海洋安全保障情報旬報 2020年9月11日-9月20日

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9月11日「中国、南シナ海で麻薬密輸船拿捕―米ニュースサイト報道」(Benar News, 2020-9-11)

 9月11日付の米オンライン5カ国語ニュースサイトBenar Newsは“China Arrests Drug Traffickers in South China Sea”と題する記事を掲載し、中国公安部が初めて南シナ海において中国海警総隊と共同して麻薬密輸船を拿捕し、6名を拘束したとして要旨以下のように報じている。
(1) 中国国営新華社は中国海警総隊が8月に中国公安部対麻薬部門と連携し麻薬密輸の疑いのある船をファイアリー・クロス礁北西で待ち伏せしたと8月5日に報じた。公表までなぜ1ヶ月近くかかったかはすぐには明らかにされなかった。海警総隊は中央軍事委員会に属しており武装警察の一部門である一方、公安部は民政の法執行機関で南シナ海において任務や作戦を遂行したという記録はこれまでにない。中国は公安部が初めて南沙諸島において大量の麻薬を押収したと述べている。Benar Newsは南沙諸島においてそのような麻薬押収が初めてであったか確認できなかった。中国国営メディアの続報は公安部と海警総隊が何ヶ月もの間、夜間待ち伏せを計画してきたことを明らかにした。5月はじめ、公安部福建省公安庁は中国麻薬密売ギャング団が貨物船を使用して麻薬を福建省福州の港から中国国内に持ち込もうとしていると判断した。ファイアリー・クロス礁で待ち伏せていた海警船が阻止したとき、目星を付けた船は7月2日に港を離れて中国に戻ろうとしていた。
(2) ファイアリー・クロス礁はカムラン湾から260海里も離れておらず、このことがシンガポールのS. Rajaratnam School of International Studies(RSIS)研究員Collin Kohに疑念をもたらした。「記事はファイアリー・クロス礁北東海域と報じたが正確な位置が示されていない。このことは事件がベトナムの南部海岸近傍であったことを考えればベトナムの排他的水域内で行われたかもしれないことを意味する」とKohは言う。該船がどこの国旗を揚げていたのか不明であり船長を含む拘束された6名の国籍も報じられていない。Kohは国際法の下では該船が中国国旗を掲揚している場合に限り、拘束は北京の管轄下にあると述べている。しかし、「そのような阻止行動は北京が係争中の海域を効果的に管轄しているという考えを補強するかもしれず、間違いなく南シナ海における主張を満足させるものであり、今回の事件で提起される鍵となる政治的含意である」とKohは付け加えている。
(3) 東南アジアは長らく組織的な麻薬密輸の温床であった。The United Nations Office on Drugs and Crime(国連薬物犯罪事務所)の報告書によれば中国だけで約30トンの合成薬物が押収されている。しかし、大半はラオス、ミャンマー、タイ国境の山岳地帯、いわゆる「黄金の三角地帯」で製造され、陸上国境を越えて移送されている。ベトナム日刊紙トゥオイチェーによれば、隣国ベトナムは9月2日、カンボジアとの国境を越えて大量の覚醒剤の一種であるメタンフェタミン、ケタミン、エクスタシー、ヘロインが海上輸送されることを禁止した。
(4) 他の国で違法麻薬を精製するために必要な原材料となる化学薬品の移送停止に失敗したとして中国は時々非難されてきた。2018年から続く「両打両控」(抄訳者注:両打とは製造と販売の摘発、両控は麻薬そのものと使用者の取り締まりの意)法執行運動で中国は麻薬輸送を取り締まってきており、省公安庁は麻薬密売組織の摘発を加速してきている。8月26日、習近平主席は国家警察部隊に重要講話で「鉄のような規律と実践」を強調し、数ヶ月に及んだ政法隊伍の「教育整頓」運動を締めくくった
記事参照:China Arrests Drug Traffickers in South China Sea

9月11日「中国は太平洋進出を加速-英環境コンサルタント論説」(The Strategist, September 11, 2020)

 9月11日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe Strategist はアジア太平洋地域における国際開発や環境問題について造詣の深いコンサルタントSteve Raaymakers の“China expands its island-building strategy into the Pacific”と題する論説を掲載し、ここで Raaymakersはキリバス等太平洋島嶼諸国の環境問題への懸念に乗じた中国の太平洋地域への進出に対しオーストラリアなどがどう対応すべきかについて要旨以下のとおり述べている。
(1) キリバス共和国は太平洋の真ん中に位置する32の環礁と1つの隆起サンゴ島によって構成される国である。その海抜は低く、地球温暖化に伴う海面上昇によって水没の脅威にさらされている。キリバスの排他的経済水域は350万平方kmに及び、潜在的に膨大な海洋資源を有しており、またそこは北米とオーストラリアやニュージーランドを結ぶシーレーンの間に位置する戦略的に重要な位置にある。そのキリバスに近年、中国が強い関心を見せている。
(2) キリバスは2019年9月に台湾の外交承認を取り消し、中国の承認に切り替えた。中国の影響力拡大への非難もありながら今年6月の選挙でトブワーン・キリバス党が勝利した。そのマニフェスト「キリバス20年ビジョン」は中国の一帯一路への統合を打ち出し、2つの積替えハブ建設(西部のタラワ環礁と東部のクリスマス環礁)を最優先課題とした。さらに同マニフェストは大規模埋立て工事の実施を提案している。表向きの目的は通商と産業の発展および海面上昇への対応である。それに投資するのが中国である。
(3) しかしこの計画は、戦略的に重要な場所に位置するキリバスを中国が軍事基地化し、そこを支配する見通しを含意するものであろう。そして中国によるキリバスへの投資は中国の太平洋での影響力拡大というより幅広い戦略の一部である。その戦略の一部としてさらに仏領ポリネシアのハオ環礁への養殖場開発のための投資がある。そこにはフランスが建設した大型輸送機を運用しうる飛行場がある。中国による太平洋への影響力拡大は中国がそこで軍事力を行使しうる能力を拡大するものであり、さらに、従来から主張してきた「第3列島線」(抄訳者注:ハワイから南太平洋のサモアを経てニュージーランドに引かれる線)を地理的にはるかに超える海洋秩序建設を目指すものでもある。
(4) 脆弱な太平洋島嶼国家はますます中国からの「支援」に傾いている。彼らは経済的発展を必要とし、気候変動や海面上昇など喫緊の課題を有しているが、米国やオーストラリアがこうした問題に真剣に取り組んでいると考えていないのである。他方、中国は彼らのそうした深刻な懸念にうまくつけこんでいるようである。オーストラリアが打ち出す「太平洋ステップアップ」をより効果的なものにするためにはキリバスのような島嶼国家の願望と懸念に対し、真剣に向き合う必要がある。
記事参照:China expands its island-building strategy into the Pacific

9月12日「インドと日本による軍事兵站協定―The Diplomat編集者論説」(The Diplomat, September 12, 2020)

 9月12日付のデジタル誌The Diplomatは同誌編集者Abhijnan Rejの“India and Japan Sign Military Logistics Agreement for All to See”と題する論説を掲載し、ここでRejは日印間で署名された物品役務相互提供協定について要旨以下のように述べている。
(1) 9月9日、インドと日本は印軍、自衛隊が参加する演習、国連や人道支援の活動、相互の港湾訪問などの際、相互利益のために物資やサービスの交換を行うことを可能にする「物品役務相互提供協定(ACSA)」に署名した。日本は年を追うごとに洗練されつつある米印マラバール海軍演習に2015年から参加している。
(2) 興味深いことに、日本の外務省は特にどの分野にも言及せずに自衛隊と印軍が「国際の平和と安全」に寄与することを可能にする協定の能力について話している。今回、インドが日本と結んだ協定のようなものは自衛隊、印軍双方の活動に関連した物品やサービスの相互供給の手順をあらかじめ定められた境界の範囲内で、帳簿上で体系化したものである。これはこれまでのようにその場しのぎのやり方で行われていた交換とは異なるものである。
(3) そしてインドが参加している他の正式な軍事兵站協定とは異なり、日本との協定の文面は日本の外務省のウェブサイトで公開されている。8月24日の本誌の記事では、インドの米国との「基礎的な」防衛協力協定(兵站協定を含む)が、国内でこれほどまでに政治的な注目を集めている理由の1つは、「主権と独立した外交政策を固く守っているインドで、これらの協定の文書(あるいは公式の要約でさえも)が機密扱いのままであることが疑念を煽っているからだ」と指摘した。実際、2016年の米印兵站交換覚書の草案が公開されていないため、一部のアナリストたちは米印兵站交換覚書と駐留権やそれに必然的に伴うすべてのことをめぐる「軍隊の地位」協定とを混同している。
(4) しかしこれは、単に主権問題に熱心な国内の厄介な有権者をなだめることに関する問題ではない。それはまた、その意図(またはその欠如)を正確な言葉で敵対者に伝えることに関する問題である。重要ではあるが定められた取り決めを秘密にしておくことは、中国との関係でいえば、インド(又はパートナー)の利益にはならない。透明性には自国への戦略的な見返りがある。
記事参照:India and Japan Sign Military Logistics Agreement for All to See

9月13日「中国の強権的な行動ゆえに機能している米国の『インド太平洋戦略』-米専門家論説」(Nikkei Asian Review, September 13, 2020)」

 9月13日付のNikkei Asian Review電子版は米シンクタンクRand Corporationの上級防衛アナリストDerek Grossmanの“US Indo-Pacific strategy is working, mainly thanks to China”と題する論説を掲載し、ここでGrossmanは南シナ海などにおける中国の強権的姿勢が結果的に米国の「インド太平洋戦略」における同盟国及びパートナー諸国との関係を強化する形になっているとして要旨以下のように述べている。
(1) Trump政権の「インド太平洋戦略」は、この地域を中国の強権的な姿勢から「自由で開かれた」ものとするという目標達成のため、ここ数ヶ月、皮肉なことながら中国自身の行動により強い後押しを受けている。香港、台湾、東シナ海及び南シナ海、そしてヒマラヤ山脈を挟んでのインドに対する北京の強権的な主張はインド太平洋地域で前例のない合意をもたらしている。いくつかの関係国は中国の脅威を相殺するべく米国との安全保障関係を強化している。北京が強権的な主張を続けるならば、周辺諸国もこれに追随する可能性が高く、中国はさらに孤立したままになるだろう。たとえば日米豪印で構成される4カ安全保障対話では各国ともルールに基づく国際秩序を維持することの重要性を繰り返し確認しており、その安全保障協力も進展しつつある。
(2) 7月1日、オーストラリア国防省は中国への対抗を念頭に置いた防衛戦略見直しと部隊再編計画を発表した。その数日後、中国とインドは国境地帯での紛争地域における部隊撤退に合意したが被害も発生している。そして7月14日、東京は「尖閣諸島周辺海域での強権的行動で現状変更を試みている」として中国を非難する防衛白書を発表した。こうした北京の強権的な行動は、ワシントンが影響力行使の主要な舞台と考えている東南アジアにおいて上手く立ち回ることを後押しすることになるだろう。
(3) 中でもベトナムは急成長する米国の安全保障パートナーであり、今年のASEAN議長国でもある。9月9日のASEAN外相会合でベトナムのPham Binh Minh外相は「南シナ海の平和、安定、発展を維持するためのASEANの努力に対する米国の建設的かつ迅速な貢献を歓迎する」と述べた。これはベトナムが昨年11月に「三つのノー」の防衛政策(抄訳者注:同盟関係を結ばない、国内に外国軍隊基地を設けない、二国間紛争に第三国を介入させない、という趣旨)を発表した後のことであり、ハノイが戦争の開始者になることはないが、挑発された場合、ベトナムはパートナー諸国との関係を強化する権利を留保するという趣旨である。そしてベトナムは現在、日豪印を含む他のパートナー諸国との安全保障関係強化を模索している。
(4) このほか、マレーシアは7月29日、南シナ海の主権に関する中国の主張には全く根拠がないとする書簡を国連に提出した。また、6月2日には反米親中であるRodrigo Duterte比大統領は南シナ海での中国の強権的主張が続いていることを理由に訪問軍地位協定を終了するか否かの決定を延期した。さらにインドネシアも7月22日、同国の排他的経済水域への中国の侵入を阻止することを目的とした大規模な軍事演習を実施している。普段は最も静かな権利主張国であるブルネイでさえ、7月20日、紛争解決のためにはUNCLOSに従い「法の支配」を確立する必要があると主張したのである。
(5) そして台湾もまた「自由で開かれたインド太平洋」の支持を表明している。台湾はあらゆる面で中国の圧力に直面しており、このことが結果的に最近の米台関係の改善に大きく貢献している。さらにこうした北京の行動は域外諸国が米国の「インド太平洋戦略」を支持するよう動機づけてもいる。最も注目すべきは2018年に英仏両国が南シナ海において航行の自由と海上におけるプレゼンスの発揮を実施し、中国の主張に異議を唱えたことである。6月17日、両国は他のG7諸国と連携し、香港に対する新しい国家安全保障法について懸念を表明した。
(6) もっとも、この地域のすべての国が「インド太平洋戦略」を支持しているわけではなく、ワシントンはカンボジア、ラオス、ミャンマー、さらに米国の同盟国であるタイからの支持を期待すべきではない。7月29日、シンガポールのLee Hsien Loong首相が米国に「中国を敵対者として扱う」ことを控えるよう警告したことも米国の動きを一時停止させるはずである。シンガポールは事実上の米国安全保障同盟国であり伝統的に米中両国と地域全体との架け橋の役割を果たしてきた。元より、多くの国が米国の目標を支持しているからといって彼らが中国よりも米国を選択するとは限らない。実際、ほとんどの東南アジア諸国は、どちらか一方に敵対することを避けるためリスク回避の行動様式にとどまる可能性が高い。しかし、そのことが意味しているのはインド太平洋諸国が中国の行動により不安を感じているように見えるということで、この傾向が持続する場合、北京はこれらの国、そしておそらくはその周辺諸国ともさらに距離が開く可能性があり、結果的には米国の目標達成をサポートすることになるだろう。こうした点が改められなければ、北京はインド太平洋地域における唯一の友人として北朝鮮、パキスタン、カンボジア、ロシアなどと付き合っていかなければならず、 それは不幸な結果を招くであろう。
記事参照:US Indo-Pacific strategy is working, mainly thanks to China

9月15日「ドイツのインド太平洋構想は中国との新たな関係構築か、それとも戦略的な変更か?―米専門家論説」(The Diplomat, September 15, 2020)

 9月15日付のデジタル誌The Diplomat はThe Center for a New American Security Asia-Pacific Security Program研究員Coby Goldbergの“Germany’s Indo-Pacific Vision: A New Reckoning With China or More Strategic Drift?”と題する論説を掲載し、ここでGoldbergはドイツのインド太平洋政策に関する新たな戦略文書は中国に対する欧州政策再考の重要かつ慎重な第一歩であるとして、中国との関係において参考になるとしつつ韓国の新南方政策と比較して論じつつ要旨以下のように述べている。
(1) 2020年9月14日のEUと中国首脳のオンライン会議のあとのブリーフィングでドイツのMerkel首相は欧州と中国との貿易交渉について6分間話した。しかし、彼女は香港と中国の少数民族の権利については10秒しか話さなかった。ドイツがインド太平洋の地域戦略を発表してから2週間たった。一部の人々は、このサミットが中国に対する新しい欧州の取り組みを強調したと主張している。しかし、このサミットと同様に、ドイツの地域戦略は中国との本格的な報復という戦略的対価の危険を犯すことなく、貿易政策に触れている。過去4年間、インド太平洋地域に関与するドイツの政策が拡大している。ドイツの戦略は詳細である。多国間主義を強調し、北大西洋条約機構に日本、韓国との関係拡大を促している。オーストラリアやインドネシアなどの国々との自由貿易協定の迅速な締結を求め、地域の持続可能なインフラの拡大を約束する。一部の者はドイツの戦略は中国国内の人権侵害と好戦的な外交行動に対する懲罰を具体化していると主張している。ある分析者は、ドイツがEU議長国を引き受けるのと同じように、この政策は中国に対する統一された欧州の取り組みの形成を示す可能性があると指摘する。しかし、ある人々は中国の厳しい現実に正面から取り組んでいないことを批判している。南シナ海の緊張を解決するために中国とASEANの間の欠陥のある行動規範に期待を置き、情報漏えいを広めた「権威主義的なアクターと国家」を名指しにはしないが批判している。言い換えれば、米国が台湾を地域の議題の中心に近づけても、ドイツの戦略文書が台湾について言及することはない。「新しい政策発表には、ドイツの以前の中国の関与の既存の欠点について自己反省している部分はない」と、英The University of Nottingham Asia Research Instituteの Andreas FuldaはThe Royal United Services Instituteに書いている。もちろん、貿易はドイツがより対立的なアプローチを採用するのを妨げる要因である。中国は2016年以来、ドイツの最大の貿易相手国であり、ドイツはEUの対中輸出の半分以上を占めている。ドイツの主力ブランドの多くは特に中国との関係に依存している。ドイツの「貿易を通じて中国を変化させる」政策は中国に変化に影響を及ぼさなかったかもしれないが、ドイツに利益はもたらしている。
(2) インド太平洋地域に関する米国の政策と比較すると、ドイツの戦略的思考は穏健なものである。米Trump政権は広範な地政学的対立の政策の中で貿易協定を後退させているが、ドイツは長年望まれていた投資条約をめぐる交渉を危険にさらさず、より慎重に行動するであろう。しかし、ドイツの新しいインド太平洋戦略は対中スタンスの重要な変化を示している。ドイツの地域戦略を理解するために重要なポイントはドイツと同じくらい中国との貿易に大きく依存する唯一の他の先進国である韓国との比較である。韓国の新南方政策(以下、NSPと言う)はASEANとインドとの関係を拡大し、それを韓国の外交政策の中心に置いてきた。NSPは決して「中国に対して厳しい」ものではないが韓国は中国への依存を減らす努力とインド太平洋における米国のイニシアチブを同調させている。韓国と米国は多くの協定を通じて、インフラ整備、デジタル、グリーンエネルギーなどの分野で地域プロジェクトを行うことに合意した。両国は中国の地域支配に対抗するイニシアチブで提携している。
(3) ドイツも新しい関係を地域政策の中心に置いている。戦略文書はインドとASEANについて何度も言及している。韓国のNSPと比較するとドイツの戦略は積極的である。韓国の戦略は気候変動や公衆衛生などの非伝統的な安全保障問題に焦点を当てる代わりに、伝統的な安全保障問題を完全に避けて通っている。ドイツの戦略文書は気候変動の問題を焦点にする一方、NATO、EU及び地域の二国間軍事パートナーシップに1章全部を当てている。南シナ海の緊張に対する中国の責任を明確に固定することなく欧州の軍事的及び非軍事的プレゼンスを拡大し、より自由で開放的なインド太平洋の基盤を形成するのに役立つ地域関係を深めようとしている。しかし、韓国との比較がドイツを厳しく見せ、米国との地域政策の整合の道筋を指し示しているが、それはまたドイツの戦略的思考の欠点も明らかにしている。韓国の中国依存はドイツの中国依存よりもはるかに深い。韓国にとって、中国政府の援助は北朝鮮との交渉においても極めて重要である。言い換えれば、韓国はドイツよりも中国に対し慎重なアプローチを取らねばならない理由がある。ドイツの地域戦略は韓国の新南方政策に似てはいるが、それはドイツと中国の関係が徐々に強化される可能性とドイツが中国により大胆にアプローチしなくてはならない必要性の両方を示している。ドイツの対中政策は中国に対する欧州政策の再考の重要な第一歩かもしれないが、それは慎重な第一歩でもある。
記事参照:Germany’s Indo-Pacific Vision: A New Reckoning With China or More Strategic Drift?

9月15日「中国へのダーウィン港の貸与は見直されるべき―豪議員論説」(The Strategist, September 15, 2020)

 9月15日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe Strategistは豪労働党の連邦議会議員Luke Goslingの“A belt and road by any other name: Government must review Darwin Port lease”と題する論説を掲載し、Luke Goslingは豪北部にあるダーウィン港の中国への貸与は見直されるべきとして要旨以下のように述べている。
(1) 豪政府は、新しい外交法案の目的はキャンベラを弱体化させる可能性のある州や準州による取引を見直すことで外交政策の一貫性を確保することだと述べている。外交政策は連邦政府の責任であり、それは憲法にも明記されている。州政府と準州政府はここ数十年で国際的な取り決めに次第に積極的になっている。しかし外交政策の権限を連邦政府の手に集中させておくにはそれ相応の理由がある。連邦政府の専門的な見解、海外の外交ネットワークからのリアルタイムの報告、そしてあらゆる情報源からの情報収集と判断の結果、連邦政府は常に世界についての最高の情報を持ち、オーストラリアの戦略的政策の管理者であり続けることができる。したがって、第一線の外交ネットワークと援助プログラムの慢性的な削減について真剣に議論する必要がある。
(2) しかし、私が懸念しているのは、この法案が明らかに政治的に偏っていることである。政府は最初からビクトリア州による2018年の中国との一帯一路構想に関する覚書を修正が必要な主な問題としていた。誤解のないように言えば、豪労働党の党首Anthony Albaneseは、我々は一帯一路構想に署名しなかっただろうと述べている。しかし、ダーウィン港の貸与のように目に見えるところにある他の一帯一路構想関連の取引を無視して、政府がビクトリア州の取引に警告を発していることは興味深い。あからさまなダブルスタンダードを避けるためにも、ダーウィンもビクトリア州と同じように話し合われるべきだ。
(3) 豪外相はダーウィン港がこの法案が及ぶ範囲内として見直されることを明確に否定している。Marise Payne外相は、北部準州政府による99年間の港の貸与は政府機関ではなく、中国の民間企業である嵐橋集団へのものだからだと主張している。この法案は「商業基盤で運営する企業」を除外している。中国の制度では、海外に出て行く投資家は中国商務部を含む3つの政府機関に取引を登録して承認を得なければならない。海外で重要なインフラを所有している民間企業は、やはり北京への報告義務がある。2019年、豪Foreign Investment Review Boardの関係者は、中国の法律は事実上、「民間企業と国有企業の区別をなくしていた」と示唆した。政府が、ダーウィン港のような重要なインフラ資産を外国の大国(中国であれカナダであれ)に貸与することについての疑問を退けても、より大きな問題がある。政府が公然とこれについて明白な理由を述べることはない。2015年のダーウィン港の貸与は「一帯一路構想」の一部であるが、政府がこの売却を監督していたのだ。
(4) 中国による世界中の重要なインフラの戦略的買収は、2013年に習近平国家主席が最重要として位置付ける一帯一路構想を立ち上げた際に、権威ある政策的根拠が与えられた。これを機に、中国の港湾買収は正式に海上シルクロードと呼ばれる一帯一路構想の海に深く関わる側面の一部となったのである。一帯一路構想を推進するこの戦略により中国の民間企業や国有企業はダーウィンやメルボルンを含む、35カ国で76以上の港湾の重要な、あるいは独占的な権益を急速に取得した。
(5) 豪政府はビクトリア州の一帯一路構想の取引はその外交政策と矛盾すると考えていると述べている。しかし、戦略的に重要な我々の北部の港のことになると、その懸念は跡形もなく消えてしまう。どういう訳か、ある管轄区域においては国益に反する一帯一路構想が別の管轄区域では問題ない。中国はオーストラリアにとって重要なパートナーである。しかし、オーストラリアの重要なインフラを誰が所有しているかは、中国との関係を問う問題ではない。我々の主権に関わる問題なのである。中国の34の港のうち外国企業が所有している港は1つもないし今後もないだろう。政策の一貫性について心配するのであれば、政府はダーウィン港の取引を見直すことから始めるべきである。
記事参照:A belt and road by any other name: Government must review Darwin Port lease

9月16日「洋上からのロケット打ち上げは中国の宇宙計画の将来を握る鍵-香港紙報道」(South China Moring Post, 16 Sep, 2020)

 9月16日付の香港日刊英字紙South China Moring Post電子版は“Seaborne rocket launches key to future of China’s space programme, experts say”と題する記事を掲載し、中国が洋上からの宇宙ロケットの打ち上げに成功したとして要旨以下のように報じている。
(1) 中国は米国やスペースXのような宇宙産業を牽引する企業に遅れを取らないようしており、9月15日に打ち上げられた長征-11ロケットのように洋上からのロケット打ち上げは中国の宇宙計画の主要点になっている。吉林1号リモートセンシング衛星9個を搭載した長征11号ロケットが9月15日に黄海上の浮体型発射台から打ち上げられたと環球時報は報じている。長征ロケットの海上型の開発は宇宙産業の流れに沿ったものであると評者達は言う。この流れはスペースXの最高経営責任者Elon Muskから発している。
(2) 北京を拠点とする軍事専門家宋忠平は、洋上での打ち上げ技術は依然、中国ではかなり新しいものでありスペースXのような企業に追い付いていくことを助けるかもしれないと言う。洋上打ち上げの利点の1つは、ロケットのブースター部分がどこに落下するか計算し易く、改修して再利用できることから打ち上げ費用が安いことである。「浮体型打ち上げセンターの建設は米国のように中国で流れになるだろう。そして、海上型ロケットはより安価でより危険が少ないことから将来の宇宙産業の流れとなるだろう。中国はその宇宙計画の野望に合致するより多くの打ち上げ基地建設を必要としてきたが、人口密集の国ではそれは常に容易というわけにはいかない。打ち上げには残骸の落下に対処する必要がある。そしてスペースXが運用するような洋上打ち上げ基地は最良の選択肢である」と宋忠平は話す。中国は野心的な宇宙計画を持っている。9月はじめ、新華社は再利用可能な実験用宇宙船の回収について画期的な技術的打開に達したと報じた。これは将来、より便利でより安価な宇宙での輸送を可能にするものである。
(3) 飛行経路が台湾上空を通った9月15日のロケットの打ち上げは人民解放軍が台湾周辺での演習を強化しつつあった中で台湾に住む人々の懸念を大きくした。中国国務院台湾事務弁公室の報道官馬曉光は9月16日の記者会見で、台湾南西空域で実施された人民解放軍空軍の演習は台湾の独立を後押しする勢力に対する警告を意図したものであったと述べている。「演習は台湾海峡を跨ぐ安全保障環境に対して必要な対応である」と馬曉光は述べ、民進党が支配する台湾と他の勢力は両岸関係を損なおうとする「トラブル・メーカー」だと付け加えた。
記事参照:Seaborne rocket launches key to future of China’s space programme, experts say

9月17日「インド太平洋地域の少数国間枠組の急増と印豪仏3カ国枠組の意義―印評論家論説」(The Diplomat.com, September 17, 2020)

 9月17日付のデジタル誌The Diplomatc.comは印シンクタンクObserver Research Foundationの名誉フェローRajeswari Pillai Rajagopalanの“Rise of the Minilaterals: Examining the India-France-Australia Trilateral”と題する論説を掲載し、ここでRajagopalanは最近実現した印豪仏3ヵ国の高官級対話についてインド太平洋地域においてこうした少数国間の協力関係の構築が増加している中でのこととして、その背景と意義について要旨以下のように述べている。
(1) 9月10日、印豪仏3ヵ国高官級対話がオンラインで開催された。それには印外務省のVardhan Shringla外務次官、仏ヨーロッパ・外務省François Delattre事務次官、豪外務・貿易省のFrances Adamson次官が参加した。
(2) 印豪仏はそれぞれこの3ヵ国間協力関係(以下、これを「トライラテラル」と表現する)の構築について声明を発した。インド外務省は「特に海洋領域における3ヵ国の協調を強化する方法の模索」を検討していると述べ、またこの会合を年に1度のペースで開く予定だとした。オーストラリアの声明もこれに似ているが、フランスの声明はインド太平洋における国際法、平和、安全保障の重要性をより明瞭に表現するものであった。
(3) 3ヵ国の声明は中国を名指ししていないが、しかし中国はこのトライラテラルが生まれた最も重要な要因であった。そして、それはこのトライラテラルに限ったことではなく、インド太平洋地域において多くの少数国間の協力関係(以下、ミニラテラルと言う)が結成されている。インドは伝統的にこうしたミニラテラルに属してこなかったが近年大きな関心を示し、たとえば印豪インドネシア、印日豪トライラテラルなどに参加している。
(4) 印豪仏トライラテラルに関してはその必要性が早くから民間やシンクタンクなどでの対話で議論され、政府間対話に格上げすることが訴えられていた。たとえば2018年にはCarnegie India、Fondation pour la Recherche StratégiqueおよびNational Security College of the Australian National Universityの三組織が会合を開き、潜在的に協力可能な領域について議論を行っている。その後フランスのMacron大統領が「パリ・デリー・キャンベラ枢軸」の可能性に触れ、この度のトライラテラルに結実したのである。
(5) 印豪仏トライラテラルが協力を深めていく領域には種々あるが、なかでも海洋安全保障とグローバルな海洋資源の共有がASEANやIORAなどより包括的な地域機関と協力しつつ取り組むべき重要課題と位置づけられた。インドがフランスおよびオーストラリアとロジスティクスに関する協定を結んだことは、その一歩と見てよい。それに加えて、インド太平洋地域の人道支援や災害救援、海洋状況把握、ブルー・エコノミー、海洋の生物多様性保護などの問題についても第1回会合では議論された。中国のプレゼンス拡大を考慮したとき、これら3ヵ国が緊密に連携すべき分野のひとつは海上における中国の活動の監視であろう。
(6) Diplomat編集者Abhijnan Rejによれば、こうしたトライラテラルの重要性は「近年の米国の不確実性」を考慮すれば明白だとする。インド太平洋地域の米国の同盟国は、さらに、これら複数のミニラテラルを緊密にネットワーク化した体系の構築を模索しており、それに印豪仏の3ヵ国が加わることはインド太平洋地域へのそれぞれのかかわりの深さを考慮すればきわめて妥当であろう。そしてまたこれらミニラテラルおよびそれが結びつけられたネットワークの重要性は、諸国のそれぞれの海軍力が中国のそれに遠く及ばないという現実を考慮したとき、より大きなものとなろう。
記事参照:Rise of the Minilaterals: Examining the India-France-Australia Trilateral

9月17日「南太平洋諸国が進める海洋安全保障施策―海洋専門家論説」(Center for International Maritime Security, September 17, 2020)

 9月17日付の米シンクタンクCenter for International Maritime SecurityのWebサイトは、米シンクタンクOne Earth FoundationでStable Seasプログラムを担当するMichael van Ginkelの“A South Pacific Island-Led Approach to Regional Maritime Security”と題する論説を掲載し、南太平洋諸国が進める海洋安全保障施策と域外国との関わり方について要旨以下のように述べている。
(1) ポリネシア、メラネシアそしてミクロネシアに至る南太平洋島嶼諸国は2014年にバヌアツで「オセアニアにおける地域安全保障アーキテクチャ」をテーマにワークショップを開催し、参加諸国は海洋分野における経済的繁栄と人間の安全保障との重要な結び付きを確認した。海洋ベースの経済、島嶼諸国そして地域的多国間枠組みを脅かす非伝統的脅威に対処するために海洋能力構築、情報共有及び安全保障支援の実施に関する計画を進めてきた。これらの施策は当該現地政府の主導によるさらなる発展の機会を提供するとともに、域外国にとって効率的かつ効果的な南太平洋の海洋安全保障のための資源、資材及び訓練面で貢献する機会となっている。
(2) 限定的な海洋法執行能力の克服:海洋法執行船舶の不足は、沿岸水域を適切に監視し、沖合での操業と養殖漁業に関わる許認可と規則の実効を確保し、密輸取引を阻止する努力を妨げてきた。例えばパラオはおよそ62万9,000平方キロのEEZを哨戒するのに、30メートル級哨戒艇を1隻しか保有していない。同様に、他の島嶼諸国も麻薬密輸や「違法・無報告・無規制」(以下、IUUと言う)漁業などに対する法執行活動のための乾ドックや人的資源といった海事支援インフラを欠いている。この結果、IUU漁業は南太平洋島嶼諸国の経済に大きな損害を及ぼしている。このため、漁業、開発と観光事業を含め、南太平洋における海洋諸施策を調整し、履行する統合機構として「太平洋諸島フォーラム」(The Pacific Island Forum: 以下、PIFと言う)*が生まれた。他方、域外国の貢献については、例えば、海洋における不法行為を確認し、阻止する各国の法執行船舶の不足を補うために、米国がトンガ水域で活動する米沿岸警備隊巡視船へのトンガ士官の便乗を認めた協定に署名したり、またフィジーとも同国士官の米艦艇への便乗を認めた協定に署名したりするなど、関係各国は米海軍艦艇を含め、こうした協定を結ぶことができる。同様に、航空哨戒能力の不足を補うめの多国間の航空哨戒協定も、海洋状況把握(以下、MDAと言う)能力を強化することができよう。
(3) 情報共有の強化:情報共有のためのメカニズムも、海洋安全保障にとって不可欠の要素である。既に、例えば「国際犯罪調整センター」(Transnational Crime Coordination Center)など、南太平洋には海洋の諸問題に関するデータを収集し、配布する情報センターが存在する。一方、オーストラリアは域外国として「太平洋海洋安全保障プログラム」などの施策を通じて、南太平洋の海洋安全保障に貢献してきた。このプログラムを通じて、オーストラリアは南太平洋地域の10余の島嶼諸国に継続的に海洋法執行船舶を提供するとともに、空中哨戒活動を実施してきたが、こうした施策はこの地域における将来的な海洋安全保障を主導する国として当然の選択と言えるかもしれない。
(4) 安全保障支援能力の構築と陸海連結性の認識:特に、南太平洋の島嶼国家のように散在する陸地と海に分かれた地勢では、陸海両面に跨がる安全保障活動を調整する必要がある。一方だけを重視すれば不法行為者は他方の安全保障レベルが低い領域を利用しようとする。特にソロモン諸島、ブーゲンビル及びフィジーなどの最近の紛争地域では、南太平洋地域内におけるより強力な安全保障支援能力が必要とされる。安全保障支援と紛争の持続を困難にするためには海洋安全保障が重要である。PIF は2000年にキリバスで開催された会議において、加盟国の要請で、あるいは危機的状況が介入を必要とする場合、集団的行動を実施する手順を概説した「ビケタワ宣言」を発表した。この宣言はPIFの14加盟国が参加し、2013年から2017年まで継続された「ソロモン諸島地域支援ミッション」(The Regional Assistance Mission to Solomon Islands)派遣の法的根拠となった。域外国は、平和維持活動の訓練面を通じて現地国家主導の平和維持活動を支援できる。また、現地国家は訓練を通じて域内の政治的、文化的及び安全保障環境の力学を反映させるとともに、南太平洋島嶼諸国にとっての海洋安全保障の重要な役割を強調することができよう。
(5) 支援プログラムによる協力行動の強化:海洋安全保障能力構築プログラムを通じた複数の域外国からの資金、訓練、資材及び専門知識の提供は、その履行に当たって重複や非効率を生みやすい。例えば、中国は援助規定に如何なる前提条件も付すことなく援助を提供する。しかしながら、西側諸国は責任ある援助の配分と履行を慫慂するために援助を提供するに当たって、まず受け入れ国が政治的、社会的そして安全保障上の要件を満たすことを要求する傾向にある。こうした相違は南シナ海、東シナ海及びインド洋における中国の影響圏の増大に伴って、最近の地政学的緊張を激化させてきた。「国連開発協力フォーラム」と同じような多国間フォーラムの創設は将来の如何なる海洋安全保障能力構築努力においても、伝統的な西側援助国と中国のような新興の援助国との間で透明性を確保するための中立的な場となり得よう。
(6) 南太平洋の各国経済と地域共同体における海洋領域の強い影響力を考えれば、海洋領域における人間の安全保障に対する非伝統的脅威による害悪は島嶼国家にとって深刻な懸念事項である。MDA、海洋法施行能力そして安全保障援助能力を一層強化することによって、南太平洋島嶼諸国政府と多国間機構は、自らの海洋ベースの経済を維持することができる。域外国は最大限の効果を確保するために自らの援助計画を既存の現地国家の海洋諸施策と統合するべきである。
記事参照:A South Pacific Island-Led Approach to Regional Maritime Security
備考*:太平洋諸島フォーラム(PIF)は、1971年8月に第1回南太平洋フォーラム(SPF:PIFの旧名称)首脳会議がニュージーランドで開催されて以来、大洋州諸国首脳の対話の場及び地域協力の核として発展してきた。現在,オーストラリア,ニュージーランド,パプアニューギニア,フィジーなど16カ国・2地域が加盟し、事務局はスバ(フィジー)にある。毎年1回総会を開催し、最終日に総会コミュニケを採択している。日本は、1991年から域外国対話の相手国として毎年域外国対話に出席している。(外務省HP参照)

9月18日「温暖化と北極圏の環境変化が世界にもたらす影響―ノルウェージャーナリスト論説」(High North News, September 18, 2020)

 9月18日付のノルウェー国立NORD UniversityのHigh North Centerが発行するHigh North News電子版は同センター顧問Trine Jonassenの “‘For every centimeter the sea level rises, one million more people will have to evacuate’”と題する論説を掲載し、ここでJonassenは気候変動と地球温暖化が北極圏の環境を変化させ、それが地球全体にも影響をもたらすとして要旨以下のように述べている。
(1) 欧州安全保障協力機構(以下、OSCEと言う)の議員本会議(Parliamentary Assembly:以下、PAと言う)は気候変動の影響に関する理解促進のためのウェビナー討論を主催した。そこでBjerknes Centre for Climate Research所長Tore Furevikは北極圏における急速な温暖化がもたらす変化について警告した。その警告は彼ら気候学者が長年の観察によって見出した北極圏の海氷の広さと厚さの変化に基づくものである。
(2) Furevikは2000年にも海氷の喪失に関する報告書を書いている。そこでは50年のうちに北極圏の氷が失われると予測されたが、現在の彼によればその予測は「あまりに保守的」であり、それが実現するのはもっと早くだろうということである。
(3) OSCE PAの北極問題特別代表であるノルウェー保守党のTorill Eidsheimはグローバルな協力の必要性を訴えた。北極圏に近いノルウェーの人々にとってさえ、この地域で起きていることは遠く離れたことのようであり、したがって「基本的な民主主義の権利や安全が脅威にさらされている国に住む人々にとってはなおのこと、遠く離れた問題であるに違いない」と彼は言う。
(4) ここ20年で2-3度ほどの気温上昇が起きており、多くの海氷が融けた。Furevikによればフランスとスペイン、イタリア、ポーランドの面積を合わせただけの海氷が失われ、またその厚みも失われている。それによって北極圏の気候の「大西洋化」が引き起こされている。それは北極圏の海氷の下の冷たい海水がより塩分を多く含む温かい大西洋の海氷に置き換わっている現象である。海水の塩分濃度の変化は環境全体に大きな影響をもたらすだろう。
(5) OSCE PAのメンバーであるデンマーク自由党所属のPeter Juel-Jensenは温室効果ガスの70%の排出削減を提案した。それには大きなコストがかかるであろうが、「行動するのに遅すぎることはない」と主張した。それはFurevikの主張とも一致する。「この動きを遅らせるために唯一できることがある。それは温室効果ガスの排出をできるだけ早く止めることである」。
記事参照:“For every centimeter the sea level rises, one million more people will have to evacuate”

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) The End of Strategic Ambiguity in the Taiwan Strait
https://thediplomat.com/2020/09/the-end-of-strategic-ambiguity-in-the-taiwan-strait/
The Diplomat, September 13, 2020
By Eric Chan, a China/Korea strategist for the U.S. Air Force’s Checkmate office
9月13日、中国・韓国問題に詳しいEric Chanはデジタル誌The Diplomatに" The End of Strategic Ambiguity in the Taiwan Strait "と題する論説を発表した。ここでChanは米国の台湾防衛政策は長年、1979年台湾関係法に規定された戦略的曖昧性の原則に基づいてきたとした上で、中国も同様の戦略的曖昧性、すなわち、台湾に対する武力行使を放棄することは拒否するが、経済的な協力の利益を強調するという政策を採用してきたと指摘し、戦略的曖昧性はそれぞれの国が自国の選択が長期的には自分たちの大義にかなうと考えている限り短期的な緊張を緩和する大きなインセンティブとなってきたと解説している。そしてChenは、しかしながらここ数年、長期的な優位性に対するこの信念は崩壊しており、これは戦略的攻撃性と運用上の非柔軟性を融合させる作用があるため、複数のレベルで危険であると述べ、根本的に、戦略的曖昧性はその役割を失っており、台湾をめぐる米中両国の戦略的なバランスを回復し、暴走のエスカレーションのリスクを軽減するためには、両国間で新たな理解を得る必要があると主張している。

(2) China’s Aircraft Carriers and Southeast Asia: Testing Coercive Naval Diplomacy?
http://cimsec.org/chinas-aircraft-carriers-and-southeast-asia-testing-coercive-naval-diplomacy/45587
Center for International Maritime Security, September 14, 2020
By Shang-su Wu, a research fellow at the S. Rajaratnam School of International Studies (RSIS), Nanyang Technological University in Singapore
9月14日、シンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studiesの研究員Shang-su Wuは米シンクタンクCenter for International Maritime Security(CIMSEC)のウェブサイトに“Geopolitical Competition and Economics in the Indian Ocean Region”と題する論説を寄稿した。ここでWuは、①中国海軍が 2 隻目の空母を就役させたことで、これらを強制外交に活用する可能性があるが東南アジア諸国が絶望的というわけではない、②フィリピンが導入している戦闘機は量・質ともに中国の艦載機J-15に劣り、また新しい2 隻のフリゲート艦も中国海軍の火力の標的となり得るが、唯一ブラモス超音速対艦巡航ミサイルが情勢を一変させることがあり得る、③地理的環境からブルネイ近隣での海軍力による強制外交の展開はマレーシアとインドネシアが歓迎しない、④マレーシアは中国の空母打撃群に対して劣勢であるが、海洋防衛に関してはスコルペン型潜水艦2隻やF-18D8 機、そしてSu-30MKK18 機を保有し、南シナ海に接する潜水艦基地は配備に有用である、⑤インドネシアに関しては航空戦力は中国のJ-15 を凌ぐが後方支援の問題があり、海洋防衛に関しては5 隻の209型潜水艦と多数の水上艦で構成されるが、軍事上の基幹施設が不足している、⑥ベトナムはロシアのシー・ディナイアル兵器システムを調達しているため中国が空母の配備に慎重になる可能性がある、⑦カンボジアについては中国による経済的圧力に比べれば、中国海軍が強制を行う可能性は低い、⑧タイの海岸線は中国の空母打撃群の活動には不向きであり、タイの多様な軍用機、艦艇、ロケット砲は有用である、⑨シンガポールの戦闘機部隊は中国の空母2隻の戦闘機を合わせたものよりも強力である、⑩ミャンマーの軍用機と地対空ミサイルはJ-15と勝負になる可能性があり、中国の空母打撃群がインド洋に進出すればインドも警戒する、⑪総じて中国の東南アジアへの空母を利用した外交はプロパガンダでいわれているほど圧倒的ではないかもしれない、といった主張を行っている。

(3) (The Other) Red Storm Rising: INDO-PACOM China Military Projection
https://fas.org/blogs/security/2020/09/pacom-china-military-projection/
The Federation of American Scientists (FAS), September 15, 2020
Hans M. Kristensen, the director of the Nuclear Information Project at the Federation of American Scientists
9月15日、米シンクタンクFederation of American Scientists(FAS)のHans M. Kristensenは同シンクタンクのウェブサイトに、" (The Other) Red Storm Rising: INDO-PACOM China Military Projection "と題する論説を発表した。ここでKristensenは米インド太平洋軍司令部が最近、同司令部がこの地域で直面している課題について説明する報告書を公表したことを取り上げ、同報告書は中国が「国際秩序と安定に対する最大の脅威」であるが、中国が大規模な軍事力増強を行っている一方で、それに対抗する米国の能力がほとんどないことを地図によって示しており、その地図で用いられた兵器アイコンと太平洋の大部分に広がる赤いかすみ模様は、冷戦時代の古典である 「Red Storm Rising」の新バージョンであると指摘している。さらにKristensenは同報告書で示されたインド太平洋地域における米中両国の軍事力の検討を詳細に行った結果として、同報告書は人民解放軍と米軍とを正確に対比、評価できていないと評した上で、その原因として、報告書に国防総省や地域司令部の「自組織の得になるような報告内容にしたい」という思惑が介入していることの可能性を挙げ、今後はそうした組織の利害意識の介入を避けるためにも国家情報長官の役割として中国の脅威予測などを行うべきだなどと主張している。