海洋安全保障情報旬報 2021年5月1日-5月10日

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5月1日「中国はサラミ・スライス戦術をやめたのか―日加専門家論説」(The Diplomat, May 01, 2021)

 5月1日付のデジタル誌The Diplomatは、慶應義塾大学サイバー文明研究センター特任准教授Dr. Tobias Burgers及びカナダUniversity of Alberta研究員Dr. Scott N. Romaniukの”Is China Done With Salami Slicing?” と題する論説を掲載し、両名は中国の新しい外交政策が誤解や誤算の危険性を高め、インド太平洋全域で紛争が拡大する可能性を高めているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 中国の周辺海域での最近の活動や行動は、外交・安全保障上の限界を超えようとしている。COVID-19の危機が始まって以来、中国はあらゆる領域と多くの場所で、かつてない速度でその影響力を拡大しようとしている。
(2) 中国はインドとの国境紛争をエスカレートさせ、印軍との間で激しい衝突を引き起こしている。また、港湾や電力網など、インドの重要なインフラを標的としたサイバー攻撃を行ってきた。さらに、中国は台湾に対する活動を大幅に強化した。空軍は台湾海峡中央線を越えて、台湾の防空識別圏に進入する軍用機数を増やし、海軍は空母部隊を台湾の東側海域に展開して訓練を行った。そして、このような活動は常態化すると公言している。
(3) 対日関係においても、中国は活動を活発化させており、2020年に比べて2倍の頻度で尖閣諸島周辺の日本領海に中国海警局の船を侵入させている。そして南シナ海での支配拡大を図っており、最近では、海上民兵を200隻近くの船によりウィットサン礁(中国名:牛軛礁)に派遣し、フィリピンの排他的経済水域に侵入している。
(4) これらの行動から、中国が安全保障政策の方向性を変えたことがわかる。中国のインド太平洋における安全保障政策は、以前からサラミ・スライス戦術が中心といわれてきたが、中国はその戦術に見切りをつけ、周辺地域でより積極的な行動を取っている。このサラミ・スライス戦術とは、小さな行動をゆっくりと積み重ねることであり、そのどれもが根拠のないものではないが、時間をかけて積み重なることで大きな戦略的変化をもたらすとされ、この戦術の有効性の鍵は、個々の違反行為が相手の対処を呼び起こさない程度に小さいこととされている。サラミ・スライス戦術を行う側にとっては、他国が対応に消極的であることが重要である。このことは、南シナ海で最もよく実行され、中国のサラミ・スライス戦術に対して、敵対する他国やASEANからの強い反応がないことが、中国によるこの地域での軍事的支配を促進している。
(5) しかし、最近の中国の行動は小さな行動や違反ではなく、対処を引き起こしている。中国の行動は、注目しなければならないほど大きく、目に見えるものになってきている。中国は、小さな行動や違反から、より劇的で広範囲な行動へと手口を変えており、その主な狙いが見えてきている。同時に、中国の行動が最大の敵国の反応を引き起こしていることも明らかである。実際、中国の行動に対して敵対する国々によるこれまでの消極的な反応は一変し、さまざまな形で対処するようになっている。政治的なレベルでは、中国の増大する力に対抗する目的で、国家同士の提携やその他の協力が形成されようとしている。日米豪印による4カ国安全保障対話は、長い間、外交的な実動とされなかったが、最近の中国の自己主張を受けて活性化している。 
(6) 対中国政策に慎重な日本は、最近になって1969年以来、初めて米国との共同声明の中で、台湾の安全と安定の必要性を確認した。一方、台湾と米国の関係はTrump前大統領の下で強化され、Biden大統領は、さらに関係を強化する意向を示している。親中反米を掲げるDuterte大統領率いるフィリピンは、米国との派遣軍協定の延長を決定し、オーストラリアや日本とも同様の協定を求めている。日本は1960年に米国と最初で唯一の協定を結んで以来、このような協定を結んでいなかった。インド太平洋地域では、中国の目に見える圧力の結果、各国が政治的・軍事的な協力関係を強化するようになっている。
(7) 軍事的なレベルでも、中国の行動に対しての強い反応が見られる。台湾は国防予算を増やし、日本とオーストラリアも国防予算を増やした。日本の菅政権は、9年連続で防衛費の増額を承認し、中国の軍事力強化に対応するため、ステルス戦闘機や長距離ミサイルの開発に予算を投入している。オーストラリアの国防予算は引き続き増加しており、今後10年間で40%の増加を目指している。そして米国はインド太平洋地域での存在感をさらに高めており、増大する中国の軍事力に対抗しようとしている。最近の取り組みとしては、中国の海軍力増強に対抗する手段として、中・長距離ミサイルを配備することを目的とした、新たな接近阻止・領域拒否ミサイル計画が挙げられる。
(8) これらの対応を総合すると、中国は現在、その安全保障政策に対抗しようとする敵対勢力の新たな決意に直面している。このような環境と安全保障上の力学の下では、中国がこの地域で安全保障政策を成功させることはできないであろう。なぜなら、中国は効果的にサラミ・スライス戦術を進めるという原則に違反し、時としてスライスが厚すぎ、頻度が多すぎているからである。中国は決して近隣諸国やその強力な同盟国、特に米国に対する自己主張、攻撃性、敵意の唯一の加害者ではないと考えているだろう。しかし、サラミ・スライス戦術は限界に達している。そのため、中国の政権は自国の利益のペースと量を増やすことに目を向けている。
(9) 明らかになってきたのは、中国が超大国としての地位を確立するという目的が危機に瀕していることである。この目的を達成するためには、サラミ・スライス戦術は適切ではない。国家がゆっくりと、しかし着実に利益を積み重ねるためには、時間が必要である。中国の攻撃的な行動は、北京の臆病な時代の終わりを告げるものである。政権がより攻撃的な姿勢に移行するにつれ、その動きが急速な利益や他国への影響力につながることを中国自身が期待するようになるかもしれない。しかし、中国の新しい行動に対して、インド太平洋地域、さらにはもっと遠方の国々がどのように反応するかはわからない。今のところ、中国の新しい外交政策は、誤解や誤算のリスクを高め、インド太平洋全域で紛争がエスカレートする可能性を高めている。
記事参照:Is China Done With Salami Slicing?

5月2日「空母『山東』、南シナ海で演習―中国紙報道」(Global Times, May 2, 2021)

 5月2日付の中国政府系紙環球時報英語版Global Timesの電子版は、“China’s 2nd aircraft carrier group holds 1st drill in 2021 in S.China Sea, ‘training for combat preparedness’”と題する記事を掲載し、中国の2隻目の空母「山東」とその空母打撃群による演習について、要旨以下のように報じている。
(1)中国初の空母「遼寧」が南シナ海を離れた直後、2隻目の空母「山東」を中心とする空母群が2021年に確認された最初の航海においてその海域で一連の演習を行っている。一般に公開された演習に「山東」が参加をするのは2021年では今回が初めてだと評論家たちは述べている。中国海軍の報道官は、2019年12月に就役した「山東」は部隊編成で行動すると述べている。これはこの空母が、試験段階のように単独で行動して独自の技術的限界を試すのではなく、実戦のように駆逐艦やフリゲートを含む他の艦艇と連携した演習ができることを意味すると北京在住の軍事専門家は匿名で語っている。「山東」以外のどの艦艇がこの空母打撃群に含まれているかは発表されていない。専門家達は、今回の「山東」の演習が同じ南シナ海で行われた空母「遼寧」の演習が終了した直後に行われていると指摘している。
(2)中国国防部の報道官は、1日の定例記者会見で「遼寧」空母打撃群は最近、台湾近海や南シナ海の関連海域で定期的な訓練を実施したと述べている。匿名の専門家は、空母を2隻保有するということは、中国海軍がこれら大型艦をより頻繁に展開することが可能であることを意味しており、1隻が保守整備を受けている場合、もう1隻が代替することができると指摘している。最近行われた「遼寧」と「山東」による立て続けの演習は、中国が直面しているあらゆる潜在的な脅威に中国の空母が対処するため、戦闘に備えた訓練を積極的に行っていることを示していると専門家達は述べている。「中国の空母は、『出不精』(homebodies)ではないので、長距離航海が標準になる」と報道官は語っている。
記事参照:China’s 2nd aircraft carrier group holds 1st drill in 2021 in S.China Sea, ‘training for combat preparedness’

5月3日「利用しやすくなった北極圏は軍事競争の場となっている―香港紙報道」(South China Morning Post, 3 May,2021)

 5月3日付の香港日刊英字紙South Chine Morning Post電子版は “A more accessible Arctic becomes proving ground for US-China military jockeying”と題する記事を掲載し、地球温暖化により出入りしやすくなった北極圏は米中ロの軍事的競争の場となっており、地政学的に米国アラスカ州の重要性が増大しているとして、要旨以下のように報じている。
(1) 5月3日から14日にかけて、米軍はアラスカ州で演習を行う。北極とインド太平洋地域を脅かす中国、ロシア、その他の潜在的な敵に対抗することを目的としたこのノーザンエッジ演習には、陸海空軍、海兵隊から約10,000人の兵員が参加する。この演習は、地球温暖化により出入りしやすくなり、新しい航路が開かれた結果として、軍事的競争が激しさを増し、中国がますます活発な競争相手になってきたことに伴って行われるものである。Alaska Command兼アラスカ軍及びThe Eleventh Air Forces司令官David Krumm中将は「中国は南シナ海において国際社会に認められないような領土主張を続けている。我々は、中国が自分の領土主張を正当化しようとして一連の脅迫や経済的な強制手段を使用していると考えている。北極でも、そのようなことが繰り返されないようにする必要がある」と述べている。元アラスカ州副知事であり、2011年から2021年までThe US Arctic Research Commission議長であったFran Ulmerは、「やっとアラスカが重要な場所だと考えられるようになってきた。少なくとも米国政府は多くの注意を払い始めている」と述べている。
(2) 北極圏国は、約930マイル離れているにもかかわらず2018年に中国が自国のことを「近北極国家」であると宣言したことにひどく驚いた。中国が北極圏の領土をあからさまに獲得しようとしていると考える人はほとんどいない。しかし、中国政府は資金、貿易、物流、6つの研究所、積極的な砕氷船建造計画、疑わしい「軍民両用」の研究計画、北極関連計画の長期的な道程表などの面で北極圏に関する野望を隠していない。中国が北極を「国際公共財」と呼んでいるとしても、内部文書ではもっと戦略的な見通しを示している。2018年、中国の北極白書は北極を理解し、保護し、発展させるという3つの目的を述べており、2021年3月、中国政府は「一帯一路構想」に「氷上シルクロード」を追加することを約束した。2021年3月に貨物船の座礁によりスエズ運河が閉鎖されたことで、北極海航路の重要性が強調された。米University of Alaska, FairbanksのHomeland Security and Emergency Management programmeの責任者Cameron Carlsonは、「中国は長期的な戦略を推進することに非常に優れている。中国はアラスカや北極の他の地域であろうと自分たちを食い込ませていくことが巧みである」と言っている。これには中国が北極関連の主要組織に要員を送り込み、2000年以来33人の高官をこの地域に派遣し、科学探査を利用して足場を得て、北極の海底を中国で建造した砕氷船「雪龍2」で調査することが含まれる。The US Naval War Collegeの海洋法学教授James Kraskaは「彼らは気候変動に関する海洋研究を行っている。しかし、これは海中の戦争だと思う」と言った。中国は潜在的な軍事使用で基幹設備の整備を追求しており、大規模な港湾を開発し、スウェーデンの潜水艦基地を取得しようとしている。グリーンランドでは古い海軍基地と3つの空港を購入した。そして「ゴルフができない地域で」滑走路とゴルフコースのために、アイスランドから250平方キロメートルを取得するであろうとThe Brookings Institute発表している。University of Alaska, Fairbanksのアジア研究の責任者Walter Skyaは「中国政府は経済的な力を使って政治的優位を獲得し、数十億ドルを小さな北極諸国に投資し、分割統治の戦術を採用してきた。彼らは、一度商業的、外交的、秘密裏の支払いを相手に受け取らせると、支持層を構築する。施設を作ったあとでは、地域の人々はそれを中国に渡さなければならないようにしている。彼らは粘り強くしつこい。中国政府の自信と野心の高まりは中国の巨大な経済の発展と世界的な重要性の増大に伴うものである。しかし、それはビュッフェの太った男のように、必要以上に食べ過ぎる傾向がある。そして時間が経つにつれて、人々は『中国人は素晴らしい』とは言わなくなる。憤りが増してくる」と言った。しかし、中国だけが露骨な土地のつかみ取りを試みているわけではない。2019年に当時のDonald Trump米大統領は、ジェット戦闘機から携帯電話バッテリーまであらゆるものに使用されるレアアースの供給源であるグリーンランドを奇妙にも「購入」することを申し出た。2021年4月にグリーンランドの環境を重視する左派野党が議会で多数を確保し、議会は採掘停止を約束した。そのため、グリーンランドの豊かな資源を利用しようとする中国の試みは後退した。アラスカ副知事であったFran Ulmerは「中国政府は多くの点で西側諸国が長い間行ってきたことを行って資源と貿易ルートを確保しているだけだ。中国を悪魔と見ることは米国の利益を損なう可能性がある。彼らは金持ちであるが資源については貧乏である。米国が中国との関係を望まなければ、中国はロシアと北極圏開発を行うだろう」と述べた。
(3) ノーザンエッジ演習の司令部は¬Elmendorf-Richardson基地である。アラスカ世界問題評議会理事で元米空軍情報部員のLaura Sturdevantは、十字に交差した滑走路を指さしながら「この大きな基地は敵の攻撃の範囲外である。中国、ロシア、米国のアラスカはすべての中心である。2年ごとに開催されるノーザンエッジ演習は2021年5月3日から14日までの間、太平洋周辺の米軍部隊から最大300機の航空機と人員が参加する。詳細は公開されていない。しかし、過去のシナリオは、水中侵入者を検出するための訓練を受けたイルカを含む演習であり、極端な天候、通信不良、飛行場使用不可、軍事基地間の協力が限られている場合などに直面したときに、参加者が創意工夫して創造的に考えることを訓練しようとした」と言った。米国防総省は、北極圏「パトロール」のため、オーバーホライゾンレーダー、低軌道衛星、固定海底監視装置などの無人技術をアラスカの広大な範囲に採用しようとしている。また、レーダーに関して言えば、中国は2021年3月にフィリピンのWhitsun Reefで南シナ海の領土主張に異議を唱える他の国々に嫌がらせや抑止するために沿岸警備隊や漁船を使用するなどの準民間の「グレーゾーン」戦術を取ったので、これに対抗する防御手段を訓練する。指揮官のDavid Krumm中将は「米国は絶対に他国の経済水域で他国を妨害するために我々の漁船を使用したりはしない。しかし、我々は中国がそのようなことを行うのを見ている。我々は、中国が北極に来てそのようなことをするのを望まない。また、ワシントンは北京とモスクワが協力することを恐れている。中国とロシアには秘密警察の伝統がある。彼らは、独裁的なシステムを脅かす人権重視、市場経済、法の支配などの民主的な価値観に反対して一致するかもしれない」と述べた。ロシアは習近平国家主席の最も頻繁に訪問する外国であり、中国の対外貿易に占めるシェアは2013年の10%から2020年には18%に上昇した。ロシアの北極のインフラ建設計画(Zarubino港、Arkhangelskの喫水の深い港、Yamal LNGプロジェクトを含む。)に対する中国への依存度は、ロシアが2014年にクリミア攻撃し西側がロシアへの資金調達を抑制した後、大幅に増加した。ロシアと中国はまた、バレンツ海、北海、シベリア東部で合同軍事演習を行った。ロシアは戦闘機、ミサイルシステム、中国への早期警戒対ミサイルシステムの輸出を強化している。2020年12月には日本海と東シナ海上空で爆撃機の共同哨戒を行った。とはいえ、中ロ間には大きな亀裂も存在する。中国は「北極に近い」国として多国間の支配を提唱しているが、ロシアは北極に関し最も長い海岸線と海路を管理しており自国を「北極超大国」と考えている。
(4) 2020年に米軍のジェット機は、ロシア航空機に対応するため14回スクランブル発進した。それは通常のレベルの2倍であり、ほぼ10年間で最も多い。米国が冷戦時代に建造した砕氷船2隻は、故障や火災を起こし続けている。ロシアは砕氷船を約48隻保有しており、そのうち9隻が原子力船であり、北極は最近米国の戦略的計画に組み込まれたが、米国防総省はまだ中央の北極調整を行う事務所を持っていないとアナリストは言う。2020年、Karl Schultz米沿岸警備隊司令官は、この状況を「我々が主導的な力でなければならない地域において恐ろしく容認できないレベルのプレゼンスしか持てていない」と述べた。これまでのところ、Biden政権は主にTrump前政権の北極政策を維持しており、2020年6月には2029年までに3隻の大型砕氷船、4つの支援基地により中国の北極の野望を妨げることに焦点を当てるように求めた。2019年に当時のMike Pompeo国務長官は北極評議会においてロシアと中国に「攻撃的な」行動について警告した。
(5) 米国がBiden政権になってからの一つの変化は、環境問題に焦点を当てていることである。Antony Blinken国務長官は、2021年5月19日から20日にアイスランドで行われる次の北極評議会閣僚会議に出席する予定である。アナリストは同盟国とのより緊密な連係を推奨している。弁護士で元アラスカ州知事のBill Walkerは「年間2,000隻もの貨物船が活動している。最悪の事態が発生した場合の対応能力が必要である」と述べた。アナリストはまた、米国政府がロシアと中国の間にくさびを打ち込むことを勧めている。新アメリカ安全保障センターは、最近の報告書で「中国は北極関係国家ではない。中国の影響力を制限することは国益となる。時間を無駄にしてはならない」と述べた。ワシントンの遅いスタートは、モスクワの着実な前進と比較される。ロシアは近年アラスカの海岸から数百マイルの場所にあるWrangel島の飛行場を強化し、冷戦時代にあった北極軍のポストを復活させ、2020年には新しい原子力砕氷船を北極に派遣した。経済的及び軍事的な関与が深まるにつれて、北極における競争は激化するだけである。北米航空宇宙防衛軍と米北方軍のMeg Harper少佐は「アラスカが戦略的に重要であることは明白である。ロシアの活動の強化と中国の野心的行動は、北極の戦略的重要性が増す一方であることを示している」と述べた。
記事参照:A more accessible Arctic becomes proving ground for US-China military jockeying

5月4日「中国とのダーウィン港リース契約を終了させる時 ―豪専門家論説」(The Strategist, 4 May 2021)

 5月4日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、同Instituteの事務局長で元Department of Defense戦略担当副長官Peter Jenningsの”Time to end China’s lease on the Port of Darwin”と題する論説を掲載し、Peter Jenningsはインド太平洋諸国が中国の大企業の存在に内在する重要な基幹設備の脆弱性を評価しなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) Peter Dutton豪国防大臣は、2015年に締結された中国企業Landbridge社によるダーウィン港の99年間のリース契約の将来についてDepartment of Defenseにいくつかの助言を提示するよう求めた。このリース契約の再検討を必要とするようになった出来事を考察する。
(2) 第1に、中国はインド太平洋を支配し、米国に取って代わってこの地域の主要な軍事力となり、米国の同盟国を弱体化させ、北京の意向に反する意見を許さないという攻撃的な方針を打ち出した。オーストラリアの外交政策白書2017年版には、政府は中国との強固で建設的な関係を約束し、中国が地域と世界の安全保障を支える責任を共有する能力を高めていることを歓迎すると記載された。この記述は、現在では信じられないようなことである。実際のところ、北京は地域の安全保障に対する責任を共有することに関心がない。南シナ海でも、台湾でも、インドとの国境でも、そしてオーストラリアへの対応でも、北京の目的は国際秩序を破壊し、自分たちの権威主義的な支配に置き換えることである。
(3) 第2に、オーストラリアがかつて歓迎していた中国との経済関係が、北京によって強制と懲罰の手段として利用されるようになった。中国大使館の見解では、中国との関係におけるすべてのマイナス要因は、オーストラリアに責任があるとされている。中国の副大使は先日、キャンベラの聴衆に向けて、「両国の友好関係を妨害する者は、歴史の中で投げ捨てられるだろう。彼らの子供たちは歴史の中で自分の名前を口にすることを恥じるだろう」と語った。このような考え方では、オーストラリアが中国と異なる点を指摘すれば、それは罰せられることになる。
(4) 第3に、習近平は中国と香港の企業に対する共産党の支配を強化し、党の優先事項を確実に進めさせている。2017年北京は、あらゆる組織と市民は法律に基づき、国家の諜報活動を支援、援助、協力し、国家の諜報活動の秘密を守らなければならないとする国家情報法を制定した。2020年6月に制定された香港の国家安全保障法は、同じ強制力を香港の市民や企業に適用し、さらに、これは世界のどこでも、誰にでも適用できると主張している。ダーウィン港のリース契約時、オーストラリアの評論家には、Landbridge社が中国共産党とつながっているという懸念を妄想であると切り捨てる人もいた。その後、明らかになったのは、習近平政権下の中国共産党が、企業に対する党の支配力を大幅に強化していることであり、アリババのJack Maが経験したように、党の機嫌を損ねれば、世間から姿を消し、多額の罰金を科せられる。当然のことながら、中国の企業は中国共産党を喜ばせるために多くの努力をする。中国国内でLandbridge社は、国家のブランド、世界のLandbridgeとして自らを売り込み、国家の要請に積極的に応えることに注力している。これを中国企業が中国共産党の機嫌を取るために行っていると解釈するのは誤りであり、習近平の重要な目標を達成すれば、党指導者から好意的に見られ、資金を得られるのである。
(5 ) 第4にアメリカの戦略が変わりつつある。Trump前大統領の下で、またBiden大統領の下でも、米軍は中国に対処するための戦略を再構築しており、インド太平洋における紛争の危険が急激に高まっている。米軍は、グアムや日本などへの中国による攻撃が成功する可能性を減らすために、危機の際に米軍を分散させる戦略を急速に展開している。
(6) このようなシナリオの中で、オーストラリア北部はこの地域全体の安全保障にとって戦略的に重要な位置にある。政府が北部の軍事訓練場に2億ドルを追加して総額7億7,400万ドルを支出することになった理由の一端はここにある。この訓練場で使用される燃料、弾薬、軍用機器がダーウィン港で陸揚げされることを忘れてはならない。Landbridge社の99年リースに対する2015年の国防省の回答は、小規模なクナワラ海軍基地に影響を与えないので問題にならないというものだった。当時の国防大臣Dennis Richardsonは、2015年10月に議会の委員会でこう語った。「私たちは、自分たちの利益という観点からしかこれを見ることができません。私たちの部署にとって国家安全保障上の問題があるのでしょうか?それはありません。他の人が外国人の所有権について別の問題を抱えていたとしても、それが我々の利益や責任に影響を与えない限り、我々に関係する問題ではありません」
(7) 今日、Department of Defenseはダーウィン港におけるオーストラリアの国家安全保障上の利益を考慮しなければならない。ダーウィンはオーストラリアだけでなく、同盟国や提携国にとっても戦略的な場所となり、港の管理は2015年当時よりもさらに重要になっている。中国が地域支配の道を歩み始めたため、インド太平洋諸国は、中国共産党に対する義務を負った中国の大企業の存在に内在する重要な基幹施設の脆弱性を評価しなければならない。これまでの互恵的なビジネス関係への期待を断ち切らざるを得ないが、戦略上の厳しい現実がこれからの展開を左右することになる。
記事参照:Time to end China’s lease on the Port of Darwin

5月5日「米国、中国海軍閉塞に日本の潜水艦に着目―日経済紙報道」(NIKKEI ASIA, May 5, 2021)

US eyes using Japan's submarines to 'choke' Chinese navy
https://asia.nikkei.com/Politics/International-relations/Indo-Pacific/US-eyes-using-Japan-s-submarines-to-choke-Chinese-navy
NIKKEI ASIA, May 5, 2021
 5月5日付の日経英文メディアNIKKEI ASIA電子版は、“US eyes using Japan's submarines to 'choke' Chinese navy”と題する記事を掲載し、中国が抱える弱点の1つは地理的条件であり、中国海軍が開豁な海域へ進出するためには、南西諸島にあるいくつかのチョークポイントを越える必要があり、米国の立場から見れば、中国海軍を閉塞するためにはこのチョークポイントを守る必要があり、この任務には通常型潜水艦が最適と考えられ、米国が日本の潜水艦部隊に注目しているとして、要旨以下のように報じている。
(1)その大規模な軍事力増強にもかかわらず、中国には克服困難ないくつかの弱点がある。
その1つが地理的条件である。「中国の潜水艦基地を見てみれば、それらは水深が十分にある海域へ進出するために水深の浅い海域を航過しなければならないことである」と元米潜水艦乗組員であったTom ShugartはNikkei Asiaに述べている。Google Earthを一瞥してみると、中国沿岸は明るい青で囲まれている。これは、浅い海域であることを示しており、対照的に濃い青で示された水深の深い海域は台湾及び日本の東海岸から急激に落ち込んでいる。潜水艦が一度深海域に進出すれば、発見するのが困難である。日本及び台湾の潜水艦は直接深海域に進出できるが、中国潜水艦はこの恩典には浴していない。
(2)潜水艦が中国近海から開豁な海域に進出するためには、島嶼線にある異なるチョークポ
イントや海峡を通過しなければならないとした上で、「もし、我々が紛争に巻き込まれたり、備えたりしなければならなくなったとき、米国及びその同盟国の潜水艦部隊が中国潜水艦の行動を監視し、あるいは阻止する機会が与えられる」と米シンクタンクCenter for a New American Security研究員Tom Shugartは言う。中国との紛争の場合、チョークポイントの支配は日本のもっとも重要な貢献である」と米シンクタンクRANDの政治学者Jeffrey Hornungは述べている。1969年の日米首脳の共同声明で台湾海峡に関して言及されたことは、平和が破れた場合に日米両同盟国がどのように行動できるかの議論を促進してきた。
(3)4月30日、Lloyd Austin米国防長官は「統合抑止」という新しい概念を提起した。これ
は同盟国に将来の戦争に備えて「手に手を取って」行動することを求めるものであり、将来の戦争は国防長官自身が過去20年以上行ってきた「古い戦争」とは全く別のものである。
南西諸島は九州南端から台湾北部に伸びている。「日本の役割はチョークポイントを支配することである。南西諸島を見てみれば、海上自衛隊の潜水艦能力と防勢機雷原によって制御されるチョークポイントが多く存在する。日本はそれらチョークポイントを完全に閉鎖することが可能であり、台湾周辺であれ、東シナ海の戦闘海域であれ、中国をそこに閉塞させ、日米はこのことを計画し、中国を制御することができる。日本は、対艦巡航ミサイルであれ、中国潜水艦を探知、攻撃するP-3C哨戒機であれ、より防衛に焦点を当てるだろう。そのことは、戦闘場面において戦闘を可能にする多くの艦艇、航空機等に自由度を与えることになるだろう」とRANDのHornungは言う。潜水艦戦のベテランであるShugartは、日本の通常型潜水艦はこのような任務に特に適しているとして、「日豪のような同盟国の通常型潜水艦部隊はチョークポイント防衛には非常に有用である」と述べており、チョークポイントの防衛は相対的にある位置に留まって実施されるものであり、潜水艦は高速で機動することを求められていないと指摘している。そして、「通常型潜水艦は非常に静粛で、したがって島嶼線の中にチョークポイントを防衛する必要のある固定的な海域がある場合には、その海域は通常型潜水艦を配備するのに適した海域である」と言う。原子力潜水艦は開豁な海域において敵を追尾し、あるいは探知されていない位置からミサイルを発射する準備することに適している。「島嶼線にあるチョークポイントでの防御は、米国の同盟国の通常型潜水艦を展開するのが有用な手法である」とShugartは言う。米国とその同盟国は中国の高度な能力に直面する可能性に備えるため、これは米国とその同盟国がますます計画していく協力のあり方かもしれない。
(4)Austin国防長官は、その統合抑止の議論で「次の戦争で我々が戦う手法は、我々がこれ
までに戦ってきた手法とは全く異なったものになりつつある」とし、「より早く理解し、より早く決心し、より早く行動する」ことの必要性を強調し、抑止は仮想的を頭の中で考え直すことを常に意味してきたとした上で、「抑止の真理は侵略の対価と危険性が考えられるいかなる利得に合致しないことであり、今日、このことを明確にするために、我々は既存の能力を使用し、新しい能力を構築し、同盟国、提携国と手に手を取り合ったネットワークによって全ての能力を使用することになるだろう」と言う。The U.S. Marine Corps Forces Pacific(米太平洋海兵隊)元司令官Wallace Gregson退役中将は、Austin国防長官は3つのグループの聴衆に向かって話していたと言う。第1の聴衆グループは、The Department of Defense(国防総省)部内者であり、各軍種間の壁を壊すためであるとGregson元中将は言う。Austin国防長官は国力のあらゆる要素を動員する取り組みを求めて、米政府全体に向けて話しかけている。第3の聴衆は、同盟国、提携国である。Austin国防長官は日本などの国々と共同作戦指揮組織を模索しているとGregson元中将は言う。
(5)Gregson元中将は、「我々は、不測の事態に対する計画、作戦概念の開発、日米両部隊が
連携し、1つの団結力のある部隊として戦うことのできる能力の開発に十分に働いてはこなかった」として、中国の圧倒的な兵力は日米同盟がより良く協調し、より迅速な意思決定を行うことを余儀なくさせていると言う「統合に必要なものは全ての軍種に対する詳細な共通の作戦情勢である。それによって、各軍種の役割が理解され、脅威が探知された場合には協議を必要とせず極めて迅速に対応できるのである」とGregson元中将は述べている。このことは、多くの不測に事態への対応を計画するように全ての問題を通じて日米が毎日膝をつき合わせて協議することを必要としているとGregson元中将は日経に語っている。
記事参照:US eyes using Japan's submarines to 'choke' Chinese navy

5月6日「インドの海洋権益が米国より中国に近いのはなぜか―中国専門家論説」(South China Morning Post, 6 May, 2021)

 5月6日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、中国人民解放軍大校(退役)で現精華大学戦略与安全研究中心上席研究員周波の“Why India’s maritime interests are closer to China than the US”と題する論説を掲載し、そこで周はインドの排他的経済水域内での米海軍の作戦行動に言及したうえで、インドの海洋権益が米国よりも中国と共有するところが多く、米国へのどっちつかずの態度を採るべきではないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 4月7日、米駆逐艦「ジョン・ポール・ジョーンズ」が、インドの排他的経済水域(EEZ)内に位置するラクシャドウィープ諸島の西130海里で作戦行動を実施した。それはインドに事前の合意を求めるものではなかったが、もし米海軍がその行動について何も述べなかったとしたら、インドも何も起きなかったふりをしたであろう。しかしそうはならず、インドのMinistry of External Affairsは米国にやんわりとした抗議した。
(2) 最近、インドと米国はともに「自由で開かれたインド太平洋」を唱導してきたが、その両国は意見を一致させているわけではない。今回の事件が意味するものは、米国がインド洋を「自由で開かれた」ものと考えていないかもしれないということである。
(3) かつてドイツ帝国宰相Bismarckは、「法はソーセージのようなものであり、製造過程は見ないほうがよい」と述べたという。その意味で1982年に成立した国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)は、これまでで最も長いソーセージであったと言えよう。交渉に9年間かかり、妥協がなされ、あいまいさを内包するものである。その調印から40年近く経過した現在、米国はなおそれを批准していないにもかかわらず、あたかもその守護者であるかのごとく振る舞ってきた。
(4) 自国の裏庭たるインド洋において中国が影響力を増大させていることをインドが快く思っていないのは明らかである。2020年には中印国境間で武力衝突も起き、両国の間には緊張が高まっている。しかしながら、インドが米国を真似て「自由で開かれたインド太平洋」ということを言うとき、それには喜劇的な響きがある。と言うのも、UNCLOSをめぐる問題に関して、インドは米国よりも中国との間で意見を同じくしているためである。
(5) たとえばインドと中国は、UNCLOS第298条に規定された論争に関する調停を受け入れていない。また、インドは今回の米国への抗議において、UNCLOSがある国における事前の同意なしでのEEZ内における軍事作戦の実施を禁じていると理解していると述べたが、中国も同様に自国のEEZ内での軍事行動に懸念を強めている。
(6) 違いがあるとすれば、米国に対する中国の反応がインドよりも強硬だということである。米国はインド洋において自由の航行作戦を実施してきたが、インド政府はそれに対してどちらかと言えば沈黙を守ってきた。対して中国の対応は、抗議から警告、妨害行為に至るまで幅広い。特に米国艦船が南シナ海で活動したときは、海上では危険なレベルの米中艦船の接近も見られた。米海軍は中国の決意を軽く見ている節があるが、中国海軍はかつてないほど強力になっており、米国の活動を阻止する決意を強めている。理論上、米中間の新たな危機の出来は時間の問題と言える。中国にとって不思議なのは、米国が南シナ海での緊張の高まりを望んでいないのであれば、なぜ彼らがそこにやってきて、自分たちを刺激するのかということである。
(7) 今回、米国は中国との対抗においてインドの協力を欲しているのに、インドEEZ内での活動について公表した理由は定かではない。いずれにしてもこの事例はインドにとって教訓となろう。つまりどっちつかずの態度は短期的には良い結果をもたらすかもしれないが、長期的にはしっぺ返しにつながるかもしれないということである。
記事参照:Why India’s maritime interests are closer to China than the US

5月6日「米軍による『認知戦』の活用―米専門家論説」(19Fortyfive, May 6, 2021)

 5月6日付の米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトは、米Naval War College教授James Holmesの“Time For Cognitive Warfare Against China?”と題する論説を掲載し、James Holmesは米海軍が南シナ海で行った「認知戦」(cognitive warfare)について、要旨以下のように述べている。
(1)香港日刊英字紙South China Morning PostのMinnie Chan記者は、4月、南シナ海で米海軍駆逐艦「マスティン」が中国の空母「遼寧」を尾行した様子を伝えている。中国政府系紙Global Timesは、ブリキ缶(tin can)が中国の空母を「しつこく付け回し」、「事故の危険がある」と訴えた。
(2)しかし、ここでの本当の不満は、安全な航行についてではない。Global Timesが激怒しているのは、記事に添えられた写真である。この写真は、「マスティン」艦長Robert J. Briggs中佐とその副長が「遼寧」から数千ヤード離れて同航する駆逐艦の艦橋から遼寧を見詰めている様子を描いている。これは全く安全な距離である。
(3)冷戦時代の歴史を振り返っても、海軍同士のストーカー行為は常に行われていた。近頃、中国の海では、中国軍の艦艇や飛行機が外国の艦船や飛行機につきまとうことが日常茶飯事となっており、時には実際に危険を冒したり、事故を引き起こしたりする。
(4)今回の「マスティン」事件で怒りを煽ったのは、Briggs艦長が中国海軍の艦隊の中でも傑出した存在であり、国家を活性化するための習近平の壮大なプロジェクトである「中国の夢」の担い手に対して採った不愉快で呑気な態度だったと、「マスティン」の将校たちは話しているようである。Briggs艦長は艦長席に座り、足を投げ出して、近くにある空母を全く気にしていない様子だった。Chan記者は、台湾海軍軍官学校の元教官である呂禮詩の言葉を引用している。「この演出された写真は、米国が中国軍を当面の脅威と考えていないことを示すための、明確な『認知戦』である」。
(5)北京は、フィリピンやベトナムのような完全に劣勢な隣国を服従させるための、海軍的・軍事的な手段を習慣化している。中国共産党が有利になるように世論を形成するために、中国の公式機関が「三戦」と呼ぶものを行っており、競争相手に対して、24時間365日、法律、メディア、そして心理的な作戦を実行している。そのシナリオは、「中国は大きくて、手に負えず、無敵である」というものである。
(6)日常的な任務にある1隻の艦艇にシンプルな写真を添えることで、中国のシナリオを惑わし、近年北京が巧みに表現してきた中国自身のイメージを損なうことができるのである。挑発的なメッセージを送ることは、海洋における大国間の戦略的競争の中で、過小評価されている部分である。米海軍は、主導権を握るためにもっとそれを行う必要がある。
記事参照:Time For Cognitive Warfare Against China?

5月6日「米中関係はいかにあるべきか―米専門家論説」(Project-syndicate, May 6, 2021)

 5月6日付の国際NPO、Project Syndicateのウエブサイトは、Harvard University教授Joseph S. Nyeによる“The logic of US–China competition”と題する論説を掲載し、Nye教授はBiden政権以降の米中関係のあり方について、競合しつつも協調を模索していかなければならないとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米中間の競合は、対処を誤れば危険なものに発展する可能性があれば、逆に適切に行動すれば中国との間の敵対関係は健全なものになるであろう。Biden政権の対中政策の成功は、中国次第でもあり、またいかに米国が変わるか次第でもある。米国は技術的優位を維持することが今後決定的に重要であり、そのためには多くの投資が必要である。また米国は気候変動や世界的感染拡大など国境を超えた脅威に対応する必要があるが、そのためには中国、その他の諸国と協力をしなければならないだろう。Biden政権が直面する問題は、きわめて厄介なものである。
(2) 演説でBidenは、Franklin D. Rooseveltや大恐慌に言及し、安易な冷戦レトリックに頼らなかったが、それでも、現在の状況の比較対象として妥当なのは1950年代、スプートニク・ショックの時期であろう。当時のEisenhower大統領は、ソ連による世界初の人工衛星発射成功を受けて、教育や基幹施設、新技術への投資を促した。現在も同じようなことをできないものだろうか。
(3) 中国の国力は増大しているが、それでも米国は長期的な優位をなお維持している。地理的には2つの大洋と友好的な隣国に囲まれているのに対し、中国は周辺各国と領土紛争を抱えている。米国はエネルギー輸出国であるが中国は輸入に依存している。また米国は、ドルという通貨を武器に金融面で優位にたっている。中国もまた金融面での役割増大を狙っているが、人民元の信用はそこまではない。さらに米国は、主要なテクノロジー分野においてなお先を走っている。米国にとって、テクノロジー部門の優位を維持することが決定的に重要となろう。
(4) 中国は最近R&Dへの投資を大規模に行い、2030年までにAI分野でトップに立つことを目指している。中国の技術面での進歩はもはや単なる模倣に基づくものではない。Trump政権は中国の知的財産盗用問題などに目を光らせ、厳しい制裁を科してきた。コレ自体は正しいことだったが、今後米国は外に目を向けるだけでなく、国内の進歩をより促進していかねばならない。
(5) 中国やインドなどの経済が成長するなかで、世界経済に占める米国のシェアが再び高まることはないだろうが、今後数十年間に全体的な力という点で、米国を圧倒する国は今後も出てこないだろう。また、中国の台頭を抑制するには、インドや日本、オーストラリアなどアジアの主要国を活用して、均衡させることが重要になってくる。米国が彼らとの同盟を維持すれば、中国が西部太平洋から米国を追い出すことなど簡単にはできない。
(6) 以上中国との競合について論じてきたが、これはBiden政権が直面する問題の半分でしかない。21世紀の技術はその配分においてだけでなく結果においても世界的なものだと米国のテクノロジー分野の専門家Richard Danzigは述べている。そのため、「合意された報告システム、共有された管理、偶発的事態への対処に関する共通の計画、規範、条約」が必要である。
(7) 気候変動や世界的感染拡大などのような国家の枠を越えた問題もまた、米国単独で対処し得るものではなく、他国との協調が問題解決のためには必要である。これらの領域では、力の総和はゼロではなくプラスになることもありうる、つまり他国のパワーを増大させることは、米国のパワーを減じるのではなく、その利益を促進することになり得るのである。それゆえ、これらの領域において、中国とは競争しつつも協力すべきである。
(8) 中国がこうした領域での協力と引き換えに米国に譲歩を迫るかもしれないと心配する声もある。しかし中国とて、気候変動によりヒマラヤの氷河が溶けたり、上海が水浸しになったりすることがあれば多くを失うのである。重要なのは、他の分野では激しく争いながら、こうした世界的な問題解決のために協力することが本当にあり得るのかであろう。これは簡単なことではない。
記事参照:The logic of US–China competition

5月6日「北極圏における中国の影響力増大を懸念するロシア―ユーラシア問題専門家論説」(Eurasia Dairy Monitor, May 6, 2021)

 5月6日付の米The Jamestown Foundationのデジタル誌Eurasia Daily Monitor は、ユーラシアにおける民族・宗教問題の専門家であるPaul Gobleの“China Helping Russia on Northern Sea Route Now but Ready to Push Moscow Aside Later”と題する論説を掲載し、そこでGobleは北極圏において近年ロシアと中国が協力関係を深めつつも、そこでの中国の影響力拡大をロシアは懸念しているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 近年、北極圏においてロシアと中国の協力関係が強まっている。しかしロシアは、それが短期的にロシアに利益をもたらすかもしれないが、長期的には北極圏における中国の役割を支配的なものに押し上げ、ロシアを従属的な地位に追いやるかもしれないと恐れている。こうした懸念はロシアだけではなく西側諸国の間でも強まっている。
(2) 北極圏における中国の役割の増大および自国のそれの低下に関するロシアの懸念は、中国がロシアにおける砕氷船の修復契約を支配しようとしているというメディア報道によってもさらに裏付けられている。ある報道は、北極海航路(NSR)沿いで必要な設備の建設などにロシアがあまり資金を投じる能力がない中で、中国の野心がいかに大きなものであるかを強調し、またある報道は北極圏においてロシアの行動が強く制約されていることを指摘している。外国政府や企業の支援なしに、必要なインフラ建設もできなければ、NSRで活動可能な船舶をつくることができないというのは、深刻な懸案である。
(3) 2020年の中国の動向は、そうしたロシアの不安をさらに強化するものであった。中国は2020年、自国設計の近代的砕氷船2隻を進水させ、3隻目および多くの補助船を建造中であるという。これによって中国は北極海海域の航行においてロシアの砕氷船に依存する必要がなくなっていく。また中国政府は、ムルマンスクやサベッタ、アルハンゲリスクなどロシアの港湾に中国のドックを建造すると発表した。それらの港湾は現状、コンテナ船などの大型船を多数管理するにはまだ十分開発がされていない場所である。
(4) NSRに対する中国の関心の高まりは、その利用が単に安価というだけでなく、不安定な国々によって囲まれているスエズ運河よりも安全であると考えを反映している。現在NSRは、ロシアが排他的に利用しているが、より多くのコンテナ船が通航するようになるであろう将来、上記した港湾開発が進めば、それを支配するのは自分たちになるはずだと中国は考えている。軍事アナリストのVladimir Volgayevは、中国の脅威の高まりは大部分が将来のことであり、ロシアにはまだ時間があるはずだが、ロシアの造船業に対する中国の関わりの深まりを見ると、中国がロシアの砕氷船建設を支配、つまりそれを遅らせることで自国を支配的な地位に置くのは、そう遠くないかもしれないと懸念を表明した。
(5) 原子力砕氷船の建造計画を統括する国営企業Rosatomは、昨年夏、その建設計画を支援するための新しい浮き桟橋施設の建造契約について入札を実施すると発表したが、ロシア造船業者は誰も手を挙げなかった。そのためRosatomは外国の企業にも入札のチャンスを与えざるをえず、当初トルコの企業に契約を与えたが、最近ある中国企業が、自分たちのほうが好条件を提示したはずであるとしてその決定に異議を唱えた。ロシアのAnti-Monopoly Service(反独占庁)は調査すると発表したが、中国の言い分が通れば、ロシア造船業界における中国の役割はますます増大するだろう。
(6) 北極圏における中国の役割増大を懸念しているのはロシアだけでなく、米国も同様である。ロシアと中国の協力関係の緊密化によって米国がどちらかに接近するのは難しくなっているが、将来、ロシアは中国以外の同盟を求めるかもしれない。
記事参照:China Helping Russia on Northern Sea Route Now but Ready to Push Moscow Aside Later

5月7日「南シナ海で協働する対中連合―比専門家論説」(Asia Times.com May 7, 2021)

 5月7日付の香港のデジタル紙Asia Timesは、フィリピンの南シナ海問題専門家で台湾国立政治大学研究員Richard J. Heydarianの“Anti-China alliance coalescing in South China Sea”と題する論説を掲載し、ここでRichard J. Heydarianは英国、日本及びオーストラリアが南シナ海における中国の野望に対抗するために米国とその域内の同盟国と協働しているとして、要旨以下のように述べている。
(1)南シナ海に対する域内関係大国の関与が強まっており、中国を苛立たせている。日本は最近、ODAの枠組みの下で、初めてフィリピンに対する一連の防衛装備品の供与を発表した。時を同じくして、英国は最新の空母「クイーン・エリザベス」を中核とする、英史上最大の艦隊をこの地域に展開する。一方、オーストラリアと米国の企業は、東南アジア諸国における重要基幹施設に対する中国の投資を防ぐためのより広範な活動の一環として、戦略的に重要な位置にあるフィリピンのスービック湾にある造船所の買収を最終決定している。ロンドンで5月5日に発表されたG7外務・開発大臣会合コミュニケは、「緊張を高め、地域の安定と法に基づく国際秩序を損なう可能性のあるいかなる一方的行動にも強く反対するとともに、地域における軍事化、威圧及び威嚇の報告について深刻な懸念」を表明した。これに対して、中国はG7諸国に「領土紛争に関していずれの側にも与しないという約束を守り、地域諸国の努力を尊重し、全ての無責任な言動を止め、地域の平和と安定に建設的な貢献をする」よう求めて反発した。
(2)Duterte大統領が北京との安定した関係を維持しようと努力しているにもかかわらず、フィリピン政府内の中国懐疑派は、こうした国際的な支持の高まりに勇気づけられて、南シナ海問題に対して次第に厳しい姿勢をとるようになってきた。フィリピンは5月4日、中国がフィリピンの排他的経済水域と大陸棚に重なる南シナ海の一部海域に設定した禁漁措置に断固反対し、フィリピン政府の南シナ海担当部局は声明で、「この禁漁措置はフィリピン漁民には適用されない」と述べ、フィリピン漁民に対して、北京が設定した5月1日から8月16日まで操業一時停止を無視するよう求めた。また、フィリピン沿岸警備隊と海軍は、フィリピン占拠の最大9カ所の海洋自然地形――その大部分が南沙諸島に属する――が所在する紛争海域における「主権防衛哨戒活動」を継続していくと言明した。北京に宥和的なDuterte大統領でさえ4月に、「我々が(紛争海域における漁業や哨戒活動から)手を引くことなど、妥協の対象とならないものがある」と述べた上で、「私は中国に言いたい、我々はトラブルも、ましてや戦争など望んではいない。しかし、あなた方が我々に退去を求めるなら、ノーと言う」と強調した。
(3)こうした状況下で、米国は東南アジアの同盟国フィリピンに対する目に見える形の支援として、この海域に複数の艦艇を展開させた。北京に拠点を置くThe South China Sea Strategic Situation Probing Initiative(南海戦略態勢感知計画)によれば、米国はまた4月にこの地域に延べ65機の哨戒機を展開している。一方、英国は駆逐艦、フリゲート、潜水艦及び補給支援艦を随伴した空母艦隊を展開させる。英空母打撃群の展開は、中国に向けた南シナ海における多国間海軍による航行の自由作戦の一環である。海洋資源の開発を巡ってマレーシアと中国が対峙した2020年には、米国とオーストラリアがこの海域で合同哨戒活動を実施した。インド太平洋とアジアの紛争海域を航行する英海軍艦隊には、英空母に米海兵隊のF-35B戦闘機が搭載され、オランダ海軍のフリゲートが随伴する。2021年後半には、ドイツが中国の隣接海域において初めての哨戒活動と共同演習を実施する予定である。
(4)これも初めてのことだが、日本の自衛隊が最近、フィリピンへのODAの一環として、エンジンカッター、ソナー機器、ジャックハンマーを含む、1億2,000万円(110万ドル)の破壊を伴わない防衛装備品の供与を発表した。注目すべきは、自衛隊派遣部隊が、人道支援・災害救助活動を名目に、これらの新しい機器を利用してフィリピンのカウンターパートを訓練することである。近年、日本は、フィリピンへの海洋安全保障支援における予想外の供与国となってきている。日比両国は2020年8月に、三菱電機がフィリピン軍に航空レーダーシステムを輸出することを認める、1億ドルの契約に署名した。これに先立ち、日本は、哨戒機を贈与し、フィリピン沿岸警備隊用に44メートル級巡視船を最大10隻建造し、更に2022年には94メートル級大型巡視船2隻が供与される予定である。
(5)しかしながら、米国が主導する中国に対する域内関係大国の巻き返しは、海軍部隊の演習や海洋安全保障援助だけに留まっているわけではない。西側の大手企業も、フィリピンの重要な基幹施設と南シナ海周辺の戦略的な位置ある施設に対して、積極的に関与しつつある。オーストラリアのAustal社は、米国のCerberus Capital Management社と提携して、米国、オーストラリア及び日本がフィリピン軍と定期的に海軍演習を実施する際に寄港地となるスービック湾にある韓進造船所の買収を最終的に決定する予定である。大手造船・防衛産業であるAustal社と、Cerberus Capital Management社は、US Department of Defense(米国防総省)との強い関係を持っており、米海軍の艦艇を建造するAustal社はフィリピン軍に最大6隻の外洋哨戒艦を提供する予定である。中国の国営企業は2019年に、韓国の韓進重工業が所有する300ヘクタールの造船所の購入に関心を示した。しかしながら、フィリピンの国防関係当局と米国、オーストラリア及び日本などの主要同盟国は、中国の入札を阻止するために迅速に手を打った。Austal社のCEOは、「米国とオーストラリアの国旗を掲げることで、(南シナ海に)展開する艦船に対するより多くの支援を提供できる、非常に友好的な拠点となる」と述べ、両国による共同買収の戦略的重要性を強調した。
記事参照:Anti-China alliance coalescing in South China Sea

5月8日「Biden政権の新たな対南シナ海政策―中国専門家論説」(China US Focus.com, May 8, 2021)

 5月8日付の香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトであるChina US Focusは、中国現代国際関係研究院海洋戦略研究所助理研究員である陳子楠の“Biden’s New Approach to South China Sea”と題する論説を掲載し、そこで陳は3月に起きた南沙諸島牛軛礁における中国漁船の大規模な活動に対する米国の反応に、Biden政権に新しい南シナ海政策の特徴が3つ見いだせるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 3月20日のフィリピンメディアは、約220隻の中国漁船が南沙諸島の牛軛(ウィットサン)礁付近に3月7日以降集結し、停泊していると報じた。フィリピンの主張ではそこはフィリピンの排他的経済水域内に位置するとのことであるが、中国はそれに対して、牛軛礁は中国の南沙諸島の一部として中国の主権が及ぶ範囲であり、中国漁船の活動は合法的であると主張した。
(2) フィリピンのDuterte大統領は、南シナ海をめぐる中比間の意見の違いが二国間関係に影響を与えることはないとし、事態の沈静化を望んでいる。しかし、牛軛礁の出来事は重要な争点ではないはずだが、それをことさらに大きく扱おうとする人々がいる。米国や西側諸国ないしフィリピンの対中強硬派による同環礁に関する言動は、南シナ海における個別の論争における米国の新しい介入のあり方をある程度反映しているように思われる。それは3つの特徴を持っている。
(3) 第1に、中国への対抗における同盟国および提携国との連帯重視の姿勢である。Biden政権は繰り返し同盟国や提携国の重要性を強調してきた。今回の事件においても、Blinken国務長官ら米国関係者は、米比相互防衛条約が南シナ海に適用されると三度確認したほどである。またフィリピン駐在のカナダ、日本、オーストラリアその他各国の大使が、ツイッターでほぼ同時に、地域の状況の安定と国際秩序の維持に関する懸念を表明した。これは一見偶然に見えて、実際のところは米国の同盟国の協調した動きであったと思われる。ここには、Biden政権が、単独で中国に対抗するというTrump時代の戦略を変えたいという意図が反映されている。同盟国や提携国と連帯して中国に立ち向かうこと、それがBiden政権の対中国政策の核心である。
(4) 第2に、Biden政権は「法に基づく秩序」という観点から、2016年の南シナ海仲裁裁定を重視している。米国政府によれば中国は地域の秩序と規則を脅かし、新たな国際規範を構築しようとする「修正主義勢力」である。米国は法に基づく秩序という原則を主張し、かつ中国が米国主導の法に「再統合」されることを望んでいる。このとき米国が重要視するのが2016年の仲裁裁定である。米国政府は、これが国連海洋法条約に従ったものであり、中国およびフィリピンにとって最後の、拘束力ある決定だという立場を採っている。米国にとってその裁定は、法に基づく秩序の原則をまさに体現したものであり、中国がそれを受け入れることを望んでいる。
(5) 第3に、Biden政権は中国の「グレーゾーン」戦術を注視している。米国は今回のケースにおいて、馬を鹿と呼ばせること、すなわち、中国漁船を「海上民兵」と呼び、漁船の通常の活動を「大規模な集結」と表現して、地域の緊張を焚き付けている。U.S. Pacific CommandのJoint Intelligence Centerの元作戦部長Carl Schusterは、今回の中国の行動はアメリカの反応を試すものであると主張し、またフィリピンSupreme Courtの元主席判事Antonio Carpinoら反中国勢力は、海軍基地建造などの前触れであると言い募っている。米国らの過度な反応は、中国による合法的な海上での権利の行使に対し、自分たちが無力であるという恐怖感を反映している。
(6) 米メディアも中国のグレーゾーン戦術への対応の必要性を訴えるものの、空母などを派遣するのはやりすぎだろうと主張している。しかしながら何もしなければアメリカの弱さを示すことになる。Biden政権は難しい対応を迫られている。
記事参照:Biden’s New Approach to South China Sea

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1)Is the U.S.-Japan Alliance Still the ‘Cornerstone’ of Stability in Asia?
https://nationalinterest.org/feature/us-japan-alliance-still-%E2%80%98cornerstone%E2%80%99-stability-asia-184039
The National International, May 1, 2021
Evan Sankey, a Junior Fellow in Asia Studies at the Center for the National Interest
 2021年5月1日、米Center for the National InterestのジュニアフェローであるEvan Sankeyは、米隔月刊誌The National Interest電子版に、" Is the U.S.-Japan Alliance Still the ‘Cornerstone’ of Stability in Asia? "と題する論説を発表した。その中でSankeyは、冒頭で日本はついに現実的なアクティビスト国家、つまり時には無慈悲な国益擁護者となる国家として「普通の」国になりつつあり、米国もそのように認識する必要があるなどと話題を切り出し、東アジアにおける米国の地政学的地位の基礎になったという日米安全保障条約の果たしてきた役割の大きさや、固く結ばれた日米同盟の米国側の利益などを概観した上で、最近の動向として、中国の経済力や軍事力の増大、米国の相対的な衰退、そして日本の様々な問題への対応姿勢などが、この日米関係を土台とする様々な米国が思い描いてきた物語の重要な側面を損ない始めていると指摘している。そしてSankeyは、①日本の軍事的制約は米国にとって価値があるのか、②日米同盟は東アジアの安定要因か、③在日米軍基地は米国にとっての資産なのか、などといった疑問に対して1990年当時の米国の指導者らは明確にポジティブな回答を示しただろうが、今日の答えは、完全にネガティブへと逆転してはいないまでも従来ほど明確なものにはならないと主張している。

(2)ENVISIONING A DYSTOPIAN FUTURE IN THE SOUTH CHINA SEA
https://cimsec.org/envisioning-a-dystopian-future-in-the-south-china-sea/
Center for International Maritime Security, May 10, 2021
By Capt. Tuan N. Pham, USN
 2021年5月10日、米海軍のTuan N. Pham大佐は、米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトに" ENVISIONING A DYSTOPIAN FUTURE IN THE SOUTH CHINA SEA "と題する論説を発表した。その中でPham大佐は、いわゆる南シナ海問題に対して、中国がフィリピン、マレーシア、そしてインドネシアといった沿岸国との関係を共同開発などを通じて有利に進めていると指摘した上で、現在はまだ憶測の域を出ないが、中国の南シナ海を事実上の中国の国土とするという計画は数年のうちに実現されるかもしれないと悲観的な見方を示している。そして、もしそうであれば、このディストピア的な未来は、国連海洋法条約(UNCLOS)のあからさまな違反であり、70年以上にわたって世界に繁栄と安全をもたらしてきた、ルールに基づいたリベラルな国際秩序への打撃であると述べた上で、こうしたリスクはあまりにも高く、行動を先延ばしにしたり、中国の善意の対処に希望を抱いたりすることはすべきではないとし、今こそ行動すべき時だと主張している。

(3)What the United States Wants from Japan in Taiwan
https://foreignpolicy.com/2021/05/10/what-the-united-states-wants-from-japan-in-taiwan/
Foreign Policy.com, May 10, 2021
By Jeffrey W. Hornung is a political scientist at the RAND Corporation
 5月10日、米シンクタンクRAND Corporationの政治学者Jeffrey W. Hornungは、米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトに、“What the United States Wants from Japan in Taiwan”と題する論説を寄稿した。その中で、①4月、日本の菅義偉首相がJoe Biden米大統領を訪問した際の共同声明は注目を集め、1969年以来、両国首脳は初めて「台湾海峡の平和と安定の重要性」と「両岸問題の平和的解決」という共通の関心事に言及した、②しかし、菅は国会審議で台湾を声明に盛り込むことは、台湾で紛争が発生した場合に日本の自衛隊が関与することを示唆していないと述べている、③台湾紛争が勃発した場合、少なくとも米国は日本にあるその基地の利用を要求し、そこから台湾の上空や周辺で戦闘活動を行うことになるだろう、④基地の利用は作戦上必要なことだが、自衛隊の支援は米軍主導の作戦にとって戦力増強につながるため、米国が日本の参加を要請することはほぼ確実である、⑤日本が攻撃を受けた、または東京が日本の生存を脅かす状況にあると判断した場合、米国は自衛隊が2015年の安全保障関連法で定められた武力行使を含むあらゆる活動を行うことを期待するだろう、⑥日本のように行政的な障壁を乗り越えていく取り組み方では、急速に変化する作戦環境には対応できないため、日本は戦時中に米国が何を要求するかを今知る必要がある、⑦平和の維持に対する支持を表明した日米両国は、その言葉を行動に移すための現実的な計画を必要としている、といった主張を行っている。