海洋安全保障情報旬報 2021年7月11日-7月20日

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7月13日「海面上昇による海洋権益への影響 ―シンガポール専門家論説」(The Strait Times.com, July 13, 2021)

 7月13日付、シンガポール日刊紙The Strait Times電子版は、National University of SingaporeのCentre for International Law所長でthe United Nations International Law Commission委員等でもあるNilufer Oral博士の” As sea levels rise, what happens to maritime rights?“と題する論説を掲載し、そこでNiluferは現在の世界的感染拡大が収束したならば、ASEANは海面上昇による物理的、経済的、社会的、法的な影響に対処することを最優先すべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 1982年の国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)では、満潮時に水面上にある陸地と水面下にある陸地を区別することで、その陸地が主権主張の対象となるかどうか、海洋権を発生させるかどうかを決定している。海面の上昇は、法的にも地政学的にも意味がある。2019年、The Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)は、世界の温暖化とグリーンランドから南極までの氷床や氷河の融解により、海面上昇が加速するという報告書を発表した。
(2) 海面の上昇がもたらす影響は、膨大で広範囲に及ぶ。例えば、海水が内陸に押し寄せると、飲料や灌漑に必要な淡水源が塩分を帯びるため、ベトナムなどでは広大な農地が危機にさらされる。アジアを中心に約10億人の人々が低地の沿岸地域に住んでいることを考えると、侵食や洪水による領土の喪失により、今後数年間で何億人もの人々が家を離れざるを得なくなる。さらに南太平洋やオセアニア地域のように、海面からわずかしか出ていない低地の沿岸部を持つ小さな島国は、陸地と海の両方を失う危険性が高く、極端な場合には完全に消滅してしまう恐れもある。
(3) モルディブの約1,200ある島々の80%は海面からわずか1メートルの高さにあり、海面上昇に対して非常に脆弱である。そこでモルディブは、首都マーレの隣のフルマレと呼ばれる人工島に、海抜2.1mの高さの新都市を建設した。しかし、多くの開発途上国では、海面上昇を防ぐための人工的な対策に必要な費用を捻出することができない。
(4) 海面が上昇すると、島が住めなくなったり、完全に消滅したりして、既存の海洋区域が変わる可能性がある。最大で431,014平方kmの排他的経済水域を生み出す可能性のある小さな島が、人が住めない「岩」になってしまうと、1,550平方kmの領海しか生み出せなくなる。たとえば、ミクロネシア連邦最南端の島カピンガマランギ島が「岩」に再分類された場合、ミクロネシア連邦は30,000平方海里以上の排他的経済水域を失う。東南アジアでは、インドネシアとフィリピンという大きな群島国があるが、これらの国は、海面上昇によって重要な海洋区域を失う可能性がある。
(5) 気候変動は、主に国連の気候変動枠組条約、京都議定書、パリ協定によって世界レベルで規制されている。温室効果ガスの排出を抑制することが究極の目的であるが、気候変動への対応策も同様に重要である。堤防や防波堤の建設、あるいはマングローブの植林などは、一般的な対応策である。しかし、このような対策はコストがかかり、必ずしもうまくいくとは限らない。そして、明確な答えはないが、気候変動への対応には、海洋区域や権利の法的保全も含まれるのかという興味深い問題がある。国家は、コストのかかる物理的措置を講じなくても、「合法的に」海洋区域を保全することができるのであろうか。
(6) この問題は、気候変動に対する体制では直接扱われていない。UNCLOSは、気候変動が問題になる前に採択されたもので、明確な答えはない。1989年の小国会議で採択されたマーレ宣言以来、南太平洋の島国は気候変動と海面上昇の危険性を伝える重要な発信源となった。彼らは、将来の海面上昇に対して自国の海洋権益を保全する海上境界線の区切りの協定を締結し、自国の海洋区域を法的に保全するための行動を起こしている。
(7) ASEAN諸国は、海面上昇と既存の海洋区域の喪失を含むあらゆる関連する危険性に対して脆弱であるので、この問題を検討することが重要である。2018年にインドネシアが「群島国・島嶼国フォーラム」を設立して重要な一歩を踏み出した。このフォーラムは、各国政府が民間企業、市民団体、学界などと協力して、気候変動関連の取り組みを行うための母体を提供している。The Centre for International LawとThe National University of Singaporeは、海面上昇が国家の海洋権益に与える影響について理解を深めるための会合を開催した。
(8) 現在の世界的感染拡大が収束したならば、ASEANは海面上昇による物理的、経済的、社会的、法的な影響に対処するための解決策を見つけることを最優先すべきである。海面の予測は複雑であるが、最近の研究で明らかになっているのは、すべての国が2015年のパリ協定の目標を2030年までに達成したとしても、海面上昇の加速は続くということである。そこには海洋権益の枠組みや地政学的安定性への影響など、多くの問題が存在している。
記事参照:As sea levels rise, what happens to maritime rights?

7月13日「台湾支援が拡大する意味―オーストラリア・アジア専門家論説」(The Interpreter, July 13, 2021)

 7月13日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、同シンクタンクのPublic Opinion and Foreign Policy Program長Natasha Kassamの“Taipei's growing legion of friends”と題する論説を掲載し、そこでKassamはこのところ台湾に対する周辺各国からの支援が拡大していることについて、その背景と意義について要旨以下のように述べている。
(1) 7月5日、麻生太郎副首相は台湾海峡をめぐって「大きな問題」が起きた場合には日本の「存立危機事態」に関わると発言した。彼は後のコメントでやや主張を後退させたが、日本はこれを含めて一連の公式の発言および行動において、台湾支援の方針を明確にしてきた。たとえば日米首脳会談や日豪2+2の共同声明では、初めて台湾海峡における平和の重要性が言及され、また日本は台湾に数百万回分のCOVID-19のワクチンを提供した。
(2) こうした台湾支援の加速は、日本に限定されるものではない。最近のG7声明では、台湾海峡の平和と安定の重要性に初めて言及され、米韓首脳会談の共同声明でも、これもまた初めてのことであるが台湾海峡の平和について触れられた。インドは必ずしも台湾支持の姿勢を明確にしていないが、台湾との関係は貿易や投資を通じて密接になってきている。また、中国がパラグアイに対し、ワクチン提供の代わりに外交承認を台湾から中国へ切り替えるよう要求したことが報じられたあと、インドがそれに介入し、パラグアイにワクチンを提供したのである。オーストラリアは、中国が不満を表明した後に、台湾との自由貿易協定の可能性をこれまで排除してきたが、7月上旬に行われた豪台の貿易担当大臣の会談のあと、オーストラリア政府はそれについて再考しているかもしれない。シンガポールとニュージーランドは台湾との間に自由貿易協定を締結している。
(3) 中国にしてみれば日本や米国による台湾支援の強化は地域の不安定化要因に過ぎないだろう。しかし台湾への支援の拡大は、中国の攻勢の強まりに対する反応であって、その原因ではない。中国による台湾海峡への侵入は増加の一途をたどり、中国による台湾の軍事侵攻の可能性を指摘する専門家もいる。
(4) 米National Security Council(国家安全保障会議)のインド太平洋担当Kurt Campbellによれば、米国は現状維持を望んでおり、その意図を明確に発しているという。それに加え、米国は台湾がさまざまな国際機関において役割を果たすべきだと主張している。しかし国際共同体の大部分はまだそうした考えに同意していない。台湾は2016年以降World Health Organisation(世界保健機関)総会への参加を認められておらず、2021年5月もそうであった。G7の共同声明などがあったにもかかわらずである。
(5) しかし、周辺地域からの支援の表明は無視されるべきではない。多くの専門家はしばしば、台湾の地政学的な地位を単純に米中対立の色眼鏡を通して眺めるという誤りを犯す。しかし、日本やインド、韓国、オーストラリアなどもまた地域の安全保障に関心を持ち、その維持においてますます大きな役割を担っているのである。
記事参照:Taipei's growing legion of friends

7月13日「米比両国大統領の考え方の相違、『訪問米軍地位協定(VFA)』更新の行方を左右―フィリピン専門家論説」(China US Focus.com, July 13, 2021)

 7月13日付の香港China US Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは、フィリピンPolytechnic University of the Philippines教授、Richard J. Heydarianの、“Squeezed by Allies: Duterte Rejects Visiting Forces Agreement Restoration with Biden”と題する論説を掲載し、ここでHeydarianはDuterteフィリピン大統領とBiden米大統領の考え方の相違を強調して、米比間の「訪問米軍地位協定(VFA)」更新の行方が不透明であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Biden米大統領とDuterteフィリピン大統領は、ともに長年にわたって政治活動に携わってきたが、両者は現在、全く正反対の政治的潮流に乗っている。Duterte大統領は、東南アジアにおける権威主義的ポピュリズムの最も偉大な存在であり、自由民主主義を強く批判している。Duterte大統領は、人権と市民の自由を犠牲にした厳しい指導と規律ある社会を重視する、いわゆる「アジア的価値」ドクトリンのより強力なバージョンに対する最も有力は支持者であると言えよう。Duterte大統領は、地政学的にアジア社会の国内問題に対する「非介入」の原則に固執し、外部勢力、特に西側諸国による自らの統治実績に対する批判を根本的に拒絶している。
(2) 他方、Biden米大統領は、非常に驚くべきことに、かつてモスクワの共産主義政権を「悪の帝国」と評したReagan大統領以来、最もイデオロギー的な米国大統領になってきた。Biden大統領は、Department of Stateでの演説で、「民主主義諸国首脳会談」について語り、「世界の民主主義を守り」、「権威主義の伸張を押し戻す」という米国の誓約を繰り返し強調した。Biden大統領は就任以来、日本、韓国、オーストラリア及びインドの主要民主主義同盟国と戦略的パートナー国の指導者と積極的に会談し、またNATOとの関係を再活性化してきた。Biden大統領は、中国の台頭に対抗するために、オーストラリア、インド及び日本とともに、目立たない形で「アジア版NATO」を育成しつつあると見なすことさえできよう。
(3) Biden大統領とDuterte大統領との間に見られる大きなイデオロギー上の溝は、Biden政権が3月に公表した、同政権の国家安全保障戦略作成の指針となる暫定指針において、フィリピンへの言及がほとんどなかった理由を、大方説明している。また、このことは西欧とアジアの有志諸国指導者と一連の対面あるいはオンライン会見を行ってきたBiden政権が、ASEAN諸国をほとんど無視してきた理由をも説明するものであるかもしれない。最近数カ月で東南アジアを訪問した唯一のBiden政権高官はSherman国務副長官だが、フィリピンを訪問しなかった。これに対して、Duterte大統領も米国の関与にはほとんど関心を示しておらず、米国との2国間安全保障協力の命運は大規模な援助とコロナワクチンを提供するBiden大統領の意向に大きく左右されようと繰り返し警告してきた。さらに、Duterte大統領は、2021年初めの南シナ海のWhitsun礁を巡る中国との対峙が最高潮にあった時でさえ、恐らく他のASEAN諸国指導者よりも声高に、中国に対するBiden政権との如何なる政策調整をも公に拒絶した。したがって、Duterte大統領がいずれ「訪問米軍地位協定(以下、VFAと言う)」を復活させる気分でないのは驚くに当たらない。
(4) Biden大統領がDuterte大統領と電話会談をするまでに就任以来4カ月近くかかり、Duterte大統領が2021年5月までにVFAの更新に関する如何なる決定もしないとした期限も過ぎた。Duterte大統領は、自国の外交政策を決定する最高責任者であることを主張するために、中国に対抗するために米国との防衛関係を強化すべきと主張してきた自らの閣僚に対して箝口令を出すという前例のない決定を下した。この間、フィリピンの防衛、外交政策担当者は、Duterte大統領にとって受け入れやすいVFAの更新条件を再交渉するために懸命に努力してきた。米比交渉の過程は機密事項であり、その詳細は明らかではない。しかしながら、誰もが驚いたことに、Duterte大統領は、5月の期限からほぼ2週間もVFA問題について黙して語らず、1951年の米比相互防衛条約を含む、米国とのあらゆる主要な防衛取極を廃棄するよう求め始め、国内の反米感情を勇気づけた。しかし、一方では妥協案として、Duterte大統領はVFA廃止決定のさらに6カ月間の延期にも合意した。このことは、11月のASEAN首脳会議において期待されるBiden大統領とDuterte大統領の首脳会談によって、VFA問題の行方が大きく左右されることを意味しよう。Duterte大統領が何を期待しているかは正確には不明だし、またBiden大統領が2022年6月に任期が終了するDuterte大統領に大きな譲歩をする意思があるかどうかも不明である。しかしながら、確かなことは、VFA問題に関する不確実性が長引くことは、米比両国が「米国後のアジア(a post-American Asia)」において相反する道を模索しているように、前世紀からの古い米比同盟が活力を失ってきたということである。
記事参照:Squeezed by Allies: Duterte Rejects Visiting Forces Agreement Restoration with Biden

7月14日「米海軍、中国潜水艦を厳しく監視:中国シンクタンク報告―香港紙報道」(South China Morning Post, 14 Jul, 2021)

 7月14日付の香港日刊英字紙 South China Morning Post電子版は、“US Navy keeps closer watch on China submarines, Beijing think tank says”と題する記事を掲載し、北京大学の南海戦略態勢感知計画が南シナ海において米国の音響測定艦の行動が頻繁になっており、海中における米中の軍事行動が過熱しているとする報告を要旨以下のように報じている。
(1) 米国の中国潜水艦の監視は南シナ海でこれまでより頻繁に行われており、米中間の軍事
行動が海中で加熱してきていることの証だと中国シンクタンクは言う。
(2) 米国は5隻の音響測定艦を保有しており、日本に配備している。北京大学の南海戦略態
勢感知計画が7月13日に発表した報告によれば、2021年上半期の181日の内少なくとも161日、米音響測定艦は南シナ海で行動しているのが確認されている。報告は各艦が10日以上行動しており、時には40日に及ぶこともあり、各艦の展開には空隙が置かれていなかったと指摘している。「主目的は、中国の潜水艦部隊の動態を監視すること、重要海域における潜水艦の活動範囲及び進入・退出航路を分析すること、そして潜水艦戦を支援する情報の提供である」と報告は述べている。米海軍の偵察行動の大半は、西沙諸島及びマックルズフィールド堆近傍で行われていると報告は言う。米海軍はまた、偵察海域を拡大しているようである。報告は、2隻の音響測定艦が西沙諸島西方海域で追尾されており、以前にはこの海域に米海軍艦艇が進出することは稀であった。
(3) 南海戦略態勢感知計画の報告は7月12日の中国外交部報道官趙立堅の発言を追随して
いる。趙立堅は、米国が2,000回の近接監視訓練と約20回の大規模海軍演習によって、緊張を高めており、これら訓練あるいは演習は中国を標的として、その多くは中国沿岸近くで実施されたと発言している。
(4) ワシントンは、このような行動は中国の過剰な主張を阻止するために必要であると言
う。米国の「中華人民共和国が関与する軍事及び安全保障の進展に関する報告書」2020年版は、中国が弾道ミサイル搭載原子力潜水艦4隻、攻撃型原子力潜水艦6隻、通常型潜水艦46隻を保有していると報じている。米国はより多くの原子力潜水艦を保有しているが、中国はこれに追い付きつつある。米軍当局者はこの10年の間に中国は65隻から70隻の潜水艦を保有するだろうと述べている。米中間の戦略的対立の激化もあって、米中は南シナ海における軍事行動を強化してきた。
(5) 海域は、水深2,000m以上で海洋特性は複雑であり、潜水艦戦、対潜水艦戦にとって理想的である。米中の発火点となる可能性のある海域は天然資源が埋蔵されていると考えられており、海運の主要な航路となっている。その海域はまた、多くの人々の生活の糧を提供する漁場でもある。
記事参照:US Navy keeps closer watch on China submarines, Beijing think tank says

7月15日「中国船が南シナ海に投棄する未処理汚水—香港紙報道」(South China Morning Post.com, July 15, 2021)

 7月15日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“South China Sea: Beijing rejects claim raw sewage from Chinese fishing boats is harming reefs”と題する記事を掲載し、米企業Simularityが、南沙諸島に停泊中の中国の船舶から出る人間の排泄物が、宇宙からも見えるほどのダメージを海洋環境に与えていると発表し、中国の外交部の報道官が否定したことについて、要旨以下のように報じている。
(1)中国の漁船数百隻が、数カ月間停泊している南シナ海の係争海域において未処理の汚水を投棄し、サンゴ礁や海洋生態系にダメージを与えているという報告を、北京は否定した。中国外交部の趙立堅報道官は7月15日、衛星画像を分析する米国企業Simularityの報告書は、事実に基づかないものだと述べた。趙は「中国に対する深刻な中傷である。中国は強い非難の意を表明する」と述べている。
(2)Simularityの最高経営責任者Liz Derrは、7月12日に報告書を発表し、南沙諸島に停泊している中国の漁船が何トンもの未処理汚水を排出していることを示す衛星画像を入手したと述べた。同社は、中国、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア及び台湾の領有権の主張が重複している係争海域で、数カ月にわたって漁船を監視してきた。この画像は、中国漁船の持続的な展開と周辺の海洋環境の悪化との関連性を示しているとDerrは述べている。Derrは、マニラのシンクタンクStratbase ADR Instituteが主催するフォーラムで、「南沙諸島に停泊している船舶からの汚水がサンゴ礁にダメージを与えており、これは宇宙からも見ることができる」と語っている。
(3)フィリピン国防大臣Delfin Lorenzanaは、声明の中で「我々は、南シナ海で排泄物が投棄されているとされるニュースがネット上で流れていることに留意している。しかし、この報告書に添えられた排泄物を投棄していると見られる船の写真は、2014年にオーストラリアのグレートバリアリーフで撮影されたものであることが判明した」と述べた。7月15日、SimilarityのDerrは、自社の衛星画像の分析を支持した。Derrは、グレートバリアリーフの写真は、報告書に例示を目的として掲載されたものだとし、「なぜなら、衛星画像上の小さな灰色の点を見ているだけでは、状況を実際に把握することはほとんど不可能だからである」と述べた。
記事参照:South China Sea: Beijing rejects claim raw sewage from Chinese fishing boats is harming reefs

7月16日「インドは台湾支援を明確にし、QUAD強化を目指せ―台湾外交政策専門家論説」(The Diplomat, July 16, 2021)

 7月16日付のデジタル誌The Diplomatは、Taiwan-Asia Exchange Foundation 客員研究員Sana Hashmiの“A Missing Link in the Quad: India’s Support for Taiwan”と題する論説を掲載し、そこでHashmiは、インドが台湾支援に対して慎重姿勢を維持していることを指摘し、インドは台湾支援を明確にすることでQUADの協力枠組みをより強化すべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1) インドと志向の近い国々が次々と台湾への支持を表明する一方で、インド自身は、台湾支持の姿勢を明確にすることに慎重である。たとえば米国は台湾にCOVID-19のワクチンを250万回分提供し、さらに上院議員3人が台湾を訪問し、台湾政策の連続性を示唆した。日本もまた、6月と7月の2度にわたって合計230万回分以上のワクチンを台湾に提供し、直近では麻生太郎副首相が、台湾の有事は日本の「存立危機事態」に関わると述べている。オーストラリアもまた米国、日本とともに、台湾がWorld Health Organisation(世界保健機関)総会にオブザーバーとして参加することに支持を表明した。
(2) 日米豪印4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)のうち3ヵ国が以上のように明確に台湾支持を示しながらも、インドはそれに歩調を合わせてこようとしなかった。2021年の日米首脳会談やG7サミットの共同声明において台湾が言及されたことに対し、2021年3月12日に行われたオンラインでのQUAD首脳会談において台湾支持が表明されることはなかったのである。このことは、今回の首脳会談で4カ国の協力枠組みとして初めて「QUAD」という言葉が用いられ、今後の幅広い協力が示唆されたことを考慮すれば注目すべきことである。インドのこうした姿勢は、QUADの枠組みにおけるより強力な協力関係の構築に暗い見通しを投げかける。
(3) 国境紛争を抱える中国との関係をうまく調整しなくてはいけないことを考慮すれば、インドのこうした慎重姿勢を理解することは可能である。しかし、中国はこの問題の解決にはあまり乗り気ではない。それを考えれば、国境紛争を踏まえた中国との関係がインドの台湾政策形成における要因であるべきではない。インドは台湾政策に関して日米豪と歩調を合わせるべきではあるが、しかしそれは中国に対抗するための動きと解釈されるべきではなく、QUADを強化し、インドのアクト・イースト政策を促進するための動きとみなされるべきである。
(4) 特にインドは、台湾の国際機関への参加支援運動を進めている日本と協力を深めていくべきである。インドと日本は同じような価値観を共有し、提携を深めている。日本と協力したそうした動きは、他のアジア諸国の台湾認識形成に貢献するだろう。
(5) 台湾の側にもさまざまな国々と積極的に関わるという責任があるが、蔡英文総統はその責任を積極的に果たしてきたと言える。それを象徴するものとして、2016年に発表された「新南向政策」がある。南アジアや東南アジア、さらにはオーストラリアやニュージーランドと積極的に関わっていこうというこの方針はこれまでに成果を生んできたと言えるが、今後、インド太平洋という幅広い文脈にそれを位置づけ、さらにこの政策を推進していくことが重要である。この方向性は、インドが台湾支援において他の国々と歩調を合わせる重要な動機となりうる。
(6) QUADを拡大していこうという議論は時期尚早かもしれない。しかし台湾支援に関するそれぞれの姿勢を一致させることはできるだろう。中国の近年の動向に対する対抗手段があまりないように思われる時、インドは台湾問題など相互の利益に関する問題により集中していくことが大事であることを理解しなければならない。
記事参照:A Missing Link in the Quad: India’s Support for Taiwan

7月16日「中国が次に目指すのは深海底―米専門家論説」(19fortyfive.com, July 16, 2021)

 7月16日付の米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトは、American Foreign Policy Council上席研究員Alex Grayの” The Deep Seabed Is China’s Next Target”と題する論説を掲載し、そこでGrayは深海底への関心を進める中国に対して、米国の利益を守るためには明確な戦略が必要として、要旨以下のように述べている。
(1) 2020年末、中国の潜水艇「奮闘者」が、マリアナ海溝で3万フィート以上も潜り、潜水深度の国内記録を樹立し、その様子を中国国内に生中継をした。今回の探検は、海溝に生息する生物を中心に行われたが、国営メディアは深海採掘にも役立つだろうと述べている。深海底は、石油やガス、コバルト、銅及びニッケルなどの元素、さらには多くの新技術に必要なレアアース(希土類元素)の豊富な供給源となる可能性を秘めている。
(2) 中国の習近平国家主席は、「海洋の利用」と「中国の海洋力および国力の向上」との関連性を繰り返し語っている。さらに2016年には、「深海には未発見・未開発の宝物があり、その宝物を手に入れるためには、そこに入り、発見し、開発するための技術を制御する必要がある」と語っている。
(3) 2016年2月、中国は「深海海底地域における資源の探査と開発に関する法律」を可決し、深海資源の開発のための前提条件を整え始めた。中国は第12次(2011-2015)および第13次(2016-2020)五年計画において、深海採掘の商業化、深海機器の製造、深海生物資源の利用を促進することを優先とした。
(4) 北京の高官たちは、利用されていない特定の領域で優位に立つことの経済的重要性を称賛し、それを世界における中国のより広い役割であると明確に結びつけている。習近平は、北極や南極においても同様の手段を追求し、2014年に中国を「極地大国」と宣言した。2018年に発表された中国の北極戦略では北京を「近北極」国とし、この地域における中国の経済的影響力を加速させるために「氷上シルクロード」を付随させると宣言した。
(5) 南極では、中国も加盟している南極条約によって資源採掘活動が制限されているにもかかわらず、中国の政府関係者は、南極大陸の資源採掘の可能性について定期的に発言している。中国の学者は、南極の環境活動を規定するマドリード議定書の期限が2048年であるという神話を、あらゆる証拠や国際的なコンセンサスに反して広めている。習近平は、中国が南極を開発することを公に求めている。
(6) 北極や南極と同様に、深海底の経済的優位性に対する中国の関心は、軍事的要素が大きい。2018年、国防部の発刊した文書では、人民解放軍が将来の地球規模の活動に関連する領域を明らかにし、陸、空、海、宇宙といった伝統的な領域に加えて、量子、人工知能、そして深海を含む領域での対立的な活動に言及した。そして、2015年の国家安全保障法の改正でも、深海は北京の国家的関心事とされている。
(7) 中国による深海底の支配は、南シナ海や東シナ海のようなすでに紛争になっている海域、グアムや北マリアナ諸島などの米国の領土付近を含む西太平洋で中国が大規模な調査を行っている海域など、米国とその同盟国にとって重大な軍事的課題となっている。元US Pacific Fleet情報部長James Fanell退役海軍大佐は、中国の深海調査には2つの目的があり、1つは天然資源を見つけて利用すること、もう1つは中国共産党の戦略的目標で、海軍潜水艦部隊の地理的な展開範囲の拡大と残存性を強化するために、海洋データを収集することと語っている。これは、米国の長年の海中領域の支配を無力化するという中国海軍の目的を促進するものである。
(8) 現在、深海を規制する国際的な枠組みは、UNCLOSに基づいて設立されたThe International Seabed Authority(国際海底機構、以下、ISAと言う)であるが、米国は加盟していない。その理由はISAの最大の出資国が中国で、その制度的枠組みは米国の経済的・戦略的利益に大きく不利なためである。米国は、オーストラリア、日本、インドとの4カ国安全保障対話(QAUD)参加国や台湾、及び志を同じくする提携国と積極的に協力して、中国の活動を監視し、これに対処することで、北京の深海活動に効果的に対抗することができる。国際的な効率のよい枠組みに反して深海底を経済的に利用しようとする試みや、深海底を軍事的に利用しようとする試みは、強く非難されるべきである。
(9) 深海底を北京による進出から守るための同盟戦略には、極地の場合と同様に、経済的対応と軍事的対応の両方が必要であり、これらは中国の国家運営においては本質的に関連していると認識する必要がある。米国の領海、排他的経済水域、加えて米国が防衛責任を負う自由連合盟約加盟のミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国およびパラオ共和国の領海とその排他的経済水域における中国の深海調査を防ぐためには、情報、監視、偵察の資源をさらに投入しなければならない。また、日本やオーストラリアなどの同盟国は、北京の動きを監視する重要な役割を果たすことができる。
(10) 中国がさまざまな領域で活動を拡大し続け、経済的・軍事的な要求がますます絡み合っていく中で、米国とその提携国はそれに対応していかなければならない。深海底は、かつての北極や南極のように、大国間の競争の場となり、米国の利益を守るためには明確な戦略が必要である。
記事参照:The Deep Seabed Is China’s Next Target

7月16日「中国はアフガニスタンの泥沼を避けうるか―オーストラリア元外務貿易省官僚論説」(The Strategist, July 16, 2021)

 7月16日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、元オーストラリアDepartment of Foreign Affairs and TradeのConnor Dilleenによる“Can Beijing avoid being drawn into the Afghan quagmire?”と題する論説を掲載し、そこでDilleenは、米軍撤退後のアフガニスタンに中国がどのように関わっていくことになるか、その見通しについて、要旨以下のように述べている。
(1) 2020年2月、米国はタリバンとの間で米軍撤退の合意を結んだ。その結果、アフガニスタン周辺に力の真空が生じる可能性が指摘されてきた。中国はこの事態を若干の不安を持ちながら眺めているかもしれないが、他方でその状況は中国に好機をもたらす可能性もある。中国はアフガニスタンにさまざまな利害を有しており、今後、アフガニスタンの将来の安定において中国が重大な役割を果たすことになるかもしれない。
(2) アフガニスタンにおける中国の直接的な経済的利害は、2007年に契約が結ばれたメス・アイナクの銅山採掘権(30年)である。しかし安全保障環境の不安定さから、十分な利益は上がっていない。さらに中国はアフガニスタン全域の鉱物資源に目を向けており、その価値は1兆ドルにものぼると見積もられている。
(3) 中国は、米国とNATOがアフガニスタン周辺地域に介入してきたことから利益を得てきた。それによって中国は、パキスタンから中央アジアにかけて一帯一路構想を推進できたのである。特にパキスタンやタジキスタンに対する投資が大きい。他方この2つの国はアフガニスタンと長く国境を接しており、アフガニスタンの安全保障環境はこの国々の安全保障に非常に大きな意味を持つ。また、アフガニスタンは中国の新疆ウイグル自治区の安全にとっても重要である。アフガニスタンは、処刑や処罰を逃れるウイグル人の避難所として利用されてきたためである。
(4) 中国のアフガニスタン戦略はなおはっきりしないが、アフガニスタンで今後どちらの側が権力を握るかにかかわらず、中国は同国を財政支援や投資を通じて自国の勢力圏に引き込むことになるであろう。中国がどの程度アフガニスタンの安全に関わるかについて、専門家の意見は分かれる。一方では地上軍の派遣にまでは至らないという意見もあるが、他方、中国がアフガニスタンの安全に対して直接的かつ影響力ある役割を演じていくのは避けられないとする主張もある。
(5) 中国はこれまで長い間、アフガニスタンの内戦に関して、どちらの側にも肩入れする意図を見せてきた。2018年にはアフガニスタン政府との間で、同国北部に中国の軍事基地建設に関する合意が結ばれた一方、2020年には中国政府がタリバンと交渉に入り、停戦と引き換えにアフガニスタンへの大規模投資が約束されたと報じられた。また中国が、アフガニスタンのウイグル人を捕らえるためにタリバンに近いテロ組織ハッカーニと協力していることが明らかになった。中国がタリバンと距離を縮めたのは、米軍撤退の結果としてタリバンが今後優勢になると理解しているためである(米国はそれを認めてこなかった)。事実、2021年に入ってタリバン勢力はその支配下を確実に広げている。
(6) 中国はまた新たな和平プロセスを推進し、国連に対してもアフガニスタン支援の延長を訴えている。中国は、自分たちがうまくアフガニスタンに平和をもたらすことができると考えているかもしれない。中国共産党の機関紙Global Timesによれば、中国は他の国よりもアフガニスタン問題に対処できるという。しかし、これがもし中国指導部の本音だとしたら、傲慢かつ世間知らずであり、誤算につながりかねない。
(7) アフガニスタンの状況は予期されたよりも早く事態が拡大しており、調停者としての中国の介入を無力化しかねないほどである。そして同国の悪化した状況はすでに隣国に影響を与え、たとえばタジキスタンはアフガニスタン難民の流入に苦慮している。タジキスタンは、統制を失った国境に2万人の部隊を派遣し、さらにロシアを含めた集団安全保障条約(Collective Security Treaty Organization)の加盟国に支援を求めている。中国はタジキスタンに軍事基地を設置しているが、今度アフガニスタンの情勢が急激に悪化すれば、アフガニスタンへの平和維持部隊の派遣などを含め、中国のより直接的な介入が必要になるかもしれない。
(8) タリバンは今のところ中国に従順に見えるかもしれないが、米軍が完全に撤退した後もそうであり続ける保証はない。いずれタリバンが、中国のことをアフガニスタンを食い物にする帝国主義勢力とみなすかもしれない。また、タリバンは中国のウイグル人に対する扱いを見て見ぬ振りをしてきたが、タリバンだけがこの地域のイスラム勢力ではなく、中国に対する草の根の怒りが爆発する可能性もあり、実際にパキスタン・タリバン運動(Tehrik-e-Taliban Pakistan)やイスラム国(Islamic State)などの集団は中国に対する攻撃の意図を示してきた。
(9) アフガニスタンにおける情勢の悪化は、中国の利益に大きな影響を与えるだろう。米軍撤退後、中国がアフガニスタンの状況に巻き込まれていく可能性はある。これまでの経験からすれば、今後この問題がうまく解決する見通しは暗い。
記事参照:Can Beijing avoid being drawn into the Afghan quagmire?

7月17日「南シナ海における米軍の活動増加は行動規範交渉を行き詰まらせる可能性がある―香港紙報道」(South China Morning Post, 17 Jul, 2021)

 7月17日付の香港日刊英字紙South Chine Morning Post電子版は “South China Sea code of conduct talks ‘may end in stalemate’ as tensions rise”と題する記事を掲載し、南シナ海での米軍活動の増加は中国とASEAN諸国が行動規範に関する合意に達することを困難にし、交渉が行き詰まらせ、難産に終わらせる可能性があるとして要旨以下のように報じている。
(1) 中国が行動規範の合意過程の迅速化を繰り返し求める動きは、米国が資源豊富なこの
海域をめぐる紛争に関与することを阻止する努力と見なされている。中国とASEAN10ヵ国の外交官は、2019年7月に規範の「交渉草案」の最初の読会を完了した。それ以降コロナウイルス感染拡大により直接会談が行いにくくなったため、大きな進展はなかった。しかし、中国南海研究院院長の呉士存によると、この地域における中国の主張の高まりに対する警戒感は、ベトナム、フィリピン、マレーシアのような関係国の交渉を進める意欲を低下させた。呉は「南シナ海における中国の台頭は、ソフト・パワーの並行的な上昇につながっていない。中国の台頭について沿岸諸国の不安と敵意が依然として残っているので、中国が行動規範交渉を通じて地域の支配を求めているかどうかについて、彼らはまだ不安を抱いている。南シナ海における米軍の活動の増加は、行動規範に関する協議を複雑にする可能性もある。米軍活動の増加は、中国とASEAN諸国が行動規範に関する合意に達することをますます困難にし、交渉が行き詰まったり、少なくとも難産に終わらせたりする可能性さえある」と述べている。
(2) 一方、オーストラリアUniversity of New South Wales, Canberra のCarl Thayer名誉教授は、関係国は南シナ海をめぐって中国を批判する声を高めていると考えている。フィリピンの外務大臣Teodoro Locsinは2021年3月、紛争中の南沙諸島のWhitsun 礁近くの海域に停泊する数百隻の中国漁船がいなくなるまで、毎日、外交上の抗議を行うと述べている。中国政府は、漁船は悪天候のため避難していると主張した。中国とマレーシアの間の公表されていない対立が、Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS(以下、AMTIと言う)によって脚光を浴びた。その報告書によるとマレーシアが雇ったパイプ敷設船がこの地域に到着した2021年6月4日に、マレーシアのSarawak州沖のKasawari ガス田付近で中国海警の船舶が行動していた。その数日前、マレーシアは東海岸付近で16機の中国軍機を迎撃するために航空機を緊急発進させている。AMTIは、ガス田付近の中国海警船は活動継続中のようで、中国の海警船がマレーシアのエネルギー調査を妨害したのは、少なくとも2020年の春以来3回目だと述べている。一方、ベトナムの軍事新聞Quan Doi Nan Danによると、ベトナムMinistry of National Defense は2021年6月、南シナ海での海軍の展開を高める動きとして、ベトナムの南部海岸沖での準軍事作戦のため軽武装の9隻の船舶と海上民兵部隊1個小隊を配備したと発表した。中国とASEAN外相たちは、2021年6月の会合でできるだけ早く行動規範に関する交渉を再開することを約束した。それを受けて作業部会が2021年7月初めにオンライン会議を行った。2019年10月以来初めて会合である。
(3) Thayerは、中国とASEANの間で正式な交渉が再開される可能性が「非常に高い」と述べている。彼は「中国は、米国が南シナ海に侵入するのを阻止する法的方策として、ASEAN関係国に行動規範の交渉を完了するよう圧力をかけている。ASEANの加盟国は中国の主張を抑制する手段として交渉を再開したいものの、拘束力のない合意を急いでいないことは明らかである。合意に達する前に解決する必要がある主要な問題が少なくとも4つある。それは、地理的範囲、行動規範の法的位置づけ、執行措置、現在の草案に記載されていない第三者の役割である」と述べている。
記事参照:South China Sea code of conduct talks ‘may end in stalemate’ as tensions rise

7月19日「ロシアの新『国家安全保障戦略』―ニュージーランド・ロシア専門家論説」(The Interpreter, July 19, 2021)

 7月19日付のオーストラリアシンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は、元駐ロシア・ニュージーランド大使Ian Hillの“Russia’s National Security Strategy: Same book, new cover”と題する論説を掲載し、そこでHillはロシアが最近発表した「国家安全保障戦略」に言及し、その特徴について要旨以下のように述べている。
(1) 2004年に起きたベスランの悲劇(ロシア南部の北オセチア共和国で起きた学校立てこもり事件のこと。最終的に300人以上が犠牲になった:訳者注)の後、Putin大統領は、「弱きものは打たれる」と述べている。こうしたPutinの世界観が、ロシアが最近公表した新たな「国家安全保障戦略」に反映されている。
(2) それは必ずしも革命的な文書ではなく、2015年に発表された同様の文書を基盤とするものである。しかしながらそれは、2015年版を単に更新したものではなく、内容や論調におけるはっきりとした変化がある。同文書は力強く大げさな言葉で、ロシアが現在直面している一連の脅威を詳述している。それは単に国防の問題だけではなく、貿易や経済、科学や技術、環境、文化、さらに情報セキュリティを含めた包括的な脅威である。
(3) 「国家安全保障戦略」は、世界が現在経験している変化、すなわち地政学的不安定の高まりと多国間制度の弱体化について描いている。この点について同文書は、米国がなお覇権を維持しようとしていることについて批判し、他方でロシアは米国その他西側諸国の圧力を受ける被害者として位置付けられている。
(4) 同文書は、米国およびその同盟国、さらには技術大手企業やNGOなどによるロシア国内への介入を批判した。その介入は外部の思想をロシアに浸透させるものであり、ロシアの文化的主権を侵し、社会を二極化して対立を導き、政治的不安定をもたらすものであるという。また、経済的な面でロシアは現在「公然とした政治的・経済的圧力」に直面しており、それは経済的にロシアを孤立させようとする「非友好的な国々」による試みであり、世界的な課題に対処するための効果的な多国間協調を阻害するものだと同文書は述べている。またロシアは、他国にサイバー攻撃を行ったり、政治的介入をしたりするような国としての像が形成されていると同文書は主張している。
(5) 同戦略文書は、ロシアの将来の安全保障環境について何を述べているのだろうか。それはロシアにおける国民生活のあらゆる領域を「安全保障化」しているが、それは、国内のあらゆる領域において、現在の体制に対する疑念や不安があると政府が考えていることを示唆している。ロシアの態度はますます強硬になっており、西側諸国に対する取り組みが変化すると期待できる理由は何もない。このことは、軍備管理や気候変動などにおけるロシアの協力の可能性を排除するものではないが、ただしそれは例外的な問題である。
(6) ロシアは軍事的な能力だけではなく、輸入産品や海外の技術への依存度を減らすことによって、国内的な強靱性を強化しようとしている。さらに、食糧自給率を高めることによって制裁の影響力を小さくしようという努力が今度続けられるであろう。サイバーセキュリティの問題については、ロシアは米国と何がしかの協力を進めるかもしれないが、ロシアと西側諸国の間の情報戦争が沈静化することはなさそうである。またロシアは今後国内の統制を強化していくことも予想される。
(7) 「国家安全保障戦略」では、アジアの重要性が高いものとされている。最も重要なのがロシア周辺の旧ソ連構成国が優先順位のトップであることに変わりはないが、その次に中国とインドが位置付けられており、「地域の安全保障と安定を非同盟ベースで確保する機構」の構築が目指している。こうした機構に中国とインドが包摂れていることは、アジアにおいて戦略的な均衡均を取ろうという配慮の反映である。また、ロシアが4カ国安全保障対話(QUAD)の枠組みを否定していることの現れでもある。またロシアはBRICsや上海協力機構など、非西洋的な多国間協調枠組みを重視している。さらに、2015年版と異なり、南極の重要性が指摘されているのも特徴である。他方で、米国やEUとの関係について特別な言及がないことも特徴的であり、これはロシアがそれらとの関係を改善する意図をあまり持たないことを示していよう。
記事参照:Russia’s National Security Strategy: Same book, new cover

7月19日「対オセアニア戦略、より良く取り組む時―米専門家論説」(War on the Rocks, JULY 19, 2021)

 7月19日付の米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockは、The RAND Corporationの上席政治学研究者Jennifer D.P. Moroney, Ph.D.、Georgetown UniversityのThe Center for Australian, New Zealand and Pacific Studies部長Alan Tidwell, Ph.D.連名の“AMERICA’S STRATEGY IN OCEANIA: TIME FOR A BETTER APPROACH”と題する論説を掲載し、両名は中国のオセアニアに対する影響力が拡大する中、米国には適切な対オセアニア戦略がないと指摘した上で、オセアニアに対する地歩と経験を有する同盟国、オーストラリアとニュージーランドの「後席」に位置し、オセアニア対する適切な戦略を構築する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 太平洋の島嶼国家キリバスには軍隊はなく、人口はワシントンD.C.のわずか6分の1、
GDPは1億ドル以下である。それにもかかわらず、拡大する地政学的対立点になっている。キリバスは2019年に台湾の国家承認を取り消し、北京との外交関係を樹立した。以来、中国政府は滑走路及びカントン島の橋梁の更新計画を発表した。カントン島は、(キリバスの首都タラワの南東約1,800kmにあり、)ハワイとオーストラリア、ニュージーランドを結ぶ海上交通路を跨ぐようにして存在している。このような中国政府の積極的な行動は、ワシントン及びハワイのUS Indo-Pacific Commandにいる政治、軍事の指導者層に警報を発してきた。
(2) オセアニアに対するBiden政権の関心の拡大にもかかわらず、米政府は太平洋島嶼国家
に対する包括的戦略を有していない。そして、時は過ぎ去りつつある。 (The Carnegie Endowment for International Peaceの研究員) Darshana Baruahが主張するように、「ワシントンが最近発表したインド太平洋戦略は小さな島嶼国や沿海域国家、そしてこれら小国間力学の変化とその安全保障に対する理解にかけている。」中国はオセアニアと真剣に関わり合い、戦略的溝を埋めてきた。一方、米国はオセアニアに対し、何十年にもわたって無視し、そこに足を踏み入れることを争ってきた。時間こそが最も重要であるにもかかわらず、北京に対し長期にわたって対峙していくために太平洋島嶼諸国と信頼関係を築くためには長い時間と忍耐が必要である。太平洋島嶼諸国と関わっていく効果的な戦略構築のため、米国は島嶼国家のそれぞれの特徴をよく理解し、適応するべきである。米国はその取り組みに重要な財産を保有している。オーストラリアやニュージーランドのような同盟国は島嶼国と何十年にわたり関係を構築する中で島々について深い理解を持っており、の政策決定者、国民との関係を確立している。米当局者はオーストラリア、ニュージーランドから指針を求め、それをオセアニアにおけるUS Department of Defenseの戦略的取り組みに情報を提供するために使用することができる。
(3) これら島嶼国家は、漁業、生存に必要なギリギリの農業、観光業、海外からの支援に大
きく頼っているパプアニューギニア、ソロモン諸島、ニューカレドニアには稼働中の鉱業分野がある。人口900万のニューカレドニアはGDP250億ドルであるが、1人当たりのGDPは3,000ドル以下であり、その他の多くの国のGDPは10億ドル以下であり、島嶼国の内6ヵ国は世界で海外からの支援に最も依存している国10ヵ国に入っている。フィジー、ニューカレドニア、トンガの3ヵ国は、軍事力を保有しており、フィジーが現役、予備役を合わせて9,500名の兵力で最大規模である。ミクロメシア共和国、マーシャル諸島、パラオは米国と自由連合協定を締結しており、クック諸島、ニウエ島もニュージーランドと同じような協定を締結している。
(4) 今日、中国はオーストラリア、ニュージーランドに次いで3番目の対オセアニア援助国
である。オセアニアへの関与は、少なくとも2つの方法で中国の政策決定者の戦略的思考を形作っている。第1に、1つの中国政策を推し進めるための手段としてであり、今1つは東アジア及び太平洋において優越するために米国に挑戦する努力の一環としてである。台北と北京は小さな太平洋の島嶼国家からの承認をめぐって争っている。承認をめぐる争いは意味のある開発援助の約束を伴っている。たとえば、中国はソロモン諸島に北京承認と引き換えに農業開発用に1,130万ドルを寄付している。北京は太平洋島嶼国家10ヵ国と一帯一路構想の協定に署名している。中国は2018年4月にバヌアツと2019年10月にはソロモン諸島と海軍基地建設の交渉を開始したが、どちらの交渉も成功しなかった。
(5) Trump政権が2017年に「国家安全保障戦略」を発表した直後、ワシントンだけでなく、
ウェリントン、メルボルン、東京でも太平洋島嶼国への焦点が著しく高まった。中国をインド太平洋で影響力を拡大している「修正主義国」と規定してから、Trump政権当局と米国の同盟国は太平洋島嶼国が戦略的地政学上の重要な役割を果たしていることを認識し始めた。その点を指摘した最も大きな声はワシントンではなく、ウェリントンとキャンベラで起こっている。ニュージーランド政府は「パシフィック・リセット」を発表し、オーストラリアの「パシフィック・セットアップ」がこれに続いた。両国は太平洋島嶼国における支出と展開を拡大し、深化させ、多様化し、そしてワシントンが一層島嶼国に与注目するよう呼びかけてきた。Trump政権はこれに答えて3つの重要な段階を採っていた。その第1は、太平洋の自由連合盟約加盟3ヵ国に対するさらなる融資について迅速な行動を推進したことである。しかし、COVID-19の世界的感染拡大と米大統領選挙がこの融資交渉がまとまることを阻害した。
(6) 第2に、政権はthe National Security Councilにオセアニア担当部長職を新たに創出し、
太平洋島嶼国、オーストラリア、ニュージーランド、南極を担当させることとした。第3に、2019年及び2020年に主にU.S. Agency for International Development(米国際開発庁)を通じて提供された3億ドル以上の新規支出を伴う「太平洋誓約」を発表した。Biden政権も、気候変動への対応強化とCOVID-19ワクチンの提供によって太平洋島嶼国との関係強化を続けている。気候変動へ焦点を当てることは、気候変動が島嶼国家における現実の脅威と規定した太平洋諸島フォーラムのボエ宣言と整合している。米議会もオセアニアにおける関与強化に動いてきている。米下院議員は2019年に太平洋島嶼議員連盟を結成、連盟加盟の一部議員は「パシフィック法(Pacific Act)への長期関与を加速(Boosting Long-term U.S. Engagement in the Pacific Act)」を執筆しており、パシフィック法はブルーパシフィック法(BLUE Pacific Act)としても知られている。6月、「イノベーション及び競争法案(Innovation and Competition Act of 2021)」が上院で可決された。同法案にはブルーパシフィック法から引用された文言が含まれており、中国の修正主義的行動に異議を申し立てる米国の努力にとって太平洋島嶼国家が重要であることの認識を示している。特に法案は、「オセアニア行程表」を求めている。「オセアニア行程表」は米国がいかにして地域の島嶼国への関与を深化させていくか、そしてこの件に関しオーストラリア、ニュージーランド、日本との協調の機会を分析することが含まれている。
(7) US Department of Defense(米国防総省)は、太平洋島嶼諸国に対する戦略を充実させなけ
ればならない。この戦略を解明するためには具体的で測定が可能な目標とそれに関連する結果の指標及び利用可能な資源が含まれなければならない。最も重要なことは、戦略の解明には鍵となる同盟国の経験、教訓、既に採られてきた努力をより良く理解するためにそれら同盟国からの助言が必須である。この過程はDepartment of Defenseの学習目的の助けになるだけでなく、共同による戦略化にも役に立つ。オーストラリアは東ティモール、ソロモン諸島、パプアニューギニアに複数年の政府全体の代表団を派遣している。ニュージーランドもこの代表団に積極的に参加してきた。
(8) オーストラリアが主導する介入の特徴は、政府全体の取り組みの進展であり、これは
Australian Defence Force,(オーストラリア国防軍)、Australian Federal Police (オーストラリア連邦警察)、Department of Foreign Affairs and Trade (オーストラリア外務貿易省)、Australian Agency for International Development(オーストラリア国際開発庁)が含まれる。より少ない労力でより多くの行うこの政府挙げての取り組みは、太平洋島嶼国との関わりに非常に適している。オーストラリアとニュージーランドは島嶼国の多くに外交上の代表団を置くことでそれらの国々に関する高次の認識と出入りという利益を受け取っている。Australian National Universityの報告書はより広い範囲では米国の影響力は低下しているとしているが、オーストラリア、ニュージーランドは米国の影響力と資源を必要としており、米国が地域に関与し続けることを望んでいる。オーストラリアとニュージーランドは太平洋島嶼国と豊かな関係を有しており、これは調査に値するものである。特に、巧みに、さりげないやり方でソフト・パワーを指向した包括的な計画の取り組みである。オーストラリアの地域に対する支援の重要な要素は、「太平洋海洋安全保障計画(Pacific Maritime Security Program)」である。元「太平洋哨戒艇計画」と呼ばれた計画は、島嶼国の海洋監視と漁業保護の能力向上のために12ヵ国に哨戒艇を提供するものであった。この計画に参加する12ヵ国と東ティモールは2018年から2023年の間にガーディアン級哨戒艇を受け取り、その能力を向上させるだろう。計画には、航空哨戒担任部隊も含まれているが、オーストラリアDepartment of Defenseでは満足させることが難しい追加の要件が生まれてきている。このことは、米国がオーストラリアとともに太平洋島嶼国に秘匿通信及び他の情報、監視、偵察能力提供する機会があることを示している。
(9) 米国は南太平洋では限られた存在感しか示していない。そこではオーストラリアとニュ
ージーランドが常に存在感を示してきた。US Department of Defenseの計画立案者達は世界中で安全保障協力の努力を主導している。しかし、同盟国と太平洋島嶼国との関係がより深いため、US Department of Defenseは相互に有益な安全保障協調の構想を支援するため同盟国の後部座席に位置することを考慮すべきである。
(10) 米政府にとって、太平洋島嶼国に関与していく長期戦略構築のための最良の実践と教訓は何だろうか。同盟国との共同計画の機能させるのはどのような取り組みであろうか。第1に、US Department of Defenseの安全保障協力計画担当者及び実施者は、太平洋と諸国とのより深い経験を有する同盟国から指針を求めなければならない。計画担当者及び実行者は、この地域、特にソロモン諸島、東ティモール、パプアニューギニア、フィジーでの同盟国の豊富な経験と存在感を多いに利用することができるだろう。
(11) 第2に、米当局者は太平洋島嶼国の相手方の話に熱心に耳を傾け、全ての国が援助に関
して全く同じ必要と希望を持っていると考えてはならない。この地域で効果的に業務を行うためには予算の配分が保証されていなくても10年を超える長期の計画が必要である。
(12) 第3に、計画担当者は既に結論が出た決定を伝えるとのではなく、安全保障協力計画過
程の最初の段階から太平洋島嶼国の当局者を参画させるべきである。
(13) 第4に、軍対軍の取り組みではなく、複数の省庁、政府全体の取り組みを追求すべきで
ある。太平洋島嶼国との安全保障協力においてUS Indo-Pacific Commandが軍事的側面に焦点を当てていることに同盟国は満足していない。同盟国は、フランス、日本を加えた「ファイブ・アイズ」を含むUS Indo-Pacific Commandの多国間作業グループ(Multinational Working Group)の焦点を拡大し、健康安全保障、制度的な能力構築、抗堪性、人道支援・災害救援、違法漁業に焦点を当てた選び抜かれた文民機関を含めるよう提案してきている。
(14) 米政府が考慮すべき戦略の重要な部分には地域における共同計画の取り組みで同盟国
とともに作業を進めると誓約する明確な声明が含まれる。この声明は指導層の高級レベルから発せられ、中堅レベルの当局者によって補強される必要がある。US Department of Defenseはオセアニアにおける同盟国との行動の混乱と調整を乗り越えて共同計画と実施の取り組みに向かうことになろう。米国は関与を主導する必要はない。US Department of Defenseは同盟国の構想を支援するのに適した後席を占めることを考慮することになろう。この取り組みは米国とその同盟国が太平洋島嶼国での影響力を獲得し、中国により良く対抗することを可能にする。
記事参照:AMERICA’S STRATEGY IN OCEANIA: TIME FOR A BETTER APPROACH

7月20日「米国は中国の中東での軍事拠点獲得を阻止すべき―米博士課程院生論説」(19fortyfive.com, July 20, 2021)

 7月20日付の米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトは、米University of Texas の博士課程院生Daniel J. Samet の“Don’t Let China Get A Middle East Military Base”と題する論説を掲載し、Daniel J. Sametは、米国は中東での焦点を石油やイスラム過激派から対中国へとシフトして、その軍事拠点獲得を阻止すべきとして、要旨以下のように述べている。
(1) 5月、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、アラブ首長国連邦(UAE)へのF-35の
売却が進まないかもしれないと報じたが、その理由の1つは、アブダビがその領土内で北京に軍事基地設置を許可するかもしれないという懸念である。Biden政権はこれまで、アフガニスタンからの撤退、イランとの核取引、パレスチナ人への再関与と中東戦略を強化してきた。しかし、米国の国家安全保障にとっては、中国がこの地域で基地を獲得するのを防ぐことの方が遥かに重要である。
(2) 中国は、中東の石油に飢えており、他のどの国よりも多くの石油を輸入している。米中
の競争がゼロサムゲームになってしまった以上、ワシントンは、最も重要な地域で中国の影響力を押し返さなければならない。中国は、中東での商業的利益を守るために、その軍事力の拡大に専心している。米海軍は、水上艦隊の準備ができていないほどに衰退しており、中国海軍に増々譲歩していくと見なされている。
(3) もし中国が、この地域においてUAEや別の場所で軍事施設を手に入れた場合、我々は
米国の国家安全保障上の危険性を見過ごすことはできない。中国は、バーレーンの第5艦隊に直接脅威を与えることができる艦艇や空母艦載機を前方展開することができる。そうすれば、中国の抑止力が強化され、米国の抑止力が犠牲になるだろう。つまり、台湾や第1列島線の他の場所に対する中国の侵略に対応することは、戦域が1つ離れたところで米軍を攻撃する準備をしている中国軍よりも、遥かにコストがかかるかもしれない。
(4) 中国が中東に拠点を置くことで他に何をするかについては、すぐ近くにあるジブチを見
ればわかるだろう。米軍に嫌がらせを行ったり、中国の空母が入港したりする可能性がある。
(5) 最初の冷戦が終結した理由の1つは、海洋でのソ連の弱さである。今回始まった冷戦に
関しては、世界最大の海軍力だけでなく、増えていく不凍港を誇る中国に同じことは言えない。
(6) ワシントンは、中東における基地の保有という中国の野望を妨げるために、いくつかの
低コストの対策を講じることができる。1つは、米国の地域の同盟国や提携国に対して、北京による基地獲得の試みを黙認することは、米国との安全保障関係を危うくすることになると明確に伝え、北京との商業的なつながりを見直すように迫ることである。外交が上手くいかなければ、Biden政権は中国軍と取引している中東の団体に制裁することを検討すべきである。米国のエネルギーについて独立性が確保され、イスラム過激派テロが抑制された現在、中東の焦点を石油とジハードから中国に移すべき時が来ている。
記事参照:Don’t Let China Get A Middle East Military Base

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) OVERCOMING THE DIEGO GARCIA STALEMATE
https://warontherocks.com/2021/07/overcoming-the-diego-garcia-stalemate/
War on the Rocks.com, July 12, 2021
Chirayu Thakkar, a visiting fellow with the Stimson Center and a doctoral candidate in international relations at the National University of Singapore
 2021年7月12日、米シンクタンクStimson CenterのChirayu Thakkar客員研究員は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに、" OVERCOMING THE DIEGO GARCIA STALEMATE "と題する論説を発表した。その中でThakkarは、チャゴス諸島に所在する米国の重要軍事拠点ディエゴガルシア島に関し、英国、米国、インドの各国政府は、インド太平洋地域の他の国々と積極的に連携し、中国政府に対して法の遵守を強く求めているが、一方で、同島が英国とモーリシャスとの間において相互に相容れない利害の対立のために争われているとし、2019年には国連が英国政府に対し、6か月以内にチャゴス諸島における「植民地統治」を停止するよう求めたことによって、中国に関する国際法と規範上の懸念を攻撃している英国の立場に行き詰まりが生じていると指摘している。そしてThakkarは、その行き詰まりを打破するには、英国とモーリシャスの利益だけでなく、他の当事国である米国とインドの利益をも満足させる提案を見つける必要があるが、具体的には、米軍による英国からのディエゴガルシア島の賃借は2036年まで続くが、交渉時に主権をめぐる紛争が再び激化するのを待つのではなく、英国とモーリシャスが同島の共同管理を一時しのぎの解決策として実施することを検討すべきであり、米国とインドはそれを奨励すべきであると主張している。

(2) Implications of 2020 and 2021 Chinese Domestic Legislative Moves in the South
China Sea
https://jamestown.org/program/implications-of-2020-and-2021-chinese-domestic-legislative-moves-in-the-south-china-sea/
China Brief, The Jamestown Foundation, July 16, 2021
By Lan Anh Nguyen Dang, a doctoral candidate at the Graduate School, Faculty of Business, Economics and Social Sciences (WiSo), at the University of Hamburg. She is also a researcher at the Institute for Chinese Studies, Vietnamese Academy of Social Sciences.
 2021年7月16日、ドイツUniversity of Hamburgの博士課程院生であり、ベトナムVietnamese Academy of Social Sciencesの研究員も務めるLan Anh Nguyen Dangは、米The Jamestown FoundationのウエブサイトChina Briefに、" Implications of 2020 and 2021 Chinese Domestic Legislative Moves in the South China Sea "と題する論説を発表した。その中でDangは、今年に入って中国で成立した中華人民共和国海警法、人民武装警察法、国防法、海上交通安全法など一連の法改正のタイミングを踏まえ、海洋問題に対する中国共産党指導部の現在の法的取り組みを明らかにするとともに、南シナ海における中国と他の関係国との間の将来的な領土紛争への示唆を得たいと述べた上で、考察結果として、①中国は改正された法律を南シナ海における中国の海洋権益の正当性を強化するための法的闘争の手段として用い、他方、曖昧な用語の戦略的な使用を引き続き継続するだろう。②法改正は法執行機関と人民解放軍との連携・協力を促進するものであり、少なくとも中国の法制度の下における単独での海洋法執行活動を合法化するとともに、その活動をより効果的に行う手段を提供するものである。③法改正は海洋強国としての中国を確立させる動きを加速させるためのより包括的な法的、経済的、軍事的枠組みの開発も示している。などと指摘している。

(3) How far would Japan really go to defend Taiwan?
https://asiatimes.com/2021/07/how-far-would-japan-really-go-to-defend-taiwan/
Asia Tiems.com, July 19, 2021
Bertil Lintner, a Swedish journalist
 7月19日、スウェーデンのジャーナリストBertil Lintnerは香港のデジタル紙Asia Timesに、“How far would Japan really go to defend Taiwan?”と題する論説を寄稿した。その中で、①7月5日、麻生副総理が、中国が侵攻した場合、東京は台湾を助けに向かうと発言した際、北京は「中国人民の国家主権と領土保全を守る決意、意志、能力を誰も過小評価してはならない」と厳しく反応した。②7月13日に発表された日本の防衛報告書2021年版は、初めて台湾周辺の「安定」を維持することが「日本の安全保障にとって重要である」と言及した。③日本の防衛報告書2021年版では、台湾を「重要な提携相手であり、友好国」と表現しており、また、世界保健機関(WHO)の意思決定機関である世界保健総会へ参加するための台湾の活動を支持すると書かれている。④台湾は、中国を中心とした防衛列島線の重要なリンクであるため、日米印豪による4カ国安全保障対話(QUAD)の直接活動には参加しない参加国、又は一応は同盟国と見なすことができる。⑤日本の憲法第9条により、自衛隊は、攻撃を受けた場合に日本を防衛することしか法的に認められていないが、麻生は、台湾は沖縄県の島々から近いため、中国の侵攻は日本の安全保障にとって「現に存在する脅威」(existential threat)となり得ると主張している。⑥米国が台湾を守ろうとするならば、「少なくとも米国は、日本にある基地の利用を必要とし、台湾で、その上空で、その周辺で戦闘行為を行うことになる」ため、日本は中立ではいられなくなる。⑦中国が台湾に侵攻することは依然として困難であり、その結果として、より広範な紛争に発展することは必至であり、日本が重要な軍事的役割を果たすことは必至である。といった主張を行っている。