海洋安全保障情報旬報 2021年1月1日-1月10日

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1月1日「英国とNATOを批判する中国―香港紙報道」(South China Morning Post, 1 Jan, 2021)

 1月1日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“China blasts Nato with British aircraft carrier ‘heading to South China Sea’”と題する記事を掲載し、英国が空母をインド太平洋に派遣することとNATOの報告書が中国を脅威として扱っていることに対し中国が批判していることについて要旨以下のように報じている。
(1) 中国は英海軍が紛争地域である南シナ海に軍艦を派遣することに対し警告し、その主権を守るために必要な措置を講じると述べている。この発言は、英国の最新空母「クイーン・エリザベス」が最初の作戦任務のために、この係争中の海域を含む太平洋地域に配備されるとの予測に対応して行われた。中国国防部報道官・譚克非は12月31日に北京で開かれた月例記者会見で英国の計画について尋ねられた際に「中国は南シナ海が武器と軍艦によって支配される大国間競争の海になるべきではないと考えている」と述べている。
(2) Gavin Williamson元英国防相は2019年2月、「クイーン・エリザベス」の最初の作戦任務には南シナ海が含まれ、「世界の連合王国(global Great Britain)を現実のものにする」と述べている。また、共同通信によると、空母とその打撃群は日本の琉球列島付近で米軍や日本の自衛隊と「早ければ来年早々にも」合流する見通しだという。
(3) 中国政府は、米国とその西側の同盟国が緊張の扇動者と主張している。譚は中国によってもたらされる「安全保障上の課題」にもっと焦点を当てるよう加盟30カ国に求めた最近のNATOの報告書を批判した。
(4) NATOの将来についてのこの報告書は、「中国のパワーの規模と世界的な展開能力は、開放的で民主的な社会に深刻な課題をもたらしており、特に中国がより大きな独裁政治と領土的野心の拡大への軌跡を辿っているからである」と述べている。この報告書を起草した専門家グループの共同議長である元米国外交官Wess Mitchelは報告書についての議論の中で、「ロシアは当面の間、NATOにとって主要な軍事的脅威であり続けるだろう」と述べているが、「中国の台頭は、NATOの戦略環境における単一の最大かつ最重要の変化であり、この同盟が実際に侮ってはならないものである」と述べている。
記事参照:China blasts Nato with British aircraft carrier ‘heading to South China Sea’

1月2日「グワダル港の動向に見られる中国・パキスタン関係の微妙な緊張―香港紙報道」(South China Morning Post, January 2, 2020)

 1月2日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“China-Pakistan relations: security fence at Gwadar port creates new tensions”と題する記事を掲載し、中国・パキスタン経済回廊をめぐる両国間関係は不安要素がありながらもなお強固なままであり続けるだろうとして要旨以下のとおり報じている。
(1) 中国が推進する一帯一路構想の一部として、中国・パキスタン経済回廊(以下、CPECと言う)がある。これは620億米ドルにのぼる事業で、中国の新疆ウイグル自治区とインド洋に面するパキスタンのグワダル港を結びつける鉄道・道路・パイプライン等のネットワーク構築を目的とするものである。2020年12月31日、中国の王毅外交部長とパキスタンのMakhdoom Shah Mahmood Qureshi外相はCPECをめぐる中国とパキスタンの協力関係の強化を改めて強調した。
(2) しかしCPECをめぐって両国関係は必ずしも平穏ではない。両大臣の声明はグワダル港が位置するバルチスタン州当局が同港周辺のフェンス設置計画を地元住民の反発を受けて撤回した後になされたものであった。そのフェンスは中国が操業する諸施設を保護するために設置される予定だったものである。
(3) なぜそのような保護措置が必要だったか。グワダルにおいて中国の経済進出が進む他の地域同様にテロ行為が頻発したためである。たとえば2019年には五つ星で中国人実業家らに人気だったグワダルのパール・コンチネンタル・ホテルがテロの標的に遭い、また最近では2020年12月27日に7人のパキスタン兵が銃撃され、殺害されるという事件が起きたのである。そうした状況を背景に、バルチスタン州当局と中国企業の間で安全確保の措置をとることなどが合意され、フェンス設置はその一つであったが、それが中国の経済的進出に否定的な地元住民の反発を受けて、結局撤回を余儀なくされたのである。
(4) テロ組織や地元住民の反発に加えて、CPECがもう一つ直面する問題は、パキスタンのImran Khan大統領が巨大インフラ事業を削減し農業や教育などの事業への予算配分の傾向を強めていることである。こうしたことを背景に、2021年、中国とパキスタンの外交関係樹立70周年に両国の結束の強さをことさらにアピールする必要に迫られている。
(5) こうした問題がありながらも中国とパキスタンの関係が大きく揺らぐことはないと観測されている。Australian National UniversityのClaude Rakisitsによれば、この2国間関係は「便宜的なものであり、双方がそこから利益を得るもの」であると言う。だがRakisitsは「CPECは天からの贈り物ではない。パキスタンは何かを支払い続けねばならない。しかしパキスタンには選択肢がほとんどないのだ」とも言う。
記事参照:China-Pakistan relations: security fence at Gwadar port creates new tensions

1月5日「2021年、テロの傾向の分析-米専門家論説」(Foreign Policy Research Institute, January 5, 2021)

 1月5日付の米シンクタンクForeign Policy Research Instituteのウエブサイトは同所の国家安全保障プログラム上級研究員兼Soufan Center上級研究員Colin P. Clarkeの“Trends In Terrorism: What’s On The Horizon In 2021? – Analysis”と題する論説を掲載し、ここでClarke は2021年のテロの傾向について、各国がCOVID-19パンデミックの鎮静化に集中することでテロ対策の優先順位が低くなり、多様化するテロへの課題がさらに複雑になる可能性があるとして要旨以下次のように述べている。
(1) 2020年は前例のない出来事の多い年だった。2020年に入ったばかりの1月3日、Trump米大統領はイスラム革命防衛隊の特殊戦部隊Quds Force(IRGC-QF)の Qasem Soleimani司令官暗殺を命じた。そのニュースはCOVID-19のパンデミックによりすぐに覆い隠された。米国での都市封鎖、抗議活動そして激しく争われた大統領選挙は、2021年に向かうテロの脅威に影響を与える要因のほんの一部でしかなかった。
(2) 世界レベルではいくつかの地域でテロが増大するだろう。米国が中東、南アジア、そしてアフリカ全土で勢力を縮小する中、アルカイダ、ISIS及びそれぞれの関連組織は新しく領域を支配し国家や地域を不安定化させるであろうし、シリア、イラク、イエメン、アフガニスタン、ソマリア及びナイジェリアにはアルカイダとISISに関連するジハード主義グループがある。2021年は世界中の関連組織を通じてアルカイダが再生する年になるかもしれない。
(3) 米国がそのリソースをシフトし、さまざまな領域に軍隊を再配置することで生じた力の空白をテロリストや反乱グループが利用する可能性がある。COVID-19はシリアでのISISによる攻撃のテンポを遅らせることはなかった。ISISは2019年に144回の攻撃を実行、2020年の3四半期までに126回の攻撃を実行し、それはラッカ南部とハマ東部で大幅に拡大した。2021年はテロリストグループがレバント全体で組織員を増大させ、さらにテロが増えるかもしれない。
(4) 米軍はイラクとアフガニスタンで2,500人にまで削減される予定で、それは米国に敵対する勢力に大きな利点をもたらす。イランはすでにイラク国内でさまざまなシーア派民兵グループを支援することでその影響力を高めようとしている。イランの影響力を抑制することはイラクのスンニ派の後押しになるが、それはISISの支配に戻る可能性がある。テロ支援国家とされるイランはイスラエルとスンニ派アラブ諸国が関係を温めることで中東の地政学的関係が変化し、これに脅威を感じたならば、さまざまな組織への支援を増やすかもしれない。
(5) アフガニスタンの米軍削減により、本格的な反乱に戻りアルカイダを含む国境を越えたテロリストグループと協力することで、タリバンが再び国を支配するのではないかという懸念も高まっている。
(6) 西アフリカとアフリカの角と呼ばれる地域ではジハード主義グループが勢いを増しており、これは2021年も継続するであろう。テロ攻撃のリスクが最も高い国の多くはアフリカにありテロ対策の重心が中東からシフトしている。ISISがイラクとシリアで壊滅されたとしても、このグループは関係組織を通じてアフリカ全体に拡大しており、アルカイダとISISに繋がるジハード主義者はカメルーン、ブルキナファソ、モザンビークを含むこれまでテロを受けなかった国々を不安定にした。
(7) これらのグループは2021年に活動を強化し、たとえ米国のような国が大国間の競争に軸足を移そうとしてもテロ対策活動が引き続き優先事項であることを西側諸国に認識させるだろう。これらのグループの動きはテロ対策のリソースが公衆衛生を含む他の差し迫ったニーズに転用された場合、2021年に加速する可能性がある。
(8) 2021年のもう一つの傾向は、暴力的な非国家主体の新技術への依存の高まりである。ISIS、イエメンのフーシ反政府勢力及びタリバンは、戦闘及び偵察目的で無人航空機システムの敏捷性と能力の実証試験をした。今では市販のドローン入手は容易で、すぐに使用可能である。リビアとナゴルノカラバフでの紛争でドローン運用が成功したならば、テロリストはこれを非対称紛争の戦力増強のために獲得するであろう。
(9) テロリストは3Dプリンターを使用した自家製銃にも関心を持つだろう。白人至上主義者やネオナチを含む極右の過激派は3Dプリンターで製作された銃に特に関心を示している。極右勢力は米国やドイツを含む特定の国で、そして国境を越えて、より大きな脅威になりつつある。人口の大部分の層で高まる不安、深刻な経済的倦怠感、銃器の販売の増加は、2021年が国内テロの旗印となる可能性を秘めている。Trump大統領(当時)が繰り返し非合法と訴えた選挙に加えて、多くのテロ対策アナリストは、国内テロリズム、特に反政府過激派やその他の極右による攻撃の急増を予測している。
(10) 多くのイデオロギーがテロ活動に影響を与えるだろう。これには経済と環境に関連する従来の左翼の不満やQAnonのような陰謀論、更にはワクチンから5Gテクノロジーに至るすべてに反対するキャンペーンが含まれる。さらに極端な女性蔑視やいわゆる「インセル」運動から発せられる脅威も考えられる。Biden次期政権(抄訳者註:論説の書かれた時点での次期政権)は、国内過激主義の潜在的な上昇傾向に対処するだけでなく、米国とその同盟国を脅かす国境を越えた脅威を阻止するため多国間テロ対策の取り組みを再活性化するなど課題が多い。そして各国がCOVID-19パンデミックの鎮静化に引き続き集中して、テロ対策の優先順位が低くなり、多様化するテロへの課題がさらに複雑になる可能性を秘めている。
記事参照:Trends In Terrorism: What’s On The Horizon In 2021? – Analysis

1月5日「北極圏での競争に参加するインド―デジタル誌編集者論説」(The Diplomat.com, January 5, 2021)

 1月5日付のデジタル誌The Diplomatは同誌編集者Abhijnan Rejの“India Releases Draft Arctic Policy”と題する論説を掲載し、中国が北極圏に進出する中でインドもこの地域の地政学的競争に参加しようとしているとして要旨以下のように述べている。
(1) インドは最近、パブリックコメントを募るための北極政策文書の草案を発表した。同文書の添付メモには「インドは、ヒマラヤや極地の研究における膨大なその科学的な蓄積と専門技能を活用することにより、北極圏において建設的な役割を果たすように取り組んでいる。インドはまた、北極圏がよりアクセスしやすくなるにつれ、そこでの資源の利用を持続的に、北極評議会のような機関が策定した最善の慣行(best practice)に沿った方法で行うことを保証することに貢献したい」と記されている。インドは2013年に北極評議会のオブザーバーとなったが、2018年にはその立場の2度目となる5年間にわたる任期が更新された。インドは現在、ヒマドリの研究拠点とコングスフィヨルデンとニーオーレスンにある二つの観測所を通じて、この地域に恒久的な存在感を維持している。
(2) 最近発表された文書案では、インドの北極政策の五つの柱である「科学研究」「経済と人間の開発」「接続性」「グローバル・ガバナンスと国際協力」「インドの人材育成能力」の要点を述べている。文書案にはニューデリーが北極圏で追求しようとしている活動が掲載されているが、それは外交、経済、科学など多岐にわたっており、この文書はインドの野心的な計画である最近の世界的な活動に関して知られている特徴を反映している。
(3) しかし、北極政策草案の中にはインドにとっての実際の利益に焦点を当てた一面があるが、それは気候変動、そして北極圏とモンスーンやヒマラヤのシステムの間の複雑な関係を中心としたものである。気候変動による北極の融氷は以前は閉じ込められたままだった新たな病原菌を放出させる可能性があり、したがって将来、パンデミックの可能性を高めるという見解は理にかなっている。
(4) 米National Defense UniversityのGeoffrey Gresh教授が2020年12月、The Diplomatのインタビューで語ったように、中国とロシアの両国は地経学(geieconomic)的な理由から北極圏を活用しようとしているだけでなく、「北極圏をユーラシア大陸の東部や西部において、さらに遠くの戦力投射のための重要な出発点と考えている」のである。気候変動の影響でこの地域を通る一連の新たな海運ルートである中国の「氷上シルクロード」(Polar Silk Road)には深い戦略的根拠があり、Trump政権をはじめとする米国の安全保障関係の団体の中では懸念が高まっている。
(5) このような状況が、インドをして中国とのライバル関係が拡大する領域の一部として北極圏の地政学的な競争に参加する気にさせている。インドは責任あるパートナー国として、この重要な地域とその管理のための諸機関との関わりを強めていくという将来を見ている。しかし、このような仰々しい言質を超えて、例えば、西太平洋地域の戦略力学を決定的に形成してきた、いわば西太平洋のアクターとしての存在感を有意義に示すことができなかったインドが、北極圏の行為者としてステップアップするために明確に何ができるのかは不明である。
記事参照:India Releases Draft Arctic Policy

1月6日「『近北極国家』の主張に対する米国の異議に中国反駁-香港紙報道」(South China Morning Post, 6 Jan, 2021)

 1月6日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は在香港のフリージャーナリストWilliam Langleyの“China rejects Mike Pompeo’s challenge to its ‘near-Arctic nation’ claim”と題する記事を掲載し、ここでLangleyは「近北極国家」という中国の主張に対する米国務長官の異議申し立てに対し中国外交部報道官が反論したことを取り上げ、その背景には緊密化する中ロの協調に対する懸念と北極において中国の後塵を拝するという米国の恐れがあるとして要旨以下のように報じている。
(1) Mike Pompeo国務長官は地図を示しながら中国は北極圏から900マイル離れており、中国が「近北極国家」というのは「共産主義者の作り話」だとして1月4日にツィートしている。中国外交部報道官華春瑩は「Pompeo氏は中国は北極圏から900マイル離れていると指摘したが、米本土と南シナ海の間の距離を計算したのだろうか?南シナ海は米本土から8,300マイル、ハワイからでも5,300マイル離れている。米国は、あらゆる種類の軍事訓練、近接偵察のために1年中、繰り返し南シナ海に艦艇、航空機を送り込んでいる」としてPompeo国務長官の主張に反論した。
(2) 2018年の北極白書で北京が自らを「近北極国家」と宣言して以来、北極での緊張は急速に高まってきている。白書は物議を醸している一帯一路構想の一部として「氷上シルクロード」の計画を表明している。
(3) 中国がますますロシアとの協調を深めていくこともワシントンを心配させている。中国の国家開発銀行は2018年にロシア開発対外経済銀行(Vnesheconombank)とロシア領北極地域に6,000億ルーブルの投資を行う契約に署名している。「北極は以前より温暖になっており、この勢いについて行かなければ中ロがその空隙を埋めるだろう」とPompeo国務長官は4日に別のツィートをしている。
(1) The University of Hong Kongの北極研究者Mia Bennettによれば、米国の懸念は北極にお
いて急速に中国の後塵を拝するようになるのではないかという恐れから来ている。中国が国産砕氷船「雪龍2」を進水させたことはTrump政権の気をもませた。米国は船齢44年の砕氷船と2000年建造の砕氷船の2隻しか保有していなかった。2019年6月、ワシントンは砕氷船部隊の緊急更新を発注した。Bennetはワシントンは中国がロシアと協調することを懸念しているが、次期Biden政権はそれほどタカ派ではないと指摘している。「中国は北極で大規模な科学上、商業上の参入を進めてきた。ワシントンのタカ派、特にTrump政権はこれらを国益と米国の安全保障にとって公然たる脅威であると見ている。国防総省は北極でますます高まる中国の能力とロシアとの経済開発、共同軍事演習の両面での引き続き行われる協調に注意を払っていくだろうがPompeo国務長官の短慮な言葉づかいはすぐに過去のものとなるだろう」とMia Bennettは言う。
(4) 北京は北極への展開は平和的なものだと主張する。「中国は、北極圏国が享受している主権、主権者の権利、管轄権を尊重し、北極における平和、安定、持続可能な発展に貢献する用意がある」と華春瑩報道官は述べている。
記事参照:China rejects Mike Pompeo’s challenge to its ‘near-Arctic nation’ claim

1月6日「豪政府による南極滑走路建設計画が南極の軍事化をもたらす可能性―豪政治評論家論説」(The Diplomat, January 6, 2020)

 1月6日付のデジタル誌The Diplomatは豪メルボルンを拠点に活動する政治評論家Grant Wyethの“The Worrying Geopolitical Implications of Australia’s Antarctic Airport Plan”と題する論説を掲載し、ここでWyethは豪政府が現在進めている南極大陸における大型滑走路建設計画に伴う環境および地政学的な問題点について要旨以下のように述べている。
(1) 豪政府は2016年に「南極戦略と20年行動計画」という南極政策を発表した。その目玉の一つが南極大陸のプリンセス・エリザベス・ランドに大型航空機が離着陸可能な2.7キロにおよぶ滑走路及び関連インフラを新たに建設するというものである。しかしこの事業には環境問題および地政学に伴う論争が伴っている。
(2) 現在、オーストラリアから南極への飛行は夏の間だけ可能である。オーストラリアはこの滑走路の建設によって年間を通して南極へのアクセスを可能にし、したがって南極における科学調査活動をより活発化し、かつ緊急事態への対応能力を向上することを滑走路建設の理由として掲げている。しかしこの計画は、その事業が南極の繊細な環境に多大な影響を及ぼしかねないとして批判を受けている。
(3) それ以外にも南極をめぐる地政学的競合という要因を無視することはできない。南極について、オーストリアは約800万平方キロメートルの領有権を主張しているが、それを認めているのはフランスとニュージーランド、イギリスのみである。一方でオーストラリアが領有権を主張する土地に観測基地を置く中国やロシアはその主張を認めていない。特に中国は南極におけるプレゼンスを近年拡大させておりオーストラリアはそれに対する警戒を強めている。
(4) 1959年に署名された南極条約は同大陸におけるいかなる軍事活動も禁止するものであるが、南極の調査基地が衛星追跡を行うことを認められているのは、その抜け穴を提供し得るものである。また1991年のマドリード議定書は沖合を含めた南極大陸及びその周辺の掘削を禁止した。しかしその潜在的に豊富な資源ゆえにこの議定書の修正に対する圧力が強まっている。
(5) こうしたことを背景として、オーストラリアの滑走路建設が計画されている。そもそも科学者たちが、この滑走路建設事業の最大の受益者を豪政府だとし、それが環境に悪影響を及ぼすとして反対していることにオーストラリアの地政学的計算を読み取ることができよう。環境への懸念に加え、この事業の完了には10年以上の時間がかかるとされており、その間に科学調査活動自体が停滞することへの不安もある。
(6) より長期的かつ政治的な問題として、オーストラリアのこうした動きが中国やロシアを刺激し、南極における領有権を主張したり南極への大規模基幹設備投資を進めたりする可能性がある。2016年に策定された20年行動計画と国防白書はどちらも南極の軍事化を防ぐ必要性を強調するものであるが、滑走路建設計画を進めることで、その逆の効果をもたらすかもしれない。
記事参照:The Worrying Geopolitical Implications of Australia’s Antarctic Airport Plan

1月8日「米新政権下の米比関係―比専門家論評」(Asia Maritime Transparency Initiative, CSIS, January 8, 2021)

 1月8日付の米シンクタンクCSISのWebサイト、Asia Maritime Transparency Initiativeはフィリピンの南シナ海問題専門家兼ねてNational Chengchi University (Taiwan)研究員Richard J. Heydarianの “South China Sea: A Biden-Duterte Reset”と題する論説を掲載し、ここで Heydarianは1月20日に発足する米国のBiden政権下の米比関係について要旨以下のように展望している。
(1) 米国のBiden次期大統領は当選後の会見などでBiden政権下では世界における米国の役割を再び主張し、同盟関係を重視していくとの姿勢を明らかにしている。しかし、米国の長年の同盟国の一部、特にアジアの同盟国間では、高圧的な中国の台頭と4年間のTrump政権の一国主義が時期的に重なり合ったこともあってワシントンとの戦略的連携に対する懐疑的な見方が強まってきている。
(2) 北京に友好的なことで知られるフィリピンのDuterte大統領は、Biden政権のアジア政策にとって地政学的課題の典型的存在である。米国の政策がアジアで成功するには、中国の復興を求める最悪の行動を抑制するために強固な同盟関係のネットワークを必要とするであろう。したがってインド太平洋の戦略的に重要な位置にあるフィリピンとの緊張した同盟関係を再活性化することがBiden政権にとって重要な課題となる。特に南シナ海は、米中抗争のパラメーターであるともにフィリピンなどの伝統的な同盟国の存在が際立って重要な場所でもある。したがって拡大された海洋安全保障協力はBiden・Duterte戦略的リセットの下で強化される米比同盟における心臓として機能しなければならない。
(3) フィリピンではBiden政権が以前の民主党政権による南シナ海政策を特徴付けた不確実で抑制的な時代への復帰を意味するのではないか、との懸念がある。結局のところ、Clinton政権は中国が1990年代初頭にフィリピンが領有権を主張するミスチーフ環礁(美済礁)を占拠した時、東南アジアの同盟国(フィリピン)を見放したし、またObama政権はフィリピンが領有権を主張するスカボロー礁(黄岩島)の支配に対して、2012年に中国が妨害の挙に出た時、軍事介入を拒否したのである。Trump政権の南シナ海政策が具体化する前に、何故、少なくともフィリピン人の半数が同盟国としての米国の信頼性に疑念を表明したのか、また一方で、10人中7人のフィリピン人がDuterte大統領の中国との経済的関与を歓迎したのか、こうした懸念はその理由を十分に説明している。したがって、Biden政権は特に南シナ海紛争の文脈において、そのアジア政策が中国に対するTrump政権の厳しい姿勢の全面的な否定に繋がらないことをフィリピンなどの不安を抱く同盟国に再保証することが肝要である。要するにフィリピン人は「第3次オバマ政権」を楽しみにしているわけではなく、Trump政権の中国政策のより洗練され刷新されたバージョンを期待しているのである。
(4) フィリピンと米国の同盟は、積極的な外交と多国間連携に基づく抑止力とを結合したアジアにおけるBiden政権の「新しい多国間主義」戦略を効果的なものにする中核的存在となろう。しかしながら、過去30年間、米比同盟は、両国が対テロ作戦協力、人道的支援や災害救援活動などの非伝統的安全保障問題に注力してきたこともあって、米国のアジア戦略の片隅に追いやられてきた。同盟関係に欠けているのは、この地域の海洋安全保障の脅威、特に南シナ海の隣接海域に対する中国の侵略的な姿勢と南シナ海紛争の急速な軍事化に対抗して、強固な同盟関係を発展させていくための持続的な努力である。このため、Biden政権は、過去20年間の大規模な合同軍事活動を支えてきた訪問部隊協定の持続を確実なものにしなければならない。
(5) 今後予想される、Biden・Duterte戦略的リセットは、特に海洋安全保障を重視した、強固な21世紀の同盟関係構築の一環として、以下の三つの主要分野における協力の拡大を重視すべきである。
a. 第1に、Biden政権は繰り返し、そして可能なら、南シナ海におけるマニラの海洋権限主張のほとんどを再確認した2016年の仲裁裁判所裁定に関し、米比相互防衛条約(以下、MDTと言う)に基づくフィリピンに対する米国のコミットメントの正確な範囲を改めて明示することによって戦略的再保証を引き受けるべきである。
b. 第2に、米比両同盟国は海洋安全保障協力と相互運用性を強化するため、MDTのガイドラインについて補足的な合意や必要な改正を検討すべきである。特に、このことは中国による「グレーゾーン」の脅威、すなわち近年、近隣の弱小領有権主張国とその漁民を脅かしてきた、国家統制下の海上民兵部隊の活動に鑑みて、喫緊の課題となっている。例えば、Kim元駐フィリピン米大使はMDTが中国によるこの種のハイブリッド戦争にも適用される可能性を公に示唆している。しかし、このためには補足的な合意に至らないまでも新しい種類の合同演習を必要とするであろうし、一方、フィリピンは、2014年の防衛協力強化協定(EDCA)に従って、特に南シナ海の係争海洋自然形成地形に近接する特定の戦略的基地に米国が高度な装備を事前集積することを規制した、政治的制約を再考しなければならないであろう。(抄訳者注:EDCAは比国内5カ所の空軍基地を拠点とすることを米軍に認めており、その内3カ所が南シナ海に面している。)
c. 最後に、米国はフィリピンなどの南シナ海に対する領有権主張国が当該隣接海域における正当な権益を監視し、防衛する能力を強化すべきである。フィリピンは現在、前例のない数十億ドル規模の軍事力近代化計画を推進中である。Biden政権は、日本や韓国などの域内の主要同盟国と共に、南シナ海における「信頼できる抑止」能力を実現するために、フィリピンの近代化努力を加速させることができる。重要なことは、2国間の強化だけではなく、Biden政権のアジア戦略が成功することでもあり、いずれか一方だけというものではないのである。
記事参照:South China Sea: A Biden-Duterte Reset

1月9日「南シナ海における米中の『グレーゾーン』での対立激化か-香港紙報道」(South China Morning Post, 9 Jan, 2021)

 1月9日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“US-China ‘grey zone’ rivalry in South China Sea may be about to intensify”と題する記事を掲載し、米国は海軍、海兵隊、沿岸警備隊を統合した形の新海洋戦略を発表して中国に対抗するため「乗船協定」を拡大し、沿岸警備隊によるグレーゾンーンでの行動の強化を意図するのに対し、中国はこれに強く反発しているが中国海警は南シナ海でグレーゾーンにおいて主要な役割を演じており、米中のグレーゾーンでの対峙、争いは紛争へ発展する可能性があるとして要旨以下のように報じている。
(1) 米国は南シナ海においてますます存在感を増す中国に対抗するため沿岸警備隊を含む海上戦力を統合する戦略を発表した。次の10年間に向けた米国の新たな海上戦戦略では米海軍、海兵隊、沿岸警備隊は「統合された全領域に及ぶ海軍力」建設を協同して声明し、海洋同盟の強化を求めている。新戦略は中国を「喫緊の、長期的な戦略的脅威」と呼んでいる。海洋における優位と表題が付された戦略は11月に公表され、米海軍の目的を「航行の自由の維持、侵略の抑止、戦争での勝利」と定義している。新戦略は「中国の行動と加速される軍事力増強は米国の能力を増強し続けることを求める軌道に乗っている。我々は分岐点にいる」と述べている。新戦略は、2015年以来、初めての海軍・海兵隊・沿岸警備隊統合の海洋戦略であり、米中が閾値以下での兵力の投射を行う「グレーゾーン」での行動を強化しつつある時に発表されている。
(2) 沿岸警備隊が南シナ海においてどれだけの役割を演じているかを示す情報はわずかしか無いが、沿岸警備隊は南シナ海方面において米太平洋艦隊や東南アジア諸国との訓練への参加など米国の戦域における安全保障への関与に関係してきた長い歴史があり、「この新しい海軍・海兵隊・沿岸警備隊統合の海洋戦略は協調と調整の既存の慣習を尊重し、中国の海洋での行動に対抗するためこれら米海上戦力がどのように協同し、それぞれの強点を活用するかの指針として機能するだろう」とシンガポールのThe S. Rajaratnam School of International Studies研究員Collin Kohは言う。米シンクタンクRANDの防衛問題上席研究員Derek Grossmanは「新戦略の意図は、より機動力があり多大な被害をもたらさない艦船、航空機を中国が現実に展開している係争中の海域で運用することである。米国はこの方策によってより効果的に中国の行動を抑止できるかもしれないが、人民解放軍海軍の艦船、航空機等を投入し、潜在的な米海軍の関与を誘発することで紛争を拡大させるかもしれない」と言う。
(3) 国防総省の支配下にある海軍や海兵隊と異なり、沿岸警備隊は平時には国土安全保障省の支配下で行動しており、米中間の対立の中でいずれかの側に立つことに長い間消極的であったASEAN諸国に関わる際、沿岸警備隊の行動は公然たる軍事行動より注意を払う必要が無い。米国は南シナ海で係争中の海域へ出入りする正統性を得るため「乗船協定(shiprider agreement)」(抄訳者注:他国の法執行官を米艦船に同乗させる協定)を領有権を主張している東南アジア諸国への拡大をも追求するかもしれない。各国の警備当局者は乗船協定の下、哨戒中の米沿岸警備隊の法執行船あるいは航空機に乗船あるいは搭乗でき、各国警備当局は米沿岸警備隊が彼らの代わりに行動することを承認することができる。
(4)「漁業に対する共同法執行の名の下で南シナ海問題に介入しようとする米沿岸警備隊の新たな取り組みは、南シナ海における中国の行動を制約しようとするものであり、将来の米政権の南シナ海政策の重要な選択肢となるかもしれない。そのような協定に署名することは、権利を主張している国がその排他的経済水域における主権者の権利を米国に実質的に譲渡するもので、南シナ海の係争中の海域は米国の管轄権の下に置かれ、米沿岸警備隊の南シナ海への展開が正統化される」と中国南海研究院海洋法律与政策研究所所長閻岩は言う。
(5)中国海警船は、ナツナ諸島沖での漁業をめぐる対立、バンガード礁をめぐるベトナムとの対峙など最近のいくつかのグレーゾーンでの行動で主要な役割を演じてきた。米国と日本を含むその同盟国はベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシアの沿岸警備隊等と中国海警の間の規模と装備の高度化に大きなギャップがあるにもかかわらず、ベトナム等の能力近代化を追求し、能力開発計画、訓練、装備品の移転を提供してきた。明確なルールのないグレーゾーンでの対峙や争いによって、紛争のリスクは高まるだろう。軍に焦点を当てた「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)」の拡大が求められているが、確固とした進展はない。
記事参照:US-China ‘grey zone’ rivalry in South China Sea may be about to intensify

1月10日「中ロの台頭に米国はどう対処すべきか―米海軍問題専門家論説」(The National Interest, January 10, 2020)

 1月10日付の米隔月刊誌The National Interest電子版は米シンクタンクThe Heritage Foundationの上級研究員Brent D. Sadlerの“Russia, China and More: How America Can Address Its Biggest Coming Threats”と題する論説を掲載し、ここでSadlerは近年特に顕著となり今後も続くであろう中ロの台頭に対処するために米国は海軍力を増強する必要があるとして要旨以下のように述べている。
(1) 米国はロシアと中国との間の大国間競合に直面している。これはJoe Biden政権にとって新しい課題ではない。今日、米中および米ロの対立が強まっているゆえに、米国は強力な海軍とさまざまな方面における軍事的プレゼンスの増大、そして国家としての必要性に基づくプラグマティックな外交政策をますます必要とするようになっている。
(2) 中国共産党による支配の正当性の背景にあったのは、その急速な経済成長であった。しかし高齢者人口の増加と経済成長の鈍化という近年及び今後予測される動向は、その正当性に挑戦を突きつけている。また、香港における逃亡犯条例改正の事例は中国が「一国二制度」という平和的解決の新たな枠組みを放棄したことを示している。こうした状況を背景として台湾問題の力による解決に乗り出す可能性がある。中国は軍隊の近代化を進めている一方、2029年には人口減少が始まり、現在6.9%のGDPの成長率も3%に鈍化すると見積もられており、その時期に緊張のピークがくるかもしれない。そうなれば米国は戦争に巻き込まれることになるだろう。
(3) 他方ロシアは、自国の国益に反するとみなす地政学的秩序の弱体化を模索し続けている。2008年のジョージアとの戦争以降、Putin指導下のロシアは限定的な軍事的・経済的・外交的手段をうまく活用して大きな効果を獲得する手腕に長けていることを証明してきた。さらにアジアにおける中国の攻勢によって、ロシアはその間隙を縫って自国の利益拡大を進めている。
(4) 中国とロシアの双方において、習近平国家主席とPutin大統領は法改正を通じて自身の支配体制の終身化を可能にしようと試みている。中国では2018年に全人代が憲法修正を承認して国家主席の任期を撤廃し、また2020年にはロシアで国民投票が行われ圧倒的多数が憲法修正を支持した。もしそれがなれば、彼らは自分の支配の正しさを証明するために、より積極的に軍事的、経済的、外交的成功を求めるようになるだろう。ただし、この両国は自国の治安維持のために多くの労力を割く必要があるために、国外においてはグレーゾーン戦略と呼ばれるものを通じて現実の修正を模索している。彼らのゴールは既成事実を通じてその戦略的、経済的、軍事的目標を達成できる立場に自らを置くことである。
(5) 米国はこうした中ロのやり方に対し、戦争に至らないように対処しなければならない。そのために海軍は新兵器や新装備などを搭載した大規模な艦隊の建造や配備を通じて中ロの軍事的プレゼンスの拡大に対抗する必要がある。より具体的には以下の七つの課題に取り組むべきだろう。
a. 戦略的方針の発表。それは海軍、政府、議会、産業界を横断する協力を可能にするものでなければならない。
b. 新たな作戦行動能力を備えた大規模な艦隊の建造と配備を急ぐ。
c. 艦船建造能力の拡大。新造のみならず、保守・整備能力を備えたもの
d. 現在の限られた艦艇を南シナ海や東地中海などに優先配備する。
e. 中核となる艦艇の再構築
f. 沿岸警備隊を含め、統合的な海軍戦力の確保と強化。それによって排他的経済水域や、中部・南部太平洋など戦略的に重要な海域の安全を確保する。
g. 包括的な国家的建艦計画に着手
記事参照:Russia, China and More: How America Can Address Its Biggest Coming Threats

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Why 2021 could be turning point for tackling climate change
Why 2021 could be turning point for tackling climate change - BBC News
BBC, January 1, 2021
 1月1日、英公共放送局BBCのウエブサイトは“Why 2021 could be turning point for tackling climate change”と題する記事を掲載した。その中ではCOVID-19は2020年の大きな話題であったことに疑いの余地はないが、2021年末までにはワクチンが登場し、コロナウイルスよりも気候変動問題について多くのことが語られるようになることを期待しているとした上で、2021年は気候変動への取り組みにとって、間違いなく重要な年になると指摘されている。その具体的な理由として、①2021年11月には2015年に開催された画期的なCOP21パリ会議の後継となる国際会議がグラスゴーで開催されるが、パリ会議の目標はまだ達成されていない、②世界最大の二酸化炭素排出国である中国が2060年までにカーボンニュートラルを達成することを目指すと表明するなど各国が動きを見せているが、11月の会議ではこの野心的な目標について精査が必要、③再生可能エネルギーの単価がどんどん低下しており、各国政府は、自国の経済活動で利用される再生可能エネルギーを拡大することで、自国の競争力を高めることが可能となる、④COVID-19は大恐慌以来最も重大な経済的ショックをもたらし、これを受けて各国政府は経済を活性化するための景気刺激策を推進しているが、欧州連合と米国のBiden新政権は、経済を活性化し、脱炭素化のプロセスに弾みをつけるために数兆ドルのグリーン投資を約束するなど経済のグリーン化が促進される可能性がある、⑤すでに企業経営もグリーン化されつつあり企業に対する評価もテスラが世界で最も価値のある自動車会社となった一方で、かつては世界で最も価値のある企業だったエクソンの株価は下落し、米大手企業のダウ・ジョーンズ工業株30種平均銘柄から外れるといった動きが見られるが、実際の二酸化炭素排出量は2019年の水準まで徐々に戻ってきている、などが挙げられている。

(2) What Does Vietnam Want from the US in the South China Sea?
https://thediplomat.com/2021/01/what-does-vietnam-want-from-the-us-in-the-south-china-sea/
The Diplomat, January 04, 2020
By Derek Grossman, a senior defense analyst at the nonprofit, nonpartisan RAND Corporation
 1月4日、米シンクタンクRAND Corporation上級防衛アナリストDerek Grossmanは“What Does Vietnam Want from the US in the South China Sea?”と題する論説をデジタル誌The Diplomatに寄稿した。ここでGrossmanは、①ハノイは南シナ海での中国の悪行に対抗しなければならないが、ベトナムの将来は北京との平和的な関係と切り離せない関係であることも理解しているため政策の好みを公に発表することを避けている、②米国がベトナムと中国が争っている南シナ海の紛争地域に関し、北京による海洋の権利の主張に配慮しないと発表すればハノイは満足する、③Biden政権はインド太平洋戦略を堅持すべきだが、ベトナムが米中のどちらかを選択せざるを得ない状況を望まない、④ここ数年Trump政権はASEAN地域フォーラムや東アジアサミットに高位の代表を派遣しなかったため、Biden政権がこれらのイベントに高官を派遣し、できれば大統領自身が参加することが重要である、⑤ハノイの「四つのノーと一つの依存」(Four No’s and One Depend)と呼ばれる防衛政策は制約があるが、挑発的ではない形での協力の余地がある、⑥Biden政権は米越の「包括的パートナーシップ」を「戦略的パートナーシップ」に格上げすることで、ベトナムとの関係を再構築することを検討すべきである、⑦ベトナムは米国の支援をますます求めるようになるため、Biden政権は同盟国やパートナー諸国と連携を図りながら、これらの機会を活用すべきである、などの主張を述べている。

(3) China as a Composite Land-Sea Power: A Geostrategic Concept Revisited
https://cimsec.org/china-as-a-composite-land-sea-power-a-geostrategic-concept-revisited/47156
Center for International Maritime Security, JANUARY 6, 2021
By Toshi Yoshihara, a senior fellow at the Center for Strategic and Budgetary Assessments
 1月6日、Center for Strategic and Budgetary Assessmentsの主任研究員Toshi Yoshiharaは米シンクタンクCenter for International Maritime Securityのウエブサイトに“China as a Composite Land-Sea Power: A Geostrategic Concept Revisited”と題する論説を発表した。ここでYoshiharaは中国の人民解放軍はグローバル化しており、例えば、2017年にジブチに恒久的な基地を設置したが、これに加え、人民解放軍の前方展開部隊に後方支援を提供できる場所をさらに探していると伝えられており、今後10年間で人民解放軍は西太平洋をはるかに越えて、多くの地域に影響を与え、限定的な戦闘を含む幅広い任務を遂行できる態勢を整えることができると指摘している。その上で、人民解放軍がグローバル化するにつれ、中国の指導者はますます高まる注目と資源の需要に応える必要が生じており、彼らは海洋における中核的な利益を守り、内陸に沿って平和を維持し、海外における永続的なプレゼンスを維持するために懸命に努力しなければならないが、海に面すると同時に陸地で隣国と国境を共有する伝統的なland-sea power国家として、中国は常に大陸や海洋の脅威に警戒しなければならないとして、トレードオフ関係に陥りがちな陸と海への両方の対処を求められる中国の戦略の難しさを指摘している。