海洋安全保障情報旬報 2020年9月1日-9月10日

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9月1日「米ロ軍備管理と東アジアの安全保障がいかに結びついているか―豪政治学者論説」(East Asia Forum, September 1, 2020)

 9月1日付のThe Australian National University, Crawford School of Public Policy のデジタル出版物East Asia ForumはThe University of Queenslandの政治学・国際学部准教授Marianne Hansonの“Linking US–Russian arms control to East Asian security”と題する論説を掲載し、ここでHansonは、米ロの軍備管理を進めることがアジアの安全保障にとってもきわめて重要であるとして、オーストラリアがとるべき政策などについて要旨以下のように述べている。
(1) 核戦争の脅威は今日においてもなお世界中の人々の重大な心配事のひとつである。核保有国がある限りこの懸念が消え去ることはない。冷戦期は核戦争のリスクを減らそうといくつもの軍備管理条約が結ばれてきた。しかし、今日そうした軍備管理はもはや主流の政策ではないように思われる。米ロ間の軍備管理協定はそのほとんどが失効し、核保有国はその能力の近代化と洗練に努めている。
(2) アジア太平洋地域は4つの核保有国(抄訳者注:アジア太平洋というよりは中国、インド、パキスタン、北朝鮮のアジアの国々)が存在しつつも、構造的な軍備管理条約などが存在しない、きわめて安全保障上のリスクの高い地域である。最近でも、インドと中国が国境付近で軍事衝突を起こしている。それが核戦争へとエスカレートすることはないだろうが、緊張が落ち着いたわけでもない。中国はまた世界第二位の軍事支出国であり、そのなかで新型ミサイルの配備や潜水艦の新造など核運用能力を着実に高めている。
(3) 米国のTrump大統領は核軍縮に中国を巻き込むことを望んでいる。現在、米ロ間で唯一効力のある核軍備管理条約はいわゆる新STARTであるが、これは2021年2月に失効予定でありTrumpはこれに中国が加わらない限り延長すべきではないと考えているようだ。しかし、中国がそうする誘因はない。むしろ、INF全廃条約の失効や米国のオープンスカイ条約からの離脱は、中国にしてみれば米国が軍備管理における信頼できるパートナーとはなりえないことを示唆している。
(4) 中国の核備蓄は320発程度で、それに対して米国は5800発、ロシアは6375発である。中国がもし軍備管理交渉に加わるとしたら、その出発点は米ロが同レベルまでその核備蓄を削減することであろう。つまり順序が逆で、米国がすべきは新STARTを延長し、その核備蓄を削減することであり、その後に中国を軍備管理交渉へと招き入れることなのだ。しかしTrump政権においてこれが実現する可能性は小さいように思われる。
(5) オーストラリアの最近の動向、すなわち長距離ミサイル等の先進兵器システムを新たに保有するという決定は、こうした状況をさらに悪化させている。それが地域の戦略的安定性促進に寄与するということはなく、むしろそれはミサイル拡散の「火に油を注ぐ」ようなものであろう。
(6) むしろオーストラリアは、かつてそうしてきたようにミドルパワーとして大国の核軍縮推進を後押しするように行動すべきではないだろうか。米ロの核軍縮は、中国の軍備管理への参加につながりうる。こうした道筋を経て、アジア太平洋地域に信頼構築や協調的安全保障プロセスを強調するような、地域的安全保障の枠組を構築することが地域の安定に向けて必要なことであろう。
記事参照:Linking US–Russian arms control to East Asian security

9月1日「米国防総省による中国軍事力報告書の重要な変更点―米専門家論説」(American Enterprise Institute (AEI), September 1, 2020)

 9月1日付の米シンクタンクThe American Enterprise Institute(AEI)のウェブサイトは、同所研究員Zack Cooperによる、“7 important updates in the Department of Defense’s 2020 China Military Power Report”と題する論説を掲載し、ここでCooperは米国防総省による中国の軍事力に関する報告書の内容について特に7つの重要な変更点を指摘し、要旨以下のように述べている。
(1) 米国防総省は、中国の軍事に関する信頼性の高い主な情報源の1つである「2020年中国軍事力報告書」(2020 China Military Power Report)を発表した。報告書の主な変更点は以下のとおりである。
(2) 海外での活動:「中国はミャンマー、タイ、シンガポール、インドネシア、パキスタン、スリランカ、アラブ首長国連邦、ケニア、セーシェル、タンザニア、アンゴラ及びタジキスタンにおいて中国軍の軍事兵站施設の場所を検討している可能性が高い」と指摘している。この報告書はジブチの既存の基地、カンボジアのリアム海軍基地への中国の関心、そしてナミビア、バヌアツ及びソロモン諸島への支援活動を行う可能性が高いことにも言及している。
(3) ミサイル開発:「中国は過去 20 年間、ほぼすべての点で中国軍を強化し、近代化するための資源、技術及び政治的意志を結集してきた。実際、この報告書が示すように中国は特定の分野ではすでに米国を凌駕している」と指摘している。その1つが通常弾頭弾道ミサイルである。2020年版報告書では中国の中距離弾道ミサイルが大幅に増加していることが示されており、発射装置は2019年版の80基から2020年版では200基に増加している。
(4) 核兵器:中国の現在の核弾頭の備蓄は200発台前半であると指摘している。これは外部の専門家の多くが予想していたよりも少ない数である。報告書はまた中国が警報即発射のためのサイロ型の核戦力を構築していることを示唆しているが、これは多くのアナリストを驚かせ、北京を核戦力についてワシントンとモスクワとの交渉に引き込もうとする米国の取り組みが続いていることに疑問を投げかけることになるだろう。
(5) 海軍の発展:2019年版の報告書では中国海軍を「地域最大の海軍」としていたが、2020年版は中国海軍が「世界最大の海軍」であるとしている。この文書は米海軍が293隻しかないのに対し中国海軍は350隻を保有していることを明記している。
(6) 両岸の不均衡:David Stilwell国務次官補は最近、以前に機密に指定されていた1982 年に台湾に提供された「6つの保証」に関する文書を公開し、米国の対台湾政策をめぐる曖昧さを軽減した。この報告書は、両岸の地上軍のバランスに大きな変化があることを示している。2019年、この戦域の中国の現役地上軍の戦力比は3対1であったが、2020年は大体5対1となり、全体では 12:1 となっている(主に台湾の国防刷新によるものである)。
(7) 海洋での緊張:この報告書は、「中国は、しばしば『対話』を実力行使(power play)として、そして強制というよりも政治的、経済的又は軍事的な抑圧を行うことを手段として好んでいる」と述べている。最近のSouth China Morning Postの記事は、この主張を補強している。その記事によると、北京は中国軍に米軍に対して最初の発砲をしないように指示したという。このことは中国が「紛争を誘発する境界値以下にとどまるように計算された」威圧的な戦術を好むことを示唆している。
(8) 国防費の支出:この報告書によると、国内総生産に占める中国の公式国防費の割合はわずか1.3%に過ぎないが2019年のインフレ調整後の公式国防費は6.2%増加した。このように、中国は2019年には公式に国防費に1740億ドルを費やしたが、他の軍事関連支出を含めた実質的な数字は2000億ドル以上になる可能性があると報告書は指摘している。これは、中国の国防費を2010年からほぼ倍増させることになり、過去10年間のインフレ調整後の年間平均成長率は8%になる。来年には米国の大規模な国防費削減について米国の当局者が議論する可能性が高いため中国と米国の国防費の動向には大きな関心が集まりそうである。
記事参照:7 important updates in the Department of Defense’s 2020 China Military Power Report

9月2日「ロシアの柔らかな脇腹を守る自然の障壁が溶け始めた-ノルウェージャーナリスト論説」(High North News, Sep 02 2020)

 9月2日付のノルウェー国立NORD UniversityのHIGH NORTH CENTERが発行するHIGH NORTH NEWSの電子版はノルウェーのジャーナリストHilde-Gunn Byeの“The Natural Protection of Russia’s Vulnerable Flank Towards the USA is About to Melt”と題する記事を掲載し、ここでByeはThe Royal Norwegian Naval Academy研究員Ina Holst-Pedersen Kvamへの取材結果を軸に、米国に対するロシアの自然の障壁であった海氷が溶解することによって米海軍及びその同盟国海軍の北極圏での行動が増大し、ロシアの核の第2撃力への信頼性が低下しかねないことから、北極圏での海軍演習を強化しているとして要旨以下のように報じている。
(1) 8月24日の週に実施されたアラスカ沖の演習はソビエト時代以来この海域における最大の演習であった。ロ海軍司令官Nikolay Yemenov大将の発言を引用したAP通信によれば、艦艇50隻以上、航空機40機以上が演習に参加した。Yemenov大将はこの演習は北極圏におけるプレゼンスの拡大と国家の経済資源を利用する権利を擁護する努力の一部であると述べている。米北方軍によれば演習は国際水域で実施され、米領域から十分に離れていた。
(2) The Royal Norwegian Naval Academy研究員Ina Holst-Pedersen Kvamは、ロ太平洋艦隊がこれまで、そして長い間見られなかった規模の演習をベーリング海で実施するにはいくつかの理由があると言う。その要因の中で特にロシアにおける水上戦能力の近代化が成果を見せ始めつつあることを見ておかなければならない。「ロ海軍が強くなればなるほど、実際に役に立つ技量を行使し、その活動が拡大されるものである。これが大国の通例である」とKvam研究員は指摘する。さらに、ロ海軍は北極海航路の支配を実行すると同時に北極圏における広大なロシアの経済資源の基盤の利用を防護しなければならない。
(3) ロシアにとって特に重要なのは太平洋艦隊の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の行動の自由を確保することでありロ参謀本部の優先事項である。「北極の氷が溶けつつあるという事実は、関心領域とロシアの考え方を強め、したがって北極圏における軍事的展開の必要性を補強する」とし、氷の溶解は基本的に米国に対するロシアの脇腹をより脆弱なものにするとKvam研究員は述べている。
(4) 研究者によれば、同地域におけるロ軍の計画は北極点を越えてくる米軍機が最大の脅威であることから防空を主に懸念している。しかし今日、氷の溶解によって海洋からの他の脅威による脆弱性が増してきている。「海氷によって得られていた米国に対し脆弱なロシアの脇腹の自然の障壁は溶けてなくなろうとしている。したがってこの演習は主として防衛的なものである」とKvam研究員は言う。
(5) 演習内容あるいは演習そのものに劇的なものはないにもかかわらず、最も注目される点はロ潜水艦がアラスカ沖合に浮上したことであるとKvam研究員は述べている。演習期間中、米北方軍は8月27日にアラスカ近傍にロ潜水艦が浮上したことを確認したと発表している。Kvam研究員は、当該潜水艦は演習に参加したオスカーⅡ級攻撃型原子力潜水艦「オムスク」のようだと言う。軍事問題の専門家によれば、攻撃型原潜の責任範囲は可能性のある紛争において母港にある敵部隊に奇襲攻撃をかけるため前程に進出して作戦するようである。事件は最近、ノルウェーのトロムソ沖合で米攻撃型原潜の浮上したことに続いて起こった。米第6艦隊の記者発表によれば、8月21日米攻撃型原潜「シーウルフ」は乗組員の移動の関係で短時間、トロムソ沖合にあった。
(6) 「ロ潜水艦が敵の国境付近において行動する能力を誇示するためにその所在を表すことは可能である。この種の行動は他のロ潜水艦が過去に実施してこなかったものではない。特に米海軍最大の基地がある東岸沖ではそうであった」とKvam研究員は述べ、「このような認識から、米国、あるいはその同盟国の攻撃型原潜が既に長い間、バレンツ海に進出し、行動しているという事実をクレムリンは熟知していると人は確実に思い込んでいるかもしれないが、トロムソ近傍での『シーウルフ』に関する報道は、ロシアが同じような能力を示しておく必要があると考えさせたのかもしれない」と付け加えている。米シンクタンクThe Center for Strategic and International StudiesのHeather ConlyはAlaska Publicにバレンツ海では米国の海と空での活動の増加があり、米ロは北極の戦略的、軍事的重要性を「お互いに示し合っている」と指摘している。
(7) 1つだけを取り出した視点から、ロシアがベーリング海において演習を実施するよう挑発した事件を1つ指摘するのは困難であり、ロシアはその裏庭で米国のプレゼンスが増加することに挑発されつつあるとKvam研究員は主張する。「これは、ロシアの認識における米国の兵力投射能力がロ戦略原子力潜水艦、そして結果としてロシアの核の第2撃能力を無力化させることになるからであり、2019年5月にバレンツ海で演習を実施した米艦艇は長射程の精密誘導兵器を搭載した艦艇で、この視点から、米国のこの海域における航行の自由作戦は最近のバレンツ海におけるもののように良いシナリオとしても緊張を高めるのに寄与するかもしれず、悪いシナリオであれば意図しない事故に発展するかもしれない」とKvam研究員は言う。
記事参照:“The Natural Protection of Russia’s Vulnerable Flank Towards the USA is About to Melt”

9月2日「中国の潜水艦部隊増強-米日刊紙報道」(The Washington Times.com, September 2, 2020)

 9月2日付の米日刊紙The Washington Timesは “China's aggressive submarine buildup” と題する記事を掲載し、中国軍事力に関する米国防総省の年次報告から中国の潜水艦部隊増強について要旨以下のように報じている。
(1) 最近公表された中国の軍事力に関する国防総省の年次報告書によれば、人民解放軍海軍(以下、PLANと言う)は原子力潜水艦部隊を積極的に建設し続けている。報告によれば、過去40年の間実施されてきた核戦力および通常戦力全般の中で潜水艦の近代化は高い優先順位に位置づけられたままである。
(2) 報告書は、PLANは旧式潜水艦をより性能の良い潜水艦と1対1で更新し、2020年代を通じ65隻から70隻の勢力を維持するようであると報告書は述べている。PLANはまた、先進的な対艦巡航ミサイルを搭載した通常型潜水艦を建造しつつある。
(3) 1990年代以来、キロ級潜水艦12隻を購入し、国内で宋級潜水艦13隻、元級潜水艦17隻を建造し、今後5年間の内に総数25隻の元級潜水艦を建造しつつある。原子力潜水艦については過去15年間に、商Ⅰ級攻撃型原子力潜水艦2隻、商Ⅱ級攻撃型原子力潜水艦4隻、晋級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦6隻を建造した。
記事参照:China's aggressive submarine buildup

9月4日「QUADの意義を強める中国の攻撃的姿勢―印研究者論説」(The Diplomat.com, September 4, 2020)

 9月4日付のデジタル誌The Diplomatは印シンクタンクObserver Research Foundation名誉フェローRajeswari Pillai Rajagopalanの“How China Strengthens the Quad”と題する論説を掲載し、ここでRajagopalanは近年の中国が地域およびグローバルな規模で攻撃的姿勢を強めていることにより日米豪印戦略対話の重要性が高まっているとして要旨以下のとおり述べている。
(1)  2020年9月下旬、4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)の外相会談がデリーで開催される予定になっている(抄訳者注:実際には10月6日、東京で開催された)。中国による世界規模の攻勢、COVID-19の世界的感染拡大における中国の姿勢、そして中国への経済的依存がもたらす脅威に直面する中でQUADはその勢いを取り戻しつつある。来たる外相会合ではおそらく中国に対して何らかのシグナルが発せられるであろう。
(2) しかしQUADは、弱いけれどもいくつかの逆風に直面している。その1つは安倍晋三首相の辞任だ。彼はQUADの提唱者の主要な一人であり、地域とグローバルな安全保障における日本の役割に関して重要な変化をもたらしたリーダーであった。そしてまたインドとの関係強化を押し進めてきた人物でもある。彼の辞任および新首相の就任が日本の方針の急激な変化をもたらすことはないだろうが今後注視が必要であろう。
(3) 第2の問題は11月の米国大統領選挙によって政権交代が起きる可能性があるということである。民主党とその候補Joe Bidenは、QUADや「自由で開かれたインド太平洋」戦略に反対はしていないが、政権交代は短期的な政策の動揺につながる可能性がある。ただし、BidenはレトリックやスタイルについてはTrump大統領と違うかもしれないが、中国に対する姿勢が厳しいことには変わりない。中国が攻勢を強める限り長期的には米国の方針が大きく変化することはない。
(4) 特に最近のインドやオーストラリアに対する中国の行動は、QUAD強化の必要性を認識させるものである。2020年5月初め以降の印中国境での武力衝突では、インド側に20名、数はわからないが中国側にも死者が出た。オーストラリアに対しても中国は、大麦や牛肉、ワインの輸入規制などを行い、経済的圧力を強めている。パースにあるUS Asia CentreのJeffery Wilsonによれば、こうしたやり方によってオーストラリア社会に分断をもたらし、オーストラリア政府に外交政策の変更を行なわせることが中国の本当の狙いだという。
(5) 安倍首相の辞任や米国大統領選挙などの若干の懸念はあるが、こうした中国の攻撃的な姿勢に鑑みれば、QUADの役割を強化する必要性に関しては議論の余地がないように思われる。
記事参照:How China Strengthens the Quad

9月8日「タイ・クラ運河、『中止』情報を巡るインドの奇矯な喧噪―シンガポール専門家論説」(The ISEAS-Yusof Ishak Institute, September 8, 2020)

 9月8日付のシンガポールのシンクタンクThe ISEAS-Yusof Ishak InstituteのWebサイトは同所上席研究員Ian Storeyの“India’s Obsession With Thailand’s Kra Canal: Much Ado About Nothing”と題する論説を論説し、ここでIan Storeyはタイ・クラ運河計画の「中止」情報を巡る印メディアの奇矯な喧噪ぶりについて要旨以下のように述べている。
(1) タイがクラ運河プロジェクトを中止し、代わりに陸橋を建設するという、インドのメディアの報道はインドの観察者を驚かせたが、承認されていないプロジェクトが中止されるはずかない。タイ南部のクラ地峡を開削して運河を建設するという過去3世紀に遡る古いアイデアは、今回のコロナ禍のような経済的苦境にあるときは何時でも確実に蘇ってくる。運河あるいは道路、鉄道、石油パイプラインといった、その他のクラ輸送路構想の提唱者は、こうしたプロジェクトが多くの雇用を生み、タイ経済の先行きを活性化させると繰り返し主張してきた。しかし、クラ運河プロジェクトの「中止」と、それに代わる道路と鉄道輸送路の建設は中国にとって大きな戦略的後退だがインドにとっては戦略的利益であるという今回のインド報道は少々こじつけ気味である。
(2) タイ運輸相の発言を引用した米Bloombergの8月の報道*によって、クラ運河問題が再浮上した。運輸相はマラッカ海峡が混雑状態にあり、したがって代替ルートが世界で最も混雑した水路の1つを迂回するために必要になっていると語っている。運輸相は、環境に壊滅的な影響を与える運河に代えて、タイ政府がクラ地峡の両側に2つの深水港を建設し、これをハイウェーと鉄道によって連結する代替案を支持していたことを明らかにした。運輸相によれば、タイ政府は長さ100キロの「陸橋」案を検討するためのフィージビリティー・スタディーのために530万ドルを計上したという。
(3) この発言を受けて、豪学者が米誌Foreign Policyへの寄稿論説**で、クラ運河は中国の「一帯一路構想」(BRI)の一環であり、しかも「インドを取り囲む北京の計画に見事に」適合するとし、これに対してインドはあたかも「タイの運河案を遮断する」かのようにベンガル湾のアンダマン・ニコバル諸島における軍事プレゼンスを強化することで対応してきたと論じた。そして、この論説の筆者は、もし今後タイ政府が中国のいわゆる「真珠数珠繋ぎ」(“string of pearls”)戦略におけるこの数珠(“string”、抄訳者注:タイ運河を指す)を遮断しようとするなら、北京はタイ深南部における分離運動を支援し、運河の管理権を掌握しようとするかもしれない、と奇妙な見方を披瀝している。
(4) これらに便乗するかのように、印メディアWION*** は、タイはクラ運河計画を「廃棄」したが、このことは2隻の中国製潜水艦の経費支払いを延期したタイ政府の決定とともに、北京がインド太平洋地域における「主要な同盟国に対する統制を失いつつある」兆候であると報じた。しかし、タイは中国の公式の軍事同盟国ではなく、米国の同盟国であって、北京とは包括的な戦略的パートナーシップ関係であるに過ぎない。The Hindustan Times****は、タイの中国に「背を向ける」決定はニューデリーから歓迎されるであろうと報じた。何故なら、The Economic Times *****が指摘するように運河は「インドの長期的な海洋安全保障にとってのリスク」となるからである。
(5) しかしながら、こうした見方は、主として以下の2つ理由から成り立たない。
a.第1に、「承認されていない」計画は廃棄のしようがない。2014年の軍事クーデターで政権を掌握して以降、Prayuth首相は、クラ運河に関して、よく言えば、曖昧な態度をとってきた。しかも、コロナ禍の最中にあってクラ運河は彼の眼中にはない。
b.第2に、中国は公式には一度もクラ運河をBRIプロジェクトとして推進しようとしたことがない。さらに、例え中国が300億ドルと見込まれる運河建設資金を提供することに関心があるとしても、中国が建設するタイの高速鉄道や潜水艦を巡る紛糾ぶりから見て、中国の資金提供がタイで国民的支持を得られそうにもない。もし「タイ運河」(the “Thai canal”、抄訳者注:推進派が好む呼称)が広範な国民的支持を得られるとすれば、それは中国ではなく、全面的なタイによるイニシアティブであると見なされるものでなければならない。
(6) 前出のタイ運輸相の提案自体、経済的にはあまり意味がない。1つの港で荷揚げし、その荷を鉄道や道路によって輸送し、別の港で荷積みすれば、輸送費を節減するよりむしろ増やすことになる。しかも、グローバルな経済危機の最中で、この運河計画に対する潜在的な投資家を見出せそうにもない。では、インドの反応をどう説明するか。ある鋭い観察者によれば、印中国境における緊張激化の最中にあって、インド人読者にとって「中国の侵略と中国の失敗に関するニュースは関心が高い」だけであるという。おそらくもっと重要なのは、クラ地峡輸送システムに関する論議が何故、再び盛り上がったのかということである。皮肉な見方をすれば、経済的苦境の最中にあって、530万ドルのフィージビリティー・スタディーが、金儲けの種として、また異国風な場所における実情調査任務として歓迎されたのかもしれない。
記事参照:India’s Obsession With Thailand’s Kra Canal: Much Ado About Nothing
注*:Thailand studies Malacca bypass to link Indian and Pacific oceans
**:The Next Front in the India-China Conflict Could Be a Thai Canal
***:Thailand scraps KRA Canal deal with China
****:India’s answer to China-backed Thai Canal plan is a huge military upgrade in islands
*****:Thailand delays plan to buy Chinese submarines; presents alternate to Beijing’s Kra canal proposal

9月8日「中国の空母2隻による演習とその含意―台湾専門家論説」(Asia Times, SETEMBER 8, 2020)

 9月8日付の香港デジタル紙Asia Timesは、台湾のNational Chengchi University研究員Richard Javad Heydarianの“China flexes new dual-carrier prowess at US”と題する論説を掲載し、Richard Javad Heydarianは中国の海軍力は着実に向上し、その空母2隻によって同時に行われた海軍演習は重要な一歩であるとして要旨以下のように報じている。
(1) 1995年から96年の第三次台湾海峡危機において米国による台湾支援のための空母2隻の展開に直面し、中国は退却を余儀なくされた。早送りして現在に至るが、中国は隣接する海域で自分たちの2隻の空母からなる海軍演習を行うことで、この戦略的屈辱からどこまで来ることができたのかを示している。
(2) ここ数日、中国にとって初の空母「遼寧」と初の国産空母「山東」が、渤海と黄海の北東海域でほぼ同時に訓練を行った。「山東」は、まだ十分な戦闘準備ができていないけれども両艦が同時に訓練を実施したのは初めてである。専門家によると、この前例のない空母の訓練はまた、「異なる方向から台湾島を圧迫する」中国の能力を示し、北京が反逆的な省とみなしているこの自治の島をめぐる実際の紛争が発生した場合に、「可能性のある米国の介入を拒否する」能力を示しているという。
(3) 中国海軍のこの最新の軍事行動は、東シナ海と南シナ海を含む4つの海域でほぼ同時に実施された海軍演習直後に行われた。大きなニュースとして扱われたこの軍事行動は、表向きは渤海での中国海軍の実弾演習中に米国のU-2偵察機が飛行禁止区域に入ったという疑惑に対応して行われた。
(4) 7月に、米国は世界的な感染拡大の中で、中国の海洋での自己主張を抑制するための軍事行動を強化する一環として、南シナ海で米海軍の空母2隻からなる演習を実施した。最近の米国の新たな政策の発表では、中国の広範囲にわたる海洋への主張は国際法上「違法」であるとされた。環球時報紙に引用された専門家によると、中国の専門家たちはこの訓練について、「マラッカ海峡のような重要な海上輸送路を守る役割を果たす」ために北京の能力を高めることを目的とした単なる挑発ではなく、戦略的に合理的なものと描写している。しかし中国はまた、遥かに優れていた米国の軍隊に翻弄された1990年代の屈辱的な年月以来、特に隣接した海域において増強している海軍の能力を知らせることを熱望している。
(5) 米国との衝突に対応するために、中国は、「南シナ海や東シナ海、台湾付近及び周辺のような地域での紛争への(米国の)参戦コストを上げるために」、非対称能力に多額の投資をしただけでなく、「もし物理的衝突を伴う紛争が起きた場合の勝利と同等に米国を抑止する」能力も強化させたと、中国の軍事近代化の専門家であるHarry Kazianisは説明している。中国海軍の最終的な目標は、専門家たちがその隣接海域に「立入禁止区域」と呼ぶものを新たに設置することであり、それによって徐々に戦略的な懲罰を受けることなく、台湾や南シナ海に存在する米国の同盟国を圧迫することが可能になる戦略的コントロールである。
(6) 最近の大きな躍進にもかかわらず、中国は全体的な軍事力、特に海軍の能力に関して、依然米国に遅れをとっている。米海軍は11隻もの大型原子力空母を運用しており、各空母には最大80機の戦闘機が搭載され、合計の甲板面積は最近まで全ての他国の合計面積の2倍であった。ソ連時代に設計された中国の空母は、現代の米国のニミッツ級原子力空母と比較すると最新のものではない。「遼寧」はもともとウクライナのクズネツォフ級空母であり、最大24機のJ-15戦闘機を搭載できるが、「山東」は他の航空機やヘリコプターに加え、さらに12機を搭載できる。
(7) 戦略的バランスが完全に傾いたわけではないが、明らかに変化していると安全保障専門家たちは述べている。親中派の解説者たちは、中国の海軍力の向上をさらに一層確信している。「今回のこれらの同時に行われた演習で2隻の空母が互いに作用しなくても、これは中国海軍にとって真の空母2隻時代に向けたもう1つの重要な一歩となるだろう」と中国の専門家は環球時報に語っている。
記事参照:China flexes new dual-carrier prowess at US

9月9日「ソロモン諸島の国内対立に利用される中台外交承認問題―豪政治評論家論説」(The Diplomat, September 9, 2020)

 9月9日付のデジタル誌The Diplomatはメルボルンで活動する政治評論家Grant Wyethの“How China and Taiwan Became ‘Pawns’ in Solomon Islands’ Internal Dispute”と題する論説を掲載し、ここでWyethはソロモン諸島政府による中国の外交承認とそれがもたらす地方政府の反発について、この問題がソロモン諸島国内の中央と地方の対立の文脈でも理解されるべきものとして要旨以下のとおり述べている。
(1) 2019年、ソロモン諸島政府は台湾への外交承認を取り消し、中国を承認することを決定した。この問題は太平洋島嶼地域における影響力をめぐる中台の争いというだけでなく、ソロモン諸島国内の中央・地方間の歴史的な対立の文脈において理解するべき問題である。
(2) ソロモン諸島のなかで最も人口の多いマライタ州は中央政府による中国承認の決定に強く反発しており、州知事Daniel Suidaniはソロモン諸島からの独立を模索する住民投票の実施すら提案しており、中央政府はその動きに反発している。実際に早期の住民投票実施は困難であろうが、この動向は中央対地方の対立の根深さを示している。
(3) マライタ州が独立を目指したのは今に始まったことではなく、マライタによる中央への抵抗は長い歴史的背景を有する。とりわけそれは国内の開発の格差に対する不満に基づくものである。それに加えて、中台によるプレゼンス競争が起きているのであり、ニュージーランドのMassey UniversityのAnna Powlesによれば、今回の騒動は「北京と台北の間のイデオロギー闘争ではなく……北京と台北はマライタと国家の間の長きにわたる論争における人質(pawns)なのである」。
(4) ソロモン諸島は近年中国への経済的依存を深め、中国による多くの投資を受け入れているが、それはたとえば森林伐採とその輸出振興などにつながり、収入の増大をもたらしている。しかし、これは地域共同体に必ずしも利益をもたらすものではない。そしてまた、中国による経済的浸透に対する反発が高まれば、地方の中国コミュニティが危険にさらされる可能性が高まる。2006年には実際にチャイナタウンを標的にした暴動が起きている。もし武力衝突のようなことが起きた場合、ソロモン諸島警察部隊が適切に対応できるかは疑問視されている。
(5) マライタ州の不満は上述したように開発の格差が根底にあるが、それと関連して、中国からの投資による経済的利益が平等に分配されておらず、またそれに基づく大規模プロジェクトなどを決定するプロセスが不透明だという感覚によるものである。そのことがSuidaniによる中国の外交承認に対する強い反発を生んだ。ソロモン諸島のような民族的にも地理的にも多様な国家において何の不満も産まない政策を実践することは困難であろうが、それを目指す責任が中央政府にはある。中国も台湾も、その影響力を拡大したいと考えるとき、そうしたことを念頭に置いて行動する必要がある。
記事参照:How China and Taiwan Became ‘Pawns’ in Solomon Islands’ Internal Dispute

9月9日「ノルウェー海軍、米英海軍とバレンツ海で共同演習―ノルウェー紙記者報道」(Arctic Today, September 9, 2020)

 9月9日付の環北極メディア協力組織Arctic Todayのウェブサイトは、The Independent Barents Observerの編集者Thomas Nilsenの“In a controversial move, Norway sails frigate into Russian Arctic EEZ together with UK, US navy ships?”と題する記事を掲載し、ここでNilsen は、ノルウェー海軍が初めてNATOの海軍艦艇とバレンツ海のロシアの排他的経済水域(EEZ)で共同演習をを実施したとして要旨以下のように報じている。
(1) ノルウェー海軍のフリゲート「トール・ヘイエルダール」は米ミサイル駆逐艦、英補給艦及びフリゲートとともにバレンツ海で行動している。北大西洋条約機構(NATO)の水上艦艇が、ロシア北洋艦隊の艦艇の参加なしにバレンツ海のロシアのEEZ内で海上作戦を行うのは1990年代以来初めてである。この行動はデンマークの哨戒機により支援されている。スポークスマンのIvar Moen中佐は「この艦艇グループは今後数日間フィンマルクとリバチー半島の北側で行動する」として、ロシアとノルウェーの海上国境であるヴァランゲル・フィヨルドの東側をロシア海軍との協力なしにノルウェーのフリゲートが航海するのは初めてであるとBarents Observerに語った。「トール・ヘイエルダール」はリバチー半島の外側12海里以上の公海を航行しているが、この地域はロシアのEEZでもある。ロシアにとってこれらの海域は戦略的に重要である。北洋艦隊の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦と多目的潜水艦の基地がコラ半島の海岸線沿いに存在する。また、ロシア国防省は同地域に5カ所の核弾頭貯蔵施設を保有している。東へ数十キロのガジエヴォはデルタIV級6隻とボレイ級2隻の潜水艦隊の本拠地である。
(2) 米第6艦隊が英海軍艦艇とともに2020年5月にバレンツ海で行動したときノルウェーは参加しないことを選択した。Bakke-Jensen国防相はBarents Observerに対し「ノルウェー沖で行われるこの種の活動には、ノルウェー海軍が参加してほしい」と述べ、優先順位は付け加えていないと付け加えた。今日、ノルウェーは海軍フリゲートが参加しているだけでなく、同フリゲートはバレンツ海のノルウェーのEEZの東側を航行している。The Norwegian Institute for Defense StudiesのPaal Hilde准教授は、この動きは特に注目に値すると述べている。「ノルウェー政府は今回、ノルウェー海軍がバレンツ海での共同演習に参加すべきであることを明らかに決定した。ノルウェーは長い間、北大西洋北部で同盟国の海軍艦艇による目に見える影響力を求めてきた。これに照らして、北大西洋北部で行う共同訓練に参加を拒否することは奇妙であろう。したがって、ノルウェー政府は、このような共同演習とノルウェーの参加に対する統合作戦軍司令官の最近表明された懐疑的な見方を覆した」と語った。ノルウェーの統合作戦軍司令官Rune Jakobsenは2020年7月にノルウェーのタブロイド紙 VGに「ノルウェーはロシアを挑発したくない。我々は北大西洋北部の緊張を低いレベルに維持しなければならない。ロシアの潜水艦基地のあるコラ半島沖合で米軍や他の同盟軍と協力すれば、緊張は高まるだろう」と語っていた。ノルウェー国防相Bakke-Jensenは国防の指導層のポータルに掲載された声明の中で「我々は彼ら(同盟国海軍)がここにいることは肯定的であると信じているし、ノルウェー沖で演習が行われるならば、それが適切な場合にはノルウェー軍がこの種の活動に参加することを望む」と述べている。英海軍はこの作戦は「地域の平和を維持すること」を目的としていると述べた。2020年9月7日、米海軍第6艦隊は北極圏の重要な水路で持続的な作戦を行うことの重要性を強調した。
(3) ヴァランゲル・フィヨルドの東側の海域はノルウェー海軍にとって新しいものではない。フリゲートと沿岸警備隊の艦船が以前にコラ半島の外側で行動していたが、その後、2014年以前にロシア北洋艦隊の艦艇との共同訓練で行動していた。ロシア海軍艦艇は2017年以降数回、ノルウェーのEEZで行動しており、2019年にはフィンマルク北方のバレンツ海とアンドーイ、ヘルゲランド西方のノルウェー海の両海域で「オーシャン・シールド」演習の一部を実施している。
記事参照:In a controversial move, Norway sails frigate into Russian Arctic EEZ together with UK, US navy ships

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) What the Pentagon’s new report on China means for US strategy — including on Taiwan
https://www.brookings.edu/blog/order-from-chaos/2020/09/04/what-the-pentagons-new-report-on-china-means-for-u-s-strategy-including-on-taiwan/
Brookings, September 4, 2020
By Michael E. O’Hanlon, Director of Research - Foreign Policy, Co-Director, Security and Strategy, Senior Fellow - Foreign Policy, Center for 21st Century Security and Intelligence
 9月4日、米シンクタンクCenter for 21st Century Security and Intelligenceの上級研究員兼共同部長であるMichael E. O’Hanlonは米シンクタンクThe Brookings Instituteのウェブサイトに" What the Pentagon’s new report on China means for US strategy — including on Taiwan "と題する論説を発表した。ここでO’Hanlonは、米国防総省はこのほど、20年の伝統を受け継ぐ最新の年次報告書を発表したが、その主な内容は中国人民解放軍と中国のより広範な外交政策における軍の役割についてであると述べた上で、同報告書に対するコメントとして、一部の有識者が台湾は米国の正式な同盟国ではないのに「米国は台湾に対するいかなる中国の攻撃に対しても、断固たる回答で対応することを明確にすべきである」と主張していることに異議を唱え、中国による台湾封鎖やサイバー攻撃、在日米軍基地への攻撃といった様々な中国の戦略に米国は自信を持って勝てる見込みがないのであれば、全体として中国の軍事力が向上したことも勘案しなければならず、ペンタゴンの報告書が示すように、こうした不測の事態に備えて台湾を間接的に防衛しようという試みの方が理にかなっているのではないか、と主張している。

(2) America Is Betting Big on the Second Island Chain
https://thediplomat.com/2020/09/america-is-betting-big-on-the-second-island-chain/
The Diplomat, September 05, 2020
By Derek Grossman, a senior defense analyst at the nonprofit, nonpartisan RAND Corporation, an adjunct professor at the University of Southern California
 9月5日、RAND Corporationの上級防衛アナリストであるDerek Grossmanはデジタル誌The Diplomatに“America Is Betting Big on the Second Island Chain”と題する論説を寄稿した。ここでGrossmanは①8月末、Mark Esper米国防長官はパラオとグアムを訪問し、第二列島線の地政学的価値が極めて高いことを強調した、②米国は、第一列島線に集中砲火を浴びせることが可能な中国のミサイルが、第二列島線における米軍の立場を脅かすことを懸念しており第一列島線の統合作戦を支援するために第二列島線の防衛態勢を強化する可能性が高い、③マーシャル諸島、ミクロネシアとともに自由連合州(Freely Associated States)を構成しているパラオは米軍にとって重要な物流ネットワークの一部である、④Esperが重要性を訴えている、米国との自由連合盟約(Compact Of Free Association)協定が更新されなければ、パラオは「一帯一路」の影響を受けやすくなり、また、台湾との国交を断ち切り、北京を認めるかもしれない、⑤Esperはパラオ大統領Tommy Remengesauとの間で、海洋状況把握に関する協力についても話し合った、⑥重要な軍事資産を考えると、グアムは太平洋での戦闘に欠かせない、⑦オーストラリア、ニュージーランド、台湾は日米両国と協力してオセアニア地域での中国の影響力増大を阻止するために活動している、⑧ワシントンが地上配備型の中間距離ミサイルを配備する候補地に、日本とオーストラリアを挙げるのは明らかだが中国を射程に納めるパラオも検討される可能性がある、⑨第二列島線の地域において中国の影響力が増大しているが、米国がパートナーたちの総力を結集することで逆転も可能だろう、といった主張を述べている。

(3) Arctic Matters: Sino-Russian Dynamics
https://css.ethz.ch/content/dam/ethz/special-interest/gess/cis/center-for-securities-studies/pdfs/CSSAnalyse270-EN.pdf
Center for Security Studies, September, 2020
Benno Zogg, Senior Researcher at the Center for Security Studies (CSS) at ETH Zurich 
Maria Shagina, a Postdoc Fellow at the Center for Eastern European Studies (CEES) at the University of Zurich
 9月、スイスのシンクタンクCenter for Security Studies (CSS)の主任研究員であるBenno ZoggとThe University of ZurichのポスドクであるMaria Shaginaは、CSSのウェブサイトに、" Arctic Matters: Sino-Russian Dynamics "と題する論説を発表した。ここで両名は北極の氷が減少するにつれ、北極域における資源採取や有望な貿易ルートへの関心が高まっているが、特に中国とロシアの2つの国家の存在がこの地域に大きな影響を与えるだろうとの評価を行っており、その理由として両国とも、特にエネルギー領域では協力と競争という複雑な力学に縛られていて利害が必ずしも一致しないため、例えばロシアは中国の同地域における存在感の高まりに疑念と恐れを抱き続けることが予想されることなどから両国間の緊張や非対称性が高まる可能性があることを指摘している。