海洋安全保障情報旬報 2020年12月1日-12月10日

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12月4日「インド・スリランカ・モルディブ3カ国対話開催の重要性―印研究者論説」(The Diplomat, December 4, 2020)

 12月4日付のデジタル誌The Diplomatは印シンクタンクObserver Research Foundationの名誉研究員Rajeswari Pillai Rajagopalanの“Why the India-Sri Lanka-Maldives NSA-level Talks Matter”と題する論説を掲載し、ここでRajagopalanは11月末に開催されたインド・スリランカ・モルディブの3カ国海洋安全保障対話の意義について要旨以下のように述べている。
(1) 11月末、コロンボにおいてインド・スリランカ・モルディブの3カ国海洋安全保障対話が行われた。この対話は国家安全保障担当補佐官(以下、NSAと言う)レベルの対話であり、2014年以来のものである。インド代表は国家安全保障担当補佐官Ajit Doval、モルディブ代表はMariya Didi国防大臣、スリランカ代表はKamal Gunaratne国防長官であった。モルディブやスリランカはインドにとってインド洋の重要な隣国であり、中国との外交的せめぎあいにおいて、インドはそうした国々の歓心を引き出そうとしている。またこの対話の再開は、2014年からのModi政権のインドが地域外交から準地域的外交を推進していこうとする意図の表れでもある。
(2) この対話では、インド洋地域における海洋問題に関する協力の推進が目指された。具体的には海洋状況把握や人道支援・災害救援、共同軍事演習、海洋汚染対策や水中遺産保護など多岐にわたる分野について話し合われた。そして代表団は、この対話のモメンタムを維持し、会合での決定の確実な履行の確認のために今後も年に2度、定期的にNSAレベルないし副NSAレベルでの会合の実施を目指すことで合意された。
(3) NSAレベルでのこの3ヵ国の対話が初めて行われたのは2011年のことである。2014年に第3回会合が開かれてから休止状態であったが、共同演習などの形での協力は続けられてきた。たとえばインドとモルディブが1991年以来行ってきたDOSIT共同沿岸警備演習には2012年にスリランカが参加した。インドとスリランカは2005年以来SLINEX共同海軍演習を実施してきた。
(4) インドがこれらの国々と海洋安全保障における協力を深めていくのは、それ自体が重要だということに加え、インド洋における中国の進出が背景となっている。インドはインド洋における大国ではあり、海軍の近代化も進めているが、中国との間に深刻な能力ギャップが存在する。中国はこれまでその軍事力、経済力を動員して、基地や戦略的ネットワーク構築によってインド洋への浸透を進めてきた。それに対抗するため、インドは2国間・3国間・多国間の対話などを通じて隣国との協力関係の深化を模索している。
(5) 加えてインドは、インド太平洋への取り組みを通じて、オーストラリアや日本、米国などと政治的志向を同じくし、中国の台頭について懸念を共有する国々との協力関係も深めている。インドは最近、日本をはじめ米国、オーストラリア、フランス、韓国、シンガポールなど数多くの国々と軍事物流協定を締結してきたが、それはインド海軍の行動範囲をより広大にしようとする意図の表れである。それは友好国及び潜在的敵対国に対するメッセージともなっている。
(6) 他方、インドは南アジア地域協力連合のようなリージョナルレベルのアプローチに限界を感じている。Modiが首相に就任した当初、彼はそれに関心を示したが、しかしそれは長続きしなかった。その代わりに準地域的取り組みに重心を移していったのである。しかし準地域外交の展開に関して考慮すべきは、それを構成する国々との良好な2国間関係の構築である。インド・スリランカ・モルディブ3カ国対話が2014年以降休止状態にあったのは、Abdulla Yameen政権下のモルディブとインドの関係が良好でなかったためだ。大国としてのインドは、そうした小さな国々が何を必要としているかを理解し、それに応えていく義務を有するのである。
記事参照:Why the India-Sri Lanka-Maldives NSA-level Talks Matter

12月5日「アブサヤフの活動範囲の拡大にどう対抗すべきか―米専門家論説」(The Diplomat, December 5, 2020)

 11月5日付のデジタル誌The Diplomatは米シンクタンクOne Earth Futureインド太平洋地域プロジェクトマネージャーJay Bensonの“Under Pressure on Shore, Abu Sayyaf May Increase Reliance on the Sea”と題する論説を掲載し、ここでBensonはフィリピンのイスラム主義組織アブサヤフの船舶がフィリピン軍に撃沈された事件を受け、それがフィリピンにおける海洋安全保障にどのような示唆を与えたかについて要旨以下のように述べている。
(1) 11月3日未明、フィリピンのイスラム主義組織アブサヤフ(以下、ASGと言う)7人を乗せたボートが身代金目的の誘拐を目論んでスールー諸島のある小島を出発した。その前日に地元住民が異変を察知し警備当局に通報していた。その通報を受けて、比軍のヘリコプター及び艦船がそのボートを撃沈し、ASGの指導者Mannor Sawadjaan以下総勢7人を死亡させた。この事件は反政府組織の海上におけるテロ活動に対する比軍の反撃能力が着実に向上していることを示すものであったが、それには他にも重要な含意があった。それは、海洋安全保障における地元民からの情報収集の重要性と、ASGの活動の地理的分散である。
(2) ASGのような非国家主体による海上での暴力活動への対抗にとって、あるいは海上安全保障全般にとって海洋状況把握(以下、MDAと言う)は決定的に重要である。しかしそれは技術的な複雑さと高い費用を伴うものである。MDAの強化については哨戒艦艇や哨戒機などの取得ばかりが議論されがちであるが、われわれはまた別の要因にも着目するべきであろう。それが、海上や沿岸部コミュニティにおける民間人が、人的インテリジェンスとして果たしうる役割である。
(3) 島々が点在する海域においては、漁民や沿岸コミュニティの人々は、周辺の日常生活のパターンを認識しており、もし普段と違うことが起きた場合にそれをすぐ察知することができる。したがって、彼らは海軍や海上法執行機関にとっての貴重な情報源となり得る。しかし彼らとの確実な接触を確立するために、海軍等は二つのことを考慮しなければならない。それは、民間人との良好な関係の構築と、民間人が安心して通報できるようにするシステムの構築である。前者は言わずもがなであり、後者に関しては、通報したことに対する暴力組織の報復行為の可能性がある時、とりわけ重要な課題であろう。
(4) この事件で注目すべきもう一つは、それが起きた場所である。最近のASGの活動の中心地はホロ島であった。しかし今回は、そこから14キロほど南西に位置する小島サルーレ島沖での活動中に、比軍の攻撃を受けたのである。これはASGの活動範囲がこれまでより拡大していることの兆候を示しているのかもしれない。ミンダナオ島のザンバオンガ市においてもASGが摘発される事件が起きており、これもまた同様の徴候を示している。この傾向はおそらく、比軍がASGに対して圧力を強めた結果のことであろう。これが意味するのは、ASGの活動に対抗するためにはより多くの努力が必要となるということである。
(5) これは比海軍や海上法執行機関の運用できる資源が非常に限定的であることを考慮する時、非常に厄介な問題である。解決策の一つはASGが目をつけるかもしれない地域に陸上の半恒久的部隊等の配備を拡大することである。それによってASGなどの接近を拒否しつつ、地元民間人に保護を提供するのである。そして解決策のもう一つである、こうした島々の民間人からの情報収集活動の拡大もまた促進されるであろう。上述したように民間人の安全を担保することは、彼らから有益な情報を引き出すための必須条件だからである。
記事参照:Under Pressure on Shore, Abu Sayyaf May Increase Reliance on the Sea

12月6日「南シナ海の人工島の基地は敵の攻撃に脆弱で戦時には有効に機能しない-香港紙報道」(South China Morning Post, 6 Dec, 2020)

 12月6日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“Beijing’s South China Sea military bases ‘are vulnerable to attack and will be of little use in a war’”と題する記事を掲載し、南シナ海の人工島は主権を守るには有意であるが、敵の攻撃に対し脆弱であり、戦時には役に立たないと中国の軍事誌が警告しているとして要旨以下のように報じている。
(1) 中国の軍事誌は、南シナ海に中国が建設した人工島は脆弱で戦時にはあまり貢献しそうにないと警告している。中国の南シナ海における人工島建設とその軍事基地化はベトナムやフィリピンのような南シナ海において権利を主張している国々の間で恐れを高めており、軍事化は北京が軍事施設から航空機を攻撃し、ミサイルを撃墜することを可能にする。
(2) 『艦船知識』最新号は四つの分野で人工島は弱点を抱えていると強調している。すなわち、本土からの距離、人工島の小ささ、滑走路の限られた容量、人工島攻撃に使用可能な複数の経路である。「これら人工島は中国の主権を守り、縦深性のある海域での軍の展開を維持する上では素晴らしい優位性を持っているが、自らを守るという点では自然の条件に基づく不利がある」と同誌の記事は述べている
(3) 『艦船知識』は、人工島は南シナ海の縦深の位置にあり中国本土からは遠く離れていると指摘し、人工島同士を密接に連携させる連絡網は無く、いずれかの島が攻撃を受けた場合、他島から支援することは困難であると警告している。また同誌記事は、人工島が遠すぎて最新鋭のJ-16多用途攻撃戦闘機を効果的に展開できないと主張している。戦闘機は距離の問題から人工島周辺を哨戒できず、水上艦艇から容易に阻止、あるいは攻撃されるだろう。
(4) 人工島の多くはたった1本の滑走路を有しているだけであり、同時に1機以上の航空機を支援する施設を提供する余積が無いことが続いている。このことは紛争時、1機の航空機が搭載している資材等を降ろす作業や燃料補給を実施する場合、その航空機はその間ずっと滑走路を占拠し、他の航空機が使用することを阻害することを意味する。滑走路はまた、海に近接しており、潮や熱帯気候からの損害に晒されていると記事は述べている。さらに同誌は、人工島は小さすぎ、大規模な攻撃に生き残ることはできないと言う。人工島のほとんどが平坦で極めて限られた植生と岩しかない。このことは、攻撃に対する掩体となるものがわずかしか無く、中国軍が装備や補給品を守るためにできる最良の方策は鋼材などで防護シェルターを建設することである。しかし、建設資材は本土から輸送しなければならず、(防護シェルターといえども)ミサイルの波状攻撃には耐えることができない。
(5) 人工島の近くの島々は、権利の主張が対立する国々が保持しており、もし米国が紛争に際してフィリピンやマレーシアのような同盟国を支援すれば、東側のパラワン島、西のマラッカ海峡などのような複数の攻撃経路が存在すると『艦船知識』は警告している。
記事参照:Beijing’s South China Sea military bases ‘are vulnerable to attack and will be of little use in a war’

12月7日「マレーシアの二つの『一帯一路構想』関連港湾プロジェクトの明暗、中国マネーの限界露呈―シンガポール専門家論評」(South China Morning Post.com, December 7, 2020)

 12月7日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版はシンガポールのThe ISEAS-Yusof Ishak Institute上席研究員Francis E. Hutchinsonと同所客員上席研究員でマレーシアのThe Universiti Kebangsaan名誉教授Tham Siew Yean の“Tale of two Belt and Road Initiative port projects in Malaysia shows limits of Chinese money”と題する論説を掲載し、ここで両名はマレーシアにおける二つの「一帯一路構想」関連港湾プロジェクト―クワンタン港(東海岸)拡張計画とムラカ(マラッカ)大水深港建設計画―の現況について要旨以下のように述べている。
(1) マレーシアと中国との関係はNajib前政権下で強まり、マレーシアは2018年までに東南アジアで3番目に多額の中国対外直接投資の受入国となった。中国の投資額は過去5年間で8倍になり、その投資範囲も製造業、インフラ建設、不動産から通信事業まで多分野に及んでいる。クワンタン港(東海岸)拡張計画とムラカ(マラッカ)大水深港建設計画は、いずれも中国の国有企業とマレーシアの民間大手と国有企業で構成する共同企業体により進められている。いずれのプロジェクトも“Port-Park-City” 構想といわれるもので国際港を中心に周辺の工業団地や都市開発への波及効果を狙いとしている。
(2) 1984年に建設され、1998年に民営化されるまで連邦政府によって運営されていたクワンタン港は、中国に最も近い港で広西壮族自治区の北部湾港から3日間の航程である。現在のところ、同港は公表データによれば全荷役量では国内第8位で比較的小規模港である。しかし、香港のBeibu Gulf HoldingとマレーシアのIJM Corporation との共同企業体が株式の40%を保有するKuantan Port Consortium は、より大型の船舶が停泊可能な大水深ターミナル埠頭の建設による拡張を計画しており、そのプロジェクト総額は連邦政府が資金を提供する10億リンギットの防波堤建設費を除いて推定30億リンギット(7億3,637万ドル)である。2018年の総選挙の敗北で下野するまで、Najib首相はマレーシア・中国クワンタン工業団地を併設したクワンタン港プロジェクトを最優先していた。このプロジェクトは、後継のMahathir政権でも、更に2020年3月に発足したYassin政権でも、時の首脳や経済エリートから公にあるいは暗黙裏に支持されてきた。政府はこのプロジェクトに直接的関わりを持っていないが、港湾の拡大による雇用効果と経済的な波及効果を得られる。
(3) 他方、Melaka Gatewayプロジェクトは異なった展開となっている。このプロジェクトは、東南アジア最大のプライベート・マリーナ、4隻のクルーズ客船が同時接岸可能な埠頭、貨物ターミナル、海洋ハイテク公園、そして自由貿易地帯を含む施設をマラッカ海峡沿いの四つの人工島に建設する総額430億リンギット(105億米ドル)のプロジェクトである。このプロジェクトは経済を活性化させ、約4万人の雇用を生み、年間250万人の観光客を呼び込み、1兆1,900億リンギットの収益をもたらすと見込まれていた。2014年に華やかに発足したプロジェクトは、中国の国有企業、PowerChina Internationalとマレーシアの三つの地方政府公社の支援を受け、Najib政権の後援で開発業者KAJ Development Berhad が主導してきた。このプロジェクトの場所と規模から見て、専門家はマレー半島の西海岸に位置するこの場所はシンガポールを迂回する陸橋を構成する東岸鉄道網とクワンタン港にリンクできることから、「中国にとって、マラッカ海峡に対する軍事戦略的影響力を獲得し維持する手段」と見て、Melaka Gatewayプロジェクトを戦略的な視点から評価した。さらに、これによって中国は自国の燃料需要の80%が通峡するマラッカ海峡を監視できるであろう。
(4) しかしながら、11月にムラカ州政府はKAJ との契約が終了したことを明らかにした。それによれば開発業者は計画どおりに人工島造成を完了させることができず、今後、このプロジェクトを担当しないと言う。このプロジェクトを取り巻く状況はクワンタン港拡張計画とは異なっている。Najib政権は支援を公言していたにもかかわらず、このプロジェクトに資金を投入しなかった。マレーシアの政治エリート間におけるこのプロジェクトに対する関心の欠如には幾つかの理由が指摘できるかもしれない。
a. まず、クワンタン港とは異なり、Melaka Gateway は国内7カ所、その内の西海岸に3カ所ある連邦政府管轄の港ではない。
b. また、世界銀行港湾部門の詳細なレビューは、多くの港に荷役を分散させるより既存の港湾施設をより集中的に活用することを勧告している。このレビューは、主要港湾の現在のネットワークによって、2040年までの国内の推定需要を賄うことができるとし、より多くの港湾建設は他の港湾で荷役を奪い合うことになろう、と指摘している。
c. さらに、このプロジェクトを支える中国国有企業PowerChina Internationalが主導する投資共同体は、国内の政治あるいは経済エリート集団の首脳クラスが代表を務めているわけではない。しかも、インフラ建設部門においてマレーシアを代表する政府に影響力のある国内企業が参加していない。港湾の新設は既存の港湾に利害関係を持つ経済エリート集団に対する挑戦であり、このことが関心欠如の大きな要因となった。
(5) 以上二つの事例が示すように、中国の「一帯一路構想」プロジェクトに関係している国内の関係者、企業は自らの計画の成否を分かつ決定的な要因である。中国が資金を提供してくれるかもしれないが、これらの国内の関係者、企業は、資源、資本及び現地の政治的状況に対処する能力を提供するからである。
記事参照:Tale of two Belt and Road Initiative port projects in Malaysia shows limits of Chinese money

12月8日「気候変動へのNATOの対応―米大学院生論説」(The National Interest, December 8, 2020)

12月8付の米隔月誌The National Interest電子版はAmerican University のSchool of International Service大学院生Joseph Bodnarの“NATO Has a Role to Play in Fighting Climate Change”と題する論説を掲載し、ここでBodnarはNATOが報告書で発表した気候変動へのアプローチについて要旨以下のように述べている。
(1) 軍事行動によって気候変動を防いだり、打ち負かしたりすることはできないが、軍隊はその解決策の一部となり得る。NATO の将来を考慮した新しい報告書“NATO 2030: United for a New Era”は、大西洋横断的な同盟が生態系の破壊を遅らせる上で果たすことができる役割や、この危機への対処に役立つ一連の提案を行うことを認めている。
(2) 元ノルウェーの環境大臣で元国連の気候変動に関する特使である、NATO事務総長Jens Stoltenbergは「気候変動は、現代における最大の課題の一つである」と繰り返し認めている。地球温暖化は異常気象をより激しく、より頻繁に発生させ、何百万人もの人々の住む場所を失わせ、食糧、水及びエネルギーの安全保障をめぐる緊張を悪化させ、そして、地政学に複雑さと争いをもたらした。NATOにとって、これは、人道支援や災害対応に対する需要の増加、過激派のイデオロギーが依存する不安定性の増加、そして、より広範で厄介な脅威の展望を意味している。
(3) NATO 2030の報告書は気候変動が安全保障に与える影響を監視し、判断するCentre for Excellence on Climate and Securityの設立を推奨している。このような状況把握の強化により、NATOは気候変動がもたらす課題に対処するために予測し、適応し、行動することが可能になる。
(4) この報告書はまた、氷の融解がその海域への通航を容易にし、開発の対象となり易くし、対立を激しくしている極北及び北極圏の戦略的な重要性を強調した。
(5) 最後に、そして、おそらく最も重要なこととして、報告書は、より良い環境技術(green technology)とスマートエネルギー(エネルギーの効率的な利用)を導入する必要性を強調している。NATO軍の二酸化炭素排出量は膨大である。軍事費の増加と負担の分担を求める現在の動きは、化石燃料への依存度を減らすという義務と結びつけなければならない。Stoltenbergはまた、太陽光や風力などの再生可能エネルギーへの転換は、NATOの自給自足率を高め、ひいてはNATOの作戦の独立性と柔軟性を高めるだろうと指摘している。NATO の成功は共通の脅威に対し集団的に行動するという加盟国の信用できる深い関与にかかっている。気候変動はこの使命の核心に踏み込むものである。
(6) 向上させるbきことのほとんどは個々の国が行うことになるが、NATOは、世界の軍事的な二酸化炭素排出量を削減し、気候変動の思い通りにならない脅威をよりよく予測して対応することに役立ち、気候変動との戦いにおける多国間の関与を再活性化するのに役立つことができる。世界のGDPの半分以上を占める30カ国が加盟国であることから、NATOの行動は有意義な影響を与える。
記事参照:NATO Has a Role to Play in Fighting Climate Change

12月8日「中国、オーストラリアの玄関先に2億ドルの魚加工場建設―元パプアニューギニア首相補佐官論説」(The Strategist, 8 Dec 2020)

 12月8日付の豪シンクタンクAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistはパプアニューギニア首相補佐官等を歴任したJeffrey Wallの“China to build $200 million fishery project on Australia’s doorstep”と題する論説記事を掲載し、ここでWallはトレス海峡を挟んで目と鼻の先にあるパプアニューギニアのダルに中国が2億ドルを投じて漁業工場を建設することはオーストラリアとパプアニューギニアの間にくさびを打ち込むことができる戦略的に重要な場所であるからだと指摘し、オーストラリアはできるだけ速やかに対応策を採る必要があるとして要旨以下のように述べている。
(1) オーストラリアの対中関係は大きな圧力に晒されており、オーストラリアの戦略的利益に挑戦する計画がパプアニューギニア政府によって目立たない内に承認されている。11月、福建中鴻漁業有限公司はダル島に2億ドルの「包括的多機能漁業工業団地」建設の覚書をパプアニューギニア政府、フライリバー州政府と取り交わした。計画は中国政府が直接後押ししているとの疑念は、投資はパプアニューギニアの漁業資源を包括的に開発し、利用する能力を強化するものであるとの駐パプアニューギニア中国大使薛冰に支援された中国商務部の声明で沈静化させられている。
(2) パプアニューギニアの漁業に詳しい人に確認したところではダル近傍には商業漁業の地盤はない。それではなぜ、商業漁業の資源があるとは考えられていない所の魚加工工場に2億ドルを費やす計画をするのか?工場はオーストラリアの島のコミュニティからほんの数Km離れた所にあるという事実がその理由のようである。オーストラリアの北の玄関先で中国の巨大資源開発計画が実施されることは不快なことであり、オーストラリアの戦略的利益とならない。
(3) クィーズランド州ライカート選出のWarren Entschだけがこの計画の重要性を理解しているようである。彼は懸念を表明したが、政権の誰かが耳を傾けたのか、あるいは気にかけたのかは明らかではない。
(4) オーストラリア、クィーンズランド州、パプアニューギニア間にはトレス海峡を対象とした条約があり、これには漁業権も含まれている。ダルに居住するパプアニューギニアの人々とクィーンズランド州及びタレス海峡沿岸のコミュニティの関係は総じて調和したものだった。
(5) 中国の計画が進められれば、中国漁船がダル周辺海域及びトレス海峡で活動すると想定するのが穏当である。中国はダルやフライリバー州の他の場所の漁民を使うかもしれない。これは中国大使が仄めかしていることである。海峡を哨戒し、どの漁船と乗組員が現実にパプアニューギニアから来ているのか、多種多様な施設から来ている中国の隠れ蓑なのかを決定しなければならないことは合目的的とは言いがたい。
(6) オーストラリアの対パプアニューギニア関係は重大な局面にある。あらゆる機会で中国は両国間にくさびを打ちこむ政策を行っている。漁業資源に恵まれているとは考えられていないが、戦略的にオーストラリアに近い地域への2億ドルの「漁業」投資は確かに本当の狙いについて疑問を投げかけている。オーストラリアは、ダルを含むフライリバー州の医療、教育、その他の分野に対する援助に相当の資金を投入してきた。経済開発、特に生活水準を向上させ、村に小規模な事業と雇用機会を提供する開発についての着意がオーストラリアに不足していたことは明らかであろう。この計画の合意は、中国がパプアニューギニアで追求している一帯一路構想に包摂されている。もし、オーストラリアがこの計画をこれ以上進展させないのであれば、素早く行動する必要がある。オーストラリアが何をするにせよ、対応は実質的で、人々を集中させ、明確に達成可能でなければならない。中国が計画する投資は戦略的に重要な地域であることに対し適切な対抗案を迅速にキャンベラが発出するために十分な注意を喚起することを期待しなければならない。
記事参照:China to build $200 million fishery project on Australia’s doorstep

12月8日「日本はファイブ・アイズの正式メンバーになる準備ができている-米専門家討論」(Debating Japan, CSIS, December 8, 2020)

 12月8日付の米シンクタンクCenter for Strategic and International Studies(CSIS)のウエブサイトは日本がファイブ・アイズ加盟について”Japan Is Ready to Become a Formal Member of Five Eyes”と題する論説を掲載し、ここで米国のManohar Parrikar Institute研究員Jagannath Pandaは肯定の立場から日本がファイブ・アイズにもたらす利益は明らかであると、またCarnegie Endowment for International Peace研究員Ankit Panda氏は否定の立場から時期が適切でないとして、それぞれ要旨以下次のように述べている。
(1) 編集者はこの討論について次のように述べている。
a. 河野太郎前防衛相は2020年8月のインタビューでオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、米国、英国の間のインテリジェンス情報の共有関係であるファイブ・アイズに参加することへの日本の関心を述べた。日本はすでにファイブ・アイズ諸国との高いレベルの協力を享受しているが、中国の軍事力とサイバー能力の増大に直面して、日本が正式に「第6の目」としてファイブ・アイズへ加入するという議論が強まっている。
b. Debating Japan newsletter seriesの第19号では、CSIS Japanの議長がJagannath PandaとAnkit Pandaを、日本がファイブ・アイズの正式なメンバーになる準備ができているかどうかについての彼らの見解を共有するために討論に招待した。
(2)  Jagannath Panda博士は肯定的な見解を次のように述べている。
a. 菅首相は、並外れた国際的脆弱性と地政学的緊張の時代にリーダーとなった。「継続性」のリーダーとして知られる菅氏には、安倍晋三前首相の決定的な遺産の一つである防衛体制への注目が高まっている。菅氏の下で、英国、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドを含む情報共有の同盟である「ファイブ・アイズ」の「第6の目」としての日本の加入は、さらなる牽引力を獲得することになる。情報の共有は相互の信頼と戦略的理解に大きく依存している。日本がファイブ・アイズに含まれることへの見解を6項目にまとめた。
b. 第1に、日本の同盟への参加は積極的な経済的多国間主義の取り組みとともに、安全保障の多国間主義を受け入れるというコンセンサスを生み出す。安倍前政権下では日本の制限された多国間安全保障の取り組みは、「集団的自衛」と「平和への積極的貢献」に重点を置いて大きな変革を遂げた。多国間貿易プラットフォームにおける日本のリーダーシップ はその新たな多国間安全保障と経済的結びつきの証左である。
  c. 第2に、「第6の目」としての日本は既存のオーストラリア、フランス、英国、米国間の情報共有の仕組みから考えると、明らかに進歩している。日本は中国に対する自国の安全保障上の懸念の高まりと北朝鮮からの脅威の認識により、政治的には安全保障を求めて世界的な同盟構造に順応するようになった。この点で、日本の戦略的認識はファイブ・アイズ諸国の認識と一致している。さらに最近合意したオーストラリアとの相互アクセス協定(RAA)は、中国を主な対象とした日豪安全保障と軍事上の提携を強化した。日本の正式な加入はインド太平洋での地理的情報網を可能にする。
d. 第3に、日本の現在の情報収集メカニズムは比較的新しいものだが、より強力な国内の保全対策が急速に組み込まれる必要がある。日本のほとんどの情報へのアクセスはいまだに容易であり、秘密の重要さのレベルに基づいて情報を分類するプロセスは依然として緩い。日本がファイブ・アイズへの加入を積極的に推進するならば、ファイブ・アイズのメンバーに対して、日本の加入が情報保全体制のリスクとならないことを保証する必要がある。
e. 日本は、2020年防衛白書に見られるように、国家安全保障戦略に著しい変化を示している。それは、国益を守る準備ができている積極的な地域リーダーとなることである。日本は情報収集能力を刷新しただけでなく、安全保障強化の問題がますます公に唱えられ、受け入れられるようになり、先制攻撃能力を獲得しようとする意欲も示している。さらに秘密保護法の範囲を拡大し、米国以外の国とも情報共有が可能となるようにセキュリティパートナーシップを拡大することに関心を示している。
f. 第4に、中国とインド太平洋諸国の間で拡大している外交的及び政治的争いは、拡大したファイブ・アイズネットワークに対してチャイナ・アラートを発出した。ファイブ・アイズは独自の情報共有の仕組みの活用を目指す必要がある。2013年のエドワード・スノーデンによる情報の流出により、追加のインテリジェンス共有レベル(9Eyesと14Eyes)の同盟の存在が明らかになった。イスラエル、シンガポール、日本、韓国はこれらの枠組みの中では非公式のパートナーとされていた。日本がファイブ・アイズのレベルへ上がることは、この地域の安全保障の見通しにとって大きな意味合いをもっている。
g. 第5に、日本が東アジアで最初の英語を話さない国としてファイブ・アイズに加わるならば、おそらくファイブ・アイズ+1を試行する形で、ネットワークの能力を高めるだけでなく、安倍前首相の「集団的自衛」を後押しするだろう。これにより、英国のDemocratic-10(D-10)、Quad 2.0、新「Quad Plus」などの多国間枠組へのより深い関与への道が開かれる。東シナ海の緊張が高まり日本の安全保障が優先事項となる中、菅首相は日本の情報と秘密データの保全能力の向上に焦点を当てる必要がある。
h. 第6に、日本はファイブ・アイズに提供するものがたくさんある。 日本は専門的なインテリジェンス情報の収集と共有、特に電波受信所が取得したシグナルインテリジェンス(SIGINT)と電子的に共有されるデータに熟練している。さらに戦後、軍事的な存在をめだたなくして構築された、世界で最も広大な情報収集フレームワークの一つを持っている。中国と北朝鮮が日本にとって最大の安全保障上の脅威であると認識され、近年強化されてきたが、それは日本の価値を高めている。
i. 日本が同盟にもたらすことができる情報の優れた点は明らかであるが、エリート的なこの同盟に受け入れられるために日本は米国、英国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダに、国内の防牒措置と新しい法律が国家機密を十分に保護できることを納得させなければならない。これには、国内法や技術の強化だけでなく、洗練された外交的取り組みも必要となる。
(3) Ankit Panda氏は否定的見解を次のように述べている。
a. ファイブ・アイズの情報共有の提携は世界で最も古く、冷戦中、これらの国々による情報共有は旧ソ連がワルシャワ条約機構の提携国と行ったよりもはるかに大きな規模で、大きな利益をもたらした。
b. 現在インド太平洋での競争が激化する中、日本はグループへの参加を目指している。河野太郎元防衛相は「シックス・アイズ」の概念を大胆にほのめかし、日本がファイブ・アイズの正式なメンバーとして加盟すべきと示唆した。中国と地理的に近接している日本の参加はファイブ・アイズにとって明らかなメリットである。日本が責任ある国際的利害関係者で、世界情勢における前向きな力を持っていることに疑問はない。しかし、日本が正式な会員になる時期としては適切ではない。
c. ファイブ・アイズが冷戦後の情報化時代においても継続される意義があったとしても、現在のメンバー国の防牒と情報セキュリティについては懸念が高まっている。ニュージーランドは、ある意味最も弱く、中国からの厳しい攻撃に直面し、ファイブ・アイズ加盟国としてマイナスの問題を提起している。情報共有ネットワークの有効性は最も脆弱なノードに左右される。日本はここ数十年、防諜と情報セキュリティを改善するための努力を続けており、それは歓迎されるべきである。対照的に、日本の民間部門における秘密情報のセキュリティを向上させるためには、さらに多くのことを行う必要がある。
d. 何十年にもわたってファイブ・アイズのグループを支えてきた情報共有の原則は注目に値する。この原則は数十年間5カ国間においては実行可能だったが、日本がファイブ・アイズと正式なメンバーシップを設定することにより、日本は失望されることになるだろう。日本はすぐに6番目のメンバーにはならなくとも、「ファイブ・アイズプラス」のようなステータスを享受することはできる。しかしファイブ・アイズ内で期待されるようなシームレスな情報の共有が可能になるわけではない。それは日本をこれらの国々とのより大きな情報共有への道に導き、その過程で日本の安全保障を強化することになる。
e. この種の協力は、ファイブ・アイズと特定のヨーロッパ諸国との間に存在する関係で、そのほとんどは北大西洋条約機構(NATO)のメンバーである。 たとえば、シグナルと電子情報の分野では、ファイブ・アイズ諸国はオランダ、ノルウェー、フランス、デンマークの諜報機関と緊密な協力関係にある。他の分野ではベルギー、イタリア、ドイツ、スペイン、スウェーデンなどと協力関係にある。ファイブ・アイズの観点から6番目の「目」としての日本の正式な加盟は、他の同盟国や提携国が不快に考える可能性に加え、他の国が正式なメンバーシップを求める可能性もあり、それはファイブ・アイズ諸国で分裂という外交的ジレンマとなる可能性もある。正式な加盟でなくとも日本はファイブ・アイズが主導するインド太平洋指向の非公式の協力ネットワークの最初の参加国になる可能性があり、これは、すでに事実上享受している。
f. 現状においてもファイブ・アイズ諸国は利益を最も適切に保護できる。それは日本にとって理想的な結果ではないだろうが、現在の環境ではこれが最適で、正式な加入に伴うリスクを軽減できる。幸いなことに日本のエネルギッシュな外交はファイブ・アイズ諸国の間でも脅威が高まる中国の存在によって、近年成果を上げている。英国では、日本との情報共有の視点が急速に加速している。日豪の協力も急速に成長している。情報の共有を導くべき最も重要な原則は実用主義と連帯である。日本の正当な安全保障上の懸念と北東アジアにおける民主的な防波堤としての立場は適切な時期と場所で情報共有へと向かうだろう。今、日本が正式なステータスをもつことに固執することは、現実的には問題となる。
記事参照:Japan Is Ready to Become a Formal Member of Five Eyes

12月9日「複雑に絡み合う海軍の共同演習と印ロ関係―米著述家論説」(The National Interest, December 9, 2020)

 12月9日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は米国ミシガン州を拠点とする著述家Peter Suciuの“Is a Russia-India Navy Alliance Brewing?”と題する論説を掲載し、ここで Suciuはインドとロシアが最近行っている他国との海軍演習と両国の関係について要旨以下のように述べている。
(1) インド海軍の空母「ビクラマディティヤ」が、豪海軍や海上自衛隊との訓練を含む米海軍とのマラバール2020共同演習の第2段階に参加してからわずか2週間後、印艦艇がインド洋東部でロ艦艇と小規模基礎訓練(以下、PASSEXと言う)を実施した。
(2) この訓練は、作戦能力を高め、相互理解を向上し、友好的な両国海軍間の高度な経験を交換することを目的としたものであると印海軍報道官Vivek Madhwalは述べている。報道によれば、依然として進行中の新型コロナウイルスの世界的感染拡大が原因で、両国艦艇は水兵間の個人的な接触なしで洋上での交流のみを行った。
(3) このような演習は共同行動の演練に加え、「show the flag」と両国の潜在的な協力関係を強調するものである。この場合、ニューデリーは多くの国際的な提携相手がいることを示し続けており、中印がこの演習から数千マイル離れたヒマラヤ山脈での膠着状態を継続しているため、このメッセージは北京に向けられた可能性が高かった。
(4) 2020年、インド海軍は13の2国間及び多国間演習に参加したと報じられた。これには最近のマラバール2020、7 月のアンダマン・ニコバル諸島付近での米ニミッツ空母打撃群とのPASSEX、そして、海上自衛隊とのより最近のPASSEXが含まれている。
(5) インドとロシアの間の最近のPASSEXは、インドの最大のライバルであるパキスタンとの海軍協力を強化するとモスクワが発表してから1 年後のことである。パキスタンはまた、ソ連からの借款9,350万ドルを返済することで合意し、パキスタンとロシアの関係に影響を与えていた大きな障害を取り除いた。
(6) インドがワシントン及びモスクワの両方と緊密な関係を維持しようと試みてきたことと全く同じように、ロシアもまたイスラマバード及びニューデリーの両方と協力することにより、リスクを回避するために両掛けしようとしていることは明らかである。
記事参照:Is a Russia-India Navy Alliance Brewing?

12月10日「天然ガス採掘をめぐり、EU、トルコに制裁-英通信社報道」(Reuters, DECEMBER 10, 2020)

 12月10日付の英通信社ReutersはEU首脳会議でキプロス沖合のエネルギー開発をめぐり、トルコの個人及び企業に制裁を科すことが合意されたとして要旨以下のように報じている。
(1) 12月10日、EU首脳はギリシャとキプロス間のエネルギー採掘紛争に関し、トルコの個人に対し限定的な制裁を科すことで合意した。これはEU内でアンカラをどのように取り扱うかで白熱した議論があったため、より厳しい措置は2021年3月まで延期されたものである。より広範な経済的方策と考えられた恫喝を避け、EU首脳はEUが言うキプロス沖における無許可の掘削を計画し、あるいは参画したとして個人を罰するとした首脳会談声明に合意した。
(2) ドイツ、イタリア、スペインが外交により時間をかけるべきとしたことで炭化水素化合物をめぐる紛争に関しトルコ経済を標的にすることをEUが躊躇したとして代表が不満を表明しているように、ギリシャにとってこの合意は十分なものではなかった。対照的に、米国はトルコがロシアからS-400対空ミサイルを購入したことに関し制裁を科す準備ができていると米当局者2名を含む五つの情報源がReutersに語っている。フランスは対シリア、対リビア政策に腹立っており、トルコ経済の分野別の制裁を科すことをEUで押してきたが、幅広い支持は得られなかった。トルコはトルコ系キプロス人が権利を有する大陸棚あるいは地域の海域で作業を行っていると主張している。
(3) 名前が明らかにされていない個人と企業の在EU資産の凍結は、12月9日にReutersが最初に報じたように、2109年11月に制裁リストに挙げられている2人の当局者に付け加えられることになるだろう。EU首脳会議の前にギリシャ首相Kyriakos Mitsotakisはビデオメッセージで「何が危機に瀕しているかは明らかである。それはEUの信頼性である」と述べている。NATO加盟国であり、EU候補国でもあるトルコに罰則を科すことへの気配りを強調し、トルコを「挑発」と非難する最終文書でほとんど益のない「文言に関する長い議論」が行われたある外交官は述べている。
(4) EU首脳は、EU外務・安全保障政策上級代表Josep Borrellがトルコに対する政治、貿易、経済関係の概要を3月までに発表することを期待している。これによって、アンカラがさらなる措置を回避し、地中海東部における緊張を終わらせることに手を貸す気があるかによってEUは制裁を拡大することもできるし、拡大した関税同盟によってより緊密な貿易上の紐帯を提供することもできると外交官は言う。
(5) 2011年、国際的に承認されたキプロス共和国(抄訳者注:南キプロス・ギリシャ共和国と呼ばれることもある。なお、トルコ系住民が支配する北部は1983年に分離独立を宣言後、北キプロス・トルコ系住民共和国と称している。)政府は、トルコの警告にもかかわらず、米企業と天然ガスの採掘を開始した。トルコは分断されたキプロス島の状況を承認しておらず、採掘権を主張している。アンカラがキプロスの排他的経済水域及びギリシャが主張する海域に地震探査船を送ったことで緊張が勃発した。ドイツが主導するEUは交渉による解決を試みたが、成功しなかった。
記事参照:After heated debate, EU to prepare new sanctions over Turkish gas drilling

12月10日「Trump政権が新たな建艦30年計画を公表―米専門誌報道」(National Defense, December 10, 2020)

 12月10日付の米国防関係誌National Defenseのウェブサイトは“Trump Administration Unveils New 30-Year Shipbuilding Plan”と題する記事を掲載し、Trump政権が今後30年間にわたる米海軍の建艦計画を公表したが、それはJoe Biden次期政権によって変更される可能性あるとして要旨以下のように報じている。
(1) Trump政権は2020年12月10日、海軍の能力向上を目的とした新たな長期建艦計画を公表した。2022-2051年度の青写真はDavid Norquist国防副長官が率いた未来の海軍の研究として2020年初めに行われた見直し後にできたものである。新しい計画の公表は今後数十年、中国に対する米海軍の優位性を維持することを目標にMark Esper前国防長官が将来の艦隊について提起したバトルフォース2045と呼ばれるビジョンの公表に続くものである。「将来の海軍研究とこの建艦計画は、より大きく、より弾力性のある海軍の要件を再確認する」と新建艦計画は述べている。主な優先事項は、コロンビア級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦をもって米弾道ミサイル搭載原子力潜水艦部隊の再構築の完全な予算化、近い将来に「信頼できる戦闘力を持つ前方部隊」を提供するための準備、中長期的に中国とロシアに対して「非線形」の戦闘優位性を提供する可能性を持つ近代化した装備への投資、そして海軍が将来その能力を維持する能力を増やし、2026年度までに有人戦闘艦艇部隊を316隻に増強することである。現在、米海軍が保持している戦闘艦艇の数は300隻以下である。
(2) 無人艦艇・航空機は重要な構成要素である。「無人システムは引き続き能力を進歩させており、戦争のすべての段階で主要な要素となるために進化させることが期待されている」と新建艦計画は述べている。2022年度から2026年度の将来の計画では大型無人艦艇12隻、中型無人水上艦艇1隻、超大型の水中無人機8基に対して合計約43億ドルを提供する必要がある。将来の海軍力調査では、119~166隻の無人水上船と24~65隻の無人潜水艇が必要となる。今後5年間で82隻の新しい有人船舶を1,470億ドルの費用で調達する計画である。これには2隻のフォード級空母と同級空母3番艦の事前予算、DDG-51駆逐艦10隻、コンステレーション級ミサイルフリゲート12隻、バージニア級攻撃型原子力潜水艦12隻、コロンビア級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦2隻の予算が含まれている。
(3) 米海軍はまた、軽空母の数を追加することを検討している。匿名を条件に記者団に説明した海軍高官は、空母部隊の将来を見るために2022年度に分析が行われると述べた。今後30年間で新建艦計画によると空母6隻、大型戦闘艦55隻、小型戦闘艦艇76隻、攻撃型潜水艦77隻、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦11隻、オハイオ級巡航ミサイル搭載原子力潜水艦の後継として計画されている巡航ミサイルを大量に搭載した大型原子力潜水艦4隻、水陸両用戦艦艇71隻、戦闘補給艦80隻、支援艦24隻を調達する。老朽艦の退役を考慮すると、艦隊の総隻数は2026年までに316隻、2030年までに347隻、2035年までに377隻、2040年までに398隻、2045年までに403隻、2051年までに405隻となる。無人船を含むと艦隊は2036年までに500隻以上、2045年までに約650隻となる。2020年、議会は海軍建艦に約240億ドルを割り当てた。さらに、2028年までに持続資金は400億ドルに増加すると予測されている。海軍高官は、この計画は将来の防衛計画のために国防総省の上層部で「完全に予算化された」と述べた。この計画は長期的に毎年2%の実質成長を想定している。建艦計画は2021年度で海軍予算の約10%を獲得した。新建艦計画では、2022年には約12%、計画全体で平均約14%に増加する。これに対しReagan大統領の時代に艦艇建造が海軍予算に占める割合の平均は約13%であった。産業基盤の能力は重要な懸念事項である。「産業基盤は、海軍の将来の艦隊を達成し維持するための基本的な要素である」と新建艦計画は述べている。
(4) 米海軍は、インフラを拡大し、労働力を強化するための努力に資金を提供するつもりである。「我々は基地を構築するために、目標を絞った大規模な投資を行っている」と高官は述べた。「投資は雇用を創出し、経済に利益をもたらすだろう。我々は海洋国家だ」と彼は言った。「我々は、我々の海軍力が競争上の優位性を持ち続けることができるように、我々は海洋産業の規模を調整し、必要な速度で提供する必要がある。しかし、新しい計画は短命になる可能性がある。Joe Biden次期大統領は2021年1月20日に発足し、新政権はその優先事項に合わせて独自の予算見直しを行う予定である。予算の通常の予定と組み合わせて、別の建艦計画を行うと思う」とある当局者は述べた。別の当局者は、「将来の予算に変更がある場合、建艦計画はその予算に一致するように変更されるだろう」と付け加えた。
記事参照:Trump Administration Unveils New 30-Year Shipbuilding Plan

12月10日「新たに注目すべき東沙諸島―日国際関係学教授論説」(The Diplomat, December 10, 2020)

 12月10日付のデジタル誌The Diplomatは東京外国語大学大学院総合国際学研究所教授、小笠原欣幸の“The Pratas Islands: A New Flashpoint in the South China Sea”と題する論説を掲載し、ここで小笠原は中国が台湾への軍事的圧力が強める中、南シナ海の東沙諸島において何らかの行動を起こす可能性があるとして要旨以下のように述べている。
(1) 中国による台湾への軍事侵攻の可能性が懸念されている中、南シナ海の北側に位置し、台湾が実効支配する東沙諸島に注目が集まっている。それはなぜか。現時点で実際に中国が台湾に上陸作戦を敢行することが考えにくく、その一方で台湾への圧力を強めて最終的な統一の筋道をつけたいと考える中国が、東沙諸島の占領に動き出す可能性があるからである。
(2) 南シナ海の戦略的重要性が高まるにつれて、そのほとんどが岩礁で構成され、飛行場はあるが定住民のいない東沙諸島の戦略的重要性も高まってきた。2020年8月以降、中国人民解放軍は周辺で繰り返し軍事演習を行っており、10月には高雄から東沙諸島へ物資を運ぼうとした台湾機が香港航空管制に警告を受けるという事例があった。これらの事件が示唆するのは、習近平が意思決定すればいつでも中国は東沙諸島の支配を握ることができるということである。
(3) 東沙諸島の占拠は中国に多くの戦略的利益をもたらす。
a. 中国側の意思と能力を台湾その他近隣諸国に示す。
b. 東沙諸島を軍事化することで南シナ海全域の支配を固める。
c. Biden政権の最初期を混乱させ、米国から主導権を取り戻す。
d. 東沙諸島の占領を台湾統一のステップとして宣伝し、台湾統一に向けて着実に成果があがっていることを内外に示す。
(4) 東沙諸島占領の選択肢としては、奇襲的な上陸作戦や周辺の封鎖などが挙げられる。あるいは攻撃や封鎖の警告によって、数少ないながらも駐留する台湾兵を引き上げさせることができるかもしれない。周辺海域での妨害行為や軍事訓練の定期化などによって心理的圧力をかけるという方法もある。いずれにしても中国にとって東沙諸島の占領は困難な課題ではない。2021年に中国共産党創設100周年大会、2022年には第20回中国共産党大会を控え、その任期を延長すると観測されている習近平にとって、こうした行動によって台湾統一に向けて進展があることを示すことは非常に重要である。
(5) 中国による台湾侵攻は、現在すでに悪化しつつある中国に対する国際的反発をさらに強めることになるだろうし、そのことを習近平も理解しているはずである。他方、台湾ほどには認知されていない東沙諸島への侵攻は、それほど大きな反発を生まないかもしれず、上述したさまざまな取り組みがどのような反応を生むかを試すことができる。東沙諸島への取り組みは台湾侵攻のための重要な観測気球として機能しうる。
(6) 東沙諸島の占領によって中国は一石何鳥もの成果を得られるだろう。東沙諸島は、中国にとって行動を起こす魅力のある場所ということになる。それゆえ、米国、日本、その他民主主義国は東沙諸島への関心をより強めていかなければならない。
記事参照:The Pratas Islands: A New Flashpoint in the South China Sea

12月10日「中国の台湾軍事侵攻の可能性とあるべき米国の対応―米海大教授論説」(19fortyfive, December 10, 2020)

 12月10日付の米安全保障関連シンクタンク19fortyfiveのウエブサイトは米Naval War College海洋戦略教授James Holmesの“China Seems Ready For A Fight Over Taiwan”と題する記事を掲載し、ここでHolmesは中国の台湾侵攻の可能性とそれがどのように実施されるか、そしてそれに米国がどう対応すべきかについて要旨以下のように述べている。
(1) 中国は軍事力の行使による台湾併合の可能性についてたびたび言及してきた。おそらく、中国が台湾を併合するためにとる手段としては、それが唯一のもののように思われる。威圧や懐柔によって台湾の政治家や一般市民を屈服させることができるとは思えない。また、中国はたとえば台湾の「平和的統一」を訴えてはいるが、そうした懐柔によって中国の支配を受け入れるとも思われない。なぜなら台湾の人々は香港で何が起きたかを目の当たりにしたためである。中国に残された手段は軍事侵攻しかない。
(2) そのタイミングも問題であるが、もう一つ重要であり、かつこれまで詳細には論じられていないのが、どのような軍事作戦が展開されるかである。最悪のシナリオは、空軍とロケット部隊、弾道ミサイル部隊に支援された中国人民解放軍(以下、PLAと言う)海軍と陸戦隊による全面的な上陸作戦の展開である。
(3) それとは別の可能性として、意図的ないし偶然の事故から発展した小競り合いが全面戦争にエスカレートする可能性である。中国はそれを避けようとしていないように思われる。2020年秋、PLAの戦闘機は繰り返し台湾海峡の中間線を横断し、それに対して台湾空軍の戦闘機がスクランブル発進を行った。中国の意図は明白で、それによって偶発的事故が起こるか、相手に最初の一撃を撃たせることで全面戦争に持ち込もうとしているのである。
(4) そうした「事故」は空だけでなく海上や地上で起こる可能性もある。人民解放軍海軍は台湾船舶に火器管制レーダーを照射することで挑発をしたり、台湾船舶の航路を横断することで衝突を誘発することもできよう。あるいは南シナ海において中国海警や海上民兵が実践している「キャベツ戦略」を台湾相手に展開することもできよう。この手法はかなり効果的であるように思われる。
(5) こうした可能性を考えるとき、米国はどのような準備をし、どう対処すべきだろうか。なによりも、こうしたことが起こるかもしれないことを理解し、そのうえで適切な準備をすべきである。そうでなければここ10年間、南シナ海や東シナ海で起きてきたことが台湾海峡でも起きてしまう。このとき、米国が台湾に関して取り続けてきた「戦略的曖昧さ」を維持し続けるのはきわめて危険である。この「戦略的曖昧さ」は、PLAの脅威が比較的穏当であり、かつ台湾が海と空を効果的に支配している限りにおいて有効だったのであり、中国が台湾への攻勢を強め、軍事侵攻を起こす機会を狙っている昨今では、抑止効果はほとんどない。
(6) 経済学者で戦略理論家のThomas Schellingが述べたように、抑止力に必要なのは曖昧さではなく、相手が制限を超える行動を採ったときにこちらも行動を起こすという明確さである。これは、必ずしも相手に対して大言壮語を吐く必要があるということではない。1902年のTheodore Rooseveltの事例を参考にするとよい。ヨーロッパ諸国の海軍がベネズエラの税関を占拠するために部隊を派遣したとき、Rooseveltはそれを阻止するために海軍に出動を命じ、その一方で私的に相手国に通信を送り、その意図を伝えた。それを受けてヨーロッパ艦船は引き返したのである。公の場で相手を脅すのではなく、軍事力行使の意図をはっきりと示すことで、相手の体面を傷つけることなく武力衝突を回避したのだ。同じことを中国相手にもできるかもしれない。柔和に話し、巨大な棍棒を振るおうではないか。
記事参照:China Seems Ready For A Fight Over Taiwan

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) The New Great Game at Sea
https://warontherocks.com/2020/12/the-new-great-game-at-sea/
War on the Rocks.com, December 8, 2020
Geoffrey F. Gresh, a professor of international security studies at National Defense University 
12月8日、米National Defense UniversityのGeoffrey F. Gresh教授は米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“The New Great Game at Sea ”と題する論説を発表した。ここでGreshは従来の日米印に加え豪州が加わった今年のマラバール演習や中国の海外基地の拡大などは、海洋における新たな「グレート・ゲーム(Great Game)」の出現を意味しており、こうした海軍重視(navalism)の高まりはインド太平洋地域及びそれ以外の地域をさらに不安定化させる恐れがあるが、米国、インド、日本、オーストラリアなどは海洋協力の拡大や海軍の近代化や拡充への投資の拡大、そして志を同じくする地域大国との新たな提携の支援を通じて地域の不安定化を抑制することができると主張している。そしてGreshはそうした同盟国や友好国の海軍重視の傾向には一定もリスクが伴うが、より大規模で能力の高いインド太平洋地域の同盟国や友好国の海軍力は米軍が新たな世界戦略、特に財政的に制約された環境に適応し続ける際に直面する、世界規模の負担の一部を相殺するのに役立つであろうと指摘している。

(2) Unsettled Waters: Understanding Eurasia’s Maritime Thrust
https://thediplomat.com/2020/12/unsettled-waters-understanding-eurasias-maritime-thrust/
The Diplomat, December 08, 2020
By Abhijnan Rej is Security & Defense Editor at The Diplomat
12月8日、デジタル誌The Diplomatで安全保障問題の編集者を務めるAbhijnan Rejは、同誌に“Unsettled Waters: Understanding Eurasia’s Maritime Thrust”と題する論説を発表した。ここでRejはグローバル化した世界における大国間の戦略的競争が再び注目を集める中で、ユーラシア海域における海軍競争が顕著になっているとし、近年の歴史上前例のない中国海軍艦隊の拡大は、インド太平洋地域における勢力バランスの変化の最たるものとしてしばしば論じられているが、実際には、インドのような他の国もまた自国の国家的野心及び商業的至上主義にふさわしい海軍の獲得を熱望しているし、それに加えて、北極の景観を変化させた気候変動の影響もあり、ロシアも確固とした海軍プレゼンスの確立を追求する可能性があると指摘した上で、米国防大学教授のGeoffrey F. Greshが2021年に刊行予定のTo Rule Eurasia’s Waves: The New Great Power Competition at Seaと題する書籍を取り上げ、著者であるGreshにインタビューを行っている。なお、同インタビューにおいてGreshは、①ロ海軍の能力向上、②中ロ両国の北極海に関する利害の一致、③経済における海洋の重要性の継続と特に中印両国のシーレーン・領海防衛の重要性、などが今後のインド太平洋地域の海洋安全保障のポイントになると述べている。

(3) Overcome the Tyranny of Distance
Amphibious airplanes could solve many EABO problems created by the vastness of the ocean.
https://www.usni.org/magazines/proceedings/2020/december/overcome-tyranny-distance
Proceeding, December 2020
Christopher D. Booth, a career national security professional who formerly served on active duty as a commissioned U.S. Army armor and cavalry officer
元米陸軍機甲部隊将校であるChristopher D. Boothは12月、The U.S. Naval Instituteが発行する月刊誌Proceedingsのウエブサイトに“Overcome the Tyranny of Distance: Amphibious airplanes could solve many EABO problems created by the vastness of the ocean”と題する論説を寄稿した。ここでBoothは、①米海兵隊司令官David H. Berger大将による「司令官の計画指導書」(Commandant’s Planning Guidance)は、「東シナ海及び南シナ海での中国の悪質な活動」に対抗することを優先させている、②Berger大将は太平洋地域で信頼できる米国の抑止力を提供するため、そのドクトリンを再考し、能力のバランスを調整し、そして時代遅れのシステムを新しいツールに置き換えるように軍に指示した、③海軍と海兵隊はこれらの課題に対応するために分散型の海洋作戦、紛争環境下における沿海域作戦、そして、遠征前進基地作戦(以下、EABOと言う)など様々な新しい作戦概念とドクトリンを用いて準備を進めている、④海兵隊の遠征部隊が成功するためには、補給、死傷者の救出、そして様々な岩礁、島、環礁との行き来のための、迅速で信頼性の高い、長距離の手段が必要となる、⑤現代の海上航空部隊は太平洋を横断する兵站の要となる可能性があり、それらを前方に配備することには(陸上機と比較して)兵站上の利点がある、⑥海上航空部隊を支援するために、海軍と海兵隊は、前方弾薬等補給・給油設備(Forward Arming Refueling Point:FARP)を設置するための資材を事前に配置することができる、⑦低コストで持続可能な方法によって、「距離の暴虐」を克服することが、EABO を成功させる鍵となるといった主張を展開している。