海洋安全保障情報旬報 2020年11月21日-11月30日

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11月23日「カナダによるフリゲート艦の建造と輸出管理―米専門家論説」(The Diplomat, November 23, 2020)

 11月23日付のデジタル誌The Diplomatは米国のUniversity of KentuckyのPatterson School of Diplomacy and International Commerce助教授Robert Farleyの“IP Dispute May Slow Canada’s Plans to Procure New Frigates”と題する論説を掲載し、ここでFarleyはカナダが建造しようとしているフリゲートと、それをめぐる防衛産業の脱国家化に起因する輸出管理の問題について要旨以下のように述べている。
(1) カナダは印象的な新型フリゲートを建造しようと試みているが、その前にますます一般的になってきている問題に対処する必要がある。それは輸出管理の過酷さである。このフリゲート建造計画に関わっている企業の一つに対し、ある国がその艦に搭載される電子機器は同企業独自の仕様によるもので、使用に関して問題があると主張してブレーキをかけている。特定されていないが、その協力している国は、国レベル以下の産業交渉でこの問題に対応するのではなくオタワとの政府間交渉を主張している。
(2) 防衛産業がますます脱国家的性質を帯びてきていることと相まって、厳格な輸出管理は得意先を多く持つ国家が、信頼性が欠けると判断した競争相手または他国への高度な軍事技術の供与を拒否することが可能な「兵器化した相互依存性」という紛糾を生み出している。場合によっては、これによって国家は競争相手が高度な軍事技術を購入しようとする取り組みを完全に阻害することが可能になる。
(3) 今回の場合、カナダの提携先である国が建造の過程でより良い取引を得るために、技術の所有権を利用していると思われる。カナダは可能性がある提携者達のいずれに対しても、実際の安全保障上のいかなる種類のリスクも示していないため、カナダと匿名の提携者はこの問題を解決することができる可能性が高いように思われる。
(4) 世界の防衛産業がより複雑で脱国家的になってきており、政府や企業は輸出管理を独創的に利用するか、重要な技術の直接的な所有権を維持するといういずれかを通じて、交渉上の影響力を生み出す機会をますます見出すことになるだろう。長期的にはこれが各国の防衛調達を可能な限り国際的な提携者からではなく、国内企業の管理下とすることに拍車をかけることになるかもしれない。
記事参照:IP Dispute May Slow Canada’s Plans to Procure New Frigates

11月23日「現有潜水艦艦齢延長に潜む危険:新潜水艦計画に遅れ―豪専門家論説」(The Interpreter, 23 Nov 2020)

 11月23日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは豪シンクタンクThe Australian Strategic Policy Institute上席研究員David Feeneyの“The submarine capability gap”と題する論説を掲載し、ここでFeeneyはオーストラリアの国産潜水艦建造計画は初期段階でつまずいており、その潜水艦戦能力の欠落を招かないためには現有コリンズ級潜水艦の艦齢を延長する必要があり、豪政府はその計画を進めているようであるが、これも進展が見られず、オーストラリアは国防戦略アップデート2020にもかかわらず、その中心となる海軍近代化が大きな壁にぶつかるとして要旨以下のように述べている。
(1) 7月1日にMorrison政権が発表した2020年国防戦略アップデートはオーストラリアを取り巻く戦略環境が2016年の国防白書の予想よりも早く悪化していると結論づけている。しかし、不可解なことに脅威が高まり、戦略的に警報を発する時間が短くなってきていると認識しているにもかかわらず、2020年の国防戦略アップデートでは2020年部隊編成計画の中心となる海軍近代化について何もしていない。国防戦略アップデートは、将来の戦闘部隊の構成としてアタック級潜水艦12隻、ハンター級フリゲート9隻、ホバート級防空駆逐艦3隻を計画しているが、現在これら24隻のうち3隻しか実現していない。
(2) アタック級潜水艦の1番艦は2035年頃に、最終艦は2050年に就役すると期待されている。アタック級潜水艦の建造工程は「予備設計見直段階」に留まっており2021年1月まで9カ月延長されている。2018年10月の国防省部内提言は、将来潜水艦計画が3年以上遅れるとオーストラリアの潜水艦戦能力に空隙が生じると示している。この計画の一つの含意は、現有のコリンズ級潜水艦について当初の艦齢延長計画よりも長く現役として運用しなければならないということである。オーストラリアが「潜水艦戦能力の空隙」を避けるのであれば、艦齢延長は重要である。「潜水艦能力の空隙」はある時期、オーストラリアに全く潜水艦戦能力がないことを意味し、豪海軍は新潜水艦を訓練するのに苦戦し、新潜水艦をただ存在するだけのものにするかもしれない。
(3) 豪国防省でSEA1450と名付けられた艦齢延長計画は、重要で、複雑かつリスクの高い決定的に重要なことを引き受けることになる。Morrison政権は、何隻のコリンズ級潜水艦の艦齢を延長するのかの決定、艦齢延長にかかわる作業範囲やSEA1450の契約あるいは予算の承認をしなければならない。コリンズ級潜水艦の性能向上に関連する新しいソナー、センサー類、通信機器など26億豪ドルの計画は約2年遅れている。政府は現行のオーバーホール修理サイクル(以下、FCDと言う)にSEA1450を合わせる考えのようである。そうだとすれば、SEA1450は野心的な取り組みである。政府は、FCD/SEA1450の工事をアデレードから西オーストラリアに移転するか否かを決定していない。10月の上院見積では、The Australian Submarine CorporationのWhiley氏は西オーストラリアに移転するのであれば、6年程度の準備期間が必要であると述べている。Linda Reynolds国防相は2019年末までにこの問題について決心すると述べていたが、2020年10月の時点では、2022年まで決定されそうにない。それは次の連邦選挙の後までを意味する。決定されないと言うことはSEA1450も将来潜水艦計画も複雑なものにする
(4) オーストラリアは現在、その潜水艦戦能力の近代化においてリスクの高い計画に乗っている。コリンズ級潜水艦6隻のうち少なくとも5隻を150億ドルかけての複雑な艦齢延長計画の成功裡に管理しなければならず、一方、同時に890億ドルの調達経費で新しい、能力が未知数のアタック級潜水艦を建造し、部隊に導入しなければならない。同時に海軍は、潜水艦にかかわる工員数を現在の2倍にする努力をすることになろう。効果的で、近代的な潜水艦部隊を必要とするオーストラリアに事実上一致した支援が得られる。国防計画アップデート2020は、オーストラリアが近代的潜水艦を遅れるのではなく、より早く必要としていると明らかにしている。しかし、オーストラリアの計画は法外に費用がかかり、工程は危険な状況にあり、計画の初期段階にしかないSEA1450計画と相まって潜水艦戦能力の空隙という深刻なリスクがある。
(5) 2030年までにインド太平洋地域で約300隻の潜水艦が運用されることになるのは明らかであり、全てが計画どおりに行けば、オーストラリアは6ないし7隻の潜水艦を保有することになる。その内訳は艦齢を延長したコリンズ級潜水艦5ないし6隻、アタック級潜水艦の1番艦1隻である。アタック級潜水艦が2050年に「地域で卓越した」潜水艦であるか否かを適切に評価することは不可能である。明らかなことはアタック級潜水艦は世界で最も高価な潜水艦であるということである。2030年代に豪潜水艦部隊を著しく弱体化させる「潜水艦戦能力の空隙」をオーストラリアが経験し、将来潜水艦の海軍への配備が遅れてオーストラリアの存在にかかわる安全保障政策が必要とされる「牙」とともに提供できなかったとしたら、SEA1450計画と将来潜水艦計画は高価な大失敗と判断されるだろう。豪日刊紙The Australian’sのPaul Kellyは、2020年初めにオーストラリアの将来潜水艦計画を巻き込んだ信頼の危機があったと述べている。
記事参照:The submarine capability gap

11月25日「スーダンでの海軍基地建設により、ロシアは中東・北アフリカへの影響力拡大を図っている―米専門家論説」(Eurasia Dairy Monitor, November 25, 2020)

 11月25日付の米シンクタンクThe Jamestown Foundationが発行するEurasia Daily Monitorのウエブサイトは、同Foundationの外交・防衛政策専門家のJohn C. K. Daly博士の “Russian Naval Base in Sudan: Extending Moscow’s Influence in Middle East and North Africa” と題する論説を掲載し、ここでDalyはロシアはスーダンで海軍の補給基地を建設することによって中東・アフリカへの影響力を着実に拡大しているとして要旨以下のように述べている。
(1) 2020年11月16日ロシアのPutin大統領は冷戦終結以降初めてアフリカでの海軍基地を建設する命令に署名した。Putinの命令によるとロ海軍はスーダンの紅海沿岸に300人規模の基地を建設し、原子力艦を含む最大4隻の艦艇が係留できる施設を保有することになる。スーダンは25年間、海軍の「補給センター」のためにロシアの土地をリースし、10年間の延長の選択肢も持つ。Viktor Kravchenko元海軍大将は、施設の建設期間を3~4ヶ月かかると見積もっている。この施設は、スーダン海軍主要基地の近く、紅海の主要沿岸港であるポートスーダンのすぐ北に位置する。両国の基本合意は、以前からのロシア外交方針に基づいている。2017年11月、スーダンの当時のOmar al-Bashir大統領はPutinとShoigu国防相とのソチでの会談で自国にロシアの軍事基地を作る可能性について議論した。al-Bashir を政権から追い出した2019年のクーデターにもかかわらず、後任のAbdel Fattah Abdelrahman al-Burhan中将とも話し合いを続けた。2年後の2019年1月9日、当時のロシアのMedvedev首相は両国の港への軍艦の入港とより広範な2国間軍事協力に関する簡素化された手続きについてスーダンとの合意案を承認した。この合意条件の下、2020年10月、ロシアはスーダンにUK-307訓練船を移管した。ロシアの軍事専門家で中東の専門家Iuri Liaminは「これは本格的な海軍基地ではなく後方支援センターであり、質量とも基幹設備としては装備品を完成させる場所」と述べている。しかし、スーダンの海軍の前進基地はアフリカ北東部、紅海、バブ・エル・マンデブ海峡の重要な航路に沿ってロシアの海洋影響力を拡大するので、この施設の戦略的な重要性はその規模を上回るものである。そこに配備されたロシア艦艇の暫定的な任務は、EUの海軍が2008年12月から活動していたソマリア沖での海賊対処の哨戒に参加する可能性がある。EUがアタランタ作戦を2020年12月末まで延長したので、スーダンに拠点を置くロシア艦艇は差し迫った軍事力の真空を埋めることができる。さらにシリア紛争に介入して以来拡大してきたシリアのタルトゥースにあるロシアの海軍施設はNATOのトルコ海峡支配を上回ることで東地中海の戦略的図式を変更した。新しいスーダン基地は、そのチョークポイントの南に新しい海軍の拠点を提供することにより全世界の海上交通の約10%が通過するスエズ運河へのロシアの影響力をさらに強化する。
(2)スーダンにおけるこの基地はインド洋またはアデン湾から地中海に向かうロシアの垂直型ミサイル発射装置を装備する大型水上艦に、より便利な停泊地、補給地の機能を提供することができる。そして、スーダンの基地が本当に原子力艦船を支援できることを証明すれば、ロシアの原子力潜水艦にとって重要な新しい拠点になる可能性がある。これにより、ロシアはアラビア海とインド洋に軍事力を投射することができる。アラビア海へのロシア海軍派遣の利点は最も重要な地域の提携国の一つであり制裁に悩まされているイランを支援することである。ロシアは1991年のソ連崩壊後に失われた中東・北アフリカへの影響力回復というより大きな文脈の中でスーダンに基地を建設しているのである。2019年10月、ロシアはソチで初のロシア・アフリカ首脳会議を開催し、54人以上のアフリカ諸国の国家元首が出席した。Putinは参加者に「今日、アフリカ20カ国の軍人はロシア国防省の高等教育機関で勉強している。我軍及び我が国の軍事技術協力はアフリカ諸国の軍の戦闘能力を強化することを目的としている。ロシアは30カ国以上と軍事技術協力を結んでおり、多くの種類の武器と装備を供給している」と述べた。このサミットの方針に基づいて、2020年2月、Khartoum Vladimir Zheltov駐スーダン・ロシア大使は、ロシアのアフリカ諸国との軍事技術協力の発展は「ソ連時代に生み出された遺産を考慮して、アフリカ大陸に戻りたいという我が国の有機的かつ論理的な主張を示したものである」と説明し、スーダンとの2国間軍事技術協力の成立への関心について議論した。
(3)スーダンでの海軍基地建設はロシアがアフリカ北部における影響力を再び確保したいというロシアの大きな戦略的課題の一部として理解されるべきである。しかし、このロ海軍の取組みは、混沌としたこの海域の状況をさらに複雑にしている。隣接するジブチには米国、日本、中国、フランス、イタリアがすでに軍事的プレゼンスを持っている。Putinの努力によりソ連時代にあったこの地域への影響力を最終的に再構築できるかどうかはまだ分からない。しかし、イランからイエメンまで現在の米国とヨーロッパの政策に不満を持つ中東諸国が複数ありPutinの努力は成功するかもしれない。
記事参照:Russian Naval Base in Sudan: Extending Moscow’s Influence in Middle East and North Africa

11月25日「マラバール演習はアジア版NATOへの通過点か―米コラムニスト論説」(Foreign Policy, November 25, 2020)

 11月25日付の米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトは同誌コラムニストSalvatore Babonesの“The Quad’s Malabar Exercises Point the Way to an Asian NATO”と題する論説を掲載し、ここでBabonesは日米豪印4カ国によるマラバール演習の実施を受け、注目が高まっている日米豪印4カ国安全保障対話(QUAD)がアジア版のNATOとして発展する可能性について要旨以下のように述べている。
(1) 日米豪印4ヵ国は中国が脅威を及ぼすことなく平和を維持したいとするならば、良いモデルを持っている。11月20日金曜日、4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)の日米豪印4カ国海軍がインド洋上で実施したラバール演習が終了した。フェーズ1はベンガル湾で、フェーズ2はアラビア海のマラバール海岸沖で実施された。特に後者においては印空母「ヴィクラマーディティヤ」と米空母「ニミッツ」が参加した。
(2) QUAD自体とマラバール演習は、特に近年「アジア版NATO」として大げさに宣伝されたり、あるいは否定されたりしてきている。たとえば、米国務副長官Stephen Giegunが「NATOでさえ比較的穏当な期待から始まった」として、QUADがアジア版NATOに発展することに含みをもたせたのだ。しかしQUADのあり方を考察するためのモデルは、創設当時のNATOではなく今日のNATOであろう。
(3) NATOは強固な軍事同盟とみなされているが、もはやロシアの戦車がドイツやフランスに押し寄せると考える者はいないし、東欧のNATO加盟国はアイスランドやポルトガルなどが東欧の防衛のために立ち上がることを期待していない。現実のNATOはそうした軍事同盟と言うよりは、共同の訓練を調整し、民主主義などの価値基準を推進するための機関である。たとえばNATOのウエブサイトに掲載されているNATOの最初の目標は民主的価値観の促進という政治的なものである。あるいは軍備管理や人の移動、エネルギー安全保障や環境問題関連のプログラムも支持している。これらはQUADも取り組むべき課題だろう。
(4) NATOが行っていることでQUADがする必要のないことは多国籍戦闘部隊の配備であろう。東欧には大隊規模の多国籍軍4部隊が展開しており、2017年で合計4,500人程度である。現在、ラダックの実効支配線でインドだけでもその10倍の人員が中国軍と対峙している。印中国境における自国の立場を強化するためにQUAD構成国の大隊を展開することをインドが欲しているとは思われない。実際にインドが必要としているのは、今回のマラバール演習のような米国及びその同盟国との空海共同訓練の拡大であろう。
(5) インド以外に目を向けてみると、インド太平洋地域の他の国々も軍事同盟ではなく上記の現代のNATOのようなアジア版NATOとの協力によって利益を得るだろう。たとえば、ベトナムが米国主導の軍事同盟に参加することはないだろうが、米国だけでなくインドや日本との海上訓練を実施しているし、韓国と日本の間でも2国間の安全保障協力は困難であろうが多国間であれば行い易い。台湾は条約に基づく協力関係の構築が難しいが、民間のプログラムへの参加はより容易であろう。
(6) マラバール演習の恒久化など、海上の協力関係をさらに拡大するというシナリオもある。インド洋や東南アジア周辺海域の国々は、海難救助や海賊対処、中国のサラミスライス戦術への対処という課題を抱えており、海洋における協力はきわめて重要である。海軍の戦略家James FanellなどはQUAD構成国が輪番で運用する多国間海軍部隊の創設さえ提案している。共同での作戦実施によって諸国は相互運用性を獲得することになるであろう。
(7) Biden政権は上述したアジア版NATOのために、QUADを利用するのも手である。そのために膨大な資源が必要ということもない(たとえばNATOの年間予算は、軍・民プログラム合わせて22億ドルだ)。おそらくアジア版NATOの予算は初期には10億ドルにも満たない程度であろう。
(8) アジア版NATOの目的は専門的な基準を高め、相互運用性を向上することにあり、特定の敵に対抗することではない。したがってそれは中国に徹底的に対抗するという力強いメッセージを送ることなく地域の安定に寄与することができるはずである。
記事参照:The Quad’s Malabar Exercises Point the Way to an Asian NATO

11月25日「南シナ海における新たな対峙の発生―米シンクタンク報告」(Asia Maritime Transparency Initiative, November 25, 2020)

 11月25日付の米シンクタンクCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは“China and Malaysia in Another Staredown Over Offshore Drilling”と題する記事を掲載し、11月19日に中国海警局とマレーシア海軍の間で新たに惹起した対峙について要旨以下のように分析結果を報じている。
(1) 中国海警総隊とマレーシア海軍の間で南シナ海における資源開発をめぐって新たな対峙が惹起した。中国海警船第5402号が11月19日、マレーシアのサワラク州カリマンタン島沖44海里の地点で行われていた掘削作業を妨害し、それに対しマレーシア海軍が艦艇を派遣し5402号の追跡を実施したのである。自動船舶識別システム(AIS)や衛星写真データの分析から、この事象およびそれに至る背景を整理する。
(2) 海警船第5402号は10月30日に海南島を出港し、巡航を開始した。マレーシアの排他的経済水域内に位置するルコニア礁に向かう前に、海警船第5402号は近年中国海警総隊が海上のプレゼンスを維持するための拠点になっている南沙諸島のスビ礁およびファイアリー・クロス礁の人工島に寄港した。11月10日に海警船第5402号はルコニア礁西部の石油・ガス区画を巡航した。その1日前にサワラクの隣のサバ州から出港したマレーシア海軍の補助艦「ブンガ・マス・リマ」がルコニア礁に向かい、海警船5402号を追跡した。13日の時点の衛星写真によれば、2隻の距離は3海里ほどであった。
(3) 11月12日に5402号はルコニア礁の東部40海里地点へと向かい、ごく短時間の巡回を行った。その場所に新たにジャッキアップリグ「ガンロッド」が曳航されたためであろう。18日時点で「ガンロッド」とその支援船は問題なく操業していたが、19日になって海警船第5402号がそこに到着し、「ガンロッド」から2海里の位置にまで接近したのである。そして海警船第5402号はおそらく、別のケース同様に操業を停止するようGunnlodに警告したのであろう。
(4) この事例は、これまでわれわれが記録してきた中国の妨害行為の中で、最も陸地に近い場所での行動であった。「ブンガ・マス・リマ」はなおルコニア礁近辺に滞在を続けたが、それに加えマレーシア海軍は2隻目の艦艇として沿海域戦闘艦「ケリス」を派遣した。皮肉にも「ケリス」は中国船舶工業集団がマレーシアのために建造したものであった。「ケリス」は当初はリグ周辺にとどまったが、11月24日に海警船第5402号が再びルコニア礁西部へと向かったとき、それを追跡した。25日時点で「ガンロッド」は操業を続けており、海警船第5402号はそこに戻ってきてはいない。
(5) 中国がこの対峙をエスカレートするかどうかは不明確である。ただこの事件は、マレーシア政局がきわめて不安定であるときに起きたものであった。Muhyddin Yassin政権が提出した来年度予算案の審議が実質的な不信任投票になるのではないかと観測されているのである(抄訳者注:予算案は議会で可決し、政治的危機はひとまず回避された)。
記事参照:China and Malaysia in Another Staredown Over Offshore Drilling

11月26日「ヨーロッパのインド太平洋戦略―仏ジャーナリスト論説」(The Interpreter, November 26, 2020)

 11月26日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterはパリで活動するフリージャーナリストLisa Louisの“The outlines of a European policy on the Indo-Pacific”と題する論説を掲載し、ここでLouisはオランダとドイツが最近インド太平洋戦略を発表したことに言及し、ヨーロッパがインド太平洋への関心を深めている傾向が強まっていることについて要旨以下のとおり述べている。
(1) 2018年にフランスがインド太平洋政策を発表して以降、同地域に関心を強めるヨーロッパの国々が増えている。9月にはドイツが、そして11月13日にはオランダが独自のインド太平洋戦略を発表したのである。オランダの政策文書は、EU全体の統一的なインド太平洋戦略を構築することが望ましいと述べている。ドイツとオランダの戦略はどちらも包括的なもので、気候変動や、人権および法の支配の尊重などの分野を含むものであり、国連やASEANなどの多国間主義的協力を重要視するものである。
(2) この傾向は国際関係のアナリストにしてみれば驚くべきものではなく、国際関係における経済的・地政学的重心がインド太平洋地域にシフトしていることを反映したものである。なかでも経済における重点の移動が、この変化を推進する主要因だろう。双方の政策文書ともにインド太平洋との経済的関係の強化が自国の発展に直接結びついていると述べている。実際にアジアは2018年と2019年の世界全体の経済成長の6割を占めており、ドイツやオランダとの貿易も増大している。このことはインド太平洋における航路の安全維持が決定的に重要な問題であることを意味している。
(3) 経済発展だけではなく分散ないし多様化も重要な課題である。すなわち、インド太平洋地域に広く目を向けることで、中国への過度な依存状態から抜け出すことができるかもしれない。特に近年、香港やウイグル問題をめぐって中国への国際的非難が高まっていることを考慮すれば、この点は大事であろう。伝統的に利害関係のみを重視するリアルポリティークな姿勢を好みがちであったドイツ企業でさえ、近年、法や規則を尊重するように中国に求める必要があると考えるようになっている。
(4) 中国だけでなく米国への過度の依存からの脱却も模索されているようである。特に米中経済戦争から距離を置きたいと考えており、それに巻き込まれることでドイツやオランダなどが損害を被ると理解されているのである。この認識はTrump政権からBiden政権に移行しても維持されるであろう。
(5) ドイツのインド太平洋戦略にはフランスと同様に軍事的な要素もある。ドイツの文書はインド太平洋諸国との安全保障および防衛分野での協力や海上演習などの参加の度合いの拡大を訴えている。これは、第二次世界大戦後のドイツが平和主義的であることを義務づけられてきたことを考慮すれば、非常に意義深い変化であろう。海外領土を多く領有し、その防衛に強くコミットしているフランスとは事情が違うのである。
(6) それぞれの国々の政策には共通点もあれば相違点もある。それがヨーロッパ全体の方針としてどう収束していくかは、今後も注視していかねばならないだろう。国内においても必ずしも意見が一致しているわけではなく、たとえばドイツのAnnegret Kramp-Karrennbauer国防相は最近、なおヨーロッパの安全保障にとって米国が重大な役割を果たすであろうと主張している。こうした意見の違いを乗り越えて共通のヨーロッパのスタンスが構築される日は来るのだろうか。
記事参照:The outlines of a European policy on the Indo-Pacific

11月26日「米駆逐艦が日本海でロシアに対し航行の自由作戦を実施―米専門家論説」(The Diplomat, November 26, 2020)

 11月26日付のデジタル誌The Diplomatはニューヨークを拠点とする著述家Steven Stashwickの“US Destroyer Conducts FONOP Against Russian Claims in Sea of Japan”と題する論説を掲載し、ここでStashwickは米駆逐艦がロシアが主権の主張を行っているピョートル大帝湾に対して「航行の自由」作戦を実施したことについて要旨以下のように述べている。
(1) 米駆逐艦「ジョン・S・マケイン」は11月26日、太平洋のピョートル大帝湾でロシアの権利の主張に異議を唱えた。ロシアの報道によると、ロシアの駆逐艦の1隻が衝突の危険を冒して、この海域から当該米艦を追い出した。
(2) 米太平洋艦隊によると、「ジョン・S・マケイン」の「航行の自由」作戦は、ピョートル大帝湾に対するロシアの主権への主張に対して異議を唱えたものである。ピョートル大帝湾は、日本海最大の湾で、湾口は100マイルに及ぶ広大な湾であり、ロ太平洋艦隊の根拠地ウラジオストクはこの湾に位置している。
(3) 国連海洋法条約では、いくつかの広い湾は湾口が24海里以下であるならば、その形状次第で、その湾全体を領海として主張することができる。また、ある国が長年、歴史的に支配していると認識されている湾に対しても許容されている。ソ連は1984年からピョートル大帝湾に対して歴史的権利を主張してきた。この湾は、国連海洋法条約の下で主権が主張されるには湾口が広すぎ、米国政府はソ連による、そして現在のロシアによるピョートル大帝湾に対する歴史的な支配権への主張を今まで認めたことはない。
(4) ロシアのタス通信は、「ジョン・S・マケイン」がロシアの主張する海洋境界線を2km侵害し、ロ駆逐艦によってそれ以上の侵入を阻止されたと報じた。しかし、米太平洋艦隊は、「ジョン・S・マケイン」がその海域から強制退去させられたというこの主張を否定した。「この任務に関するロシア連邦の声明は虚偽である。『ジョン・S・マケイン』はどの国の領域からも『退去』させられていない。『ジョン・S・マケイン』は、国際法に従ってこの『航行の自由』作戦を実施し、国際水域で通常の作戦を継続した」と声明で述べている。
記事参照:US Destroyer Conducts FONOP Against Russian Claims in Sea of Japan

11月27日「SITMEX:インド・シンガポール・タイは、第2回三か国合同海上軍事演習を終了―印専門家論説」(The Diplomat, November 27, 2020)

 11月27日付のデジタル誌The Diplomatは印シンクタンクObserver Research Foundation (ORF)のRajeswari PillaiRajagopalan博士の“SITMEX: India-Singapore-Thailand Complete Second Trilateral Maritime Exercises”と題する論説を掲載し、ここでPillaiRajagopalanは中国の経済力と軍事力に対するインド、シンガポール、タイによる取組みは今後も続くであろうとして要旨以下のように述べている。
(1) 11月21日から22日までシンガポール海軍が主催するインド、シンガポール、タイによる3カ国海軍共同演習SITMEX-20の2回目が実施された。この演習がアンダマン海で行われたことは東南アジアを含む国々の海軍とインド海軍との関係が強化の傾向にあることを意味する。それは海洋でのパートナーとしてインドに目を向ける国々の意識の高まりである。さらに、頭する中国に対処する際に米国だけを頼りにするのではないという地域レベルでの意識の高まりを示している。COVID-19パンデミックにもかかわらず、これらの演習が行われたことは演習の重要性に加えて、各国が直面する脅威の深刻さを示唆している。
(2) この演習の第1回目は2019年9月にアンダマン海で実施された。インドのModi首相は、2018年にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議における基調講演で、3カ国による共同海軍演習を実施することを発表した。そして、その演習に参加した印海軍部隊は、ミサイル駆逐艦1隻、ミサイル・コルベット1隻、航洋型哨戒艇1隻及び哨戒機P-8I 1機であった。
(3) 印国防省は、第2回目の演習はCOVID-19のパンデミックを考慮し、非接触で海上のみの演習として実施されたと述べ、3カ国及び海洋を接する隣国間の海上領域における共同における分担、調整及び協調が増進したことを示していると強調した。3カ国の海軍は、戦術運動訓練、対水上戦訓練、実弾射撃・発射を含む一連の訓練を実施したと印国防省は付け加えている。演習に参加した印海軍の艦船には、国産の対潜コルベットとミサイルコルベットが含まれる。シンガポールからはフリゲート2隻と揚陸艦1隻、タイからはフリゲート1隻が参加した。演習の重要性について、SITMEX 20任務部隊司令官であるシンガポール海軍フリゲート艦長は、「海上作戦での相互運用性を強化する有用な演習となり、作戦を一緒に実行する能力は、お互いに確立した長年の関係と信頼の証である」と述べた。さらにSITMEX20終了後、シンガポール海軍は11月25日から27日までベンガル湾でインド海軍との二国間海上軍事演習SIMBEX20を実施した。
(4) シンガポールとタイの二国間軍事演習はインドが東南アジアの国々と築いた関係の戦略的性質を示している。 経済問題に焦点を当てた1990年代初頭のルック・イースト政策から2014年にModiによって開始されたアクト・イースト政策まで、この地域の複雑性と2国間関係は日々変化している。この演習もパンデミックのために短縮されたが、インド、シンガポール、タイが、2国間ないしは3カ国間での海上軍事演習を実施することを決定した事実は、それぞれの国の思惑が類似していることを示しており、これらの軍事演習が強化され続ける可能性があることを意味する。
(5) シンガポールは、この地域でインドにとって強力な安全保障のパートナーの一つであり、両者の防衛関係は、2003年に防衛協力協定に署名したことに始まる。以来両国は軍の相互作用を強化するために、いくつかの協定に署名した。シンガポールは小さな島国であるので、インドは良いパートナーとして射撃演習場などの軍事訓練施設をシンガポール軍の訓練に提供している。彼らの主な海軍の相互運用演習であるSIMBEXは、20年以上続いている。国連海洋法条約に沿った航行の自由と外洋の重要性、および国際法の尊重は、2国間協議で頻繁に繰り返されるテーマである。
(6) インドとタイの2国間関係はそれほど深くないが、過去10年間で多くの政治的な相互訪問と制度的メカニズムによって互いの関係を築き上げてきた。これらには、定期的な外務省協議、外相レベルの合同委員会、および両国軍間の軍事演習に見られるような防衛協力メカニズムが含まれる。さらに毎年の陸空軍の演習に加えて、海軍は年2回の海上哨戒を調整・実施している。タイと中国の間の緊張がじわじわと高まっていることを考えると、タイは、北京との関係で起こりうる長期的な問題を止めるためインドなどの国の手を借りようとする可能性がある。このような動きは、地域全体で中国の進出に対する一般的な反対が高まっていることにも支えられている。
(7) 中国の成長する経済力とその攻撃的な軍事力は、インド、シンガポール、タイに3カ国が互いに協力する戦略的根拠を提供した。この地域への米国のコミットメントに対する懸念の高まりがそれに拍車をかけており、おそらくこれは持続するであろう。
記事参照:SITMEX: India-Singapore-Thailand Complete Second Trilateral Maritime Exercises

11月27日「南シナ海問題をめぐる中国の主張と実際―米国際関係専門家論説」(The Interpreter, November 27, 2020)

 11月27日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは米Stanford UniversityのFreeman Spogli Institute for International Studies研究員Oriana Skylar Mastroの “Beijing’s line on the South China Sea: ‘Nothing to see here’ ”と題する記事を掲載し、ここでMastroは南シナ海において問題は起きていないという中国の主張に対し、それが南シナ海周辺における米国の抑止力を低下させるべき理由にはならないとして要旨以下のように述べている。
(1) 南シナ海をめぐるさまざまな問題に関する中国のやり方は、そこでは実際に何も起きていないと主張することである。中国は周囲から言われているように南シナ海を軍事化などしておらず、むしろ米国こそが「本当の軍事化の推進者」だと訴える。
(2) 筆者はこれまで、南シナ海に中国が展開してきた軍事的行動能力をまとめてきたが、問題は西沙諸島と南沙諸島におけるそれである。海南島の存在も重要である。そこは中国の領土として認められているが、その軍事的能力は南シナ海全体における中国の軍事的選択肢にとって大きな意味を持つため、西沙諸島、南沙諸島と同じに考えている。中国人民解放軍(以下、PLAと言う)はこれまで、南シナ海をコントロールするために必要であろう種々の軍事システムを配備してきた。
(3) 中国が南シナ海を支配するために必要なのは、まず敵認識能力であり、たとえば前方展開偵察機のような係争海域の海上、海中及び空中の活動を監視する能力である。その上で、周辺の主権の主張を執行するための、多目的戦闘機のような軍事的行動能力が必要となる。これらのどちらも、これまでPLAは南シナ海に展開してきた。今後必要なもので、PLAがまだ展開していないのは、指揮・統制を行う航空機ないしはシステムである。これは司令部から遠く離れた場所での活動のために必要なものである。
(4) 中国は、こうした配備のすべては防衛的なものであると主張する。2018年、中国が南沙諸島近くのファイアリー・クロス礁とスビ礁、ミスチーフ礁に対艦巡航ミサイルと地対空ミサイルシステムを配備したとき、中国外交部の広報官は、「侵略の意図を持たなければそれを心配したり恐れたりする必要はない」と述べた。これは一面的には事実だろうが、しかしそれでもなお中国のこれまでの行動には問題がある。
(5) 第1に、そもそも南シナ海は中国が防衛するような場所ではないということである。第2に、中国は領土獲得のために膨張しているわけではないけれども、敵に負けないために戦っているのだと主張するが、こうした考え方はリスクを許容した行動を促進しかねなく、非常に危険である。第3に、中国は防衛的な緩衝地帯を獲得するために第1列島線内から外国勢力が出ていくことを望んでいる。端的に言えば外国、特に米国の抑止力低下を模索している。もしそうなれば、万が一中国が台湾侵攻などの軍事行動を起こしたとき、米国はその対処において大きな困難に直面することになろう。
(6) もし本当に中国が南シナ海を支配する意図や米国を追い出す意図を持たないのであれば、南シナ海の前哨基地に上述したようなシステムは必要ない。それらが撤去されるような日が来るまで、米国が南シナ海における抑止力を維持し続けることは正当なことである。
記事参照:Beijing’s line on the South China Sea: “Nothing to see here”

11月29日「台湾、潜水艦建造を開始:その抑止効果には疑念も-香港紙報道」(South China Morning Post, 29 Nov, 2020)

 11月29日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“Taiwan starts building its own submarines despite questions over ability to deter attacks from mainland China”と題する記事を掲載し、台湾は独自の潜水艦建造を開始したが中国の圧倒的潜水艦部隊に対し抑止効果に疑問も提起されているものの、対中非対称戦戦略の重要な兵力として、その意義を強調しているとして要旨以下のように報じている。
(1) 台湾は、その老朽化した潜水艦部隊を徹底的に見直し、初めての国産潜水艦建造を開始した。しかし、保有隻数で圧倒的に優勢な中国海軍を考えると何らかの利益をもたらすのかという疑問が提起されている。しかし、ある専門家は人民解放軍海軍の潜水艦部隊がいかに大きくても問題ではなく、台湾は8隻の潜水艦を必要としており、それはいかなる攻撃に対しても非対称戦戦略の一部として計画していると述べている。
(2) 台湾国際造船(以下、CSBCと言う)は495億新台湾元(17億ドル)の1番艦建造契約を得ている。原型となる1番艦の建造には、78ヶ月を要し、2025年までに台湾海軍に引き渡される。蔡英文総統は2016年の総統選直後、国産国防計画の下で8隻の潜水艦を建造すると発表していた。
(3) 「潜水艦を建造する主眼は何か?北京は60隻以上の潜水艦を保有しており、台湾の8隻、オランダから購入した時代遅れの2隻を加えて10隻をはるかに凌駕している。さらに時間の懸念もある。各潜水艦の建造に少なくとも3年かかるとして8隻の建造を完了するのに24年を要し、遅すぎて我々を守ることはできない」と駐台北日本企業の上席会計士James Liuは言う。2019年の総統選挙における対立候補であった韓国瑜も蔡総統の計画に「台湾は主機や複雑な艦内装備品を製造する能力があるのか」と疑念を呈している。
(4) 蔡総統は24日の起工式において可能であるとして、「全ての苦難をものともせず、今日、我々は正式に台湾国産の潜水艦建造を開始した」と述べ、計画は台湾国防産業の里程標になると付け加えている。Trump政権は2018年に鍵となる装備品、技術の輸出を承認することでこの計画を支援している。CSBC董事長鄭文隆は同社において行われた起工式において、国家中山科学研究院と提携し、潜水艦建造に必要な人材、人数、技術をCSBCは有していると述べている。台湾メディアは三菱重工、川崎重工を退職した技術者が技術支援を提供するだろうと報じている。台湾で建造される潜水艦は「そうりゅう」型潜水艦に似ている。海軍によれば、米国は戦闘指揮システムとデジタル化ソナーを供給元のLockheed Martin社 とRaytheon社から支援することで合意しており、議会の承認待ちである。これらは台湾で開発、製造できず、輸入しなければならない。
(5) 一部の専門家は人民解放軍海軍の潜水艦部隊がいかに大きかろうと台湾の潜水艦は効果的な抑止力として機能するだろうと述べている。国防安全研究院上席研究員蘇紫雲は、「小規模かもしれないが、潜水艦部隊は台湾海峡に防衛上の緩衝帯を形成するのを助けるだろう」と述べている。国民党系シンクタンク国家政策基金会高級助理研究員揭仲は、台湾海軍は中国の攻撃があったときに人民解放軍の艦艇を攻撃する鍵となる待ち伏せ海域に潜水艦を配置するだろうと述べており、ソナーによる被探知防止装備を装着した潜水艦(抄訳者注:アクティブ・ソナーに対する無反響タイルの装着、パッシブ・ソナーに対する制振材の採用などが挙げられる)は一旦配備に付けば、人民解放軍の艦艇が探知するのは困難であると言う。「台湾の潜水艦はまた、中国本土に近い海域に配備され、人民解放軍の艦艇が出港すればこれらを襲撃することになろう」と揭仲は述べている。蘇紫雲は、台湾は既に乗組員の訓練を行っており、潜水艦が就役してくれば資格認定された人員が不足することはないと述べている。
記事参照:Taiwan starts building its own submarines despite questions over ability to deter attacks from mainland China

11月30日「米次期政権下の米比関係、課題と機会」(PacNet, Pacific Forum, CSIS, November 30, 2020)

 11月30日付の米シンクタンクPacific ForumのWeb誌PacNetは比De La Salle University国際学部教授Renato Cruz de Castroと多摩大学客員教授Brad Glossermanの “The Philippine-US Alliance and the Biden Administration: Challenges and Opportunities”と題する論説を掲載し、ここで両名は米Biden次期政権下における米比関係の見通しについて要旨以下のように述べている。
(1) Joe Bidenが米国の次期大統領になることが確実になった数日後、フィリピンのLocsin外相は、「米比両同盟国が長期的な相互防衛取極について検討できる」ようにするために、1999年の訪問米軍人に関する米比地位協定(以下、VFAと言う)の廃棄決定を再び延期すると発表した。在マニラ米大使館は直ちにこの決定を歓迎し、ワシントンは相互安全保障関係を強化するためにフィリピンと引き続き緊密なパートナーであり続けると発表した。Biden政権は、近年揺れ動いてきた同盟を立て直すために、この機会を活かさなければならない。
(2) マニラにとって、Biden政権下でのワシントンとの安全保障関係が正常な状態に戻ると想定するのは安易に過ぎよう。米次期政権がDuterte政権の麻薬対策に伴う人権侵害問題を持ち出す可能性は極めて現実的である。次期米大統領はまた、同盟の重要性を強調し、インド太平洋地域における中国の拡大を抑制する努力を進める一方で、米国の防衛能力の強化も重視すると見られる。こうした方向は、米比両国にとって防衛関係を強化するだけでなく、非伝統的な安全保障上の課題にも対処することによって、その関係を拡大する機会ともなろう。このために、米比両国は、以下の措置が求められよう。
(3) 南シナ海における中国の海洋拡大活動に対する抑制を重視:2020年5月17日、中国海軍のコルベットが比海軍対潜フリゲート「コンラッド・ヤップ」に砲口を向けた事案と、南シナ海の二つの人工島で中国が研究施設を稼働させた事案は、フィリピンをして、その対中宥和政策が限界に達したことを確信させた。9月には、フィリピン軍はスカボロー礁周辺を飛行する空軍偵察機に対する中国の妨害行為を公表した。これに対応して、Locsin外相は、テレビ会見で中国が南シナ海で比海軍艦船を攻撃した場合、フィリピンは1951年の米比相互防衛条約に訴えると言明した。外相はまた、フィリピンは長年に亘る唯一の条約上の同盟国(米国)との「協力を決して止めることはなかった」と強調して、「米国がこの地域における軍事的プレゼンスを維持することはフィリピンの利益である」と主張した。この外相の言明は2016年以来初めて、自国防衛態勢が米比同盟に依存していることをDuterte政権の高官が公に認めたものとなった。このことはフィリピンの政策が対中宥和政策から転換したことを示している。Biden次期大統領は、南シナ海紛争に関する主要な声明を発表していないが、中国の海洋拡大に対するTrump政権の政策を転換する兆候はなく、かえって強化するかもしれない。VFAの廃棄決定を更に6カ月間延期するという決定は、マニラとワシントンに安全保障関係を如何に調整するかについて話し合う時間を提供することを目的としており、双方はより公平なVFAと2014年の「拡大防衛協力協定」(EDCA)の完全な実施の方法について交渉することができよう。
(4) 比軍近代化計画支援のために他の米国の同盟国と協力:2012年以来、韓国、日本及びオーストラリアは、比軍の近代化計画支援として、安全保障援助を拡大してきた。Biden次期政権は援助を調整し、費用対効果を高めるため、これら諸国と緊密に協力すべきである。
(5) 人権侵害問題の管理:Biden次期政権は、Duterte政権との安全保障関係が人権擁護と法の支配の遵守という米国の主張と矛盾するものではないことを明確にすることができる。次期政権は、フィリピンの警察と軍部に対する米国の影響力を低下させることにもなる安全保障支援を差し止めると脅すのではなく、人道的な薬物問題への対処とフィリピンにおける麻薬取引の停止という共通の目標を推進する手段を模索すべきである。
(6) 健康安全保障を米比同盟の安全保障問題対処に含めることで同盟の対象領域を拡大:米比両国は、同盟の対象領域に健康安全保障を組み込むべきである。健康安全保障には、現在および将来の感染症、不十分な医療による不安、及び不十分な公共インフラからの予防措置の開発が含まれる。
記事参照:The Philippine-US Alliance and the Biden Administration: Challenges and Opportunities

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Quad 2.0 Is Off to a Good Start – It Must Keep Going
https://thediplomat.com/2020/11/quad-2-0-is-off-to-a-good-start-it-must-keep-going/
The Diplomat, November 23, 2020
By Manoj Rawat, a former Indian naval captain and director of naval operations at the Naval Headquarters
11月23日、元印海軍大佐であるManoj Rawatはデジタル誌The Diplomatに“Quad 2.0 Is Off to a Good Start – It Must Keep Going”と題する論説を発表した。ここでRawatは、今月、インド洋で行われた今年のマラバール演習に日米印三カ国の海軍に加えオーストラリアの海軍が参加したことで、Quadを構成する4カ国の海軍が揃い踏みしたことになり、これはインド太平洋で中国に対抗する新たなメカニズムのスタートを意味する「Quad2.0」の動きだと指摘した上で、米国の新政権がTrump政権ほどQuadを前進させようとしていないのではないかという懸念もあるが、国内の反中感情の高まりもあって米国もQuadにコミットしないわけにはいかないだろうと論じている。そしてRawatは、インドもこれまでの非同盟主義を改める時期に来ており、より強力にQuadにコミットすることが必要であるし、次回のマラバール演習を南シナ海で実施すべきだと主張している。

(2) Why Is There No South China Sea Air Defense Identification Zone?
http://www.scspi.org/en/dtfx/why-there-no-south-china-sea-air-defense-identification-zone
South Shina Sea Strategic Situation Probing Initiative (SCSPI), November 23, 2020
Chang Ching, Ph.D., Research Fellow, Society for Strategic Studies based in Taipei
11月23日、台北の中華戦略学会(Society for Strategic Studies)の研究員である張競は北京大学の南海戦略態勢感知計画のウエブサイトに“Why Is There No South China Sea Air Defense Identification Zone?”と題する論説を寄稿した。その中で、①2013年11月23日に東シナ海に防空識別圏(ADIZ)が設定されてから、北京が南シナ海にもADIZを設置するのではないかと憶測を呼んだが、的中しなかった、②東アジアの安全保障状況や権力構造が、東シナ海のADIZの設置によって大きく影響を受けるという見方は、大げさなものであった、③東シナ海のADIZには、排他的な主権の主張は一切ないため、その正当性は必須条件として他国からの承認に依存しない、④国際社会から多くの誤解や憶測が飛び交ったのは、北京の意図を理解していなかったためであり、中国が南シナ海に別のADIZを設定することは、さらなる誤判断を招くだろう、⑤東シナ海の航空機の運行情報区域の対象の範囲が海側にまで及んでいない状況と比較して、南シナ海の運行情報区域の範囲は、必要な奥行きをサポートするのに十分なものであるためADIZを設定する必要はない、⑥しかし、外国の軍事航空活動のレベルと強度が上昇し続け、香港と三亜市の運行情報区域の及ばない空域に意図的に接近した場合、北京が南シナ海にADIZを設置する可能性がある、⑦南シナ海のADIZの設定によって海洋での航行の自由と上空飛行の自由は影響を受けるどころか、誤認、誤判断、さらには誤発砲のリスクを減らすことができる、といった主張を展開している。

(3) China’s Monster Fishing Fleet
https://foreignpolicy.com/2020/11/30/china-beijing-fishing-africa-north-korea-south-china-sea/?utm
Foreign Policy.com, November 30, 2020
11月30日、米New York Timesにしばしば寄稿しているChristopher Palaは米ニュース誌Foreign Policyのウエブサイトに“China’s Monster Fishing Fleet”と題する論説を発表した。ここでPalaは、冒頭、北朝鮮沖で操業する中国のイカ釣り漁船団を事例に挙げ、いかに中国の漁船団が統一された意思のもとで戦略的に活動しているかなどを説明した上で、中国漁船団の南シナ海における活動は、単なる漁業に従事しているのではなく、漁船を使用して他国の船団を監視したり、物資を運んだり、他の船を襲撃したりし、漁をするにしてもインドネシア、フィリピン、ベトナムのEEZで操業していると指摘している。そしてPalaは、確かにこうした活動に中国が補助金を支給していることは問題だが、補助金は他国も支給していてこれが違法操業を助長しているとし、早くこの問題に対処しなければ、中国の巨大な漁船団は海を枯渇させ続け、何百万人もの貧しい北朝鮮やアフリカなどの人々は飢えてしまうだろうと主張している。