海洋安全保障情報旬報 2020年12月21日-12月31日

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12月22日「アジア太平洋からインド太平洋へ―シンガポール・アジア問題専門家論説」(Fulcrum, December 22, 2020)

 12月22日付のシンガポールYusof Ishak Instituteが発行する東南アジア専門デジタル誌Fulcrumは同所上席研究員Daljit Singhの“The “Indo-Pacific” is Here to Stay”と題する記事を掲載し、ここでSinghは「インド太平洋」概念が登場した背景と、それが今後も長く重要な戦略的地理概念として長続きすると考えられる要因について要旨以下のとおり述べている。
(1) 我々の精神的地理は、実際の地理よりも地政学的・地理経済的動向や大国間対立などによって形成され、変化することがしばしばである。そして今、そうした大国間競合の戦略的な地理をより良く反映しているのが「インド太平洋」であろう。
(2) 冷戦終結によって主要な大国間競合が静まってからしばらくして注目されたのが「アジア太平洋」という概念だった。1994年のASEAN地域フォーラムにはじまり、ASEANの中心性のもとで東アジアサミットやADMMプラスなどが推進され、それによって東南アジアを中心として、そのうちに米国や中国、さらにはインドを含むような協調的枠組みの構築が進められてきた。
(3) しかし、米中対立という新たな大国間競合が、我々に精神的地理の書き換えを余儀なくさせている。そして、この新たな大国間競合の舞台はもはやアジア太平洋にとどまらず、インド洋へと広がっている。「インド太平洋」概念はそうした状況を反映している。それが指し示すのは、東北アジアから東南アジアおよびオーストラリアを経由してインド洋へと広がっていく地域のことである。
(4) 中国は海軍力の強化を続けている。それはアジアから米国の海軍力を可能な限り遠ざけるためと、インド洋経由でのエネルギー・ライフラインの確保のためである。中国海軍のインド洋での展開は、不可避的にインドを中国の戦略的ライバル関係に至らせる。それを背景としてインドは米国や日本、オーストラリアとの協力を強化しているが、そのことはまた、西太平洋でのライバル関係をインド洋に持ち込むことにつながっている。
(5) 中国は「マラッカのジレンマ」から逃れるために、石油・ガスのパイプラインを中国の昆明からベンガル湾沿いのチャウピュー経済特区(ミャンマー)に港湾を建設し、さらにはパキスタンのグワダールの港湾施設を確保した。後者はペルシャ湾に近い。2020年に日米豪印の4カ国安全保障対話参加国はマラバール海軍演習を実施し、フェーズ1がベンガル湾で、フェーズ2がアラビア海で行われたのは偶然ではない。これらの対立は軍事的なものに限らず、外交活動や経済支援などを通じた影響力をめぐる対立でもある。中国は一帯一路政策を通じて西太平洋やインド洋にその経済的影響力の拡大を模索してきた。
(6) 太平洋とインド洋の間の戦略的・通商的つながりは、2010年、Robert Kaplanの著書Monsoonによって地理的に定義された。「マラッカ海峡は、21世紀の多極的世界におけるフルダ・ギャップ(抄訳者注:東西ドイツ国境の一部で東西の戦線がそこで開かれると想定されていた場所)である」と。いまやヨーロッパ諸国の多くも「インド太平洋」の概念を受け入れており、「インド太平洋」という精神的地理は深く根を張りつつある。
記事参照:The “Indo-Pacific” is Here to Stay

12月23日「2021年の南シナ海情勢展望、中国の視点から―中国南海研究院長論説」(China US Focus, December 23, 2020)

 12月23日付の香港China-United States Exchange FoundationのウエブサイトChina US Focusは中国南海研究院の呉士存院長の“South China Sea Forecast”と題する論説を掲載し、ここで呉士存は中国の視点から南シナ海の現状認識と2021年の情勢を展望して要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海の現状は嵐の後の小康状態と言える。米国は政権移行期の混乱などで軍事活動を減速させた。米次期政権の南シナ海政策と米中関係の動向―将来的に対立に向かうのか、それとも平和的関係に向かうのか―が不確実であるが故に、南シナ海の領有権を主張する国々も中国の権利を侵害して(中国の)反発を引き起こす程、無謀ではない。
(2) では、2021年の南シナ海情勢はどうか。2021年の情勢は以下の要因によって特徴付けられるであろう
a. 第1に、新たな趨勢として、法とルール作りの分野における抗争が軍事的対立に取って代わることになろう。
b. 第2に、域外諸国は南シナ海における軍事的プレゼンスと活動を強化するであろう。日本とオーストラリアに加えて、英仏両国が米軍の活動に参加することになろう。これら諸国は合同哨戒活動や合同の「航行の自由」作戦といった形で共同して軍事活動を行う可能性がある。
c. 第3に、2020年と比較して、領有権主張国は自らの既得権益を強化するために一方的な行動を大幅に増やすであろう。例えば、ベトナムは中国の西沙諸島周辺海域での不法操業と南沙諸島周辺海域での石油・天然ガス探査活動を増やすであろう。フィリピンは、仲裁裁判所の裁定に基づいて、主として国内法、海洋法執行、軍事活動及び共同開発の先延ばしを通じて、自らの領有権主張を強化しようとするであろう。マレーシアは、南康暗沙(South Luconia)における石油・天然ガス資源の開発に適用されるよう国連大陸棚限界委員会(以下、CLCSと言う)の審議を推し進めるために、そして琼台礁(Luconia Breakers)に対する管轄権を主張するために、より積極的かつ強引になるであろう。
d. 第4に、行動規範(以下、COCと言う)に関する協議は予期せぬ困難に直面することになろう。中国と一部のASEAN諸国の間には、幾つかの核心的条項に関して意見の相違がある。一部の域外国は、協議プロセスを妨害するかもしれない。仲裁裁判の裁定とCLCSへの申請は共に否定的な影響を及ぼすことになろう。こうしたことにより利害関係国間でCOCに関するコンセンサスが成立することは困難であろう。
e. 第5に、南シナ海におけるより緊迫した軍事及び準軍事による活動が海上における偶発事案を引き起こしかねない。こうした懸念は地域内外の国々とこれらの活動を対象とする危機管理メカニズム構築の緊急性と必要性を高めている。
(3) 米国のBiden政権の発足当初は米国の南シナ海政策に大きな変更は期待できない。中米両国は現在の抗争関係を続けることになるが、両国政府間の対話とコミュニケーションの枠組みが出来上がるに伴い、「協調・抗争(coopetition)」関係となるであろう。この関係は、危機管理、対立(特に法律戦)及び軍事的拡張を狙いとした海洋パワーの抗争を主体とした対話が特徴となろう。
(4) 他の南シナ海沿岸諸国との関係については、米国はアジア太平洋安全保障の枠組みの下で、南シナ海安全保障戦略を改めて推進することになろう。同時に、米国は日本、フィリピン及びベトナムとの軍事同盟を強化することになろう。このことは、南シナ海における人工島の造成とそれへの軍事的展開によって実現した中国に比較的有利な戦略態勢をある程度変えることになろう。Biden政権は拡大防衛協力協定を梃子に、そして改めて仲裁裁判の裁定を持ち出すことによって、フィリピンに対して中国か米国かの選択を迫るであろう。ベトナムは米国による国内軍事基地の使用と両国間の安全保障協力、紛争海域における石油・天然ガス開発、そして中国に対する独自の仲裁裁判への提訴の脅し、といった政策を押し進めるであろう。米国は引き続き中国に対する高圧的政策を継続するであろう。マレーシアは米国の内密の支援を受けてCLCSへの申請に関する審議を促し、南康暗沙(South Luconia)における石油・天然ガス資源の開発を促進しようとするであろう。COC協議に関しては、米国は多国間主義への復帰後の戦略的ニーズに基づいて、中国主導の南シナ海に関する規範作成プロセスに新たな障壁を設けるか、あるいは交渉プロセスを行き詰まりにさせるためにASEANにおける親米派を介して混乱を引きおこすであろう。
記事参照:South China Sea Forecast

12月23日「インドの新海洋戦域司令部設立―印国防専門家論説」(The Diplomat, December 23, 2020)

 12月23日付のデジタル誌The Diplomatは元印海軍情報将校で現Jindal School for International Affairs准教授Shishir Upadhyayaの“India’s New Maritime Theater Command: A Quantum Leap”と題する論説を掲載し、ここでUpadhyayaは2021年中に設立される予定であるインド初の海洋戦域司令部の創設背景と意義について要旨以下のように述べている。
(1) 2021年中にインド初の海洋戦域司令部を創設する予定であると発表があった。その司令部はインド西岸のカルワルに置かれる予定であり、空・陸・海軍の各部隊や艦艇、航空機等を統合的に指揮するものである。それは、1947年にそれぞれ独立した作戦司令部のもとで陸海空軍が創設されて以降初めての、地理的に区分された戦域司令部である。2020年にBipin Rawat陸軍大将がインド初の国防参謀長に就任してから多くの変革が宣言されてきたが、これもその一部である。インドは今後同様の地理的に広大な戦域司令部や、各部門が統合的に機能する司令部、統合兵站司令部などを持つことになるだろう。
(2) 決定的に重要な海上交通路と戦略的チョークポイントを見渡すことのできるインド半島とアンダマン・ニコバル諸島の地理は、その海上交通路を利用した海運に大きく依存する中国に対して大きな戦略的利点をもたらしてきた。
(3) しかし、2009年に中国人民解放軍海軍の艦艇が初めてソマリア沖で対海賊哨戒活動に参加して以来、中国はインド洋への進出を強めてきた。2017年にはアフリカ大陸のジブチに初の海外海軍基地を建設し、また一帯一路構想を通じてインド洋周辺国に対する政治的・経済的影響力を拡大させてきた。中国艦艇がインドの排他的経済水域内に入り込み、印海軍が退去要求を出すなどの事案も起きており、中国の台頭は印海軍に圧力をかけ上述したようにインドの地政学的利益を侵食している。
(4) 海洋における圧力は、地上におけるそれにもつながっており、2017年にはドクラム、2020年にはラダクで、中印国境の実効支配線沿いでの衝突が起きた。こうしたことを受けて、インドは米国や日本、オーストラリアへの接近を進めている。海洋戦域司令部の創設は、こうした中国の台頭への対策の一つと位置づけられ、インド洋におけるその海軍力を結集し、強化することを目的とし、ゆくゆくは地上における優位の獲得も視野に入れたものである。
(5) 海洋戦域司令部は上述したように陸海空軍の部隊や艦艇、航空機等を統合的に指揮するものであり、それによる戦力向上が想定されている。たとえば最近設立されたスホーイ30戦闘機中隊は、現在南部航空司令部の指揮下に置かれているが、海洋戦域司令部の指揮下に入ることになる。さらに今後数年のうちに空軍の部隊がアンダマン・ニコバル諸島などにも部隊を配備するようになり、マラッカ海峡周辺の哨戒活動を強化することになろう。また海兵隊部隊を含めた統合司令部の存在は、インド軍の遠征能力を高めることにもつながる。部門間を統合した部隊の運用には十分な訓練と新たな統合戦略ドクトリンを必要とするが、それによって新たな統合司令部の創設にもつながるであろう。
記事参照:India’s New Maritime Theater Command: A Quantum Leap

12月24日「フランスはインド太平洋で存在感を示せるか―マレーシア国際政治専門家論説」(The Diplomat, December 24, 2020)

 12月24日付のデジタル誌The Diplomatはマレーシアを拠点とするシンクタンクStrategic Pan Indo-Pacific Arenaの創始者Kim Bengと同所研究員Clementine Bizotによる“Is France Capable of Being an Indo-Pacific Power?”と題する論説を掲載し、ここで両名はインド太平洋地域におけるフランスの役割について要旨以下のとおり述べている。
(1) フランスは自国をインド太平洋における重要なアクターと自認している。フランスはインド洋南部と太平洋に広大な海外領土を有しており、その排他的経済水域の広さは1,170万平方キロメートルと欧州の国では最大である。大国としてのフランスは国連安全保障理事会の常任理事国の立場を有しているが、インド太平洋に広大な領域を有しているがゆえに、どのEU諸国にも先駆け「インド太平洋」概念を受け入れた国であることも思い出されたい。
(2) フランスの海外領土の人口は150万人、駐留する軍事要員は8,000人ほどであるが、そうした数字ではこの領土の戦略的価値は測れるものではない。しかしながら、フランスがそこに割り当ててきた予算は一貫して低く、それゆえにこれらの領土に対しては、マイヨット・プログラムやインド洋プログラムなどのEUによる財政援助が提供されている。海外領土向けのフランスの2021年度予算は24.3億ユーロだが、それは前年比2.5%増の数字である。軍事的な観点からもフランスのインド太平洋への軍事的プレゼンスは十分ではなかった。
(3) しかし、フランスはインド太平洋地域の海外領土の重要性については十分理解しており、状況は変化しつつある。インド太平洋の強国の一つだと自認し、その舞台において際立った存在であろうと模索しているようである。たとえば、その実効性には議論の余地があるものの、最近「パリ-デリー-キャンベラ枢軸」が標榜され、中国の台頭に対して、この地域の海洋安全保障協力の方向性が定められた。
(4) 欧州の他の国々もインド太平洋の重要性を認識するようになっている。たとえば英国がブレクジット後にインド太平洋について関心を強化しているのは、英国のその地域への「復帰」とみなされている。それは中国にはよく思われていないが、「自由で開かれたインド太平洋」の維持という点では米国に追随するものである。またドイツも独自のインド太平洋戦略を発表し、インド太平洋におけるヨーロッパの提携と協調を訴えた。
(5) こうした動きはあるが、いずれにしても欧州の中でインド太平洋における最も大きな存在感を持つのはフランスであろう。その戦略的領域を考慮すれば、フランスはインド太平洋におけるプレゼンスをまたたく間に強化できるだろう。
記事参照:Is France Capable of Being an Indo-Pacific Power?

12月24日「南シナ海紛争中の後方支援の課題の解決策-米国専門家論説」(Defense News.com, December 24, 2020)

 12月24日付の米国防関連誌Defense Newsのウエブサイトは米The Georgia Institute of Technologyの研究部門 Georgia Tech Research Institute上級研究員Scott Trailの“How to solve logistical challenges during a South China Sea conflict.”と題する論説を掲載し、ここでTrailは拡大する中国のリスクを回避するには戦略的な海上輸送部隊を活性化し海兵隊のCH-53Kにより増強する解決策があるとして要旨以下のように述べている。
(1) 歴史を通して、ち密で即応性の高い兵站計画はノルマンディー上陸作戦などの勝利において重要な役割を果たした。逆に、兵站計画の欠如はナポレオンのロシア侵攻など悲惨な敗北につながった。1959年、NATOの兵站部長補佐Henry Eccles少将は兵站を「国の経済と戦闘部隊の戦術作戦との架け橋」と定義した。この架け橋は軍隊が紛争に備えるために維持されなければならない。
(2) 広大な海洋、そして飛行場、港湾などの基幹設備がほとんど、または全くない何千もの離島があるアジア太平洋は、米国本土とこの地域に展開する米軍間の架け橋に多くの課題を投げかける。この地域で行動している米軍は、世界最大の海(太平洋)によって「国の経済組織」から隔てられている。中国は東シナ海と南シナ海で影響力を行使し、その主張を拡大している。そして、米軍は基幹設備不足により、大型輸送機は着陸できず大型船の入る港はない。中国との紛争が起きた際に直面する兵站の問題は気が遠くなるほど大きい。
(3) 中国の拡大主義者の狙いは、南沙諸島と西沙群島にある。彼らは、豊かな漁業、膨大な埋蔵量の石油と天然ガス、そしてこの地域を通過する運送船の何兆ドルもの価値を戦略的に捉えている。これらの島嶼は135万平方マイルに広がり、基幹設備はほとんどなく、何百もの小さな島とサンゴ礁で構成されている。CIAによると南沙諸島には八つの空港と五つのヘリポートがあり港湾施設はない。西沙群島では中国人がウッディー島に人工の港と飛行場を建設し、1,000人以上の人民解放軍が駐屯している。ここでは中国海軍の勢力が米海軍を上回っているので、この差を埋めるために米海軍には次世代の垂直離着陸型の輸送機や戦略的な海上輸送部隊といった多くの部隊が必要である。
(4) 中国人は西太平洋における兵站の重要性を理解している。南シナ海と東シナ海において兵站が支援する範囲を拡大することは、この地域での優位性を高める。海は、彼らを養うための食糧、彼らの機械に燃料を供給するための石油とガス、そして世界の貿易の約20パーセントの支配を提供してくれる。南シナ海での中国の拡大が続けば中国は国境をはるかに超えて影響力を行使し、国連海洋法を損なう可能性もある。
(5) 米シンクタンクRANDによる2020年の調査では、一旦ここを占領すれば中国軍は数千マイル南に影響力を行使し、海域の奥深くに力を展開できるようになると結論付けている。これは、この地域の同盟国や提携国だけでなく、これまで争われていなかった海上交通路をも脅かす。
(6) 長距離センサーとミサイルによって構成される中国の接近阻止・領域拒否という傘を打破するために、「作戦機動のために部隊と能力を多くの場所に分散させること」と米電子出版プラットフォームMediumに掲載された2019年1月の記事は述べている。これにより、米国の部隊へのリスクを分散し、影響力を及ぼす範囲を拡大する可能性がある。南シナ海で機動力があり、分散配備された部隊を支援するには、大規模で応答性の高い海上輸送部隊と多数の垂直離着陸型の輸送機が必要になる。
(7) 残念ながら海上輸送部隊は何十年もの間、空母や潜水艦への投資が重要視されるあまり軽視されてきた。これら空母や潜水艦は米国に戦略的な軍事的優位性を提供し続けている。しかし航空機、艦船、潜水艦は、食糧の供給と修理用部品なしでは行動できない。この分野への投資の欠如が米軍の戦備を低下させた。
(8) 米国防関係誌National Defenseの1月の記事によると、最近実施された軍事海上輸送部隊の動員演習では「艦船の64%しか任務遂行の準備ができておらず、部隊の40%しか期待されたレベルでの作戦を遂行する準備ができていなかった」とされ、さらに「大国同士の戦争が発生した場合、軍の海上輸送能力が重要になるため、これは大きな問題である。」と記されている。
(9) 幸いなことに、10月16日のForbesの記事は、海上輸送の改善は適度なコストで行われ、現在、Mark Esper米国防長官の支援と同様に超党派の支援も受けていると述べている。この取り組みには三つの側面がある。それは、即応予備船隊にあるもっとも新しい艦船の耐用年数の延長、中古の外国商船を購入しての改造、そして国内造船所での新しいクラスの補助艦船建造である。
(10) 主たる陸上戦力であることを考えると、2014年のRANDの調査において陸軍が統合軍を支援することは中国との大規模な紛争における重要な役割の一つであり、現在考えられている規模では不十分な可能性があるとしている。基幹設備がほとんどない海洋の環境では艦船搭載の垂直離着陸型の輸送機の運用が拡大する。陸軍の大型ヘリコプターCH-47は信頼できる主力装備とされているが、艦船上からの運用にはいくつかの問題があり、さらに空中給油の装備がないため行動範囲が制限される。
(11) 海兵隊は、今年6月に試験飛行を完了したばかりの次世代の大型ヘリCH-53Kを配備する準備をしている。このCH-53Kは、海上での運用に関してCH-47に比べ、いくつかの利点がある。吊り下げ可能重量が50%増加、空中給油、艦上での部品等の互換性、フライバイワイヤーのデジタル設計を備えている。CH-47は引き続き陸軍の垂離着陸型の輸送機として主導的な役割を果たすが、艦上に対応できる大型ヘリも使用することで、陸軍の輸送能力が向上し、持続性の差を埋めることができる。
(12) 南シナ海で持続性の差が長く続くほど、中国の影響力が拡大していくリスクが高まる。その拡大は米国とその地域の同盟国を犠牲にし、中国の覇権国家への劇的な移行をもたらす可能性がある。堅牢な後方支援のための基幹設備の開発は容易ではなく、すぐにできるものでもない。幸いなことに戦略的な海上輸送部隊を活性化し、陸軍のCH-47に加えCH-53Kで増強するという解決策がある。ヘリコプターの製造と搭乗員の訓練には時間がかかるが、艦船の建造と改修、そして艦船を運航する乗組員の訓練と採用には、さらに長い時間がかかる。
記事参照:How to solve logistical challenges during a South China Sea conflict

12月25日「より強靭で包括的なアジア太平洋地域を構築する方法を再考する時―APEC政策支援ユニット専門家論説」(East Asia Forum, 25 December 2020)

 12月25日付の豪Crawford School of Public Policy at the Australian National Universityのデジタル出版物であるEast Asia ForumのウェブサイトはAPEC Policy Support Unit長Denis Hewと同研究員Andre Wirjo の“Time to rethink how to build a more resilient and inclusive Asia Pacific”と題する論説を掲載し、ここで両名は強靭で包括的なアジア太平洋地域を構築するために既存の政策を再考し、デジタル化を全面的に推進する必要があるとして要旨以下のように述べている。
(1) 2020年11月にオンラインで開催されたアジア太平洋経済協力(以下、APECと言う)首脳会議で参加者たちは世界貿易機関(以下、WTOという)と国境を越えた商品やサービスをより自由に取引することを可能にした多国間の規則に基づく貿易システムへの支持を再確認した。貿易自由化イニシアチブが2国間または地域の自由貿易協定によってますます支配されているように見える時期に、WTOの制度改革を行う必要性について一般的なコンセンサスがあった。
(2) アジア太平洋地域は、貿易・投資の自由化、ビジネス円滑化、地域経済統合を促進するための主要なフォーラムとして、多国間貿易システムの主要な受益者となっている。APEC経済を含む商品および商業サービスの貿易は、1994年から2019年の間にほぼ5倍になり、年間平均6.7%の増加であった。2019年、APEC諸国は世界貿易のほぼ半分を占め、APEC内の商品貿易は67.4%であった。しかし、COVID-19の発生に伴ってすべてが変わった。感染を抑制するために、APEC経済はロックダウンと移動の制限を課した。このような封じ込め措置により、消費者需要が急落し、事業投資が停止したため、経済活動はほぼ停止した。グローバルなサプライチェーンは、生産停止と物流の停滞により深刻な混乱を引き起こした。最新の APEC地域の動向分析レポートによると、この地域は2020年に2.5%縮小した。それは1.8兆米ドルの生産損失に相当する。何百万人もの人々が職を失い、貧困に陥った。COVID-19は環境の悪化や社会的・経済的不平等など、この地域が直面する多くの既存の課題を悪化させている。これらの分野や他の分野での取り組みの倍増が必要である。パンデミックに対抗するためのヘルスケア部門の準備と対策の強化を行わなければ、経済は野生動物の生息地の喪失につながり、人間とのより頻繁な接触を引き起こし、公衆衛生上のリスクを増大させることを認識しなければならない。COVID-19に関する医療廃棄物の量の増加、特に使用プラスチック量の増加とその不適切な管理は、環境劣化を激化させる可能性がある。経済は生産の代替モードを検討する必要がある。循環経済は廃棄物を最小限に抑え、これらの環境問題に対処するために広く採用できる資源の使用を最適化する。APEC経済技術協力運営委員会は持続可能な成長と将来の技術活用を通じて生活の質を守るという優先事項に沿って循環経済に関する政策対話を開催した。
(3) デジタル化の傾向はCOVID-19感染拡大以前から進行していたが、企業、労働者が危機に取り組む中で、デジタルアプリケーションは加速している。デジタルソリューションは、オプションではなく必需品となっている。デジタル決済は企業が必要とする流動性へのアクセスを促進している。家計はデジタルなコミュニケーションを維持し、日常の必需品を購入するために複数のデジタルプラットフォームに依存している。政府は、ウイルス接触追跡に革新的なデジタル技術を利用している。デジタル化はデータプライバシー、サイバーセキュリティ、オンラインの誤った情報拡散といった新たな課題を抱えているものの、デジタル世界に進出する人々が増えるにつれてますます普及している。デジタル格差は、デジタル化の潜在的な利益を制限している。各国経済は、デジタル経済の機会を最大化し、課題を克服するために大幅な構造改革を行う必要がある。データのプライバシーに関しては、規制当局は個人データが保護されていることを保証しながらデータを利用するビジネスの成長を促進することの間の適切なバランスを見つける必要がある。不平等是正の強化は経済が注意を払う必要があるもう一つの重要な側面である。何十年にもわたる経済成長にもかかわらず、経済パイを拡大し生活水準を向上させるパイの分配は、公平とは程遠く健康、教育、経済的機会へのアクセスに悪影響を及ぼしている。パンデミックは女性、若者、不安定な労働者などの最も貧しく最も脆弱な人々にこれらの不平等を暴露した。不平等の拡大が世界的な反グローバリゼーション感情の高まりの主な要因の一つであるため、経済は脆弱なグループが亀裂にはまりこむことを防ぐ必要がある。
(4) より強靭で包括的なアジア太平洋地域を構築するために、既存の政策を真剣に再考する必要がある。新たにAPECで採択されたプトラジャ・ビジョン2040は、オープンで弾力性のある平和なアジア太平洋地域のビジョンを達成するための主要な推進要因のとして「イノベーションとデジタル化」と「強力でバランスのとれた、安全で持続可能で包括的な成長」を掲げている。APECの次のホスト国のニュージーランドは、経済回復を強化する経済・貿易政策、経済回復のための連携と持続可能性の向上、イノベーションとデジタル化の追求の三つの優先事項を中心に、議題を作ることを明らかにした。
記事参照:Time to rethink how to build a more resilient and inclusive Asia Pacific

12月26日「中国の『氷上シルクロード』、『ロシアのメッカ』vs米国:北極での新たな綱引き-印ジャーナリスト論説」(EurAsia Times, December 26, 2020)

 12月26日付の印ニュースサイトEurAsian Timesは印ジャーナリストSmriti Chaudharyの“China’s ‘Polar Silk Road’ & ‘Russian Mecca’ Draw The US Into A New Tug-Of-War In The Arctic”と題する論説を掲載し、ここでChaudharyは自らを「近北極国家」と規定し「氷上シルクロード」を構想する中国と、北極は「ロシアのメッカ」と主張して軍事力の展開を強化するロシアに対し、米国もバレンツ海に艦艇4隻を配備して哨戒を強化しており北極をめぐって中ロ対米国の綱引きが激化しているとして要旨以下のように述べている。
(1) 専門家は北極において高まる中ロの脅威に対する米国の対応について懸念を深めている。退役米空軍少将Randy Keeは技術は常に極端な問題に直面しており、北極の厳しい環境は軍事作戦に対する要求を非常に厳しいものとし、軍事作戦を非常に困難なものとしていると述べている。米シンクタンクThe Hudson Instituteの上席研究員Richard Weitzは軍民両用の港湾及び飛行場を建設するロシアの複線政策を指摘している。
(2) 2015年、ロ副首相Dmitry Rogozinは「北極はロシアにとってのメッカである」と述べている。6月、Putin大統領は北方艦隊を第5軍管区に指定する大統領令に署名した。国防省は、この斬新な意思は「戦略的な北極地域における防衛問題を解決する中で相互作用の改善」を可能にするだろうと述べている。モスクワはキンジャル空中発射型弾道ミサイルを搭載したMiG-31K戦闘機を移動しており、2019年、北方艦隊司令官Aleksandr Moiseevは「北極のロシア圏に対する防空」はS-400対空ミサイルの配備で形成されるだろう」と述べている。ロシアは、いくつかの空軍基地を開発することによって北極地域の安全保障体制を大きく強化している。ティクシは北極地域では最も新しい空軍基地で北方艦隊第3防空師団の母基地となっている。その任務は北極海航路上空の防衛にある。北極海航路はロシアが権利を主張し米国と対立している航路である。米国務省のヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補Michael Murphyは、「北極におけるロシアの軍事力増強は海域の問題を越えた含意がある。戦略地政学的視点からは、北極と北極海航路は不可分の関係にある。北極はロシアの艦船、潜水艦に海軍にとって重要なチョークポイントGIUKギャップへの接近路を提供している。GIUKギャップはNATOの防衛及び抑止戦略に重要な役割を果たしている。太平洋横断海底ケーブルもこの海域を通っている」と2020年初めに述べている。
(3) 第1回北極政策白皮書で中国は、企業に基幹設備の建設と「氷上シルクロード」を築く北極航路への道を開く商業試験航海の実施を奨励していると英通信社Reutersは報じている。中国は「北極の海上輸送路の開発を通じ『氷上シルクロード』を建設するために全ての当事者と作業することを望んでいる」と国務院新聞弁公室が発表した文書で述べている。中国は、ロシアのヤマル液化天然ガス計画を通じて北極における存在感を確かなものとしてきた。北極海航路を通るずっと以前の輸送は「北極沿岸の港と港の間を航行する船を単に繋いでいくものであった」とRichard Weitzは言う。北極地域での中ロの協調によって中国企業は欧州市場に到達できる代替航路として北極海航路を開発するため、同航路の試験航海を始めている。北極政策白書の発表後、西側諸国とその非難は北極において増大する中国の足跡と軍事力の展開を懸念している。「一部の人々は北極の開発への参加に不安を感じたり、その他の意図があるのではないかと心配したり、資源を収奪したり、環境を破壊したりするのではないかと心配している。我々はこの種の懸念は全く必要ないと考えている」と白書を発表した際に孔鉉佑外交部副部長は述べている。
(4) 増大する脅威に対処するため、米海軍は今一度、北極地域における哨戒を実施している。これは冷戦終結初めてであり、米海軍は現在、バレンツ海を4隻の艦艇で哨戒することによって北極圏の哨戒を定期的に実施しているとUS Defense Newsは報じている。
記事参照:China’s ‘Polar Silk Road’ & ‘Russian Mecca’ Draw The US Into A New Tug-Of-War In The Arctic

12月26日「南シナ海でインドとベトナムが海軍演習―香港紙報道」(South China Morning Post, 26 Dec, 2020)

 12月26日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“South China Sea: India, Vietnam to conduct military ‘passing exercise’ in sign of closer ties”と題する記事を掲載し、ベトナムが安全保障に関してインドをはじめとする他のインド太平洋諸国と連携を強めているとして要旨以下のように報じている。
(1) 北京が注視していると思われる動きの中で、印越海軍の艦艇は12月最後の週末、南シナ海での「小規模基礎訓練」(passing exercise:以下、PASSEXという)に参加すると印海軍は12月24日遅くに発表した。この演習は、ベトナム中部で洪水の被害を受けた人々への人道的な救援物資15トンを輸送してきた印海軍の対潜水艦戦用のステルスコルベットが24日にベトナムのホーチミン市に入港した2日後の12月26、27日に行われるとだけ述べた。
(2) このPASSEXは、ニューデリーとハノイの間の防衛関係がさらに緊密化する兆候であるが両者には北京に対して相違と不一致がある。インドは巨大な隣国との長引く国境紛争に巻き込まれており、ベトナムは南シナ海での北京の広範な領土主張に最も声高に反対してきた。
(3) 23日にNarendra Modi印首相とNguyen Xuan Phuc越首相は平和的な「開かれた、ルールに基づいた」インド太平洋を求める一方で、この2 国が彼らの防衛及び安全保障上の提携を強化することを提案した。そして、21日のオンライン首脳会談では、両国の首脳は定期的な艦船の訪問、共同演習、そして3軍種と沿岸警備隊の間の訓練と能力構築プログラムの形で軍隊間の交流を増加させることに合意した。
(4) ベトナムはまた、日本や米国を含む他の国との関係を強化しようとしている。しかし、ハノイと北京の関係は断絶しておらず、12月初めには両国が、2005年に設定された方法でトンキン湾において海上警察によるパトロールを実施している。
(5) 中国曁南大学の南シナ海研究の専門家張明亮はベトナムと域外の国際的な大国との間で増々軍事関係を緊密化させることは、北京にプレッシャーを感じさせる可能性が高いと述べ、「中国は状況を落ち着かせるために、特に南シナ海でのその利益に関して、ベトナムや他の国とのより多くの共通点を模索する必要がある」と述べた。
記事参照:South China Sea: India, Vietnam to conduct military ‘passing exercise’ in sign of closer ties

12月28日「米海軍、南シナ海のコンダオ諸島周辺海域で航行の自由作戦実施:ベトナムの主張に異議-米軍準機関紙報道」(Stars & Stripes, December 28, 2020)

 12月28日付の米軍準機関紙Stars & Stripes電子版は“Navy challenges Vietnamese claims to seas around resort island in South China Sea”と題する記事を掲載し、コンダオ・ナショナル・パークが置かれる南シナ海のコンダオ諸島周辺海域に対するベトナムの主張に異議を申し立て、米海軍が「航行の自由」作戦を実施したとして要旨以下のように報じている。
(1) 12月24日、米駆逐艦「ジョン・S・マケイン」は南シナ海で「航行の自由」作戦を実施した。米第7艦隊によれば1週間の内に2度目の実施である。第7艦隊はその声明の中で、ミサイル駆逐艦を派遣し、コンダオ諸島におけるベトナムの「過度の海洋に対する主張」に異議を申し立て、国際法に認められた海域への出入りと航行の自由を維持するために同艦はベトナムが主張する領海内で通常の行動を行ったと述べている。コンダオ諸島はホーチミン市の南約150マイルにある。ベトナムは、その領海がコンダオ諸島にまで伸びていると主張しているが、米国務省の報告書は同諸島はベトナム本土から50海里以上離れており領海基線と考えるには離れすぎていると述べている。
(2) 12月24日の任務は南シナ海及び東シナ海における権利の主張に対して異議を申し立て、海軍が2020年に艦艇を派遣した少なくとも8回目のものであった。その多くは、7月にMike Pompeo国務長官が公式に「完全に違法」と拒否した地域における中国の主張を対象としたものであった。
(3)「ジョン・S・マケイン」は、12月22日には南シナ海で別の「航行の自由」作戦を実施している。「ジョン・S・マケイン」は11月24日、ロシアのピョートル大帝湾に対する主張に異議をも仕立てるため日本海で「航行の自由」作戦を実施している。11月24日及び12月22日の「航行の自由」作戦に対し、中ロそれぞれの軍は「ジョン・S・マケイン」をそれぞれの海域から排除したと主張しているが、米海軍はそれを否定している。
記事参照:Navy challenges Vietnamese claims to seas around resort island in South China Sea

12月30日「中国海警と尖閣諸島―日国際法専門家論説」(The Diplomat, December 30, 2020)

 12月30日付のデジタル誌The Diplomatは国際法を専門とする明治学院大学鶴田順准教授の“The Chinese Coast Guard and the Senkaku”と題する論説を掲載し、そこで鶴田は2020年、尖閣諸島周辺における中国の活動がこれまでで最も活発化したことを受け、日本がそれにどう対応すべきかについて要旨以下のように述べている。
(1) 東シナ海に位置する尖閣諸島は魚釣島や久場島、大正島など五つの島と三つの岩礁から構成されており、日本の領土の一部である。しかし、その周辺において石油・ガス資源等が豊富であることを国連の報告書が示唆した後の1971年3月、中国外交部がその領有権を主張したのであった。
(2) ここ数年、中国海警船による尖閣諸島周辺での活動が活発化している。2020年にはどのような動きがあったかをまとめることで日本が今後どのようにそれに備えるべきかを提言したい。結論から言えば2020年の中国海警船の活動はこれまでで最も活発であった。尖閣諸島周辺海域で行動する海警船の数、海域にとどまる期間、日本漁船への接近などの事件の数すべてにおいて最大を記録したのだ。
(3) 中国側の主張は、海警船が国内法に基づき法執行活動を遂行しているというものである。しかしその「法執行活動」は、日本漁船の査察や漁船の拿捕、乗組員の逮捕など実際的な形をとるものではなかった。おそらく実際にそうしたことが行われた場合、それは国際法によって日本の主権の侵害とみなされるだろう。海警船が日本の領海内で中国の法律を執行する権利などそもそもない。
(4) 日本は事態の非拡大という方針を採っており、海警船への対処はその航路の制限や領海からの退去要求など穏当なものに留まってきた。しかしその結果は、上述のように2020年の中国海警船の活動はこれまでで最大であり、2020年の防衛白書に示されているように、日本はこうした中国の動向に懸念を深めている。2020年11月17日、日豪首脳会談の共同声明は、東シナ海における「現状を修正し、緊張を高めようとするいかなる威圧的な単独行動に対する強い反対」を表明した。
(5) こうした現状に日本はどう対処すべきだろうか。まず日本は尖閣諸島をめぐる状況の正確な認識、分析、評価を行わねばならない。そのうえで、これまでの日本の対応が限定的であったことを理解し、海警船の活動により効果的に対処し続ける必要がある。つまり、2021年に尖閣諸島周辺海域で何が起きるにせよ、日本の方針と対応は相手国の行動の非難に留めるべきではなく、より力強いメッセージを送るべきであろう。また、日米安保条約に基づく米国の日本防衛義務が尖閣諸島を包含するという言質を米政府側から取ることも必要であり、2021年に東シナ海で予定されている英仏海軍との共同演習なども重要な意味を持つ。ただ、何よりも日本が独自の備えをしなければならない。
記事参照:The Chinese Coast Guard and the Senkaku

12月31日「中国、インド洋で水中無人機を展開―印ネットテレビ報道」(NDTV, December 31, 2020)

 12月31日付の印民間TVネットワークNDTVのウエブサイトは“China Deploying "En Masse" Underwater Drones In Indian Ocean: Report”と題する記事を掲載し、インド洋で中国が展開している水中無人機について要旨以下のように報じている。
(1) 防衛アナリストの HI Suttonによると、中国は、インド洋に海翼(Haiyi)グライダーと呼ばれる水中無人機の部隊を展開しており、これは数ヶ月間、継続して活動し海軍による諜報活動を目的として観測を行うことができる。フォーブス誌に執筆したSuttonは中国が「次々に」展開しているこれらの海翼は2019年12月中旬に運用を開始し、3,400回以上の観測を行った後2月に回収された無人潜水機(以下、UUVと言う)の一種であると述べている。
(2) Suttonによると2019年12月の報告書ではインド洋の任務に 14 基が用いられたとされていたが、12 基のみが使用されたという。Suttonはこれらのグライダーは大きな翼を持ち、無動力で、長期的な稼働が可能であると述べ、高速でも機敏でもないが、長距離の任務には使用されていると付け加えている。さらにSuttonはインド洋に展開されているこれらの中国の水中グライダーは海洋学のデータを収集していると伝えられているが、これは「無害に思えるが、一般的には海軍の諜報活動の目的のために収集される」と述べている。
(3) インド太平洋地域の増大する課題に注目して、Bipin Rawat印軍参謀長は12月初め世界はインド洋地域の戦略的拠点をめぐる競争を目撃していると述べ、今後本格化する一方であると付け加えた。彼は「軍事分野において、技術は破壊の源ではなく抑止力の手段でなければならない。したがって我々の安全保障に対する取り組みは単独的なものから多国間モードへとシフトしていく必要があり、未来を強固にするためには、提携国との訓練への関与を増やすことが義務付けられる」と述べている。そして、インドが直面している課題を踏まえ、「我々は、国防軍の能力構築と能力開発のための組織化された長期計画を必要としている」と述べている。
記事参照:China Deploying "En Masse" Underwater Drones In Indian Ocean: Report

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) China-Russia strategic ties to be strengthened, sending strong signal to new US govt
https://www.globaltimes.cn/content/1210830.shtml
Global Times, December 23, 20202
 12月23日、中国政府系紙環球時報英語版Global Timesの電子版は“China-Russia strategic ties to be strengthened, sending strong signal to new US govt”と題する記事を掲載した。その中で、①Biden次期政権が米国と他国との関係を修復する際の障害をTrump政権が設けている時、中国とロシアは協力して米国に強いメッセージを送ってきた、②Bidenは、モスクワを最大の脅威とするが米国が中国をライバルリストから外すことはない、③中ロ関係は史上最良の状態にあり、それは互恵的な必要性と根本的な利益に基づいているが、米国の抑圧は中ロ協力を加速させる、④中ロの提携が将来的に軍事同盟に変貌し、世界に新たな冷戦をもたらすのではないかという推測がある、⑤ロシアのPutin大統領は、中ロの軍事同盟は「可能性はある」が両国は「一般的に」それは必要ないと述べた、⑥Bidenが米国と欧州との関係を修復すれば、ロシアは近隣諸国との状況により多くの課題を抱えることになり、ロシアは中国からのより多くの支援を必要とする、⑦しかし、軍事同盟は現時点では両国の選択肢にないが、中ロが協力して戦うことを余儀なくされる戦争が始まるという最悪な状況になれば可能性がある、⑧軍事同盟は柔軟性がなく、現在の戦略的提携は利益のために柔軟性を保つのに十分である、⑨中ロ間の協力は軍事と安全保障だけでなく経済、政治、外交、文化、科学技術、公衆衛生などの分野でも柔軟性があり包括的であるといった見解が述べられている。

(2) Legal Boundaries of U.S. Coast Guard Operations in the South China Sea
http://www.scspi.org/en/dtfx/legal-boundaries-us-coast-guard-operations-south-china-sea
South China Sea Strategic Situation Probing Initiative, 2020-12-24
By Yan YAN(閻岩), Director of the Research Center of Oceans Law and Policy in the National Institute for the South China Sea Studies(中国南海研究院海洋法律与政策研究所所長)
 12月24日、中国南海研究院海洋法律与政策研究所の閻岩所長は北京大学の南海戦略態勢感知計画(South China Sea Strategic Situation Probing Initiative)に“Legal Boundaries of U.S. Coast Guard Operations in the South China Sea ”と題する論説を発表した。ここで閻所長は、米国が12月18日に報告書を発表したが、同報告書は中国は南シナ海で積極的に作戦を展開し自国に有利な国際秩序を築こうとしていると非難した上で、米国は海軍力の兵力投射能力を高め、米国の同盟国や提携諸国との協力を強化することで「中国の脅威」に対抗すべきだと主張したことを取り上げ、米海兵隊の動向などを検証している。その上で閻所長は、米政府高官は海兵隊を南シナ海に常時配備すると繰り返し表明しているが、財政的な制約もあり、米国が将来的に海兵隊を南シナ海に大規模に展開する可能性は低いと評価すると同時に、代替策として米海兵隊は漁業執行協力の名の下に新たな手段で南シナ海をかき乱し、中国の南シナ海の主張に異議を唱え、中国の海洋活動を妨害してくる可能性があると主張している。

(3) Hints of Chinese Naval Ambitions in the 2020s
https://thediplomat.com/2020/12/hints-of-chinese-naval-ambitions-in-the-2020s/
The Diplomat, December 25, 2020
By Rick Joe is a longtime follower of Chinese military developments, with a focus on air and naval platforms.
 2020年12月25日、長年にわたり中国軍事問題をフォローし続けてきたRick Joeはデジタル誌The Diplomatに“Hints of Chinese Naval Ambitions in the 2020s”と題する論説を発表した。ここでJoeは、2020年は米海軍の2045年までの建艦計画、英国の2030年以降の海軍計画、そして印海軍の第3の空母への野望の強化に至るまで、世界の複数の主要海軍が将来の長期調達戦略を策定した年であったと評した上で、この海軍力拡大の野望は、COVID-19の大流行の経済的影響にもかかわらず、多くの主要国にとって短期的だけでなく中長期的なトレンドとして継続されるだろうと指摘し、中国の海軍力の拡大計画について筆者の予想を交え検証している。そして最後に、中国に関してはコルベット、フリゲート、駆逐艦、大型駆逐艦、通常型潜水艦、大型両用戦艦艇などの建造・調達能力が実証されているとした上で、中国海軍が今後、原子力潜水艦や空母の大規模調達を実施するかどうかは不明であるが、新たに完成した渤海の原子力潜水艦施設や、実証済みの空母建造可能な造船所の動向を検討する価値はあると指摘している。