要ないと述べている。実際のところ、韓国が直面している海の脅威に対処するためには、原子力潜水艦は必要ないと言えるだろう。
(2) 2021年秋に刊行された論文によれば、韓国を取り囲む黄海、東シナ海、日本海などの比較的閉じられた海において、原潜原子力潜水艦はあまりその能力を発揮できないという。北朝鮮による海の脅威を封じ込めたり、日本や米国による第1列島線内の監視を支援したりするためには、コストがかかりすぎる原潜原子力潜水艦は必要ないとその研究は結論づけている。むしろ必要なのは、そうした特定の任務に特化した通常型の海上システムであろう。
(3) 韓国の原潜原子力潜水艦保有論者は、原潜原子力潜水艦から通常ミサイルを発射する攻撃能力の重要性を説くが、その目的に関しても、原潜原子力潜水艦よりは空および地上移動型のミサイル・システムを用いたほうが有効なはずである。もし韓国が外洋海軍戦力を保有したいとしても、原潜原子力潜水艦ではなく、小型空母を含む先進的な海上戦力に投資した方が費用対効果は高いだろう。以上の提案は日本にとっても当てはまる。中国や北朝鮮の脅威を探知し、第1列島線内にそれらを封じ込めるためには、原潜原子力潜水艦よりも極めて静粛な通常型潜水艦などのほうが効果的である。
(4) ここで強調したいのは、中国から遠く離れており、したがって原子力潜水艦が効果的となるオーストラリアと、日本および韓国とは事情が大きく異なることである。この点を確認しておく理由はいくつかある。第1に、もし米国が日本や韓国に北朝鮮および中国を抑止するために軍事投資を行ってほしいと思っているのであれば、原潜原子力潜水艦に何十億ドルも投資するべきではない。
(5) 第2に、もし韓国が原潜原子力潜水艦を保有することになれば、それが核兵器開発につながる危険性があることである。原潜原子力潜水艦には濃縮ウランが必要であるが、韓国はこの10年間、米国に、そのためのウラン濃縮を行ってもよいかと問うてきたが、米国の返事はNOであった。いずれにしても、もし韓国が自前の原潜原子力潜水艦開発計画を進めようとするのであれば、それは日本を警戒させ、米国との同盟にヒビを入れることになるかもしれない。
(6) それではどうすべきなのか。たとえば、Nonproliferation Policy Education Centerはオーストラリアにウラン濃縮に関する猶予期間を設定させることや、米国や日本が韓国と同じように、高速炉の商業化や兵器級プルトニウムのリサイクルを停止することなどを提案している。また、米国はヨーロッパ諸国と連携して、日本と韓国による自前の最先端の防衛関連計画を支援するべきであろう。こうした措置はいずれも有効であろうが、いずれにしても、日本と韓国は、原子力潜水艦を保有することが危険な気晴らしにすぎないものであることを理解する必要がある。
記事参照:Nuclear submarines for our Pacific allies: When to say yes

2月26日「ベンガル湾における気候安全保障―インド専門家論説」(The Diplomat, February 26, 2022)

 2月26日付のデジタル誌The Diplomatは、インドThe Institute of Peace and Conflict Studies上席研究員Angshuman Choudhuryと同研究員 Siddharth Anil Nair の“Bay of Bengal Countries Need to Pay Closer Attention to the Climate-Security Nexus”と題する論説を掲載し、両名はベンガル湾地域の気候安全保障に注意を喚起して、要旨以下のように述べている。
(1) インドとオランダの研究所による2022年1月の報告書‘IPCS-Clingendael Institute Special Report # 212*’は、ベンガル湾地域の気候安全保障に焦点を当てている。この報告書は、インド、バングラデシュ、ミャンマー、スリランカ及びインドネシアの沿岸5ヵ国の気候プロファイルを、各国の社会的、政治的、軍事的プロファイルと並置することで、気候変動が非常に分類化された方法で観察される地域において、気候安全保障の概念を探求することを狙いとしている。
(2) 気候安全保障の概念がベンガル湾地域の政策立案者にとって問題視されるのには、いくつかの理由かある。第1に、ベンガル湾地域が気候変動による天候の急変が引き起す短期的な自然災害と長期的な変化の両方が見られる気候的に脆弱な地域であること、第2に、沿岸地域に世界人口の4分の1が居住する、人口密度の高い地域であること、第3に、この地域は天然資源が豊富であることに加えて、成長志向の経済の台頭によって、世界経済のほぼ4.7%を占めていること、第4に、海洋の重要なチョークポイントであるマラッカ海峡が含まれてことから、この地域が戦略的に不安定な地域横断的領域となっており、また国際的連結における重要な領域となっていることである。
(3) IPCS-Clingendaelの報告書は、二次的研究と専門家へのインタビューに基づいており、気候安全保障に関して、気候変動は暴力的な紛争の直接的な誘因とはならないが、特定の状況下では、一定の触媒的要因を悪化させることによって、暴力的な紛争の要因となり得るとする既存の学識を基本的な規範的前提としている。この複雑な関係は、一見重要でない気候上の脅威に始まり、暴力的な紛争にいたるさまざまな結果が重層的に重なり合った連鎖のいたる所で影響を及ぼす。このことは、ベンガル湾の状況に大いに当てはまる。報告書はまた、特定の気候上の脅威がこの地域の安全保障に直接的影響を及ぼし得ることを指摘している。このことは、サイクロンや海岸侵食といった極端な気候上の事象に特に当てはまり、海岸地域に配備された軍事資産の短期的な劣化を引き起こし、そのことが戦力態勢に影響を及ぼす。さらに、特定の長期的な気候の変化、たとえば、海面上昇は、重要なインフラに深刻な影響を与える可能性がある。また、気候変動は特定の地形的変化を引き起こし、計画された戦略的に重要な基幹施設、あるいはその他の基幹施設を危険に晒す可能性もある。報告書はまた、気候上の脅威は、不安定化の要因となり、多くの場合、暴力的な紛争の誘因となると述べている。国境内あるいはそれを越えた地域の社会的、経済的及び政治的断層を急速に拡大する可能性があると指摘している。
(4) 気候上の脅威から紛争にいたる一連の事象は長く、直線的でないかもしれないが、(機構上の脅威から受ける結果を)適切に緩和する戦略が実施されるより前に、一部の悪影響が現れる可能性がある。したがって、当該地域の軍民双方の政策立案者は注意を怠ってはならない。ベンガル湾沿岸域の諸政府は依然、気候安全保障という用語の使用を躊躇しているが、その現実を認める必要がある。しかしながら、国家的な対応は十分ではない。国境を越えた問題の性質を考えれば、国家と非利害関係者の間の協調が最も重要である。ベンガル湾沿岸諸国にとって最も論理的な方法は、地域的に受け入れ可能な解決策を見出すために、地域的に協力することである。「ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアチブ(Bay of Bengal Initiative of Multi-Sectoral Technical and Economic Cooperation:BIMSTEC)」は、具体的な討議の場となり得る。しかしながら、気候安全保障に関する別の作業部会を設置する必要がある。この作業部会は、「BIMSTEC気候センター(BIMSTEC Center for Weather and Climate :BCWC)」、「BIMSTEC国家安全保障長官会合(BIMSTEC National Security Chiefs Meeting :BNSC)」、及び未だ設立されていないが「トラック1.5 BIMSTECセキュリティ対話フォーラム(Track 1.5 BIMSTEC Security Dialogue Forum :BSDF)」など、他の関連機関と協働していく必要がある。
(5) 気候変動の深刻さについて、世界的な意見の一致が広がっている。しかしながら、我々はそれが政治や社会に及ぼす影響の全容について未だ理解が及んでいない。この点で、安全保障領域は、その影響と結果を理解する効果的なレンズになり得る。憂慮すべきは、この場合、事象と結果にいたる所要時間が短いことで、水が私たちの足下を浸し初めてからでは遅過ぎる。IPCS-Clingendael報告書は、ベンガル湾地域の政策立案者に対する警告であり、気候変動がこれまで想像もしていなかった方法で大混乱を引き起こす可能性があることを示唆している。
記事参照:Bay of Bengal Countries Need to Pay Closer Attention to the Climate-Security Nexus
備考*:Climate Security in the Bay of Bengal

2月26日「ロシアのウクライナ侵攻により船舶保険料が急騰―シンガポール専門家論説」(Splash247, February 26, 2022)

 2月26日付のシンガポールの海運関連ニュースサイトSplash 247は、元海運関連誌Maritime Asia編集者Sam Chambersの“UN urges for safe passage across the Black Sea in wake of merchant ship attacks”と題する論説を掲載し、Sam Chambersはロシアによるウクライナ侵攻の影響により、黒海を航行する船が危険に晒され、船舶の保険料が急騰しているとして、要旨以下のように述べている。
((1) )ロシアによるウクライナ侵攻の序盤で3隻の船舶が攻撃を受けた結果、国際海事機関(IMO)の事務局長であるKitack Limは2月26日、「ウクライナの治安情勢は、海上での貿易に影響を与えている」「船員、船舶及び貨物船を確実に保護するため、全ての関係者に対策を講じるよう要請する」として商船の安全な航行を呼びかけた。
((2)) これまでに、トルコ所有のばら積み船、モルドバ船籍のケミカルタンカー、そして、パナマ船籍のばら積み船が、紛争開始2日間で攻撃を受けた。この地域の国際船舶の多くは、より安全な海域に退避しているが、ロシア軍による爆撃が強まっているウクライナの主要港は2月24日以降閉鎖された。この地域に向かう船舶の保険料は急上昇しており、7日間の戦争保険の追加の負担が、保険料で2月21日の0.025%から最大で5%程度になっていると見積もられている。トルコ外相は2月25日、トルコはウクライナの要求どおり、ボスポラス・ダーダネルス海峡経由で黒海に出入りするロシア艦艇を止めることはできないと述べている。
((3)) ロシアは世界の海上輸出の約5%を占めていると推定されるが、トン・マイルで見るとその割合はより小さく、ロシア西部からヨーロッパ、東部からアジアへの短距離輸送が多い。ウクライナは、輸出量のさらに1%を占めている。タンカーの料金は、戦闘の勃発に伴い急騰した。黒海―地中海航路のアフラマックス(aframax、中型の原油タンカー)とスエズマックス(suezmax、スエズ運河を航行できる船の最大規模のタンカー)の料金は、2月の第4週に4倍以上に跳ね上がった。
((4)) 「今後数週間は引き続き不透明な状況が続き、特にバルト海や黒海地域では運賃が高騰し、不安定になる可能性が高い。しかし、制裁の影響が一度より明らかになれば、この市場は落ち着くだろう」とPoten & Partnersの新しいレポートが示唆している。
記事参照:UN urges for safe passage across the Black Sea in wake of merchant ship attacks

2月26日「中国がロシアのウクライナ侵攻から学ぶことー―香港誌報道」(South China Morning Post, February 26, 2022)

 2月26日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“What lessons are there for China in Russia’s invasion of Ukraine?”と題する記事を掲載し、ロシアの侵攻前における戦略的欺瞞、あるいは心理的欺瞞の重要性が中国による台湾侵攻の際の重要な教訓になるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国の専門家によれば、中国軍はウクライナ侵攻におけるロシアの戦術の強点と失敗、
特に戦略的欺瞞の使用から学ぶことができる。
(2) 2月25日の報告では、中国国営中央電視台はロシア軍がこれまでのところ5つの主と
なる戦術を使用していると報じている。これには、重要軍事目標に対する精密爆撃、重要な中枢掌握のための急襲、全方向強襲における陸海空軍部隊の統合が含まれる。ロシア軍はまた、実際の部隊の展開と作戦の進展を秘匿するため偽情報を流し、敵が支配する地域では事前に反乱を扇動してきた。人民解放軍が台湾奪取のために似たような作戦を展開すると考えられてきた。
(3) しかし、専門家は開戦2日後でもロシアは目標を完全に達成していなかったことを注目
している。2月24日早朝、ロシア武装ヘリコプターの戦隊は特殊戦部隊200名を成功裡にアントノフ飛行場に着陸侵攻させ、同飛行場を奪取した。目的は、ウクライナ首都奪取のため空挺部隊と重装備を投入するための橋頭堡を確保することであった。25日午後、着陸侵攻から30時間後、ロシア側は優勢であると言うが、増援空挺部隊が到着したのかどうか、到着したとすればいつなのかは不明である。「アントノフ飛行場に空挺部隊の増援兵力が成功裡に展開しなかったことを考えれば、特殊戦部隊の主任務の大部分は阻止されている」と中国で人気のブロガー、ミリタリ・エクスプレスは述べている。大規模空挺作戦には多くの前提条件があり、異なる軍種間、部隊間の高度な連係と協同が求められるとして、「他の国、特に中国にとって重要な教訓である」ミリタリ・エクスプレスは言う。
(4) 米国は最先端の全ての型式の偵察、情報装備を保有し、ロシア軍が国境地帯に集結して
いるとして、攻撃開始時期の予測まで開示して警告していたと上海を拠点とする軍事専門家倪楽雄は言う。「Putinは心理的欺瞞を行った。Putinは偽装として演習を1回だけでなく4、5回使用し、敵の警戒を疲弊させた」として倪楽雄はロシア部隊が米情報がの予測した最初の数回で撤収したと指摘し、以下のように述べている。「したがって、この事例は将来、たとえ米国が注視しているときでもいかにして奇襲を発動するかを示している。」
記事参照:What lessons are there for China in Russia’s invasion of Ukraine?

2月28日「黒海をめぐるロシア・ウクライナ紛争とモントルー条約-米専門家論説」(JUST SECURITY, February 28, 2022)

 2月28日付のNew York University School of LawのReiss Center on Law and Securityを拠点とする安全保障法及び政策に関わるオンライン・フォーラムJust Securityは、Syracuse University College of LawのMark P. Nevitt准教授の”The Russia-Ukraine conflict the Black Sea and the Montreux Convention.”と題する論説を掲載し、ここでNevittはトルコがモントルー条約の戦時規定を発動することは、トルコがロシアとウクライナの紛争を深刻に捉えていることを示すことになり、ロシアの領空や世界経済市場への出入りを拒否することで、ロシアを孤立させようとする国際的な努力と一致することになるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2月27日、トルコのMevlüt Çavuşoğlu外相はCNN Turkに出演し、「ウクライナの状況は戦争に変わった。トルコはモントルー条約すべての条項を、透明性をもって実施する」と発言した。ロシア・ウクライナ紛争の激化に伴い、紛争地域への軍艦の往来を規制する条約として、モントルー条約の重要性が高まっている。トルコが正式にモントルー条約の戦時規定を発動すれば、ロシア軍艦の黒海への進入は原則禁止となる。これは、ロシアとウクライナの緊張を緩和する上で、小さいながらも重要な役割を果たすだろう。
(2) モントルー条約とは、1936年に締結された国際条約で、トルコ海峡の商船、軍艦、航空機の通航について定めたものである。この条約は、過去85年以上にわたって黒海の非軍事化に重要な役割を果たしてきた。黒海に進入できる船舶の大きさを制限し、トルコ海峡を通過する軍艦に通告義務を課し、黒海に面していない国が軍艦を黒海に配備できる期間を制限している。国連海洋法条約(UNCLOS)は「海洋の憲法」と呼ばれ、世界中の国際海峡の通過航路について規定しているが、トルコ海峡は、モントルー条約の規定が優先される。
(3) モントルー条約が交渉されたのは85年以上も前のことであり、当時から軍艦や技術は大きく変化しているので、通過制限を現代の軍艦に適用することは困難な場合がある。モントルー条約では一般的に1万5千トン以上の大型艦の通航を制限しているが、この解釈には議論が必要な場合がある。例えば、2008年、ロシアとグルジアの紛争が数週間にわたって激化したとき、US 6th Fleet旗艦「マウント・ホイットニー」は、そのトン数やモントルー条約例外規定に該当するかどうかを疑問視されながらも、海峡を通過して黒海に進入した。ロシアはこの通過をモントルー条約違反であり、不必要な挑発であると抗議したが、トルコはそれ以後も「マウント・ホイットニー」のトルコ海峡通過を認めている。また、米海軍の駆逐艦は日常的に海峡を通過しており、ミサイル駆逐艦「ポーター」は2021年11月にブルガリア、ルーマニア、トルコ、ウクライナの海軍と演習を実施した。
(4) 平時に商船は船籍、貨物に関係なく、海峡を通過し航行することができる。モントルー条約は、「黒海に面した国家」(ロシア、ウクライナ、トルコ、ルーマニア、グルジア、ブルガリア)を「黒海に面していない国家」よりも優遇しており、「黒海に面していない国家」の艦船は、黒海に21日以上滞在することができない。この条約はまた、交戦中の国の黒海への進入を制限し、トルコが戦争の危険が差し迫っていると考える場合には、進入を制限することを認めている。ロシアがクリミアを併合してからは、黒海におけるロシアの海軍力と展開は増大している。これは、黒海沿岸国としての特権の下で許されることであるが、NATOの懸念が増大する原因となっている。
(5) モントルー条約は、戦時中にトルコ海峡を通過する軍艦を管理する法的権限をトルコに与えている。今、トルコが通航を制限すれば、ロシアは困るだろうが、大規模な海軍を持たないウクライナには影響がない。実際、ウクライナはすでにトルコに対して、ロシア艦船に対する海峡の閉鎖を要請している。黒海はロシア軍とウクライナ軍の戦闘の場となっており、すでにロシア海軍の艦船が黒海に進出している。現在進行中のロシア・ウクライナ紛争を考える上で、2つのモントルー条項が重要となる。
a. 第19条では、戦時中(トルコが交戦国でない場合)であっても軍艦は海峡の航行と通過の自由があるが、交戦国に属する軍艦は、基地への帰還や支援を行う場合を除き、海峡通過が禁止されている。トルコ外相は、この条項を指摘し、「モントルー条約第19条は明確で、これは戦争だ」と述べた。第19条を発動すれば、地中海で活動するロシア軍艦が黒海に入ることが制限される。この記事を書いている時点で、ロシア海軍の大部分を占める16隻の軍艦がシリア沖で活動しているが、海峡を通過して紛争に加わることができなくなる。
b. 第21条は、トルコが戦争の差し迫った危険にさらされていると考える場合、トルコ政府はトルコ海峡の軍艦の通行を制限することができる。制限する軍艦の種類等は、トルコ政府の裁量である。トルコが選択すれば、ロシア艦船のトルコ海峡通過を阻止でき、さらに、NATOの黒海に面していない国々の艦船の通過を認めることもできる。しかし、現時点でトルコに戦争の危険が差し迫っていると主張するのは難しい。
(6) 米国はモントルー条約の交渉に参加せず、同条約にも加盟していないが、慣習国際法の下、この条約を遵守している。米空母「ハリー・S・トルーマン」は地中海で活動しているが、この空母がトルコ海峡を通過することは、おそらく不可能である。モントルー条約に空母に関する規定はないが、明らかにトン数制限を超える。しかし、米国の他の艦船やNATOの艦船は、条約に基づき事前にトルコに通知(黒海沿岸国以外は15日前)をすれば、トルコ海峡を通過することは可能である。最近、米海軍の「ポーター」と「マウント・ホイットニー」が黒海に入ったが、NATO艦船の進入はない。NATOの海上部隊の多くを占めるのは黒海に面していない国家であり、その艦船は、黒海に21日以上留まることはできない。プーチンはNATOの黒海での海軍力の展開プレゼンス拡大を事態の拡大と見なす可能性があり、真剣に検討されているかどうかは不明である。
(7) 第23条は、海峡を通過する航空機について規定した条項である。これは、トルコに対して、海峡を通る航空路を設定する権限を与えている。モントルー条約は軍用機については明示しておらず、第19条の戦時規定を発動することで海峡を通過する航空路にどのような影響が出るかは不明である。ロシアが欧州空域への出入りを拒否される中、トルコ海峡の航空路の重要性が増す可能性は十分にある。
(8) 黒海の大国であるロシアは、モントルー条約の体制から多くの恩恵を受けており、海峡におけるトルコの権威に従うであろう。モントルー条約の体制を無視することは、ロシアとトルコの緊張を直ちに拡大させることになり、非現実的である。トルコ外相の発言からは、トルコがモントルー条約の戦時規定を法的に実施することかどうかは、不明である。これまでのところ、トルコは海峡を封鎖する措置をとっていない。仮にトルコが海峡を閉鎖してロシア軍艦の来航を阻止したとしても、すでに戦闘を行っているロシア艦艇を黒海から退去させることはできない。また、ロシアが選択した場合には、これらのロシア艦船を帰還させる必要がある。モントルー条約の戦時規定を発動することは、NATOの重要な同盟国であるトルコが、ロシアとウクライナの紛争を深刻に捉えていることを示すことになる。また、ロシアの領空や世界経済市場へのアクセスを拒否することで、ロシアを孤立させようとする国際的な努力と広く一致することになる。
記事参照:The Russia-Ukraine conflict the Black Sea and the Montreux Convention

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1)The US Marines Are Waging Island Warfare Against China (In A Wargame)
https://www.19fortyfive.com/2022/02/the-us-marines-are-waging-island-warfare-against-china-in-a-wargame/
19FortyFive, February 21, 2022
By Stavros Atlamazoglou, a defense journalist specializing in special operations, a Hellenic Army veteran (national service with the 575th Marine Battalion and Army HQ)
 2022年2月21日、ギリシャ陸軍退役軍人で軍事ジャーナリストのStavros Atlamazoglouは、米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトに" The US Marines Are Waging Island Warfare Against China (In A Wargame) "と題する論説を寄稿した。その中でAtlamazoglouは、2月14日の週にUS Marine Corpsはインド太平洋地域において米海軍空母打撃群と共同で大規模な軍事演習Jungle Warfare Exercise 22を実施したが、この演習はジャングルや海上といった環境下における作戦行動に重点が置かれており、これは、もし中国との間で紛争が生じた時に主戦場となる地理を反映したものであるとして、同演習の詳細を報じている。その上でAtlamazoglouは、1960年以降、世界は劇的に変化したが、米国の役割は変わっておらず、米国と世界は対立を求めないが、習近平国家主席と中国共産党は、かつてのソビエトのように、新全体主義(neo-totalitarianism)か戦いかの選択を迫っているかのような状態にあることから、平和は力によって達成されるという原則のもと、米国は有利な条件で平和を手に入れるためにも戦争の準備をしなければならないと主張している。

(2)Erdoğan’s straits of indecision in the Russia-Ukraine war
https://www.brookings.edu/blog/order-from-chaos/2022/02/28/erdogans-straits-of-indecision-in-the-russia-ukraine-war/
Brookings, February 28, 2022
By Kemal Kirişci, Nonresident Senior Fellow at Brookings
 2月28日、米シンクタンクThe Brookings Instituteの非常勤上席研究員Kemal Kirişciは、同シンクタンクのウエブサイトに“Erdoğan’s straits of indecision in the Russia-Ukraine war”と題する論説を寄稿した。その中で、①2月24日に、1936年に締結されたモントルー条約に基づき、ロシア軍艦がボスポラス海峡とダーダネルス海峡を通峡し、黒海への出入りを閉鎖するようウクライナがトルコ政府に対して要求したため、トルコのErdoğan大統領は、自身の無策を終了せざるを得なくなった。②トルコのMevlüt Çavuşoğlu外相は2月27日、ウクライナで展開されていることはまさに「戦争」であり、交戦国の軍艦に対してこれらの海峡を事実上閉鎖していると発表した。③モントルー条約は、これらの海峡を通過する軍艦を規制するための一連の条項を制定し、黒海を出入りする海上交通を85年にわたり規制してきた。④ウクライナのZelenskyy大統領の訴えは、戦時中に交戦国からの軍艦の通航に対して、トルコが海峡を閉鎖するよう義務付けたこの条約の第19条に関するものである。⑤トルコにとって、経済や防衛に関してロシアとウクライナは重要な国であるが、依存度という点では、ロシアに有利な状況になっている。⑥Erdoğanは、現在の政策を継続するか、それともトルコを伝統的な西側の戦略的方向性に戻すかという新たなジレンマに直面している。⑦Erdoğanに対して以下の3つのことが提案されている:反西欧的な発言を止めること、トルコがモントルー条約の回避が可能になるとしてイスタンブール運河建設計画を正当化することを諦めること、そしてトルコのロシアへの依存度を高めているロシアのミサイル・システムS-400を廃棄することであると主張を述べている。

(3)Marine Governance in Asia: A Case for India-ASEAN-South Korea Cooperation
https://www.orfonline.org/research/marine-governance-in-asia/
Observer Research Foundation, February 2022
By Abhijit Singh, A former naval officer, Senior Fellow, heads the Maritime Policy Initiative at ORF
Anasua Basu Ray Chaudhury, Senior Fellow with ORF’s Neighbourhood Initiative
 2022年2月28日、インドのシンクタンクObserver Research Foundation上席研究員Abhijit SinghとAnasua Basu Ray Chaudhuryは、同シンクタンクのウエブサイトに" Marine Governance in Asia: A Case for India-ASEAN-South Korea Cooperation "と題する報告書を公表した。その中でSinghとChaudhuryは、2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の期限とされた2030年まで10年を切ったこともあり、世界中で危機感が広がっているが、これまで世界各国の取り組みは緩慢なものであり、やや楽観視されてきた面があると述べた上で、本報告書は、海洋ガバナンス、貿易、連接性、基幹施設の分野におけるインド、韓国、ASEANの提携の展望を評価するものであり、中国による沿岸地域の軍事化、西太平洋と東インド洋における大国間競争の激化など、経済と安全保障の課題が増大する中、海洋ガバナンスと経済成長のための共通の枠組みの展望を探究したものであると述べ、本報告書の位置づけなどを解説している。報告書の中で、SinghとChaudhuryは、海洋ガバナンスの強化を目的とした小規模ないわゆるミニ・パートナーシップだけでは、インド太平洋地域のあらゆる課題に対処することはできないだろうと指摘し、いかなる試みも、「法に基づく」「人間の安全保障を中心とした」秩序を確立するための、より大規模で包括的な計画の一部となる必要があるため、インドは、日本、インドネシア、シンガポール、オーストラリア、米国などの提携国と協力することが不可欠だと述べ、これからのアジアの時代を実現するためには、アジアの強国間の協力が不可欠であり、今後、「商業、連接性、文化、創造性、持続可能性」をキーワードとして提携を構築していくべきであり、このような取り組みは、SDGsの実現にも役立ち、地域諸国がより広範な開発目標を達成することを支援することになると主張している。