海洋安全保障情報旬報 2021年11月11日-11月20日

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11月11日「世界的課題としてのIUU漁業にどう対処するか―米専門家論説」(Pac Net, Pacific Forum, CSIS, November 11, 2021)

 11月11日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNet は、元Department of Defense(米国防総省)高官のPeter Olesonの“The Growing Crisis of Illegal, Unreported, and Unregulated Fishing”と題する論説を掲載し、そこでOlesonは違法・無報告・無規制漁業が近年世界的な課題になってきているとし、その解決策としてどのようなことが検討されているかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 違法・無報告・無規制漁業(以下、IUU漁業と言う)は世界全体、特に太平洋で重大な問題になりつつある。米沿岸警備隊はそれを海賊行為にとってかわる海洋安全保障の脅威と位置づけ、それが野放しにされたままであれば、沿岸諸国の状況の悪化と遠洋漁業を行っている諸国間の緊張の高まりにつながり、世界全体での地政学的安定を脅かすと警告している。
(2) The National Oceanic and Atmospheric Administration(米国海洋大気庁:以下、NOAAと言う)によれば、世界全体で水揚げされる魚類の約6割が太平洋産である。半分以上の種が、もし現在のペースで漁獲され続けた場合には持続不可能になるであろう。全水揚げ量の35%が中国によるものであり、同時に、University of New South WalesのCarlyle Thayer博士によれば、中国は世界最大のIUU漁業の国でもあるという。台湾やベトナムなどその他の国もそれに加担している。EUから魚の輸出が市場から閉め出されるという警告を受けベトナムは高官級の特別委員会を立ち上げ、IUUへの対処を進めてきた。しかしIUU漁業は損失を被る危険性が低いにもかかわらず、高い収益性が期待できる。
(3) IUU漁業についてまとめると、それは第1に、ある国の主権下の海域においてその国の許可なしに行われるものであり、第2に必要な報告が行われない漁獲のことを指し、第3に、それは何らかの対処が困難な場所で起こるものである。
(4) IUU漁業は、資源の乱獲という問題に加え、合法的な漁業従事者に経済的被害を与えている。米自然保護団体Nature Conservancyによれば、多くの太平洋島嶼国家は今後数年間で自国の食料需要を満たせなくなるという。同団体によれば、太平洋のマグロ漁船団のIUUの95%以上は、未登録のいわゆる「ダークボート」ではなく、合法的なライセンスを持つ船によって実施されており、それらが適切に水揚げ量を報告していないことによって起きている。また、底引き網漁などによる海藻への被害は、温室効果ガスの増加につながってもいる。
(5) 9月初旬に行われたIndo-Pacific Maritime Security Exchangeの会合の焦点は、IUU漁業の可能性のある解決策を編みだすことであった。従来の解決策には排他的経済水域内の哨戒活動や、Advanced Identification System(AIS)やVessel Monitoring System(VMS)などによる報告に依存してきた。しかしIUU漁業従事者は違法活動を隠すためにしばしば送信機のスイッチを切るため、監視網から逃れてしまう。
(6) いくつかの新しい対処法や技術が活用されている。たとえば海の哨戒活動の支援のためにドローンが有用であり、実際にUS Coast GuardはScanEagleというドローンを利用している。衛星写真も、限界はありつつも違法活動を特定する一助となるであろう。より新しいものとしては、NOAAの共同極軌道衛星システム(JPSS)によって提供される可視赤外撮像機放射計(Visible and Infrared Imaging Radiometer Suite)がイカ漁などに使われる夜間用ライトを探知できる。また、あらゆる天候においても哨戒を可能とする合成開口レーダー(SAR)を搭載したSAR衛星を多くの国が運用している。商業用衛星による電波収集という手段も新たに活用されており、これによってIUU漁業従事者がAISやVMSを切っていたとしても、他の電波を拾うことができる。水中マイクを曳航して船舶の種類や活動を検知できるような無人船舶も開発中である。これら様々なセンサーが活用可能であるが、情報量が膨大になるため、それを整理・統合・分析するための技術が今後重要になってくる。IUU漁業に関連するデータを分析する組織として最も有名なものとして、NGOのGlobal Fishing Watchがある。
(7) IUU漁業に国境はなく、世界的な問題として拡大している。これに対処するためには単独では困難であり、国家間が協力し、情報共有をするなどの多国間協定が必要であろう。しかし、これは今までのところあまりうまくいっていない。ほかの方法としては、漁業に対する国の補助金廃止などの手段がある。たとえば2018年の中国による漁業関連の補助金は72億ドルと推定されている。これはどの国よりも手厚いものであるが、そうでもしなければ漁業の採算が合わないためである。IUU漁業に関する人々への周知も重要であろう。また、魚の養殖が将来の食料需要を満たす手段として注目されており、最近中国が多額の投資をおこなっている。
記事参照:The Growing Crisis of Illegal, Unreported, and Unregulated Fishing

11月12日「インド・ASEAN間の海洋協力の進展―インド・東南アジア専門家論説」(Vivekananda International Foundation, November 12, 2021)

 11月12日付のインドのシンクタンクVivekananda International Foundationのウエブサイトは、インドのO.P. Jindal University准教授Pankaj Jhaの“Evolving India-ASEAN Maritime Cooperation”と題する論説を掲載し、そこでPankaj Jhaは近年進められているインドとASEANの海洋協力が、南シナ海の安全・安定にとってきわめて重要な意味を持ち、ひいてはインドの戦略的利益にかなうとして、要旨以下のように述べている。
(1) インドは「ルック・イースト」政策以降、ASEANとの関係強化を目指してきたが、その眼目の1つが海洋安全保障機構の構築である。2004年のスマトラ島沖地震と大津波は、東南アジアの脆弱性を明らかにしたものであった。それゆえインドは、捜索・救難における訓練や支援を通じた能力開発を目指してきたのである。
(2) インド洋地域の大国インドは、2008年に創設されたインド洋海軍シンポジウム(Indian Ocean Naval Symposium)の下、東南アジアの国々との関係を深めてきた。ラオスやカンボジア、ベトナム、マレーシアなどとは定期的な訓練計画を通じて人員の育成に携わっている。またパプアニューギニアなどの南太平洋の国への関与も深めているが、それはインドの射程がさらに東に拡大していることの証左である。
(3) インドネシアに関して、インドは共同哨戒行動に加えて、その国防関連企業であるPT PalやPT Dirgantaraの活性化に期待をしてきた。こうしたASEANの防衛産業の発展に関してはある程度の反響があるが、しかし、財政的な問題や防衛産業を支える補助的な産業の欠落ゆえに、まだ具体的な形を成していないのが現状である。東南アジア諸国は防衛関連装備について中国やロシアに多くを依存しているが、ロシアの兵器を使用している国々に関しては、船員や技師の訓練についてインドとの関係が深い。
(4) インドは3つのレベルでASEANとの関わりを深めたいと考えているようである。それは、2国間の対話、多国間の対話、連絡員の交換である。それによってインドはASEAN諸国との間の相互運用性を向上させようとしているのであり、そうした考えに基づいてASEAN10ヵ国のうち9ヵ国と防衛協定等を結んできたのである。多くの国々と良好な関係を築いてきたが、ただし、マラッカ海峡の安全保障においてインドが重要な役割を果たそうという点について、インドネシアやマレーシアは慎重な姿勢を見せている。それに対しインドは、自国があくまで穏健な勢力として行動するつもりだということを強調してきた。
(5) シンガポールとの間では定期的に演習が行われ、またインドの基地へのシンガポール機の駐留なども実施されている。タイやインドネシアとはアンダマン海周辺の共同哨戒が実施されてきた。ベトナムとも高官級の人員交換、インド軍艦のベトナムの港への寄港も実施されている。こうしたことはすべて、インドとASEAN諸国との関係が深まっていることを証明するものである。
(6) 2018年1月の共和国記念日、インドはASEAN各国の政府首脳ら10人を招待し、海洋安全保障について議論を行った。南シナ海問題が話題に上がり、インド側は自分たちが南シナ海における安全に関心を強く持っていると述べ、論争は対話を通じてのみ解決されるべきだと主張した。中国も米国も加わるASEAN友好協力条約の下、締約国は武器の使用や威嚇を避けねばならないが、しかし、南シナ海では緊張が続いている。
(7) 海洋安全保障はインドにとって重要な争点であり、2021年8月の国連安保理の間、その問題に関する特別部会が設けられた。ここにおいてもModi首相は、海に関する論争は国際法廷や対話の機構を通じて解決されねばならないと強調した。ベトナム代表もまた、南シナ海に世界が注目し、緊張緩和のために地域の安全保障機構を構築するための計画を開始すべきであると主張した。
(8) インドはまた、南シナ海における恒久的な行動規範(以下、COCと言う)に関する議論を進めようと試みてきた。草稿に関する議論が明らかにしたのは、関係諸国が受け入れ可能な文書にするためには諸国の協調的な努力が必要であるということである。インドはまた、日米豪印4ヵ国安全保障対話(QUAD)の枠組でも連携を深め、西フィリピン海や日本周辺海域における演習を実施してきた。海賊対処や人道支援・災害救難分野もまた沿岸諸国にとっては決定的に重要な問題であり、南シナ海をめぐる協調の機構の構築は必要不可欠である。
(9) 南シナ海における紛争解決のためには主に3つの方法がある。第1に、南シナ海を共有財産とし、石油・ガス探査の収益を各権利主張国間で共有することである。第2に、漁業に関する市場の統合により、沿岸共同体を支援することである。第3に、論争となっている島におけるいかなる建造物の建設も停止し、現状を維持するべきとして関係各国が理解することである。最終的に、関係各国の要求を幅広く満たすようなCOCの草案が可能な限り採択され、その検討が開始されるであろう。インドとASEANの海洋協力は、上記過程の進展を促進し、ASEAN諸国の行動能力を拡大させる一助となるであろう。
記事参照:Evolving India-ASEAN Maritime Cooperation

11月12日「南極条約システムの危機-オーストラリア専門家論説」(The Strategist, 12 Nov 2021)

 11月12日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、Charles Darwin University法学部研究員で弁護士John Garrickの” The Antarctic Treaty System is on thin ice—and it’s not all about climate change”と題する論説を掲載し、ここでGarrickは南極条約により領土問題が凍結されていることで、だれもが利用できると解釈して侵出する中国に対処するには、条約システム内に確固たる仕組みと遵守措置を確立すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) 南極には、漁業資源、生物調査の機会、気候科学分析という多くの宝がある。さらに、3,000~5,000億トンの天然ガス、南氷洋には1,350億トンの石油が埋蔵されている可能性もある。南極条約の第1条には、南極大陸の使用は科学的な観察と調査のための平和目的のみと宣言されている。この条約によって、アルゼンチン、オーストラリア、チリ、フランス、ニュージーランド、ノルウェー、英国7カ国の南極を領土の一部とする主張は停止され、領土問題は凍結されている。しかし、2048年に条約の議定書が更新されるため、大国は別の手段で戦略目標を達成することに再び注目している。この議定書は変更される可能性もある。
(2) オーストラリアの2017年の外交白書は、インド太平洋における対立を強調しており、同年9月のAUKUS条約発表によってその焦点が倍加されている。しかし、南極での中国の挑戦については一切触れられていない。南シナ海の領有権主張に対する2016年の仲裁裁判所の裁定を中国が無視していることは、資源への接近をめぐる激しい競争や国際統治フォーラムにおける独断的な行動を併せて考えると、南極において状況を見守るだけという方策は危険が高すぎる。既存の法的枠組みは、主要国が自国の戦略的利益を確保するために行動することを抑止するものではなく、オーストラリアはこれを甘く見ている余裕はない。
(3) 中国は1985年に最初の南極観測所を設置して以来、南極大陸での存在感を高めてきた。現在4つある観測所のうち3つはオーストラリアが領土を主張する地域にあり、5つ目の観測所を(ニュージーランドが領土と主張する地域:訳者注)に建設中である。そして、砕氷船や大陸の滑走路に多額の投資を行い、年間を通じてアクセスできるように整備し、中国は極地の勢力として台頭してきた。中国政府の南極に対する戦略的行動は、国家安全保障政策の一環である。公式文書では、南極大陸と南氷洋を、インド太平洋を超えた領域の拡大概念に組み込んでいる。北京は、南極大陸に対する既存の主張を認めず、自国の国益を最大化する戦略を追求している。
(4) 中国における極地問題は、自然資源部の直轄機関である国家海洋局によって管理されている。中国極地研究中心(Polar Research Institute of China)は、名目上は国家海洋局に代わって科学活動を管理しているが、その範囲は、極地の政治、経済、科学、安全保障にまで及んでいる。2011年以降、南極の優先順位は5ヵ年計画を通じて国家レベルで設定されており、極地を新たな戦略的開拓地と位置づけている。しかし、中国は対外的には、あくまでも科学に関心を持ち、条約システムの制度に準拠している。
(5) 習近平は、2014年11月、オーストラリア南端の都市ホバートに停泊していた砕氷船「雪龍」上で行った演説で、中国は「極地の大国になりたい」と宣言した。翌2015年、中国は国家安全保障法を通じて極地の指導的地位を得る権利を主張し、南極や北極などを含む、新しい開拓地における国家の利益を強調した。これらの領域を安全保障上の文脈で列挙することで、中国はこれらの領域における将来の権利を確保するための国内法的基盤を築いたのである。習近平の発言を受けて、中国の軍幹部は南極が国際公共財であり、中国がその利益を得る資格があることを主張し、それが成功したことを強調している。
(6) 中国は国益を確保し、海洋強国になるため、そして海洋を利用した経済活動の航路を構築するため、極地を「一帯一路」構想と結びつけている。南極と南氷洋は、北京の海洋経済目標の延長線上にあり、資源の利用と関連する貿易路の確保を推進し、この地域を効果的に支配するため条件を整えている。中国が南極観測要件を遵守していないことは、条約の本来の趣旨をさらに弱めることになる。遵守の不徹底は、潜在的にさらなる軍事化を助長する。米国やオーストラリアとの競争が激化し、中国が南極での軍事的展開を強化した場合、オーストラリアにとっての影響は甚大である。
(7) 南極大陸での競争には、常に他国が関わっている。南極条約の成立には、米国が大きく関わり、この条約によって、米国は他国の主権を否定することができた。米国の政策は、南極を平和目的と科学のための自由な利用にのみ使用するという約束を強化しているが、それは領土主張を認めず、この地域の将来の使用に参加する権利を留保している。他の地域に優先順位を置いたことで、米国の南極への取り組みは無視された時期があった。米国の南極科学に対する資金面での制約は、他国がより支配的な役割を主張する余地を生み出した。米国は現在、2020年の大統領覚書で極地安全保障のための新しい砕氷船に焦点を当て、物理的な存在感を高めようとしている。Biden政権はこの方向性を覆しておらず、米国が今後どのように南極の環境保護に貢献していくかが重要となる。
(8) ワシントンとキャンベラの歴史的関係と緊密な同盟関係にもかかわらず、米国は南極におけるオーストラリアの領有権主張に一貫して反対し、将来的に主張する権利を留保してきた。しかし最近になって、米国は条約を支持し、鉱物資源開発の禁止を再確認するなど、一方的な利益よりも集団的な利益を優先するような行動を示している。中国との競争や協力(気候変動など)が続く中で、米国は南極大陸の資源開発を禁止することに利点を感じているのかもしれない。
(9) オーストラリアには、米国や他の国々と協力して南極統治に取り組む機会がある。条約の解消や大国の脱退に伴う領土や資源の競争を避けるためには、条約の強化が平和的かつ科学的研究の目的を維持するための最善の手段である。オーストラリアは、その歴史的な南極の地位を強化するための協力的な事業を追求するのに適した立場にある。同時に、オーストラリアは条約加盟国と緊密に協力して、南極を開発の余地がある状態に対処するため、条約システム内に確固たる仕組みと遵守措置を確立すべきである。
記事参照:The Antarctic Treaty System is on thin ice—and it’s not all about climate change

11月12日「北極圏の島々におけるノルウェーとロシアの軍事活動と軋轢―ノルウェー紙報道」(The Barents Observer, November 12, 2021)

 11月12日付のノルウェーのオンライン紙The Barents Observerは、“Moscow dissatisfied with Norwegian navy visit to Arctic archipelago”と題する記事を掲載し、北極圏に位置する諸島周辺におけるノルウェー軍とロシア軍の動向と互いの警戒について、要旨以下のように報じている。
(1) ノルウェー海軍のフリゲート「トール・ヘイエルダール」が、北極圏のノルウェー領の諸島における主要な居住地であるロングイェールビーンへの寄港を含め、イスフィヨルデンの海を航海したのは10月下旬だった。1920年に締結されたスヴァールバル条約は、ノルウェー軍のスヴァールバル諸島での軍事力の展開を禁止するものではないが、考えられる戦争目的でのこの諸島の使用を制限するものである。ロシアはこの条約の46の署名国の1つである。
(2) ロシアのForeign Ministry報道官Maria Zakharovaは、声明の中で、スヴァールバル諸島の港湾や航路に関するいくつかの法律を拡張するというノルウェー側の決定に不満を表明した。これは、「NATO同盟国からの援軍の受け入れを含む、ノルウェー防衛の軍事計画に、この諸島の基幹施設を使用することを意味する 」と述べている。近年では、国際的な緊張が極北地域にも及んでいる時期に、ノルウェーのフリゲートがその主権を強調するために毎年ロングイェールビーンに寄港していた。また、Zakharova報道官はスヴァールバルの地域の海底情報の利用をNATO加盟国ではなくロシアに対して制限するノルウェーの新たな法制度への取り組みにも不満を示した。さらにZakharova報道官は、ロングイェールビーン郊外の山にあるスバルサット人工衛星基地について食ってかかっている。これについてロシアは、「厳密に解釈すれば、二重の目的を果たすことができる」と主張している。モスクワは、ノルウェーの軍用輸送機がこの空港に着陸することにも同様に不満を抱いている。最後にZakharova報道官は、ノルウェーの沿岸警備隊の船舶がスヴァールバル諸島の海域を哨戒していることを批判した。
(3) 2021年8月、ロシアの対潜駆逐艦「セヴェロモルスク」がフランツ・ヨゼフ・ランド周辺を航行した後、突如針路を転じた。その後を他の海軍艦艇が続き、この駆逐艦はスヴァールバル諸島の最大の島であるスピッツベルゲン島の西海岸に沿って北上した。このようなロシア海軍の航海は「普通ではない」と、ノルウェー軍報道官は語っている。ロシアは近年、ヨーロッパの北極圏にあるスヴァールバル諸島の東に位置するフランツ・ヨゼフ・ランドの軍事基地を再建した。2020年4月には、ロシアのDefense Ministryが、そこにあるナグルスキ空軍基地の運用が可能であることを宣言した。2021年2月には、この基地にMiG-31BMが配備された。
記事参照:Moscow dissatisfied with Norwegian navy visit to Arctic archipelago

11月15日「中国、南シナ海での行動規範作成の交渉に意欲―香港紙報道」(South China Morning Post, 15 Nov, 2021)

 11月15日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: Beijing keen to make code of conduct gains for 30th anniversary of China-Asean ties”と題する記事を掲載し、ASEANとの対話関係樹立30周年を迎えるにあたり、南シナ海での行動規範作成のためのASEANとの交渉に中国が意欲を見せていることについて、要旨以下のように述べている。 
(1) 中国は、11月に開催される首脳会談に至るまでの間に、南シナ海の行動規範の打開策を強く求め、そして、ASEAN諸国へのCOVID-19に対するワクチンの継続的な供給を申し出た。中国の王毅外交部長は11月14日、北京でASEAN加盟10ヵ国の高官級の外交官と会談し、北京がASEANの「対話パートナー」になってから30周年を記念する首脳会談は画期的なものになるだろうと述べている。中国の習近平国家主席とASEAN諸国の首脳との間で、11月中に事実上の首脳会談が行われる予定である。この地域の評論家たちは、王外交部長が6月に発表したASEANとの関係を包括的な戦略的パートナーシップに格上げするという中国の試みに、すべての加盟国が同意するかどうかが重要な問題になるだろうと述べている。
(2) 会合後の公式声明によると、王外交部長は、中国は、世界的感染拡大の課題を克服し、経済の回復と成長を支援するために、ASEAN諸国との機会を利用すること、そして、経済のグローバル化と地域の安定、統合及び繁栄を守ることを強く望むと述べている。彼は、中国は世界的感染拡大が克服されるまで、ASEAN諸国にワクチンを供給し続けると述べ、王また中国とASEANの関係における問題点である南シナ海での領有権の重複についても言及し、新たな行動規範の交渉を推進したいという彼の意向を繰り返し述べた。
(3) 2018年にシンガポールで開催された第51回ASEAN・中国外相会議で行動規範の草案が一本化されたものの、双方が妥協点や規範が効果的に実施されることを保証する機構を見つけられないと理解されており、ほとんど進展していない。
記事参照:South China Sea: Beijing keen to make code of conduct gains for 30th anniversary of China-Asean ties

11月18日「中国の妨害行動に抗議するフィリピン―米メディア報道」(Radio Free Asia, November 18, 2021)

 11月18日付の米議会出資の短波ラジオ放送Radio Free Asiaのウエブサイトは、“Philippines: Chinese coast guard used water cannon to block Manila's supply boats”と題する記事を掲載し、中国による補給活動への妨害に対してフィリピンが強く抗議したことについて、その背景と意味について要旨以下のように報じている。
(1) フィリピンは11月18日、中国に抗議した。11月16日にフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内に位置するセカンド・トーマス礁において、フィリピンが実施していた補給活動を中国海警が放水などによって妨害したことに対する抗議である。フィリピンのTeodoro Locsin外相は「中国海警船の行動は違法である。中国はこの海域内及び其の周辺において法執行権を持たない。忠告を聞き入れ、退去せねばならない」と述べた。
(2) Locsin外相によればフィリピン側に負傷者は出なかったという。彼は、今回のような活動を行っている「公用の船舶は米比相互防衛条約の適用対象となっている」と指摘した。1951年に締結された同条約の下、米軍は外国からの侵略から同盟国を防衛する行動を採るであろう。最近、米国の国防関係高官が言及したようにそれは南シナ海でも同様であろう。
(3) セカンド・トーマス礁は南沙諸島の端に位置し、中国、台湾、フィリピン、ベトナムがその領有を主張している。1999年以降、フィリピンはその環礁に旧戦車揚陸艦「シエラ・マドレ」を座礁させ、前哨基地として機能させ、そこに海兵隊を駐屯させている。今回の補給活動は彼らに食料を届けるためのものであった。海警船による放水活動は1時間に及んだという。それによってフィリピン側は補給活動を停止せざるをえなかった。
(4) 国家安全保障担当補佐官のHermogenes Esperonによれば、ここ1週間での中国の行動は「いつもとは違う」という。その間、中国の民兵船19隻が同海域で発見されており、また、パグアサ島(ティツ島、中国名:中業島)周辺では今年に入って45隻が確認されている。中国の活動は「かなり攻撃的である」とEsperonは述べている。2014年にはスカボロー礁近辺で、フィリピン漁船に放水を行ったという事例がある。
(5) 今回の事件に関してはベトナムも反応し、外務省は「南シナ海におけるあらゆる活動において、あらゆる関係国に、国際法や国連海洋法条約(UNCLOS)を遵守するよう要求する、そして状況を複雑化させるような行動を避け、平和と安全、安定、海の秩序を維持するよう務めるよう求める」と発表した。
(6) 放水による妨害の事例は今回が今年に入って初めてのことだが、4月には中国人民解放軍海軍の軍艦が、フィリピンの報道員を載せた民間船を追い回すという事例があった。最近新しく施行された中国海警法は、南シナ海への侵犯だと海警局が判断する行為に対する攻撃的な対処を容認するものである。今年初めには、フィリピンのEEZ内に位置するウィットサン礁周辺におよそ200隻もの中国船の存在が確認され、数ヶ月の間フィリピンEEZ内部を動き回った。
(7) こうした挑発的行動に対し、Duterte大統領ははっきりと中国を批判してこなかった。これまでもDuterte政権は、中国との緊密な関係維持を重視し、南シナ海論争に関しては穏当な対応をしてきた。しかし今回の抗議は、ベトナムの南シナ海問題専門家Viet Hoangによれば、フィリピンの取り組みが変わりつつあることを示唆している。
(8) 他方、フィリピンはベトナムとの間で、2007年以降停止してきた共同の海洋調査を再開することで合意した。これに関する声明においてフィリピン外務省は、南シナ海における法の支配の支持を強調した。こうした動きについてVietは次のように分析する。まず両国の共同海洋調査が中止されていたのはDuterteが中国との関係維持を重要視していたためであるが、彼の任期が終わりに近づくにつれ、フィリピンは周辺各国、特に米国との協調の拡大を模索している。ベトナムはこの機会をうまく利用するべきである。
記事参照:Philippines: Chinese coast guard used water cannon to block Manila's supply boats

11月18日「南シナ海におけるベトナムの島嶼建設は中国との海洋における協調に対する脅威―中国専門家論説」(South China Morning Post, 18 Nov, 2021)

 11月18日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、中国南海研究院海洋法律与政策研究所所長閻岩の“South China Sea: Vietnam’s clandestine island-building is a threat to maritime cooperation with China“と題する論説を掲載し、閻岩は近年の海洋をめぐる中越関係は建設的な方向に動いているにもかかわらず、ベトナムは目立たないように南沙諸島で占拠している島礁で埋め立て、浚渫工事を行い、施設の建設や兵器の配備を行っており、南シナ海行動宣言に則り、これらの作業を中止すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ベトナムは、その貿易所要を満たすため2030年までに近代的な港湾を建設する計画を承認した。これには係争中の南沙諸島、西沙諸島も含まれている。その直後、衛星画像は南沙諸島のサンド礁、ナムイエット島、ピアソン礁で新たな埋め立てが行われていることを明らかにしている。
(2) ベトナムは係争中の南シナ海で二重基準を使用している。ベトナムは他国に対しては埋め立てやその他の工事を中止するよう要求する一方、自らはそれらの工事を継続している。過去数年間にベトナムは南沙諸島の施設と装備を更新しており、報じられるところではより新型の射程の長い兵器システムが含まれている。2016年、ベトナムは専門家が射程延伸砲兵(extended range artillery)システムの一部であるロケットランチャーと考えているものを南沙諸島に設置した。ベトナムはこれを否定している。ロケットランチャーは小型ではあるが、(発射されるロケットは)射程150kmであり、南沙諸島全域を射程に収めている。ベトナムはまた、ピアソン礁及びナムイエット島にいくつかの事務棟と空対空レーダー(対空レー大の誤りか:訳者注)を設置ており、センサーと通信システムが装備されていると考えられている。国内メディアは、これら島礁に中国の上陸作戦阻止のために建設してきていると報じている。ベトナムは、他の権利主張国を苛立たせないよう、ASEAN加盟国、特にフィリピンとマレーシアの支援を失いたくないため南沙諸島での建設は目立たないように実施され、国内メディアではほとんど報道されていない。目立たずに工事を進めていくことは、ベトナムが中国の犠牲者であるように演じ、国際社会の支援を勝ち取るのに好都合である。ベトナムの二重基準の成功は、島礁における建設が西側のシンクタンク、研究機関、メディアであまり取り上げられていないことに見ることができる。
(3) 実際の海洋における協調は円滑に進展し、2021年の中越関係は建設的である。9月にはベトナム共産党Nguyen Phu Trong総書記が王毅外交部長と会談し、両者はいくつかの問題について合意した。両者は南シナ海における中越間の相違をうまく処理することで合意し、南シナ海の平和と安定維持のために行動規範について地域諸国が作業しなければならないと協調した。2016年に海洋における法執行で協調することに合意して以来、中越両国は実際の協力を促進してきており、10月には両国はトンキン湾で共同哨戒を実施し、これは2021年では2回目、2006年からでは22回目のことである。中国外交部、ベトナム外務省は、海洋科学調査における新しい計画の促進、環境保護、漁業、捜索救難、法執行やその他の両国が神経質にならなくてすむ領域での海洋における協調について作業を継続している。同時に、Covid-19の世界的感染拡大のため行動規範の討議は減速し、ベトナムは南シナ海における建設工事継続の機会の窓を手に入れた。
(4) 隣国である中越は、長年にわたって多くの微妙な問題をうまく対処してきた。両国は、複数の陸上国境及び海上国境確定交渉の貴重な経験を有している。海洋における紛争解決を支援するため、中越は2011年に海洋における対立解決の「基本原則」に合意し、署名している。この合意には、2002年の南シナ海行動宣言の原則と精神に従うことが含まれている。ベトナムは今、正しいことを成すべきである。 ベトナムは、南シナ海における緊張を緩和し、紛争を解決するため2002年の行動宣言を遵守し、南沙諸島における建設作業を止めるべきである。
記事参照:South China Sea: Vietnam’s clandestine island-building is a threat to maritime cooperation with China

11月19日「フランス海軍、地中海で多国間共同演習を実施―マレーシア・防衛ジャーナリスト報道」(USNI News, November 19, 2021)

 11月19日付のThe U.S.Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、マレーシアで活動する防衛ジャーナリストDzirhan Mahadzirの“French Navy Kicks Off Force-on-Force Drills in Mediterranean with Partner Nations, NATO”と題する記事を掲載し、そこでMahadzirはフランス海軍が18日に開始したポラリス21演習の内容について、要旨以下のように報じている。
(1) 11月18日、フランス海軍は地中海西部でポラリス21(POLARIS 21)と呼ばれる対抗形式の大規模な作戦即応演習を実施した。フランス海軍および陸軍に加え、提携国であるギリシャやイタリア、スペイン、英国、米国、そしてNATOの部隊がこれに参加している。フランスDefense Ministryによれば、この作戦は高烈度の状況における交戦に備えた作戦即応および複合状況下を想定した演習であり、情報や宇宙での行動能力についても焦点を当てるものであるという。
(2) フランス軍は単独での作戦能力も有するが、交戦のための基本的枠組は多くの国との作戦上の提携強化による集団的行動である。それゆえ、ポラリス21にはフランス海軍の全構成要素、そして陸・空軍の地上・航空戦力に加え、提携諸国の艦艇や航空機が動員されるのである。
(3) ポラリス21には、艦船23隻、潜水艦1隻、航空機65機、6000人の人員が参加する。青軍は、フランス空母「シャルル・ド・ゴール」を中核とする空母打撃群であり、赤軍はフランス水陸強襲艦「トネール」を中核とする架空の国メルキュールの部隊である。この演習では青軍の空・海行動能力が検証され、赤軍は空・陸部隊で補強される。11月18日までが準備段階で、25日から12月3日まで実動演習が実施される。
(4) 青軍は以下の部隊で構成される。まず「シャルル・ド・ゴール」空母打撃群で、「シャルル・ド・ゴール」にはラファール戦闘機20機、その他の航空機を搭載する。米駆逐艦、フランス、ギリシャ、イタリア、スペイン各国のフリゲートが随伴し、米海軍のP-8A哨戒機の支援を受ける。海上戦闘群として、大西洋と地中海でそれぞれフランスのフリゲートが行動する。哨戒機としてラン=ビウエ海軍航空基地からアトランティック2型哨戒機が運用され、補給支援としてフランス及びスペインの補給艦が加わり、海軍特殊戦部隊としてフランスの支援艦が加わる。最後に機雷戦部隊が参加する。
(5) 赤軍は以下の部隊で構成される。まず「トネール」を中核とする水陸両用戦群で、同艦には第13 外人准旅団が乗艦している。同艦は英駆逐艦、フランスの駆逐艦及びフリゲートである。次に海上戦闘群として、フランス駆逐艦1隻が大西洋で、フランス海洋哨戒艦2隻が地中海で行動する。海上哨戒を行うのはイタリアの基地から運用されるアトランティック2型哨戒機で、補給は米補給艦が実施する。さらに機雷戦部隊と地上防空部隊、航空能力としてフランス海軍のラファール戦闘機を含む種々の航空機が加わる。さらにフランス潜水艦とNATOの潜水艦が両軍によって交互に運用されることになるだろう。
記事参照:French Navy Kicks Off Force-on-Force Drills in Mediterranean with Partner Nations, NATO

11月19日「中比、南シナ海で再び緊張―フィリピン専門家論説」(Asia Times.com, November 19, 2021)

 11月19日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、Polytechnic University of the Philippines准教授で南シナ海問題専門家Richard J. Heydarianの “China, Philippine Sea tensions on the boil again”と題する論説を掲載し、ここでHeydarianは中国が南シナ海のフィリピン占拠の海洋地物へのフィリピンの海上補給を妨害したことから、中比関係の緊張が再び激化しかねないと見、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピン軍西部司令部は11月18日、中国海警船3隻が南シナ海のフィリピン占拠の海洋地物セカンド・トーマス礁(フィリピン名:Ayungin Shoal、中国名:仁愛礁)に向かっていた2隻のフィリピン海軍補給船に対して放水砲で妨害したと報告した。Locsin Jrフィリピン外相は同日の公式声明で、「駐フィリピン中国大使と北京の外交部に対し、この事件に対する怒り、非難そして抗議を最も強い言葉で伝えた」と述べた上で、「政府公船は比米相互防衛条約の適用対象となっている」と中国に警告し、紛争の事態拡大が米軍との合同介入を招く可能性を示唆した。そして同外相は、「(中国側が)自制心を発揮しなかったことで、Duterte大統領と習近平国家主席が尽力してきた両国間の特別な関係を脅かす」と警告し、さらなる外交的報復を仄めかした。これに対して、北京は緊張緩和のための対話の道を維持しながらも、フィリピン船の方が中国の管轄海域に「不法侵入」したと主張し、反撃した。
(2) フィリピンは20年以上、エネルギー資源豊かなフィリピン西部パラワン州沖海域と南沙諸島の係争海域との間にある低潮高地セカンド・トーマス礁を実効支配してきた。フィリピン軍は1999年に、中国が主張する「9段線」内にある、この係争海洋地物の戦略的意義を認識し、錆びた病院船「シエラ・マドレ」を浅瀬に座礁させて事実上の軍事拠点としてきた。この浅瀬はフィリピンの最寄りの海岸から168km離れているが、最寄りの中国の海南島からは965kmも離れている。フィリピンの領有権を主張するために軍事拠点の「シエラ・マドレ」に駐留する少数のフィリピン軍海兵隊員は、食料から燃料や飲料水まで必要物資を絶え間ない補給に頼らなければならない。
(3) 過去5年間、フィリピン外務省は自国管轄海域への中国の侵入に対して少なくとも160回の抗議を行った。その大半(143回)は、Duterte政権の3人目の外相、Locsin Jrによるもので、同外相は2018年に任命されて以来、ツイッター上で多彩な、かつしばしば外交官らしからぬ言葉を通じて存在感を高めてきた。同外相は、南シナ海におけるフィリピンの哨戒活動と補給任務は「正当で日常的な慣行」であると主張し、中国の最新の妨害行為を「南シナ海の平和、良好な秩序そして安全を脅かす」と非難した。さらに、同外相は今回の事案に対するマニラの「怒り、非難そして抗議」を表明し、セカンド・トーマス礁は「フィリピンの不可欠な領域であり、フィリピンのEEZと大陸棚であり、フィリピンは主権、主権的権利及び管轄権を有する」と繰り返した。しかも、前述のように、同外相はフィリピンの政府公船は比米相互防衛条約の対象であることを北京に思い起こさせた。これは、Trump政権とBiden政権が共に、敵対的な第三者による「南シナ海におけるフィリピン軍、軍用機及び公船に対する武力攻撃」が「相互防衛条約第4条に基づく相互防衛義務を引き起こす」ことを明確にして以来、特に痛烈な声明であった。一方、中国も反論している。中国外交部報道官は、「11月16日夕方、2隻のフィリピン補給船が、中国の同意なしに中国の南沙諸島仁愛礁周辺海域に不法侵入した。中国海警船は法に従って公務を執行し、中国の領土主権と海洋秩序を守った」と述べた。
(4) フィリピンにとって大きな懸念事項は、係争海域における中国の海上民兵船の増加と長期にわたる滞留である。フィリピンは2021年初め、フィリピンのEEZ内にある南沙諸島のウィットサン礁(中国名:牛軛礁)周辺海域での数週間に及ぶに中国海上民兵船との対峙中に、戦闘機を派遣し、海軍戦闘艦艇と沿岸警備隊巡視船を展開させた。2019年には、中国の海上民兵船がフィリピンのEEZ内にあるエネルギー資源豊富なリード堆(中国名:礼楽礁)海域でフィリピン漁船に突っ込み、沈没させた。近年、米シンクタンクThe Center for Strategic and International StudiesのWebサイト、The Asia Maritime Transparency Initiative(以下、AMTIと言う)は衛星画像分析を通じて南シナ海紛争の動向を詳細に追跡しているが、AMTIは、中国の海上民兵船の役割の増大を警告している。AMTIは最近のレポートで、「2000年代になって、海上民兵は北京が敵対する外国の軍事活動の監視と嫌がらせに活動の重点を移した」と述べ、中国の海上民兵(MMFV)と南沙諸島中核艦隊(Spratlys backbone fleet: SBFV)の専門化の深化を指摘している。AMTIディレクターのGreg Polingは、「海上民兵の価値は、(政府活動との無関係を主張できる)一定の否認権を持っていることにある。北京は、これらは商業船舶であると主張することができる。しかしながら、リモートセンシングと画像証拠を組み合わせれば、海上民兵船と非民兵船舶とは区別することができる」と語っている。フィリピンは、中国に対するDuterte大統領の過度の宥和政策によって、南シナ海全域に対する、そしてフィリピン管轄海域縦深への中国軍及び海上民兵の展開の一層の拡大という代償を支払っているのである。Aquino政権下で中国に対するフィリピンの歴史的な仲裁裁判を担当したRosario元外相は声明で、「中国の行動に抗議するフィリピンの対応はそれ自体称賛に値するが、この侵略の淵源がフィリピンの誤った政策にあるかもしれないことは遺憾である」と述べた上で、「仲裁裁判所の裁定を次のレベルに移行させることが可能であったであろう、他の政策手段を無視して、我々は主に2国間外交を重視した」として、Duterte大統領が中国に立ち向かい、自国の権利と主権を主張することを拒否したことを公然と批判した。
記事参照:China, Philippine Sea tensions on the boil again

11月20日「アフリカは東シナ海・南シナ海での緊張の高まりを憂慮する―ニュージーランド専門家論説」(The Diplomat, November 20, 2021)

 11月20日付、デジタル誌The Diplomatは、ニュージーランドのthe University of Otago博士課程院生Tola Amusanの“Why Africa Should Be Concerned With Increasing Tensions in the East and South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでAmusanは、中国と台湾の問題はアフリカにとって無関係ではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) アジアにおける地政学的緊張は何年も前から高まっており、大国・主要国は重要な問題で共通の認識を得るのに苦労し、敵対するようになっている。東シナ海と南シナ海の領土問題は、世界の大国間の武力紛争に火をつける可能性がある。ほとんどの分析者は、この紛争における主要な敵対者は中国であり、その物質的能力の増大は世界的な野心の増大につながっていると考えている。中国は、南シナ海の80%の領有権を主張する一方で、台湾を中国の固有かつ不可分の一部であり、2049年までに祖国と統一されなければならないと主張している。中国は、軍事力の増強と経済的な余裕を利用して、主に強制力によってこの地域の現状を変えようとしている。南シナ海での人工軍事島の建設、準軍事組織による周辺小国の排他的経済水域の侵害、国際法廷での判決の無視、さらには台湾への軍事行動の予告などさまざまな場面で中国は行動を起こしている。
(2) 中国の侵出は急速であったため、地域および世界の大国による反作用を呼び起こした。2017年には日米豪印4ヵ国安全保障対話(QUAD)が再び活性化し、英国、フランス、ドイツなどがこの地域に軍事力を展開している。日本と米国は同盟関係を強化しており、米国、英国、オーストラリアは最近、原子力潜水艦の協定に署名した。また、この地域の国々は軍事力の強化を図っており、国家間の紛争を引き起こす可能性のある安全保障上のジレンマに陥っている。
(3)中国と台湾の関係は、他の国々も巻き込む大規模な大国間紛争発生の原因となりうる。2021年、中国による台湾への攻撃的な行動は、中国政府高官や国営メディアによる暴言による威嚇から、人民解放軍空軍による台湾の防空識別圏への侵入まで、その回数は過去最高を記録した。また、中国の急速な軍事的近代化により、台湾への侵攻が早まるのではないかという予測もあり、台湾の邱国正国防相は、中国が2025年までに本格的な台湾侵攻の準備を整えていると予想している。このような状況に対抗するために、台湾への支援を表明しているのが米国であり、日本も同様である。この台湾海峡での紛争は、NATOやロシアなどを巻き込む可能性もある。
(4) このような紛争は、軍事的な損失や勝利の枠を超えたものになるであろう。米シンクタンクRAND Corporationのレポートは、「戦争の計画者は、いかにして軍事的優位性を得るかに主眼を置いており、経済的・政治的な損害をいかにして回避するかには関心がない」と述べている。しかし、戦争の結果は軍事的な成功や失敗をはるかに超え、世界経済を揺るがし、国際秩序を崩壊させる可能性がある。グローバル化した世界では、アジアでの紛争はアジア国内の経済に影響を与え、世界経済全体にとっても悲惨なものとなる。
(5) アフリカ諸国にとって、このような紛争がアフリカの大地に到達することはまずないが、2つの理由から社会経済的な影響は深刻なものとなる。第1に、アジアはアフリカ経済にとって、貿易、投資、援助、開発、成長の重要な源泉となっていること、第2に、アフリカ経済は世界経済の外部からの混乱に対して非常に脆弱であり、それは特に資源に依存していることである。World Integrated Trade Solution(WITS)のデータによると、2019年、サハラ以南のアフリカの貿易に占める東アジア・太平洋地域の割合は、輸入28.14%と輸出19.8%で、それぞれ欧州・中央アジアに次いで2位となっている。投資面では、アフリカへの投資におけるアジアのシェアは、2002年の5%から2018年には23%に増加し、欧州に次いで2位となっている。アフリカとアジアの経済関係は、極めて重要であり、アジアが混乱すれば、アフリカにも被害が及ぶことになる。
(6)アフリカ諸国の成長はほとんどの場合、内生的な要因ではなく、外生的な要因によってもたらされている。そのため、外部の政治的・経済的条件に対して脆弱である。2008-09年の金融危機や最近のCOVID-19大流行は、世界経済の混乱が中程度の発展を目指しているアフリカ経済に与える悪影響を浮き彫りにした。COVID-19とそれに続くアジア太平洋地域の不安定さの組み合わせは、多くのアフリカ経済にとって切実な懸念材料となっている。このような経済的な悪影響は、アフリカ諸国の政治的・社会的安定をも脅かすことになる。これは、アフリカ諸国が経済回復の起爆剤として必要な資源を欠いていることが原因である。
(7) アフリカは、「アジェンダ2063」を通じて包括的で持続可能な成長と開発、優れた統治、民主主義、人権を実現し、国際システムにおいて強力で影響力のある国々になることを目指している。これらの目標を達成するためには、国内の改革だけでなく、世界の平和と安定が必要となる。アジアに利害関係を持つ中立な立場のアフリカ諸国は、African Union(アフリカ連合)を通じて、アジア太平洋地域の緊張緩和を率直に促すべきである。これは、どちらかを選ぶということではなく、最終的に勝者がいない狭義の利益を追求するために、世界の平和と安定を危険にさらさないように関係者に呼びかけることである。
(8) しかし、この問題に対するアフリカ諸国の見解はほとんど聞かれない。これには3つの理由が考えられる。第1に、アフリカには冷戦時代に始まった非同盟の歴史があり、現在の中国と米国の大国間競争の中で中立性を保ちたいという思いから、この問題について発言しようとしない。第2に、アフリカは平和と安全の面で、独自の問題を抱えている。この地域では平和度が減少した国が22ヵ国で、増加した国(21ヵ国)を上回っている。その一方で、2020年にテロが最も顕著に増加した10ヵ国のうち7ヵ国がサブサハラ・アフリカである。第3は、アフリカ諸国の中で台湾を独立国家として認めているのはエスワティーニ王国だけという事実である。中国と台湾の関係はアフリカとは無関係のように感じられるかもしれないが、実はそうではない。
記事参照:Why Africa Should Be Concerned With Increasing Tensions in the East and South China Sea.

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) 2021/148 “Maritime Capacity-building Cooperation between Japan and Vietnam: A
Confluence of Strategic Interests” by Hanh Nguyen
https://www.iseas.edu.sg/articles-commentaries/iseas-perspective/2021-148-maritime-capacity-building-cooperation-between-japan-and-vietnam-a-confluence-of-strategic-interests-by-hanh-nguyen/
ISEAS Perspective, November 16, 2021
By Hanh Nguyen, a Non-resident WSD-Handa Fellow at the Pacific Forum
 2021年11月16日、米シンクタンクPacific Forumの客員研究員Hanh Nguyenは、シンガポールのシンクタンクThe ISEASのウエブサイトに" Maritime Capacity-building Cooperation between Japan and Vietnam: A Confluence of Strategic Interests "と題する論説を寄稿した。その中でHanhは、日本は伝統的に東南アジア諸国に対する海洋能力構築支援を提供しているが、この支援の目的はこれらの国々の海上領域に対する意識向上と法執行能力を強化し、それによって安全保障上の課題に対する、より迅速かつ効果的な対応を促進することであり、東南アジア諸国の中でも、特にベトナムは日本の海洋能力構築支援の優先提携国として浮上していると述べた上で、ベトナムにとって日本は最適な提携国であると同時に、日本にとっても「自由で開かれたインド太平洋」構想に貢献するものであると指摘している。そしてHanhは、今後も日本が関係国と調整を図りながらこうした支援を続けることで、日越両国間の海洋能力構築支援の見通しは明るいものとなると指摘し、両国間の協力体制を好意的に捉え、期待感を示している。

(2) PULLING BACK THE CURTAIN ON CHINA’S MARITIME MILITIA
https://www.csis.org/analysis/pulling-back-curtain-chinas-maritime-militia
Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, NOVEMBER 18, 2021
By Gregory B. Poling, Senior Fellow and Director, Southeast Asia Program and Asia Maritime Transparency Initiative
Harrison Prétat, Associate Fellow, Asia Maritime Transparency Initiative
 11月18日、米シンクタンクCSISの上席研究員Gregory B. Polingは、CSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeに、“PULLING BACK THE CURTAIN ON CHINA’S MARITIME MILITIA”と題する論説を寄稿した。その中で、①Asia Maritime Transparency InitiativeとCenter for Advanced Defense Studiesは、過去1年間にわたり、リモートセンシングデータと中国語のオープンソースの研究を用いて、中国の海上民兵に関する調査を行った、②この報告書は、中国の海上民兵船を特定するための手法と、それによって特定された122隻の民兵船のリスト、さらに民兵船である可能性が高い52隻のリストを提示している、③現在、南シナ海で活動する民兵は、中国の広東省と海南省にある10の港を拠点に活動し、南沙諸島では1日に約300隻の民兵船が活動している、④民兵船は大きく分けて、プロの民兵船と、補助金制度によって民兵活動に採用された商業漁船の2種類がある、⑤海上民兵の活動に携わっている国有漁業企業に勤務する常勤の海上民兵は、その企業から給与を受け取る、⑥民兵の船舶を直接所有していると確認された28社のうち、22社が広東省に、5社が海南省に拠点を置いている、⑦ほとんどの民兵船及び民兵船と思われる船の所有権網は、中国政府とのつながりが見つかっていない、⑧プロの民兵船は、より中央の政府機関との直接的なつながりがある可能性が高い、⑨リモートセンシングデータと従来の現場報告に基づいた行動ベースの識別が、最も有望な手段となっている、⑩現地での写真やビデオ撮影、船と船の間のAIS(船舶自動識別装置)のデータ収集は、民兵船を直接識別し、その行動を記録する最大の可能性をもたらす、などの主張を述べている。

(3) TAIWAN’S DEFENSE PLANS ARE GOING OFF THE RAILS
https://warontherocks.com/2021/11/taiwans-defense-plans-are-going-off-the-rails/
War on the Rocks, NOVEMBER 18, 2021
By Michael A. Hunzeker, an assistant professor at George Mason University’s Schar School of Policy and Government
 2021年11月18日、米George Mason UniversityのMichael A. Hunzeker助教は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" TAIWAN’S DEFENSE PLANS ARE GOING OFF THE RAILS "と題する論説を寄稿した。その中でHunzekerは、米国が台湾を本土からの攻撃から守るための協議を進めるにつれ、台湾軍は自身の防衛に関する準備を真剣に考えなくなっているように思われるとした上で、Trump前政権もBiden現政権も台湾への支援を明確にしているが、米国政府が台湾を支援するために米軍を危険な目に遭わせることを検討する前に、台湾軍が自らを支援するために十分なことをしているかどうかを考えるべきではないかと疑問を呈し、実際、蔡英文政権は国防費の大幅な増額を提案しているが、その使途を検討してみると、台湾はもっと多くのことができるし、すべきであり、特に敵の攻撃から台湾を守る準備に関しては再考の余地があると主張している。そしてHunzekerは、友人には穏やかな対応が必要だと主張する人もいるだろうが、それは平時であるなら賛成するが、残念ながら今後は平時とは異なる状況になるとし、いつの日か米国政府は台湾を防衛するために米国民を危険な目に遭わせる必要があると気付く時が来るのだから、米国政府は台湾が自国の防衛のために自国の力の範囲内であらゆることを行っていることを確認する重大な道義的義務を負っていると述べている。