海洋安全保障情報旬報 2021年1月21日-1月31日

Contents

1月21日「エジプト・ロシア海軍共同演習実施の背景と意義―ポーランド国際関係専門家論説」(Eurasia Daily Monitor, The Jamestown Foundation, January 21, 2021)

 1月21日付の米シンクタンクThe Jamestown Foundationが発行するEurasia Daily MonitorのウエブサイトはWarsaw UniversityのInstitute of International Relations研究員Ridvan Bari Urcosta の“Egyptian-Russian Naval Exercises in the Black Sea: Strategic Balancing against Turkey?”と題する論説を掲載し、ここでUrcostaは2020年11月に行われたエジプト・ロシア共同海軍演習を受けて、両国が軍事協力を強める背景とロシア側の意図について要旨以下のように述べている。
(1) 2020年11月、Bridge of Friendshipと名付けられたロシアとエジプトの海軍共同演習が黒海で実施された。これはエジプト海軍を初めて黒海の内側に招き入れるものであり、ロシアの意図はエジプトとの軍事的協力の強化に加え、リビアやシリアの内戦に介入して中東地域における影響力拡大を模索するトルコに牽制を加えることにあった。
(2) 冷戦の間、エジプトはソ連にとって中東における重要な提携国であったが、その関係はGamal Abdel Nasser大統領の死、そして1973年の第四次中東戦争の結果失われることとなった。その結果ソヴィエト・ロシアは中東ではシリアやリビアなどの比較的小国との関係強化を模索せねばならなかった。しかし2011年のアラブの春に端を発して状況は劇的に変化し、エジプトは外部勢力、この場合ロシアとの強力な協調関係の模索を目指すことになった。
(3) エジプトとロシアの軍事協力は現在のところ冷戦期のそれよりもはるかに小規模なものではあるが、拡大を続けている。その背景にあるのは、リビア内戦などへの介入を通したトルコの影響力増大である。リビア内戦に関してロシアは反体制側を支援してきたが、トルコは2020年に暫定政権側に立って軍事介入した。また、2020年7月にトルコはシリア北部に数百人の兵士を派遣し、秋にはアゼルバイジャンとアルメニアの間で行われたナゴルノ・カラバフ紛争に介入した。エジプトとロシアはこの動向に懸念を抱いたのであり、そのことがエジプト艦艇のボスボラス海峡通過という象徴的な出来事を導いたのであった。ロシアのメディアによれば、黒海での演習は帝国主義的野心を持つトルコの指導者たちの頭を冷やす効果を持つとのことであった。
(4) ロシアとエジプトの間の共同軍事演習はここ数年の間で繰り返されてきた。2015年6月には地中海で海軍演習が行われ、また2016年10月には両国の空挺部隊500人による共同演習がアレクサンドリア近郊で実施された。翌年9月にはロシアの大地で空挺部隊の演習が実施された。同じ年の11月には30億ドル以上にのぼる兵器取引の署名もなされている。2018年には両国の間で包括的パートナーシップ及び戦略的協調に関する条約が締結された。それを受けて、2019年にはロシア国防大臣Sergei Shoiguがカイロを訪問し、エジプトを中東における戦略的同盟国と表現した。2019年、Arrow of Friendship 2019と名付けられた演習が行われ、ロシアの対空砲部隊100名がエジプトに派遣された。
(5) 以上のようにロシアはエジプトとの軍事的協力関係を段階的に強めてきたが、その意図は中東においてどこか覇権的な国が誕生しないようにバランスをとることにある。トルコとエジプトの競合はこれからも続くだろう。ロシアにとってエジプトは、トルコの野心を抑制するための有益な手段のひとつなのである。
記事参照:Egyptian-Russian Naval Exercises in the Black Sea: Strategic Balancing against Turkey?

1月21日「ソ連の海洋戦略が中国の海洋戦略の雛形に?―元豪海軍将官論説」(The Strategist, January 21, 2021)

 1月21日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は元豪海軍少将James Goldrickの“Does Soviet naval strategy provide a template for China’s maritime ambitions?”と題する論説を掲載し、ここでGoldrickは1970年代にソ連海軍元帥が発表した海洋戦略に関する著作が現在の中国の海洋戦略の推進に関して重要な示唆を与えているとして要旨以下のように述べている。
(1) 1977年、ソ連海軍元帥Sergei Georgyevich GorshkovによるThe Sea Power of the Stateという著作が出版され、1979年には英訳版が刊行された。それはソ連の海洋戦略に関する彼の考えを詳述したもので、大陸的な考えしか持ってこなかった大陸国家の指導者たちに軍事、政治、経済、科学などあらゆる分野におけるシーパワーの重要性を気づかせることを企図したものであった。そして現在、この著作は当時のソ連の海洋政策というよりは現在の中国の海洋政策に関する洞察を与えるものとして大きな意義を有している。
(2) これは単に、一海軍将校が海軍戦力の充実を説いただけのものではない。これが書かれた1970年代には、最終的に1982年に国連海洋法条約として結実する海のレジームの確立が目指されていた。その時期にGorshkovは「世界の大洋」とその潜在的資源の利用の重要性について論じたのであった。彼は国家全体としての取り組みを主張し、漁業や貿易、海底掘削などだけではなく科学調査などを通した海の活用、支配を訴えたのである。
(3) Gorshkovは海から発射される核兵器の数が増えていたことを背景として、海軍戦力を整える重要性、とりわけ潜水艦の価値を強調した。西側「帝国主義」諸国は海をうまく活用しているのであり、シーパワーの向上によってソ連はそれに対抗しなければならない。ただし、Gorshkovは大陸防衛が最重要課題であると留保した点において慎重ではあった。それでもシーパワーはソ連の地理的限界を突破し、社会主義の大義を世界に推し進める機会を提供するものだと彼は主張した。
(4)The Sea Power of the Stateは現在どのような意義を持っているだろうか。Gorshkovのプロジェクトは概して失敗に終わったが、その理由は、彼の要求が他の軍事的プロジェクトと合わせて、ソ連の産業基盤をはるかに超えるものだったためである。しかし現在の中国に目を向けてみると、当時のソ連よりもはるかにその産業基盤は強固であり、2隻目の中国の国産空母の完成は間近であることに象徴されるように中国は海軍の近代化を急速に進めている。
(5)中国の国家戦略において今後海洋戦略はますます重要性を持っていくだろう。このとき、The Sea Power of the Stateはその戦略の雛形を提供しているように思われる。中国は空母打撃群や陸戦部隊、さらには漁船団を広く展開し、商船団の活動は地球規模である。さらには科学研究・調査船団が、南極や北極はもとより、インド太平洋周辺でも活動を活発化させている。こうした中国の動きについて、The Sea Power of the Stateはいくつかの手がかりを提供しているのだ。
記事参照:Does Soviet naval strategy provide a template for China’s maritime ambitions?

1月21日「米陸軍、新たに北極旅団編成を計画-米軍準機関紙報道」(Stars & Stripes, January 21, 2021)

 1月21日付の米軍準機関紙Stars & Stripes電子版は“Army plans new ‘Arctic brigade’ as sea levels and competition rise”と題する記事を掲載し、米陸軍参謀総長は陸軍の北極戦略の策定が終了し、そこで北極では状況は明らかに変化しており米国の利益を守ることを確かなものにするため北極地域における全領域において同時に任務を遂行する能力を有する任務部隊multi-domain task forceを編成する旅団の新編を計画しているとして要旨以下のように報じている。
(1) 米陸軍参謀総長James C. McConville大将は米陸軍は最近新たな北極戦略の策定を終えたと述べている。これは海氷の融解が天然資源と新たな海上交通路をめぐるせめぎ合いを増大させとの予測が高まっており、より良い「紛争の抑止」のために必要だからである。「戦略の策定はどこに米国の国益があるのかを認識することから始まり、確かに北極に米国の国益が存在する。北極では状況は明らかに変化しており、行動の自由が拡大していることから、我々はその利益を守ることを確かなものにすることを望んでいる」とMcConville大将は18日のThe Association of the U.S. Armyの会合で述べている。
(2) 計画は、現有の少将を指揮官とする部隊を作戦司令部に改編し、北極地域における全領域において同時に任務を遂行する能力を有する任務部隊multi-domain task forceを編成する旅団の開発を含むとMcConville大将は言う。全領域において同時に任務を遂行する部隊は陸軍にとっては比較的新しいものである。この部隊は、ロシアや中国のようなより先進的な潜在的な敵に対抗するため長射程ミサイルシステムを含む幅広い能力をまとめ上げたものである。
(3)「極北における中ロのますます攻撃的になる行動に直面し、米国は我々自身と同盟国にとって望ましい北極における勢力の均衡を維持しなければならない」とKenneth raithwaite海軍長官(当時)は1月5日の北極戦略発表時に述べている。海軍の計画は極北におけるより多くの寄港、氷結した条件下で作戦するためのより多くの訓練を求めている。海軍はまた北極圏における欧州の同盟国と基地あるいは基幹設備を分かち合う方策を模索しつつある。米軍は海兵隊をより頻繁に輪番でノルウェーに展開しており、艦艇を北極圏海域に派遣している。
(4) 陸軍にとって、その北極戦略は共同訓練と戦力の投射を通じて我々の能力を示すものでもあるとMcConville陸軍参謀総長は言う。
記事参照:Army plans new ‘Arctic brigade’ as sea levels and competition rise

1月22日「中国海軍は海外基地について問題を抱えている―米海軍協会報道」(USNI News, January 22, 2021)

 1月22日付のU.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは“Chinese Navy Faces Overseas Basing Weakness, Report Says”と題する記事を掲載し、中国海軍は海外の基地の能力、基幹設備などについて大きな問題を抱えているとして要旨以下のように報じている。
(1) 世界最大と自称する中国海軍がまだ解決していない大きな弱点は、中国から遠く離れた海洋で行動する艦隊の戦闘即応体制を維持するための熟練した造船所労働者と近代的な造修施設を見つけられないことである。The Center for Strategic and Budgetary Analysisのオンラインフォーラムで同センターのToshi Yoshiharaは、日本の横須賀やインド洋のディエゴ・ガルシアなどについて「中国のアナリストはこのような海外拠点を夢見ることしかできない」と述べている。戦争が勃発した場合に中国海軍がリスクにさらされる「遠海」で優秀な協力国を見つけるのにはまだ「長い道のり」がある。さらに、中国は第2次世界大戦の終結以来、米国が同盟国と確立した「圧倒的な優勢」を克服するために、懸命にそして多額の対価をもって努力しなければならない。報告書に関する議論で司会を務めたJohn Leeによると、中国の強みと弱さは時間の経過とともに流動的であるので、状況が変化し、米国の同盟国やパートナー国が行動するにつれて彼らも変わるだろう、習近平は中国の遠海や大陸棚の資源をカバーする「リスクは高いが報酬は大きい戦略を追求している」と語った。中国軍の世界的な軍事力への移行は、「遠く離れた場所の自国の経済的利益」を反映しているとToshi Yoshiharaは述べている。中国は10年近く前のリビア危機の教訓を学び、内戦に巻き込まれた「自国民を守る」必要があった。中国の指導者は国家が緊急の必要性を満たすために「自国民と自国の資源を保護するための軍事力と意志を持っている」と見ている。しかし、報告書“Seizing on Weakness: Allied Strategy for Competing with China’s Globalizing Military”の共同執筆者Jack Bianchiはインド洋に施設が一つしかない場合、中国は不利であると考えている。
(2) その潜在的な弱点を減らすためには大きなコストがかかるとJack Bianchiは言う。現在、中国はジブチに拠点を置き、アフリカ東岸と南太平洋で可能な施設を模索している。中国の他国への最初のアプローチは、ダム、高速道路、飛行場、港湾などの必要な基幹設備を整備するなど、商業的である。債務不履行を引き起こすかもしれないバルーン型返済ローン(抄訳者注:期間中は利息だけを支払い、最終期日に残額の全てを弁済する方式。借入期間中の支払いは軽減されるが、最終支払額が膨らむことからこの名前がある)という中国の慣行や新型コロナウイルスの世界的感染拡大時に行われた医療従事者を保護するために生産された製品の低品質は中国とこれらのプロジェクトを行い、機器を購入することについての懸念を相手国に起こさせている。最近では中国は世界的な通信ネットワークを近代化するための「デジタルシルクロード」の取り組みを進めている。米国はファーウェイのような中国企業との取引は国家がスパイ活動に対して脆弱であると警告している。
(3) 報告書によると、中国と相手国の関係について「中国は信頼、共有価値、制度化された相互交流、緊密な協力の歴史などの無形資産を捏造している。中国と潜在的な受け入れ国との関係のほとんどは本当の価値を欠いている。Toshi Yoshiharaによると中国にとっての問題はその国の施設と労働に加えて、受け入れ国の品質、耐久性と信頼性にかかっている。グローバルな軍隊になることは非常に難しい。将来的に中国共産党は、国防費への関与に加えて、国内ベースの海外需要を管理する必要がある。中国は大陸と海洋の両方に向くことはできないというジレンマに直面していた。中国が海洋に進出することは、中ロ国境が平穏であることを前提としている。過去30年間ロシアとの関係が安定していたことによって、中国は海洋に進出することができるようになったのである。
(4) 米中という2大核保有国間の関係は今後変化する可能性がある。Toshi Yoshiharaは中国の領土拡張主義について「自国周辺における安全保障上の問題が限界に達する可能性がある」と述べており、「台湾、尖閣諸島、南沙諸島などの沿岸地域の潜在的な引火点で何が起こるかは中国の危機管理能力に関係している。例えば、中国の短距離弾道ミサイル、沿岸基地の戦術戦闘機、沿岸戦闘員は遠征作戦のための有用性が限られている」と報告書は述べている。台湾は、中国への「第1列島線」の挑戦の最も直接的な例である。米国が取っている計算されたリスクは、台湾海峡でのより頻繁で自由な通航、台湾への武器販売の強化、米国のより高位の当局者によるより頻繁な台湾訪問まで多岐にわたる。中国はこれらの動きを、米国政府と中国政府が合意した「一つの中国政策」に反すると日常的に非難している。中国の見解では、台湾は最終的に本土に併合される中国の一部と考えられている。最近の米艦艇の台湾海峡通航に対抗して、中国は空母を派遣した。中国の脅威に対処する上で、日本との緊密な協力が必要となるであろう。米国の同盟国であるフィリピンは、「第1列島線」にある。2020年初めのTrump政権は中国の過剰な領有権主張を拒絶し、問題がフィリピンに有利に解決されたと発表した。
記事参照ːChinese Navy Faces Overseas Basing Weakness, Report Says

1月25日「加軍、太平洋における日米豪印海軍共同演習に参加-印紙報道」(Hindustan Times, JAN 25, 2021)

 1月25日付の印英字日刊紙Hindustan Times電子版は“Canada joins Quad joint naval exercise in Pacific Ocean”と題する記事を掲載し、加空軍(RCAF)のオーロラ哨戒機がグアム周辺海域で開催されている日米豪印4カ国安全保障対話)の対潜水艦演習シードラゴン2021に参加したことについて要旨以下のように報じている。
(1) 2週間に及ぶ米軍主催の対潜水艦戦演習シードラゴン2021がグアムのアンダーセン空軍基地を拠点に実施されているが、カナダは今回初めて4カ国安全保障対話(以下、Quadと言う)を構成する日米豪印の共同演習に参加している。Hindustan Timesの取材に対し第1 Canadian Air Division兼Canadian NORAD Region Headquarters広報官David Lavalleeは「カナダは太平洋国家であり、加空軍は米第7艦隊とも緊密に連携している。シードラゴン演習への参加はインド太平洋地域における同盟の強さと耐久性を実証する機会」と述べるとともに、加空軍の参加は「日米豪印を含む太平洋地域の同盟国、提携諸国の長距離偵察哨戒機コミュニティに実戦的な訓練機会がもたらされる」と指摘している。
(2) ニューデリーはこの進展をカナダの「重要な前進」と見なしている。外交筋によれば、加空軍はこれを「Quadへの参加ではなく、QuadないしはQuadプラスへの政治的支持」と位置付けているという。しかし、この演習の名称と参加国自体が中国に対する懸念の高まりを示していることも明らかであろう。加空軍のLavallee広報官は「カナダの安全と繁栄にとってアジア太平洋地域の重要性が増していることを踏まえ、カナダは一貫した関与と強力な関係の構築を通じ、この地域の信頼できる提携国となることを約束する。カナダの安全保障と防衛への備えは同盟国とのつながりから多大な恩恵を受けている」と述べている。
(3) インドとカナダとの二国間演習の提案はまだ実現していないが、Quadを通じてのものであれ、カナダがインドとの軍事演習に参加するのは数年ぶりのことである。Lavallee広報官は「この訓練は加空軍オーロラ哨戒機搭乗員が自国周辺海域の哨戒任務を遂行するとともにアジア太平洋地域の提携諸国との相互運用性を確立するため特に重要である」と付言した。中でも特に興味深いこととして、加軍は2019年に中国の人民解放軍との合同冬季演習をキャンセルしたが、この動きはJustin Trudeau首相の政府から批判をされることはなかった。
記事参照:Canada joins Quad joint naval exercise in Pacific Ocean

1月26日「新しい海底ケーブルは北極圏での引火点になる―米専門家論説」(Eurasia Daily Monitor, January 26, 2021)

 1月26日付の米シンクタンクThe Jamestown FoundationのウエブサイトEurasia Daily Monitorは元Azerbaijan Diplomatic Academy研究・出版ディレクターPaul Gobleの“New Undersea Cables Could Become a Flashpoint in the Arctic”と題する論説を掲載し、ここでGobleは光ファイバーケーブルの北海ルートの建設はロシアと西側諸国の間で紛争を引き起こす可能性があるとして要旨以下のように述べている。
(1) 北極海航路を支配し、その地域の海底への排他的アクセスを確保するためのロシアの取り組みは、石油、天然ガス、石炭、その他の鉱物資源の採掘と輸出を追求しており、長年にわたって注目を集めている。そして、これらの問題は、ここ数ヶ月で特に顕著になってきた。その一つは地球規模の気候変動により北極海の航海可能期間が長くなり、鉱物資源へのアクセスがはるかに容易になったこと。もう一つは、気候変動が北極海の排他的経済水域に対するロシアの一方的主張を国連が承認するかどうかという点である。
(2) ロシアが北極評議会の議長国に就任すると、その問題はさらに注目を集めるであろう。ロシアの一つの地域政策が北極圏諸国間の争いの引火点になる可能性があるにもかかわらず、これらのことはほとんど注目されてこなかった。ロシアは、自国の北方地域にサービスを提供するために光ファイバーケーブルの広範なネットワークの敷設を支援し、国際協力を促進している。良くも悪くも、そのようなケーブル及び関連する海底電子ネットワークとセンサー技術は、ロシアと西側諸国・中国の間に新たな競争を引き起こす可能性がある。
(3) ロシアのニュースサイトRegnumコメンテーターのVladimir Stanulevichは、この海底プロジェクトは「第2の北極海航路、光ファイバーケーブルの一つ」であり、北方に居住するロシア人に利益をもたらすだけでなく、北極圏全体が関心を示すと主張している。彼は北極海下の光ファイバーケーブルの重要性を強調し、「ロシアの三大ケーブル事業者はノーヴィウレンゴイからノリリスクまでのケーブルの延長を拒否した」と指摘した。なぜならば、潜在的顧客が少なく、距離が長く、そしてコストが高いからである。しかし、高緯度地方でのインターネット接続は、遠隔学習、メディア配信、銀行・公的サービス及び経済活動のデジタル化の促進に重要である。
(4) ロシアの企業はそのために資金を投入する気がなく、またロ政府も十分な資金を持っていないことから、外国人投資家を探し、ロシアからの1社を含む主としてスカンジナビア企業、日本企業からなる共同企業体Arctic Connectという方策を見出した。この共同企業体は、フィンランドから日本までの北極海航路が主要部分を成す北東航路に沿って14,000キロメートルの光ファイバーケーブルを敷設することを計画している。費用は8億ドルから12億ドルと見積もられており、毎秒最大200テラバイトのデータ速度を提供し、アジアとヨーロッパ間の主要な通信リンクになる。さらに、シベリア北部及び極東ロシアに追加の11本の支線を敷設することに合意した。これら追加の支線は、本来ロ政府が支払うべきであるが、Arctic Connectによる工事の実施を補償することで、ロ政府ははるかに少ない費用でこれを可能にした。
(5) Stanulevichはこのプロジェクトはモスクワにとって付加価値があると述べている。なぜならば、フィンランドと日本がロシアとの関係で米国及びNATOから独立した政策を追求することになるからである。したがって、Stanulevichはこのプロジェクトを技術的理由と経済的理由、そして政治的理由からも強力な動きと結論付けている。クレムリンにとって、このプロジェクトの技術的、経済的、政治的価値は明らかである。そして、軍事的側面としては国家安全保障と北極圏のインターネットへの二重の接続が含まれる。特に後者によってこの地域におけるロシアの軍事的プレゼンスと、北極海全体への力の投射を強化できる。したがって、Arctic Connect共同企業体にロシアから参加しているMegafonがFederal Security Service (以下、FSBと言う)及びロシア国防省と強い関係を持っていることは偶然ではないとStanulevichは述べている。そして、これらの関係の重要性は本プロジェクトが完了し、ロシアがそれを活用するにつれて増大するであろう。プロジェクトはすでに調査が昨年の夏に開始され、2023年中に光ファイバーケーブルの北極海ルートが開通する予定である。
(6) FSBの間接的な関与によって、西側には考慮すべき安全保障上の課題が生じる。まず、FSBがモスクワの意図する役割を果たすならば、日本とヨーロッパの間を通過するデータの多くは監視・入手されるであろう。そして、高緯度地方にケーブルを敷設することに成功した場合、モスクワは、北極圏の防衛を国家安全保障の重要な部分と見なすであろうし、他の海底ケーブルシステムを密かに設置しようとする可能性が考えられる。これには、米国がロシアの潜水艦の交通を監視するために北大西洋に設置した統合海底監視システム(Integrated Undersea Surveillance System )に類似したセンシングネットワークが含まれる。つまり、新しい光ファイバーケーブルの北極海ルートが、ロシアによって建設された場合、最終的には、ロシアの高緯度地方の開発を促進するだけでなく、モスクワと西側の間でより多くの紛争を引き起こす可能性をもつのである。
記事参照:New Undersea Cables Could Become a Flashpoint in the Arctic

1月27日「台湾問題が緊迫化する中でオーストラリアは何を準備すべきか―豪国防専門家論説」(The Strategist, January 27, 2021)

 1月27日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategist は豪国防省の元戦略担当次官で現同所executive directorであるPeter Jenningsの“Australia must be ready to fight its corner as Taiwan tensions rise”と題する論説を掲載し、ここでJenningsは中台関係の緊迫化を受けてオーストラリアがそれに対してどう準備を整えるべきかについて要旨以下のように述べている。
(1) 米国のBiden政権にとっての最初の国際的危機が起きるとすれば、それは台湾をめぐるものだろう。1月23日及び24日に台湾空域に中国人民解放軍空軍の戦闘機、爆撃機が侵入したことに象徴されるように、中国は最近、台湾への軍事的圧力を強めている。そうした中国の動向に対し、米国は台湾防衛に対する強い決意を表明している。その事象以後、米国は空母「セオドア・ルーズベルト」空母打撃群による南シナ海での演習を続けてきた。
(2) COVID-19をめぐる混乱、そして米国での政権交代がもたらした台湾の統一という中国の野望を加速する機会を利用できると考え、Biden政権の決意を試しつつあると筆者は考えている。中国共産党の目的は中華人民共和国建国100周年にあたる2049年までに台湾を支配下に置くことである。しかし、習近平はそのスケジュールを早めようとしているように思われる。すでに台湾海峡における軍事的優勢を確立し、米国は他の問題に直面している。もし米国が強硬な態度を崩さなかったとすれば、習近平は2049年までの台湾統一というスケジュールに戻ればいいだけで、特に失うものは何もない。当面、中国は台湾について積極的な態度を崩さないだろう。
(3) こうした環境においてオーストラリアはどう進路をとればよいのか。残念ながら23、24日の中国の戦闘機、爆撃機の侵入に関してオーストラリアの外務・通商省は何の抗議声明も発していない。米国がどう動くにせよ、台湾問題について米国はオーストラリア(と日本)に期待するところは大きいだろう。オーストラリアはその立場をはっきりとさせ、それに沿った動きを示す必要がある。
(4) その点について、25日に重要な動きがあった。Linda Reynolds国防大臣はオーストラリアの海洋安全保障強化を目的として「先進的な誘導兵器」に10億ドル投資することを発表した。2020年7月、「海上誘導兵器」計画のために240億ドルが配分されたが、今回の10億ドルはその初めての支出である。その目的は5年ほどで成果を出すことであるが、そのスケジュールを達成するためには、米国との共同開発という選択肢をとることも必要であろう。F-35統合打撃戦闘機の例が示すように、兵器の共同開発によってオーストラリアは米国の科学・技術にアクセスすることができ、相互の協力関係をより強固にするものである。いずれにしても、もし戦争が生起した場合、ミサイルの保有量はすぐに減っていくだろうから、オーストラリアはその国内生産能力を高めることは、現今の状況下きわめて重要である。
(5) 単発のミサイル開発計画だけでなく一連の兵器開発計画をひとつの大きなプロジェクトへの統合を模索していることが重要である。オーストラリアは空軍だけでなく、さまざまなタイプの艦艇、航空機、車両からミサイルなどを発射できる能力を獲得すべきである。しかもそれは2030年代までに兵器だけでなく艦船や潜水艦をもアップグレードして揃えるという類の準備ではなく、既存の艦船や潜水艦に新たなミサイルを搭載するというものであり、直近の戦争の危機に備えるものであるべきである。
(6) 多くの豪国民は、軍隊の役割として1990年代の比較的穏やかな平和維持活動などを思い浮かべて満足するかもしれない。しかし当時と今では状況があまりに異なる。今、台湾周辺で起きていることはオーストラリアの国防の最前線で起きていることなのである。
記事参照:Australia must be ready to fight its corner as Taiwan tensions rise

1月27日「中国軍の演習は米空母の動きとは無関係―中国政府系紙報道」(Global Times, January 27, 2021

 1月27日付の中国政府系紙環球時報英語版Global Timesの電子版は“PLA exercises in S.China Sea ‘not related to US carrier activity’”と題する記事を掲載し、中国軍は1月27日に南シナ海で演習を開始したが、これは定期的な動きであり米国の空母の最近の活動とは無関係であるとして要旨以下のように報じている。
(1) 中国は1月27日から30日まで、雷州半島の西方の南シナ海の海域で軍事演習を行う予定であり、他の艦船は演習海域への進入は禁止されている。ロイター通信は26日の報道で、中国の演習は米空母「セオドア・ルーズベルト」が23日に南シナ海に入ったわずか数日後に行われたとし、米空母の南シナ海に入ったことと中国の演習の間には関係があると示唆している。中国軍が南シナ海での米国の軍事活動を監視していることは間違いないが、現在入手可能な情報は、中国軍の演習が必ずしも米国の空母と関連しているわけではないことを示している、と匿名を条件に軍事アナリストは27日に環球時報に語っている。
(2) 中国海事局のウエブサイトによると、過去3ヶ月間、雷州半島近海では少なくとも4回の軍事演習が行われている。商業衛星画像は米国の空母が23日にバシー海峡から南シナ海に入った後、25日に黄岩島付近を航行していたことを示している、と北京に拠点があるシンクタンク南海戦略態勢感知計画(South China Sea Strategic Situation Probing Initiative)は25日に述べている。これは米空母が中国軍の演習場から1000km以上離れていたことを意味する。通知の座標によると演習区域は、20km以下の長さの狭い長方形であり、それは陸地に部分的につながっており、この演習が対空母作戦ではなく沿岸防衛又は上陸作戦に関連している可能性があることを示している、と評論家は述べた。
記事参照:PLA exercises in S.China Sea ‘not related to US carrier activity’

1月28日「米海軍は中国を凌駕できない-豪専門家論説」(The Strategy, 28 Jan 2021)

 1月28日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは同所国防経済/国防能力部門上席研究員Marcus Hellyerの“The US Navy needs to admit it can’t outbuild China”と題する論説を掲載し、ここでHellyerは増強される中国海軍に対抗するため米海軍が355隻海軍の呪縛を脱し、大型水上艦艇を削減して、コンステレーション級フリゲートや海兵隊司令官が望むより小型の水陸両用戦艦艇の建造に重点を移す計画を打ち出し、「モザイク戦」という新たな概念を構想しているが、新概念は依然構想の段階であり、現計画は新概念に遠く及ばないレベルである一方、重視されつつある水上、水中の無人機も十分に資源の配分を受けておらず、現在の動きのままでは中国を凌駕することは不可能であるとして要旨以下のように述べている。
(1) しばしば引用されるように孫子は「戦わずして、敵の抵抗を奪うものは善の善なるかな」と指摘している。この基準に基づけば、中国共産党と人民解放軍は米国との無血の戦いに勝利することで自らを最善なるものであることを示してきた。接近阻止/領域拒否戦略は、危機時に中国沿岸で作戦を実施するという米国の意思を既に打ち砕いている。中国は通常戦力で米国と戦わざるを得ない時、非対称の方策で中国沿岸付近での戦いに勝っている。今、中国は通常戦略の分野で米海軍を上回る工業力をもって第2の無血の戦いに勝利する方向に動いており、米国を西太平洋とその同盟国からさらに遠ざけようとしているようである。これら二つの戦いの目標は、台湾に侵攻した際に米国が介入すればその対価を極めて大きなものとさせることで無血の戦争に勝利することである。中国の戦略は米軍を苦境に追い込むことであった。受容可能な出費、そして必要であれば出血を伴って中国の野望を抑止あるいは打倒することのできる達成可能な軍組成を開発する米海軍の苦闘がその間の事情を最もよく表しているかもしれない。
(2) 大統領、議会、そして海軍は355隻が特別な意味を持つ数字という見方を持っていた。中国の力が増大し、技術が進展する世界でその数字が正しいか否かは議論のあるところではある。しかし、現実には海軍がそこにたどり着かなかった。中国にシステムがもたらす広範囲な脅威を打破することのできる非常に複雑で多目的の艦船をある程度建造するのに必要な経費は急上昇してきた。ある分析では、355隻の目標を達成するには、米国が艦艇建造費の平均とするより約60パーセント増の建艦費が必要である。結果として旧式艦の除籍数が新造艦の進水数を上回り、保有隻数は減少して約280隻に落ち込むだろう。先進の新技術を導入することであれ、より安価な艦船を建造することであれ悪循環を断つ試みの失敗が、わずかな有用性、あるいは有用性が全くないことのために他の計画の資源を吸い上げてしまい問題を悪化させてきた。さらに、これらの試みは議会の海軍に対する信頼を損なってきた。その結果、海軍力の主要な指標である垂直発射装置のような能力を代替する時期に達するよりもずっと早く失いつつある。悪循環から抜け出す他の方策は検討されているが、ほとんど構想の段階に留まっている。
(3) 12月9日に国防長官府が発出した「年次海軍艦船建造長期計画に関する議会報告(”Report to Congress on the annual long-range plan for construction of naval vessels”)」は、中国あるいはロシアに対し米国の戦闘力の優位を強化することに焦点を当てている。そのために、報告書は355隻体制の呪縛から脱却している。驚くべきことに報告書は約400隻の有人艦艇と約140隻の無人艦艇を組み合わせたより多くの艦艇を計画することでこれを実現しようとしている。この計画の重要な要素は、より小型の戦闘艦艇と水陸両用戦艦艇の取得である。小型戦闘艦艇は現在の34隻から今世紀中盤までに68隻に増強する一方で、大型艦艇は91隻から74隻に削減する。小型水上戦闘艦艇は仏伊が共同で開発する伊造船企業Fincantieri社の汎用フリゲート開発計画(FREMM)のフリゲートとなるだろう。このフリゲートは沿海域戦闘艦よりも多くの点で能力があり、タイコンデロガ級イージス巡洋艦よりも搭載する垂直発射セルは少ない。また、計画は海兵隊司令官が望む中国の接近阻止/領域拒否能力の範囲内で作戦行動できるより小型の水陸両用戦艦艇が含まれる。しかし、この計画は「モザイク戦」*の大規模な動きにはほど遠い。その一つは、計画は依然、多くの極めて高価な有人艦を約束していることである。74隻の大型水上戦闘艦に加え、10ないし11隻の空母を維持し、中国に対し技術上の優位を維持している攻撃型原子力潜水艦を52隻から80隻に増強している。
(4) 一方、無人システムに対する海軍の取り組みはやや不安定である。計画は今後5年で8基の超大型水中無人機Orcaの取得を想定しているが、無人水上艦(以下、USVと言う)についてはそれほどバラ色ではない。2種類のUSVが艦隊とともに洋上試験を既に実施している。中型USVはセンサーの取付架台として、大型USVは「発射可能な補助弾庫」として洋上におけるセル数を増加させるより安価な方策として有益である。しかし、計画は無人機の能力の全ての展開を加速するため重要な資源を加えていると述べているが、次の5年間に中型USV1隻の取得を見越しているだけである。計画は12隻の大型USVを求めているが、大型USVの運用に関する技術、構想が十分に練られたものかどうか、批判的な議会が口を差し挟んできた。議会は無人化で解決する前に洋上においてミサイル発射セルを獲得する手頃な価格の他の方策を海軍が検討することを望んでいる。計画における最大の問題は手頃な価格という難題を突破できていないことである。大型水上戦闘艦の削減は(計画によって生じる)追加分の経費を相殺するのには十分ではない。しかし、Biden大統領が「米国を果てしない戦争から脱却させる」としても、議会が(それによって浮いた資金と)同じ程度の資金を割り当て、それを艦艇建造には振り向けそうにない。一方、海軍と同様、空軍も旧式化した航空機の全く同じ問題と大規模な資本増強の不足に直面している。そして、戦闘機及び爆撃機の計画について議会に支持層を得ている。Biden政権も同じ厄介な問題に直面している。単に(建艦競争において)中国を凌駕することを追求することは新政権にとって高い優先順位にはなく、特にそのために多額の資金を必要とするのであれば、実現しないかもしれない。しかし、モザイク戦の概念を妥当な価格で現実のものとするには時間がかかり米国の老朽化した艦隊にはそれを待つ時間は無い。
(5) もし、主たる脅威が増強される中国海軍であれば、効果的で、時宜にかなった対応には将来数十年にわたって建造される艦艇に焦点を当てることを越えて、米国の全ての資産を投入して統合による対応計画に移行する必要がある。米海兵隊が自らを艦船撃破部隊と再概念化したことは異なる考え方へのヒントとなる。米陸軍でさえ、独自の長射程打撃兵器を持って役割を演じることができる。それは米国の同盟国の連合が果たすことのできる役割について我々が考える以前のことである。
※モザイク戦については“Mosaic Warfare: Exploiting Artificial Intelligence and Autonomous Systems to Implement Decision-Centric Operations” を参照
https://csbaonline.org/research/publications/mosaic-warfare-exploiting-artificial-intelligence-and-autonomous-systems-to-implement-decision-centric-operations

1月29日「Biden政権が目論むQUAD拡大、採るべき対外政策―米軍事専門家論説」(USNI News, January 29, 2021)

 1月29日付のU.S.Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは米海軍関連雑誌Navy Times元編集長でThe Association of the United States Army元通信部長John Gradyの“Biden Administration Wants to Expand Pacific ‘Quad’ Relationship, National Security Advisor Sullivan Says”と題する論説を掲載し、ここでGradyは1月29日にUnited States Institute for Peaceが開催したオンラインフォーラムにおいてJake Sullivan国家安全保障担当補佐官、Robert O’Brien前補佐官が議論したQUADへの取り組み、対中政策、イラン問題を軸とした中東政策、さらに対欧州、対ロシア政策に関し Joe Biden政権が今後とるべき方針などについて要旨以下のとおり述べている。
(1) 1月29日、United States Institute for Peaceがオンラインフォーラムを開催した。そこで新たにJoe Biden政権の国家安全保障担当補佐官に就任したJake SullivanやTrump政権で同補佐官を務めたRobert O’Brienが出席し、Biden政権の外交の方向性について議論した。Sullivanによれば、Biden政権の目標の一つは、QUADを含めたインド太平洋における非公式かつ緩やかなネットワークを、より公式的で強固な関係へと発展させることであるという。
(2) Sullivanによれば、Biden政権はTrump政権下で進められたQUADの連携をさらに強化することを望んでいる。日米豪印4ヵ国は昨年後半に共同軍事演習や外相級会合の取り組みを積み重ねてきた。O’BrienはQUADが第2次世界大戦以降米国が「これまで築いてきたものの中で最も重要な関係になる」だろうとした。しかしそれは現在のところ安全保障同盟とは程遠いものである。その障害の一つは日本の平和憲法であろう。いずれにせよ、米国がインド太平洋における同盟国等との連携を強めるのは、「ますますナショナリスティックになっている」中国のグローバルな野心に対抗するためである。
(3) 中国は自国の経済成長の度合いや米国大統領選挙の混乱を引き合いに出しつつ、もはや米国モデルが機能しておらず、自分たちこそがそれに代わるモデルを提示しうると主張している。それに対し、米国は民主主義の「同盟国や提携国と足並みを揃える」必要があるとSullivanは主張した。また米国にとって自国の力を優勢に保ち、モデルであることを他国に示すためにAIや量子コンピューターなどの分野における優位の維持も重要である。
(4) 両名ともTrump政権からBiden政権への移行はスムースに進められたと述べた。しかし 両政権の外交政策について大きな相違がある。それは、イランの核及びミサイル開発計画等の問題にどう向き合うかという点である。Trump政権がイランの核開発に関する国際合意から離脱して以降、イランの核開発が劇的に前進したとSullivanは主張した。ミサイル増強などについても同様だとするが、それについてはObama政権時代から加速していたというのも事実である。
(5) Biden政権は核合意に復帰すると同時に、ミサイル計画や、イランによるレバノンやイエメンのテロ組織への支援問題なども含めた包括的な交渉を新たにスタートするつもりだというシグナルを出してきた。すでにイランはウラン濃縮などを進めており、これは喫緊の課題である。合意への他の参加国は中国、ロシア、イギリス、ドイツ、フランスである。
(6) O’Brienによればイランとの関係においてTrump政権の「最大限の圧力」がうまくいったのは、イスラエルとの同盟を強調したことによってであった。米国はまた、イスラエルの技術へのアクセスを制限することによって中国を封じ込める一方、イスラエルを承認する意図を持つアラブ諸国にそれをオープンにしてきた。
(7) ヨーロッパとの関係についてもまた、Trump政権とBiden政権には多くの連続性がある。NATOはなお米国にとって最も重要な同盟である。ただし、ドイツの動向を気にかける必要がある。ドイツは常に他の西側諸国とは一線を画しており、また近年は中国との経済的関係を強めている。O’Brienはドイツは「ヨーロッパに対して大きな影響力を持っており、それはブレクジットよりも大きな問題を米国につきつける」と述べている。
(8) ロシアとの関係においては戦略兵器に関する軍縮交渉を進めることが最大の課題である。それ以外にも、ソーラーウィンド製品のマルウェアが拡散している問題や、野党指導者Alexei Navalny氏の毒殺未遂事件、大統領選挙妨害などの懸念事項がある。
記事参照:Biden Administration Wants to Expand Pacific ‘Quad’ Relationship, National Security Advisor Sullivan Says

1月29日「米新政権のインド太平洋戦略、日米同盟の強化が鍵―米専門家論評」(Real Clear Defense.com, January 29, 2021)

 1月29日付の米軍事、国防関連ニュースサイトReal Clear Defenseは米シンクタンクThe Foundation for Defense of Democracies の東アジア問題専門家Mathew Ha の“Strengthening Alliance With Japan Is Critical for Biden’s Indo-Pacific Strategy”と題する論説を掲載し、ここでHaは米Biden新政権のインド太平洋戦略にとって日米同盟の強化が鍵となるとして、要旨以下のように述べている。
(1) Biden米新政権の国務長官に指名されたAnthony Blinkenは上院指名公聴会で「弱さからではなく、強い立場から中国に対処する」と述べた。国家安全保障会議(NSC)のインド太平洋担当調整官に指名されたKurt Campbellは「中国の冒険主義を抑止するための意識的な努力」は日本などの同盟国に対する支援と調整を必要とする、と述べた。そのためワシントンは、特に先制攻撃を抑止し、日米両部隊の相互運用性を強化することによって北京の進化する軍事戦略と能力に適応するように、東京との防衛協力を強化すべきであろう。国防省が公表した、2019年のインド太平洋戦略報告書は日米同盟を「インド太平洋の平和と繁栄の礎」と、的確に評価している。
(2) 日本は第1列島線という重要な地理的位置にあり5万4,250人の米軍を受け入れてきた。日本の地理的位置は米国がインド太平洋全域で起こり得る紛争に対処するに当たって、軍隊を展開するための所要時間を最小限に短縮している。更にワシントンは、「ロナルド・レーガン」空母打撃群を含む米第7艦隊に加えて、F-22やF-35などの最新戦闘機を含む米空軍第18航空団など、日本全土に重要な戦闘能力を展開している。中国、北朝鮮、その他の敵対国に近接した日本にこれらの戦力を駐留させることで、潜在的な侵略に対する米国主導の迅速な対応を可能にし、それによって抑止力を強化している。
(3) しかしながら、中国の指導部は米軍の日本駐留によって得る戦略的利益を中和することを狙いとした軍事力を開発してきた。中国軍は、中長射程弾道ミサイル、巡航ミサイル、新しい航空・海上防衛システムなど「接近阻止/領域拒否」(以下、A2/ADと言う)能力を保有している。A2/ADの狙いは潜在的な紛争領域から米軍を閉め出すことである。戦場への米軍のアクセスを否定することによって、中国軍は領有権や海洋境界の見直しなど、修正主義的目的を追求し続けることが可能となる。
(4) 米軍は日本に引き続き駐留する必要があるにもかかわらず、中国軍のA2/AD能力に対する脆弱性を回避するために一部の米軍を域内の他の場所に移転することを計画してきた。この移転計画は、歴史的に米軍の多くを受け入れてきた日本の一部地域の負担を軽減する狙いもある。例えば、米海兵隊は2019年に、2024年までに沖縄県からグアムへ5,000人の海兵隊員を移転させる計画を発表した。これは、2006年に合意された、「再編実施のための日米のロードマップ」の一部である。米議会調査局報告書によれば、「ロードマップ」は、沖縄の負担軽減を目的としている。加えて、中国から500キロしか離れていない沖縄の戦略的な位置は中国のミサイル攻撃に対して非常に脆弱であり、このことが中国軍の一部ミサイル戦力の覆域外にあるグアムへの移転のもう一つの理由である。しかしながら、米軍を日本列島から離れた場所に移転させることは、インド太平洋における米国の抑止力を損なうことになろう。更に、米軍が日本から離れることは、紛争対処に当たって同盟国を支援するための米国の対応時間を増やすことになり、敵対国が米国からの援軍到着前にその軍事目標を達成することになりかねない。したがって米軍は日本から部隊を移転させるべきではない。その代わりに、既存の防衛力を強化するとともに、抑止力を強化し、中国のミサイル攻撃やその他のA2 / AD能力に対する在日基地の増大する脆弱性を相殺するために新しい能力を展開する必要がある。
(5) 第1に、米国はグアムへの移転ではなく、日本列島と第1列島線に沿って部隊を再配備すべきである。沖縄以外の日本各地に米軍とその資産を移転させることで沖縄の負担を軽減する一方で、中国軍の攻撃力から遠ざかることによって米軍とその資産の生存可能性が強化されるであろう。こうした米軍と資産の移転は、依然として枢要な第1列島線内に留まった形での米軍の打撃力の展開を改善することにもなろう。例えば、ワシントンは、米空軍のAgile Combat Employment(抄訳者注:簡素ではあるが運用の確立された航空基地、複数の任務を遂行しうるよう訓練された空軍の将兵、事前集積された機材、虚空輸送網を活用し、熟達した小規模の部隊の敏捷性を活かして、戦域全体に戦闘力を展開、分散、運用する米空軍の構想。以下、ACEと言う)運用コンセプトを採用すべきである。ACEは、利用可能な航空基地の数を増やすことによって、日本列島各地への戦闘機の迅速な分散展開を狙いとしている。
(6) 第2に、米国は中国の第1撃を抑止するために新しい兵器と能力に投資すべきである。特に、日米両国は有事において中国軍のミサイル戦力を攻撃し得る地上配備ミサイルを日本全域に配備することを検討すべきである。ワシントンが中距離核戦力全廃条約の廃棄通告をした2019年8月まで、これは日米両国にとって実行可能な選択肢とはなり得なかった。ワシントンと東京は弾道ミサイル防衛網の脆弱性にも対処すべきである。さらに、ワシントンは北京が日常的に艦艇の通峡や航空機の上空飛行を繰り返している宮古海峡に隣接した南西諸島・琉球諸島における日本の対空能力の拡充についても調整すべきである。
(7) 第3に、日米両国は全ての紛争領域に対する効果的な合同戦力を支えるために相互運用性を強化しなければならない。重要な分野は、日米の指揮・統制・通信・コンピューター・情報・監視・偵察(C4ISR)機能の近代化と統合である。同様に、ワシントンと東京は日米合同の脅威探知能力を強化するために強靱な戦場情報ネットワークを共有する必要がある。
(8) 結局のところ、日米同盟は、長年に亘ってインド太平洋地域における平和と繁栄の礎となってきたが、まだまだ改善すべき余地がある。米国が北京の持続的な侵略的行動に真剣に対応していくつもりであれば、Biden政権はこれまで以上に強力な日本との防衛提携を追求していかなければならない。
記事参照:Strengthening Alliance With Japan Is Critical for Biden’s Indo-Pacific Strategy

1月30日「アジア版NATOへの参加を検討する英国と米国のインド太平洋調整官Campbellの方針―シンガポール紙報道」(Business Times.com, January 30, 2021)

 1月30日付のシンガポールの金融関係日刊紙The Business Times電子版は“U.K. Ready To Join ‘Asian NATO’ To Defeat China”と題する記事を掲載し、英国が「4カ国安全保障対話」(Quad)に参加することを検討していることと米政府でインド太平洋調整官に任命されたKurt Campbellの政策方針について要旨以下のように報じている。
(1) 英国が、「アジア版NATO」と呼ばれている民主主義国家による事実上の軍事同盟に参加する準備ができていることを今示していることにより、インド太平洋における中国の膨張主義に対する世界的な軍事的抵抗が加速している。英国のメディアによるとBoris Johnson英首相の政権は英国が4カ国安全保障対話(以下、Quadと言う)に参加することに異議を唱えていない。Quadの元々のメンバーは日本、インド、米国及びオーストラリアである。英国はBiden政権が中国への対抗勢力としてQuadのメンバーを拡大すると提案したことを受けて、このグループへ参加する準備ができている。
(2) 1月の第4週、米国家安全保障会議インド太平洋調整官に任命されたばかりの対中強硬派のKurt Campbellがアジア諸国にQuadへの参加を促す政策方針を提出した。Campbellは以前、Obama政権下で東アジア・太平洋地域担当の国務次官補を務めており、彼はObamaの「アジア重視」(Pivot to Asia)戦略の立案者の1人だった。彼はDonald Trump前大統領による中国との戦略的対立によって生み出された新たな戦略的状況に対処するためにアジア重視戦略を適応させることが期待されている。CampbellはClinton政権時代に国務省で一緒に働いていた親しい友人であるJake Sullivan国家安全保障顧問の直属の部下である。CampbellとSullivanは2019年後半に雑誌Foreign Affairsに投稿した“Competition Without Catastrophe: How America Can Both Challenge and Coexist With China”(破局なき競争:米国はいかにして中国に挑み、共存することができるか)というタイトルの共同エッセイで、中国にどのように対処するかについての考えを発表した。この記事で彼らは、中国が自由主義化することを期待し、中国を引き込もうとして失敗した戦略を却下した。その代わりに、中国との競争は、中国を変えることを期待するのではなく、中国と共存するという目標を中心に解決しなければならないと彼らは主張している。
記事参照:U.K. Ready To Join 'Asian NATO' To Defeat China

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) The U.S. Military’s Real Foe: The Tyranny Of Distance
https://www.19fortyfive.com/2021/01/the-u-s-militarys-real-foe-the-tyranny-of-distance/
19fortyfive.com, January 26, 2021
Patrick Hulme, a PhD candidate in political science at the University of California, San Diego
Erik Gartzke, a Professor of Political Science and Director of the Center for Peace and Security Studies (cPASS) at the University of California, San Diego
 1月26日、米The University of California, San Diegoの博士課程に在籍するPatrick Hulmeと同大学の教授であるErik Gartzkeは米ニュースサイト19fortyfive.comに“The U.S. Military’s Real Foe: The Tyranny Of Distance ”と題する論説を発表した。ここで両名は米国にとっての戦争は遠隔地での戦い、つまりはアウェー戦を意味しており、2017年の国家安全保障戦略で特に懸念されている国々、すなわち中国、ロシア、イラン、北朝鮮はそれ自体が米国からかなり離れているだけでなく、これらの脅威から生じる紛争の可能性が最も高い地域である東シナ海、南シナ海、東欧、ペルシャ湾、そして朝鮮半島も一様に潜在的な敵対国に近接している一方で北米からはかなり離れているとし、米国が対処する可能性の高い脅威が地理的に離れていることの問題を指摘している。そして両名は、しかしながら、距離の影響が、私たちが主張するほど強いのであれば、非常に楽観的な意味合いも有することになるとし、世界のグローバル化が進んでいるにもかかわらず、米国は太平洋と大西洋という二つの巨大な外堀を持ち、直接的な敵はほとんどいないという地政学的な優位性を得ているし、米国の同盟国もたとえ潜在的な侵略者に近いとしても、米国と同様に海洋という強力な安全保障上の防御壁を持つことから、物理的距離が国家間の競争に及ぼす影響は現状維持を促す力となり、それは「アメリカ製の世界(world America made)」として成立し、米国と志を同じくする自由民主主義諸国にとって朗報となる、などと主張している。

(2) China’s Coast Guard Law: Destabilizing or Reassuring?
https://thediplomat.com/2021/01/chinas-coast-guard-law-destabilizing-or-reassuring/
The Diplomat.com, January 29, 2021
Shuxian Luo(駱舒嫻), a Ph.D. Candidate in International Relations at the School of Advanced International Studies (SAIS), Johns Hopkins University
 1月29日、Johns Hopkins UniversityのInternational Relations at the School of Advanced International Studies(SAIS)の博士候補(PhD. Candidate)Shuxian Luoは、デジタル誌The Diplomatに、“China’s Coast Guard Law: Destabilizing or Reassuring?”と題する論説を寄稿した。ここでLuoは、①中国は1月22日、外国船舶に対する武器使用を許可する条件を初めて明示した法律を可決し2月1日に施行する、②この法律はリスクを高める可能性があるが、中国の海警の業務の明確化と標準化に向けた不可欠な一歩であり、武力行使に関するガイドラインを定めている、③海上法執行機関の人員が外国船舶に対する武力行使を許可することは、この地域の沿岸警備隊が採用している一般的な方法である、④新しい海警法に対する地域の不安を和らげ、誤算やエスカレートのリスクをコントロールするために、中国ができること、すべきことは多い、⑤対外的に中国は、海での事件のリスクを抑えるために、他の地域の海上法執行機関を引き込むよう、より大きな政治的意志を示すことができる、⑥中国の海警法の第64条が特に海洋における危機の管理と制御を海警の主要な国際協力任務として規定しているが、現段階での現実的な一歩は、「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準」(Code for Unplanned Encounters at Sea)のルールの拡張を支持することである、⑦中国はまた他の権利主張国の沿岸警備隊との共同訓練や演習を制度化することを検討すべきである、⑧中国は内部的には現場の人員による不均衡な武力行使やその乱用を抑制するための透明性のあるプロセスを確立し、その海洋法執行活動を国際的な慣行にさらに合わせるべきである、といった主張を述べている。

(3) The Haze Gray Zone: Great Power Competition at Sea
https://www.usni.org/magazines/proceedings/2021/january/haze-gray-zone-great-power-competition-sea
Proceedings, January 2021
Lieutenant Doug Cantwell, U.S. Navy, a judge advocate serving in the administrative law division of the Office of the Judge Advocate General of the Navy
 2021年1月、米The Office of the Judge Advocate General of the Navy(海軍法務総監室)に所属するDoug Cantwell大尉はU.S. Naval InstituteのウエブサイトProceedingsに“The Haze Gray Zone: Great Power Competition at Sea ”と題する論説を発表した。ここでCantwellは数十年にわたって世界的なテロ対策に取り組んできた米国で、2018年に新たな国防戦略 (National Defense Strategy:NDS)が誕生したが、ここでは「国家間の戦略的競争が今では米国の国家安全保障の最大の関心事となっている」と指摘され、新たな大国間競争時代が到来したことが告げられたと指摘した上で、米国が大国間競争を志向することは、国防総省が大国の挑戦に集中して対処する助けとなったが、それは同時に戦略的盲点を作り出したと指摘している。そしてCantwellは、多くの場合、大国間の争いはハイエンドの争いとされ、部隊運用環境の準備、低強度作戦、混成戦、あるいは「グレー・ゾーン」での作戦などといった武力紛争レベル以下の競争については十分に考慮されないことが戦略的盲点であるとし、今後米海軍は、海軍や海上保安部隊などが入り交じる「ヘイズ・グレー・ゾーン(haze-gray zone)」におけるハイブリッドな海上作戦を考えるという、新たな変革が必要であると主張している。