海洋安全保障情報旬報 2022年2月1日-2月10日

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2月1日「中国軍南部戦区からトンガへ派遣された救援部隊の意味―香港紙報道」(South China Morning Post, February 1, 2022)

 2月1日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“What Tonga aid mission tells us about China’s military modernisation”と題する記事を掲載し、中国軍が火山の噴火と津波による被害を受けたトンガへ救援部隊を派遣したことについて、要旨以下のように報じている。
(1) 1月の火山噴火と津波による壊滅的な被害を受けたトンガへの中国の救援活動は、中国軍の長距離作戦能力を浮き彫りにしたと評論家たちは述べている。この救援部隊には、中国軍の南部戦区から海軍部隊と空軍部隊が参加し、それは、Y-20輸送機2機と、Type071揚陸艦「五指山」、Type901総合補給艦「查干湖」の2隻の艦艇で構成されていた。元中国軍教官の宋忠平によれば、33トンの物資を運んだY-20の移動距離は1万キロ以上に及び、この航空機がこれまで行ったもので最も遠距離の海外派遣任務になったという。一方、1月28日と1月30日にこの南太平洋の国に到着した2隻の艦艇は、1,400トンの救援物資を同国に届けた。
(2) 中国軍は、発展途上国への影響力を高め、責任ある世界的な行為者としての地位を確立するための中国の取り組みの一環として、ワクチン配布を含む救援活動を拡大してきた。今回の派遣は、支援活動やその他の非軍事的任務が如何に中国軍の近代化過程において役割を果たすかを浮き彫りにしたとして、「中国軍は、軍事的な任務と非軍事的な任務の両方を担っており、テロ対策、海賊対策、災害救助及び人道支援は、全て中国軍の任務である」と宋は述べたうえで、「これらの任務は、軍隊全体の近代化にとって非常に重要である」とし、今世紀半ばまでに「戦闘に即応し得る」「世界クラスの軍隊」を構築するという北京の構想に言及した。
(3) 香港を拠点とする軍事評論家である梁国梁は、トンガでの中国軍の任務は、係争中の南シナ海に対して責任を負う南部戦区が、世界の他の地域も担当する必要があったことを示していると語っている。しかし、宋は異なる戦区がアデン湾に部隊を派遣しており、中国軍は非軍事的任務に関する部隊派遣について異なる取り決めをしている可能性があると述べている。
記事参照:What Tonga aid mission tells us about China’s military modernisation

2月4日「東南アジア・南シナ海で強まる海上法執行-オーストラリア専門家論説」(The Strategist, February 4, 2022)

 2月4日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、オーストラリアGriffith UniversityのGriffith Asia Institute兼任教授で京都外国語大学で国際関係論を教えているMichael Heazleの” Boosting maritime law enforcement in Southeast Asia and the South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでHeazleはフィリピン、マレーシア、ベトナム、インドネシアが、漁業やその他の海洋活動をより効果的に規制・取り締まる努力をしているのを、豪印日米4ヵ国が支援することで、中国の侵入を間接的に阻止することができるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2016年7月に国際仲裁裁判所が南シナ海の広範囲の海域に対する中国の主張を却下してから5年半が経過し、東アジアの国際海洋秩序は明らかな問題を抱えている。中国は、依然として西沙諸島と南沙諸島の大部分に対する支配を強化し、南シナ海の沿岸国のほとんどが主張している排他的経済水域(以下、EEZと言う)への侵犯を増加させている。特にフィリピンとベトナムは、これまで中国の侵犯を何度も受けており、インドネシアのナツナ諸島やマレーシアのEEZも、中国が第1列島線の南側海域を支配するために狙っている。
(2) オーストラリア、インド、日本、米国、その他の志を同じくする国々が地域の安全と繁栄の中心と考えている秩序は、国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)である。しかし、中国のグレーゾーン戦術は継続しており、UNCLOSの権威と妥当性は弱められている。それはUNCLOSの規則と権威を支持する協調的で統一された地域の態勢がないからである。
(3) 中国が自国の海洋法を他国に一方的に押し付け、他国の漁業権やその他の海洋権を否定し続けることが広範囲な海域に及ぼす影響を考えると、UNCLOSに基づくすべての南シナ海沿岸国の権利を確実に保護するためには、豪印日米の4ヵ国をはじめとする国々がより一層努力しなければならない。中国政府が南シナ海で大きな存在感と影響力をさらに拡大させることを許せば、豪印日米が南シナ海やその他の場所での中国の行動に対抗するための外交的な支援を得ることが困難になり、この地域での大国間の軍事衝突の可能性が高くなる。
(4) ASEANは、UNCLOSを海洋権益紛争解決の基本とすることを様々な形で表明しているが、内部対立によってASEANの役割は大きく損なわれている。ASEANの多くの人々は、米国と中国のどちらかを選ばなければならなくなること、ASEANが自国の裏庭で行われる大国の政治から疎外されること、そしてこの地域がより軍事化され、紛争が起こりやすくなることを恐れている。中国の主張に対するASEANの統一された姿勢や対応が見られないのは、南シナ海問題の影響を直接受けていない加盟国や、中国政府と敵対しないことで得られる利益を優先する政財界の指導者層の存在があるためで、ASEAN内の対立する海洋権益主張国が、UNCLOSの規定について相反する解釈をしていることも、ASEAN共通の立場を構築する上での障害となっている。
(5) 中国政府の攻撃的な行動に後押しされて、沿岸部のASEAN諸国の間では、海洋法執行やその他の海洋問題で協力する意思が強まる兆しが見え始めている。セレベス海で重なり合うEEZに関するインドネシアとフィリピンの協定は、2014年に両国政府によって批准された。ベトナムとマレーシアは、マレーシア領海でのベトナム人の違法漁業など、いくつかの問題点に対処する海洋安全保障協力に関する覚書を締結する予定である。また、ベトナムとインドネシアは、北ナツナ海のEEZの重複部分に暫定的な境界線を設定する交渉を続けており、昨年12月には海洋安全保障に関する協力改善のための覚書に署名した。これら2国間協定は、当事者の海洋権益を主張すると同時に、中国の違法な九段線の主張を明確に拒否したものと解釈すべきである。
(6) 中国政府が海上民兵を海洋漁業に派遣することは、違法漁業の疑いをかけられることになり、その結果、UNCLOSに基づく合法的な海洋法執行措置の対象にもなる。したがって、南シナ海における長年の違法・無報告・無規制漁業の問題は、中国の違法な海洋権益主張に最も脅かされているフィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアの南シナ海諸国にとっても重要である。豪印日米4ヵ国による能力開発と規制面での支援を受けることで、UNCLOSに基づく非軍事的で、中国の主張やグレーゾーン戦術に対抗する手段を共同で開発することができる。そうすることで、外部の国々ではなく、域内の国々が海洋権益の維持・確認を主導することになる。また、UNCLOSの権威と妥当性を広く明確にし、軍事的な情勢悪化の責任を中国に負わせることで、中国の指導者にグレーゾーンが問題となることを認識させ、特に中国自身の紛争閾値の計算という点で、中国を追い詰めることにもなる。
(7) もし中国が南シナ海を支配したら、他のすべての国の資源と航行の自由の権利が消滅し、これらの資源と権利の協力的または地域漁業管理組織のような多国間管理の計画が無駄になる。中国の誤った管理、または対立や紛争の激化、あるいはその両方によって、この地域最大の水産資源が壊滅的に崩壊する危険性が大幅に高まる。このような結果は、すでに水産資源が枯渇している東南アジアの水域や、オーストラリアや日本を含む他国のEEZでの違法漁業の増加を招く。
(8) フィリピン、マレーシア、ベトナム、インドネシアが、漁業やその他の海洋活動をより効果的に規制・取り締まる努力をしているのを、豪印日米4ヵ国が一丸となって支援することで、中国のグレーゾーンへの侵入を間接的に阻止することができるとともに、沿岸諸国が、この地域の社会経済的安全と将来の繁栄に対する脅威をよりよく管理できるようになる。
記事参照:Boosting maritime law enforcement in Southeast Asia and the South China Sea

2月4日「仏中、インド及びパキスタンの潜水艦増強競争を加熱―ロシア専門家論説」(Asia Times, February 4, 2022)

 2月4日付の香港デジタル紙Asia Timesは、ロシア政府研究員Gabriel Honradaの“France, China fueling India, Pakistan sub race”と題する論説を掲載し、Gabriel Honradaはインドとパキスタンがそれぞれフランスと中国の支援を受けて、その通常潜水艦部隊を増強しているが、それは印仏が戦略的自律の追求で戦略的目標が一致しており、パキスタンと中国は対インドという点で利害が一致した結果であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インドとパキスタンは通常型潜水艦の部隊をそれぞれフランスと中国の支援を受けて強化している。
(2) 2月、インドはカルヴァリ級潜水艦5番艦「ヴァギル」の海上公試を開始した。「ヴァギル」は2020年11月にインドMazagon Dock Shipbuilders Limitedのカナージ・アングリア艤装ドックで進水している。カルヴァリ級はフランスのスコルペヌ級潜水艦のインドにおける艦級指定で、2005年に始まった印仏間の技術移転計画によって建造されているものである。計画はカルヴァリ級潜水艦6隻をもって2024年にインド潜水艦部隊を近代化することを目的としている。同時にインドの戦略的自立を強化するため国産化を強化するModi首相の「メイク・イン・インディア」政策の下で進められている。カルヴァリ級潜水艦にはフランス製、及びインド製のサブシステムが搭載されている。フランス製として、DCNS SUBTICS戦闘指揮システム、Thales S-CUBEソナーシステム、F21長魚雷、エクゾセ対艦ミサイルが含まれる。カルヴァリ級潜水艦に導入されているインドの技術には、Flash Forge India社の特殊素材鍛造部品、SEC Industries社の潜航関連機器、兵器操作機器、HBL Power Systems社のコマンド・コンソールなどがあり、Defence Research and Development Organisationが開発したリン酸形燃料電池が後日装備の候補に挙げられている。
(3) パキスタンはハンゴル級潜水艦5番艦の建造を2020年に開始した。ハンゴル級潜水艦は中国のNATOコードで元級潜水艦、Type039A潜水艦の派生型で8隻中4隻をKarachi Shipyard and Engineering Worksが建造することでパキスタンが中国との合意に署名したものである。残り4隻はChina Shipbuilding Industry Corporationで建造される。Type039A潜水艦は中国の潜水艦として初めてAIPシステムとしてスターリング・エンジンを搭載している。ハンゴル級潜水艦5番艦はパキスタンで最初の国内建造の潜水艦となる。これはパキスタンと中国の間の国産化計画を反映したもので、フランスとインド間のものと似ている。新しい潜水艦は2022年から2028年にかけてパキスタン海軍に編入され、フランスが建造した旧式のアゴスタ90B級潜水艦と交代する。
(4) Type039A潜水艦の情報は少なく、設計は10年以上のものと古いが、最新の潜水艦と同じように静粛であり、同等のステルス技術とセンサーが導入されていると言われている。同級潜水艦はロシアの魚雷及びミサイルの中国の模倣版を中国国産兵器と同様に運用が可能である。ハンゴル級潜水艦については、パキスタン海軍がサブシステムや特定の兵器について詳細を公にしていないので、利用できる情報は限られている。しかし、同級潜水艦は中国製兵器あるいはバーブル巡航ミサイルのようなパキスタン国産兵器を運用できると考えられている。
(5) 潜水艦計画を巡るインドとパキスタンの競争は、論理的根拠とそれぞれの戦略的提携国と関係の深さを反映している。インドは、米国の風下の同盟国になることの恐れから米国主導の日米豪印4ヵ国安全保障対話(QUAD)に完全に関わることを躊躇してきた。同様にフランスの戦略的自律の推進は、米国への隷属的な地位から自由な欧州共同体の創設とそこに重要な世界の大国としてのフランスを置くというCharles De Gaulle元大統領の未来像を反映している。インドとフランスは、米国から独立した安全保障関係を生み出す両国の共同潜水艦計画を通じて互いの戦略的自律を強化するのに適した立ち位置にいる。
(6) パキスタンはより強大なインド海軍との釣り合いをとる必要があり、インドの注目をヒマラヤからインド洋に向けさせると同時にインド洋での足がかりを確立したい中国の戦略と相まって、パキスタンと中国を政略結婚に向かわせるかもしれない。パキスタンの中国製兵器への依存は中国にパキスタンの対外政策、国防政策を支配する手段を与えると同時に、中国製潜水艦は資金繰りに苦しむパキスタンにとって最良の取引かもしれない。
記事参照:France, China fueling India, Pakistan sub race

2月7日「米国が南シナ海での活動から引き出すべき教訓とは―中国国際問題専門家論説」(China US Focus, February 7, 2022)

 2月7日付の香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focus は、中国国際問題研究基金会の研究員呉祖荣の“Lessons from the South China Sea”と題する論説を掲載し、そこで呉は米国がいまや南シナ海や台湾海峡における航行の自由作戦の実施について再検討を始めるべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2022年1月24日、米国のF-35ステルス戦闘機が南シナ海での作戦行動中に空母「カール・ビンソン」から海中に転落するという事故を起こした。また2021年10月2日には、原子力潜水艦「コネティカット」が南シナ海で未確認物体と衝突し、10人が負傷するという大きな事故を起こした。戦闘機の引き上げや艦艇の修理、人員の補充といったこの2つの事故の後処理には数十億ドルが必要であろう。米国の納税者はなぜそのために税金が使われねばならないのかを疑問に思うかも知れない。実際、米国は南シナ海で行ってきた航行の自由作戦を再検討し、その教訓を引き出すべき時である。
(2) 第1に、米国の航行の自由作戦は米国の戦略目標にとって何ら生産的ではない。その作戦の目的は中国や周辺各国に米国軍の力の優越を見せつけるためのものであるが、上述した2つの事故などは、その逆の効果を持ってしまっている。第2に、それは地域の平和と安定、さらには海洋環境にとって有害である。南シナ海の状況が安定的なものであったとしても米国はその作戦を続け、また上述の事故は海洋汚染の懸念を強めた。
(3) 第3に、南シナ海の領域をめぐる論争について、米国の政策は危険な段階に達してきている。本来、この論争に関して米国はどちらの立場に与するものでもないが、それが変わってきている。米国は、内海から大陸棚に至るまで沿岸諸国の海の権利を剥奪しようとしているように見える。航行の自由作戦を実施する米国は、領海内の交通は国際法によって認められたものであると主張し、許可や事前通告なしに領海内の無害通行を行っているのだ。国連海洋法条約を批准していないにもかかわらずこうした主張と行動をするのは、馬鹿げた話である。
(4) 第4に、南シナ海や台湾海峡周辺での米海軍の作戦は、米中関係を深刻なまでに傷つけ、米中両軍間の対話や協調にとっての障害となっている。米国が中国の主権や領土保全を侵害している時に、どうして中国が海に関する対話や協力について合意することを期待できようか。米国はインド太平洋戦略を通じて中国を封じ込めようとして、間違った方向に進んでいる。航行の自由作戦は米国にとっても戦略的負担になってきている。米国はそれを見直すべき時にきている。
記事参照:Lessons from the South China Sea

2月8日「ロシア・ウクライナ戦争の恐れのある中でのロシア海軍―英国専門家論説」(Foreign Policy Research Institute, February 8, 2022)

 2月8日付の米シンクタンクForeign Policy Research Instituteのウエブサイトは、ポーランドのシンクタンクStrategy & Future上席研究員でUniversity of Glasgow博士課程院生Nicholas J. Myersの“The Russian Navy in the Russia-Ukraine War Scare”と題する論説を掲載し、Nicholas J. Myersは現在のところロシアとウクライナの対立に関して、ロシア海軍の動きにはわずかな関心しか払われていないが、ロシア海軍は黒海における着上陸戦とバルト海とカスピ海からのミサイル攻撃による支援の準備ができているとして、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアとベラルーシの戦略的演習Zapad-2021が終了して間もなく、米国の情報に裏付けられた公開情報を分析している人々は、ウクライナ国境でロシア軍が新たに増強されていることを報告し始めた。ほとんどの追跡情報はロシア陸軍の装備の動きに集中しているが、ロシア海軍にも小規模ではあるが動きがある。
(2) 2014年にロシアとウクライナの紛争が発生して以来、一触即発の状況にある地域はウクライナの南部と東部であった。クリミア併合とドンバス地方での長年にわたる戦闘は、世間の多くの注目を集めてきた。しかし、ロシア政府は、ウクライナ政府に対する地元の反対は「ドンバス地方」ではなく「ウクライナ南部と東部」に根ざしていると一貫して主張している。ロシア政府がウクライナの南部と東部を優先しているのは、その地域はロシア語を使う人々が他の地域に比べて多いこと、及び特にドニプロのProduction Association Yuzhny Machine-Building plant (Yuzhmash)のロケット工場やムイコラーイフの大規模な造船所などのソ連時代からの戦略的産業がその地域に集中していることを反映している。したがって、ロシア陸軍部隊をウクライナ北部国境に集結させたことと、ロシア軍を極東からベラルーシまで7,000kmの長距離を移動させたことは、ロシアの攻撃予想に関して、ウクライナの南部と東部が政治的に優先されていることを世間の関心からそらすものである。クリミアにもロシア軍の集結がいくつかある。クリミア半島は、3つの地峡でしか本土と繋がっていない。そのことは、ロシア海軍がロシアとウクライナの間の戦闘が拡大した場合に重要な役割を果たすかもしれないことを示唆している。
(3) ロシア海軍は、Northern Fleet及びBaltic Fleetの大型揚陸艦6隻を地中海に移動させた。さらに、Pacific Fleetの巡洋艦「ワリヤーグ」と駆逐艦「アドミラル・トリブツ」は、補給艦「ボリス・ブトマ」の支援を受けつつ、2月2日にスエズ運河から地中海に入った。Pacific Fleet隷下の艦艇が地中海に入るのは前例がないわけではないが、稀である。巡洋艦「ワリヤーグ」と駆逐艦「アドミラル・トリブツ」は、Pacific Fleetが保有する5隻の大型水上艦のうちの2隻である。
(4) これらの艦艇9隻の地中海への移動は、懸念と疑問を起こさせる。他の艦隊の多くのロシアの大型水上艦と同様に、これらの艦艇の就役時期は、ほとんどが1980年代に遡る。2隻は1970年代で、Northern Fleetの揚陸艦「ヒョートル・モルグノフ」だけがソ連崩壊後の2020年に就役した新しい艦である。ウクライナ政府がクリミアを支配した時からウクライナの法的規制によって艦の近代化が阻止されてきたBlack Sea Fleetは、すでに老朽化している転籍してきた艦艇よりも、さらに古い揚陸艦や水上艦を保有している。そのため、これらの比較的新しい艦艇9隻による支援は、作戦に参加する可能性が高い水上艦の平均艦齢を実際に若返らせるであろう。
(5) Black Sea Fleet自体は、主に水陸両用戦能力及び沿岸防衛能力の向上のための訓練を実施している。水陸両用戦の訓練は、ロシアの遠征能力に対する関心の高まりを示している。Black Sea Fleetの揚陸艦は、シリアでのロシアの存在感を維持するために、タルトゥースへの物資輸送にほとんどの時間を費やしている。しかし、Black Sea Fleetのこれらの2つの能力向上は、想定されるウクライナまたは北大西洋条約機構(NATO)による攻撃からのクリミアの防御し、増援することを目指している可能性が高い。確かにクリミアは戦略演習 Kavkaz-2016の主たる対象地域である。新たに到着した6隻の大型揚陸艦は、セバストポリに拠点を置く7隻の老朽化してはいるもののまだ能力はある揚陸艦の水陸両用戦能力を補強し、現在の戦争への恐れが従来型の戦争に変わった場合には、強力なロシア海軍が水陸両用戦を展開し、ウクライナとの前線を拡大しようとしていることを示唆している。これら揚陸艦は1隻ずつでは重装備の中隊を輸送することしかできないが、これらの13隻の揚陸艦は定められた時刻に完全装備の大隊戦闘団を最大3個輸送することができる。
(6) 3つの主要な取り組みが戦争への事態拡大への道を開く可能性がある。第1の最も野心的ではない取り組みは、現在ドンバスに展開するウクライナの第1線部隊の背後のアゾフ海に艦艇を配備することである。その海岸は比較的開かれており、ウクライナ南東部の地形は世界で最も平坦で最も開かれている。そのような場所での着上陸は、理論的には、ドネツクとルハンシクの分離主義勢力に対して配備されたウクライナ軍を包囲するためにハリコフ近郊から出撃するロシア陸軍大部隊と連接することができるかもしれない。しかし、地図を一目見れば容易にわかるが、ロシアの着上陸部隊がドンバスの最前線、あるいはクリミア地峡の1つで他のロシア軍部隊と会合するために必要な期間、アゾフ海を横断する補給品の流れを維持するか、ウクライナの北東国境から敵勢力下の400km以上の距離を切り開くことができなければ、着上陸作戦は長大な距離を防衛し、計り知れない危険に対処することになる。
(7) 第2の選択肢の特徴は、クリミアの西部、ケルソンの南、黒海に入るドネプル川河口の東に対する水陸両用戦である。ここで使用できる海岸線は短いが、比較的開かれており、クリミア国境を遮断し、ウクライナ軍を分断するために使うことができる。この作戦では、クリミア半島の灌漑用水パイプラインに迅速に接近できる。このパイプラインは2014年から閉鎖されており、ドネプル川の豊かな水資源の利用を取り戻すことで、クリミアの水不足が解消される。この選択肢の重要な欠点は、ケルソン州南部の防衛が本土にいたるクリミア地峡保持よりも実質的に困難であり、クリミアの水のパイプラインは破壊活動の格好の目標になることである。このような戦争の事態拡大は、少なくともウクライナ軍の反撃をほぼ確実に引き起こすであろう。ロシア軍はその反撃を撃退するためにはドンバス近郊やクリミアに駐留するよりも多くの兵力を必要とする。
(8) 第3のおそらく最も野心的な選択肢は、オデーサやムィコラーイウ(旧ニコラーエフ)制圧の一環として、さらに西側に着上陸することである。ドネプル川の西側のウクライナの黒海沿岸の特徴は、急斜面であり、着上陸できる地点は狭く、たいていは海辺に向かって開かれた村落であり、河口の西側の沈泥の堆積物に取り囲まれている。オデーサはロシア語を話す人々の多い都市であり、おそらくウクライナで最も多くのロシア贔屓の人々が残っているが、ウクライナの海兵隊によって守られている。彼らの多くはクリミアから立ち退かされたことを鮮明に覚えている。ムィコラーイウは、2013年に始まったユーロマイダン革命は親ロ派大統領追放につながったが、2014年、ウクライナ東部で親ロ派がアンチマイダンを起こし、クリミア併合等につながったことから親ロ派のアンチマイダンがムィコラーイウで受け入れられる可能性が低いことが確認されているオデーサ、ムィコラーイウを制圧することは重要な産業を取り戻すことになる(オデーサは、ウクライナ最大の港湾都市であり、機械製造、造船などウクライナを代表する工業都市。ムィコラーイウは空母を始めとする艦艇建造、艦艇用ガスタービン製造など特に海軍にとって極めて重要な都市:訳者注。)。しかし、その制圧によって、ウクライナ西部の統合に向けたキエフの動きを止めることができるウクライナの有権者の中の親ロシアの人々の割合を維持する望みは確実に損なわれるであろう。
(9) これらの選択肢全ては、危険性が高く、利得は控えめである。ウクライナへの着上陸戦の事態拡大とロシア海軍が兵力を集中できる可能性は不確実である。ロシア海軍が地中海に移動させた艦艇は、ロシアの水上艦が誇りとしている新しい水上艦艇発射巡航ミサイル(以下、SLCMと言う)をまだ備えていない。ロシア海軍はBaltic Fleetのミサイルコルベットを北海と北大西洋に移動させ、Northern Fleetの大型水上艦と小型ミサイル艇を黒海に移動させたという歴史を持つ。
(10) ロシア海軍の潜水艦の増強の問題も同じように興味深い。ロシア海軍の潜水艦は水上艦部隊よりもはるかに強力であるが、公開情報では潜水艦に特別な動きは見られない。2021年12月27日、Black Sea Fleetの通常型潜水艦「ノヴォロシスク」が修理地から地中海に帰った。ロシアの潜水艦の行動を制限する可能性のある明らかな問題は、黒海での海軍の配備を規制するモントルー条約である。他の制限のある中で、モントルー条約は潜水艦のボスポラス・ダーダネルス海峡の通峡は修理地への往返に制限している。この制限はBlack Sea Fleetの潜水艦がロシアの様々な造船所での修理の前後に数ヶ月間、地中海で行動するというように拡大解釈されている。ロシア海軍艦艇は、黒海艦隊とは対照的に、他の艦隊から地中海に移動してきている。モントルー条約21条の規定により、トルコは交戦中もしくは脅威を感じている国から艦艇を排除することができる。したがって、NATO加盟国であるトルコは、これらの艦艇の黒海への移動を阻止することができる。黒海に入った艦艇はモントルー条約により21日を越えることなく黒海で行動することができるので、ロシアは意図した侵攻発動日が近づくまで、海軍増援部隊を地中海で単に滞留させておくかもしれない。
(11) 2015年にロシアがシリアへ介入した初期の段階で、ロシア海軍はカスピ海からクラブSLCMをシリアの標的に発射し、ロシアの水上艦が長射程のミサイルを持ち、戦術的な効果をあることが明らかになった。しかし、巡洋艦「ワリヤーグ」に搭載されたSLCMは旧式のSS-N-12であり、地中海からオデーサさえも攻撃する射程を持っていない。さらに地中海にある揚陸艦は、ウクライナ攻撃にはほとんど使用されていない。考慮すべき1つの可能性は、現在配備されている最も射程の長い型式のクラブSLCMがバルト海からカフカスまで発射可能であり、言い換えれば、ミサイル艇がBlack Sea Fleetに再配備されないのは、その必要ないからである。このクラブSLCMの長射程型は、おそらく間接的な飽和攻撃に近いことを達成するには十分な量を使用することはできないからかもしれない。しかし、ウクライナがロシアに地理的に近いということは地上及び航空機から攻撃可能であり、海からの攻撃能力の必要性を相殺する以上の有利さを意味する。さらに、Black Sea Fleet、2014年からキロ級潜水艦6隻にクラブ-PL SLCMを搭載している。クラブ-PL SLCMは、長射程のため、これら6隻を艦隊間を移動させて運用する必要が無いものとする可能性がある。さらに、これら潜水艦6隻のうち3隻が現在地中海に配備されている。ロシアに対抗するウクライナは、2021年時点で ネプチューン地対艦ミサイルを若干数保有している。これらのミサイルは黒海のロシアの揚陸艦やその他の大型水上艦艇に損害を与える可能性もあるが、ロシア海軍またはロシア航空宇宙軍が、ウクライナとの戦闘開始後の数分または数時間でこれらのミサイルシステムを破壊してしまう可能性が高い。
(12) 以上を要約すると、ロシア海軍は現在の戦争の恐れが紛争に発展する場合に、ウクライナの防衛正面をロシアが拡大(し、各防衛正面の兵力を手薄に)するために重要な機能を果たすだろう。ロシア海軍は、政治的に最も重要な軍事目標のいくつかを達成する上で不可欠であろう。現在のところ、ロシア海軍の動きは黒海における水陸両用戦能力の増強に若干の関心しか持っていないことを示している。しかし、ロシア海軍は戦闘において直接的と接触しないで攻撃する選択肢を増やそうとするロシアの動きに沿って、バルト海とカスピ海からの火力支援を維持するだろう。
記事参照: The Russian Navy in the Russia-Ukraine War Scare

2月8日「米国は太平洋島嶼国3ヵ国との『自由連合盟約』の再交渉を急げ―オーストラリア専門家論説」(The Diplomat, February 8, 2019)

 2月8日付のデジタル誌The Diplomatは、Australian National University客員研究員Patricia O'Brienの“The US Is Squandering Its COFA Advantage in the Pacific” と題する論説を掲載し、ここでPatricia O'Brienはマーシャル諸島共和国(RMI)、ミクロネシア連邦及びパラオ共和国の3国と米国との間に結ばれた盟約「自由連合盟約」の再交渉を米国は急ぐべしとして、要旨以下のように述べている。
(1) マーシャル諸島共和国(以下、RMIと言う)、ミクロネシア連邦及びパラオ共和国の3ヵ国と米国との間に結ばれた盟約「自由連合盟約(Compact of Free Association: 以下、COFAと言う)」は、米国にとって、特に戦略的側面において重要である。これら3ヵ国の海洋境界は、中国との厳しい競争の時代にあって最も戦略的に重要な太平洋の広大な海域を包摂している。さらに、パラオとRMIの両国は、重要な米軍基地の受入国である。最近、US Department of Defenseは、両国を追加の軍事施設の建設の候補地と発表したが、その成否は米国との今後の関係の如何にかかっている。現在、米国でCOFAの将来について懸念されているのは、パラオとのCOFAの期限が2023年と2024年に切れる前にこれら3ヵ国と再交渉しなければないないことである。しかし、RMIとの最も複雑な交渉について、2020年12月以降、正式な会合は開かれていない。
(2) RMIにおける米国の核実験の遺産の問題に焦点を当てた2021年10月の超党派の議会公聴会に先立って、COFAに関する交渉再開のための緊急の行動を求めた書簡がBiden政権に送られた。2月の時点では、COFAの3ヵ国からの繰り返しの要請にもかかわらず、この面では何らの進展もない。この不作為は、米政府内に鋭い分裂を生み出した。一方では、交渉の迅速かつ公正な解決を熱心に支持する議会指導者間の異例の超党派連合であり、他方は米国とCOFA諸国との関係の重要な側面を管轄している省庁――主にUS Department of State、US Department of Energy及びUS Department of the Interiorの各省である。再交渉問題の解決を「最優先事項」とする保証にもかかわらず、解決にはほど遠い状況にある。US Department of Stateは、この公聴会に証人を派遣することさえ拒否した。
(3) COFAの3ヵ国と米国との独特の関係を理解するには、その根底にある歴史を知る必要がある。現在、RMI、ミクロネシア、そしてパラオを構成する島々は、戦後の1946年に国連信託統治領として米国の管轄下に置かれた。それ以前の1945年9月には、米国は早くもマーシャル諸島のビキニ環礁を原爆実験場に選び、1946年7月に第1回実験を行い、以来、米国とマーシャル諸島を結び付ける、「核の歴史」の始まりとなった。1946年7月から1958年まで、米国は、67回の熱核兵器の実験を行った。これによる放射性遺産は桁外れなものであり、RMIの住民に深刻な影響を及ぼした。2011年には約5万3,000人を数えたRMIの人口は、2021年までに移住により3万9,300人に減少した。実験計画によって汚染された島々からの最初の核難民は1970年代に米国に移住し始め、今日、米国全土に広がるコミュニティを構成しており、連邦下院議員も出している。
(4) 米中関係の緊張が高まる中で、COFAの3ヵ国は、その戦略的に重要な地理的位置を超えた独特の立場にある。パラオとRMIは、台湾にある中華民国と外交関係を維持する域内で最後の2ヵ国である。対照的に、ミクロネシアは、1989年から中国と外交関係を持ち、近年、ミクロネシアが「次の米中紛争の戦場」と言われようになる程、その関係を目立って拡大してきている。しかしながら、ミクロネシアは、主として米軍事施設の受入国ではなく、またRMIと米国との関係を特徴付ける核遺産を持っていないことから、米政府ではCOFAの3ヵ国の中で最も重要視されていない。こうした状況は明らかに変える必要がある。
(5) RMIにおける米国の核遺産は、COFA再交渉における最も重要な位置づけにある。気候変動による急速な海面上昇の結果、エニウェトク環礁のルニト島にある核廃棄物集積所が危険になった。米国は、マーシャル諸島を信託統治した最後の数年間で、RMIでの核実験だけでなく、米本土ネバダ州での核実験で汚染された廃棄物も、1977年に完成したコンクリートドームの核廃棄物集積所に集め、封印した。当初は一時的な建造物と見なされていたルニト島のドームは劣化しており、US Department of Energyの代表者が2021年10月の議会公聴会で証言したように、海水がドーム内に浸入し、内部の放射性物質が海水に浸っている。2021年12月現在、核実験計画と現在も続くその影響に関する歴史的文書の秘密解除過程が進行中である(RMIは、重要な文書のマーシャル語への翻訳を求めている)。一方、US Department of Energyは、2022年にルニト島ドームからの漏洩の程度を確認するために、テストを実施している。現在のところ、ルニト島ドームの問題は、RMI政府が不満を抱いているが、米国によって設定された再交渉の議題とはなっていない。
(6) あらゆる角度から見て、COFAの再交渉は最も高い地位にある者の関心と欠点の修復を喫緊に必要としている。COFAの3ヵ国と米国との関係における正義、気候変動そして戦略的側面から判断して、真夜中の1分前とも言える切迫した状況にある。
記事参照:The US Is Squandering Its COFA Advantage in the Pacific

2月9日「台湾はどうなるのか-シンガポール専門家論説」(IDSS Paper, RSIS, February 9, 2022)

 2月9日付、シンガポールNanyang Technological UniversityのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)のウエブサイトIDSS Paperは、RSISのInstitute of Defence and Strategic Studies(IDSS)助教授Jonghyuk Lee及びRSISアジア研究の修士課程院生Linbin Wangの” A Taipei Moment Next?”と題する論説を掲載し、ここで両名は米国、中国、台湾のそれぞれの利害関係により、戦略的な均衡が保たれてきた台湾海峡にとっての最大の脅威は祖国の統一を通じて自分の歴史的遺産を確立したいという習近平の個人的な願望であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) これまで台湾海峡は、米国、中国、台湾それぞれの利害関係により、戦略的な均衡が保たれてきた。米国は、台湾というカードを使うことで、インド太平洋地域に確立したハブ&スポーク(中心拠点に貨物を集約させ、拠点毎に仕分けて運搬する輸送方式:訳者注)の安全保障秩序を維持し、中国の台頭を抑制することを目指している。中国政府は、台湾の統一を実現するために、海峡を挟んだ戦争を回避する能力を世界に示す必要がある。台北は、はっきりとした宣言ではなく、事実上の独立に向けた「サラミスライス」(小さな行動をゆっくりと積み重ねること:訳者注)のような方法が自国の利益に最も適していることをよく知っている。この均衡に対する最大の脅威は、祖国の統一を通じて自分の歴史的遺産を確立したいという習近平の個人的な願望である。
(2) 中国政府・台湾政府・米政府の三つ巴のゲームの焦点として、2,400万人が住む3万6,000平方kmの島である台湾は、米中が戦争の瀬戸際に追い込まれる可能性のあるもっとも危険な火種である。中国軍機の台湾領空への侵入や、人民解放軍(以下、PLAと言う)が行う大規模な水陸両用上陸演習は、2016年から常態化している。これに対して、米国は台湾海峡に艦艇を派遣し、現状を一方的に変えようとする中国政府の動きに反対の意思を示している。その結果、台湾の将来に対する不安が、島の内外で新たに生まれている。
(3) 現在、台湾が中国に統一される可能性について、いくつかの時期が予測されている。台湾国防部長の邱国正によれば、中国は2025年には台湾を侵略することが十分可能としている。US Department of Defenseは「2021年、中華人民共和国をめぐる軍事・安全保障上の動き」(Military and Security Developments Involving the People's Republic of China 2021)の中で、中国が2027年までにPLAの統合的近代化を達成した場合、台湾の指導者を交渉のテーブルに着かせるために武力に訴える可能性があると予測している。また、2049年は中国共産党が第19回党大会で定めた「中華民族の偉大な復活」の期限であり、その前提条件は祖国の統一の達成である。
(4) 2021年10月21日、米国のJoe Biden大統領は中国が台湾を攻撃した場合、米国は台湾を守るのかと2度にわたって質問され、"Yes, we have a commitment to do that "と発言して、自治領である台湾を守ることを約束した。しかし、その直後にホワイトハウスは、1つの中国という方針に変更はないことを緊急に明らかにした。米国の長年にわたる「戦略的曖昧性」の方針は継続されると考えられるが、中国政府が台湾に対して主張する行動には、より積極的に対応していくことになるだろう。
(5) 戦略的曖昧性は、米政府が使う一石二鳥の手段である。それは、中国政府と台湾政府の両方に向けた二重の抑止力となる。中国の台湾攻撃と台湾の独立宣言の両方に反対することで、米国は台湾海峡の平和を維持し、戦争に巻き込まれることなく、双方との関係を良好に保つことができた。このような戦略は、米国の国益に最も適うものである。そして米政府の戦略的曖昧性政策の「機能向上」と「更新」がすでに始まっている。Biden大統領の失言直後、Antony Blinken米国務長官はすべての国連加盟国に対し、台湾の国連システムへの参加を支持するよう働きかけた。さらに、米国議会は台湾への12種類の武器売却を承認しており、2016年以降、数回にわたり米国高官が台湾を訪問している。
(6) 台湾のために立ち上がる意思を示しているのは、米政府だけではない。2021年12月、安倍晋三元首相は「台湾の緊急事態は日本の緊急事態であり、日米同盟の緊急事態でもある」と述べた。また、その1ヶ月前には、オーストラリアのPeter Dutton国防相が米国と一緒に台湾を守らないことは「考えられない」とコメントしている。これらの発言は、あたかも西側諸国が戦略的明快性に移行したかのように聞こえるが、単なる口頭での発言であるため、これは「戦略的曖昧性」の機能向上と言える。米政府が戦略的曖昧性を調整している背景には、この地域における中国の自己主張の高まりがある。
(7) 習近平は2021年10月の革命110周年記念演説で「平和的手段による国家統一は、台湾の同胞を含む中華民族全体の利益に最も資するものである」と述べた。これは、2019年1月2日の中国共産党全国人民代表大会で伝えられた「台湾同胞へのメッセージ」の40周年を記念する演説でも述べられ、習近平は両岸統合のために、主に経済分野での5つの提案を行った。その結果、中国は台湾人による大陸でのビジネスを誘導するための26の新しい優遇措置を設けた。
(8) 軍事的な抑止力とは別に、中国は2016年以降、台湾の国際的な関与を制限し、台湾と外交関係を持っていた8ヵ国を奪っている。中国政府による台湾への行動は、中国国民のナショナリズムを掻き立てている。台湾への侵略を支持する世論は、当局の黙認に後押しされて大きく盛り上がっている。中国のインターネットフォーラムBBS-Tianyaによる2018年の世論調査では、ネットユーザーの96%が、蔡英文氏が台湾の総統に再選されれば、中国の武力行使が促進されると回答した。
(9) 憲法に習近平思想を盛り込み、国家主席の任期制限を撤廃したことで、最近、中国では強権政治が復活している。それを裏付けるかのように、中国共産党の第19期中央委員会第6回総会終了後の声明で、中国は毛沢東で立ち上がり、鄧小平で富み、習近平で強くなるという大飛躍を遂げたと発表された。さらに「1992年コンセンサス」や「台湾独立反対」などの決まり文句を繰り返すだけでなく、「外国の干渉に反対する」「両岸関係の主導権と能力を維持する」など、習近平の意向を汲んだ言葉が初めて盛り込まれた。
(10) 強権体制とは、万が一の時に責任を取る人が1人しかいないことを意味する。習近平が戦争に踏み切れば、改革開放政策による40年間の中国の歩みが水泡に帰すだけでなく、2021年の中国共産党創立100周年に掲げた「中国の安定と繁栄、世界での地位向上のために努力する」という約束も絵空事となる可能性があり、習近平の正統性が疑われるのは間違いない。習近平は、中国にとって非常に有利な状況になるまで待つという選択肢もある。しかし、そのような戦略的機会が現れるまでに、どれほどの時間がかかるのだろうか。
(11) 実際、この戦略的な三角関係には、3ヵ国の意図が明確に表れている。米政府は、中国の台頭を抑えるために台湾カードを最大限に活用し、台湾-中国の戦争に引きずり込まれ、インド太平洋のハブ&スポーク安全保障秩序が崩壊することを避けたいと考えている。台湾政府としては、事実上の独立に向けた「サラミスライス戦術」が順調に進んでいるときに、中国政府を刺激して報復攻撃を受け、米政府に「裏切られる」危険を避けたいと考えている。そして中国政府は、指導者の若返り、すなわち習近平の引退前に、台湾海峡での戦争を回避する能力があることを世界に確信させたいと考えている。
(12) 偶発的な事件の連鎖による予期せぬ総力戦は、三者の望ましい方策を希望的観測に変え、何としても勝利を求めざるを得なくなるだろう。戦争が長期化した場合、三者の国民はそのような戦争を支持し続けるのだろうか。その時、台湾の統一はどのような形になるのか。米国をはじめとする地域の国々は、起こりうる戦争に介入するのだろうか。それとも、海峡を挟んだ現状維持なのか。それは時が来れば分かるであろう。
記事参照:A Taipei Moment Next?

2月10日「COC、2022年中の締結は不可能か―香港紙報道」(South China Morning Post, February 10, 2022)

 2月10日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: China-Asean code of conduct unlikely by end of the year, experts say”と題する記事を掲載し、2022年中の締結が目指されていた南シナ海における行動規範について、その見通しが暗いとする東南アジア専門家の議論をまとめ、要旨以下のとおり報じている。
(1) 2月9日、Georgetown Universityなどが公演したChina Watching: The View from Southeast Asiaというパネルが開催され、3人の東南アジア専門家が議論した。それによれば、南シナ海における行動規範(COC)は2022年末までの締結が目指されていたが、それが実現する可能性は低いという。そのことは、2021年12月の中国人民解放軍の退役少将によっても指摘されていた。COCをめぐって、法的拘束力を持つべきかどうか、それが包摂する地理的・活動に関する範囲、地域外の国々の役割について意見がまとまっていないという。
(2) パネルに出席したシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies准教授 Hoo Tiang Boonによれば、COCの締結は2023年の終わりになってもあり得ないかもしれない。2022年のASEAN議長国カンボジアは投資、貿易などに関して中国に大きく依存しており、その責任だという声もあれば、世界的感染拡大のせいだという意見もある一方、Hooによれば多くの争点について意見がまとまっていないという。一例を挙げれば法執行の機構であり、たとえば規則を破った国が出たときにどう対処するかが決まっていないのである。
(3) Hooは、COCに欠陥があるのであれば、ないほうがマシだと主張する。欠陥のあるCOCは東南アジアにとって手枷になるだけであり、シンガポールにしてみれば、軍事的危機につながりかねない重大な事件がなければ、それが最良だと言う。同様のことを、Center for Strategic and International Studiesの非常勤在外研究員Bich T. Tranも述べている。すなわち、中国側の条件を土台にするような規範ならないほうがマシだと言う。
(4) 中国が時間稼ぎをして交渉を引き伸ばしている可能性があるともHooは言う。つまり、中国は南シナ海の島々を軍事化しているが、それを既成事実化し、その上で現状の変更を認めないCOCを策定しようとしているのではないか。同様の点を、フィリピンのDe La Salle Universityの国際関係学教授Renato Cruz De Castroも指摘する。またCastroの指摘によれば、フィリピンは米国やオーストラリアなど域外勢力の展開を歓迎しているが、中国はそうではない。
(5) COCの叩き台が2018年に発表されてから、進展はほとんどない。2021年8月に中国とASEANはようやくCOCの前文について合意に達した。その年の1月に交渉を再開して8ヵ月も経ってのことであった。叩き台の2度目の読み合わせが現在オンラインで進行中である。
記事参照:South China Sea: China-Asean code of conduct unlikely by end of the year, experts say

2月10日「対英戦略としてアルゼンチンを支援する中国―米専門家論説」(The Heritage Foundation, February 10, 2022)

 2月10日付の米シンクタンクThe Heritage Foundationのウエブサイトは、同シンクタンクのMargaret Thatcher Center for Freedomのセンター長Nile Gardinerの“Brexit Britain Is China’s Most Dangerous European Enemy”と題する論説を掲載し、Nile Gardinerは中国がBREXIT後の英国を脅威として認識しているため、フォークランド諸島をめぐって英国と対立しているアルゼンチンを支援しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 北京オリンピックの舞台裏で、中国共産党の支配者たちは、世界第2の経済大国である中国とのビジネス、貿易、投資の関係を強化しようとする複数の国々に対して、ソフトパワーを行使することに忙しくしている。その中の1国がアルゼンチンであり、この国はラテンアメリカにおける不安定で無力な国家(basket case)であり、数十年にわたる失政、汚職、経済政策の失敗の結果、3,230億ドル相当の公的債務の重荷の下に沈んでいる。アルゼンチン政府は、中国の帝国主義的な「一帯一路」構想を通じて、急速に北京の勢力圏に落ちつつある。多くの債務国と同様に、アルゼンチンも気前の良い中国と、その基幹施設整備や切望していた外国直接投資の約束にますます依存するようになっている。
(2) 中国共産党の支配者にとって、南米で2番目に大きい国であるアルゼンチンは有用な戦略衛星国であり、この国は中国政府の勢力圏との結びつきを強めている。アルゼンチンは、中国にとって国際舞台における最も有力な敵対国の1つになりつつある国、英国の悩みの種になるような存在であるため、付加価値がある。したがって、冬季大会に隠れて、中国の習近平国家主席とアルゼンチンのAlberto Fernandez大統領が共同声明を発表し、中国は「マルビナス諸島(フォークランド諸島)に対する主権の完全行使を求めるアルゼンチンを支持することを再確認する」と宣言したのである。英国の海外領土であるフォークランド諸島をめぐって、アルゼンチンと中国が共同で連帯を示したことは、ロンドンに懸念を与えるだろう。すでにLiz Truss英外務大臣は激しく非難し、中国にフォークランド諸島の主権を尊重することを求め、「フォークランド諸島は英国の共同体の一部であり、我々はそれらの自己決定権を守る」と警告した。今後、中国の外交官たちは国連や34ヵ国から成るOrganization of American States米州機構(米州機構)との強まる関わりにおいて、フォークランド問題をめぐってますます攻勢を強めていくと予想される。
(3) 北京・ブエノスアイレスという新たな軸は、ラテンアメリカにおいて高まる中国の経済力を示すだけでなく、国際機関の場で英国を攻撃し、弱体化させるための破壊槌(battering ram)でもある。中国共産党の支配者たちは、BREXIT時代の英国をその利益に対する脅威として認識している。“Global Britain”は、世界舞台での中国の極悪非道な野望に対して、ヨーロッパの中で群を抜いた強力な対抗者である。EUとその最大勢力は、特に経済的な問題に関して、中国という龍をなだめることに満足しているが、英国政府は香港から南シナ海に至るまで共産主義国家中国に立ち向かっている。事有るごとに英国を弱体化させようとする中国人は、フォークランド諸島を威嚇し、孤立させようとするアルゼンチンの試みを支援するために、大きな戦略的・外交的エネルギーを集中させるだろう。
(4) 今後数年、数十年の間に、アルゼンチンはフォークランド諸島に対する威嚇を強め、中国に後方支援、戦略的支援、さらには軍事的支援を期待する可能性がある。英国の防衛は強力かつ堅固でなければならず、いかなる侵略者も二度とフォークランド諸島の人々の主権、自決、自由を奪うことができないようにする必要がある。
記事参照:Brexit Britain Is China’s Most Dangerous European Enemy

2月10日「中国、新小型潜水艦を公表―ロシア専門家論説」(Asia Times, February 10, 2022)

 2月10日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、ロシア政府研究員Gabriel Honradaの“China offers a glimpse of new type mini-submarine”と題する論説を掲載し、Gabriel Honradaは中国が新しい小型潜水艦の計画を発表し、同小型潜水艦は水深の浅い台湾海峡における作戦に適していると指摘した上で、小型潜水艦あるいは潜水艇は海上における非対称戦によって自国海軍力の劣位を相殺することができるかもしれないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2月、中国は新しい小型潜水艦を明らかにした。同小型潜水艦は浅海域向けに設計されており、輸出用に建造されるようである。限られたビデオからの情報では、Type039C潜水艦、NATOコードで元級として知られる潜水艦の全長77.6mと比較して、全長49mと推定される。新小型潜水艦のセイルはドイツのType212潜水艦を彷彿とさせる滑らかなセイルであり、潜舵はドイツの輸出用Type214潜水艦に見られる艦首に装備されている。新小型潜水艦は魚雷発射管4門を装備し、予備魚雷は搭載していないと考えられる。
(2) 重要なことは、新小型潜水艦は台湾海峡での作戦に適していることである。台湾海峡の平均水深は60mである。台湾海峡での紛争時には、小型潜水艦は台湾の港湾、海軍基地への潜入、海軍基地等への接近水路への機雷敷設、特殊戦部隊の投入、台湾海軍部隊の待ち伏せ、台湾封鎖への貢献のための先遣部隊として行動することになろう。
(3) 2017年、中国船舶重工業集団はMS 200、S600、S1100を含む輸出用潜水艇、小型潜水艦の一群を明らかにした。MS 200は、中国で初めて公にされた特殊戦用潜水艇である。MS 200は浅海域の沖合で行動するよう設計されており、偵察、監視、特殊作戦、哨戒などの任務に当たる。MS 200は魚雷発射管2門を装備し、排水量200トン、水中最大速力8ノット、潜航航続距離、120海里、滞洋日数15日で、乗組員6名、特殊戦隊員8名が乗艦可能である。より大型のS600は、排水量600トン、水中最大速力15ノット、航続距離2,000海里、非大気存機関(以下、AIPと言う)の航続距離400海里、最大安全潜航深度200m、滞洋日数20日間で乗組員15名、魚雷発射管4門である。さらに大型のS1100AIP搭載小型潜水艦は、排水量1,100トン、水中最大速力15ノット、航続距離3,000海里、AIPによる水中航続距離800海里、最大安全潜航深度200m、乗組員18名、発射管4門を装備する。
(4) 小型潜水艦、あるいは小型潜水艇は航続距離、兵装、滞洋期間は限られたものとなる。しかし、小型で建造費が安価であることは浅海域での作戦、侵入、海軍の非対称戦に適している。中国はタイのような顧客に新しい小型潜水艦を提案することができる。タイ海軍の作戦環境は大型の通常型潜水艦に対し、小型で浅海域向けの潜水艦の運用が適している。タイ湾の平均水深は45mであり、タイが計画している元級潜水艦2隻の取得について作戦上の適合性の疑問が提起されている。
(5) 中国は別にして、北朝鮮とイランが相当程度の小型潜水艇部隊を保有している。小型潜水艇採用は両国の非対称戦戦略におけるドクトリン上および作戦上の利点を示している。北朝鮮は40隻のサンオ級、サンオⅡ級小型潜水艦と約20隻のユーゴ級、ヨノ級潜水艇を保有していると考えられる。
(6) イランは様々な艦級の約31隻の小型潜水艦を保有している。イランの小型潜水艦は閉塞された水深の浅いペルシャ湾に適している。イランは、北朝鮮と同じようにペルシャ湾において米海軍に対する自国海軍の劣位を相殺するために小型潜水艦を運用している。これら小型潜水艦等はペルシャ湾における石油海上輸送に脅威を及ぼすイランの戦略にとって重要な戦力である。イランは、これによって米国とその中東における同盟国に対する外交上の影響力を獲得するかもしれない。
記事参照:China offers a glimpse of new type mini-submarine

2月10日「米国、北極圏における行動能力強化の投資を拡大すべし―米物理学者・エンジニア論説」(RAND Blog, February 10, 2022)

 2月10日付の米シンクタンクRAND CorporationのウエブサイトRAND Blogは、同シンクタンクの上席物理学者Abbie Tingstadと上席エンジニアScot Savitzの“U.S. Military May Need to Invest More in Arctic Capabilities”と題する論説を掲載し、両名は北極圏における緊張が高まるなかで米国は同地域での幅広い行動能力を獲得するための投資を増やし、かつ同盟関係を強化するべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2022年1月、ロシアはウクライナ国境における軍備を増強し、その一方でカザフスタンに「平和維持軍」を派遣するなど周辺に積極的な姿勢を見せている。これら2つの行動は、その時期を除けば特に比較できるようなものではない。しかし、それらはロシアの政治的な姿勢と軍事力を改めて思い起こさせるものであり、それゆえ米国は北極圏における軍事的行動能力の強化を進めるべきであろう。
(2) 北極圏のバレンツ海周辺において近年NATOとロシアの緊張が高まっている。コラ半島北部セヴェロモルスクにはロシアNorthern Fleetの司令部が存在し、その地域は資源開発の基地としても機能してきた。ロシアはバレンツ海周辺で軍事演習の頻度と規模を強化してきた。それに対してNATOもまた軍事演習を頻繁に行うようになってきた。
(3) こうした北極圏における緊張の高まりにおいて、米国は交渉を有利に進めるため、またいざというときの危機に対処する能力として、どのような類の軍事力を必要としているのかという問題が持ち上がる。問題の1つは北極圏の特殊性である。何らかの危機が起きたとしても、北極圏の気候の厳しさ、基幹施設の少なさなどさまざまな要因が、別の地域から北極圏への部隊の再配備を妨げるであろう。特別な装備品、特別な訓練を受けた人員も必要となる。
(4) この10年、米国は国として、あるいは軍の部門別の北極戦略を構想してきた。それらは北極圏における米国の行動能力強化を目標に掲げてきた。たとえばUS Coast Guardの砕氷船の新造である。しかしこれら戦略では、北極圏においてロシア、そしておそらく中国に対抗するために米国が必要とする準備について、決定的な要因がしばしば見過ごされてきた。第1に、北極圏の行動能力獲得のための投資について、行動能力に応じたポートフォリオ的な取り組みが必要である。米国が投資すべき対象は様々な分野に跨がる。
(5) 第2に、北極圏における同盟国や提携国の行動能力に焦点を当てた方が良い。米国には、北極圏において「有利な位置にいる」友好国が多い。NATOとしてはカナダやデンマーク、ノルウェーなどがあり、またスウェーデンやフィンランドも友好国である。非北極圏国の英国、オランダもまた北極における軍事行動の能力を有している。これらとの国々との共同演習を増やしたり、彼らを模倣したりすることが重要であろう。さらに良好な提携には投資が必要である。これには、相互運用性、米国が伝統的に得意とする航空戦力や潜水艦戦力などの分野が情報と同様に共有される能力の獲得が含まれる。
(6) 北極圏での活動には多くの費用がかかる。環境に適応するための機器や装備品、特別な訓練などが求められるためである。しかし、北極圏でロシアに対抗するための投資を行うこと、そして提携の拡大は米国にとって必要である。新冷戦を避けるために、適切な投資を適切な規模で行うことは、外交交渉と軍事的備えの双方にとって重要となる。
記事参照:U.S. Military May Need to Invest More in Arctic Capabilities

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1)Taiwan Can’t Wait: What America Must Do To Prevent a Successful Chinese Invasion
https://www.foreignaffairs.com/articles/china/2022-02-01/taiwan-cant-wait?utm
Foreign Affairs, February 1, 2022
By Mike Gallagher, a Republican United States Representative from Wisconsin and a member of the House Armed Services Committee
 2022年2月1日、ウィスコンシン州選出の米共和党下院議員であるMike Gallagherは、米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign Affairsのウエブサイトに" Taiwan Can’t Wait: What America Must Do To Prevent a Successful Chinese Invasion "と題する論説を寄稿した。その中でGallagherは、米軍高官や安全保障専門家らによる中国の台湾侵攻に対する警告が高まっているにもかかわらず、US Department of Defenseは侵攻に対する準備が不十分であるとした上で、Trump前政権の海軍近代化計画ですら2040年を計画達成の目標としていたのに、現在のBiden大統領はその計画を棚上げし、さらには国防予算の削減が行われる可能性が高いとなどして、現政権を批判している。その上でGallagherは、これまで米国は台湾防衛に怠惰な姿勢を採ってきたが、今後はBattle Force 2025計画を着実に進めることで、米国とその同盟国は、米国の長期的な国防戦略を混乱させることなく、また、魔法のような将来の技術や奇跡のような予算に頼ることなく、短期的に中国の侵略を抑止し、必要であれば敗北させることができると述べ、米国は台湾を防衛し、その過程で自由世界を守るべきだと主張している。

(2)Will China abandon its 'no first use' nuclear policy?
https://www.thinkchina.sg/will-china-abandon-its-no-first-use-nuclear-policy
Think China, February 8, 2022
By Li Nan, Visiting Senior Research Fellow, East Asian Institute, National University of Singapore
 2月8日、National University of SingaporeのEast Asian Institute上席研究員Li Nanは、シンガポールの中国問題英字オンライン誌Think Chinaに、“Will China abandon its ‘no first use’ nuclear policy?”と題する論説を寄稿した。その中で、①1960年代から70年代にかけての中国の核戦略は、脅迫を防ぐための象徴的な保有という最低限の目標しか達成することができなかった。②1980年代以降、中国が信頼性の高い第2撃能力を開発するに伴い、中国が第1撃から生き残り、報復攻撃を行うことができる核反撃能力を開発することが必要な戦略を採用した。③US Department of Defenseの報告書は、中国が2027年までに運搬可能な核弾頭を最大700発保有する可能性があると予測している。④中国の軍事アナリストたちは、外部との効果的な戦略的意思疎通が不可欠であると考えている。⑤核戦力の近代化に伴い、「先制不使用」(以下、NFUと言う)政策の放棄を含め、中国の核戦略を変更するかどうかという議論が浮上している。⑥NFUが中国の核政策として留まっていることから、NFUの破棄を巡る議論でNFU支持者は勝利している。⑦一方で、中国はより攻撃的な核戦力態勢を採る可能性があるが、これらの変化は、中国の抑止のための核による第2撃能力の開発に限られており、核抑止は、核戦争が相互確証破壊を引き起こし、勝者がいないとの前提に立っている。⑧NFU議論から、中国の核戦略家たちは限定核戦争や戦術核兵器開発の可能性を模索し始めていることを示している。⑨中国の核戦力態勢に関するいかなる変化も慎重に見極め、分析する必要があるかもしれないといった主張を展開している。

(3)A Maritime Strategy to Deal with China
https://www.usni.org/magazines/proceedings/2022/february/maritime-strategy-deal-china
Proceedings, February 2022
By Tom Mahnken, president and chief executive officer of the Center for Strategic and Budgetary Assessments and a senior research professor at the Philip Merrill Center for Strategic Studies at The Johns Hopkins University’s Paul H. Nitze School of Advanced International Studies (SAIS)
 2022年2月、米Center for Strategic and Budgetary Assessments(CSBA)の代表などを務めるTom Mahnkenは、The U.S. Naval Instituteが発行する月刊誌Proceedingsのウエブサイトに" A Maritime Strategy to Deal with China "と題する論説を寄稿した。その中でMahnkenは、今日の米国は中国の台頭とそれが西太平洋およびそれ以遠における米国の利益に対する脅威という、現代の最も重要な課題についての戦略的思考の決定的な欠陥に苦しんでおり、それに対処することは、最も重要かつ緊急の問題であると話題を切り出し、米軍将校や米政府職員の大多数がベルリンの壁の崩壊とソ連の崩壊後に入隊、入職しており、彼らにとって、大国間競争という概念はせいぜい理論的で歴史的な問題でしかなく、個人的な経験ではないため、21世紀の大国戦争の展望は、未知の世界だと指摘している。その上でMahnkenは、米軍が戦略を策定し、そのための共同作戦構想を立案することを含めて、米国の戦争を戦い、勝利する準備を確実にすることは、米軍指導者の職務上の義務であると指摘し、具体的には、米国は同盟国や提携国と協力し、最適な部隊配置などを通じて抑止力の向上に努めるべきであるが、抑止は中国指導部の信念を挫くことを意味しており、具体的には制海権、制空権、情報支配など、中国指導部が軍事的勝利に不可欠と考える条件を否定することによって人民解放軍のドクトリンを変更させ、相手に時間と費用を浪費させることが重要であると主張している。