海洋安全保障情報旬報 2020年8月21日-8月31日

Contents

8月21日「ロシア、北極圏の基地を拡張-戦闘機、爆撃機を運用か:衛星画像―米専門誌報道」(The War Zone.com, August 21, 2020)

 8月21日付の米交通関連サイトThe Driveの軍事問題サイトThe War Zoneは、“Image Shows Russia Extending Runway At Arctic Base, Could Support Fighter Jets, Bombers?”と題する記事を掲載し、ロシアが行っている北極圏の空軍基地での滑走路延長は戦闘機や爆撃機がそこに今後半恒久的に配備される可能性を示しているとして要旨以下のように報じている。
(1) The War Zoneが入手した最近の衛星画像を分析したところ、ロ軍が北極地域の最北端の軍事前哨基地であるNagurskoye空軍基地の滑走路を大幅に延長していることが判明した。ロ政府が2020年4月に通年稼働すると発表したこの基地は、大規模な航空戦力の定期的な配備の支援やMiG-31などの戦術航空機の緊急用前方基地以上のものになりそうである。The War ZoneがPlanet Labsから入手した2020年8月13日の基地の画像分析によると、拡張工事が完了した飛行場は全長11,500フィートとなったことを示している。この拡張工事によりロ軍が保有するどのような航空機でも容易に支援することができる。拡張工事では滑走路自体の延長だけでなく、新しいランプと支援地区が付加されたように見える。空軍基地全体はArctkicheski Trilistnik、Arctic Trefoil、Arctic Shamrockなどと呼ばれるより大きな施設に隣接している。この拡張作業はロシアが2016年に計画を最初に発表したフランツ・ジョセフ諸島アレクサンドラ島に位置する戦略的飛行場の大幅な拡張以来のものである。ロシアは2018年に新しい空軍基地の滑走路とエプロンの舗装を開始し、2020年4月に北洋艦隊は完成した施設は年間を通じて通常の運用が可能であると発表した。2014年頃から、ロシアは新しい飛行場の建設や既存の基地の改修など、北極でのプレゼンスを着実に拡大する作業に着手した。現在ではロシアの極寒の地域には多くの軍事拠点がある。しかし、これらの拠点のかなりの数は1年を通した運用ができない氷に覆われた滑走路に過ぎず、ロ軍に限られた便宜しか提供していない。悪天候も北極圏の交通活動には依然として大きな危険である。実際、北極圏の基地の衛星画像を取得するだけでも非常に困難であり、雲の覆いは年間を通じて存在している。
(2) Nagurskoye空軍基地はますます堅牢となったので戦闘機が近い将来恒久的に配置される可能性が高まった。2016年までさかのぼると、ロ国防省はMiG-31迎撃機、Su-34戦闘機、Il-78空中給油機を収容するために当該基地に特別なヒーター付の格納庫を建設する計画を発表した。それ以来、MiG-31の部隊が北極圏の空軍基地に駐留する可能性があるとの報告が続いている。Il-76輸送機はすでに遠隔地の前哨基地に物資、機器、人員を搬入するために運用されている。これらの飛行場はArctic Trefoilの継続的改修を支援している。近年、より広大な施設の建設によってArctic Trefoilにおいて近傍の空域と海域の活動をより良く監視するためのレーダーサイトの建設が可能となった。ロシアはまた、現場で防空態勢を確立する可能性を示している。はるかに長くなった滑走路のみならず、他にも改善された施設により、Nagurskoye空軍基地はTu-95及びTu-160爆撃機、Tu-142及びIl-38哨戒機のような大型航空機のための前方展開基地として機能する可能性がある。これらの航空機はすでにロシア本土の基地から北極圏への定期的な飛行を行っており、氷で覆われた海域を使用して探知を回避しようとしてきた外国潜水艦に対して何回も探知を試みてきた。
(3) 地球規模の気候変動の産物によって極地の氷が後退し、ロ軍、ロ商船、他国の軍隊がこの海域で定期的に活動することが可能となった。それには以前は通行不能であった期間中に北極海を通る商業輸送活動増加も含まれている。また、石油から魚に至るまで、この地域のさまざまな天然資源が新たに採取される可能性もある。これらすべてのことが北極圏での競争と紛争の可能性を高めている。迎撃機と戦闘機の基地としてのNagurskoye空軍基地を使用しているだけでも、ロシアは地域全体に恒久的に駐留する唯一の戦術的な航空戦力を持っていることを意味する。迎撃機と攻撃戦闘機の組み合わせと空中早期警戒機と海上哨戒機の組み合わせは、ロシアの最北の基地から周辺の広い海空域を管制する能力を与えるだろう。これは将来、地球上で最も激しく争われるかもしれない地域におけるA2/AD能力についての優位性をロシアに与えるだろう。しかし、それは競争相手国にとっては信じられないほど不愉快なことになり、重要な運用上の問題を提示するだろう。Nagurskoye空軍基地で新たに延長された滑走路、改修された基地そのもの、そして近傍のArctic Trefoilは軍事的プレゼンスに裏付けられた北極圏に対するロシアの並々ならぬ関心を反映したものである。
記事参照:Image Shows Russia Extending Runway At Arctic Base, Could Support Fighter Jets, Bombers

8月21日「印越関係強化を目指すべき時期の到来―越国際関係講師論説」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, August 21, 2020)

 8月21日付のCSISのウェブサイトAsia Maritime Transparency Initiative はVietnam National University国際関係講師Huynh Tam Sangの“Time to Forge India-Vietnam Defense Ties”と題する論説を掲載し、ここでSangは中国が南シナ海において攻勢を強める今、インドとベトナムの防衛関係強化を目指して動くべきして要旨以下のように述べている。
(1) 中国による南シナ海への侵犯は、コロナ危機の間も継続している。7月には中国は海軍演習を実施し、この係争海域に関する姿勢を変更するつもりがないことを示唆している。米国は最近南シナ海に関する中国の姿勢に強く反発しており、7月25日Mike Pompeo国務長官は中国の「恥ずべき」行為に対抗するグローバルな連合を呼びかけた。
(2) 南シナ海問題にインドは無関係ではいられない。同海域における中国の主張はインドの自由な航行や東南アジアにおける経済的プレゼンスの確立にとって脅威になりうる。最近になって印政府は南シナ海における自由な航行活動の実施に関心を有していると表明するなど、中国の野心に刺激される形で同海域への関心を強めてきた。
(3) インドはこれまで南シナ海問題について中立を保ってきたが、中国の積極的膨張主義に対して向き合う覚悟を持つべきであろう。実際に国内からも対中国政策の見直しを求める声があがっている。その際に考慮すべきは、ベトナムとの関係の強化であろう。両国は南シナ海において安全保障上の懸念を共有しており、両国の関係強化は中国の覇権の模索に対する論理的帰結であろう。歴史的にも印越関係は植民地時代、ベトナムの反植民地闘争にインドが支援をしていたときから良好なものであったと言えよう。
(4) しかし印越間の防衛関係強化に向けた問題の決定的な打開策はまだないと言ってよい。たとえば2014年から議論されているにもかかわらず、インドはベトナムへのブラーモス巡航ミサイルの売却にまだ同意していない。同様に2016年から交渉が進められているアカシュ地対空ミサイルのベトナムからの購入についても話がまとまっていない。中国は印越の防衛関係強化について神経を尖らせており、政府系メディアは中国がその動きを傍観するわけにはいかないと主張している。こうした強硬な姿勢をとる中国を刺激することを恐れ、印越防衛関係強化はなかなか進展してこなかった。
(5) しかし、中国の動きに対してベトナムは最近米国との距離を縮めつつある。米国もまたベトナムの戦略的重要性を高く評価し、「2019年インド太平洋戦略」ではベトナムを「ASEANのキープレーヤー」と位置づけた。ベトナムはかねてより米中の間でバランスを取ってきたが、こうしたベトナムの態度の変化は、インドとの関係性の変化にもつながる可能性がある重要なものだ。
(6) こうした状況を背景に、印越関係の防衛強化の機は熟しており、インドは南シナ海問題について旗幟を鮮明にし、ベトナムをよりはっきりと支持すべきである。そして上述したミサイル等の取引を完了させるべきであろう。さらには共同海上作戦の遂行なども重要な選択肢である。さらにはアジア太平洋の他国との多国間協調をさらに進展させれば、係争海域における中国の行動を抑止できる可能性が高まる。米印日間の協調のように、印越米ないしは印越日といった協力関係の構築は真剣に考慮するに値するものである。
記事参照:Time to Forge India-Vietnam Defense Ties

8月21日「米爆撃機の配備と中国に対する抑止力―豪専門家論説」(The Strategist, August 21, 2020)

 8月21日付の豪シンクタンクAustralian Strategic Policy InstituteのウェブサイトThe StrategistはThe Australian National University上級講師Andrew Banfieldの“Will US bombers on Diego Garcia deter Chinese aggression?”と題する論説を掲載し、ここでBanfieldは米国が最近ディエゴ・ガルシア島に爆撃機を配備したことと、そのエアパワーによる抑止力について要旨以下のように述べている。
(1) 8月中旬、米国防総省は3機のステルス爆撃機B-2がミズーリ州のホワイトマン空軍基地からディエゴ・ガルシアに配備されたことを正式に発表した。B-2が米国のインド洋の島の基地に派遣されたのは、2016年以降で初めてのことだと思われる。そしてそれは6機のB-52爆撃機がこの諸島に派遣されてからわずか半年後のことであり、それらはそのままである。
(2) 一見したところ、B-2やB-52の到着は、軍事資産の標準的な配備と考えられるかもしれない。しかし、中国海軍が台湾の北方545kmの舟山諸島付近で8月16日から始まる実弾射撃訓練を計画していることも報じられた。憂慮すべきことに、この演習は東沙諸島を奪取するためのシミュレーションであると一部には考えられている。これらの島々は台湾の支配下にあり、香港の南東310km、南シナ海と太平洋の間に位置する。中国海軍の艦船は太平洋に到達する前にこれらの島々を通過しなければならない。
(3) ディエゴ・ガルシアにB-2とB-52を配備することは東シナ海での実弾演習とどのような関係があるのだろうか?イタリアのエアパワー(抄訳者注:ここでは国家の航空に関する能力)の理論家Giulio Douhetが有益な参考になる。Douhetは、彼の代表作『制空』(原題:The Command of the Air)の中で、特に戦略爆撃機の形を取った圧倒的なエアパワーがあれば、地上軍を必要とせずに戦争に勝つことが可能であると論じている。爆撃の脅威を含む、爆撃の影響は敵の戦意を挫くのに十分であるかもしれない。
(4) 3機のB-2と6機のB-52が圧倒的戦力の誇示であることに異論を唱える者はいないだろうが、それは単に注目を集めるだけのものである。しかし、第509爆撃航空団からの長距離爆撃機の到着は北京の注目を集めたことは間違いない。
(5) もう1つの進行中の重要な要素がある。それは、米海軍第7艦隊の位置である。US Naval Instituteによると「ロナルド・レーガン」空母打撃群が8月14日に南シナ海に入った。実際、この空母打撃群の動きは意図的な部隊防護と解釈することができる。別の言い方をすれば、その国家防衛戦略からの反響を受けて、米海軍の到着は米国がこの地域の資産と同盟国を守ること、そして、この武力の誇示が北京から引き出す結果を恐れていないことを示しているのである。
(6) ディエゴ・ガルシアへの長距離爆撃機の到着は、これらの出来事にどのように当てはまるのだろうか?その答えは米軍基地があるもう1つの小さな島、グアムにある。中国と軍事紛争が起きた場合、グアムは中国軍の巡航ミサイルと弾道ミサイルの両方が届く距離にある。これは西太平洋のこの中心的な米航空基地を危険にさらす。ディエゴ・ガルシアに長距離爆撃機を、南シナ海に空母打撃群を配備することは、中国政府はグアムへの攻撃を考えるべきではないという米国からの明確なメッセージを送っている。
(7) ディエゴ・ガルシアへのB-2の配備は、大戦略の実行である。それに合わせて、台湾のF-16がハープーン対艦ミサイルの実弾を装備していることも発表された。
(8) おそらくDouhetは正しかった。米国と同盟国のエアパワーのプレゼンスは、この地域で戦争を回避するのに十分かもしれない。
記事参照:Will US bombers on Diego Garcia deter Chinese aggression?

8月22日「インド、中国を視野にモルディブとの関係強化―印専門家論説」(South Asia Analysis Group, August 22, 2020)

 8月22日付の印シンクタンクSouth Asia Analysis Groupのウェブサイトは印Jawaharlal Nehru University准教授Vandana Mishraの “Maldives: Countering Chinese Challenges in Indian Ocean”と題する論説を掲載し、ここでMishraはインドが進める中国を視野に入れたモルディブとの関係強化について要旨以下のように述べている。
(1) インドは8月13日、モルディブで橋と幹線道路建設するための5億ドルの「信用供与限度額」(LoC)を発表した。メディアは、これをインド洋において増大する中国の影響力に対するインドの対抗措置と見なした。太平洋からインド洋にかけての海洋領域における中国のかつてない増大する野心と活動に象徴される、インド洋の変化する戦略的安全保障の構造を考えれば、こうした見方もある程度肯けるものであるかもしれない。インドもまたこの地域の海洋領域における影響力の拡大を熱望している。それ故に、印中双方の利害の葛藤は避けられない。この地域における中国の増大する影響圏は、インドにとって深刻な戦略的脅威となる。したがってインドは事態を評価し、それに従ってモルディブとの2国間関係を強化する必要がある。
(2) モルディブは人口34万人、1,192の島嶼群からなるインド洋の島国で、主要な東西通商航路上に位置し観光客に人気のある島である。中国はモルディブを中国の「一帯一路構想」(BRI)の一環として、インド洋を横断する貿易輸送リンクの構築を目指す「海洋シルクロード」(MSR)における重要な連結点と見なしている。中国は、アジア全域、特に南アジアでの影響圏の拡大を目指して域内諸国に返済不能な負債を供与してきた。中国はインド洋のスリランカとモルディブに対し、次第に大規模な経済的関与を強めてきた。モルディブはYameen前政権下で中国から巨額のドル建て負債を受け入れ、中国企業が同国にインフラ建設計画に参画した。インドにとっても同地域に対するインドの利害を考えれば、中国のこの地域への排他的な介入を野放しにしておくよりも、むしろこれら諸国に対して経済的に関与し続けていく方が得策であった。したがって、前出の8月13日の5億ドルの「信用供与限度額」(LoC)の発表はより広い視野で見なければならない。
(3) この発表でモルディブにSolih政権が発足した2018年以降、インドが同国に約束した借款供与額は20億ドルを超える。インドはまたコロナ対策や観光業支援などで2億5,000万ドルの供与も約束したと報じられた。モルディブに対する借款供与は大型プロジェクトと小規模の贈与プロジェクトに分けられる。小規模の贈与プロジェクトが共同体に対する直接的な恩恵をもたらすものであるのに対して、LoCによるプロジェクトは、モルディブにおける長期的なインフラ開発を目的としている。インド支援の各種プロジェクトの中で注目すべきはSolih大統領が個人的に支援を求めたプロジェクである。このプロジェクトは全長6.7キロの橋と連結する幹線道路の建設によって首都マレと隣接する3つの島―Villingili、Gulhifahu(インドのLoCで港湾建設中)、Thilafushi(工業団地新設)を連結する、モルディブ最大の民間インフラ開発計画である。このプロジェクトは2018年に発表された8億ドルのLoCに加えて、今回のLoCの4億ドルの資金で実施されることになろう。この橋が完工すれば、前政権時代に2億ドルの中国の借款で建設された、「中国モルディブ友好橋」より全長で3倍長くなると言われる。このプロジェクトはまた、前記の4つの島の連結性、モルディブ国内の経済活動、モルディブ人のための雇用機会、そして地域全体の開発を促進することも狙いとしている。
(4) インドは、インド洋地域における主たる利害関係国である。それ故、インドはインド洋沿岸諸国における外交的影響力の回復に努めてきた。海洋におけるインドの野心と、インド洋を経由する海上交通路から見て、モルディブは大きな戦略的重要性を有する。海洋と海底における資源の共有は、インドが海洋隣国の強力な支援を必要とするもう1つの分野であり、これら隣国は自国に中国の拠点を認めないことによってインドを支援することができる。したがって、インドは、中国の影響下にあるインド洋において事を進めるという困難な課題に直面している。そのためにインドにとっては、大いなる先見性を持ち多次元の枠組みによる沿岸諸国への建設的関与を継続していく以外には如何なる選択肢もない。こうした方針はインドの安全保障と戦略的利益を確実に強化することになろう。
(5) 前出のインドの8月13日の発表は、モルディブが「インド優先政策」(“India-first Policy”)で応えてきた、インドの「隣国優先」(“Neighbourhood First”)政策の文脈で理解されるべきである。インド・モルディブ両国関係はSolih政権下で強化され、コロナ禍においても両国関係は継続され、インドは常にモルディブを支援してきた。重要な同盟国として、そしてその戦略的重要性のためにモルディブは引き続きインド外交政策の優先課題の1つである。この地域の地政学実態は、域内における印中両国の抗争の被害者と言える。モルディブは中国の「債務の罠」外交とBRIの略奪的性質に注意する必要がある。一方、インドはモルディブが現在直面している構造的、経済的諸問題に配慮する必要がある。最も重要なことは、近隣諸国における信頼回復に当たっては誓約に忠実でなければならないということである。具体化された共同プロジェクトは適切な実行が保証されなければならない。このことは確実に近隣諸国に対するインドの強力なイメージを構築することになろう。
記事参照:Maldives: Countering Chinese Challenges in Indian Ocean

8月22日「大きな野望に向け動きを再開した中国海軍には依然、大きな溝が存在-香港紙報道」(South China Morning Post, 22 Aug, 2020)

 8月22日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“China’s navy goes back to work on big ambitions but long-term gaps remain”と題する記事を掲載し、人民解放軍海軍は勢力拡張の努力を継続しており、隻数的には米海軍を凌駕する勢いであるが、その裏で要員養成に大きな問題を抱えたままであるとして要旨以下のように報じている。
(1) 次の10年のうちに少なくとも4個空母戦闘群の保有を推し進める努力を含め、中国の海上部隊の近代化と拡張の努力はCovid-19の世界的感染拡大の混乱の後に再度加速され始めた。ある海軍筋は米国によって建艦計画を加速するよう中国が仕向けられたことで緊張が拡大していると言う。しかし、軍情報筋および部内者はコロナウイルスの混乱がなくとも中国はその野望を実現するために必要な人員の訓練に長い道のりが必要だと述べている。
(2) 海軍の積極的な推進の兆候は上海造船所の衛星写真がメディアに登場した2019年暮れに明らかになった。写真は12隻の艦船が同時に造船所で建造中であることを示していた。中国で3隻目となる空母、9隻の先進的な駆逐艦、水陸両用戦艦、ミサイル追尾船である。海軍筋は匿名を条件に、2015年以来、中国海軍は中国の余剰特殊鋼を大量に買い付けていると述べた。この特殊鋼は商船、艦艇の建造に使用されるものである。世界の海運業界の後退によって新造契約が減少し、商品価格が下落していた。軍部内者はまた、北京の指導部は艦艇建造に資源を投入することで商船建造の不振による経済的影響を相殺することを望んでいる。米Congressional Research Serviceの報告書は、中国海軍は過去15年間に大きく増強されたが、増強は継続されると考えられ、2030年までに戦闘艦艇の総数は水上艦艇、潜水艦計400隻に達すると考えられるとしている。『漢和防務評論』編集長Andrei Changは、中国の造船工業会は米国のそれよりはるかに巨大であるが、製造工程が急がれており人民解放軍は品質管理を厳しく監督する必要があると述べている。Andrei Changは、民解放軍にとって最も大きな問題は多くの複雑な水上艦艇を運用するための乗組員の訓練と効率的な指揮システムの開発であるとして、「空母を建造するのはほんの数年を要するだけであるが、そこで勤務する数千名の水兵を訓練し、統合するためには10年以上が必要である」と言う。
(3) 海軍司令員(当時)劉華清が北京に空母の計画を提案した1980年代後半に中国は空母乗組員の訓練を開始した。しかし、2012年に最初の空母「遼寧」が就役するまでその進歩はゆっくりとしたものであった。経験が不足していたからである。北京を拠点する海軍専門家李杰は、「山東」の乗組員は「遼寧」に乗り組み予定の人員を訓練したと言い、「空母をいかに運用し、他の艦艇といかに連携するかは中国軍にとって初めてのことであり、それらを習得するために『遼寧』では同じ配置に3、4名の乗組員が勤務していた」と言う。今ひとつの問題はパイロットの訓練である。人民解放軍は、若手パイロットに「遼寧」「山東」のスキー・ジャンプ方式で発艦するのに十分な技量を習得させる訓練で苦心している。300mに満たない飛行甲板からの離着艦を学ぶには時間がかかる。中国海軍は空軍からパイロットを転換させるより2017年から独自に教育し始めている。さらにType002空母は世界で最も進んだ電磁カタパルトを装備する予定でさらなる訓練が必要になる。この訓練は単に航空機の操縦という視点から重要なだけでなく、指揮統率という視点からも重要である。多くの空母艦長は元パイロットである。
(4) 北京の軍事科学シンクタンク遠望智庫の研究員周晨明は、中国は空母を運用するのに依然、多くのことを学ばなければならないとし、「中国海軍は人員わずか300,000名であり、その中には新に編制された陸戦隊へ陸軍から転換してきた数千名も含まれており、これらの兵員は真の陸戦隊隊員、あるいは水兵になるために学ぶ必要がある。海軍が多くの艦艇の舵をいかに取り、数年の内にそれら艦艇を円滑にいかに運用するかを学ぶにはまだ長い道のりがある」と述べている。北京の軍事筋は、Covid-19による大規模の都市封鎖と移動の制限で人民解放軍の募集業務と乗組員訓練に影響が出ていると言う。軍事筋によれば、さらなる感染を防止するため、新任務に出港する前に全ての乗組員は2週間隔離され、1週間、艦内で観察下に置かれると考えられており、哨戒行動や演習から帰投した者もさらに2週間隔離される。「これが米軍と異なり、人民解放軍の艦隊でさらなる感染者が発生しない理由である。しかし、これら全ての方策はわずかな乗組員しか配属することができないことを意味し、指揮官達は補強要員として熟練者を呼び戻すことになる」とその筋は言う。
記事参照:China’s navy goes back to work on big ambitions but long-term gaps remain

8月22日「中国潜水艦、その腕前を放映―香港紙報道」(South China Morning Post, 22 Aug, 2020)

 8月22日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“US-China relations: Chinese submarines put through their paces in promotional video”と題する記事を掲載し、国営中央電視台がType093B攻撃型原子力潜水艦の対艦攻撃の訓練の様子などを放映し、中国潜水艦部隊が米艦艇に対し脅威を与えうるとのメッセージを送ったとして要旨以下のように報じている。
(1) 中国国営中央電視台は8月20日、Type093攻撃型原子力潜水艦の改良型Type093Bの映像を含め、敵艦船との想定上の交戦、魚雷の仮想発射の8分間の映像を放映した。これは米ミサイル駆逐艦「マスティン」が台湾海峡を航過した2日後であり、インド太平洋地域で増大する米海軍の活動への対応と国防分析者は述べている。マカオを拠点とする軍事問題評者Antony Wong Tongは、ビデオ放映のタイミングは明らかにワシントンに対してメッセージを送る意図からであるとし、「Type093BはYJ-18退艦巡航ミサイルを搭載しており、米艦艇に脅威を及ぼすのに十分に強力である」という。Type093Bの能力は何年も一般に知られているが、その行動の全て、乗組員の全容が明らかにされるのはこのビデオが初めてである。
(2) 台湾の海軍軍官学校元教官呂禮詩は、Type093は敵艦船の捕捉、追尾と被探知からの回避を支援する先進技術を搭載していると言う。元米海軍大佐Jerry Hendrixは、「Type093BをType093と混同してはならない。Type093Bは、Type093からType095へ移行する過渡期の潜水艦であり、中国は近代的な攻撃型原潜をいかに建造するかについて急速に学びつつある」と述べている。
(3) 中央電視台の放送にはType094弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の映像も含まれている。
「米国がインド太平洋にB-1およびB-2戦略爆撃機を展開し、過去何ヶ月間の間、東シナ海、南シナ海を飛行させたため、人民解放軍は『核の悪夢』によって抑止されることはないことを示しつつある」と呂禮詩は言う。
記事参照:US-China relations: Chinese submarines put through their paces in promotional video

8月25日「国際海洋法裁判所裁判官選挙における中国代表の当選が意味するもの―米オンライニュースサイト報道」(Benar News, August 25, 2020)

 8月25日付の米オンライン5カ国語ニュースサイトBenarNewsは、“China Wins Seat at International Tribunal for Law on the Sea”と題する記事を掲載し、国際海洋法裁判所裁判官選挙において中国代表が当選したことに触れつつ、その意義について要旨以下のように報じている。
(1) 8月24日、国際海洋法裁判所(以下、ITLOSと言う)の裁判官選挙において中国が推薦する段潔竜駐ハンガリー中国大使が当選した。国連海洋法条約の締約国のうち149が賛成票を投じ、残りの17ヵ国は投票を棄権した。
(2)米国は同条約の締約国ではないが、段候補の当選に強く反発し、彼に投票しないよう訴えてきた。米国は中国が国際機関において影響力を拡大し、それをコントロールするようになることを懸念している。たとえば、Pompeo国務長官が先月末の上院外交委員会で述べたように、The World Intellectual Property Organization事務局長選挙で中国系の当選を阻止し、シンガポール人候補を当選させるなどの働きかけを行っていた。しかしITLOS裁判官選挙に関して米国はそれに失敗した。
(3) Ho Chi Minh City University of Law教授Hoang Vietによれば、中国が国際機関に代表者を送り込み続けることの意味は大きいという。別の法学教授が指摘するように、何らかの裁判において中国の利害を反映させることができる可能性があるからだ。ITLOSの場合、特定の領域の問題については21人全員が取り組むのではなく、たとえば大陸棚関連の問題では11人の裁判官がひとつのチームとして問題に関わるのだという。
(4) とはいえ、ITLOSにおける裁判官選出の意義を過大評価するわけにもいかない。ITLOSには21名の裁判官がおり、彼らは世界の各地域から選出される。アジアからは5名で中国は1996年の発足以来常に1名以上の代表を送り込んでいる。あくまで21人のうちの1人でしかない。アフリカ代表が5人、東欧が3人、ラテン米国およびカリブ海地域4人、西欧が3人、残りの1名はアフリカ・アジア・西欧のいずれか、という構成になっている。またITLOSの活動はあまり活発ではない。年次報告書によれば2019年にITLOSが扱った審理は4件で、判決を下したのはそのうちの1件だけである。
(5) また海洋法に関する近年で最も重要な裁判はITLOSではなくハーグの国際仲裁裁判所において実施されたものであった。それはフィリピンが南シナ海における中国の主権に関する主張の法的根拠に意義を唱えたものであり、2016年にフィリピンの訴えが認められた。中国はその判決の妥当性を認めていない。
(6) そうした中国の姿勢は米国やASEAN諸国だけでなくさまざまな国から非難を受け続けている。8月末には世界各国の80もの民間団体が連名で声明を発し、中国の主張を批判し、英国や日本、印政府などに中国の主張を断固として拒絶するよう求めた。
(7) こうした状況を考慮すれば、確かにITLOSにおける一人の裁判官が行使しうる権限は小さいのかもしれないが、より長期的な観点で見て、その席の維持がさまざまな国際機構における指導的立場をコントロールしようという中国の戦略の一部だというある専門家の指摘は重要であろう。
記事参照:China Wins Seat at International Tribunal for Law on the Sea

8月25日「中国Type075強襲揚陸艦1番艦、海上公試終了。搭載航空機は開発中-香港紙報道」(South China Morning Post, 25 Aug, 2020)

 8月25日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“China’s Type 075 amphibious assault ship completes trial, but needs aircraft”と題する記事を掲載し、中国のType075強襲艦1番艦は海上公試を終了したが搭載予定のヘリコプターが依然開発中であるとして要旨以下のように報じている。
(1) 中国のType075強襲艦1番艦は8月22日に最初の公試を終了し、2021年には
中国海軍陸戦隊と合流すると考えられている。しかし、軍部内者は強襲艦は搭載する航空機の就役を待っていると言う。搭載航空機は空軍が運用する武装ヘリコプターはZ-8またはZ-20を海軍用に改装したZ-8JあるいはZ-20Jである。Type075 1番艦は、8月5日に上海の造船所を出港、18日間の海上公試を終了して8月22日に帰投した。北京を拠点とする海軍専門家李杰は、同艦は2021年前半には人民解放軍海軍陸戦隊に引き渡されると考えていると述べている。
(a)李杰は「同強艦の推進装置、最大および最低速力、航続距離、運動性能、レーダー及び通信装置は全て最初の公試で試験が行われた」とした上で、ヘリコプターの発注は徐々に行われていると付け加えている。オンラインで流れている航空機の写真にもかかわらず、軍部部内者は海軍用Z-20Jの改装工事は終了していないと言う。「Type075は2021年末までに準備できるかもしれない。しかし、搭載するZ-20Jは依然開発中である。海軍用航空機に対する要求は非常に厳しく、開発者は『3つの高』と戦っている」と部内者は述べている。「3つの高」とは高温、高湿度、高塩分濃度である。Z-20Jは捜索救難用に計画されている。元になっているZ-20は米国のブラックホークに似ているが、The Australian Naval Technologyのウェブサイトによればブラックホークよりも吊下重量は大きく、機内容積は広く、航続時間は長いとされている。
(3) 「陸戦隊は数回にわたり増強されてきており、より多くの強襲揚陸艦を必要としている。Type075の第1回の海上公試が飛行甲板の未塗装のまま実施された理由である。海軍艦艇の公試では前例がない」と部内者は述べている。Type075は特に台湾奪取のために起こりうる戦争に対応するよう設計されているが東シナ海、南シナ海の沖合海域防衛にも使用されるかもしれないとして、「Type075は30機以上のヘリコプター、数百名の陸戦隊員を収容する大きな容量から中国の空母戦闘群と協同することも可能であるし、単独で作戦することもできる」と李杰は言う。
(4) 現在まで、中国はType075強襲艦を3隻建造している。1番艦は2019年9月、2番艦は2020年4月に進水しており3番艦は建造中である。中国海軍は近年、2万5,000トンのType071ドック型揚陸艦を含む何隻かの水陸両用戦艦を建造してきている。
記事参照:China’s Type 075 amphibious assault ship completes trial, but needs aircraft

8月28日「強固な中ロ関係に横たわる南シナ海エネルギー問題―ロ国際関係専門家論説」(South China Morning Post, August 28, 2020)

 8月28日付の香港英字紙South China Morning Post電子版は、Russian International Affairs Council の研究者Danil Bchkovの“Energy deals in South China Sea are off limits if Russia wants strong China ties”と題する論説を掲載し、ここでBochkovは近年の中ロ関係の強固さについて指摘しつつ南シナ海における石油・ガス開発問題がその関係を変容させる可能性があるとして要旨以下のとおり述べている。
(1) ロシアと中国の戦略的関係は近年きわめて強固なものとなっている。中ロは気候変動やグローバル・ガバナンスや国際経済など、グローバルな課題のほとんどに関して協力的な合意を結んでおり、この二国間関係はある専門家に「擬似同盟」と呼ばれるほどである。とりわけ中国によるミサイル防衛システム構築にロシアが協力している点はきわめて重要である。
(2)もちろん、この中ロの間に対立点がないわけではない。たとえばロシアの極東ウラジオストクの歴史的な帰属をめぐる解釈や中国がロシアから購入したミサイルの運搬が遅れていることなど、いくつかの問題がある。特に国境での軍事衝突をめぐって中印関係がきわめて悪化している中で、ロシアがミサイル搬入を遅らせているのではないかと観測されている。しかしながら、こうした個々の対立が中ロの根本的な協力関係を崩壊させることはほとんどありえない。中ロ両国の米国に対抗する勢力形成の決意は非常に固いものである。
(3) しかし、この関係を変えるかもしれない争点がある。それは、南シナ海における石油・ガス開発問題である。2018年、ロシア国営のエネルギー会社Rosneftが南シナ海海域でベトナムとの共同石油掘削事業を開始し、中国政府を動揺させた。中国はその動きに強く反発しベトナムとロシアにそれを停止するよう圧力をかけた。しかし計画は止まらず、ロシアに対する計画停止の要求は昨年から今年にかけて続いたが、ロシアはそれに応じなかったようである。
(4) 南シナ海は、その大部分を中国が主権を主張している海域であり、東南アジア諸国との間で主権をめぐる論争が長年続いている。中ロの間では南シナ海やロシアのクリミア問題などで互いに明確な立場をとらないという紳士協定のようなものが存在している。しかし、南シナ海について米国や国際社会からの反発が強まる中、中国はロシアなど外部の支援をより求めるようになってきている。しかし、ロシアが明確に中国の立場を支持するように動くことは考えにくい。南シナ海をめぐる石油・ガス開発におけるロシアの動きがそれを示唆しているように思われる。
(5) 中国の外交はますます強硬になっており、「戦狼外交」とまで呼ばれる。南シナ海問題は香港や新疆と並んで中国にとって「レッド・ライン」、つまり越えてはならない線であり、同海域における中国の利益を脅かしかねない行動に対して、明確に特定の国を批判する形ではないがロシアに対してであってもかなり強く反発姿勢を見せている。
(6) ロシアとしても、今のところ中国のレッド・ラインを超えるつもりはなく、むしろ今後、中国の圧力に屈して南シナ海問題で折れる可能性もある。そうであれば、中ロの戦略的関係に大きな変化はないだろう。しかし今後、中国のレッド・ラインが拡大すれば、ロシアは全力で自国の戦略的利益を守るであろう。現時点では南シナ海をめぐる問題が中ロ関係を崩壊させる可能性は低いが、しかしそれは中ロ関係を変容させる潜在性を持つ争点なのである。
記事参照:Energy deals in South China Sea are off limits if Russia wants strong China ties

8月29日「レーザー兵器をめぐる米中の争い―香港紙報道」(South China Morning Post, 29 Aug, 2020)

8月29日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は、“Playing laser tag: US dominance and Chinese ambition point to new arms race”と題する記事を掲載し、米国は指向性エネルギー兵器の開発でトップにいるが中国もその開発に力を入れており、これをめぐって米中の争いが熾烈になっているとして要旨以下のように報じている。
(1) 世界の軍事大国による高エネルギーレーザーの海軍への応用数は増えている。その中に中国も含まれており優位性をめぐって米国と競争し始めている。レーザーを使用した指向性エネルギー兵器は一発あたりのコストが安く、ほぼ無制限の弾倉を提供することが可能であるため、ミサイルの一斉射撃や無人システムの群れ(swarm)に対し効率的かつ効果的な防御手段をもたらす。
(2) 8月上旬の米議会調査局の報告書によると米国は1960年代から指向性エネルギーの研究を行っており、レーザー兵器の開発では間違いなくトップに立っている。米太平洋艦隊によると、5月には米海軍の揚陸艦「ポートランド」が太平洋の航空、海、陸の脅威を打ち破ることができるレーザー兵器をテストした。Military.comによると米海軍は2月下旬に発表する前の11月に、アーレイ・バーク級駆逐艦「デューイ」にレーザー兵器を搭載した。Optical Dazzling Interdictor, NavyまたはODINと呼ばれるこのシステムは、2014年に米海軍揚陸艦「ポンス」に取り付けられた米国初の運用可能な指向性エネルギー兵器、30キロワットのレーザーを搭載したレーザー兵器システム(LaWS)の技術的な後継機である。The Driveが7月上旬に報じたところによると、米海軍は今後3年以内に8隻の軍艦にODINを装備できるようするつもりである。
(3) 中国はまた、海軍艦艇と軍用機の両方のためのレーザー兵器を開発している。7 月下旬、国営メディアは中国が軍艦にレーザーやレールガンのような高エネルギー兵器に電力を供給するための先進的な発電機を装備していると報じた。艦艇の正確な種類は明らかにされなかったが、Type055ミサイル駆逐艦など同国の最新鋭駆逐艦に搭載されているとの見方が広がっていた。中国軍が1月に公表した調達公告では新たなレーザー兵器を機体に取り付ける能力を開発している可能性が示されていた。そのような装置の詳細な要件は不明だが、すでに広く使われているミサイル用のレーザー誘導装置ではなく、新しいタイプの戦術的な攻撃兵器になる可能性が高い。
(4) 米中によるレーザー兵器の開発は、すでに対立を招いている。2月には米海軍が中国の艦艇が米偵察機の1機にレーザー兵器を発射したと非難している。2018年には軍当局者が、ジブチの中国空軍基地が「軍用レーザー光線」で米軍機を標的にしている可能性があるとパイロットに注意を呼びかけ、これも外交上の反発を招いた。
(5) このような兵器の使用に対する規制は以前から行われていた。1995年、将来起こり得る紛争を取り除くために、国連は「盲目化レーザー兵器議定書」を発行、1998年7月に施行された。2018年4月の時点で同議定書は108カ国によって承認されている。同議定書では、その単一の戦闘機能として、またはその戦闘機能の1つとして永久的な失明を引き起こすように特別に設計されたレーザー兵器の使用を禁止している。
記事参照:Playing laser tag: US dominance and Chinese ambition point to new arms race

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Defining DoD’s Role in Gray Zone Competition
https://www.cnas.org/publications/commentary/defining-dods-role-in-gray-zone-competition
Center for a New American Security, August 24, 2020
Jim Mitre, the Chief Strategy Officer at Govini and served as Executive Director for the 2018 National Defense Strategy.
Andre Gellerman, a student focusing on U.S.-Russia relations in the Master of Arts in Law and Diplomacy program at Tufts University’s Fletcher School.
8月24日、米国防総省などをクライアントに持つ米コンサルティング企業GoviniのChief Strategy OfficerであるJim Mitreと米Tufts University’s Fletcher Schoolで米露関係を研究しているAndre Gellermanは、米シンクタンクCenter for a New American Securityのウェブサイトに" Defining DoD’s Role in Gray Zone Competition "と題する論説を発表した。ここで両名は、国防総省の大国間競争における主要な役割は戦争を抑止することであり日々の競争に従事することではないし、米国はグレーゾーン紛争に負けるよりも大国戦争に負ける方が深刻であるとし、国防総省はいつグレーゾーン活動に従事すべきかについて一定の基準を持ち、その基準がいつ満たされるのかについてホワイトハウスと国務省からヒントを得るべきであると述べ、そうしないことのリスクは外交政策の軍事化、競争激化の可能性の増大などにあると指摘している。さらに両名は中ロが現実問題としてグレーゾーン戦略を駆使して自国の利益を推進し、米国の利益を損なっており、国防総省のリーダーたちが彼らに対抗するために積極的な役割を果たそうとしていることは理解できるとした上で、今後、国防総省の役割は明確に定義されるべきであり、それは大規模な権力闘争において軍隊が何をすべきであり、何をすべきでないかを明確にすることであると主張している。

(2) Marines and Mercenaries: Beware the Irregular Threat in the Littoral
http://cimsec.org/marines-and-mercenaries-beware-the-irregular-threat-in-the-littoral/45409
Center for International Maritime Security, AUGUST 27, 2020
By Walker D. Mills, a Marine Corps infantry officer currently serving as an exchange instructor at the Colombian naval academy in Cartagena
8月24日、コロンビア・カルタヘナに所在するColombian naval academy交換教官である米海兵隊将校のWalker D. Millsは米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウェブサイトに" Marines and Mercenaries: Beware the Irregular Threat in the Littoral"と題する論説を発表した。ここでMillsは世界はますます都市化と沿海域化が進んでいるがこのような変化は沿海域を不安定と紛争のホットスポットへと変容させる可能性があると指摘した上で、米海兵隊の「Littoral Operations in Contested Environment(「競争下環境における沿海域作戦」)と呼ばれる沿海域での活動に焦点を当てた新たな作戦概念は確かに沿海域への転換であるが、必ずしもそれは海兵隊が非正規戦や低強度紛争を後回しにすることを意味するものではないとし、海上の主要な地形に分散して配置された小規模な部隊を使用して海上を航行する目標を危険に晒すという海兵隊独自のコンセプトは依然有効であり、海兵隊は国家や国家規模の敵に対する大規模な戦闘作戦に重点を移す際にも米国の利益などに対しての不規則かつ非対称な脅威に対抗する能力を同時に維持する必要があると主張している。

(3) Semi-Submersible Heavy Lift Vessels: A New “Maritime Relay Platform” for PLA Cross-Strait Operations?
https://jamestown.org/program/semi-submersible-heavy-lift-vessels-a-new-maritime-relay-platform-for-pla-cross-strait-operations/
China Brief, The Jamestown Foundation, August 31, 2020
By John Dotson, the editor of China Brief
8月31日、米The Jamestown FondationのウェブサイトChina Briefの編集者John Dotsonは同サイトに“Semi-Submersible Heavy Lift Vessels: A New “Maritime Relay Platform” for PLA Cross-Strait Operations?”と題する論説を寄稿した。ここでDotsonは①8月に中国の海軍と航空部隊が渤海湾、黄海、東シナ海、南シナ海の4つの海域で演習を実施し、中国陸軍のヘリコプターの洋上における着陸及び兵力展開訓練、特に民間の半潜水式重量物運搬船(semi-submersible heavy lift vessel:以下、SSHLVと言う)が使用されたことが注目された、②SSHLV はバラストタンクを用いて中央甲板が水没する程度まで乾舷を調整することが可能であり、これは大型構造物や重量貨物の積み込みに役立つ方法である、③中国の造船業はSSHLV製造のリーダーであり過去25年以内に建造された34隻の大型半潜水式船舶のうち27隻が中国企業によって運航されている、④民間船を軍事作戦支援に使用するという考え方は「軍民融合」という軍事能力と経済発展の両方を強化するため、軍民間で資源を共有しようとする中国の取り組みの実例である、⑤SSHLVの機能は第1に長距離の膨大な量の装備品の輸送、次に海上基地として陸海空軍による共同作戦の攻撃能力の強化、最後に海上修理と補給のための基盤といったものがある、⑥「海上中継基盤」(maritime relay platform)としてSSHLVを使用し、回転翼航空機の戦闘行動半径を広げ、後方支援や医療支援のための移動式中継基地を提供することは革新的である、⑦このような動きは、台湾海峡紛争や小規模な島の占領作戦で中国軍に海上航空支援を行うための基盤の数を増やすといった主張を述べている。