海洋安全保障情報旬報 2022年1月21日-1月31日

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1月21日「アジア太平洋におけるEUの次の一手は―英専門家論説」(IISS, January 21, 2022)

 1月21日付の英シンクタンクThe International Institute for Strategic Studies(IISS)のウエブサイトは、IISS-AsiaのJames Crabtreeの“Where next for EU security policy in the Asia-Pacific?”と題する論説を掲載し、そこでCrabtreeは近年EUがアジア太平洋地域への関心を強めてはいるが、限られた資源のなかでEUが同地域への関与を深めるためには何が必要なのかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 近年、EUはアジア太平洋における長期的な安全保障上の提携者になろうとしている。2022年1月からEU理事会の議長国となったフランスのMacron大統領は、2021年秋に発表されたEUのインド太平洋戦略、より具体的には一帯一路構想に対抗するための、3,000億ユーロにのぼる「グローバル・ゲートウェイ」と呼ばれる基幹施設計画の推進を強調した。また、European Council議長のCharles Michelは2021年11月に同じようにEUにとってのインド太平洋地域の重要性を主張している。しかしながら、EUがインド太平洋戦略を推進できるだけの資源を有しているのか、そしてとりわけ海洋における安全保障の長期的な提供者となれるのかどうかという問題が残されている。
(2) EUのアジアへの転換は、中国の台頭に対する反応という側面を持ち、とりわけ米中間の緊張が高まるなか、うまく立ち回ることのできる新たな「地政学的」ヨーロッパを構築したいという願望の表れである。EUのインド太平洋戦略は、フランスやドイツなどがそれぞれの戦略を発表した後に表明されている。その文書は、「法に基づく国際秩序を強化する提携の構築」という当たり障りのない言葉を使いつつ、他方で中国に対する断定的な言辞が目を引く。そしてインド太平洋は「中国を含めた重大な軍備増強」の脅威に直面していると書かれている。安全保障と防衛は、EUのインド太平洋戦略における7つの領域の1つにすぎないが、「強化された海軍の配備」に関する調査を検討していると誓約している点も注目に値する。すなわちEUはインド太平洋に新たな「海の勢力圏」を構築しようとしている。
(3) しかしながらEUのアジアへのシフトには、資源と焦点という問題が伴う。EUには独自の海軍がなく、インド太平洋における海軍力の展開を強化するためには、関係各国の協調が必要となり、より多くの資源を投じることが要求される。もしそうなったとしても、急激にではなく漸進的になるであろう。EU諸国の軍事予算には制約があり、とりわけロシアという安全保障上の脅威がある。それとの関連で、インド太平洋全域に対して軍事力の展開を拡大することは困難であり、どこに焦点を当てるかを選択しなければならない。2021年9月にMichelは、南シナ海での航行の自由に関してヨーロッパは全面的な責任を負うとは述べたものの、欧州各国の関心はインド洋に偏っている。
(4) EUはインド太平洋地域の提携国との関係を幅広く深めると言うが、米国が強く求める中国への対抗の試みに関しては具体的な議論をしておらず、こうしたことも選択肢に入れておかねばならないだろう。2021年12月、ドイツ海軍の当時のトップはドイツが将来的に米国、その他が主導する軍事演習に参加する可能性があると示唆した。これはEUのあいまいな取り組みを反映している。一方では、これは米国に対してヨーロッパが世界的な安全保障上の提携者になろうとしているというシグナルである。他方でこれは、EUが米国から独立した活動を行えるようにするための試みであるかもしれない。中国への対抗についてはEU諸国の間で合意が得られていないことを考えれば、こうしたあいまいさは意図的なものかもしれない。
(5) EUがまず為すべきは、海の勢力圏の創設など、すでに発表された戦略を遂行することである。その上で、フランスはEU理事会議長国である間にさらなる構想を推進するかもしれない。さらに、インド太平洋にける恒久的、あるいは持続的な海軍力展開の構築というより野心的な試みもあり得る。これは2021年9月にドイツ国防相Annegret Kramp-Karrenbauerが提示した考えである。日米豪印4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)など既存の枠組みとの協力関係を拡大するという可能性もある。実際にEU戦略文書は気候変動などの領域におけるQUADとの協力に関心を持っていると述べている。過去には、ヨーロッパの空母を建造してインド太平洋での安全保障に貢献させるという構想もあったが、短期的には実現不可能であり、かつそれに向けた真剣な計画も立案されていない。しかしヨーロッパ各国は、EUの旗印の下で行動することで、他の海の安全保障努力において大きな役割を果たすことができるだろう。
(6) EUがどのような取り組みを採るにせよ、最初のインド太平洋戦略で示された約束を果たすことがまず求められる。しかし、地政学的な競争が激化している現在、この地域における長期的かつ重要な安全保障上の提携者になるというEUの目標は、今後さらに大きな努力と資源を必要とすることは間違いないだろう。
記事参照:Where next for EU security policy in the Asia-Pacific?

1月21日「インド製ミサイルをフィリピンに売却することの意味―印安全保障問題専門家論説」(The Diplomat, January 21, 2022)」

 1月21日付のデジタル誌The Diplomatは、インドのシンクタンクObserver Research Foundation のCentre for Security, Strategy & Technology センター長Dr. Rajeswari (Raji) Pillai Rajagopalanの“The Strategic Logic Behind India’s Sale of BrahMos Missiles to the Philippines”と題する論説を掲載し、そこでRajagopalanはインドとフィリピンの間で超音速巡航ミサイルの売買契約が結ばれたことに言及し、その戦略的意義について要旨以下のように述べている。
(1) インドとフィリピンの間で、ブラモス超音速巡航ミサイルの売買に関する3億7,400万ドルの契約が成立した。これが実現すれば、インド国産の防衛関連装備の大規模な売却の最初の事例となるであろう。この取引を含めた、インドによる東南アジア諸国に対する安全保障上の支援に関する戦略的意義を軽視してはならない。
(2) インドは大規模な防衛産業および防衛研究機関を有しているが、まだ世界的な防衛市場に供給者として参入できていない。それどころかインド軍はなお輸入兵器に依存し、インドは数十年間、世界最大の兵器輸入国である。インド防衛産業の規模は大きいが、それが供給する兵器のほとんどは外国の認可を得て製造されたものである。ここ数年間、インド政府は2025年までに50億ドルの兵器輸出という野心的な目標を掲げ、国内防衛研究とその製造に力を入れてきた。
(3) ブラモスはロシアと共同で開発されたものである。現行の型の射程距離は500kmであるが、輸出用は290kmである。それは大量破壊兵器の運搬手段であるミサイル及び関連汎用品・技術の輸出管理体制による制限である300km以下に抑えるためである。2004年に初めて実験が行われ、2007年にインド軍において制式化された。その後、派生型がインド陸海空軍に採用されている。フィリピンに売却されるのは海軍用のそれであり、フィリピン海兵隊の沿岸防衛部隊によって運用されることになるという。また契約には、操作員などの訓練、システムの運用や保守に必要な統合的後方支援も含まれているとフィリピンのLorenzana国防相は述べている。
(4) フィリピンだけでなく、特に中国との間で領有権の争いがある東南アジア諸国への安全保障支援をインドが拡大してきたことは注目に値する。ベトナムやインドネシア、タイなどがブラモスの購入に関心があり、インドネシアとの間では特に議論が進んでいるという。2020年7月、インドネシア国防相が訪印した際の最重要議題はミサイルの取引だったという。またインドはベトナムに対しても訓練を提供するなど、安全保障上の支援を継続している
(5) 中国の脅威により直接的に直面するこれらの国々を支援することは、中国が東南アジアでの負担を増大させることにつながる。したがって、そのことは中国のインド洋に対する圧力を軽減させることになり、それはインドにとって望むところなのである。中国はこの20年間、米国に対して接近阻止・領域拒否戦略を重視し、南シナ海において米海軍に脅威を与える能力の構築を進めてきた。東南アジア諸国にブラモスを提供することで、そうした中国の戦略を、東南アジア諸国が中国自身に対して遂行できるようになるであろう。
記事参照:The Strategic Logic Behind India’s Sale of BrahMos Missiles to the Philippines

1月21日「中国のグレーゾーン戦術に対抗するための日豪協力の必要性―オーストラリア国防専門家論説」(The Interpreter, January 21, 2022)

 1月21日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、オーストラリアGriffith UniversityのGriffith Asia Institute客員研究員Peter Laytonの“Australia–Japan defence cooperation in the grey zone”と題する論説を掲載し、そこでLaytonはここ10年以上中国が遂行しているグレーゾーン戦術に対し、日豪が協力してそれに対抗する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ここ数年の間、中国が展開する「グレーゾーン」戦術のために、日本やオーストラリアと中国との関係はますますぎこちないものとなっている。グレーゾーン戦術とは、経済的威圧やサイバー攻撃、係争領域の軍事化などさまざまなものを包含している。それは、特に南シナ海や東シナ海で有効的に活用されている。日本とオーストラリアはそれを深く憂慮し、それに対して軍事介入が必要であると考えている。オーストラリアの2020年防衛戦略アップデートは、「グレーゾーン的な活動に対応するための準備をしっかりと整えねばならない」とし、日本の2021年の防衛白書は、自衛隊の主要任務の1つがグレーゾーンへの対応であると定めた。
(2) そうした状況の中、日本とオーストラリアが協力して中国のグレーゾーン戦術に対応する必要があると私は考える。ここでは大きく3つの概略を示したい。最初の2つは、新たに締結された日豪円滑化協定を活用することと関係している。
(3) 第1に、オーストラリアが日本の航空警戒態勢強化に協力することである。自衛隊機はしばしば東シナ海上空の防空識別圏(ADIZ)へ侵入する中国軍機を阻止するために緊急発進している。日本は防空予算の削減に直面しており、中国はその間隙を突いているのである。中国はさらに南シナ海においても同様の活動を活発化させている。おそらく中国は、将来的に、南シナ海上空に自国のADIZを設定する意図があるのだろう。この点における日豪の協力は、将来的に起こると考えられる南シナ海における中国のADIZ設定への効果的な対抗策を編みだすことにつながるであろう。
(4) 第2に、オーストラリアが保有する無人航空機システム(uncrewed air systems:以下、UASと言う)を日本に配備することである。グレーゾーン戦術を活用する国々は、自分たちが定期的な監視下に置かれており、その行動がすぐに公になる状況であることを理解すると、その行動を控える傾向にある。そうした監視を可能にするのが、稼働時間の長いUASである。オーストラリアは、12機のスカイガーディアンと7機のトリトンを調達している。これらを日本に配備することによって、特に東シナ海における抑止は容易であろう。軍民両用の那覇空港が、これらUASの基地として最適である。
(5) 第3に、第4次産業革命によって推進された、革新的で小規模な技術開発、実験、製造に関する日豪協力が重要である。日豪の研究機関や中小企業間の協力は、グレーゾーン戦術に対応するための限定的な任務に、適切な技術を速やかに適用させることに焦点を当てることができるだろう。ここで開発されるシステムは、商業的に利用可能な技術を活用し、短期的な使用を目的とするものである。関連する技術やシステムとしては、たとえばAIやビッグデータ、ロボット技術、小型衛星システムなどがあり、広範囲の海洋を哨戒するために最適なものである。
(6) 中国のグレーゾーン戦術は10年以上続いており、今後も継続するだろう。日本とオーストラリアの協力によって、中国が投じた大規模な資源の一部を相殺することができる。そのなかで最適化された技術を用いてグレーゾーンに対抗することが重要になってくる。
記事参照:Australia–Japan defence cooperation in the grey zone

1月22日「アブダビにおけるフーシ派の攻撃―インド専門家論説」(Vivekananda International Foundation, January 22, 2022)

 1月22日付のインドのシンクタンクVivekananda International Foundation (VIF)のウエブサイトは、同Foundation 研究員Hirak Jyoti Dasの“Houthi Strike at Abu Dhabi”と題する論説を掲載し、Hirak Jyoti Dasは2022年1月のアブダビにおけるフーシ派の攻撃はUAEに経済的、軍事的に圧力を与えようとするフーシ派の賭けと見ることができ、サウジアラビアとUAEによる首都サナア空爆や同盟国によるマアリブやアルバイダの地上攻撃を含む事態の拡大につながる可能性も高いとして要旨以下のように述べている。
(1) 2022年1月17日にインド人2名とパキスタン人1名が死亡したアブダビのムサファ工業地帯の石油精製所に対する弾道ミサイルと無人機(以下、UAVと言う)を使用したフーシ派による攻撃について、イエメン紛争におけるアラブ首長国連邦(以下、UAEと言う)の役割に注目を集まっている。この論説では、フーシ派がUAEと直接対立した理由を特定し、イエメンで続く戦争に及ぼす影響を分析する。
(2) UAEは、サウジアラビアとともに2014年9月に首都サヌアを占領したフーシ派に対する軍事作戦を開始した。フーシ派は、2015年1月にAbdrabbuh Mansour Hadi政権という国際的に認められた政府を追放した。サウジアラビアとUAEの連合によると、フーシ派は宗派間の性質が共通しているためにイランの代理人と見なされている。イランとの対立は、フーシ派の攻撃を無力にするためのサウジアラビアとUAEのイエメン政策を作る上で大きな役割を果たしてきた。UAEは、2011年のアラブの春以来、混乱している国々の情勢を定めるために、対外的関与を大きく転換し、より積極的に他国に介入する取り組みを採用してきた。UAEは軍事作戦を開始した後、フーシ派の軍事基地、武器庫、経済資産に対して空爆を行ってきたが、2019年7月以降、直接的な軍事作戦を縮小してきた。UAEのイエメンからの限定的な戦術的撤退は、人道危機を長引かせるアラブ連合の役割に対する国際的な非難に照らして考えることができる。UAEの軍事戦略は、フーシ派を根こそぎにすることに失敗した。サウジアラビアのエネルギー施設と空港や民間センターのような経済資産に対するフーシ派の無人機とロケットによる攻撃の増加後、UAEはますます慎重になっていった。したがって、UAEのイエメンからの撤退の決定は、フーシ派と積極的に戦う対価は利益を上回るため自国の資産だけは守りたいという意図に裏付けられている。しかしUAEは、Hadi政権に忠誠を誓うSouthern Transitional Council(南部暫定評議会:以下、STCと言う)と地元民兵に対して、財政的、軍事的、技術的支援を提供し続けた。UAEの支援は、STCがイエメン南部でHadi政権に対して政治的、軍事的に自らを主張するために重要である。UAEにとって、当初の目標である首都サヌアのフーシ派の支配を無力化し、Hadiの支配を回復することは、STCを支援することによって、その利益を統合することを支持して、優先順位は下げられた。UAEはMayun島とソコトラ諸島にも軍事基地を建設した。
(3) 2021年、フーシ派の軍隊はUAV、巡航ミサイル、弾道ミサイルなどを使用して、年間を通じてサウジアラビアとUAEの連合軍を標的とした攻撃能力をさらに向上させた。米シンクタンクCenter for Strategic & International Studies(戦略国際問題研究所)によると、2021年の最初の9ヶ月間にサウジアラビアとUAEの連合軍の標的に対するフーシ派の攻撃回数は2020年の同時期と比較して倍増している。フーシ派は、国連が監視する停戦、サウジアラビアが提案した和平協定を拒否した。それには重要な空路海路の交通の再開、つまりサヌア空港、ホディタ(Hodeidah)港の再開、連合軍が保有する14隻の船舶の解放という要求を満たすことのできなかった政治的交渉の開始が含まれていた。地上攻撃の面では、フーシ派軍の戦闘機は何度もイエメン政府軍を圧倒した。イエメン西部のマアリブの占領がHadi政権下の政府同盟軍の終わりの始まりになることが懸念された。イエメン南部と連合軍の一部からなる民兵組織ジャイアント旅団の導入は、2021年12月から力の均衡をHadi政権有利に傾けている。政府同盟軍はシャブワ県全体を取り戻し、フーシ派戦闘員を追い出した。政府同盟軍は現在、マアリブとアルバイダ県に向けて進んでいる。フーシ派の進出を阻止する反フーシ派のエリート部隊はUAEによって訓練され、資金が提供されている。したがって、UAEの援助はフーシ派の有利を逆転させるために重要であった。特に2021年のマアリブでのフーシ派攻勢は、この地域で活動する反フーシ派軍の中の支配的な派閥の一つであるムスリム同胞団系のアルイスラを弱体化させた。ムスリム同胞団に対してイデオロギー的に反対しているUAEは、マアリブで同盟国の地元民兵を支援しアルイスラの影響力を弱めることによって、マアリブでの力の真空を埋めることに成功した。2022年1月3日のアブダビへの攻撃とUAE船籍の貨物船Rwabeeの拿捕は、最近のフーシ派の不満の高まりを示している。アブダビへのミサイルと無人機による攻撃を通じてフーシ派は、UAEの商業上の利益や投資に害を与えることによってUAE内で不都合な安全保障状況を作り出すと警告している。フーシ派は、政治的、軍事的、経済的にイエメンから撤退し、同盟国がこれ以上の地上攻撃を行うのをやめるよう要求している。フーシ派は、イエメン内の軍事的失敗の後でも、自分たちはサウジアラビアとUAEの両方を攻撃できる手ごわい勢力であり続けるというメッセージを送ろうとしている。UAEは、フーシ派の攻撃から比較的安全である。事実、フーシ派は、紅海沿岸での軍事行動に対応して2018年にUAE領土への攻撃し、港湾都市ホディタの支配をめぐって戦ったと主張している。フーシ派のUAE領土に対する攻撃は、2019年以降、限られた撤退を促進する戦術に変更することを余儀なくされた。
(4) 今回のフーシ派の攻撃は、UAEのイエメンへの関与を制限させ、経済上及び安全保障上UAEに圧力を与えようとするフーシ派の賭けと見ることができる。今回の攻撃はサウジアラビアとUAEによるサヌア空爆や同盟国によるマアリブとアルバイダの地上攻撃を含む事態の拡大につながる可能性が高い。UAEから見ると、2018年以降、地上で軍事力の展開を示すよりも地元の同盟軍を戦術的、経済的に支援するというように軍事政策の点で状況が変わった。UAEが民間センターや経済・エネルギー資産に対するさらなる攻撃を危険にさらす準備ができているかどうかを考える必要がある。フーシ派の行動は、同時にUAEとイランとの関係にも影響を及ぼす。イランはイデオロギー的にも軍事的にもフーシ派を支持する可能性が大きい。イランは、フーシ派に武器と技術を提供しながら、フーシ派の戦略的、政治的取り組みを制限していない。フーシ派は、一定期間、力関係を利益に合わせて変更させることに基づいた戦術的な柔軟性を示してきた。それにもかかわらず、イランは、フーシ派とサウジUAE連合の間の力関係において引き続き重要な役割を果たすであろう。今回の紛争は、不安定な地域の安全保障環境がインドからの海外移住者に対する直接的な影響を明確にした。2021年5月、インド人女性がイスラエル国内でイスラム原理主義組織ハマスのロケットにより死亡した。2022年1月上旬、フーシ派によるUAE船の拿捕の間、7人のインド国民が人質に取られた。アブダビへの現在の攻撃は、海外居住者たちが直面する危険をさらに示している。約350万人を占めるインドの駐在員社会はUAEで最大のグループであり、国の人口の30%を占めている。アブダビでは、総人口の15%がインド人である。事態がさらに拡大する場合には経済のすべての部門に関係しているインド人の海外居住者社会は高い危険にさらされる。最近の動きを踏まえ、インド政府はUAEとサウジアラビアと協力し、国民の安全と福祉を確保すべきである。
記事参照:Houthi Strike at Abu Dhabi

1月22日「カンボジアの基地での浚渫と中国との協定―英通信社報道」(Reuters, January 22, 2022)

 1月22日付の英通信社ロイターは、“Dredgers spotted off Cambodia’s Ream naval base where China is funding work, says US think tank”と題する記事を掲載し、カンボジアのリアム海軍基地沖で浚渫船が目撃されたことの背景について、要旨以下のように報じている。
(1) カンボジアのリアム海軍基地沖で浚渫船が目撃されたと米シンクタンクが1月21日に発表した。米シンクタンクCSISのAsia Maritime Transparency Initiative(以下、AMTIと言う)は、「港湾施設周辺及びその進入路を浚渫し、より深い水深を得ることはリアムでの大型艦艇の入港に必要であり、米国当局者たちが2019年に見たと報告した中国とカンボジアの秘密協定の一部であった」と報告した。CSISは2019年のWall Street Journalの報道を引用し、この協定は施設の改善に資金を提供する見返りに中国にこの基地の軍事的利用を許可したと述べている。
(2) 2021年6月、カンボジアのメディアはTea Bahn国防大臣の発言を引用し、中国はリアムの近代化と拡張化を支援するが、施設を利用できる唯一の国とはならないだろうと報じている。AMTIによると、1月16日の商業衛星画像には、2隻の浚渫船と浚渫した砂を集めるための荷船が写っていた。また、1月18日にリアムを訪問したTea Bahnは、「リアム周辺の海域は水深が浅いため、現在は小型の巡視船しか収容できない。深水港はカンボジアと中国の両国の海軍にとって遥かに有用になる」述べている。
(3) AMTIは、2021年秋以降、この基地の南西部の数カ所で整地が行われ、陸上での建設作業が継続されていると述べ、このことと浚渫は「この基地が重要な基幹施設整備に対応できるように準備していることを示している」と述べている。US Department of State報道官は、米国がカンボジアに対して、「リアムでの計画の意図、本質、規模、及びその建設において中国軍が果たしている役割について完全に透明化するよう要求し、この海軍施設の使用目的について疑問視した」と述べている。
(4) 2021年、ワシントンは、リアムでの汚職疑惑でカンボジア政府高官2人に対して制裁措置を取り、中国軍の影響力が強まっていると述べ、人権や汚職を理由に武器禁輸と輸出制限を課した。
記事参照:Dredgers spotted off Cambodia’s Ream naval base where China is funding work, says US think tank

1月25日「US Department of Stateの報告書、南シナ海での中国の主張を否定―米専門家論説」(USNI News, January 25, 2022)

 1月25日付のThe U.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、米海軍専門紙Navy Times元編集長John Gradyの“Panel: New U.S. South China Sea Report Designed to Push Back Against Beijing’s Expansive Claims”と題する論説を掲載し、1月にUS Department of Stateが発表した南シナ海における中国の海洋権益に関する主張に対する報告書について、要旨以下のように述べている。
(1) US Department of Stateが発表した“Limits in the Seas”は、ワシントンにとって南シナ海における中国の広範な海洋権益の主張を虚偽であることを証明するための法的根拠となるものであると同省当局者は述べている。海洋・国際環境・科学担当国務副次官補Constance Arvisは、この報告書はますます攻撃的になる中国に対抗して「我々の同盟国や提携国が利用可能な情報を提供できる」と述べ、法の支配を遵守する国々は中国政府による脅迫や人工島の軍事化を既成事実として認めないことを示すものだと語った。2年の歳月をかけて行われたこの研究は、中国の主張を「慎重かつ正確」に検証し、「法的に根拠がない」ことを明らかにした。中国の主張は、国連海洋法条約と矛盾するものであったとConstance Arvisは語る一方、米国はこの条約に署名していないがその条項を遵守していると述べている。
(2) 中国が海上民兵や海警を使って、これらの海域を通航したり、活動したりする他国に対して「嫌がらせや威嚇」を行うことは、「法の支配を著しく損なう」と、米Bureau of East Asian and Pacific Affairs多国間問題担当副次官補Jung Pakは述べている。Jung Pakは、この報告書は中国政府の海洋権益に関する2014年のUS Department of Sateの報告書の重要な更新であると付け加えた。その後7年間、中国の活動は他国に対して「より攻撃的」であり、2016年にはフィリピンとの領土問題における国際法廷の結果を受け入れることを拒否したことが特徴的だとPakは述べている。
(3) 報告書の重要なポイントは、岩礁やその他の水面下の地勢に対する中国の領有権の主張である。また、「島ではない地勢」に対する中国の権利の主張は、中国政府が多くの地勢を構築し、そこに軍隊を配備しているにもかかわらず、法的な根拠がないとし、また、南シナ海に対する「歴史的権利」、「諸島全体」の領土の管理を行う「直線基線」、その基線を利用して排他的な海洋領域を拡張するという中国の権利の主張を否定しているとUS Department of Stateの法律顧問Robert Harrisは指摘している。事実上、中国は南シナ海の広大な部分を内水として権利を主張している。報告書は「これらの主張は、海洋における法の支配と、この条約に反映されている、普遍的に認められた多数の国際法の条項を著しく損なうものである」と述べている。Pakは、米政府は南シナ海での領空通過と航行の自由に尽力しており、これらの慣行が支障なく続けられるよう、他の国々と協力していると述べている。
記事参照:Panel: New U.S. South China Sea Report Designed to Push Back Against Beijing’s Expansive Claims

1月25日「英豪間の世界観の違い―オーストラリア政治研究者論説」(The Interpreter, January 25, 2022)

 1月25日付のオーストラリアのシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、同Institute研究員Susannah Pattonの“AUKMIN shows the UK is a world away from Australia”と題する論説を掲載し、そこでPattonは1月21日に実施された英豪閣僚会談に言及し、英国がインド太平洋志向を強めつつも、その焦点と優先順位についてはオーストラリアとの間にズレがあることを認識すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2018年に初めて実施された英豪閣僚会談(以下、AUSMINと言う)が1月21日に実施されたが、このことは英豪関係が近年緊密になっていることを示している。特にオーストラリアは、インド太平洋に自身の対外政策の焦点を当てつつ、ヨーロッパとの提携を重要視している。しかし、英国の側はどうなのか。英国の世界観とオーストラリアのそれは一致しているのかどうか、英国のインド太平洋志向に対し、オーストラリアはさらに何を期待できるのか、こうした点を検討することは重要であろう。
(2) まず、オーストラリアの焦点がインド太平洋にある一方で、英国は世界に視野を広げている。この会合で英外相Liz Trussは、ロシア、中国、イランなど世界の「悪者」に焦点を当て、英豪がそうした国々による「世界的な挑戦」を受けているとした。第2に、Trussの世界観はイデオロギー的なものであり、既存の国際関係を民主主義と専制主義体制との間の対立と理解している。そのうえで彼女は英国の対外政策の目標を「自由のネットワークを世界規模で構築すること」とした。
(3) こうした世界観はオーストラリアのそれとは異なるものであるが、英国がロシアに焦点を当てるのは、ロシアによるウクライナ侵攻が差し迫っていることを考慮すれば(2月下旬にそれは現実化した:訳者注)当然のことであろう。英国の安全保障上の主要な関心はあくまで、ヨーロッパと大西洋地域にある。また、二元論的な英国の取り組みは、その歴史的背景や、EU離脱後の世界的な指導力の模索を考慮すれば、それもまた自然なことである。
(4) しかし問題は、独裁的な侵略者に関して世界中に焦点を当てることで、優先順位や資源配分が困難になることである。中国を他の「悪者」と同列に扱うことは2つの問題を生む。第1に、中国が突き付ける脅威の過小評価につながるであろう。Biden政権によれば、中国は「安定し、開放された国際システムに持続的に挑戦できる唯一の競争相手」と定義している。この文脈において、確かに英国はこれまでインド太平洋への関与を深める具体的な方策を打ち出してきたが、今回のAUSMINにおいて、英国側が新しい何かを提供することはなかった。
(5) 第2に、インド太平洋における中国の脅威の本質を誤解することになろう。アジアにおいて中国は、東欧におけるロシアのような振る舞いはしない。そして、それゆえに中国は米国と同盟国の影響力に対して深刻かつ長期的な挑戦を突き付けている。すなわち、中国の本当の脅威とは経済的な威圧ではなく、中国が依然重要な貿易相手国であり、海外からの投資元としてますます重要になっている多くの国々に対する影響力が及ぶ期間がますます長期化していることである。そして、中国の権威主義的な「操り人形」と、自由のネットワークにおける提携国との間にはっきりとした境界線はない。
(6) 中国とロシアを同列に扱うのは、実は英国にとって都合が良い。というのも、それによってヨーロッパの安全保障に対する米国の関心を引き止めることが期待されるためである。地理や歴史を考慮すれば、英国とオーストラリアで優先順位が異なるのは当然であり、オーストラリアの政策立案者は、英国の取り組みと優先順位の変更を促すことについては慎重であるべきであろう。しかしそれでも、もし米国が英国的なものの見方を採用するのであれば、それはオーストラリアにとってはやや不都合な状況を生むだろう。
記事参照:AUKMIN shows the UK is a world away from Australia

1月25日「中国の新データ政策による船舶自動識別システム(AIS)への影響―ノルウェー専門家論説」(9dashline, January 25, 2022)

 1月25日付のインド太平洋関連インターネットメディア 9dashlineは、Oslo Nuclear Project研究員Jamie Withorneの“ MARITIME MONITORING — AIS IMPLICATIONS OF CHINA’S NEW DATA POLICY”と題する論説を掲載し、ここでWithorneは、中国は数据安全法(Data Security Law:DSL)の船舶自動識別システム(AIS)への適用について追加的な説明を行うことに加え、AISデータを提供することで国際機関との協力を継続し、東アジアにおける海上監視の透明性の向上に貢献すべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年11月初旬、中国は新たに数据安全法(以下、DSLと言う)及び個人信息保護法を制定した。この法律は、中国の国家安全保障や主要基幹施設に関する重要データを外国人が利用することを制限しようとするものである。もしDSLが、中国国内の船舶自動識別システム(以下、AISと言う)が収集したデータを対象にした場合には、中国の領海内またはその周辺での船舶やその他海洋活動の監視が困難になることが予想される。しかし、AISを理解することで、この法律が長期的には悪影響を及ぼすことはないことがわかる。
(2) 中国のDSLがAISに与える潜在的な影響を評価するためには、AISを理解し、それが東アジアの国際安全保障分析にどのように適用できるかを理解することが重要である。
a. AISは、船舶の位置情報や関連する識別情報を他の船舶や沿岸当局に送信するための装置で、もともと船舶の衝突防止を目的として、2004年にInternational Maritime Organization(国際海事機関:以下、IMOと言う)が、一定の大きさ以上の船舶に定期的なAISデータの送信を義務づけた。船舶のAISデータは、政府機関と民間企業の両方が、地上または衛星の受信機を通じて収集することができ、ノルウェーのように収集したAISデータを公開している政府もある。
b. Marine TrafficというウエブサイトではAISデータを自由に閲覧できるが、IHS Sea-webやWindwardなどのウエブサイトはAISデータやその他の海事情報を有料で提供している。注目すべきは、AISデータ分析が拡大するにつれ、より多くの企業がAISデータの提供を始めていることである。
c. AISは海運業界で一般的に使用されており、商品が目的の場所に確実に届くようにするためのサプライチェーン分析によく利用される。東アジア地域では、国際的な安全保障専門家もAISデータやその他の海事データを利用する事例が増えている。たとえば、国連安全保障理事会の北朝鮮に対する制裁措置に関する専門家パネルの報告書では、AISデータを利用して、北朝鮮が海上でどのように国連制裁を回避しているかを調査・実証している。
 d. 非政府組織も国際安全保障分析を強化するために海事データを利用するようになってきた。たとえば、Center for Advanced Defense StudiesとRoyal United Services Instituteの専門家は、公開されているAISデータを使って北朝鮮の不審な船舶の行動を特定し、追跡する方法を発表した。Center for Strategic and International Studies(戦略国際問題研究所)のAsia Maritime Transparency Initiativeは、表向きは商業漁業に従事しているが実際には中国の法執行機関や軍とともに紛争海域で政治的な目的を達成するために活動している船舶を北京が利用していると指摘した。
(3) 2つの法律の施行を受けて、世界的な海事企業であるVessels Value社は、10月から11月初旬にかけて、中国海域におけるAIS信号数が1日あたり1,500万個からわずか100万個に減少したと発表した。同様に、少なくとも1社の中国のAISデータ提供会社は、新法の施行を受けて外国人へのAISデータ販売を中止した。DSLも個人信息保護法もAISに直接言及していないため、今回の送信量の減少が新法の制定に直接起因するかどうかは不明であるが、法律の制定と中国のAIS利用率の減少には明らかに相関関係がある。
(4) DSLでは、データを「コアデータ」、すなわち中国の国家および経済の安全に関わるデータと、中国政府による正式かつ具体的な定義が必要な「重要データ」に分類している。AISは経済的な目的で使用されることがあるので、「コア」または「重要」なデータに分類される可能性がある。その場合、データは中国政府の事前承認なしでの外国の法執行機関への提供は禁止される。これは、各国政府の公式な海事調査に影響を与える可能性がある。さらにDSLは第三者によるデータサービスやデータセキュリティシステムを厳しく規制している。それらは、中国で作成・保存されたAISデータの一般的な利用に影響を与える可能性がある。
(5) 中国の新しいDSLを一見すると、海上監視の観点からは心配になるかもしれない。データの利用可能性の欠如は、AISデータ分析の努力を妨げ、状況認識にあいまいさをもたらす。しかし、将来的な影響については、現実的な視点で捉えることが重要である。DSLは中国国内で作成、転送、保存されたデータにのみ影響を与えるので、中国に拠点を置く地上のAIS受信機に適用される。中国の地上局は、ある地域の活動をより質の高い形で提供することにより、AISデータの全体像を向上させることができるが、中国の地上局が唯一のAISデータ受信機ではない。そのため、DSLがAISデータに適用されるかどうかにかかわらず、中国以外の地域の受信機や中国以外の衛星受信機からのAISデータは、東アジアにおいて引き続き利用可能である。DSLが中国のAIS受信機に適用されるかどうかは、中国の規制当局によって決定される。新法には高額の罰金が科せられるため、11月に確認されたAIS信号の減少は、単に企業が積極的な法的措置を講じただけかもしれない。
(6) AISの活動は、法律が施行されてから時間が経過し、AISデータの生成が新しい法律に準拠していると判断されれば、再開される可能性が高い。しかし、中国がDSLの下でAISとデータプライバシーの関係についての概念を明確にした追加文書を発表するまでは、AISデータがコアデータや重要データに分類されるのかどうかは不明である。明確化の発表には時間がかかるため、新法を考慮してデータ共有の取り組みを中止した中国の組織が、短期的にAISデータの配布を再開する可能性は低い。
(7) 中国外交部は、国際条約に基づいて合法的に建設された中国の海岸線に沿ったAISは正常に作動していると述べている。このことから、中国政府は表向き、領海内におけるAIデータの分析を意図的に以前よりもあいまいにしようとはしていない。しかし、AISが稼働しているからといって、中国本土以外の者がそのデータを利用できるわけではない。DSLは、IMOによって規制・義務づけられているAISデータの生成を止めることはないだろうが、そのデータの利用はますます管理されるようになるかもしれない。もし北京がAISをDSLの対象となるデータタイプに分類するのであれば、AISデータの問題に関してIMOやその他の国際機関とどのように協力していくのかについて明確にするべきである。
(8) 中国の新しいDSLは、当初の報道が示唆していたほどAISや海上監視に悪影響を与えるものではないかもしれないが、東アジアにおける海上監視の重要性が高まっていることを浮き彫りにしている。AISデータ分析は、国際的な安全保障研究にとって重要な手法であることは明らかであり、AISデータの継続的な利用は東アジアにおけるAISデータ分析を包括的なものにする。中国は、DSLのAISへの適用について追加的な説明を行うことに加え、AISデータを提供することで国際機関との協力を継続し、東アジアにおける海上監視の透明性の向上に貢献すべきである。
記事参照:MARITIME MONITORING — AIS IMPLICATIONS OF CHINA’S NEW DATA POLICY.

1月26日「AUKUS、拡大は可能か―インド専門家論説」(The Diplomat, January 26, 2022)

 1月26日付のデジタル誌The Diplomatは、インドのシンクタンク、The Manohar Parrikar Institute for Defense Studies and Analyses調査研究員Dr. Jagannath Pandaの “Is ‘AUKUS Plus’ a Viable Option?”と題する論説を掲載し、ここでJagannath PandaはAUKUSの拡大の可能性について、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋における安全保障同盟にアジアの声を代表する国はないが、2021年9月に発足した「豪英米安全保障パートナーシップ」(以下、AUKUSと言う)は、他国を取り込むことができるか。AUKUS は、英語圏3カ国の排他的枠組みだが、インド太平洋における地域安全保障機構の面で大きな価値を有する。とは言え、ますます複雑化する多極的世界秩序において、排他的で限定された同盟関係には限界がある。したがって、AUKUS がより大きな影響力を持つためには、その少国間枠組みの中により包括的な討議の場を取り込む必要がある。このことは、必然的にAUKUSの正式な拡大を意味するのか、あるいは拡大された提携ではなく、インド太平洋地域の「有志」提携諸国とのより抽象的なAUKUS「プラス」といった形式になるのか。そしてAUKUS「プラス」の提携国としては、インド、日本及び韓国などのインド太平洋諸国とともに、ヨーロッパも有望なAUKUS「プラス」提携先である。
(2) AUKUSはその成立過程において、ヨーロッパ、特にフランスとの関係を損ねたが、米国とヨーロッパは長い歴史、共通の価値観、脅威認識そして課題を共有していることから、関係悪化が永続することはあり得ない。既に、NATO事務総長はAUKUSが「NATOやヨーロッパに向けられたのもではなく」、NATOは引き続きインド太平洋地域の提携諸国、即ちニュージーランド、オーストラリア、日本及び韓国とサイバー、海洋安全保障及びその他の課題について密接に協力していくであろうと語っている。Biden米大統領も、フランスとの関係修復に努めてきた。特にヨーロッパがロシアと中国からの「新しい挑戦」に直面していることから、将来的に、AUKUS とヨーロッパの安全保障の根幹であるNATO間の協力が排除されることはあり得ない。
(3) AUKUS の最初の重要な措置は、オーストラリアの原潜保有を支援することである。 当然ながら、このことは、AUKUS がインド太平洋地域における軍備競争と核不拡散基準の弛緩を引き起こす可能性を巡って、同盟諸国や敵対国における論議と懸念を高めた。したがって、「プラス」枠組みを通じて、AUKUSがインド太平洋地域の主要国と連携することは、地域安全保障に対する同盟国の懸念を和らげるとともに、AUKUS を域内におけるより受け入れやすい枠組みにすることができよう。
a. 特に日本は、米国と安保条約を、そしてオーストラリアと英国とは親密な安全保障関係を共有している。したがって、日本はAUKUS「プラス」枠組みにおける自然な参加国となろう。核推進力技術の使用は、日本では大いなる論議の的となる。それ故、日本と AUKUS間の協力分野には、核関連事項が含まれることはないであろう。むしろ、共通の課題、特に海洋分野における課題に対処することで、日米同盟の強化に資する重要な技術開発など共通の問題に関するアドホックな協力が推進されるであろう。これには、たとえば東シナ海と南シナ海での哨戒活動における協力が含まれよう。この方向に向けた措置として、日本とオーストラリアは最近、AUKUS協定にプラスし得る画期的な防衛協力協定に調印した。
b. もう1つの地域大国、インドはAUKUSを公式には歓迎も批判もしなかった。その代わりに、インド政府は4カ国安全保障対話(以下、QUAD)とは全く別としながら、AUKUS から用心深く距離を置いてきた。とは言え、ラダク高地における中国の最近の軍事活動を考えれば、より地政学的視点からは、AUKUSが中国の拡張主義的動向を重視していることは、インドにとって好ましいところである。もっとも、AUKUS が中国に対する軍事同盟となり、そしてインドが自らの戦略的自立を危うくしかねない条約関係を忌避していることを考えれば、両者の連携は複雑なものになりかねない。インドは現在のAUKUSとは距離を置いているが、それでも、日本とインドを「プラス」枠組みに取り込むことが可能になれば、QUAD- AUKUSの相乗効果を高めることは確実であろう。
c. 韓国はAUKUS について何らの公式声明も出さなかったが、文在寅大統領はAUKUSを地域の安定に貢献すると強調するとともに、オーストラリアの原潜取得決定を支持した。韓国政府は、長年原潜取得を望んできたが、「平和利用」に限定した米国との原子力協力協定を理由に認められなかった。韓国は最近、オーストラリアとの防衛協力を拡大した。韓国は、AUKUS 「プラス」枠組みを通じた、防衛協力の強化、そして核技術の利用拡大を予期しているであろう。反対に、もし AUKUS (そして特に米国)が韓国政府を除外し、核技術の移転を拒否し続けるなら、韓国は、原潜開発の提携先としてフランスと組もうするかもしれない。
d. 言うまでもなく、アジア諸国、特に米国の同盟国が抱く不満の最たるものは、軍事同盟、AUKUSの排他的性格にある。AUKUSは、域内諸国に何ら協議も、また配慮もなく、アジアの未来を決定する英語圏諸国による新たな帝国主義的試みと見なされている。もし AUKUS が「インド太平洋地域の平和と安定」を維持するというその目的を達成するつもりなら、アジア諸国は最新能力の開発に当たって相談に与る必要がある。インド太平洋地域における安全保障同盟においてアジアの声を代表する存在の欠如は、米国が域内において低下しつつある地位を再建するために追求している、「有志諸国間協力」にとって好ましいものとは言えない。AUKUS は、日本、インド及び韓国との対話を別として、ASEANそして特にオーストラリアの直接の隣国、インドネシアを重視する必要があろう。ASEANとの協議を別として、AUKUS はまた、目的を共有するQUADなどのインド太平洋地域における他の少国間枠組み的な機構との協力を強化することもできる。
(4) AUKUSは、排他的な同好の士が集まった組織の門戸を容易に他国に開くことはないであろう。しかしながら、域内諸国間の正当な地域安全保障に対する懸念、そして外部勢力に対する不信の故に、AUKUS の機構は恐らく加盟国の拡大ではなく、他国との連携によって改編される必要がある。AUKUS は、公の討議、対話、そして2国間あるいは多国間の情報共有を通して、インド、日本及び韓国などの主要な域内国のより広範な中核的グループを構築することによって、インド太平洋地域の所要を満たすことができよう。このような「プラス」提携は、AUKUSが台湾に対する中国の差し迫った侵攻、南シナ海における中国の拡張主義的行動、そして香港に対する威嚇的行動などの喫緊の脅威に対して軍事的関心を向け、関わっていく上で有益となり得る。ロシア・中国・北朝鮮同盟の可能性が高まるにつれ、AUKUS が互換性を促進するために連携国を増やし、協力関係を拡大する必要性は喫緊の課題となってくる。かつてロシア・中国・北朝鮮同盟は、米国・日本・韓国の3国連携に対する対応策として提案されたことがあった。今や、この3国同盟は、AUKUS に対する対抗策として浮上する可能性がある。このようなシナリオに対抗して、AUKUSは、ASEANやNATOなどの既存の機構と連携する必要がある。他国を正式メンバーとしてAUKUSに迎え入れる可能性はないとしても、補完的な「プラス」枠組みを検討することは、協調関係における柔軟性を高めるだけでなく、インド太平洋地域におけるより受け入れ易い、しかも影響力のある存在となり得る。
記事参照:Is ‘AUKUS Plus’ a Viable Option?

1月26日「ウクライナ危機の最中、米国、核装備の潜水艦が身近にいることを中国に想起させる―日経済紙報道」(NIKKEI Asia, January 26, 2022)

 1月26日付の日経英文メディアNIKKEI Asiaは、“Amid Ukraine crisis, U.S. reminds China nuclear-armed sub is close”と題する記事を掲載し、米国はSSBN「ネバダ」をグアムに寄港させ、中国に対しウクライナ危機の最中にあるが、西太平洋においても突発事態が生じても米国自身を無防備にはしていないとのメッセージを発信したとして、要旨以下のように報じている。 
(1) 弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)の金科玉条は、White HouseあるいはUS Department of Defenseからの命令は全没中であっても受信可能であるが、隠密性を重視するSSBNは応答しないことである。 したがって、SSBN「ネバダ」では最近受けた命令がグアム寄港ということで驚きがあっただろう。1月15日、U.S. Pacific Fleetはツイッターでトライデント弾道ミサイル20基を搭載していると思われるオハイオ級SSBNがグアムに到着したと発表した。SSBNの所在が公表されることは極めて稀なことである。
(2) U.S. Pacific Fleetのツィートは、台湾海峡で如何なる行動も採らないようにとの中国へのメッセージと広く見られており、ウクライナにおける緊張にもかかわらず、米国はこの地域から目を離すことはないことを中国に思い出させるものである。「潜水艦の艦名の発表が多くのことを物語っている」と元「ネバダ」乗組士官で米シンクタンクHeritage Foundationの上席研究員Brent Sadlerは言う。
(3) 14隻のSSBNは米国の核の3本柱の内の海軍の構成要素である。「遠く離れた海域での任務であれ、搭載装備の状態によるものであれ、SSBNの配備の変更は国益に関わる問題であり、しばしば大統領にも報告される」とSadlerは言う。米SSBNは米本土とハワイ以外の地域に寄港することは稀である。「SSBNが通常行動している海域から、(弾道ミサイルが)到達する必要のある中国国内の目標全てに我々は(ミサイルを)到達させることができる。中国国内の目標に(ミサイルを)到達させるためにグアムにSSBNを展開するべきではない。しかし、SSBNはメッセージを発信した。おそらく、中国は対応時間がより短くなったと考えているだろう」とSadlerは述べている。
(4) 「意図したか否かにかかわらず、メッセージは明らかに発信された。理解できることは、米国は太平洋の反対側にまでSSBNを展開できることであり、中国には同様のことは実施できないということである」と元潜水艦乗組員である、Center for a New American Security非常勤上席研究員Tom Shugartは言う。中国軍の躍進にもかかわらず、米SSBN探知はこの中には含まれていない。「SSBNは極めて隠密性の高い艦艇である。SSBNは広大な海域に隠れることができ、対潜能力を有する精鋭の海軍であってもSSBNを発見するのは極めて難しく、おそらく人民解放軍海軍が米SSBNを探知できるようになりつつあるとしても、米SSBNの探知は人民解放軍海軍の能力を超えている」とShugartは言う。ある米海軍の情報筋は、1月22日に実施された米海軍と海上自衛隊の大規模な共同訓練と軌を一にして行われたSSBNのグアム寄港は中国に送られた「一連の合図」の一部であり、ロシアのウクライナ侵攻を阻止しようと東欧で総力を挙げているとはいえ、米政府は西太平洋における突発事態に自らを無防備にしておくことはないとの合図である。
(5) 同時に米国は、ロシアにも合図を送っており、U.S. 6th Fleetは巡航ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSGNと言う)「ジョージア」がキプロス島のリマソール近くに1月15日に短時日の停泊を行ったとツイートしている。「SSGNは154発のトマホーク巡航ミサイル搭載しており、大きな打撃力を持つ重要な艦艇であることは疑う余地はない」とShugartは言う。SSGNの寄港はSSBNと同様に稀なことであるというだけでなく、Shugartはキプロス寄港の時と場所が重要であると指摘する。メッセージは「ウクライナとヨーロッパロシアの大部分はトマホーク・ミサイルの射程内にある」というものであることは明らかである。過去、SSGNは攻撃の第1陣の一部であった。SSGNは(リビアの飛行禁止空域設定のための)「オデッセイの夜明け作戦」では、リビアの防空能力を無力化するための第1波攻撃を実施した最初の艦艇であった。
記事参照:Amid Ukraine crisis, U.S. reminds China nuclear-armed sub is close

1月28日「ロシアの大規模海上演習に見るモスクワの意図―ノルウェー紙報道」(High North News, January 28, 2022)

 1月28日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版は、“Extensive Russian Marine Exercises May Reveal Moscow’s Thinking”と題する記事を掲載し、ウクライナ周辺の緊張が高まり、特にロシア政府と米政府の間で交渉が活発化する中で、ロシアは演習を抑止力にしようとしているとして、要旨以下のように報じている。
(1) ロシアMinistry of Defense(国防省)は、1月と2月にロシア極北、大西洋北東部、地中海、太平洋、そして東シベリアのオホーツク海北部で軍事演習を行うと発表した。この演習は、ウクライナ紛争をめぐるロシアと欧米の緊張関係や、ウクライナ国境付近への約10万のロシア軍兵士の配備と同時期に行われ、ロシア海軍のNorthern Fleet(北方艦隊)、Baltic Fleet(バルチック艦隊)、Black Sea Fleet(黒海艦隊)、Pacific Fleet(太平洋艦隊)の4個艦隊すべてが参加し、ロシア海軍の最高司令官Nikolay Yevmenov提督の指揮下で行われる。そして、1月18日、Northern Fleetの艦艇5隻がノルウェーのP-3Cの定期哨戒により、ノルウェー沿岸に沿って南下したことが確認された。さらにロシアMinistry of DefenseはNorthern Fleet、Baltic Fleet、Pacific Fleetの演習参加部隊の一部が地中海で訓練を行うために、演習終了後、地中海に向うと発表した。
(2) ロシア艦隊の行動に関して、Royal Norwegian Naval Academy(ノルウェー海軍士官学校)の研究員Ina Holst-Pedersen Kvamは次のように語っている。
a. Northern Fleetの演習で最も興味深いのは、ウクライナ紛争の将来的な方向性について、ロシアがどのように考えているかを、明らかにする機会を提供していることである。これまで、そのような機会はほとんどなかった。このため、ロシアの動きを予測し、その動きがどのような計算の上に成り立っているのかを推測するのは複雑なものとなる。
b. 揚陸艦からなる大規模な部隊は、すでに暖かい海域へと向かっている。これらの揚陸艦の半数は、Northern Fleetに所属している。いずれも人員や装備、武器を大量に搭載し、ウクライナに対する他方面からの攻撃を可能とするものであろう。その意味で、北極圏に残っている部隊を監視することが重要となる。
(3) Kvamは、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦が演習後に帰港しない場合、北極圏に残った部隊が伝統的な護衛の役割を果たすのではないかと語っている。
a. 潜在的な紛争においては、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦は北極海の氷の下で運用され、その他の部隊は、この潜水艦の行動の自由を確保するための護衛となる。
b. 北極圏にこのような配置をしていれば、現在南部で行われている交渉に大きな打撃を与えることになる。潜在的な核の脅威や誇示は、ロシアの要求をさらに強めることが目的である。
(4) 北極圏におけるNorthern Fleetの作戦演習は、通常の艦隊が活動する海域に限定される。それは、フィッシャー半島沖のバレンツ海西部と、ノヴァヤ・セムリア沿岸の東部であり、これに関してさらにKvamは以下のように述べている。
a. このような戦略的な指揮統制のための演習が、正教会の新年のお祝いの直後にNorthern Fleetで開始されるのは、珍しいことではない。
b. このような動きが、他の軍管区の活動と同時に行われるようになったのは、ロシアの軍事計画全般において、総力戦のような大規模な紛争への準備を重視する傾向が強まっていることを示している。
(5) ウクライナ周辺の緊張が高まり、特にロシア政府と米政府の間で交渉が活発化する中で、ロシアはこの演習を抑止力にしようとしている。ロシアMinistry of Defenseの発表によると、今回の演習には、140隻以上の軍艦と支援艦、60以上の計画、兵装を整えた1,000の部隊、約1万人の軍人が参加する。これについてKvamが言うには
a. Northern Fleetの演習については、対空戦と対潜戦に重点が置かれており、演習想定は通常のもので、米国との衝突も想定されている。
b. 北極圏におけるこのような部隊の運用は、ウクライナへの新たな進出に対する最悪の筋書きが、米国による軍事的対応よりむしろ、より広範な制裁に限定されるとPutinとその周辺が確信していることを暗示しているのかもしれない。Joe Biden大統領もこれを強調している。
c. 今、本当にその輪郭が見えているのは、ロシアの紛争管理体制全体におけるNorthern Fleetの機能と役割である。その目的は、ロシア人が「脅威」と「抑止力」と呼んでいるものに基づいて、戦争の恐怖を作り出すことにある。極端に言えば、これは核兵器を傘にした脅しである。
(6) ロシア最大の艦隊であるNorthern Fleetには、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦のほとんどが配備されている。これらの潜水艦は、核攻撃に備えてロシアの第2撃能力を形成しており、ロシア北西部のコラ半島と白海に基地を置いている。
(7) 今後の交渉カードについて、Kvamは次のように語っている。
a. ロシアが最悪の筋書きで核兵器を限定的に使用するの閾値については、不安がつきまとっている。ロシア政府の考えは、現在進行中の交渉で優位になることである。
b. 1月21日のAnthony Blinken米国務長官とロシアのSergey Lavrov外相の会談の前日、イギリスと米国がウクライナに武器を供給した後に、ロシアの爆撃機がフランツ・ヨーゼフ・ランドに飛行したことは、事態悪化の流れにある
c. もし、事態の拡大が必要となった場合、各段階における内容、構成、目的は次の段階の効率を高めるために誂え向きのものである。ロシアの動きを予測することは以前よりはるかに容易になり、その結果、我々が成功する可能性が高くなるであろう。しかし、クレムリンが脅威を堅固な能力と意志で示している以上、一般的な楽観主義にはならない
(8) BBCによると、1月24日、アイルランドは、ロシアが発表したアイルランドの海岸から240km離れた海域で行う海上演習に抗議した。Simon Coveney国防相は、ウクライナ危機に関するEU会議に出席する前に、「ロシアの演習は歓迎されない」と述べている。アイルランドは軍事的に中立である。またロシアの演習は、国際水域、アイルランドの排他的経済水域と重なる水域とその上空で合法的に行われる。
記事参照:Extensive Russian Marine Exercises May Reveal Moscow’s Thinking.

1月28日「ロシア海軍の演習に航行警報発令、20年ぶりーアイルランド紙報道」(The Irish Times, January 28, 2022)

 1月28日付のアイルランド日刊紙The Irish Timesは、“ Maritime warning on Russian navy drills is first for foreign military in 20 years”と題する記事を掲載し、2月3日からアイルランド南西沖海域で開始されるロシア海軍の演習に関し、アイルランドDepartment of Transportは航行警報を発出する一方、一部漁業関係者が抗議のため演習海域近くで操業しようとしていることに安全を第一に考え、慎重な行動を呼びかけているが、漁業関係者からは漁期との関係から演習との競合は少ないとの見方とあるとして、要旨以下のように報じている。
(1) 2月3日から計画されているロシア海軍の演習は、アイルランドがここ少なくとも20年の間で初めて航行警報を発出することが必要な外国軍隊による演習である。他の海空軍はアイルランドの排他的経済水域(以下、EEZと言う)を通過するが、アイルランド海軍が実施するものを除いて実弾射撃訓練が実施される事例は近年にはない。過去20年間に軍事演習に関わる航行警報は39回発出しているとアイルランドDepartment of Transportは取材に対し述べている。その全てがアイルランド国防軍の実施した演習に関わるものである。2月に計画されているロシアの演習が唯一の例外である。
(2) アイルランドDepartment of Transportは、演習海域にある全ての商船に対し、演習には実弾射撃、ロケット発射が含まれると警告する航行警報を26日に発出した。「計画されている演習の種類、海軍部隊の展開を考えると、船舶と乗組員は演習海域においては安全に関して重大な危険に晒されていると警告されている」とアイルランドDepartment of Transportは言う。商船は「常に安全の確認を行いつつ航行する」よう警告もされているとアイルランドDepartment of Transportは付け加えている。
(3) Micheál Martin首相は、演習海域において操業を継続することによってロシアの軍事演習に平和裏に抗議することを計画している(アイルランド南部の)西コールの漁民の安全を懸念している。Martin首相は、自らの優先事項は抗議に参加する漁民の平穏な生活であると言い、漁民は慎重であるべきだと注意喚起して、「人々は何よりもまず安全を考えるべきであり、我々の見方では軍事訓練が行われている近くで操業することは安全なこととは言えない。我々はある段階で漁民と安全について話し合い、演習海域近くでの操業は安全ではないと忠告する。今は心の落ち着きと何よりも常に安全を考慮して事態にいかに対応するかの兼ね合いが必要である」とMartin首相は述べている
(4) 26日にロシア大使Yuri Filatovとダブリンでロシア海軍の演習について会談したある漁業関係者団体は、会談の後、ロシア海軍の演習海域近傍でアイルランドのトロール漁船は操業できないだろうということだけが明らかになったと述べている。
(5) Irish Fish Processors and Exporters Association理事長はBrendan Byrneは、漁民の相談に
対し海事紙The Skipperが作成した地図を示して、計画されている海軍の演習海域からある距離を離れれば操業できるだろうと述べている。「結果として、操業海域と演習海域の間には広大な緩衝帯が存在する。Department of Transportが業界と早い段階でこのデータを共有していれば、全ては回避できただろう」とByrneは言う。ロシア海軍艦艇とアイルランド底引き漁船の間には「天然の安全帯」があることはByrneにとっては明らかであった。これは、ロシア大使とアイルランド漁業団体がロシア海軍の演習期間中ロシア艦艇とアイルランド漁船との間の「緩衝帯」で合意したとしてByrneの(アイルランド漁船は演習海域近傍で操業できないことだけが明らかとした)26日のメディアへの声明を否定した後にByrneが応じたものである。
(6) 「ロシア大使はアイルランド漁民が表明した懸念に注意深く耳を傾け、今回の演習は漁民の利益に如何なる危害をも加えるものではないと説明した。大使はまた、全ての関係者を危険に陥らせる如何なる挑発的行動も控えるよう促した」とロシア大使館の報道官は述べている。
(7) エビ漁の割り当てが解禁になる2月1日から60隻以上のアイルランド底引き船がロシアの演習海域の北側海域での漁を計画している。ロシアがIrish Aviation Authorityに通報した情報に基づきアイルランドDepartment of Transportが発出した航行警報によれば、演習は2月3日から8日の間、実施される。Killybegs Fishermen’s Organisation理事長Sean O’Donoghue(キリーベルグはアイルランド北西部のドニゴール州の町:訳者注)は演習期間中に演習海域での操業はないとして、エビ漁の漁船は時折、ロシアの演習海域近傍で操業するが、(鱈の1種である)ブルー・ホワイティング漁は2月中旬まで始まっておらず、通常、演習海域からはるか北の海域で行われ、ビンチョウマグロ漁は演習海域での漁であるが夏まで行われないと述べ、その他の遠海魚としてつぼ鯛があるがこれはさして問題にはならないと付け加えている。
記事参照:Maritime warning on Russian navy drills is first for foreign military in 20 years
関連記事:1月29日「ロシア、海軍の演習海域をアイルランド沖合から移動に合意―自由欧州放送報道」(Radio Free Europe/ Radio Liberty, January 29, 2022)
Russia Agrees To Move Naval Exercises Away From Irish Coast After Outcry

1月28日「西太平洋の中国海軍艦艇からの警告―台湾専門家論説」(China Brief, The Jamestown Foundation, January 28, 2022)

 1月28日付の米The Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefは、台湾海軍軍官学校の元教官呂禮詩の“Warnings from PLA Ships in the Western Pacific Ocean”と題する論説を掲載し、呂禮詩は2021年11月台湾の花蓮沖に停泊していた071型ドック揚陸艦2隻は中国海軍の対艦弾道ミサイルの「列島線突破(kill chain)」検証に関与した可能性が高く、これらの動きは西太平洋での米海軍の作戦に確実に影響を与えるであろうとして要旨以下のように述べている。
(1) 2021年11月中旬、中国海軍のType071ドッグ型揚陸艦2隻が台湾と与那国島の間の海域を航行し、台湾の花蓮沖に一時的に滞留した。日本のメディアは、両艦が台湾東部海域で定期的に実施される「統合戦闘即応哨戒」の一部として参加しただけでなく、着上陸訓練を行ったと推測した。もう1つの最近の報道では、中国軍は内陸部の新疆地域で目標追尾訓練のために米国の空母、強襲揚陸艦、アーレイ・バーク級駆逐艦のような形をした模型を構築したとされている。これらの出来事は関連がないように見えるが実際には関連しており、地域の安全保障に大きな影響を与えるだろう。
(2 ) 近年、Type071ドッグ型揚陸艦はほぼ毎年実施されている「遠海聯合訓練編隊」の一部としてのみ、第1列島線を越えて太平洋で数回行動している。その行動には、2019年及び2020年「長白山」(艦番号989)と2021年の「五指山」(艦番号987)の哨戒活動が含まれる。両艦は南部戦区に属している。中国艦艇は、第1列島線及び第2列島線を通過するだけでなく、毎年実施の聯合遠海訓練のために中部太平洋で行動している。しかし、2021年に「五指山」が隷属する第175戦隊司令部を中央電視台記者が訪問するまで中国海軍のType071ドッグ型揚陸艦を演習に含める目的は明確ではなかった。指揮官の腕章、胸のバッジ、戦闘服が映し出されたビデオ映像は、第175戦隊が明らかに中国軍火箭軍及び戦略支援部隊(以下、SSF と言う)の部隊として編成されていることを示している。また、第175戦隊は中国北西部のタクラマカン砂漠での射撃訓練を含む実践的な軍事訓練を行う部隊の一部であることも注目に値する。
(3) 2021年10月下旬USNIニュースは、中国海軍が新疆地域でのターゲティング訓練のためにアメリカの空母、水陸両用強襲揚陸艦、アーレイ・バーク級駆逐艦のような形をした模型を作ったと報じた。米国の宇宙技術会社Maxar Technologiesの衛星写真には、新疆の若羌県のモデルの正確な位置が表示された。一見すると、写真は砂まみれで遠隔地に見える場所を示しているが、実際にはこの場所は国道315号からわずか4km離れた所にあり、交通機関により容易に出入りできる。USNIの追加レポートによると、タクラマカン砂漠とホータン市の標的エリアの南端にある民丰县の標的エリアは航空情報(NOTAM)の管理下にあるが、衛星写真では公表されていない。
(4) 中国海軍は、長年内陸部の砂漠で弾道ミサイルの標的訓練場を維持してきた。10年前、一部のネット民(netizen)はアルゼンチンの軍事フォーラムで発表されたゴビ砂漠の一部であるバダイジャラン砂漠にある県新(Dingxin)試験訓練基地の南東6kmに米空母の飛行甲板に似た白い200メートルの船型を写した写真を共有した。2017年、中国海軍がアーレイ・バーク級駆逐艦、パトリオット対空ミサイルの配置、模擬の爆弾にも耐える航空機格納庫を含む在日米軍のモデルを、県新試験訓練基地の西535kmにあるクムタグ砂漠で建設したことを確認した。驚くべきことに、USNIが公開した衛星写真は、そのモックアップは縮小された模型であり、固定されていないことを明らかになった。アーレイ・バーク級駆逐艦の模型に付随したレールで移動することができる。対艦弾道ミサイル(以下、ASBMと言う)は、移動する艦艇を標的とする能力開発に関し、常に課題に直面してきた。中国海軍は、砂漠の射撃訓練場で同様の「実際の戦闘(actual combat)」の模擬を行っている。いわゆる「実際の戦闘」とは、ASBMが空母機動部隊の中の空母を正しく識別し、空母が回避運動を行っている際に、その空母の模型を攻撃することができることを意味する。
(5) 本当の問題は、なぜ中国海軍がASBMの射撃訓練場を砂漠に作ったかであり、そして、これらのミサイルは空母を撃滅する能力を持っているのか、ということである。2010年以前に、中国の学術雑誌に砂漠及び海洋環境におけるレーダーの後方散乱係数に関する相当に詳しい研究成果が掲載された。この研究のほとんどは「国家ハイテク研究開発計画」または「863計画」に由来している。様々な研究において、逆合成開口レーダー(ISAR)によると、内陸部の砂漠の乾燥した砂が均等に分布した小さな粒子のレーダー後方散乱が滑らかな海水表面のレーダー後方散乱に類似していることがわかった。DF-21DまたはDF-26ミサイルが空母を撃滅する能力があるかどうかについては、中国海軍の米軍に関する試験と発表が何らかの示唆を与えてくれる。2017年4月オンラインで投稿された携帯電話の映像には、内モンゴルのドルボッド・バナー(四子王旗)付近で発見されたミサイル残骸が映っていた。残骸には「E/ADF-26B」という言葉がはっきりと印刷されており、DF-26ミサイルの最新モデルであると思われる。フランスの軍事専門家Henri Kenhmannは残骸がDF-26Bの第1及び第2段推進ロケットであると判断した。ミサイルは、ミサイル射程内である約3,700キロ離れた新疆南西部の民丰县の標的エリアに向かっていた可能性が高い。USNIニュースは、若羌県の標的エリアは2019年3月から4月の間に建設され、2019年12月に取り壊されたと指摘した。しかし、現地の航空航法通報によると、そのエリアが2019年3月18日に使用された可能性がある。標的エリア周辺の空域は、2019年12月まで月に1〜2回飛行禁止とされており、頻繁に使用されていたことを示している。
(6) 砂漠でのミサイル射撃試験の後、海南海上安全局は、2020年8月24日から29日まで海南島南東の海域で軍事訓練活動が行われることを公表する「HN0078」を発令した。航空通報も海域の使用制限も発令された。2020年8月下旬、浙江省沿岸部の弾道ミサイルの軌跡を示すビデオが中国のWeiboに出回った。同時に、香港日刊英字紙South Chine Morning Postは、青海から南シナ海にDF-26が発射され、浙江省からDF-21Dが発射されたと報道した。3か月後、ハリファックス国際安全保障フォーラムでのインタビューで、US Indo-Pacific Command司令官Philip Davidson海軍大将(当時)は、中国海軍のDF-21DとDF-26 ASBMの試験が成功したことを確認した。中国海軍は、「砂漠の船(Ships in the Desert)」でASBMを試験している。それは、韓国に駐留する米軍の終末高高度防衛ミサイル防衛(THAAD)システム、日本の陸上に設置したJ/FPS-5アクティブ電子スキャンアレイレーダー、台湾の樂山頂上にある長距離警報レーダー、そして東シナ海または南シナ海に展開する米軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の防衛網による中国海軍のミサイルの監視と弾道分析を回避するためである。中国海軍のもう一つの利点は、内陸部で急ぐことなくミサイルの実際の戦闘に関する試験を行うことができることである。内陸で成功したASBMは、近隣諸国に抑止効果を持つ南シナ海で試験される。このような一連の状況のなかで、なぜType071ドッグ型揚陸艦が最近東シナ海に出現したのか。それは、この揚陸艦の全長と全幅は中国海軍の空母とType901補給艦に次ぐものであり、第1列島線の外で「列島線突破(kill chain)」検証を実施するため、空母の代わりに使用することができるからである。これらの演習の間、SSFは中国火箭軍に対し模擬外洋攻撃の情報、監視、ターゲット獲得、偵察(ISTAR)を実施する。2021年9月初旬に台湾と与那国間の東側の海域を航行したType052Cミサイル駆逐艦、Type052Dミサイル駆逐艦の戦隊、または2021年12月に花蓮沖に滞留していたType071ドック型揚陸艦2隻は、台湾東方海域での「列島線突破(kill chain)」検証に関与した可能性が高い。SSFは、衛星、高周波地上波レーダー、上空波(電離層反射波)を使用したOTHレーダー、水深400メートルのところにある潜水ブイ、潜水艦を探知する特殊なケーブルなどの主要システムを運用している。台湾東方の海域では台湾の中央を走る山脈が自然の障壁として機能しており、通常の警戒レーダーや高周波地上波レーダーでは水上艦艇を探知できない。しかし、上空波(電離層反射波)を使用したOTHレーダー、水深400メートルのところにある潜水ブイ、潜水艦を探知する特殊なケーブルは早期警戒機KJ-500と信号情報機Y-9JBと連係して情報、監視、偵察(ISR)を依然として実施することができる。中国海軍の陸上での試験とASBMの開発の真の目的は、第2列島線内の米国の空母打撃群の優位に対抗して、中部太平洋における米軍の海上優位を逆転させるために、接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略を実施することである。しかし、DF-21Dの大量生産が始まった直後に「1つの点における、1つのブレークスルーがすべてのタイプでの普遍的な使用をもたらす」という中国海軍の兵器生産の原則に従って、DF-26の射程延伸派生型がすぐに登場した。DF-15Bと「フラップの付いたサイボーグのような運搬手段」の設計を分析することにより、DF-26の射程延伸派生型がASBMとして使用できる可能性があることを確認できる。
(7) 最近台湾の花蓮沖に滞留したType071ドック揚陸艦は、東部戦区に隷属していることは明らかであり、中国海軍のASBMの「列島線突破(kill chain)」検証に関与した可能性が高い。したがって、アーレイ・バーク級駆逐艦と同等もしくはそれ以上の大きさの艦艇で第2列島線付近を航行することが多い台湾、日本、オーストラリアの海軍は、中国の対艦ミサイルのシースキミング(sea skimming、ミサイルあるいは航空機が敵艦艇のレーダーからの被探知を回避するために海面上を極超低空を飛翔することを言う:訳者注)に直面するだけでなく、はるかに高い脅威から自己を守る必要がある。最後に、これらの動きは西太平洋での海軍作戦の危険性を重視する米軍の行動に確実に影響を与えるだろう。
記事参照:Warnings from PLA Ships in the Western Pacific Ocean

1月29日「ロシア、海軍の演習海域をアイルランド沖合から移動に合意―自由欧州放送報道」(Radio Free Europe/ Radio Liberty, January 29, 2022)

 1月29日付のプラハに拠点を置く多言語放送メディアRadio Free Europe/ Radio Libertyは、“Russia Agrees To Move Naval Exercises Away From Irish Coast After Outcry”と題する記事を掲載し、2月3日から実施予定のロシア海軍の演習の実施海域を当初計画のアイルランド南西海岸沖から移動させることに合意したとして、要旨以下のように報じている。
(1) 1月29日、駐アイルランドロシア大使は声明で2月3日から予定されていたアイルランド南西海岸沖の国際海域におけるロシア海軍の演習を実施しないと発表した。Yury Filatov大使は、声明の中でアイルランド政府と漁業団体への「善意の表れ」として海軍の演習海域を移動することをロシアは決定したと述べている。
(2) 当初、2月3日から8日の間で計画されていた演習の発表は、アイルランドでかなりの議論を巻き起こした。ある漁民は、ソナーの使用が海洋生物に危害を及ぼすと懸念を表明し、ある者は漁民が演習予定海域で抗議を計画していると言っている。
(3) ロシア国営TASS通信によれば、1月24日の週の初め、Filatov大使は演習参加部隊の行動について懸念するようなものはなく、アイルランド政府はこの演習に関し「正式に通知されている」と述べている。しかし、1月29日の声明ではアイルランド政府及びアイルランド南部及び東部のFish Producers Organizationの要望への対応として、ロシア国防相Sergei Shoiguは「アイルランド漁船の伝統的な漁場での操業を妨害しないよう」「善意の証として」演習海域をアイルランドEEZの外に移動すると決定した。演習をどこで実施するかは分かっていない。
(4) アイルランド外相Simon Coveneyは、そのツイッターでアイルランド沖合での演習実施を再考するようロシア国防相Sergei Shoiguに申し入れていた。「29日夕刻、ロシアの演習はアイルランドのEEZ外に移動することを確認した文書を受け取った。これは歓迎すべき対応である」とCoveney外相は言う。
(5) ロシアがウクライナとの国境付近に100,000名を超える部隊を集結させ、米国、その他の西側諸国はロシアがウクライナに侵攻するのではないかと懸念しているこの時期にこの演習計画は特に歓迎されざるものであった。ロシアは、隣国への如何なる侵攻も計画していないと否定している。アイルランドはNATO加盟国ではないが、ウクライナの緊張緩和に独自に取り組んではこなかった。
記事参照:Russia Agrees To Move Naval Exercises Away From Irish Coast After Outcry
関連記事:1月28日「ロシア海軍の演習に航行警報発令、20年ぶりーアイルランド紙報道」(The Irish Times, January 28, 2022)
Maritime warning on Russian navy drills is first for foreign military in 20 years

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1)BEYOND WAR AND PEACE: THE PLA’S “NON-WAR MILITARY ACTIVITIES”
CONCEPT
https://mwi.usma.edu/beyond-war-and-peace-the-plas-non-war-military-activities-concept/
Modern War Institute, January 26, 2022
By Kevin Bilms, a career Department of Defense civilian serving in the Office of the Secretary of Defense and a nonresident fellow of the Irregular Warfare Initiative, a joint forum between the Modern War Institute at West Point and Princeton University’s Empirical Studies of Conflict project
 1月26日、US Department of Stateなどでの勤務経験を有するKevin Bilmsは、US Military AcademyのModern War Instituteのウエブサイトに" BEYOND WAR AND PEACE: THE PLA’S “NON-WAR MILITARY ACTIVITIES” CONCEPT "と題する論説を寄稿した。その中でBilmsは、中国は最近、極超音速ミサイルの発射実験に成功するなど、軍事技術の開発に余念がないが、中国共産党の政治的動機や人民解放軍の役割への期待を評価せずに、北京の技術革新と軍事拡大に焦点を当てることは不完全であり、本来は、人民解放軍が共産党の政治戦略を支援するためにどのように組織され、行動しているのかを米国はよりよく理解しなければならないと指摘している。その上でBilmsは、英語に翻訳されアクセス可能な 2013年版『戦略学』によると、人民解放軍は、すでに知られた三戦(世論戦、心理戦、法律戦)や「無制限戦争」とは一線を画す、「非戦争軍事活動(Non-War Military Activities:NWMA)」を平時の活動の中心においており、米国はこのNWMAに対抗する効果的な戦略と投資を考えなければならず、米国や西欧の戦略家らは同書で示された内容を読み解き、有効に活用すべきだと主張している。

(2)Lithuania Fever in Taiwan: Can China Break It?
https://www.fpri.org/article/2022/01/lithuania-fever-in-taiwan-can-china-break-it/
The Foreign Policy Research Institute (FPRI), January 26, 2022
By Thomas J. Shattuck, a non-resident Fellow in the Asia Program at the Foreign Policy Research Institute (FPRI)
 1月26日、米シンクタンクForeign Policy Research Instituteの非常勤研究員Thomas J. Shattuckは、同シンクタンクのウエブサイトに、“Lithuania Fever in Taiwan: Can China Break It?”と題する論説を寄稿した。その中で、①リトアニアから台湾への輸入が増えているが、台湾とリトアニアがお互いを支持し続けるかどうかで、他の国々が台湾との関係に関して中国政府にどう対応するかが決まってくる。②台湾の一連の支援は、2021年夏、リトアニア政府と台湾政府が相互の首都に非公式駐在員事務所を開設すると発表したことに端を発しているが、ビリニュスにある事務所の名称が「台北」ではなく「台湾」代表処となっていることが注目された。③その結果として中国政府は、リトアニア政府との外交関係を引き下げ、駐中国リトアニア大使を退去させた。④台湾がリトアニアにビジネス代表団を送り、リトアニアが台北に議員代表団を送る一方で、北京は、リトアニアに関係する製品に関して、経済制裁を課したり、ドイツに圧力をかけたりした。⑤一方で、米国やEU、欧州各国がリトアニアへの支持を表明し、リトアニア政府関係者は米高官と異例の頻度で会談し、US Export-Import Bank(米国輸出入銀行)はリトアニアに輸出信用協定を提供した。⑥EUは、中国からの継続的な経済に関する圧力を考慮し、中国との新しい経済協定を否定し、リトアニアの産業を支援すべきである。⑦中国は、対象国内の不一致を利用しようとしており、リトアニアの場合も台湾問題をめぐる国内の対立が表面化し始めている。⑧台湾との関係を強化する国への国際的な支持の高まりは、台湾に政治的・経済的な機会をもたらすかもしれない。⑨スロベニアも、台湾政府との関係を模索し始めている。⑩「歌う革命」の後、ソ連に勝利した記憶があるリトアニアの人々は、再び民主主義のために立ち上がっている。などと述べている。

(3)China: Coercion as National Policy
https://www.vifindia.org/article/2022/january/31/china-coercion-as-national-policy
Vivekanda International Foundation (VIF), January 31, 2022 
By Lt Gen (Dr) Rakesh Sharma (Retd.), Distinguished Fellow, VIF
 1月31日、インドのシンクタンクVivekanda International Foundation(VIF)研究員Rakesh Sharmaインド陸軍退役中将は、同シンクタンクのウエブサイトに" BEYOND WAR AND PEACE: THE PLA’S “ China: Coercion as National Policy"と題する論説を寄稿した。その中でSharmaは1月27日、中国国防省の呉謙報道官が「他国に対して何らの強制はしていないし、これまでも強制はしていない」と主張したことで明らかなように、中国は定期的に政治的、経済的、軍事的強制に訴えてきたため、こうした「強制」という中国の態度に関して、深刻な論争にさらされていると指摘し、最近では、外交や経済的威嚇のような非軍事的強制や軍事的強制の使い方にも精通してきたとした上で、中国への対抗手段として、インドは、①軍の近代化、②部隊展開能力の向上、③適切な軍事演習の実施、④宇宙戦で対抗できるだけの能力開発、⑤情報戦に勝つための能力向上、を進めなければならないと主張している。