海洋安全保障情報旬報 2021年5月21日-5月31日

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5月21日「NATOによるSteadfast Defender演習が強調する対ロ抑止力強化―米海軍関連雑誌元編集長論説」(USNI New, May 21, 2021)

 5月21日付のU.S.Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、米海軍関連雑誌Navy Timesの元編集長John Gradyの“NATO’s Steadfast Defender Exercise Highlights Allied Deterrence as Russian Aggression Grows”と題する論説を掲載し、そこでGradyは、5月6日から6月1日にかけて実施されたNATOのSteadfast Defender 2021演習に言及し、ロシアの攻勢が強まる中、米国およびヨーロッパの抑止力強化のために同演習の重要度が高まっているとして、要旨以下のように述べている。
(1)NATOが主導する大規模演習Steadfast Defender 2021が5月6日から6月1日まで行われた。同演習は、ロシアが軍備増強を続けてその攻撃的姿勢を強めるなかで、NATO諸国が直面する「切迫感」を刺激し、参加各国を「抑止志向」に回帰させることに寄与するものであった。
(2)US Second Fleet司令官とNATOのJoint Force Command Norfolk司令官を兼任するAndrew Lewis米海軍中将は、第2次世界大戦時と比較すると現在の大西洋をめぐる争いは「海底から外宇宙に至る」あらゆる領域に跨がる「きわめて繊細な戦い」であると言う。インターネット通信の95%が大西洋の海底ケーブルを経由しているなどが、その一例である。
(3)Steadfast Defender 2021は3段階に分かれている。US Second Fleetは、5月20日にポルトガルで開始された第1段における海上演習の中核をなす司令部であり、実動部隊として参加するのはUS Sixth Flee旗艦「マウント・ホイットニー」にUS Second Fleetの参謀らが乗り組むこととなっている。その演習には、「イオージマ」両用戦即応群、英海軍の「クイーン・エリザベス」空母打撃群の他、11ヵ国の艦艇、航空機が参加した。
(4) Joint Force Command Norfolk副司令官Andrew Benton英海軍少将によれば、演習は英国にとって極めて重要であり、特にF-35Bを装備するU.S. Marine Fighter Attack Squadron 211が「クイーン・エリザベス」に搭載され、緊密に連携して行動したことは重要で、固定翼の搭載能力を再構築する上でも良い機会であった。また「イオージマ」両用戦即応群の参加によって、演習に「多用途性」が提供されたとも指摘される。
(5)US Second Fleet副司令官Steve Waddellカナダ海軍少将は、この演習の目的をさまざまな領域の部隊をともに訓練させ、戦術や技術、手順など標準化することにあると説明している。それによって、この危機の時代において戦争に備えてヨーロッパを速やかに強化することが目標である。
(6)Lewis中将によれば、NATO欧州連合軍最高司令官兼US European Command司令官のTod Wolters空軍大将が重要視してきたのは、ヨーロッパと米大陸、さらに北極海を含む領域における「安全保障の一貫した取り組み」である。これは特に、ロシアがクリミアを占領した2014年以降に強調されているという。Benton英海軍少将も、Steadfast Defender 2021演習およびその他演習は2つの大陸が密接につながっているという明確なメッセージを伝達するのだと主張している。
(7)演習の第2段は、欧州連合軍最高司令官の責任範囲の使用可能性、軍隊の機動性、NATO即応部隊の配備に焦点を当て、第3段では、NATO軍および提携国軍は黒海地域でいくつかの他の演習を実施する予定であり、母国の基地への再展開も演習の第3段に含まれている。
記事参照:NATO’s Steadfast Defender Exercise Highlights Allied Deterrence as Russian Aggression Grows

5月22日「中国の挑戦を理解するために古典を振り返るべし―米政治学者論説」(Real Clear Defense.com, May 22, 2021)

 5月22日付の米軍事、国防関連ニュースサイトReal Clear Defense は、米Wilkes Universtityの政治学兼任教授Francis P. Sempaによる“Look to Classical Geopolitics to Understand China’s Challenge”と題する論説を掲載し、そこでSempaは現在、中国が提起する地政学的挑戦の本質を理解するためには古典的な地政学の研究を参照すべきであるが、現在のBiden政権がそれを理解しているようには思えないとして、要旨以下のように述べている。
(1) Winston Churchillはかつて、ソ連が謎に包まれた理解の困難な存在であると述べたが、今日の中国は、西側の専門家にとってそのような厄介な存在ではない。中国共産党の指導者たちの目的は明確である。つまり、世界の指導的な大国として米国に取って代わること、自由主義的な世界秩序を修正すること、ユーラシア大陸及びアフリカ大陸に政治的影響力を拡大し、可能な限り多くの政治的支配を獲得することである。
(2)現在こうした中国の攻勢に直面する西側の戦略家や政治家は、古典的な地政学を改めて読むべきであろう。その最初のものとして、Halford Mackinderの著書Democratic Ideals and Realityに収められた論文“The Geographical Pivot of History”を挙げたい。彼はアフリカ・ユーラシア大陸を「世界島」と位置付け、並ぶもののない人的資源および天然資源を有する世界の中核的大陸であると評した。アフリカ・ユーラシア大陸をうまく統治できる国が、古代ローマ帝国のごとく、陸・海において強力な国家になれる。現在は、こうした考え方に、空・宇宙・サイバー空間を考慮に入れる必要があろう。
(3)次に読むべきはNicholas SpykmanのAmerica’s Strategy in World Politics (1942)と The Geography of the Peace (1944)であろう。Mackinder同様彼もユーラシアを世界において最も支配的な大陸とみなし、特に沿岸部のヨーロッパ、中東、南アジア、東アジアを「リムランド」として最も重要な地域であると論じた。そしてそのリムランドを支配する国が世界の運命を左右し、米国はいかなる国にもそこを支配させてはならないと警告した。
(4)最後に挙げたいのがAlfred Thayer Mahanの、特にThe Problem of Asia (1901)である。彼もまた国際関係におけるユーラシアの中心性を理解していた。Mahanは米国の強さがそのシーパワーに基づいているとして、米国が海洋国家として英国を追い抜き、ユーラシアの勢力均衡にとっての鍵になったと考えていた。今日、そのシーパワーこそがリベラルな国際秩序を下支えしている。
(5)中国の軍事・外交方針は、指導者たちがこれら古典的な地政学をよく理解していることを示している。中国の一帯一路構想による政治的・経済的影響力の拡大、および増強された海軍力による周辺海域(北極海を含む)への支配の拡大は、「世界島」にその支配力を広げようとするものだ。加えて、近年進んでいる中国とロシアの提携は、1950年代初頭と同様に、あるいはその時以上に西側諸国にとっては悪夢のような展開である。現在の中国の経済力は当時のソ連をはるかに凌ぎ、中ソ対立をもたらしたようなイデオロギー的対立も存在しない。さらに中国とロシアは中東におけるその影響力拡大を模索している。
(6)Biden政権がこうした中国の動向の重要性を理解しているとは思えない。アラスカで行われた中国との外交トップ会談で、アメリカ側は中国の人権問題を非難したがそれは中国を憤慨させただけであるし、BidenはPutin大統領を「殺人者」と呼んだが、これは中ロの間に政治的楔を打ち込むことになんの貢献もしない。
(7)George H. W. BushからObamaに至る政権、そして現在のBiden政権による中国に対する関与政策および中国との競合という取り組みは失敗であったし、今も失敗している。それはただ中国の経済的・軍事的成長を刺激したにすぎない。Trump政権は関与政策から離れて封じ込めの取り組みを採用したが、彼には中国の地政学的挑戦の本質を理解するPompeo国務長官(当時)ら良き顧問がいた。
(8)中国が主導する世界秩序はどのようなものになるだろう。中国は抑圧的な国家体制であり、それを批判するあらゆるものを検閲する監視国家である。香港の自由を踏みにじり、ウイグル人の集団虐殺を実施し、強制的な台湾併合を模索している。もしわれわれが中国の地政学的挑戦への対応を誤れば、Churchillの言葉を借りれば、世界は「新しい暗黒時代の深淵に沈み」こむことになるであろう。
記事参照:Look to Classical Geopolitics to Understand China’s Challenge

5月22日「中国海軍は張り子のトラか、それとも本物か―米専門家論説」(The National Interest, May 22, 2021)

 5月22日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、US Naval War College戦略政策部James Holmes教授の”Paper Tiger or Superpower: How Big Is The Threat of China's Navy?”と題する論説を掲載し、米国は中国を軽視することなく、長期的な競争力を持つ敵として尊重すべきと、要旨以下のように述べている。
(1) 数年前、The U.S. Naval Instituteが発刊するProceedings 誌で、元US Pacific Command Intelligence ChiefのJim Fanell退役大佐が、中国人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)を軽視したUS Pacific Command(以下、PACOMと言う)の歴代の提督たちを批判し、そして将来の敵を尊重することが最も賢明と述べている。この助言は今も生きている。2021年4月、元PACOM司令官のDennis Blair 退役大将は海軍の会議において、中国軍は海上と航空の優位性を築くことができず、極東における米国の抑止力や条約の結束を低下させることもできないと語った。同じ頃、下院軍事委員会で証言した現PACOM司令官のHarry Harris大将(当時)は、PLANと米海軍の潜水艦を旧式の自動車と最新のスポーツカーの比較に例えた。
(2) Fanell はこれらの発言に2つの理由で異論を唱えている。第1に、PLANを軽視することは、中国の武力と物質的能力が増大している現実を無視することになる。第2に、PLANに戦闘能力がないとほのめかすことは、政治的な耳を持っていないということである。これは、海軍の権力者たちの自虐的な行為に等しい。結局のところ、提督だけでなく専門家が時々言うように、中国海軍が単なる厄介者程度に過ぎないのであれば、議員はなぜそれに対抗するため自国の海軍増強に多額の予算を提供しなければならないのか。
(3) Blairの言う海上の優位性とは、おそらく制海権のことで、それは「海洋のある部分とそれに付随する空域を軍事的・非軍事的に利用し、敵対行為が行われているときには敵が海空域を利用することを拒否する能力」と定義されている。一方、米空軍ドクトリンの「航空優勢」とは、「航空機及びミサイルから過大な被害をもたらす妨害を受けることなく、与えられた時間及び場所で、当該作戦を可能とする1部隊による空域支配の度合い」とされている。それは、空間と時間の中で局所的なものかもしれないし、広範囲で永続的なものかもしれない。
(4) 制海権や制空権に共通するのは物理的な空間で、それを十分に支配して自己の目的を果たすとともに、敵の目的を阻止することである。仮にBlairの言うとおり、中国軍が米軍やその提携国の軍隊から制海権や制空権を奪うことができないのであれば、劣勢のPLANが米国の抑止力や安全保障を低下させることはできないと結論付けるのが妥当であろう。しかし、人民解放軍(以下、PLAと言う)の司令官は、劣勢の部隊を巧みに展開することで米国の同盟国に疑念を抱かせることができるという考え方もある。
(5) Henry Kissingerは、その著書で次のように述べている。抑止力は力、それを使う意志、そして潜在的な侵略者によるこれらの評価という3つの変数による産物である。抑止力はこれらの要素の積であり、和ではないので、どれか1つの変数がなくなると、抑止力はゼロになる。抑止力とは、強大な能力を持った上で、それを行使する勇気を持つことである。能力と意志の強さは、戦闘力の強さを推し量る2つの基本要素である。しかし、抑止力とは、敵対者に自分の能力と意志を信じさせることであり、それを信じない相手を抑止することはできない。
(6) 対象が異なることを除けば、安心感についても同様である。同盟国は、自国の安全保障を維持するだけの強さと毅然とした態度を互いに確信させなければならない。もし同盟国が、仲間の同盟国の力やそれを使おうとする同盟国の指導者の気概を疑うようになれば、同盟は弱体化し、あるいは完全に崩壊してしまうだろう。
(7) 中国はどのようにして米国の同盟国に、実は中国は強いのだと思わせることができるのか。それは、米国の指導者たちに、太平洋での戦争に勝てないと思わせることを前提とした、長年の接近阻止・領域拒否の戦略を実行することである。戦略家Carl von Clausewitzの言葉を借りれば、ある戦闘員がその政治的目標に寄せる価値によって、その目標達成のためにどれだけの資源を投入するか、それをどれだけ長く続けるかが決まる。もし、東アジアの事業にかかる対価が高すぎる、あるいは中国の軍隊がそれを高いものにすることができるならば、米国の指導者たちはその事業は見合わないと結論付けるかもしれない。
(8) 中国は平時の抑止力はもちろんのこと、有事に海や空を部分的または全面的に支配する必要はない。中国は、例えば尖閣諸島の防衛にかかる費用が、米国民が尖閣諸島に抱くわずかな価値に比べてあまりにも高額であることを、ワシントンDCに納得させればよいのである。無人の小島の集まりに、どれだけの米国民の命、どれだけの空母、駆逐艦、戦闘機を投入する価値があるのか。もしPLAが、その価値を超えるコストを課すと脅せば、米国の指導者たちはこの努力を放棄するかもしれない。そのような可能性を考慮すると、東京は、ワシントンが尖閣諸島を守るという約束を本当に果たすのかどうかを疑問視するようになるだろう。疑心暗鬼に陥り、日米同盟が揺らいだとしても、中国軍が戦闘によって海上や航空の優位性を獲得することはない。これが接近阻止・領域拒否の論理である。弱者は海の上の戦いに勝つ必要はない。敵の心の中を負かせばよいのだから、対価/利益の計算は中国の利益になるように歪められる。つまり、中国こそが米国主導の同盟関係を抑止し、緩めることができるのである。
(9) Harrisによる中国と米国の潜水艦の比較は誤解を招く。戦時にPLANの司令官は、通常型潜水艦を使って、US Pacific Fleetの水上部隊を待ち伏せし、西太平洋へ進出するための対価を高めることを想定している。キロ級や元級の潜水艦は、対艦ミサイルを発射し、できる限り高い犠牲を払わせようとするだろう。また海中での戦闘は、中国の接近阻止戦略の柱の1つである。しかし、PLANの潜水艦艦隊は敵の潜水艦と戦うための艦隊ではないので、潜水艦同士を比較しても意味がない。米海軍の攻撃型原子力潜水艦(以下、SSNと言う)は、戦争になればPLANの潜水艦を狩ることができ、確かに最先端の技術を装備している。しかし、SSNは数が少なく、短距離射程の武器しか搭載していない。実際、米国の潜水艦は魚雷を発射するためにターゲットの約10海里以内に入らなければならない。太平洋の地図で、ある地点を中心に半径10海里の円を描いたならば、それは、その付近にいる米海軍の潜水艦が攻撃できる範囲である。何もない広大な海の中では、その範囲は微々たるものである。
(10) Harrisが言うように、米軍の対潜部隊はこの広い範囲に哨戒任務のために配置される。しかし、静かに走るPLANの通常型潜水艦の活動を簡単に抑止できるかは疑わしい。つまり、米海軍のSSNとPLANの潜水艦を比べると、自動車でいう旧式のフォード社モデルTと金持ち用スポーツカーのシボレー社コルベットのような違いはあるかもしれないが、それはあまり重要ではない。どちらもA地点からB地点まで、運転者と乗客を許容できる速度で、その日の気分に合わせて快適に運んでくれるのである。
(11) 長期的な戦略的競争とは、自らは安価に済ませる一方で、競合他社を煽って法外な対価で競争させることである。バージニア級SSNの価格は約27億ドルである。中国の兵器の価格はほとんど公表されていないので、日本の艦艇で比較すると、海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦は、バージニア級の5分の1の価格、約5億4千万ドルである。米国が1隻の潜水艦を購入する価格で、中国が所用に合った潜水艦を5隻購入できるとしたら、どちらがより効率的な競争をしているであろうか。中国の海軍が「モデルT」の艦隊で戦略を実行し、アメリカ海軍が「コルベット」の調達に苦労して破産した場合、最後に笑うのはどちらなのか。その答えは明らかではない。アメリカの海軍関係者は、Fanellの批判に耳を傾けた方がいい。我々は、モデルTを運用している潜在的な敵を嘲笑うのではなく、長期的な競争力を持つ敵として尊重すべきである。
記事参照:Paper Tiger or Superpower: How Big Is The Threat of China's Navy?

5月22日「米中、危機時の意思疎通体制の強化―US National Defense University研究員論説」(PacNet, Pacific Forum, May 22, 2021)

 5月22 日付の米シンクタンクPacific Forum, CSISの週刊デジタル誌PacNet は、US National Defense UniversityのThe Center for the Study of Chinese Military Affairs上席研究員Dr. Joel Wuthnowの“Improving US-China Crisis Communications—Thinking Beyond the Air and Sea”と題する論説を掲載し、ここでJoel Wuthnowは米中間の危機時における意思疎通体制の強化について、要旨以下のように述べている。
(1)米The Department of Defenseの「中国タスクフォース( China Task Force)」が6月にAustin国防長官に提出予定の最終報告書における重要な問題の1つは、米中間の危機時における意思疎通体制の強化である。その中心的課題は、中国の国境付近での航空及び海洋における遭遇時の安全性の向上と、もし生起した場合の危機対処になると見られる。2001年のEP-3事件のように米中両軍間で時折発生する「ニアミス」の再発が大惨事になりかねないことを考えれば、これは頷ける問題意識である。米中間には、1995年~96年の台湾海峡危機後の1998年に締結された軍事海上協議協定(Military Maritime Consultative Agreement: 以下、MMCAと言う)があるが、これは、双方が海洋における事案について協議する場を提供するものであり、1972年に米ソ両国が締結した、海洋における事案処理に関する詳細な議定書に相当するものはなかった。その後、米中両国は、2014年に米中両国海軍の海洋における不慮の遭遇に関する同様の議定書に合意した。翌2015年には、航空事案を対象とする議定書が追加された。また中国は、2014年の西太平洋海軍シンポジウムにおいて、米国に強く促され、「海洋で不慮の遭遇をした場合の多国間の行動基準(The multilateral Code for Unplanned Encounters at Sea)」に従うことに合意した。
(2)したがって、米中双方にとって次の段階は事案が生起した場合における、より厳格な基準の執行と協議でなければならない。問題は、米中双方の思惑に相違があることである。ワシントンは、航空と海洋における安全な遭遇のための予測可能性と安定性を求めている。他方、米国が西太平洋で自由に活動したり、同盟国(または台湾)のために介入したりすることを阻止しようとする中国の戦略にとって、たとえば、2018年9月に中国の駆逐艦が南シナ海で米駆逐艦に40メートル余りにまで近接した事案のような危険な迎撃による「犠牲を厭わないとのメッセージ」発信の方が功を奏する。 中国は2020年12月に予定されていたMMCA協議への参加を拒否したが、一方の側が既存の議定書に従わなかったり、あるいは議論への参加を拒否したりするならば、危機時の意思疎通に関する協議はほとんど価値がない。既存の議定書を、長年にわたって米艦艇との幾つかの緊迫した事案に関与してきた中国海警総隊と海上民兵をも対象とするものに拡大するか、あるいはMMCA協議にこれらの代表を含めるか、といった考えが時折議論される。しかし、中国の狙いは、戦争に訴えることなく、紛争海域の支配を徐々に拡大する「グレーゾーン」作戦に役立つ、これら海警総隊や海上民兵の最大限の柔軟性を維持することにある。したがって、北京はMMCAのような体制を拡大して、「白い船体」の船隊をも対象とする意志をほとんど持っていない。また、たとえばUS Indo-PacificCommandと人民解放軍戦区司令部とを繋ぐ、海洋と航空の「ホットライン」設置を求める声が定期的に上がってくる。米中間には、これまでに1998年の最高首脳間のリンク、2008年の国防省(部)間のリンク、そして2015年の宇宙ホットラインの3つのホットラインがある。しかしながら、中国は、現実の状況下でこれらのシステムを利用することに消極的であり、またたとえ北京がこれらのシステムをもっと活用しようとする意思があったとしても、人民解放軍のより集権的な意思決定構造を考えれば、実働部隊間の新しいホットラインなどほとんど価値がないであろう。
(3)したがって、「中国タスクフォース」は、他の進展が見込まれる領域を追求すべきである。可能性のある領域の1つは、陸上における危機に関する議論である。航空と海洋領域とは異なり、陸上部隊が危機に当たってどのように意思の疎通を維持し、解決するかについては、詳細な議定書はない。確かに、米中双方は、それぞれ他方に対する陸上紛争に備えているわけではないが、朝鮮半島における不測の事態を考えれば、その必要性を理解できよう。意思疎通の欠如は、偶発的な紛争事態の要因とも、またそれぞれの意図に対する誤算の要因ともなり易い。
(4)さらに、危機時の意思疎通は宇宙、サイバーそして核戦力という「戦略領域」においても強化できる可能性がある。陸上領域と同様に、米中間にはこれらの領域自体あるいは領域間における紛争の事態拡大を管理する詳細な議定書は存在しない。人民解放軍の戦略家が言う、米国の介入を阻止する「統合戦略抑止(“integrated strategic deterrence”)」概念を実現するために、中国はこれらの分野における優位を追求する誘因を持っているが、一方で、北京は報復攻撃に対して脆弱である。「警報即発射(a “launch on warning”)」システムへの移行や、核通常両用の長距離ミサイルの配備など、中国の核戦力態勢における幾つかの変化の兆候は、核関係の安定のための新たな課題を生み出している。故に、中国の代表的な危機管理の専門家姚雲竹退役少将が、核戦力領域における「戦略的安定」に関する新たな協議を提案したことは励みになる。
(5)Biden政権は、これらの領域における危機の意思疎通を具体化するために、幾つかの相互支援方式を検討すべきである。トラック1.5レベルでの詳細な討議は、特に人民解放軍の代表が含まれていれば、有益である。(2014年から中断されている)防衛協議などの高官級フォーラムにおける宇宙、サイバー、核問題に関する協議も有益である。さらに、ワシントンは、中国の戦略支援部隊やロケット軍など、現在外国とほとんど意思疎通を行っていない軍種を含めた協議を支持すべきである。これら不透明な部分にたとえわずかに光を当てるだけだとしても、このような協議は有益であろう。
(6)要するに、新たな航空と海洋分野における協定への期待値は低い。米中両国の軍事関係は、紛争の結果に対する米国のメッセージを補強することで、初めて挑発的な人民解放軍の動きを制するのに役立つかもしれない。これらのメッセージは外交チャンネルで伝えることもできるが、持続的な軍事力の配備、新しい展開と運用概念、そして米国の同盟国や提携国との調整を通じることで、より効果的に受け止められよう。危機が生起した場合、議定書に従い、既存のホットラインを使用するかどうかは中国次第である。そのため、米国の政策立案者は、ルールが未だ明確ではないが、共通の利益がある分野に焦点を当てる必要がある。相互不信と大国間抗争というより大きな文脈から見て、こうした合意に達することは、困難ではあるが、Biden政権と習近平政権の支援を得て、航空と海洋領域を越えた危機を、より予測可能なものにすることでは有益かもしれない。
記事参照:Improving US-China Crisis Communications—Thinking Beyond the Air and Sea

5月23日「南シナ海における中国およびASEANの協調のための枠組み構築を目指して―中国南海研究院院長論説」(South China Morning Post, May 23, 2021)

 5月23日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、中国南海研究院院長呉士存の“How China and Asean can build the foundations for South China Sea cooperation”と題する論説を掲載し、そこで呉は南シナ海の安定と平和のためには地域間協調の枠組みを構築することがきわめて重要であり、海洋環境保護や人道支援分野における協力も模索していくべきだとして、要旨以下のように述べている。
(1)今年4月、ボアオ(博鰲)アジアフォーラムの国際会議が2年ぶりに開催され、各国の参加者が中国の海南島に集まった。そこでは、協調に基づく地域の海洋秩序を新しく構築するためにはどうすれば良いかが議論された。
(2)さしあたり、海に関する協力は以下の3つの領域に分けられるだろう。第1に、2国間対話や協議を通じて、関係各国は領土に関する係争や境界設定の問題を解決する。第2に、中国とベトナムやフィリピンなど東南アジア諸国は、2国間ないし多国間交渉・協議を通じて危機管理機構を構築する。第3に、南シナ海のすべての沿岸諸国は海洋環境保護や海の捜索救難活動に関連する協力を進める。
(3)しかし現時点では、海に関する協調は伝統的な分野における2国間レベルのものに留まっている。たとえばほとんどの沿岸諸国は、南シナ海における関係各国の行動宣言のもとで、専門家による3つの技術委員会を設置するという中国の提案に対しあいまいな態度をとり続けている。
(4)これには3つの理由がある。第1に、南シナ海で領有権を主張する国には協調の意思がないということである。第2に、協調するよりも単独行動に基づき自国の利益を拡大させることのほうが重要だと考えられているためである。第3に、米国など域外の国々が介入し、中国が長年提起してきた海洋の協調を妨害しているためである。
(5)南シナ海の現在の混乱を収めることができるのは地域の多国間協調主義的な協調であろう。上記した3つの領域における協調の可能性は、より具体的な、一連の恒久的かつ持続的な実践・調整を通じて達成できるであろう。現時点で可能な実践は以下の3つがあろう。
(6)第1に、沿岸諸国の間の経済的協調の機構を構築することである。とりわけそれは海の連結性や観光資源の共有などに資源を当てるべきだろう。たとえばクルーズ観光などを初期段階の計画として考案できる。
(7)第2に、南シナ海沿岸諸国は他の地域で過去にうまくいった経験から学ぶことができる。1960年代後半以降、ヨーロッパ諸国は自分たちの言い分を抑制し、海洋環境保護などの問題における協調を模索し、多くの多国間協定を締結してきた。我々はそれに学び、かつ地域の状況を考慮に入れつつ、南シナ海の海洋環境保護のための多国間協調機構を構築すべきであろう。
(8)第3に、沿岸諸国は、地域の人道支援の機構を構築し、地域の通行と海洋安全保障の維持に務める必要がある。南シナ海は世界で最も重要な航路のひとつであり、そこの安全保障の維持は、世界的なサプライチェーンにとっての安全となる。南シナ海は自然環境も厳しく、事故に対処するための捜索救難や人道支援のための枠組みをつくりあげることが重要であろう。
(9)南シナ海の状況は複雑で移ろい易いものである。地域の国々が採るべき選択肢は、上記の種々の協調的な実践を通じて、関係各国の共通の利益のパイを大きくし、不安定要因を極小化していくことである。
記事参照:How China and Asean can build the foundations for South China Sea cooperation

5月24日「仏日米海軍による連合兵站演習―米海軍報道」(United States Navy, May 24, 2021)

 5月24日付の米海軍のウエブサイトは、“French, Japanese, U.S. navies build logistics network, strengthen relationships”と題する記事を掲載し、フランス海軍、米海軍及び海上自衛隊による共同での補給演習について、要旨以下のように述べている。
(1) フィリピン海において、フランス海軍、海上自衛隊及び米海軍による共同後方計画は、それぞれの国の艦艇が海洋でお互いを支援する能力を発揮するという形で終わった。フランス海軍の「ジャンヌ・ダルク」水陸両用戦任務群は、5月中、米海軍及び海上自衛隊に対して、3ヵ国が一緒に計画したそれぞれのイベントで洋上補給を行った。フランスArmed Forces in the Asia-Pacific(アジア太平洋方面統合軍)司令官Jean-Mathieu Rey海軍少将は、「先ず、完璧な操艦訓練と技術的な調整が必要な洋上補給(Replenishment at sea:RAS)は、複雑な海洋作戦であるため、提携者間の優れた戦術的相互運用性が強調される。また、それぞれの海軍が補給港への入港という制限を受けずに、海上で長く活動することができる。現在の世界的感染拡大という特殊な状況下では、海軍の艦艇が港湾への出入りを拒否されていることもあり、この能力は非常に重要である」と述べている。米海軍の地域的な兵站・補修任務を統括するCommander, Logistics Group Western Pacific(西太平洋兵站群:以下、COMLOG WESTPACと言う)/Commandar,Task Force(CTF)73のJoey Tynch米海軍少将は、「必要な時には、我々は物資や艦艇、航空機を急激に増加することができる。しかし、急増させることができないもの、それは信頼である」と述べている。
(2)信頼に基づいた戦術的な相互運用性は、Tynch少将指揮下の後方担当幕僚と緊密に連携する同盟国の代表者たちを通して強化される。仏海軍のJérémy Bachelier中佐と海上自衛隊からの連絡幹部は、仏海軍、海上自衛隊及び米海軍の艦艇間の持続的運用の互換性を確保するために重要な役割を果たした。COMLOG WESTPAC / CTF 73で海上自衛隊の連絡幹部は、米軍の後方担当将校と隣り合わせで仕事を行うことで、洋上補給の円滑な予定組みをより効率的に行うことができる。また、このような共同の調整を行うことで、戦術や手順の共通理解が深まり、作戦中の効果的な意思疎通が可能になる。
記事参照:French, Japanese, U.S. navies build logistics network, strengthen relationships

5月25日「軍事力の中心と発火点が東へ移動―日経済紙報道」(NIKKEI Asia, MAY 25, 2021)

 5月25日付の日本の経済紙NIKKEI Asiaは軍事に関わる各種データを分析し、世界の軍事力の中心と発火点が従来の西から東へ移動しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 米国は過去20年以上にわたって、ヨーロッパや中東よりも東アジアや太平洋により多
くの部隊を展開してきた。これは、冷戦期の東西対立やテロとの戦いの後に来た主要な脅威として中国が台頭してきたことを反映している。米国の海外における戦略目的は転換点に差し掛かっている。日米首脳会談の共同声明では台湾海峡の平和と安定に言及する一方、Biden大統領は9月までにアフガニスタンから撤兵することを決定しており、中国を阻止することに米国は真剣であるという明確な意思の表示である。
(2) The U.S. Department of Defenseのデータを使用し、米軍部隊の海外展開の変化を追跡し
てみると、2000年にはドイツへの展開が他のいかなる場所よりも多く、2001年の同時多発テロを受けて、米軍の焦点は中東へ移行している。2013年、Obama大統領(当時)は、最早米国は「世界の警察官」ではないと発言し、2020年までの10年間に海外に展開する米軍部隊を約50%削減した。しかし、日本と韓国という東アジアの同盟国には依然、有力な部隊が配備されている。
(3) Military Balanceを使用して世界の軍事力及び装備品の動きを分析してみると、世界の
軍事力は縮小し続けている。ヨーロッパや旧ソビエト諸国では、過去30年以上の間に50%以上削減されているのとは対照的に、新興国や中国の近傍の国々では軍事力増強を加速してきている。30年の間にインドネシアは40%、フィリピンは30%その軍事力を増強し、インドは部隊規模を15%増強している。軍事力に関して、アジアは急激に増強されてきている。
(4) 中国は部隊規模を削減してきたが、その装備品を著しく増強している。戦闘機数にお
いて、米国に肉薄し、航空自衛隊と米日米空軍の保有数合計を上回っている日本、韓国、台湾は、中国の軍事力増強を主たる理由として新装備の配備を意図している。中国はまた、ミサイル、潜水艦を増強している。The U.S. Defense Departmentやその他の分析によれば、中国は台湾を攻撃可能な短距離弾道ミサイルを2019年時点で750基から1,500基保有しており、中距離弾道弾は950基以上と推定されている。米国防長官Lloyd Austinは、3月の訪日時に「我々の目標は、中国に対してであれ、その他いかなる国に対してであれ、競争力を維持することにある」と述べ、過去20年間、中国が軍の近代化を進め、時には「強制的」行動に出ていても、米国の注意は中東問題に向けられてきたと指摘している。
(5) 「米国は早急にアジアにおける軍事的均衡を回復する必要がある。中国の将来の台頭
を封じ込めるため、今こそ前方展開力を強化すべきである」と防衛研究所社会・経済研究室長塚本勝也は言う。中国阻止は、米国の手に余る。そこで、地域の同盟国はより多くの責任を分担するよう求められている。岸防衛大臣は、これまで長く維持されてきたいわゆる防衛費1%枠を撤廃しようとする政府の意図を漏らしている。
(6) 軍事力の焦点が変化したことは当然、中東にも影響を及ぼしている。イスラエルとパ
レスチナの軍事的衝突の激化は、Biden政権の優先順位が中東から中国に移ったことが大きく影響していると三菱総合研究所中川浩一は言う。日本は石油輸入の90%を中東に依存しており、もし米国が中東から手を引けば他の国よりもより深刻な影響を日本は受けると中川は警告する。世界の軍事力の均衡の変化は日本の安全保障にとって新しく、かつ困難な問題を突きつけている。
記事参照:Military might and flashpoints shift from West to East

5月25日「北極海は南シナ海ではない―ノルウェー専門家論説」(South China Morning Post, 25 May, 2021)

 5月25日付の香港日刊英字紙South Chine Morning Post電子版は、The Arctic University of Norway政治学准教授Marc Lanteigneの “The Arctic is not the South China Sea”と題する論説を掲載し、Marc Lanteigneは中国の北極における利益を理解するためには、北極海と南シナ海の2つの海域は戦略的に類似しているという間違った物語を排除する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 気候変動が北極に影響を及ぼし続け、この地域が新たな経済的重要事項の1つとして広く見られ始めるにつれて、北極海は大国のライバル関係の新たな衝突の場所として近年、多くの国に注目されている。中国は、北極における独自の政治的、科学的、経済的利益をさらに発展させようとしている。中国は北極の利害関係者として地域の対話への参加を目指しているけれども、米中関係の悪化は今やこれらの野望に大きな課題を提示している。中国が北極への展開を強化し続けるなか、中国の北極政策の解説や研究の中で、中国の北極での利益を修正主義的に描くのがより一般的になっている。非常に多くの場合、中国の南シナ海における政策と北極に関する政策を直接比較することにより、北極における中国の戦略的能力を定義しようとしている。「南シナ海」は、北極での中国の脅威を実証しようとする人々のためのずさんな前例となっている。中国の利益の観点から、政治的、法律的、地理的、歴史的にさまざまな角度から、2つの海域は大きく異なる。「北極は南シナ海に等しい」というデマは、2つの理由で消えるべき時である。まず第1に、その比較は「中国が南シナ海で不適切な振る舞いをしている、それゆえ中国は北極でも不適切な振る舞いをするに違いない」という根拠のあやふやな議論に基づいているからである。北極における中国の能力の限界と北極という条件を検討していない。第2に、この関連付けに過度に注目することは、気候変動と地域の人々に対する社会経済的影響を含む、北極の実際の差し迫った安全保障上の課題という現実と議論の乖離を生み出すからである。
(2) 2021年5月下旬にレイキャビクで開催される隔年の北極評議会閣僚会合では、地域開発、教育、Covid19の世界的感染拡大後の医療問題に加えて、これらの安全保障の課題への取り組みに多くの期待があった。米政府は、Trump前政権時代には北極の最も差し迫った安全保障上の脅威を再定義しようとし、気候変動と人間の安全保障の影響を軽視し、ロシアと中国を大きな権力の脅威として指摘した。多くの場合、南シナ海での紛争が中国の壮大な地域戦略と北極の規則と規範を覆す意図の反論できない証拠として取り上げられた。例えば、フィンランドのロヴァニエミで開かれた北極評議会閣僚会合で当時のMike Pompeo米国務長官は、2019年の悪名高い演説の中で「我々は北極海を軍事化と競合する領土主張に満ちた新しい南シナ海に変えていいのか?」と述べた。これは後に、2020年6月に「中国は南シナ海の国際的な海域で間違った主張をする独自の前例を持っており、北極でも彼らに有利となるようにルールを曲げようとする可能性がある」と指摘した米海軍のJames Foggo大将の発言にもつながった。しかし、取得可能な資源を持つ地域を含む地域の多くは、北極周辺国の領海と排他的経済水域(EEZ)の中にある。他の大きな水域と同様に、北極海は、中国も批准している国連海洋法条約(UNCLOS)を含む国際法によって守られている。南シナ海の主権に対する中国政府の姿勢は、領土主張と歴史的海域の概念に基づいている。これが北極と南シナ海との比較の中で第1の相違点である。これらの点は北極海には存在しておらず、それは変わらない可能性が高い。それは、中国の2018年の北極に関する政府白書でも認められている。非北極諸国は科学的経済的活動に関与する権利を有するものの、「北極圏外の国家は北極圏に領土主権を持たない」と述べられている。中国は北極周辺国ではなく、北極周辺国の主権に異議を唱えるものではない。北極評議会などの組織を弱体化させる努力もしていない。中国の政策立案者は実際には、環境分野を含む地域の新興分野における非北極諸国によるより大きな関与を提唱してきた。
(3) 中国は、非北極諸国に属している。ドイツと日本はこの地域の将来について議論する中で、非北極諸国のための余地があるべきだと述べている。中国もまた2017年の極地法の策定や北極中央での漁業モラトリアムなど、北極の他の最近の政策決定活動にも積極的に取り組んでいる。中国は、地域情勢の相対的な後発者として、多くの点で地域について学んでいる。研究協力、現在および潜在的な合弁事業、新興の北極海航路の使用を含む中国の北極関連の利益の大半は、8つの北極周辺国政府との親善に大きく依存している。この状況は、ロシアの場合、シベリアでの中露経済協力の緊密化にもかかわらず、ロシアの政策立案者は北極周辺と非北極の国の権利に大きな違いがあることを明確に指摘している。ロシアの北極周辺への野心的な経済計画への重要性の高まりを考えると、その指摘が変わる可能性は小さい。これは北極と南シナ海を関連付けようとする際の第二の相違点となっている。
(4) ロシアは様々な北極における提携を中国に求めているが、中国を含む外国に安全保障上の利益に開放することはないという兆候を示している。現在の中国の政治的な工作はロシアに対する以外には縮小しつつあり、増加していない。中国とカナダ、スウェーデンという2大北極周辺国との関係は依然として低調である。北欧とバルト地域における極地シルクロード関連のインフラ計画の計画は各地で広範な反対に陥っており、デンマークはグリーンランドにおける中国の経済的利益を警戒しつつある。2021年4月のヌークの議会選挙で中国企業が支援した計画的な採掘計画が中止されたとき、オランダと米国では多くの安堵のため息が出た。中国の過去10年間の北極関連活動の多くは、受け入れた地域提携国の地位を達成することを視野に入れてきたが、この目標は地政学的現実と頻繁に衝突し始めている。これは、北極と南シナ海を比較する第三の大きな相違点である。
(5) 近年、中国政府は、中国海警の「白い船体」の船舶や最近、南沙諸島のユニオン堆の中で最大の環礁である牛軛礁の付近で活動している「青い船体」の行動の不規則な民兵船など、南シナ海に新たな種類の戦略的資産を追加しようとしている。そのようなシナリオは、北極海では、中国が一方的に軍事的な行動を行おうとしたならば重大な制限に直面することと、そのような行動のコストが中国に有利になることは確実ではないため、不可能である。中国は、自国を即座に不利な立場に置き、すでに行われたすべての地域的利益を迅速に失うので、北極のさらなる軍事化を引き起こすのを避けようとするだろう。今から10年前に、化石燃料の価格高騰をきっかけに北極資源の争奪戦が頻繁に行われた際、北極海の資源を北極周辺国のみに割り当てようという議論が起きた。中国はそのような結果を避けたいため、北極海を単に寒い南シナ海として扱う可能性を抑制している。中国は北極に戦略的利益を持たないと主張するのは間違っているだろうし、実際に中国は北極を「新しい戦略的最前線」としている。また、中国の2隻の砕氷船による航海や、戦略的使用のためにデータが蓄積される可能性のある北極海運交通を監視するための衛星を配備する計画などの民間計画に関しては、深刻な疑念が生じている。中国が北極関連で行う事業や北極の安全保障全般の全体を検討する際には、中国の目標と能力、現実と仮説を明確に区別することが重要である。南シナ海モデルを北極に適用することは北極の安全保障全般を検討する上では不適切な方法である。北極は南シナ海ではなく北極である。中国の北極に関する利益を理解するためには、2つの海域は戦略的に類似しているという間違った物語を排除する必要がある。
記事参照:The Arctic is not the South China Sea

5月27日「インド太平洋におけるQUADの意義―米日本専門家論説」(Council on Foreign Relations, May 27, 2021)

 5月27日付で、シンクタンクを含む米超党派組織Council on Foreign Relations(外交問題評議会)のウエブサイトは、同評議会の上席研究員で日本専門家のSheila A. Smithによる“The Quad in the Indo-Pacific: What to Know”と題する論説を掲載し、そこでSmithは日米豪印戦略対話(QUAD)が近年存在感を強めている背景、日本がそれに何を求めているか、そして中国の反応について、要旨以下のとおり述べた。
(1)日米豪印4ヵ国戦略対話(以下、QUADと言う)は公式の同盟関係ではない。もともとこの4ヵ国の海洋に関する協力関係は、2004年のスマトラ沖地震と津波のあとに始まったものだが、国によってそれに求めるものは違っていた。たとえば、日本は民主主義国間のつながりであることを強調する一方で、インドは価値観の共有というよりは機能的な協力関係を望み、オーストラリアはそれが公式の同盟であるという印象を与えることを嫌ってきた。
(2)年を経てそのつながりを強めたり弱めたりしつつ、近年、とりわけ安全保障や経済をめぐる協力関係が密接になってきている。その背景にあるのが中国の台頭である。2021年3月にはBiden大統領がオンラインでのQUAD首脳会談を開催した。
(3)米国にとって、これらの国々との協力を深めることは自然なことである。日豪はそれぞれ同盟国であり、インドも重要な戦略的提携国である。インド太平洋それ自体がきわめて重要な海域であり、今年、世界中でやりとりされる製品の約4割がその海域を通航するという試算がある。ただでさえ戦略的に重要な地域であるインド太平洋において、中国が現状変更を求めて攻勢に出ていることが、関係各国にとってのQUADの重要性を高めている。ただし、QUADが議論する問題がすべて中国に関わるものだというわけではない。先端技術とそのサプライチェーンなどの問題や、COVID-19に関わる諸問題への対処についても重要な議題である。
(4)日本はQUADに何を求めているのか。安倍晋三前首相はQUADをかなり重要視し、Trump前大統領を説得して、QUADを通じた「自由で開かれたインド太平洋」の確保を目指した。日本にとって自由な海上交通路の確保はきわめて重要な課題である。自衛隊は関係各国との連携を深めている。地域内の基幹施設投資などにも日本は大きな役割を果たしている。日本は東シナ海において中国の挑発に直面しており、QUADを構成する国々との戦略的協力を深めることはきわめて重要である。中国がインド太平洋の国々に支援と引き換えの種々の条件を課している中、日本はその代替的な支援の提供を模索し、中国の影響力拡大を阻止しようとしている。また、QUADの協力を通じて半導体などのきわめて重要な製品のサプライチェーンを強力なものにすることも日本にとって重要な課題である。
(5)QUADの存在感が高まる中、これら4ヵ国と中国との関係は悪化し続けている。今年3月にアラスカで開催された米中外交トップによる会談では対立が表面化し、オーストラリアは、昨年COVID-19の起源の調査をWHOに提案したことで中国の制裁を受けている。中国は最近のQUAD外交が「冷戦のメンタリティ」に基づく「完全に時代遅れ」なものだと痛烈に批判した。
(6)QUADの重要性は増しているが、しかしそれは中国の軍事的な封じ込めを模索するものではない。それは、利益の共有に基づく協調であり、インド太平洋における中国の台頭に対し、民主主義国が連携してその自信を深めることが目的である。中国との間の緊張が厳しいものである限り、QUADのそうした役割が損なわれることはなく、今後も拡大していくだろう。
記事参照:The Quad in the Indo-Pacific: What to Know

5月30日「インドネシア、潜水艦部隊増強へー日経済紙報道」(NIKKEI Asia, May 30, 2021)

Indonesia looks to triple submarine fleet after Chinese incursions
https://asia.nikkei.com/Politics/International-relations/Indo-Pacific/Indonesia-looks-to-triple-submarine-fleet-after-Chinese-incursions
NIKKEI Asia, May 30, 2021
 5月30日付の日本の経済紙NIKKEI Asiaは“Indonesia looks to triple submarine fleet after Chinese incursions”と題する記事を掲載し、中国のインドネシアの海域に対する侵犯に直面するインドネシアは潜水艦「ナンガラ」沈没事故の1ヶ月後には同海軍の潜水艦保有数を3倍の12隻にすることを企図しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 複数の国防筋によれば、インドネシアは現有の潜水艦4隻からその3倍の12隻態勢へ
勢力増強を企図している。インドネシアは、世界第3位の排他的経済水域(以下、EEZと言う)を有するが、その潜水艦勢力はEEZが世界第6位、保有潜水艦20隻の日本と比較して見劣りするものである。潜水艦「ナンガラ」の沈没事故を受け、国防大臣Prabowo Subiantoは軍の装備への投資拡大を示唆していた。潜水艦に関しては、インドネシアは韓国との共同建造合意を求めている。一方、フランス、ロシア、トルコは潜水艦の輸出を提案しており、日本は潜水艦を売却するとの考えを示している。
(2) 潜水艦沈没事故は、潜水艦部隊の状況について危機感を募らせた。中国の九段線は、ナ
ツナ諸島周辺でインドネシアのEEZと交錯している。もし、潜水艦の保有数を目標とする数まで増強することができれば、哨戒艦艇では到達することができない海域での濃密な監視を実施することができ、このことはナツナ諸島周辺での外国艦船の展開を減少させるだろうとインドネシアシンクタンクThe Institute for Security and Strategic StudiesのKhairul Fahmiは言う。
(3) インドネシアは近年、潜水艦に関して韓国と作業を進めており、Daewoo Shipbuilding &
Marine Engineering(大宇造船海洋)との技術的協働を追求しつつある。現に保有する4隻のうち2隻は韓国で建造され、1隻は韓国の技術を使用して国内で建造されている。インドネシアは防衛装備を輸入する際に、自国の技術能力向上と雇用確保のため技術移転を求めている。韓国は価格とともに有利な条件を提示してきた。しかし、インドネシアは様々な問題の中でも主蓄電池に絡む電源問題を取り上げ、これら潜水艦の能力に満足していない。日本からの潜水艦は最先端であり、はるかに静粛で、潜航持続時間も長い。しかし、価格は高く、技術移転はより微妙であろう。
記事参照:Indonesia looks to triple submarine fleet after Chinese incursions

5月30日「米中戦争になったらどちらが勝つか―米専門家論説」(NIKKEI Asia.com, May 30, 2021)

 5月30日付のNIKKEI Asia電子版は、元Supreme Allied Commander of NATO(NATO連合軍最高司令官)で米Tufts UniversityのFletcher School of Law and Diplomacy 学部長であったJames Stavridis元大将の” If the US went to war with China, who would win?”と題する論説を掲載し、ここでStavridisは現時点では米国が優勢であるが、今後10年間でその差は縮まり、米国が対応しなければ中国が優位となっていくと、要旨以下のように述べている。
(1) 米中戦争の可能性については、多くのことが語られている。戦争の可能性は理論的に評価されることが多く、その分析の多くは戦争がいつ起こるかを中心になされている。しかし、肝心なのは、どちらが勝つかという単純な問題である。もちろん、大きな戦争にあっては勝つということはない。しかし、戦争を回避するもっともよい方法は、潜在的な敵に自分が最大の敗者になることがほぼ間違いないと思わせることである。中国と米国の軍事バランスは複雑で、予算、艦艇・航空機数、地理的条件、同盟組織、技術(特に海中での能力、サイバーセキュリティ、宇宙)などを考慮する必要がある。
(2) 米国の国防予算は、透明性が高く、2020会計年度の国防費は約7,140億ドルで、2021年には7,330億ドルまで増加する見込みである。やや不透明な中国の国防費は小さく、今年の国防予算は前年比6.8%増の1兆3,600億元(2,126億ドル)となっている。しかし、中国には全てが志願兵で組織されるような高額な人件費は必要なく、そして軍事活動の大部分は東アジアに集中しており、米軍のように高額な費用をかけて世界各地に展開しているわけではない。また、中国の支出の重要な部分は、公にはされていない。全体的に見て、軍事資源の面では米国が有利であるが、見た目ほど圧倒的なものではない。
(3) 単純な艦船の数で比較すると、中国はすでに戦闘艦艇の数でアメリカを約350対300でリードしている。中国の造船所では、技術的には比較的低い哨戒ミサイル艇、コルベット及びフリゲートを中心に、ほぼ毎週のように新しい艦艇を建造している。一方、米軍の艦船は大きく、優れた攻撃・防御システムを備え、はるかに経験豊富な乗組員が乗艦している。さらに米国は、長距離航空機、水上艦、及び潜水艦を結ぶ、非常に洗練された指揮統制網を持っている。東アジアの狭い地理的条件を考慮すると、海と空の両方の兵器の純粋な数では中国がやや優勢で、質は米国が高いと言える。
(4) 中国は、東シナ海や南シナ海で米国と衝突する可能性がある場合、地理的に非常に有利な立場にある。特に中国は、燃料や弾薬の補給などで軍艦を支援し、近くに修理施設を提供し、乗組員を容易に乗退艦させることができる。米国にとっては、たとえ近くに米軍基地があったとしても、長い補給路と人員のやり繰りが米軍を苦しめることになるであろう。
(5) また、中国が南シナ海に建設した一連の人工島は、韓国、日本、グアムの米軍基地とある程度のバランスをとるものである。米海軍は中国の約10の島を人工島ではなく、不沈空母と考えている。実際、米国の戦術的・戦略的な考え方として、これらの施設をどのように無力化するかが検討されており、その1つとして、米海兵隊の特殊戦部隊を配備し、戦闘の初期段階で攻撃能力を破壊することが考えられている。そして米国は、同盟国を巻き込むことで長い補給線のために起こる補給の遅れを取り戻そうとするが、地理的条件は明らかに中国に有利である。
(6) 米国は以前から、中国と比較して最大の優位となるのは、世界中の同盟国、提携国、友好国のネットワークであると考えてきた。アジアでは、世界第3位の経済大国である日本、強力な海軍力を持つオーストラリア、そして韓国、シンガポールなどの支援がある。また、米国は日米豪印の4ヵ国安全保障対話(QUAD)を通じて、インドを強力に育成している。しかし、中国の攻撃に直面した時、米国がこのような提携国にどれだけ頼ることができるのかは疑問が深まっている。
(7) 中国は米国を真似して、提携国関係の仕組みを強化する傾向にある。まさにそれを実現するのが「一帯一路」構想で、中国はアジアとアフリカ東海岸の両方に進出している。重要なのは、共同軍事演習を頻繁に行う相手国ロシア、4,000億ドルの投資を発表したばかりのイラン、パキスタン、Rodrigo Duterte大統領が多くの問題で、正式な条約上の同盟国である米国よりも中国を支持しているように思われるフィリピンとの関係を強化していることである。全体的に見て、米国の同盟国は規模が大きく、豊かで、強力な軍事力を持っているため、ワシントンにとっては有利であるが、その差は縮まっている。
(8) 米中戦争の勝敗は、どちらが優れた技術を持っているかによって大きく左右される。潜水艦の静粛化、宇宙にある軍事衛星の数、攻撃・防御用のサイバーツール、無人機などの分野では、米国が依然リードしている。しかし、人工知能、極超音速巡航ミサイル、サイバー、量子コンピューターの分野では、中国が急速に追い上げている。現時点では若干ながら米国が優位に立っている。おそらく今後10年間でその差は縮まり、米国が対応しなければ、中国に有利となっていくであろう。
記事参照:If the US went to war with China, who would win?

5月31日「NATO、冷戦期以来初の大西洋横断演習―CBC報道」(CBC, May 31, 2021)

 5月31日付のCanadian Broadcasting Corporation(カナダ放送協会、CBC)のウエブサイトは、“NATO tests its ability to reinforce Europe in a crisis with massive trans-Atlantic operation”と題する記事を掲載し、NATOが冷戦時代以来の大西洋を渡ってヨーロッパを支援する演習を行ったことについて、要旨以下のように報じている。
(1) ヨーロッパを増強するために、敵威力圏下にあると考えられる大西洋を部隊や装備を迅
速に横断させるという組織的にも兵站的にも複雑な演習をNATO諸国が集団として実践したのは、実にほぼ40年ぶりのことである。この2週間、西欧の軍事同盟に属する軍艦、潜水艦及び航空機は、ヨーロッパで戦争が発生した場合に海上交通路を確保する方法について軍事演習を行った。この演習は、Steadfast Defender 2021と呼ばれ、3つの段階で展開されている。
(2) 近年、大国間の競争が再燃しているため、NATOは加盟国が将来的にはそれほど穏や
かではない可能性のある大西洋戦域において連携する準備をしておく必要があるとSteve Waddellカナダ海軍少将は述べている。5月30日に第1段が終了したこの演習には、同盟国全体から5千人以上の兵員が参加した。司令官とその指揮下にある艦艇は、潜水艦からの防衛を含む様々な実時間で運用される状況の中で演習を実行した。これは、NATOが大西洋を横断している光ファイバー・ケーブルの防衛に重点を置いていることを反映したものであり、このケーブルは西欧諸国の商業の多くを動かしている。国防の専門家たちは、特にデジタル経済の優位性を考えると、これらのケーブルは戦略上の脆弱的なポイントであると考えている。海底のケーブルをいじりまわすロシアの能力が、増々悩みの種となっている。「今日の環境は多領域である。我々が考えるのは、単に水面や潜水艦が活動する水面下だけではない。今では、海底から宇宙まで(が対象領域)だと考えている」とWaddellは述べている。この演習の次の段では、上陸した部隊や装備を迅速に調整してヨーロッパを横断させるNATOの能力をテストする。同時に、トルコが率いる4千人の部隊で構成される同盟の高度即応統合任務部隊が、この訓練を完了するためにルーマニアに展開する。
(3) この演習は、Joe Biden米大統領とVladimir Putinロシア大統領の首脳会談に先立って行われ、ロシアが最近、西部国境に大規模な部隊を恒久的に配備し、それらの軍隊を統制・調整するために長い間休眠させていた冷戦期の陸軍司令部を再開すると発表した後のことである。
記事参照:NATO tests its ability to reinforce Europe in a crisis with massive trans-Atlantic operation

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Japan’s Backwards Island Defense Strategy Against China Is A Mistake
https://www.19fortyfive.com/2021/05/japans-backwards-island-defense-strategy-against-china-is-a-mistake/
19fortyfive.com, May 22, 2021
By James Holmes, the J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College 
 5月22日、米国のNaval War Collegeの教授James Holmesは米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトに“Japan’s Backwards Island Defense Strategy Against China Is A Mistake”と題する論説を寄稿した。その中で、①中国の東シナ海での威圧的な行為は、強い平和主義的傾向を持つ日本を刺激し、防衛費の上限を突破させたが、日本は、南西諸島の防衛問題に後ろ向きに取り組んでいるのかもしれない、②日本の元防衛副大臣は、自衛隊の水陸機動団の最大の目的を「離島が不法に占拠された場合に、迅速な上陸、奪還、及び確保のための本格的な上陸作戦を行うこと」と発表している、③しかし、「奪還」という言葉が忠実に戦略に反映されているのであれば、あまりにも消極的である、④日本の指揮官は、中国軍が攻撃を仕掛ける前に、軍隊を島に急行させ、島を要塞化する計画を立てなければならない、⑤プロシア陸軍元帥Helmuth von Moltkeは、Clausewitzが書いた『戦争論』をもじって、「戦術的な防勢はより強い」戦争の形態であり、戦略的な攻勢は「より効果的な形態であり、目標に導く唯一のものである」としている、⑥ある場所や目標を占領し、それを戦術的に守る部隊は、戦略的な成功のために自軍を配置すれば、敵に多大なコストと危険を冒して奪い返すことを強いる、⑦これは海軍史家Julian S. Corbettが主張するように、海でも同様である。⑧東京は、水陸機動団が中国の敵対者よりも先に争奪戦の場に到着し、できる限りの粘り強さでそれを守るという、戦術的防勢の優位性を主張すべきである、といった主張を述べている。

(2) Why a Taiwan Invasion Would Look Nothing Like D-Day
https://thediplomat.com/2021/05/why-a-taiwan-invasion-would-look-nothing-like-d-day/
The diplomat, May 26, 2021
By Ian Easton, a senior director at the Project 2049 Institute
 2021年5月26日、米シンクタンクProject 2049 Institute のシニアディレクターであるIan Eastonは、デジタル誌The Diplomatに" Why a Taiwan Invasion Would Look Nothing Like D-Day "と題する論説を発表した。その中でEastonは、毎年6月6日に米国とNATOは、ナチズムを打倒し、西欧を解放する一助となったフランスのノルマンディ地方への果敢な水陸両用戦の記念日(D-Day)を祝う習慣があるが、今日、評論家はしばしば、このD-Dayと中国の台湾侵攻のイメージとの類似性を指摘すると述べた上で、このような比較は間違っていると指摘し、その理由として主に①第2次世界大戦で最も壮大な水陸両用作戦であったノルマンディ上陸作戦は、実際のところ、戦域という点では、シンプルな地形や周辺居住住民の少なさなどもあり、比較的単純な作戦であったこと、②台湾の兵力に関しては不透明な部分があり、かつ、中台紛争は数百km離れたところから正確に海上や陸上の目標を破壊することができる近代的な長距離ミサイルを用いた最初の全面戦争になるだろうが、このような戦いがどのようなものになるかは誰にもわからないこと、③有事の際には、中国では、兵士、水兵、空軍兵、ロケット砲兵、海兵隊、サイバー戦士、武装警察、予備役、地上民兵、海上民兵など、数百万人の制服を着た軍隊が動員されることになるが、台湾海峡は、最も狭い部分で128 km、最も広い部分で410 kmの幅があり、実際には200万人以上の戦闘部隊が台湾海峡を通過しなければならない可能性が高く、それは容易ではないことなどを挙げている。

(3) US Navy FY22 budget request prioritizes readiness over procurement
https://www.defensenews.com/congress/budget/2021/05/28/us-navy-fy22-budget-request-prioritizes-readiness-recovery-over-procurement-buys-4-warships/
Defense news.com, May 28, 2021
 2021年5月28日、米国防関連誌Defense NewsのウエブサイトDefense news.comは、" US Navy FY22 budget request prioritizes readiness over procurement "と題する記事を掲載した。その中では、5月28日に発表された2022会計年度予算要求を取り上げ、The Department of the Navyが全体で2,117億ドルの支出を要求したが、これは、前年度の2021年度の要求と比較して1.8%の増加であったものの、海軍の占める割合は1,639億ドルで、2021年度と比較して0.6%増に過ぎず、海兵隊は479億ドルを要求したが、これは、より機敏になり、沿岸作戦に対応できるように短期間で部隊をオーバーホールするために必要な経費ということで6.2%の増加となっていると報じている。その上で、予算の詳細を細かく検証し、結論として、米海軍は、艦船と航空機の整備に投資することで戦闘準備態勢を短期間で強化するが、新規調達や組織構成を縮小する予算を要求し、艦隊の拡大計画を再び中止したと論じている。