海洋安全保障情報旬報 2020年2月1日-2月10日

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2月1日「フィリピンは米比同盟の均衡を保つべき―比国際関係学教授論説」(Fulcrum, February 1, 2021)

 2月1日付のシンガポールYusof Ishak Instituteが発行する東南アジア専門デジタル誌Fulcrumは比De La Salle UniversityのRenato Cruz De Castro教授による “The Philippine-US Alliance: Keeping Things on an Even Keel”と題する論説を掲載し、ここでCastroは米比訪問軍地位協定の破棄をフィリピン側が保留したことを受け、フィリピンがBiden政権下の米国とどのような関係を築いていくべきかについて要旨以下のように述べている。
(1) 2020年11月に実施された米国大統領選挙の直後、Rodrigo Duterte比大統領は1998年に締結された米比訪問軍地位協定(以下、VFAと言う)の破棄を再び保留にすると発表した(抄訳者注:2020年2月、フィリピンは一方的に半年後の協定破棄を通告していたが6月にそれを保留しており、今回が二度目の保留となる)。これはワシントンにおける政権交代を受けて、米比同盟をより安定的な基盤に据えようという意図の下での決定であろう。
(2) Biden新政権にとっても米比同盟の強化は望むところであった。選挙期間中にBidenはTrumpへの対抗から自身を対中国強硬派と位置づけており、中国がルールに基づく国際秩序を弱体化させているとみなしてきた。Biden政権やTrump前政権よりも、人権の尊重や法の規則の遵守、民主主義の推進といった基本的価値に対して関心を払うことが予測されており、その中で志向を同じくするオーストラリアや日本、韓国、そしてフィリピンとの同盟の重要性が再確認されているのである。
(3) ただしBiden政権における人権重視の姿勢は、米比同盟にとってトゲのようなものになるかもしれない。Duterteが大統領に就任した2016年の後半、当時のObama政権の高官が、フィリピンの麻薬撲滅戦争のなかで実施されていた超法規的殺人を批判すると、彼は米比同盟の解体を示唆した。しかしTrumpが大統領に就任して米比同盟へのコミットメントを表明し、また麻薬撲滅戦争における人権侵害や、政権に批判的な最高裁判所判事の更迭、上院議員の勾留などを見過ごしたことでDuterteは対米批判から一歩引くことになった。Trump政権とDuterte政権の間で米比同盟は「取引」のような関係に入ったのであった。
(4) こうした「取引」主義がBiden政権下の米国との間で継続することはないだろう。米国は、なお東南アジアの海域における米国のプレゼンスや、「航行の自由」作戦のサポートをフィリピンに期待するであろうが、その一方で麻薬撲滅戦争などに見られる人権侵害に異議申し立てをするかもしれない。こうした中、南シナ海における中国の膨張に直面しているという点においてフィリピンは米国との関係を維持するべきであり、具体的には以下に示す方策を採るべきであろう。
(5) まず、VFAの修正や2014年の米比防衛協力強化協定の履行に関する交渉を成功させることである。次にBiden政権関係者と非公開協議を行い、人権問題に関する議論で落とし所を見つける必要があろう。さらにフィリピンの人権委員会により多くの資源や人員を投入し、麻薬撲滅戦争における人権侵害について調査を行うべきだろう。また、勾留していたLeila De Lima上院議員を解放すべきである。最後に、COVID-19の世界的流行を受けて同盟の内容に健康に関する安全保障を含めることを米国に提案すべきである。オーストラリアや日本との間で、危機的状況における医療対応などに関する共同演習を実施してもよい。
記事参照:The Philippine-US Alliance: Keeping Things on an Even Keel

2月1日「中国の覇権の将来:インドからの眺め―印前駐中国大使論説」(The Strategist, February 1, 2021)

 2月1日付のAustralian Strategic Policy InstituteのウエブサイトThe Strategistは2020年1月までインドの外務次官であり、前駐中国インド大使であるVijay Gokhaleの“China’s vision of hegemony: the view from India”と題する論説を掲載し、ここでGokhaleは、中国は社会主義的な特徴を持った独特な覇権に基づく政策と行動を止め、インド太平洋の将来に関するオープンな議論に参加するべきであるとして要旨以下のように述べている。
(1) インド洋における勢力均衡は地域外からの国々が恒久的な展開を確立し始めるにつれて大きな変化を遂げている。過去10年間で最も大きな変化は沿岸国の排他的経済水域での水路調査、潜水艦や水中無人機の配備拡大、ジブチでの海外軍事基地の建設などのインド洋北部における中国の海軍活動の急増であった。中国は自国の海軍活動は正常かつ合理的であると主張し、覇権を求めることは決してないことを世界の国々に保証しているものの、海軍活動の急増をインド洋全体におけるより大きな中国海軍の展開の始まりと考えるならば、中国の意図と行動を綿密に調べる必要がある。中国が覇権を行使しないと言うとき、その覇権とは米国の覇権とは同じ意味ではない。パックスブリタニカの時代の英国の覇権とも違う。中国は、軍事力と影響力を利用して無秩序な世界に秩序を与えるという大国の役割を引き受けようとはしていない。世界中に共産主義を輸出しようとしたソ連の失敗は、中国共産党のすべてのメンバーにとって大きな教訓となっている。
(2) 中国は、インド太平洋の支配的な国家になるために、永続的かつ一貫した行動を通じて自国の国益を追求している。中国の覇権は、社会主義的な特徴を持った独特なものである。Covid-19は三つの理由でこの特徴をさらにはっきりさせた。第1に、世界の重心は大西洋・地中海地域から予想より早くインド太平洋地域に移動した。中国は中心的な行為者であるがASEAN、インドなどもこの過程を促進している。 第2に、10年前の中国と米国の間の国力の釣り合いは少なくとも21世紀前半は米国に有利なままである可能性が高いとの期待は間違っていることが証明された。中国はインド太平洋における米国の力に挑戦する決意を示しただけでなく、西太平洋における米海軍の優位に対抗する能力を構築している。中国を太平洋の第1列島線及び第2列島線の内側に閉じ込め続けられる可能性は低い。第3に、米国の覇権に対する脆弱性を減らすため貿易、技術、金融を並行的に組み合わせた政策を構築している。Covid-19に関する中国の国際的な行動はインド太平洋の周辺国と近接国家に懸念の正当な原因を与える。中国は「人類の未来を分かち合う共同体」や「win–winの協力関係」について語る。中国は勢力均衡の政治を行っており、苦境の中にある他国を利用する方法で行動する。中国の目的は競争を排除する方法で生産的な技術、貿易ネットワーク、資金調達の分野で覇権を確立することである。BRIの主な問題点は、インド太平洋諸国の脆弱な経済が直面するであろう大きな債務であると心配する人々がより大きな視野を欠いていることである。中国は顧客を貧困にすることを目指しているのではなく、自国のシステムによりその国で中国の技術とサービスが独占的になることに向けられており、それは中国の戦略的利益と合致している。デジタルの依存関係はこの目的に不可欠である。
(3) 中国版の覇権では、中国の産業とサービスがインド太平洋で覇権を享受し、中国国民の繁栄と幸福を確保する限り、中国は糖衣錠のように地域のために公共財と資金を提供することに満足している。中国の覇権のもう一つの側面は、中国が「核心的な」懸念と利益と呼ぶものを受け入れ、それを尊重するのが地域の責任であるというやり方である。「核心的利益」は状況に応じて変化するが、これについて協議したり交渉したりすることは常に不可能である。「核心」は常に中国によって定義される。その定義は、経済的、社会的、文化的問題、さらには中国の指導者のために主権と領土の統合性の問題を超えて拡大している。
(4) インドは、この地域は米国や中国の単一の国の優位よりも力の釣り合いによって良くなるものであると考えている。それがインドのインド太平洋ビジョンの大きな柱の一つである。この地域のどの国かに拒否権を与えることは、地域全体の危険につながる。また、中国がインド太平洋のビジョンを4カ国安全保障対話(以下、QUADと言う)のような多元的なメカニズムと混同することを選択したとき、それは他国にとっても懸念事項である。QUADは彼らが位置する地域で共通の利益を共有する国のグループのための政治的基盤である。インド太平洋地域はインド、オーストラリア、日本と同じく中国のホームグランドである。この地域の国の多くは、米国を常駐の軍事力とみなしており、その存在は地域の安定と成長に役立っている。中国自身も少なくとも国家の発展を助けてきた資本と技術を確保する上で、米国のプレゼンスの恩恵を受けている。したがって、QUADに安全保障上の危険と平和と発展への脅威とレッテルを貼ることは矛盾している。中国は自国との関係以外の地域の他の政治的基盤を認めたくないのである。QUADは歴史的な逆行であり平和と安全保障の危険であるという中国の主張は間違いである。
(5) 中国が主張するように、平和と安定の原則を守り、誠実な外交哲学を実践する準備ができているならば行為で実証すべきである。中国は現状を一方的に変えることによって近隣諸国に対して示した侵略を元に戻すことから始め、インド太平洋の将来に関するオープンな議論に参加するべきである。インドは、民主的かつ透明な関与の原則に従い、世界的に合意された行動規範の尊重に基づいて、すべての当事国とアジアの安全保障について話し合う用意がある。
記事参照:China’s vision of hegemony: the view from India

2月2日「アジア太平洋における米軍規模縮小は何をもたらすか:RAND研究所報告―香港英字紙報道」(South China Morning Post, February 2, 2021)

 2月2日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“Would scaled back US military role in Asia-Pacific open door to China? Not everyone is convinced”と題する記事を掲載し、1月に米シンクタンクRAND研究所が発表した報告書の概要について要旨以下のように報じている。
(1)  2021年1月、米シンクタンクRAND研究所が“Implementing Restraint”と題する報告書を発表した。それは米軍のグローバルな役割を縮小せよと主張する現実主義者、すなわち「抑制派」が主張する戦略が採用されたらどのような変化が起きるかを調査したものである。
(2) 同報告書は、「抑制派」がロシアやイランが周辺地域を支配することができるような強い国だとはみなしておらず、また、中国に関しては、それが攻撃的であり続ける可能性は低いし、またその抑止は不可能ではないと考えている。そうした理解に基づき、米国の安全保障を脅かしうるような事態が起こる蓋然性は低く、それゆえ海外駐留部隊を米国は削減すべきだと彼らは主張しているという。
(3) アジア太平洋地域に関して、「抑制派」は中国の封じ込めが不要な紛争を起こすかもしれないとして、「航行の自由」作戦や南シナ海での哨戒活動を削減すべきだと主張しているという。報告書が言うには、もし中国が台湾へ侵攻を開始したとしても、それに対して米国が介入することを「抑制派」は支持しないだろう。「抑制派」のあるアナリストは、米国は尖閣諸島の防衛義務を負っているという考えを放棄すべきだと主張しているという。
(4) ヨーロッパに関して、「抑制派」によれば同様に米国にとっての脅威はほとんどない。上述したようにロシアの能力には限界があるためであり、したがって米国はヨーロッパの駐留部隊の規模を削減すべきだというのが「抑制派」の主張である。
(5) 報告書の著者の一人である中国社会科学院の劉衛東によれば、Biden政権が「抑制派」の方針を採用する可能性は低い。Biden政権はTrump政権よりも理想主義的であり、人権や民主主義を重要視し、また中国に対しては強硬姿勢を示しているためである。中国との協調の可能性が放棄されているわけではないが、中国にとって望ましい条件で米中が協働することはありえないであろう。そのうえでこの報告書が示唆しているのは、米国にはいくつかの考え方とそれに基づく方針があり、何が採用されるかによってその全体的な動向が大きく左右されるということである。
記事参照:Would scaled back US military role in Asia-Pacific open door to China? Not everyone is convinced

2月2日「米Biden新政権下でのインド太平洋戦略の行方―中国系専門家論説」(Think China, February 2, 2021)

 2月2日付のシンガポールの中国問題英字オンライン誌Think ChinaはジュネーブのGraduate Institute of International and Development Studies教授Xiang Lanxin(相藍欣)の “The Indo-Pacific strategy could turn into an empty shell under Biden”と題する論説を掲載し、ここで相藍欣はBiden政権下ではインド太平洋戦略はその対中政策における中核的要素ではなくなるであろうとして中国寄りの視点から要旨以下のように述べている。
(1) 「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は米国が近年推進してきた最も重要な地政学的概念である。しかし、単一の国―中国―を目標とする戦略的姿勢の故に、この概念は、理論と実践の両面において非現実的である。インド太平洋戦略は単なる線香花火的なものになるかもしれない。アジア太平洋地域諸国が中国か米国かの選択をしないであろうことは明確である。しかし一方で、多くの専門家は、中国を最大の抗争相手とする取り組みが、これら諸国内でも、また米国の西側同盟国の間でも超党派の支持を得ていることについては同意しているようである。したがって現在の米国内や国際的な政治環境から判断すれば、Biden米政権にとって中国に対して厳しい姿勢を取ることは有利なように思われるが、実際はそうでもない。米国内の共和党と民主党の主流派と欧州とアジアの同盟諸国はTrump前政権の中国に対する包括的な封じ込め戦略に全面的に同意していたわけではなかった。Trump前政権のインド太平洋戦略はBiden新政権に克服し難い幾つかの課題を残した。
(2) 第1に、インド太平洋戦略は議論だけで、何の行動も伴っていないと言える。米国はアジア太平洋地域に「ミニNATO」を構築することを狙いとして、最初から軍事的側面に焦点を当ててきた。しかし今日まで、中核的な軍事機構も明快な軍事戦略もない。唯一の成果は米国、オーストラリア、日本及びインドの「4カ国安全保障対話枠組み」(以下、Quadと言う)の復活である。しかし、Quadは、調整された軍事指揮機構とは程遠いものである。Biden政権の核心的目的は対中政策における軍事色を薄めることであるが故に、Quadが「ミニNATO」に発展する可能性はないようである。
(3) 第2に、インド太平洋戦略の致命的な欠陥は「インド」も「太平洋」も含まない、経済領域にある。すなわちインド太平洋地域の二つの大国―太平洋最東端の米国と最西端のインド―は、この地経学的ベルトにおける貿易投資協定のメンバーではないのである。米国は「環太平洋パートナーシップ」(TPP)協定から撤退し、インドは「地域的な包括的経済連携」(RCEP)交渉から撤退した。他方、中国はRCEPの一員であり、TPPにも参加意思を表明している。したがって、Biden政権はTPPに参加するか、あるいはRCEPに参加するようインドを説得するか、いずれかの決定に直面せざるを得ないが、いずれの選択も困難な課題を内包している。前者の選択は米議会上院で承認されないかもしれず、また後者の選択はModi首相の支持を得られそうにもない。故に、インド太平洋戦略は政治的、軍事的価値をほとんど持たない外交的枠組みに過ぎないものとなろう。中国は二つの経済協定の加盟国にとって最大の経済的利害関係国であるが故に、これら諸国は、(中国に対する)積極的な軍事的対決戦略を支持することはないであろう。
(4) 第3に、Biden政権は中国を牽制するための多国間取り組みを重視しており、したがって中国による挑戦に対処するために同盟国を頼りにするであろう。この点において、Quadによる協力の範囲は限られており、インド太平洋戦略は同盟諸国間の絆を強固にする上でほとんど価値がない。シンガポールの故Lee Kuan Yew元首相が言ったようにアジア太平洋地域の国々は、この地域における2頭の巨象による致命的な対立に至る戦いを見たくない。Trump前政権のPompeo国務長官は域内諸国を訪問する度に、中国を攻撃し、これら諸国に米中いずれかの選択を迫り、域内の多くの指導者を困惑させた。しかもこうした姿勢から、日本や韓国を含むほとんどのアジア太平洋諸国は米国にとって唯一の価値と重要性が米中いずれの側を選択するかにあり、2国間関係にはあまり注意を払っていないと考えさせるに至った。実際、Pompeo外交スタイルは、インド太平洋地域における米国の評判と信頼性を大幅に低下させることになった。
(5) 結局のところ、Biden大統領の政治的打算から、今後4年間の外交問題は内政と密接に関連付けられるものとなろう。2020年9月に発表された民主党の調査報告書によれば米国の中産階級のほとんどは中国に対する新たな冷戦を戦うことに興味がない代わりに、中国からの投資の結果として生み出される製造業の雇用に関心を示している。Biden政権はこれまでQuadについては何ら言及してこなかった。様々な観点から判断してインド太平洋戦略が米国の対中政策の重要な項目であり続けることは困難である。実際、インド太平洋戦略はBiden政権の新しい中国政策における「鶏の肋骨」(抄訳者注:a “chicken rib”:ほとんど価値がないが、捨てるには惜しいものを指す比喩的表現)となる可能性がある。すなわち、この戦略が公然と放棄されれば、米国は中国に対する姿勢を軟化させ譲歩していると見なされるであろう。一方、これが放棄されなければこの戦略が単なる貝殻でないことを示すために新しいアイデアを盛り込まなければならないであろう。いずれにしても少なくともBiden政権は、共産党政権の打倒を求めたPompeoの反中外交を断念しなければならない。
記事参照:The Indo-Pacific strategy could turn into an empty shell under Biden

2月6日「中国の弱点を押さえよ:米シンクタンク提言―香港紙報道」(South China Morning Post, Feb 6,2021)

 2月6日付の香港日刊英字紙South China Morning Post電子版は“US should seize on China’s big weaknesses to curb its global ambitions, Washington strategy report advises”と題する記事を掲載し、2021年1月4日に発表された米シンクタンクThe Centre for Strategic and Budgetary Assessments上席研究員Toshi Yoshihara及び研究員 Jack BianchiのSeizing on Weakness: Allied Strategy for Competing With China’s Globalizing Militaryを取り上げ、中国が抱える三つの軍事的弱点を押さえ、人民解放軍がその資源を各地での紛争に投入して世界規模の紛争に発展させることを抑止しなければならないとして要旨以下のように報じている。
(1) 米シンクタンクThe Centre for Strategic and Budgetary Assessmentsによれば中国との戦略的対立は続いており、広い範囲に及んでいることを考えれば、ワシントンとそのパートナー国は、北京の計算に圧力をかけるため人民解放軍が海外に基地を保有し、部隊を展開するための対価を引き上げるようにしなければならない。1月に出版された最新の“Seizing on Weakness: Allied Strategy for Competing with China’s Globalising Military”と題する報告で、著者のThe Centre for Strategic and Budgetary Assessmentsの上席研究員 Toshi Yoshihara及び研究員 Jack Bianchiは人民解放軍は急速な増強と近代化によって西太平洋を越えた遠く離れた戦域に兵力を投射してくるだろう。そして、そのことは平時、戦時のいずれの場合においても様々な方策で米国に問題と脅威を及ぼすだろう。YoshiharaとBianchiは中国には特有の弱点があり、それは特に外からの圧力に弱く、米国及びその緊密な同盟国は「中国の弱点に対し相当程度の働きかけ」を享受でき、もし実行すれば戦略的な利得を得ることができると述べている。
(2) 報告書によれば、陸上、海上において中流国家、大国に囲まれた中国に地理は明白な弱点の一つである。第2に、人民解放軍が世界的な任務に集中するのを阻害する近傍における複雑な危機を中国は機敏に対処しなければならない。第3の重要な弱点は、中国が信頼できる軍事大国であることを示すために必要な海外における基幹設備網の欠落を埋めるという後方支援上の問題である。これには政治的、外交上、法的、経済的、作戦上の要求が関係している。中国は基本的に陸上に向けた戦略か海上に目を向けた戦略を選択しなければならないだけでなく、近隣諸国との複雑な領土紛争、海洋における紛争によって「中国の世界計画を犠牲にして」不測の事態に大切な資源を消費してきた。
(3) 米国とそのパートナー国は中国に近海、遠海、さらに可能であれば大陸縁辺にわたって希少な資源の分散を強制する戦略を追求すべきである。日本、台湾、フィリピン州近傍を強固にすることを含む戦略は近海における行動に中国はより多く投資せざるを得なくするシー・ディナイアル、エアー・ディナイアルの実行が含まれるだろう。米国はまた、中国の海洋周縁に沿って係争中の地域において圧倒的な強さを維持する新たな能力を開発するかもしれない。
(4) 急速に先進的になってきている人民解放軍の能力は急速に増大する世界的な中国の利益を守るにはまだ不十分である。権力を守りたい北京は海外における後方支援能力が必要であり、この分野は中国にとって重大な弱点であり米国が優越しているものであると報告書は述べている。
(5) 米国は、中国の海外基地の潜在的な受け入れ国に対し中国は信頼に値しないことを強調し、潜在的な受け入れ国において「依存性を培養しようとする」試みに対して注意を喚起することで「調整された外交と情報による反撃を実施」しなければならない。そして心理的恐怖は北京の政策決定に影響を及ぼし、人民解放軍に対する信頼を損なうかもしれない。「米国とその同盟国は、中国の遠洋に配備される艦隊、前方展開部隊、人民解放軍に補給を行い、中国経済を維持するSLOCを危険にさらす能力を確実に示さなければならない。同盟国は中国の侵略的行為は連合した対応に遭うという明確なメッセージを発信しなければならない」と著者達は言う。報告書は「北京が失敗するのを待ったり、望んだり」する代わりに、ワシントンは積極的に、直ちに行動し、「米国と同盟国は、中国の弱点が操作し、利用しやすい間に活用するため今、行動しなければならない」と言う。
(6)「そのような戦略は中国に問題を引き起こすには最適なものかもしれない。しかしそこには誤判断があるため、その効果は限られたものだと思う」と北京を拠点とする軍事専門家の周晨明は言う。北京の領域係争に対する取り組みは2国間の交渉と軍事力使用の回避であると周晨明は言う。人民解放軍の能力が向上してきたので軍事的紛争を求める競争相手は少なくなり、中国の重要な軍事資源をそのような係争に消費することは無くなった。周晨明は付け加えて、中国が見通しうる将来に世界に出て行く目的は軍事的な兵力投射と言うより、むしろ貿易と経済的利益であり海外基地の「開設初期経費でもがく」ことはなさそうであると言う。「Biden政権は、いまだ明確な対中政策を発表していないので、我々は同政権がいずれのシンクタンクの提言を取り上げるのか注視している」と周晨明は述べている。
記事参照:US should seize on China’s big weaknesses to curb its global ambitions, Washington strategy report advises
※Seizing on Weakness: Allied Strategy for Competing With China’s Globalizing Militaryの全文は以下を参照。
https://csbaonline.org/research/publications/seizing-on-weakness-allied-strategy-for-competing-with-chinas-globalizing-military/publication/1
 

2月9日「インドはインド洋において拒否戦略を採用すべきである―米南アジア専門家論説」(The Interpreter, February 9, 2021)

 2月9日付の豪シンクタンクLowy InstituteのウエブサイトThe Interpreter は米Stanford UniversityのShorenstein Asia-Pacific Research Center 南アジア担当研究員Arzan Taraporeの“India should prioritise a denial strategy in the Indian Ocean”と題する論説を掲載し、ここでTaraporeは印中の緊張が高まる中、インドがインド洋で中国に対する攻勢に出るべきだという主張に反駁し、インドはパートナー諸国や地域の国々との連携を深めつつ、拒否戦略を採用すべきだとして要旨以下のように述べている。
(1) 2020年に印中国境における対峙が起きて以降、インドの分析者の中にはそれを打開するためインドはインド洋において積極的攻勢をしかけるべきだと主張する者がいる。しかし、それは軽率な考え方であり、成功の可能性が低い上に反撃を受けるリスクがある。むしろ、インド及びパートナー国がするべきは、将来起こりうる中国による威圧を抑止し、それに対抗するための効果的な拒否戦略であろう。
(2) インド洋において攻勢に出るべきという主張は、冷戦期およびそれ以降の核抑止戦略の基盤である懲罰的な戦略に近い。こうした主張の背景にあるのは、インドがインド洋において中国に対して圧倒的に有利な立場にいるという想定である。インド洋は中国を含む東アジア諸国にとって決定的に重要な航路であり、そこで攻勢に出ることによって中国の経済を締め上げることができると考えられている。確かにこうしたやり方は両国による陸軍の衝突よりは流血が小さくて済むものであろう。
(3) しかしそれがうまくいくかどうかは不明瞭だ。そもそもこうした主張においては必要な戦力や手法に関する具体性がない。インドは東アジアへ向かう石油タンカーの通航をすべて禁止すべきだろうか、あるいはそのようなことが可能だろうか。さらに、より根本的なこととして、こうしたやり方がそもそも中国の行動変容を促すことに成功するかどうかの根拠もない。むしろ歴史が示唆しているのはインド洋における中国に対する攻勢は、それが小規模なものだとしても中国による反撃を招き戦争へとエスカレートする可能性が高い。そうしたこと自体はインド政府にとって政治的に破壊的影響をもたらすものであろう。
(4) インド洋は現在の国境危機を打開する魔法の弾丸を提供するわけではない。しかしそれは印中の戦略的競合、さらには米国やオーストラリアなどインドのパートナー諸国と中国との競合において本質的に重要な舞台である。インドがなすべきは、これら志向を同じくする国々との政治的・軍事的関係を強化することによってインド洋における戦略的影響力を高め、インド洋への中国の進出によるリスクを調整することである。また、既に進められているが、中国の進出に危機感を覚える地域の小国との連携を強化することも重要であろう。さらにインド海軍は、たとえば大型艦艇を数隻建造するよりも対潜戦能力の向上や長射程精密誘導ミサイルの増強などの海上での拒否能力を高めることに力を入れるべきだろう。そのほうが低いコストで済む。
(5) インド洋における拒否戦略が印中国境紛争を解決することはないだろう。しかしインドは、既に有している地理的・政治的優位を利用し、それをさらに強化することによって、中国の進出に対抗する政治的かつ軍事的な障害を確立することに焦点を当てるべきだ。それによりインド洋における将来起こりうる中国の威圧を抑止することが可能になるだろう。
記事参照:India should prioritise a denial strategy in the Indian Ocean

2月10日「仏海軍の原潜がインド太平洋地域で異例の活動―米海軍協会報道」(USNI News.com, February 10, 2021)

 2月10日付のU.S.Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは“French Nuclear Attack Boat Patrolled South China Sea ”と題する記事を掲載し、最近の仏海軍原子力潜水艦のインド太平洋地域での活動について要旨以下のように報じている。
(1) 仏海軍のリュビ級原子力潜水艦が南シナ海を哨戒したことを仏軍事大臣が一連のツイートで発表した。仏軍事大臣Florence Parlyは今回の哨戒行動を「戦略的提携国であるオーストラリア、米国及び日本と連携して遠距離かつ長期に渡って展開する我々仏海軍の能力を示す目覚ましい証拠」と呼んだ。ツイッターの一連のメッセージの中で「なぜこのような任務を行うのか?南シナ海に関する知識を深め、我々が航行するどの海でも国際法が唯一有効なルールであることを確認するためである。インド太平洋の国であるフランスは、世界第2位の排他的経済水域1,100万km2のうち900万km2がインド太平洋地域にある。我々は我々の主権と権益を守る意図がある」とParly軍事相は述べている。
(2) Naval Newsは仏海軍のリュビ級原子力潜水艦「エムロード」の太平洋での任務について、同艦がオーストラリアに寄港した際に初めて報じられた。同艦はその後、グアムの米海軍基地を訪問し米海軍や海上自衛隊との対潜水艦戦訓練に参加した。インドネシア海軍との演習を経て「エムロード」は2月の第2週、インド洋及びペルシャ湾地域に向けて出発することになっている仏空母打撃群と合流する可能性が高い。Parlyのメッセージと同じ日にインドネシア海軍は仏海軍とスンダ海峡で共同演習を実施したことを発表した。
(3) フランスの原子力潜水艦が太平洋に配備されたのは今回が初めてではないが、このような出来事は珍しい。この軍事行動はオーストラリアに寄港する前には公にされなかった。これは老朽化したリュビ級原子力潜水艦がまだ長距離・長期間の配備が可能であることを示している。リュビ級は今後 10 年間で新型のスフレン級原子力潜水艦に徐々に取って代わられることになる。
(4) フランスは海外領土を介して、この地域にプレゼンスを維持している。その排他的経済水域(EEZ)の約93%がインド洋と太平洋に位置している。この地域は150万人のフランス人を抱え、8千人の軍人が駐屯している。また、仏海軍はこの地域に艦船を配備しており、潜水艦を含むフランス本土からの資産もこの地域に配備されている。
記事参照:French Nuclear Attack Boat Patrolled South China Sea

2月10日「米国の2個空母打撃群による訓練の意味―米海軍協会報道」(USNI News, February 10, 2021)

 2月10日付のU.S. Naval InstituteのウエブサイトUSNI Newsは“Admiral: No Abnormal Responses from China After Dual-Carrier Drills”と題する記事を掲載し、最近米海軍の2個空母打撃群が合流して行った訓練は通常の行動であり、これに対し中国から特段の対応はなかったとして要旨以下のように報じている。
(1) 2月の第2週に米海軍の2個空母打撃群は南シナ海で行われた「2個空母打撃群による訓練」(dual-carrier drills)のためにチームを形成したが、中国からの異常な反応は見られなかった。空母「セオドア・ルーズベルト」の第9空母打撃群司令官Doug Verissimo少将は「我々は約1週間前にグアムを出港した。空母『ニミッツ』は(中東での任務を終え、本国へ)帰投の途中だったが、それはお互いが合流する絶好の機会であり、南シナ海で我々が合流したという事実は我々の航行計画に基づいており、それぞれの部隊が向かう先あるいは離れた海域を考慮すると最も効率的な航路であった。したがって、ここ数日の共同での作戦行動の際、通常の行動パターンを超えるものはなかった」と述べている。「ニミッツ」空母打撃群と「セオドア・ルーズベルト」空母打撃群は、2月9日に南シナ海で2個空母打撃群による訓練を実施するために連携した。空母「ニミッツ」の第11空母打撃群司令官Jim Kirk少将は、この訓練が米海軍にインド太平洋地域での即応態勢を強化する機会を提供すると述べている。「我々の軍事活動は、いかなる国や事象にも対応するものではない。これは我々が共に行動する良い機会であり、この地域における即応態勢のレベルを向上するのに役立つ。そして、それは実際に2隻の空母を同時に運用するという変化を得られれば我々のチーム全てがより良いものになるということになる」と彼は述べている。
(2) 中国政府系紙環球時報の英語版Global Timesは2月9日、2個空母打撃群による演習を「象徴的」で「軍事的な意味よりも政治的な意味をもつ」と説明する記事を掲載した。その記事について聞かれたVerissimo第9空母打撃群司令官はそれに異議を唱え、この訓練は乗組員たちがお互いに協力し、別の打撃群が活動することを見る機会を与えると強調した。「戦術レベルでの私の見解では、それは象徴的なものではない」とVerissimo第9空母打撃群司令官は述べている。この演習のために2個の空母打撃群は、米空母「ニミッツ」が主に中東で過ごした長期にわたる展開の後に、ワシントン州ブレマートンの母港に向かう中、合同することができた。Verissimo第9空母打撃群司令官は「空母乗組員として自身の鏡像を見る機会はそうそうない」、そして2個空母打撃群による訓練は、これらの打撃群が共に活動する際の指揮統制の取り組みに役立つと述べている。「これにより我々は、将官レベルでの指揮統率者としての経験を研究し、戦術レベルの水兵と戦術レベルの飛行士の多くが他の部隊と協力することを可能にする」と彼は述べている。
記事参照:Admiral: No Abnormal Responses from China After Dual-Carrier Drills

2月10日「北極圏における米ロ露沿岸警備部局間の協力の意義―米ジャーナリスト論説」(Arctic Today, February 10, 2021)

 2月10日付の環北極メディア協力組織ARCTIC TODAYのウエブサイトは米フリージャーナリストのMelody Schreiberの“U.S. and Russia sign new maritime pollution agreement, conduct joint Bering Sea patrol”と題する論説を掲載し、ここでSchreiberは2月はじめに米ロが海洋汚染防止の協定に合意したことに言及し、北極圏における沿岸警備部局間の協力関係の構築の重要性について要旨以下のように述べている。
(1) 2月1日、米沿岸警備隊とロMarine Rescue Serviceはチュクチ海とベーリング海における海の国境を跨いだ海洋汚染に対処するための「共同非常事態計画」の更新版に署名した。それが最初に署名されたのは1989年のことである。米沿岸警備隊作戦担当副司令官Scott Buschman中将によれば、それは「環境的かつ文化的に重要な国境を跨ぐ海域において我々が共有する利益の保護を促進する」ためのものである。
(2) それ以外にも米ロ間には捜索・救難や「違法・無報告・無規制」漁業に対処するための合意も結ばれている。ここ数年で一度だけであるが、米沿岸警備隊は海の境界線を超えて操業していたロ漁船を発見した。ロMarine Rescue Serviceはすぐにそれについて調査し罰金を科した例がある。これらの合意や事例は米沿岸警備隊とロMarine Rescue Serviceとの間に「独特の協力関係」が築かれていることを示している。
(3) ベーリング海やチュクチ海への出入りはきわめて困難であり、両国ともにその海域で何らかの事件が起きた際に対応できる手段をあまり持っていない。そのため、University Alaska FairbanksのTroy Bouffardによれば今回更新された汚染に関する合意は非常に繊細な同海域の環境保全のために重要なものである。
(4) それに加えて、こうした分野での協力が重要なのは、それが北極圏を国際協調のための舞台として機能させ得るからである。北極圏沿岸警備フォーラムのメンバーは彼らが達成してきた協力に関する合意を軍事的争点によって妨げられないように慎重に動いてきた。Trump政権下において、北極圏における米ロ間の対立のレトリックが、こうした協力を行い難くしたことは確かだが、それでも米ロの沿岸警備部門はこれまで着実に合意を積み重ねてきたことは重要であろう。
(5) 北極圏での行動にはさまざまな制約が伴うものであり、したがって諸国が情報共有などによって共同する体制をつくりあげることが決定的に重要である。それがなければ何らかの事件が起きたときに対処することはできない。また今回のような国際合意は、そうした事件がそもそも起きないように予防するためにも必要なことであろう。もし何かが起きたとき、それへの対処には大きな対価が伴うからである。
記事参照:U.S. and Russia sign new maritime pollution agreement, conduct joint Bering Sea patrol

【補遺】

旬報で抄訳紹介しなかった主な論調、シンクタンク報告書
(1) Access Denied? The Future of U.S. Basing in a Contested World
https://warontherocks.com/2021/02/access-denied-the-future-of-u-s-basing-in-a-contested-world/
War on the Rocks, FEBRUARY 1, 2021
By Renanah Miles Joyce, a postdoctoral fellow in grand strategy, security, and statecraft at the Massachusetts Institute of Technology and the Harvard Kennedy School
Brian Blankenship, an assistant professor in the Department of Political Science at the University of Miami and a Stanton Nuclear Security Fellow at the Council on Foreign Relations
 2月1日、米the Massachusetts Institute of Technologyとthe Harvard Kennedy SchoolのポスドクであるRenanah Miles Joyceと米the University of MiamiのBrian Blankenship助教は、米University of Texasのデジタル出版物War on the Rockに“Access Denied? The Future of U.S. Basing in a Contested World”と題する論説を発表した。ここで両名は、2020年11月に米海軍長官がインド洋に第1艦隊を設置する構想を明らかにしたことを取り上げ、米海軍は現在、横須賀を基地とする第7艦隊を主力に太平洋を哨戒しているが、別の艦隊がインド太平洋全域をカバーできるようになることを想定しており、その候補としてシンガポールが適地となるが、同国はその考えに躊躇していると指摘している。その上で、こうした海外基地の重要性と設置の困難性を分析し、米国は、「冷戦モデル(主要同盟国に所在する大規模で機能を集中した基地)」と、「テロとの世界戦争モデル(非同盟国に散在する小規模な分散基地)」とを組み合わせた新たな複合的アプローチを採用すべきであると述べ、Biden政権はパートナー国を引きつけるために安全保障協力と経済戦略とを適切に調整し、この複合的取り組みを達成するため計画を見直すべきであると主張している。

(2) India, Russia And The Indo-Pacific: A Search For Congruence
https://idsa.in/idsacomments/india-russia-and-the-indo-pacific-rroy-030221
The Manohar Parrikar Institute for Defence Studies and Analyses, February 03, 2021
By Rajorshi Roy, Research Analyst at the Manohar Parrikar Institute for Defence Studies and Analyses, New Delhi
 2月3日、印シンクタンクThe Manohar Parrikar Institute for Defence Studies and Analysesの研究者Rajorshi Royは“India, Russia And The Indo-Pacific: A Search For Congruence”と題する論説を同シンクタンクのサイトに寄稿した。ここでRoyは、①ロシアのSergei Lavrov外相は最近、インドはインド太平洋戦略を推進して反中国のゲームに参加させるための欧米諸国の政策の対象であるという発言をし、戦略的自律性を重視してきたインドの外交政策転換に対する懸念を示した、②「インド太平洋」は主に中国とロシアを封じ込めるための米国主導の構想であるとクレムリンは主張しており、中国との経済的な相互依存関係を考えれば中国と対立する戦略は時代遅れである、③インド太平洋の利害関係国の間では、平和と調和を促進する安全保障構造を共同で構築することが重要なコンセンサスとなっている、④ロシアはインド太平洋を拒絶しているが、その太平洋艦隊の管轄はウラジオストクからペルシャ湾にまで及びロシアがインド太平洋戦略を実践していることを強調している、⑤ロシアはインド太平洋が推進しようとしている多極性と多国間主義から利益を得る可能性が高い、⑥ロシアが4カ国安全保障対話(Quad)参加国を含む米国以外の利害関係国と繊細なインド太平洋構想との調和を探ることは理にかなっている、⑦ロシアの大ユーラシア(Greater Eurasia)の概念の核心的な内容はインド太平洋と類似している、⑧印ロ戦略協力の枠組みについてModi印首相が2019年にウラジオストクで発表した“Act Far East”政策の中で説明している、⑨インドは複数の国と連携(multi-alignment.)し、独立した行動を続けることになるだろう、⑩印ロの提携はお互いの視点を調和させる必要があり、兵站共有協定が契機を与えるかもしれない、といった主張を述べている。

(3) Short of War: How to Keep U.S.-Chinese Confrontation From Ending in Calamity
https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2021-02-05/kevin-rudd-usa-chinese-confrontation-short-of-war
Foreign Affairs.com, February 5, 2021 (Foreign Affairs, March/April 2021)
Kevin Ruud, President of the Asia Society, in New York, and previously served as Prime Minister of Australia.
 2月5日、現在、ニューヨークでPresident of the Asia Societyを務めるKevin Ruud元豪首相は米Council on Foreign Relationsが発行する外交・国際政治専門の隔月発行誌Foreign AffairsのウェブサイトForeign Affairsに“Short of War: How to Keep U.S.-Chinese Confrontation From Ending in Calamity”と題する長文の論説を発表した。ここでRuud元首相はワシントンと北京の当局者は最近あまり意見が一致していないが、一つだけ意見が一致していることがあり、それは、両国の争いは2020年代に決定的な局面に入るということだと話題を切り出し、両国間の競争関係を解消することは不可能であるが、大惨事となる戦争は回避可能な事柄であると述べた上で、それには、彼(Ruud)が「管理された戦略的競争(managed strategic competition)」と呼ぶもののための共同枠組みが有効であると主張している。
そして、中国は経済や科学技術分野で規模を希求しているが、その主な目標は台湾をめぐる米国との紛争のあらゆるシナリオにおいて、中国が決定的な優位に立つことにあり、このような対立に勝利すれば、習近平国家主席は退陣する前に台湾との強制的な再統一を行うことができるだろうし、これは、習近平国家主席が毛沢東と同じレベルになることを意味すると指摘している。
さらにRuud元首相は、こうした背景がある中で、米中がこのような共同の戦略的枠組みに合意した場合における成功のための方策は何かといえば、その一つは、2030年までに台湾海峡での軍事的危機や紛争、あるいは壊滅的なサイバー攻撃を回避できた場合であるが、一方の失敗の最も明白な例も台湾に関するものであり、習近平国家主席が米国と非公式に合意したいかなる約束をも一方的に破棄することで、米国に対して虚勢を張ることができると計算すれば、世界は大変に苦痛に満ちたものとなり、このような危機は、一挙に世界秩序の将来を書き換えることになると述べている。
そして最後に、中国には、メディアではめったに触れられない国内の脆弱性が複数存在する一方、米国は常に弱点を公開しているようなものであるが、改革と再生(reinvention and restoration)の能力を繰り返し示してきたと指摘し、管理された戦略的競争は、両大国の強さを浮き彫りにすると同時に脆弱さを試すものになるだろうと主張している。