海洋安全保障情報旬報 2020年12月11日-12月20日

Contents

12月13日「南シナ海で米中の対決は避けられないのか-米専門家論説」(19fortyfive, December 13, 2020)

 12月13日付の米安全保障関連シンクタンク 19fortyfiveのウエブサイトは米ミシガンを拠点とする著述家Peter Suciuの“South China Sea: Is A U.S.-China Showdown Inevitable?”と題する論説を掲載し、ここでSuciuは米国が強襲揚陸艦「マキン・アイランド」両用戦即応群を南シナ海に派遣する一方、中国はType056Aコルベット3隻等による密度の高い演習を展開して対抗する最近の状況に関し、北京は米国海軍の係争中の南シナ海への展開は地域の安定を損なっていると非難する一方、海域の主要な部分は中国の領土とする主張に対し米国は「航行の自由」作戦によって異議を唱えてきたとして米中の対決の可能性について悲観的論調により要旨以下のように述べている
(1) 12月6日、米艦艇が南シナ海に展開した後、中国は米国が「軍事力を誇示」したと非難した。ニューズウィーク誌によれば、中国共産党系『環球時報』は、米両用戦即応群の南シナ海への展開は「脅しと軍事力の誇示であり、地域の安定を損なう」と非難している。米海軍の行動を追跡している中国のシンクタンク南海戦略態勢感知計画によれば、米強襲揚陸艦「マキン・アイランド」とドック型揚陸艦「サマセット」は12月6日に地域に入り、「サマセット」はフィリピンに向かう一方、「マキン・アイランド」は南シナ海の台湾南方海域に進んだ。
(2) 米太平洋艦隊報道官は「米国は地域と自由で開かれたインド太平洋の安定にコミットしており、10年以上にわたって部隊は定常的に南シナ海を含む地域で行動している。我々の行動は全て国際法に基づいて実施されており、米国は国際法が認めるいずれの場所でも飛行し、航行し、行動する」と述べている。「マキン・アイランド」両用戦即応群とそこに乗艦する第15海兵遠征部隊の到着はインドネシア、フィリピンを含むChristopher Miller国防長官代行のアジア歴訪と連動していた。
(3) 米艦艇の展開に対応して人民解放軍海軍はType056Aコルベット3隻を含む艦艇を派遣し、実弾射撃等の訓練を実施した。国営中央電視台はType056Aコルベットがミサイル防御、敵艦艇に見立てて模擬目標の破壊の訓練を実施したと報じている。中国は、2020年1月の時点でType 056Aコルベットを44隻建造しており、9隻が建造中と考えられている。Type 056Aコルベットは人民解放軍海軍を急速に拡大する努力の重要な部分をなしている。
(4) 北京は、米海軍の最近の係争中の南シナ海への展開は地域の安定を損なっていると非難し、一方、海域の主要な部分は中国の領土とする主張に対し米国は「航行の自由」作戦によって異議を唱えてきた。タカ派の『環球時報』は「誰がホワイトハウスに座ろうと中国は南シナ海あるいは台湾海峡で米国との戦いに備えなければならない」と警告している。
記事参照:South China Sea: Is A U.S.-China Showdown Inevitable?

12月14日「サウジアラビア沖でシンガポール籍タンカーが攻撃を受ける―香港紙報道」(South China Morning Post, 14 Dec, 2020)

 12月14日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版はAFP通信が配信した“Singapore-flagged oil tanker hit by ‘external source’ off Saudi Arabia”と題する記事を掲載し、サウジアラビア沖でタンカーが攻撃を受けたことと、それに関連したイエメンでの紛争について要旨以下のように報じている。
(1) 12月14日、サウジアラビアの港湾都市ジッダ沖で、シンガポール籍の石油タンカーの爆発が発生した。同船の所有者はサウジのエネルギー関連施設に対する一連の攻撃の最新のものであると述べた。どの組織も今のところこのタンカー「BWライン」の爆発に対する犯行声明を出していないが、リヤドが主導する5年にわたる軍事作戦に関連して、イランが支援するフーシが隣国イエメンにおいて越境攻撃に強化していることによるものである。
(2) 「『BWライン』は、ジッダでの陸揚げ中に外部からの攻撃を受けた・・・それが船上で爆発とその後の火災を引き起こした」と、その所有者であるシンガポールを拠点とする海運会社Hafnia社は声明で述べ、「乗組員は、沿岸消防隊とタグボートの支援を受けて火を消し、全船員22名に負傷者はいないことが確認された」と付け加えた。
(3) ロンドンに拠点を置く海洋情報会社Dryad Global社はまた、「Saudi Aramco Jeddah社の中心的なタンカー停泊地内で作業を行っていた」最中に爆発が起きたと報告した。ただし、それはドミニカ船籍のタンカーである「デザート・ローズ」またはサウジアラビア船籍の「アル・アマル・アル・サウジ」を標的とした可能性があると明らかにした。
(4) この事件は11月にサウジアラビア南部のシュカイク港に停泊していたギリシャが運営する石油タンカーが爆発した後に発生した。それは、リヤド主導の軍事連合がイエメンの反政府勢力であるフーシの責任にした攻撃である。11月、反政府勢力のフーシは彼らがSaudi Aramco Jeddah社が運営する工場をQuds-2ミサイルで攻撃したと述べている。Saudi Aramco Jeddah社はその攻撃が石油タンクに穴を開け爆発と火災を引き起こしたと述べた。これらの事件はサウジアラビアの石油インフラの脆弱性を強調しているが、それはフーシがイエメンでの軍事作戦への報復としてサウジアラビアへの攻撃を拡大させているためである。サウジアラビアはイエメンで軍事的窮地に陥っており、反政府勢力が2014年に首都サナアを支配し、北部の大部分を掌握するために進行して以来、紛争が膠着状態に陥っている。
(5) リヤドは2015年に国際的に承認された政府を支援するため介入した連合を率いていたが、それ以来、この紛争は一向に収まる気配を見せていない。サウジアラビアは、地域のライバルであるイランがフーシに高度な武器を供給していると繰り返し非難してきたが、テヘランは嫌疑を否定している。
記事参照:Singapore-flagged oil tanker hit by ‘external source’ off Saudi Arabia

12月14日「東シナ海での不測の事態において日本はどのような貢献ができるか―米政治学者報告」(RAND Corporation, December 14, 2020)

 12月14日付の米シンクタンクRANDのウエブサイトは同所政治学者Jeffrey Hornungの“Japan's Potential Contributions in an East China Sea Contingency”と題する報告書を掲載した。ここでHornungは東シナ海において不測の事態が生起し、米国と中国の大規模な武力衝突にエスカレートした場合に日本がどのような役割を演じることができるかを日本の自衛隊の能力や自衛隊の武力行使及び米国の在日米軍基地利用に伴う法的問題について検証しつつ、要旨以下のように論じている。
(1) 調査項目は以下のとおりである。
a. 東シナ海で不測の事態が生じ、米中が大規模な戦闘状態に突入した際に日本は何ができるか。
b. 自衛隊の強点と弱点は何か。
c. 上記のような戦闘のために米国軍が在日米軍基地を利用すること、自衛隊に武力行使を認めることなどに影響を及ぼす日本の法的・政治的要因は何か。
d. 地域の不測の事態への対応のために日本はどのように準備できるか、またその際、米国は日本をどのように支援できるか。
(2) 調査結果は以下のようにまとめられる。
a. 陸上自衛隊は近年その機動力を向上させてきたが、情報収集のための資源の整備に関しては不十分である。航空自衛隊の装備は先進的であるが、空中給油能力などの兵站支援能力に欠けている。海上自衛隊も対潜戦遂行能力の高さなどの強みはあるが、同様に兵站に問題を抱えている。
b. 総じて自衛隊は米軍との高いレベルの相互運用性やミサイル防空システムなどにおいて強みがあるが、兵站の問題、3部門の統合の不十分さの問題、部隊の老齢化・老朽化という問題を抱えている。
c. 憲法9条の制約はあるが、それでもなお不測の事態において、武力行使を含め日本が米国を支援できる領域はある。また米軍は、日本の防衛に直接関係ない戦闘のための在日米軍基地の利用に関して日本との事前協議を必要とする。
(3) 日本に対する勧告は次のようにまとめられよう。海上輸送や空中給油能力を整備することによって兵站の問題を解決すること、ミサイル防空システムをさらに強化し統合すること、自衛隊の統合性を高めること、そして数千の島々で構成されているという地理的環境を活用することである。最後の点について現時点ではごくわずかな場所にしか自衛隊のアセットが配備されていないのが問題である。
(4) 米国への勧告は次のようにまとめられよう。まず事前協議を前向きに進めるための条件を整えること、つまり潜在的な不測の事態についてより頻繁に話し合っておくということである。また、日米同盟に対する日本の貢献については、防衛支出の増額などに焦点を当てるべきである。ただしNATOの2%基準のような短絡的な要求は避けるべきだ。日本政府との政治的つながりを維持し、また、宇宙やサイバー領域における研究開発について日本を支援することが必要であろう。
記事参照:Japan's Potential Contributions in an East China Sea Contingency

12月15日「印豪提携の強化とその効果―インド専門家論評」(Policy Brief, Delhi Policy Group, December 15, 2020)

 12月15日付の印シンクタンクDelhi Policy GroupのウエブサイトPolicy Briefは同シンクタンク海洋戦略担当上席研究員Lalit Kapur印海軍退役准将の “India and Australia: Partners for Indo-Pacific Security and Stability”と題する長文の論説を寄稿し、インド太平洋の安全と安定に対する課題を検討した上、印豪両国が望ましい目的を共に達成するためには何をなすべきかを考察し、最近におけるインドとオーストラリアの提携関係の強化がインド太平洋の安全と安定にもたらす効果について要旨以下のように述べている。
(1) インドとオーストラリアは2020年6月4日、2009年に結成した戦略的提携を「相互理解、信頼、共通の利益、及び民主主義と法の支配に基づく共通の価値観」に立脚した包括的戦略的提携に昇格させた。強化された提携を推進する11の柱には、「開かれた包括的なインド太平洋のための海洋協力」及び防衛協力が含まれている。印豪両国は「インド太平洋地域における平和、安全、安定そして繁栄を促進する」とともに、「主権と国際法の遵守に基づく法に基づく海洋秩序を支援する」ことを主とするインド太平洋における海洋協力に関する共通のビジョンにも合意した。
(2) 印豪両国間の戦略的協力はアジアの海洋という共有物が自由で開かれた状態であり続けることを保証することを目的とした、より大きな構想の一部でなければならない。インド太平洋における印豪両国の共通の目的は「主権と法の支配に基づく秩序を維持しながら、相互に連結されたインド太平洋における安定し、安全な共有物を維持する」ことと定義し得る。この目的達成のためには、圧倒的なパワーを持つ国が当然の如く自らの意志を域内諸国に押しつけたりすることができないようにするために、中国との間でバランスを維持することが不可避であろう。
(3) 中国が域内支配のために威圧的な動きを変えることはなさそうだとすると、目的達成への可能な道は単独行動、2国間協力、そしてより大きな多国間協力メカニズムの一員としての行動という三つが考えられる。以下にそれぞれのメリットを考えてみよう。
a. 単独行動:如何なるアジア諸国も現在、中国とのバランスを自力で維持するに必要な能力も資源を持っていない。
b. 2国間協力:
①協定に基づく協力:印豪防衛協力は、2006年3月6日調印の防衛協力に関する最初の了解覚書以来、2009年11月12日の安全保障協力に関する共同宣言、2014年11月18日の安全保障協力の枠組み合意、2020年6月4日の包括的戦略的パートナーシップに関する共同宣言、及びインド太平洋における海洋協力に関する共通ビジョンの合意と続いてきた。 
②2国間対話:印豪両国は2017~2019年の間、毎年2+2外交・防衛閣僚レベル会合を開催後、今後は2年毎に開催を約束。その他の実施中の2国間対話としては、印豪海洋対話、トラック1.5防衛戦略対話、軍参謀会議及び定期的首脳会談などがある。
③軍事交流:多くの2国間演習が実施されている。豪フリゲート「バララット」は2020年11月に多国間演習、マラバールの全日程に参加した。
④活動範囲拡大のための海洋状況把握と対策:2015年10月以降、沿岸警備隊による情報交換協定が実施されている。印豪両国は2020年6月4日、相互兵站支援に関する協定に調印した。 
⑤しかしながら、印豪両国間の技術力と、運用する艦艇、航空機との間には格差がある。両国間には、防衛産業と科学技術部門との相互協力に関する合意があるが、現在までのところ有意義な成果が得られておらず、大いに努力する必要がある。 
⑥以上のように、印豪両国間の2国間安全保障協力は拡大し続けているが、地理的に隔たっているが故に、安全保障に対する認識が異なっている。インドの主たる関心領域はヒマラヤ中印国境とインド洋だが、オーストラリアのそれが、アジア太平洋を越えて東インド洋にまで拡大されてきたのはごく最近に過ぎない。印豪両国のISR能力と軍事力は他のインド洋諸国のそれらをはるかに凌駕しているが、この地域の広大な領域をカバーするには小さすぎる。したがって、印豪両国にとって限られた資源を調整し、相乗効果を期待すべき必要性は自明であり、そのための理想的な相互補完領域はインド洋と太平洋の連結部にある。
c. より大きな多国間協力メカニズムの一員としての行動
①米国の力に裏打ちされたより大きな地域機構は、中国とのバランスを図る上で最良の選択肢を提供する。このためには2020年11月の日豪首脳会談で強調されたように、米国をアジアに関与させ続けるための継続的な努力が必要となる。 
②このような機構は既に存在している。4カ国安全保障対話(以下、Quadと言う)、全Quad構成国同士の2国間2+2会合及びマラバール演習はこれらの機構の一部だが、Quadは現在のところ対中抑止ではなくソフトなバランス維持を主たる狙いとしている。責任を分担し、資源をコミットし、そして協力を制度化するための合同戦略を策定する必要がある。 
③Biden次期政権下のインド太平洋における米国のコミットメントと指導力は依然不確定であり、Trump政権下で見られた強固なインド太平洋戦略には及ばないかもしれない。例えば、インド洋と太平洋の連結部における米海軍の継続的なプレゼンスを可能にする米海軍の第1艦隊復活構想が日の目を見るかどうかは、今後を待たなければならない。 
④したがって、米国のバックアップを受けた、有志国家同士による地域的行動の強化に基づく抑止が必要となる。このことはインドとオーストラリアの間に位置する東南アジア諸国にとって最も切実な課題であり、印豪両国とQuadの他の2カ国(日米両国)は、地域諸国間の信頼を強化するため個々のアプローチの相乗効果を高めなければならない。
(4) 印豪両国にはこの先二つの選択肢がある。第1の選択肢は現在のアプローチを継続することだが、それは米国の積極的な関与次第である。第2の選択肢は、抑止力強化に向けて協働するために、インド、オーストラリアそして日本に加えて、ベトナム、インドネシア、フランス、英国及びドイツなどのその他の潜在的な提携国の力を糾合すべく主導権を発揮する必要がある。しかしながら中国が持つ経済的果実の誘惑に抵抗するのは容易ではない。結果的に中国中心の経済圏を作り出すことになるオーストラリアと日本を含むアジア太平洋諸国による「地域包括的経済連携協定」(RCEP)の締結は、この現実を浮き彫りにしている。
(5) 東アジア首脳会談の経験は修正主義的大国に対処する上で弱体な多国間機構が不適切であることを実証してきた。アジアにおける地政学的抗争が激化するとともに、米国が内向きになるにつれてアジアのミドルパワーが不可避的に中国とのバランスを維持する責任を負う必要性はますます強まっている。インド洋地域で最も整備された海軍力を持つ民主主義の中流国家である印豪両国は日本とオーストラリアが西太平洋や南太平洋で実施しているのと同じようにインド洋地域でこうした責任を引き受けるのに最適の国である。このような責任を引き受けることで「自由で開かれたインド太平洋」の維持にコミットしている米国、フランス及びその他の諸国の力を糾合することもできよう。とは言えまずは印豪両国はより強い決意と緊急性を持って2国間の戦略、海洋安全保障及び経済協力を強化しなければならない。 
記事参照:India and Australia: Partners for Indo-Pacific Security and Stability

12月16日「ロシアと中国がインド洋での連携促進―米専門家論説」(The Interpreter 16 Dec 2020)

 12月16日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe InterpreterはStanford UniversityのThe Freeman Spogli Institute研究員兼The American Enterprise Instituteの外交・防衛政策研究員Oriana Skylar Mastroの “Russia and China team up on the Indian Ocean”と題する論説を掲載し、ここでMastro は中ロがインド洋において強力な影響力を持ちつつあるので米国とその同盟国は国際ルールと規範を保護し、地域の平和と安全を確保するために行動しなければならないとして要旨以下のように述べている。
(1) 最近の2回のインド洋における中ロの海軍演習は両国の海軍協力の可能性と両国がこの地域における米国の継続的な役割と影響力に対しどちらか1国が個別に行うよりもはるかに大きな脅威を示している。2019年、南アフリカは中ロと初めての3カ国共同海軍演習を主催した。その演習Mosiは南アフリカ海軍によると「相互運用性と海洋安全保障を強化する」ように計画され、テロや海賊行為などの海洋における安全保障上の脅威に対抗するために協力する3カ国の意欲を示した。社会的、文化的活動、水上射撃訓練、他艦へのヘリコプター発着艦訓練、臨検訓練、災害対処訓練などに焦点を当てた演習が行われた。中ロは、その後2019年12月にオマーン湾でイランとの3カ国によるMarine Security Belt演習を実施した。その演習では実弾射撃訓練とイラン軍司令部を含む海賊対処訓練が行われた。イラン海軍司令官によると、演習のメッセージは「イランを孤立させない」というものであった。中国の報道官は「演習は3カ国の海軍間の交流と協力を深め、世界の平和と海洋安全保障を共同で維持する強い意志と能力を示すことを目的としている」と述べている。 
(2) 中国もロシアもインド洋でのプレゼンスを徐々に高めている。ロシアは最近、紅海沿岸のポートスーダンに海軍基地を設置すると発表した。中国は2017年にジブチに初の海外拠点を開設し、中国海軍は過去30年間にインド洋地域での活動を増やしてきた。新型コロナウイルス感染拡大は今年の協力に向けたさらなる動きを鈍化させたかもしれない。しかし、3カ国共同演習はロシアと中国がこの地域で協力したいという願望を示している点で注目に値する。さらに重要なことは南アフリカやイランなどの地域の大国や他の国々が、中国とロシアの役割の増大を歓迎することを明らかにしていることである。南アフリカが2018年に3カ国共同演習実施に合意したとき、南アフリカと米国の関係はすでに緊張していた。米国は南アフリカの国連投票行動に批判的になっていた。米国は、南アフリカに対し鉄鋼とアルミニウムの米国への輸入に対する関税の引き上げを免除することを拒否した。対照的に中国は南アフリカにどの国よりも多くの投資を約束している。ロシアは、サハラ以南のアフリカ全域で政治的、軍事的、商業的な関係を築いてきた。イランは中国やロシアとの良好な関係を築く理由が増加している。2018年に米国がイラン核合意から撤退して以来、イランは中国とロシアとの関係を強化し、両国からの数十億ドル規模の融資を利用して米国の制裁に抵抗し、防衛協力と情報共有を深めてきた。中国の情報筋によると中国の長年の提携国であるスーダンは2017年に米国の攻撃的行為に対する「相殺勢力」としてロシアに基地を提供することを提案した。言い換えれば中国とロシアは、この地域で米国とその同盟国と競争するための良い拠点を持つであろう。
(3) ロシアは、中国よりも米国に対する反対勢力を組織し、リーダーの役割を果たす意思があるかもしれないが、そのような協力をインド洋諸国から勝ち取るための経済的な力を持っていない。中国はかなりの資源を持っているが、米国を挑発し、すでによくない関係をさらに悪化させる可能性を持っている。中国はしばしば、自国のことを覇権的行動に従事しない異なるタイプの大国であると主張している。中国は、自国に対抗する国際的な連合が作られるのを避けることに熱心である。これらの理由から中国はしばしばロシアとの関係に関する主張をトーンダウンさせる。中国はインド洋での演習は「第三者を目標としていない」と述べた。しかし、ロシアにとって米国を弱体化させることは戦略の重要な要素であり国内政治においても有益である。一方、中国はインド洋諸国に影響力を振るうための多額の投資を行う経済力を持っている。パキスタンだけでも中国は推定870億ドルの資金援助を約束し、約200億ドル相当のプロジェクトを完了した。最近、中国とイランは石油と引き換えにイランの銀行、通信、港湾、鉄道への投資を拡大する25年間の契約に合意したと伝えられている。中国とロシアはインド洋地域で軍事的に支配している場所はどこにもないが、その影響力を合わせると、米国とその同盟国にとって大きな問題となるであろう。中ロ両国は協力して、人権侵害を含む国際的な圧力を各国に与える可能性が高い。そして各国は協力の見返りに軍事的アクセスなどの安全保障上の利益と経済的利益を受け取る可能性がある。
(4) 中国とロシアは、インド洋における戦略的調整を強化する速度は遅いかもしれないが、両国の意図はそのような見返りにある。米国とその同盟国は依然として軍事的には優勢であるかもしれない。しかし、我々は、この軍事的優勢により影響力がこれからも保証されるという錯覚に陥らないように注意する必要がある。中国とロシアが強力な代替として自らを提示する中で、米国とその同盟国は持続可能な経済発展を促進し、国際ルールと規範を保護し、地域の平和と安全を確保するためにより懸命に行動しなければならない。
記事参照:Russia and China team up on the Indian Ocean

12月16日「中国空母『山東』、公試完了。戦闘即応能力については言及されず-香港紙報道」(South China morning Post.com, 16 Dec, 2020)

 12月16日付の香港日刊英字紙South China morning Post電子版は“China’s Shandong aircraft carrier completes sea trial but no word on basic combat readiness”と題する記事を掲載し、中国の国産空母「山東」の公試が終了したが、「山東」はまだ初度作戦能力を取得していないとして要旨以下のように報じている。
(1) 中国初の国産空母は23日間の渤海における第3回海上公試を終え、12月13日に母港
大連に帰投した。しかし、コロナウイルスの世界的な感染拡大で試験予定が大きな打撃を受け、戦闘即応体制に達するにはまだ時間が必要である。公試の終了は、空母が基本的な戦闘即応能力である初度作戦能力を早ければ2021年始めには獲得するだろうと報じられている最中であった。
(2) 人民解放軍の部内者は、感染拡大を制御することに乗組員は多くの時間を割かれ、訓練
予定が遅れているとして「全乗組員は乗艦前に2週間隔離され、・・・帰投後さらに3週間隔離される。『山東』が全ての試験を完了し、初度作戦能力を2021年初頭に獲得できるかは感染拡大次第である」と匿名を条件に述べている。
(3) 香港の親中国紙文匯報は12月14日に民間衛星の画像が初めて公試中の「山東」の近くを潜水艦が航行しているのを明らかにしたと報じている。専門家は、これは中国の核弾道装備の弾道ミサイルを搭載した潜水艦を援護する空母の能力を改善するための訓練の一部であろうと述べている。分析者は、第1回の公試から潜水艦は「山東」に随伴していたと指摘している。北京を拠点とする軍事専門家周晨鳴は「空母は潜水艦を援護する必要があり、空母が公試の際に潜水艦と訓練することは通常のことである。しかし、『山東』がいつ戦闘即応体制になるかを推測することは依然時期尚早である」と述べている。
(3) 台湾海軍軍官学校の元教官呂禮詩は、空母「山東」に原子力潜水艦が帯同していること
は中国の核能力についての米国へのシグナルではないかとして、「中国のType094(晋級)弾道ミサイル搭載原子力潜水艦は核抑止力強化のために必要とされている。もし同級がハワイ近くまで進出できれば、米本土のいかなる場所も攻撃することができる。しかし、潜水艦は空母打撃群の援護を必要とする。『山東』に初めて原子力潜水艦が随伴していたことは最近の公試の結果が良好であったことを意味するかもしれない」と述べている。現在、姉妹艦「遼寧」だけが初度作戦能力を有する空母である。
記事参照:China’s Shandong aircraft carrier completes sea trial but no word on basic combat readiness

12月17日「インド太平洋における米中抗争、域内各国の対応:オーストラリアとニュージーランド―RAND報告書」(RAND Corporation, December 17, 2020)

 12月17日付の米シンクタンクRAND研究所のウエブサイトは“Regional Responses to U.S.-China Competition in the Indo-Pacific: Australia and New Zealand”と題する報告書を公表した。これは、同研究所が11月12日に公表した“Regional Responses to U.S.-China Competition in the Indo-Pacific”という報告書の各国別報告書の中の一つ、オーストラリアとニュージーランド編である。以下、この報告書の調査項目および調査結果、そして米国への勧告事項を要約する。
(1) 調査項目は以下の二つである。
a. オーストラリアおよびニュージーランドは、より独断的になっている中国の行動や米中対立の高まりをどう認識し、それにどう対応しているのか
b. 米国は、中国の影響力に対抗し、インド太平洋地域における共通の利益を守るために両政府とどう共同すべきか。
(2) 調査結果は以下のようにまとめられる。
a. 中国の台頭によって地域の安全保障環境がますます複雑になっているなか、オーストラリアにとって米国との同盟はその安全保障の要石である。他方オーストラリアにとって中国は経済的に重要な提携相手でもあり、その安定的な関係維持は重要な課題である。ただし、オーストラリアは中国が太平洋島嶼部に影響力を拡大していることを懸念しており、自国の復権を模索している。
b. ニュージーランドにとっても、中国は経済的に重要なパートナーであるが中国の台頭に伴う課題に直面してもいる。とりわけグローバルな秩序がこれからも維持されるかどうかが懸念事項である。それに対しニュージーランドもまた米国との安全保障協力の強化によって対応してきた。そして太平洋島嶼部への関与を深めようとしている。
(3) 米国への勧告は以下のとおりである。
a. 米太平洋空軍と米空軍はオーストラリア北部への爆撃機部隊の輪番配備を検討するなど、2国間の航空協力をより進展させるべきである。また、オーストラリア及びニュージーランドそれぞれとの間で訓練や情報交換、基幹設備への投資における相互協力を一層進めるべきである。
b. 統合軍は、宇宙部門における米豪および米・ニュージーランド間の協力を推進し、また米豪間においてサイバーや電子戦争の領域における協力を強化すべきだ。そのための能力開発のための研究開発についても協力を深めるべきだろう。
c. 米政府は、オーストラリアとニュージーランドが太平洋における主導的立場を確立することを支援すべきである。また、日本や韓国などの同盟国や、インドやインドネシアなどの提携国との協力および関与を両国政府に推奨するべきである。
記事参照:Regional Responses to U.S.-China Competition in the Indo-Pacific: Australia and New Zealand
Full Report
https://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/research_reports/RR4400/RR4412z1/RAND_RR4412z1.pdf

12月17日「中国が海南島の海軍基地を空母のために強化―仏海軍関連サイト報道」(Naval News, December 17, 2020)

 12月17日付の仏海軍関連ウエブサイトNaval Newsは海軍に関するアナリストであるH I Suttonの“Beijing Upgrading Naval Bases To Strengthen Grip On South China Sea”と題する記事を掲載し、ここでSuttonは中国が海南島の海軍基地をその空母の拠点として強化しているとして要旨以下のように報じている。
(1) 中国の海南島南端の三亜の基地がこの1年で大幅に強化されている。新しい衛星画像はそこに新しいドライドックの建設が着実に進んでいることを示している。それは、中国の新しいType003型空母にとって十分な大きさがある。ドックの建設は2016年に開始され、現在は完成に近づいているように思える。衛星画像でしか観測ができない新しい構造物と同様に、その目的を評価するにはある程度の不確実性がある。しかし、我々は、現段階でこれが実際に巨大なドライドックであることを確信している。
(2) 海南島にドライドックができることで海南島での海軍の配備が大幅に強化されることになる。これは空母がこの島に恒久的に拠点を置くことを示している。近くには、すでに空母が使用したことのある桟橋があり、現在、最新のType075強襲揚陸艦がそばに停泊していた。これは、フルサイズの空母2隻を収容することができることを意味する。
(3) 中国は空母艦隊の構築を進めており、今までで最大のType003が上海で建造中である。Type003はロシアのクズネツォフ級空母の設計に基づいていた最初の2隻の空母よりも著しく大きくなる。最初の2隻はクズネツォフ級と同様に航空機の発艦はスキージャンプ方式を使用していたがType003は米海軍のフォード級空母と同様の電磁カタパルト(Electromagnetic Aircraft Launch System:EMALS)を搭載すると予想されている。EMALSにより、KJ-600早期警戒機のような、より重量のある航空機の発進が可能になる。
(4) この新しい施設は海南島の既存の海軍基地との関連性を考慮しなければならない。海南島に展開する部隊には原子力潜水艦、通常動力型潜水艦、そして大規模な水上艦部隊が含まれている。したがって新施設は中国海軍の重心を南シナ海へ転換する一環である。
記事参照:Beijing Upgrading Naval Bases To Strengthen Grip On South China Sea

12月17日「米海軍・海兵隊・沿岸警備隊、新たな海洋戦略公表―米海軍協会報道」(USNI News, December 17, 2020)

 米海軍・海兵隊・沿岸警備隊は12月17日、Advantage at Sea; Prevailing with Integrated All-Domain Naval Power*と題する3軍種による統合海洋戦略を公表した。この種の戦略としては2015年に公表されたA Cooperative Strategy for 21st Century Seapower以来のものである。
US Naval InstituteのWebサイト、USNI Newsは12月17日付で“Sea Services: More Assertive Posture Against China Will Require Presence, Strong Alliances”と題する記事を掲載し、本戦略について詳細に解説している。それによれば、この新戦略は、主として現実に海洋で生起している日常的な抗争相手である中国に対抗するために如何なる準備をすべきかについて述べたものであり、中国とのハイエンドな戦いに備えた3軍種の協同の必要性に加えて、中国が現在遂行している、しばしばグレイ・ゾーン活動(gray-zone operations)と称される日常的な抗争(the day-to-day competition)に対抗するための「戦略」と「適切なツール」の必要性を強調したものである。そして、この新戦略は日常的な抗争、危機(crisis)そして武力紛争(conflict)を連続的な流れとして捉え、3軍種がそれぞれの段階においてどのような役割を果たすことができるか、そして各軍種が成功裏にそれぞれの役割を遂行するためにはどのような新しいツールと運用コンセプトが必要かを詳細に検討している。
以下は、USNI Newsが抽出した新戦略の要点(原典関連部分)の抄訳である。
(1) Advantage at Seaは、現代における世界の平和と繁栄にとって、最も大きな二つの脅威―すなわち、中国とロシアに焦点を当てた3軍種の海洋戦略である。我々は中国との日常的な抗争を最優先している。何故なら、中国はその経済力と軍事力を増強し、高圧的姿勢を強めるとともに、周辺海域を支配し、国際秩序を自らに有利に改変しようとする意図をあからさまにしているからである。中国が権威主義的な利益を促進するために力を誇示するのではなく、責任ある利害関係国として行動することを選択しない限り、中国は、米国、同盟国そして自由で開かれた秩序を支持する全ての国家にとって最も重大な脅威である。
(2) 中国は海洋国家である米国の核心を突いた戦略と修正主義的なアプローチを遂行してきた。中国は国際的な海洋ガバナンスを侵食し、伝統的な兵站拠点へのアクセスを拒否し、海洋の自由を侵害し、重要なチョークポイントの利用を管制し、地域的紛争への米国の関与を拒否し、更に世界中で好ましいパートナーとして地位を米国から奪おうとしている。
(3) 統合された海軍力は、抗争の連続的な流れの中における作戦に特有の対応をする。沿岸警備隊は、その任務内容から(中国の)威圧的行動に対抗できない多くの国にとって、好ましい海洋安全保障パートナーとなっている。沿岸警備隊の独自の権限―海洋法執行、漁業保護、海洋の安全と保安―を、海軍及び海兵隊の能力と統合することによって、協力と抗争の両面で統合部隊指揮官の選択肢を拡大することができる。武力紛争時には、海軍と海兵隊を統合し、分散した艦隊作戦と、制海能力と海洋拒否能力を持つ機動・遠征部隊とを合体させることで制海能力を拡充する。これらの作戦は我が望む時と場所で部隊が戦闘力を集結できるようにするために、海上配備火力と陸上配備火力を効果的に組み合わせる、海軍の運用コンセプト―「分散型海洋作戦(Distributed Maritime Operation)」、「脅威環境下における沿海域作戦(Littoral Operation in a Contested Environment)」及び「遠征前進基地作戦(Expeditionary Advanced Base Operation)」に基づいている。より緊密な統合によって我が部隊はより広範に分散し、タイミング、場所、ドメイン、部隊及び活動を変化させることで抗争の連続的な流れの中で我の作戦の予測不可能性を高めることができよう。
(4) 海洋における日常的な抗争:国際的及び米政府全体の取り組みと協働して、海軍は国際法に違反し、資源を盗み、そして他国の主権を侵害する、我々の抗争相手の行動を発見し、立証する。我々は、こうした行動を暴き、侵略者の信用を貶めるために悪質な活動の証拠を米国と国際機関に提供する。前方配備の海軍部隊は、我々の補完的な法執行機関と軍事能力を活用して強固な作戦を通じて悪意ある活動を阻止する態勢にある。我々の拡大された取り組みは、我々の抗争相手の虚偽に満ちた説話に反駁し、規則に基づく秩序を守る米国のコミットメントを誇示するものである。
(5) 危機への対処:海軍は危機に対処し、エスカレーションを管理し、そして国家指導者の意思決定の余裕を確保するために柔軟な選択肢を提供する。海軍はグローバルな機動力を有し、継続的に前方で活動しているために危機が生起した時点で既にその現場に展開している場合が多々ある。我々の海軍を遠海域―危険で脅威環境下―で運用することは、エスカレーションを目論んでいる抗争相手にとってのリスクを高め、危機が戦争にエスカレートすること阻止することになる。海軍と海兵隊は可視的な戦闘即応態勢を誇示する。他方、沿岸警備隊は、海洋での対峙を非軍事的に緩和させ得る能力を通じて、危機管理のための追加的ツールを提供する。
(6) 武力紛争への対応:
a. 海洋を支配することで、海軍は、統合軍の行動を支援するために戦力を投射でき、紛争地域に急派される統合軍と同盟国軍を防護することができる。敵が公海を航行せざるを得ない場合、海洋拒否能力は、敵から主導権を奪い、既成事実化を妨害し、そして敵の目標達成を阻止する。我々は敵艦隊を破壊し、行動不能な海域に敵艦隊を封じ込め、敵艦隊の出撃を阻止し、あるいは海上交通路を支配することで、海洋を管制するか、敵の利用を拒否する。我々は同盟国やパートナー諸国と協力して、重要なチョークポイントを管制できるであろう。
b. 我々の戦闘作戦は、統合軍を支援し、またそれに支援される。海軍、海兵隊及び空軍の航空機は統合空中給油機に支援されて制空権を維持する。揚陸された海兵遠征部隊は、情勢認識能力を支援し、前進拠点における再武装と給油ポイントを提供し、そして敵による重要海域の利用を拒否する。急速展開可能な沿岸警備隊巡視船や港湾警備隊などは専門的な能力を提供し、戦域での作戦を強化する。統合長射程精密攻撃はハイ・バリューな敵の標的を危険に晒し、米軍と同盟軍は敵艦隊の破壊に集中できるようになる。
c. 同盟国とパートナー諸国は、戦闘作戦において能力、規模及び正統性を付加する。また、これら諸国は、他の地域での機会主義的な侵略を抑止するとともに、海洋ガバナンスを維持し、悪意ある行動を暴く上でも重要な役割を果たす。
記事参照:New U.S. Maritime Strategy Sets Sights on China
備考*:Advantage at Sea; Prevailing with Integrated All-Domain Naval Power
(関連記事)
12月17日「米海軍・海兵隊・沿岸警備隊統合戦略文書のリリース―米海兵隊ウエブサイト報道」(Marines, December 17, 2020)
 12月17日付の米海兵隊公式ウエブサイトMarinesは“NAVY, MARINE CORPS AND COAST GUARD RELEASE MARITIME STRATEGY”と題する記事を掲載し、米海軍・海兵隊・沿岸警備隊が公表した新たな3部門統合海洋戦略「海洋における優位」の概要について要旨以下のとおり報じている。
(1)「海洋における優位」は海洋における日々の競合、危機、将来起こりうる紛争において勝利するための戦略的指針である。同文書が提案するのは、3部門の統合のさらなる推進、部隊の積極的な近代化、そして同盟国や提携諸国との安定的な協力の継続である。同文書の前書きでMichael M. Gilday海軍作戦部長、David H. Berger海兵隊司令官、Karl L. Schultz沿岸警備隊司令官は「今後10年のわれわれの動き如何で、この世紀の残りの期間の海上でのパワーバランスが決定づけられる」という強い決意を述べた。
(2)「海洋における優位」が焦点を当てるのはロシアと中国である。これらの国々は海での攻勢を強め、重要な国際的海域を支配しようとする明白な意図を持っている。彼らの取り組みは「自由で開かれた国際秩序を台無しにしようとする」ものであり、また両国の海軍力増強は「米国の軍事的優位を侵食している」と述べられた。海は米国の繁栄と安全保障にとってだけでなく、あらゆる国家にとって重要なのである。
(3) 「海洋における優位」は3部門それぞれの部隊の近代化を迅速かつ積極的に進めるよう提唱する。将来的な海上戦力は従来の軍事資源に加え、より小型の船舶や軽量の水陸両用戦艦艇、近代化された航空機、種々の有人・無人艦艇、航空機などを備えたものであるべきである。兵站の拡大も必要となるであろう。また各部門は、海軍、海兵隊、沿岸警備隊が世界最高峰を維持することを確実にするため、戦闘要員を育成し、革新的な教育訓練を提供しなければならない。
(4) 「海洋における優位」はまた3部門の統合のさらなる推進を提唱する。それは教育訓練、性能と経験、分析と机上演習、投資と革新、部隊設計などの領域における統合である。それに加えて、同文書は同盟国や提携国との協力関係の強化を提唱する。それによってこれら3部門はシー・ディナイアルとシー・コントロールを確立することができるようになるであろう。沿岸警備隊総司令官Schultzはこう述べる。アメリカは「海での脅威に対抗し、ルールに基づく秩序を守るために、世界の海軍や沿岸警備隊と共同している」と。
記事参照:NAVY, MARINE CORPS AND COAST GUARD RELEASE MARITIME STRATEGY

12月17日「北極圏において米国が必要とする戦略とは―米軍事専門家論説」(USNI News, December 17, 2020)

 12月17日付のU.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは米海軍関連誌Navy Timesの元編集長で現在は米陸軍協会通信部長John Gradyの “U.S. Needs ‘Resilient’ Strategy to Counter China, Russia in Arctic, Experts Say”と題する論説を掲載し、ここでGradyは12月15日に米シンクタンクHudson Instituteが開催した北極圏安全保障の専門家たちによるオンラインフォーラムの内容について、ロシアと中国が北極圏に勢力を拡大しようと模索し米国に安全保障上および経済的な問題がつきつけられている昨今、それに対抗するために米国が必要としているのは「打たれ強い」人員及び装備であるとして要旨以下のように述べている。
(1) 北極圏はその環境ゆえに軍事作戦の展開が非常に困難な地域であり、それは温暖化とそれによる海面上昇が続く近年においてもそうである。他方、気候変動は北極圏航路の利用や同地域における資源開発及び利用をより魅力的なものにしており、それがこの地域にロシアや中国が影響力を拡大しようとしている背景である。ロシアは北極圏を「第4の壁」として、「他国と競合することなく」作戦を展開できる地域とみなし、港湾、飛行場などの基幹設備を整備し、軍事力を配備している。特にコラ半島は弾道ミサイル搭載潜水艦艦隊の拠点であり、中国の潜水艦もそこから作戦を行える。また中国は「氷上シルクロード」の名の下に北極圏地域・諸国への基幹設備開発投資や資源開発投資、北極圏の調査研究を進めている。
(2) 安全保障上の観点から、米国にとってその課題に対応する良い方法は、NATOやNORADなど既存の枠組みに基づく提携協定を通じて、相互運用性の向上や研究開発における投資を模索することである。グリーンランドのチューレ空軍基地を維持することも重要である。加えて「決定的に重要」なのは、提携国との間での訓練や演習の実施であり、それを冷戦期のRimfrost Exercisesの規模に戻すことである。
(3) 米国の安全保障にとってロシアの潜水艦の活動を監視することはきわめて重要である。しかし現時点では、米海軍が北極圏で活動できるのはそこが最も望ましい環境である場合のみである。したがって、SOSUS と連携したTASSを装備する大型水中無人機などを導入する必要がある。また北極圏は衛星通信にムラがあり受信設備はわずかであるためロシアが電子戦においてこのわずかな受信設備を「盲目」にすることができる。北極圏における電子戦を大きな懸念と認識し、それに対処しうる無人システム構築への投資が必要である。
(4) 商業的にも商船の通航やクルーズツアーのようなものが増えていくだろう。したがって海難救助のための備えが必要となるが、そのとき、海上基地艦のようなものを配備しておけば、そうした活動がより容易になるであろう。
(5) 米海軍や沿岸警備隊には、海が氷に覆われている状態で行動できる艦船が決定的に欠乏している。そのことはロシアの領土的主張に対抗するための「航行の自由」作戦の実施を困難にしているし、米国の排他的経済水域内における厳密な法執行を制約しているのだ。米国に必要なのは、提携国との協力を通じた訓練の強化と、北極圏という環境でも活動しうる装備の拡充なのである。
記事参照:U.S. Needs ‘Resilient’ Strategy to Counter China, Russia in Arctic, Experts Say

12月18日「同盟の影:オーストラリアと米国の同盟を導く現実的な取り組み-オーストラリア及び米国専門家論説」(PacNet, Pacific forum, CSIS, DECEMBER 18, 2020)

 12月18日のPacNet, Pacific forum, CSISはThe University of Sydney のUnited States Studies Centreの外交防衛室長Ashley Townshendと多摩大学客員教授でPacific Forum上級研究員Brad Glossermanの“Alliance Noir: A Hard-boiled Approach to Guide the Australia-US Alliance”と題する論説を掲載し、両名はオーストラリアと米国の同盟関係の今後について、米国は多様な視点に対する柔軟性をもってインド太平洋における戦略的環境を強化すべきとして要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリア人は現実的であり、その思考様式が米国の政権交代に対するキャンベラの考え方を左右している。ほとんどのオーストラリア人はTrump政権の一般的傾向は悪く、姿勢は不安定と考え、その政策がインド太平洋における地政学的および戦略的な力関係を悪化させていると見ている。Biden次期政権はオーストラリアの利益を念頭に置いて、対立的な口調を抑えながらも、その方針を維持すべきである。これはワシントンがキャンベラの利益を自分たちの利益よりも優先すべきだとするものではないが、この戦略的競争の時代に同盟国の利益へ大きな配慮をすることは米国が独自の政策目標を達成するのに有益となる。
(2) オーストラリアと米国の同盟は、両国の指導者が良好な関係を築き、両政府の関係者も共に良い働きをしてきた。米国との貿易赤字は関税がそれら関係者の会話の一部ではなかったことを意味する結果となった。オーストラリアの国防予算の増加と米国のカウンターパートとなる国々との軍事的な展開によって、それ以上の防衛分担の要求は抑制された。
(3) オーストラリア人の主な不満は、Trump大統領によるインド太平洋における提携国への対応であり、それは駐留経費の分担をめぐって日本と韓国を揺るがし、中国の政策をめぐって東南アジア諸国を無視、または圧迫したことである。Trump大統領の一方的な取り組みは、米国の安全保障に対する信頼を損なった。Trump大統領の率直な話はオーストラリア人を傷つけてはいないが、Trump大統領がオーストラリアの利益を損なった上に集団的な地域戦略を進めることを困難にしたので、彼がアジアで提起した議題に反対した。
(4)「スタイル」もTrump大統領の中国戦略を弱体化させた。 オーストラリア人は米国の北京(中国政府)への敵対的アプローチを支持しているが、それが賢く、戦略的で、多国間的であることを望み、対立的、予測不可能でゼロサムではないことを望んでいる。これが、キャンベラが「自由で開かれたインド太平洋」の概念を取り入れた理由であるが、それは「自由な」だけの世界ではなく、また中国共産党に加担したものでもない。オーストラリア人は貿易、戦略的安定、全世界的な人類の健康など米国、同盟国、中国の国益が収束する分野があり協力する努力が必要と認識している。そして提携国に最後通告を課し、広い枠組みの中で各国の対応の違いを認めない中国の政策に反対している。
(5) キャンベラは外交政策における価値観の役割の重要性を認めながら、アジア戦略の中心に価値観を置くTrump政権の努力を支持しなかった。ワシントンの取り組みは東南アジアの国々に敵対し、それらの国々が米国・オーストラリアと将来的に連合を構築する努力を弱めた。
(6) オーストラリア人は米国のインド太平洋への関与として経済政策が不十分であることに不満をもっていた。米国の環太平洋パートナーシップ協定からの撤退は自分で自分の首を絞めているに等しい。この協定はブルー・ドット・ネットワーク、ビルド法及びそのインフラストラクチャーと資金調達の全てを網羅するので、協定からの撤退により米国の経済支援は限定される。外交面でオーストラリアはTrump政権の低レベルで一貫性のない、効果のない地域機関との関わりに深く悩まされ、世界保健機関、世界貿易機関、その他の多国間機関に与えた損害に愕然とした。
(7) これらの欠陥を修正するために、Biden次期政権は外交及び防衛政策においてインド太平洋を真に優先しなければならない。もう一つ別の「戦略」を作っても問題は解決しない。オーストラリア人は、歴代の米国政権が資金、焦点、または人々のリソースが不足しているにもかかわらず、アジアの重要性について話しているのを聞いている。しかし、米国の赤字が急増し、Biden次期大統領が望む、国内を「より良く構築する」こと、ヨーロッパとの関係回復への懸念を考えると、欠陥の修正は、さらに困難になるだろう。 東アジアサミットのような地域会議へのトップレベルの出席は、米国の優先事項を示す良い方法の一つであるが十分ではない。
(8) この地域へのコミットメントには環太平洋パートナーシップに関する包括的かつ進歩的な合意などの経済プロジェクトを含める必要がある。これは難しいが、Bidenは米国-メキシコ-カナダ貿易協定のe-commerce条項を拡張するか、オーストラリア-シンガポールのデジタル経済協定や、ニュージーランド、シンガポール、チリを含むデジタル経済連携協定などの地域貿易プロセスに参加することで、インド太平洋経済との関係をより容易に強化できる。 
(9) 米国は、ワクチンの流通、医療能力の構築、サプライチェーンの回復力に焦点を当てて、地域の保健外交を即座に拡大する必要がある。ワシントンは、現在東南アジアと太平洋をリードしているキャンベラ及び東京(日本政府)と協力してこれを行うべきで、高水準の地域インフラを開発する推進力の一部となるべきである。
(10) 軍事同盟を強化するために、2021年の国防授権法の一部である太平洋抑止構想を活用して、オーストラリア及びその他の同盟国をインド太平洋の軍事および戦略計画に密接に関与させることができる。緊急事態対処計画、情報共有、能力開発、試験及び訓練などにおける初期の段階で同盟の視点を含めることは、同盟の近代化を可能にし、パートナーシップ内の人的資源の分配に貢献するだろう。危機における集団行動と協調的対応の選択肢を開発することは、この地域における従来の抑止力を強化するであろう。
(11) 同盟国は、米国のインド太平洋へのコミットメントとして、米国の軍事資源の割り当てを監視する。特にキャンベラは中東へ展開させようとする米国の要求に懐疑的で、これは、両国が表明したインド太平洋の優先順位を損なうものとなる。
(12) これらすべてにおいて、中国の存在は同盟にとっての重要な課題となる。ワシントンは大多数の地域諸国によって支持された対応を主導しなければならない。協調した多面的な努力こそが中国の行動を抑止し、安定した地域秩序を維持することができる。
(13) 対立と競争の適切なバランスは難しい。オーストラリアは強力な米軍のプレゼンスと強力な米国政府の戦略を望んでいるが二つの地域の覇権主義者による紛争は望んでいない。キャンベラが好むのは地域諸国の政府の考えと一致している。米国と中国は、軍拡競争を回避し、危機管理メカニズムと問題解決の出口を回復して、その関係に安定性を提供するべきである。同時に、地域の同盟国はワシントンと北京の間の新たな戦略的対話について常に知らされ、それに関与する能力を与えられなければならない。
(14) もし価値観が米国の政策の中心的なものでなかったならば、力のバランスを維持するための地域的合意の構築は簡単になる。キャンベラが好むアプローチは、価値観に基づくが、価値観に焦点を当てない、関心に基づく地域戦略である。
(15) オーストラリアはインド太平洋のほとんどの国々がそうであるように実用主義を支持している。米国はますます不安定になる戦略的環境を強化することに前向きとなるべきで、地域のパートナーを導くため多様な視点に対する柔軟性と寛容性をもって臨むべきである。
記事参照: Alliance Noir: A Hard-boiled Approach to Guide the Australia-US Alliance

12月19日「イタリアはなぜインド太平洋及びインドに目を転じるべきなのか-印専門家論説」(Eurasia Review, December 19, 2020)

 12月19日付の印ニュースサイトEurasian ReviewはKing's India Institute国際関係論教授Harsh V Pantと同Institute研究員Bonavita, Mauroの“Why Italy Should Reorient Towards Indo-Pacific And India – Analysis”と題する論説を掲載し、ここで両名は世界の政治、経済の重心としてインド太平洋の海洋地理の重要性が増す一方、イタリアとインドは相互に重要な貿易相手国となっており、イタリアもインド太平洋全般、特にインドに対する独自の取り組みを計画することで進展する戦略上の現実に早急に対応する必要があるとして要旨以下のように述べている
(1) 2020年11月、オランダがインド太平洋地域に対する独自の公式の戦略を発表したという報道は世界中で多くの議論を惹起した。オランダが仏独に続いてインド太平洋に対する戦略文書を発表したことは、向こう数十年、世界の政治、経済の重心としてインド太平洋の海洋地理の重要性が増してきていることを強調している。インド太平洋の中核には世界最大の民主主義国家インドがある。EUにとって新たな貿易相手国であるインドはヨーロッパとアジアを結ぶ重要な海上通商路の安全を提供する地位を確立している。EUは2019年に戦略的競争者と規定した中国の先を見据え始め、新たな提携相手を必要としている。イタリアもインド太平洋全般、特にインドに対する独自の取り組みを計画することで進展する戦略上の現実に急ぎ対応する必要がある。
(2) 近年、イタリアとインドは金融、鉄道開発、服飾、自動車製造などの鍵となる分野で重要な貿易相手国となっている。また、防衛分野ではイタリアの国有造船企業FincantieriとインドのCochin Shipyard Limitedの間で重要な契約が取り交わされた。両社は海軍艦艇の設計、地元建造、海軍のシステムの自動化、インドの人員訓練を目的とした合意文書に署名した。イタリアは「メイク・イン・インディア」と「自立したインド」というインドの重要な構想を支援することができる
(3) 2国間関係は今や極めて重要な段階に入っている。COVID-19後の世界は国際問題に関する古い仮説を揺るがしており、インド、イタリアは両国の提携が持つ重大な地政学的可能性を認識し、それに従って行動するときである。インド太平洋は世界の海上交易を牽引する航路となりつつあり、地中海はアジアから到着する船積み貨物の天然の到着点である。両海域において共同して行動することは、インド、イタリアの国際的な行動の印である民主主義、自由貿易、安全保障、法の支配といった価値を計画及び政策立案での結果ともに促進することになろう。この意味でインドとイタリアは両海域の間で起こるかもしれない安全保障上の問題を管理する2国間メカニズムを見極めることから始めなければならない。
(4) インド太平洋、地中海で起こる安全保障上の問題の多くは両国に同じように起こりそうである。アデン湾における海賊事態は沿岸国の不安定、両国間のサプライチェーンにすぐに影響を及ぼす。外部勢力でありインドやイタリアが共有する価値や目的とは異なるものを持ち込んでくる大国間の角逐もまた、大国の軍事力の展開によって不安定化を促進するのに積極的な役割を果たしている。インド及びイタリアが最も高い優先順位を持って対応しなければならない重要な問題がテロリズムである。国家が支援するものであるか、国家以外が組織したものかにかかわらずテロリズムは、地中海で南アジアと同じように影響を及ぼす疫病である。テロリズムに対処する効果的な方策を認識し、見出すことは両国関係における優先事項でなければならない。インド、イタリア両国は中東、北アフリカ諸国と歴史的に良好な関係を有しており、安全保障に向けた外交的、政治的行動の共通の努力への道を開く資産である。
(5) COVID-19の世界的感染拡大から世界経済や国家間関係を修復する上で重要と考えられている。2021年及び2023年にイタリア及びインドはそれぞれG20を主催する。COVID-19の世界的感染拡大は拡大する無秩序を相殺し、世界の対応を調整することができる強力で効果的な制度の欠如が直近の将来にとって緊急の課題であることを示している。インドとイタリアは多国間制度と法の支配に対する支援を共有し、最近の制度の再構築及び考えを同じにする国々を一つにまとめる国際的話し合いの最前線に立たなければならない。インド太平洋地域に関し、イタリアは地域の国々が施行してきた質の高い基幹設備の開発計画に対して協調して取り組むことが不足していた。中国の略奪的な基幹設備への投資に代わるものへの需要が高まる中、イタリアはヨーロッパの他の国々ともに中国の手法を非難する以上のことをしなければならない。
(6) イタリア、インド両国は21世紀の問題に対応する提携のロードマップを示す必要がある。インド太平洋が中核となるCOVID-19後の新しい日常に世界が順応しており、イタリアは対外政策の抱負においてもっと野心的でなければならない。行動を指向したインドとの強い提携は地域内外にイタリアの存在を意識させる第一歩である。EU及び一部のヨーロッパの大国は既に動き始めており、イタリアも早急に動かなければならない。その行動によってこれまでの寡黙を捨てる準備のある意欲的な相手をインドで発見することができるだろう。
記事参照:Why Italy Should Reorient Towards Indo-Pacific And India – Analysis

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Would China Invade Taiwan for TSMC?
https://thediplomat.com/2020/12/would-china-invade-taiwan-for-tsmc/
The Diplomat.com, December 15, 2020
John Lee, a senior analyst at the Mercator Institute for China Studies (MERICS)
Jan-Peter Kleinhans, the project director for technology and geopolitics at Stiftung Neue Verantwortung (SNV), focusing on semidconductors as a strategic asset
12月15日、ドイツのシンクタンクMercator Institute for China Studies(MERICS)の上級アナリストであるJohn Leeと同じくドイツのシンクタンクStiftung Neue Verantwortung (SNV)のプロジェクトディレクターであるJan-Peter Kleinhansはデジタル誌The Diplomatに“Would China Invade Taiwan for TSMC?”と題する論説を寄稿した。ここで両名は、①台湾の半導体製造に関する世界最大手企業TSMC(臺灣積體電路製造股份有限公司)は、多くの状況でチップ設計企業にとって唯一の実行可能な選択肢であるという状況が、今後何年にもわたって続く、②中国による台湾侵略はリスクが高く、必要なのは、政治的に定義された最終的な勝利のための状況を作り出すことである、③仮にTSMCの重要な従業員と設備が無傷で占拠されたとしても侵攻後の状況下で最先端の技術を維持する能力が損なわれる可能性が高い、④世界的な価値連鎖におけるTSMCの役割は、米国、ヨーロッパ及び日本企業からの投入資本に依存しているため、中国がTSMCを支配しても自立できないだろう、⑥長期的には中国のチップ設計企業のTSMCへの依存度は、着実に低くなると予想される、⑦中国は、そのハイテク産業が依然として外国からの投入資本に依存していることを認めており、国際的なチャンネルをオープンにしておくことを優先している、⑧世界各国政府は、供給拠点の多様化や現地の製造能力の構築により、主要技術の価値連鎖における過度の集中に内在するリスクを軽減しようとしている、⑨TSMCの重要な役割が情勢を変えるわけではなく、第三者にとって台湾での経済的利益が中国での経済的利益を上回ることは考えにくいため、台湾を支持する場合は政治的な配慮が必要である、といった主張を行っている。

(2) Competition With China Could Be Short and Sharp
https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2020-12-17/competition-china-could-be-short-and-sharp
Foreign Affairs.com, December 17, 2020
Michael Beckley, Associate Professor of Political Science at Tufts University and Jeane Kirkpatrick Visiting Scholar at the American Enterprise Institute
Hal Brands, Henry A. Kissinger Distinguished Professor of Global Affairs at the Johns Hopkins University School of Advanced International Studies and a Resident Scholar at the American Enterprise Institute
12月17日、米Tufts University准教授Michael BeckleyとThe Johns Hopkins University名誉教授Hal BrandsはCouncil on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門誌Foreign Affairsのウエブサイトに“Competition With China Could Be Short and Sharp ”と題する論説を発表した。ここで両名は「次の10年間は戦争の危険性が最も高まるのではないか」との危機感を冒頭で示した上で、中国は台湾海峡や世界的な通信網をめぐる争いなど米中競争の重要な分野でパワーバランスを有利にしている一方で、同時に著しい経済減速と国際的な反発の高まりにも直面していると現状を概観し、中国の長引く経済停滞や債務の増大、労働力人口の減少といった諸条件は中国が選択可能な戦略的選択肢を狭めていると評している。そして両名は米国は中国に対する全面的な技術禁輸、全面的な貿易制裁などといった、これ以上に強硬な措置をとるべきではないし同時に中国に対する圧力を劇的に高めるべきではないとした上で、かつての冷戦時代にソ連に対処したのと同様、米国は来るべき危機を乗り切る限り、中国との長いライバル関係を勝ち取ることができると主張している。

(3) China’s Military Actions Against Taiwan in 2021: What to Expect
https://thediplomat.com/2020/12/chinas-military-actions-against-taiwan-in-2021-what-to-expect/
The Diplomat.com, December 18, 2020
Dr. Ying-Yu Lin, an Adjunct Assistant Professor at the Institute of Strategic and International Affairs, located at National Chung Cheng University in Chiayi, Taiwan
12月18日、台湾National Chung Cheng University助理教授林穎佑はデジタル誌The Diplomatに“China’s Military Actions Against Taiwan in 2021: What to Expect”と題する論説を発表した。ここでLinは2021年の台湾の安全保障環境を展望すると話題について、2020年の米大統領選後、この3年間、ぎくしゃくしてきた米中関係が好転する可能性が高いとの見方が大勢を占めるようになったが、この時期の台湾海峡両岸の空軍や海軍の軍事行動を見ると、公開軍事演習であれ非公開軍事演習であれ両岸は軍事行動の自由を拡大していると指摘した上で、中国の諺に「軍事を知る者は好戦的にならない」とあるように、台湾は無謀な戦争を始めることはないだろうが、中国人民解放軍は、2015年末に始まった軍改革以前のような負け犬ではなくなっており、我々は、内外からの圧力により、北京が台湾に対して武力行使を選択する可能性があることを警戒しなければならないと主張している。さらにLinは、現在、中国は主にグレーゾーン戦略に頼っており、軍用機や艦艇軍艦を派遣して定期的に台湾に嫌がらせを行っているが、今後、より直接的な行動を選択する可能性も否定できないし台湾周辺には人民解放軍の航空機や艦船が常時存在しているため、今後は人民解放軍の脅威に対する台湾の対応時間が十分確保されない可能性もあると主張している。