海洋安全保障情報旬報 2021年4月21日-4月30日

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4月22日「ファイブ・アイズに日本が参加するための道筋―オーストラリア専門家論説」(The Diplomat, April 22, 2021)

 4月22日付のデジタル誌The Diplomatは、オーストラリアの外交の専門家Philip Citowickiによる“Integrating Japan Into an Expanded ‘Five Eyes’ Alliance”と題する論説を掲載し、Philip Citowickiは日本が国家間の情報共有のための協定であるファイブ・アイズ(Five Eyes)に参加するまでの道筋について、要旨以下のように述べている。
(1)75年の歴史をもつ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国及び米国の情報同盟「ファイブ・アイズ」は、日本との協力関係を間もなく強化する可能性があり、同盟拡大の噂が再び浮上している。山上伸吾駐オーストラリア日本大使は、最近のシドニー・モーニング・ヘラルド紙のインタビューにおいて、「近い将来、この構想が現実のものとなる」という彼の期待を語っている。さらに、「近い将来について非常に楽観的である」としている。
(2)しかし、関係を強化するためには、日本と他の加盟国が無数の課題を克服する必要があり、現実的にはまだまだ先のことかもしれない。秋田浩之日本経済新聞編集委員が説明するように、日本が超えることを求められる「高いハードル」にリスクがある。日本は国内の安全保障組織を強化し、想定される「シックス・アイズ」(Six Eyes)のパートナーに価値ある知見を提供できるようにする能力を確保する必要がある。また秋田は、正式な加盟国としての重責を果たせなければ、他の加盟国を失望させ、不信感を抱かせると述べている。米シンクタンクCenter for Strategic and International StudiesのAnkit PandaとJagannath Pandaは、ファイブ・アイズが長く持続しているのは「5つの構成国の間で何十年にもわたって行われてきた文化的及び官僚的な相乗効果」に由来すると指摘している。新たに正式に加盟する場合、現実的には段階を踏んでいくものであり、すぐに加盟国に昇格するものではないはずである。日本が何らかの形で承認された場合、より可能性が高いのは公式の「5+1」という体裁での参加となるだろう。
(3)2013年のEdward Snowdenによる情報漏洩事件では、ファイブ・アイズが他国との情報共有において第2層、第3層と呼ばれるものを保有していることが明らかになった。他の分類には、フランス、日本及び韓国の関心を引いてきた北朝鮮というのけ者扱いされている国家に焦点を当てた分類が含まれる。
(4)日本がファイブ・アイズという集団に参加することで、中国や北朝鮮の脅威が増すことに主な焦点が置かれることになるだろう。このようなファイブ・アイズの拡大を北京がどのように考えているかは、国営メディアによるファイブ・アイズに対する激しい非難に表れている。
(5)日本を追加的にファイブ・アイズに組み込むことは、北東アジアにおける新たな価値ある支えをこの同盟に提供する。厳格に管理された加盟や関与プロセスを通じて、日本のような志を同じくする民主主義国家を徐々に組み入れることで、ファイブ・アイズの加盟国は信頼を徐々に構築し、情報漏洩を最小限に抑え、やがてこの同盟組織の6番目の加盟国になる可能性のある国からの貢献の水準と質を確かなものにすることで、加盟国の拡大に伴う最大のリスクを効果的に影響が及ばないようにすることができる。
記事参照:Integrating Japan Into an Expanded ‘Five Eyes’ Alliance

4月24日「中国の最新強襲揚陸艦が就役―香港紙報道」(South China Morning Post.com, April 24, 2021)

 4月24日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China’s most advanced amphibious assault ship expected to be deployed in disputed South China Sea”と題する記事を掲載し、中国海軍の最新の強襲揚陸艦の就役とその配備について、要旨以下のように報じている。
(1)中国が、初のType075強襲揚陸艦「海南」を就役させた。これは、紛争中の南シナ海に配備される見通しである。Type075は中国最大の強襲揚陸艦で、推定30機のヘリコプターと数百人の兵士を搭載可能であり、排水量は約4万トンである。
(2)香港を拠点とする軍事評論家で元人民解放軍教官である宋忠平は、「この艦は、中国軍南部戦区の中国海軍南海艦隊に配備されている。これは、南シナ海だけを担当するということではなく、台湾周辺での任務や、他の戦区に跨る任務にも使われる。しかし、おそらく、主に南シナ海を担当することになるだろう」と述べている。評論家たちは、中国が台湾、フィリピン、ブルネイ、マレーシア及びベトナムと数多くの領有権を争っている南シナ海において、Type075はより重要な戦略的役割を果たす可能性があると述べている。
(3)シンガポールのNanyang Technological UniversityのS Rajaratnam School of International Studies研究員Collin Kohは、中国の近隣諸国にメッセージを送ることを目的として、中国軍の最新鋭の強襲揚陸艦を南部戦区に配備したと述べている。「この艦は、紛争中の南沙諸島の陸地の占領や、台湾侵攻のシナリオのような攻撃的な機能を果たすことが可能である。また、平時には人道支援や災害救助にも使用することができる」と彼は述べている。Kohは、中国の近隣諸国は自国の軍備を強化したり、外部の大国に支援を求めたりすることによって、軍事力の均衡の「非対称性の拡大」に対応する必要性を感じるのではないかとした上で、「この地域に関して言えば、中国の戦略的意図や軍事的強制力の行使の傾向に関する不確実性を考慮すると、この艦は一般的に、特に中国との間に領土や主権の問題を抱える地域の国々から警戒されるだろう」と述べている。
記事参照:China’s most advanced amphibious assault ship expected to be deployed in disputed South China Sea

4月26日「2020年世界の軍事費、1兆9,810億ドル―SIPRI年次報告書」(STOCKHOLM INTERNATIONAL PEACE RESEARCH INSTITUTE, April 26, 2021)

1. World military spending rises to almost $2 trillion in 2020 World military spending rises
to almost $2 trillion in 2020
https://www.sipri.org/publications/2021/sipri-fact-sheets/trends-world-military-expenditure-2020
STOCKHOLM INTERNATIONAL PEACE RESEARCH INSTITUTE, 26 April 2021
2. TRENDS IN WORLD MILITARY EXPENDITURE, 2020
https://www.sipri.org/sites/default/files/2021-04/fs_2104_milex_0.pdf
SIPRI Fact Sheet, April 2021

 4月26日付のSTOCKHOLM INTERNATIONAL PEACE RESEARCH INSTITUTEのウエブサイトは、“World military spending rises to almost $2 trillion in 2020”と題する記事及び“TRENDS IN WORLD MILITARY EXPENDITURE, 2020”と題するFact Sheetを掲載し、2020年の世界の軍事費に関する年次報告書を公表したことを報じた。それによれば、2020年の世界の軍事費(一部推計値)は1兆9,810億ドルで、1988年以来、最も高い数値となった。対2019年比実質増は2.6%で、対2011年比のそれは9.3%であった。世界の軍事費は、世界的な財政、経済危機を反映して2011年から2014年までは毎年減少傾向であったが、2015年以来毎年増加している。2020年の世界のGDPに占める軍事費の割合は2.4%で、2019年に比して0.2%増であった。2020年の世界の軍事費トップ5は米国、中国、インド、ロシアそして英国の順で、世界の軍事費に占めるトップ5の割合は62%であった。トップ10までのそれは75%になる。以下、同報告書による主要各国、地域の軍事費の状況である。
(1)米国:2020年の米国の軍事費は対前年比4.4%増の7,780億ドルで、世界全体に占める割合は39%で、世界トップ12までの軍事費合計よりも多い。米国の軍事費は2010年から2017年まで減少傾向にあったが、2018年から増加に転じた。米国の軍事費が増加に転じたのは、研究開発費への投資と核兵器の近代化計画などの幾つかの長期計画の推進、そして大規模な兵器調達による。近年の軍事費増加の主たる理由は、ロシアと中国の主たる抗争相手からの脅威認識とTrump前政権の軍事力強化にある。
(2)中国:世界第2位の中国の2020年の軍事費(推定値)は2,520億ドルで、世界全体に占める割合は13%であった。2020年の軍事費は、対前年比1.9%増で、対GDP比は1.7%であった。中国の軍事費は1994年から26年間連続で増加しており、これは同国の長期の軍事力近代化計画と増強の結果である。中国国防部によれば、2020年の軍事費の増加は、1つには「大国間抗争」による中国の国家安全保障への脅威認識による。
(3)インド:世界第3位のインドの2020年の軍事費は729億ドルで、対前年比2.1%増で、対GDP比2.9%であった。インドの軍事費は、隣接するパキスタンとのカシミールを巡る国境紛争の継続と、中印国境地帯における対立の再発が主たる増額要因となっている。
(4)ロシア:世界第4位のロシアの2020年の軍事費は617億ドルで、対前年比2.5%増で、対2011年比26%増であった。2020年の軍事費の対GDP比は4.3%であった。ロシアの軍事費は、2017年と2018年に減少したが、2017年以前は18年間増額が続いていた。2020年の軍事費は対前年比増額になってはいるが、コロナ禍の経済的影響で、実際の軍事支出は当初予算より6.6%減少している。
(5)アジア・オセアニア:この地域の2020年の軍事費は5,280億ドルで、対2019年比2.5%増で、2011年と比較すれば47%増になる。この地域の軍事費は、少なくとも1989年以来増勢が続いている。この趨勢は主として中国とインドの軍事費の増加によるもので、両国の軍事費はこの地域の2020年軍事費の62%を占める。日本の軍事費は491億ドルで、東アジアでは中国に次いで2番目で、世界第9位である。対2019年比では1.2%増で、2011年と比べれば2.4%増となる。対GDP比は1.0%で、1976年に決められた対GDP比の上限に達している。韓国は457億ドル、世界第10位で、対2019年比4.9%増であった。韓国政府は、コロナ禍の経済状況の悪化で、2020年に軍事費を2度に亘って下方修正した。オーストラリアは275億ドル、世界第12位で、対2019年比5.9%増で、2011年比では33%増となる。東南アジア8カ国の軍事費は455億ドルで、対前年比5.2%増となった。この10年間の軍事費の伸び率は36%となった。東南アジアのビッグ3は、シンガポールの軍事費が109億ドルで、世界第22位、インドネシアが94億ドルで、同25位、そしてタイが73億ドルで、同27位であった。台湾の軍事費は122億ドルで、対前年比5.5%増で、世界第21位を占め、対GDP比は1.9%であった。

表:2020年軍事費の世界トップ10(軍事費:単位億ドル)
  国名 軍事費 対前年比
(%)
対GDP比
(%)
世界シェア
(%)
1 米国 7,780 4.4 3.7 39
2 中国 2,520* 1.9 1.7* 13*
3 インド 729 2.1 2.9 3.7
4 ロシア 617 2.5 4.3 3.1
5 英国 592 2.9 2.2 3.0
6 サウジアラビア 575* -10 8.4* 2.9*
7 ドイツ 528 5.2 1.4 2.7
8 フランス 527 2.9 2.1 2.7
9 日本 491 1.2 1.0 2.5
10 韓国 457 4.9 2.8 2.3
備考*:*印はSIPRI推定値
記事参照:World military spending rises to almost $2 trillion in 2020 World military spending rises to almost $2 trillion in 2020
TRENDS IN WORLD MILITARY EXPENDITURE, 2020

4月26日「中国が台湾を封鎖する日は近い?―豪専門家論説」(The National Interest, April 26, 2021)

 4月26日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、元Griffith University講師Simon Leitch博士の” The Coming Blockade of Taiwan by China?“と題する論説を掲載し、ここでLeitchは、中国は台湾を封鎖して疲弊させ、降伏を強いる航空作戦への道を開くことになると要旨以下のように述べている。
(1) 30年以上前に台湾が民主化されて以来、世界は現状維持を続けてきた。台湾は実際の国ではないふりをし、十分な時間があれば問題が消滅するふりをしている。この空想的な戦略においては、中国は平和的で、豊かさに満足し、台湾が独立状態にあることを認める国であって、決して好戦的な国家とはされていない。
(2) 中国が日常的に海峡を越えて戦闘機を侵入させ、台湾の空軍を疲弊させ、中国の新しい空母群が台湾の海岸近くを航行するにつれ、米国、日本及び台湾の軍事指導者達は、Biden・Harris政権が終わる前に中国が台湾を攻撃するという見通しをもち始めている。台湾の状況がいかに絶望的かということや、中国がどのような戦略を採ってくるかはほとんど理解されていない。台湾とその同盟国は、第2次世界大戦時のノルマンディー上陸作戦のような攻撃から台湾を守るのではなく、来るべき封鎖に備える必要がある。封鎖は数ヶ月から数年かけて台湾を疲弊させ、最終的には降伏を強いる航空作戦への道を開くことになる。
(3) 数年後に台湾の選挙結果を口実に、北京は台湾周辺の排他的経済水域(EEZ)の開発と強化を始めるであろう。それは中国がWhitsun Reef(牛軛礁)を占拠したように、非武装または軽武装の船舶による大規模かつ組織的な台湾領海への侵入となっていく。恐らく、台湾の海軍はこれを阻止できない。台湾がこれらの襲撃に対処している間、中国海軍は、台湾海域に入ろうとする船舶を捜索し、これらの入域を阻止し、中国の主権を確認した場合にのみ開放するようになる。米国や日本を含む他の海軍が自国船舶の台湾入港を確保しようとしても、それを持続するのは不可能である。
(4) さらに、中国は、低コストで耐久性の高い船を使って、突進や妨害という戦術を取り、その後、すでにインドに対して使用されているマイクロ波放射装置や音響兵器のような武器の使用へ移行していくことが考えられる。これらは海上では非常に有効であり、封鎖を抜けようとする国際的な努力を崩壊させることができる。
(5) この時点で、台湾の同盟国は厳しい選択を迫られる。1つは敗北を認めて撤退し、台湾の運命を(中国に)委ねること、もう1つは中国船を撃沈することである。懸念されるのは、1つ目の選択肢の撤退である。台湾の同盟国が次第に台湾を見放し、諸外国が関心を失えば、中国は空と海の出入りをすべて遮断して、封鎖を公然と行う。台湾軍が封鎖を破ろうとすれば、中国空軍及び陸上配備のミサイルによって、台湾上空で航空作戦が開始される。台湾は、産業やインフラを攻撃から守ることも、外部から支援を受けることもできないため、次第に衰退し、やがて降伏に等しい政治的解決策を受け入れることになる。予測不可能なのは、台湾がどれだけの期間耐えることができるかであって、結果を疑う余地はない。
(6) もう1つの選択肢、すなわち国際的な連合によって中国船を撃沈し、封鎖を破るのは困難である。欧米諸国は軍事的に弱い国を爆撃することは可能であるが、大国に対して行うのは困難である。その証拠に、コーカサスやウクライナでのロシアの攻撃に対するNATOの対応は、1990年代のセルビアや、最近のリビア、イラク、シリアへの対応と比べて、軽いものであった。さらに、中国大陸にある兵器の優位性とその射程により、米海軍は台湾の近海に艦隊を待機させることができない。中国がこの海域で使用できる膨大な量のミサイル、ドローン、小型船及び航空機は、即応可能な弾薬に限りのある防空システムに依存している米艦隊や島嶼基地を圧倒する。最新のズムウォルト級駆逐艦が、完璧に運用されると仮定しても、数十個以上の飛来目標を迎撃するのは困難で、さらに中国大陸にある兵器は米国の海上配備の兵器よりも弾薬等の補充が早い。
(7) 米国はすでに、中国のミサイル脅威に直面し、グアムが持続可能な空軍基地にならないことを認識して、グアムから航空関係の装備を移転している。嘉手納も同様であろう。その結果、米国の航空戦力はハワイ、米国本土、あるいは日本本土の基地から発進しなければならず、出撃率は大きく低下し、補給部隊にも負担がかかることになる。中国軍は台湾を孤立させるという目標を達成するために、米国と同等の正面作戦を必要としない。ミサイル、機雷、ドローンを使って外国の海軍を翻弄し、ほんの一握りの艦隊補給艦を沈めれば、敵国艦隊が台湾近海で作戦できる時間を大幅に制限できる。これが現実となることなく、北京が将来的に封鎖を試みないことを願う。
記事参照:The Coming Blockade of Taiwan by China?

4月26日「日米首脳会談、日本にかかる大きな期待―シンガポール専門家論説」(Foreign Policy.com, March 29, 2021)

 4月26日付の一般社団法人Tokyo Reviewのウエブサイトは、シンガポールThe S. Rajaratnam School of International Studies (RSIS)上席研究員John Bradfordの“Suga-Biden Summit Leaves Japan Driving Cooperation in Maritime Asia”と題する論説を掲載し、John Bradfordは、4月16日のワシントンでの日米首脳会談について、要旨以下のように述べている。
(1) 3月12日の「4カ国安全保障対話(Quad )」会合、3月16日の日米2+2会合、そして4月16日のワシントンでのBiden政権との初の日米首脳会談の一連の外交会合は、日米両国が緊密に協力するとともに、地域安全保障の礎として日米同盟に依存するという日米同盟の意図を明確に示したものであった。しかしながら、これまでのところ、こうした一連の会合の結果として、インド太平洋において海洋に関わる提携国に益する具体的な、あるいは実質的な行動が伴ってはいない。
(2) 4月のワシントン日米首脳会談の共同声明は、この地域における海洋問題に関して、3月の日米2+2会合での共同発表と同様の表現を使った、野心的なものであった。安倍・Trump時代から受け継がれた「インド太平洋」の継続的な使用は、菅・Biden現首脳による提携の戦略的射程もアフリカ東岸からアメリカ西岸に至る広大な海洋空間に及んでいるという共通の見解を示している。両首脳は、国連海洋法条約に言及し、航行の自由と尖閣諸島における日本の防衛に対する揺るぎない支持を確認した。さらに、両首脳は南シナ海における不法な行動と、東シナ海における一方的な現状変更の試みに対して中国に警告した。しかしながら、具体的な措置についても、また東南アジアの重要なチョークポイントに面した諸国を含む、域内の海洋に関わる提携国についても、ほとんど言及されていない。
(3) 日米とも前政権時代の2019年4月の2+2会合での共同発表では、より詳細な行程表に言及していた。ここでは特に、「域内の提携国との共同演習と艦艇の寄港、海洋状況把握と海洋法執行などの分野における能力構築、及び質の高い基幹施設建設を通じた持続可能な経済発展と連結性の促進」が強調されていた。これらの閣僚レベルの誓約は、「アジア太平洋地域における海洋の保全と安全保障のための能力構築支援を調整する」との決定を文書化した2015年の安倍・Obama共同声明など、これまでの諸合意に直接依拠している。この共同声明以来、進展はあったが、そのゆっくりとした進度と地域の課題の大きさを考えれば、まだまだ不十分である。
(4) 具体策の欠如は、Biden政権が足下固めの時期であり、また台湾などより大きな地域安全保障計画を優先しているからかもしれない。一方、既に日本は域内の提携国の海洋安全保障問題の優先事項を支援する上で、米国に先んじている。菅首相は2020年10月、ハノイを訪問し、ベトナムの海上監視能力を強化するため、哨戒機やレーダーを含む、日本の防衛装備品輸出の枠組みで合意するとともに、ベトナムの海洋基幹施設と人的資源の開発を支援することも約束した。次に訪問したジャカルタでは、港湾の建設と運用、沖合ガス田の開発、及びインドネシアの外郭の島々との連接の構築など、基幹施設建設協力を約束した。菅首相とインドネシアのWidodo大統領はまた、海上法執行と人材開発を促進するとともに、防衛装備品の移転を進めることでも合意した。菅首相の行動は、インド太平洋地域における海洋の基幹施設、安全そして安全保障に対する日本の数十年にわたる支援に基づくものであり、日本は現在、東南アジアで最も信頼される海洋に関わる提携国となっている。シンガポールのシンクタンクISEAS Yusof Ishakの「東南アジア調査報告書2021」*によれば、回答者の67%は、日本が世界の公共財を提供するために「正しいことをしている」と確信している。一方、米国の地域信頼度は48%であり、2020年の30%からは増加している。中国とインドはそれぞれ17%と20%であった。日本に対する信頼度が高いのは、1つには米中の大国間抗争に巻き込まれることを懸念する国にとって、日本との協力が有力な第3の選択肢と見なされているからである。
(5) しかしながら、このことは、米国が海洋アジアで存在感を欠いているということを示唆しているわけではない。米海軍は依然として、強力で信頼されている戦力である。Biden政権下では既に、米海軍はTrump前政権下と同様のペースで台湾海峡の通航と航行の自由作戦を実施している。また、米軍は、域内の提携国と頻繁に演習を実施しており、また米国製装備品は高価とはいえ高い需要がある。とは言え、軍事面での関与は多元的な海洋関連分野の1つに過ぎず、米国の力の誇示は、域内の多くの人々から見れば、歓迎できる反面、緊張の激化を招きかねないという二律背反的なものと映る。米国政府の文民機関も関与していることは確かだが、この地域の海洋開発に対する日本の支援ははるかに規模が大きい。
(6) 日米両国は長年、緊密な日米関係、共通の優先事項そして相対的な強みが海洋アジアのための相乗的な成果を生む効率的な協力を可能にすると認識してきた。国際安全保障への関与の柔軟性を高める日本の政策調整は、安倍前政権時代を通じて新たな分野における進展を可能にした。今や、南シナ海における日米同盟の演習は日常的になっている。日米両国は、フィリピンとベトナムへの出入りを促進し、両国の協力で幾つかの能力構築活動を実施している。Biden政権は、インド太平洋地域における共通の目的を達成するために、日本との同盟を重視するのが賢明であろう。国連海洋法条約によって沿岸国に課された義務と責任を考えれば、日米両国は域内の提携国と緊密に協力することによって、航行の自由の維持や台湾海峡危機の阻止など、海上安全保障の諸目的を達成していかなければならない。
(7) この意味で、日米首脳会談は米国の指導者にとって、インド太平洋の海洋に関わる提携国を支援するために同盟の勢いを結集するという機会を逸したと言える。日本の海洋アジアにおける確かな実績と、米国が全くできていないという事実を考えれば、日本にとって、アジアにおけるより安全な海を実現する努力を促進するとともに、可能な限り米国を巻き込む努力を継続するのは重要である。一方、Biden政権にとっては、今後の日本との会合で2019年4月の2+2会合での行程表を取り上げ、海洋に関わる提携国の能力構築するために努力する同盟国に対する米国の支援を再確立することが望ましい。
記事参照:Suga-Biden Summit Leaves Japan Driving Cooperation in Maritime Asia
備考*:この報告書は以下より参照
https://www.iseas.edu.sg/wp-content/uploads/2021/01/The-State-of-SEA-2021-v2.pdf

4月27日「イランの武器密輸を支援するロシア艦隊―イスラエル・ジャーナリスト論説」(Breaking Defense, April 27, 2021)


 4月27日付の米国防関連デジタル誌Breaking Defenseはイスラエルを拠点とするフリージャーナリストArie Egoziの“Russian Fleet Protects Iranian Ships Smuggling Arms, Israelis Say ”と題する論説を掲載し、そこでEgoziは、4月24日にイランの石油タンカーがドローン攻撃を受けたことに言及し、イランからシリアやレバノンへの石油および武器輸出をめぐるロシアの関与について、要旨以下のように述べている。
(1) 4月24日、シリアに向かっていたイランのタンカーがドローンによる攻撃を受けたと報じられた。報道は錯綜しているが、タンカーでは火災が起き、死者が出たという報告もある。イスラエルの情報源によれば、こうした船舶は積み荷が石油だけだったと主張するが、「石油だけが唯一の積荷ではない」ことを示唆する証拠もある。
(2) イランは、シリアやレバノンへの兵器の輸送を陸路から海路を通じて行う方針にシフトしているようである。陸路での輸送についてはイスラエルが定期的に追跡し、破壊してきたが、海路に関してはロシア艦船の保護を受けられるかもしれない。イスラエルは、こうした新たな輸送ルートに対し、自国ができることが限られていると感じている。
(3) イラン専門家Uzi Rabiによれば、シリアへの物資輸送を防護するロシアの大きな目標は、中東において米国はさほど自由に動けないというメッセージを米国に送ることと、新たな核合意交渉についてイランを後押しすることだという。Rabiはまた、イランからシリアへの海路での輸送に対してイスラエルがほとんど対応できていないと指摘する。ロシアの報道機関Sputnikによれば、ロシア・イラン・シリアの3ヵ国は、米国や欧州諸国による経済制裁を打開するための作戦司令室を設置し、物資の安全な輸送態勢を強化していると言われており、この動きによって、深刻な石油不足に直面しているシリアへの安全な石油輸送の実現を目指している。
(4) イスラエルの対応は抑制されてはいるが、イスラエルの情報筋によると変化は起きていると言う。イスラエルは空からの攻撃を激化させている。イランからレバノンのヒズボラへの兵器システム輸送への大規模攻撃を実施し、それを成功させている。また、イラン製兵器が最終的に移送される前に集積地点への攻撃を実施している。
(5) 今回のイランのタンカーへのドローン攻撃がイスラエルによるものかどうかははっきりしていない。またイスラエルは、ロシア・イラン・シリアの3ヵ国による交渉について、公式にコメントしていない。
記事参照:Russian Fleet Protects Iranian Ships Smuggling Arms, Israelis Say

4月27日「インドネシア潜水艦喪失:アジアに多国間潜水艦脱出救難システムを―米専門家論説」(The Diplomat, April 27, 2021)

Sunk Indonesian Submarine Should Worry Pacific Powers
https://thediplomat.com/2021/04/sunk-indonesian-submarine-should-worry-pacific-powers/
The Diplomat, April 27, 2021
By Nick Danby, an intelligence officer in the U.S. Navy
 4月27日付のデジタル誌The Diplomatは、米海軍の情報将校Nick Danbyの“Sunk Indonesian Submarine Should Worry Pacific Powers”と題する論説を掲載し、Nick Danbyはインドネシア海軍の潜水艦「ナンガラ」喪失事故に関連誌、米国及び太平洋の同盟国、提携国は潜水艦の脱出、救難に関し、NATO正面のように多国間で潜水艦脱出救難システムを共有する枠組み、訓練等を確立する必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 4月24日、インドネシア海軍は行方不明中の潜水艦「ナンガラ」の状況を「サブ・ミス
(行方不明)」から「サブ・サンク(沈没)」に変更した。この発表は乗組員53名生存の望みを打ち砕くものであった。当該潜水艦は4月21日、訓練中に潜航許可を求めた後、魚雷発射訓練を実施中に消息を絶った。沈没の原因は依然不明である。インドネシア海軍当局は、電気系統の故障のために緊急浮上ができなかったと考えている。潜水艦は水深2,000フィート以上の海域で沈没している。
(2) 地域の動向を考えるとこの事故は気になる。アジア太平洋において10年にわたって繰
り広げられてきた軍備拡張競争、領有をめぐる対立、接近阻止・領域拒否の喧伝は、地域全体で潜水艦の取得、近代化の引き金となってきた。潜水艦戦への傾斜が高まれば、協調への多国間の努力を生じさせ、潜水艦の安全に関する意識、協定、そして捜索救難の技術と装備を強化しなければならない。潜水艦が存在してきた間、潜水艦事故を削減し、数百名の乗組員の命を救ってきた方策が存在した。
(3) 今後数十年は、潜水艦の配備と取得、そして事故と沈没の危険が増加するだろう。2000
年から2021年にかけて、インド太平洋における潜水艦の数は31パーセント増加している。インド太平洋は「大国間対立」の震源地となっており、潜水艦の増加率は増えなくとも、現在の増加率は続くだろう。北京は、太平洋の覇権国としての米国を追い出そうとしている。南シナ海において接近阻止・領域拒否の海域を確立することで、北京は太平洋での問題に影響力を持ちたいとする米国の欲求を減退することができる。この戦略に対抗するため、米国及び太平洋におけるその同盟国はより多くの潜水艦を建造し、配備するだろう。潜水艦は阻止されている海域に接近が可能であり、優勢な火力と指揮統制への対抗策に加えて「機動、攻撃的火力、奇襲」によって戦略的優位を提供できる。
(4) 太平洋の諸国は潜水艦をさらに建造するため、捜索救難の成功は多国間の協力にかかっ
ている。不明潜水艦の位置特定を支援するため、豪海軍はソナー装備のフリゲートを含む2隻の艦艇を派遣し、米海軍は潜水艦の位置特定のためP-8哨戒機と水中捜索救難機材を搭載したC-17輸送機3機を派遣した。「ナンガラ」は失われたが、国際的な支援は同艦発見の確率を高めることとなった。
(5) ワシントンと太平洋方面での同盟国には潜水艦の捜索救難を強化することのできる4
つの方策がある。その第1は、インド太平洋地域にThe International Submarine Escape and Rescue Liaison Office (国際潜水艦脱出救難連絡事務局、以下ISMERLOと言う)の衛星局を設立することである。ロシア原子力潜水艦「クルスク」の事故後、NATOは国際的潜水艦救難の努力を調整するためISMERLOを設立した。ISMERLOは各国の水面下での捜索救難の専門家から構成されており、潜水艦救難の国際的な手順を確立し、訓練と取得について助言している。ISMERLOにはまた、「急速動員」システムがあり、これは所在不明潜水艦を取り戻すために捜索救難資材を動員するものである。太平洋事務所の開設、専門家の再配置は、潜水艦事故や救難作業上の誤りを防止するため、頻繁で詳細に、かつより長期間にわたる訓練、手順の説明、多国間の協力の改善をもたらすだろう。
(6) 第2に、ASEAN潜水艦救難システムを創出することである。2008年、英国、ノルウェ
ー、フランスは3カ国によるNATO潜水艦救難システムを創出した。NATO潜水艦救難システムは、潜水艦救難艇と可搬式発進回収システムによって72時間以内に潜水艦乗組員を救出することを目的としている。ASEAN諸国は救難艇と発進回収システムの共同使用に関し英国、ノルウェー、フランス及び米国と協議し、独自の潜水艦救難システムを構築し、緊急事態への迅速な対応を確実にしなければならない。
(7) 第3に、米国は太平洋の提携国と潜水艦捜索救難訓練を継続実施しなければならない。
2017年、米国はNATO加盟8カ国とダイナミック・モナーク演習を実施した。この演習は潜水艦の脱出、救難手順及び訓練に焦点を当てたものである。米国は太平洋版のダイナミック・モナーク演習を主催し、太平洋外の提携国を参観者として招待すべきである。
(8) 第4に、The United States Department of Defense(米国防総省)は太平洋の同盟国
と潜水艦救難潜水再圧システム(The Submarine Rescue Diving Recompression System:以下、SRDRSと言う)を共有することによって共同すべきである。SRDRSは、急速に展開して、事故潜水艦近くの海域に準備でき、約2,000フィート潜航し、同時に155名の潜水艦乗組員を救出できる。SRDRSの他国との共有技術あるいは枠組みは、その国々が独自の救難システムを開発し、将来の事故(による被害を)軽減することができるだろう。
(9) インドネシア潜水艦の喪失事故は、全ての海軍に高度な技術も事故に対し万能薬ではな
いことを思い起こさせている。海中での戦いが激しくなる中、将来、潜水艦乗組員の生命が失われることを防ぐために多国間の訓練、手順、協力を確立することは米国と太平洋における同盟国の責務である。2017年、英海軍の退役中将Clive Johnstoneは「我々が海にあるときは制服の色にかかわらず、潜水艦が海底で行動不能に陥っていることを知れば、救援に赴くのが全ての船乗りの責務である」と記している。海軍や国家が潜水艦の救出を単独で行うべきではない。
記事参照:Sunk Indonesian Submarine Should Worry Pacific Powers

4月27日「英空母打撃群の太平洋配備―米ニュースチャンネル報道」(CNN.com, April 27, 2021)

 4月27日付の米ニュースチャンネルCNNのウエブサイトは、“Britain is sending a huge naval force through some of the most tense waters in Asia”と題する記事を掲載し、英海軍が今年5月に空母打撃群を太平洋へ展開する計画であることの発表を受け、その背景と意義について要旨以下のとおり述べた。
(1) 4月26日、英Defense MinistryはHMS Queen Elizabethを旗艦とする空母打撃群が5月に太平洋へと向かう数ヵ月に及ぶ航海に出港する予定であると発表した。これはQueen Elizabeth初の海外展開となる。空母に随伴するのは、英海軍の駆逐艦2隻、対潜フリゲート艦2隻、補給艦2隻と米海軍のミサイル駆逐艦およびオランダ海軍のフリゲート艦である。その航空戦力は英空軍のF-35Bステルス戦闘機および米海兵隊の同機を中心として構成されている。International Institute for Strategic Studiesによれば、この打撃群は近年でヨーロッパの国の海軍が単独で展開するものの中で最も行動能力の高いものである。
(2) 英国防大臣Ben Wallaceによれば、その任務は英国がグローバル・ブリテンの旗を掲げ、その影響力と力を示し、友好国と協力して「今日および今後の安全保障上の課題に対処することへの英国の誓約を改めて保証する」ためのものだという。
(3) 英国は、インド太平洋志向を強めている。3月に発表された軍事・対外政策に関する包括的見直しには、今後10年間でインド太平洋がますます重要になってくるとの認識が示されていた。Defense Ministryによれば、今回の空母打撃群の展開はインド太平洋地域におけるイギリスの関与をより深める狙いがある。また空母打撃群展開に関する声明において、英国、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドで構成される5ヵ国防衛取極の重要性が強調されている。今年は同取極が締結されて50年になる。
(4) その航海は地中海からインド洋を経由して太平洋まで3万海里にのぼるもので、その途上で40ヵ国以上に寄港するという。正確な航路は発表されていないが、シンガポールに寄港し、その後日本や韓国へ向かうことから、南シナ海や台湾東部を通行すると予測されている。南シナ海は、そのほぼ全域を中国が主権を主張し、外国船の活動を強く非難してきた海域である。台湾もまた、中国がその領土の一部だと主張し、ここ最近台湾周辺での軍事的活動を強めている。
(5) 英国は、中国が安全保障上の脅威だという認識を強めている。英国の防衛見直しにおいて、中国の増大する力とその攻撃的な姿勢は「2020年代の最も重要な地政学的要因」とされ、中国は「英国の経済安全保障にとって、国家としては最大の脅威」として描かれている。
(6) 同見直しによれば、英国は世界各地での軍事的展開の拡大を計画している。今回の空母打撃群の展開はその方向性を裏づけるものである。空母打撃群司令官のSteve Moorhouse准将は次のように述べる。「わが国がブレクジット後の世界における自国の立ち位置を再定義しているとき、今回の打撃群の派遣は、わが国が標榜する『グローバル・ブリテン』を具体化するものとしてふさわしいものであろう。それは英国の世界的な安全保障に対する継続的誓約を反映しているのである。」
(7) 日本は今回の英国の空母打撃群展開を、日英関係を「新しい段階」に引き上げるものとして歓迎している。防衛省によれば、今回の展開は「自由で開かれたインド太平洋」の支持と強化に向けた日英協力を力強く知らしめるものだという。
記事参照:Britain is sending a huge naval force through some of the most tense waters in Asia

4月28日「非対称的な台湾の防衛-米専門家論説」(The National Interest, April 28, 2021)

 4月28日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は、米シンクタンクBrookings Institute上級研究員Michael O’Hanlonの” An Asymmetric Defense of Taiwan”と題する論説を掲載し、ここでO’Hanlonは、最終戦争に突入することなく台湾を守るために米国は非対称の戦略を打ち出す必要があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) ここ数カ月、中国による台湾への脅威が高まるにつれ、戦略家や政策立案者の間で、1970年代後半以降、米国が台湾海峡の安定維持のため行ってきた方法を変える必要性が議論されている。現在の戦略的に曖昧な政策は、中国が台湾を攻撃した場合に、米国が軍事的に対抗するかどうかを推測させようとするもので、具体的な対応は危機がどのように始まり、どのように展開していくかによって異なる。米国には複数の、時には相反する目標があり、それは中国からの攻撃を抑止し、良好な米中関係を維持し、台湾国内の独立派勢力を阻止することを同時に実現することである。現在では、このようなバランス調整を止めて、台湾の安全保障を明確に約束すべきとの考え方もある。
(2) その考え方には1つ問題がある。米国が台湾を守ると約束しても、それができるとは限らない。特に、中国が長期にわたって台湾を封鎖し、米国が直接その封鎖を破ろうとする場合がそうである。このような行動は、中国が潜水艦部隊及び精密ミサイルを使用することに繋がり、台湾を締め上げて屈服させることになる。台湾は軍事予算を10%増額して年間約150億ドルとしているが、15倍以上の軍事予算の中国にはかなわない。この投資により台湾は、機雷、陸上及びヘリコプターからの対艦ミサイル、そして中国軍が上陸しようとする場所での集中的な抵抗により、中国の全面的な侵略の試みをかわすことができるかもしれない。しかし、間接的な中国の戦略に対しては、あまり効果はない。
(3)米国の第5世代戦闘機と最新の攻撃型潜水艦は封鎖を破る作戦において、大きな優位性があるが、地理的には明らかに中国が有利である。重要なのは、中国は現在、非常に優秀な攻撃型潜水艦の艦隊と、大量の精密ミサイルの在庫を保有していることである。問題の本質は、中国の攻撃型潜水艦が米空母を含む艦船に攻撃を仕掛ける前に発見されないことにある。中国が米艦船に対して長距離ミサイルを使用した場合、それが攻撃後であっても、米軍は潜水艦を見つけることができないかもしれない。この脅威に対抗する唯一確実な方法は、港に停泊中の潜水艦を攻撃することで、それは中国本土を攻撃することになり、紛争の烈度が増大するリスクを伴う。
(4) 中国が保有する1,000発以上の精密ミサイルは、中国大陸南東部から、台湾の飛行場や港などの基幹設備、さらには海上の船舶に向けて発射できる。米国のミサイル防衛は、一部を無力化できるかもしれないが、飽和攻撃になれば多くのミサイルを撃ち漏らすことになる。その場合、米国は中国本土にあるミサイル・サイロを探し出して攻撃することになる。
(5) 双方ともに、相手の衛星を機能不全に陥らせたり、妨害したり、指揮統制システムをハッキングしたり、光ファイバー通信ケーブルを切断したり、さらには敵の目をくらませて機能を停止させるために騒乱を起こそうとするであろう。その結果、米国は何千人もの乗組員やその他の人員を失う可能性がある。だからこそ、防衛戦略家で、故John McCain元上院議員の元側近Chris Broseは、台湾をめぐるUS Department of Defense(米国防総省)の図上演習では、中国が米国に勝つことが多いと報告している。仮に中国が負けるようなことがあっても、台湾に対する思いが強ければ、戦術核を導入して、空母打撃群や日本の基地を狙っていく可能性もある。
(6) この状況がどこまで続くのか予測は難しい。戦争下にある国は、戦況が思うようにならず、国家の存続が危ぶまれると、非合理的な行動や激化した行動を採る傾向がある。台湾を失うことは、中国の共産党支配を否定にすることにつながると指導者たちは確信しているので、彼らはこの種の戦争で敗北を受け入れることを極端に嫌うだろう。
(7) 戦略家Bridge Colbyは、中国がこのような戦略を採った場合、台湾を救うためには米国の大規模な空輸活動が適切な戦略の一部としている。それと同時に、中国に対する全面的な経済戦争がもっとも有望な戦略である。中国との戦争が始まった時点で、米国は中国との貿易をすべて遮断し、米国の同盟国も同様の圧力をかけるべきである。そして、そのシナリオにおける米国の総合的な回復力を高めるために、今から多くの準備措置を講じる必要がある。
(8) この危機がすぐに解決されないならば、米国はインド洋とペルシャ湾海域における軍事的優位性を利用して、中国の経済的なライフラインを狙うべきである。この地域に配備されている攻撃型潜水艦、長距離爆撃機及びステルス戦闘機を使って、中国に向かう船舶を攻撃する。中国は、エネルギーの半分以上をペルシャ湾岸諸国やアフリカに頼っているため、この脆弱性の影響は大きい。また、近代的な船の乗組員は数十人であるため、中国や日本の領土を巻き込む可能性のある戦争に比べればはるかに犠牲者数は小さくてすむ。このような軍事攻撃が始まっても、その終結は交渉によってなされるべきである。なぜならば恒久的に終わらせるには最終戦争以外にはないからである。
(9) 米国は現実的に、レアアースのような中国の主要な輸出品に対する西側諸国の依存度を、備蓄や代替品開発によって軽減することでこの種の戦略に取り組むことができる。US Department of Defenseは、Treasury Department(財務省)やその他の政府機関とともに、台湾を守るためのより統合された非対称の戦略を打ち出す必要がある。
記事参照:An Asymmetric Defense of Taiwan

4月29日「『4カ国安全保障対話』の構成国はアジアの海洋安全保障を推進すべし―シンガポール専門家論評」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, April 29, 2021)

 4月29日付のCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency InitiativeはThe S. Rajaratnam School of International Studiesの海洋安全保障プログラムの上席研究員John Bradfordの“QUAD HAS MET : NOW IT NEEDS TO GET WORK FOR MARITIME ASIA”と題する論評を掲載し、Quadの構成国の海洋関係計画者は物流の協力、相互アクセス向上、協調的な海上能力構築に焦点を当てた計画を早急に推進すべきであるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年3月、日米豪印の首脳が「4カ国安全保障対話」(以下、Quadと言う)の初の首
脳会談で一堂に会した。Joe Biden米大統領が就任後の早い段階でこの会談を主催したことは、Quadの業務のスピードが保たれることが保証されたことを示唆している。ただし、Quadの針路は未定のままである。4人の首脳は同様の世界観を共有し、対話のための会合の価値について広範な意見の一致を示しているが、最も厄介な課題に対する彼らの好ましい取り組みの間には差がある。安全保障問題の全領域にわたって戦略上の調整が欠けているにもかかわらず、Quadの構成国は海洋領域の多くの分野についてほとんど意見が一致している。このことにより4カ国は、インド太平洋の自由で法に基づく使用のための運用枠組みとして立ち上げることができるはずである。4カ国は、海が商業と情報の流れを可能にするための自由で開かれた資源であり続けることを保証するため最大限の努力をしてきた国々である。これらの国々はまた地域の不可欠な基本的な要素である。彼らの行動は、インド太平洋地域の基準を設定し、より広範な協力のための基盤的なメカニズムを確立することができる。各首脳は共同声明の中で、「東シナ海と南シナ海におけるルールに基づく海洋秩序への課題に対応するため、海洋安全保障を含む協力を促進する」ことを約束した。また、航海の自由の重要性を強調し、特に国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)に反映されているように、海洋における国際法の優先を強調した。一部の人々は、特に南シナ海で中国によって取られた攻撃的で違法な行動に対する海軍の巻き返しを求める呼びかけとしてこの文言を読み間違えている。
(2) Quadはすぐには大きな軍事的役割を果たすつもりはない。2020年10月、菅総理はベ
トナムとインドネシアを訪問して政権を開始し、日本はQuadに関する婉曲的な表現である「アジア版NATO」を作るつもりはないと繰り返し述べて、相手国を安心させた。同様に、2021年3月のQuadサミットの前夜、オーストラリア首相Scott Morrisonは、Quadは非公式のままであると指摘している。2021年4月初め、インドの排他的経済水域内での米海軍の作戦に対するインドの外交上の抗議は、Quadの戦略的面のもう1つの溝を明らかにしている。それでも、Quadには各国の国益に同時に役立ち、インド太平洋にとって大きな価値を持つことを可能にする多くのことがある。近年、Quadは海軍の相互運用性を高め、海上の情報協力を改善することに焦点を当てている。海軍の相互運用性は2016年以来、日米印の3国間の演習であったマラバール演習に、2020年豪海軍が復帰したことによって強調された。かつて、マラバール演習は実質よりもショー的なものであった。当時の最大の価値は外交の象徴であった。しかし、近年では、高度な戦術や厳しい訓練を行うまでになっている。海上の情報協力には、洋上の偵察航空機の調整や、より機密性の高い情報を適切に共有するためのチャンネルの開発が含まれる。情報の改善により、より強力で、より良い目的を持つ運用が可能になる。海軍の相互運用性の向上と情報共有の拡大はメンバーにとって価値があるが、改善のスピードは地政学的配慮によって抑制されるべきである。Quadが地域の海洋安全保障により直接的な利益をもたらすために今行動すべき他の分野がある。物流の協力、相互のアクセス、協力的な海上における能力の構築は、Quadの海上スタッフが直ちに改善できる3つの分野である。これらは、国内の反対に遭遇する可能性は低い。中国の包囲の懸念を引き起こす、または地域の提携国の懸念を引き起こす可能性が低い比較的議論の余地のない分野である。これらはまた、成果に到達するには時間と技術的な注意が必要な分野でもある。2020年6月にインドとオーストラリアの間で相互物流支援協定(以下、MLSAと言う)が締結された結果、Quad内のすべての2国間提携には、MLSAまたは相互提供契約が含まれるようになった。これらの取極を整えるのが、物流の協力への第一歩であるが、定期的に開発、検証、実践する必要がある。このような協力は、資源の節約を生み出すだけでなく、お互いの物流網を使用することによって、提携国の運用の柔軟性を高めることになる。可能な場合は、これらの手順を標準化する必要がある。このような合理化は、取引対価を削減し、地域の他の成長する海洋関係での協力を容易にする。このように、Quad間の協力は他の同じ志を持つ地域の国の間で同様の効率を高めることができる。Quadの構成国はまた、お互いの港湾や飛行場への簡単なアクセスを可能にする作業に取り組む必要がある。 日豪円滑化協定(Japan-Australia Reciprocal Access Agreement:以下、RAAと言う)の実施は、日米豪の提携が成立することを意味する。3国間関係には、RAA または地位の合意がある。同様の取極はインドと共に開発されるべきである。Carnegie Foundation研究者Darshana Baruahは、オーストラリアのココス諸島やインドのアンダマン・ニコバル諸島などのインド洋にある飛行場への相互乗入れを許可し、海洋領域所有の認識を向上させることの価値について非常に興味深い提案を行った。
(3) 協力的な海上安全保障能力構築プロジェクトの開発は、Quadがすぐに行動を起こすべ
き分野である。インド太平洋の海上交通路がより安全で保障されていることは、Quad構成国全ての利益に直接関係している。地理的要素とUNCLOSの条件は、沿岸諸国がチョークポイントを保護する責任の大部分を負っていることを示しているが、多くの沿岸国は自然災害、犯罪者、テロリストなどの多くの脅威に対処する能力を欠いている。これらの国は一般的に大きな権力闘争に伴う危険性に懸念を抱いている。これらの非国家主体の脅威は市民の命を奪い、経済的繁栄を損ない、海上保安機関の艦船などは日常的に対応せざるを得なくなっている。したがって、これらの国は一般的に優先順位に敏感であり、彼らの主権を尊重する限り、能力構築支援のための準備ができている。彼らの努力を調整することによって、Quadの構成国はすべての国の交通のための海洋安全保障をより効率的に改善し、沿岸諸国が海上の脅威に対処する能力を高め、海洋に関わる重要な提携国としての信頼と協力への最も確実な道を築くことができる。戦略上の合意の不足と不十分な相互信頼は、Quadが近い将来に正式な取極や軍事同盟に進化することを制約する。中国による攻撃的で違法な行動が続く未来は、これらの国をより緊密な戦略的整合に追い込む可能性は確かである。Quadの構成国の海洋関係計画者は、物流の協力、相互乗入れ向上、協調的な海上能力構築に焦点を当てた計画を全速力で推進すべきである。この作業は、より大きな戦略的合意が必要となる軍事協力に不可欠な基盤を提供するであろう。同時に、これら3つの分野での作業は、中国を含むインド太平洋のすべての国家が国際法を尊重して行動し、商業と情報共有の自由で開かれた流れのある未来を損なうものではない。いずれにせよ、これらの分野におけるQuadの構成国の指導力は、すべての国が海洋の脅威に対する効率的な協力を進める枠組みを提供することができるであろう。
記事参照:QUAD HAS MET : NOW IT NEEDS TO GET WORK FOR MARITIME ASIA

4月29日「中国は米国の競合相手ではなく敵である―米安全保障専門家論説」(Newsmax.com, April 29, 2021)

 4月29日付で米ニュース・オピニオン・ウエブサイトNewsmax.comは、Center for Security Policy局長Fred Fleitzの“Treat China as an Adversary, Not a Competitor”と題する論説を掲載し、そこでFleitzは28日夜の米両院合同会議におけるBiden大統領の演説に言及し、Bidenが中国を「競合相手」と位置づけていたことを批判し、敵対国であると認識すべきだとして要旨以下のとおり述べた。
(1) 4月28日、Biden大統領による上下両院合同会議における演説がようやく行われた。この演説には多くの問題点があり、保守派に酷評されている。たとえばBidenは政府支出の増大と大増税を求め、Trump政権が達成したコロナウィルスのワクチン開発と経済再生を自分の功績と訴えたことや、パールハーバーや9・11同時多発テロを無視して、今年1月6日の連邦議会議事堂への襲撃事件を「南北戦争以来、われわれの民主主義に対する最悪の攻撃」と位置づけたことなどである。Bidenは世界の指導者たちが「米国が戻ってきた」と言っているらしいが、そんなことはない。世界が目撃しているのは、アメリカが混乱した優柔不断な指導者に率いられている現状である。
(2) Biden大統領の演説の最大の問題は、中国の脅威を過小評価し、繰り返し中国を「競合相手」と表現したことである。たとえば、フランスなどは競合相手であろう。競合相手とは軍事同盟にもなりうる関係である。しかし、中国はそうではない。前国家情報長官のJohn Ratcliffeが述べたように、中国は今日の米国に最大の脅威を突きつけ、民主主義や自由な世界全体に対する、第2次世界大戦以降で最大の脅威なのだ。すなわち中国は敵なのである。中国もまた党大会において米国を敵とみなしている。
(3) 中国は、米国に対していくつもの敵対行為を実践してきた。中国は、COVID-19の世界的感染拡大を利用し、一帯一路構想を推し進め、米国の技術を盗み続けている。国内における外国報道やウエブを規制する一方、外国における報道の自由を利用してプロパガンダを行っている。オーストラリアに新たな経済戦争を仕掛けたように、自国への批判には厳しく対応する。また香港における抑圧や、台湾や南シナ海への攻撃的姿勢を強めている。中国は軍事力の拡大と改善を進め、いまや「潜水艦発射弾道ミサイルによってわが国の本土を直接脅かす能力を有している。」
(4) これらの敵対行為に対するBidenの対応はソフトであいまいなものであった。コロナウィルス拡大抑制における中国の怠慢や、国内の調査を拒み続けていることについてBidenが声明で何も言わなかったことは驚きである。またBidenの声明は、中国が現在進めている新疆ウイグル自治区におけるウイグル人ムスリムの虐殺行為に対して何の言及もしていない。Bidenによれば彼は習近平に、「米国は人権と根本的自由に対する誓約から後退することはない」と伝えたとのことだが、それにもかかわらずウイグル人の虐殺について何も述べていないことは強調されなければならない。Bidenは、それに言及することで中国を怒らせることを恐れ、沈黙を選んだのだ。
(5) Bidenは、中国を貿易や外交における通常の国として扱うことで、中国が世界共同体において責任ある民主主義国家となるはずだという誤った信念を、Trump以外の多くの前任者と同様に抱いている。Biden政権の一部のメンバーでさえ、そのようなことは信じていない。
(6) 言葉は重要である。Bidenは中国を競合相手と呼ぶことで、イギリスやフランス、日本など国際法を遵守して、攻撃的姿勢を向けることのない国々と同等の地位を中国に与えている。また中国の悪質な行為や台湾および香港に言及しなかったことで、Bidenは米国が国際法に違反するような中国の行為の責任を問わないのだと中国の指導部に伝達している。Bidenは中国を勇気づけ、こうした危険で攻撃的な行動を続けさせるであろう。議会そして米国国民は、中国を敵対的で信用できない米国の敵だと認識するような中国政策の採用を、Biden政権に求めるべきである。
記事参照:Treat China as an Adversary, Not a Competitor

4月30日「地中海・アフリカ沿岸におけるロシア海軍の存在感拡大―米軍事専門家論説」(USNI News, April 30, 2021)

 4月30日付のThe U.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、米海軍関連雑誌Navy Timesの元編集長John Gradyの“Panel: Russian Navy Expanding Presence in the Mediterranean Sea, Africa”と題する論説を掲載し、そこでGradyは29日に開催されたフォーラムをまとめつつ、ロシアが地中海とアフリカ沿岸において海軍の存在感を拡大させている背景と意味、それに対する米国の対応について、要旨以下のように述べている。
(1) 4月29日、Atlantic Councilが主催した“Putin’s Mediterranean gambit: Endgame unclear”の討議では、最近のロシアによる東地中海およびアフリカ沿岸における海軍の展開と活動の増大について議論され、米National Intelligence Councilのロシア・ユーラシア専門家Christopher Bortは、地中海におけるロシアの動きが「世界の大国になるには強大な海軍が必要である」というPutinの大戦略の一部であると述べている。ロシアは地中海における影響力の増大を狙っており、たとえばシリアやリビアにおける内戦に介入したり、兵器売却を推進したり、インフラ計画への関与を深めたりしている。しかし、ロシアの厳しい経済状況は、世界の大国として必要な強大な海軍を建設し、維持するという目標を現実のものとすることは「言うは易く、行うは難し」を意味する。また、歴史的に対立してきたトルコやイラン、イスラエル、湾岸諸国間の、そしてロシアを含めた種々の取引を通じて東地中海でのさらなる影響力拡大を模索しているとBortは指摘している。
(3) ロシア・ウクライナ・ユーラシア問題担当国防次官補Laura Cooperは、ロシア政府が、地中海沿岸での活動や投資を宣伝に利用してきたと主張する。ただし、自分たちは平和の推進者だというロシアの宣伝は誰も騙せていないと言う。ロシアがイランやイスラエル、湾岸諸国との関係強化を深めていることについて、シリアは必ずしもよく思っていない。
(4) Cooperはロシアが推進しようとしているのは、何らかの価値ではなく利益だと指摘している。その動きの一環として、ロシアは敵対国であるトルコにS-400やS-300防空ミサイルシステムを売却した。この結果、トルコはF-35 Lightning II戦闘機計画から排除され、なお経済制裁の可能性も残されている。
(5) ロシアがシリア内戦においてどの程度長い間Assad大統領を支援できるかについて、Bortはロシアがさほど無理しているわけではないと指摘している。しかし、それが過剰な介入かどうかは見る人によって異なるとしており、シリア問題について特に関心を持たないロシア市民にとっては見方が違う可能性を示唆した。またロシアの介入が結局のところ平和的解決につながっておらず、難民問題が悪化していると付け加えている。
(6) 以上の諸問題を受けて、米国は同盟国や提携国と連携を深めつつ、地中海に対する関心を強めているとCooperは指摘した。Lloyd Austin国防長官が最初に公式の電話会談を行った相手はNATO事務総長Jens Stoltenbergであり、そこでAustin長官は同盟への米国の誓約を改めて保証したのである。また、スペインのロタ海軍基地に現在4隻配備されているイージス駆逐艦を2隻追加配備すると予想されている。Cooperは、米国は今後も地中海地域において強力な展開を維持し続けるだろうと述べている。
記事参照:Panel: Russian Navy Expanding Presence in the Mediterranean Sea, Africa

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) An Off-the-Shelf Guide to Extended Continental Shelves and the Arctic
https://www.lawfareblog.com/shelf-guide-extended-continental-shelves-and-arctic
Lawfare Blog.com, April 21, 2021
By Cornell Overfield, an analyst at the Center for Naval Analyses, the Navy’s federally funded research and development center
 2021年4月21日、米The Center of Naval Analyses(海軍分析センター)の分析官Cornell Overfieldは、豪Lawfare Instituteのブログに" An Off-the-Shelf Guide to Extended Continental Shelves and the Arctic "と題する論説を発表した。その中でOverfieldは、3月31日に行われたロシアによる北極海の「大陸棚延長」 申請書の一部改訂を取り上げ、これによりカナダやデンマークの同申請と重複する部分が生じたことや、北極海の大陸棚延長問題は、同海域の石油やガスの豊富な埋蔵量だけでなく、コバルト、ニッケル、マンガン、その他の近代経済にとって重要な金属など、さまざまな鉱物資源の独占権がかかっているため、北極海では特に重要であると指摘している。その上でOverfieldは、大陸棚延長請求の解決には多国間交渉が必要となるため、この状況は地域を破壊するのではなく、地域の協力と多国間主義という冷戦後の伝統を強化する可能性があると述べ、複数の国家の競合する北極海の大陸棚延長申請がいつどのように解決されるかにかかわらず、それらは平和的に解決される可能性が高いとし、その理由としてロシアの今回の申請書改訂は大陸棚延長に係る事務的過程への信頼を示すものであり、この過程の基盤には秩序と国際法が存在しているからだと主張している。

(2) Why is Germany sending a frigate through the South China Sea? 
https://www.scmp.com/week-asia/opinion/article/3130854/why-germany-sending-frigate-through-south-china-sea
South China Morning Post, 25 Apr, 2021
By Arnaud Boehmann is a sinologist from Hamburg, Germany. Currently he is specialising in East Asian security policy at S. Rajaratnam School for International Studies in Singapore
 4月25日、ドイツの中国研究家Arnaud Boehmannは、香港日刊英字紙South China Morning Post電子版に、“Why is Germany sending a frigate through the South China Sea?”と題する論説を寄稿した。その中で、①ドイツ海軍のフリゲート艦「バイエルン」がインド太平洋に向けて出港するが、これはベルリンが北京を威嚇しようとしているのではなく、地域の同盟国に対するメッセージである、②ドイツ政府関係者は、同艦の派遣について、中国に占領された島礁、人工島の12海里以内の通過は意図していないと述べて印象を和らげた、③ドイツの中国政策は常に経済的なものが中心であったが、その効果が期待外れであることが徐々に認識されてきた、④「バイエルン」は、南シナ海に関する中国の過敏な反応から逃れることはできない、⑤これが1回限りの通過なのか、それとも繰り返し海外に部隊を派遣したり、それらを維持したりすることが可能かどうかが問題である、⑥ドイツは他のヨーロッパの大国とは一線を画し、インド太平洋における提携に沿って独自の優先順位を設定することにした、⑦ドイツは、ルールに基づく秩序を支援すると述べているが、それに反する中国の強引な行動に立ち向かうことに躊躇している、⑧9月の(2021年ドイツ連邦議会)選挙後には多様な連立政権が誕生する可能性があり、各主要政党の中国に対する姿勢のほとんどはMerkelの経済を基盤とした非対立主義とは異なる、⑨ドイツがインド太平洋地域における重要な海軍国家となることを目指すのであれば、過剰な拡大を避けるために、野心と資源の均衡を慎重に取らなければならないだろう、といった主張を述べている。

(3) What Comes After the Forever Wars
https://foreignpolicy.com/2021/04/28/what-comes-after-the-forever-wars/?utm
Foreign Policy.com, April 28, 2021
By Stephen M. Walt, the Robert and Renée Belfer professor of international relations at Harvard University.
 2021年4月28日、米Harvard UniversityのStephen M. Walt教授は米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトに、" What Comes After the Forever Wars "と題する論説を発表した。その中で、冒頭で「米国の大戦略の時代は終わりつつある」と指摘し、アフガニスタンでの無意味な軍事作戦を終結させることによって、Biden米大統領は 「永遠の戦争(forever wars)」 を終わらせたいという願いをかなえたが、その考えは米国一極集中時代の傲慢さと不安の奇妙な組み合わせの結果でしかないと述べている。そしてWaltは、自由民主主義は素晴らしい未来をもたらす波であり、米国の比類なき軍事力はそれを推進する強力な手段であると米国のエリートは信じていたが、彼らは米国の優位性を米国人とそのほかのほとんどすべての人にとって素晴らしい条件だと見なしていたため、他の国々も自由主義的な世界秩序を拡大しようとする米国政府の取り組みを支持するだろうと考えていたと指摘した上で、今後米国は他国に自由主義的な価値観を押し付けようとするのではなく、自国の伝統や状況に合わせて適切に調整された形で、他国の社会が見習おうとする模範を示すべきであるとし、最後に、要するに米国は現在の「永遠の戦争」を終わらせるだけでは十分ではなく、それらを過去のものとするためにも、それらがどのようにして生じ、なぜ失敗したのかを理解し、これらの教訓を内部化し、米国の力が何を達成でき、何を達成できないかを十分に検討した上で、米国外交政策のための前向きな議題を策定する必要があると主張している。