海洋安全保障情報旬報 2021年3月21日-3月31日

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3月22日「スリランカ、ハンバントタ港の借款契約について再交渉せず:駐中国スリランカ大使談―香港日刊英字紙記事」(South China Morning Post.com, March 22, 2021)

 3月22日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Sri Lanka is not renegotiating Hambantota port lease deal with China, ambassador says”と題する記事を掲載し、スリランカの駐中国大使はハンバントタ港について中国と再交渉はしておらず、スリランカが債務の罠に陥っているとの噂も否定したとして、要旨以下のように述べている。
(1) スリランカの駐中国大使Palitha Kohonaは、スリランカがハンバントタ港を運用するために中国政府に与えた99年間の借款契約を延長する計画を策定しているという噂を完全に否定した。Kohona大使はインタビューで中国と米国、インドとの権力闘争に言及し、スリランカは「誰かに脅威を与える不沈空母には決してならない」と語っている。ハンバントタ港は南アジアの重要な海上交通路に近いスリランカの南端にあり、将来、インド洋の主要なハブ港となる可能性がある。スリランカ政府は、開発に使用された中国のローンの返済ができなかったため、2017年に港の運営を引き渡すことに合意した。Kohona大使は、スリランカ大統領Gotabaya Rajapaksaが中国との取引を再検討しているとの報道に関する質問に「それは絶対に間違いだと思う」と答えている。中国政府も、中国外交部の汪文斌報道官がハンバントタ港は操業を拡大していると述べ、スリランカとの取引きの見直しを否定した。
(2) 中国企業が資金を提供し、建設したハンバントタ港の計画は、中国が世界における地政学的影響力を高めるために「債務の罠」外交を行ったとの非難がある。スリランカは基幹設備整備を外資に大きく依存しており、コロナウイルス感染拡大による観光産業の被害により、返済ができない懸念がある。しかし、Kohona大使はスリランカが「債務の罠」に陥っているという噂を否定した。Kohona大使は「スリランカの中国への債務は我々の債務全体の10%未満であり、私は責任を持って我々は『債務の罠』に陥っていないと言うことができる。我々が中国に行き、融資を頼んだのだ。スリランカが『債務の罠』に陥っているというのはナンセンスである。我々は、必要なものを慎重に判断した。我々が他の人に債務を頼もうとしたとき、彼らはその準備ができていなかった。だから我々は中国に行った。中国はスリランカがこの困難な時期を乗り越えるのを助けるために財政的支援を提供してくれた」と述べている。スリランカは最近、中国開発銀行から5億米ドルの融資と、北京に本社を置くアジアインフラ投資銀行から1億8000万米ドルの融資を得た。両国は15億米ドルの通貨スワップにも合意した。Kohona大使は「どんな事業でも、すぐに利益を生み出すことはないことを覚えておくことが重要である。時間がかかる。」とも述べている。
(3) インドは、インド洋とその周辺の中国の基幹設備整備に懸念を表明している国の1つである。インドのModi首相は、中国の勢力拡大に対抗するために設立された非公式同盟である4カ国安全保障対話で、米国、日本、オーストラリアに加わった。米国防長官Lloyd Austinは、米国務長官 Antony Blinkenとともに日本と韓国を訪問した後、3日間インドを訪問し、ニューデリー訪問は「中国に対する抑止力を強める」のに役立つだろうと米国防長官は述べている。Kohona大使は、インドと中国の間には緊張関係があるがスリランカはどちらの側にもつかないと述べている。「インドと中国の間に敵対関係の認識があることは否定できない。しかし、スリランカは内部紛争の経験があり、外国から侵略された経験も持っている。誰かが目的を達成するために自国の領土を貸すことはない。スリランカと中国は、2014年から続いていた両国間の自由貿易協定の作成に関する協議を最終決定することに熱心だった。中国人は我々にできるだけ早くFTA (自由貿易協定)を締結するよう迫っている。スリランカの経済界が抵抗しており、中国への市場開放は自国産業が圧倒されるのではないかと懸念している。それは、我々が中国とFTAをどのように交渉するかにかかっている。我々は、一方の側の利益のためではなく、相互の利益を生み出すような方法で交渉を行うべきである」と述べている。
記事参照:Sri Lanka is not renegotiating Hambantota port lease deal with China, ambassador says

3月22日「海上法執行への地域協力と訓練加速-豪専門家論説」(The Strategist, 22 Mar 2021)

 3月22日付の豪シンクタンクAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは、同Institute上席研究員Anthony Berginの“Boosting regional cooperation and training in maritime law enforcement”と題する論説を掲載し、Anthony Berginは海上不執行機関の幹部職員、特に中堅士官の知識・技能の向上の重要性を指摘し、このためIndo-Pacific maritime law enforcement centreの活動を期待し、要旨以下のように述べている。
(1) 海上法執行(以下、MLEと言う)船舶は、海上での法執行任務に従事する海軍艦艇では
ない船舶で、主として沿岸警備隊の船舶であり、海上警察、漁業取締機関のような他のMLE機関の船舶もある。沿岸警備隊やMLE部隊の成長は東南アジアにおいて特に顕著である。これにはいくつかの理由がある。第1の理由は、海洋での活動の一般的な増加がある。特に海運、沖合の石油及びガスの探査と開発である。これらは安全、保安、環境保護の理由から監視と可能な警察活動が必要である。これらの活動を規制する環境は年々複雑になってきており、MLE機関の幹部職員にはますます高いレベルの訓練が必要になってきている。第2の理由は、海洋では高次の不法行為が続いている。海賊、船舶に対する武装強盗、スールー海近傍でのテロ活動、麻薬、武器、人員の密輸である。第3の理由は、この地域、特に南シナ海における国境及び主権をめぐる係争の多さである。MLE部隊は現在、主権擁護のために好ましいと見なされており、MLE部隊の係争中の海域、特に隣国間で既に緊張が存在する海域への展開は海軍よりも好ましい。海軍はより高次元の政治的危険を招くからである。
(2) 地域の諸国は、たとえ合意された海上国境がない場合でも、ほとんどの形態のMLEと
安全のために協調が必要であることを認識している。MLEは、海洋における不法活動を取り扱う国際的条約、規則の数の増加に伴い複雑になりつつある。MLE部隊の発展は、MLEに関して練度・知識等がより進んでいる同盟国あるいは提携国が、練度・知識等がそれほど進んでいない国がMLE任務や海上安全の任務を担う能力を築いていくことを支援する一層の機会を提供してきている。
(3) 太平洋島嶼国家は今、増加する海洋安全保障の問題に直面しつつある。この地域で報告
されている国境を越えた犯罪の多くは海洋領域である。太平洋島嶼国家の海洋領域におけるMLE任務はこれまでにないほど難しくなってきている。多くの島々による海上哨戒において運用上の溝がある。遠隔海域、沖合、公海に隣接する海域における航空監視は限られている。
(4) インド洋では、海上における安全と保安はIndian Ocean Rim Association(環インド洋地
域協力連合)にとって優先事項であると認識されてきた。これに当たっては、海賊、持続可能な漁業管理、自然災害への備えの必要性が特に言及されてきた。インド太平洋方面でのMLEの訓練は様々な形で利用可能であり、オンライン配信から、能力構築支援のための国内配信、数週間以上あるいは数ヶ月の滞在型プログラムまである。地域の多くの沿岸警備隊の学校は沿岸警備隊士官を対象として基礎訓練を提供することに焦点を当てているが、海上保安大学校のように一部では国内、海外の中堅士官を対象に上級訓練プログラムを提供している。米沿岸警備隊は臨検手順、船内検査に関し東南アジア諸国の沿岸警備隊の実地訓練を支援してきた。The United Nations Office on Drugs and Crime in Thailandは能力構築のための世界の海洋犯罪対処プログラムを有している。
(5) 全体として、地域のMLE機関はそれぞれの組織内において中堅士官が指揮を執ること
ができるようにする知識と技能を強化しているが、中堅士官に専門的な訓練と教育を提供する地域的な組織がない。インド太平洋法執行センター(以下、IMLECと言う)は、インド太平洋にMLEプログラムと組織のそれぞれの強点を活用する戦略的調整を見極めるだろう。IMLECは不一致や不同意に関係なく、MLEや海上安全は地域の国々の共通の利益であり必要な任務であるとの立ち位置を反映している。IMLECは柔軟性と多様性に富む組立型の訓練とMLEに対する焦点を配信し、それだけでなく海上安全、海洋環境の保護についても注意を発信するだろう。一度IMLECが設立されれば、IMLECが特定の機関向け、特定の国向け、あるいは複数の機関向け、あるいは複数の分野にまたがるコースとワークショップ、そして/あるいは本来はそうあるべきである多国間枠組みのコースとワークショップを提供するかもしれない。IMLECは研究機能を持つべきである。それにより、技術開発や地域の国々をMLEにおいて支援し、地域の国々の海域における海洋安全を提供することによってIMLECがどのように利用されているかに遅れずについて行くことができるだろう。
(6) MLECの主な役割は、最高の専門知識と技能を持って地域におけるMLEを実施するた
め合同し、共同して、政府内で、省庁間でそして多国間の枠組みでの取り組みを促進することにある。IMLECは、MLE指導者の連携を加速する地域MLE高級レベル会合を主催するとともに微妙な問題に関して政府関係者及び有識者から成る1.5トラック会合を主催すべきである。インド太平洋の全てのMLE当局との関係を維持することにより、IMLECは主要な利害関係国の要求に応じ、新たな政策課題に対応するプログラムの開発に迅速に転換することができるだろう。IMLECは、提携国の能力を構築し、MLE機関の専門性を促進し、文民MLEにとっての問題により良く適合する地域協力を強化するだろう。
記事参照:Boosting regional cooperation and training in maritime law enforcement

3月23日「中国調査船2隻、インド洋の戦略的海域を行動―US Naval Institute報道」(USNI News, March 23, 2021)

 3月23日付のUS Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは、軍事専門家H I Suttonの“Two Chinese Survey Ships are Probing a Strategic Section of the Indian Ocean”と題する記事を掲載し、中国調査船が東経90度海嶺に沿って海洋調査を行ったのは軍事的意味合いもあるとして、要旨以下のように報じている。
(1)    公開情報である衛星画像によりインド洋地域で行動中の2隻の中国調査船が示すよう
に、中国はインド洋の海中の環境データを収集しつつある。データ収集はインド洋における中国潜水艦に優位性を与える。調査船は、公には軍事的任務を持っていないかもしれない。しかし、収集されたデータは人民解放軍海軍が特に関心を持つものであろう。海洋調査データは軍事的利益にも、民間の利益にもなるものである。
(2) 1月、中国調査船は自動船舶識別装置(以下、AISと言う)の電源を切りにしてインドネシア海域を行動し、非難されている。その調査船「向陽紅03」はインド用に向かっていた。報じられていないことであるが、姉妹船「向陽紅01」はその時、インド洋で行動中であり、分析担当者は公開情報のAISデータと衛星画像を使用し、両船の動きを追跡していた。
(3) 中国は、体系的にインド洋の広大な海域を調査しており、インド洋東部を南北に走る東経90度海嶺の調査に特に関心を持っている。この海域は、潜水艦戦に特に関係している。中国潜水艦がインド洋においてその行動を増加させるのであれば、この調査結果は潜水艦の残存性に寄与するだろう。この海域は、この地域で潜水艦を運用する国々が関心を持っているようである。これにはインド、インドネシア、オーストラリアを含まれている。米太平洋軍がインド太平洋軍に改編されたことは将来の米海軍の作戦を示唆するものである。
(4) 「向陽紅01」はマラッカ海峡を通過し、姉妹船よりさらに北で行動し、ほぼ直線の針路を約9ノットで航行していた。「向陽紅01」は原針路に復する前に何度も停止、反転を繰り返していた。これはセンサー、特に曳航式センサーの故障を示すものかもしれない。追尾したデータによれば、「向陽紅03」はスンダ海峡にあって、遙か南を調査していた。「向陽紅01」同様、「向陽紅03」は東経90度海嶺に沿った長い直線の調査をほとんど実施していた。
(5) 1月17日、インド洋東部の離れた海域で2隻は会合した。相互の動きがあったのは午後早い時間の数時間である。会合の目的ははっきりとはしていないが、人員あるいは装備品の移送かも知らない。短時間の会合は、これが重大な演習あるいは訓練機会ではなく、両船の任務の内容が近いもので、補完的であることを強調している。
(6) 中国調査船はますます世界の海で普通に見られるようになるだろう。中国調査船は、気候科学のような商業上、あるいは国際的な科学調査活動にしばしば従事している。他方、中国は軍事目的のためにデータを収集しているかもしれない。
記事参照:Two Chinese Survey Ships are Probing a Strategic Section of the Indian Ocean

3月24日「過去とは異なる現代の『水』に関する戦争-米専門家論説」(The Diplomat, March 24, 2021)

 3月24日付のデジタル誌The Diplomatは、米Patterson School of Diplomacy and International Commerceの助教Robert Farleyの“What Is a Water War ?”と題する論説を掲載し、Robert Farleyは現代における水に関連する戦争について、要旨以下のように述べている。
(1)水戦争(water waters)は、単に水上での戦闘ではない。漁船団若しくは海底資源の追求の支援、又は、飲料用、工業用及び農業用の淡水へのアクセスなど、水を経済的に利用する権利をめぐる紛争を指す。
(2)歴史的に見ても、海軍の戦略理論は、輸送手段としての水の関連性に焦点を当ててきた。Alfred Thayer MahanやJulian Corbettなどの理論家たちは、国家が貿易を拡大し、競合相手の貿易を破壊し、地上部隊を迅速に動かすために、海の支配(ひいては航行可能な河川の支配)を利用する方法に集中していた。
(3)Mahanは、漁業について軍事的・経済的な現象としては特に関連性がなく、水産業の発展が海洋権益や海洋文化的な効能を高める傾向があるという点でしか言及していない。実は、Mahanは海での戦いに敗れることによる経済的影響について、漁場の損失という観点から論じているが、貿易に関する魚類の重要性は目立っていない。Corbettは、漁業と海軍力の関係を明確にしており、漁業が海軍力に影響を与えることはないと示唆している。
(4)海洋の自由に関する最初期の法の策定では、漁業が重要な役割を果たしている。実際、初期の国際法では漁船団を海軍からの攻撃の対象外とする例外が設けられていたが、そのような制限はしばしば破られていた。海底資源の開発についても、必ずしも古いとはいえないものの、膨大な数の法律に制約されている。しかし、この法律は現代の戦争の環境下や極めて価値の高い経済施設との関連では、ほとんど試されていない。
(5)現代の海洋領域は、単に(武器や兵士や貨物を運ぶ)船舶が通過する空間ではなく、重要な経済資産を含んでいるため、断固として防衛しなければならない空間である。これらの資産には、海洋掘削リグ、資源採取システム、そしてもちろん漁船団も含まれている。これらの施設への直接攻撃は、反商業的な軍事活動による損害以上に、大きな経済的損害、特に重要な政治的陳情・嘆願に損害を与えることができる。
(6)CorbettとMahanの理論を更新するための議論には、機雷から陸上発射の巡航ミサイルまでの防衛技術の強点と配置についての熟考や、長い間、海洋軍事理論の核心となってきた戦力の集中と分散の原則の再考が含まれるだろう。
記事参照:What Is a Water War?

3月26日「インド太平洋戦略における米韓同盟の位置―在韓国東アジア専門家論説」(East Asia Forum, March 26, 2021)

 3月26日付のAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUM は、東アジア問題に取り組む研究者グループのSino-NKで編集主任を務めるAnthony V. Rinnaの“Where does the South Korea–US alliance fit in a ‘free and open Indo-Pacific’?”と題する記事を掲載し、そこでRinnaは米国と韓国は今後、米韓同盟をより包括的なインド太平洋戦略にうまく位置づける必要性があるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 現在韓国は、米国が唱導する「自由で開かれたインド太平洋」概念を公式には受け入れていない。このことは、米国を中心としたインド太平洋同盟ネットワークに、韓国がきわめて限定的なつながりしか持てていないことを意味する。韓国をインド太平洋戦略の要と位置づける米国にとっても、現在の状況は望ましいものではない。そのような中で、韓国および米国がすべきことは、北朝鮮の抑止に焦点を当てた既存の米韓同盟が、より包括的なインド太平洋戦略の枠組みにおいてどのような意味・役割を持つかについて理解を共有することである。
(2) 韓国にとって、米国との関係および中国との関係は、安全保障を選ぶか貿易を選ぶか、というものとしてしばしば要約されるが、実際のところそのような限定的なものではない。一方には米国のインド太平洋戦略と米韓同盟および韓国の対外政策を一致させよという声があり、他方には中国との友好関係確立を重視すべきだという声がある。
(3) 前者の立場にしてみると、文在寅が日本に対する批判的な立場を強調し、米国のインド太平洋戦略において重要な位置を占める日本との関係を犠牲にしてきたことは批判の対象となる。このままでは日本の重要性がより高まり、韓国の戦略的価値は相対的に低くなっていくだろう。
(4) 中韓関係に目を向けると、中国にとっての韓国の戦略的重要性は小さくなっているというのが大方の見方である。中国は米韓関係に軋轢を生じさせることに関心を持っているが、しかし韓国との関係をより包括的な提携関係に拡大することには限界があるとも認識している。他方で韓国国内では中国に対する不信感も根強い。
(5) 米韓同盟が、インド太平洋という文脈においてどのような意味・役割を持つかに関する米韓の相互理解が欠如している要因の1つは、米国があくまでその同盟について北朝鮮に焦点を絞りすぎていることである。また、韓国の国内政治もその一因だろう。中道左派の文在寅政権は米韓同盟の範囲を拡大させることに明らかに消極的であるし、それはおそらく政権交代してからも変わらないであろう。韓国にでは近年、左派が政治的影響力を増しているためである。韓国が4カ国安全保障対話に参加する意思を見せていないことが、それを明確に示している。今後も参加の可能性がないわけではないが、それは中国との関係を考慮した時、その枠組みなかで韓国がどのような役割を期待されるかにかかっているだろう。
(6) 韓国の世論の大半は、米韓同盟が北朝鮮に焦点をしぼるべきではないと考えており、それゆえ、米韓同盟の性格が今後、より幅広いものになる可能性はある。しかしそのとき、米国は中国との関係を考慮した時の韓国の微妙な立場を考慮すべきであろう。そのなかで、これまで欠如していたインド太平洋戦略における米韓同盟の意義と役割に関する相互理解に到達する必要があろう。Biden政権が、韓国との2国間協議を頻繁に行いたいと考えていることを考慮すれば、そうした理解の到達は難しいものではないかもしれない。
記事参照:Where does the South Korea–US alliance fit in a ‘free and open Indo-Pacific’?

3月27日「米台、沿岸警備隊に関する覚書に署名-台湾紙報道」(Taipei Times.com, March 27, 2021)

 3月27日付の「台湾時報」の英語版Taipei Times電子版は、“Taiwan, US sign coast guard MOU”と題する記事を掲載し、台湾の海巡署(Coast Guard Administration:CGA)とThe US Coast Guard(米沿岸警備隊)が協力するための覚書について、要旨以下のように述べている。
(1)台湾と米国は3月25日、1月のJoe Biden米大統領の就任後、初めての公式文書となる、沿岸警備隊の作業部会を設立するための覚書に署名した。覚書には、American Institute in Taiwan(米国在台湾協会)のIngrid Larson執行理事とワシントンの駐米台北経済文化代表処代表である蕭美琴が署名した。この覚書は、「海洋資源の保護、IUU漁業(illegal, unreported, and unregulated fishing:違法・無報告・無規制漁業)の低減、そして共同での海洋捜索救助及び海洋環境対応行事への参加という共通の目的をもった関係を確認するものである」とAmerican Institute in Taiwanは3月26日のニュースで発表した。
(2)台湾の蔡英文総統は3月26日、フェイスブックに「この文書に基づいて米台は海巡署とThe US Coast Guardとの間で、意思疎通と情報共有のための作業部会を設立し、海上救助任務と海上法執行に関するより強固な提携を構築する」と書き込んでいる。蔡英文総統は、インド太平洋地域の責任ある利害関係国として、台湾は海洋に関する事柄でより多くの貢献を行う意欲があり、自由で開かれたインド太平洋地域を守ることを目指すと述べている。台湾の外交部長吳釗燮は、3月26日の午後、台北によるこの文書の調印に関して記者会見を開き、覚書への署名は2国間関係が「磐石」であり、米新政権への移行に伴う空白期がないことを示していると述べている。American Institute in Taiwanの台北事務所長William Brent Christensenは、「この覚書は、台湾の海巡署とのすでに強固で長年にわたる協力関係を正式なものにするものである」と述べている。台湾の海巡署は、The US Coast Guard Academy(米沿岸警備隊士官学校)での訓練演習に定期的に参加しているほか、The US Coast Guardの隊員を台湾に招待して2国間の交流を深めていると海巡署の周美伍署長は述べている。海巡署は海洋法を執行する能力を高め、現地の漁師たちの権利を守るために取り組んでいると周は述べ、この地域の安定を守るために、より多くの協力国と連携するという希望を表明している。
記事参照:Taiwan, US sign coast guard MOU

3月29日「インド太平洋とは何か:関係各国の見方―豪ジャーナリスト論説」(The Strategist, March 29, 2021)

 3月29日付の豪シンクタンクAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は、同シンクタンクに所属するジャーナリスト研究員Graeme Dobellの“Indo-Pacific views from Tokyo to Tonga”と題する論説を掲載し、そこでDobellは英シンクタンクChatham Houseが公表したインド太平洋概念が持つインド太平洋諸国にとっての意義についてまとめた報告書を取り上げ、その内容について要旨以下のように述べている。
(1) ある争点について調査する時、編集者はしばしば、さまざまな場所にジャーナリストを派遣し、同じ質問を投げかけることで、多様性の対比と一致を含む大きな物語を描こうとする。英シンクタンクChatham Houseが行ったのはまさにこれであり、米英仏印日中及びトンガの7カ国で200人の専門家から、インド太平洋とは何であるのかを聞いてきた。それをまとめたものが、Cleo PaskalのIndo-Pacific strategies, perceptions and partnershipsである。これは、米英仏印日及びトンガの6カ国が中国をどのように認識しているかをわれわれに示してくれる。
(2) インド太平洋という概念が何を意味するかについて、6つの国の認識が一致しているわけではない。たとえば、フランスはその概念を明確に定義したいと考える一方、インドはそれを曖昧にしておくことに利益を見出している。しかし共通していることがある。それは、「中国の経済的・戦略的膨張の進展」が、インド太平洋に対する関心を高めている主要因だということである。
(3) この報告書の主要なテーマは3つある。第1に、国内の分裂という問題である。すなわち、6つの国はそれぞれ、経済と安全保障の間で中国に対してどう向き合うかについて意見が分かれていた。第2に、不確定要素があまりに多すぎるということである。第3に、米中間の障壁の問題であるが、Paskalによれば、「2024年までに、米中が圧力をかけ、そうした障壁を終わらせるだろう」とのことである。
(4) 国内の分裂について、コロナウイルスの世界的感染拡大を背景に、中国に対する各国の団結は強まり、またそれぞれの国内の意見の分裂はなくなりつつあるとPaskalは指摘する。世界的感染拡大がもたらした深刻な経済的影響によって、中国との「結びつきを解消する」の対価が相対的に小さくなったためである。もしもボートが沈みつつあるというのであれば、ボートを揺らす程度の諸問題には大きな意味がないということである。
(5) 調査対象の国について個々に見ていこう。まずはトンガである。トンガは1998年に外交承認を台湾から中国に切り替え、一帯一路構想に参加している。しかしそれに対し、英国や日本、米国は、トンガに対する外交的および軍事的関与を深めており、そのことは「オセアニアにおける戦略的関心が増大していることの明確な事例」だという。トンガにしてみれば、そうした関心の増大は、自分たちに「より多くの選択肢」を提供する、望ましい状況である。トンガは伝統的に国際的関心が高まり、潜在的な援助供与国が増えることに利益を見出しているのだ。
(6) フランスは、インド太平洋概念について「最も分裂が小さく、最もはっきりした国のひとつ」だという。フランスの経済的・政治的・安全保障上の見通しは密接に関連しあっており、インド太平洋に関する独自の現実を形成することを目標としている。フランスはインド太平洋に対して幅広く関与することはできないかもしれないが、「より深く関わることはできる」。Macron大統領の「パリ・デリー・キャンベラ枢軸」のビジョンは、4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)に参加しないまでも、それに接近するものである。
(7) 英国の対外政策は根本的な変化を遂げつつある。英国の中国に対する見方は、香港やファーウェイをめぐって硬化し、そのインド太平洋戦略は「どのヨーロッパ諸国よりも大きな、持続的な存在感の確立」を目指すものである。しかし、英国にそれを実現できるだけのパワーがあるかどうかが大きな問題である。
(8) 日本が抱える問題はそれとは逆で、インド太平洋における主要な行為者であるにもかかわらず、中流国家であるかのように振る舞っている。Paskalは、日本における中国への信頼が失われており、日本政府の立場が大きく変わっており、中国に対してより強硬になっていく可能性を指摘する。しかし他方で、日本の政策決定は米国の動向次第であることが大であり、また国内の経済・政治ロビーが中国への効果的な対抗策の効果を減じるかもしれないとも論じている。
(9) インドのスタンスも大きく変わりつつあり、いまやQUADを重要な機構として受け入れるまでになった。インドでは一般的な意味での「同盟」ではあっても、米印「同盟」を求める声が高まっていることをPaskalは指摘する。2020年6月に起きた中国との国境紛争が、中国に対する世論を硬化させたことも一因であろう。インドにとって、他の国々と同じように、米中間の障壁戦略は厄介なものになりつつある。Paskalは、「諸国はどちらかの側を選ぶことを余儀なくされて」おり、「新しい同盟と提携の時代」が来ると予測している。
(10) Paskalの結論は、インド太平洋憲章を発することだという。それは、受け入れることのできる行動と規則、規範に関する合意の表明である。Paskalによれば、それは国内の分裂、不確定要素、そして障壁をなくす手段の1つだという。「その目標は強いパートナーシップを生み出し、経済的なものを含む十分な手段を用いて、単独の支配を望むことのないよう諸国を説得することである。」
記事参照:Indo-Pacific views from Tokyo to Tonga

3月29日「心配すべきはスエズ運河だけではない―米退役海軍大将論説」(Time.com, March 29, 2021)

 3月29日付の米ニュース誌Timeのウエブサイトは、元NATO欧州連合軍最高司令官James Stavridis米海軍大将(退役)の“The Blocked Suez Canal Isn't the Only Waterway the World Should Be Worried About”と題する論説を掲載し、そこでStavridisは3月末に起きたスエズ運河座礁事故に言及し、自身の経験を踏まえ、どのような教訓を引き出すべきについて、要旨以下のように述べている。
(1) 2021年3月末にスエズ運河でコンテナ船の座礁事故が起きた。筆者は現役の時代に何度もスエズ運河を通航したことがある。それは魅力的なものでありつつも、きわめて多くの危険を伴うものであり、指揮官の消耗度合いはきわめて高かった。筆者の誤った判断で座礁しかかったが、航海長の助言で事なきを得たということもあった。いずれにしても、スエズ運河の事例が示しているのは、一見単純で日常的な海での活動には大きなリスクが伴っていることである。
(2) この事例からわれわれが学ぶべき根本的な教訓は、スエズ運河に限らず、世界に点在するいくつかの「チョークポイント」の決定的な重要性である。多くの船舶が通航するその場所に、世界の海運は大きく依存している。その諸地点は航海をより速く、容易にするものである。スエズ運河の数日間の封鎖がいかに大きな対価になるかを今回の事故は実証している。
(3) スエズ運河以外のチョークポイントには4つの国際的海峡と運河がある。インド洋と太平洋を分けるマラッカ海峡、黒海とエーゲ海を分けるボスポラス海峡、アラビア半島の先端に位置するバブエルマンデブ海峡、アラビア湾入り口のホルムズ海峡、およびもう1つの運河は言うまでもなくパナマ運河である。
(4) マラッカ海峡について言うと、問題の1つに海賊があるが、本当の問題は単純に通航量が多いことで、さらにその通航が厳格に統制されていないのである。筆者が艦長としてここを通航するときはほとんど夜に眠れなかったものである。バブエルマンデブ海峡は、ソマリアの海賊が多い海域だが、彼らはあえて米海軍艦艇と揉め事を起こそうとはしなかったため、艦長としては通航にさほど神経を使わなかった。他方、ホルムズ海峡の通航時には総員配置状態であったことが多かった。イラン革命防衛隊の海上部隊は米海軍の艦船の邪魔をするのである。パナマ運河の通航は厳格に統制されているため、バーベキューを行うこともあるほど余裕があった。いろいろな特色はあるが、これらすべての航路は通航量が多く、どこかひとつがだめになるだけで大きな混乱に陥ることになる。
(5) われわれが考えるべきは、こうしたチョークポイントのすべてにおいて、その通航を厳格に管理する国際的権威を持った機関を確立することであろう。そうした機関の役割として、通航の管理だけではなく、今回のような有事に備えた演習や訓練を行ったり、有事対応のための基金を提供したりするなどが考えられる。ロンドンにある国連海事機関が、そうした機関として最もふさわしいように思われる。今回事故が起きたのはスエズ運河であったが、どこでも同じようなことが起こりうる。これから起きるかもしれない有事に備えておくことが重要である。
記事参照:The Blocked Suez Canal Isn't the Only Waterway the World Should Be Worried About

3月29日「比EEZ内に居座る中国漁船団の実態とその狙い―米海大専門家論説」(Foreign Policy.com, March 29, 2021)

 3月29日付の米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトは、The U.S. Naval War College’s China Maritime Studies Institute教授Andrew S. Erickson及び同研究所研究員Ryan D. Martinsonの連名による、“Records Expose China’s Maritime Militia at Whitsun Reef”と題する論説を掲載し、ここで筆者らは、中国の海上民兵の研究に関する専門家として、フィリピンのEEZ内に居座る中国漁船団の実態とその狙いについて、要旨以下のように述べている。
(1)中国人民武装部海上民兵船と見紛う数十隻の中国「漁船」が、南シナ海のフィリピンのEEZ内に位置し、係争中の島礁ウイットソン礁(Whitson Reef、中国名:牛軛礁)に錨泊しているが、操業している形跡はない。海上民兵の活動に対するフィリピンと米国の正式な懸念表明にもかかわらず、中国当局はこれを否定してきた。中国外交部報道官は3月22日の会見で、「中国漁船はウイットソン礁周辺海域で操業していたが、最近、荒天のために一部の漁船が同礁付近に避難している」と述べている。在マニラ中国大使館は、「指摘されているような、海上民兵は全くいない」と否定した。こうした主張は、当然ながら真実ではない。過去1カ月間、さらに過去1年間では複数回、少なくとも7隻の海上民兵船がウイットソン礁を含む、南沙諸島のユニオン・バンクス(Union Banks、中国名:九章群礁)海域において活動している。例えば、2021年2月と3月に、船舶自動識別システム(AIS)信号の分析から海上民兵船がウイットソン礁の礁湖内にいたことが確認されている。
(2)ユニオン・バンクスに居座る「漁船」集団の中には、正体不明の漁業会社「台山帆程漁業」が所有する、少なくとも7隻の大型トロール漁船が存在する。同社は2016年10月に設立され、広東省の江門市台山に拠点を置いている。現在、ユニオン・バンクスに居座る7隻のトロール漁船を含む南沙諸島用の主力トロール漁船9隻が広新海事重工で建造された。2017年12月5日に行われた、9隻の同型トロール漁船の引き渡し式の画像*を見れば、江門軍分区副司令員・万良安と江門軍分区戦略建設処処長・張遠発の2人の中国軍将校が来賓として参加している。2人の軍幹部が出席していることから、これら9隻のトロール漁船は、普通の漁船というよりは、人民解放軍の指揮系統下にある台山海上民兵に新たに加わった船舶であると見られる。
(3)これら9隻のトロール漁船(以下、「帆程ナイン」と言う)は、上川島南端の沙堤湾から活動している。この作戦基地は香港の南西105マイルにあり、「帆程ナイン」が「遠海民兵中隊」の中核をなしていることは明らかである。遠海民兵中隊の創設計画は、2016年3月に台山での「軍隊工作会議」で議論されており、台山帆程漁業が設立されたのは同年10月であった。海上民兵の用語で、「遠海」とはしばしば南シナ海の南端を含む第1列島線内の遠隔海域を言う。2019年4月には、江門市退役軍人事務局局長・李廣義が沙堤湾の「遠海民兵中隊」を訪問している。李局長は、視察した民兵船の船長と乗組員に対して、南シナ海における中国の海洋権益を守る「前衛」として働くよう要請した。退役軍人事務局は、人民解放軍の退役軍人に優先的雇用を提供する民兵中隊の責任を重視している。これらは全て、「遠海民兵中隊」が、海南省の主要部隊である三沙市の海上民兵に見られる常態―即ち、元人民解放軍軍人によって運用されていることを強く示唆している。
(4)トロール漁船の運用は、人民武装部海上民兵の最も目立つ役割である。「帆程ナイン」の航跡を見れば、これまで普通の漁船には見られなかった、特徴的なパターンが明らかである。米シンクタンクCSISのAsia Maritime Transparency Initiativeは、2019年1月にこれら9隻のトロール漁船の追跡を始めた。我々は、このデータに、過去 12カ月間のAISデータに基づく独自の観測結果を加えた。これによれば**、2020年3月以来、「帆程ナイン」は台山からユニオン・バンクスまで800海里を航行し、同海域とスビ礁(Subi Reef、渚碧礁)及びミスチーフ礁(Mischief Reef、美済礁)周辺海域を哨戒し、広東省に直接帰港している。「帆程ナイン」は、ユニオン・バンクス全域で広範な活動を行った。2020年12月には、ユニオン・バンクスを離れて、フィリピン占拠のティトゥ島(フィリピン名:パグアサ島、中国名:中業島)の西隣にある、同じくフィリピン占拠のサンディ・ケイ(Sandy Cay、鉄線礁)で存在を誇示しているが、こうした活動はいずれも、漁船団の操業には不必要なものである。
(5)「帆程ナイン」の現在の展開状況は、9隻の内、8隻が2月16日に広東省を出発し、数日後にスビ礁の中国の軍事施設に到着した時に始まった。それ以来、AISデータの送信状況から見て、少なくとも7隻がウイットソン礁内の礁湖を含む、ユニオン・バンクスを哨戒しており、「帆程ナイン」の8隻目は、広東省を出発した直後にAISをオフにしている。これらの「帆程ナイン」が操業している証拠は一切ないが、あらゆる兆候から判断して、領土主張を誇示するローテーション方式による前方展開活動とみられる。これは2017年以来、最前線ある三沙市の海上民兵船84隻の一部が中沙諸島のスカボロー礁(Scarborough Shoal、黄岩島)、南沙諸島のフェアリークロス礁(Fiery Cross、永暑島)、ミスチーフ礁及びスビ礁海域で実施してきたものと同様のものである。北京は、少なくとも1974年の西沙諸島での戦闘(南ベトナム軍との戦いで、西沙諸島全域を支配:訳者注)以来、南シナ海紛争において主権主張を押し進めるため、海上民兵部隊を活用してきた。国家的任務の遂行のために動員できるパートタイム海上民兵要員と船舶からなる大きなピラミッドの上に、中国は、中国の主張を間断なく追求するために、十分な給与と恩典を与えて募集した元人民解放軍軍人を漁労責任を一切免除された専用船の乗組員とし、専門的で軍事化されたフルタイムのエリート部隊を編成してきた。
(6)以上の考察から、以下を指摘しておきたい。
a.まず、米国政府は中国軍が海上で何をしているのかについて、より多くの情報を共有すべきである。このことは、特に海上民兵の活動を追跡する場合に重要である。ウイットソン礁に居座る船舶の船舶識別番号の明確な画像のような単純な情報は、研究者でも追跡可能であろう。漁船に似ず、極度に汚れのない船舶は、ほとんどではないが多くの場合、海上民兵船である可能性が高い。これら船舶がウイットソン礁から何処に向かおうとも、厳密に追跡されるべきである。
b.そして少なくとも当面の目標として、今以上の好ましくない行動を抑止し、そうすることによって、ウイットソン礁のような、南シナ海における係争中だが無人の海洋自然地物が容認できないような不測の事態に陥ることを抑止することである。こうした事態には、悪天候を理由に避難した後、「漁船」による恒久的な周辺水域の占拠、マニラの管轄海域内にある海洋自然地物への接近と周辺海洋資源の利用からフィリピン船舶を排除、そして最終的には、国連海洋法条約に違反する中国による浚渫、占拠そして新たな拠点としての要塞化という段階が含まれる。
c.文書化された海上民兵開発パターンによれば、台山の帆程漁業は恐らく広東省における最も先進的な雛形の部隊、あるいは幾つかの点から南シナ海における雛形の部隊でもあるように思われる。他の部隊は、この雛形となる部隊を訪問し、研究し、手本とすることが期待される。この部隊と関連する部隊に関する最大限の知識と、それに対する調整された対応策を誇示することによって、国際社会は北京が南シナ海に「中国旗を立てる」という有害なゲームで勝利するのを阻止することができる。
(7)北京は近年、領土主張から新疆における残虐行為の否定に至るまで、前例のない厳しい言動を繰り返してきた。マニラ、ワシントン、そしてその他の同盟国や提携国が最終的にウイットソン礁の状況に対して何らかの行動を決断する場合でも、これら諸国の選択する時期と場所がいずれであっても、例えば2022年の北京冬季オリンピックやフィリピン大統領選挙などのように中国に行動の代価を強要する手段に不足しない。2012年のスカボロー 礁を巡って中比対峙した際、当時の米Obama政権は介入しなかった事案は、米国の信頼性を損ない続けている。これは、繰り返してはならない失策である。実際、北京は、まずグレーゾーン作戦を通じてその目的を追求しようとしているのは、こうした理由によるものである。
 記事参照:Records Expose China’s Maritime Militia at Whitsun Reef
備考*:以下を参照
http://www.andrewerickson.com/wp-content/uploads/2021/03/Screen-Shot-2021-03-29-at-4.37.02-PM.png
備考**:以下を参照
https://www.rfa.org/english/news/vietnam/china-spratly-03242020164332.html

3月30日「北極圏における中ロ関係:提携相手か競合相手か?―米大西洋安全保障問題専門家報告」(The Center for a New American Security, March 30, 2021)

 3月30日付の、米シンクタンクCenter for a New American Securityのウェブサイトは、同シンクタンク研究員James Joye Townsend Jr.とAndrea Kendall-Taylorの“Partners, Competitors, or a Little of Both?: Russia and China in the Arctic”と題する報告書を発表した。それは北極圏における中ロ関係の協力が深まっていることの背景と意義を論ずるものであるが、その要旨以下のように述べている。
(1) 北極圏における海氷の減少は、重大な地政学的変化をもたらしている。それは新たな航路を生み出し、天然資源の利用を増大させると同時に、地域における戦略的競合を惹起している。その競合において、ロシアおよび中国の活動と利益が高まっており、さらにその両国の間の協調が深まっている。ワシントンなどの政治評論家は、ロシアと中国がそれぞれ米国およびその提携国に課題を突きつけていることを理解しているが、北極圏における両国の協力の深まりが、具体的に米国及びその他にどのような脅威となるかは、十分に検討されてこなかった。
(2) 北極圏における中ロの利益は、天然資源開発計画、北極海航路の拡張、安全保障協力の強化などを含む。北極圏における中ロの協力が深まることによってもたらされる帰結は2つある。第1に、ロシアとの協働を通じて中国が軍事能力を向上させていることであり、もう1つが、ロシアが北極圏において中国への経済的依存度を高め、それによって他の地域においてもロシアが中国の方針を支持するようになっていることである。
(3) 北極圏における中国の軍事的展開は、今のところかなり限られたものであるが、ロシアとの共同調査や軍事演習などを通じて、北極圏に関する知識を深めつつある。またロシアの軍民両用の技術は、中国の軍事的能力を向上させる可能性がある。今後さらに中国はロシアと北極圏での軍事的関係を含め、その結果として北極圏における米国の抑止力を脅かすことになりかねない。北極圏において、大国間競合と軍事化の動向を調整するメカニズムがないため、中ロの協調の高まりによって、他の北極圏国家やNATOとの軍拡競争が進む可能性が大きくなるだろう。
(4) クリミア併合に対するロシアへの経済制裁が行われた2014年以降、北極圏におけるロシアの中国への経済的依存度は劇的に高まってきた。中国による投資はPutin大統領がその支配体制を安定させるために必要なものであり、したがって、中国への経済的依存はこれからも続いていく可能性がある。それはさらに、ロシアが他の地域においても中国共産党の意向を支持していく可能性につながる。
(5) 北極圏における中ロの協力が今後弱まる可能性は小さいだろう。しかし、中ロの間には、北極圏における目標やその地域への取り組みにおいて、根本的な相違がある。たとえば、北極圏という地域は、単純に中国よりもロシアにとって重要な存在だという事実がある。ロシアは、北極海航路の統制など、北極圏における支配的地位を維持しようと強く決意しており、そのために軍事力への依存を高める可能性がある。それは北極圏における緊張を高めることで、中国の経済的利益を脅かすかもしれない。こうした相違に、米国およびその提携国はつけ込むことができよう。
(6) 米国とその提携国がなすべきことは以下の3点にまとめられる。第1に、北極圏における軍事力の展開を増大させることによって抑止力を高めることである。第2に、上記の中ロの相違につけこむことである。たとえば、米国はロシアと協働して北極圏における中国の影響力を可能な限り制限するよう試みたり、あるいは中国とともにロシアの領土的主張に反論したりするということも可能だろう。第3に、中国への経済的依存度を深めるよりも米国との協調のほうが望ましいとロシアに考えさせるように行動することである。そのために米国とその提携国は、信頼醸成措置、気候関連協力、北極における軍の展開と行動に関わる海上交通法の確立に関してロシアに関わるべきだろう。また、北極圏の軍事化を調整するための討論の場として、Arctic Chiefs of Defenseの会合を再開させるというのも良い手法であろう。
(7) 米国が北極圏における大国間競合に関わろうとするとき、不必要に地域の緊張を高めたり、中ロ関係がより緊密になるような行動を避けるべきである。そしてまた米国とその提携国は、中ロ協調の亀裂を大きくする機会を模索すべきであろう。
記事参照:Partners, Competitors, or a Little of Both?: Russia and China in the Arctic
Full Report
https://s3.us-east-1.amazonaws.com/files.cnas.org/documents/CNAS-Report-Russia-and-China-in-the-Arctic-final.pdf?mtime=20210329110828&focal=none

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1)    Interpreting the Anchorage Meeting
https://www.chinausfocus.com/foreign-policy/interpreting-the-anchorage-meeting
China US Focus, Mar 24, 2021
 By Li Yan(李岩), Deputy Director of Institute of American Studies, China Institutes of Contemporary International Relations(中国現代国際関係研究院美国研究所副所長)
2021年3月24日、中国現代国際関係研究院美国研究所副所長である李岩は、香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusに、" Interpreting the Anchorage Meeting "と題する論説を発表した。その中で李副所長は、3月18日と19日にアラスカのアンカレッジで開催された米中外交ハイレベル会談を取り上げ、この会談を①Trump前政権のときの損なわれた対話ムードから脱却した、習近平政権とBiden政権による新たな米中外交の幕開けとして位置づけ、2月に行われた両首脳の電話会談での合意内容をフォローアップする場となった、②コミュニケーション不足による誤算を防ぐのに役立ち、また、お互いの懸念と政策的なレッドラインを整理し、新たな冷戦への夢想を未然に防ぐ役割を果たした、と好意的に評価しつつも、Biden政権がTrump前政権の中国封じ込め政策の一部を継承していると指摘し、今回のアンカレッジ会談だけでは、二国間関係の下降軌道を逆転させることも、両国間に横たわる既存の構造的問題に対処することもできないことを心に留めておくべきであると警鐘を鳴らしている。そして、李副所長は最後に、アンカレッジで起きたことは、米中関係の複雑さを証明しており、この会談が新たな関与のパターンを開始するのか、それとも二国間関係の緊張をさらに高めるだけに終わるのかは、まだ分からないとした上で、中国は、米国との長期的な競争関係の本質を理解し、米国の意図と動機を明確に認識した上で、協力関係にコミットし続けなければならないと主張している。

(2)    A Hot Exchange in Cold Alaska
https://www.chinausfocus.com/foreign-policy/a-hot-exchange-in-cold-alaska
China US Focus, Mar 25, 2021
By David Shambaugh, Professor of Asian Studies, Political Science & International Affairs, and Director of the China Policy Program, at George Washington University
 2021年3月25日、アジア外交論などを専門とする米George Washington UniversityのDavid Shambaugh教授は、香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトであるChina US Focusに、" A Hot Exchange in Cold Alaska "と題する論説を発表した。その中でShambaugh教授は、3月19日にアラスカのアンカレッジで開催された米中外交会談で繰り広げられた舌戦を取り上げ、そもそも今回の会談は、おそらく厳しく辛辣なものになることが確実に予想されていたものであり、それは、意見の相違の隔たりのためだけではなく、Blinken国務長官が、中国の国内外の広範な行動に対する米国側の不満を詳述するつもりであることを事前に公に示唆していたため容易に予測可能だったとした上で、当然ながら中国は、今回の会談が対立的なものとなり、そこで何が起こるのか事前に理解し、そのための備えをしてやって来たと指摘している。そして今回の熱のこもった会談の結果を、①公の場でメンツを保つことの最重要性に関して米中両国には政治文化の違いがあるが、中国は米国の発言を中国に対する公の場での侮辱や恥であると受け止めており、中国は何も容認しないだろう、②1949年の共産党革命は、外国人、特に西洋人支配からの自己尊重と自己尊厳の回復を中核としているが、今回のBlinken国務長官の発言は中国を見下したものとして解釈された、③中国の政治情勢を鑑みれば、中国はもはや内政に関することは外国人と議論することさえ容認しない、などと評している。その上でShambaugh教授は、米国側は上記の3つの中国側の姿勢に関して、①米国人は他人(ここには他の米国人も含む)と意見の相違がある場合、その相違を公表することが、透明性をもって相違を解消するという最善の方法であると信じられている、②Biden政権は、第2次世界大戦後の 「自由な国際秩序」 を深く信じ、その秩序の再建と強化を外交政策の柱としており、その核心には自由民主主義の価値を守ることがある、③米国人は、世界における米国の主導的な国際的地位に挑戦し、競争しようとしている他国に抵抗することを正しいと信じている、と解説し、米国と中国が今後ますます悪化する両国の関係と全面的な競争をコントロールすることを望むのであれば、双方は議題の問題を超えて、双方の考え方を活発に明らかにし、相互の文化的要因をより深く考慮する必要があると主張している。

【解説】
 3月18日と19日、米国・Biden政権と中国・習近平政権の外交トップによる初めての対面での会談がアラスカ州アンカレジで開催され、米国側からはBlinken国務長官とSullivan大統領補佐官が、中国側からは外交を統括する楊潔篪政治局委員と王毅外相が出席した。この歴史的な会談に対しては、早速、中国現代国際関係研究院美国研究所の李岩副所長と米George Washington UniversityのDavid Shambaugh教授が、同じ香港のChina-United States Exchange FoundationのウエブサイトであるChina US Focusに論考を発表している。両者の論考は、会談に関して米中両国の立場に立った異なる解釈を行っており、対比させることで非常に興味深い内容となっている。
 具体的には、中国側研究者である李副所長は、今回の会談に対して、Biden政権がTrump前政権の対中封じ込め戦略の一部を継承しているとして、今回の会談によってこれまで悪化していた米中関係が上向きになるかは分からないとしつつも、基本的には、両国はこの会談を新たな米中外交の幕開けと位置づけ、中国は両国関係に横たわる複雑さを認めつつも協調関係を基本に外交関係を構築していくべきだと前向きに評価している。
 一方、米国側研究者のShambaugh教授は、今回の会談が対立的なムードになることは両国とも事前に分かっていたことだとし、会談において改めて明確になった米中両国の政治的な物事の考え方の相違を指摘しており、米中両国間の対立の個別具体的な内容というよりは、両国の政治文化、思考の方向性の違いに対立要因の解を求めている。すなわち、Shambaugh教授の方が、米中関係の対立構造を根深い構造的問題として捉えていることになり、やや今後を悲観的に捉えているふしがある。
 いずれにしても、今回の会談では米中両国が厳しいやり取りを通じて、それぞれの断固たる立場をマスコミ注視の中で表明しており、今後、両国国内および両国間で安易な妥協や交渉が望めない状況が対外的にも形成されたと言えるだろう。こうした厳しい状況の中で、経済や安全保障といった重要な政策課題でどのような話し合いが継続されるのかに注目したい。

(3)    China’s Military Could Turn Small Clashes Into Major Conflicts
https://foreignpolicy.com/2021/03/29/china-military-escalation-small-clashes-major-conflicts/
Foreign Policy.com, March 29, 2021
Blake Herzinger, a civilian Indo-Pacific defense policy specialist and U.S. Navy Reserve officer 
 3月29日、米国のインド太平洋の防衛政策の専門家Blake Herzingerは、米ニュース誌Foeign Policyのウエブサイトに“China’s Military Could Turn Small Clashes Into Major Conflicts”と題する論説を寄稿した。その中で、①中国が経済的利益を追求して安全保障上の存在感を増大させるにつれ、米中の軍事力はますます頻繁に接触するようになるだろうが、大きな問題は、中国側で誰が責任を負うのかということである、②半世紀前の中国軍の珍宝島攻撃も、2020年のインドと中国の国境警備隊による高地での乱闘事件についても、誰が実際に仕切っていたのかわからない、③米国は、北京との緊張関係が高まるにつれ、単独の小さな行動単位が世界的な影響を及ぼすという状況に備える必要がある、④現場での一触即発の状況への対応は、米軍が得意とするところであり、下士官に課せられた責任に言及するための俗称として「戦略伍長」(strategic colloquial)という用語を使用している、⑤中国軍に関しては、戦術レベルにおいて、中国共産党の指示による挑発か、現地司令官の気まぐれなのかを区別する方法はない、⑥中国が事態拡大を制御したり、結果を保証したりする能力に自信をもてば、ますます危険度の高い行動を採るようになる、⑦米国は、権限の委譲に関するシステムと、リアルタイムの意思決定を行う司令官を信頼する能力が、中国軍に対する事態拡大における優位(escalation dominance)を維持するための最大の資産である、⑧すべての挑発的行為が北京の許可を得ているわけではないことを覚えておくことが重要だが、それらのそれぞれの行為の結果は、世界的に影響を及ぼす可能性がある、といった主張を述べている。