海洋安全保障情報旬報 2020年10月21日-10月31日

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10月22日「QUADが抱える4つの難題―比・中国問題研究者論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, October 22, 2020)

 10月22日付のCSISのウエブサイトAsia Maritime Transparency Initiativeは比シンクタンクAsia-Pacific Pathways to Progress Foundationの研究員Lucio Blaco Pitlo IIIの“The Quad’s Four Quandaries”と題する論説を掲載し、ここでBlaco は近年注目が集まっているQUADについて、それがより制度化した集団となっていくためには四つの問題を解決する必要があるとして要旨以下のように述べている。
(1) 近年のインド太平洋における戦略的な状況変容が進むにつれ、日米豪印4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)に対する注目が高まっている。それを背景として、たとえば11月にインドが主催するマラバール海軍演習に、従来のように日米だけでなくオーストラリアが招待されることになった。果たしてQUADは、これまでのような非公式の小集団から、巷間言われているようにアジア版NATOのようなものへと制度化されていくのだろうか。もしそうだとすれば、QUADは以下に示す四つの問題に直面することになるだろう。
(2) 第1の問題は、QUADが自らをどのような集合体と定義するかという問題である。日米豪印のうち、3カ国は米国のハブ&スポーク同盟システムの一部であることから、QUADはアジア版NATOの中核になるべきなのか、それともそこまでの野心はないのか。10月にQUADの外相会合が開催されたが、それによればこの4ヵ国がパンデミック対応と経済復興という領域だけでなく、海洋安全保障や質の高いインフラ及び連結性の構築など幅広い分野への関心の共有を目指していることがわかる。ただし、そうした目標を達成するためにQUAD自体がどのような組織であるべきかについては、議論の俎上に上がっていない。
(3) 第2の問題はQUADがASEANのような既存の域内組織などとの関連において自らをどう位置づけていくかである。東京での会合においてはASEANの中心性や東アジアサミットなどの役割に対する期待が表明されたが、それは本音ではない。むしろQUADに焦点が当てられるようになったのは、南シナ海問題などの対処におけるASEANの動きの鈍さなどへの失望の現れであろう。QUADの役割を重くすることは、そうした既存の域内組織との軋轢を生む可能性がある。また、QUADのメンバーが個々に掲げる戦略やオーストラリアの太平洋ステップアップ、インドのアクトイーストなど地域的な取り組みとQUADの目標や利益を調和させる必要もある。
(4) 第3の問題はQUADの議題において中国がどれほど大きな比重を占めているかである。QUADへの焦点化の背景に、中国の膨張主義に対する対抗があることは疑いないが、それを強調することによってQUADの包摂的な性格が失われる可能性がある。中国はQUADのメンバーそれぞれに脅威を突きつけてはいるが、それぞれに中国とは関係を構築している。たとえば、最近米国が空席であったチベット問題担当特別調整官を新たに任命したが、それは印中関係を悪化させる引き金となりうる。
(5) 第3の問題との関連において、QUADが今後目指すべき方向は中国への対抗というよりは共有すべき価値を掲げ、その推進を目指すべきである。しかし、ここに最後の問題がある。すなわちQUADはどのような価値を掲げるべきだろうか。この4カ国が自由や民主主義を共有していることは言うまでもないが、それを強調しすぎることでもやはりその包摂的な性格を失ったり、あるいはQUADがその協力関係を拡大させていく過程で矛盾を内包しかねなくなる。前者については、たとえばベトナムのような国との協力を阻害するかもしれないし、後者については、たとえば最近、米国防総省はインドネシア国防相Prabowo Subiantoをワシントンに招待したが、彼は1998年の反乱鎮圧において人権を蹂躙した人物であり、そのような人物・国と協力していくのか、という疑問が提起されるだろう。逆に人権や民主主義に着目せず、あくまで国際秩序の維持を重要視するのであれば、中国の香港問題や新疆問題を批判する土台を失うことになる。
記事参照:The Quad’s Four Quandaries

10月22日「中国は新たな北極政策を立案すべきとき―豪環境法専門家論説」(The Diplomat, October 22, 2020)

 10月22日付のデジタル誌The Diplomatは豪Macquarie University准教授でCentre for Environmental Law at Macquarie Law School センター長Nengye Liuの“Why China Needs an Arctic Policy 2.0”と題する論説を掲載し、ここでLiuは中国が今こそ新しい北極圏政策を発表すべきとして、その背景と論点について要旨以下のように述べている。
(1) 2018年1月26日、中国は初めてその北極政策白書を発表した。それはよく練られた文書で中国が既存の国際法や北極圏に適用されている諸法を遵守すると述べることで北極圏国家を安心させ、それにより北極圏への中国のプレゼンス拡大への道を開くものであった。しかし残念ながら、北極圏はいまや米中対立のもうひとつの舞台となってしまっている。
(2) なぜ北極圏での中国の活動に懸念が集まるのか。それは、上述した北極政策にもかかわらず、中国が国連海洋法条約(以下、UNCLOSと言う)のような国際法を遵守するつもりがなく、北極海を第2の南シナ海へと変容させるだろうという疑念に由来するものだ。
(3) より根本的なことを言えば、北極圏での中国の台頭が既存の秩序を変容させるかもしれないという恐怖がある。北極圏における「ルールに基づく国際秩序」の根底にはUNCLOSがあるが、その秩序において既存の北極圏国家は北極圏のガバナンスにおける「運転席」を占めてきた。中国の台頭はその秩序自体を揺るがしかねない。そして変容した秩序に合わせるようにルールが変わっていくであろう。
(4) この兆候はすでに見られる。たとえば2018年に中央北極海無規制公海漁業防止協定(CAO Agreement)が締結されたが、その交渉において米国、カナダ、ロシア、ノルウェー、デンマークの北極海沿岸国家5カ国に加えて、中国が「主要関心漁業国・機関」の一つとして参加している。そのほかには日本、韓国、アイスランド、EUである。
(5) 中国がいかに自国を擁護しようとも、それが経済成長を続け、北極圏でのプレゼンスを拡大する限り、中国に対する不安や懸念は高まり続ける。それゆえ中国は、新たに北極政策2.0を発表し、北極圏への関わりに関して中国の国益という観点からだけではなく、より幅広く、北極圏のより良い将来にとって中国がどのような役割を担えるかを提示すべきだ。そのポイントは以下の2点である。
(6) 第1に北極圏における主要な懸念の一つ、気候変動である。言うまでもなく地球温暖化は北極圏の氷を溶かし、それによって多大な環境の変化が引き起こされている。他方、中国は世界最大の温室効果ガス排出国である。2018年の白書にも気候変動への対処に言及されたが詳細は省かれた。最近中国は2060年までに「カーボン・ニュートラル」状態の達成を目指すと発表するなど、より環境への配慮を前面に押し出すようになっているが、いわゆる「北極圏シルクロード」の構築や同地域での資源開発への投資事業などが、この目標とどう連関していくか、そのロードマップを詳細に世界に提示する必要がある。
(7) 第2に北極圏の持続可能性である。中国は北極圏における経済発展と環境保護の「バランス」を強調してきた。しかし「持続可能な開発」という言葉や「バランス」という言葉は曖昧で解釈が必要となるものだ。この言葉によって中国は具体的に何を目指しているのか。あるいは北極圏のような脆弱なエコシステム保護を考慮するのであれば、単なる「バランス」ではなく、より環境保護に重きを置く必要があろう。
(8) 北極圏が新たな米中対立の舞台である現在、中国は新たな、より具体的な北極圏政策を発表すべきときが来た。世界第二位の経済大国として、中国が具体的な計画立案に基づいて北極圏の将来像を描くことができれば、それは北極圏の平和と環境保護にとってのみならず、中国自体にも大きな利益をもたらすであろう。
記事参照:Why China Needs an Arctic Policy 2.0

10月23日「『仲裁裁判所裁定は国際法の一部』、比大統領国連総会演説の真意―比専門家論説」(The Interpreter, 23 Oct 2020)

 10月23日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreterは比The Center for International Relations and Strategic Studies (CIRSS) of the Foreign Service Instituteの外交問題上席専門家Andrea Chloe Wongの “Reading between the lines: Duterte’s careful South China Sea speech”と題する論説を掲載し、ここでWongはDuterte比大統領が9月の国連総会での演説で「(南シナ海仲裁所の)裁定は今や国際法の一部となっている」と言明した真意について要旨以下のように述べている。
(1) Duterte比大統領は、就任以来、2016年の南シナ海仲裁所の裁定をほとんど無視してきたが、9月の国連総会での演説で「裁定は今や国際法の一部となっている」、したがって「我々は裁定を侵す試みを断固拒否する」と言明した。とは言え、この演説をDuterte大統領の対外政策における新たな姿勢を画するものと見なすのは誤りであろう。これは、対外的と言うよりも、むしろ国内向けを狙った、他に注意をそらす戦略である。Duterte大統領は、北京に対してしばしば、そしてあまりに多く譲歩しすぎているように思われる、自らの「宥和政策」について、ネガティブな受け止め方をされることに敏感である。Duterte大統領は中国からのインフラ投資を目当てに、中国に対し友好的なスタンスをとってきた。しかし、このアプローチは、かえって北京をして、伝統的漁場へのアクセスを規制し、非合法な海洋調査を実施し、更にフィリピンが領有権を主張する海域において最新の軍事装備を配備することで、南シナ海の係争海域における埋め立て事業の継続を鼓舞する結果となった。その上、中国がフィリピンに対し約束した、資金供与とインフラプロジェクトの大部分が実施されないままとなっている。
(2) したがって、Duterte大統領の国連総会演説は、物議を醸している中国と契約したプロジェクトから衆目をそらす試みに等しいものであった。例えば、最近、中国交通建設股份有限公司(以下、CCCCと言う)によって建設される予定のカビテ州のSangley Point国際空港(SPIA)は、前途多難な状況となった。CCCCは南シナ海での人工島造成を事由に米商務省がブラックリストに載せた24の中国企業の一つでプロジェクトの即時キャンセルを求める声も出ている。それでもDuterte政権はプロジェクトを継続し、CCCCに対し国内で制裁を課さない、との立場を維持している。物議を醸しているもう一つのプロジェクトは、フィリピン国軍(以下、AFPと言う)の軍事基地内におけるネットワークインフラの建設工事である。Lorenzana 比国防相は9月、AFP と中国電信股份有限公司が株式の40%を所有するフィリピンのDito Telecommunity社との間で締結された2019年の「了解覚書」の詳細を公表した。この「覚書」公表はオーストラリア、ニュージーランドそして米国などがスパイ活動の恐れを理由に中国の通信技術企業の活動を禁止、あるいは制限を課した時期と重なった。このような取引は国家安全保障を危険に晒す比政府と国軍の情報へのアクセスを得る戦略上の機会を中国電信に提供することになる。
(3) Duterte大統領が国連総会演説で仲裁裁判での勝利に言及した後も、未だ実質的な変化を示唆するものはほとんどない。大統領報道官によれば、大統領演説は「以前からの一貫した政府の姿勢」であるという。もしそうであるなら、裁定は常に効力を持っていたはずだが、Duterte大統領は自らの説得力のある言葉に見合った如何なる具体的な行動にも束縛されていない。したがって、Duterte大統領が自らの政治姿勢を改め、そして2022年の大統領選挙で彼の望む後継者に対する有権者の支持を獲得することさえ狙って愛国主義的レトリックを駆使することは十分予想され得る。しかし、大統領としてのDuterteは中国に対して融和的な姿勢を継続し、北京との危険な取引を行ったと評価されてきたが故に、このことはDuterte政権の不安定な遺産となるであろう。
記事参照:Reading between the lines: Duterte’s careful South China Sea speech

10月23日「オーストラリア、もはや中東へ海軍を派遣せず:アジア太平洋、対中国を重視―豪メディア報道」(ABC News, October 23, 2020)

 10月23日付の豪放送協会のウエブサイトは“Australia no longer sending Navy to the Middle East, shifts focus to Asia-Pacific, China”と題する記事を掲載し、オーストラリアは今後、アジア太平洋、対中国を重視し、中東から撤退すると決定したとして、要旨以下のように報じている。
(1) 連邦政府はますます不安定になる本国周辺の戦略環境に対処するため、30年にわたって維持されてきた中東への海軍力の展開を2020年で突然終結することとした。Linda Reynolds国防相は、毎年中東に派遣していた艦艇をもう派遣しないと発表した。最後の派遣艦は2020年6月にオーストラリアに帰投している。オーストラリアはまた、ホルムズ海峡を哨戒する米国主導の海軍連合からも2020年末で撤退する。
(2) このことは、オーストラリアが30年間、主として対テロリズム、対海賊に焦点を当てて実施してきた海軍作戦がまもなく終了することを意味する。政府の優先順位が変化したとして「2020年1年を見ても海軍は森林火災、COVID-19に対応し、5隻の艦艇を東南アジア、太平洋に派遣し、『Pacific Step Up』に示された構想と地域で提携している国々との間で成功しているいくつかの活動への責任を継続している。我々は豪国防軍に資源を本国周辺に配備するよう求めているますます問題化する戦略環境に直面している。その結果、豪国防軍は本国周辺地域により多くの資源を展開できるよう中東の海軍力の配備を削減するだろう」とReynolds国防相は言う。この転換は最近の国防戦略アップデートに示されている。この国防戦略アップデートは悪化する戦略環境によって国防軍はインド太平洋とオーストラリアに隣接する地域により集中せざるを得ないと述べている。
(3) オーストラリアは日米を含む多くの同盟国、提携国と地域において回数あるいは規模が拡大する海軍の演習に参加してきた。2020年初め、3カ国共同訓練に参加するため北京が主張する係争中の島嶼の近傍を航行していた豪艦艇が中国海軍と遭遇している。11月には豪海軍は10年以上ぶりに日米印とともにマラバール演習に参加する。
(4) 政府高官、軍幹部、Morrison政権の大臣達は数年前から中東からの撤退を検討してきた。2019年、Trump政権から米主導のホルムズ海峡における船舶保護の海軍有志連合への参加を打診されたとき、連邦政権内で議論が行われた。結局、Morrison政権は哨戒機とフリゲートを派遣することで合意した。しかし、ある政権筋はABCにこの決定にはかなり激しいやりとりがあったと述べている
(5) 「我々は30年以上にわたって、中東における航行の自由、海洋の安全、通商の自由な流れを支援してきた。提携国と協力して、世界的な麻薬貿易の壊滅、テロ活動資金源の削減支援、地域の部隊能力の構築してきた我々の責任は計り知れないものがある」とReynolds国防相は言う。
記事参照:Australia no longer sending Navy to the Middle East, shifts focus to Asia-Pacific, China

10月23日「東南アジアのHADR:軍の人道的役割の開梱-シンガポール専門家論説」(RSIS Commentary, 23 October 2020)

 10月23日付のシンガポールのRajaratnam School of International Studies (RSIS)ウエブサイトは同国Non-Traditional Security Studies (NTS Centre)研究員Angelo Paolo Trias及びAlistair D.B. Cookの”HADR in Southeast Asia: Unpacking the Military’s Humanitarian Role”と題する論説を掲載し、ここで両名はHADRデータベースプロジェクトが災害等においてASEAN内の迅速で効率的な対処を可能にすることにつながるとして要旨以下のように述べている。
(1) 近年の自然災害、紛争、およびCOVID-19パンデミックへの対応は緊急事態および災害救援に当たる組織等の多様で幅広いネットワークの存在を表している。軍の独自の装備と専門性にとってネットワークは不可欠だが、軍がどのようにネットワークにより他の組織と接続し、相互作用を高めるかといった研究は、東南アジア地域においてはあまりなされていない。
(2) 災害の態様は、現実の気候条件のもとでますます激しく、不確実なものになっている。より相互の接続が強くなった現世界では、自然が人為的危険と繋がることで大きなリスクを諸国家に及ぼしている。ASEAN諸国はこれに対処するため、国及び地域の緊急、災害リスク管理システムの構築に投資している。
(3) 危機と災害に対処するのは、ASEAN諸国にあっては軍が主役となっている。2018年の中部スラウェシ津波などのように各国政府が人道支援・災害救援(以下、HADRと言う)を送ったり、受け取ったりする際には軍が最初に動員される。
(4) 東南アジアにおいては、地域の危機対応と災害への対処が軍の協力なしには完全に遂行できない。その軍と協力するためには、これに関係する軍の特質を理解する必要があるが、そのための研究は不足している。緊急事態や災害において一般市民は自然災害や人為的災害に対応した軍事的な関与を受け入れることで軍を知るようになる。
(5) 軍は災害にあってC-130のように迅速な空輸が可能な装備とスキルを持っている。軍が何に貢献できるか、文民側の救援者をどのように支援できるかについては、文民側が関心を持つことによって人道支援のための民軍調整(以下、CMCoordと言う)を構築することができた。
(6) 軍事的なHADR任務は世界の多くの地域で一般的になりつつあり、CMCoordは特にアジア太平洋地域で増加傾向にある。しかし、緊急事態や災害への軍事的な関与については、まだ多くのことがわかっていない。これには次の三つの理由が考えられる。
a. 主となる緊急および災害リスク管理データの処理により、支援される側のニーズが明らかになるので調整が容易になるが、システムから独立して活動する軍などへ提供できる情報は不十分となる。
b. HADR活動は、命を救い、苦しみを和らげるのに役立ち、軍間の信頼醸成と相互運用性を強化することもできるが、軍の本質は防衛能力、国内政治、外交政策などの他の要因によって推進される軍事的な任務である。
c. HADRにより、支援国は優れた統治を示し、軍事力を柔軟にし、技術的優位性を見積もることができるが、 HADRの軍事的、政治的、安全保障上の側面は、他国の軍と機密情報を共有することは困難となる。
(7) 軍は東南アジアの緊急及び災害リスク管理活動に不可欠であり、上記のようなギャップに対処する一つの方法は軍事HADRネットワークを評価し、それらが地域の援助と対応をどのように形成し、影響を与えるかを確認することである。この目的に寄与するために、RSISのHADRプログラムは東南アジアのHADRに関与する軍を結び付けるネットワークを調査するデータベースプロジェクトを立ち上げた。
(8) ASEAN諸国間には多くの違いがあるが、離れることより一緒に達成できるというコンセンサスがあり、これまでのところ、安全で安定した地域のための制度と戦略の開発に引き続き取り組んでいる。これには、ASEAN地域フォーラム、ASEAN地域待機精度(SASOP)、ASEAN災害緊急対応シミュレーション演習(ARDEX)、演習調整対応(ExCOORES)などの共同HADR任務を促進するためのさまざまなメカニズムとツールの調整が含まれる。
(9) 緊急事態と災害リスク管理におけるASEANの取り組みは、地域内外における災害時の迅速で集中的な対応というOne ASEAN One Response(OAOR)ビジョンにつながった。 HADRデータベースプロジェクトはHADRネットワーク内の主要なアクターが誰であるか、それらがどのように接続されているか、HADRに使用される装備などの投入、展開、HADR訓練の調整など、どのようなパターンが現れるかを調査することを目的としている。これらの活動を研究することで、地域間の迅速な対処の取り決めに加えて、利用可能なHADRリソースの効率的運用をサポートできる。また、既存の装備等を超えた代替手段の提示も可能となる。まずは、最初に関係組織の装備、専門知識及び能力を十分理解するためにHADRデータベースプロジェクトは軍がHADRネットワーク内の他の組織と相互に接続する方法を研究することから開始される。
記事参照:https://www.rsis.edu.sg/rsis-publication/nts/hadr-in-southeast-asia-unpacking-the-militarys-humanitarian-role/#.X51Ej-R7lPY

10月23日「米国とパラオの軍事協力の進展とそれを注視する中国―米国防関連誌論説」(Breaking Defense, October 23, 2020)

 10月23日付の米国防関連デジタル誌Breaking Defenseは同誌上級執筆者Paul Mclearyの“As US Military Moves Into Palau, China Watches Intently”と題する解説記事を掲載し、ここでMclearyは米中対立を背景とした米国とパラオの協力関係強化の重要性について要旨以下のように述べている。
(1) 米国は近年、米中対立の高まりを背景として戦略的要衝である太平洋の島国パラオ共和国における軍事的プレゼンスと活動を活発化させてきた。それはパラオの側からも望まれたことである。
(2) この2ヵ月で米国国防長官と海軍長官が立て続けにパラオを訪問した。そこでパラオ大統領Tommy Remengesauは両名に、米国が新しい基地の建設を考慮するよう求める書簡を手交した。それによればパラオには「米国の軍事的準備状況を強化することにもつながる」港湾施設や補助飛行場、法執行訓練場、海上法執行及び監視施設があると述べられている。そうしたパラオ側の要望は、近年の米国の軍事戦略の動向とうまく噛み合ったものだ。その戦略とは「分散海上作戦」というもので、グアムや沖縄など巨大基地を中心としつつ、より小規模な前線基地を確保することでより多くの場所に部隊を展開することを目指すというものだ。パラオはその「前線基地」として最適である。
(3) ある国務省官僚によれば、相互の安全保障協力に関するパラオとの交渉は前進しているという。パラオは1994年に米国との間で「自由連合盟約」を締結しており、それによってパラオの安全保障は米国に委ねられている。そのメカニズムを「米国の軍事的プレゼンスを確立するために」利用すべきとRemengesau大統領は述べている。米海軍長官もまたパラオの戦略的重要性を強調した。
(4) すでに重要ないくつかの動きが見られる。日本に前方展開する米ドック型揚陸艦「コムストック」がパラオに数週間滞在して不発弾除去作業に従事し、沿岸警備隊の巡視船「セイコイア」も航路ブイの設置作業を行ってきた。10月12日には輸送機C130が到着し、空軍兵らがいくつかの島々で滑走路や駐機場の点検を行っている。
(5) 米中対立を考慮したとき、フィリピンとグアムの間に位置するパラオは戦略的にきわめて重要な場所を占める。中国海軍が第一列島線の外側に移動するときの障害となるためである。また上述したように「分散海上作戦」の基地としても重要である。米国海軍はより小規模で機動力ある部隊の展開によって中国やロシアの追跡と監視の目を逃れる作戦行動を模索しているのである。それによって、ロシアや中国のミサイルの射程範囲での行動が従来より安全に展開できるのである。同様の戦略を海兵隊も追求している。
(6) ソロモン諸島やキリバスは2019年に中国との外交関係を樹立したが、パラオはまた、米国が支援する台湾を承認する四つの太平洋国家の一つである。このことは米国がパラオとの関係を重視する要因でもある。
(7) 他方、中国海軍はフィリピン海への配備を強化している。その地域への海洋調査も多く実施しているというが、これはRSIS研究員Collin Kohによれば明らかに「軍民両用」の目的をもったものである。また、2017年にボイコットを展開したように、中国は台湾を承認しているという理由でパラオに経済的圧力も加えている。中国は太平洋一帯で、台湾からの外交承認の切り替えと引き換える形での経済支援や投資を展開しており、パラオへの圧力もその一環である。そうした動向は今のところ、パラオが米国との関係を強める要因として機能しているだろう。
(8) 目下、米国とパラオの協力関係が弱まることはないだろう。これは米国にとても台湾にとっても良いニュースである。しかし中国はその動向にしっかりと目を光らせており、その影響力を拡大しようという野心は油断のならないものである。
記事参照:As US Military Moves Into Palau, China Watches Intently

10月24日「米国、新即応巡視船をインド太平洋に展開へ:IUUへ対応―香港紙報道」(South China Morning Post, 24 Oct, 2020)

 10月24日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“US-China tensions: America may send more coastguard ships to counter illegal fishing in Indo-Pacific”と題する記事を掲載し、米国はIUU漁業に対処するため新しい即応巡視船をグアムに配備し、さらに米領サモアを母港とする可能性について検討するとして要旨以下のように報じている
(1) 米国は、インド太平洋における中国のIUU漁業と他国船舶への「嫌がらせ」に対処するため海上哨戒の展開を拡大することに重点を置きつつある。最近、米国はグアムに新世代の沿岸警備隊巡視船を配備したが、これに続いて2021年には米領サモアに巡視船の母港化をできるか、その可能性の検討を開始するだろう。「もし調査結果が好ましいものであれば、米国は南太平洋における配備を拡大する。インド太平洋における沿岸警備隊の配備の強化によって、米国は地域において選択される海洋での提携者であり続けるだろう」と安全保障担当大統領補佐官Robert O’Brienは言う。
(2) 9月、沿岸警備隊はいわゆる即応巡視船3隻の第1船をグアムに配備した。即応巡視船は新世代の武装巡視船で、従来船よりもより高速で、より航続距離が長い。2019年8月には即応巡視船3隻を、ハワイを母港として配備している。漁業監視を越えて太平洋に展開される新即応巡視船は「海洋状況把握」のための沖合偵察と法執行能力が十分でない地域の提携国と共同して運用されることになるだろうとO’Brien補佐官は言う。
(3) 米中関係が既に緊迫した状況にある中で、IUU漁業は米外交トップが論点にするほどますます顕著な発火点になっている。世界最大の遠洋漁船団を有する中国は、The Global Initiative Against Transnational Organised Crime(国際組織犯罪対策会議)とPoseidon Aquatic Resource Managementが共同で発表した2019年のIUU漁業指数で最も低かった。中国政府は、ワシントンの非難を政治的動機の基づくものとして却下し、違法漁協の取り締まりに失敗したことを否定した。9月に発簡された報告書で沿岸警備隊は中国軍が中国共産党の長期海洋戦略目的を支援するため海上民兵を運用して、他国の正当な漁船を強制し、威嚇していると指摘している。
(4) 沿岸警備隊司令官Karl Schultzによれば、沿岸警備隊は中国船との直接対峙するよりも同盟国の沿岸警備隊の能力強化の方を望んでいる。「もし、事態が悪化すれば沿岸警備隊が中国船と直接対峙することになるが、現時点では人々のIUU漁業に関する理解を高め、能力を構築し、地域的な公開討論の場を創出することである」とSchultz司令官は言う。しかし、地域において沿岸警備隊が果たしている役割がますます積極的になっていることとして、沿岸警備隊は2019年には南シナ海における多国間の軍事演習に参加し、米海軍とともに台湾海峡を航過して「航行の自由」作戦を実施したことが挙げられる。
記事参照:US-China tensions: America may send more coastguard ships to counter illegal fishing in Indo-Pacific

10月30日「QUADの軍事同盟化に対するスリランカの懸念―印ニュースサイト報道」(The Wire, October 30, 2020)

 10月30日付の印ニュースウエブサイトThe Wireは“Sri Lanka Worried About Indian Ocean's Securitisation, Impact of Quad Military Alliance”と題する記事を掲載し、最近急速にQUADがその重要性を増しつつあることが、小国スリランカにどう受け止められているかについて要旨以下のように報じている。
(1) 11月に行われるインド主催のマラバール海軍演習にオーストラリアが招待されたことは日米豪印4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)が軍事同盟的色彩を帯びていることの一つの兆候かもしれない。スリランカ外相Jayanath Colombageはこの点を懸念し、「我々には本当にQUADが必要だろうか」と表明した。
(2) QUADが初めて開催されたのは2007年であるが、それに対する中国の反対を受けほぼ休会状態になっていた。しかし米国のインド太平洋戦略の唱導をもって、2017年に高官級会合を再開し、今年10月には東京で外相会合が開催された。オーストラリアのマラバール海軍演習への参加はこの流れに位置づけられる。
(3) スリランカの懸念は、QUADが「排他的軍事同盟」としての性格を強くすることである。もしそれが包摂的な多極的世界につながるようなものであれば、「スリランカは小国としてそれをたいそう喜ばしいものと考える」とColombageは述べている。しかし彼は、「我々はQUADの台頭を排他的軍事同盟とみなしている。それは問題だ。QUADが経済復興を目的とするのであれば、それは問題ではないのだが」と言う。
(4) 彼によればスリランカはインド洋において、米国のインド太平洋戦略と中国の一帯一路が交差するところに位置する小国である。その立場としてスリランカは、インド洋周辺が「軍事化」されることに神経を尖らせてきた。スリランカとしては米中の「パワーゲームに囚われたくない」のである。
(5) 中国はスリランカにとって最大の投資提供国である。港湾施設やインフラなどへの中国による大規模投資は、インドにとって懸念材料であった。2019年大統領選挙においてGotabaya Rajapaksaが当選したことはさらにその懸念を深めた。しかし、そうした懸念の声に対しColombageはスリランカがインドの安全保障上の懸念になることはないし、また、そうあるべきではないと主張する。スリランカはインドが提供する海と空の安全保障の傘に大部分が覆われているのであり、それによる利益を得ているのだと。このことは親中派と目されてきたRajapaksa大統領のもとでも変わることはないと強調された。
(6) Colombageがそう強調するのは米中対立を背景としてQUADが軍事同盟化し、その文脈でスリランカがどちらの立場につくかを迫られることを不安視しているからであろう。スリランカのような小国にとってそうした選択はきわめて困難であり、したがってQUADの軍事同盟化は歓迎されるようなものではない。
記事参照:Sri Lanka Worried About Indian Ocean's Securitisation, Impact of Quad Military Alliance

10月30日「台湾における偶発的な戦争のリスク―米専門家論説」(Nikkei Asia Review, October 30, 2020)

 10月30日付のNIKKEI ASIAN REVIEW電子版は米Claremont McKenna College教授Minxin Pei の“China and the US risk accidental war over Taiwan”と題する論説を掲載し、ここでPei は中国の軍事的脅威に対して米国は強力な対抗措置をとっているが、2020年11月の米大統領選挙にJoe Bidenが勝利したならば、その機会をとらえて中国が台湾を攻撃する計画はないことを米国に伝え、台湾海峡での偶発的な戦争を避けるべきであるとして要旨以下のように述べている。
(1) 2020年9月、中国軍機18機が台湾の防空識別圏に進入した。これは台湾海峡の緊張のさらなる高まりの兆候である。台湾を威嚇することを目的とした最近の中国軍の大規模な軍事演習について、中国国営メディアは中国が譲れない事項を犯した場合の悲惨な結果について台湾と台湾に対する軍事的支援を強化している米国に警告した。これらにより中国が台湾への軍事攻撃を開始する準備をしているという懸念が高まっているが、中国の戦略的な計算を慎重に分析することにより、台湾に対する中国の意図を明確に理解することができるであろう。最近の最も信頼できる分析としては、中国は台湾との平和的な再統一の見通しがさらに遠ざかるにつれて忍耐心を失って、前例のない軍事的脅迫を行っているにもかかわらず、中国は高いリスクと巨大なコストがかかるため軍事的な選択肢を取る可能性は非常に低いというものである。特に台湾はあらゆる侵略に対抗する強力な能力を持っているので、中国にとって100マイル以上もある水陸両用の着上陸作戦を行うことは非常に危険である。もし米国が介入すれば、現在の米中の激しい対立を考えると、作戦が成功する確率はさらに低いだろう。中国軍が屈辱的な敗北を喫すれば、中国共産党の終焉を意味する可能性もある。台湾の海上封鎖など他の軍事オプションも魅力的ではなく、米国の介入を引き起こす可能性もある。台湾は独立を宣言する正当な理由としてその戦争を利用することもできる。
(2) 中国軍は1995年から1996年の前回の台湾海峡危機の時期から大きく増強され、中国は台湾独立を警告する一連の軍事演習を行ってきているが、中国軍と米軍の間の質的格差は、中国の指導者がギャンブル的な行動を取ろうとしても、考え直さなくてはならないほどに大きい。確かに中国は台湾を目標とした軍事作戦が成功する確率を高めるためさらに多くの資源を投入し、軍事費の格差を埋め続けるだろう。しかし、いかなる軍事活動も戦略的な抑止の論理によって制限されるだろう。中国は、台湾を交渉のテーブルに戻し、台湾独立を阻止しようとする試みは失敗していると考えている。独立を推進する民進党の選挙の成功は、国民党を敗北させ続ける可能性が高い。さらに悪いことに、米中関係が悪化する中、Trump政権は1979年の米中国交回復以来、他のどの政権よりも台湾を強化するための積極的な措置を講じてきた。台湾に対する米国の支援の重要な尺度である武器売却の面では、Trump政権は220億ドルを承認した。中国にとっての最悪のシナリオは米国の対中タカ派が、中国のいわゆる「一つの中国」政策を承認することを止め、台湾の独立を支援する行動を強化することである。台湾の議会は最近、憲法を改正する委員会を結成した。中国は台湾が憲法改正を利用し、中国からの分離を合法化しようとするのかどうか注意深く見守っている。
(3) 中国の軍事的脅威は大きく危険に見えるので、米国は強力な対抗措置で対応しなければならなくなっている。その良い例は、米海軍の軍艦が台湾海峡を航過する回数の増加である。この危険な動きは、台湾をめぐる中国と米国の軍事的対立のリスクを高めている。最良のシナリオは、効果的なコミュニケーションと制限された関与のルールにより、偶発的な衝突を防ぐことである。最悪のシナリオは、敵意、不信感、攻撃性が組み合わさって、どちらの側も望んでいない一連の出来事を引き起こすことである。台湾海峡に関する米中関係を安定させる唯一の方法は、北京と台北の間の政治的対話を回復することによって台湾をめぐる米中の緊張を緩和することである。Joe Bidenが2020年11月の米大統領選挙に勝利した場合、その機会を捉えて中国が台湾を攻撃する計画がないことを米国に伝え、台湾に今までの「一国二制度」とは全く違う新たな枠組みを提案するべきである。米中両国は誰も望んでいない台湾海峡での紛争を避ける道筋を示すべきである。
記事参照:China and the US risk accidental war over Taiwan

10月30日「米国による台湾への武器売却―米専門家論説」(The Diplomat, October 30, 2020)

 10月30日付のデジタル誌The Diplomatは米国の対中コンサルティング企業China Channel Ltd.会長Bonnie Girardの“With New Offensive Weapons Package, Trump Administration Goes All-in for Taiwan”と題する論説を掲載し、ここでGirardは米国による台湾への武器売却とそれを起因とした米企業への中国による制裁について要旨以下のように述べている。
(1) Trump政権が最近発表した台湾への四つの大規模な一括契約による攻撃防御の両面での武器売却の発表は、中国の米国の航空宇宙機器開発製造会社Boeing社への制裁をもたらしたが、これはこの4年間の流れで米中関係がどれほど変化したかを浮き彫りにしている。
(2) Boeing社が制裁対象となったのはスタンドオフ型空対地ミサイルSLAM-ER(抄訳者注:米海軍、海上自衛隊等が運用するハープーン対艦巡航ミサイルの派生型でリングレーザージャイロ慣性航法装置とGPSにより自立飛行し、最終誘導は赤外線による精密誘導が可能である。射程は135海里と言われ、敵の防空能力圏外から攻撃が可能)135基を10億800万ドルで台湾へ売却する案の元請業者としての役割を果たしたことに起因している。Boeing社はまた、「最大100基のハープーン沿岸防衛システム(抄訳者注:Harpoon Coastal Defense Systems:前述のハープーンミサイルを地上発射型にしたもので上陸侵攻する敵艦船攻撃を目的とする)と関連装備品、見積額にして23.7億ドル」の製造により中国の怒りを買っている。これは別の台湾への売買の申し込みであり、米国国防安全保障協力局がSLAM-ERと他の2つ他の一括契約の武器売却を発表した5日後の10月26日に発表したものである。これらの一括契約には高機動ロケット砲システム(HIMARS)M142発射機11基と関連機器の4億3600万ドルの売却が含まれている。このプロジェクトの元請業者である米Lockheed Martin社もまた、北京からの制裁を受けることになった。軍装備品の4番目の一括契約は、6セットのMS-110 Recce Pod(抄訳者注:航空機の主翼あるいは機体に装備する偵察、情報収集機材)と関連装備、そしてサポート機材で構成されており、見積額は3億6720万ドルである。防衛産業のニュースを扱うDefpostは、MS-110をマルチスペクトル航空偵察システムとして説明している。これは有人機と無人機の両方と互換性がある。もちろん、これらの武器や装備はすべて台湾が中国からの潜在的な侵略の試みに対抗することを目的としている。
(3) 米国の台湾への武器売却はこれまでと同様、総じて台湾に対する米国の政策を規定する1979年に制定された「台湾関係法」で説明された政策に分類される。同法には「米国の政策として・・・台湾に防御用兵器を提供することがある」と記されている。さらに同法は、「米国は、台湾が十分な自衛能力を維持することを可能にするために必要に応じて、そのような数量の当該の防衛品目及び防衛サービスを台湾が入手することを可能にする」としている。しかし、Boeing社のSLAM-ER とLockheed Martin社のHIMARS の台湾への売却では「防御的」の定義が見事に改竄されている。航空産業のニュースを扱うAIN Onlineによると「SLAM-ER の最大射程距離は約 270km で、中華民国空軍のスタンドオフ能力を向上させ、ジェット機が台湾領空を離れることなく、最も幅広い地点でさえも、台湾海峡を横断して目標を攻撃することができる可能性がある」という。スタンドオフ型対地攻撃ミサイルは、その攻撃的な性質をほのめかしている。これにより、それらの標的が防御的に反撃することができる射程外からミサイルを発射することが可能になり攻撃者たちはそれらの攻撃の影響から「距離を置く」(standoff:スタンドオフ)ことが可能になる。したがって、機能的には、台湾への新しい武器の売却は台湾の国益の防衛線を拡張する。米海軍の説明によるとSLAM-ERによって台湾は「長距離、航空発射、精密陸海攻撃巡航ミサイル」を保有する。簡潔にいえば、これらの巡航ミサイルは攻撃が差し迫った場合に、台湾に中国の重要な空と水陸両用の航空機、艦艇に精密な攻撃を行う能力を与えている。HIMARSに関しては「世界のどこにでも派遣することができる軽量で展開性の高いMLRS(多連装ロケットシステム)の必要性に基づいており、紛争の初期段階で、作戦指揮官に致命的な長距離射撃を提供することができる」とFederation of American Scientistsのウエブサイトに書かれている。台湾に高度な先進的な防衛能力を与える攻撃兵器を売却したことは40 年前と現在の状況の変化を浮き彫りにしている。米シンクタンクCato Instituteが 9 月に発表したように台湾に自衛手段を提供する義務は「中国が軍事的に弱かった時には少なくともそれなりの戦略的意味をもっていたかもしれない。しかし過去 20 年間の中国の軍事力の大幅な成長に伴い、米国のリスク便益の計算は劇的にシフトしている」ということである。
(4) 一方、Boeing社では経営陣は反発に備えるべきである。中国の制裁発表は、Boeing社の防衛事業部門に限定されていたが、Boeing社の航空機事業も同様にこれから攻撃を受ける可能性がある。中国で働いたことのある者ならよく知っているように、中国共産党の公式な不満は中国の現場では巧妙だが現実的なやり方で伝えられることが多い。
記事参照:With New Offensive Weapons Package, Trump Administration Goes All-in for Taiwan

10月31日「豪日米によるパラオの海底光ファイバーケーブル建設支援―デジタル誌編集者論説」(The Diplomat, October 31, 2020)

 10月31日付のデジタル誌The Diplomatは同誌編集者Abhijnan Rejの“Australia, Japan, US Trilateral Partnership to Fund Undersea Cable for Palau”と題する論説を掲載し、ここでRejは海底光ファイバーケーブルに象徴されるパラオに対する豪日米によるインフラ投資支援について要旨以下のように述べている。
(1) インフラ投資のための豪日米3国間提携は、太平洋の島国パラオのために海底光ファイバーケーブルの建設に資金を提供するが、これは2018年11月の提携創設以来初のプロジェクトとなる。
(2) このプロジェクトへの資金提供が決定したのは、太平洋において戦略的な位置にある島々が軍事的な主張を強める中国との戦略的競争において米国やその同盟国にとって重要であるとの見方が強まっている時である。
(3) ネバダ州に本拠を置くTrans Pacific Networks社(以下、TPNと言う)は、デジタル分野を含む中国の一帯一路構想のインフラ事業に米国が対抗するため、2019年に設立されたU.S. International Development Finance Corporation(米国国際開発金融公社)からの支援を受けて、東南アジアと米本土を結ぶ光ファイバーケーブル網を建設する予定である。新しいパラオの光ファイバーケーブルはTPNケーブルと接続し、建設されれば世界最長となる。
(4) Mark Esper米国防長官は8月、西太平洋の中国の言う第2列島線の一部であるパラオを訪問し、その地政戦略的重要性を強調した。台湾を承認している世界15カ国の1国であるため、米国防総省の当局者たちは中国がパラオを「反転させようとしている」可能性があるとの懸念を示している。パラオのTommy Remengesau大統領は、Esperのパラオ訪問の際、米国に基地建設を要請していた。米国は1994年の自由連合盟約(以下、COFAと言う)を通じて、パラオの国防費やその他の重要な政府支出に資金を提供している。パラオとのCOFAは4年後に期限切れを迎える。
(5) デジタル誌The Diplomatの寄稿者Grant Wyethは、この地域の戦略的重要性について、「米国のミクロネシアへの関与の条件が中国との戦略的な競争というレンズを通しただけで構成される場合、これらの戦略的目標を促進させることを可能にするために必要な正統性を損なう危険性がある」と指摘している。
(6) 米国務省の概況報告書によると、米国は2019年の「太平洋協力約束」(Pacific Pledge)を通じて「3億ドル以上の援助を太平洋諸島に約束している」という。さらに、オーストラリアは、ステップアップ構想を通じて2020年から2021年の間に10億ドル相当の援助を太平洋地域に約束しており、日本は、「オール・ジャパン」の取り組みを通じて、2018年以降、太平洋島嶼国への開発援助として5億8千万ドルを拠出していることを付け加えている。
記事参照:Australia, Japan, US Trilateral Partnership to Fund Undersea Cable for Palau

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) A Free and Open Indo-Pacific: Strengths, Weaknesses, and Opportunities for Engagement (Introduction)
https://www.nbr.org/publication/a-free-and-open-indo-pacific-strengths-weaknesses-and-opportunities-for-engagement-introduction/
The National Bureau of Asian Research, October 28, 2020
Jeffrey Reeves, Vice-President of Research for the Asia Pacific Foundation of Canada (Canada)
Joanne Wallis, Professor of International Security in the Department of Politics and International Relations at the University of Adelaide (Australia)
 10月28日、カナダのシンクタンクAsia Pacific Foundationの副会長Jeffrey ReevesとオーストラリアのUniversity of Adelaideの教授Joanne Wallisは米シンクタンクThe National Bureau of Asian Researchのウエブサイトに“A Free and Open Indo-Pacific: Strengths, Weaknesses, and Opportunities for Engagement”と題する論文の序論を掲載した。ここで両名は、①日本は「自由で開かれたインド太平洋」(Free and Open Indo-Pacific:以下、FOIPと言う)構想の推進に成功し、2017年にはDonald Trump米大統領がFOIPの言葉を明確に採用した、②日米では戦略として FOIPの 概念が存在しているが、インドやオーストラリアでは規範的な構想として、ASEANでは「展望」として扱われている、③インド太平洋構想により、小国は中国と伝統的な提携国との間で戦略的な選択を迫られるという懸念がある、④カナダのAsia Pacific Foundationは、2020年1月にバンクーバーで会議を開催し、これを通して、FOIP の概念の解釈は異なるものの経済的、安全保障上、政治的、または人と人との相互のつながりが鍵を握っているとの理解を、各国が共有していることが明らかになった、⑤したがって、最も基本的な形でのFOIPの概念は包摂的なメガリージョン(mega-region)を構築するための二大洋・二大陸戦略(two-ocean, two-continent strategy)の実現である、⑤ここで紹介する四つのエッセイは、インド太平洋の地政戦略的関連性とFOIPの概念の戦略的範囲について、肯定的、否定的を問わず、地域的な観点からの重要な洞察を提供すると述べている。

(2)A Case for Deepening India-Taiwan Ties
https://www.vifindia.org/article/2020/october/30/a-case-for-deepening-india-taiwan-ties
Vivekananda International Foundation, October 30, 2020
Prof. Rajaram Panda, Former Lok Sabha Research Fellow, Parliament of India and Member, Governing Council of Indian Council of World Affairs, and Centre for Security and Strategic Studies, both in New Delhi
 10月30日、印安全保障問題専門家Rajaram Pandaは印シンクタンクVivekananda International Foundationのウエブサイトに“A Case for Deepening India-Taiwan Ties”と題する論説を発表した。ここでPandaは近年のインド太平洋地域における地政学的環境の変化は同地域の多くの国々に対し外交政策の優先順位の再設定を要求しているが、この新たな動きを生み出している唯一の要因は、中国が自国の国益を促進するために力を行使し、小国や弱国を威嚇するという脅威である、などとアジア地域の安全保障環境を概観した上で、東南アジアの多くの国は中国の脅威にさらされているが、台湾のケースが最も脆弱であり、台湾は独立した民主主義国家であるにもかかわらず中国は台湾を分断国家と見なしており必要であれば武力を行使してでも中国本土に統合する危険性があると指摘している。さらにPandaは、台湾は多くの外交上の同盟国を失い、現在では15の外交上の同盟国しか残っていないことに加え、一部の同盟国は中国の脅迫に翻弄されていると台湾の劣勢を解説した上で、同盟国ではないにしろインドはあらゆる面で台湾との関係を深めることを躊躇してはならず、中国の台湾問題への過敏さに束縛されてはならないと主張している。

(3) Rethinking the “Quad” Security Concept in the Face of a Rising China
https://jamestown.org/program/rethinking-the-quad-security-concept-in-the-face-of-a-rising-china/
China Brief, The Jamestown Foundation, October 30, 2020
By Professor Rajaram Panda was a Lok Sabha Research Fellow, Parliament of India and Member, Governing Council of Indian Council of World Affairs, and Centre for Security and Strategic Studies, both in New Delhi.
 10月30日、印安全保障問題専門家Rajaram Pandaは米シンクタンクThe Jamestown FondationのウエブサイトChina Briefに“Rethinking the “Quad” Security Concept in the Face of a Rising China ”と題する論説を発表した。ここでPandaは10月19日、オーストラリアがインド、日本、米国とともに2020年のマラバール演習に2017年以来初めて参加することが発表されたほか、2020年のマラバール演習はベンガル湾およびアラビア海で年内に実施される予定であることが明らかになったとして、中国はこのQuadを発足当初から否定的に見ており、設立直後に4カ国すべてに外交上の不満を表明し、この枠組みは地域大国として勢いを拡大する中国を封じ込めることを目的とした同盟だと考えていることもあり、中国との積極的な経済・政治関係の維持に実質的に反することにもつながるQuadから参加国はしばしば距離を置こうとしてきたと指摘している。さらにPandaは米印両国が軍事協力を強化することは両国の利益になるのみならず、Quadの他の二つのメンバー国である日本とオーストラリアにとっても有益であり、特に、インド太平洋におけるインドの安全保障上の強固な足場づくりはインド洋における中国の拡大する勢力に対する重要なカウンターバランスを提供することになると指摘する。そして、アジア太平洋地域の安全保障上のリスクが高まるにつれ、インド太平洋の安全保障政策を成功させるためには拡大する中国の地域的な力と戦うことができ、さらにはそれを封じ込めることができる、より明白な安全保障の枠組み、すなわちQuadがなければならないと結論づけている。