海洋安全保障情報旬報 2021年9月11日-9月20日

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9月15日「スカンジナビア諸国における対ロシア認識の変化を米国は好機と捉えよ―米航空戦略専門家論説」(RAND Blog, September 15, 2021)

 9月15日付の米シンクタンクRAND CorporationのウエブサイトRAND Blogは、同シンクタンク研究助手Jalen Zemanの“No Need to Read Between the Lines: How Clear Shifts in Nordic Strategies Create Opportunities for the United States to Enhance Arctic Security”と題する論説を掲載し、そこでZemanは近年ノルウェー、スウェーデン、フィンランドがロシアに対する脅威認識を深めており、それは米国にとってこの国々との協力を強化し、北極圏における安全を強固にする好機であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ノルウェー、スウェーデン、フィンランドのスカンジナビア半島に位置する3ヵ国(以下、スカンジナビア3国と言う)は、伝統的に米国との強力な関係を維持しつつも、それがロシアを刺激しないように慎重な姿勢を維持してきた。しかし、ロシアによるクリミア併合や北極圏の急速な軍事化を受けて、スカンジナビア3国はロシアが地域の脅威であるという認識を強めてきた。このことは米国がこの国々との関係を深める好機を提供している。
(2) スカンジナビア3国のロシアに対する認識の変化は、それぞれの国家戦略文書や北極戦略文書に明確に現れている。たとえばノルウェーの2017年北極戦略ではロシアの軍事活動に狙いを定めてはいなかったが、2020年版でははっきりと「ロシアの軍備増強と軍の近代化は、ノルウェーおよび同盟諸国の安全保障に差し迫った問題である」と述べている。スウェーデンについても、北極戦略の2011年版と2020年版を見比べると、後者はロシアとの関係は「悪化」していると指摘している。フィンランドの2020年外交安全保障政策文書や2021年北極戦略文書では、ロシアがヨーロッパ全体の安全を脅かしていると述べられている。
(3) こうした対ロシア認識が浸透することと並行して、スカンジナビア3国は米国主導の安全保障協力体制の構築に熱心になっている。上述したノルウェーの2017年文書では、安全保障の文脈において米国が言及されることはなかったが、2020年版では米国は「ノルウェーの最も緊密な同盟国」とされている。スウェーデンとフィンランドの安全保障戦略や北極戦略文書でも同様の変化が見られた。スカンジナビア3国にとって、安全保障をめぐって米国との関係強化の重要性は間違いなく高まっている。
(4) 以上の傾向は、米国にとって、北極圏周辺の安全保障上の協力を深め、それによって米国の安全保障の目標を推進する好機である。米国とスカンジナビア3国との協力関係は、2018年のトライデント・ジャンクチャー演習や2022年実施予定のコールド・レスポンス演習の実施に見られるように近年拡大しつつある。この協力関係がさらに拡大し、スカンジナビア諸国の北極圏に関する専門知識や基幹施設を、米国その他NATO諸国の行動能力と統合することによって、北極圏の安全はより強固になるであろう。また米国は、災害対応、気候変動、環境問題など非軍事的分野に積極的に関わっていくことで、スカンジナビア3国との協力をさらに深めることができるであろう。
記事参照:No Need to Read Between the Lines: How Clear Shifts in Nordic Strategies Create Opportunities for the United States to Enhance Arctic Security

9月16日「AUKUSは中身のある枠組みか、それともただの挑発か―英専門家論説」(Chatham House, September 16, 2021)

 9月16日付の英the Royal Institute of International Affairs(通称Chatham House)のウエブサイトは、“Is the AUKUS alliance meaningful or merely provocation?”と題する論説を掲載し、そこで、、最近発表された英米豪3ヵ国の軍事協力の新たな枠組みAUKUSについて、Chatham house所属の複数の研究員が様々な分野においてそれが持つ意義について論じた。要旨は以下のとおりである。
(1) 国際安全保障部門副部門長のBeyza Unalは、技術とサイバーに関する脅威について述べている。AUKUSの目的のひとつは、海底の光ファイバー通信ケーブルの保護である。西側諸国はそれを軍民両用で利用しているが、ロシアと中国はサイバー技術と潜水艦技術を用いてそれに侵入することができる。海底ケーブルの保護は、国家およびNATOの安全保障にとって重要な問題である。量子通信技術は新たなタイプの暗号化を可能にするし、人工知能や機械学習はサイバー攻撃を検知することができる。そのため、量子技術と人工知能、サイバー分野の横断的な活用がきわめて重要になってくる。
(2) アジア太平洋部門の準研究員Kerry Brownは、英国のグローバルな役割と中国について述べている。英国にとってAUKUSは、ブレクジット後の現実を形成して、安全保障上の実効性ある役割を創出する機会である。AUKUSの合意は、潜水艦をめぐるオーストラリアの取引ゆえにフランスを苛立たせた。それはまた、英国の外交・安全保障政策が米国政府によって決定づけられているという現実を反映するものであり、それは英国にとっての政治的代償になりうる。
(3) 中国にとってAUKUSの合意は、近年友好国を失い続けている傾向の延長として、外交的な失敗であると言えよう。ただしAUKUSの存在は、中国がこれからも地域において台頭し続ける大国である現実を変えるものではない。重要なことは、これが何を果たしうるのか、中国を抑止できるのだろうかという点である。少なくとも中国は、AUKUSを強さの象徴としてではなく、むしろ米国の覇権的な力の弱体化を示していると理解していよう。
(4) 国際安全保障部門長のPatricia Lewisは、原子力潜水艦と核不拡散問題について述べている。AUKUSは、いくつかの考慮が組み合わさって合意に至った。1つは、米国が中国のインド太平洋で軍事力、特に海軍力と経済力にものを言わせ始めていることに対抗するため、意思と能力を持つ提携国を模索しているということ、第2に、オーストラリアが思い切った決定を必要とする潜水艦計画の立案に漕ぎ着けることができたということである。オーストラリアの潜水艦建造計画はこれまでフランスとともに進められてきたが、大幅な遅れと経費超過のために代案が模索されていた。AUKUSはオーストラリアの原子力潜水艦建造計画を含んでいるが、多くの国で禁止されている核物質を必要とするという意味で、政治的な危険を伴う。
(5) 英国や米国は、原潜の推進用に核兵器に利用可能な濃縮度93~97%の高濃縮ウランを利用し、フランスや中国などは濃縮度20%未満の低濃縮ウランを利用している。どちらにせよ、艦船の推進用に用いられるウランは兵器用ではなく軍事用ということで、兵器用と同様の保障措置の対象とはならない。原潜の保有は核拡散の可能性を伴うものである。それゆえオーストラリアは、自発的に国際原子力機関の査察を受けるなどの保障措置について交渉する必要があるかもしれない。原潜完成までにはかなりの時間がかかるため、交渉を行う時間的余裕は十分にある。加えてオーストラリアは、ブラジルなど原潜開発を進めている国とともに、すべての軍事用原子炉用燃料に関する国際的な検証基準の設定などについて検討することで、核拡散の懸念を打ち消すよう試みるべきかもしれない。
(6) アジア太平洋部門の上級研究員であるYu Jieは、中国の認識と台湾海峡について述べている。AUKUSにおける最も目立つ要素は、ハイテク分野の軍事的協力の促進であり、それは中国の軍の近代化を抑止し、14度目の5ヵ年計画に対抗するためのものである。もしうまくいけば、中国が空母に搭載する最先端技術獲得を妨害できるであろう。問題は、今後AUKUSにおいて日本がどう役割を果たしていくのか、それに参加するのかということで、それはあいまいである。もう1つ重要なことは、中国がAUKUSを、台湾海峡の軍事的事態拡大に備えた挑発行為だと認識していることである。中国は軍事的な統合よりも、より台湾を惹きつけるような方策を編みだす必要があろう。最近の習近平の演説から判断すると、彼は台湾再統一の説明を定義し直そうといているようである。
記事参照:Is the AUKUS alliance meaningful or merely provocation?

9月16日「太平洋で情報資料と情報を共有する―オーストラリア専門家論説」(The Strategist, September 16, 2021)

 9月16日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、Australian National UniversityのNational Security College上級研究員David Brewsterの“Sharing information and intelligence in the Pacific”と題する論説を掲載し、David BrewsterはPacific Fusion Centreが現状では公開された海洋情報のみを取り扱っており、運用情報や犯罪や密輸などに関する秘密情報を共有し、戦略的価値のある情報を作成配布する機関となってはいないと指摘した上で、同Centreがそのような機関になることの有効性は他地域でも認められており、その方向で組織が改善されていくべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) The Pacific Fusion Centre: the challenge of sharing information and intelligence in the Pacific(「太平洋情報融合センター:太平洋の情報資料と情報を共有する課題」)というAustralian Strategic Policy Institute (オーストラリア戦略政策研究所)の新しい報告書は、この分野でまだやるべきことが多く残っていることを認識させた。この報告書は、太平洋島嶼国に非伝統的な安全保障問題に関する戦略的評価を提供するために設立されたオーストラリア主催のPFCを検証している。報告書は、Pacific Fusion Centre (以下、PFCと言う)は有効なソフトパワーを所掌する組織であるが太平洋地域は依然として海洋の領域で実用的な情報を作成し、共有するための地域の情報融合センターを必要としている、と結論付けている。
(2) PFCは、太平洋諸島フォーラムが出した2018年の「地域安全保障に関するBoe宣言」に応じて2019年に設立された。その主な任務は、フォーラム加盟国が人間の安全保障、環境安全保障、国境を越える犯罪、サイバーセキュリティに関する高いレベルの国家政策を策定することに役立つ戦略的な情報を提供することである。その戦略的評価は、公開情報と秘密ではない公式データに基づいている。センターは地域の脅威認識、情報作成能力の拡大、加盟国間の情報共有も促進する。PFCは現在Canberraの暫定的な事務所で運営されており、2021年後半にバヌアツに恒久的な事務所を開設する予定である。常任理事には、太平洋諸島の人々が任命されている。これはオーストラリアが支援し、オーストラリアから資金提供を受けている機関であるが、「太平洋主導」と見なされるように注意が払われている。まだ初期の段階であるが、長期的にはPFCは戦略的評価の面で信頼できる情報の発信源となり、地域全体の視点を整え、国家及び地域の政策決定を知らせるのに役立つものとなるであろう。
(3) 潜在的な脅威の範囲に関する政策立案者間の合意形成の促進は、PFCの利点の1つに過ぎない。PFCの設立は有用なソフトパワーの組織として称賛されるべきであるが、実際には(PFCが発信する情報の)戦略的評価はいくつかの点で制限される可能性が高い。第1は、PFC が公開情報のデータに依存している場合である。これは、人間の健康や気候変動などの問題に関する政策指針を提供する際には問題ではないかもしれないが、他の場合、つまり国境を越える犯罪やサイバー犯罪などでは、公開情報データに依存することが評価を大幅に制限する可能性がある。そのことは、いつくかの情報の戦略的評価において空白を残す可能性があり、2国間の情報交換などによって克服する必要がある。
(4) 第2に、政策決定に関するPFCの戦略的評価の有効性は、ごく少数の政府高官にしか配布されないことによっても制限される可能性がある。多くの太平洋島嶼国の統治機構には部署間の連携が欠落しているという特質を考えると、評価の配布を制限することは、政策への影響を制限する可能性がある。これらの懸念は、評価の2層システムを確立することによって部分的に対処することができる。秘密の情報や分析を含む戦略的評価は、配布が限られている可能性がある。これには、適切な通信システムの開発が必要であるが、PFCの評価により多くの潜在的な影響と信頼性を与えるであろう。同時に、公開情報または公式データに基づく評価はより幅広い関係者グループに配布される可能性がある。
(5) 米国などの主要提携国、United Nations Office on Drugs and Crime(国連薬物犯罪事務所)などの国際機関、または他の地域の情報融合センターからのPFCへの情報入手のための正式な取り決めがないことは、PFCの有効性を制限する可能性が高い。これらの提携は、地域が直面する脅威の理解に大きく貢献する可能性がある。また、PFCに関するいくつかの広範な誤解を是正する必要がある。実際には、その役割は名前が示唆するよりもかなり狭い。PFCは、特定の安全保障上の脅威に関する運用情報や実用的な情報を融合して共有している、世界の他地域の海洋情報融合センターとは全く異なる。それらの地域情報融合センターは、違法漁業や武器や薬物の密輸などの犯罪や脅迫に従事する船舶を特定し、関連当局に適切な情報を時宜にかなった提供をするなど、特定の安全保障上の脅威に関する実践的な情報を融合して広めることによって海洋領域の認識を構築している。確かに、いくつかの地域融合センターが設立された東南アジアやインド洋とは異なり、太平洋は依然として単一の海洋領域で実際的な情報を融合し共有するための地域センターを必要としている。
(6) 太平洋には、Forum Fisheries Agencyのように漁業に関する情報や国際的な犯罪などの情報を発信するいくつかの組織がある。しかし、それらは特定の脅威に限定されており、情報を集約し、分析し、安全保障に関係する機関や法執行機関に情報を配布する単一のセンターとはなっていない。海洋領域と国境を越えた脅威分析のための包括的な組織を提供する太平洋のための地域海洋情報センターを設立するいくつかの提案があった。一部の人々はもともとPFCがこの役割を果たすことを提案した。
(7) 運用情報や秘密の情報を共有し、複数の機関や国で実用的な情報を生み出すためには多くの現実的な課題がある。少なくとも、太平洋島嶼国の主権の保護に関する正当な懸念がある。しかし、世界の他の多くの地域で実証されているように、これらの課題は克服できる。太平洋地域の地域的な情報融合センターは、少数の提携国から始める必要があるかもしれないが、地域の脅威環境を包括的に理解するという利点はすべての人に迅速に明らかになるはずである。
記事参照:Sharing information and intelligence in the Pacific

9月17日「AUKUSが東南アジアにとって意味するもの―デジタル誌編集委員論説」(The Diplomat, September 17, 2021)

 9月17日付のデジタル誌The Diplomatは、同誌東南アジア部門編集委員Sebastian Strangioの“What Does the New AUKUS Alliance Mean for Southeast Asia?”と題する論説を掲載し、そこでStrangioは英米豪の新たな軍事的協力の枠組みであるAUKUSが、東南アジアにどのような影響を与えるかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 英米豪の3ヵ国による新たな軍事的提携枠組が発表された。AUKUSである。この合意の中身で最も重要な部分は、オーストラリアが新しく原子力潜水艦艦隊を保有することになるというものである。この合意がアジアにとってもつ意味は、はっきりしないが重大なものになる可能性がある。
(2) AUKUS声明は中国について公式に言及してはいないが、それは明らかに、米国が中国との対決姿勢を強めたことを示している。米国政府が中国との新冷戦を本当に望んでいるかどうか、これまではっきりしなかったが、AUKUS合意は米国がそうした方向に向けて重大な一歩を踏み出したことを意味するとある評論家は述べている。オーストラリアから見れば、この合意はアジアにおいて米国がその軍事的優位を長期的に維持するつもりがあるかを試そうとするものである。オーストラリアの評論家は、オーストラリアが原潜を保有することで、将来的な中国との対決への深い関与が期待されていると指摘する。
(3) この枠組みはまた、東南アジアにとって重要な含意を有する可能性があるが、東南アジア諸国のAUKUSに対する対応は今後あいまいなものであろう。中国の軍事的圧力が高まっている南アジアの国々の中には、AUKUSが中国の冒険主義を抑止するものとして支持する国もあるだろう。AUKUSの発表は、米国がアフガニスタン撤退の後にアジアにおける同盟や提携から離れていくという懸念を、少なくともBiden政権の間は払拭するであろう。一方で新たな軍事協力の枠組みの存在は、中国の行動を抑止するかもしれないが、もし戦争が起きた場合にそれがより破壊的なものになることを確実にするものだという懸念もある。その場合、東南アジアはその最前線になるであろう。
(4) AUKUSの存在は東南アジア諸国にとって不安の種である。すなわちそれは大規模な戦略的競合に東南アジアを巻き込むのではないか、そしてこれまで主張してきたASEANの中心性、そして戦略的な自立が失われてしまうのではないかという不安である。冷戦終結以後、相対的に安定した戦略的環境のなかで、ASEANはアジア外交における中心的な役割を担うことができた。しかしより対立が激化する現状において、ASEANがその中心性を維持できるかどうかは不明瞭である。インドネシアシンクタンクCentre for Strategic and International Studies – IndonesiaのEvan Laksmanaは、AUKUSがインドネシアを「戦略的な傍観者」にしてしまうのではないかと懸念を示したが、それは他の東南アジア諸国が同じように抱える不安である。
(5) Laksmanaによれば、インドネシアが公的にAUKUSに与するということはありそうにない。この意味において、AUKUSは東南アジアの姿勢に対する米国の不満の表明と理解することもできる。すなわち米国にしてみれば、東南アジア諸国は中国への対抗においてあまりに消極的なのである。ただしAUKUSは、米国による東南アジアへの関与が軍事的なものに偏りすぎていたことを再認識させるかもしれない。いずれにせよ、米国と東南アジア諸国は、中国がつきつける脅威認識について根本的に異なっている。後者は地域における中国の覇権には懸念を持っているが、民主主義か権威主義かという二項対立的な米国の見方には関心を持っていないのである。
(6) AUKUSに対する中国の対応は分かり易いものであった。16日、中国外交部報道官は、AUKUSを時代遅れで偏狭な地政学的認識を反映したものだと徹底的に非難した。また中国は、17日に環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(以下、CPTPPと言う)への加盟手続きを取ったが、それは地域において米国が持っていない利点を活用するものである。東南アジアとアジア太平洋における中国の重要性が大きいことを、この動きは示すものである。中国のCPTPPへの加盟は簡単にはいかないだろうが、これは、米国がアジア太平洋の貿易協定において部外者であることを認識させるものであった。
記事参照:What Does the New AUKUS Alliance Mean for Southeast Asia?

9月17日「EUのインド太平洋戦略―インド専門家論説」(Observer Research Foundation ,SEP 17 2021)

 9月17日付のインドシンクタンクObserver Research Foundation(ORF)のウエブサイトは、同所戦略研究プログラムの準研究員Premesha Sahaの” What does an EU Indo-Pacific Strategy entail?” と題する論説を掲載し、ここでSahaはEUの発表したインド太平洋戦略は、インド太平洋地域の国々がさまざまな分野でEUと関わるための十分な機会を提示しているので、この地域におけるEUの一定の役割を確保することができるとして、要旨以下のように述べている。
(1) European Union(以下、EUと言う)は、「インド太平洋における協力のためのEU戦略(The EU Strategy for Cooperation in the Indo-Pacific)」(以下、インド太平洋戦略と言う)で公表したように、インド太平洋における緊密な関係と強い存在感を推し進めようとしている。European Commission(欧州委員会)のUrsula von der Leyen委員長は、「欧州がより積極的で全世界的な役割を果たすには、次世代の提携国との関係にも焦点を当てる必要がある」と述べた。インド太平洋戦略以外に、EUは中国の一帯一路構想に対抗して、「グローバル・ゲートウェイ(Global Gateway)」の立ち上げを検討している。EUは、インド太平洋地域における既存の関係や提携を発展させ、これらの関係をさらに強固なものにして、最終的にこの地域の政治、経済、安全保障上の地位を確立したいと考えているようだ。
(2) EUは長い間、アジアやインド太平洋地域に経済的関与をしてきたが、この地域での戦略的・政治的な動きは、EUにとって身近なものではなかった。このため、昨年まで、EUはインド太平洋という考え方に関与しておらず、この地域に対する政策の優先順位も決めていなかった。その理由は、EUの一部の加盟国が中国と強い経済関係にあるため、米国との協調を示すことで、中国を遠ざけることになると恐れたのである。近年、ドイツ、フランス、オランダなどのEU加盟国は、インド太平洋という概念を受け入れ始め、自国の安全保障戦略にもインド太平洋を組み込んでいる。したがって、これらのEU加盟国は、ブリュッセルにインド太平洋を戦略的概念として採用するように働きかける原動力となっている。
(3) EUがインド太平洋戦略に関心をもつようになった要因は次のとおりである。
a.ドイツが2020年9月に「インド太平洋地域に関する政策指針」を発表し、その直後にオランダも政策指針を発表した。さらに、南シナ海、台湾海峡、香港、新疆ウイグルなどにおける中国の台頭と攻撃的・拡張主義的な政策への懸念が徐々に高まり、EUと中国の関係の将来に対する懸念が表面化してきた。
b.米国と中国の対立が激化し、それが欧州の利益に悪影響を及ぼす可能性があることを軽視できなくなった。
c.インド太平洋地域が直面している差し迫った問題には、新しい技術のもつリスク、サプライチェーンを回復する力の確保、偽情報への対処などがあり、欧州諸国の安全保障上の利益に影響を与える可能性がある。
(4) 欧州は、主に貿易分野でこの地域と関わっているため、海上交通路の安全性と商船の安全な航行は、EUにとって重要な関心事である。西太平洋及びインド洋における中国の拡大を考えると、EUがインド、日本、オーストラリア、米国といったインド太平洋地域の他の志を同じくする国々と海洋分野で協力しようとするのは当然である。
(5) 多くの国は依然として中国を潜在的な市場と見なしている。調査によればEU加盟国のうち10ヵ国は、インド太平洋戦略の採用を台頭する中国に対処する方法であると同時に、経済的利益を活用する機会と考えている。EU加盟の13ヵ国は、インド太平洋戦略は中国問題を後回しにして経済的利益を追求するための土台に過ぎないと考えている。ベルギー、ブルガリア、ラトビア、ポルトガル、ルーマニアなどの国々は、インド太平洋戦略を少なくとも部分的には反中国の手段と考えている。
(6) 南シナ海、東シナ海、台湾海峡などの地域的な関心の高い場所で台頭する中国の脅威は、欧州の安全と繁栄に直接的な影響を与える可能性があるとインド太平洋戦略の中で言及されている。しかし中国に対しては、多面的な関与が示されており、人権侵害のような問題については、その解決に向けて推し進めるとなっている。
(7) インド太平洋に関して、米国とどのような提携を維持するかについても意見が分かれている。加盟11ヵ国は、インド太平洋戦略は米国の支援を必要とせず、独自に行動すべきと考えている。加盟8ヵ国は、大西洋同盟を管理するための手段と考えている。加盟6ヵ国は、米国と協調し、米国を支援するための明確な努力の一環と捉えている。
(8) インド太平洋戦略の目指すもの
a.インド太平洋地域におけるEUの役割と存在感の拡大を確実にするために、インド太平洋地域の志を同じくする国々と既存の提携を強化し、新たな提携を構築することを重視している。
b.EUは、日本、韓国、シンガポールとの新たなデジタルパートナーシップを模索しており、人工知能などの新技術に関する協力や相互運用性の強化を図っている。
c.オーストラリア、インドネシア、ニュージーランドとの貿易交渉の完了、インドとの貿易交渉の再開と投資交渉の開始を視野に入れている。
d.特に気候変動、テクノロジー、ワクチンに関しては、日米豪印4カ国戦略対話(以下、QUADと言う)の国々と協力する意思がある。QUADに加えて、インドとEUの関係をさらに推し進める方法、特にデジタルパートナーシップについて言及されている。
e.最近、EUがASEANと対話できる地位を得たことで、その関係は最高潮に達している。ASEANの結束を信じ、ASEANデジタルマスタープラン2025を支援するなど、EUとASEANの提携をさらに強化する。
(9) インド太平洋戦略における安全保障の側面
a.共同軍事力が限られており、米国への依存度が高いことから、安全保障課題の軍事的側面はあまり深く掘り下げられていない。フランスとドイツがすでに他のインド太平洋諸国と共同演習を行っているように、航行の自由と海賊対策のための共同演習や寄港については言及されている。
b.インド太平洋における海洋関心領域を設定し、同地域の提携国とともにここに関与する可能性が示唆されている。EUは、インド太平洋における海上交通路の保護と航行の自由を支援するために、海軍の派遣を強化するとともに、インド太平洋の提携国の海洋安全保障を確保する能力を高めるための方法を模索する。
c.インド太平洋の志を同じくする提携国との統合的な情報共有を促進する。EUは、テロ対策、サイバーセキュリティ、海洋安全保障、危機管理を包含する計画「アジアにおけるおよびアジアとの安全保障協力の強化(ESIWA)」の下で、提携国との活動を強化する。
(10) インド太平洋戦略は、EUにとって非常に安全な道を切り開いており、外交的な道をうまく歩むために最大限の注意が払われている。この戦略は、インド太平洋地域の国々がさまざまな分野でEUと関わるための十分な機会を提示している。これにより、この地域におけるEUの一定の役割を確保することができるだろう。しかし、中国の拡張主義的な傾向や、現在進行中の米中関係については、厳しいメッセージが出されていない。
記事参照:What does an EU Indo-Pacific Strategy entail?

9月17日「オーストラリア原子力潜水艦の戦略的象徴性―米専門家論説」(The Diplomat, September 17, 2021)

 9月17日付のデジタル誌The Diplomatは、米対外政策、国際安全保障専門家Jacob Parakilasの“The Strategic Symbolism of Australia’s Nuclear Subs”と題する論説を掲載し、Jacob Parakilasは原子力潜水艦がオーストラリアのような島国に戦略的、戦術的優位はもたらすであろうが、開発には潜水艦そのものだけではなく、基礎となる基幹設備、核燃料搭載施設、使用済み核燃料処理施設、さらには原子力潜水艦そのものの廃棄まで考慮する必要があり、これには多くの時間と経費が必要であると指摘するとともに、契約を破棄したフランスに対する対応を必要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 衝撃的な動きの中で、オーストラリアはコリンズ級潜水艦の代替としてフランスから通常型潜水艦を購入するという900億豪ドルの計画を破棄すると発表した。代わりに、米国、英国と連携し、キャンベラはMinisters Scott 首相、Boris Johnson首相、 Joe Biden大統領のビデオにより共同発表された深化させた3ヵ国防衛合意の最初の段階として原子力潜水艦の開発を決定した。
(2) 第1に、この取り決めの詳細はまだ決定されていないことに留意する必要がある。しかし、オーストラリアがその潜水艦部隊を原子力化することを選択した事実、そして米英がこのオーストラリアの努力に積極的に関わっている事実は、技術的、戦略的両面で大きな進展である。元々の核保有5ヵ国は、全て原子力潜水艦を運用している。
(3) オーストラリアが現実的な候補として米国のバージニア級原子力潜水艦あるいは英国のアスチゥート級原子力潜水艦が考えられる既製品を購入するのか、米英の造船所と提携して独自の原子力潜水艦を開発するのかは明らかではない。既製品購入は米英間で決定的な競争が起こる可能性はあるもののより単純である。新規開発は、ただでさえ長く、複雑な過程のため何年もの期間が追加になるだろう。どちらの場合でも、Morrison政府はアデレードで新潜水艦建造を行う意図である。どの場合でも、新たな取極はフランスの原子力潜水艦を通常型に変えたものを調達するというオーストラリアのこれまでの計画を大きく変更するものである。通常型潜水艦は、原子力潜水艦では制約を受けるかもしれない浅海面や複雑な海洋地形に隠れることができる。そして、過去の演習が示すように通常型潜水艦は恐るべき天敵となることができ、空母打撃群に忍び寄り、空母を照準の十字線に捉えることができる。
(4) 原子力推進は、効果的に無限の航続距離と充電のために露頂することなく水中を行動する能力を与え、原子力潜水艦に戦略的、戦術的優位をもたらす。このことはオーストラリアのように四方に広大な海域が広がる島国にとっては特にそうである。原子力推進はより大型で柔軟な設計を可能にする。近代的な攻撃型原子力潜水艦は魚雷、対地巡航ミサイル、特殊戦隊員、さらにはUAVを搭載可能であり、基地に帰投し、任務に応じた武器の搭載変更などをすることなく、命令があれば各種任務を遂行することができる。これらはどれ1つをとっても安価には求められない。安全に核燃料搭載をするための基礎をなす基幹施設の開発、建造、保守、核燃料再搭載、使用済み核燃料の安全な廃棄、さらに潜水艦そのものの廃棄など、数十年の期間を要し、数十億ドルがかかる。そして、原子力推進に関連する直接的な危険性は、核兵器ほどではないにしても、それらは現実である、無視してはならない。
(5) もちろん、これら全てのことの背後にある要因は中国である。オーストラリアの潜水艦部隊航続距離が長く、長期滞洋力のある部隊を開発し、インド太平洋に戦略的関心はあるものの恒久的に展開できない英国に最新の情報を伝えることは、米国よりも急速に増強される中国海軍によって生じる不均衡に対処し始める方策として意味がある。しかし、北京による脅威が大きく、パリはその誇りを飲み込み、協力するしかないという論理がない限り、キャンベラ、ロンドン、ワシントンは契約を失っただけでなく、新しい防衛協定から除外されたというフランスの怒りをうまくあしらう必要がある。戦時、潜水艦は国家にとって重要な資産であり、戦争を勝利に導くものでさえある。しかし、明確な敵対行為以外では、潜水艦は国家の意思を示すには中途半端な方策である。潜水艦はその戦略的影響を維持するため静粛性と発見されないことに依拠している。潜水艦の強点はその曖昧さから導き出されており、もし発見されればその強点を失うことになる。その特質が看過されがちな潜水艦が今、大きく報道される理由を説明しているだろう。
記事参照:The Strategic Symbolism of Australia’s Nuclear Subs

9月17日「理にかなったオーストラリアの原子力潜水艦の選択-米専門家論説」(19fortyfive, September 17, 2021)

 9月17日付の米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveは、US Naval War College教授James Holmesの“Why Nuclear Submarines for Australia Make Perfect Sense”と題する論説を掲載し、James Holmesはオーストラリアが原子力潜水艦を保有し、米海軍がパースにバージニア級原子力潜水艦を展開することによって米国とその同盟国の第1島嶼線沿いの防衛線の中央部が形成され、「分散海上作戦」、「紛争環境下における沿海域作戦」と行った米海軍、米海兵隊の作戦概念に適合した作戦体制が形成されるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 9月15日、米英豪3ヵ国は新たな同盟AUKUSを発表した。他の事項の中で、AUKUSはオーストラリア海軍が少なくとの8隻からなる原子力潜水艦部隊を2030年代末までに建設するのを支援する。同盟国の指導者達は名指ししていないが、原子力潜水艦の計画は世界最大の海軍を運用する横暴なアジアの大国に対抗することを支援することを意味している。
(2) 南シナ海の縁辺のすぐ外側、言葉を換えればアジアの第1島嶼線の南弧のすぐ外側に位置するオーストラリアにとって原子力潜水艦は全く理にかなっている。対立者は成功の望みを持って対立するために多かれ少なかれ常に闘争の海域にいなければならない。しかし、全ての太平洋の国々と同様に、オーストラリアは距離の暴虐と戦っている。オーストラリア海軍が現有するコリンズ級通常型潜水艦は南シナ海に進出することはできるが、給油と補給のために長期に哨戒海域に留まることはできない。対照的に原子力潜水艦が哨戒海域に留まる期間は食料品と乗組員が必要とする物資の搭載能力によってのみ制約される。米シンクタンクCenter for Strategic and Budgetary Assessmentsの数年前の資産では、通常型潜水艦が南シナ海の哨戒海域に11日間留まることができるのに対し、原子力潜水艦は77日間哨戒を維持することができる。オーストラリア海軍が保有する6隻のコリンズ級潜水艦をもって常続的な哨戒を維持することは困難であり、乗組員を疲弊させることになる。原子力潜水艦はこれを変えることができる。原子力推進は遠く離れた海域での滞洋力を与え、紛争を抑止し、あるいは紛争になった場合には戦い、勝利する能力を強化する。AUKUSは太平洋における大国間対立を予示している。
(3) オーストラリアの原子力潜水艦の騒動は、近い将来において良い意味で当然な情報を不明瞭にしている。Australian Financial Reviewは米国がバージニア級攻撃型原子力潜水艦をオーストラリアのパースから運用を開始するかもしれないと報じている。このことは環南シナ海において同盟国に暫定的に原子力潜水艦能力を与えることになり、米国はオーストラリアの原子力潜水艦が運用されるまでの数年間、米原子力潜水艦をパースから運用するだろう。米軍をオーストラリアに駐留するというのは、筆者と共著者のToshi Yoshiharaがここ10年以上主張している考えである。そのような体制が与える優位点について考えてみてほしい。1つは地理である。米軍の配備は沖縄の南から第1島嶼線沿いにかなりまばらである。Rodrigo Duterteが大統領の時期、フィリピンとの関係は希薄であった。マニラはVFAの破棄を撤回しとは言え、あるいはDuterteが脅すように米比相互防衛条約を破棄するかもしれず、かつてフィリピンがそうであったように主要な軍事的ハブである続けるかどうかは疑問である。
(4) 南シナ海や台湾海峡で争うためには近傍に駐留する部隊なしには困難である。オーストラリアはフィリピンが占めてきた基地の一部を代替することができる。オーストラリアの基地はいくつかの点で優れた基地である。オーストラリアは太平洋とインド洋の結節点に位置している。オーストラリアに展開する海軍部隊は状況に応じて迅速に太平洋とインド洋の間を移動することができる。パースはオーストラリアのインド洋に面しており、同港に展開する原子力潜水艦はより中央部にある海港に展開する原子力潜水艦より西太平洋での行動は厄介である。それでも、パースは南シナ海への出入り口、マラッカ海峡、ロンボック海峡、スンダ海峡、そして南シナ海そのものへの便利な出入りを可能にしている。パースの戦略的位置は東南アジアに集結する際のグアム、あるいは日本(が抱える問題)の改善を意味する。
(5) AUKUS がインド太平洋における同盟体制に地図上で異なる容貌を与えていることは注目に値する。現在の米軍はインド太平洋の端っこ、主に東は日本、グアムから西はバーレーンに駐留している。これは(地図上で)水平方向、主に東西の構えである。キャンベラがバージニア級原子力潜水艦の配備に同意すると仮定すると、同盟国はより垂直方向、南北の構えを得ることになるだろう。これによって第1島嶼線に沿って形成されている同盟国の防衛線の中央部が仕上がることで、完全なものになるだろう。西太平洋における基地の増強は、「分散海上作戦」のような米海軍の作戦概念と「紛争環境下における沿海域作戦」のような米海兵隊の作戦概念に準拠している。米海洋3軍種の指導者は艦隊を安価な小型艦艇、航空機の群れで編成し、これらを地理的条件と組み合わせて敵対者を困難な状況に追い込むよう運用しようとしている。分散する部隊を支援する海軍基地が多ければ多いほど、望ましい。潜水艦部隊を配備することには即効性のある実戦上の利点がある。オーストラリア海軍汚染水幹部体が形を成し始め、米原子力潜水艦がパースを母港とし始めており、AUKUS海軍は同盟国の潜水艦を多国籍潜水艦部隊に糾合すべきである。そうすることで、オーストラリアの乗組員が原子力推進装置をどのように運用するのかを学ぶことを支援し、彼らに米英の潜水艦戦の実施を伝えることができる。
(6) 海軍の指導者は、各潜水艦にどこの国の軍艦旗が翻っているかに関係なく、AUKUSの乗組員を形成することを考慮すべきである。そのことが、敵対勢力に同盟が海洋に自由を擁護し、大国の略奪者を防ぐという共通の利害に責任を負っていることを敵対勢力に示すだろう。責任を負うという考えは海中にも当てはまる。また、そうでなければならない。乗組員の統合のような小さな戦術的、政治的動きが大きな政治的利得、同盟は不可分であるというような利得をもたらすことができる。全員がオーストラリア海軍の原子力潜水艦計画を歓迎している。しかし、速やかに活動を開始しよう。
記事参照:Why Nuclear Submarines for Australia Make Perfect Sense

9月18日「AUKUSは米国の苦し紛れ―環球時報報道」(Global Times, September 18, 2021)

 9月18日付の中国政府系紙環球時報英語版Global Timesの電子版は、“With AUKUS, US picks up stone to smash its own feet”と題する記事を掲載し、中国に対抗するための米日印豪のQUADはほとんど意味なく、新たな3国間同盟である米英豪のAUKUSは役に立つのか疑問だとして、要旨以下のように報じている。
(1) 米国、英国、オーストラリアが突如として、3国間の安全保障提携であるAUKUSの設立を発表した。これは、インド太平洋版の「小さなNATO」を形成するようなものであり、一連の衝撃をもたらしている。フランスが最も強く反応したのは、オーストラリアと結んだ900億豪ドルの潜水艦契約を奪われたからである。この新たな3国間同盟は、アングロサクソンの系統を強調するものであり、他のすべての米国の同盟国はワシントンとの距離と親密さの序列を強く感じている。
(2) つい最近まで、米国は、米日印豪のQUADを真剣に推進していた。しかし、AUKUSと比較すると、4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)は非常に限定的で、ほとんど何の意味もなくなったように思われる。米国は、オーストラリアと原子力潜水艦の技術さえも共有するが、インドはその技術を夢見ている。QUADは、インドを誘い込み、中国との対決に集中させるために、米国がインドのために特別に合わせたメカニズムのようである。ワシントンは、QUADによってインドの力を増大させる準備をしていない。むしろ、インドと中国がお互いに消耗し合うことを望んでいる。
(3) インド太平洋地域では国によって様々な利害関係があり、そのほとんどが中国との緊密な関係を維持している。米国は、長年この地域で多くの壮大な試みを行ってきたが、得られたものはほとんどない。少なくともAUKUSの結成は、米国が反中国の共同戦線にほとんどすべての国を広く巻き込む戦略に自信がないことを明らかにしたのである。加えて、米国は、オーストラリアを「忠実で言いなりになる者」(faithful lapdog)の例として他国に見せたいと考えている。米国の言うことを全て聞けば、米国は原子力潜水艦でさえも与えてくれる。米国はわずか数年の間に、インド太平洋地域で同盟と準同盟の2つの機構であるAUKUSとQUADを発展させている。このような急変は、おそらく地政学的には前例がない。ワシントンは常に自国の利益を最優先し、中国とのゼロサムゲームに全力を尽くし、他国には中国とのゼロサム関係を最大化するよう要求している。しかし、米国自身の中国との利害関係は複雑であり、切るに切れない。また、グローバル化して生きている多くの国が存在する。これらの複雑な利害関係の中で、ワシントン自身が損得勘定で目まぐるしく悩むようになった。
(4) 今回のAUKUSによって、米国は、本当は何をしたいのか?中国に対抗する共同戦線を組織化するというBiden米大統領の目標の実現に役立つだろうか?米国がアフガニスタンからの撤退を一方的に決めたことへの失望感が消えない中、フランスがどれほど怒り、EUがどれほど混乱しているか考えてみるべきである。捨てられたFive Eyesの内の2ヵ国、カナダとニュージーランドはどう感じているだろうか?そして、より疎外感を強めているインドはどうだろうか?
(5) 米国が、もしグローバル化時代の法則に従わず、頑なに歴史を引き戻して冷戦型の対決を始めようとすれば、その報いを受ける運命にある。オーストラリアに原子力潜水艦の技術を提供するという米国の決定は、米国と西側諸国が安全保障の面で最も恩恵を受けてきた核不拡散システムに大きな穴を開けた。ワシントンは行き当たりばったりで強さを誇示するが、現在の米政府の見苦しい動きは、歴史が必ずや恥の柱(pillar of shame)に釘で打ちつけるだろう。
記事参照:With AUKUS, US picks up stone to smash its own feet

9月19日「新たなインド太平洋地域同盟に対するニュージーランドの反応―ノルウェー政治学准教授論説」(The Diplomat, September 19, 2021)

 9月19日付のデジタル誌The Diplomatは、UIT - The Arctic University of Norway の政治学准教授Marc Lanteigneの“AUKUS Without Us: New Zealand’s Responses to a New Indo-Pacific Alliance”と題する論説を掲載し、Marc Lanteigneは英米豪による新たな軍事協力の枠組みであるAUKUSが発表されたことに関して、ニュージーランドが今後それにどう向き合っていくことになるかについて、要旨以下のように述べている。
(1) ここ数十年の間、特に冷戦後に強化されたニュージーランドの対外政策の基本は自主独立にあった。ニュージーランドは歴史的に西側寄りではあったが、過度にそちらに偏るという方針を避けてきた。今回、英米豪3ヵ国による軍事的協力の枠組みが発表されたが、ニュージーランドはそれに招かれていない。
(2) AUKUSの枠組みにニュージーランドが参加しないことは、不安の種であると同時に安心感を提供するものでもある。オーストラリアの原潜建造計画を含むこの枠組みの軍事的な基盤を考慮すれば、ニュージーランドの対外政策とこれを調和させることは難しい。しかし今後しばらくの間、ニュージーランドはこの枠組みに魅力を感じるかもしれない。とりわけこれによってオーストラリアと中国の関係が冷えるようなことがあればそうであろう。
(3) AUKUSにニュージーランドが招かれない理由は主に2つある。ひとつは同国が1980年代以降、反核の姿勢を堅持していることだ。それゆえオーストラリアが原潜艦隊を配備するのはニュージーランドにとっては望ましくない。もうひとつの理由は、米中どちらかを選択せねばならないということに対する懸念がニュージーランドで高まっていることである。ニュージーランドは米中の間で平衡を取ってきたのであり、また、先進国として初めて中国と自由貿易協定を締結したことなど対中経済関係において「4つの初めて」を達成したことに見られるように、中国との貿易における関係は強固である。ニュージーランドのArdern政権は、カナダやオーストラリアが直面しているような中国からの経済的圧力を受けることを望んでいない。ニュージーランドは今後も米国と中国の間で平衡を取り続けるであろう。
(4) ニュージーランドはファイブアイズ協定の加盟国であり、香港や新疆ウイグル自治区における中国の行動を非難し、南シナ海における中国の活動に懸念を表明しているが、それでもニュージーランドは中国に対して強硬姿勢をとるのに慎重である。それゆえファイブアイズ加盟国の中でも、中国に関しては足並みを乱す存在と見なされている。重要な問題は、AUKUSがファイブアイズの将来の活動にどう影響を与えるのかということである。こうした状況において、ニュージーランドは、その対中政策とAUKUSをうまく調和させようとするかもしれないし、非同盟主義のようなあいまいな戦略を追求しようとするかもしれない。
(5) ニュージーランドの平衡感覚は今後、AUKUSの発表の後に、中国政府がオーストラリアとニュージーランドを含むCPPTPへの加盟を申請したことで試されるであろう。ニュージーランドは地域における最大の自由貿易推進論者であり、P4と呼ばれる自由貿易協定の創設メンバーであり、それがCPTPPへと拡大するに至った。中国をCPTPPに加盟させる過程は、もしかしたらAUKUSによって生じるであろう地域的な分断に影響を受ける可能性がある。
(6) AUKUSが具体的にどのような形をとるかには時間がかかるし、オーストラリアが原子力潜水艦を配備するまでにはもっと時間がかかるであろう。しかしその間であっても、AUKUSが、その枠組の外側にいる国々に対して持つ影響は大きいであろう。すでにアジア太平洋における軍事的行動は活発化しているのである。ニュージーランドはAUKUSに加わっていないことから利益を得られるかもしれないが、今後、いかに自立した外交政策を維持できるかどうかは真剣に考えねばならないだろう。
記事参照:AUKUS Without Us: New Zealand’s Responses to a New Indo-Pacific Alliance

9月20日「米越関係、和解から実質的関係へ―シンガポール専門家論説」(The Diplomat, September 20, 2021)

 9月20日付のデジタル誌The Diplomatは、シンガポールのシンクタンクThe ISEAS-Yusof Ishak Institute 上席研究員Le Hong Hiepの“US-Vietnam Relations: From Reconciliation to a Relationship of Substance”と題する論説を掲載し、Le Hong Hiepは元駐越米大使の近刊書を取り上げ、米国とベトナムの関係は今や和解から実質的な関係に発展してきたとして、要旨以下のように述べている。
(1) ベトナム戦争終結から46年を経た今日でも、ワシントンは依然として、かつての敵国間同士の和解を促進するためにハノイと懸命に努力している。こうした絶えることのない努力は、1995年に両国が関係を正常化して以来、米国の対越政策の一部となってきた。2014年から2017年まで駐越米大使を務めたTed Osiusの新刊(2021年10月15日刊)、Nothing Is Impossible: America’s Reconciliation with Vietnam*が2021年10月15日に刊行されたが、そこでは和解に向けた長い道程が生き生きと語られている。戦後最初の駐越米大使を務めた、Pete Petersonの「米国とベトナムの関係において不可能なことは何もない」という声明に触発されたこの本は、正常化以来の米越関係の発展と両国がその過程で克服してきた多くの課題について、これまでで最も詳細かつ洞察力に富んだ説明を提供している。Osiusは、この本を書くのに十分な経歴を有している。Osiusは、最初は正常化直後に在ハノイ米大使館政務官として、そのほぼ20年後には駐越米大使を務めている。
(2) この本は、両国間の和解が双方の複数の利害関係者を巻き込んだ共同作業であったという事実に着目し、1995年以来の米越関係の発展を辿っている。故McCain上院議員、Kerry元国務長官、そして歴代の駐米越大使と駐越米大使などの著名な人物が重要な役割を果たしてきたが、両国の外交、防衛などの政府当局者も、さらにはベトナム市民もその過程で大きな役割を果たしてきた。たとえば、2000年のClinton大統領と2016年のObama大統領の訪越を歓迎するために沿道に並んだ何十万人ものベトナム市民は、米国に対する前向きな彼らの見解と、両国間の悲劇的な過去を乗り越えようとする彼らの意志を示すものであった。米国とベトナムの和解は、Osiusが記述しているように、戦時中の傷を癒す努力から、相互の信頼と尊敬を構築することを目的とした動きに至るまで、様々な手段や形式をとってきた。
(3) この本は、米国とベトナムの和解を主要テーマとしているが、経済、教育、防衛協力構想など、2国間関係における多様な将来志向の動向についても取り上げている。例えば、2000年の米越2国間貿易協定の締結、2016年のThe Fulbright University Vietnamの設立、そして2018年の米空母「カール・ヴィンソン」の訪越は両国の共通の目標を促進し、将来の課題――即ち両国の繁栄と発展の追求、あるいは南シナ海における係争海域への対応という、両国の誓約を示す事例である。この本は全般的に米越関係に関して楽観的な見解を示しているが、著者はまた、両国関係を制約する課題にも言及している。この本では、米国内のベトナム難民共同体の一部がワシントンのハノイとの関係を構築努力に反対していること、そして人権問題に関する両国の相違という2つの特定の問題を論じている。
(4) ベトナムの政治機構を尊重するという米国が表明してきた誓約にもかかわらず、一部のベトナムの指導者は政権交代という漠然とした脅威について神経質になっている。しかし、こうした恐怖は見当違いである。Osiusがこの本で言及しているように、米国は、ベトナムの政治的利益を尊重することを学んできたし、特に中国との激化する戦略的抗争を背景に、ベトナムとの関係強化を強く期待している。一部のベトナムの指導者の懸念とは裏腹に、米国とのより強い関係は、ベトナム共産党の体制を損なうというより、むしろ強化するのに役立つであろう。チリ、ニカラグア及びキューバからイラン、イラクそして北朝鮮までの多くの歴史的事例が示すように、米国とその利益に対して友好的な政権の方が敵対的な政権よりはるかに有益である。しかし、こうした懸念に固執している指導層は少数派のようである。7月のAustin国防長官の訪越と8月のHarris副大統領の訪越、そして9月のベトナムのNguyen Xuan Phuc国家主席の訪米など、米越関係は依然として、かつて駐越米大使としてOsius大使が目撃した当時の強い勢いを維持している。両国は、和解を超えて、より実質的な協力に向けて進展しており、前出の「米国とベトナムの関係において不可能なことは何もない」というPetersonの声明を証明すべく、懸命に努力し続けている。
記事参照:US-Vietnam Relations: From Reconciliation to a Relationship of Substance
備考*:以下を参照されたし
https://www.amazon.com/Nothing-Impossible-Americas-Reconciliation-Vietnam/dp/1978825161

9月20日「米国とインドはアフガニスタンを台無しにしようとしている-インド専門家論説」(Asia Times, SEPTEMBER 20, 2021)

 9月20日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、元インド外交官M K Bhadrakumarの“US, India prepare to play spoiler in Afghanistan”と題する論説を掲載し、ここでBhadrakumarは上海協力機構(SCO)の多くの国がタリバンとの対話を主張する中で唯一インドが賛同していない現状と米国の思惑について、要旨以下のように述べている。
(1) 9月17日にタジキスタンのドゥシャンベで開催された上海協力機構(以下、SCOと言う)の第20回首脳会議では、アフガニスタン情勢が議論の焦点となった。しかし、SCOの8,300語に及ぶドゥシャンベ宣言にアフガニスタンの状況については、170語しか割かれていない。その内容は、以下の3つの点だけであった。
a.アフガニスタンが、テロ、戦争、麻薬のない、独立、中立、統一された、民主的で平和な国家となることを支持する。
b.アフガニスタンには包括的な政府が不可欠と信じる。
c.アフガン難民の帰国を促進するために、国際社会が積極的な努力をすることが重要と思慮する。
(2) SCOは加盟国の総意に基づく決定という立場を採っており、見解に大きな相違があったため、同意を得ることは無理であった。SCOの歴史の中で直面した地域の安定と安全への最大の危機を解決するために、SCOはほとんど何も言えず、貢献もできないという点で、これは後退である。その理由は、唯一インドが反対したからである。
(3) インドのNarendra Modi首相は、アフガニスタンにおける権力の移行が、交渉なしに行われたため、タリバン政府の正当性に疑問を呈した。そして、このような新しい組織の承認に関する決定は、国際社会が一括して、十分に検討した上で行う必要があり、国連が中心的な役割を果たすべきと述べた。
(4)ロシアのVladimir Putin大統領や中国の習近平国家主席の演説と、Modiの演説の違いは鮮明であった。Putinも習近平も、アフガニスタンの資産を凍結させず、支援を強化するよう世界に呼びかけた。タリバン政権に対しては、近隣諸国との平和的な関係を維持し、テロや麻薬密売と闘うことを求めた。そして何よりも重要なのは、アフガニスタンの新政府が約束を果たし、アフガニスタンに安全をもたらすようSCOが刺激すると述べた。さらに習近平は、SCO加盟国はアフガニスタンの円滑な移行を推進するために協力すべきと述べた。
(5)一方ModiはSCOに対して、国連安全保障理事会での米国主導の動きに調和するよう求めたのである。それは、SCOが日米豪印4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)の脇役を演じるということである。QUADは、9月24日にワシントンDC首脳会議を開催するが、アフガニスタンが重要な議題になると予想されている。その会議に先立ち、Biden米大統領がModiと会談する予定である。そしてドゥシャンベ宣言は、ワシントンでは安堵のため息とともに受け止められるだろう。インドは、アフガニスタンに関してSCOが主導的な役割を果たすことを実質的に阻止しており、当然ながら米国が戦略を進めるための時間と空間を作り出している。
(6) タリバンに対する米国の戦略は、米国がアフガン地域に再進出することで、US Department of DefenseとThe Central Intelligence Agencyがロシアや中国と戦略的競争を行い、イランを不安にさせることを目的としている。ワシントンはタリバンに圧力をかけ、米国の承認なしには将来がないことを悟らせようとしている。米国が動かない限り、承認は保留される。米国は、タリバンはワシントンとの「ウィン・ウィン」の関係を築くことを望んでいると見ている。このような背景から、米国はSCOを潜在的な「じゃまもの」と見なしている。
(7) しかし、ドゥシャンベ宣言が最後の言葉ではないし、SCOサミットの傍らで、中国、パキスタン、ロシア、イランの4つの加盟国が独自の道を模索している。この4ヵ国の外務大臣は、ドゥシャンベで個別に会合を開いた。興味深いことに、このグループは共同声明を発表しており、この行動が拙速でないことを示している。共同声明では、アフガニスタンの主権、独立、領土保全の重要性と、「アフガンの、アフガンによる」の原則が強調されている。これは、米国によるアフガニスタンへの一方的な介入を暗黙のうちに拒否するものである。なお、米国のAntony Blinken国務長官は9月13日の週に、ワシントンで行われた議会の公聴会で、米国が計画しているアフガニスタン内にある標的の攻撃を容易にするために、Biden政権がインドと協議していることを明らかにした。
(8) 中国の王毅国務委員兼外交部長は、今回の外相会議で、次の5項目を提案している。
a.米国がその義務を真摯に果たし、責任を取るように促す。
b.アフガニスタンへの接触と指導をすべき。アフガニスタンは、暫定政府を樹立したものの、内政・外交政策が定まっていない。
c.安全保障上のリスクの波及を防ぐ。
d.アフガニスタン支援のため各方面へ働きかける。
e.アフガニスタンの地域協力への参加を援助する。
(9) 明らかに、アフガニスタンでの作戦をめぐる米国とインドの共謀は、地域に不安をもたらしている。パキスタンのImran Khan首相は、タジキスタンのEmomali Rahmon大統領と会談を行い、その後、メディアに対して、アフガニスタンの近隣諸国と協力して、カブールの現体制が国際社会に認められるために何ができるかを検討していると語った。Khanは、タリバン政府を承認することは重要なステップであると発言した。そして、「唯一残された選択肢は、タリバンに包括的な政府、人権、恩赦などの約束や発表を守るよう促すこと。うまくいけば、40年ぶりにアフガニスタンに平和が訪れるかもしれない」。と述べている。
(10) インドはパキスタンと中国の両方に友好的なタリバンに対して心を閉ざしている。戦略的には、米国がアフガニスタンへの介入に復帰して、パキスタンと中国に対抗することがインドの利益になると考えている。このようなインドの姿勢は、ロシアや中国だけでなく、中央アジアの2大国であるウズベキスタンやカザフスタンの考え方にも反している。
(11) ウズベキスタンのShavkat Mirziyoyev大統領は、ドゥシャンベ首脳会談での発言の中で「新しい現実が出現し、新しい人々が権力を握った。これは既成事実である。そうであるからこそ、アフガニスタンの状況に対して協調的に向き合い、新当局との対話を深める必要がある」と述べている。カザフスタンのKassym-Jomart Tokayev大統領は、「SCO諸国がアフガニスタンの新当局と非公式な対話を始めるべきで、対話によってタリバンの真の意図を評価し、地域の安定に対する脅威について共通の理解を形成し、この国との貿易・経済関係を回復することが可能になる」と述べている。
(12) 近隣諸国は、タリバン政府との建設的な関わりに関して、軍事的解決を求めるインドの主張に耳を貸すことはないだろう。インドにとって、これはパキスタンと中国に対する影の戦いであるが、他の地域国家にとっては、国家の安全保障という核心的な利益が絡んでいる。
記事参照:US, India prepare to play spoiler in Afghanistan

9月20日「米国は韓国の原子力潜水艦保有のために支援すべき―米韓専門家論説」(The Diplomat, September 20, 2021)

 9月20日付のデジタル誌The Diplomatは、韓国海軍中佐Jihoon Yuと米State University of New York の助教Erik Frenchの“The US Should Support South Korea’s Nuclear Submarine Aspirations”と題する記事を掲載し、両名は、米国は韓国に対して、オーストラリアにAUKUSによって行うように原子力潜水艦の保有を支援すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米国、英国、オーストラリアは9月の第3週、オーストラリアが原子力攻撃型潜水艦を開発することを可能にするために3ヵ国が協力することを発表した。AUKUSと名付けられたこの新たな協定は、豪英米3ヵ国の関係を大幅に強化し、オーストラリアのインド太平洋地域全域の戦力投射能力を強化し、中国の海軍力増強を相殺するのに役立つ。さらにこれは、インド太平洋の別の重要な同盟国である韓国の原子力潜水艦への切望に対する米国の姿勢を再考する機会を提供する。
(2) ソウルは今まで、原子力潜水艦の購入又は製造のどちらかについて、繰り返し関心を表明してきた。それにもかかわらず、米国は核不拡散についての懸念から支援を実施することに消極的である。東亜日報は、Trump政権が2020年に海軍用原子炉の低濃縮ウランの提供について韓国の嘆願を撥ね付けたと報じている。我々は、米国が韓国の原子力潜水艦計画に対する支援を保留するという決定を再考すべきだと主張する。中国の軍事力が急速に進歩していることを考えると、米国はインド太平洋地域でより有能な同盟国を必要としている。韓国に原子力潜水艦を保有させれば、広いインド太平洋地域で海軍作戦に貢献するための同盟国の能力を強化することができる。
(3) 原子力潜水艦は、通常型潜水艦に比べてコストが高いものの、速度、滞洋力及び航続距離の向上をもたらす。一般的に、原子力潜水艦は通常型動力潜水艦よりも高性能な戦闘システムを搭載が可能で、対潜水艦戦と対水上戦の両方において、効果的な能力を発揮する。米国は、核不拡散に関する懸念の観点から、韓国の原子力潜水艦計画への支援を控えている。一部の専門家は、この能力が韓国の核兵器保有に近づかせるのではないかと懸念する人もいる。しかし、ソウルが米国の支援や承認がなくても原子力潜水艦の開発を真剣に検討していることは注目に値する。もし米国が韓国の原子力潜水艦開発に協力すれば、適切な予防対策が保証しやすくなり、核物質の計量手段が整備される。
(4) さらに、米国が韓国の原子力潜水艦計画を支援することは、同盟国としての米国の信頼性を高めることになる。ソウルでは米国の同盟国としての信頼性に対する不安が高まっているが、潜水艦の技術を韓国と共有するという新たな合意は、米国の強い関与を示す強力な合図として役立ち、ソウルに大きな好感を与えることは間違いない。実際、米国が韓国の原子力潜水艦計画を支援することは、自由で開かれた安全なインド太平洋の海洋という公共財を維持するための米国の取り組みへの支援を強化するようソウルを説得するのに大いに役立つだろう。逆に、オーストラリアに技術を提供した後も、ワシントンがソウルの原子力潜水艦への切望に対する支援の保留を継続する場合、その同盟国の深い関与と信頼性に対する韓国の確信をさらに損なう可能性がある。
(5) もちろん、韓国製原子力潜水艦の実現に向けて米韓が合意するには、相当な外交努力が必要である。現在の米韓123協定(米原子力法第123条に基づく米韓2国間協定で、米韓間の原子力協力の諸条件、期間、性質および範囲が盛り込まれており、核不拡散基準を満たすことが義務づけている:訳者注)は、韓国が原子力潜水艦の原子炉に濃縮ウランを使用できるように改定する必要がある。米国は、他の地域の同盟国、特に日本と協議し、それらが韓国の原子力潜水艦計画に対して持つ可能性のある不安を緩和する必要がある。しかし、全体的に見れば、韓国の原子力潜水艦計画を支援する米国の取り組みは、自己主張が強くて強力な中国に対処する同盟国の能力を強化するものである。
記事参照:The US Should Support South Korea’s Nuclear Submarine Aspirations

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) FRANCE IN THE INDO-PACIFIC: A CREDIBLE STRATEGY IN THE MAKING?
https://www.9dashline.com/article/france-in-the-indo-pacific-a-credible-strategy-in-the-making
9dashline, 14 September 2021
By Antoine Bondaz is a Research Fellow at the Fondation pour la Recherche Stratégique (FRS), as well as an Associate Professor at Sciences Po Paris.
 2021年9月14日、フランスのシンクタンクFondation pour la Recherche Stratégiqueの研究員Antoine Bondazは、欧州を基盤とするインド太平洋関連シンクタンクThe 9dashlineに" FRANCE IN THE INDO-PACIFIC: A CREDIBLE STRATEGY IN THE MAKING? "と題する論説を寄稿した。その中でBondazは、Macronフランス大統領が2021年7月に日本と仏領ポリネシアを訪問する数日前、フランス政府は「インド太平洋戦略(Indo-Pacific Strategy)」を発表した。この66ページに及ぶ文書はフランスが同地域の概念化や独自戦略実施の最前線にいることを確認しているとした上で、この文書は2020年9月にインド太平洋地域担当大使の任命に続き、同地域に対するフランスの誓約をさらに確認するものである。そしてもしフランスが最も優れた戦略を持つヨーロッパの国であるとすれば、おそらく最も誤解されている国でもあると指摘している。その理由の1つとして、Bondazは、ドイツとオランダが2020年末に独自のインド太平洋政策ガイドラインを発表し、かつ、EUも近くこの地域におけるEU協力戦略の第1草稿を発表する予定であることから、こうした流れを維持することが重要であり、2022年前半のEU議長国であるフランスが、欧州の同地域に関する安全保障認識に貢献しつつ、自国利益の最大限を促進するためのまたとない機会を提供するからだと主張している。

(2) COULD MULTINATIONAL PEACEKEEPERS PREVENT WORST-CASE
OUTCOMES IN AFGHANISTAN?
https://warontherocks.com/2021/09/could-multinational-peacekeepers-prevent-worst-case-outcomes-in-afghanistan/
War on the Rocks, SEPTEMBER 17, 2021
By Ryan C. Van Wie is a U.S. Army Infantry officer who has deployed to Afghanistan. He has a master’s degree in public policy from the University of Michigan, Ann Arbor and his research focuses on civil conflict dynamics and military force structure. 
 2021年9月17日、アフガニスタン駐留経験のある米陸軍将校のRyan C. Van Wieは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rock " COULD MULTINATIONAL PEACEKEEPERS PREVENT WORST-CASE OUTCOMES IN AFGHANISTAN? "と題する論説を寄稿した。その中でVan Wieは、UN Security Council(国連安全保障理事会)やアフガニスタン周辺国、そして国際機関は、アフガニスタンの新しいタリバン政権にどのように関与すべきか、そしてこれら関係国・機関の決定は、今後5~10年のアフガニスタンの安定にどのような影響を与えるかという問題に関しては、今日まで多くの分析がタリバン政権奪取の短期的な影響に焦点を当ててきたと指摘した上で、アフガニスタンに長期的な安定をもたらす政策介入についてあまり考慮されてこなかったことは問題だと述べた。その上で、UN Security Councilらは、UN Peace Keeping Operations(国連平和維持活動:以下、PKOと言う)がアフガニスタンの安定に重要な役割を果たすことを分析すべきだと主張し、特に40年に及ぶ長期にわたる紛争の後、アフガニスタンに安定をもたらすためには、創造的かつ積極的な措置が検討されるべきであるし、これまでの何十年にもわたる研究によると、PKOの監視・検証能力は紛争後の不信感を克服し、アフガニスタンに永続的な安定をもたらすのに役立つ可能性があると主張している。

(3) After the Shock: France, America, and the Indo-Pacific
https://pacforum.org/publication/pacnet-41-after-the-shock-france-america-and-the-indo-pacific
PacNet, Pacific Forum, CSIS, SEPTEMBER 20, 2021
By Bruno Tertrais, Deputy Director of the Foundation for Strategic Research, the leading French think tank on international security issues
 9月20日、仏シンクタンクFoundation for Strategic Researchの副所長Bruno Tertraisは、米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNetに、“After the Shock: France, America, and the Indo-Pacific”と題する論説を寄稿し、豪英米によって設立された3国間軍事同盟であるAUKUSとそれに対するフランスの立場について述べている。その中で、①フランスの潜水艦契約は面倒な状態になっていたが、米国がオーストラリア政府と一緒に代替案を策定し、数ヶ月前から交渉を始めていたことは誰も知らないようであった。②AUKUSには、インド太平洋における中国の野望に対抗するために、豪英米の軍事・技術協力を強化したいという願望があり、フランスではしばしば誤って「アングロサクソン」と呼ばれている英語圏(Anglosphere)の台頭を示している。③AUKUSの発表は、米国のアフガニスタン撤退から数週間後のことであり、米国が信頼できないというフランスの伝統的な物語が、正しいことが証明されたことになる。④フランスにとって、潜水艦の契約はより広範な論理の一部であり、インド太平洋におけるフランスの戦略の柱の1つがオーストラリアで、もう1つはインドという2本足で歩いていた。⑤オーストラリアに提供される原子炉は、米国(と英国)が使用している高濃縮ウランを使用することになり、管理された施設から高濃縮ウランを取り出し、正式に原子力推進用として使用することが理論的には可能となるため、例えば、イランも行えるような前例ができることになる。⑥フランスは前を向き、貿易紛争を速やかに解決し、インド太平洋戦略の全面的な見直しとは切り離すべきであり、仏豪間の対話を継続することが重要である。⑦同盟国を信頼し過ぎていたのか?今のところパリは早まった結論を出すべきではない。といった主張を述べている。