海洋安全保障情報旬報 2021年10月11日-10月20日

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10月11日「インド太平洋構想に、なぜ南極大陸・南氷洋が含まれないのか-オーストラリア専門家論説」(9DASHLINE, October 11, 2021)

 10月11日付のインド太平洋関連インターネットメディア 9dashlineは、オーストラリアLa Trobe UniversityのLa Trobe Asia副所長Rebecca Strating博士とThe Australian War CollegeのThe Defence and Strategic Studies CourseであるオーストラリアDeakin University のStrategic Studies講師Elizabeth Buchanan博士の” WHY IS ANTARCTICA MISSING IN ACTION IN THE INDO-PACIFIC CONCEPT”と題する論説を掲載し、ここで両博士は南極大陸・南氷洋がインド太平洋の構想から見落とされているようであるが、これは地域の主権や領有権の主張に根本的な不一致があるためで、これを解決しなければ、中国が戦略的行動を進め、法に基づく秩序に影響を与えることになるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インド太平洋構想は、海洋を有する民主主義諸国が中国の台頭を集団で抑制しようするものである。インド太平洋地域においては、南シナ海で米中の戦略的競争が激化しているとして、他でも「法に基づく秩序」を書き換えようとする中国の努力を判定するリトマス試験紙ように扱われている。しかし、中国の活動は南シナ海だけでなく、多くの場所で、自由で開かれたインド太平洋を侵食する能力と意図を持っている。そして、南極大陸・南氷洋における資源への長期的な関わりを確保するために、その存在感を高めている。
(2) 南極大陸・南氷洋は、インド太平洋構想からは見落とされがちである。南極大陸を囲む南氷洋は、インド洋、太平洋の海をつなぐ役割を果たしているが、インド太平洋地域からは外れているように見える。インド太平洋構想を指示する国には、南極大陸の領有権を主張する国や、南極条約の締約国があることを考えると、これは奇妙なことである。南極条約の加盟国である米国は、自由で開かれたインド太平洋構想の強力な支持者である。しかし、米国の示した「2019年のインド太平洋ビジョン(2019 Indo-Pacific vision)」では、南極大陸・南氷洋に言及していない。同文書の地図では、南極大陸を完全に外している。南極大陸・南氷洋をインド太平洋構想に無造作に含めることは、最終的には「法に基づく秩序」を弱体化させ、侵食しようとする中国の努力を後押しすることになる。
(3) フランス、英国、オーストラリアといった有力なインド太平洋構想の採用国は、南極大陸の一部に領有権を主張する国でもある(そのほかにチリなど全部で7カ国が主張している:訳者注)。フランスは2018年にヨーロッパで初めてインド太平洋構想を採用し、その戦略には南極への言及が含まれ、環境安全保障の観点から、乱獲の懸念が南氷洋および南極大陸の海岸線までに及んでいると主張している。さらに、南極大陸が国際公共財であることを強調し、競争の場にならないようにする必要性を指摘している。しかし「2019年インド太平洋におけるフランスの防衛戦略(2019 French Defence Strategy in the Indo-Pacific)」では、南極大陸や南氷洋についての言及がないので、フランス政府は南極を競争から守る必要性を確信しているものの、実現するための計画はないと思われる。
(4) 英国の「2021年安全保障・防衛統合レビュー(UK’s 2021 Integrated Review of Security and Defence)」では、英国はインド太平洋で最も広範かつ統合された存在感のある欧州の提携国になると強調し、さらに法的秩序を維持することに重きが置かれている。しかし、南極大陸については、南極条約体制(以下、ATSと言う)を維持、強化し続けるという言及だけである。
(5) 米国は明らかにインド太平洋構想に関して南極大陸・南氷洋を含めておらず、フランスは南極を競争から守りたいと考えているが、少なくとも軍事的に実施する計画はなく、英国は南極をインド太平洋構想の副次的な分野に封じ込めている。これらの国々は、インド太平洋地域の戦略的な像を南極大陸・南氷洋にどのように投影するかを明確にしていない。その他の志を同じくする国々も、南極地域でどのように協力していくかを明確にしていない。
(6) オーストラリアはインド太平洋構想から、南極大陸・南氷洋を省いている。「2013年の国防白書(2013 Defence White Paper)」以来、オーストラリア政府はオーストラリア大陸の北側と東側に焦点を当てたが、西側、すなわちインド洋を無視していた。西オーストラリア州出身の外務大臣及び国防大臣が相次いで就任したことは、オーストラリア政府が地域の地理と優先事項を理解する上での変化につながった。今日、インド洋は重要視されているが、オーストラリア政府のインド太平洋構想は、南氷洋を完全に無視している。
(7) インド太平洋構想の推進派が南極大陸を戦略に入れたとしても、重大な溝が生じる。オーストラリアは、南極大陸の42%を占めるオーストラリア南極地域の最大の領有権を主張する国である。しかし、オーストラリアの海洋権益は、国際社会では認められていない。実際、オーストラリアが2004年にCommission on the Limits of the Continental Shelf(大陸棚限界委員会)に南極大陸棚の主張に関するデータを提出した際、米日印3ヵ国はこれを認めないと回答している。2016年に発表された最新の国防白書では、「オーストラリア南極地域に対するオーストラリアの主権とその沖合水域に対する主権を脅かす可能性のある南極の軍事化を防ぐために、志を同じくする国々と協力することを目指す」と強調しているが、オーストラリアに最も近い米国はそれを認めておらず、これを追求することは難しい。
(8) 南極大陸・南氷洋をインド太平洋構想に組み入れないことは、戦略的な意味を持つ。インド太平洋構想では南シナ海に焦点を絞り、競争の動的情勢がよく見られる。ATSでは、南極海の南緯60度以南の海域は切り離されているが、インド太平洋の南側における戦略的競争が停止したわけではない。ATSの範囲内で行われている戦略的競争には、より大きな注意を払わなければならない。この競争は、軍民両用技術やATSの合意に基づく仕組みへの妨害などのグレーゾーンの活動として表れている。
(9) 重要なのは、ATSが主権主張の停止を維持し、南極統治の効果的な機構として継続できるかどうか、あるいは南極をめぐる争いが発生するかどうかである。インド太平洋の主要推進派は、ATSを支える法的な秩序を支持すると同時に、この地域での急激な競争に備えるという二重戦略を採用しなければならない。しかし、南極大陸・南氷洋に対する戦略を明確にするという点では、インド太平洋構想は全体的に失敗しているように見える。
(10) インド太平洋の南側を見落としていることは、大きな問題点を示している。南極大陸を除外したインド太平洋構想は、必然的に誤った仮定を広めることになる。一方、南極大陸・南氷洋をインド太平洋構想に含めることは、「法に基づく秩序」を弱体化させ、侵食しようとする中国の努力を最終的に後押しすることになる。
(11) 南極大陸・南氷洋をインド太平洋の構想から外したり、区分けしたりするのは、この地域の主権や領有権の主張に根本的な不一致があるためである。しかし、そうすることで、より大きなグレーゾーンが生まれ、中国のような国家は、志を同じくする提携国間の結束の欠如を利用して、独自の戦略的行動を進めることができ、国際法に基づく秩序の維持に影響を与えることになる。海洋を有する民主主義国は、国益の観点から意見の相違を解決することができるし、そうすべきである。自由で開かれた地域を実現するための統一的な道筋は、インド太平洋戦略に反映されなければならない。
記事参照:WHY IS ANTARCTICA MISSING IN ACTION IN THE INDO-PACIFIC CONCEPT

10月12日「ロシア海軍造船業界で山積する問題―ウクライナ海軍退役大佐論説」(Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, October 12, 2021)

 10月12日付の米シンクタンクThe Jamestown FoundationのウエブサイトEurasia Daily Monitorは、ウクライナ海軍退役大佐Andriy Ryzhenkoの“The Realities of Russian Military Shipbuilding (Part Two)”と題する論説を掲載し、ロシア海軍艦艇を強化することを妨げるロシア造船業界の古い技術、老朽化した造船所、汚職といった問題について、要旨以下のように述べている。
(1) ロシアの政治的宣伝と読者の感情をあおる国際報道が声高に絶え間なく繰り返されることで、ロシアの海軍力は実際よりもはるかに強力であるという印象を与えている。しかし実際には、ロシア海軍は国内造船業を苦しめる機構上の問題のため、老朽化した水上艦及び潜水艦を取り換えるにあたって継続的な問題を抱えている
(2) たとえば、“Russian State Shipbuilding Program to 2020”の10年間にわたる実施結果は、計画内容を達成したというには程遠いものである。2020年末までにロシア海軍が受け取ったのは、戦略ミサイル潜水艦4隻(計画の50%)、原子力潜水艦2隻(25%)、通常型潜水艦8隻(100%)、フリゲート5隻(33%)、コルベット7隻(20%)であった。ロシア海軍にとって特に問題なのは、海軍力を投射するために必要な中核を成す艦艇と考えられる大型艦艇、すなわちミサイル巡洋艦と空母の不足である。ロシアの新しい空母の建造計画は、技術的な複雑さと莫大な費用に阻まれ、全く不透明なままである。空母の推定価格は6千億ルーブル(85億ドル)に達し、これに加えて航空団の資金調達のために約1千億ルーブル(14億ドル)が必要とされている。合わせると、この金額は、現在のロシア海軍の年間兵器調達予算の2倍に相当する。ロシアの専門家たちは、海洋での作戦のために空母が3隻必要だと考えている。しかも、かつてのソ連の空母は、すべてウクライナのムィコラーイウで建造されたものである。
(3) 特にロシアの海軍造船業界の全体的な状況を知る上で参考になるのは、重原子力ミサイル巡洋艦「アドミラル・ナヒモフ」と空母「アドミラル・クズネツォフ」の近代化と修理の事例である。
a. 1988年に就役したキーロフ級重原子力ミサイル巡洋艦「アドミラル・ナヒモフ」は、ロシア連邦の海軍に合計で10年足らずしか就役していない。1997年に運用を停止し、近代化を予定していたが、それにはすでに約25年の歳月がかかっている。現在のところ、同艦は、2024年から2025年の間にロシア海軍に復帰できるとされている。この近代化のための総費用は1千億ルーブル(14億ドル)以上と見積もられており、これは新しいフリゲート艦3~4隻分の建造費用に匹敵する。
b. ロシアでは重航空巡洋艦に艦種区分される同国に残る唯一の空母である「アドミラル・クズネツォフ」は、1990年に就役し、2017年初頭に修理と近代化が予定されていた。しかし、2018年10月30日、この老朽化した艦の修理を進めている最中に、330メートルの巨大なPD-50浮きドックが「クズネツォフ」を中に入れたまま倒壊した。PD-50はその後まもなく沈没し、「クズネツォフ」は別の造船所に移動して分解修理を続けることになった。1年後の2019年12月12日、空母内で大規模な火災が発生し、予定していた修理が少なくとも1年は延びた。最終的にロシア海軍北方艦隊司令部は、「クズネツォフ」の火災による損害によって生じた費用を950億ルーブル(15億ドル)と見積もっており、実質的に空母自体の現在の価格である1,100億ルーブル(18億ドル)と大体等しい。
(4) 「クズネツォフ」の苦難は構造的なものだけではない。2021年3月にムルマンスクにある第10造船所の最高責任者がこの空母の修理費用の横領で罪に問われ、そして2021年7月、同じくムルマンスクの同艦の修理を行っている第35造船所の所長が国有財産を盗んで罪に問われている。「クズネツォフ」の完工は、早くても2023年まではなく、かなりの確率でそれより遅れることがすでに明白である。
(5) ロシアの海軍造船の現実として、国内の技術は多くの点で欧米の技術に遅れをとっており、その予算は圧倒的に石油や天然ガスの売却による継続的な国庫収入に極度に依存している。そのため、西側の同盟国は、海洋での優位に増々意欲的なロシアに影響を与え、制御するのに適した立場にある。
記事参照:The Realities of Russian Military Shipbuilding (Part Two)
関連記事:10月5日「ロシア海軍のための造船産業に関する厳しい現実―ウクライナ海軍退役大佐論説」(Eurasia Daily Monitor, October 5, 2021)
The Realities of Russian Military Shipbuilding (Part One)

10月12日「自由で開かれたインド太平洋にとって米仏は死活的に重要な同盟国―米専門家論説」(19fortyfive, October 12, 2021)

 10月12日付の米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトは、米元安全保障担当特別補佐官Ambassador O’Brienと元米国家安全保障会議オセアニア・インド太平洋安全保障部長Alexander B. Grayの“France And America: A Vital Alliance To Ensure An Open And Free Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、両名はAUKUSの発表、特にオーストラリアがフランスとの潜水艦建造契約を破棄したことで米仏関係は駐米フランス大使の召喚といったぎくしゃくとしたものとなっているが、台頭する中国に対抗するため、太平洋国家であるフランスとの同盟は死活的に重要であり、一時的ないざこざより長い歴史を持つ米仏関係に焦点を当てれば、様々な方策によって修復は可能で、将来繁栄するであろう自由で開かれたインド太平洋に貢献する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) AUKUSの発表はインド太平洋における米防衛体制にとって前向きな一歩であり、中国共産党の野望に対する地域の安全を強化することになるだろう。オーストラリアと原子力潜水艦技術を共有することは太平洋における抑止戦力としてオーストラリア海軍を強化し、日米豪印4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)がますます活性化してくることと相まって、自由で開かれたインド太平洋に維持するための米国主導による安全保障体制の誓約を北京に示すこととなる。
(2) 不幸なことにAUKUSの実施は、1970年代以来の米仏関係が駐米フランス大使の召還という最も明確な形で不和になった。これが、Biden政権が主要な戦略的決定を同盟国、提携国に通知することに無関心であった初めての事例ではない。Macron政権にとって、重大な国内的影響を伴う決定に関する調整が欠如していたことは特に時期が悪かった。フランスは、2019年に独自の太平洋戦略を明らかにしており、EUのインド太平洋戦略に関して主導権を握っていた。近年、フランスはかなりの資源を太平洋に投じてきた。フランスはサヘルにおける対テロ作戦から地中海における海軍共同作戦、レヴァントとアフリカの角における戦略の共有まで米国にとって最も有能で、一貫して効果的な世界にわたる同盟国であった。
(3) Biden大統領とMacron大統領のホワイトハウスとエリゼー宮の相互訪問や将来の防衛システム開発に関する米仏国防企業の合弁事業のような処置を伴う米国の強力な外交は、AUKUS発表に伴ういざこざから脱却するのに役に立つだろう。世界中、特にますます攻撃的になる中国に西側が直面しているインド太平洋でさらなる米仏協調を促進する責任をワシントンは負っている。米仏同盟は両国にとって極めて重要であり、AUKUSの発表によって恒久的な損害を受けるものではない。
(4) フランス海空軍はニューカレドニアおよび仏領ポリネシアのフランス海外領土が存在する地域に既に展開している。このように、パリは自由で開かれたインド太平洋の維持のために重要な役割を果たすという特異な立ち位置にある。さらに地域に対する誓約とその安全保障機構を示すため、フランス海軍は必要な支援関戦を伴ってミストラル級強襲揚陸艦を準恒久的に南太平洋に展開しなければならない。このような投資は、提携国と対立国にフランスは太平洋における主要な大国であり、4ヵ国安全保障対話(QUAD)が主導する海軍の演習や共同作戦にパリが全面的に参加することを可能にし、結果として提携に参画することできる。フランスの極めて能力の高い海軍部隊は、米英豪印海軍および海上自衛隊と緊密に連携し、南シナ海および台湾海峡における航行の自由作戦を支援することになるだろう。係争中のこれら海域において定期的にフランス軍が展開すれば同盟国にとって部隊が増強されることになるとともにパリの決意を北京に伝える重要な合図となるだろう。
(5) フランスはまた、太平洋島嶼国を通じて政治的役割を果たすためにその海外領土を利用することができる。太平洋島嶼国では中国の野望が高まり、米国、オーストラリア、ニュージーランドは大規模な中国の投資と政治的影響力と戦っている。中国の違法・無報告・無規制漁業への対応、小さな島嶼国家における環境強靱化構想への支援の提供、太平洋の広大な海域における海洋状況把握の実施、太平洋島嶼国を中心とする多国間フォーラムへの積極的関与といった海外領土からのフランスの支援は米仏相互の目的を推進し、インド太平洋の指導者として役割を果たすというフランスの誓約を示すことになるだろう。AUKUSの発表以来、フランスは長い間議論されてきたオーストラリア・EU間の自由貿易協定について留保してきた。この一時的ないざこざによる失望が、世界第3位の経済を誇るEUが経済的足跡とオーストラリアおよびインド太平洋全域との良好な関係を拡大することを阻害することはない。EU・台湾自由貿易合意もまた、高い優先順位にある。フランスはこの経済的かつ戦略的に重要な協定をブリュッセルで推進するだろう。
(6) ワシントンとパリは一時的ないざこざでは無く、歴史的そして現在の合意の多くの分野に焦点を当てるべきである。今後何十年にもわたって、この歴史的なパリとワシントンの間の同盟は自由で、開かれた、繁栄するインド太平洋を維持していくために重要であるだろう。
記事参照:France And America: A Vital Alliance To Ensure An Open And Free Indo-Pacific

10月13日「米軍が遠征海上基地を沖縄に配備―香港紙報道」(South China Morning Post, October 13, 2021)

 10月13日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“US strengthens Asia-Pacific defences by deploying floating base for helicopters and hovercraft to Okinawa”と題する記事を掲載し、米国の最新の遠征海上基地「ミゲル・キース」の沖縄への配備とその背景について、要旨以下のように報じている。
(1) 米海軍は、中国との緊張関係が現在続く中、最新の遠征海上基地を沖縄に配備することで、アジア太平洋地域におけるその防衛力を強化している。米海軍の声明によると、大量の機材を輸送し、ヘリコプターやホバークラフトの海上基地として機能するよう設計された遠征用中継基地である米海軍遠征海上基地「ミゲル・キース」は、10月8日に日本のホワイトビーチ海軍基地に配備された。このルイス・B・プラー級の艦は、全長240メートルで、海軍の作戦に後方支援を提供することができる。
(2) マカオ在住の軍事評論家黄東は、この艦の存在は第1列島線に沿って米国の防衛力をさらに強化するものだと述べている。「沖縄を拠点とする『ミゲル・キース』は、米国の水陸両用部隊のための事実上の空母として使用され、米国が中国軍よる尖閣諸島の奪取を阻止するために役立つだろう」と黄東は述べている。
(3)この新たな配備は、米国、日本、オーストラリア、インドの4ヵ国の海軍がQUADの枠組みの下で10月12日に合同演習を開始したことに端を発する。海上自衛隊によると、10月12日から14日までの3日間、ベンガル湾で行われたマラバール演習には、米空母「カール・ビンソン」、日本の護衛艦2隻、オーストラリアのフリゲート1隻、インドの駆逐艦1隻が参加した。10月の第2週、「カール・ビンソン」は、他の4ヵ国の艦と一緒に、他の2隻の空母、米海軍の空母「ロナルド・レーガン」と英海軍の空母「クイーン・エリザベス」と合流し、南シナ海で演習を行った。台湾の高雄にある海軍軍官学校の元教官である呂禮詩は、「ミゲル・キース」の配備と最近の海軍共同訓練は、米国がより強力な戦力を結集できることを中国に思い起こさせるためのものだと述べている。「中国軍は、2030年には3隻目の空母を就役させると予想されている」「しかし米国は、少なくとも3個空母打撃群とその他の軍艦を訓練に動員できることを示し、中国軍に対して『今すぐにお前を倒せる』という明確なメッセージを送ったのである」と呂は述べている。
(4) 中国の国営中央電視台によると、中国軍は最近、南シナ海で空対艦による爆撃や攻撃的な機雷敷設を行う訓練を行ったという。
記事参照:US strengthens Asia-Pacific defences by deploying floating base for helicopters and hovercraft to Okinawa

10月14日「AUKUSの結成はタイによる潜水艦調達を後押しするか―タイ外交評論家論説」(The Diplomat, October 14, 2021)

 10月14日付のデジタル誌The Diplomatは、現在タイで活動する外交評論家Tita Sanglee の“AUKUS: A New Justification for Thailand’s Submarine Acquisition Plans?”と題する論説を掲載し、そこでSangleeはAUKUSの結成によってアジアの軍事的不安定さが増し、それによってタイ海軍が潜水艦を新しく調達する理由が提供されるとして、要旨以下のように述べている。
(1) タイが長らく構想してきた3隻の潜水艦調達計画は実現が先送りにされ、かつ批判にさらされている。批判の要点は、タイが特段軍事的脅威に晒されていないというものである。しかし、英米豪のAUKUSの結成は、アジアにおける軍拡競争と核拡散の危険性を劇的に高めるものである。このことは、タイ海軍が新しい潜水艦の調達を正当化する理由を提供するものである。
(2) AUKUSは、将来的にオーストラリアが原子力潜水艦を獲得する計画を含み、中国の海洋への進出を抑止するための動きであると見られている。一方でそれは、米国による太平洋周辺の安全保障への誓約と同盟国への技術供与の意図を持つことを示すものである。しかし他方でAUKUSはアジアの安全を不安定化させる要因でもある。現在、米中間に適切な外交交渉を欠き、誤算の危険性が高まっているなか、新たにAUKUSを結成することは、中国を軍拡の駆り立てる可能性があり、それはさらに地域全体の軍拡を刺激する可能性がある
(3) 東南アジア諸国のAUKUSに対する反応は賛否様々である。フィリピンでは、Department of National DefenseがAUKUSの動きを妥当なものだとし、自国もまた軍事力の近代化を課題としていると述べている。インドネシアとマレーシアは、それが核を含む軍拡競争の危険性を内包しているとしてAUKUSを強く批判している。オーストラリアと海洋上の境界を接するインドネシアは特に神経質になっており、今後抑止力を増強させる可能性がある。
(4) タイはAUKUSの動きに対して沈黙を守っているが、これは、慎重さと実利主義に特徴づけられるタイの外交手法の反映である。タイ外交の目的は大国間の紛争に巻き込まれないようにすることだ。しかしタイ海軍関係者は、自国の海の抑止力を向上させる必要性を意識し、潜水艦の調達を目指してきたのである。
(5) しかしその実現のためには、経済的問題と軍事政権に対する信頼の欠如という2つの障害があり、それに加えてさらに2つの阻害要因がある。1つは、抑止力強化ではなく外交交渉こそがタイのとるべき最良の手段であると多くのタイ国民が信じていることである。潜水艦の1隻や2隻で何かが変わるということはない。その資金を教育などに投じたほうが賢明であろう。
(6) 第2に、タイ国民は基本的に国内の政治的、経済的問題に関心を持っている。ISEAS-Yusof Ishak Instituteが実施した2021年東南アジア状況調査によれば、軍事的緊張の高まりを東南アジアが直面している主要な課題のひとつとみなしたタイの回答者は16.8%だけであった。これはベトナムの59.4%など、それ以外の東南アジア諸国と比べて格段に低い数字であった。それゆえ、タイ政府が国内問題を改善に導けないのであれば、タイ海軍が来年潜水艦調達のための予算を獲得できる可能性は低い。AUKUSの結成は潜水艦調達の正当化理由を提供するものではあるが、その道程は平坦ではない。
記事参照:AUKUS: A New Justification for Thailand’s Submarine Acquisition Plans?

10月18日「中国に対する統合的抑止が具現化する-フィリピン専門家論説」(Asia Times, October 18, 2021)

 10月18日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、台湾のNational Chengchi University研究員Richard Javad Heydarianの” ‘Integrated deterrence’ taking shape against China”と題する論説を掲載し、ここでHeydarianは米国の主張する対中戦略である統合的抑止が主要な地域の同盟国・提携国との軍事協力や洋上訓練の拡大の中で勢いを増しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) Biden政権の対中国戦略「統合的抑止(integrated deterrence)」は、主要な地域の同盟国や戦略的な提携国との軍事協力や洋上訓練の拡大の中で勢いを増している。10月は、米国とインド太平洋地域の主要国との間で2つの大きな訓練が行われた。一つは沖縄県沖で米国の2個空母打撃群、英国の(空母「クイーン・エリザベス」を中核とする)第21空母打撃群(以下、CSG-21と言う)、そして日本の大型護衛艦による合同演習であり、もう一つは、その1週間後、日米豪印4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)諸国によるベンガル湾でのマラバール2021演習の第2段階である。
(2) 米国の同盟国フィリピンも、本格的なバリカタン合同演習の復活を発表した。この海域での緊張が高まる中、米比双方数千人の部隊が大規模な演習に参加する予定である。この決定は、米比訪問軍地位協定(以下、VAFと言う)を復活させてからわずか数ヶ月後のことで、さらに米比相互防衛条約の70周年を前に、中国海軍の行動を意識した海洋安全保障協力の深化を示唆するものである。
(3) 統合的抑止という概念は、米Lloyd Austin国防長官が2021年初めにシンガポールで行った演説以降、主流となった。しかし、Austinはもっと前、ハワイのUS Indo-Pacific Command(米インド太平洋軍、INDOPACOM)を訪問した際に、この概念を提起していた。「抑止力とは、潜在的な敵の心の中にある基本的な真実を固定すること。その真実とは、侵略の対価と危険は、考えられる利益とは比べ物にならないほど大きいということである。抑止力は、複数の領域にまたがっており、21世紀の安全保障を確保するためにはそのすべてを使えるようにしなければならない」とAustinは述べ、21世紀における戦争の性質と戦略的課題の変化を強調した。
(4) 統合的抑止について、米国防次官補代理Melissa Daltonは米国がもはや自国の軍事力だけに頼って敵の攻撃を防ぐことはできないという前提に基づき、同盟国や提携国、その他の国力の手段とのより深い統合と様々な方策を必要とするものと述べている。同じく国防次官代理Gregory M Kausnerは、技術、運用概念、能力を適切に組み合わせ、それらを織り交ぜてネットワーク化したものであり、信頼性、柔軟性があり、敵を躊躇させるもので、同盟国や提携国と団結し、複数の戦場における力の投射が重要と強調した。
(5) 10月初旬、米海軍、英海軍、海上自衛隊、カナダ海軍、ニュージーランド海軍、オランダ海軍は、日本沿岸で大規模な演習を行った。この演習に参加した海上自衛隊第2護衛艦隊司令の今野泰樹海将補は、「米海軍の2つの空母打撃群に加えて、英海軍の最新鋭の空母打撃群と一緒に訓練できることは光栄なことで、貴重な経験であり、3つの空母打撃群が一堂に会するこの訓練は、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた参加国の強い意志を示すもの。海上自衛隊は、地球規模の課題に対応し、法の支配に基づく海洋秩序を守るために、同じ目的を共有する同盟国や友好国の海軍と緊密に連携する」と述べ、中国を薄っすらと揶揄した。
(6) 米Carrier Strike Group 1(以下、CSG-1と言う)司令官のDan Martin少将は、「我々は、機動的で俊敏かつ柔軟な部隊を運用して、海上で迅速かつ持続的な作戦を遂行する能力を向上させ続けてきた」と述べ、英国のCSG-21司令官Steve Moorhouse准将は、「現在、最大規模の第5世代航空団を提供しており、緊密な同盟国と協力して運用手順と能力を開発すると同時に、インド太平洋における陸上および艦載航空機の敏捷性を披露することは、この地域に対する我々の誓約を示すもの」と述べた。
(7) その1週間後、QUAD4ヵ国はベンガル湾でマラバール演習の第2段階を行なった。それは、対潜水艦戦訓練、水上射撃訓練、ヘリコプターの相互発着艦など、海上安全保障活動を統合することを目的とした様々な演習であった。この演習には、米空母「カール・ビンソン」、アーレイ・バーク級イージス駆逐艦「ストックデール」及びP-8A哨戒機で構成されたCSG-1、インド海軍はラージプート級ミサイル駆逐艦「ランビジェイ」、シヴァリック級多用途ステルス・フリゲート「サトプラ」及びP-8Iを参加させ、海上自衛隊は護衛艦「かが」、「むらさめ」、オーストラリア海軍はアンザック級フリゲート「バララット」及び「シリウス」が参加した。米海軍作戦部長Michael Gilday大将は声明を発し、「マラバール期間中の『カール・ビンソン』への訪問は、海上での各海軍の統合を目の当たりにする貴重な機会となった。今後も継続的に共同演習を行い、我々の連携が発展していくことは間違いない、海軍力をもってすれば、自由と平和を促進し、強制、威嚇、侵略を防ぐことができる」と強調した。
(8) 前述のDan Martin司令官は、「今回のマラバール演習は、国際公共財における比類なき海洋安全保障という願いを支えるために、部隊の相互運用性を向上させるもの。複雑な任務群の演習における部隊の統合は、インド太平洋の同盟国や提携国と効果的に協力し、競合する海洋環境において勝利する我々の能力を示している」と述べている。
(9) 南シナ海の直接の主張国であり、100年来の米国の同盟国であるフィリピンは、米国の統合的抑止戦略の重要な構成国でもある。2019年までに、米比両国は、280もの2国間防衛活動を行っており、これはUS Indo-Pacific Commandの提携国の中で最も多いものだった。しかし2020年、北京寄りのRodrigo Duterte大統領は、バリカタンをはじめとする大規模な2国間防衛演習の法的枠組みとなるVAFを一時的に破棄した。続いて発生したCOVID-19の大流行と相まって、フィリピン大統領の行動は、2国間で予定されていた318の軍事活動の大半を中断させる恐れがあった。2020年の南シナ海における中国活動に対抗する必要性及びDuterte大統領が任期末期を迎えたこともあり、フィリピン軍は米国防総省との関係回復に躍起になっている。
(10) 10月14日、フィリピンのJose Faustino Jr新参謀総長は、「我々は両軍の関係をさらに強化するため多くの活動を予定しており、2022年は本格的にバリカタンを行う」と語った。そして、2022年には最大300の共同防衛活動が予定されていると述べた。過去2019年には、バリカタンで水陸両用の演習が行われ、4,000人のフィリピン兵、3,500人の米兵及び50人のオーストラリア兵が参加している。来年も同様の大規模な訓練が行われる可能性があり、南シナ海問題を背景に、防衛協力強化協定(以下、EDCAと言う)を含む2国間の主要な防衛協定の完全実施と、海洋安全保障に焦点を当てた新たな防衛の枠組みを追求することに両国は合意した。EDCAが完全に実施された場合、米軍は事前に、南シナ海の紛争地に近いフィリピンの主要基地に大量の部隊を配置することが可能になる。 Faustinoは、「私は、両国が直面している新たな安全保障上の課題を考慮して、我々の同盟が引き続き強固であることを確信している。我々はこの地域の平和と安定を維持するという同じ目標を共有している」と付け加えた。
記事参照:‘Integrated deterrence’ taking shape against China

10月18日「米国だけではない台湾支援、日豪英等の状況―米専門家論説」(The Daily Signal, October 18, 2021)

 10月18日付の米シンクタンクThe Heritage FoundationのニュースサイトThe Daily Signalは、同財団The Asian Studies Center長Walter Lohmanの“US Isn’t Alone in Support of Taiwan”と題する論説を掲載し、ここでWalter Lohmanは台湾を支援しているのは米国だけではないとして、日豪英などの台湾支援の状況について、要旨以下のように述べている。
(1) 日本
a.台湾にとって日本は、米国に次いで世界第2の友好国である。このことは平時には確かに真実だが、重要なのは、日本がより直接的な形での抑止力でもあると言うことである。中国が台湾に侵攻した場合、米海軍と日本の海上自衛隊は連携して台湾を防衛することになろう。
b.日本にとっての課題は、明白な侵攻ではない場合の軍事的情勢への対応である。中国が台湾を威圧する方策は幾つもある。台湾は1つの島だけで構成されているわけではなく、したがって、北京はたとえば、金門島などの小さな島嶼の1つを占拠することもできる。あるいは、中国は人道的または政治的危機を利用したり、漸進的かつ隠密裏の軍事行動を採ったりすることもできよう。
c.The Heritage Foundationは、こうしたより微妙な情勢に基づいて幾つかの図上演習を実施してきた。日本の官僚は、日本の平和憲法と明白な脅威との整合を図ることに神経過敏であり、現実の状況下では、日本の艦艇の戦闘参加に当たって、参加を禁じられることはないにしても、遅延させることになりかねない。
(2) オーストラリア
a. オーストラリアは軍隊が小規模で、台湾からも遠く離れているが、米国はインド太平洋地域において米軍との相互運用性が実証されていること及び第1次世界大戦からアフガニスタン戦争に至るまでの国際的危機において米国との一貫した同盟関係あったことを高く評価している。加えて、キャンベラは最近、AUKUSと呼ばれる米英両国との新しい安全保障上の提携を確立し、AUKUSを通じて原子力潜水艦を取得する。もしAUKUSが上手くいけば、オーストラリアはAUKUSを通じて米国との同盟関係を深化させ、台湾の防衛においても重要な役割を果たすことになるであろう。
b. オーストラリアにとって唯一の危険は、米国が台湾防衛への同国の貢献を所与のものと考えていることである。当然ながら、民主主義国家としては、台湾防衛への支援を求められた場合、民意を問うことになろう。とは言え、オーストラリアは、中国に対する懸念を意識し始めたのはほんの数年前からで、しかも、特に台湾海峡有事の場合に何をすべきかについての15年から20年前の議論は一世代も前のものである。
(3) 英国
a. 英国は何十年もの間、インド太平洋地域にほとんど軍事力を持っていなかったが、英国が非常に重要なのは、オーストラリアと同様に、米軍との相互運用性によって強化される能力で、米国は世界でこれほど緊密な同盟国を他に持っていない。英国はまた、真の外洋海軍を持っており、最近の空母打撃群の太平洋への配備と、日米との合同演習はその実力を証明している。また、2隻目の空母が就役したばかりで、より大規模で、より永続的的な展開の先駆けとすべく、2隻の哨戒艦のインド太平洋地域への恒久的配備を計画している。
b.米国との緊密な戦略的連携から、台湾海峡有事では、英国が米国と行動を共にすることはほとんど疑問の余地がない。英国に対して疑念があるとすれば、平時における台湾への誓約である。環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTTP)への加盟申請に見られるように、英国はこの地域に経済的に進出しようとしているが、この地域に対する英国の取り組みには明確さが欠如している。2021年初めに発表された「統合レビュー」では、中国に忖度して、台湾については一度も言及していない。
(4) フランス
a. 西太平洋に戦闘部隊を展開している欧州の国は英仏2国だけだが、フランスは英国より大きな部隊の展開を維持している。同国は、太平洋に広大な主権領域を有しており、常備兵力としてフランス領ポリネシア統合軍など2個軍が配置され、軍用機、艦船及び数千人の兵員を展開している。更に2014年以来、太平洋により強力な艦艇を常続的に配備し、年平均2回南シナ海に派遣している。
b. フランスは台湾を支持している。最近、1990年代初頭に台湾に売却したフランス製の軍事装備、戦闘機及びフリゲートを補修、改良することに合意した。この種の支援を実施するのは、他に米国しかいない。
c. しかしながら、中国に如何に対応するかについては、パリは中国を提携国と見なしているのか、あるいは敵同士と見なしているのか、依然として曖昧である。
d. フランスとの運用上の欠点は、英国とは反対に米軍とはほぼ完全に相互運用性を欠いていることである。米仏両国はNATOにおける共通の指揮機構に属しており、またアフリカで共同任務を遂行しているが、米仏両軍が太平洋でも同様のことが容易に可能だと考えることはできない。
(5) EU
a. オランダやドイツは2021年にこの地域に艦艇を派遣したが、これはこの地域の安定に対する建設的な関心の表明で、台湾にとっても好ましいことである。しかしながら、EU自体は海軍力を持っているわけではなく、台湾海峡の価値は主として経済であり、またある程度は外交的なものである。
b. EUは、経済や規制問題を通じて台湾と非常に広く関わっており、台湾との2国間投資協定を締結する可能性もある。また、外交面でも深く関与している。こうした非軍事的支援は、台湾への武力攻撃によって多くの対価を強いられることを中国に認知させる上で、重要である。一方で、EUは27カ国で構成されており、特に幾つかの国が中国に友好的であることから、台湾や中国政策に関して合意を実現することは容易ではない。
(6) 上記以外に言及すべき国として、シンガポールは台湾が東南アジアで持っている最高の平時の提携国であるが、裏を返せば、それ以上に不必要な危険を冒さないということでもある。インドは近年、台湾に控え目な接近を試みているが、その主たる関心事は自国に隣接した海洋や、特に北部国境における中国の存在感にあり、台湾への接近が挑発的と見られないよう用心している。
(7) 要するに、台湾の安全保障に対する国際的な関心の重要性は、中国が台湾に対して軍事行動を取るのを抑止する上で役立つということである。北京の指導部が毎朝目覚めた時、「今日は侵攻日ではない」と呟かざるを得ないようにするために、我々は同じ志を持つ諸国と協力していかなければならない
記事参照:US Isn’t Alone in Support of Taiwan

10月18日「米国のインド太平洋戦略に開いた大きな穴―オーストラリア専門家論説」(The Interpreter, October 18, 2021)

 10月18日付のオーストラリア・シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、メルボルンに拠点を置く政治リスク・コンサルタント会社Dragomanの分析員Henry Storeyの“America’s doughnut shaped Indo-Pacific strategy”と題する論説を掲載し、そこでStoreyは米国のインド太平洋戦略が具体化しつつある一方、東南アジアに対する具体的かつ真剣な関与方針を欠いていることが重大な意味を持つとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国のアジア再重視政策が具体化しつつある。韓国の文在寅大統領や菅首相(当時)とBiden大統領の首脳会談はその傾向を見せ始めており、中国の予想に反して、日米豪印4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)は中国の防衛計画を複雑化させる要因になっている。また、今年のG7およびNATOの首脳会談はこれまでにないほどインド太平洋に焦点を当てるものであった。それに加えて、英米豪の戦略的防衛提携であるAUKUSが結成されるにあたり、Obama大統領が構想したアジア再重視がようやく現実化したように思われる。それは米国にとってより望ましい勢力均衡をもたらすであろう。
(2) しかし、Biden政権のインド太平洋戦略は現在のところ、その中心にぽっかりと穴が開いてしまっている。つまり、東南アジアに対する具体的かつ真剣な関与の方針が欠落しているのである。Bidenが大統領に就任してから9ヵ月、ホワイトハウスの声明や公式発表を振り返ってみると、Bidenは東南アジアの国の首脳について言及したことはなかったし、米国のASEAN大使やブルネイ、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムなどの大使もこの時点で空席のままである。
(3) 米国は最近、東南アジアへの関わりを深めようとしている。8月にはBlinken国務長官が5日連続でASEANの外相らとオンラインでの会談を実施した。しかし、対面を重視する国々との関係を深めるのに、オンラインでの会談では限界がある。2021年の夏にはAustin国防長官とHarris副大統領がベトナムとシンガポールを訪問し、歓迎されたが、彼らが送った意図は一貫していなかった。タイやインドネシア、マレーシアが、自分たちが無視されたと感じるのも無理はないことである。
(4) 中国を念頭に置いた米国との軍事協力に関して、東南アジア諸国の間では温度差がある。たとえばベトナムはそれに対して慎重である一方、シンガポールやフィリピンはある程度熱心である。それを承知で米国は、中国との安全保障上の競合というレンズを通して東南アジアを見ているのだという意図を送ったのである。しかし、安全保障領域においてもBiden政権の取り組みは十分ではない。5月の予算文書によれば、インド太平洋全域に対する軍事支出は、中東へは54億6000万ドルであるのに対し、わずか1億7000万ドルにすぎなかった
(5) こうした状況に加えて、米国は東南アジアとの貿易関係を深めることについてもあまりうまくいっていない。政府関係者の間の意見の相違によって米国主導のデジタル貿易協定の提案は遅れている。実際には、東南アジアとの経済的関係について米国が中国に大きく遅れをとっているということはないのだが、米国には、中国のようなわかりやすい明快な経済外交が欠落しているのである。先日G7が打ち出したBuild Back Better World(B3W)は、それを前進させる試みになるかもしれない。
(6) 中国と米国の競合は世界的なものであるが、東南アジアは常にその中心に位置している。QUADやNATO、G7、AUKUSが貢献できることは多いが、東南アジアへの実際の関与を代替するものではない。もし扱い方を誤れば、それらの動きは東南アジア諸国には外部からの押し付けのように感じられるであろう。
記事参照:America’s doughnut shaped Indo-Pacific strategy

10月19日「AUKUSが非加盟国のニュージーランドに及ぼす影響―ニュージーランド戦略研究教授論説」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, October 19, 2021)

 10月19日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNetは、ニュージーランドのVictoria Universityの戦略研究教授Robert Aysonの “New Zealand and AUKUS: Affected without being included”と題する論説を掲載し、そこでAysonは新たに結成された軍事協力の枠組みであるAUKUSに関して、それが加盟国ではないニュージーランドにも不可避的な影響を及ぼし、同国を大国間競合により近づけるだろうとして、要旨以下のように述べている。
(1) 70年前、ニュージーランドとオーストラリアは、日本に対する寛大な講和と引き換えに米国と同盟を結ぶことになった。この同盟に際し、米国は英国を加えないという決定を下した。しかし2021年、新たに結成されたAUKUSという安全保障枠組みに加えられなかったのはニュージーランドであった。なぜニュージーランドが加えられなかったのか。しばしば言われるのは、その安全保障協定がオーストラリアによる原子力潜水艦の調達を計画するものであり、それがニュージーランドの核不拡散方針に反するためだということである。
(2) それとは別に、より説得力ある説明がいくつかある。第1に、ニュージーランドがそもそも潜水艦を運用する国ではないということである。オーストラリアはこれまで、コリンズ級潜水艦、防空駆逐艦、統合打撃戦闘機、そして今回の原潜と海上での戦闘能力の向上を模索してきたが、ニュージーランドはそうした動きを見せていない。軍事技術的な観点から、AUKUSにとってはニュージーランドを加えるよりも、日本や韓国を加えたほうが意味は大きいだろう。
(3) 第2に、AUKUSによってオーストラリアは米軍との軍事的な統合をより深めることができるだろうが、これは、米国の積極的な同盟国だけに許された地位である。ニュージーランドはファイズアイズのメンバーでもあり、米国と安全保障上の関係がまったくないわけではないが、ANZUSという公式の同盟関係は30年以上休止状態であった。第3に、AUKUSは、とりわけ米国とオーストラリアが、東アジアの海域における中国の膨張への対抗に対する決意を強めたことを示すものである。中国が地域を不安定化していることについてはニュージーランドでも懸念が高まっていたが、それでもしかし、同国は米国主導の中国との対決姿勢からは距離を取りたがっている。
(4) 中国との対決という文脈において、AUKUSの結成は重要な一歩であるが、このことがニュージーランドにとっての懸念の的なっている。1980年代のANZUS危機以降、ニュージーランドにとっての公式の軍事同盟国はオーストラリアだけである。あらゆる場合においてオーストラリアに付き従うわけではないが、しかしオーストラリアの防衛戦略はニュージーランドに大きな影響を及ぼすのである。それゆえ、AUKUSはオーストラリアが原潜を調達するより前に、ニュージーランドを米中間の対立に近づけるものだと言える。オーストラリアの基地には米軍の展開が増し、中国との戦争計画においてより多くのオーストラリアの標的がとりあげられる可能性もある。Scott Morrisonオーストラリア首相は2021年5月、Ardern首相に対し、南シナ海か台湾有事の際、オーストラリアはニュージーランドに、ANZUS条約に基づく協力を期待すると述べている。
(5) AUKUSの結成が発表される一日前、オーストラリアの国防相および外相がワシントンでAUSMIN会議に出席し、その後のテレビインタビューで、Peter Dutton国防相は、台湾有事の際にオーストラリアは米国の方針に従うと述べたのである。その数日後、ニュージーランドのNanaia Mahuta外相は台湾有事の仮定の問題には答えなかったが、自国の伝統的な同盟関係を強調し、ニュージーランドの艦船が東アジアの海域で演習を行っていることを指摘した。その数日後、ニュージーランドの国防軍もまた、同海軍が継続的にアジアの海域で活動してきたことに言及した。
(6) どうすれば伝統的な提携を維持しつつ、自立を保てるだろうか。ニュージーランド政府は、AUKUSを「太平洋」というレンズを通して眺めていると述べているが、そうすることで、その軍事的協力の枠組みによって強まるであろう大国間の対立から距離をとることを望んでいる。Ardern政権はインド太平洋に言及することで、包括性、多国間協調主義、地域協力を強調したが、それがその地域のすべてではない。AUKUSは地域にさまざまな影響を及ぼすであろう。ニュージーランドはAUKUSの参加国ではないが、その影響を受けることになる。
記事参照:New Zealand and AUKUS: Affected without being included

10月19日「QUADの『最も弱い輪』であるインド―米海上安全保障専門家論説」(The Diplomat, October 19, 2021)

 10月19日付のデジタル誌The Diplomatは、Chicago Council on Global Affairs’ Lester Crown CenterでNavy Federal Executive Fellowshipに基づく研究員を務めるChet Leeの“India: The Quad’s Weakest Link”と題する論説を掲載し、そこでLeeは米ロの間で外交的に均衡を取り続けてきたインドが現在QUADの安全保障面での強力さの阻害要因になっているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 日米豪印首脳による対面での最初の会談が実現したことにより、日米豪印4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)がようやく形になったと確信できるようになった。次に検討すべきは、安全保障分野においてQUADがどの程度の貢献を果たせるかということである。この時、インドの存在がQUADの全体的な軍事的有用性を損ねていることがわかる。
(2) インドは1947年の独立以後、非同盟主義を標榜してきたが、それは米国とロシアを共に同じ程度重みのある提携国として関係を構築するという方針につながってきた。インドはそうすることによって戦略的自立を保とうとしてきたのである。この方針の下、インドは米ロ双方と2+2対話を行い、また、インド初の米国製MH-60HRヘリコプターの購入に続いて、ロシアからS-400防空システムを調達するという政策が遂行されたのである。
(3) 鎖全体の強さは最も弱い輪によって決まる、という言い回しがある。QUADにおいてその最も弱い輪は、ロシアから兵器を調達し続けるインドである。今やインドの軍事力は、単体ではかなり強大だと観測されている。インドにおける兵器調達方針は、性能、値段、そしてそれがインド国内の防衛産業にとって利益になるかどうかというものであったが、QUADにおける防衛協力という点を考えたとき、もう1つ重要な要因が考慮されなければならなくなる。すなわちそれは、他のQUADのメンバーが利用する兵器の性能、質である。
(4) 中国との有事の際には、海と空における協力が決定的に重要になるであろう。その協力を成功させるためには、情報を円滑に流す通信網の構築が必要である。たとえば日本とオーストラリアは、米国艦船と状況把握に関する情報を共有できるようなイージス火器管制技術に投資をしてきている。しかしロシアの技術はこのレベルの相互運用性を獲得することはない。インドがロシアの兵器を利用することで、QUAD全体の防衛協力の有効性が損なわれる可能性がある。
(5) それに加えて、インドがロシアとの提携を続けることによって、他のQUADの参加国が運用するであろう兵器の情報にインドが接近できる権限は制限されるであろう。米国による技術供与に関する決定は、省庁間で協議を重ねて最終的に議会の承認を経て下されるものだが、ここで考慮されるのは、その技術供与によって、認められていない技術流出が起きるかもしれないということである。インドはロシア製のS-400システムをまもなく導入するが、そのことは米国からインドへの技術供与に関する議論を停滞させる可能性がある。たとえば、米国はトルコに対してF-35戦闘機の部品を提供していたが、ロシアからS-400を購入するという決定の後、そのプログラムからは除外された。
(6) インドはこれまで米ロの間でうまく均衡を取り続けてきたと言える。しかし、いまやインドは中国を抑止する安全保障枠組みの一員なのであり、そのなかで足を引っ張らないようにするか、これまでどおり米ロの間で均衡を取り続けるのか、選択しなければならない。
記事参照:India: The Quad’s Weakest Link

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) AUKUS: U.S. Navy Nuclear-Powered Forward Presence Key to Australian Nuclear Submarine and China Deterrence
https://www.heritage.org/sites/default/files/2021-10/BG3662.pdf
The Heritage Foundation, October 12, 2021 
By Brent D. Sadler, Senior Fellow for Naval Warfare and Advanced Technology in the Center for National Defense, of the Kathryn and Shelby Cullom Davis Institute for National Security and Foreign Policy, at The Heritage Foundation
 2021年10月12日、米保守系シンクタンクThe Heritage FoundationのBrent D. Sadlerj上席研究員は、同シンクタンクのウエブサイトに" AUKUS: U.S. Navy Nuclear-Powered Forward Presence Key to Australian Nuclear Submarine and China Deterrence "と題する論説を寄稿した。その中でSadlerは、新たに誕生した豪英米による安全保障協定(AUKUS)の目標は、オーストラリアの原子力潜水艦計画の開発であるが、原子力潜水艦の建造・配備などを通じて貢献するオーストラリアのような同盟国は、中国との海洋競争にとって非常に貴重な存在であると指摘した上で、AUKUSが成功するかどうかは、3つの同盟国すべてがこの協定の提携に真剣に取り組み、オーストラリアの原子力潜水艦建造・配備への不可逆的な道筋を迅速に確立するために、一致かつ確固とした対応を取れるかどうかにかかっていると述べている。そしてSadlerは、もしこの安全保障協定がフランス主導の計画の特徴であった高いコストと進捗の遅延という罠に陥ってしまえば、中国のさらなる侵略を抑止する米国とその同盟国の能力をさらに損なう危険があると主張している。

(2) SCHRODINGER’S MILITARY? CHALLENGES FOR CHINA’S MILITARY MODERNIZATION AMBITIONS
https://warontherocks.com/2021/10/schrodingers-military-challenges-for-the-chinas-military-modernization-ambitions/
War on the Rocks, OCTOBER 14, 2021
By Ben Noon, a research assistant at the American Enterprise Institute
Chris Bassler, Ph.D., a senior fellow at the Center for Strategic and Budgetary Assessments
 2021年10月12日、米シンクタンクAmerican Enterprise InstituteのBen Noon研究員補佐とCenter for Strategic and Budgetary Assessments(CSBA)のChris Bassler上席研究員は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" SCHRODINGER’S MILITARY? CHALLENGES FOR CHINA’S MILITARY MODERNIZATION AMBITIONS "と題する論説を寄稿した。その中でNoonとBasslerは、習近平国家主席は中国が今世紀半ばまでに「世界レベルの軍隊」を持つことを望んでいるが、この国は過去20年間、歴史的な軍事的近代化の努力を経てきたものの、人民解放軍(PLA)は地域レベルの軍隊という地位のままであると指摘した上で、「地域支配を達成し、世界に勢力を拡大する」という中国の野心は高まっており、「世界レベルの人民解放軍」という習近平国家主席の夢が現実となるか否かは、統合性を高め、情報化を達成するための人民解放軍の努力に大きく依存していると指摘している。そして両名は、人民解放軍の伝統的な文化や組織内のライバル関係を考慮すると、近い将来においても全体的な統合は奇跡的であり、人民解放軍は今後も限定的な統合軍事作戦を展開していくだろうと述べた上で、中国はますます西太平洋における軍事的敵対国になりつつあり、実際の戦闘によって人民解放軍の近代化目標達成の実際の進捗状況が明らかになるかもしれないと指摘している。

(3) Malabar Joint Naval Exercise – A Viable Deterrent of Quad in the Indo Pacific?
https://www.vifindia.org/article/2021/october/15/malabar-%20joint-naval-exercise-a-viable-deterren-of-qua-%20in-the-indo-pacific
Vivekananda International Foundation (VIF), October 15, 2021  
By Shashank Sharma, Senior Fellow, VIF
 10月15日、インドのシンクタンクVivekananda International Foundation上席研究員 Shashank Sharmaは、同シンクタンクのウエブサイトに“Malabar Joint Naval Exercise – A Viable Deterrent of Quad in the Indo Pacific?”と題する論説を寄稿した。その中で、①マラバール演習は、1992年に米印海軍の2国間演習として開始されたが、長い年月をかけてその領域と複雑さが増し、QUAD諸国の海軍が参加するようになった、②マラバール演習の進化と、インドがますますQUADへ公然と関わりを持つようになっていることは、柔軟な理解と適用を伴い、国益という概念を伴う「戦略的自律性」を選択し、「非同盟」という姿勢からのインドが離脱したことを反映している、③戦略的自律性は、戦略的提携を通じて達成されるのが最善であり、インドのQUADへの関わりは、中国に対する戦略的自律性を高めるものである、④QUAD参加国全てが参加する拡大マラバール演習は、中国を追い詰めようとする悪意のある試みであり、空虚なハッタリであると一部の中国人専門家たちには言われている、⑤インドが米国に依存しないことが予想されるため、QUAD参加国間の協力はせいぜい戦術的なものであり、戦略的な段階には至らないと考えられている、⑥中国の専門家たちは、QUADが同盟やアジア版NATOに正式に発展することは想定していないが、日豪を加えた米国主導のアジア版NATOを除外していない、⑦QUAD参加国が発展させなければならない能力は、友好国との相互運用性を超えた「互換性」である、⑧QUADは軍事同盟に移行しないかもしれないが、中国に対する抑止力となるのは、共同での海洋力(maritime power)であり、これはマラバール演習を通じて最も有効に活用される、といった主張を行っている。