海洋安全保障情報旬報 2022年2月11日-2月20日

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2月12日「米海軍、米原子力潜水艦がロシア領海内で追尾されたとするロシアの主張を否定―米軍準機関紙報道」(Stars and Stripes, February 12, 2022)

 2月12日付の米軍準機関紙Stars and Stripes電子版は、“Navy denies Moscow’s claim that US submarine was chased out of Russian waters”と題する記事を掲載し、ロシアが千島列島沖合のロシア領海を侵犯した米原子力潜水艦を駆逐したとする報道を米海軍は否定したとして、要旨以下のように報じている。
(1)    ロシア軍が千島列島沖において浮上命令を拒否したバージニア級攻撃型原子力潜水艦
を駆逐したという主張を受けて、米海軍はロシア領海での行動を否定した。
(2)    ロシアMinistry of Defenseの声明及びRussia Todayによれば、ロシアPacific Fleetが演習
を実施していた千島列島ウルップ島沖合で潜航中のバージニア級潜水艦を探知し、浮上命令を拒否されたため、ロシア軍は駆逐艦を送り、「適切な方法」で追尾したが、米潜水艦はロシア領海から高速で出て行った。
(3)    米国は声明にあるロシア領海内で発生した事件を否定した。声明は、ロシアとの如何な
る遭遇も否定はしていない。US Indo-Pacific Commandの報道官Kyle Raines海軍大佐は、「ロシア領海内における我々の行動に関するロシアの主張は事実ではない。潜水艦の正確な位置は控えるが、米海軍は国際水域を安全に飛行、航行、行動している」と述べている。
(4)    12日の事件は、ロシアのウクライナ侵攻の可能性についてNATOが警告し、ロシア政
府と米政府間の緊張が高まる中で生起した。
記事参照:Navy denies Moscow’s claim that US submarine was chased out of Russian waters
関連記事:2月12日「米原子力潜水艦、ロシア領海を侵犯-ロシアメディア報道」(Russia Today, February 12, 2022)
US nuclear submarine violates Russian waters – Defense Ministry

2月12日「米原子力潜水艦、ロシア領海を侵犯―ロシアメディア報道」(Russia Today, February 12, 2022)

 2月12日付のロシアニュース専門局Russia Todayのウエブサイトは、“US nuclear submarine violates Russian waters – Defense Ministry”と題する記事を掲載し、米攻撃型原子力潜水艦が千島列島沖のロシア領海を侵犯しているところを探知されたが、米原子力潜水艦は命令に従わず、ロシア海軍は適切な手法で対応し、駆逐したとして、要旨以下のように報じている。 
(1) 米国のバージニア級攻撃型原子力潜水艦が千島列島沖のロシア領海内で探知され、駆逐されたとロシアMinistry of Defenseが2月12日に発表した。
(2) 米潜水艦はロシアPacific Fleetが演習を行っている得撫島沖で潜航中に探知され、ロシア艦艇は米潜水艦に対しロシア領海に侵入していると警告し、直ちに浮上するよう命じた。米潜水艦にこれに答えることはなく、ロシア駆逐艦が米潜水艦追尾のため派出された。ロシア駆逐艦は「適切な手段」を使用したとされているが、ロシア軍は詳細を明らかにしていない。ロシア駆逐艦の現場到着を受けて、米潜水艦は疑似目標を射出し、全速でロシア領海から出て行った。
(3) 事故が直ちに、ロシアMinistry of Defenseは領海侵犯事件を説明するため駐ロ米国防武官を召喚し、加えて、潜水艦のこのような行動は国際法の重大な侵犯であり、ロシアの安全保障に対する脅威をもたらすものだと抗議した。ロシア軍は領海内において如何なる安全保障上の手段をも行使する権利を留保していると述べている。
(4) 米政府は、この記事が出る時点では事件について何も表明していない。
記事参照:US nuclear submarine violates Russian waters – Defense Ministry
関連記事:2月12日「米海軍、米原子力潜水艦がロシア領海内で追尾されたとするロシアの主張を否定-米軍準機関紙報道」(Stars and Stripes, February 12, 2022)
Navy denies Moscow’s claim that US submarine was chased out of Russian waters

2月14日「透明性のある世界における軍事作戦の将来―オーストラリア専門家論説」(The Interpreter, February 14, 2022)

 2月14日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、オーストラリアCurtin University兼任講師で博士課程学生Victor Abramowiczの“Military operations in a more transparent world”と題する論説を掲載し、そこでAbramowiczはここ数年の間で劇的に向上した情報収集技術について言及し、それによって軍事作戦の秘密維持がきわめて困難になるであろうとして、要旨以下のとおり述べた。
(1) この8年の間に、公開情報(Open Source Intelligence:以下、OSINTと言う)の分野で革命的な変化が起きている。OSINTとは、一般に利用可能なデータから集められる情報のことである。それは特に、衛星などによって収集された画像を分析する画像情報(Imagery Intelligence:以下、IMINTと言う )において顕著である。今現在、一般人が入手可能な情報は、かつて超大国が独占していたものと同程度のものになっている。
(2) この8年間の革命的な変化を理解するには、2014年と現在のウクライナ情勢を比較するとよい。2014年のロシアによるクリミア侵攻時、メディアに提供された衛星写真は限定的なもので、主な情報源はUS Department of Sateや米諜報機関などであった。カメラマンの手によって撮影された写真が有用であったことはほとんどない。
(3) しかし今年のウクライナ危機では、ロシアとウクライナ国境に10万人以上の部隊が配備された様子は、多くの衛星画像によって映し出されている。TikTokやYou tubeなどのSNSにおいては、一般市民が提供する情報によって、個々の部隊を特定できるほどになっている。さらにOSINT分野が進化し、技術や情報の共有の程度が高まっている。
(4)  IMINTに目を向けてみよう。かつては、11トンの重さを持つKH-9衛星などの資産を保有できたのは超大国だけであった。60センチ以上の物体を探知するためには巨大な装置が必要だったからである。しかし近年、小型センサーの質が向上、衛星も小型化し、宇宙へのアクセスも安価でできるようになった。2014年には30センチの解像度という性能を持つ3トンの重さの衛星が発射され、その後数百の衛星が打ち上げられた。その中には夜間でも曇天でも撮影できるものもある。何十もの企業が市場のシェアを争うようになったことで価格はさらに低下し、かつては安全保障上の理由で機密扱いされていたような質の写真でも、数百ドルで入手可能になっている。この傾向はさらに続くであろう。
(5) 情報を拡散できる人々との数も劇的に増えた。2014年時点でスマートフォンを所持していたのは15億人ほどであるが、今日利用されているそれは66億台にのぼる。全世界の8割以上の人々が、潜在的にそうした情報の収集者であり、拡散者である。
(6) こうした傾向が、今後、軍事作戦、とりわけ多くの物資を必要とする大規模作戦に何をもたらすのか。全体として言えることは、作戦に関する機密の保持がきわめて困難なことである。各国が軍事行動の撮影禁止を課すことも考えられるが、それを強制するのは現実的に困難であろう。囮や偽装といった手段も有効性を失っていくはずである。人工衛星の活動を妨害するということも考えられるが、それにはきわめて高度な技術が必要となる。このように軍事作戦を秘密にすることが困難である世界では、これまでよりも紛争が未然に防がれる可能性は高い。
記事参照:Military operations in a more transparent world

2月16日「トンガへの軍による援助物資輸送に見るインド太平洋諸国の軍事態勢―米インド太平洋専門家論説」(CNA, February 16, 2022)

 2月16日付の米調査研究組織CNAのウエブサイトは、同組織インド太平洋安全保障問題の研究者Brian Waidelichの“The Military Delivery of Aid to Tonga and Insights for Indo-Pacific Force Posture”と題する論説を掲載し、Brian Waidelichはトンガへの支援の際、中国軍の輸送機Y-20を少なくとも2つの国に立ち寄らざるを得なかったことから、中国は長期的には太平洋地域に基地を設置しようとするかもしれないとして、要旨以下のように述べている。
(1) トンガの人道危機に対する多くの国の対応は、インド太平洋諸国の軍隊の態勢の長所と短所を明らかにした。2022年1月15日のトンガ沖の海底火山の噴火とそれに伴う津波の後、この地域の国々は、トンガに緊急に必要な援助と援助を提供するよう軍隊に要請した。本稿では、トンガ危機に対する米国、同盟国、パートナー国の軍隊の対応を検討するとともに、それらの国々の協力的な努力と中国軍の一方的な援助の提供を比較する。本稿は、将来における米インド太平洋軍の危機に対応する能力と戦力を投影する能力の比較に関する4つの考察を結論とする。米国とその同盟国、提携国の軍隊は、トンガの危機への即時対応において重要な役割を果たした。彼らは次のような努力を通じて危機に対応した。
a. 被害程度の判断について。オーストラリアとニュージーランドは、トンガに比較的近いことから偵察機を迅速に派遣し、損害評価のための情報収集を行うことができた。2022年1月17日、オーストラリア空軍のP-8ポセイドンとニュージーランド空軍P-3K2がトンガの基幹施設の損傷に関する画像を収集した。その画像はトンガ政府と共有され、彼らが支援のために何が必要かを決定することに役立った。その後数日間、これらの国及び他国の固定翼機と軍用ヘリコプターがトンガ諸島上空で追加の偵察飛行を行った。
b. 救援物資の空輸について。1月15日の噴火後、ファアモツ国際空港の滑走路を覆う火山灰の層のために、人道支援物資を数日間トンガに空輸することができなかった。滑走路が啓開されると1月20日、ニュージーランド空軍はC-130輸送機をオークランドの基地から派遣し、水のはいったコンテナ、発電機、通信機器などの援助物資を輸送した。その後に到着した支援物資の空輸機には、1月22日にトンガに到着した日本からの最初のC-130航空機2機が含まれている。
c. 救援物資の海上輸送のため、米国とその同盟国は輸送機よりもはるかに大量の物資を輸送できる海軍艦艇を派遣した。ニュージーランド海軍の支援艦「アオテアロア」は、1月21日に大量の水その他の要望のあった物資を積んでヌクアロファ港に到着した。1月24日に、日本から火山灰を取り除くための装備品を積んだ輸送艦「おおすみ」が日本から出発した。米国、オーストラリア、フランス、英国を含む救援活動に参加している複数の国からの艦艇は、ニュージーランド海軍の支援艦「アオテアロア」から洋上で補給を受けている。
d. トンガの危機への対応には多くの米国の同盟国や提携国が関与し、トンガ政府は、多種多様な物資と資材を要望した。この任務をより円滑に支援するために、オーストラリア統合作戦司令部は、トンガ、フィジー、日本、フランス、ニュージーランド、オーストラリア、英国、米国の要員を集めた人道支援災害救援(以下、HADRと言う)国際調整セルを設立した。この新たに設立されたセルはトンガから要望のあった物資が届けられるように、各国間の取り組みが重複しないように輸送業務を調整した。
(2) 中国軍の代表者がHADR国際調整セルに参加していなかったことは注目に値する。中国軍は他国の軍隊と協力せずに、独自にトンガに援助を提供した。2022年1月26日、中国国防部は中国軍がトンガに救援物資を2回にわたって輸送すると発表した。中国の最初の物資輸送は、1月27日に中国空軍のY-20輸送機2機によって行われた。そのY-20輸送機は、途中、給油するために3回以上外国飛行場に立ち寄ったと伝えられている。2機のY-20輸送機は1月28日にファアモツ国際空港に到着し、約33トンの水、食料、個人用保護具、その他の救援物資を輸送した。中国の2回目の援助物資輸送は、ドッグ型揚陸艦「五指山」と高速戦闘支援艦「査干湖」によって行われ、「移動式住宅、トラクター、発電機、ウォーターポンプと浄化器、食料、医療機器」を含む1,400トン以上の援助物資を輸送した。
(3) トンガの危機に対する米軍、その同盟国、提携国の対応方法は、中国軍の援助提供とは大きく異なった。この違いから、インド太平洋における軍隊の態勢と戦力投射に関しいくつかの考察を導き出すことができる。
a. 米国の同盟国と提携国には、迅速な対応のために地理的な優位性がある。米国は世界中に軍事基地を持っているが、それは常時使用できるわけではない。2022年1月17日のオーストラリアとニュージーランドの偵察飛行が示すように、同盟国または提携国の軍隊が、緊急事態が発生した場所に近い所に施設や飛行場を保有している場合がある。
b. 米国と同盟国の間の相互運用性は運用効率を高める。米国とその主要なインド太平洋同盟国との間の定期的な訓練と演習は、部隊運用の過程で時間と兵力を節約することを可能にする。
c. 中国軍のY-20輸送機は、かつて考えられたよりも能力が低い可能性がある。中国のメディアは、支援物資を積んだ2機のY-20輸送機が途中、給油のため3ヵ所以上の外国飛行場に着陸したと報じている。過去に中国メディアで報道された航空機の性能から考えると、3回も給油する必要があったことは驚きである。中国軍の公式英語版ウエブサイトに掲載された2020年の記事では、Y-20輸送機は給油なしで最大7,800kmを60トン以上の貨物を輸送することができるとされている。これが本当であれば、Y-20輸送機は多くても1回の給油でトンガに到達できたはずである。
d.中国軍の輸送機Y-20はトンガに向かう途中、給油のため少なくとも2ヵ国に立ち寄っている。各国が人道的任務を行っている軍用機の途中着陸を承認するのは当然であるが、危機や紛争の場合には、必ずしも同じように承認されるとは限らない。このような中国にとって不快な現実のため、近い将来、中国はより多くのインド太平洋諸国との間で中国軍機の上空飛行の承認や給油協定を得ようとする可能性がある。中国軍は長期的には太平洋諸島に1つ以上の基地を設置しようとするかもしれない。トンガに対する救援に中国軍を運用して提供したことを中国の軍事基地を太平洋諸島に構築する理論的根拠として中国が利用すると我々は考えることができるかもしれない。戦略的な考慮事項はさておき、HADRは米国と中国の軍隊が、「大国間の」または「戦略的な」競争の中で、定期的な交流を維持するための小さなリストの1つの項目である。トンガは2022年2月7日に最初の新型コロナウイルスの症例を報告したように、近い将来、より多くの助けを求める可能性が高い。米中が別々に働くか共同して働くかにかかわらず、最終的な結果がトンガの人々にとってより多くの援助と支援になるのであれば、米中がいくらかは良いことをしたことになるであろう。
記事参照:The Military Delivery of Aid to Tonga and Insights for Indo-Pacific Force Posture

2月16日「フランスの新海底戦略―フランス海軍関連メディア報道」(Naval News, February 16, 2022)

 2月16日付のフランス海軍関連ウエブサイトNaval News は、“France Unveils New Seabed Warfare Strategy”と題する記事を掲載し、近年海底が新たな対立の舞台となりつつあるとした上で、フランスが発表した新しい「海底戦略」の概略について、要旨以下のように報じている。
(1) 近年、大気圏外やサイバースペースなどと同様に、海底が新たな対立の舞台となりつつある。そして、世界で2番目に広大な排他的経済水域(EEZ)を有するフランスにとって、戦略的利益のために海底での行動能力を確保することは主要な関心事になっている。そのような情勢の中で、2月14日、フランス軍事大臣Florence Parlyと統合参謀総長のThierry Burkhardは新たな「海底戦略」が発表された。
(2) 海洋は、国連海洋法条約(UNCLOS)に代表される一連の国際的基準によって管理されている。同条約によれば、国家の権限は沿岸から離れるほど減少するものだが、近年いくつかの国は、資源開発や地政学的目的のために同条約の拡大解釈を進めている。こうして、海底が新たな闘争の舞台となりつつあるなかで、フランスの海底における戦略的利益の保護は、以下のごとく決定的に重要な事項である。第1に海中・海底におけるフランス軍の行動の自由を確保すること、第2に通信ケーブルなど海中の基幹設備を保護すること、第3にフランスの資源を守ること、第4に様々な行動に直面したとしても相手に十分な脅威を与えられるよう準備をすることである。
(3) フランス軍が提起する海底を支配するための作戦は、こうした新たな課題をフランスの防衛戦略に組み込むことを狙いとしている。フランス海軍はこれまでにも海底の支配に資する水中の行動能力を有しているが、その調査・行動範囲、自立型水中無人機(AUV)や遠隔操作型水中無人機(ROV)を活用して水深6,000mにまで拡大させることを狙っている。
(4) 新戦略における具体的な狙いは以下のとおりである。
a. 深海AUV・ROVに搭載するセンサー開発の新機軸支援。
b. 超低周波の音響伝播に関する研究。
c. 水深6,000mにおける行動能力を維持するために必要な海中捜索、監視、介入能力の向上。
d. 海中の監視装置を配備する方法に関する分析を継続することで、軍事的選択肢の幅を拡大。
e. 水深300メートル以上において、新型の対機雷戦システムSystème de lutte anti-mines futur(SLAMF)を補完する海軍の潜水部隊CEllule Plongée Humaine et Intervention Sous la MER(CEPHISMER)の育成。
f. 海底ケーブル敷設に関する国内規制の改正。
g. 海中ドローンなどの監督を国の海洋機関に統合。
h. 国防上の利益保護区域を設定する首相命令の発令。
i. 防衛技術・産業技術基盤の支援。
(5) フランス軍事省は今後、民間部門の新機軸開発を支援し、また海底における必要性に対応する公的部門の設立を支援するであろう。そのなかで、AlseamarやECA Groupなどの防衛企業が新たな戦略に関わることになるであろう。たとえばECA Groupは、Institut Français de Recherche pour l'Exploitation de la Mer(フランス国立海洋開発研究所:以下、IFREMERと言う)のために、Ulyxと呼ばれる新世代の自立型深海AUVを設計、製造した。それは今後深海探査のために配備されていくであろう。さらにそうしたAUVの軍事転用タイプが軍のために設計される可能性がある。フランス海軍の参謀長は、Twitterで、IFREMERの深海潜水艇Notileが水深2,152メートルに到達し、任務の遂行に成功したことを伝えた。
記事参照:France Unveils New Seabed Warfare Strategy

2月16日「中国のカンボジアにおける基地建設、その軍事的価値―シンガポール専門家論
説」(IDSS Paper, RSIS, February 16, 2022)

 2月16日付のシンガポールS. Rajaratnam School of International Studies のウエブサイトIDSS Paperは、同School上席研究員John F. Bradfordの“Chinese Military Basing in Cambodia: Why Be So Up In Arms?”と題する論説を掲載し、John F. Bradfordは中国が建設しているカンボジアの軍事基地について、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は、カンボジアの軍事施設、カンボジア海軍リアム海軍基地とリゾート地のダラサコル空港の定期的な利用権を確保することになりそうである。商業用衛星は2022年1月、リアム基地で、大型軍艦が出入港するために必要な作業を行っていると見られる、2隻の浚渫船を発見した。また、ダラサコル空港は、軍用機の発着を支援できるように改修されつつあると伝えられる。2019年に米紙が米国と同盟国の政府筋の話として報じたところによれば、中国人民解放軍(以下、PLAと言う)に対してこれらの施設の無制限の利用を認める中国・カンボジア秘密協定が存在するという。カンボジア当局者は、かかる協定の存在を否定しているが、施設の建設が中国の支援によることは認めてきた。
(2)  PLAがこれら施設を定期的に利用するようになれば、東南アジア諸国の基地に対する利用権を持っていない中国にとって地政学的な分水嶺となるかもしれないが、これら施設の利用は中国にとって軍事力の大幅な強化には繋がらないであろう。ジブチにある軍の駐留を伴う本格的な「PLA基地」に類似したカンボジアの基地は、外国軍の恒久的な駐留受入はカンボジア憲法に違反するという、カンボジアのHun Sen首相の声明と矛盾する。したがって、これらの施設はPLA部隊の定期的な訪問を支援する物流ハブになる可能性が高いと思われる。こうした使用形態は、米軍によるタイのウタパオ飛行場や、「強化防衛協定」と「訪問米軍地位協定」に基づいたフィリピン国内の基地での使用形態と同様のものとなろう。
(3) リアム基地の現在の港湾能力は限定的だが、桟橋の建設と浚渫は、現在シンガポールで米海軍の沿海域戦闘艦が享受しているのと同様の、PLA海軍の中型戦闘艦の定期的な保守整備施設となる可能性がある。カンボジアの施設において艦艇や航空機を支援できれば、PLAは東南アジアで新たな運用上の利点を得ることになるが、域内の全体的な軍事均衡にはわずかな影響しか及ぼさないであろう。タイ湾海域における中国海運に対する脅威が存在しないこと、そして中タイが政治的緊張関係にないことを考えれば、これら施設の利用によるタイ湾への直接的な出入りは限られた価値しかないであろう。これら施設は南シナ海の紛争海域への新たな取り組み拠点となる可能性があるが、レアム基地から南シナ海に向けての攻撃の軸はベトナム南部とマレー半島からの妨害に対して脆弱であろう。既存の海南島の大規模な基地の方が戦域に近く、かつ露出が少ない。
(4) レアム基地での中国の支援を受けた建設は、米海軍が建設した施設の取り壊しを伴ったため、特に米国を困惑させているようである。この出来事は、最近の米カンボジア関係を象徴している。以前の両国関係は徐々に強化されていく提携関係であったが、現在では、米国はほぼ全面的に中国に取って代わられてしまった。2008年には、中国国営の連合開発集団(UDG)は、カンボジアの海岸線の20%を含む広大な領域、ダラサコルの99年間のリース権を確保した。カンボジアは2019年、レアムに米国が建設した舟艇補修施設の改修に関する米国の申出を拒否した。これらの施設は、現在中国の支援を受けた建設工事の敷地内にある。4カ月後、米国はダラサコルでの開発事業に関与するカンボジアの指導者に対する新たな制裁を発表した。対照的に、PLAは2016年にカンボジアとの合同演習を開始し、2020年にはPLAが東南アジアで実施する最大の合同演習、中国・カンボジア年次同演習 “Golden Dragon” を開始した。結局、レアムとダラサコルは米カンボジア関係を2007年以前の低水準に逆戻りさせた原因となったのである。
(5) カンボジアの施設に対するPLAによる利用の可能性に対する東南アジアの反応は、米国よりも覚悟ができている。域内の専門家は、施設の利用権がもたらす限定的な軍事的価値を考えれば、何故、米国がそれほど懸念しているのか、疑問に思っている。特に、カンボジアのPLA施設がプノンペンを中国の臣下に変えるという米国の主張は、フィリピン、タイ及びシンガポールが戦略的自律性を犠牲にすることなく米軍の日常的な利用を提供しているという事実と一致しない。
記事参照:Chinese Military Basing in Cambodia: Why Be So Up In Arms?

2月16日「中国海警総隊の軌跡は平和か、それとも紛争か―モルディブ専門家論説」(Center for International Maritime Security, February 16, 2022)

 2月16日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Security (CIMSEC)のウエブサイトは、US Naval War Collegeで情報戦略・政治戦の修士課程在学中のモルディブCoast GuardのAhmed Mujuthaba少佐の”CHINA COAST GUARD: ON A TRAJECTORY FOR PEACE OR CONFLICT?”と題する論説を掲載し、ここでMujuthabaは中国海警総隊に付与された新たな法的権限の矛盾と絡んだ現在の発展の軌跡は、脆弱な地域の海洋安全保障の力学をさらに悪化させるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 沿岸警備隊とは、陸上の国家法執行機関と領水外における国家法執行機関の橋渡しをする役割を想定している。今日の沿岸警備隊は、戦闘から民間防衛に至るまで様々な業務に従事しており、その結果、組織の役割、権限、能力は無限のように見える。そのような無限大の組織の1つが、中国の沿岸警備隊である中国海警総隊である。この海警総隊の急速な拡大及びその適用という面から、海警総隊の役割と責任、法的権限、および業務遂行について述べる。
(2) 2013年、中国の4つの海上法執行機関が統合されて中国海警総隊が発足し、その後2018年に中央軍事委員会傘下の人民武装警察に移管された。これは、「海洋大国」戦略の実施を求めた2012年の第18回全国党大会の結果である。そして中国海警総隊は、10年足らずで世界最大の外洋も含めた沿岸警備隊に変貌を遂げた。一般に沿岸警備隊とは、海上での捜索・救難、海上法の執行、国内水域での海上活動の規制を主な任務とする法執行機関である。中国海警総隊は、この一般的な要件に合致しており、中国の主権的な海洋権益の行使、監視、漁業資源の保護、密輸対策、および一般的な法執行業務を担っている。
(3) 中国が沿岸警備隊を増強する理由は、地域の競争相手と比較して、中国の海事機関が脆弱なことに加えて、外洋で行動する人民解放軍海軍(以下、中国海軍と言う)が将来発展していくという見通しのためである。中国海軍は、1995-1996年の台湾海峡危機における屈辱がきっかけとなり、急速に発展した。2020年のUS Department of Defenseの報告書によると、中国海軍は約350の艦船を保有し、保有艦船数では世界最大の海軍と主張している。そして、これまで中国海軍の艦船等によって実施されていた法執行の役割は、不釣り合いな侵略として映し出されることになった。
(4) そのほか海警総隊の発展の目的に、中国による南シナ海と東シナ海での海洋権益の主張が考えられる。
a. 中国の学者たちは、1930年代までは南シナ海の領有権を争うことはなかったが、それ以降はフランスや日本など世界の大国によって中国の脆弱性が利用されるようになったと主張している。それ以来、中国は台湾、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、フィリピンなどの地域国家と競合し、時には衝突しながら、この領土に対する完全な権限を行使しようと苦心してきた。米海軍は、中国海警総隊が取り締まるこれらの海域で航行の自由作戦(FONOPs)を実施し、中国の主張に絶えず挑戦してきた。
b. 1895年の日清戦争終結から中国は東シナ海の尖閣諸島・釣魚島に対する領有権を、日本に対して継続的に要求してきた。南シナ海の領土に対する歴史的主張と同様に、中国は東シナ海領土を、1372年に発見し、1403年にその名を付けたところまで遡って主張している。一方、日本は、尖閣諸島・釣魚島は日清戦争終結前の1895年1月14日に日本が沖縄県に編入したと主張している。そして、2010年の中国漁船と海上保安庁の巡視船の衝突事件、2012年の日本による尖閣諸島国有化に伴う中国の領海境界線の主張、2013年の中国による防空識別圏の設定など、日中間の衝突はたびたび起きている。
(5) このような係争海域での衝突の拡大を考慮すると、中国海警総隊が争いの激化と軟化に果す役割は、その武力の行使によって区別される。この中で最も興味深いのは、グレーゾーン戦術である。一般にグレーゾーン戦術とは、戦争と平和の間に位置する活動や作戦のことである。Rand Corporationが定義するグレーゾーン活動には、「平和と戦争の間で活動する」、「通常戦の閾値以下で活動する」、「民間と軍事の間で曖昧な行動をとる」、などがある。中国海警総隊は、黄海、東シナ海、南シナ海で武装海上民兵(PAFMM)と共に、他国の警備船や漁船に体当たりするなどの戦術を採用し、係争水域でこうした戦術をとる中国の武装漁船を積極的に随行させている。
(6)  2021年1月に導入された中国海警総隊法も、グレーゾーン活動へ効力を追加するものとして、ほとんどの周辺国家が懸念を持った。この法律の第21条は、中国海警総隊が外国の軍艦および非商業目的で運航する外国船舶に対して武力を行使する権限を有すると定めている。これは国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)の32条、95条、96条に違反するとの指摘もあり、この海域で紛争を抱える国々がこの法律に抗議している。この法律は、法執行や平和的行動の閾値を超えた事件の激化を助長する可能性がある。国際紛争は、軍人同士の武力衝突に限らず、国家、市民、準軍事的な軍隊、例えば沿岸警備隊などとの対決も含まれる。すべての国が中国版UNCLOS解釈の主張を受け入れるわけではないので、平和的な法的挑戦や単なる無害通航の約束が、中国海警総隊によって殺傷力を伴うものになる可能性がある。新法により、中国海警総隊は、治安維持、グレーゾーン、戦闘地帯の3つの領域で活動する柔軟性を与えられた。
(7) 中国海警総隊は、弱小の組織から地域で最も効率的で資源に恵まれた機関の1つに成長した。その大きな理由は、中国の海上警備能力は脆弱であること、中国海軍が(中国沿海域における警備行動に束縛されることなく、)その責任を(外洋海軍として)以遠に拡大できるようにすること、地域の平和的な姿勢を示すこと、そして、南シナ海と東シナ海の領土に対する中国の主張を守る必要があること、の3つである。そして、中国海警総隊に付与された新たな法的権限の矛盾と絡んだ現在の発展の軌跡は、すでに脆弱な地域の既存の海洋安全保障の力学をさらに悪化させることが予想される。
記事参照:CHINA COAST GUARD: ON A TRAJECTORY FOR PEACE OR CONFLICT?

2月18日 「中国がロシアのやり方を台湾に適用した場合に備えよ―米アジア専門家論説」(Foreign Policy, February 18, 2022)

 2月18日付の米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトは、米シンクタンクAsian Enterprise Instituteのアジア研究部長Dan Blumenthalの“Beijing Could Run Russia’s Playbook on Taiwan”と題する論説を掲載し、そこでBlumenthalはロシアがウクライナへの圧力を強めているように中国が台湾への圧力を強めた場合、ウクライナに比べて台湾は脆弱であるとして、米国がそれを抑止するため、ないし危機が出来した時に適切に対応するための準備を整えておくべきだとして、要旨以下のとおり述べた。
(1) ロシアによるウクライナへの全面的侵攻が近づくなか、米国はウクライナ問題に関心を向けている。しかし同時に米国は、中国がロシアのやり方をどのように模倣するのかにも注目すべきである。中国が台湾に軍事侵攻を行うかどうかについては様々な意見があるが、米国は不意を突かれないためにも準備を整えておかねばならない。
(2) 台湾問題に関する中国の目的は台湾の支配であり、そのためには必ずしも軍事的侵攻は必要ではなく、香港の事例のように、中国に従順な政権が成立し、その統制強化を受け入れるだけで満足するかもしれない。いずれにしても、中国は台湾への侵攻とその占領をするだけの力があるという事実は、中国による台湾への威嚇をより効果的なものにしている。
(3) 中国にとっての課題は、台湾が香港とは違い事実上独立した国であること、本土と海によって隔てられていること、そして中国の当局者が台湾にはいないことである。こうした問題があるため、中国としては全面戦争を行うという脅しによって台湾に譲歩を強制したいと考えている。そうした脅しに対する台湾の抵抗を後押しするため、米国は外交的・軍事的選択肢を必要としているが、まだそれは十分にそろっていない。したがってもし中国が、ウクライナの事例のように台湾への圧力をさらに強めることになれば、米国はそれに十分に対応できないだろう。
(4) アジアには、侵略者の危険度計算に影響を与えるNATOのような大規模な軍事同盟がない。それどころか、台湾を外交的に承認する国が周辺にはまったく存在しない。米国と台湾の関係はその中でも最も緊密だが、台湾の政治指導者たちとの関わりは限定的であり、そのために危機における方針の調整が困難である。また、米国は台湾防衛に公的には誓約しておらず、共同演習なども行われていないなど、軍事的関与もかなり限定的なものとなる。ウクライナと米国およびNATOとの関係はそれと対照的であり、ロシアはそれを計算に入れる必要がある。台湾に関して、日本がやや方針を転換しているとはいえ、危機に対応する同盟の準備はほとんどなされていない。
(5) 米国が台湾を外交承認しないままで、台湾の陥落を阻止するためにできることはいくつかある。第1に、危機の兆候があったときにすぐに台湾に上陸し、台湾の指導者を保護し、前線部隊と連携するような小規模の部隊を訓練しておくことである。中国の狙いは台湾の政治的意志であり、危機に際して米軍が早い段階で対応することは、台湾の人びとに強力な心理的安心を与えるはずである、米国にある台湾の事実上の大使館に駐在する安全保障担当将校を増員し、台湾に軍需品などを事前集積することなども良い手段であろう。
(6) 第2に、日本、インド、オーストラリアや英国、フランスなどとともに戦略的議論や机上演習を始めるのも良い。同盟国の指導者たちは、有事の際の軍事的行動だけでなく、制裁や経済的圧力を加えるための手段についても議論を積み重ねておくべきだろう。もし中国が台湾を侵攻すれば米国は軍事的に対応するであろうが、過去および現在の危機が示唆しているのは、米国大統領はそれに至らないための抑止的行動を望むということであり、より包括的な選択肢を想定しておく必要がある。米国大統領は、予期しない方向に物事が展開すると、即興で方針を編みだすものである。
(7) 以上挙げた選択肢は挑発的なものに見えるかもしれない。しかし先に、現状打開のために積極的に動き始めたのは中国の方である。中国は軍備を増強し、台湾への武力行使の可能性を否定せず、反国家分裂法を制定し、台湾周辺での領空侵犯を繰り返してきた。有事に備え、上述したもののすべてではないにせよ、いくつかについて一歩を踏み出すことは、中国に対する外交的抗議に相当しよう。台湾は外交的に孤立しているため、ロシアのような威嚇と強制のキャンペーンを受ける可能性が高い。米国が台湾の事実上の独立を維持するために必要なことは、台湾に対する中国の意図に対して、外交、経済、軍事面でより創造的かつ精力的に対応することである。
記事参照:Beijing Could Run Russia’s Playbook on Taiwan

2月18日「静謐でなくなった南極―オーストラリア専門家論説」(The Interpreter, February 18, 2022)

 2月18日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは、RAND Australia研究助手Dr Marigold Blackと同上席研究員Peter Dortmansの“Not so quiet on the Southern Front”と題する論説を掲載し、両名は南極条約システムの擁護者であり、南極において最大の権利の主張国であるオーストラリアの戦略にとって南極地域はこれまで静謐であり、オーストラリアの目は北に向いてきた。しかし、2048年の南極条約システムの再協議を前に、中国を始め、ロシア、インド、フランスなどが事前に有利な地位を占めようと蠢動して、南極における戦略的対立が顕著になりつつあり、オーストラリアはその戦略を見直すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 地球上で共有される最大の空間の1つとして、南極は戦略的対立の新たな関係を示している。南極条約システム(以下、ATSと言う)の長年の擁護者、そして南極に対する最大の権利の主張者として、オーストラリアは現状維持が崩壊するとその戦略態勢を見直さなければならない。
(2) オーストラリアにとって、南極における地政学に関する論議は相対的にいまだ未成熟であり、そこに中国との新たな緊張が覆い被さってきている。中国の北極に対する行動と言説を考えれば、中国が南極においても似た行動を採ると考えることは難しいことではない。しかし、中国のレンズを通して全てを見るというオーストラリアの最近の強迫観念は、2048年のATS再協議に先立ってその立ち位置を強化しようとする複数の行為者によって内在する戦略的複雑さを隠してしまっている。
(3) ロシアの国家安全保障戦略2021年版は南極を戦略的優先事項と規定しており、南極での能力に大きな投資をし、ロシアの存在感を増大させてきている。ロシアは極地の過酷な環境で運用する特殊機材の開発、配備をしており、南極において拡大するロシアの行動は北極における実質的な軍事的能力、経済的能力を再構築する現在の計画の延長と捉えることができる
(4) これら注意を要する国々の他に、様々な世界の行為者がそれぞれの願望から南極に戦略的に注目している。アルゼンチン、チリ、英国の主張は競合しており、未解決のままである。英国はフォークランド諸島に恒久的な軍事基地を保持し、南極の大国と自認しており、アルゼンチン、チリが中国との関係を考慮した時、この事態はどのようになるのだろうか?
(5) インドは世界的な大国と認められようとしている。インドはより大きな国際的役割を求めており、ATS、日米豪印4ヵ国安全保障対話(QUAD)の構成国として地域における存在感を増すかもしれない。インドは既に南極に研究基地をいくつか保有している。
(6) フランスは、南極に対する主張を南太平洋及びインド洋における利益と結びつけている。フランスは、インド太平洋における大国であるためのより広範な戦略の一部、そして排他的経済水域によって得られる広範囲に及ぶ漁業権を強化するための方策としてこの地域をフランス領南方・南極地域と呼んでいる。
(7) そのような国益の対立、国際的な勢力の均衡は、南極がより綿密で、より包括的な分析を必要としていることを示している。起こりつつある画策や位置取りは南極の地位が「共有空間」から「対立の空間」へ逆戻りする前奏曲かもしれない。もし、南極が地政学的緊張の中心となれば、オーストラリアは戦略的計算を見直す必要があるかもしれない。確かに、オーストラリアの戦略に南極及びその周辺における戦略的対立に関しては概ね静謐であった。南極地域はオーストラリアの国防戦略アップデート2020年版で言及するに値していなかった。オーストラリアの国防能力は北に指向していた。オーストラリアはその立ち位置を再考する必要があるかもしれない。オーストラリアは南極に重要な権利を主張しているが、その主張を擁護する、あるいはより広くATSを強化する能力を開発し、展開する力、あるいは明確な関心を持っていない。オーストラリアは、南極におけるオーストラリアの安全保障とは何を意味するのかより深く考える必要があるかもしれない。このような調査は、商業的な思惑、資源開発、環境への配慮、科学調査、増加する観光事業などがいかに最新のATSの規範に異議を唱えているかといった伝統的に防衛、安全保障の問題で優先されてこなかった問題に関わっていかなければならないことを明らかにするだろう。
(8) 南極の範囲、国際情勢における位置付け、情勢がこの空間でどのように動いているのかを理解する上で南極は特有なものを求めている。定住する人口が存在しない南極では、主権について異なる定義が求められる。それは人間を中心としたものではない。これまで受け入れられてきた所有権の指標はもはや承認、あるいは適用されないかもしれない。南極は、国際規範の方向を変える、あるいは新たに切り開く実験場として使われることになろう。
(9) 基本的な疑問として、オーストラリアにとって南極はどれほどの価値があるのか。歴史的な南極とのつながり、物理的な近さを考えれば、オーストラリアは南極の擁護者として特別な責任を有している。ATS再協議の前段階でより敵対的な国家が他に先んじて有利な位置を占めようとすることに効果的に対抗することができない、あるいはその意思がないのであれば、オーストラリアは南部の資産に対する安全保障上の危険を高めるかもしれない。オーストラリアはまた、南極、その平和的で科学的な利用、環境の保護を規定した国際規範を諦めることになるかもしれない。交渉が始まるまでATSの検討を延期することは簡単かもしれないが、他国は現状変更のために先制的な行動によってオーストラリアを出し抜くかもしれない。一部の国は既に彼らの目的を推し進めている。オーストラリアがその役割、利益、価値を維持したいのであれば、南極地域に対する首尾一貫した戦略の構築を考える必要がある。
記事参照:Not so quiet on the Southern Front

2月19日「インド太平洋におけるグレーゾーンの侵略への対処―米専門家論説」(The Diplomat, February 19, 2022)

 2月19日付のデジタル誌The Diplomatは、US Pacific Air Forces作戦法規副主任Ross Brownの”How to Respond to Gray Zone Aggression in the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでBrownはインド太平洋地域諸国が中国による悪質なグレーゾーン活動に対抗するには、意図的かつ総合的に対処する必要があり、対抗措置は米国とその同盟国や提携国が取り入れるべき強固な手法となり得るとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋地域では近年情勢が刻々と変化している。レーザー光線が一時的に偵察衛星の目をくらませ、人工島が岩礁の上に出現して中国の主権が及ぶとされる新たな前哨基地となった。中国の広大な航空管制に従わずに中国付近の国際空域を飛行する航空機に対しては、緊急防衛措置が取られると脅されている。このように中国の積極的なグレーゾーン活動が続けられており、それは中国が直接的な手段や他の国際規範に基づく手段では達成できないと思われる目標を徐々に達成することを意図するものである。
(2) 一般にグレーゾーン活動とは、国際関係の中で他国にとっては非友好的で不利だが、武力紛争の閾値を超えない活動のことである。それは国際的義務に違反する場合もあれば、単に国際法や国際的解決の弱点やすき間を利用する場合もある。グレーゾーン活動は、地政学的野心を得るために用いられ、それは争点となる。国際的に不正な行動をゆっくりと実行し、当初に明確に追求されていれば断固として反対されたであろう最終状態を獲得するものである。
(3) 中国をはじめとする一部の国がこのグレーゾーンで効果的に活動する一方で、米国とその同盟国や提携国は効果的な対応策に苦労してきた。米国やその他の国々が、ルールに基づく国際秩序への関与を促進・維持しつつ、悪意のあるグレーゾーンの活動に反撃するためには、対抗措置をどのように国際法の概念にあてはめ、いつ実施するかを再考する必要がある。
(4) 対抗措置とは、不法行為に対して、その不法行為に合わせた行為で対抗することを可能にするものである。最近の研究では、国家によるサイバー攻撃への対応としても対抗措置が注目されている。対抗措置は、他国に対して禁止されている行為を可能にするという点で強力であるが、いくつかの制約がある。
a. 対抗措置は武力の行使を伴うものであってはならない。グレーゾーンの活動はその性質上、武力紛争の閾値以下で行われるため、悪質なグレーゾーン活動との戦いにあっても、この制約は、ほとんど影響を与えないはずである。
b. 対抗措置は、違反国を国際規範の遵守に戻すよう計画、実行されなければならず、原則として違反行為が停止した時点で中止されなければならない。対抗措置の目的は処罰ではなく、悪意のあるグレーゾーン活動を停止させ、不正なグレーゾーン活動が始まる前の状態に当事国を戻すことなので、この点もグレーゾーン活動との戦いにおいては大きな負担とはならない。
c. 対抗措置は、被った損害に比例していなければならないが、自国の損害の分析には多くの要素が考慮されるため、比例要件が効果的な対抗措置の策定を著しく阻害することはないはずである。
(5) 対抗措置はグレーゾーンでの競争に特に適している。なぜなら、原因となった行為と同じ軍事領域や同じ国力の手段に限定する必要がないからである。たとえば、偵察衛星のセンサーが不正に不能とされた場合に、センサーを不正に不能にした国の海軍兵站基地を支える発電所に対するサイバー攻撃を行うかもしれない。このような考え方は、対抗措置が領域、地理、国力の手段にとらわれないことを意味する。
(6) 対抗措置が重要なのは、力よりも法に基づく秩序を促進するからである。対抗措置によって、米国とその同盟国や提携国は、違法行為に対する強力な対応を国際秩序の範囲内で行うことができる。対抗措置は、法に基づく対応を実践するだけでなく、大胆で国際的に不正な力の行使に対して有効な方法を提供する。
(7) 対抗措置は、中国の行為をどのように特徴付けるかという問題を回避するための手段を、被害を受けた国々に正当化して、その利用を認めるものである。問題の悪質な行為が武力行使に当たるかどうかを問う代わりに、その悪質な行為が国際的に不正なものかどうかを問えばよいのである。その答えが「イエス」であれば、対抗措置が採られる可能性がある。
(8) The Atlantic Council’sが最近発表した戦略文書「次期米国国防戦略への展望」”Seizing the Advantage: A Vision for the Next US National Defense Strategy "では、国際競争の全領域で国力のあらゆる手段を用いたハイブリッド戦争を実行するための省庁間協力の必要性が強調されている。米国では、対抗措置の成功と活用は、省庁間の協力を必要とし、結果としてそれを促進することになるであろうし、米国の同盟国や提携国も同様の状況にあると予想される。
(9) 対抗措置は、ある国が他国に対して通常禁止されている作為・不作為を実行することなので、ある政府機関が一方的に行えるものでも、行うべきものでもない。省庁間調整の一環として、被害を受けた政府がその行為を国際的に不当であると考え、そのような主張をしたいのだという判断が必要である。同様に、国際的に不正なグレーゾーン活動を特定、評価し、領域を超えた対策の選択肢を特定、開発するための省庁間の仕組みが常設される必要がある。
(10) 戦略的な意味合いが複雑なものにあっては、この省庁間調整は時間を要するかもしれない。また、緊張が高まっているときに偵察衛星がレーザー光線で何度も目つぶしをされるなど、国際法の定める宇宙空間の自由な利用に違反する場合には、「緊急対抗措置」が、国家の権利を迅速に守るために少ない前提条件でも許される可能性がある。また、グレーゾーンの被害国が必ずしも明確でないこともあり、適切な対抗措置を決定する上で、同盟国や提携国との調整にも同様の多国間取り決めが有効であろう。
(11) 対抗措置は、グレーゾーンの悪質な活動に対抗するための重要な手段であるが、万能ではない。対抗措置は、侵略国の活動が国際的に不正である場合にのみ発動することができる。グレーゾーン活動は国際的に不正であることが多いが、常にそうであるとは限らない。また、比例関係や対抗措置の継続期間についてもケース・バイ・ケースで考慮しなければならないが、その判断に取り入れられる要素は多岐にわたり、関連する政府関係者と連携して柔軟に検討する必要がある。
(12) これまで、中国をはじめとするグレーゾーン戦略は実を結んできた。インド太平洋地域諸国が悪質なグレーゾーン活動に対抗するには、意図的かつ総合的に対処する必要がある。国際ルールに基づき、秩序を損なうグレーゾーンの活動にうまく対抗しようとするならば、対抗措置は米国とその同盟国や提携国が取り入れるべき強固なツールとなり得る。
記事参照:How to Respond to Gray Zone Aggression in the Indo-Pacific

2月20日「中国、海軍のコルベットを海警船に転用―香港紙報道」(South China Morning Post, February 20, 2022)

 2月20日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“How does converting a Chinese navy ship into a coastguard vessel aid Beijing’s maritime mission?”と題する記事を掲載し、中国が、中国海軍のType056(NATOコードネーム:江島級)コルベットを海警船に改装し、転用しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国の専門誌によると、中国海軍のコルベットを海警船に改装することで、この執行機関の力を高め、より柔軟な方法で繊細な海洋問題に取り組むことができるとしている。
(2) Type056コルベットは、外洋での戦闘よりもむしろ、沿岸から中程度の距離にある沿海域での作戦や沿岸での任務を主任務とするコルベットである。その派生型であるType056Aは、対潜水艦戦が可能である。Type056は、Type053(NATOコードネーム:江衛級)フリゲートのような老朽化した艦艇を置き換えるため、2013年2月に就役した。2019年12月、中国はこうした艦艇の建造を中止し、外洋任務に適したより大型艦の調達に集中した。中国は現在、Type056コルベットを22隻、Type056Aコルベットを50隻保有している。
(3) Type056は文民の指揮下にある船と比較すると、船舶同士の衝突、頻繁に発生する海洋紛争でより優れた対応を行い、そして、電波妨害を行うことができると専門誌の記事は述べている。「Type056が中国の海警に加わることは、中国が海洋問題で他国に干渉されることを座視しないという明確なメッセージと見なすことができる。」しかし、その利点にもかかわらず、Type056は長期の航行ができず、非致死性兵器が十分ではないといった能力の制約があるといったこともこの記事は指摘している。
(4) 元中国軍の教官で香港を拠点とする軍事評論家の宋忠平は、「大型水上艦の艦数が長年にわたり増加するにつれ、主に沿海域で任務を遂行するType056の価値は中国にとって、もはやそれほど高くはない。よって、それらを海警に移管すれば、より有用になる」と述べている。
(5) 中国メディアの報道によると、海警に移管されたコルベットのミサイルと魚雷発射装置は取り外されていたが、76mm主砲と30mm機関砲は依然として搭載されており、その抑止力の維持を試みているようであった。
(6) 中国が海軍艦艇を海警の船艇に改造するのは今回が初めてではない。2007年3月、中国は、Tyep053H(NATOコードネーム:江滬Ⅰ型)2隻を海警に移管した。
記事参照:How does converting a Chinese navy ship into a coastguard vessel aid Beijing’s maritime mission?

2月20日「中国の軍事産業に重大な脆弱性:米シンクタンク報告書―香港紙報道」(South China Morning Post, February 20, 2022)

 2月20日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“US report finds big weaknesses in China’s defence industry base”と題する記事を掲載し、中国の防衛産業の強みと脆弱性を指摘した、米シンクタンクの報告書“Assessing Systemic Strengths and Vulnerabilities of China’s Defence Industrial Base”の内容について、要旨以下のように述べている。
(1) 米シンクタンクRAND Corporationが2月の第3週に発表した中国の防衛産業に関する報告書によると、中国は教育、原材料、先端部品、知的財産を含むいくつかの分野を米国とその同盟国に依存している。
(2) 「世界の工場」として、中国は、他のどの国よりも大きな製造能力を有しているが、同時にばら積みの一次産品とハイテク部品の両方を海外からの供給に頼っていると報告書は述べている。報告書によると、中国は、防衛産業で必要とされる5つの鉱物を米国とその同盟国に依存している。また、中国は、航空機と海軍のエンジンに関して、ロシア、ウクライナ、そしてある程度フランスにも依存しており、2015年から2020年の間に中国の全武器輸入の中で最大の割合を示している。
(3) しかし、最も重要な輸入品目は集積回路(IC:integrated circuit)であり、これは中国の経済的原動力にとっての重要性は、燃料や鉱石の輸入を上回っている。報告書は、この技術を「20世紀の石油と19世紀の石炭」に例え、先進的なICのサプライチェーンは、米国とその同盟国である韓国、台湾、日本の管理下にあると述べている。しかし、中国の軍事評論家である宋忠平は、軍事用途は市場主導の商用電気製品ほど速く発展しないため、中国が、米国が管理するICチップに大きく依存していることは、この分野に置き換えられないと指摘し、「ICチップや中核部品、機器については、中国は一般的にサプライチェーンの独立性と国内生産を実現している。高性能の航空機用エンジンを自国で開発する取り組みも徐々に実を結んでいる」と宋は述べている。
(4) また今後10年間の出生率の低下と労働力の減少は、中国経済の成長だけでなく、防衛分野にも影響を与える可能性があると報告書は予測し、防衛産業は訓練を受けた人材の確保と維持に苦労する恐れがあるとした。しかし宋は、中国の人口は減少する可能性があるが、訓練を受けた科学技術の人材の総数は米国よりも依然として多く、防衛産業に必要な人材の数を維持するのに十分であると主張した。
(5) 1つは、共産党がパワーと意思決定を支配していることである。中央集権型の取り組みは、政府全体の戦略の推進、長期計画の立案、促進された軍民融合に役立つとRAND Corporationの研究者たちは述べている。しかし、それは間違った技術に注力する危険を冒し、知的財産の保護が不十分になり、透明性の欠如を意味することになる。さらに、コスト、時間、品質管理の不備、そして腐敗などの欠陥を招いた。「中国の中央政府でさえ、国有企業やその他の(防衛産業の)供給者に対して透明性を欠いている」と彼らは述べている。
記事参照:US report finds big weaknesses in China’s defence industry base

2月20日「中国艦艇によるレーザー照射が持つ意味とそれへの対処法―オーストラリア安全保障専門家論説」(The Conversation, February 20, 2022)

 2月20日付のオーストラリアのニュースサイトThe Conversationは、Australian National Universityの国際安全保障教授John Blaxlandの“Explainer: what was the Chinese laser attack about and why does it matter”と題する論説を掲載し、そこでBlaxlandはオーストラリア北部海域において中国人民解放軍海軍がオーストラリア軍機に対してレーザーを照射した事件に言及し、それが中国によるオーストラリアへの圧力の強まりを反映したもので、オーストラリアがそれに対し冷静かつ断固とした対応をとるべきであるとして、要旨以下のとおり述べている。
(1) 2月17日に日付が変わった直後、中国人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)の艦艇が、オーストラリア北沖合の排他的経済水域内で沿岸警備を実施していた航空機にレーザーを照射するという事件が起きた。中国によるこの種の軍事的威嚇としては、これは最もオーストラリアに近い海域で起きた出来事である。彼らの狙いは、近く予定されているクイーンズランド沖でのオーストラリアによる軍事演習の監視だったかもしれない。そうした監視行動自体は、オーストラリアの領海外であれば合法的なものであるが、しかしレーザー照射は別である。Scott Morrison首相はそれを「威嚇行為」であるとして強く非難した。
(2) この事件の重要性を理解するためにはまず、レーザー照射がそもそもどれほど危険な行為であるかを理解する必要がる。レーザー照射の目的は、火器を発射する前に目標を特定することにある。それは敵対行為であり、紛争や戦争を開始する一歩手前の行為だと広く認知されている。照射されている側にとってそれは神経をすり減らすような行為である。また、レーザービーム自体が直接目に入れば、失明をもたらす危険性がある。学校現場などでレーザーポインターは広く使われていたが、最近はその危険性が指摘されている。
(3) 南シナ海の係争海域では、PLANや海警の艦船がしばしばオーストラリアや米国の航空機に対してレーザー照射を行う。しかしこれは、オーストラリアに近く、係争海域でもないところでは通常予測されるような行為ではない。それゆえ、オーストラリア近海でのこの出来事は中国による事態の拡大のように思われる。中国は、南シナ海周辺での「自由の航行作戦」をオーストラリアが実施することに対して警告を送っているのかもしれない。
(4) 今回の事件とそれに対する対応から2つのことが推測できる。第1に、中国がオーストラリアへの圧力を強めているということである。第2に、オーストラリアの政治家は、選挙を見据えて、中国との緊張の高まりを政治的に利用することに熱心であるということである。選挙が近づくなかで、今回のような、断固とした、しかし慎重な対処を必要とする争点を政治家たちは必要とする。われわれは中国の敵対行為に対して譲歩をしてはならないが、他方、この危機を政治的に利用し、事態を拡大させることも避けねばならない。
(5) 中国は戦争をすることなく、オーストラリアなどの国々の我慢の限度を探っている。公然とした挑発を行うことで自国の評判を下げることを中国は望んでいない。今後こうした問題に対応する際、オーストラリアの外交官はASEANや日米豪印安全保障対話(QUAD)など地域の国々の支援を集めることが重要であろう。地域の連帯の強さを利用して、中国の挑発行為を押し返す必要がある。
記事参照:Explainer: what was the Chinese laser attack about and why does it matter?

【補遺】

【補遺】
旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) A Case Study of Russia’s Arctic Posture
https://www.lawfareblog.com/case-study-russias-arctic-posture
Lawfare Blog, February 14, 2022
By Alex Kostin, an attorney with the U.S. Army, National Security Law Division 
 2022年2月14日、米陸軍National Security Law Division のAlex Kostin弁護士は、オーストラリアLawfare Instituteのブログに" A Case Study of Russia’s Arctic Posture "と題する論説を寄稿した。その中でKostinは、地理的環境も厳しく資源も枯渇したと言われているノルウェーのスヴァルーバル諸島であるが、ロシアのPutin大統領が示した「Arctic 2035 strategy road map」 は、短期的には、ロシアがスヴァルーバル諸島周辺の大陸棚へのアクセスをあきらめないことを示しているし、長期的には、ロシアは軍事的・経済的目的のために同諸島そのものを併合するという考えさえ有しているように思えると評した上で、NATOやノルウェーはPutin大統領の北極戦略の主眼が、北極航路経由の物資輸送量を増やすことにあることを理解すると同時に、北極圏における自国の利益を保護するためにも、ロシアに対しNATOは北極航路を攻撃する計画がないことを確約するべきだと主張している。さらにKostinはNATOの重要な北極戦略として、2021年5月にMoscow Carnegie Centerが公表した"Russia in the Arctic-A Critical Examination"という報告書で提案されていた人為的なミスによって引き起こされる危機や紛争を防ぐためにも多国間協定を追求するという手法を採用すべきだと主張している。

(2) Challenges Beyond the Indo-Pacific Test the Limits of the Quad
https://www.geopoliticalmonitor.com/challenges-beyond-the-indo-pacific-test-the-limits-of-the-quad/
Geopolitical Monitor, February 16, 2022
By Mark S. Cogan, Associate Professor of Peace and Conflict Studies at Kansai Gaidai University
Vivek Mishra, a Fellow with ORF’s Strategic Studies Programme
 2月16日、日本の関西外国語大学の准教授Mark S. CoganとインドシンクタンクObserver ResearchFoundation研究員Vivek Mishraは、カナダ加情報誌 Geopolitical Monitorのウエブサイトに、“Challenges Beyond the Indo-Pacific Test the Limits of the Quad”と題する論説を寄稿した。その中で、①QUAD参加国である日米豪印の外相は、2月11日にメルボルンで、第4回閣僚会議を開催した。②中国への不満が高まり、気後れしていたものが成果主義のアプローチに取って代わられつつあるため、QUADは制度化の強化に向けて動いている。③インドにとって、Jaishankarインド外相の訪豪は、印豪関係の領域を拡大するための直接的な機会を提供した。④今回の会議で、集団としてのQUADは、表明した立場の調和を織り込み、個々の利益よりも共通の利益を優先させるという進歩を示した。⑤QUADの共同声明は、特にミャンマー、北朝鮮、中国に対するインドの立場を通じて、この成熟ぶりを示している。⑥Biden米大統領は、欧州・大西洋地域の問題をインド太平洋地域の戦略的衝動と結びつけようとしている、⑦QUAD参加国が直面する重要な課題は、Biden大統領が域外の同盟国や提携国と、域内国の取り組みを同調させることである。⑧ウクライナに対するインドの微妙な立場と公式共同声明から同問題への言及を排除する戦略的必要性は、今後の障害を示唆している。⑨中国がQUADの共同声明から除外されたように見えるとしても、「威圧」と「透明性」という表現は中国の振る舞いに言及するものであり、QUADの目的、任務、役割は米国の最新のインド太平洋戦略に深く組み込まれているなどの主張を行っている。

(3) US' Indo-Pacific Strategy - Strengths and Potential Pitfalls
https://www.hudson.org/research/17569-us-indo-pacific-strategy-strengths-and-potential-pitfalls
Hudson Institute, February 19, 2022
By Patrick M. Cronin, Asia-Pacific Security Chair at Hudson Institute
 2022年2月19日、米保守系シンクタンクHudson InstituteのAsia-Pacific Security ChairであるPatrick M. Croninは、同シンクタンクのウエブサイトに" US' Indo-Pacific Strategy - Strengths and Potential Pitfalls "と題する論説を寄稿した。その中でCroninは、インド太平洋地域の継続的な発展はほぼ確実である一方で、その安定性はそうではないと話題を切り出し、この地域は広大で豊かであり、地球上の人口の半分と経済成長の3分の2を占めているが、問題はアジアが今世紀の国際関係を支配するかどうかではなく、真の問題は、この地域内の権力をめぐる争いがどの程度の破壊力を持つかであると指摘している。そしてCroninは、米国が世界に跨がる力の再配分と技術革新に適応するためには、インド太平洋地域の形成戦略を成功させることが不可欠であり、Biden政権の新インド太平洋戦略は、インド太平洋における大国としての米国の恒久的な地位と軍事力の前方展開、そして開かれた通商関係への長年の誓約を基礎として、本質的にその的を射ていると述べるなど、Biden政権のインド太平洋戦略を好意的に評した上で、米国はインド太平洋地域に拠点を有し、それを維持する意思もあるが、1995年当時とは異なり、米国はもはや独占的とも言える優位性を確立することは困難であり、中国と競争しながらインド太平洋地域に繁栄や安全などを提供することを追求しなければならないと指摘している。