海洋安全保障情報旬報 2021年8月11日-8月20日

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8月11日「米台沿岸警備隊による作業部会―台湾ニュースサイト報道」(Focus Taiwan, August 11, 2021)

 8月11日付の台湾国営中央社の英字ニュースサイトFocus Taiwanは、“Taiwan, U.S. discuss maritime cooperation”と題する記事を掲載し、台湾の海巡署とUS Coast Guard(米沿岸警備隊)が開催した作業部会の会議について、要旨以下のように報じている。
(1) 8月11日、台北において、 台湾の海巡署とUS Coast Guard(米沿岸警備隊)は、共同での海洋協力を推進するため、初めての沿岸警備隊作業部会(Coast Guard Working Group:以下、CGWGと言う)の会議を開催した。正式な外交関係がない台湾において、米国の利益を代表している米国在台湾協会の発表によると、このオンライン会議において、台湾海巡署とUS Coast Guardの代表者たちは、捜索救難、災害救助、環境保護の任務に関する共同の海上対応を改善する方法、そして、意思疎通の改善や人材教育交流の継続のための機会について話し合った。報道発表によると、海洋資源の保全、違法・無報告・無規制漁業の削減、共同での海上捜索救難や海上環境対応の行事への参加という共通の目標に向けた取り組みも継続して行われた。
(2) さらに双方は、CGWGを定期的に開催し、緊急の海上法執行と支援に関する問題について調整することで合意した。COVID-19パンデミックの際に動けなくなったクルーズ客への援助、増加する熱帯性暴風雨への対応、海上での違法薬物輸送の阻止など、双方が継続して取り組むことのできる多数の課題が挙げられた。
記事参照:Taiwan, U.S. discuss maritime cooperation

8月12日「5ヵ国防衛取極、今こそ存在感を示すべき時―マレーシア専門家論説」(The Strategist, August 12, 2021)

 8月12日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、The University of Malaya上席講師Rahul MishraとマレーシアThe National Institute of Public Administration研究員Brian M. Wangとの連名による“The Five Power Defence Arrangements: time for the ‘quiet achiever’ to emerge”と題する論説を掲載し、ここで両名はマレーシアも加盟国である5ヵ国防衛取極について、今こそ存在感を示すべき時として、要旨以下のように述べている。
(1) 「5ヵ国防衛取極(The Five Power Defence Arrangements:以下、 FPDAと言う)」加盟国の国防相は6月に会合し、オーストラリア、マレーシア、ニュージーランド、シンガポール及び英国の加盟5ヵ国は、この地域における変化する課題に対応するために、従来型安全保障領域と非従来型安全保障領域の連携を進めていくとの誓約を再確認した。さらに、「FPDA演習構想指令2021(The FPDA Exercise Concept Directive 2021)」と、運用能力と相互運用性を強化する訓練と準備のための戦略及び防衛協力の強化に向けた10年間の道程についても検討した。1971年4月に創設されたFPDAは過去50年間、特に冷戦後の世界では、NATO、現在は消滅した東南アジア条約機構(SEATO)、さらには急速に存在感を高めてきた「4ヵ国安全保障対話(以下、QUADと言う)」などと比較して知名度が低かったが、「静かな成功者(a ‘quiet achiever’)」とも言うべき存在であり続けた。FPDAは、その組織を諮問会議と統合地域防衛システムに限定することで、本質的に「拘束力のない」協議機構であり、たとえばマレーシアやシンガポールに対する武力攻撃が生起した場合でも、軍事介入に向けた加盟国の具体的な誓約を規定しているわけではない。
(2) しかしながら、近年の南シナ海における緊張の高まりを踏まえて、FPDAにとってより顕著な役割を担う時がきているのではないだろうか。中国の前例のない台頭とその強固な領土主張、米中の抗争関係、そして英国のこの地域への復帰といった状況から、FPDAは東南アジア地域とより広範なインド太平洋地域の安定化に貢献し得る有望な安全保障の構築基盤であるように思われる。加盟国の動機、それぞれの対中・対米関係、そしてアジアの歴史はFPDAがQuadよりも優れた選択肢になり得うる3つの理由である。
(3) 英国にとって、欧州に対する誓約は依然として優先事項だが、東南アジアはFPDAの加盟国であることによって担保し得る重要な経済的利点を有する。さらに、英国には、バーレーン、ブルネイ、ディエゴ・ガルシア、ケニア、オマーン、シンガポール、そしてカタールなど「恒久的な展開拠点」が既に存在している。また、中国との貿易戦争、そして国際貿易路に沿った南シナ海の島嶼の軍事化といった状況に直面しているオーストラリアの安全保障上の懸念は、FPDAの継続的な支援を必要としている。中国依存の経済への影響からオーストラリアは自らの対中対抗措置を抑制してきたが、FPDAはオーストラリアにとって自国の経済的利益を損なうことなく、安全保障を強化するための新たな構築基盤になり得るかもしれない。マレーシアとシンガポールの軍事力は最近強化されてきているが、中国とは比較にならない。ニュージーランドも同様の懸念を抱いているが、QUADへの参加には消極的であった。
(4) 加盟国の動機は多様だが、それぞれの対米、対中関係によって大きく影響される。各加盟国は米国との良好な関係を維持しているが、問題は対中関係との均衡である。オーストラリアや英国とは異なり、マレーシア、ニュージーランド及びシンガポールは中国と良好な関係を維持しているが、変化する可能性もある。マレーシアと中国は継続的な領土問題を抱えている。マレーシアとシンガポールは、反中指向の構築基盤に嫌悪感を持っており、インドネシアとは異なり、(インド太平洋に関するASEANの見解表明を例外として)インド太平洋構想にはこれまでのところ公式な支持さえ表明していない。ニュージーランドは、超大国の懲罰的な力の発動を冷戦中に米国との関係において経験しており、中国との間で同じ経験を回避しようとするであろう。かつて、中国と良好な関係を築いてきた英国は新疆における中国の人権侵害に異議を唱え、中国の国際的な主張の高まりに対処するために「中国に対抗する能力の強化」を目指す決意を固めているようである。しかしながら、中国はFPDAの加盟国にとって依然として重要な経済的提携先あり、したがって、情勢は流動的である。
(5) 最後に、アジアの歴史である。アジアは、地域主義や多国間安全保障を目的とするかどうかに関わらず、(FPDAを)制度化するには理想的な場所ではなかった。ASEAN、東アジアサミットのようにほとんどの既存の地域機構は、緩やかに制度化されたもの、APECのようにコンセンサス・ベースで拘束力のないもので、本質的に協議機構である。したがって、Quadは、ワシントンがこの地域からのより広範な支持を引き出そうとしているが、依然として創設参加国以外への拡大が実現していないのは驚くに当たらない。FPDAがその特異な利点を発揮し得るのは、この点、つまりアジアの感性に、そしてその歴史に見合った機構であり、あからさまな反中機構とは見なされていないことにある。さらに、FPDAは米国も中国も加盟していないという付加的な利点もある。新しい安全保障構築基盤の創設に対するASEANの嫌悪感を考えれば、FPDAは大国間抗争に対処するための指針として危険回避を求める、マレーシア、シンガポール以外の東南アジア諸国を招請する機会かもしれない。中国と国境紛争を抱えるインドも、FPDAを新たな魅力的な多国間安全保障機構と見なす可能性がある。発展する良好な英印関係も、さらなる動機付けとなるかもしれない。
(6) 他方、FPDAの制約要因に目を向けることも重要である。強力な制度化と集団的能力誇示の欠如といったFPDAの魅力的な特徴は、他方でFPDAを修正主義勢力に対抗するには効果の無い障壁にしかねない。恐らく、このことは米国が中国に対抗するためのこの地域における唯一の実効的な選択肢として、QUADを推進し続けていく理由であろう。したがって、FPDAはQUADと相互誤解を招かないようにしなければならない。
記事参照:The Five Power Defence Arrangements: time for the ‘quiet achiever’ to emerge

8月12日「英駆逐艦『ディフェンダー』事案:ヨーロッパの戦略の変化―The University of London in Singapore学生論説」(Center for International Maritime Security, AUGUST 12, 2021)

 8月12日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトは、The University of London in Singapore学生Louis Martin-Vézianの“THE HMS DEFENDER INCIDENT: LAWFARE, OPTICS, AND A CHANGING EUROPEAN STRATEGIC DIRECTION”と題する論説を掲載し、Louis Martin-Vézianはクリミア半島沖の海域で実施された英海軍駆逐艦の「航行の自由作戦」は、ヨーロッパが地政学的な場面に復帰したということとヨーロッパが依然米国の提携者であることを示したという点で重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年6月23日の朝、英海軍駆逐艦「ディフェンダー」はウクライナのオデッサに寄港し、ジョージアのバトゥミに向けて出港した。途中、「ディフェンダー」はクリミアの南西端付近で航行の自由作戦(以下、FONOPと言う)を行い、少なくとも3隻の艦艇と数十機の航空機によるロシアの反応を引き起こした。この事案は、ロシア・ウクライナ紛争における最新の再燃である。相手に無害な位置をとることが最も目に見える解決法ではあるものの、問題の核心は国際法と情報戦にある。より深く掘り下げると、運用上の命令から法的地位にまで、英国の行動の背後にあるヨーロッパの戦略的方向の変化が明らかになる。
(2) 今回のクリミア半島沖の事案の前に、「ディフェンダー」はルーマニア、ウクライナ、グルジアの海軍との交換訓練や演習を行うために、オランダのフリゲート艦「エヴァーツェン」と一緒に黒海に入った。この2隻は、英空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群の一部である。オデッサを出港後、「ディフェンダー」はクリミア半島南西端沖の通航制限区域に向かって進んだ。2隻の駆逐艦はクリミア沖の領海の12海里内でロシアによって作られた3つの制限された航行区域の1つに短時間だが侵入した。制限された航行区域に入ると、ロシア沿岸警備隊の艦艇は「ディフェンダー」に無線で退去するよう連絡し、さらに数回の通信の後、ロシア沿岸警備隊の艦艇は、射撃が「ディフェンダー」に命中しないよう砲手に命じた後、英駆逐艦の針路上をわずかに外した上空に3発、発法した。通常、警告射撃は相手が気付くことを意図しているので、相手船の針路の前方に向かって発射される。しかし、理由は不明であるが、この場合ロシア艦艇は「ディフェンダー」から少なくとも1km後方にあり、この発射を「警告射撃」とすることは困難である。
(3) 「ディフェンダー」のクリミア領海通航は、ロシアが航行警報を出した後に行われた。航行警報は2021年4月21日から10月31日まで、3つの海域で外国軍艦への無害通航権を停止するものであった。無害通航権は、国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)第17条から第32条に定められている。UNCLOSは特定の広範な条件に従う場合、任意の船舶が他の国の領海を通過することを可能にする。UNCLOS第25条(3)では、沿岸国はその領海内の特定の水域において一時的に、外国船舶の間に法律上または事実上の差別を設けることなく、通航に関する制限を実施することができる。ロシアが出した航行警報は「外国の軍艦やその他の政府公船」とその他の船舶を差別しているだけでなく、ロシアが沿岸国であると仮定していることに問題がある。この後者の仮定は、国際法の合理的な解釈と国連総会決議A/RES/68/262の両方によって否定される。しかし、もう一つの国際法がクリミアで適用され、ロシアの航行警報はThe Institute for Public International Law at the University of Bonn のStefan Talmon教授が明示したように、武力紛争法と占領法規によって有効となる可能性がある。占領法規は「土地が海を支配する」として、占領者に占領した領海における通航を制限するより広い選択肢を提供し、占領者は占領地域の領海に対する支配権を承継するとしている。したがって、ロシアによるクリミア併合を認めない国家は、ロシアの航行警報を無視する傾向があるだろう。
(4) 「ディフェンダー」事案の後、ロシアの政府筋とメディアはロシアの船舶と航空機が「ディフェンダー」に警告弾を発射し、その前方に爆弾を投下したと発表した。ロシア政府は正式な抗議を提出し、モスクワで英国大使と国防武官を呼び出した。イギリス政府は、ロシア船舶の発砲は英艦「近く」であって、「向けて」ではないとし、発砲はロシアが行ったイギリスとは無関係の射撃訓練として、警告射撃と爆撃の両方を否定した。これはロシアの対立も辞さない説明を骨抜きにし、偶然としての警告射撃として却下する方法である。「ディフェンダー」に乗艦していたBBCの存在は、イギリス政府が過度のロシアの主張を否定することをさらに可能にした。ロシア政府はその後、沿岸警備隊の1隻から撮影されたビデオを公開し、警告射撃を発射した瞬間を示した。しかし、射撃の証拠はすでにBBCによって放送されていたので、ロシア政府の映像は2隻の間にかなりの距離があったことを示す以外にほとんど目的を達成しておらず、それによって事案はロシアによって誇張されているという英国側の説明を補強することになった。クリミア周辺の海域は、ウクライナ紛争の隙間的な部分である。海洋での最も差し迫った問題は、2018年以来、ケルチ海峡が封鎖されたままになっており、FONOPが実施できないことである。FONOPの背後にあるイギリス政府の意図は、ウクライナ紛争がどのように進展していくかによってよりも、ロンドンとワシントンの間の「特別な関係」が持つ戦略的含意を通じての方がよりよく解明される。今回の黒海におけるFONOPの実施と1997年以来初めてインド太平洋に英海軍空母打撃群を派遣することで、イギリス政府は根拠地であるヨーロッパと域外のインド太平洋において地政学的な場面に戻ってきたことを示している。米国にとって、Lloyd Austin国防長官が2021年のIISS主催のFullerton Lectureで述べたように世界的な法に基づく秩序に対する同じ考え方に政治的かつ運用するうえで誓約する提携国を持つことは貴重である。米国の兵力はますます不足しており、US Department of Defenseがヨーロッパからアジアに焦点の多くを移行するにつれて、ヨーロッパで積極的な同盟国に頼ることができることは役に立つだろう。最後に、Brexitをきっかけに追求されている英国の一方的な動きとは別に、このFONOPは行動と言葉の両方で、ヨーロッパの提携国によって支持された。オランダのフリゲート「エヴァーツェン」によるオランダの支持に加えて、ドイツも事案後に国際法違反としてロシアの主張を公式に非難した。
(5) 限られた影響ではあるが、このFONOPは極めて重要であった。冷戦終結以来、強力な敵対者に直面して、その戦略的関心を転換する構想を持ったヨーロッパの国はほとんどなく、代わりに米国の安全保障の傘に頼ってきた。米国の同盟国や提携国に対するTrumpの疎外政策の見通しから多極世界の出現まで、ヨーロッパの地政学への復帰に影響を与える多くの要因が生起している。しかし、このFONOPとインド太平洋へのヨーロッパの新たな関心は、戦略的に孤立したヨーロッパも、共通の経済的利益だけでなく共通の価値観のため、軍事協力と負担分担を厭わない米国にとっての提携国であり続けることを示している。
記事参照:THE HMS DEFENDER INCIDENT: LAWFARE, OPTICS, AND A CHANGING EUROPEAN STRATEGIC DIRECTION

8月12日「英空母打撃群はインド太平洋の期待に応えられているか?―英海洋安全保障専門家論説」Military Balance Blog, IISS, August 12, 2021)

 8月12日付の英シンクタンクThe International Institute for Strategic Studiesの年報Millitary  BalanceのウエブサイトMilitary Balance Blogは、同シンクタンクの海軍・海洋安全保障を専門とする上席研究員Nick Childsの “UK Carrier Strike Group: meeting Indo-Pacific expectations?”と題する論説を掲載し、そこでChildsは2021年5月に始まった英空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群の遠征の背景と、それがいかなる意義を有するかについて、要旨以下のように述べている。
(1) 英海軍の空母打撃群による初の遠征が始まってから2ヵ月ほどが経過したが、それはつつがなく進行中である。それは、英国の「グローバル・ブリテン」構想や、「インド太平洋」志向を反映するものである。しかしこの空母打撃群は、ロンドンやインド太平洋地域における期待に十分に応えられているのだろうか?
(2) この空母打撃群はCSG21と呼ばれ、英国海軍最新鋭の空母2隻のうちの1隻「クイーン・エリザベス」を旗艦とするものである。この遠征は英国のインド太平洋志向の象徴であることを示すと同時に、英国が空母を中心とする軍事力の投射能力を有することを証明するものとして大きな期待がかけられてきた。部隊内でのCOVID-19感染拡大や、駆逐艦の機械トラブルなどはあったが、現在のところ大きな問題はなく作戦は展開している。
(3) CSG21は太平洋に向けて航行中である(9月4日に横須賀に寄港:訳者注)。それまでに、地中海ではNATOの同盟国との演習が実施された。英国のインド太平洋志向に対しては、英国周辺に対する防衛の制約が弱まるのではないかという批判もあり、この演習の実施によってそうした批判が沈静化することはなさそうである。その後、アデン湾においては米海軍(アデン湾では海上自衛隊とCGS21との共同演習が実施されている:訳者注)と、その後さらにインド海軍、マレーシア海軍、シンガポール海軍、タイ海軍などとの演習が実施された。南シナ海も通航したが、これは事前の注目にもかかわらず大過なく行われ、中国がそれに対して簡単な抗議をしただけである。
(4) 英国海軍は、空母だけでなくその補助艦の能力の向上についても投資を続けてきた。今回の空母打撃群の遠征のような、長距離かつ大規模な作戦の経験はなかったため、今回の作戦は英国海軍にとって重要な学びの機会になるであろう。その性能を試験されているもののなかに、クロウズネスト・ヘリコプター搭載早期警戒管制システムや、アスチュート級原子力潜水艦などがある。またこの打撃群には米海軍の駆逐艦とオランダのフリゲートも随伴し、さらに「クイーン・エリザベス」には米国海兵隊のF-35B 戦闘機が搭載されている。遠征の中間段階では、日本や韓国などを含めた地域の主要海軍との共同演習なども予定されている(8月末に沖縄南方海域で日本の陸海空自衛隊との共同訓練が実施された:訳者注)。このように、インド太平洋において外国の部隊と統合的な作戦を実施しうるかも焦点のひとつである。
(5) 日本との防衛関係の強化は、この遠征の革新的要素のひとつである。日英防衛協力は、2012年、当時のDavid Cameron首相と野田佳彦首相との間でその基礎が築かれ、兵器や軍事技術の移転、情報安全保障に関する合意、さらには2+2会合の定期的な実施につながり、さらには2017年、Theresa May首相と安倍晋三首相との間の種々の共同声明につながったのである。日本と英国はミサイルシステムの共同開発にも着手しており、また、日本の自衛隊と英国軍との共同訓練も多く実施されている。2021年初めには、英国海軍と海上自衛隊の間で海洋安全保障に関する新しい合意が結ばれた。日英関係が今後どう発展していくかは、この地域で英国海軍が強力な展開を維持していくために重要であろう。今回の遠征で実施される一連の演習は、英国海軍が遠く離れた地域でどれほどの能力を発揮できるかについて多くの教訓を与えるであろう。
記事参照:UK Carrier Strike Group: meeting Indo-Pacific expectations?

8月12日「中国、アンダマン海における『内部波』予測モデル開発―香港紙報道」(South China Morning Post, 12 Aug, 2021)

Chinese scientists say their model can predict dangerous ‘internal waves’ in Andaman Sea
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3144684/chinese-scientists-say-their-model-can-predict-dangerous
South China Morning Post, 12 Aug, 2021
 8月12日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Chinese scientists say their model can predict dangerous ‘internal waves’ in Andaman Sea”と題する記事を掲載し、中国科学院南海海洋研究所の研究員達がアンダマン海で潜水艦をも沈める可能性のある「内部波」がいつ、どこで発生するかを予測するコンピュータ・モデルを開発したとして、要旨以下のように報じている。
(1) アンダマン海において潜水艦を沈めうる激しい「内部波」の研究を行っている中国チームは、いつ、どこで最悪の「内部波」が起こりそうかを予測するコンピュータ・モデルを開発したと述べている。中国研究者達は、世界最大の「内部波」、あるいは海洋密度の急激な変化が発生したマラッカ海峡西端近傍の特定の海域に焦点を当てている。
(2) 同海域では「内部波」の発生、発展の過程は他のどの海域よりも複雑であると中国科学院南海海洋研究所の研究員達は言う。「内部波」の理解は潜水艦の安全と通信、目標追尾、魚雷攻撃といった戦闘能力改善の助けとなるかもしれない。
(3) 8月9日の『中国科学』に掲載された研究チームの報告書によれば、研究チームはある初期波がアンダマン・ニコバル諸島の南東海岸で発生していることを発見した。激しい流れは東に向かって流れた後、海底の急峻な海丘ドレッドノート堆にぶつかって、跳ね返り、到来波をさらに激しいものにすると研究者達は言う。この激しい流れは、密度の低い海水の深い下降流を形成し、この下降流は時には100m以上にも達し、これはナイアガラの滝の2倍に相当する。この下降流が潜水艦を直撃すれば、潜水艦を潜航深度より深く引き込み、沈没させるかもしれない。この現象は潜水艦にとって危険というだけではない。「内部波の極端な形態である孤立波は海洋環境に大きな影響を与えることができる」と研究チームを率いる海洋学者蔡树群は、査読済文献で述べている。
(4) アンダマン海域では海底地形の複雑さが現実を研究するのを困難にしている。火山と地震によって作り出された多くの海嶺、珊瑚礁、堆がある地勢と海流が問題である。
(5) 中国の研究者達にとって鍵となる疑問は、時には数百kmに及ぶアンダマン海の「内部波」はどこで発生するのかであった。大量のデータを分析した結果、彼らはアンダマン諸島の南端が発生源らしいと結論付け、その理論を検証するためコンピュータ・モデルを開発した。モデルは最大の下降流がアンダマン海中部で発生したと推測した。したがって、1日の潮の干満の間でいつが潜水艦にとって最も安全な時かを予測することができるかもしれない。それによれば1日の内で1回の満潮と干潮が出現するときに「内部波」がかなり小さくなるようである。
(6) 中国の対外交易の半分以上はマラッカ海峡を通って、アンダマン海近くを通っている。海中の擾乱は水上の船舶にあまり影響を与えないが、中国海軍の活動は近年、この海域において拡大してきている。また中国は、アンダマン海の大きな部分を包摂する排他的経済水域を有する隣国インドと、長期にわたる国境紛争、この方面での地政学的対立によって関係が悪化しており、中国にとって最も重要な交易路が遮断されるのではないかと懸念している。中国の海洋学者達は政府からの資金交付が増額されてきたことで何十年にもわたって「内部波」の研究を実施してきたが、アンダマン海が注目されたのはごく最近のことである。利用可能な公開情報によれば、過去数年間、中国は調査船をアンダマン海に派遣し、「内部波」分析のためのデータ収集およびその他の調査のために海中センサーを設置してきた。
記事参照:Chinese scientists say their model can predict dangerous ‘internal waves’ in Andaman Sea

8月12日「中国砕氷船、北極の科学調査実施―環北極メディア報道」(Arctic Today.com, August 12, 2021)

Chinese icebreaker sails to North Pole, explores remote Arctic ridge
https://www.arctictoday.com/chinese-icebreaker-sails-to-north-pole-explores-remote-arctic-ridge/
Arctic Today.com, August 12, 2021
 8月12日付の環北極メディア協力組織ARCTIC TODAYのウエブサイトは、“Chinese icebreaker sails to North Pole, explores remote Arctic ridge”と題する記事を掲載し、中国砕氷船「雪龍2」が北極においてガッケル海嶺の科学調査等を実施したとして、要旨以下のように報じている。
(1) 中国砕氷船「雪龍2」は、3ヶ月半のガッケル海嶺(アイスランドから北極海を通り東シベリアにいたる海嶺:訳者注)の科学調査のため7月12日に出港した。8月4日、「雪龍2」はノヴォシビルスク諸島の北方を航過し、6日にはセヴェルナヤ・ゼムリャ諸島北方に達している。「雪龍2」は極点を航過しており、ガッケル海嶺の岩石、マグマの組成、地形的特徴を調査するため探査を実施している。「雪龍2」に乗船する研究者達は、海、海氷、大気、マイクロプラスチック、海洋の酸性化の状況を監視し、航行の観測、横断的調査、衛星による遠隔探査を実施した。
(2) 中国の国家海洋局局長王宏は、2019年のArctic Circle China Forumにおいて「北極の環境保護は共通の責務であり、中国は環境保護に貢献するだろう」と述べている。王宏はまた、「中国は自らを『近北極国家』と見ており、(北極の)将来の保護と開発に中国は知恵と力を持って積極的に参画するだろう」と強調した。2018年、中国は「北極政策白書」を発表した。白書は共同努力と協調的な取り組みを際立たせると同時に、中国が北極の管理に参画する決意であり、北極における正統な利益と権利を有していると強調している。
記事参照:Chinese icebreaker sails to North Pole, explores remote Arctic ridge

8月12日「南シナ海をめぐる論争に参入するニュージーランド―オーストラリア国際法学者論説」(The New Zealand Herald, August 12, 2021))

 8月12日付のニュージーランド紙The New Zealand Heraldは、Australian National University’s College of Lawの 国際法学教授Donald R. Rothwellの“New Zealand enters South China Sea dispute”と題する論説を掲載し、そこでRothwellはニュージーランドが国連事務総長への文書提出をもって、南シナ海をめぐる論争に参入したとして、要旨以下のように述べている。
(1) 8月初旬、国連のニュージーランド政府代表部は国連事務総長に文書を提出した。ニュージーランドは1982年の国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)を批准する国の1つであり、それが南シナ海問題にどう適用されるか、特に航行の自由について強い関心を持ってきた。先の通牒は、ニュージーランドのそうした関心を反映したものである。その文書が提出されたのは、2021年5月にJacinda Ardernニュージーランド首相とScott Morrisonオーストラリア首相が会談を行い、南シナ海における航行の自由の基本的原則が再確認されたことに対し、中国が公的に反応した後のことである。
(2) ニュージーランドのこの行動は、南シナ海の論争に関わるものである。2019年、マレーシアがUN Commission on the Limits of the Continental Shelf(国連大陸棚限界委員会)に大陸棚の延長申請を行ったが、中国はそれを否定してきた。それに対し、これまで21の国が自国の態度を表明してきたが、主に中国の主張には法的根拠がないというものであった。ニュージーランドもまたそれに続いて、その海域をめぐる領土的主張に関してはいずれにも与しないとしつつ、以下に示すごとくその立場を明確にした。
a. ニュージーランドはUNCLOSの諸条項の正当性を再確認
b. 航行の自由と公海上空の飛行の自由、領海内の無害通航の権利を確認
c. 南シナ海における歴史的権利の主張にはいかなる法的根拠もないことを明確にした
d. UNCLOSのもとでは、大陸国と群島国には同等の権限が与えられるものではない
e. UNCLOSによる島と岩の区別を再確認
f. 2016年の南シナ海裁定がフィリピンと中国双方を拘束するものであると主張
中国への直接の言及はほとんどないが、明らかにこれは中国のこれまでの主張に対抗するものであった。
(3) ニュージーランドが、こうした国際法に関連する問題について率直かつ公式の姿勢を見せることは基本的になかった。6月にUNCLOSを支持するため、国連の「グループ・オブ・フレンズ」に参加した97番目の参加国である。
(4) こうしたことが、貿易の制限などの中国による対抗措置からニュージーランドを守るかどうかは定かではない。中国はニュージーランドの最大の貿易相手国で、輸出入の総額は330億NZドルを超える。両国間の自由貿易協定も今年更新されたばかりである。他方、オーストラリアは、同国がCOVID-19の感染爆発に関する調査を要求してから、外交や通商における対抗措置を受けている。
(5) ニュージーランドは海洋法に関する伝統的な解釈を示しているにすぎず、中国だけを問題にしているわけではない。ただ、数多くの西側の主要な国々は、南シナ海に適用している海洋法を修正しようという中国の単独行動主義的な行動を否定してきており、ニュージーランドもいまやそれに加わったのだと言えよう。
記事参照:New Zealand enters South China Sea dispute

8月13日「インドの南シナ海、西太平洋進出は中国だけが狙いではない―フィリピン専門家論説」(South China Morning Post, 13 Aug, 2021)

 8月13日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、フィリピンのInternational Development and Security Cooperation常勤研究員Don McLain Gillの“India is sailing into the South China Sea with more than China on its mind”と題する論説を掲載し、Don McLain Gillはインドが艦艇4隻を南シナ海、西太平洋に展開する準備を進めているのは中国への対応だけではなく、モディ首相が2014年から掲げる「メイク・イン・インド」政策の成果を誇示し、大国としての地保固めであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) インドは、インドEastern Navy Command隷下の艦艇4隻を南シナ海と西太平洋に派遣する準備を進めていると発表した。それは2ヵ月に及ぶものであり、日米豪印4ヵ国安全保障対話(QUAD)構成国との海軍演習などを行うであろう。この発表はメディアで話題になっている。ただし、インドが東南アジアや太平洋における展開を強化しようという動きは、しばしば言われているのとは異なり、中国との競合だけを動機とするのではない。その動きの意義を理解するには、2つの要因、すなわちインドが自国の国防産業の拡大を模索していることと、より確固とした大国外交の具体化を目指していることに注目すべきであろう。
(2) 2021年2月、インド洋地域の国防大臣級会合においてインドのRajnath Singh国防相は、友好国に対してミサイルを含むさまざまな兵器システムを提供する準備があると強調した。インドは兵器だけでなく造船産業も発展させている。今回、インドが派遣する4隻の艦艇は、ミサイル駆逐艦、ミサイルフリゲート艦、対潜コルベット、ミサイルコルベットであるが、ミサイルフリゲート艦、対潜コルベット、ミサイルコルベットはインドが自国で設計したものである。したがって今回の配備は、「メイク・イン・インディア」政策がいかに順調に進んでいるかを内外に示すものでもある。
(3) インドは、東南アジア諸国との軍事的紐帯の強化を模索してきた。中国の攻勢を背景として東南アジア諸国は防衛能力の強化を模索するようになっており、他方インドは2014年以降にNarendra Modi首相の主導によって「アクト・イースト」政策を通じて、東南アジアに対して安全を提供する役割を強化してきた。この方針の結果、フィリピンやインドネシア、ベトナム、シンガポールなどとの防衛協力に関する協定の締結につながっている。こうした動向を背景として、インドは自国の国防産業を促進しつつある。今回の配備はそのための重要な宣伝になるであろう。
(4) 自国産業の拡大に加えて、インドは大国としての外交政策の展開を目指している。Andrew Heywoodによれば、「大国」としての資格を与えられるためには4つの条件があるという。第1に優れた軍事力、第2に豊かな経済力、第3に世界的な利害を有すること、第4に将来を見据えた外交政策の採用である。この観点からすると、しばしば台頭しつつある大国と見なされるインドは第1と第2の条件を満たしていると言えるが、第3と第4についてはこれからの課題となるであろうが、この文脈に今回の艦艇の展開を位置づけて理解する必要がある。すなわちインドは、今回の展開を通じて、自国の利害が世界的なものであることを、そして、より長期的な外交方針を持っていることを示そうとしているのである。
(5) インドはこれまで穏健な大国としての立場を維持してきた。南シナ海や太平洋では、地域の安定と平和を模索しつつ、地域の主要な行為者、安全の提供者としての役割を担うことを目指してきた。中国を含めて他国を犠牲にした太平洋における戦略的展開の強化を望んでいるわけではなかった。しかしながら、近年、インド太平洋の随所、特に印中間の実効支配線における中国の拡張的、攻撃的な行動を受けて、インドは上記した方針の転換を余儀なくされ、より対決的な姿勢を示すようになってきている。ただし、それはインドが東南アジアや太平洋に影響力を拡大する要因のひとつに過ぎないことも理解しておかねばならない。
記事参照:India is sailing into the South China Sea with more than China on its mind

8月13日「南シナ海に錯綜する軍事的意図―中国南海研究院専門家論説」(Asia Times, Aug13, 2021)

 8月13日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、中国南海研究院の非常勤上席研究員Mark J Valenciaの” Mixed military messaging in South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでValenciaは南シナ海において各国が発している軍事的意図は混沌としており、それは紛争の危険性を高めるものとなっているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 英国、ドイツ、フランス、インドは、艦艇に南シナ海を通航させることを計画している。これは、中国の不法な主張や行動から既存の国際秩序を守るために、集団的かつ協調的な意志と能力を示すためと言われている。ワシントンは、これらの国々が中国封じ込めのために一致団結していると考えていた。もしくは、世界や米国の人々にそう思わせたかったかもしれないが、実際はそれぞれの国にはそれぞれの動機があり、その意図は複雑である。
(2) 各国の意図を分析する前に、これらの目的を整理しておく。一部では、中国の主張に対抗するための「航行の自由作戦」(以下、FONOPと言う)と言われているが、そうではない。FONOPとは、米国が、国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)に矛盾すると考える領海進入の事前許可、西沙諸島を領海基線で囲い込み、低潮高地に対する領土主権の主張などの中国の主張に対して、艦艇や軍用機を用いた作戦上の行動である。北京が九段線で主張していることが何であれ、南シナ海を艦艇が正常に通航することに中国は何の異議も唱えていない。そのような通航が、中国の主張やFONOPに対する挑戦であるかのような言い方は不正確である。
(3) これは、米国が商業航行の自由と中国の防衛力を探り、中国を脅して主張を放棄させようとする軍事的優先事項を混同していることに起因する。米国は、中国による軍事目的の探査及び中国がFONOPに異議を唱えることが商業航行への脅威であると主張している。しかし、軍事演習の際、航行の安全のために一時的に公海を閉鎖する以外、中国は商業的な航行の自由を妨げたことはなく、平時においてもそのようなことをする可能性は低い。
(4) 中国は、米国がUNCLOSの締約国ではないにもかかわらずUNCLOSの規定を独自に解釈して威嚇や強制を行っていると認識し、言動をもって反対している。米国は長年にわたり、この地域内外で各国にFONOPに参加するよう圧力をかけてきたが、うまくいっていない。オーストラリア、日本、フィリピンなど米国の同盟国は、これまでのところ米国の要求を拒否している。それぞれに理由はあるが、共通しているのは、ワシントンが厳しく警告しているにもかかわらず、中国の主張が商業交通や安全保障上の脅威にならないと考えていることである。
(5) 英国はその呼びかけに応えた唯一の国であるが、一方的な一回限りの行動だった。2018年、揚陸艦「アルビオン」は西沙諸島周辺の中国の閉鎖線内でFONOPを行った。おそらくロンドンは、アメリカに配慮したのであろうが、中国の低潮高地の主権主張に異議を唱えることを控えて、深刻な挑発は避けようとした。
(6) 2020年9月には、フランス、ドイツ、英国が共同で、南シナ海での「公海の自由を妨げられない行使の重要性」を強調する口上書を国連に提出した。このような状況を考えると、今回の艦艇の通航と展開は、政治的・戦略的な合図であることに間違いない。
(7) 北京は、南シナ海を「自国の影響力範囲」内と認識している。中国にとって南シナ海は、歴史的に脆弱な海域であり、国家安全保障上の天然の盾にしなければならない。また、中国の報復攻撃用の原子力潜水艦にとっては、聖域となっている。これは先制攻撃に対する保険である。つまり、西側諸国は中国にとっての防衛的な緩衝地帯と聖域を否定しようとしているのである。中国の軍隊が南シナ海や台湾海峡などの近海を支配しており、そこで紛争が起きたときに米国や同盟国が駆けつけるのに間に合わないと言いたいのである。このような背景にあって、どのような軍事的意図が各国から送られているのか。
(8) US Pacific Commandは、オーストラリア、日本、英国の部隊とフィリピン海で合同演習Large Scale Exercise 2021を行った。US Pacific Commandによると、この演習はこの地域における全面的な戦争に対応する準備ができていることを中国に示すものである。米国は、中国とアジアの同盟国や友好国に対して、自らの能力と意志を示し、同盟国らにも同じことをしてもらいたいと期待している。
(9) 英国は、最新鋭の空母「クイーン・エリザベス」とその打撃群を南シナ海に派遣した。中国は「不適切な行為」をしないよう警告し、英国はそれに従った。英国は、中国が領有権を主張する12海里の領海内での航行を明確に避けた。英国の行動は、米国が非合法とする紛争地域に対する中国の主張に異議を唱えないことで、米国の意図を薄めてしまった。さらに英国は、この艦隊が敏感な台湾海峡を航行しないと発表した。もし実行すれば、それは、政治的な挑発行為と中国は考える。UNCLOSの下では、英国にはそうする権利があるが、英国はそうしないことを選んだ。このように、英国の海軍派遣が発信する意図は、混沌としたものであった。
(10) ドイツの意図は、暫定的で複雑なものであった。ドイツは約20年ぶりにフリゲート艦「バイエルン」を派遣し、南シナ海を通過させた。出港の際、ドイツのHeiko Maas外相は「法に基づく国際秩序を維持するために関与し、責任を負うことを目指している」と述べている。Annegret Kramp-Karrenbauer国防相は、「メッセージは明確であり、我々は我々の利益と価値のために旗を掲げている」と宣言し、これが「重要」なのは、「インド太平洋の提携国にとって、海路がもはや開かれておらず、安全ではないという現実があるからだ」と述べている。これは、事実上も意図的にもありえない。ドイツは米国と中国の両方に配慮したのである。「バイエルン」を送ったのは、米国からの圧力があったからで、中国に対しては、いかなる挑発行為や対立行為も行わないことを確約した。航行は伝統的な航路に限定し、台湾海峡には入らないことを約束した。また、米国が主催するフィリピン海での大規模な合同演習には参加しないとした。さらに、中国に配慮して上海への寄港を要請したのである。その寄港は、南シナ海に入る前(日本からの帰路)であったため、ドイツが暗に中国に南シナ海の通過承認を求めているようにも感じられた。しかし中国は、この要請を拒否したので、ドイツの行動は裏目に出て、意図は混乱し、中国を怒らせたかもしれない。
(11) 現在、インドは南シナ海に海軍の機動部隊を派遣しており、その目的は海洋領域の秩序を確保するための作戦上の範囲、平和的な存在感及び友好国との連帯感を強調するためと述べている。インド艦艇は、ベトナム、フィリピン、シンガポール、インドネシアと個別に軍事演習を行い、その後、アメリカ、日本、オーストラリアの艦艇とともに、毎年行われる演習に参加する予定である。しかし、インドが中国に対抗する安全保障体制に参加するかどうかは定かではない。インドは確固たる非同盟国であり、さらに米国が好む民主主義や人権の基準を満たしていない。これらの違いは、より緊密な安全保障関係を築く上で深刻な障害となる。さらに、中国はその経済力と紛争中の国境に対する圧力を利用して、インドがこの安全保障体制に積極的に関与するのを防ぐことができる。インドが越えてはならない一線を越えて、南シナ海での北京の主張に挑戦することはないだろう。
(12) 政治的・戦略的な意図にもかかわらず、中国は数隻の艦艇が時折、通過することに軍事的な威嚇をすることはないだろう。北京は、南シナ海北西部で武器を含む大規模な軍事演習を行うことを発表した。同海域で昨年実施された空母キラー・ミサイルの試射も含まれるのではないかと噂されている。南シナ海で各国が発している軍事的意図は混沌としており、それは紛争の危険性を高めるものとなっている。
記事参照:Mixed military messaging in South China Sea

8月14日「中国の人質外交は戦争の機会を招く-ICU准教授論説」(NIKKEI Asia, August, 14, 2021)

China's reckless hostage diplomacy increases the chances of war
https://asia.nikkei.com/Opinion/China-s-reckless-hostage-diplomacy-increases-the-chances-of-war
NIKKEI Asia, August 14, 2021
By Stephen Nagy is a senior associate professor at the International Christian University in Tokyo
 8月14日付の米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockは、国際基督教大学准教授Stephen Nagyの“China's reckless hostage diplomacy increases the chances of war”と題する論説を掲載し、Stephen Nagyは習近平が中国と中国共産党の頂点に立ったことで、数十年にわたって維持されてきた鄧小平の英智「韜光養晦」が棄却され、最近のカナダ人拘留にも見られるようなあらゆる方向でのより攻撃的な対外政策をもたらしたが、その結果、研究者等は中国の研究者等との意見交換の場が失われ、中国の意思決定過程やものの見方を西側に伝達する者が減り、西側の知識面での中国理解が足りなくなることで、偶発的な衝突の可能性が高まるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 習近平が中国と中国共産党の頂点に登ったことが、あらゆる方向でのより攻撃的な対外政策をもたらし、習近平の指導の下、鄧小平の英智である「韜光養晦」という中国の数十年にわたる外交上の取り組みから離れていった。
(2) カナダにおけるHuawei TechnologiesのMeng Wanzhou(孟晩舟)の問題に関連して、中国が Michael Spavorに下した11年の刑等にみられる他国の法的措置に人質外交で干渉することは中国の長期的な安全保障上の利益にとって逆効果であり、重要なことは中国との偶発的な紛争を招く可能性があることである。
(3) 米国の友好国や同盟国が、米国との2国間関係を遵守しようとするとき、中国の恣意的な拘留、抑圧に自らが脆弱であると理解している。これは日本からシンガポール、韓国から台湾そしてオーストラリアの中国にごく近い隣国も同じである。彼らは北京をその力と非対称な経済力を持って国益を追求するときには、脅迫し、沈黙させ、罰してくるいじめっ子と見ている これは中国に対して、2国間関係が様々な道筋を採ることを可能にする法を基礎とした一連の理解ではなく、恐怖と不安に基づく保守的な取り組みを招くことになる。不幸なことに、人質を取ったり、その他の強制外交の手法を使用したりすることによって中国は学者や研究者が拘束される恐れから調査のために中国を訪問することを控えさせている。これにより、中国は不透明になり、あまり理解されなくなり、最終的には安全性が低下する。これは、中国に関して能力、知識、関心を持つ人達がもはや中国について、その政治、意思決定について通訳あるいは伝達者として活動できないからである。不完全な像は、知識の面から中国と関わり合う西側の能力が損なわれることを意味する。これは偶発的な衝突の可能性を高めるもう1つの要因である。
(4) 西側はもはや、中国の越えてはならない一線、意思決定過程について中国の学者、研究者、政策策定者と対面での意思疎通を行う機会を持っていない。西側は、関係を構築し、公式の過程に情報を伝えることのできる新しい考え方を奨励することを目指す非公式の対話と問題解決の行動を促進する重要なトラック2.0にも関わることができない。台湾の問題、南シナ海での領土係争、中国の国内法である海警法を日本の領海にまで及ぼすことなど紛争を引き起こす現代の諸問題における不安定と増大する摩擦は、世界の輸出入とこの地域の内外のエネルギーの多くが動いている重要な海上交通路に直接に影響を与えるだろう。
(5) 習近平の中国は、統治について愛されるよりも恐れられる方が良いとするマキャベッリ流の考えを体現している。対外政策におけるこの取り組みは、中国の友人を獲得してこなかったし、近隣諸国の懸念を緩和しなかった。実際には、最近の米Pew Research Centerの調査が示すように中国の好感度は過去最低を記録している。友好国を作ったり、他国に積極的な影響力を発揮したりするよりも、習近平の外交はますます多くの国が中国の利益とならないような政策を採るように促している。独自のインド太平洋戦略を策定しつつある、あるいは策定し台湾海峡、南シナ海、東シナ海における平和と安定について明確に表明した国々を見てみると、習近平の攻撃的な政策は極めて中国安全保障問題に起因している。長きにわたる米中対立は今も続いている。この対立は敵対関係に移行する難局もたらす。敵対関係の中では恐怖、脅迫、人権侵害は、北京が中国の台頭と西側の価値に対抗するためにイデオロギー的環境を構築する試みに他国が追随するようにする確立された手法である。信用と相互に利益をもたらす関係の構築に簡単な方法はない。北京は、他国の政策策定者、政治家が中国、その政策、意図について最良の情報を持つことができるよう研究者達に門戸を開いておかなければならない。西側諸国は、中国の外部世界の理解と外部世界の中国の見方を強化するために報いる必要がある。
記事参照:China's reckless hostage diplomacy increases the chances of war

8月14日「米国の海軍、海兵隊、沿岸警備隊は戦争に備えている―米専門家論説」(19fortyfive.com, August 14, 2021)

 8月14日付の米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトは、U.S. Naval War College海洋戦略教授James Holmesの” The U.S. Sea Services (Navy, Marines, Coast Guard) Are Preparing For Great Power War”と題する論説を掲載し、ここでHolmesはLarge Scale Exercise2021終了後、海軍の指導部は海上兵力の作戦遂行能力、作戦の立案と実施の手法を徹底的に検証しなければならないと、要旨以下のように述べている。
(1) 米国の海洋軍種である海軍、海兵隊及び沿岸警備隊は、現在、Large Scale Exercise2021と呼ばれる演習を実施中である。海軍の広報担当者によれば、17の時刻帯にまたがる最大規模の演習とされている。この演習の当面の目的は、これまでほとんど仮説に過ぎなかった構想、すなわち「 Distributed Maritime Operations(分散型海上作戦)」「Littoral Operations in a Contested Environment(紛争環境下での沿海域作戦)」「 Expeditionary Advanced Base Operations(遠征前進基地作戦)」という難解な表題の構想が、ロシア、中国、イランに、様々な手段を持った海上兵力が対応できることを、これら潜在的な敵と米国の同盟国・友好国対して、信じさせようとするものである。
(2) 最終的に米国とその同盟国が制海権を獲得するためには、地理的に分散・集中する必要があるというのが、新しい構想の基本的な考え方である。米艦隊の戦闘力を少数の大型艦に集中させすぎると、空母、巡洋艦、駆逐艦のいずれか1隻が破壊されるだけで、艦隊の戦闘力の大部分が無効になる。しかし、安価な軍艦や軍用機を多く活用し、そこに戦闘力を分散させ、さらに太平洋の島々に小型のミサイル部隊を配置することで、柔軟性のある任務部隊が編制され、1隻または数隻の艦船を失っても勝利に向けて戦い続けることができる。
(3) これらの構想は現実の厳しい試験にかける必要がある。分散型の作戦では、空間的に大きく離れている部隊間の効果的な通信と調整が必要となるので、電磁波を利用した指揮管制網で接続する必要がある。しかし、その指揮管制網はこれらの構想の資産であると同時に、潜在的な弱点となる。たとえば、中国人民解放軍(以下、PLAと言う)は「システム破壊戦」という構想を打ち出し、部隊の連接網を標的に想定しているからである。もしPLAが米軍の指揮管制網を混乱させることができたならば、米軍部隊を孤立した塊に分割し、1つずつ潰していくことができる。米軍が空間的に集結して行動し、電磁波への依存度を下げるならば、PLA空軍やミサイルの集中攻撃を受けることになる。この中国の作戦をいかにして鈍らせ、克服するかは、US Department of Defenseとって緊急の課題である。
(4) プロイセンの戦略家 Carl von Clausewitzは、平時の演習は本物の代わりにはならないと述べたが、演習によって日常的で機械的な訓練に限定されている他の軍隊よりも優位に立つことができると付け加えた。競争相手が平時にどれだけうまく、そしてどれだけ現実的に訓練するかによって、戦時に成功するか失敗するかが決まるのである。そして、演習では表せない状況もあるが、実戦で「驚きと混乱」を与えないように、「将校の判断力、常識、決断力を鍛える」ために演習を計画することは可能だと述べている。
(5)  Bradley Fiske退役米海軍少将は、図上演習の効果を決定する主な要因を2つ挙げた。1つは、科学的手法に基づく自由な思考による演習であることで、議論がぶつかり、総合的に思考が進む道が示される。彼は、海軍の開発に対する帝政ドイツの取り組みに心酔していた。ドイツ海軍の文化には、科学的な思考の習慣が組み込まれていた。Fiskeは、代表的な著作The Navy as a Fighting Machine(1916 年)の中で、ドイツの指導者たちがクリーグスピレ(Kriegspiele)と呼ばれる手の込んだ図上演習を頻繁に行い、主要な対戦相手であるイギリス海軍に対抗するのに適した艦隊を設計したと称賛している。
(6) Fiskeによれば、ドイツ艦隊の設計者たちは数え切れないほどの図上演習を行った。そして図上演習という実験から、ドイツが求める最も適した海軍戦略を決定した。それは、戦術、訓練、教育、陸軍との協力、国家の政策を遂行するために必要な艦隊の規模といった一般的な原則だけでなく、艦隊の構成、さまざまな種類の艦船の相対的な割合、各艦船の特徴についても同様であった。しかしFiskeは、図上演習は非常に有益であるが、図上演習の結果を疑わずに受け入れ、その結果を永久なものと見なしてはならないと忠告している。
(7) もう1つは、文化は指導力の産物であるということである。ドイツ海軍の高官は、謙虚で強い自制心をもって軍の方針を決定した。彼らは、創意工夫に富む部下の自由な議論を容認するだけでなく、それを奨励した。彼らは、粗雑な演習計画を許さなかったが、個人的または組織的な理由で図上演習を自分の好みの結果に偏らせるような権限の使い方もしなかった。それは、偶然に任せることなく、推測で決めることもなく、一人の人間の独断も受け入れなかったのである。それがドイツ海軍の文化となったのである。
(8) 指導力と文化を巧みに組み合わせた海軍は、海事の先進国へ躍り出ることができる。Fiskeの時代のドイツ、日本、そして現在の中国など、海事の新参者が既成勢力を凌駕できるのは、長年の海戦文化に縛られないからである。既成勢力が、慣習に阻まれて時代の変化に対応できないのに対し、新参者とされる国は時代や状況に合わせて新たなスタートを切ることができる。
(9) Fiskeは、図上演習の最大の利点は経済性と迅速性と考えていた。実験用の艦隊を建造するには莫大な費用と時間がかかるのに対し、図上演習は手頃な価格で迅速に、さらに繰り返し行うことができる。この2021年の大規模演習は、新しいアイデアや装備品を認定し、修正、破棄するための試練の場となる。海軍は、「分散型海上作戦」・「紛争環境下での沿海域作戦」・「遠征前進基地作戦」を今回の大規模な演習を前にして、安価で迅速に実施できる図上演習を反復して実施し、その結果を有効に活用していると期待したい。そして、彼らが戦争の環境をうまく表現できることを期待するが、それは疑問の余地がある。だからこそ、この演習終了後、海軍の指導層は、海上兵力の作戦遂行能力、作戦の立案と実施に対する手法を徹底的に検証しなければならない。
記事参照:The U.S. Sea Services (Navy, Marines, Coast Guard) Are Preparing For Great Power War

8月19日「コロンボ安全保障会議の開催が意味するもの―インド専門家論説」

 8月19日付のデジタル誌The Diplomatは、インド・シンクタンクThe Observer Research Foundation のThe Centre for Security, Strategy & Technologyセンター長Dr. Rajeswari (Raji) Pillai Rajagopalanの“Colombo Security Conclave: A New Minilateral for the Indian Ocean?”と題する論説を掲載し、そこでRajagopalanは8月にコロンボ安全保障会議が開催されたことについて言及し、その背景としての中国の攻勢と構成国にとってそれがどのような意義を持つかについて、要旨以下のように述べている。
(1)  2021年8月、コロンボで、コロンボ安全保障会議(The Colombo Security Conclave:以下、CSCと言う)が開催された。インド、スリランカ、モルディブの国家安全保障担当次席補佐官が出席したが、このクラスの官僚による3ヵ国の会合は初めてのことである。この会議にはバングラデシュ、モーリシャス、セーシェルの関係者もオブザーバーとして参加した。2021年の末にはモルディブで国家安全保障担当補佐官級の会合の開催が予定されており、バングラデシュ等3ヵ国も会議の正規メンバーとして参加する予定である。
(2)  CSC開催の理由は、海洋安全保障や人身売買、テロリズム、人道支援・災害救援、さらに海洋の環境問題などに対する懸念が高まっているためである。それに加えて重要な背景は、中国がインド洋における存在感を強化していることである。中国がジブチに軍事基地を設立し、パキスタンのグワダル港やスリランカのハンバントタ港の経営権を手中に収めていることがその例である。また中国は、アンダマン・ニコバル諸島周辺のインドの排他的経済水域内に艦艇を送り込むこともしている。
(3) インド、スリランカ、モルディブの3ヵ国の国家安全保障担当補佐官級会合は2011年に開始されたが、2014年以降休会状態にあった。しかし2020年、インド洋の戦略的環境の激変を背景に再開され、11月に会合が開かれ、この枠組みをCSCと名付けることが決定されたのである。また、CSCとしての再開は、ここ数年間、Modi政権下のインドが推し進めてきたより小さな地域に向かう外交の反映でもある。これまで、たとえば南アジア地域協力連合などの枠組みは十分な進展を見せていない。インドは、中国の攻勢を背景にして、よりこの方針を強く推し進めるようになっているのである。
(4)  CSCの事務局はコロンボに置かれ、今回の会合はスリランカが調整した。海洋安全保障に焦点を当てつつ、3ヵ国はそれぞれの海軍や沿岸警備隊が共同演習を実施し、その行動能力の向上を高めることについても議論した。インドはこの点に関して全力での支援を表明したという。インドはこれまで地域で起きた災害に最も早く対応してきたが、CSCなどの枠組みを通じて、そうした自国の役割をより公的なものへと変容させようとしている。
(5) インドが自国の影響力を高めようとしていることの背景には中国の攻勢があるが、しかしながら、スリランカやバングラデシュら小国にとって、あからさまに反中国と認識されるような枠組みに参加するのはためらわれるかもしれない。たとえばバングラデシュの学者MD Mufassir Rashidは、インド洋におけるより小さな地域を対象とした組織としてのCSCの重要性を認めつつ、「現在の4ヵ国安全保障対話(QUAD)と中国のにらみ合い」に巻き込まれてはならず、インドと中国の対立をそれに持ち込んではならない」と主張した。University of Dhakaの国際関係論教授Lailufar Yasminもまた、バングラデシュは、「どこか特定の国を標的とする同盟や安全保障協定に参加することはない」ことをはっきりさせていると指摘している。
(6) 小国の見方はこうしたものではあるが、インドにとって、セーシェルやモーリシャス、バングラデシュなどを加えてCSCのようなより小さな地域の枠組みを拡大していくことは、インドの戦略的観点において、これらの国々による全体的な協力が重要であることを反映している。インドはこれまで、これらの国々と2国間関係を通じて協力を強化してきたが、こうした枠組みを構築することによって、全体的な団結の強化につながり、より大きな相乗効果が生まれるであろう。
記事参照:Colombo Security Conclave: A New Minilateral for the Indian Ocean?

8月19日「印豪による海軍共同指針文書―インド英字紙報道」(The Indian Express, August 19, 2021)

 8月19日付の印英字日刊紙電子版Indian Expressは、“India, Australia sign document to boost naval ties”と題する記事を掲載し、印海軍と豪海軍が署名した共同ガイダンス文書について、要旨以下のように報じている。
(1) 8月18日、インド海軍とオーストラリア海軍の司令官は、両海軍の様々な段階での交流
を効率化するための「豪印海軍間の関係のための共同指針(Joint Guidance for the Australia-India Navy to Navy Relationship)」文書に署名した。この文書は、両国の首相が合意した「2020年包括的戦略的提携(2020 Comprehensive Strategic Partnership)」に沿ったものであり、地域的・世界的な安全保障上の課題に対する共有された取り組みの確保を目的としている。オーストラリアとインドは、米国と日本とともに中国をいら立たせている4ヵ国安全保障対話(Quadrilateral Security Dialogue:Quad)の構成国である。また、この4ヵ国の海軍は、年内に行われるマラバール海軍演習にも参加する。オーストラリアとの海軍関係の強化は、インドと中国が東部ラダックで15カ月以上にわたる軍事的な睨み合いをしている時に行われている。
(2) インド海軍の声明によると、「共同指針」は、「両海軍が2国間及び多国間で協力する意図を示す、指針として機能する」ものであり、その幅広い範囲は、「相互理解の促進、地域の安全保障のための協力、相互に有益な活動における協調、そして、相互運用性の向上」に焦点を当てている。また、インド洋海軍シンポジウム(IONS)、西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)、環インド洋地域協力連合(IORRA)、そして、拡大ASEAN国防相会議の枠組みに属する専門家作業部会など、「地域的、そして多国間での意見交換の場における緊密な協力」が、この文書の主要な部分に盛り込まれていると言われている。インドとオーストラリアの2国間の防衛関係は長い年月をかけて強化されており、包括的戦略提携、相互兵站支援協定、3国間の海洋安全保障研究集会の実施、そして、オーストラリア海軍のマラバール演習への参加は、「最近のこの関係を強化する上で、両海軍が果たした役割を強調する意義深い画期的な出来事である」とインド海軍は述べている。
(3) インド海軍は8月18日の声明で、インド駆逐艦「ランヴィジャイ」とコルベット「コラ」が、南シナ海でベトナム海軍と2国間共同演習を行ったと発表した。この声明によると、この演習の海洋領域においては、水上戦演習、射撃訓練、ヘリコプターの運用などが行われ、長年にわたる両海軍の定期的な交流により、相互運用性と適応力が強化された。
記事参照:India, Australia sign document to boost naval ties

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) America Still Needs to Rebalance to Asia
https://www.foreignaffairs.com/articles/asia/2021-08-11/america-still-needs-rebalance-asia?utm_medium=newsletters&utm
Foreign Affairs.com, August 11, 2021
By Zack Cooper, a Research Fellow at the American Enterprise Institute and Co-Director of the Alliance for Securing Democracy
Adam P. Liff, Associate Professor of East Asian International Relations at Indiana University’s Hamilton Lugar School of Global & International Studies and a Nonresident Senior Fellow in Foreign Policy at the Brookings Institution
 2021年8月11日、米シンクタンクThe American Enterprise Institute のZack Cooper研究員と米Indiana UniversityのAdam P. Liff准教授は、米シンクタンクThe Brookings Instituteのウエブサイト上に、" America Still Needs to Rebalance to Asia "と題する論説を発表した。その中でCooperとLiffは、この秋でObama政権が「アジアのリバランス」を打ち出してから10年になると話題を切り出し、当時のHillary Clinton国務長官は、今後10年間に米国はイラクとアフガニスタンの紛争から軸足を移し、アジア太平洋地域への投資を強化する必要があると主張し、それに対して当時多くの懐疑的な声が上がったが、その後の歴代の3政権は米国の将来にとってアジアが極めて重要であることを強調してきたものの、実際の米国の政策、予算、外交的関心からしばしば切り離されていると指摘している。そしてCooperとLiffは、幸いなことに、Biden大統領は前任者とは対照的に、多国間主義とアジアでの積極的な指導的役割を誓約しているようだが、政権発足から半年を過ぎた今、歴史が繰り返されるのではないかという懸念が生じており、「America is back」という同盟国や友好国との約束を果たすためにも、Biden政権は過去10年間の教訓を念頭に置いた、前向きで包括的なアジア戦略を策定し実行しなければならない、などと主張している。

(2) Does A Rising China Really Mean A Horrific U.S.-China War? It Doesn’t Have To.
https://www.19fortyfive.com/2021/08/does-a-rising-china-really-mean-a-horrific-u-s-china-war-it-doesnt-have-to/
19fortyfive.com, August 16, 2021
By Andrew Latham, a professor of International Relations at Macalester College specializing in the politics of international conflict and security
 8月16日、Macalester Collegeの国際関係論教授であるAndrew Lathamは、米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトに“Does A Rising China Really Mean A Horrific U.S.-China War? It Doesn’t Have To”と題する論説を寄稿した。その中で、①中国が米国の覇権に対して挑戦する段階に来ているため、戦争が現実のものとなる可能性があるが、それは必然的な結論ではない、②20世紀のドイツの台頭については、歴史の鉄則やトゥキディデスの罠によるものではなく、英国が戦略的に無能だったために戦争が起こった、③英国は、地域的に台頭してきた大国や野心的な世界的大国が、英国に不利益な形でヨーロッパを統合する恐れがある場合に大陸に断固として介入してきたが、1914年に欠けていたのはこの点であった、④英国は、高まるドイツの脅威にどのように対応するかについて、曖昧で不安定なシグナルを送るだけだったため、それが優位に立つための最後の一押しをする時だとドイツ人に思わせた、⑤第一次世界大戦で重要なことは、英国が何世紀にもわたって続けてきたオフショア・バランシングという大戦略を実行できなかったことである、⑥ドイツに対する英国の戦略がもたらした結果から考えれば、米国は中国に対してオフショア・バランシングを採用すべきである、⑦中国が地域秩序をひっくり返そうとする場合には、修正主義的な挑戦者から既存の秩序を守るという米国の決意を明確に示すことが必要である、といった主張を展開している。

(3) MIND THE GAP: HOW CHINA’S CIVILIAN SHIPPING COULD ENABLE A
TAIWAN INVASION
https://warontherocks.com/2021/08/mind-the-gap-how-chinas-civilian-shipping-could-enable-a-taiwan-invasion/
War on the Rocks, AUGUST 16, 2021
By Capt. (ret.) Thomas Shugart, U.S. Navy, is a former submarine warfare officer, an adjunct senior fellow at the Center for a New American Security, and the founder of Archer Strategic Consulting.
 2021年8月16日、米海軍退役大佐でThe Center for a New American Security非常勤上席研究員Thomas Shugartは、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに" MIND THE GAP: HOW CHINA’S CIVILIAN SHIPPING COULD ENABLE A TAIWAN INVASION "と題する論説を発表した。その中でShugartは、ここ数カ月間、「Davidson Window」に関する議論が盛んに行われているが、この構想は、Philip Davidson前US Indo-Pacific Command司令官による最近の論評、すなわち、中国は今後6~10年のうちに台湾に対して軍事行動を起こす可能性があるという言動に基づくものであり、これには「ずさんな誇張」とか「事実認識を誤っている」などと非難する声が上がっていると指摘している。そしてShugartは、確かに、一見すると、中国が台湾海峡を横断する侵攻を成功させるために必要な水陸両用輸送能力を欠いているように見えるため、こうした批判には一定の妥当性があるが、しかし、中国が強襲揚陸艦だけでなく民間の商船隊を攻撃の際の戦力に組み入れることを加味して評価した場合、Davidsonの警告は信ぴょう性を増してくる、などと主張している。