海洋安全保障情報旬報 2021年12月11日-12月20日

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12月11日「中国、赤道ギニアに海軍基地建設か―香港紙報道」(South China Morning Post, December 11, 2021)

 12月11日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“How Equatorial Guinea became a backdrop for China-US rivalry”と題する記事を掲載し、中国が大西洋での艦艇への後方支援基地として赤道ギニアに海軍基地建設を目指しているとした上で、中国は「真珠の数珠」戦略の下、基地網建設に努力を傾注しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 赤道ギニアは中央アフリカの西海岸に位置し、人口は140万である。この小さな、しかし石油に恵まれた国は今、米中の地政学的対立のただ中にある。赤道ギニアは、中国の軍事基地が置かれるかもしれないという示唆で注目を浴びており、米国は大西洋に対して抱える軍事的な望みが危うくなるかもしれないと述べている。
(2) 懸念は、12月5日付の米紙The Wall Street Journal の報道で表面化した。同紙の記事は中国が赤道ギニア最大の都市バタに艦艇の弾薬補給と修理のため海軍基地を建設するようであると報じている。中国は、バタで深水商港の再建と拡張を行っている。
(3) 米軍はこの地域を相当程度支配しており、この海域に最大の競争相手が出現することを歓迎しないだろう。US Department of Defense報道官John Kirbyは安全保障上の含意を懸念して、「中国と赤道ギニアにおける中国の行動が安全保障上の懸念として確実に関係する可能性のある段階になっている、と赤道ギニアの指導者達に明らかにしてきた」と詳細は避けつつもKirby報道官は述べている。
(4) 中国はこれに対応していないが、環球時報英語版The Global Times は「中国が戦略的な大国間の競争のために大西洋に軍事力の投射を加速する理由は見いだせない。中国はアフリカに巨額の投資をしてきた。これは海賊を抑止し、これと戦うためである。しかし、赤道ギニアに中国が海軍補給基地を確立すれば、米国が想像しているものとは異なるものとなろう。この地域を害することなく利するものとなるだろう」としてこれを軽視している。中国軍に近い情報筋はまた、「赤道ギニアの位置は中国の戦略的利益に合致しないため、軍事基地はありそうにない。赤道ギニアは中国から遠く離れており、中国の主要海上交易路に沿って位置しておらず、同国の石油さえ採掘されれば、利益を最大化するためには中国に送るよりもヨーロッパに売り込む方が適当である」と述べている。
(5) 加えて、赤道ギニア副大統領はスペインメディアに対し「中国は友好国であり、戦略的提携国ではあるが、現時点で(海軍基地建設というような)合意はない」と否定している。しかし、赤道ギニアは最近の数か月、ワシントンと北京からかなりな注目を最近の数か月集めている。
(6) 米安全保障担当次席補佐官Jon Finerが10月にアフリカ歴訪の際に赤道ギニアは旅程の中に含まれていた。Jon Finerは赤道ギニア大統領Teodoro Obiang Nguema Mbasogo及び副大統領と面談し、海洋安全保障強化とCovid-19の世界的感染拡大終息の方策について協議している。
(7) 同じ10月、中国の習近平主席は赤道ギニア首脳に一帯一路構想の枠組みの中で様々な分野における協調を拡大すると呼びかけている。
(8) 米企業は赤道ギニアの石油工業に投資してきたが、中国の一帯一路が食い込んできている。米シンクタンクMiddle East Instituteの研究員Mohammed Solimanは、米中は新たな問題を含む結果を招くような大国間の対立に世界中で巻き込まれているというほぼ一致した意見が生まれつつあると述べている。「ワシントンは、中国が西アフリカにおける米国の軍事態勢に脅威を及ぼす恒久的な戦略的軍事基地を大西洋方面に獲得するかもしれないと懸念している」とMohammed Solimanは言う。
(9) 米シンクタンクFoundation for Defence of DemocraciesのCraig Singletonによれば、赤道ギニアは最終的に中国が大西洋と資源豊かな北極に戦力を投射することを可能にするだろう。そして、大西洋に戦力を投射することが可能になることはそれだけ米国の海岸に接近することでもある。「これが現在、中国に欠けている能力である」とCraig Singletonは言う。
真に世界規模で作戦を展開するために中国軍は、第2次世界大戦後に米国が行ったようにインド太平洋及びアフリカ全域の重要な中間点に軍事基地網を確立しなければならないとCraig Singletonは言う。これらの基地は中国艦艇を停泊させ、中国本土から遠く離れた艦隊の支援を助けることになるだろうとして、「このような基地網の欠落が中国の軍事的足跡を中国近辺に押しとどめている大きな原因である」とCraig Singletonは言う。
(10) アフリカ東岸のケニア、タンザニア、大西洋沿いのナミビア、中央アフリカのサントメ・プリンシペを中国が軍事基地展開のために注目していると米当局者は様々に述べている。米情報機関とUS Department of Defenseは中国海軍が様々な種類の海軍施設の基礎を築きつつあると評価しているとAmerican UniversityのMiddle East-Asia Project長John Calabreseは述べており、約15年間、中国はインド洋全域に(港湾等の)海に関わる外構を点在させる「真珠の数珠」戦略を進めつつあるという見方がグワダル深水港開発に触発されて流布していると述べている。2013年に一帯一路構想が動き始めて以来、米国の安全保障に携わる全ての人々の目がハンバントタ港のような各地で行われる同種活動の兆候に焦点を当てている。ジブチに中国の基地が建設され、拡張されたことがこれらの懸念が現実化する転換点となったとCraig Singletonは言う。米中の「大国間対立」の激化、アフリカ、インド洋地域全域に広がる商業活動に対して、利益を守るだけだとしても、中国は軍事目的の施設建設努力を加速しているようである。
記事参照:How Equatorial Guinea became a backdrop for China-US rivalry

12月11日「南シナ海をめぐり東南アジアでのソフトパワーを失いつつある中国―中国南海研究院研究員論説」(South China Morning Post, December 11, 2021)

 12月11日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、中国南海研究院非常勤研究員Mark J. Valenciaの“Beijing’s hard approach in the South China Sea could cost it soft power gains in Southeast Asia”と題する論説を掲載し、Mark J. Valenciaは中国の南シナ海での行動が中国のソフトパワーを大きく損ねており、その方針転換が必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は、東南アジアにおける優越をめぐる米国との戦いにおいて着実に歩を進め、ASEANとの関係はいまや「包括的戦略的パートナーシップ」にまで至っている。しかし最近の中国による南シナ海での行動は、領有権を主張する国々の目には攻撃的な違法行為に映っており、中国のソフトパワーは失われつつある。
(2) 中国は、いわゆる九段線が何を意味するかについて以前はあいまいであった。しかし最近それは、境界線内の資源や活動に関する権限を含むものだと認識されていることがはっきりとしている。これは国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)に反する主張である。それに加えて、最近施行された中国海警法が新たな懸念材料となっている。それは中国海警に自国の主権を守るために武器の使用を認め、放射性物質や化学物質などを積載した船舶が中国の「領海」内に入る前に事前通告を求めるものである。
(3) 中国がどこを領海とみなしているか。それはあいまいであると同時に不安の種である。いくつか具体的な事例を見てみよう。中国は、インドネシアの排他的経済水域(以下、EEZと言う)内における掘削に対して公式に反対を表明したが、報じられるところでは、その掘削が中国の領土内で実施されているとインドネシア外務省に書簡が送られたようである。インドネシアはこれを、中国が九段線の主張を実施に移そうとする兆候だとして警戒している。
(4) フィリピンが関係する事例では、フィリピンが領有権を主張する南沙諸島の一部、セカンド・トーマス礁に駐留する部隊に対して同国が行った補給活動を中国が妨害した直後に起きている。フィリピンの抗議を受けて再度実施された補給活動を中国は認めたが、中国はフィリピンが同環礁に座礁させて前哨として使用している旧艦艇を撤去するよう求めている。そうした要求もまた、UNCLOSに違反するものである。
(5) マレーシアもまた、10月、EEZ内に位置する南ルコニア礁周辺での中国調査船による活動に悩まされた。そこにはマレーシアのエネルギー企業が開発を進めるガス田が位置している。ベトナムと中国の間にも、これまで多くの事件が発生している。ただしそれらの多くは、ベトナムと中国の特殊な関係によるとして、他の東南アジア諸国にはさほど重要視されてはいない。
(6) 中国は東南アジアの支配を試みているのではないと言い続けているが、東南アジア諸国はそうは感じていない。南シナ海での中国の振る舞いは、大国が小国に対して自国のものの見方を押しつけているようなもので、中国が批判する米国のやり方を彷彿とさせるものである。植民地として支配された経験を持つ東南アジア諸国はそうしたやり方には敏感であり、特に反感を持ち易い。中国は彼らの歴史的経験を踏まえて行動すべきである。中国にとって最悪のシナリオは、東南アジア諸国が結束して中国に対抗することである。
(7) 米国やEUは、中国が既存の国際秩序に従わないような国であると宣伝するが、UNCLOSに反した行動をし続ける中国は、その主張を裏づけているように見える。習近平が最近述べたように、中国は自分たちが提示する自国の姿と一致するような行動をとる必要がある。そうすることで東南アジア諸国を惹きつけることができる。東南アジアへの地理的な近さは中国の利点であり、経済的な気前の良さは西側が真似しようと思ってもできないことである。南シナ海で今のような姿勢を継続すれば、これまで中国がアジアで築いてきたソフトパワーの大部分を失うことになるだろう。
記事参照:Beijing’s hard approach in the South China Sea could cost it soft power gains in Southeast Asia

12月14日「ロシア軍、太平洋方面への展開を強化―米アジア専門家論説」(Asia Times, December 14, 2021)

 12月14日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、東京のLightstream ResearchアナリストSCOTT FOSTERの“Russia stepping up its Pacific military presence”と題する論説を掲載し、SCOTT FOSTERはロシアが中ロ海軍共同演習を日本海で実施するなど太平洋方面への軍事力の展開を強化しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国、日本、太平洋の同盟国にはとっては無視することのできない地政学的要因である、太平洋方面のロシア軍にとって忙しい年末となった。2021年10月14日から17日まで、ロシアと中国は日本海で両国海軍の共同訓練を行い、その後、2021年10月18日、10隻の中ロ両国艦艇は津軽海峡を通峡して、日本の太平洋沿岸を南下し、さらに大隅海峡を通って、領有権について問題となっている南シナ海に入った。10月25日、米海軍横須賀基地で演説したCarlos Del Toro米海軍長官デル・トロはまた、国際海域での航行の自由は「本当に素晴らしいものであるが、すべての航行の自由が同じようによいとは言えないことは明らかである」と述べた。この中ロの航行は、日本が通常の12海里から1970年代に両方の海峡の領海の主張を3海里に狭めるように説得されたために起こり得たことを留意すべきである。それは、日本の「非核3原則」の第3の「もちこませない」に違反することなく、核兵器を搭載した米艦船が津軽海峡、大隅海峡等5海峡を通航できるようにするためであった。その結果、津軽海峡及び大隅海峡の中央部分は、国際海域に分類されている。防衛省の報道官は報道陣に対し、「中ロ艦艇による領海の侵犯は行われておらず、国際ルールも無視されていない」と語っている。
(2) 2021年10月28日、第4回ASEAN・ロシア首脳会談がASEANとロシアの公式関係樹立30周年を記念して、オンライン会談により開催された。首脳会談後に発表された共同声明によると、両者は進化する地域機構におけるASEANの「中心性」(centrality)への揺るぎない支援を再確認し、現在と将来の地域環境及び地球環境から生じる課題に直面し、機会を得て、ASEAN主導のメカニズムを強化し、新たな勢いを与えるという誓約を再確認した。その後、12月1日、スマトラ島沖で最初のASEAN-ロシア海軍共同訓練が開始された。インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、ミャンマー、ベトナム、ブルネイ、ロシアから8隻の艦艇と4機の航空機が3日間の訓練に参加した。訓練に参加しない他のASEAN諸国はオブザーバーを派遣した。この訓練は、ASEAN・ロシア首脳会談で確認された「海上における安全保障、保安、航行と飛行の自由、妨害されない商取引」への共同声明を受けたものである。ロシア海軍のAleksei Bolotnikov司令官は報道陣に対し、次のASEAN・ロシア海軍共同訓練がウラジオストクで行われることを希望すると語っている。ASEANは中国や米国とも海軍の共同訓練を行っている。ASEANは「中心性」を維持したいと考えているのは明らかである。
(3) 2021年12月2日、ロイターはロシアがマトゥア島(松輪島)に移動式ミサイル防衛システムを配備したと報じた。マトゥア島は千島列島の中央に位置する。千島列島は、オホーツク海の外壁を形成している。それは気候温暖な場所ではない。火山の多い千島列島は寒く、風が強く、霧が多く、湿度が高い。Matua島にあるSarycheva山(芙蓉山)は、数年ごとに噴火している。最近では2021年1月に噴火した。日本は、ロシア人が今日行っているようにオホーツク海へのアクセスを制御するために千島列島を使用した。ロシアはまた、カムチャッカ半島の南西端から占守島を介して隣接するパラムシル島にミサイル基地と飛行場を保有している。北海道の道東に隣接して日本が領土と主張している択捉島と国後島がある。
(4) 2020年11月24日(現地時間)に、米第七司令官は次の声明を発表した。「米ミサイル駆逐艦『ジョンS.マッケイン』 は 日本海のピョートル大帝湾付近で『航行の自由』を主張した。この航行の自由作戦(FONOP)はロシアの過度の海洋での主権主張に挑戦することによって、国際法で認められた海洋の権利、自由、合法的な使用を支持した。」これに関してロシアMinistry of Defense(国防省)は、「ロシア太平洋艦隊のウダロイ級駆逐艦『アドミラル・ヴィノグラドフ』は、国際通信チャネルを使用し、このような行動は受け入れられず、違反する艦船には体当たりをして領海から排除する可能性もあること警告し、『アドミラル・ヴィノグラドフ』が針路を変えた後、『ジョンS.マッケイン』は国際海域に戻った」と述べている。この事件に関する報道によると、「ジョンS.マッケイン」は、ロシア太平洋艦隊司令部のあるウラジオストク港近くのピョートル大帝湾で2kmを航行した。2020年12月、NIKKEI AsiaはロシアのFar Eastern Federal UniversityのArtyom Lukin教授の次の言葉を引用している。「ロシア国防省が近年極東に配備した兵器システムを考えると、これらのシステムは中国からの陸上の脅威ではなく、海と空からの脅威を撃退することを意図していることに気付くであろう。極東ロシアの軍事計画における重点は、日米の脅威を封じ込めることを目的としている。」日本海では米国とロシアの海軍艦艇の間で過去にも他にも至近距離での遭遇があった。これからもおそらくもっと多くの遭遇があるであろう。
記事参照:Russia stepping up its Pacific military presence

12月15日「ロシア太平洋艦隊潜水艦基地の改修が何をもたらすか―米防衛問題専門家論説」(Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, December 15, 2021)

 12月15日付の米The Jamestown Foundationのデジタル誌Eurasia Daily Monitor は、同シンクタンク所属でユーラシア対外政策・防衛政策の専門家John C. K. Dalyの“Russia’s Pacific Fleet Upgrades Kamchatka Submarine Base”と題する論説を掲載し、そこでDalyはロシアが現在進めているカムチャッカ半島ヴィリュチンスク海軍基地の全面改修計画が太平洋の安全保障にどう影響を及ぼすかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 大西洋西部における米中の緊張が高まるなかで、ロシアは、カムチャッカ半島東南岸に位置するヴィリュチンスク海軍基地の大規模改修を実施している。そこは弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(以下、SSBNと言う)の拠点である。その改修によって、ロシアは太平洋艦隊のSSBNのための修理・整備センターを獲得することになるだろう。これは太平洋におけるロシアの核抑止力の増強につながるものである。
(2) ヴィリュチンスクは、直接太平洋に面しているという点において、南部に位置するウラジオストクよりも戦略的重要性が高い港湾である。その性格ゆえに、同港は「閉鎖都市」とされている。ロシア国防相のSergei Shoiguは、2021年8月に実施したカムチャッカ半島への視察旅行の際、ヴィリュチンスクの改修工事を年内に完了させると宣言した。
(3) ロシア海軍が保有する4つの艦隊とカスピ海小艦隊の主要な2つの役割は、それぞれの地域におけるシー・ディナイアルと潜水艦を基盤としたロシアの核抑止力の維持である。ヴィリュチンスクは現在、太平洋艦隊に所属する潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を16基搭載可能なBorei級SSBN2隻の拠点である。ロシアはソ連時代の潜水艦の入れ替えを進めており、ロシアの太平洋艦隊のSSBNは今後もさらに増強される予定である。さらに現在開発中のPoseidon水中ドローンが配備される可能性もある。
(4) このようにヴィリュチンスクは太平洋における戦略的重要拠点であるが、その基地の大規模改修はその重要性をさらに高めるであろう。現時点では、太平洋艦隊の潜水艦は、修理や整備のためにロシア西端のムルマンスク地域やアルハンゲリスク地域にある施設を利用しなければならない。ヴィリュチンスクにそうした施設ができれば、その負担をうまく分散することができる。
(5) ヴィリュチンスク改修に加えて、ロシアは中国軍との共同作戦を増加させることによって、太平洋における影響力の増大を図っている。2021年10月半ばに実施されたMaritime Interaction 2021では、ロシアと中国の艦隊が、日本海から津軽海峡を通り、日本の太平洋岸を南下し、大隅海峡を通過し、最終的に南シナ海に至る航海を実施した。
(6) ロシア極東の核抑止力の拠点であるヴィリュチンスクの改修、戦力の近代化、および中国との連携強化は、米国が世界規模での部隊編成をどのように行うかに課題を突き付けるものであろう。
記事参照:Russia’s Pacific Fleet Upgrades Kamchatka Submarine Base

12月15日「南シナ海には米第一艦隊が必要―米専門家論説」(19FortyFive, December 15, 2021)

 12月15日付の米安全保障関連シンクタンク19FortyFiveのウエブサイトは、元米海軍士官でHeritage Foundation上席研究員Brent Sadlerの“The US Navy Needs To Bring Back The First Fleet For The South China Sea”と題する論説を掲載し、Brent Sadlerは米国が南シナ海で中国に対抗するためには米第一艦隊を復活させる必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国は、南シナ海における米国の利益と同盟関係を浸食し、それらに挑戦しており、米国との大きな決戦の舞台を準備している。より大きな紛争を抑止するためには、南シナ海における米海軍の前方展開を重視した、より多くの海軍の演習と配備が必要である。しかし、それは容易なことではない。米海軍は、台湾、ペルシャ湾、ウクライナで激化する脅威となるものを抑制するために、3分の1の艦艇を配備しておくだけでも、すでに予算と乗組員が限界に達している。さらに多くの乗組員と艦艇が必要だが、海軍の展開を必要する場所に部隊を確保し、戦略的影響を持続させるための枠組みも必要である。今、南シナ海に艦隊が必要なのである。
(2) 1年前、米海軍長官は、インド洋と太平洋の交差点に米第一艦隊を再編成することを提案した。この海洋の交差点には、2020年の夏を最後に、短期間の増強が数回行われたことは別として、海軍はわずか2、3隻の艦艇しか維持できていない。米第七艦隊には通常50~70隻の艦艇が配属されているが、インド洋から太平洋までの広大な距離を包摂するために、その戦力は手薄になっている。
(3) 2020年の出来事は、中国の挑発を抑止する上で、前方展開の価値があることを改めて証明するものであった。マレーシアの海洋調査活動に対する中国の数ヵ月にわたる威嚇は、2020年夏に米海軍が到着すると、すぐに収まった。より最近では、セカンド・トーマス礁における中国によるフィリピン船舶への嫌がらせは、米国務長官が11月、事態を拡大すれば米比防衛条約が発動されると明言してから収まった。日本の横須賀には米国の空母打撃群があり、同打撃群は当時、グアム近傍に所在しており、この警告には重みがあった。これらのようなある程度の成功はあったものの、米海軍の展開強化は急務である。3月以降、中国の嫌がらせは著しく激化している。その上、アジアでの戦争を抑止する必要性という、より大きな懸念がある。
(4) 米第一艦隊は元々、第2次世界大戦中に太平洋の中心的な部隊として設立された。そして、もしこれが復活すれば、1992年にフィリピンから米海軍が去り、中国共産党が東南アジアの近隣諸国を侵害し、脅すための海路を確保した状態からの逆転を示すことになる。海軍の戦闘団や特別部隊とは異なり、3つ星の提督が率いる米第一艦隊の再編成は、中国に「米海軍は戻ってきた」という明確なメッセージを送ることになる。
(5) 中国の海洋における蚕食を押し返すことは、海洋に関わる提携国の共同体を引き付けるために欠くことのできないものであり、海洋に関わる提携国の共同体はアジアにおける平和の保証を大幅に強化する。米第一艦隊はそれを行い、アジアの交差点で地域外交にさらなる影響力をもたらすことになる。
記事参照:The US Navy Needs To Bring Back The First Fleet For The South China Sea

12月15日「米ロの間で危うい均衡をとるインド―米インド・南アジア専門家論説」(The Hill, December 15, 2021)

 12月15日付の米政治専門紙The Hill電子版は、米シンクタンクHudson Institute研究員Aparna Pandeの“India's delicate balancing act between Russia and the US”と題する論説を掲載し、そこでAparna Pandeはインドが米国からの制裁のリスクを負いながらもロシアとの軍事・エネルギー関係を維持していることに関して、米国はインドとの関係を強化したいのであればインドの安全保障認識に対しより良い理解を示すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年12月6日にロシアのPutin大統領がインドを訪問した。これは、インドが近年米国との関係を強化しつつも、戦略的自律を維持するためにロシアとの関係維持を望んでいることを示している。Modi首相が2014年に首相になってから、これで19度目の首脳会談である。今回はまた初めて外相・国防相の2+2会談が実施された。
(2) インドとロシアの関係はほぼエネルギーと防衛に焦点を当てている。両国間の貿易総額は110億ドルにすぎないが、その大部分がロシアからインドへ輸出された軍事関連品である。インドと米国のそれは1,460億ドル、EUとのそれは710億ドルにのぼるが、そのなかで軍事関連品が占める割合はわずかである。
(3) 米印が協力関係を深める背景は中国の脅威である。しかし米国のインド太平洋戦略は海を中心にしている一方で、インドにとっての中国の脅威は大陸的なものである。また米国は、インドにとってのもう1つの脅威であるパキスタンを、南アジアの不安定勢力と見なすことに消極的である。これらの状況を背景にして、インドはロシアの兵器を当てにしている。
(4) 両国の声明は、それぞれの優先順位を示している。すなわち、多元的な世界秩序、テロとの戦い、アフガニスタン情勢への懸念である。共同声明ではパキスタンを名指ししなかったものの、カシミール地方の分離独立を標榜するテロ組織ラシュカレトイバ(Lashkar e Taiba、LeT)に言及することでインドの懸念を反映した。また両国はその貿易関係を多様化する必要で一致した。しかしこの会談ではなおS-400ミサイルシステムやロシア極東へのインドのエネルギー企業による投資などが合意されたのみで、従来どおりに留まっている。
(5) 冷戦期、ソ連はインドにとって主要な兵器供給国であった。その状況は何十年かの間、特に2011年から2020年の間に米国やイスラエル、フランスがロシアとインドへの兵器輸出の首位を争うようになってきた。インドとアメリカの軍事関連品の貿易は2000年にはほぼ0であったのが、これまでに合計で200億ドルまでに増大している。しかし、米印の間ではロシアに対する見方が異なる。米国にとってロシアは世界規模での脅威であるが、インドにとってはそうではなく、中国との対抗のためにロシアと中国を引き離すことが可能だと考えている。ロシアとしては米印関係の強化、特に日米豪印4ヵ国安全保障対話(QUAD)は懸念材料である。
(6) インドとしては、ロシアが中国に近づき過ぎず、パキスタンに兵器を売却しない状態が続くこと、そのうえでロシアがインドの利益を考慮することが望ましい。その状態を確実にするための手段のひとつが、S-400ミサイルシステムなどをロシアから購入することであり、実際に2018年に50億ドルの契約が締結された。しかしこれによって、米国からの経済制裁を受ける可能性がある。インドの計算は、米国がインドを同盟国として維持したいのであれば、制裁を行うことはないだろうと計算している。
(7) もしロシア製兵器の購入を妨げるというのであれば、米国はインド国内の防衛産業の構築を援助し、最新の軍事技術を供与しなければならない。これは両国の関係を強固にするであろうが、しかし米国は必ずしもインドにとって望ましい行動を採ってきた訳ではない。ロシアにしてみれば、米国の信頼性に関するインドの懸念に付け入る隙がある。米国は、インドを強固な同盟国としてつなぎ止めたいのであれば、インドが抱える安全保障上の懸念にもっと真剣に向き合うべきであろう。米国のインドに対するあいまいな態度は、インドが米国との関係を強固にすることを阻害する要因なのである。
記事参照:India's delicate balancing act between Russia and the US

12月17日「中比緊張、フィリピン、対米関係再活性化へ―フィリピン専門家論説」(Asia Times, November 19, 2021)

 12月17日付の米シンクタンクCSISのウエブサイト、Asia Maritime Transparency Initiative は、フィリピンのシンクタンクThe Asia-Pacific Pathways to Progress Foundation のLucio Blanco Pitlo III 研究員の“THE SECOND THOMAS SHOAL INCIDENT AND THE RESET IN PHILIPPINE-U.S. TIES”と題する論説を掲載し、ここでLucio Blanco Pitlo IIIは南シナ海でフィリピンが占拠する海洋自然地形へのフィリピンの海上補給を中国が妨害した事案が、米比関係の再活性化を促しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海のフィリピン占拠の海洋自然地形、セカンド・トーマス礁(フィリピン名:アユンギン礁、中国名:仁愛礁)へのフィリピンの日常的な補給任務に対する中国の公然たる妨害行為は、北京が南シナ海における自国の(拡大定義された)権益に影響を及ぼしかねないと見なす事象を掣肘し、中国の能力の強化を示すものであった。この事案が起こった11月16日は、ワシントンで開催された比米2国間戦略対話(以下、BSDと言う)の2日目であり、またフィリピンとベトナムが「Joint Oceanographic and Marine Scientific Research Expedition(海洋科学合同調査隊:JOMSRE)」の復活を発表した翌日に当たる。中国政府は、フィリピン政府に対し、係争海域における中国の利益を損なう恐れのある行動について、長年の同盟国米国とであれ、隣国で領有権の主張国ベトナムとであれ、如何なる行為者とも合意することには慎重であるべきとの合図を送っているのかもしれない。
(2) しかし、迫り来る大統領選挙の視点から見れば、この事案は特に安全保障分野における、中国に対するフィリピン国内世論を硬化させたに過ぎない。重要なことは、この事案がますます高圧的になる巨大な隣国を抑えるために、米国との強固な同盟関係を維持することに賛成する世論を高めたことである。中国は長い間、セカンド・トーマス礁の前哨拠点を強化するフィリピンの動きに懸念を表明してきた。こうした懸念は根拠がないわけではないが、この海域における中国の巨大で要塞化された人工島を考えると偽善的である。中国の期待に反して、マニラは最近、自国が占拠する最大の海洋自然地形ティツ島(フィリピン名:パグアサ島)の施設を改修した。今やティツ島には、新設された避難港、ビーチランプ、研究施設、及び改修された沿岸警備隊宿舎がある。劣化した滑走路の補修作業も進行中であり、さらには、近隣の他の前哨拠点への補給時間を短縮するために、行政センターを兵站ハブに改変する計画がある。近年の中国との友好的な関係にもかかわらず、フィリピン政府がこうした行動に踏み切った決意と、米国の支援がフィリピンをさらに勇気づけるかもしれないとの恐れが、中国政府にとってジレンマとなっている。
(3) Duterte政権の最後の数ヵ月間での再活性化された比米同盟が次期政権にも引き継がれる見通しであることは、中国の懸念の種になっている。米政府は、南シナ海における態度を強化している。米国は、中国の主張を退けた2016年の南シナ海仲裁裁判の裁定を支持し、フィリピンの軍事近代化支援を約束し、そして新たな課題に対処するために米比間の安全保障上の絆を強化するためフィリピン政府と協力することに熱意を示している。BSD後に公表された、「21世紀のパートナーシップのための共同ビジョン」によれば、両国は、1951年の相互防衛条約を強化するために2国間防衛指針について交渉する。また両国は2022年に、国防と外交閣僚による2+2会合と、海洋問題に関する2国間対話を行う予定である。いずれも重要な南シナ海沿岸国であるインドネシアとマレーシアへのBlinken米国務長官の最近の訪問は、Biden政権が進めるインド太平洋の中心である東南アジアに対する米国の再誓約を象徴するものであった。米国によるASEAN中心性に対する支援の再確認は、比米同盟強化の好ましい支えとなっている。
(4) 比米両国は現在、訪問米軍地位協定(VIF)の全面復活を受けて、2014年の「防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)」の履行を急いでいる。EDCAは、フィリピンにおける米軍資材の事前備蓄を認めている。現在合意されている5ヵ所の基地以外に、両国は追加基地を検討することになっている。こうした前進拠点は米国の域内における安全保障態勢を強化し、南シナ海であれ、あるいは台湾海峡であれ、不測の事態に対する迅速な対応が可能となろう。しかし、こうした態勢の強化は、反面、中国にカンボジアやミャンマーなどの他の域内諸国との同様のアクセス協定の締結を促すことにもなりかねず、東南アジアにおける地政学的抗争関係を強める可能性がある。
(5) BSD後に発表された共同ビジョン文書はまた、北京を苛立たせる、「作戦のための合同指揮統制能力」と「2国間の海洋枠組み」についても言及している。情報共有はまた、2022年に比米間の「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」の締結への大きな弾みとなろう。米国が締結に向けて一定の条件を課すかどうかは不明だが、フィリピンにおけるHuaweiなどの中国製通信機器の参入に対する懸念が高まっている。「安全な通信」が中国の通信機器からの離脱やその参入に上限を設けることを意味するならば、それは中国のフィリピンへの投資の後退であり、中国政府の技術面における世界的な野望に対する新たな打撃となろう。
(6) いずれにしても、セカンド・トーマス礁での事案は南シナ海がフィリピン政府と中国政府との関係における悩みの種であり、逆に米政府との同盟関係の強さを際立たせる要因となっていることを示している。すべての目は、フィリピンの次期政権が海洋における軋轢を如何に処理し、そして抗争する米中両国に如何に対応するかに、注がれているのである。
記事参照:THE SECOND THOMAS SHOAL INCIDENT AND THE RESET IN PHILIPPINE-U.S. TIES

12月18日「高まる中国海運の優位-米専門家論説」(The Diplomat, December 18, 2021)

 12月18日付のデジタル誌The Diplomatは、米University of California Santa Barbaraで政治学の博士学位候補Matthew Rochatの” China’s Growing Dominance in Maritime Shipping“と題する論説を掲載し、ここでRochatは中国が海運業を支配するようになったことは、米国やその他の地政学的な宿敵にとって、重要な商品の利用に脆弱性が生じることが考えられ、今年のホリデーシーズンは贈り物をタイムリーに届けることができるかどうかだけが問題となっているが、将来のことを考えると、その影響はもっと深刻かもしれないと、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年11月、Joe Biden米大統領は、ロングビーチ港に続いて、ロサンゼルス港で24時間365日の連続操業を行う計画を発表した。この2つの港でのコンテナの取扱い数は、米国に入るコンテナの約40%を占める。ホリデーシーズンを控え、世界的なサプライチェーンの混乱に対処し、サンディエゴまで延びている輸送コンテナの滞留を解消するために、港の運営を延長することになった。米国の港湾における貨物の滞留は、インフレ懸念を助長するだけでなく、世界経済における海運業の重要な役割にも改めて注目が集まっている。
(2) 世界の物資の90%が海を渡って目的地に到着することを考えると、海運業の重要性は計り知れない。歴史的に見ても、世界の航路を掌握することは、経済的にも軍事的にも国家運営の中心的な目標であった。大航海時代以来、世界の水路への確実なアクセスを維持することは、国力の重要な淵源とされた。1616年、イギリスの政治家Walter Raleigh卿は、「海を支配するものは貿易を支配し、世界の貿易を支配するものは世界の富を支配し、ひいては世界そのものを支配する」と述べた。19世紀を代表する米国の海軍戦略家Alfred Thayer Mahanは、1890年に発表した著書『The Influence of Sea Power Upon History, 1660-1783』の中で、国家の偉大さは、平時の商業的優位性と戦時の戦略的優位性のために、世界の海洋を支配することに直結すると主張した。特に、チョークポイント、給油地、運河、港湾などの戦略的立地の重要性を強調した。
(3) このように考えると、中国が国内外で拡大している海運業への投資は、米国などの地政学的な宿敵にとって大きな懸念材料となる。中国は、世界の港湾の確保が進んでいることに加えて、海運機材のトップメーカーであり、2020年には、世界の輸送用コンテナの96%、世界の船舶用岸壁クレーンの80%を生産し、世界の造船受注の48%を占めている。そして、世界第2位の商船隊を保有し、戦闘艦艇の総数では米国を抜いて世界最大の海軍となっている。これらのことは、中国がますます自己主張を強め、拡大していくことを示している。過去10年間の海洋における商業分野での中国の台頭は、まさに目を見張るものがあった。しかし、中国の政府関係者にとって、この発展は単なる偶然の結果ではなく、慎重かつ戦略的な計画の結果なのである。
(4) 習近平主席は、2013年にカザフスタンのNazarbayev Universityで行った講演で、一帯一路構想を初めて発表した。この数兆ドル規模の投資戦略は、3つの大陸と約60カ国に跨がっており、地域の連結性と協力を強化するとともに、中国が地域の貿易路の中心的存在になることを目的としている。習近平をはじめとする中国政府の指導者たちは、この戦略を「新しいシルクロード」と呼んで推進している。これは、経済的な結びつきを深め、欧州を米国の関心事に近づけるだけでなく、第2次世界大戦後に西欧の経済復興を促した米国のマーシャルプランに似た方策であると指摘する学者もいる。一帯一路構想には大きく分けて2つの要素がある。第1は陸路の経済帯で、内陸の中央アジアに高速道路、鉄道網、ガスパイプライン、石油精製所、発電所、鉱山、工業団地などを建設し、中国本土との物流を容易にする。第2は海路であり、港と航路から成る数珠を形成し、海洋を介して中国との貿易を誘導する。そして、海路戦略を追求するために、中国は積出港の所有権に対する関心を高めている。この関心はインド太平洋地域にとどまらず、世界的に広がっている。
(5) 現在、中国には世界で最も多くの積出港があり、世界の10大港のうち7つを持っている。膨大な量の国内海運基幹施設の蓄積に加え、中国は約63カ国に100以上の港を所有している。中国の海外の港湾ターミナルの80%以上は、ビッグ3と呼ばれるCOSCO(中国遠洋運輸公司)、CMG(中国招商集団)及びCK Hutchison Holdingsの3社が所有している。COSCOとCMGは中国国有企業、CK Hutchison Holdingsは香港に本社を置く民間企業で中国本土との関係は深い。
(6) インド太平洋地域での中国の港湾拡張の主な例として、スリランカのハンバントタ港の99年間リース、パキスタンのグワダル港の40年間リース、ジブチ港への3億5000万ドルの投資などがある。ジブチには中国初の海外軍事基地があり、アデン湾と紅海の間の重要な戦略的隘路の近くに位置している。2018年には中国港湾工程有限責任公司(Chinese Harbor Engineering Company)が、もう1つの主要な貿易の隘路であるスエズ運河の近く、エジプトのソクナ港で港湾ターミナルの建設を開始した。政策分析者は、これらの動きを南シナ海からインド洋を横断してアラビア半島に至る海上交通路を重視し、沿岸諸国との戦略的な関係構築を図る「真珠の数珠(String of Pearls)戦略」の一環と述べている。
(7) ヨーロッパや地中海では、中国が港の10分の1近くを支配している。フランスのルアーブル港、ダンケルク港、ベルギーのアントワープ港、ブルージュ港、スペインのノアタム港、イタリアのヴァド港、トルコのクンポート港、ギリシャのピレウス港などがその例である。イスラエルのハイファ港では、中国の上海国際港務集団との間で25年間のリース契約が結ばれているが、このハイファ港は米国の軍艦が停泊する港から1キロも離れていないことから、米国は諜報活動の可能性を懸念している。
(8) 南米で中国は、港の所有権を介して影響力を拡大している。2015年、中国通信建設公司はキューバに1億2千万ドルを融資し、第2の港であるサンティアゴ・デ・クーバの近代化を支援した。2017年、CMGは、ブラジル最大の港であるTCP Participaccoes SAの株式の90%を購入した。2019年、COSCOはペルーのVolcan社と2億2500万ドルの契約を結び、チャンカイ港のターミナルの60%の株式を取得した。エルサルバドルでは、政府が2022年にラ・ウニオン港を民営化すると言われているが、おそらく中国に管理させるためであろう。この他にも、バハマ、トリニダード・トバゴ、パナマ、アルゼンチン、チリ、ウルグアイの港湾プロジェクトに中国が関与しているとの情報がある。
(9) 興味深いことに、米国も中国の港湾投資の場となっている。中国企業2社が米国の5つの港湾に出資している。しかし、いずれの企業も実質的に過半数の株式を所有しておらず、これらの米国のターミナルを完全に運営しているわけではない。テキサス州のヒューストン・ターミナルとマイアミのサウス・フロリダ・コンテナ・ターミナルにあるフランス企業のターミナルの株はCMGが保有している。残りの3つの港(シアトル、ロサンゼルス、ロングビーチ)は、COSCOが株の一部を所有していたが、2019年Trump政権は中国に対し、ロングビーチ港の所有権を売却するよう要求した。
(10) 米国の港湾への直接投資はまだしも、海運業界における中国の優位性の高まりは、米中関係が悪化する中、ワシントンでも警鐘を鳴らしている。先日行われたBidenと習近平のオンライン首脳会談では、会談後に両国が共同声明を出すことができなかったことからも、米中関係の悪化が明らかになった。さらに、Trump大統領の対中貿易戦争を覆すことを選挙活動で主張していたにもかかわらず、BidenはTrump時代の対中貿易政策の多くの部分をそのままにしている。
(11) 中国が海運業を支配するようになったことで、米国やその他の地政学的な宿敵にとって、重要な商品の利用に脆弱性が生じることが考えられる。最近、米国の港でコンテナが滞留していることは、米国が世界的なサプライチェーンに依存していることを如実に物語っている。幸いなことに、今年のホリデーシーズンは、贈り物をタイムリーに届けることができるかどうかだけが問題となっているが、将来のことを考えると、その影響はもっと深刻かもしれない。
記事参照:China’s Growing Dominance in Maritime Shipping.

12月20日「台湾の潜水艦建造はその防衛に有効か?―香港紙報道」(Asia Times, December 20, 2021)

 12月20日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、同紙の出版者で元独海軍士官であるUwe Parpartとの質疑応答である、“Taiwan’s submarine program steers into a minefield”と題する記事を掲載し、台湾の潜水艦の建造計画はその防衛能力を高めないとして、要旨以下のように報じている。
一触即発の状況にある台湾海峡で緊張が高まる中、台北には抑止力を強化する十分な理
由がある。しかし、世界の大半の国は中国政府の「一つの中国」政策に従っており、武器の禁輸を継続している。これが、はるかに多くの政府から専門知識と技術を通常型潜水艦の部隊を構築しようとする台湾に提供するという同意以上のものと思われる闇に包まれた計画につながっている。この計画は、産業的、戦術的及び戦略的にどの程度の実現可能性があるのだろうか?
Q:台湾の通常型潜水艦8隻の艦隊が、中国海軍の頭痛の種になる可能性はあるだろうか?
A:いいえ。水深の浅い台湾海峡ではいいカモになるとしか思えない。現代の全ての対潜水艦戦システムは、潜水艦が最初の攻撃を行った後、すぐにそれらの潜水艦を発見するが、それより前に発見される可能性も十分ある。または、より大きな水上部隊や補給部隊などが台湾に接近することを拒否するために配備される中国の潜水艦から防衛するために、台湾の太平洋に面した側に配備されるだろう。しかし、そこでは中国側の能力が圧倒的に高い。
Q:台北の艦艇はいつ運用の開始が可能になるだろうか? 
A:最初の建造活動は2020年11月だったが、進水と海上公試が終了するまでには3~4年かかるだろう。潜水艦はかなり複雑な存在であり、支援システム、特に空軍などの他のシステムとの統合の準備には、長い時間がかかるだろう。
Q:台湾にはハイテク産業における優れた技術が豊富にある。非原子力推進の潜水艦も可能ではないか?
A:台湾人は艦艇をもちろん造ることができる。しかし、潜水艦は最初から一貫した設計でなければならない。重要なのは、推進力、兵器システム、防御システムである。これらは統合される必要がある。しかし、それには時間がかかり、困難が伴う。そして、これは挙句の果てに、台湾の通常防衛の可能性について、また新たな幻想を抱かせることになる。
Q:しかし、台湾の兵器が中国の冒険主義を抑止していると主張する人も多いのではないだろうか。
A:もし台湾をめぐって大きな紛争が発生した場合、本土の迅速な勝利で終わらない唯一の方法は、核兵器への事態の拡大が起こった場合である。それは台湾とは関係なく、主に米国に関係することである。
Q:では、あなたにとって重要なこととは何か? 
A:このような計画は、台湾の防衛能力を高めるものではない。緊張を悪化させ、通常防衛が可能だと人々が考え、より大きなリスクを冒すような状況を生み出しかねない。中国と米国は現状維持に努めるべきである。そのことは、米国とその他の国、そして台湾と中国の間で明確にされるべきだろう。
記事参照:Taiwan’s submarine program steers into a minefield

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Backgrounder: China’s Military Modernization Comes of Age
https://www.geopoliticalmonitor.com/backgrounder-chinas-military-modernization-comes-of-age/
Backgrounder, Geopolitical Monitor, December 16, 2021
 12月16日、カナダ情報誌Geopolitical Monitorのウエブサイトは、“Backgrounder: China’s Military Modernization Comes of Age”と題する記事を掲載し、11月に米議会に提出された「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告書 2021」の内容を紹介した。その中で、①米中2つの世界的な大国間の軍事的釣り合いが急速に同等なものへと移行している、②中国は、国際システムを強力な国民国家間の競争だけでなく、対立するイデオロギー体系として見なしている、③報告書の一節は、中国の軍民融合発展戦略(Military-Civil Fusion Development Strategy)に費やされている、④国防戦略に関して、中国は「積極防御」を追求し、2049年までに「世界トップクラス」の軍隊にすることを目指している、⑤世界的な戦力投射能力を拡大するため、北京はアジアやその他の地域に新たな軍事基地を求めている、⑥報告書の一節は、中国の影響力工作に費やされており、これは「米国やその他の国における、文化機関、メディア組織、ビジネス、学術、政策コミュニティ、また国際機関を標的にして、(中国の)戦略目標に好ましい結果を達成するための」ものである、⑦COVID-19の流行による悪影響にもかかわらず、中国が2020年まで訓練と新装備の配備を加速させている、⑧現在、中国海軍には 355 隻の艦艇と潜水艦があるが、2030 年までに 460 隻にする計画がある、⑨中国空軍の近代化計画が、「航空領域における中国に対する米国の長年の重要な軍事技術的優位を徐々に侵食している」、⑩台湾への攻撃を想定した場合、弾道ミサイルによる第1撃が重要となるため、人民解放軍火箭軍(ロケット軍)は、近代化計画の優先事項となっている、といったことが挙げられている。

(2) The EU in the Indo-Pacific: A New Strategy with Implications for ASEAN
https://www.iseas.edu.sg/articles-commentaries/iseas-perspective/2021-164-the-eu-in-the-indo-pacific-a-new-strategy-with-implications-for-asean-by-joanne-lin/
ISEAS Perspective, ISEAS – Yusof Ishak Institute, December 16, 2021
By Joanne Lin, Lead Researcher in Political-Security Affairs at the ASEAN Studies Centre, ISEAS – Yusof Ishak Institute 
 2021年12月16日、シンガポールのシンクタンクThe ISEAS–Yusof Ishak InstituteのASEAN問題専門家であるJoanne Linは、同シンクタンクのウエブサイトに" The EU in the Indo-Pacific: A New Strategy with Implications for ASEAN "と題する論説を寄稿した。その中でLinは、2021年4月19日にEUがインド太平洋における協力のための戦略に関する外務理事会結論文書を発表し、法に基づく国際秩序などを目指してこの地域の提携国との協力等に言及したことを取り上げ、①今回の文書は、今後EUがインド太平洋地域に対するQUADを構成する日米豪印4ヵ国と同等の関与への道を切り開くものである、②EUのインド太平洋戦略は、インド太平洋地域に強力な規範的側面を追加することを通じて、同じ考えを持つインド太平洋地域の提携国と緊密に協力することを可能にすると同時に、ASEANと同様、EUも提携の構築と多国間協力の強化を重視していることの現れである、③ASEANはEUのインド太平洋戦略の中核になっていると同時に、ASEANを戦略上重視するEUの存在は、この地域における中国と他国との摩擦を薄めるのに役立つかもしれない、などと主張している。

(3) Unprecedented die-offs, melting ice: Climate change is wreaking havoc in the Arctic and beyond
https://www.latimes.com/environment/story/2021-12-17/north-pacific-arctic-ecosystem-collapse-climate-change
Los Angeles Times, December 17, 2021
 2021年12月17日、米日刊紙Los Angeles Times電子版は、" Unprecedented die-offs, melting ice: Climate change is wreaking havoc in the Arctic and beyond "と題する記事を掲載した。その中では、北極や北太平洋では、ここ5年間において前例のない規模、範囲、期間の動物の死滅を観測し、魚の全種と海洋に生息する無脊椎動物の移動と消失を記録してきたと指摘された上で、現地調査を行う研究者らの主張などを取り上げ、いかに同海域で従来の食物連鎖が崩れているか、そして、それによって新たな生態系が誕生しつつあるかが概説され、こうした自然界における「新たな勝者と敗者」の誕生は、バランスの取れたこれまでの自然界とは異なるものになるどうとして、すでに海洋環境は1970年代の状況とは様変わりしていることに警鐘を鳴らしている。