海洋安全保障情報旬報 2021年6月11日-6月20日

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6月11日「コロンボ・ポートシティ計画(スリランカ)とインドの懸念―インド専門家論説」(Vivekananda International Foundation, June 11, 2021, 2021)

 6月11日付の印シンクタンクVivekananda International Foundation(VIF)のWebサイトは、VIF上席研究員Dr. Sreeradha Dattaの“Colombo Port City Project and Indian Concerns”と題する論説を掲載し、ここでSreeradha Dattaはスリランカが進めるコロンボ・ポートシティ計画に対するインドの懸念について、要旨以下のように述べている。
(1) インドとスリランカは、広範かつ持続的な2国間関係を長年にわたって享受してきた隣国である。しかし、中国がこの島国と関係を一層強固なものにしかねない最近のスリランカの決定は、インドとスリランカの2国間関係の将来に深刻かつ長期的な影響をもたらす。すなわち、5月24日にスリランカ議会で可決された「コロンボ・ポートシティ経済委員会法案(the Colombo Port City Economic Commission Bill)」はスリランカだけでなく、インドや南アジア地域にとっても特に重要である。コロンボ・ポートシティ計画は、中国の習近平主席が2014年にスリランカを訪問した際に開始され、経済特区(以下、SEZと言う)も併設される。ポートシティは、インド洋に突き出た埋め立て地に570万平方メートル余の面積で建設され、地元企業はもとより、多国籍企業やその本社も誘致するよう計画されている。この計画は、Rajapakse政権によって構想された海軍と金融ハブを受け入れる大規模な計画の一部で、スリランカ政府によれば最初の5年間で20万人近くの雇用を生み、今後5年間で少なくとも150億ドルの投資を集めると予想されている。
(2) 南アジア最大の積み替え港、コロンボ港に隣接するこのポートシティは中国に明らかな利点をもたらし、加えて現在建設中のSEZ(特別経済区、以下SEZと言う)計画を中国が支配することにも繋がる。SEZは、中国にとって雇用を創出するとともに、スリランカ以外の他の中国の生産拠点の多くを支援することが可能になるであろう。スリランカの反対派は主権の侵害であり、「中国の飛び地」を造るに等しい措置であるとして懸念を高めてきた。スリランカ政府は、この法案がスリランカ経済の転換点になると述べ、こうした懸念を退けてきた。また、Cabraal財務相は、スリランカがこの計画に対する管轄権を有していると言明するとともに、この計画では、スリランカ政府は何らの資本支出なしに巨額の民間投資を誘致することができたと説明している。
(3) しかし、このプロジェクトは明らかに、目に見えるもの以上のものを内包している。確かに、商業活動や事業活動は他の隣国に対する脅威と見なす多くの理由はないが、この地域に対する中国の関心は新しいものではなく、しかも中国は南アジアで基幹施設計画を構築しているだけではない。この地域における中国の持続的な2国間関係の多くは、当該諸国が必要とし、かつ戦略的価値を有する道路、橋梁、港湾、及びその他の物理的基幹施設の建設と開発支援を中核としてきた。スリランカは、中国のかかる政策の主要な受益国の1つである。特筆すべきは、中国がハンバントタに港を建設するなど、スリランカに70億ドルの融資を提供してきたことである。ハンバントタ港は、2017年にコロンボが北京からの融資を返済できないという理由で、この港を99年間中国企業にリースせざるを得なかった、最も論議の的となった計画の1つである。それでもまだ、コロンボはハンバントタ港建設のために中国輸出入銀行から受けた5件の融資を返済しなければならない。その意味で、港のリースは、資産の株式と引き換えに債務を取り消す「債務の株式化(a debt-equity swap)」ではない。興味深いことに、この経験はスリランカが中国と組む将来の計画を妨げることにはならず、その最新の事例の1つがポートシティである。しかも、スリランカは首都コロンボに主要高速道路を建設するためのもう1つの主要な計画をポートシティを担当する同じ中国企業に委託しているのである。さらに、中国は「海上シルクロード構想」の下、スリランカへの約240億ドル相当の投資も約束している。
(4) 中国は、海洋と戦略的主導権を通じてインド洋を支配しようとする意図を隠していない。中国はより強力なプレゼンスを確保しようとしているが、インドもまた、インド洋での2国間あるいは多国間軍事演習を増やしてきた。しかし、中印両国間の緊張の歴史と、この地域に対する中国の持続的な関心とを考えれば、重要なことはこの地域における北京の計画の多くがインドを視野に入れたものであると主張することは場違いではないであろう。これらの計画の多くは、中国がこの地域に対するインドの利益を無視するとともに、南アジア地域諸国に対する自国の増大する影響力として活用しようとするものと指摘されてきた。このポートシティ計画はインド沿岸から300km未満の位置にあり、この海域は印中両国にとっても、また他の多くのインド洋沿岸諸国とっても重要な海域である。日本、インド及びスリランカによる総額推定5億~7億ドルの合同計画であったコロンボ港の東コンテナターミナルの開発に関する3国間協定をコロンボが廃棄したことによっても、インドの懸念は高まっている。また、既に指摘されてきたように、ニューデリーはこれが安全保障上の懸念に影響を及ぼすばかりでなく、スリランカとインドのいずれの側も自国の港湾を他方の安全保障などに影響を及ぼす活動のために使用しないと誓約した1987年の合意に違反していると感じている。
(5) インドとスリランカは、経済貿易関係を進化させる手段を模索しており、幾つかの地域機構の加盟国として、2国間および多国間の相互関係のレベルを改善することに、持続的な関心を持っている。しかしながら、この関係をより高いレベルに引き上げるには、コロンボがインドの安全保障利益に対する十分な感受性を欠いているとのインドの不安を理解した上で、それに適切に対処することが不可欠である。隣国同士は、レトリックを超えた実務関係を再考し、隣国関係を強化する方法を模索する必要がある。中核的な安全保障利益が危機に瀕している時には、単なる言葉による保証だけでは不十分である。根底にある緊張に対処するために、2つの友好的な隣国間の明確な意思疎通が、当面の優先事項でなければならない。
記事参照:Colombo Port City Project and Indian Concerns

6月12日「海上民兵部隊を増強するベトナム―日経済紙報道」(Nikkei Asia, June 12, 2021)

 6月12日付の日経済紙Nikkei Asia電子版は、“Vietnam expands maritime militia off southern coast”と題する記事を掲載し、ベトナムが海上民兵部隊を新設したことに言及し、その背景と目的および意義について、要旨以下のように報じている。
(1) 南シナ海における緊張が高まるなか、ベトナムはキエンザン省に新たな海上民兵部隊(Permanent Maritime Militia Unit)を設置した。同省はタイ湾に面し、ベトナムが石油、ガスの開発を拡大させている場所であり、そこに民兵部隊を配置したことはベトナムがキエンザン省沖海域を重要視していることを示している。この海上民兵部隊は漁業活動の保護や周辺海域の哨戒に従事するであろう。
(2) The Defense Ministry(国防省)によれば、新たに創設された海上民兵部隊の役割は「ベトナムの海と島々の主権をともに守る」ことである。同様の新設部隊としては、4月以降でこれは2つめである。ひとつめは、南部ベトナムの石油ガス産業センターであるバリアブンタウ省に、131人の人員から構成される部隊が配備された。
(3) この新部隊の創設が決定されたのは、南シナ海の緊張が高まり、6月16日にASEAN諸国の国防相がビデオ会議を行う直前のことであった。なおこのビデオ会議には、ASEAN以外に中国、米国、インド、日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、ロシアも参加すると期待されている。
(4) 南シナ海における中国の活動は、ASEAN加盟国との間に対立をもたらしている。3月、フィリピンは約200隻もの中国船がウィットサン礁周辺に集結したこと、5月に再び100隻以上が集結したことを非難した。また中国海警は5月から9月半ばまでの間、渤海から南シナ海にかけての中国沿岸における禁漁期間を設定し、取り締まりを行っている。禁漁の範囲は南シナ海の北緯12度以北で、そこはトンキン湾や、ベトナムが領有権を主張する西沙諸島が含まれ、その方針はベトナムの反発を招いている。マレーシア空軍は中国の輸送機が領空侵犯寸前まで近づいたことを発表した。
(5) ベトナムの専門家たちは、中国が海上民兵部隊を増強させ、ベトナムやフィリピン周辺の海域で違法に活動し、漁業活動や石油、ガス開発を妨害してきたことを指摘している。ベトナム政府はこうした中国側の行動に対し、厳しい姿勢を示してきた。ベトナムは2018年以降海上民兵部隊の増強を計画し、2019年の防衛白書において初めてその部隊の配置を認めることとなった。現在、民兵部隊に配備される船舶が、港湾都市ハイフォンで建造中である。その船舶には最新鋭の情報通信・探査装置が装備されるであろう。
(6) シンガポールのシンクタンクISEAS-Yusof Ishak InstituteのHa Hoang Hopによれば、ベトナムの決定は、中国の法律改正によって中国海警が外国船に攻撃可能な準軍事組織へと変容したことへの対応だという。「ベトナムはグレーゾーンにおける行動能力の強化」を模索してきたと指摘するのはハワイのDaniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies教授Alexander L. Vuvingである。しかし彼の指摘によれば、ベトナムの民兵部隊の規模は中国にはるかに劣っているという。
(7) またVuvingは、キエンザン省は中国から離れ、西側がタイランド湾に面しており、南シナ海の対立とは関わりが薄い場所であることを指摘する。Vuvingによればこの新設された民兵自体の活動はタイ湾でのものが中心となるであろう。この民兵新設に対して中国、その他地域の国々がどう反応するかは、ASEANの国防大臣らの会合によって明らかになるであろう。
記事参照:Vietnam expands maritime militia off southern coast

6月12日「南シナ海で活発になるカナダの動き―カナダ専門家論説」(The Diplomat, June 12, 2021)

 6月12日付デジタル誌The Diplomatは、カナダUniversity of WaterlooのJacob Benjaminの” Look for an Increasingly Active Canada in the South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでBenjaminは中国と「核心的利益」について衝突しているカナダは今後も南シナ海での争いに参入していくであろうとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2016年、カナダの保守系上院議員Thanh Hai Ngoは南シナ海における中国の冒険主義に対して、カナダが「原則的な立場」を取るよう求める動議を提出した。そして、2018年4月に採択されたこの動議は拘束力がないが、その中心となる命題は政策として実現しつつある。第1に、Trudeau政権はすべての当事国に一律に国際法を遵守するように唱えるだけだった頃とは異なり、中国に具体的な非難を向ける姿勢へと変った。第2に、カナダ海軍(以下、RCNと言う)が南シナ海を航行したり、係争中の島々の近くを航過したりすることは、中国に立ち向かう決意を固めたカナダの姿を示している。
(2) RCNはこれまでも、台湾海峡や南シナ海を通過し、北京を怒らせたことがある。最近では2021年3月29日から30日にかけて、フリゲート「カルガリー」が、ブルネイからベトナムに向かう際に南沙諸島付近を航過した。カナダが米国の「航行の自由作戦」(以下、FONOPと言う)に参加していないとしても、南シナ海におけるRCNの存在感は、高まっている。カナダ政府は、駆逐艦「オタワ」による2020年の南シナ海での航行について、最も親密な提携国や同盟国、地域の安全保障、法に基づく国際秩序に対するカナダの態度を示したと公表した。
(3)カナダは、南シナ海を管轄する国や地域との連携も強化している。2020年11月初旬、ハノイで開催された第12回南シナ海国際会議で、Harjit Sajjanカナダ国防相が発表し、「カナダは、地域の緊張を拡大させ、南シナ海の安定性を損なう一方的な行動に反対し、武力による威嚇や使用、大規模な埋め立て、紛争地に前哨基地を建設し、軍事目的に使用することに反対する」と述べている。彼は翌12月の拡大ASEAN国防相会議にも出席している。
(4) 2016年、Trudeau首相は日本の安倍晋三首相と会談し、日加共同の人道的取り組みを公に強調したが、報道陣との対話では南シナ海問題を完全に避けていると批判された。また、フィリピンで開催された2015年のAPEC首脳会議で報道陣に語った際にも、紛争の犯人を特定しないようにしていた。しかし、オタワの態度は変化し、2021年4月、Sajjan国防相は英連邦議会の中国特別委員会で、カナダは軍事目的での紛争地域の土地埋め立て計画や前哨基地の建設に反対すると述べた。そして、駐フィリピンのカナダ大使Peter MacArthurは、3月24日のツイートで、カナダは フィリピン沖を含む南シナ海での最近の中国の行動に反対すると述べている。
(5) 現在、カナダは米国主導の南シナ海でのFONOPに参加すべきかどうかという大きな問題を抱えている。カナダが沈黙を保っているのは、米国が国際的な航路であると主張しているカナダ領の北極諸島を通る北西航路をめぐるカナダと米国の紛争に影響するとの懸念からである。カナダの北極圏主権への関心が南シナ海への引き金にもなっている。心配なのは、Ngoが強調したように 2016年、中国海事安全機構は北西航路の詳細な海運ガイドブックを発行し、2017年の9月、新華社通信が砕氷船「雪龍」が 北西航路を通る中国船のために豊富なデータ収集をしたと報じたことである。中国がすでに、カナダが内海と主張する水路を航行するのであれば、なぜカナダは何兆ドルもの国際貿易が行われている外洋(南シナ海を指していると思われる:訳者注)を航行することを躊躇するのだろうか。
(6) 他の分野での加中関係の悪化も、カナダが南シナ海への関与を強める要因となっている。現在進行中のファーウェイの孟晩舟問題とその報復として中国による2人のカナダ人の拘束は、中国に対するTrudeau政権の積極的な政策のきっかけとなっている。その上、他の多くの西洋諸国と同様に、カナダは中国と「核心的利益」について衝突している。オタワは国連で香港の国家安全保障法に反対し、米国主導の世界保健機関における台湾のオブザーバー資格を求める運動を支持し、中国が新疆で行っているウイグル人への虐待を非難し続けている。2020年夏の世論調査では、カナダ人の36%が中国を「やや好ましくない」、37%が「非常に好ましくない」と回答している。このような状況下で、カナダは今後も南シナ海での争いに参入していくことが予想される。
記事参照:Look for an Increasingly Active Canada in the South China Sea

6月12日「米国は中国に台湾の軍事的解放の夢を見続けさせよー香港紙報道」(South China Morning Post, 12 Jun, 2021)

 6月12日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“US may have to keep China guessing over Taiwan, says former Nato commander”と題する記事を掲載し、米国では対台湾政策に関し、「戦略的曖昧性」の政策を転換すべしとする意見と維持すべきとする意見に分かれているが、台湾の研究者はこの動きは最近に政策に目的がないことによると指摘しており、その台湾は防衛戦略について、非対称戦を念頭に「整體防衛構想(Overall Defense Concept)」に転換しつつある。このような状況を踏まえ元NATO連合軍最高司令官James Stavridisは「戦略的曖昧性」からの転換は問題で、米国民の反応も定かではないと指摘した上で、中国が武力による再統一を行わない可能性はあるとする一方、米国は全ての状況に対応できる準備が必要としているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 米国は長い間、曖昧性が北京を慎重な姿勢に留まらせ、台北を独立宣言のやる気を失
わせることを期待して中台間で生起しそうな戦争への対応についてその概要を繰り返してきた。元NATO欧州連合軍最高司令官James Stavridis米海軍退役大将は、「戦略的明確さ」へ移行するか否かの疑問は複雑であるとして、「台湾防衛のために米国が軍事行動を採ることを知っていれば、『賛成派』は中国の計算に対しさらなる抑止力を加えるだろう。『反対派』はそのような強い約束について米国民がどのように感じるかは明らかではない」とした上で、現時点ではBiden政権は戦略的曖昧性の政策を継続するようであると付け加えている。3月、US Indo-Pacific Command司令官Philip Davidson(当時)は、上院公聴会で戦略的曖昧性の政策は再度評価し直すべきであると述べている。Davidsonはまた、中台間の戦争は今後6年以内に生起すると警告しており、この見方は後任者John Aquilinoも共有している。
(2) 台湾シンクタンクThe Global Taiwan Instituteアジア安全保障問題専門家Shirley Kan
は、同じような議論が1995年-1996年の台湾海峡危機の後にも行われていたと言う。
米国が「戦略的曖昧性」からKanが言うところの「戦略的成功」へ移行する理由は最近の政策に目的が欠落しているからであるとKanは言う。「我々の戦略には目的が必要である。政策立案者は平和的解決を求めて、明らかに立ち止まっている。戦略目的は強力で民主的な台湾でなければならない。それによって人民解放軍を抑止し、世界の勢力均衡において自由のための勢力であり続け、国際社会における正統な構成員として生存できるのである」とKanはThe Global Taiwan Instituteの研究ノートに記している。
(3) Stavridisは、中国が世界の超大国となることを推進しているため、中台間の紛争の危
険性を警告している。「米国は明らかにより台湾寄りになりつつある。それは、増加する高性能兵器の売却、情報及び情報資料の一層の利用、追加のサイバーセキュリティ、訓練及び演習、高官級の訪問及び交流に明確に現れている」とStavridisは言う。中国軍が兵員数、兵器開発において圧倒的進歩を遂げているとの認識から、台湾はその軍事戦略を「非対称戦」に備えるよう再構築しつつある。事実、胡錦濤、習近平を含む中国指導部は人民解放軍を近代化し、2049年までに「世界レベル」の軍にすべく推進してきている。
(4)「焦点は、台湾が海峡支配をめぐる戦いをある程度可能にすることからイエメンにおいて反政府勢力フーシが採ったような取り組みに移行してきている。フーシはUAVや巡航ミサイルではるかに有力なサウジアラビア連合の生活をかなり厳しいものにしている」と英安全保障シンクタンクRoyal United Services Instituteの海洋安全保障専門家 Sidharth Kaushalは言う。Kaushalによれば、ある研究は侵攻してくる水陸両用戦部隊の比較的小さなパーセントでも排除すれば、台湾への海上からの侵攻は不可能ではないにしても困難なものになると推測している。非対称戦に対する台北の戦略は、李喜明元参謀総長が11月にThe Diplomat Magazineで「多くの小さなもの」と表現した「整體防衛構想(Overall Defense Concept)」(李喜明によれば、整體防衛構想は台湾の既存の自然優位性、民間施設、非対称戦闘能力に焦点を当て、台湾の軍隊の統合と共同作戦を支配する戦略的概念とされている:訳者注)である。李喜明はより安価で、可搬式のUAVやハープーンミサイル防衛システムのような兵器やゲリラ戦を戦う能力を強化するその他のものの調達を優先すべきであると主張している。
(5) Stavridisは、中国が武力をもって再統一を試みないという望みがある一方、米国は依然
として全ての可能性のある事態に備える必要があるとして、「中国が近い将来に再統一を優先しないことを期待している。しかし、期待は決して良い戦略ではない。この5年間に起こるかもしれない動きに米国は備えなければならない」と述べている。
記事参照:US may have to keep China guessing over Taiwan, says former Nato commander

6月14日「イエメンのフーシ派が紅海に大量の機雷を敷設―イスラエルフリーライター論説」(Breaking Defense, June 14, 2021)

 6月14日付の米国防関連デジタル誌Breaking Defenseは、イスラエルのフリーライターArie Egoziによる“Houthis Lay Sea Mines In Red Sea; Coalition Boasts Few Minesweepers”と題する論説を掲載し、イエメンの反政府勢力フーシ派が紅海に敷設した機雷について、要旨以下のように述べている。
(1) イエメンの反政府勢力フーシ派が、米海軍や他の同盟国の船舶が航行する紅海の南部
に機雷を敷設しており、船舶輸送に重大な脅威を与える可能性がある。サウジアラビア主導の連合軍はこの問題に取り組もうとしたが、有用な方法がほとんどない。サウジアラビアの国営テレビが報じたところによると、アラブ連合は6月11日、紅海南部でフーシ派民兵組織が敷設した機雷を発見し、破壊した。連合によると、それはイラン製の「サダフ」機雷だったという。これで171個の機雷が発見され、破壊されたことになるという。推定では、フーシ派は紅海とアラビア海に「数百個の機雷」を敷設している。専門家によれば、地雷のほとんどは浮遊型であり、海軍の艦艇や貨物船が発見して報告したものである。
(2) 中東の情報筋によれば、機雷のほとんどはフーシ派が外洋に放出した浮遊機雷である。
そして、これを補完する水深16メートルに敷設された機雷原がある。これらの機雷は、その上を船舶が通過することで作動する。連合軍は6月の第2週、バブ・エル・マンデブに近い、紅海のハニシュ諸島の南で、このようないくつかの機雷原をやっとのことで発見した。米国は、機雷掃海の手段も不足している。米海軍は、老朽化した掃海部隊を運用しており、機雷への強固な対応力を欠いている。2017年以降、フーシ派の機雷が原因で、サウジアラビアとイエメンの船舶で死者やそれらの船体に損害が出ている。
(3) 情報筋によると、イランは膨大な数の機雷を保有しており、イエメンの反政府勢力で
あるフーシ派に多くの種類の機雷を譲渡している。情報筋曰く、イランが貯蔵する兵器には、音響感応式、磁気感応式及び触発式の機雷があるという。一部には、イラン製のものもあれば、ロシアや中国から供給されたものもある。
(4) イランのMohammad Javad Zarif外相は、重要な商業航路であるホルムズ海峡を閉鎖す
ると警告した後、「我々には、それを確実に実行する能力がある。しかし、ホルムズ海峡とペルシャ湾は我々の生命線なので、それを実行したいとは思わない」と述べている。イランの政府関係者が、このようなことを率直に語るのは珍しいことである。
記事参照:Houthis Lay Sea Mines In Red Sea; Coalition Boasts Few Minesweepers

6月14日「中印対立の新たな火種:アンダマン海―シンガポール・インド専門家論説」(South China Morning Post, June 14, 2021)

 6月14日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、National University of SingaporeのInstitute of South Asian Studies研究員Yogesh Joshiの“China and India’s maritime rivalry has a new flashpoint: the Andaman Sea”と題する論説を掲載し、そこでJoshiはここ最近でインド洋東部のアンダマン海が中印対立の焦点の1つになっているとして、その戦略的重要性について要旨以下のように述べている。
(1) 最近になってアンダマン海が、インド洋における中印対立の火種になりつつある。6月初め、インド海軍は中国の調査船「大洋1号」が、アンダマン・ニコバル諸島沖のインドの排他的経済水域圏内に侵入しているのを発見し、それを追い払ったが、これは中国のインド洋に対する関心の高まりを示す一例である。
(2) インド洋における中国のプレゼンスはここ10年間で急増しており、中国人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)の艦船、潜水艦、調査船の活動が活発になっている。インドの裏庭であるインド洋におけるPLANの活動に、インド政府は繰り返し懸念を表明してきた。とりわけ、アンダマン海周辺での活動はインド海軍にとっては不愉快なものである。
(3) アンダマン・ニコバル諸島はインドに多大な利点を提供する。同諸島の支配はマラッカ海峡を支配することと同義であるし、それはまたインドがベンガル湾や東南アジアに軍事力を投射することを可能にする、いわば不沈空母である。もし中印間に海上で衝突が起きた場合、同諸島がインドの第1防衛線を形成することになるであろう。
(4) それに対し中国は、あらゆる手を尽くして、インドによるアンダマン海の支配に挑戦している。遅くとも2012年以降から中国は、アンダマン海周辺で潜水艦による哨戒を定期的に実施しており、インド海軍によれば3ヵ月間に平均3、4回、中国潜水艦の活動が確認されている。中国がアンダマン海に注目するのは、いわゆるマラッカ・ジレンマゆえのことである。中国経済はマラッカ海峡を通航する物資に大きく依存しており、潜在的敵国がこのライフラインを途絶する可能性を中国は強く警戒している。
(5) 中国は一帯一路構想のもと、アンダマン海沿いの開発も進めている。たとえば中国・ミャンマー経済回廊の基幹計画の1つとして、ベンガル湾に面するチャウピューに大深水港を建設中である。またタイ湾とアンダマン海をつなぐクラ運河の建設が計画されており、クラ運河は中国が東インドへ容易に出入りすることを可能にするだろう。
(6)アンダマン海周辺における中国の政治的・経済的利益に対する脅威に対抗するためのPLANの戦略はシー・ディナイアルであり、潜水艦などを利用し、これらの海域をインドが支配するのを妨害しようと試みている。それに対するインドの戦略は、アンダマン・ニコバル諸島の軍事的・経済的基幹施設開発を進めることと、より重要なこととして、インド海軍の海洋哨戒能力を高めることである。現在、大ニコバル島東部に位置するキャンベル・ベイの航空基地が増強されており、3,000m級の滑走路が完成すれば、P-8I哨戒機をそこから発進させることができるようになる。
(7) アンダマン海が中印対立の新たな焦点になりつつあるものの、これは必ずしも両海軍の衝突が不可避であることを意味しない。しかし今後、アンダマン海周辺では、これまでよりも頻繁に両海軍の小競り合いが目撃されることになるであろう。
記事参照:China and India’s maritime rivalry has a new flashpoint: the Andaman Sea

6月15日「ヨーロッパとアジアの架橋を模索するBiden大統領の対外政策―米アジア太平洋専門家論説」(The National Interest, June 15, 2021)

 6月15日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、米保守系シンクタンクHudson Instituteのアジア太平洋安全保障議長Patrick M. Croninの“Joe Biden’s Transatlantic Bridge to the Indo-Pacific Region”と題する論説を掲載し、そこでCroninはBiden大統領のヨーロッパ外遊について言及し、中国の世界的影響力が高まる中、Biden大統領の対外方針がヨーロッパとアジアを結びつけることであること、Trump前政権との間に連続性がありつつも大きな相違があることについて、要旨以下のとおり述べた。
(1) 米国のBiden大統領がヨーロッパへの外遊を行った。目的地は英国のカービス・ベイ、ベルギーのブリュッセル、スイスのジュネーブである。その目的は、欧州諸国とアジア政策について議論し、中国への対抗のために民主主義諸国の連帯を強めることである。Trumpの「アメリカ・ファースト」外交における米国の指導力の欠如が批判されてきた中で、積極的に同盟国を結集することは、Biden政権の大戦略の核心である。
(2) ちょうど80年前、米国のRoosevelt大統領と英国のChurchill首相の間で大西洋憲章が発表された時のように、カービス・ベイでは米英首脳の間で「新大西洋憲章」が発表された。それは「民主主義と開かれた社会の原則、価値、制度を擁護」し、「法に基づく国際秩序」の維持を強く決意するものである。こうした原則を支持する、同じ志を持つ国々を結集させることが米国の目的であるが、それは簡単なことではない。
(3) 新大西洋憲章の発表の翌日からインド、韓国、オーストラリア、南アフリカ、EU代表も参加したG7首脳会談が実施された。発表された共同声明は、新大西洋憲章における原則をより具体化したものであった。それによれば、「信念の共有と責任の共有こそが指導力と繁栄の基盤」である。そして、彼らは「自由で公正な貿易」とグリーン革命の推進、「自由、平等、法の支配、人権の尊重」という価値観の促進を誓った。
(4) 将来の気候変動の影響を抑制しつつ、COVID-19に打ち勝つという構想において、G7+の首脳らが暗黙裡に合意したのは、中国との競合が決定的に重要だということだ。そのうえで彼らはコロナウイルスの起源に関する科学的研究を呼びかけ、また「あらゆる形態の労働力」に対する懸念を表明し、「台湾海峡を跨いだ平和と安定の重要性」を強調した。共同声明で中国が名指しされることはほとんどなかったが、駐英中国大使は、そのサミットが米国らの「邪悪な意図をあからさまにしている」と批判した。
(5) 次の訪問先のブリュッセルでBidenはNATOの首脳と会合した。ここでは、ロシアだけでなく中国の悪意ある行動を食い止めることが重要であるという合意がなされた。NATO首脳会談の共同声明では、現在NATOが直面している「多面的な脅威」は、「中国のますます増大する影響力とその国際的方針」であり、「同盟の安全保障上の利益を守るという観点から、中国に関与していく」べきであるとされた。さらに、中国の「威圧的な方針は……ワシントン条約(北大西洋条約)が標榜する根本的価値と対照的なものだ」とすら述べられている。これに対して中国側は、台湾の防空識別圏に20機を超える戦闘機・爆撃機の編隊を派遣するという形で応えた。
(6) Biden大統領のヨーロッパ外遊の最大の目的は、ヨーロッパとアジアを結びつけることだ。習近平の一帯一路構想によって、近年ヨーロッパにおける中国の影響力が増大するなか、Bidenは同盟の再構築を目指すのである。その具体的な手段のひとつが基幹施設開発の促進であり、たとえば「世界をより良く元に戻す(Build Back Better World)」構想は、第4次産業革命にとって重要なテレコミュニケーション開発のための投資を促すものである。
(7) 日本をはじめとするインド太平洋地域における米国の同盟国・提携国パートナーが、ヨーロッパで脚光を浴びた。日米同盟は米国にとってきわめて重要な同盟のひとつであり、「自由で開かれたインド太平洋」という考え方は、日米豪印4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)をきっかけに日本が唱導したものである。G7サミットにQUADの他の参加国が招待されたのもそれが背景である。また、米国の同盟国で朝鮮半島および周辺地域の安全保障にとって重要な存在である韓国が招待されたのも同様である。こうして、ヨーロッパの指導者とアジア太平洋地域の主要な民主主義国の指導者は、ともに、法に基づく国際秩序の維持のために緊密に連携する意図を表明したのであった。
(8) 法に基づく国際秩序に対抗するのは、中国だけでなく、ロシアもそうである。ロシアによる挑戦としては、サイバー攻撃やイランへの先進的衛星システムの供給の準備、米潜水艦による即応演習を追跡するための演習の実施などがある。ただしロシアは、自由主義的な国際秩序への対抗のために、必ずしも協調しているわけではない。Bidenはロシアとの間で何らかの暫定協定に合意する必要があると考えている。最後の訪問地ジュネーブではロシアのPutin大統領と首脳会談が行われたが、中立国スイスの首都は米ロの首脳会談を実施するのにふさわしい場所だったであろう。
(9) ヨーロッパ諸国とアジア諸国の民主的連帯を強化することで、Bidenはロシアとの交渉やおそらく2021年の後半に習近平との会談が実施される中国との交渉において有利な立場に立つことができる。中国専門家の中には、BidenがTrump政権の強硬な方針を採用し、最大の貿易相手国との対決姿勢を採っていることを批判する者もいる。しかし大統領が目指しているのは、より有利な立場から中国との「協調」を模索することである。
(10) こうしたBidenの姿勢には、Trumpとの間に少なくとも5つの違いがある。第1にBidenは同盟との協働に重きを置き、第2に多国間交渉を約束しているという点がある。これによって前政権の単独行動主義や、それに由来する予測不可能性が和らげられることとなる。今後米国がその方針を維持し続けるかどうかはわからないが、少なくともBidenの今の方針は、決定的に重要な問題に対処するためには米国の指導力が必要不可欠であることを世界に知らしめることとなろう。
(11) 3つ目の違いとして、Bidenが人権問題を心から気にかけていることである。米国の対外政策が、新疆ウイグル自治区や香港における中国のやり方を変えられるかどうかはわからないが、人間の尊厳こそが重要であり、民主主義こそが個人の自由を保障するという立場を米国ははっきりさせている。それはNATOの共同声明においても示されたものである。
(12) 4つ目の違いは、Biden政権は米国の行動能力を向上させることにより、調整可能な対立・競合の争点と、そうではない脅威を区別しようとしていることである。たとえば、Biden政権はサプライチェーンの安全に関する100日レビューにおいて、Huaweiなど59の中国のテクノロジー企業に対する投資を禁ずるという方針を継続したが、一方で、TikTokやWeChatなどに科していた制裁を撤回したのである。それは人気のあるコミュニケーション・ツールであり、ビッグデータ収集など、ほとんど直接的な脅威を持たないという判断からだと言える。
(13) 最後の違いとして、Bidenは今後おそらく、中国を戦略的な対話に招くだろうということである。気候変動問題や貿易が重要な議題となるであろう。解決は容易ではない複雑な議題ではあるが、議論が前向きに進む可能性は高い。核兵器や極超音速ミサイル、無人兵器などに関する議論、そして協調を中国が望んでいるかははっきりしないが、それでもなお、海や空、宇宙、サイバー空間などにおける危険な遭遇を回避することが重要であるという考えを共有することはできよう。
(14) 結局のところ、米中対立でどちらが勝利するにせよ、それは覇権に基づく秩序に過ぎないという皮肉な意見もあるだろう。しかし習近平の展望とBiden大統領の展望は決定的に異なるものである。中国の速やかなCOVID-19世界的感染拡大からの復活は、専制主義的な体制の有利な点を見せつけているかもしれない。しかし米国もまた国内の感染拡大を抑制しつつ、世界中にワクチンを打つ計画に着手している。もし志を同じくする国々がこの計画を実施できるようであれば、民主的な価値観および、大西洋と太平洋をまたぐ民主主義国による連帯がいかに意義あるものであるかを世界に示すことができるだろう。
記事参照:Joe Biden’s Transatlantic Bridge to the Indo-Pacific Region

6月15日「新しいトルコのドックでもロシアの根深い造船問題は解決しない―ロシア専門家論説」(Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, June 15, 2021)

 6月15日付の米シンクタンクThe Jamestown FoundationのウエブサイトEurasia Daily Monitorは、ユーラシアの民族問題及び宗教問題の専門家Paul Gobleの“New Turkish-Built Dry Dock Will Not Solve Russia’s Deeper Shipbuilding Problems”と題する論説を掲載し、      Paul Gobleはロシアが新たにトルコから浮ドックを購入するという契約を結んだが、これはロシアの造船業界の根深い問題を解決することにはならないとして要旨以下のように述べている。
(1) 軍民両方のロシアの造船部門を悩ませている問題は極めて深く、しかも広範囲に及ん
でいる。ロシア政府がロシア北部に巨大な浮ドックを建設する契約をトルコと結ぶという決定でさえ、それらの問題を克服することはできない。この契約は、7年間に及ぶロシアの造船の衰退の原因となったロシアへの制裁の破綻を示すものである。ロシア政府が外国に頼るというこの決定は、近年建造される船舶の数が毎年減少しているというロシア国内の造船産業の欠陥を表している。ロシアの造船業界は船が立入禁止の埠頭で沈没したり、造船所の中で転覆したり、新造された船に欠点がすぐに発見されるなどの恥ずべき事故の増加に苦しんでいる。ロシアだけの数社が入札に失敗した後で、トルコのKuzeyStar造船所が契約を獲得した。ロシアの造船所はロシア政府の条件と価格を満たすことができず、ロシア占領下のクリミアの新しい造船所が契約を獲得するという希望は崩壊した。トルコは、ロシア政府が北極圏に使用される予定の新世代の砕氷船を建設するのに十分な大きさの30,000トンの容量を持つ浮ドライドックを建設する。ロシア北部で現在利用可能な唯一の既存のドックは、新しい北極圏対応の船舶を建造するのには規模が小さすぎる。そのようなドックの必要性は2015年以来ロシアで議論されてきたが、ロシアはそれを建造することができなかった。トルコの作る新しい浮きドックが、3年前に沈没した古いロシアの浮きドックの代替となる。ロシアの巨大なPD-50浮きドックが沈んだしまったことは、砕氷船の建造とその他の大型海軍艦艇の改修を不可能にした。トルコの造船会社にはロシアからこの浮きドック建造のために約7,000万ドルが支払われ、2022年の夏までにロシア側に納入することになっている。
(2) トルコの建造する浮きドックは、ロシアの造船能力に少しは助けとなるかもしれない
が、ロシア造船部門の慢性的で根本的な問題を解決はしない。3年前、ロシア当局はロシアの造船所が大洋をめざす大型の海軍艦艇の建造を行うことはできず、代わりに沿岸防衛と捜索救助のための小型艦艇の造船に集中することを認めた。同時に、ロシアの造船会社は、Putin大統領にさえも直接嘘をつくことにより、造船業界の悪い出来事を隠そうとしてきた。しかし、モスクワのThe Higher School of Economics(高等経済学院)は国内造船部門内の困難の程度の一部を明らかにした。その調査によると、ロシアの造船所は2014年に20,000トンを超える252隻の船を生産したが、その数は2018年にはわずか108隻に減少し、2019年には79隻となった。コロナ感染拡大の見られた2020年の生産は、ほぼ確実にそれよりも小さかった。コロナ感染拡大が収まれば、その数は増えるかもしれないが、トルコの作るドライドックを使用しても、すぐには2014年のレベルに到達する可能性は低い。The Higher School of Economicsの調査によると、民間船の数は軍艦よりもさらに急速に減少している。北極海航路を横断するすべての船舶はロシア国内で建造され、ロシア国旗を掲げて運航されなければならないというPutinの最近の大統領令に関して、それは深刻な問題となっている。少なくとも今のところ、その法令が施行される可能性は低いと思われ、専門家はすでに例外が確実に認められるであろうと指摘している。しかし、これらの例外が段階的に廃止された場合、多くのロシア国産船舶が突然に必要となることは3隻の新たな空母の建造などのいくつかの公表された軍事プロジェクトを含む造船計画を延期しなければならないことを意味する。The Center for the Analysis of Strategy and TechnologyのKonstantin Makiyenkoのようなロシアの専門家は、ロシアの海軍造船所は大きな問題があり予算は増え続けるが、何も出てこないと言う。(原子力潜水艦は、崩壊していない唯一の部門であると彼は言う)。Makiyenkoはすべての造船を単一の企業に統一し、そこに腐敗した無能な責任者を配置したクレムリンの決定を非難している。現在、Makiyenkoは「実質的にすべての」造船計画は予定より遅れ、建造費は予算をはるかに超えており、船舶の就役がいつになるか、完成した船の費用がどうなるかは誰も知らないと言う。ロシア政府にとって良くないことに、船が大きくなり、重要なほど、これらの問題が大きくなっている。クレムリンが設立した持株会社でもあるこの統一された造船会社は、銀行に対する債務を抱え続けており、政府は企業を救済せざるを得ない。それでも、新しい資金のほとんどは何か新しいものを建設するのではなく、古い借金を返すために消えていっている。Makiyenkoは、政府の保護の下で「様々な国営工場」がほとんど監督されておらず、今日の状況は多かれ少なかれ10-15年前から続いており、すべての政府と企業は改革に反対していると述べている。Makiyenkoは、The Unified Shipbuilding Corporationは「ロシアの軍事産業部門に対する政府の保持取り決めの結果として作成されたものの中で、最も効果のない政府企業である可能性が高い。ロシア政府が今トルコに目を向けなければならなかったことは、その悲しい現実を強調するだけである」と結論付けている。
(3) トルコがロシア北部に新しいドライドックを建造することは、これらの根本的な問題の解決にはならない。それはロシアの造船所がしばらくの間、改革されずに停滞していることを可能にするかもしれない。しかし、ロシア政府がここで根本的な変更を加えない限り、ロシアの造船部門の衰退は続き、ロシア政府は政策を変更したり、他国で建造された船を買うことを余儀なくされるであろう。他国で建造された船を買うことは、財政的にも政治的にも高くつく。それはPutinのロシアが望んでいることでもないのである。
記事参照:New Turkish-Built Dry Dock Will Not Solve Russia’s Deeper Shipbuilding Problems

6月15日「中国3隻目の空母、形を成し始めるー米専門家分析」(Center for Strategic and International Studies, June 15, 2021)

 6月15日の米シンクタンクThe Center for Strategic and International Studiesのウエブサイトは、英iDeas Labのデータ分析上席研究員兼The Center for Strategic and International StudiesのThe China Power Project上席研究員Matthew P. Funaiole、The Center for Strategic and International Studies兼iDeas Lab画像分析非常勤上席研究員Joseph S. Bermudez, Jr.、The Center for Strategic and International StudiesのThe China Power Project研究助手Brian Hartの3名による“China’s Third Aircraft Carrier Takes Shape”と題する衛星画像分析結果を掲載し、上記3名は建造中の中国の3隻目の空母は明らかにならない部分は多いが、要目的には米キティー・ホーク級空母に匹敵し、蒸気カタパルトを飛び越えて電磁カタパルトを使用したCATOBAR方式を採用することと航空機運用の幅が大きく広がり、同艦が就役した暁には中国海軍はインド洋、太平洋においてより効果的な戦力投射能力を手に入れるとして、要旨以下のように分析結果を報じている。
(1) 最近の民間衛星画像は、一般にType003として知られる中国の3隻目の空母建造がかな
り進捗していることを明らかにしている。同空母は、人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)最大の水上艦艇となる予定であり、中国の海軍力を著しく高めるものである。Type003の建造は少なくとも2018年後半から行われている。過去数ヶ月の間で、事前艤装が施された船体ブロックが組み立てられてきた。2021年3月30日付の衛星写真は飛行甲板が部分的に完成していることを示している。実施しなければならない工程は残っているもののType003の状況を分析すると同艦の要目について重要なものが見えてくる。
(2) Type003は、「遼寧」、「山東」よりかなり大型で、CSISの推定では水線長はおおよそ
300m、水線幅40mで、飛行甲板を加えると全長約315m、最も広いところで幅74mである。要目について最もよい比較の対象は米海軍のキティ・ホーク級空母である。
(3) Type003は、「カタパルトを使用して航空機を発艦させ、アレスティング・ワイヤとア
レスティング・フックから成る降着装置を用いて着艦させる」方式(以下、CATOBARと言う)を採用すると広く考えられており、これは「遼寧」、「山東」のスキー・ジャンプ方式から大きな進歩である。カタパルトの使用によって、Type003はより多くのミサイル、爆弾等と燃料を搭載した固定翼機や推力重量比の小さな大型機を発艦させることができる。大半のCATOBARは蒸気式であるが、変化が始まっている。米海軍の最新鋭のフォード級空母は電磁カタパルトによる発艦装置(以下、EMALSと言う)を採用している。うわさでは、中国は蒸気カタパルトを飛び越し、EMALSを導入するかもしれない。EMALS導入は依然明らかではないが、方針の変更は重大な問題と工期の遅れをもたらすだろう。
(4) Type003の大型化と発艦装置の改良によって、艦載航空部隊の大型化と多様化への道が
開かれた。航空機がType003に着艦するまでには2年はかかるが、搭載航空機には早期警戒管制機が含まれることになるだろう。これが現実になれば、PLANの状況把握と戦闘力は大幅に強化されるだろう。Type003に装備される航空機昇降用エレベーターの基数と大きさについては疑問が残ったままである。航空機昇降用エレベーターは航空機の運用に極めて重要である。CSISが分析した衛星画像、メディアに流布されている低高度画像では、Type003のエレベーターは右舷に2基装備されるようである。しかし、「山東」のものよりも大型で同時に2機を昇降できると思われている。
(5) Type003は、他の中国の空母と同様通常動力であるが、多くの専門家はPLANがやがて
原子力空母を建造すると考えている。その動きは中国を米仏と並んで超一流となる基盤を固めるものである。
(6) Type003の詳細の多くは工程がさらに進捗するまで確認することはできない。甲板の舷
外張り出し部スポンソンのいくつかの部分はいまだ未装備であり、飛行甲板の最上層も貼り付けられていない。乾ドックに注水され、Type003が進水するまで、工事は数か月あるいはそれ以上続くだろう。工事が「山東」とほぼ同じ進捗で進めば、Type003は2022年まで進水しないかもしれない。進水した後は、完全に艤装し、海上公試を完了するまでに数年はかかるだろう。それらが終了し、Type003は就役して、PLANに編入される。Type003がPLANに編入されたとき、それは中国の海軍に侮りがたい戦力が加入したことになり、インド洋及び太平洋でより効果的に戦力を投射することになろう。
記事参照:China’s Third Aircraft Carrier Takes Shape

6月16日「インドネシアによる海軍の増強―デジタル誌報道」(The Diplomat, June 16, 2021)

 6月16日付のデジタル誌The Diplomatは、“Indonesia Clinches Deal for 8 Italian-Made Frigates”と題する記事を掲載し、インドネシアが行っている海軍の増強計画について、要旨以下のように報じている。
(1) イタリアの造船会社Fincantieri社は、6月10日に同社のウエブサイトに掲載した声明の
中で、インドネシアがフランス・イタリア共同開発の新型多用途フリゲート6隻を購入し、マエストラーレ級フリゲート2隻を中古で購入すると発表した。後者の2隻は、イタリア海軍から除籍された後に利用可能となる。今回の購入は、インドネシア海軍による相次ぐ獲得の中でも最新のものであり、老朽化した海軍の現在の艦艇で、広大な海域を防衛する能力に対するインドネシアの懸念が高まっていることを浮き彫りにしている。
(2) インドネシア海軍の貧弱な状態は、増大する海洋問題への対応力を低下させている。
ジャカルタは南シナ海に対して正式に領有権の主張をしていないが、インドネシアの海域の一部は、北京が主張する法的に疑わしい「九段線」に囲まれた海洋に含まれており、その結果、最近の一連の対立が生じている。ここ数年、インドネシア国軍はこの区域で最大の島であるナトゥナ・ベサール島への展開を強化し、周辺海域で軍事演習を行っている。またインドネシアは、中国、ベトナム、マレーシア、その他近隣諸国の漁船による違法操業の増加という問題に直面している。
(3) 今回のイタリアとの契約は、インドネシアが日本との間で、日本の防衛装備品や防衛
技術をインドネシア国軍に移転することを認める協定を締結したことに続くものである。その直後、インドネシアは36億ドルを投じて、日本のもがみ型ステルス・フリゲートを最大8隻購入する準備を進めているというニュースがあった。また、潜水艦「ナンガラ」を失った後、インドネシア海軍は、潜水艦を現在の4隻から12隻へと3倍に拡大することを目指すという意向を示している。具体的には、韓国との共同生産を求めており、その一方でフランス、ロシア及びトルコとの間で他の可能性のある取り決めを申し出ている。また日本も、インドネシア海軍に潜水艦を売却することを検討している。
(4) これらの獲得は全て、インドネシアの防衛費を大幅に増やす計画の一環である。最近
漏らされた政府文書は、過去5年間に投じられた国防予算の約3倍に当たる5年間で1,250億ドルを投じて軍隊を強化するPrabowo Subianto国防相の計画の概要を説明している。2021年、インドネシアの軍事予算は11%増の約92億ドルとなった。インドネシア海軍は艦隊と装備品の更新と性能向上を視野に、必要不可欠な最小限の部隊を2024年までに建設する計画を策定した。しかし、インドネシアの国防費は、国内総生産に対する比率が東南アジアで2番目に低いままである。マレーシアの1%、タイの1.3%、シンガポールの3.2%と比較して、この国の2019年の軍事費は、GDPの0.7%に過ぎない。
(5) 長年の軍部間の対立とインドネシア国軍がアチェや東ティモールのような地域の反乱
の鎮圧に歴史的に注力してきたことの副産物として陸軍への圧倒的な集中によってインドネシア海軍は妨害されてきた。Fincantieri社からの艦艇購入は、世界最大の群島国家が海洋安全保障の名に値する能力を取得する重要な一歩である。
記事参照:Indonesia Clinches Deal for 8 Italian-Made Frigates

6月17日「バイデンはロシアと中国に対抗するための適切な海軍戦略を持っているか―米専門家論説」(19fortyfive, June 17, 2021)

 6月17日付の米安全保障関連シンクタンク 19fortyfiveのウエブサイトは、U.S. Naval War College海洋戦略教授James Holmesの”Does Biden Have The Right Naval Strategy To Take On Russia And China? History Has An Answer.”と題する論説を掲載し、ここでHolmesは中国とロシア両国を合わせた海洋力に米国を対抗させるのが賢明であり、米国の海上戦力がそれに達しなければ、米国とその同盟国は危険にさらされることになるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 6月15日、米海軍作戦部長のMike Gildayと海兵隊司令官のDavid Bergerは、米下院軍事委員会で予算と艦隊の整備計画について証言を行った。下院議員は、「投資のための投資」という調達方法について質問し、台湾海峡など目先の脅威に直面しているときに、老朽化した艦船やその他のハードウェアを廃棄して将来の調達のための資金を確保することが健全な考えなのかどうかを質問した。
(2) 1783年から1801年、1804年から1806年に英国の首相を務めたWilliam Pittは、米国の独立戦争で英海軍の能力が低かったことから、その立て直しを図った。これは、戦争前の数年間、国会が艦船建造予算を削っていたことに起因している。
(3) 平時の誤った経済性は、戦時に大きな犠牲を払うことになると、海軍史家Alfred Thayer Mahanは、七年戦争(1756年~1763年)で勝利した後、英国の指導者が英国海軍の規模と能力を縮小させたことを指摘している。英国民が勝利による平和の配当を求めたため、艦隊は容赦なく縮小されたのである。彼らは、戦争にはお金がかかると考え、勝利は永遠に続くとも考えていたようだ。これが、平和の配当の危険性である。平和の配当は、社会が傲慢になる一方で倹約を促す。そして、戦争が起きたときに、その影響を受けることになる。
(4) 1775年に米国の独立戦争が始まったとき、英海軍は北米大陸沿岸に十分な数の艦船を配備・維持するために、国内の劣勢な艦隊を何とかしなければならなかった。そして、1778年フランスとスペインが植民地側(米国側)に参戦すると、英国は守勢に立たされた。これをMahanは、「前時代の英国の優れた海軍専門家の間では、英海軍はフランスとスペインの連合艦隊と同数に保たれるべきとの格言があった。しかし、これは守られていなかった」と要約した。
(5) 同数の艦隊同士の戦いでは、優れた操船術、砲術及び愛国心を信頼していたのが英国海軍の歴史であった。フランスとスペインは、同じヨーロッパの王朝に支配されていたので、戦時は合同して英国を攻撃する習わしがあった。だからこそ英海軍当局は、仏西連合艦隊を英国が洋上において必要とする艦隊規模を十分に満足するものの根拠と考えたのである。
(6) 1775年から1783年まで英海軍は苦境に立たされた。Mahanによれば、米国独立戦争中、英艦隊はヨーロッパ海域においてフランス・スペイン艦隊にいつも大きく劣っていたとされている。さらに、予備艦艇を用意できなかったことも指摘している。英海軍はフランスとスペインの海軍の船を合わせた数と同数の船を海上に配置するために、それ以上の船を必要とした。なぜなら英国の艦船は、港の封鎖に当るため、沖合で常に風雨にさらされていたからである。封鎖任務を終えた船は、定期的に帰国して整備する必要があった。一方でフランスとスペインの艦隊は、封鎖任務がない分少ない数で十分だった。
(7) 英海軍史家Herbert Richmondは、英海軍を立て直した若き日のPitt首相に敬意を表している。Pittは、1783年12月に講和が成立すると政権を取り、国が破産の危機にさらされ、経済と財政の立て直しが急務であったにもかかわらず、水兵を増員し、新しい艦船建造の資金を捻出した。浪費癖を指摘された首相は、「自分以上に経済を望む者はいない。平時において一国が実践できる最善の経済とは、平和を永続させ、その持続を促す可能性の高い兵力を維持し、防衛手段を講じることである」と述べている。
(8) 米独立戦争での挫折に耐えてきた英国は、革命期およびナポレオン期のフランスとの数十年にわたる戦争で試される賢明な政治的リーダーシップを準備してきた。米議会とBiden政権はこのことに留意すべきである。米国が海洋の自由の管理者としての役割を果たしながら、世界中の同盟国との約束を守ることを真に望むのであれば、その目的に見合った海上戦力を備えなければならない。Pittの言葉を借りれば、「十分に武装した平和は、戦争よりも安価で危険性も少ない」ということである。Mahanの述べた英国の格言からすれば、中国とロシアという2つの勢力が合わさった海洋力に米国が対抗すると考えるのが賢明である。もし米国の海上戦力がそれに達しなければ、米国とその同盟国は危険にさらされることになるだろう。
記事参照:Does Biden Have The Right Naval Strategy To Take On Russia And China? History Has An Answer.

6月18日「太平洋深海底開発に対する関心の高まりとその危険性―オーストラリア・ジャーナリスト論説」(The Diplomat, June 18, 2021)

 6月18日付のデジタル誌The Diplomatは、メルボルンを拠点に活動するジャーナリストJoshua Mcdonaldの“Pacific Island Nations Consider Deep-sea Mining, Despite Risks”と題する論説を掲載し、そこでMcdonaldはCOVID-19による経済的打撃に直面した太平洋島嶼諸国の一部が太平洋の深海底における鉱物資源開発に強い関心を持っていることについて、資源開発が環境にもたらすかもしれない影響と合わせて、要旨以下のようにのべている。
(1) 太平洋島嶼部の国々は、ごく限られた面積の土地と人口しか持たない小さな国々である。しかし、太平洋島嶼諸国は広大な排他的経済水域を持ち、その合計は地球の表面積の15%にも及ぶ。太平洋島嶼諸国は、「ブルー・パシフィック」と呼ばれる集合的なアイデンティティを形成してきた。
(2) その太平洋島嶼諸国の一部の国が、現在、COVID-19によって誘発された経済的停滞に対処するため、太平洋の海底の資源に目を向けている。いわゆる「クラリオン・クリッパートン海域(以下、CCZと言う)」の海底には、昨今全世界で需要が高まっているマンガンを核とした豊富な鉱物資源が眠っている。海底鉱物資源開発を管理する国際海底機構(以下、ISAと言う)は、太平洋島嶼諸国のうち、クック諸島、キリバス、ナウル、トンガがそれぞれ出資する採掘企業に対して、ISAが設定する「保存地域(reserved areas)」への調査のための出入りを認めた。
(3) その海底に豊富な鉱物資源があることが明らかになってから約半世紀経つが、海底の採掘はほとんど行われておらず、また海底採掘が本格的に実施された場合にどのような影響があるかについての研究もほとんど終わっていない。しかし近年、採鉱企業は海底採掘のための技術開発に投資を行ってきたことに加え、COVID-19による経済の落ち込みが、太平洋島嶼諸国の海底採掘を産業化することへの期待を高めてきた。しかし本格的な採掘を進めるためには、どこか1つの国が排他的に利用できるものではない資源の採掘に関して、それを共有し、環境破壊を防ぐための何らかの規制について合意しなければならない。
(4) 168ヵ国が加盟するISAの総会が2020年に開かれ、その問題について何らかの合意に達する予定であったが、COVID-19のために会合は延期されている。上記保存海域への調査契約が終了する現在、採鉱企業は受け入れ国とともに資源開発契約の締結を求めることになるであろう。もし合意が結ばれ、契約が締結されれば、多くの採掘作業がCCZで行われるであろう。ISAが結んだ調査契約のうち19はCCZにおけるものである。
(5) しかしながら、クック諸島などの太平洋島嶼国はCCZにおける調査については前向きであったが、本格的な採掘についてはためらう可能性がある。というのも、海底採掘が環境に大きな影響を与える可能性が懸念されている、あるいはどのような影響を与えるかがまだはっきりしていないためである。環境学者のHjalmar Thielによれば、30年におよぶ海底の実験的採掘による結論はいまだ出ていないという。ただし、実験のために掘り返された海底がまだ元に戻っていないことがわかっており、その影響は「われわれがこれまで考えてきたよりもはるかに規模が大きく、長期的なものである」とのことである。
(6) 海底採掘と環境の関係に関する250以上の査読付き論文を分析したある報告書は、深海の採掘の影響はきわめて深刻なものであり、何世代にもわたって継続するもので、多くの生物の喪失につながると警告している。さらなる研究のための中断を設定することが最良の手段だと同報告は言う。グリーンピースの報告は、採鉱企業は熱心に海底採掘を推し進めようとしているが、開発の影響を一身に引き受けることになるのは、太平洋の国々だと指摘する。以上のように、環境への影響という観点から、海底の掘削を拙速に進めるべきではないという意見もある。
記事参照:Pacific Island Nations Consider Deep-sea Mining, Despite Risks

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) COUNTERING CHINA’S MARITIME INSURGENCY WITH COAST GUARD DEPLOYABLE SPECIALIZED FORCES
https://cimsec.org/countering-chinas-maritime-insurgency-with-coast-guard-deployable-specialized-forces/
Center for International Maritime Security, JUNE 15, 2021
By Lawrence Hajek is the Director of Future Operations at Metris Global, an Arizona based defense contractor focused on Special Operations training and support.
 2021年6月15日、米Metris GlobalのLawrence Hajekは、米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトに、" COUNTERING CHINA’S MARITIME INSURGENCY WITH COAST GUARD DEPLOYABLE SPECIALIZED FORCES "と題する論説を発表した。その中でHajekは、米国と中国との間で緊張が高まり続ける中、米国は台湾海峡、南シナ海、インド太平洋での海軍活動を活発化させていると話題を切り出し、その背景には、中国が一帯一路構想という野心的な戦略目標の達成のため、それら重要海域での暴力・挑発行為を頻発させており、南シナ海諸国は中国の強制や説得に屈し易くなっていることが挙げられるとした上で、南シナ海及びインド太平洋諸国との協力・協調は、域内の海洋安全保障を確保し、海上における法の支配を維持し、地域が中国の影響や支配に影響されないことを確保するために重要であると指摘している。その上でHajekは、南シナ海やインド太平洋地域の国々に焦点を当て、その経済的、政治的な能力を確保することは、中国の権威主義体制の世界レベルでの台頭に対する米国の抵抗にとって不可欠であり、現地の国々が自国のために立ち上がる能力を構築することは、中国の野望を地方レベルで抑えることになると同時に、世界的な法の支配を維持するという米国の誓約を示すことになると主張している。

(2) Will the Taiwan Strait issue be internationalised under Biden?
https://www.thinkchina.sg/will-taiwan-strait-issue-be-internationalised-under-biden
Think China, June 16, 2021
 6月16日付のシンガポールの中国問題英字オンライン誌Think Chinaは、“Will the Taiwan Strait issue be internationalised under Biden?”と題する記事を掲載した。その中で、①中国は6月15日、28機の航空機を台湾に接近させており、台湾海峡の状況が荒れるのではないかと懸念されているが、米国主導の行動によって問題が国際化する可能性もある、②6月6日、米国の上院議員3名が米空軍のC-17輸送機で台湾に向かうという異例の行動に出て、台湾海峡の緊張感が高まり、その1週間後には、G7サミットの共同声明で、台湾海峡の平和と安定の重要性が強調された、③75万回分のコロナウイルスのワクチンとともに、この米軍用機が台湾に直接着陸したのは、台湾海峡で戦闘が発生した場合に物資や機動部隊を送り、現地の人々を避難させるための軍事訓練であったという意見もある、④4月には日本の菅義偉首相が訪米し、日米首脳会談後の共同声明で50年ぶりに台湾に言及して、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、その約1カ月後にも韓国の文在寅大統領が訪米した際、米国に導かれるようにして、共同声明の中で台湾が言及された、⑤越えてはならない一線を踏んで強気の姿勢を示すワシントンに対して、北京は反撃しなければならないが、「一つの中国」政策が損なわれていない限り、台湾問題の解決は当面、北京の上層部の最優先課題にはならないだろう、⑥現時点では、各方面が一時的に交渉の余地を残しているとはいえ、この「地球上で最も危険な場所」の危険要素は、明らかに高まっている、などの主張を展開している。

(3) Military Political Work at the CCP’s Centennial
https://jamestown.org/program/military-political-work-at-the-ccps-centennial/
China Brief, the Jamestown Foundation, June 18, 2021
Maryanne Kivlehan-Wise, director of the China Studies Program at Center for Naval Analyses (CAN)
 2021年6月18日、米Center for Naval Analyses(CAN)の中国問題専門家Maryanne Kivlehan-Wiseは、米The Jamestown FondationのウエブサイトChina Briefに、" Military Political Work at the CCP’s Centennial "と題する論説を発表した。その中でKivlehan-Wiseは、人民解放軍のmilitary political work(軍事政治研究:以下、MPWと言う)は、制度としての人民解放軍の人的側面、戦争の人的側面、および中国における民軍関係に焦点を当てているとし、その概要として、①党と人民解放軍との関係強化に資する党の機能として、人民解放軍における党組織の設置・指導、全人民解放軍の政治的価値観や倫理教育の実施、党の規律の強化など、②人民解放軍を戦闘員として支援する作戦機能(軍事行政の処理、情報作戦の実施と支援、敵の情報活動や心理戦作戦に対する防衛)など、③人事管理、将校の選抜、専門的な軍事教育、日常業務に必要な管理機能など、を指摘している。その上でKivlehan-Wiseは、人民解放軍のMPWへの取り組みは、中国内外の政治的・軍事的発展に対応して、時とともに変化してきたが、中国共産党の創立100周年を振り返り、政治活動の本質と重要性が時間とともにどのように進化してきたか、そして、中国共産党の思考がどのように変化してきたかを考察することは、新たな大国間競争の時代において中国がどのように変化し続けるのか考察するために有用であると述べている。