海洋安全保障情報旬報 2021年2月21日-2月28日

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2月21日「中ロとの対決に備え、中東戦略を再考せよ―米海大教授論説」(19fortyfive.com, February 21, 2021)

 2月21日付の米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトは、U.S. Naval War College海洋戦略教授James Holmesの“Focus U.S. Navy Aircraft Carriers on China, Not Persian Gulf”と題する論説を掲載し、ここでHolmesは米国がその中東戦略を見直すべきときが来ているとして、要旨以下のように述べている。
(1) 対外政策に安定性や一貫性があることは概ね良いことである。ある政策についてコンセンサスが形成されていれば、大統領が変わったり、議会の与党が変わったりしても大きな政策変化は困難であり、全体として一貫した政策を遂行できる。しかしながらその一貫性が、誤ったコンセンサスに基づくものであった場合、起こすべき政策の変化は起きにくい。そのひとつの例が、原子力空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」が「ダブルポンプ」と呼ばれる270日の作戦行動から間をおかず中東へ配備されたことである。この配備は、米国の戦略においてなおペルシャ湾岸地域が重要であることを示すものである。
(2) この戦略的一貫性は、きわめて厄介な問題である。軍事戦略の本質は優先順位を設定し、それを実施していくことである。そして優先順位の高い問題から、限りある資源を経済的に活用して取り組んでいく。あまり重要ではない問題に大きな資源を配分することがあってはならない。
(3) ここしばらくの間、民主党、共和党に限らず、中国共産党との対決が米国の戦略的最優先順位に位置づけられるべきだという考え方が一貫していた。その次にロシア、そして北朝鮮やイランが位置する。Trump政権は2018年の戦略文書においてこれを公式化し、Biden政権もそれを概ね踏襲しているように思われる。中国やロシアが米国にとって最大の脅威であるという考え方が一貫しており、それに基づいた政策が立案されることに問題はないだろう。
(4) しかしながら、ペルシャ湾岸地域が戦略的重要性を持つというコンセンサスが維持されているのは問題である。1991年の湾岸戦争や9.11同時多発テロ、そして2003年を経て、イラクやイランを含む広く中東地域が米国にとって重大な脅威だというコンセンサスが形成され、いまなおそれは強固なままである。それを反映しているのが上述したように中東への空母配備が維持されていることである。
(5) 現在、米国が運用できる空母の数は11隻であり、実際に配備可能なのは10隻である。定期的な点検・整備、訓練の必要性を考慮すれば同時に配備できる数はもっと少ない。その中で、中国やロシアを抑止しつつ、湾岸地域に空母1隻の配備を維持し続けることは、そう簡単なことではないはずである。しかも今回休みなく配備されたのが、過去に酷使によって技術的な問題が起きた空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」である。このような空母の酷使と、さらに多くの空母がそもそも老朽化しているという事実は、きわめて深刻な問題をわれわれに突きつけている。多くの老朽化した空母を酷使せざるをえない状況において、ペルシャ湾岸に空母のプレゼンスを維持することは戦略的に妥当なことだろうか?今、ペルシャ湾岸の戦略的優先順位を下げるときが来ている。
(6) 国防総省の指導者にとっては厳しいものであるだろうが、プロイセンの賢者Carl von Clausewitzの考え方を思い起こさねばならない。彼の考えを要約すれば、「重要性に劣るもののために、最重要な問題をリスクにさらしてはならない」ということである。Clausewitzによれば、「重要性に劣るもの」に資源を割くことが正当化されるのは、その見返りが「例外的に大きく」、かつ最も重要な戦場において決定的な優越を維持できている場合のみである。
(7) 見返り(Reward)、リスク(Risk)、資源(Resource)、これが、優先順位を設定し、執行する基準となる三つの「R」である。イランとの対決はわれわれに例外的な見返りをもたらしてくれるだろうか。米軍は中国やロシアとの戦いにおいて決定的な優越を維持できているだろうか。米軍はペルシャ湾岸に空母1隻の配備を維持し続けられるほど、活用できる資源に余裕があるだろうか。この三つの問いに対してすべて「イエス」と答えられないのであれば、われわれは中東政策を考え直すべきであろう。
記事参照:Focus U.S. Navy Aircraft Carriers on China, Not Persian Gulf

2月24日「中国とシンガポール両海軍、共同訓練実施―香港紙報道」(South China Morning Post, 24 Feb, 2021)

 2月24日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“China and Singapore start joint naval drills as Beijing boosts ties in Asia”と題する記事を掲載し、COVID-19の世界的感染拡大が中国と東南アジア諸国の共同軍事演習に与える影響について要旨以下のように報じている。
(1) 北京は、中国とシンガポールの海軍が2月24日に共同演習を開始するなど、東南アジアの近隣諸国との防衛関係強化の取り組みを軌道に戻そうとしている。南シナ海での北京の主権主張に対して強まる米国の異議に対抗する目的の、この地域でのより大きな軍事的関与の計画の一部はCOVID-19の世界的感染拡大によって阻害されてきた。中国国防部は短い声明の中で、シンガポール海軍とのこの訓練には、共同捜索・救助活動や通信訓練が含まれると述べている。北京は、米国による南シナ海での航行の自由作戦の強化を受けて、近隣諸国との防衛関係を強化している。約3千人のカンボジアと中国の兵士が、3月、実弾を使った2週間の演習に参加する予定だった。この演習は、世界的感染拡大と大洪水による国内インフラが損害を受けたことを理由に、カンボジアが延期したと伝えられている。
(2) シンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)の海洋安全保障問題専門家であるCollin Kohは、中国はこの地域での防衛外交が感染拡大の影響を受けた後、最近の共同演習によって巻き返したと述べている。彼は、東南アジアのほとんどの国の軍隊が感染拡大対策に大きく関わっており、中国との共同軍事演習の可能性が低くなっていると指摘し、「多くの政府の関心はパンデミック対策に向けられており、そのために軍は日常業務、特に国境警備に大きく関わっている。その結果、各国政府が望んでいたような防衛外交を行うための幅が狭くなっている」と彼は述べている。Kohは、今回の中国とシンガポールの演習は米国やタイのような提携国との訓練に共通する基本的な要素しか含まれていないが、北京が東南アジアとの関係を強化していることの表れであると述べている。
(3) Biden政権は、この地域における米国の同盟関係を強化することを明言しており、マニラと北京が領有権を争う南シナ海で攻撃を受けた場合、フィリピンを支援することを誓約している。2月上旬、シンガポールのVivian Balakrishnan外相との電話会談において、Antony Blinken米国務長官は、米国とシンガポールの安全保障と経済の関係は重要であると述べ、インド太平洋地域での協力を強化する意向を確認した。
記事参照:China and Singapore start joint naval drills as Beijing boosts ties in Asia

2月24日「中国の指導者たちは南シナ海について何を語っているか?―米専門家論説」(The Interpreter, February 24, 2021)

 2月24日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウェブサイトThe Interpreterは、米Stanford UniversityのFreeman Spogli Institute for International Studies研究員Oriana Skylar Mastroの“What are China’s leaders saying about the South China Sea?”と題する論説を掲載し、ここでMastroは、中国は領海主張に妥協をする可能性は低く、他の国々が譲歩した場合には、米国やオーストラリアがそれを押し戻すことは困難になるとして要旨以下のように述べている。
(1) 中国が2021年1月に南シナ海のトンキン湾で3日間にわたる軍事演習を始めたとき、北京が米国のBiden新政権をテストしているとの憶測があった。中国外交部報道官は、この演習が「国家の主権と安全を断固として守るために必要な措置」と宣言した。にもかかわらず、中国の公式見解は南シナ海問題の平和的解決に引き続きコミットしているというものであった。中国の外交部は、2020年7月に「中国は海上帝国になることを目指していない」、そして「近隣諸国を平等に扱い、最大の抑制を行使している」とも主張している。
(2) このような北京からの二枚舌のメッセージをどのように理解するかは、談話を分析することが有益とされている。それにより中国の意図とまではいかなくとも願望を知ることができる。Mastro は、2013年から2018年にかけて中国共産党の習近平が率いる二つの政治局のメンバー39人が行ったすべての公開演説を分析した。その分析では、南シナ海に関する演説を、協力的テーマと競争的テーマに分け、さらに協力的テーマは協力と政治的解決という二つのサブカテゴリー、 競争的テーマは主権、軍事、自由、緊張、非地域国/米国の五つのサブカテゴリーに分類した。そして、中国の指導者たちの南シナ海についての公式声明では、競争的テーマよりも協力的テーマが多く、これは、他の国々と妥協する意欲があると見なすことができる。これは、特に中国共産党大会後の1年間、すなわち2013年と2018年に顕著であった。
(3) 談話から意図を引き出すときの留意点の一つは、すべてが同じように作成されているわけではないということである。どこまで正直かはリーダー個人の力、説明責任及び評判を考慮する必要がある。これは毛沢東以後、もっとも強力で個人的権威を持つ習近平の発言が一番に優先されることを意味している。習近平は、調査した39人中の1人にすぎないにもかかわらず、言及された競争的テーマの42.7%を占めていた。
(4) 習近平の発する協力的テーマの声明を重視できない理由は他にもある。それは、彼を不正直とみなす評判である。2015年9月、習近平はホワイトハウスで、中国が南シナ海に建設していた人工島を軍事化しないと約束する公式声明を発表した。そして「中国が実施している関連の建設活動は、どこかの国を標的にしたり、影響を与えたりするものではなく、中国は軍事化を追求するつもりはない」と述べた。しかし、習近平はこの地域での浚渫、島内施設の建設などの活動の凍結を約束しなかった上に、軍事化の意味についても明確に述べなかった。2019年5月、当時の米国統合参謀本部議長のJoseph Dunfordは、南シナ海の島々での「10,000フィートの滑走路、弾薬貯蔵施設、ミサイル防衛能力、航空能力の日常的な展開を考えると、中国は明らかにそのコミットメントから離れている」と述べた。
(5) 興味深いことに、中国外交部は協力的な声明よりも競争的な声明を多く出している。なだめるような言葉が中国の意図を覆い隠すことになっているとすれば、外交部の声明が最も可能性の高い情報源になるだろう。中国は主権に関する立場を明確にし、それに反する人々に脅威を与えることを優先している。
(6)これは中国が南シナ海で武力を行使することを意味するものではない。南シナ海で中国が主張する主権を保護するための厳しい姿勢を求める習近平の声明には、具体性が欠けている。タイムラインや好ましい方法についての言及はない。そのような曖昧さは、たとえそれが中国の大衆に人気があるとしても、その攻撃的な言葉に縛られることを避けたいと望んでいることを示唆している。そして、中国の指導部は間違いなく、これらの地域の主権を確立するためには外交的、法的、経済的な手段を使用するだろう。
(7) 中国は、実行可能な外交的解決を促進するために広大な領海の主張に関して妥協する可能性は低い。代わりに、中国の指導者たちは、政治的、経済的、軍事的権力が他の国々と戦うことなく中国の立場が認められることを望んでいる。そして、他の国々が北京に譲歩した場合、米国やオーストラリアがそれを押し戻すことはより困難になるであろう。
記事参照:What are China’s leaders saying about the South China Sea?

2月24日「米比同盟、安全保障同盟へのリセット?―RSIS専門家論評」(RSIS Commentary, February 24, 2021)

 2月24日付のRSIS Commentaryは、シンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)調査研究員Julius Cesar Trajanoの“US-Philippines: Resetting the Security Alliance?”と題する論説を掲載し、ここでTrajanoはフィリピンの安全保障政策を米国との同盟条約から切り離したいというDuterte比大統領の願望にもかかわらず、マニラは依然米国の緊密な同盟国であり、Biden米政権は米比同盟のリセットのためにDuterte大統領の1年後の任期切れを待つことになるかもしれないとして要旨以下のように述べている。
(1) Duterte比大統領の親中、反米レトリックにもかかわらず、フィリピンは依然米国の緊密な同盟国であり、米比2国間同盟は南シナ海における海洋安全保障利益の共有によって強化されてきた。とは言え、Duterte大統領が訪問米軍に関する地位協定(以下、VFAと言う)の廃棄を改めて仄めかしていることは米比同盟の将来に対する疑念を再び高めている。
(2) Duterte大統領の発言にもかかわらず、フィリピンが米国の緊密な同盟国であり続けるのには幾つかの理由がある。
a. 第1に、米比両国間の長年に亘る共同訓練や人的交流を考えれば、比軍と国防省当局は、米軍との非常に緊密な提携関係を維持している。Lorenzana国防相は軍部は米国とのVFAの継続を強く支持していると公表している。
b. 第2に、軍近代化が着実に進んでいるが、比軍は依然、米軍の定期的かつ短期的な訓練訪問、そして米軍による能力構築支援から恩恵を受けている。2015年以来、Duterte大統領の6年間の任期の大部分を通じて、フィリピンに対する米国の軍事援助は7億6,500万ドルに達し、インド太平洋地域における米国の軍事援助の最大の受益国となっている。
c. 第3に、最近の調査によれば、フィリピン国民の60%は、彼らの元宗主国、米国を最も信頼できるパートナー国と見なしている。対照的に中国は最も信頼されていない国の一つである。フィリピンでは、政府の主要な政策や行動を決定する上で、世論や感情が重要となる。
d. 第4に、米比同盟関係は既にハイレベルの安全保障協議や軍事演習を超えたレベルにまで深化し、拡大している。
(3) 米比同盟は、困難を乗り切るに十分な強さを持っている。それにもかかわらず、2022年6月までのDuterte政権の任期満了と次の新政権登場までの間、Biden政権が追求できる様々なアプローチがある。
a. 第1に、米比両国の当局者がVFAの将来について議論し合う中で、米国は、マニラが取り除く必要のある「相違」、特にフィリピンにおける訪問米軍部隊の刑事管轄権について、少なくとも再検討するよう伝えることができる。
b. 第2に、フィリピンのコロナ・ワクチン調達問題の解決を支援できる米国の如何なる援助も、比政府内及び国民の間での米国支持を高めるであろう。フィリピンの国民感情は、中国のワクチン外交に対する極端な懸念と、他方で米国製を含む他のワクチンに対する強い好感を示している。
c. 第3に、米国は、インド太平洋における他の米国の条約同盟諸国とフィリピンとの安全保障関係の強化を利用することができる。韓国と日本は近年、比軍と沿岸警備隊に対する主要な防衛装備の供給国となっており、オーストラリアはフィリピンとの安全保障協力を一層深化させている。これら諸国は、マニラに対し、この地域における米国との条約同盟関係を維持することの重要性を伝えることができる。
d. 最後に、Biden政権は米国際開発庁(USAID)の人道的及び草の根の取り組みによる強固な影響力を最大化し、こうした努力をフィリピンに対する米国の政策の最前線に置くことができる。
記事参照:US-Philippines: Resetting the Security Alliance?

2月24日「友、遠方より来たる、米韓IUU対策で南米支援-ペルー専門家論説」(Center for International Maritime Security, FEBRUARY 24, 2021)

 2月24日付の米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトはペルーの国際安全保障、地政学研究者Wilder Alejandro Sánchezの“Friends from Afar: U.S. and South Korea Coast Guards Help South America Combat IUU Fishing”と題する論説を掲載し、ここでSánchezは海軍力の小さな南米各国は中国を中心とした域外国の大規模な漁船団による違法・無報告・無規制漁業に悩まされており、米国の沿岸警備隊巡視船の派遣、韓国海洋警察庁の除籍哨戒艇の供与のような支援が重要であるとして、要旨以下のように述べている。
(1) 米沿岸警備隊巡視船「ストーン」の南大西洋への派遣、韓国海洋警察のエクアドル海軍
への哨戒艇2隻の供与は、南米のパートナー国による地域海軍の違法・無報告・無規制(以下、IUUと言う)漁業との戦いを支援する手始めである。域外国の大規模な漁船団が南米の海域近傍で積極的に操業し、しばしば沿岸国の排他的経済水域(以下、EEZと言う)に侵入しており、南米各国海軍は追加の艦船と提携国海軍の物理的な展開をこれら違法行為との戦いのために必要としている。広大な南太平洋、南大西洋において、全ての艦船が計上されている。
(2) IUUは、南太平洋、南大西洋のラテンアメリカ水域全域にわたる問題である。エクアドルのEEZ近くの国際水域で操業中の域外国の大規模な漁船団は南大西洋を渡っている。漁船団は2020年中頃エクアドルに近いガラパゴス諸島近傍で操業したときには国際的批判を浴びている。漁船団はその後、南下し、ペルー、チリ沖を航過した。漁船団を監視し、自国水域近くを航行していったため、チリ海軍は233隻の域外国の漁船がマゼラン海峡、喜望峰を回って南大西洋に達していると報告している。域外国漁船の多くは中国船であり、韓国船、その他の国々の漁船が含まれる。
(3) 米沿岸警備隊は、ガイアナ、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチン、そしてポルトガルの各海軍と共同し、IUU漁業との戦いを支援するため巡視船「ストーン」を南大西洋に派遣した。米巡視船「ストーン」はガイアナ沿岸警備隊と南十字星作戦の一部としてIUU漁業に対処し、ブラジルとは陸上施設訓練、洋上訓練を実施して1月末モンテビデオに入港した。ラテンアメリカ諸国にとって、(近代的な)艦船が監視支援のため、そして必要であれ
ばIUU漁業、密輸、麻薬あるいはその他の海上犯罪のような活動に関与しているかもしれない不審船の阻止行動への支援のため提携国の一つから地域へ派遣されることは常に有用である。しかし、「ストーン」のような艦船が永続的に南大西洋に展開できるわけではない。したがって、地域の海軍が相互に協力し、これら犯罪と戦う能力を向上させることは地域の海軍にかかっている。
(4) 米国務省Bureau of Western Hemisphere Affairsの報道官は、米政府は寄港国措置(以下、
PSMAと言う)を支援し、促進しており、同措置はIUU漁船が港で荷揚げし、国際的市場に参入できないように対処することを確実にする目的の画期的な条約でありPSMAを効果的に実施できれば、溝と弱点を克服してIUU漁業を実施する漁船が規則を掻い潜る機会は最小になると報道官は説明している。チリ、エクアドル、ガイアナ、ペルー、ウルグアイなどの南米諸国はPSMA加盟国である。ウルグアイはIUU漁業との戦いへの努力で興味深い研究事例である。ウルグアイには限られた海軍力とIUU1漁業に悩まされる広大な海域がある。したがって、前向きな展開として、ウルグアイ政府はPSMAに準拠し、船舶監視システム(Vessel Monitoring System)による位置情報を要求することによって大型漁船がIUU漁業にいないことの証明を求めることになろう。ウルグアイはまた、漁船検査官を33パーセント増員しつつある。声明は、米巡視船「ストーン」が南米に展開していた1月25日から27日の間に実施された。ワシントンがバハマ、ガイアナ、ジャマイカ、ドミニカ共和国、トリニダード・トバゴにおけるIUU漁業との戦いのためのPSMA実施と他の手段を支援するため国連食糧農業機関とカリブ地方で複数年の提携を継続していることは特記に値する。中国のような域外国の漁船団はカリブ海水域では操業していないが、それでも地域はIUU漁業と戦わなければならない。したがって、米国、特に米沿岸警備隊、そして他の省庁からの支援はカリブ地方の海洋生物を守るために重要である。
(5) 12月半ば、エクアドル海軍は2隻の中古哨戒艇を供与された。2隻は1990半ばからそれぞれ2019年及び2020年に除籍されるまで、韓国海洋警察が運用してきた。2隻は韓国からエクアドルへ海上輸送され、2021年初めには就役すると考えられている。就役に先立って哨戒任務を担任するエクアドル海軍への2隻の参入は歓迎されている。事実、2隻はガラパゴス諸島周辺海域で天然資源を守るために運用されることとなろう。韓国海洋警察庁長官は今回の供与の重要性について、「2隻は済州島周辺海域の海洋資源の防護と主権の擁護という任務を成功裡に完遂してきた。2隻がエクアドルのグアヤキル港到着後、同じ目的に貢献することになろう」と述べている。
(6) IUU漁業は、強奪的な漁業によって常に苦しめられている海域を有する国家の政府間のより強固な提携を含む短期的、長期的戦略を必要とする地球規模の問題である。これは多くのラテンアメリカ諸国の立場である。ラテンアメリカ諸国の海軍は域外国の漁船の位置を特定し、追尾し、必要があれば捕らえるためにEEZ内を監視しているからである。2020年、ガラパゴス諸島周辺海域にいた300隻を超える漁船団は世界のメディアの関心が他に移った後も南米近傍にあって、そのうち233隻は南太平洋から南大西洋へ移動している。多数の漁船は、地域の海軍が広大な海域全域で油断なく配備を維持するためにより多くの艦船を要求することを意味している。それは、より多くの哨戒機と言っているのではない。これが、ワシントンが他の支援に加えて沿岸警備隊巡視船「ストーン」を展開する理由であり、韓国海洋警察庁がエクアドル海軍に除籍した2隻の哨戒艇を供与する理由である。
記事参照:Friends from Afar: U.S. and South Korea Coast Guards Help South America Combat IUU Fishing

2月25日「オーストラリアはチャゴス問題について沈黙すべきではない―豪専門家論説」(The Interpreter, February 25, 2021)

 2月25日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter はAustralian National University のSchool of Regulation and Global Governance研究員Benjamin Herscovitch の“Australia’s silence on Chagos dispute doesn’t help”と題する論説を掲載し、ここでHerscovitchはチャゴス諸島の脱植民地化をめぐる問題について、オーストラリアは国連総会決議に反対する英国の立場を支持するのではなく、ルールに基づく国際秩序の重視という自国の立場に従って行動すべきだとして要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリアがルールに基づく国際秩序を支持するのは、それが自国の利益につながるからであり、そのことは2017年の外交政策白書がはっきりと述べている。しかし、インド洋に浮かぶチャゴス諸島をめぐる問題は、オーストラリアのそうした立場を揺るがせるものかもしれない。
(2) チャゴス諸島は1965年に、当時は英国の植民地統治下にあったモーリシャスから英国が分離して英領に編入し、統治を続けてきた。さらに同諸島を構成するディエゴガルシア島は、米軍が基地として利用している。しかし、英国によるチャゴス諸島の植民地支配に対しては、2019年5月に主権を主張するモーリシャスに同諸島を返還する決議案が国連総会に提出された。賛成は116に対し、反対したのはわずか6ヵ国だけだったが、オーストラリアはそのうちの一つであった。専門家の見解では、こうしたオーストラリアの立場はルールに基づく国際秩序の維持を訴える自国の主張を弱める危険があるという。
(3) この危険は特に中国との関係について考えるときに重要なものである。つまり、このようなオーストラリアのダブルスタンダードが、中国につけこまれる可能性があるということである。近年中国は経済力・軍事力の向上だけでなく、「言説的な力」の強化も模索している。それは中国が良い立場にいることを主張するだけでなく、敵対する国や競合する国の行動がいかに正当なものでないかを強調するものである。たとえば、中国はアフガニスタンにおけるオーストラリアの戦争犯罪について批判する。こうした事例をとりあげ、西側諸国が自由や人権の尊重を言い募る「偽善」を告発するのである。
(4) 上述したようにチャゴス諸島をめぐるオーストラリアの立場は、中国に「そちらはどうなのだ」と言わせる余地を与えてしまうものである。それではオーストラリアはどう行動するべきだろうか。英国との協議なしにチャゴス諸島の返還を主張することは英国との関係を悪化させるだろうが、しかし、それを説得することはできよう。また、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで構成される「ファイブアイズ」の国防相会議など多国間協議の舞台を通じて英国に訴えかけることもできる。
(5) ディエゴガルシアはインド洋の安全保障にとってきわめて重要な場所である。したがって、この会議でチャゴス問題を議題にあげることで、米国にこの問題について真剣に関わるべきだと圧力をかけるのも大事であろう。また、モーリシャスが提案しているように、チャゴスの返還後もアメリカ軍のプレゼンスを継続するような外交的調整を進めることも良い手である。
(6) オーストラリアは国際的な法律や規則の遵守を重視しており、他国にもそれを求める。したがって、友好国であろうが、それらを軽視するのを見過ごしてはならない。そのダブルスタンダードこそ、これまで築き上げてきたオーストラリアの努力を無駄にしてしまうであろう。
記事参照:Australia’s silence on Chagos dispute doesn’t help

2月25日「ロシア、イランとの関係を拡大:カスピ海周辺でのトルコの影響力拡大に対抗―ユーラシア専門家論説」(Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, February 25, 2021)

 2月25日付の米シンクタンクThe Jamestown Foundationのデジタル誌Eurasia Daily Monitor のウエブサイトはユーラシアの民族・宗教の専門家Paul Gobleの“Moscow Expanding Ties With Iran to Counter Growing Turkish Influence Around Caspian”と題する論説を掲載し、トルコはカスピ海を通過する天然ガスパイプラインに強い関心を持ち、天然ガス市場を独占しようとするロシアを妨害しようとしているため、ロシアはこれに対抗し、カスピ海地域でイランとの軍事関係を深めているとして要旨以下のように述べている。
(1) トルコはカスピ海を通過する天然ガスパイプラインに強い関心を持っており、天然ガス市場を独占しようとするロシアを妨害しようとしている。ロシアは、カスピ海地域におけるトルコの影響力拡大を警戒している。ロシアはカスピ海における海軍活動を拡大し、この地域で侮れない力であり続けている。これらのロシアの行動は、アゼルバイジャンに関係してきている。アゼルバイジャンはカスピ海地域におけるトルコの影響力の拡大の主な受益者であり、中央アジア諸国とのカスピ海を通じての輸送ルートの支援者でもある。アゼルバイジャンは自国海軍に対し、カスピ海のパイプラインやその他のエネルギー基幹設備を他国や非国家テロリストの攻撃から守るよう指示した。ロシアはカスピ海での活動を自国軍隊に限定していない。ロシアは最近の数週間で、トルクメニスタンとアゼルバイジャンの間の油田とエネルギーインフラのほとんどが存在するカスピ海の中央部と南部でイランの海軍艦艇との演習を2回行った。イランはロシアと同じようにこの地域におけるトルコの影響力増大を危惧している。
(2) イランはカスピ海で船舶数、規模、兵器などから見て、それほど強力な海軍を持っていない。しかし2021年2月初め、イスラム革命防衛隊の海軍司令官Alireza Tangisiriはイランが大型で、兵装を強化した艦艇の建造を開始したと発表した。ほとんどのロシアの専門家はこれをイランのデマとして無視しているが、それにもかかわらず、ロシアがその開発の恩恵を受ける可能性を示唆している。ペルシャ湾では、イランの存在が大きいほど、米艦隊に対抗するロシア海軍の負担が軽減される。そしてカスピ海では、大きなイラン軍がトルコの影響力拡大を制限し、ロシアとイランの双方が支持する南北の貿易ルートに保護を提供することができる。その結果、ロシア政府の一部は現在ロシアの造船所が不況に落ち込んでいるにもかかわらず、イランを援助するためにロシア造船産業に何ができるかを考えている。ロシアの新しい軍事関連紙Vzglyadの解説では、ロシアの安全保障問題専門家Aleksandr Timokhinが多くの観点から、現時点ではそのような協力は有望に見えると述べている。ロシアはイランに海軍の重要な兵器だけでなく、もしイランが興味を持っていれば、完成した艦船をイランに提供することができる。イランはすでに3隻のロシア製潜水艦を購入している。Timokhinはより大きなイラン海軍がペルシャ湾とインド洋でロシアに与える利点に焦点を当て、ロ政府はロ海軍が単独で行うのに十分な力を持っていない米国封じ込めの任務の一部をイランに「委任」することを可能にすると述べた。しかし、ロ政府はロシアがトルコを封じ込めるのを助けてくれるのに十分な強さをイランが持つことは望むが、カスピ海北部に「アルメニア、トルクメニスタン、タジキスタン」を含む拡大されたイラン帝国を建設するほど強くなることは望んでいない。このような協力の拡大を制限する要因はそれだけではない、とTimokhinは主張する。イランは、1990年代に西側からの圧力を受けて、ロ政府がイラン海軍への協力を停止したことをよく覚えており、ロシアに頼らざるを得ないのではなく、独自の造船産業を発展させたいと考えている。少なくとも一部のイラン人は、これが再び起こるかもしれないと恐れ、彼らは自分自身を危険にさらしたくはない。しかし同時に、他のイラン人は自国の能力の限界を認識し、ロシアや中国と交渉することに興味を持っており、この点に関する中国政府との会話は、ロ政府が独自のサービスを促進しようとするもう一つの理由かもしれない。Timokhinによるとイラン海軍の開発のためにロシアが大規模な支援プログラムを実施する可能性は非常に限られているが、その方向への動きは可能かもしれない。カスピ海ルートや東西の緊張をめぐるトルコの懸念が強まれば、ロ政府はイランとの緊密な関係を保つ合意を確保しようとする可能性が高い。
(3) ロ政府がその方向に動いているかもしれない兆候の一つは、ロシアとイランを含むさらに巨大なプロジェクトについての話の復活である。カスピ海とペルシャ湾の間の船の移動を可能にするイラン全土に7,200キロの運河の建設計画である。このようなプロジェクトに関するロシア、イラン、インドの間での交渉は、過去5年間を通じて行われた。しかし今、一部の専門家はこれらの議論が再開するかもしれないと示唆している。一方で、このような運河は南北貿易の恩恵とはなるが、トルコの東西プロジェクトを下回るだろう。その一方で、ロシアがカスピ海からアゾフ海に船を移動してウクライナに圧力をかけたのと同じように、イラン海軍は必要に応じてペルシャ湾からカスピ海に船を移動することができる。しかし、これらのロシアのプロジェクトのどちらも実を結ばなかったとしても、一部の専門家はカフカス地方でのロ政府のトルコとの競争がイランを含むだけでなく、カスピ海をも含むようになったという事実を強調し、この地政学的競争に新たな次元が加わったと述べている。
記事参照:Moscow Expanding Ties With Iran to Counter Growing Turkish Influence Around Caspian

2月25日「中国とスリランカによる港湾開発計画の現状―香港紙報道」(South China Morning Post, 25 Feb, 2021)

 2月25日付けの香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“China to push ahead with Hambantota port project amid reports of Sri Lanka having second thoughts”と題する記事を掲載し、中国とスリランカよる港湾開発について要旨以下のように報じている。
(1) コロンボが港湾開発のための協定の再交渉を求めているとの報道がなされる中、中国の王毅外交部長はスリランカ側との電話会談で、北京はハンバントタ港を開発する計画を推進し、ハンバントタ港とコロンボ港をスリランカの産業発展と経済成長の「ツイン・エンジン」にすると述べている。
(2) Ceylon TodayがThe Sri Lanka Ports Authority議長 Daya Ratnayake大将の言葉を引用して報じたところによると、2019年の就任直後に再交渉の意向を示していたスリランカのGotabaya Rajapaksa大統領は、最近になってこの港湾取引を再検討していると言われている。スリランカの外相Dinesh Gunawardenaは2月20日に同紙に対し、「ハンバントタ港の取引では、前政権がリースを取り消して、99年のより長期間のリースに加え、最初の期間が終了したら、さらに99年のリースを与えるというミスを犯した」と述べ、この取引の不確実さをさらに高めた。中国は2月24日、契約の再交渉を否定し、代わりに外交部の汪文斌報道官は、港湾の事業は拡大していると述べた。また、中国外交部の声明はGunawardenaが中国はスリランカの「最も親密な友人」であり、北京の経済的・外交的支援に「心から感謝」していると述べている。
(3) ハンバントタ港の取引はスリランカの前政権が中国への負債を補うために2017年に署名したもので、ハンバントタ港がインド洋の世界で最も利用の多い航路の一つに近接していることから、北京が地政学的な影響力を得るために「債務の罠外交」(debt-trap diplomacy)を用いているとの非難の最中、国際的に厳しい監視の対象となっている。中国はまた、スリランカの別の主要な港にも出資しており、中国の国営企業が港湾都市コロンボにおいて2019年初頭に完成した埋め立てを含む不動産計画に14億米ドルを投じている。
(4) 2月、労働組合や野党が抗議する中、スリランカはインド及び日本とのコロンボ港での大水深ターミナル開発の取引を取りやめた。この取引では、インドと日本がターミナルの株式の49%を所有し、スリランカ港湾局が過半数の株式を保持することになっていた。この大水深埠頭は、中国が85%を所有し、2013年に操業を開始したコロンボ国際コンテナターミナルに隣接している。
記事参照:China to push ahead with Hambantota port project amid reports of Sri Lanka having second thoughts

2月26日「中国による台湾軍事侵攻は考えにくい―中国国際問題専門家論説」(East Asia Forum, February 26, 2021)

 2月26日付けのAustralian National UniversityのCrawford School of Public Policy のデジタル出版物EAST ASIA FORUM は中国国際問題研究所研究員崔磊による“Mainland China is in no position to take Taiwan by force”と題する論説を掲載し、ここで崔磊は中国による台湾への軍事侵攻が間近であるという観測に対し、その可能性は低いとして要旨以下のように述べている。
(1) 中国は台湾に関して歴史的に軍事的威嚇を自制し、レトリックや制裁を通して自国の憤りを表明してきた。しかし、近年は積極的に攻撃的姿勢を示している。これが意味するのは中国の軍事力が着実に増強されており、その軍事的均衡が台湾や米国に対して優位に傾いていることと、台湾統一の誘因がより強固になっていることである。こうした状況において、中国の指導層はこれまでのような穏当な姿勢を維持し続けることで、中国は弱いのだと内外に思われるかもしれないと考えている。2017年に開催された第19回中国共産党大会では、2049年までの「中華民族の偉大な復興」という目標が示され、台湾統一はその前提条件とされた。
(2) しかしながら、中国が台湾の速やかな統一を武力行使によって達成しようとすることは考えにくい。もしそれが成功しなかった場合の国内政治上のリスクはきわめて大きなものになるし、勝利が約束されているわけではない。習近平は2022年の共産党大会において党総書記としての任期延長のために政治的な安定を模索しており、大きなリスクを伴う行動には出ないのではないか。また、平和的統一の可能性が完全に失われたわけではない。1949年、共産党は北平(現在の北京)を最終的に交渉によって平和的に平定したが、台湾に関してもこうしたモデルが適用されてもおかしくはない。
(3) もし中国が台湾統一のために武力行使に訴えれば、米国が台湾への軍事支援を最大限にするリスクがある。台湾防衛について米国では意見が割れているが、それでも米国が台湾を放棄することはありえないことのようである。中国は軍事的にも経済的にも強大化しているとはいえ、それでも米国と比較すればなお劣位にある。米国は、台湾防衛のために部隊を派遣しなかったとしても、1950年代から70年代までの中国が経験したように同盟国とともに中国を経済的、外交的、軍事的に封じ込めることができる。
(4) 武力行使に訴えることが正当と思われるほどの理由も今のところない。台湾は独立を宣言するわけではなく、現状維持を続けることができよう。また、中国の反分裂国家法は、台湾に対する武力行使の条件を規定するものであるが、それは台湾独立の宣言のケースを除いて、どのような場合にそれが適用されるのかどうかがあいまいである。
(5) 以上のことを考慮したとき、武力行使による台湾統一がすぐに起きることは考えにくい。中国はよいタイミング、すなわち軍事力において米国を圧倒し、戦争の勝利が確実になるときが到来するのを待つしかない。ただし、中国は今後もグレーゾーン戦術を実施することはできる。それを通して、北平において国民党軍が平和的解決を受け入れたように、台湾が平和的解決を受け入れる可能性はある。
記事参照:Mainland China is in no position to take Taiwan by force

2月27日「南シナ海の仏艦船通航に見る仏インド太平洋戦略―香港紙報道」(South China Morning Post, February 27, 2021)

 2月27日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“South China Sea: how the French navy is charting its own course between China and the US”と題する記事を掲載し、仏海軍による南シナ海の通航作戦をとりあげ、そのインド太平洋戦略が米中対立の中でバランスのとれたものであることについて、要旨以下のように報じている。
(1) ここ最近、フランスが南シナ海における軍事的展開の強化を進めている。それは南シナ海に関する主張について中国に圧力をかけるためでもあるが、他方で中国との緊張を高めることのないようバランスのとれたやり方で行われている。2月初頭、仏海軍は攻撃型原子力潜水艦「エムロード」と支援艦「セーヌ」を南シナ海に派遣し、さらにその後、1年に1度おこなわれるジャンヌ・ダルク任務の一環として、強襲揚陸艦「トネール」とフリゲート「シュルクーフ」を派遣し、南シナ海の係争海域を航行させた。
(2) こうしたフランスの動きは、2019年に策定されたインド太平洋戦略の一部を実施しているものと理解できる。それは、インド太平洋の自由な航行とルールに基づく国際秩序の維持を目的とするものである。
(3) 南シナ海へ派遣された2隻の艦艇が、米中対立における最も緊張の高い海域である台湾海峡を通航する予定はなかった。この点に関する仏海軍関係者の言葉はあいまいであったが、それが実現することはないだろう。そもそも、台湾はフランスのインド太平洋戦略文書においてまったく言及されていない。Foundation for Strategic Research 研究員Antoine Bondazによれば、これは台湾を「不可視化」する計画性のある戦略で、ヨーロッパの意思決定者の間にあった周囲の反応によって自己の意見の表明を控える自己検閲のようなやり方だと言う。2019年4月にフランスの軍艦が台湾海峡を通航した時、中国は憤りを表明した。今回フランスは、自由な航行の追求と中国との関係維持の間でバランスを採るだろう。
(4) フランスの南シナ海通行について、これまでのところ中国の対応は自制的であるという。フランスの行動が米国との連携のもとで行われていることは明らかであるから、中国は警戒を強めているが、しかし、中国現代国際関係研究院研究員孫恪謹によれば、フランスの行動は米国による中国への挑発行為とは次元が異なるものだと言う。フランスの行動が米国と区別されることには、中仏の提携関係、さらにはEU全体と中国の関係が含まれる。
(5) Biden新政権は大西洋同盟の復活を高らかに宣言した。しかし、特にフランスの反応は冷ややかであり、Macron大統領はフランスないしヨーロッパの「戦略的自立」の立場を改めて強調し、米国への過度な依存がないことを発信している。こうしたフランスの態度は中国にとっては歓迎すべきものである。
(6) その一方で、フランスによる南シナ海の通航は新しいものでもないし、他のヨーロッパ諸国に比べて頻繁である。それは明らかに、南シナ海における中国の領土的主張への対抗の意図があるというシグナルでもある。仏軍事相Florence Parlyが述べるように、そうした作戦は、仏海軍が戦略的提携国と共同して、長い期間、本国から遠く離れた場所でも活動し得ることを示すためのものである。
(7) フランスの目標は一貫して、自由で開かれた、ルールに基づくインド太平洋の実現である。それは必ずしも米国を支援するものでもなければ、中国に対抗するものでもない。フランスはこの目標の実現こそが自国の国益であるとして、米中対立の狭間でうまく均衡を取り続けているのである。
記事参照:South China Sea: how the French navy is charting its own course between China and the US

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) DON’T KNOCK YOURSELF OUT: HOW AMERICA CAN TURN THE TABLES ON
CHINA BY GIVING UP THE FIGHT FOR COMMAND OF THE SEAS
https://warontherocks.com/2021/02/dont-knock-yourself-out-how-america-can-turn-the-tables-on-china-by-giving-up-the-fight-for-command-of-the-seas/
War on the Rocks.com, February 23, 2021
Paul van Hooft, a senior strategic analyst at The Hague Centre for Strategic Studies, the co-chair of its Initiative on the Future of Transatlantic Relations, and a former postdoctoral fellow at the Security Studies Program at Massachusetts Institute of Technology
 2月23日、オランダHague Centre for Strategic Studiesの主任戦略分析官Paul van Hooftは米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“DON’T KNOCK YOURSELF OUT: HOW AMERICA CAN TURN THE TABLES ON CHINA BY GIVING UP THE FIGHT FOR COMMAND OF THE SEAS”と題する論説を発表した。ここでHooftは米国は西太平洋における海洋コモンズの支配権を追求するのをやめるべきだと主張しているが、その理由として、①米国が海洋の支配権を失えば、中国がその空白を埋めるという誤った前提に基づいている、②米国が西太平洋の海洋公域(maritime commons)の支配権を失ったとしても、中国はそれを獲得する立場にはない、③中国を「現実的脅威」と位置付けることで、米国は自らを政治的に封じ込めている、④米国はこの地域での軍事的優位を追求すべく過剰な行動に出た場合、大惨事を招く、などを挙げている。そしてHooftはその代わりに、米国は同盟国や提携国とともに、中国の太平洋の海洋公域に対する支配を拒否することに焦点を当てるべきであり、それは、海洋の支配を否定する方が、それを行使するよりも安上がりで簡単だからだと述べている。

(2) Gauging the real risks of China’s new coastguard law
https://www.aspistrategist.org.au/gauging-the-real-risks-of-chinas-new-coastguard-law/
The Strategist, February 23, 2021
Ryan D. Martinson, a researcher in the China Maritime Studies Institute at the US Naval War College
 2月23日、米Naval War College研究者Ryan D. MartinsonはAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistに“Gauging the real risks of China’s new coastguard law”と題する論説を寄稿し、中国の新しい海警法について論じた。その中で、①武力行使の規定は、新法の中で最も懸念される要素ではなく、この法律の適用範囲の地理的な曖昧さが問題である、②北京が法律を成立させたからといって、その規定を実際に施行するとは限らず、事実、近年中国は、新たな強制的行動を予想させるようないくつかの新しい法律や規則を採用したが、実際には起こらなかった、③なぜなら、外国人船員に対してこの法律を杓子定規に適用することは、外交上の問題となるからである、④だからといって、この地域の国家が海警法を無視すればいいというわけではなく、北京はこの法律が何らかの形で自国の利益になることを期待している、⑤中国の政策立案者たちが、最も強制的な規定を新法に入れたのは、それを適用することが政治的に意味をもつ状況をはっきりと想像したからである、⑥この地域の国家は少なくとも、紛争海域での自国民に対するこの新しい法の適用は絶対に認められないことを北京に伝え、それを実行した場合には厳しい結果になることを警告すべきであり、「管轄海域」の正確な定義を示すよう要求すべきである、といった主張を展開している。

(3) The Quad Concept: What Promise does it hold for the Future?
https://www.vifindia.org/article/2021/february/25/the-quad-concept-what-promise-does-it-hold-for-the-future
Vivekananda International Foundation (VIF), February 25, 2021
Prof Rajaram Panda, Former Lok Sabha Research Fellow, Parliament of India and Member, Governing Council of Indian Council of World Affairs, and Centre for Security and Strategic Studies, both in New Delhi.
 2月23日、印議会下院研究員などを務めた同国安全保障問題専門家のRajaram Panda博士は印シンクタンクVivekananda International Foundation(VIF)のウエブサイトに、“The Quad Concept: What Promise does it hold for the Future? ”と題する論説を発表した。ここでPandaは近年、インド太平洋地域は中国の台頭と地域情勢への積極的な関与姿勢によって、戦略家や安全保障分析者の間で大きな注目を集めており、全ての利益関係者による適切な対応が求められているが、中国と米国との大国間競争という点と、中国の攻撃的かつ一方的な行動によって影響を受けた国々の国益、安全保障上の利益が悪影響を受けないよう、この新たな課題にどう対処するかという点が議論の的になっていると指摘している。その上でPandaは、いくつかの2国間、地域及び多国間の構想がこの問題に対処するために採択されたが、これらのいずれもがこの重要な問題に対処するために有効であることが証明されておらず、インド、米国、日本、オーストラリアで構成されるQuad(4カ国安全保障対話)として知られる対話メカニズムを発展させるためは、もう少し精緻な議論と成果検証が必要であると主張している。